IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エコラボ ユーエスエー インコーポレイティドの特許一覧

特表2024-530308ウェットエンド強度添加剤としての修飾リグニンの使用
<>
  • 特表-ウェットエンド強度添加剤としての修飾リグニンの使用 図1
  • 特表-ウェットエンド強度添加剤としての修飾リグニンの使用 図2
  • 特表-ウェットエンド強度添加剤としての修飾リグニンの使用 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-16
(54)【発明の名称】ウェットエンド強度添加剤としての修飾リグニンの使用
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/18 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
D21H21/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513254
(86)(22)【出願日】2022-08-19
(85)【翻訳文提出日】2024-02-27
(86)【国際出願番号】 IB2022000489
(87)【国際公開番号】W WO2023031667
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】63/238,627
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510250467
【氏名又は名称】エコラボ ユーエスエー インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド スティーブン ジョーダン
(72)【発明者】
【氏名】ホーチュイン ホアン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイクオ チョン
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AG42
4L055AG56
4L055AG57
4L055AG72
4L055AG75
4L055AG84
4L055AG87
4L055AG89
4L055AH37
4L055BD12
4L055BD13
4L055EA20
4L055EA22
4L055EA25
4L055EA29
4L055EA30
4L055EA32
4L055EA35
4L055FA13
(57)【要約】
【課題】紙強度を増加させる方法が提供される。
【解決手段】本方法は、リグニン系化合物をパルプスラリーに添加することと、カチオン性ポリマーを当該パルプスラリーに添加することとを含む。パルプスラリーに添加される場合、リグニン系化合物とカチオン性ポリマーとの組み合わせは、総合的な紙強度の増加をもたらす。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙強度を増加させる方法であって、
パルプスラリーにリグニン系化合物を添加することと、
前記パルプスラリーにカチオン性ポリマーを添加することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記リグニン系化合物が、約25℃、約1重量%~約20重量%の前記リグニン系化合物の濃度、約4~約14のpHで水に可溶である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リグニン系化合物が、約100,000g/mol未満の重量平均分子量を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記リグニン系化合物が負のゼータ電位を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記リグニン系化合物が、パルプを含まない、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記カチオン性ポリマーが、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DADMAC)、N-ビニルアミン、2-ジメチルアミノエチルアクリレート(DMAEA)、N,N,N-トリメチルエタンアミニウムクロライド、ジアリルアミン、ポリ(アミドアミン)、ポリエチレンイミン、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるモノマーを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記カチオン性ポリマーが、架橋エピクロロヒドリン-ジメチルアミン、ポリ(アミドアミン)、又はポリエチレンイミンである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記カチオン性ポリマーが、約50,000Da~約2,000,000Daの重量平均分子量を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記カチオン性ポリマーが、約0.1meq/g~約15meq/gの電荷密度を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記リグニン系化合物及び前記カチオン性ポリマーが、製紙プロセスのウェットエンドにおいて前記パルプスラリーに添加される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記リグニン系化合物及び前記カチオン性ポリマーが、前記製紙プロセスにおける白水系、パルプストック収納チェスト、混合チェスト、マシンチェスト、ヘッドボックス、セーブオールチェスト、又はこれらの任意の組み合わせにおいて前記パルプスラリーに添加される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記リグニン系化合物が、約10ポンド/トン~約100ポンド/トンの範囲の量で前記パルプスラリーに添加される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記カチオン性ポリマーが、約1ポンド/トン~約30ポンド/トンの範囲の量で前記パルプスラリーに添加される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記リグニン系化合物が、前記カチオン性ポリマーが添加される前に前記パルプスラリーに添加される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記リグニン系化合物が、前記カチオン性ポリマーが添加された後に前記パルプスラリーに添加される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記リグニン系化合物及び前記カチオン性ポリマーが、前記ウェットエンド内の異なる位置で前記パルプスラリーに添加される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
組成物であって、
リグニン系化合物、及び
カチオン性ポリマーを含む、組成物。
【請求項18】
前記リグニン系化合物が、約100,000g/mol未満の重量平均分子量及び負のゼータ電位を有する、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記カチオン性ポリマーが、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DADMAC)、N-ビニルアミン、2-ジメチルアミノエチルアクリレート(DMAEA)、N,N,N-トリメチルエタンアミニウムクロライド、ジアリルアミン、ポリ(アミドアミン)、ポリエチレンイミン、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるモノマーを含む、請求項17又は18に記載の組成物。
【請求項20】
前記カチオン性ポリマーが、架橋エピクロロヒドリン-ジメチルアミン、ポリ(アミドアミン)、又はポリエチレンイミンである、請求項17~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が、パルプを含まない、請求項17~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
紙を強化するためのリグニン系化合物及びカチオン性ポリマーの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、紙強度を増加させることに関する。より詳細には、本開示は、修飾リグニンを含有する組成物、及びその組成物を使用して紙を強化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的な製紙プロセスは、以下の工程を含む:1)木材又は他の製紙繊維源をパルプ化する工程、2)パルプから紙マットを製造する工程であって、紙マットは、無機鉱物充填剤又は顔料などの添加剤も含有し得るセルロース繊維の水性スラリーである、工程、3)このスラリーを移動する抄紙ワイヤ又は織物上に堆積させる工程、4)水を排出することによってスラリーの固形成分からシートを形成する工程、5)シートをプレスし、乾燥させて水を更に除去する工程、及び6)乾燥シートをサイズプレスに通すことによって潜在的再湿潤を行い、これを更に乾燥させて紙製品を形成する工程。
【0003】
製紙プロセスを行う場合、最終紙製品の品質を保証するために多数の懸念事項を考慮する必要がある。例えば、スラリーから水を排水する場合、繊維及び化学添加剤は、水で流すのではなく可能な限り多く保持されるべきである。同様に、最終シートは、適切な湿潤強度及び乾燥強度を有するべきである。紙の乾燥強度には、一般に、例えば、内部結合、乾燥引張強度、及び破裂強度が含まれる。
【0004】
一般的に使用される乾燥強度剤には、カチオン性デンプン、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose、CMC)、及びグアーガムなどの天然ポリマー、並びにポリアクリルアミド(カチオン性、アニオン性、及び両性)、グリオキサール化ポリアクリルアミド(glyoxalated polyacrylamide、GPAM)、及びポリビニルアミンなどの合成ポリマーが含まれる。ジアルデヒド官能化ポリアクリルアミドのカテゴリーでは、グリオキサール及びポリアクリルアミド主鎖から調製されたグリオキサール化ポリアクリルアミド(GPAM)が、最も一般的に使用される乾燥強度剤である。
【発明の概要】
【0005】
紙強度を増加させる方法が提供される。本方法は、リグニン系化合物をパルプスラリーに添加することと、カチオン性ポリマーをパルプスラリーに添加することとを含む。
【0006】
いくつかの態様では、リグニン系化合物は、約4~約14のpHで水に可溶である。
【0007】
いくつかの態様では、リグニン系化合物は、約100,000g/mol未満の重量平均分子量を有する。
【0008】
いくつかの態様では、リグニン系化合物は、負のゼータ電位を有する。
【0009】
特定の実施形態では、カチオン性モノマーは、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DADMAC)、N-ビニルアミン、2-ジメチルアミノエチルアクリレート(DMAEA)、N,N,N-トリメチルエタンアミニウムクロライド、ジアリルアミン、ポリ(アミドアミン)、ポリエチレンイミン、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるモノマーを含む。
【0010】
いくつかの態様にでは、カチオン性ポリマーは、架橋エピクロロヒドリン-ジメチルアミン、ポリ(アミドアミン)、又はポリエチレンイミンである。
【0011】
いくつかの態様では、カチオン性ポリマーは、約50,000Da~約2,000,000Daの重量平均分子量を有する。
【0012】
いくつかの態様では、カチオン性ポリマーは、約0.1meq/g~約15meq/gの電荷密度を有する。
【0013】
いくつかの態様では、リグニン系化合物及びカチオン性ポリマーは、製紙プロセスのウェットエンドにおいてパルプスラリーに添加される。
【0014】
いくつかの態様では、リグニン系化合物及びカチオン性ポリマーは、製紙プロセスにおける白水系、パルプストック収納チェスト、混合チェスト、マシンチェスト、ヘッドボックス、セーブオールチェスト、又はこれらの任意の組み合わせにおいてパルプスラリーに添加される。
【0015】
いくつかの態様では、リグニン系化合物は、約10ポンド/トン~約100ポンド/トンの範囲の量でパルプスラリーに添加される。
【0016】
いくつかの態様では、カチオン性ポリマーは、約1ポンド/トン~約30ポンド/トンの範囲の量でパルプスラリーに添加される。
【0017】
いくつかの態様では、リグニン系化合物は、カチオン性ポリマーが添加される前にパルプスラリーに添加される。
【0018】
いくつかの態様では、リグニン系化合物は、カチオン性ポリマーが添加された後にパルプスラリーに添加される。
【0019】
いくつかの態様では、リグニン系化合物及びカチオン性ポリマーは、ウェットエンドの異なる位置でパルプスラリーに添加される。
【0020】
本開示はまた、リグニン系化合物及びカチオン性ポリマーを含む組成物を提供する。
【0021】
更に、紙を強化するためのリグニン系化合物及びカチオン性ポリマーの使用が本明細書に開示される。
【0022】
前述の内容は、後に続く発明を実施するための形態がより良好に理解され得るように、本開示の特徴及び技術的利点を概括的に概説した。本願の特許請求の範囲の主題を形成する、本開示の更なる特徴及び利点は、以下に説明される。開示される概念及び具体的な実施形態は、本開示と同じ目的を実行するためのその他の実施形態を修正又は設計するための基礎として容易に利用され得ることが、当業者により理解されるべきである。このような同等の実施形態が、添付の特許請求の範囲に明記される本開示の趣旨及び範囲から逸脱しないこともまた、当業者によって認識されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
発明の詳細な説明を、以下の図面に対する具体的な参照とともに本明細書において以下に説明する。
【0024】
図1】ポリ(DADMAC)のみ、及び順次添加されるポリ(DADMAC)とリグニン系化合物との組み合わせでウェットエンドにおいて処理されたシートについて測定した引張指数値を示す図である。
【0025】
図2】ポリ(DADMAC)のみ、及び順次添加されるポリ(DADMAC)とリグニン系化合物との組み合わせでウェットエンドにおいて処理されたシートについて測定したSCT指数値を示す図である。
【0026】
図3】リグニン系化合物と、様々な用量のポリ(DADMAC)ポリマー及び架橋エピクロロヒドリン-ジメチルアミン凝固剤とを用いて作製されたシートの平均強度向上値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
紙強度を増加させる方法が提供される。本方法は、リグニン系化合物をパルプスラリーに添加することと、カチオン性ポリマーをパルプスラリーに添加することとを含む。
【0028】
本明細書で使用される場合、「リグニン」は、セルロース繊維の構造成分を指す。リグニンは、比較的疎水性である高分子量の架橋有機化合物である。製紙プロセスにおいて、リグニンは、典型的にはセルロース繊維塊から除去され、焼却される。紙におけるリグニンの存在は、黄変及び強度の低下などのいくつかの望ましくない影響を引き起こす可能性がある。
【0029】
リグニン系化合物は、酵素修飾リグニンであり得る。酵素修飾リグニンは、ラッカーゼ修飾リグニンであり得る。いくつかの態様では、リグニン系化合物は、約25℃、約1重量%~約20重量%のリグニン系化合物の濃度、約4~約14のpHで水に可溶である。いくつかの態様では、リグニン系化合物は、約25℃、約1重量%~約20重量%のリグニン系化合物の濃度、約6~約9のpHで水に可溶である。いくつかの態様では、pHは、約25℃で約1重量%~約20重量%のリグニン系化合物の濃度で約6、約7、約8、又は約9である。いくつかの態様では、リグニン系化合物は、約25℃、約10重量%~約20重量%のリグニン系化合物の濃度、約4~約14のpHで水に可溶である。
【0030】
いくつかの態様では、リグニン系化合物は、約25℃、約10重量%~約20重量%のリグニン系化合物の濃度、約6~約9のpHで水に可溶である。いくつかの態様では、リグニン系化合物は、約25℃、約10重量%~約20重量%のリグニン系化合物の濃度、約6、約7、約8、又は約9のpHで水に可溶である。いくつかの態様では、リグニン系化合物は、約25℃、約20重量%のリグニン系化合物の濃度、約6、約7、約8、又は約9のpHで水に可溶である。
【0031】
いくつかの態様では、リグニン系化合物は、負のゼータ電位を有する。リグニン系化合物のゼータ電位は、約-5~約-100mV、約-30~約-100mV、約-40~約-80mV、又は約-50~約-80mVであり得る。いくつかの態様では、リグニン系化合物のゼータ電位は、約-60~約-75mVであり得る。
【0032】
リグニン系化合物は、約10μm未満の粒径を有することができる。いくつかの実施形態では、リグニン系化合物の粒径は、約500nm未満である。リグニン系化合物の粒径は、例えば、透過型電子顕微鏡(transmission electron microscopy、TEM)を用いて測定することができる。
【0033】
いくつかの態様では、リグニン系化合物はパルプを含まない。いくつかの態様では、リグニン系化合物は、パルプスラリーへの添加前にパルプ繊維とは関連していない。いくつかの態様では、リグニン系化合物は、セルロースを含まない。いくつかの態様では、リグニン系化合物は、パルプスラリーへの添加前にセルロースとは関連していない。いくつかの態様では、リグニン系化合物をパルプスラリーに添加することは、リグニンを含有するパルプをパルプスラリーに添加することを含まない。いくつかの態様では、リグニン系化合物はリグノスルホネートを含まない。
【0034】
市販のリグニン系化合物の例としては、METNIN(商標)SHIELDが挙げられるが、これに限定されない。
【0035】
いくつかの態様では、リグニン系化合物の重量平均分子量は、約100,000g/mol未満である。いくつかの態様では、重量平均分子量は、約1,000g/mol~約100,000g/molの範囲である。例えば、重量平均分子量は、約10,000g/mol~約100,000g/mol、約20,000g/mol~約100,000g/mol、約30,000g/mol~約100,000g/mol、約40,000g/mol~約100,000g/mol、約50,000g/mol~約100,000g/mol、約60,000g/mol~約100,000g/mol、約70,000g/mol~約100,000g/mol、約80,000g/mol~約100,000g/mol又は約90,000g/mol~約100,000g/molであってもよい。
【0036】
リグニン系化合物の用量は、紙強度の増加を達成するように選択することができる。例えば、リグニン系化合物は、約10ポンド/トン~約100ポンド/トンの範囲の量でパルプスラリーに添加することができる。いくつかの態様では、パルプスラリーに添加されるリグニン系化合物の量は、約20ポンド/トン~約80ポンド/トンである。いくつかの態様では、パルプスラリーに添加されるリグニン系化合物の量は、約20ポンド/トン、約30ポンド/トン、約40ポンド/トン、約50ポンド/トン、約60ポンド/トン、約70ポンド/トン、又は約80ポンド/トンである。
【0037】
カチオン性ポリマーには、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-ビニルアミン、N-ビニルメチルアセトアミド、N-ビニルピロリドン、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、N-t-ブチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ビニルアセテート、ビニルアルコール、類似のモノマー、及びこれらの組み合わせなどの他の非イオン性コモノマーが含まれ得る。いくつかの態様では、非イオン性コモノマーは、アクリルアミド又はメタクリルアミドである。
【0038】
代表的なカチオン性コモノマーには、例えば、ジアルキルアミノアルキルアクリレート及びメタクリレート並びにそれらの第4級塩又は酸塩、例えば、限定されないが、ジメチルアミノエチルアクリレートメチルクロライド第4級塩(「DMAEA-MCQ」)、ジメチルアミノエチルアクリレートメチルスルフェート第4級塩、ジメチルアミノエチルアクリレートベンジルクロライド第4級塩、ジメチルアミノエチルアクリレート硫酸塩、ジメチルアミノエチルアクリレート塩酸塩、ジメチルアミノエチルメタクリレートメチルクロライド第4級塩、ジメチルアミノエチルメタクリレートメチルスルフェート第4級塩、ジメチルアミノエチルメタクリレートベンジルクロライド第4級塩、ジメチルアミノエチルメタクリレート硫酸塩、ジメチルアミノエチルメタクリレート塩酸塩、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド又はメタクリルアミド及びそれらの第4級塩又は酸塩、例えば、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドメチルスルフェート第4級塩、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド硫酸塩、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩酸塩、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミドメチルスルフェート第4級塩、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド硫酸塩、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジアリルジエチルアンモニウムクロライド、及びジアリルジメチルアンモニウムクロライド(「DADMAC」)、類似のモノマー、並びにこれらの組み合わせが含まれ得る。存在する場合、アルキル基は、一般に、置換又は非置換C1~C4アルキルである。
【0039】
更に、特定の実施形態では、カチオン性モノマーは、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DADMAC)、N-ビニルアミン、2-ジメチルアミノエチルアクリレート(DMAEA)、N,N,N-トリメチルエタンアミニウムクロライド、ジアリルアミン、ポリ(アミドアミン)、及びポリエチレンイミンからなる群から選択される一つ又は複数である。
【0040】
一般に、本開示に従って使用されるアミン含有ポリマーは、油中水型エマルション、乾燥粉末、分散体、又は水溶液の形態を取り得る。所定の実施形態では、アミン含有ポリマーは、フリーラジカル開始を使用して水中でのフリーラジカル重合技術を介して調製され得る。
【0041】
いくつかの実施形態では、アミン含有ポリマーは、ジアリルアミン/置換ジアリルアミン及び(メタ)アクリルアミドによって形成されるコポリマー、例えばジアリルアミン-(メタ)アクリルアミドコポリマー(「DAA/AcAm」)などである。その上、アミン含有ポリマーとして、ジアリルアミン/置換ジアリルアミン及び(メタ)アクリルアミドによって形成される1種以上のコポリマーの混合物を使用することも可能である。
【0042】
特定の態様では、ジアリルアミン-(メタ)アクリルアミドコポリマーなどのカチオン性ポリマー中のカチオン性モノマー(例えば、ジアリルアミン)のモル百分率は、約1~約99%の範囲内であり得る。アミン含有ポリマーは、主として、アミン系モノマーから構成され得る。すなわち、(メタ)アクリルアミドなどの他のコモノマー単位より多くのアミン系モノマー単位を含み得る。それらの実施形態では、水中油型エマルションの組成に関してコストが決定要因である場合、アミン含有ポリマー中のアミン系モノマーのモル百分率は、約10%~約80%、約15%~約60%又は約18%~約40%であってもよい。所定の実施形態では、本開示のアミン含有ポリマーは、ホフマン分解から得られず、ポリエチレンアミン単位を含有しない。
【0043】
いくつかの態様において、カチオン性ポリマーは、架橋エピクロロヒドリン-ジメチルアミン、ポリ(アミドアミン)、又はポリエチレンイミンである。
【0044】
カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、約50,000Da~約2,000,000Daの範囲であり得る。いくつかの態様では、重量平均分子量は、約50,000Da~約1,000,000Daの範囲である。例えば、重量平均分子量は、約50,000Da~約900,000Da、約50,000Da~約800,000Da、約50,000Da~約700,000Da、約50,000Da~約600,000Da、約50,000Da~約500,000Da、約100,000Da~約1,000,000Da、約200,000Da~約1,000,000Da、約300,000Da~約1,000,000Da、約400,000Da~約1,000,000Da、約500,000Da~約1,000,000Da又は約500,000Da~約700,000Daの範囲であり得る。いくつかの態様では、重量平均分子量は約1,000,000Daである。
【0045】
1グラム(g)当たりのミリ当量(meq)で測定されるカチオン性ポリマーの電荷密度は、約0.1meq/g~約15meq/gの範囲であり得る。いくつかの態様では、カチオン性ポリマーの電荷密度は、約0.5meq/g~約10meq/gの範囲であり得る。いくつかの態様では、カチオン性ポリマーの電荷密度は、約1.0meq/g~約10meq/gの範囲であり得る。いくつかの態様では、カチオン性ポリマーの電荷密度は、約1.0meq/g、約2.0meq/g、約3.0meq/g、約4.0meq/g、約4.5meq/g、約5.0meq/g、約6.0meq/g、約7.0meq/g、約8.0meq/g、又は約9.0meq/gである。
【0046】
カチオン性ポリマーの用量は、紙強度の増加を達成するように選択することができる。例えば、カチオン性ポリマーは、約1ポンド/トン~約30ポンド/トンの範囲の量でパルプスラリーに添加することができる。いくつかの態様では、カチオン性ポリマーは、約1ポンド/トン~約20ポンド/トンの範囲の量でパルプスラリーに添加することができる。いくつかの態様では、カチオン性ポリマーは、約5ポンド/トン~約20ポンド/トンの範囲の量でパルプスラリーに添加することができる。いくつかの態様では、カチオン性ポリマーは、約6ポンド/トン~約18ポンド/トンの範囲の量でパルプスラリーに添加することができる。いくつかの態様では、カチオン性ポリマーは、約8ポンド/トン~約18ポンド/トンの範囲の量でパルプスラリーに添加することができる。
【0047】
リグニン系化合物及びカチオン性ポリマーは、パルプスラリーに別々に又は同時に添加することができる。同時に添加する場合、リグニン系化合物及びカチオン性ポリマーは、独立して、又は単一組成物の一部として添加することができる。リグニン系化合物及びカチオン性ポリマーの供給手法には、成分を任意の順序で別々にパルプスラリーに添加すること、又は成分を予備混合した後にパルプスラリーに添加すること、又は成分をパルプスラリーに同時供給することが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの態様では、リグニン系化合物は、カチオン性ポリマーが添加される前にパルプスラリーに添加される。いくつかの態様では、リグニン系化合物は、カチオン性ポリマーが添加された後にパルプスラリーに添加される。いくつかの態様では、リグニン系化合物及びカチオン性ポリマーは、ウェットエンドの異なる位置でパルプスラリーに添加される。
【0048】
本明細書で使用される場合、製紙プロセスの「ウェットエンド」は、繊維のスラリーを含む部分を指す。ウェットエンドは、パルプが紙シートに形成されて乾燥される「ドライエンド」と一般に呼ばれる製紙プロセスの部分を含まない。
【0049】
リグニン系化合物及びカチオン性ポリマーは、製紙プロセスのウェットエンドにおいてパルプスラリーに添加される。ウェットエンドにおける特定の位置又は単位操作としては、白水系、パルプストック収納チェスト、混合チェスト、マシンチェスト、ヘッドボックスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
いくつかの態様では、本明細書に記載のリグニン系化合物及び本明細書に記載のカチオン性ポリマーを含む組成物が提供される。いくつかの態様では、組成物は、リグニン系化合物及びカチオン性ポリマーから本質的になり得る。
【0051】
「から本質的になる(consisting essentially of)」という移行句は、特許請求の範囲を、特定の要素、成分、原料及び/又は工程、並びに特許請求される発明の基本的な及び新規な特徴に実質的に影響を及ぼさないものに限定する。リグニン系化合物とカチオン性ポリマーとの組み合わせの基本的かつ新規な特徴は、化合物がウェットエンドで紙スラリーに添加された場合に見られる紙強度の予想外の増加である。紙強度がどのように測定され得るかの例は、実施例において提供される。
【0052】
いくつかの態様では、組成物は、リグニン系化合物及びカチオン性ポリマーからなる。いくつかの態様では、組成物は、リグニン系化合物、カチオン性ポリマー、及び溶媒からなる。溶媒は、例えば、水であり得る。
【実施例
【0053】
実施例
【0054】
実施例1
【0055】
リグニン系化合物を約20、約40、及び約80ポンド/トン活性で投入し、ポリDADMACポリマー(約5.1meq/g;重量平均MW約5000~約500000g/mol)を、約4.5、約8.5及び約17ポンド/トン活性で投与した。正味のカチオン系電荷を達成するのに十分なポリDADMACポリマーを添加した。ポリDADMACポリマーを最初に添加し、続いてリグニン系化合物を、繊維(リサイクルボード)の0.9重量%水溶液に添加した。各成分を繊維スラリー中で約10秒間混合した後、混合を停止し、ハンドシートを作製した。ハンドシートを約23℃及び相対湿度約50%でコンディショニングし、得られたハンドシートの強度を測定した。具体的には、シートの引張及びショートスパン圧縮(SCT)を測定し、結果を図1及び図2に示す。このデータから、リグニン系化合物が繊維表面に保持され、結果として強度が大幅に向上した。表1は、試験したカチオン性ポリマーを示す。
【0056】
これらの実施例で試験されたリグニン系化合物は、約7.6のpHで約-66.6mVのゼータ電位、約9.6のpHで約-66.8mVのゼータ電位、動的光散乱によって測定された約9.9nmの粒径、未希釈形態で約9.2のpHを有していた。
【表1】
【0057】
実施例2
【0058】
他のカチオン性ポリマーの影響を評価するために、更なる研究を行った。EPI-DMAポリマー(約4.3meq/g;重量平均MW約500,000~約700,000Da;カチオン性ポリマー2)をポリDADMACポリマー(カチオン性ポリマー1)と比較した。この研究では、リグニン系化合物の用量を約80ポンド/トン活性に固定した。カチオン性ポリマー1の用量は、約6.25、約12.50、約18.75、及び約25.00ポンド/トン活性の範囲であり、カチオン性ポリマー2の用量は、約7.48、約14.95、約22.43、及び約29.90ポンド/トン活性に設定した。2つのポリマーの用量は異なっていたが、これらの特定の用量は、全系電荷が同じになるように選択された(カチオン性ポリマー1及び2はわずかに異なる電荷密度を有する)。カチオン性ポリマー及びリグニン系化合物を前述のように順次添加し、ハンドシートを作製し、引張強度、破裂強度、SCT強度、及びリングクラッシュ強度について試験した。これらの結果を表2に示し、平均強度改善を図3に示す。引張、破裂、SCT、RCT、及び平均について報告されるパーセンテージは、ブランクと比較したパーセント変化である。
【表2】
【0059】
このデータから、カチオン性ポリマー1及び2の両方を使用して、リグニン系化合物を保持し、強度を向上させることができると思われる。しかしながら、最適なカチオン性ポリマー用量は、2つの製品間でわずかに異なる。
【0060】
リグニン系化合物の歩留まり向上剤としての異なるカチオン性ポリマーの使用を評価するために、更なる研究を行った。この場合、高電荷低分子量ポリビニルアミン(polyvinylamine、PVAM)を使用した(カチオン性ポリマー3)。このポリマーの特性を表3に示す。PVAMポリマーの用量は、約+0.25meqの全系電荷を維持するために、約18ポンド/トン活性に設定された。強度性能の結果を表4に示す。これらのデータは、PVAM/リグニン系化合物の組み合わせが、ベースラインから約30%を超えて強度を向上させることができることを示す。これは、典型的な強度助剤が通常10~15%の強度増加をもたらすことができるという点で重要な結果である。
【表3】
【表4】
【0061】
実施例3
【0062】
リグニン系化合物を保持し、強度を増加させる2つの市販の強度製品であるカチオン性ポリマー4及び5の能力を評価するために、別の研究を行った。この研究の第2の目標は、最適なPVAM用量を評価するためにカチオン性ポリマー3の量を変化させることであった。カチオン性ポリマー4及び5はそれぞれ、約8ポンド/トン活性で投入され、PVAM用量は、約6、約12、及び約18ポンド/トン活性に設定された。リグニン系化合物の用量を約60ポンド/トン活性に固定した。この研究の結果を以下の表5に示す。カチオン性ポリマー4又はカチオン性ポリマー5を使用すると強度を向上させることができるが、強度向上は、PVAM(カチオン性ポリマー3)によって提供されるものよりもはるかに低い。PVAM用量はまた、強度に有意に影響を与え、各PVAM用量で性能の顕著な変化が観察される。ここでも同様に、高用量のPVAMをリグニン系化合物とともに使用して得られた平均強度増加は約30%であり、以前の研究と一致する。
【表5】
【0063】
これらの結果は、リグニン系化合物が、市販の強度助剤の平均よりも低いカチオン電荷密度及び分子量を有するポリマーを使用する適切な保持システムを使用して繊維表面上に保持され得ることを示す。本発明の方法では、典型的にはセルロースの廃棄成分とみなされるリグニンを抄紙機のウェットエンドで使用して、典型的なウェットエンド強度助剤の2倍の有意なレベルの強度を生成することができる。
【0064】
本明細書で開示及び特許請求される組成物及び方法の全ては、本開示を考慮して、過度の実験を伴わずに作製及び実行され得る。本発明は、多くの異なる形態で具現化され得、本発明の特定の好ましい実施形態が、本明細書で詳細に説明される。本開示は、本発明の原理の例示であり、本発明を例解された特定の実施形態に限定することを意図するものではない。なお、異なるように明示的に述べられない限り、「a(ある1つの)」という用語は、「少なくとも1つ(at least one)」又は「一つ又は複数(one or more)」を含むことを意図する。例えば、「ある1つのポリマー(a polymer)」は、「少なくとも1つのポリマー」又は「一つ又は複数のポリマー」を含むことを意図する。
【0065】
絶対的な用語又は近似的な用語のいずれかで示される任意の範囲は、両方を包含することを意図しており、本明細書で使用される任意の定義は、明確にすることを意図するものであり、限定することを意図するものではない。本発明の広範な範囲を明記する数値範囲及びパラメータは、近似値ではあるものの、特定の実施例で明記される数値は、可能な限り正確に報告される。しかしながら、いかなる数値も、それらのそれぞれの試験測定値において見られる標準偏差に必然的に起因する特定の誤差を本質的に含む。更に、本明細書に開示される全ての範囲は、その中に包含されるあらゆる部分範囲(全ての小数値及び全体値を含む)を包含するものとして理解されるべきである。
【0066】
本明細書に開示される任意の組成物は、本明細書に開示される任意の要素、成分、及び/並びに原料、又は本明細書に開示される要素、成分、又は原料のうちの2つ以上の任意の組み合わせを含み得るか、それらからなり得るか、又はそれらから本質的になり得る。
【0067】
本明細書に開示される任意の方法は、本明細書に開示される任意の方法工程、又は本明細書に開示される方法工程のうちの2つ以上の任意の組み合わせを含み得るか、それらからなり得るか、又はそれらから本質的になり得る。
【0068】
「含む(including)」、「含有する(containing)」、又は「によって特徴付けられる(characterized by)」と同義である「含む(comprising)」という移行句は、包括的又はオープンエンドであり、追加の列挙されていない要素、成分、原料、及び/又は方法工程を除外しない。
【0069】
「からなる(consisting of)」という移行句は、特許請求の範囲に明記されていない任意の要素、成分、原料、及び/又は方法工程を除外する。
【0070】
特に明記されていない限り、本明細書で言及される全ての分子量は、重量平均分子量であり、全ての粘度は、ニート(希釈されていない)ポリマーを用いて25℃で測定した。
【0071】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、それらのそれぞれの試験測定値において見られる標準偏差から生じる誤差内にある引用された値を指し、それらの誤差が判定され得ない場合、「約」は、例えば、引用された値の5%以内を指し得る。
【0072】
更に、本発明は、本明細書において説明される様々な実施形態の一部又は全部の、あらゆる可能な組み合わせを包含する。また、本明細書において説明される本発明の好ましい実施形態に対する様々な変更及び修正が、当業者にとって明らかであろうこともまた、理解されるべきである。このような変更及び修正は、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく、かつその意図される利点を縮小することなく行われ得る。したがって、このような変更及び修正は、添付の特許請求の範囲によって網羅されることが意図される。
図1
図2
図3
【国際調査報告】