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特表2024-530297光学的に活性なイソキサゾリン化合物を調製するプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-16
(54)【発明の名称】光学的に活性なイソキサゾリン化合物を調製するプロセス
(51)【国際特許分類】
   C07D 261/04 20060101AFI20240808BHJP
   C07B 53/00 20060101ALN20240808BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240808BHJP
【FI】
C07D261/04
C07B53/00 B
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513086
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(85)【翻訳文提出日】2024-02-26
(86)【国際出願番号】 EP2022073855
(87)【国際公開番号】W WO2023031061
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】21193759.4
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520222106
【氏名又は名称】シンジェンタ クロップ プロテクション アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】グリブコフ デニス
(72)【発明者】
【氏名】ミルナー ハリー ジョン
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC59
4H006BA51
4H006BA69
4H006BB21
4H039CA42
4H039CH10
(57)【要約】
本発明は、式(I)

の化合物又は式(I)の化合物を含む富化組成物を、式(II)

の化合物をヒドロキシルアミン又はその塩、塩基、キラル触媒及び有機溶剤と反応させることによって調製するプロセスであって、前記塩基は、アニオン交換樹脂である、プロセスに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】

の化合物又は式Iの化合物を含む富化組成物を、式II
【化2】

の化合物をヒドロキシルアミン又はその塩、塩基、キラル触媒及び有機溶剤と反応させることによって調製するプロセスであって、前記塩基は、アニオン交換樹脂である、プロセス。
【請求項2】
前記樹脂は、OHアニオン交換樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記アニオン交換樹脂は、第四級アンモニウム官能基を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記アニオン交換樹脂のマトリックスは、スチレン-ジビニルベンゼンのコポリマーを含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
交換可能なアニオンの量は、0.01~10モル当量、好ましくは0.05~5モル当量、好ましくは0.05~1.5モル当量、より好ましくは0.05~0.2モル当量であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記有機溶剤の量は、1~200モル当量、好ましくは10~100モル当量であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
水をさらに含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
有機溶剤:水の重量比は、200:1~1:1、好ましくは100:1~5:1であることを特徴とする、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
ヒドロキシルアミン又はその塩の量は、0.5~10モル当量、好ましくは0.5~5モル当量、より好ましくは1.0~1.5モル当量であり得ることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記キラル触媒の量は、0.001~1.0モル当量、好ましくは0.01~0.5モル当量であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記式Iの化合物を生じさせた後、前記アニオン交換樹脂を除去するための分離ステップを含むことを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記富化組成物は、前記式Iの化合物(5S,4R)と、異性体(5S,4S)、異性体(5R,4R)、異性体(5R,4S)及びこれらのいずれかの組み合わせの中から選択される前記式Iの化合物の異性体の少なくとも1つとを含むことを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
カルコン基の環化からイソキサゾリン基を調製するプロセスにおけるアニオン交換樹脂の使用。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセスによって得られる、式Iの化合物又は式Iの化合物を含む富化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式Iの光学的に活性なイソキサゾリン化合物を調製するプロセス及び式Iの光学的に活性なイソキサゾリン化合物を含む富化組成物を調製するプロセスであって、式Iの光学的に活性なイソキサゾリン化合物は、殺有害生物剤として有用である、プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
光学的に活性なイソキサゾリン化合物を調製するプロセスは、例えば、国際公開第2016/023787号に記載されている。シクロセリン置換基を有する光学的に活性なイソキサゾリン化合物は、2つの立体中心を示し、この立体配置は、これらの化合物の生物学的活性にとって重要である。
【0003】
国際公開第2016/023787号に記載の反応は、高い立体選択性及び低ラセミ化を有するシクロセリン置換イソオキサゾリンをもたらす。しかしながら、いくつかの異性体の存在は、所望の異性体の単離プロセス及び収率に影響を及ぼし得る。
【0004】
従って、特に大規模生産について、所望の光学的に活性な生成物のエナンチオ選択性を向上する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、良好な化学収率を保証しながら、所望の異性体のエナンチオ選択性を向上させる、特にシクロセリン置換基を有する光学的に活性なイソキサゾリン化合物を調製するプロセスを提示することにより、従来技術に係る問題を克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このために、本発明の目的は、式I
【化1】
の化合物又は式Iの化合物を含む富化組成物を、式II
【化2】
の化合物をヒドロキシルアミン又はその塩、塩基、キラル触媒及び有機溶剤と反応させることによって調製するプロセスであって、前記塩基は、アニオン交換樹脂である、プロセスを提供することである。
【0007】
前記プロセスにより、上記の問題の全てが克服された。特に、本発明は、良好な化学収率(特に90%超)を保証しながら、所望の異性体の高いエナンチオ選択性を提供する。本プロセスは、大規模生産にも有利に使用され得る。
【0008】
本発明に係るプロセスは、4-[(5S)-5-(3,5-ジクロロ-4-フルオロ-フェニル)-5-(トリフルオロメチル)-4H-イソキサゾール-3-イル]-N-[(4R)-2-エチル-3-オキソ-イソキサゾリジン-4-イル]-2-メチル-ベンズアミドである、式Iの化合物の異性体(5S,4R)の調製に関する。本発明に係るプロセスは、式Iの化合物(5S,4R)と、異性体(5S,4S)、異性体(5R,4R)、異性体(5R,4S)及びこれらのいずれかの組み合わせの中から選択される式Iの化合物の異性体の少なくとも1つとを含む富化組成物の調製にも関し得る。
【0009】
本発明では、異性体(5S,4S)は、4-[(5S)-5-(3,5-ジクロロ-4-フルオロ-フェニル)-5-(トリフルオロメチル)-4H-イソキサゾール-3-イル]-N-[(4S)-2-エチル-3-オキソ-イソキサゾリジン-4-イル]-2-メチル-ベンズアミドであり;異性体(5R,4R)は、4-[(5R)-5-(3,5-ジクロロ-4-フルオロ-フェニル)-5-(トリフルオロメチル)-4H-イソキサゾール-3-イル]-N-[(4R)-2-エチル-3-オキソ-イソキサゾリジン-4-イル]-2-メチル-ベンズアミドであり;及び異性体(5R,4S)は、4-[(5R)-5-(3,5-ジクロロ-4-フルオロ-フェニル)-5-(トリフルオロメチル)-4H-イソキサゾール-3-イル]-N-[(4S)-2-エチル-3-オキソ-イソキサゾリジン-4-イル]-2-メチル-ベンズアミドである。
【0010】
富化組成物は、異性体(5S,4R)、(5S,4S)、(5R,4R)及び(5R,4S)の総量に対して50%超、例えば少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%のモル比率の異性体(5S,4R)を含み得る。
【0011】
本発明に係る塩基は、アニオン交換樹脂、より具体的には強塩基性アニオン(SBA)交換樹脂である。
【0012】
アニオン交換樹脂は、一般に、正電荷マトリックス及び交換可能なアニオンを含み得る。
【0013】
より好ましくは、アニオン交換樹脂は、OHアニオン交換樹脂であり得る。この場合、交換可能なアニオンは、水酸化物アニオン(OH-)である。他の種類のアニオン交換樹脂からOHアニオン交換樹脂を得ることもできる。前記塩化物アニオン交換樹脂を、活性な塩素アニオン部位が水酸化物アニオンで交換されるまでNaOH水溶液ですすぐことにより、例えば塩化物(Cl-)アニオン交換樹脂を用いてOHアニオン交換樹脂を得ることができる。過剰量のNaOH水溶液は、樹脂を脱塩水ですすぐことによって最終的に除去され得る。
【0014】
アニオン交換樹脂のマトリックスは、架橋されているか又は架橋されていないゲルマトリックス又は微孔性マトリックスであり得る。この種のマトリックスは、ポリスチレン系マトリックス又はポリアクリルマトリックスを含み得る。例えば、マトリックスは、スチレン-ジビニルベンゼンのコポリマーを含み得る。
【0015】
アニオン交換樹脂は、任意の形態、より具体的には任意の固体形態で提供され得る。例えば、アニオン交換樹脂は、ビーズ、より具体的には球状ビーズとして提供され得る。ビーズは、約0.3mm~約1.2mm、より好ましくは約0.5mm~約0.8mmの最大寸法にわたるサイズ(粒径)を有し得る。
【0016】
特定の実施形態では、アニオン交換樹脂は、第四級アンモニウム官能基などの官能基を含み得る。より具体的には、アニオン交換樹脂は、トリメチルアミンでアミン化され得、且つトリメチルアンモニウム官能基を含み得る。
【0017】
アニオン交換樹脂は、典型的には、少なくとも0.50当量/リットル(eq/L)、好ましくは少なくとも0.80eq/Lであり得る、アニオン形態の交換容量(水での湿潤状態を基準とした総交換容量として周知である)を有する。本発明に係るプロセスでは、交換可能なアニオンの量(アニオン交換樹脂の交換容量基準)は、0.01~10モル当量、好ましくは0.05~5モル当量、好ましくは0.05~1.5モル当量、より好ましくは0.05~0.2モル当量であり得る。
【0018】
本発明では、「モル当量」という表記は、式IIの化合物のモル数(mol)に基づく。
【0019】
本発明によれば、アニオン交換樹脂は、例えば、AmberLite(商標)IRN78 OHイオン交換樹脂、AmberLite(商標)HPR4800 OHイオン交換樹脂(Dowex Marathon(商標)A OHイオン交換樹脂としても周知)又はAmberLite(商標)A26 OH高分子触媒などのDuPont製のAmberLite(商標)樹脂であり得る。
【0020】
本発明に係る有機溶剤は、当技術分野で周知のいずれかの好適な有機溶剤を含み得る。例えば、有機溶剤は、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、トルエン、クロロベンゼン、クロロホルム、tert-ブチルメチルエーテル、イソプロパノール、エタノール、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、2-メチルプロピオニトリル、ブチロニトリル及びこれらのいずれかの組み合わせの中から選択され得る。好ましい有機溶剤は、アセトニトリル、イソプロパノール、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン及びこれらのいずれかの組み合わせの中から選択され得る。
【0021】
本発明に係るプロセスでは、有機溶剤の量は、1~200モル当量、好ましくは10~100モル当量であり得る。
【0022】
この反応は、水の存在下で実施され得るか、又は換言すると、このプロセスは、水をさらに含み得る。有機溶剤:水の重量比、より好ましくは好ましい有機溶剤:水の重量比は、200:1~1:1、好ましくは100:1~5:1であり得る。前記重量比における水の量は、プロセスにおける水の総量を指し、これは、例えば、ヒドロキシルアミン水溶液、湿潤状態の樹脂及び/又はプロセスに直接加えた水に由来するものであり得る。
【0023】
本発明に係るプロセスは、ヒドロキシルアミン又はその塩、好ましくはヒドロキシルアミンを含む。「ヒドロキシルアミン」という用語は、式H2NOHの遊離ヒドロキシルアミンを意味し、ヒドロキシルアミン塩は、例えば、塩化ヒドロキシルアンモニウムであり得る。
【0024】
OHアニオン交換樹脂及びヒドロキシルアミン(H2NOH)が反応中に用いられる場合、ヒドロキシルアミンは、OHアニオン交換樹脂のOHアニオンと接触することになり、従って、OHアニオンは、ヒドロキシルアミンを脱プロトン化し、水を形成することができる。この場合、交換可能なアニオンは、ヒドロキシルアミンアニオン(NH2-)であり得る。本発明に係るプロセスでは、ヒドロキシルアミン又はその塩の量は、0.5~10モル当量、好ましくは0.5~5モル当量、より好ましくは1.0~1.5モル当量であり得る。
【0025】
本発明に係るキラル触媒は、より具体的には、少なくとも1つのキラル部分、好ましくは少なくとも2つのキラル部分を含む触媒である。
【0026】
キラル触媒は、当技術分野で周知のいずれかの好適なキラル触媒を含み得る。
【0027】
第1の例では、キラル触媒は、国際公開第2016/023787号(参照により援用される)の第2ページに記載の式IIIの化合物、好ましくは国際公開第2016/023787号の第4ページに記載の式IIIの二量体キラル触媒、より好ましくは式XVIIの化合物として国際公開第2016/023787号の第8ページに記載の化合物R-(6-メトキシ-4-キノリル)-[(2S)-1-[[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-[[(2S)-2-[(R)-ヒドロキシ-(6-メトキシ-4-キノリル)メチル]-5-ビニル-キヌクリジン-1-イウム-1-イル]メチル]フェニル]メチル]-5-ビニル-キヌクリジン-1-イウム-2-イル]メタノールジブロミド(TFBBQ)(以下のCAS番号:1879067-61-4を有する)であり得る。国際公開第2016/023787号の第7~8ページにおいて、前記式XVIIの化合物は、SOBr2、POBr3、PBr3、HBr、NaBr/H2S4又はこれらのいずれかの組み合わせなどの好適なハロゲン化試薬を伴って、酢酸、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ヘプタン、酢酸エチル、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、水又はこれらのいずれかの組み合わせなどの好適な溶剤中において、式XVの化合物から式XVIの化合物を得て調製され得る。次いで、トルエン、アセトニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、1-ペンタノール、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、アニソール、水又はこれらのいずれかの組み合わせなどの好適な有機溶剤の存在下でXVIの化合物を式Xの化合物と反応させて、式XVIIの化合物を得ることができる。
【0028】
第2の例では、キラル触媒は、米国特許出願公開第2014350261号明細書(参照により援用される)でキラル相間移動触媒として記載されている式2~12の化合物であり得る。
【0029】
第3の例では、キラル触媒は、国際公開第2020/094434号(参照により援用される)又は国際公開第2021/197880号(参照により援用される)に記載の式IIIの化合物であり得る。
【0030】
本発明に係るプロセスでは、キラル触媒の量は、0.001~1.0モル当量、好ましくは0.01~0.5モル当量であり得る。
【0031】
式IIの化合物の調製は、脱水反応に基づき、前記反応は、当技術分野で周知である。式IIの化合物は、例えば、国際公開第2011/067272号に従い、特に第18~19ページのスキーム3に示されているとおりに調製され得る。より具体的には、式IIの化合物は、ヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、シクロペンチルエチルエーテル、アニソール、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル又はこれらのいずれかの組み合わせなどの有機溶剤中において、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ピリジン又はこれらのいずれかの組み合わせなどの塩基、ホスゲン、塩化チオニル、無水酢酸、塩化アセチル、メタンスルホニルクロリド、塩化オキサリル、クロロギ酸メチル、クロロギ酸エチル又はこれらのいずれかの組み合わせなどの脱水剤及び例えば4-ジメチルアミノピリジン又は4-ピロリジノピリジンであり得るアミノピリジン触媒などの触媒を伴って、式III
【化3】
の化合物を反応させることによって調製され得る。前記混合物は、反応器中で約10分間~96時間、好ましくは約1~20時間にわたり、通常、0~150℃、好ましくは0~20℃、より好ましくは0~10℃で撹拌され得る。式IIの化合物は、式IIの化合物からの塩基、脱水剤、触媒又はそのそれぞれ反応生成物の分離において、当技術分野で周知の後処理条件で単離され得る。
【0032】
第1の実施形態では、本発明に係る式IIの化合物は、E-立体配置の式IIの化合物及び任意にZ-立体配置の式IIの化合物を含み得る。より具体的には、式IIの化合物は、90:10~100:0、好ましくは95:5~100:0、より好ましくは99:1~100:0のE/Z比を含み得る。
【0033】
第2の実施形態では、本発明に係る式IIの化合物は、50:50~100:0、好ましくは90:10~100:0、より好ましくは95:5~100:0のR/S比を含み得る。
【0034】
第3の態様では、本発明に係る式IIの化合物は、第1の実施形態及び第2の実施形態を含み得る。
【0035】
本発明に係るプロセスは、-78℃~80℃、好ましくは-20℃~+20℃、好ましくは-20℃~0℃の範囲の温度で実施され得る。
【0036】
反応時間は、通常、30分間~48時間、好ましくは1~4時間である。
【0037】
このプロセスは、ヒドロキシルアミン又はその塩、アニオン交換樹脂、キラル触媒、式IIの化合物及びこれらのいずれかの組み合わせの中から選択される少なくとも1つの反応体を添加して実施され得る。反応体の添加は、当技術分野で周知であると共に、所定の時間にわたる様々な量の化合物の追加を指す。
【0038】
特定の実施形態では、本発明に係るプロセスは、式Iの化合物を生じさせた後、アニオン交換樹脂を除去するための分離ステップをさらに含み得る。
【0039】
この分離ステップは、例えば、傾瀉、遠心分離又はろ過(例えば、遠心分離機、ヌッチェフィルタ、キャンドルフィルタ又はポケットフィルタを使用)など、当技術分野で周知の技術によって実施され得る。樹脂の分離前及び/又は後、反応混合物のpHを調節し得、必要に応じて式Iの化合物を溶解するために反応混合物を加熱し得る。反応混合物は、例えば、塩酸(HCl)などの酸を用いて、4~8、好ましくは5~6のpHに調節され得る。式Iの化合物を溶解させるために、反応混合物を15~50℃の温度に加熱し得る。
【0040】
上記に記載の式IIIの化合物の調製は、アルドール反応に基づき、前記反応は、当技術分野で周知である。より具体的には、式IIIの化合物は、式IV
【化4】
の芳香族ケトン化合物を、式V
【化5】

の置換アセトフェノン化合物とトリエチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、tertブチルアミン、ピリジン、1,8-ジアザ(5,4,0)-7-ビシクロウンデセン、炭酸カリウム又はこれらのいずれかの組み合わせなどの塩基の存在下において、溶剤を伴って又は伴わずに反応させることによって調製され得る。溶剤は、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、アニソール、ジメトキシベンゼン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルカルボネート、酢酸エチル、酢酸メトキシエチル及びこれらのいずれかの組み合わせの中から選択され得る。反応の平衡は、十分な混合を伴いながら、可能な限り濃縮状態で反応が行われるように溶剤の量を調節することにより、式IIIの化合物に向けてシフトされ得る。混合物は、均質な溶液であり得るか又はスラリーであり得る。前記混合物は、反応器中で約1~150時間、好ましくは約1~96時間にわたり、通常、0~150℃、好ましくは20~60℃、より好ましくは30~50℃で撹拌され得る。式IIIの化合物は、単離され得るか、又はそのままさらなる後処理を行うことなく使用されて式IIの化合物を生成し得る。
【0041】
本発明の他の目的は、カルコン基の環化からイソキサゾリン基を調製するプロセスにおける、本明細書に定義されるアニオン交換樹脂の使用に関する。
【0042】
イソキサゾリン基は、互いに隣接して位置する酸素原子及び窒素原子を1つずつ含む5員複素環式化合物として定義され得る。
【0043】
カルコン基は、多様な置換基を有する、α,β-不飽和カルボニル系によって結合された2つの芳香族環を含むトランス-1,3-ジアリール-2-プロペン-1-オンなどのα,β-不飽和ケトンとして定義され得る。
【0044】
好ましい実施形態では、この他の目的は、式IIの化合物から式Iの化合物を調製するプロセスにおける、本明細書に定義されるアニオン交換樹脂の使用に関し得る。
【0045】
本発明の他の目的は、本発明に係るプロセスによって得られる式Iの化合物又は式Iの化合物を含む富化組成物に関する。式Iの化合物及び式Iの化合物を含む富化組成物は、本発明でそれぞれ定義されるとおりである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下の非限定的な例は、本発明に係るプロセスに関連する向上した作用を示す。
【0047】
前記例は、本発明に係るプロセス(実施例1)及び比較例(実施例2)を提供する。
【0048】
以下の実施例1及び2で用いた成分を以下に詳述する。
- 式IIの化合物は、以下の比98.6%(E,R);1.3%(E,S);0.1%(Z,R)及び0.0%(Z,S)を有する、式IIの4つの異性体E,R;E,S;Z,R及びZ,Sの混合物であり;
- 塩基1は、商品名AmberLite(商標)IRN78 OHイオン交換樹脂でDuPontにより市販されているアニオン交換樹脂(固体形態)であり;
- 塩基2は、10%水酸化ナトリウム水溶液であり;
- ヒドロキシルアミンは、50%ヒドロキシルアミン水溶液であり;
- キラル触媒は、TFBBQ(CAS番号1879067-61-4)であり;及び
- 有機溶剤は、アセトニトリルである。
【実施例
【0049】
実施例1(Ex.1)に係る調製:
20Lの二重ジャケット反応器に9083gの有機溶剤を室温で仕込んだ。反応器のジャケットを-18℃に設定して撹拌機を始動した。288gのヒドロキシルアミンを仕込み、続いて228gの脱イオン水を仕込んだ。203gの塩基1を添加し、続いて106gのキラル触媒を添加した。内部温度が-18℃に達したら、1999gの式IIの化合物の全てを167gずつ12回に分けて1時間かけて添加を開始する。添加中に達した内部の最高温度は、約-14℃であった。最後の分量の式IIの化合物を添加した後、反応塊を2時間撹拌し続けた。完全な転換を確認するために反応混合物からサンプルを採取した。完全な転換後、108mlの32% HCl水溶液を5分間かけて添加して、約5.0のpHを達成した。反応混合物を45℃に温め、塩基1をろ過した。サンプルを分析(化学収率及び異性体比の判定)のために採取した。
【0050】
実施例2(Ex.2)に係る調製:
20L二重ジャケット反応器に9083gの有機溶剤を室温で仕込み、続いて263gの塩基2を撹拌下で添加した。反応器のジャケットを-17℃に設定して混合物を冷却した。105.8gのキラル触媒を仕込み、続いて280gのヒドロキシルアミン及び47gの脱イオン水を仕込んだ。
【0051】
内部温度が-16℃に達したら、1997gの式IIの化合物の全てを約167gずつ12回に分けて1時間かけて添加を開始する。添加中に達した内部の最高温度は、約-14℃であった。最後の分量の式IIの化合物を添加した後、反応塊を2時間撹拌し続けた。完全な転換を確認するために反応混合物からサンプルを採取した。完全な転換後、76mLの32% HCl水溶液を15分間かけて添加して、約5.5のpHを達成した。反応混合物を室温(25℃)に温め、追加の5mlの32% HCl水溶液を用いて、再度、pHを最終的に約5.0のpHに調節した。サンプルを分析(化学収率及び異性体比の判定)のために採取した。
【0052】
式Iの化合物の異性体A、B、C及びDの異性体比並びに化学収率は、表1にまとめられている。異性体A、B、C及びDは、以下のとおり定義される:Aは、異性体(5S,4R)であり;Bは、異性体(5S,4S)であり;Cは、異性体(5R,4R)であり;及びDは、異性体(5R,4S)である。
【0053】
【表1】
【0054】
表1の結果は、本発明が、極めて良好な化学収率を保証しながら、所望の異性体A(5S,4R)及び鏡像異性体過剰率(ee)のエナンチオ選択性を高めることを明確に示している。
【国際調査報告】