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特表2024-530360無菌リポソーム含有組成物および物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-16
(54)【発明の名称】無菌リポソーム含有組成物および物品
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/80 20060101AFI20240808BHJP
   A61K 31/685 20060101ALI20240808BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20240808BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240808BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20240808BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240808BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
A61K31/80
A61K31/685
A61P27/04
A61P19/02
A61K9/127
A61K47/24
A61K47/32
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536546
(86)(22)【出願日】2022-08-30
(85)【翻訳文提出日】2024-04-24
(86)【国際出願番号】 IL2022050951
(87)【国際公開番号】W WO2023031928
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】63/238,831
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/278,123
(32)【優先日】2021-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/353,657
(32)【優先日】2022-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524073740
【氏名又は名称】リポスフィア リミテッド
【氏名又は名称原語表記】LIPOSPHERE LTD.
【住所又は居所原語表記】1 HaArava Street, 6th Floor, Givat Shmuel, Israel
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴールドバーグ ロニット
(72)【発明者】
【氏名】ヤーン サブリナ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076BB11
4C076BB21
4C076BB24
4C076BB32
4C076CC10
4C076DD63
4C076EE13
4C076FF11
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA41
4C086FA05
4C086MA02
4C086MA06
4C086MA24
4C086MA58
4C086MA65
4C086NA14
4C086ZA33
4C086ZA96
(57)【要約】
水性担体とリポソームとを含み、リポソームの平均径および/またはゼータ電位の変化が、300日間にわたって20%以下である無菌組成物、ならびに水性担体とリポソームとを含む水性組成物を100℃超の温度に暴露することによって、上記組成物を調製する方法を本明細書に記載する。さらに、製造物品を、水性担体とリポソームとを含む水性組成物と接触させ、さらに100℃超の温度に暴露することによって、脂質が付着した無菌の製造物品を調製する方法、ならびに、本明細書に記載する方法に従って調製される無菌の製造物品についても記載する。リポソームは、二重層形成脂質と、下記式を有する高分子化合物とを含む。
【化1】
上記式中、m、n、L、X、Y、およびZは本明細書で定義する通りである。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性担体とリポソームとを含む無菌組成物であって、
前記リポソームの平均径および/またはゼータ電位の変化が、300日間にわたって20%以下であり、かつ前記リポソームが、
a)少なくとも1つの二重層形成脂質、および
b)下記一般式Iを有する高分子化合物
を含む、組成物。
【化1】
上記式中、
mはゼロまたは正の整数であり;
nは少なくとも1である整数であり、Xがリン酸基を含まない場合、nは少なくとも2であり;
Xは脂質部分であり;
Yはポリマー骨格を形成する骨格単位であり;
Lは存在しない、または連結部分であり;および
Zは下記一般式IIを有し、
【化2】
上記式中、
Aは置換または非置換の炭化水素であり;
Bは酸素原子である、または存在せず;および
~Rは、それぞれ独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロ脂環式、アリール、およびヘテロアリールからなる群から選択される。
【請求項2】
前記リポソームの多分散指数が0.2以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記リポソームのゼータ電位が、-40~40mVまたは-10~10mVの範囲にある、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記二重層形成脂質と前記高分子化合物のモル比が5:1~5,000:1の範囲にある、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記Yが置換または非置換のアルキレン単位である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記Yが置換または非置換のエチレン単位である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記Yが式-CR-CRD-を有し、
前記Yが前記Lまたは前記Zに結合していない骨格単位である場合、DはRであり;
前記Yが前記Lまたは前記Zに結合している骨格単位である場合、Dは、前記Yを前記Lまたは前記Zに結合させる共有結合または連結基であり、前記連結基は、-O-、-S-、アルキレン、アリーレン、スルフィニル、スルホニル、ホスフェート、ホスホニル、ホスフィニル、カルボニル、チオカルボニル、尿素、チオ尿素、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、スルホンアミド、およびアミノからなる群から選択され;
~Rは、それぞれ独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、スルフィニル、スルホニル、シアノ、ニトロ、アジド、アゾ、ホスフェート、ホスホニル、ホスフィニル、オキソ、カルボニル、チオカルボニル、尿素、チオ尿素、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、スルホンアミド、およびアミノからなる群から選択される、
請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記Bが酸素原子である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記Aが、1~4炭素原子長である置換または非置換の炭化水素である、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記R~Rが、それぞれ独立して、水素またはC1-4-アルキルである、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記nが少なくとも3である、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記nが5~50の範囲にあり、かつ前記mが0~50の範囲にある、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記脂質部分が、脂肪酸部分、モノグリセリド部分、ジグリセリド部分、トリグリセリド部分、グリセロリン脂質部分、スフィンゴ脂質部分、およびステロール部分からなる群から選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記Xが一般式IIIを有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【化3】
上記式中、
およびWは、それぞれ独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、およびアシルからなる群から選択され、WおよびWの少なくとも1つは水素ではなく;
Jは、-P(=O)(OH)-O-である、または存在せず;
Kは、長さが1~10個の炭素原子の置換または非置換の炭化水素である、または存在せず;
Mは、-O-、-S-、アミノ、スルフィニル、スルホニル、ホスフェート、ホスホニル、ホスフィニル、カルボニル、チオカルボニル、尿素、チオ尿素、カルバミル、チオカルバミル、アミド、カルボキシ、およびスルホンアミドからなる群から選択される連結基である、または存在せず;
Qは、長さが1~10個の炭素原子の置換または非置換の炭化水素であり、
Mが存在しない場合、Kも存在しない。
【請求項15】
前記Jが-P(=O)(OH)-O-であり、かつKが、エタノールアミン部分、セリン部分、グリセロール部分、およびイノシトール部分からなる群から選択される、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記Mがアミドである、請求項14または15に記載の組成物。
【請求項17】
前記Jおよび前記Kが存在せず、かつMがカルボニルである、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記Qがジメチルメチレン(-C(CH-)である、請求項14~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記Wおよび前記Wの少なくとも1つが、10~30炭素原子長のアルキル、アルケニル、アルキニル、またはアシルである、請求項15~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記脂質部分が、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル、パルミトレオイル、オレオイル、およびリノレオイルからなる群から選択される少なくとも1つの脂肪酸部分を含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
滑膜関節障害の治療に使用するためのものであり、前記治療が前記組成物の関節内投与を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
前記滑膜関節障害が変形性関節症である、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記治療が、放射線学的重症度のKellgren-Lawrenceスケール、関節可動域、身体活動、および生活の質の少なくとも1つによって判定される関節生理機能の改善によって特徴付けられる、請求項21または22に記載の組成物。
【請求項24】
前記治療が疼痛の軽減によって特徴付けられる、請求項21~23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
変形性関節症の動物モデルにおいて前記組成物の関節内注射後に膝の組織の病的変化を改善することが可能である、請求項1~24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
前記組成物中に浸漬された製造物品を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
前記製造物品がコンタクトレンズを含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
コンタクトレンズの濯ぎ、洗浄および/または浸漬に用いるための、請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項29】
前記水性担体が、眼科的に許容される担体である、請求項27または28に記載の組成物。
【請求項30】
請求項1~29のいずれか一項に記載の無菌組成物を調製する方法であって、
(i)水性担体と、少なくとも1つの二重層形成脂質および高分子化合物を含むリポソームとを含む水性組成物を提供することと、
(ii)前記水性組成物を100℃超の温度に暴露し、それにより無菌組成物を得ることと
を含む、方法。
【請求項31】
前記温度が121~134℃の範囲にある、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記水性担体と前記リポソームとを含む前記水性組成物が、その中に浸漬された製造物品をさらに含み、前記水性組成物を100℃超の温度に暴露すると、前記水性組成物中に浸漬された前記製造物品が無菌になる、請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
前記製造物品がコンタクトレンズを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
少なくとも表面の一部に脂質が付着した無菌の製造物品を調製する方法であって、
(i)前記製造物品の表面の少なくとも一部を、水性担体とリポソームとを含む水性組成物と接触させ、それによりその表面の少なくとも一部に脂質が付着した製造物品を得ること工程であって、前記リポソームは、
a)少なくとも1つの二重層形成脂質、および
b)下記一般式Iを有する高分子化合物
を含む工程と、
(ii)前記表面の少なくとも一部に脂質が付着した製造物品を100℃超の温度に暴露し、それにより無菌である、前記表面の少なくとも一部に脂質が付着した製造物品を得る工程と
を含む、方法。
【化4】
上記式中、
mはゼロまたは正の整数であり;
nは少なくとも1である整数であり、Xがリン酸基を含まない場合、nは少なくとも2であり;
Xは脂質部分であり;
Yはポリマー骨格を形成する骨格単位であり;
Lは存在しない、または連結部分であり;および
Zは下記一般式IIを有し、
【化5】
上記式中、
Aは置換または非置換の炭化水素であり;
Bは酸素原子である、または存在せず;および
~Rは、それぞれ独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロ脂環式、アリール、およびヘテロアリールからなる群から選択される。
【請求項35】
前記温度が121~134℃の範囲にある、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記二重層形成脂質と前記高分子化合物のモル比が5:1~5,000:1の範囲にある、請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
前記Yが置換または非置換のアルキレン単位である、請求項34~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記nが少なくとも3である、請求項34~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記脂質部分が、脂肪酸部分、モノグリセリド部分、ジグリセリド部分、トリグリセリド部分、グリセロリン脂質部分、スフィンゴ脂質部分、およびステロール部分からなる群から選択される、請求項34~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記Xが一般式IIIを有する、請求項34~38のいずれか一項に記載の方法。
【化6】
上記式中、
およびWは、それぞれ独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、およびアシルからなる群から選択され、WおよびWの少なくとも1つは水素ではなく;
Jは、-P(=O)(OH)-O-である、または存在せず;
Kは、長さが1~10個の炭素原子の置換または非置換の炭化水素である、または存在せず;
Mは、-O-、-S-、アミノ、スルフィニル、スルホニル、ホスフェート、ホスホニル、ホスフィニル、カルボニル、チオカルボニル、尿素、チオ尿素、カルバミル、チオカルバミル、アミド、カルボキシ、およびスルホンアミドからなる群から選択される連結基である、または存在せず;ならびに
Qは、長さが1~10個の炭素原子の置換または非置換の炭化水素であり、
Mが存在しない場合、Kも存在しない。
【請求項41】
前記脂質部分が、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル、パルミトレオイル、オレオイル、およびリノレオイルからなる群から選択される少なくとも1つの脂肪酸部分を含む、請求項34~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記製造物品がコンタクトレンズを含む、請求項34~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
請求項32~42のいずれか一項に記載の方法に従って調製される無菌の製造物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年8月31日に出願された米国仮特許出願第63/238,831号、2021年11月11日に出願された米国仮特許出願第63/278,123号、および2022年6月20日に出願された米国仮特許出願第63/353,657号の優先権を主張するものであり、これらの内容は参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、治療に関し、より具体的には、特に変形性関節症などの関節障害の治療に使用可能な無菌リポソーム組成物に関するが、これに限定されない。
【背景技術】
【0003】
最も一般的な関節炎である変形性関節症は、関節軟骨とその下にある骨の破壊により生じる変性関節疾患であり、最も一般的な症状は関節痛とこわばりである。従来の治療には、鎮痛剤および抗炎症薬、ならびに(例えば、足首関節炎における)骨癒合および人工関節置換などの外科手術がある。
【0004】
初期の変形性関節症では、外科的な対処が必要な明らかな軟骨病変や複合的な異常は認められない。明らかな変形性関節症の徴候はないものの早期変形性関節症と定義される段階にあるとみられる患者に対し、いくつかの治療が提案され、臨床現場で現在使用されている[Luyten et al., Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 2012, 20:401-406]。早期変形性関節症の管理に利用可能な非外科的治療には、生活習慣の改善、運動、および理学療法などの非薬物療法、栄養補助食品、ならびに鎮痛剤、抗炎症薬、または遅効性薬などの薬物療法の使用、ならびに低侵襲注射によるさまざまな物質の局所投与などがある[Kon et al., Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 2012, 20:436-449]。
【0005】
関節内補充療法には、関節を潤滑にして衝撃を吸収し、細胞外マトリックスのプロテオグリカンの骨格として働くグリコサミノグリカンであるヒアルロン酸(HA)の関節内注射が含まれる。正常な成人の膝ではHA濃度が2.5~4.0mg/mLであるのに対し、変形性関節症ではHA濃度が33~50%低下している[Kon et al., Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 2012, 20:436-449]。しかし、関節内補充療法が変形性関節症の自然な進行に影響を及ぼすことを明確に示す証拠はない。血清および尿中のバイオマーカーの変化を示す報告もあるが、軟骨の構造組成には変化がないという報告もある[Conrozier et al., J Orthop Res 2012, 30:679-685]。
【0006】
国際公開第2015/193888号には、水溶性ポリマーを表面に付着させ、水溶性ポリマーをリポソームと接触させることにより、表面を両親媒性脂質で被覆して、表面の摩擦係数を低下させる方法、ならびに関節摩擦の増加に伴う滑膜関節障害を治療する方法が記載されている。
【0007】
一般に注射用医薬組成物は、体内で使用するために滅菌しなければならない。(例えば、加圧下で121~134℃での)蒸気滅菌は、無毒で、信頼性が高く、安価であるため、一般的に使用されているが、熱および/または湿気に敏感な材料には適していない。熱および湿気に敏感な材料の滅菌にはエチレンオキサイドガスが使用される。孔径0.22μmの精密ろ過を用いれば微生物は除去できるが、ウイルスの除去にはより小さな孔径(例えば、20~50nm)が必要となる。ガンマ(γ)線は透過性が高く、滅菌には有用だが安全性に問題がある。紫外線はより安全だが透過性が低く、表面や一部の透明な物体の殺菌に適しており、またプラスチックによっては損傷する可能性がある。
【0008】
Toh & Chiu[Asian J Pharm Sci 2013, 8:88-95]はリポソーム組成物の滅菌について検討しており、ろ過は滅菌に有用であり得るが、費用と手間がかかり、直径200nm未満のリポソーム系にしか適用できないこと、また紫外線照射、γ線照射、および蒸気滅菌ではリポソームが分解される可能性があることを開示している。
【0009】
蒸気滅菌は、コンタクトレンズの製造時や再利用の際に、包装されたコンタクトレンズを滅菌するためにも使用される。
【0010】
国際公開第2015/193887号には、コンタクトレンズのすすぎおよび/または浸漬のため、および/または眼の不快感(例えば、コンタクトレンズに関連する眼の不快感)の治療に使用するための製剤が記載されており、この製剤は、少なくとも1つの水溶性ポリマー、リポソーム、および水性担体を含む。
【0011】
国際公開第2017/109784号には、脂質部分とイオン性ポリマー部分、例えば、pMPC(ポリ(O-(2-メタクリロイルオキシエチル)ホスホリルコリン))部分とを含む高分子化合物、ならびにこのような高分子化合物を二重層形成脂質と組み合わせて含む二重層およびリポソームが記載されている。このような高分子化合物を含む二重層および/またはリポソームは、表面の摩擦係数の低減および/またはバイオフィルム形成の抑制に有用であると記載されている。
【0012】
この他の背景技術には、国際公開第2016/051413号および国際公開第2018/150429号がある。
【発明の概要】
【0013】
本発明のいくつかの実施形態の一態様によると、水性担体とリポソームとを含む無菌組成物が提供される。当該リポソームの平均径および/またはゼータ電位の変化は、300日間にわたって20%以下であり、かつリポソームは、
a)少なくとも1つの二重層形成脂質、および
b)下記一般式Iを有する高分子化合物
を含む。
【化1】
上記式中、
mはゼロまたは正の整数であり;
nは少なくとも1である整数であり、Xがリン酸基を含まない場合、nは少なくとも2であり;
Xは脂質部分であり;
Yはポリマー骨格を形成する骨格単位であり;
Lは存在しない、または連結部分であり;および
Zは一般式IIを有し、
【化2】
上記式中、
Aは置換または非置換の炭化水素であり;
Bは酸素原子である、または存在せず;および
~Rは、それぞれ独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロ脂環式、アリール、およびヘテロアリールからなる群から選択される。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態の一態様によると、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による無菌組成物を調製する方法が提供される。当該方法は、
(i)本明細書に記載する任意の対応する実施形態による、水性担体と、少なくとも1つの二重層形成脂質および高分子化合物を含むリポソームとを含む水性組成物を提供することと、
(ii)水性組成物を100℃超の温度に曝露し、それにより無菌組成物を得ることと
を含む。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態の一態様によると、その表面の少なくとも一部に脂質が付着した無菌の製造物品を調製する方法が提供される。当該方法は、
(i)製造物品の表面の少なくとも一部を、水性担体とリポソームとを含む水性組成物と接触させ、それによりその表面の少なくとも一部に脂質が付着した製造物品を得る工程であって、このリポソームは、
a)少なくとも1つの二重層形成脂質、および
b)一般式Iを有する高分子化合物
を含む工程と、
(ii)表面の少なくとも一部に脂質が付着した製造物品を100℃超の温度に曝露し、それによりその表面の少なくとも一部に脂質が付着した無菌の製造物品を得る工程と
を含む。
【化3】
上記式中、
mはゼロまたは正の整数であり;
nは少なくとも1である整数であり、Xがリン酸基を含まない場合、nは少なくとも2であり;
Xは脂質部分であり;
Yはポリマー骨格を形成する骨格単位であり;
Lは存在しない、または連結部分であり;および
Zは一般式IIを有し、
【化4】
上記式中、
Aは置換または非置換の炭化水素であり;
Bは酸素原子である、または存在せず;および
~Rは、それぞれ独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロ脂環式、アリール、およびヘテロアリールからなる群から選択される。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態の一態様によると、任意の対応する実施形態による本明細書に記載する方法に従って調製した無菌の製造物品が提供される。
【0017】
本発明の任意の対応する実施形態のいくつかによると、無菌組成物中のリポソームの多分散指数は0.2以下である。
【0018】
本発明の任意の実施形態のいくつかによると、リポソームのゼータ電位は、-40~40mVまたは-10~10mVの範囲にある。
【0019】
本発明の任意の実施形態のいくつかによると、二重層形成脂質と高分子化合物のモル比は、5:1~5,000:1の範囲にある。
【0020】
本発明の任意の実施形態のいくつかによると、Yは置換または非置換のアルキレン単位である。
【0021】
本発明の任意の実施形態のいくつかによると、Yは置換または非置換のエチレン単位である。
【0022】
本発明の任意の実施形態のいくつかによると、Yは式-CR-CRD-を有し:
Yが、LまたはZに結合していない骨格単位である場合、DはRであり;
Yが、LまたはZに結合している骨格単位である場合、Dは、YをLまたはZに結合する共有結合または連結基であり、連結基は、-O-、-S-、アルキレン、アリーレン、スルフィニル、スルホニル、ホスフェート、ホスホニル、ホスフィニル、カルボニル、チオカルボニル、尿素、チオ尿素、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、スルホンアミド、およびアミノからなる群から選択され;ならびに
~Rは、それぞれ独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、スルフィニル、スルホニル、シアノ、ニトロ、アジド、アゾ、ホスフェート、ホスホニル、ホスフィニル、オキソ、カルボニル、チオカルボニル、尿素、チオ尿素、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、スルホンアミド、およびアミノからなる群から選択される。
【0023】
本発明の任意の実施形態のいくつかによると、Bは酸素原子である。
【0024】
本発明の任意の実施形態のいくつかによると、Aは、1~4炭素原子長である置換または非置換の炭化水素である。
【0025】
本発明の任意の実施形態のいくつかによると、R~Rは、それぞれ独立して、水素またはC1-4-アルキルである。
【0026】
本発明の任意の実施形態のいくつかによると、nは少なくとも3である。
【0027】
本発明の任意の実施形態のいくつかによると、nは、5~150、または5~100、または5~50の範囲にあり、かつmは0~50の範囲にある。
【0028】
本発明の任意の実施形態のいくつかによると、脂質部分は、脂肪酸部分、モノグリセリド部分、ジグリセリド部分、トリグリセリド部分、グリセロリン脂質部分、スフィンゴ脂質部分、およびステロール部分からなる群から選択される。
【0029】
本発明の任意の実施形態のいくつかによると、脂質部分は、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル、パルミトレオイル、オレオイル、およびリノレオイルからなる群から選択される少なくとも1つの脂肪酸部分を含む。
【0030】
本発明の任意の実施形態のいくつかによると、Xは一般式IIIを有する。
【化5】
上記式中、
およびWは、それぞれ独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、およびアシルからなる群から選択され、WおよびWの少なくとも1つは水素ではなく;
Jは、-P(=O)(OH)-O-である、または存在せず;
Kは、1~10炭素原子長の置換または非置換の炭化水素である、または存在せず;
Mは、-O-、-S-、アミノ、スルフィニル、スルホニル、ホスフェート、ホスホニル、ホスフィニル、カルボニル、チオカルボニル、尿素、チオ尿素、カルバミル、チオカルバミル、アミド、カルボキシ、およびスルホンアミドからなる群から選択される連結基である、または存在せず;ならびに
Qは、1~10炭素原子長の置換または非置換の炭化水素であり、
Mが存在しない場合、Kも存在しない。
【0031】
式IIIに関する本発明の任意の実施形態のいくつかによると、Jは-P(=O)(OH)-O-であり、かつKは、エタノールアミン部分、セリン部分、グリセロール部分、およびイノシトール部分からなる群から選択される。
【0032】
式IIIに関する本発明の任意の実施形態のいくつかによると、Mはアミドである。
【0033】
式IIIに関する本発明の任意の実施形態のいくつかによると、JおよびKは存在せず、かつMはカルボニルである。
【0034】
式IIIに関する本発明の任意の実施形態のいくつかによると、Qはジメチルメチレン(-C(CH-)である。
【0035】
式IIIに関する本発明の任意の実施形態のいくつかによると、WおよびWの少なくとも1つは、10~30炭素原子長であるアルキル、アルケニル、アルキニル、またはアシルである。
【0036】
無菌組成物に関する本発明の任意の実施形態のいくつかによると、無菌組成物は、コンタクトレンズの濯ぎ、洗浄、および/または浸漬するためのものである。
【0037】
無菌組成物に関する本発明の任意の実施形態のいくつかによると、水性担体は、眼科的に許容される担体である。
【0038】
無菌組成物に関する本発明の任意の実施形態のいくつかによると、無菌組成物は、その中に浸漬された製造物品を含む。
【0039】
製造物品に関する本発明の任意の実施形態のいくつかによると、製造物品はコンタクトレンズを含む。
【0040】
無菌組成物に関する本発明の任意の実施形態のいくつかによると、無菌組成物は、変形性関節症の動物モデルにおいて組成物の関節内注射後に膝の組織の病的変化を改善することが可能である。
【0041】
これらの実施形態のいくつかによると、モデルはラット内側半月板不安定化モデルである。
【0042】
無菌組成物に関する本発明の任意の実施形態のいくつかによると、無菌組成物は、滑膜関節障害の治療に使用するためのものであり、治療は組成物の関節内投与を含む。
【0043】
滑膜関節障害の治療に関する本発明の任意の実施形態のいくつかによると、滑膜関節障害は変形性関節症である。
【0044】
滑膜関節障害の治療に関する本発明の任意の実施形態のいくつかによると、治療は、放射線学的重症度のKellgren-Lawrenceスケール、関節可動域、身体活動、および生活の質の少なくとも1つによって判定される関節生理機能の改善によって特徴付けられる。
【0045】
滑膜関節障害の治療に関する本発明の任意の実施形態のいくつかによると、治療は疼痛の軽減によって特徴付けられる。
【0046】
方法に関する本発明の任意の実施形態のいくつかによると、温度は121~134℃の範囲にある。
【0047】
無菌組成物を調製する方法に関する本発明の実施形態のいずれかによる水性担体とリポソームとを含む水性組成物は、その中に浸漬された製造物品をさらに含むことにより、水性組成物を100℃超の温度に曝露すると、水性組成物に浸漬された製造物品が無菌になる。
【0048】
特に定義しない限り、本明細書で使用するすべての技術用語および/または科学用語は、本発明が属する技術分野において当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。本明細書に記載するものと類似または同等の方法および材料が、本発明の実施形態の実施または試験に使用できるが、例示的な方法および/または材料を以下に記載する。矛盾がある場合、定義を含む特許明細書が優先する。さらに、材料、方法、および実施例は例示に過ぎず、必ずしも限定することを意図していない。
【0049】
本発明のいくつかの実施形態を、例示のためにのみ、添付の図面を参照して本明細書で説明する。これから図面を具体的に詳細に参照するが、強調しておくと、提示する個々の事項は例示のためであり、本発明の実施形態の説明を目的としている。この点で、図面と併せた説明は、本発明の実施形態がどのように実施され得るかを当業者に明らかにするものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1図1は例示的な組成物中のリポソームの粒度分布を示すグラフである(3本の線はそれぞれ個別の測定を表す)。
図2図2のAおよびBは、例示的な組成物中のリポソームのクライオ・トンネル電子顕微鏡像を示す。
図3図3は、例示的な組成物中のリポソームのゼータ電位を時間の関数として示すグラフである(黒線は初期値±10%を示す)。
図4図4は、例示的な組成物中のリポソームの多分散指数(PDI)を時間の関数として示すグラフである(黒線はPDI=15%を示す)。
図5図5は、例示的なリポソーム含有組成物(Lipo100%)、仔ウシ血清(BCS100%)、またはリポソーム含有組成物を50%(50/50)もしくはリポソーム含有組成物を25%(Lipo25%)含有するその混合物の存在下で、ピンオンディスク方式で50万サイクルにわたって試験した際の模擬膝関節における摩擦係数を示すグラフである。BCS100%および50/50は重複して試験した。全試料の平均値も示す。
図6図6は、変形性関節症のラット内側半月板不安定化モデルにおける、表示した術後時点での動的体重負荷の差(左右差)を示すグラフである。ラットは術後7、21、35、および49日目に、AqueousJoint、Synvisc(登録商標)(市販のHA注射剤)、または生理食塩水(ビヒクル対照)を関節内(IA)注射して治療した。
図7図7は、術後10日目の変形性関節症のラット内側半月板不安定化モデルにおける歩行スコアを示すグラフである。ラットは術後7日目にAqueousJoint、Synvisc(登録商標)(市販のHA注射剤)、または生理食塩水(ビヒクル対照)を関節内(IA)注射して治療した。
図8図8のAおよびBは、新鮮な軟骨(図8A)と凍結軟骨(図8B)をそれぞれ合成脂質とヒアルロン酸の2つの試験溶液に曝露したときの摩擦反応の変化を示すグラフである。同じ試料を対照(緩衝液)または試験溶液のいずれかに交互に曝露した(対照-試験溶液-対照-試験溶液-対照)。結果は、合成脂質の添加によって、ヒアルロン酸で観察されるよりも大幅に摩擦力が低下したことを示している。
図9図9は、本明細書に記載のAqueousJoint製剤の摩耗低減性能を、対照の仔ウシ血清標準溶液と比較して実証するためにピンオンディスク設定を用いて実施した摩耗試験を示すグラフである。結果は、200万サイクル後、AqueousJoint製剤では対照溶液と比較して摩耗が5分の1に低減したことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、治療に関し、より具体的には、特に変形性関節症などの関節障害の治療に使用可能な無菌リポソーム組成物に関するが、これに限定されない。
【0052】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用において、以下の説明に示す、または実施例によって例示する詳細に必ずしも限定されないことを理解されたい。本発明は、他の実施形態が可能である、またはさまざまな方法で実施もしくは実行できる。
【0053】
本発明者らはリポソーム含有溶液の研究中に、リン酸イオン基とアンモニウムイオン基の両方を含む骨格単位からなる主鎖で形成された脂質由来の高分子化合物を有するリポソームを含む組成物が、例えば、リポソームの融合および/または凝集および/またはリポソームサイズの著しい増大を特徴とする、通常はリポソームの不安定性を促進する熱処理による安定化に対して驚くほど安定していることを偶然見出した。
【0054】
以下の実施例の項で示すように、本発明者らは、このような高分子化合物を含むリポソームを含む組成物は、滅菌時およびその後ほぼ1年間にわたって、リポソームの特性にほとんど変化が認められないことを明らかにした。
【0055】
したがって、本発明の実施形態は、リポソームを含む無菌組成物およびそのような無菌組成物の調製、ならびにさまざまな用途、特に無菌性が重要な特徴である用途、例えば、組成物の関節内投与を伴う滑膜関節障害(例えば、変形性関節症)の治療、ならびにコンタクトレンズ溶液およびコンタクトレンズ表面の処理におけるそのような無菌組成物の使用に関する。
【0056】
無菌組成物:
本発明のいくつかの実施形態の一態様によると、水性担体とリポソームとを含む無菌組成物が提供され、リポソームは、少なくとも1つの二重層形成脂質と、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による高分子化合物とを含む。
【0057】
本明細書において「無菌」という用語は、例えば、無菌性を試験するための任意の標準的なプロトコルに従って、適切な期間にわたって組成物に条件(例えば、培地、培養温度)を与えた際に、微生物の増殖が観察されないことを指す。任意に、液状チオグリコール酸培地で、例えば30~35℃の範囲の温度で最長3日間、および/またはソイビーンカゼインダイジェスト培地(別名、トリプチケースソイブロスまたはトリプチケースソイ寒天培地)で、例えば20~25℃の範囲の温度で最長5日間無菌性を試験し、例えばそれにより、いずれの培地でも微生物の増殖が観察されない場合、組成物は無菌である。液状チオグリコール酸培地および/またはソイビーンカゼインダイジェスト培地の内容および/または無菌性の試験手順は、任意に米国薬局方第71章に記載の通りであってよく、その内容は参照により本明細書に援用される。
【0058】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかでは、無菌組成物は、許容される閾値未満、例えば35エンドトキシン単位(EU)/mLの閾値未満(例えば、エンドトキシン単位は米国薬局方標準品に従って定義される)の細菌性エンドトキシンの濃度によってさらに特徴付けられる。細菌性エンドトキシンレベルは、例えば、カブトガニ(Limulus属)アメーバ細胞溶解物を用いて(例えば、米国薬局方第85章に従い、その内容は参照により本明細書に援用される)、例えばエンドトキシンを含有する市販の参照試料と比較することにより、当技術分野で既知の任意の適切な試験により決定し得る。
【0059】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかでは、無菌組成物中のリポソームの多分散指数(PDI)は0.2以下であり、任意に0.15以下、または0.1以下、またはさらに0.05以下である。
【0060】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかでは、リポソームの平均径は20~1000nm、任意に50~300nmの範囲にある。
【0061】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、リポソームの平均径は少なくとも100nm、例えば100~1000nm、または100~300nmである。いくつかの実施形態では、リポソームの平均径は少なくとも125nm、例えば125~1000nm、または125~300nmである。いくつかの実施形態では、リポソームの平均径は少なくとも150nm、例えば150~1000nm、または150~300nmである。
【0062】
特定の理論に縛られることなく、リポソーム直径が少なくとも約100nmであれば、in vivoでの滞留時間が長くなり、したがって、(本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)in vivoでの使用を意図した無菌組成物に特に適していると考えられる。
【0063】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかでは、無菌組成物中のリポソームの平均径の変化は、300日間にわたって(例えば、室温で)20%以下、および任意に300日間にわたって(例えば、室温で)15%以下、または10%以下、またはさらに5%以下である。
【0064】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態による平均径は、任意に、算術平均(値の数に対する値の合計の比)または動的光散乱の技術分野においてこの用語が定義されるようなZ平均(簡単に言えば、強度加重調和平均)であってよい。例示的な実施形態では、平均径は動的光散乱によって決定されるZ平均径である。
【0065】
組成物中のリポソームの多分散指数(PDI)および/または平均径は、任意に(例えば、市販の機器を使用して)PDIおよびZ平均径を決定するための(例えば、ISO13321およびISO22412標準に従った)データに対する2パラメータフィットを用いる動的光散乱によって決定し得る。
【0066】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかでは、無菌組成物中のリポソームのゼータ電位は、少なくとも-3mV(すなわち、-3mVまたはより低い値)、任意に少なくとも-3.5mV、および任意に少なくとも-4mVである。
【0067】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかでは、無菌組成物中のリポソームのゼータ電位は、40~-40mV、または30~-30mV、または20~-20mV、または15~-15mV、または10~-10mV(例えば、5~-5mV)の範囲、任意に0~-10mV(例えば、0~-5mV、または-3~-5mV)の範囲にある。
【0068】
特定の理論に縛られることなく、示した範囲、例えば、ゼータ電位が10~-10mVの範囲であれば、通常、(例えば、本明細書に記載する高分子化合物を含まないリポソームでは)リポソームは特に不安定になりやすいと考えられているため、(例えば、滅菌時に)本発明の実施形態に従ったこのようなゼータ電位を有するリポソームの安定性は特に注目に値し、このようなゼータ電位を有する他のリポソームでは実現が困難である。
【0069】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかでは、無菌組成物中のリポソームのゼータ電位の変化は、300日間にわたって(例えば、室温または任意により低い温度で)20%以下、および任意に300日間にわたって(例えば、室温または任意により低い温度で)15%以下、または10%以下、またはさらに5%以下である。いくつかのそのような実施形態では、無菌組成物中のリポソームの平均径の変化は、(本明細書に記載する対応する実施形態のいずれかに従って)300日間にわたって(例えば、室温または任意により低い温度で)20%以下である。いくつかの実施形態では、300日間にわたって示されたゼータ電位の変化は室温を指す。いくつかの実施形態では、いくつかの実施形態では、300日間にわたって示されたゼータ電位の変化は4℃を指す。
【0070】
ゼータ電位は、任意に(例えば、市販の装置を使用して)当技術分野で既知の任意の適切な技術、例えば電気泳動光散乱を用いて決定し得る。リポソームのゼータ電位は、所定の塩濃度(例えば、10μM)の塩(例えば、NaCl)水溶液でリポソームを希釈することによって決定し得る。
【0071】
本明細書に記載するように、実施形態によるリポソームは、特に、少なくとも1つの二重層形成脂質を含む。
【0072】
本明細書において「二重層形成脂質」という用語は、化合物の純粋な水溶液から二重層を形成し得る任意の化合物を包含し、二重層は化合物(「脂質」と呼ばれる)の分子の2つの平行な層を含む。
【0073】
通常、(例えば、本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかによるリポソームにおける)二重層は、水溶液との界面および/または固体表面との界面を任意に含み得る二重層の2つの表面における脂質の比較的極性の部分、ならびに二重層を形成する脂質分子の2つの層間の界面である二重層の内部における脂質の比較的疎水性の部分を含む。
【0074】
二重層形成脂質の例にグリセロリン脂質がある。グリセロリン脂質の好適な例には、限定しないが、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、およびホスファチジルイノシトールがある。
【0075】
(本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)リポソームに含まれる高分子化合物は、任意にそれ自体で、または1つもしくは複数の追加の二重層形成脂質と組み合わせて二重層を形成できる二重層形成脂質であり得ることを理解されたい。
【0076】
本明細書に記載する実施形態のいずれか1つのいくつかの実施形態では、二重層形成脂質は、少なくとも1つの荷電基(例えば、1つまたは複数の負に荷電した基および/または1つもしくは複数の正に荷電した基)を含む。
【0077】
いくつかの実施形態では、二重層形成脂質は両性イオン性であり、負に荷電した基および正に荷電した基の両方を(例えば、同数)(例えば、1つずつ)含む。
【0078】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、リポソーム中の(高分子化合物に加えて含まれる)二重層形成脂質と(本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)高分子化合物のモル比は、5:1~5,000:1(二重層形成脂質:高分子化合物)の範囲、任意に10:1~2,500:1の範囲、任意に25:1~1,000:1の範囲、および任意に50:1~500:1の範囲にある。
【0079】
リポソームは、任意に単一の二重層(例えば、単層小胞)、または、例えば同心二重層小胞および/もしくは同じ二重層小胞に包含される複数の別々の二重層小胞を含む複数の二重層(例えば、多層小胞)を含んでよく、各二重層は、任意に、独立して閉鎖小胞を形成する。
【0080】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態によるリポソームは、ほぼ球形であってよく、または細長い管および/または偏平な(例えば、シート状の)形状などの任意の代替的な形状を有していてよい。
【0081】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかでは、リポソーム、および任意に無菌組成物全体は、治療活性薬剤を含まない。
【0082】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかでは、無菌組成物は治療活性薬剤を含み、この薬剤は、任意にリポソーム中および/またはリポソームの表面上に組み込まれている。いくつかのそのような実施形態では、治療活性薬剤は、参照により本明細書に援用される国際公開第2018/150429号に記載されている治療活性薬剤である。
【0083】
本明細書において「治療活性薬剤」という語句は、治療効果を有する任意の薬剤(例えば、化合物)を指し、ただし、その化合物は(本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)リポソームに含まれる二重層形成脂質または高分子化合物ではなく、ならびに放出時(例えば、1つまたは複数の共有結合の切断時)に治療効果を有する薬剤を生成する、二重層形成脂質または高分子化合物を含む薬剤の任意の部分(例えば、化合物の部分)を指す。したがって、二重層形成脂質および高分子化合物それ自体は、治療活性薬剤の定義から除外されるが、二重層形成脂質および/または高分子化合物は、任意に放出時に治療活性薬剤を生成すればよく、この場合、治療活性薬剤を生成する二重層形成脂質および/または高分子化合物の部分も、本明細書に定義する治療活性薬剤であるとみなされる。
【0084】
存在する場合、無菌組成物中の治療活性薬剤はリポソームと会合している、および/またはリポソームと会合していない(例えば、担体に溶解している)のいずれでもよい。リポソームと会合する場合、治療活性薬剤は、任意に共有結合もしくは非共有結合(例えば、静電結合および/または疎水結合)によってリポソーム(例えば、リポソーム膜の外面および/または内面)に結合する、リポソーム膜内に組み込まれる(例えば、リポソームの脂質相に安定に分配される親油性薬剤)、および/またはリポソームのコア内に包含される(例えば、リポソームの水性区画内の親水性薬剤)可能性がある。治療活性薬剤は、任意にリポソームに共有結合した(例えば、その部分を含む脂質誘導体を形成するように脂質に結合した)部分であり得る。このような結合は、いくつかの実施形態において、当技術分野で既知の技術(例えば、アミド結合形成)を用いて得てよい。
【0085】
任意の対応する実施形態のいくつかでは、無菌組成物は、一般的にリポソーム含有水性組成物と一緒に包装される固体または半固体の製造物品など、その中に浸漬された製造物品(無菌組成物の一部であり、同じく無菌である)を含む。いくつかの実施形態では、製造物品はコンタクトレンズであり、例えば水性担体およびリポソームはコンタクトレンズ保存液である。
【0086】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態による無菌組成物は、任意に任意の対応する実施形態による本明細書に記載する方法に従って調製し得る。
【0087】
方法:
本発明のいくつかの実施形態の一態様によると、(例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)水性担体と(例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)リポソームとを含む無菌組成物を調製する方法が提供される。この方法は、水性担体と、(例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)少なくとも1つの二重層形成脂質および(例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)高分子化合物を含むリポソームとを含む水性組成物を提供すること;および水性組成物を100℃超の温度に曝露することを含む。
【0088】
当該方法に従って得られた無菌組成物は、任意で、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による無菌組成物であり得る。
【0089】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかでは、水性担体とリポソームとを含む水性組成物は、その中に浸漬された製造物品(例えば、本明細書に記載される任意の対応する実施形態によるもの)をさらに含むことにより、水性組成物を100℃超の温度に曝露すると、水性組成物に浸漬された製造物品が無菌になる。いくつかの例示的な実施形態では、製造物品はコンタクトレンズを含む。このような方法は、固体または半固体の製造物品および(例えば、一般的に一緒に包装される)リポソーム含有水性組成物、例えば、リポソーム含有コンタクトレンズ溶液(例えば、コンタクトレンズ保存液)中に浸漬された1つまたは複数のコンタクトレンズの効率的かつ比較的安価な同時滅菌を可能にし得る。
【0090】
本発明のいくつかの実施形態の別の態様によると、その表面の少なくとも一部に脂質が付着した無菌の製造物品を調製する方法が提供され、この方法は、製造物品の表面の少なくとも一部を、(例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)水性担体と(例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)リポソームとを含む水性組成物と接触させ、それにより、その表面の少なくとも一部に脂質が付着した製造物品を得ること;ならびにその表面の少なくとも一部に脂質が付着した製造物品を100℃超の温度に曝露することを含む。リポソームは、(例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)少なくとも1つの二重層形成脂質および(例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)高分子化合物を含む。いくつかの例示的な実施形態では、製造物品はコンタクトレンズを含む。
【0091】
この態様によると、表面の少なくとも一部に付着した脂質は、リポソームの形態、および/または、例えば、表面との接触時にリポソームの「破裂」によって得られる開放二重層(すなわち、体積を持たない二重層)などの別の形態であり得ることを理解されたい。任意に、表面に付着した脂質の少なくとも一部は、任意に100℃超の温度の適用前と100℃超の温度の適用後とで異なる形態、例えば、加熱による滅菌前はリポソームの形態であり、加熱による滅菌後は異なる形態(例えば、開放二重層)であり得る。代替的または追加的に、脂質の形態は、加熱による滅菌に続いて水性組成物中で製造物品をインキュベートすると、(例えば、滅菌後少なくとも1時間、または少なくとも1日、またはさらに少なくとも1ヵ月の間に)徐々に(例えば、リポソームから別の形態へ)変化する。
【0092】
このような方法は、その表面の少なくとも一部に脂質が付着した固体または半固体の製造物品、例えば、脂質で被覆された1つまたは複数のコンタクトレンズの効率的かつ比較的安価な滅菌を可能にし得る。
【0093】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかでは、本明細書に記載する態様のいずれかによる水性組成物を曝露する温度は150℃以下、例えば110~150℃、または115~150℃、または121~150℃、または130~150℃である。
【0094】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかでは、水性組成物を曝露する温度は140℃以下、例えば110~140℃、または115~140℃、または121~140℃、または130~140℃である。
【0095】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかでは、水性組成物を曝露する温度は134℃以下、例えば110~134℃、または115~134℃、または121~134℃である。
【0096】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかでは、水性組成物を曝露する温度は130℃以下、例えば110~130℃、または115~130℃、または121~130℃である。
【0097】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかでは、水性組成物を曝露する温度は125℃以下、例えば110~125℃、または115~125℃、または121~125℃である。
【0098】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかでは、水性組成物を100℃超の温度に曝露することは、高圧、すなわち周囲気圧よりも高い圧力で行われる。このような圧力は、例えば、加熱によって形成される水蒸気が圧力の上昇に関与するように密閉容器内で水性組成物を加熱することによって得てよい。いくつかのそのような実施形態では、圧力は、その圧力における水性組成物の沸点が、(本明細書に記載する対応する実施形態のいずれかに従って)組成物を曝露する温度と等しいか、またはその温度付近(例えば、±10℃または±5℃)であるような圧力である。
【0099】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態による組成物を高温(および任意に、高圧)に曝露することは、任意にオートクレーブなどの、そのような使用のために構成された市販の装置を使用して行ってよい。
【0100】
高分子化合物:
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態に従って、(本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)リポソームに含まれる高分子化合物は一般式Iを有する。
【化6】
上記式中、
mはゼロまたは正の整数であり;
nは少なくとも1である整数であり;
Xは脂質部分であり、Xがリン酸基を含まない場合、nは少なくとも2であり;
Yはポリマー骨格を形成する骨格単位であり;
Lは存在しない、または連結部分であり;および
Zは一般式IIを有し、
【化7】
上記式中、
Aは置換または非置換の炭化水素であり;
Bは酸素原子である、または存在せず;および
~Rは、それぞれ独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロ脂環式、アリール、またはヘテロアリールであり、
詳細については後述する通りである。
【0101】
本明細書においては、式Iを次のように簡略化して記載してもよい。
X-[Y(-L-Z)]n[Y]m
これは、上記の模式的な式と代替可能とみなされる。
【0102】
本明細書において「ポリマー」という用語は、少なくとも2つの繰り返し単位(より好ましくは、少なくとも3つの繰り返し単位)を有する化合物を指し、繰り返し単位は同一または類似である。一般式Iの化合物は、Yで表される骨格単位を少なくとも2つ含むため、nが少なくとも2である場合、定義によりポリマーであることを理解されたい。
【0103】
本明細書において「ポリマー部分」という語句は、一般式Iaを有する(一般式Iに関する本明細書に記載する実施形態のいずれかによる)高分子化合物の部分を指す。
【化8】
上記式中、m、n、Y、L、およびZは、一般式Iについて本明細書で定義する通りである。
【0104】
本明細書においては、式Iaを次のように簡略化して記載してもよい。
[Y(-L-Z)]n[Y]m
これは、上記の模式的な式と代替可能とみなされる。
【0105】
mが正の整数である場合、骨格単位[Y(-L-Z)]および[Y]は、任意の順序でポリマー骨格を形成するように配置できる。
【0106】
本明細書において「高分子化合物」という語句は、(例えば、nが1である式Iaに従う)1つの単位を有する本明細書に記載の「ポリマー部分」を有する化合物をさらに包含するが、但し、本明細書に記載の脂質部分(例えば、Xで表される脂質部分)が同様の単位を有する場合である。例えば、脂質部分がリン酸基を含む(例えば、脂質部分がグリセロリン脂質部分である)ことにより、脂質部分がリン酸基を有し、かつポリマー部分の単一単位がリン酸基を有する場合、2つのリン酸基は、繰り返し単位とみなし得る。
【0107】
しかし、好ましい実施形態では、nは少なくとも2であるため、ポリマー部分自体が少なくとも2つの単位を有する。いくつかの実施形態では、nは少なくとも3である。
【0108】
本明細書で使用する「骨格単位」という用語は繰り返し単位を指し、複数の繰り返し単位の連結(例えば、逐次連結)がポリマー骨格を形成する。連結された複数の繰り返し単位自体も、本明細書では「ポリマー骨格」と呼ぶ。
【0109】
式IおよびIaに示すように、LおよびZは一緒に骨格単位の少なくとも一部のペンダント基を形成し、この基は本明細書では簡潔にするために単に「ペンダント基」と呼ぶ。
【0110】
ペンダント基を有する各骨格単位Y(すなわち、Y(-L-Z)で表される単位であり、その数は変数nで表される)およびペンダント基を有さない各骨格単位Y(その数は変数mで表される)は、本明細書では「モノマー単位」とも呼ぶ。
【0111】
骨格単位は、任意に重合性モノマーまたはモノマーの重合性部位の残基であり得る。多種多様な重合性モノマーおよび部分が当業者に知られるとみられ、重合時に生じるそのようなモノマーの残基の構造(例えば、モノマー単位)も当業者に知られるであろう。
【0112】
「重合性モノマーの残基」は、重合性モノマーの変性形態および/または重合後に残存する重合性モノマーの一部を指す。
【0113】
重合性モノマーの一部は、例えば、モノマー中の少なくとも1つの原子または基(例えば、水素原子またはヒドロキシル基)、および任意に、モノマー中の少なくとも2つの原子または基(例えば、水素原子およびヒドロキシル基)が、別の重合性モノマーとの共有結合で置換される縮合反応によって形成され得る。
【0114】
重合性モノマーの変性形態は、例えば開環(環中の2つの原子間の共有結合が切断され、2つの原子が任意にそれぞれ別の重合性モノマーに結合する)、および/または不飽和結合への付加によって形成される可能性がある。このとき、2つの隣接する原子間の不飽和結合が切断され(例えば、不飽和二重結合から飽和結合への変換、または不飽和三重結合から不飽和二重結合への変換)、2つの原子が任意にそれぞれ別の重合性モノマーに結合する。
【0115】
重合性モノマーの変性形態は、例えば、共有結合の再編成のみが異なるなど、基本的に元のモノマーと同じ原子からなっていてよく、または代替的に、異なる原子組成を有していてよく、例えば、重合が(例えば、本明細書に記載する)縮合反応を含む。
【0116】
骨格単位の例には、限定しないが、(置換または非置換の炭化水素骨格を形成し得る)置換または非置換の炭化水素、例えばアルキレン単位;(ポリエステル骨格を形成し得る)ヒドロキシカルボン酸単位、例えばグリコール酸塩、乳酸塩、ヒドロキシ酪酸塩、ヒドロキシ吉草酸塩、ヒドロキシカプロン酸塩、およびヒドロキシ安息香酸塩単位;(ジオールと組み合わせてポリエステル骨格を、および/またはジアミンと組み合わせてポリアミドを形成し得る)ジカルボン酸単位、例えばアジピン酸塩、コハク酸塩、テレフタル酸塩、およびナフタレンジカルボン酸単位;(ポリエーテル骨格を形成し得る、またはジカルボン酸と組み合わせてポリエステル骨格を形成し得る)ジオール単位、例えばエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、およびビスフェノールA単位;(ジカルボン酸と組み合わせてポリアミド骨格を形成し得る)ジアミン単位、例えばパラフェニレンジアミン、およびヘキシレンジアミンなどのアルキレンジアミン;(ポリウレタン骨格を形成し得る)カルバミン酸塩単位;(ポリペプチド骨格を形成し得る)アミノ酸残基;ならびに(多糖骨格を形成し得る)糖残基がある。
【0117】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、Yは置換または非置換のアルキレン単位である。
【0118】
いくつかの実施形態では、Yは置換または非置換のエチレン単位、すなわち、長さが2原子のアルキレン単位である。
【0119】
Yが置換または非置換のエチレン単位であるポリマー骨格は、任意にエチレン(CH=CH)および/またはその置換誘導体(本明細書では「ビニルモノマー」とも呼ぶ)を重合して形成されるようなポリマー骨格であってよい。このような重合は、非常によく研究された手順であり、当業者であれば、このような重合を行うための数多くの技術を知っているであろう。
【0120】
重合によって形成されたポリマー骨格に関する本明細書に記載する任意の実施形態は、ポリマー骨格が実際にそのような重合(または他の種類の重合)によって形成されたかどうかにかかわらず、そのような重合によって形成され得る構造を有する任意のポリマー骨格を包含することを理解されたい。
【0121】
当該技術分野でよく知られているように、エチレンおよび置換エチレン誘導体の不飽和結合は、重合すると飽和結合となるため、ポリマー骨格の骨格単位は飽和であるが、これらは、類似する不飽和化合物(例えば、「ビニルモノマー」または「オレフィンモノマー」)の単位と呼んでよい。
【0122】
ビニルモノマーおよびオレフィンモノマーなどの不飽和モノマーから形成され得るポリマーは、「ポリビニル」および「ポリオレフィン」という用語でも呼ばれる。
【0123】
本明細書では、「非置換」アルキレン単位(例えば、エチレン単位)は、本明細書で論じる((-L-Z)として表される)ペンダント基以外の置換基を有さないアルキレン単位を指す。すなわち、前述のペンダント基に結合したアルキレン単位は、アルキレン単位上の他の位置に置換基がない場合、非置換とみなされる。
【0124】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、Yは式-CR-CRD-を有する。
【0125】
Yが、LまたはZに(すなわち、本明細書に記載するペンダント基に)結合していない骨格単位である場合、DはR(本明細書中に定義する末端基)であり、かつYが、LまたはZに結合している骨格単位である場合、Dは、YをLまたはZに結合する共有結合または連結基である。連結基は、任意に-O-、-S-、アリーレン、スルフィニル、スルホニル、ホスフェート、ホスホニル、ホスフィニル、カルボニル、チオカルボニル、尿素、チオ尿素、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、スルホンアミド、またはアミノであり得る。
【0126】
~Rは、それぞれ独立して、水素、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、スルフィニル、スルホニル、シアノ、ニトロ、アジド、アゾ、ホスフェート、ホスホニル、ホスフィニル、オキソ、カルボニル、チオカルボニル、尿素、チオ尿素、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、スルホンアミド、またはアミノである。
【0127】
本明細書において「連結基」という語句は、化合物中の2つ以上の部分に結合している基(例えば、置換基)を表す。
【0128】
本明細書において「末端基」という語句は、化合物中の1つの部分にその1つの原子を介して結合している基(例えば、置換基)を表す。
【0129】
~Rのそれぞれが水素であり、かつDが共有結合または連結基である場合、Yは、本明細書に記載するペンダント基に(Dを介して)結合した非置換エチレン基である。
【0130】
~Rのそれぞれが水素である(かつDがRである)場合、Yは、本明細書に記載するペンダント基に結合していない非置換エチレン基である。
【0131】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、RおよびRはそれぞれ水素である。そのような実施形態には、例えばオレフィン(例えば、エチレン、プロピレン、1-ブチレン、イソブチレン、4-メチル-1-ペンテン)、塩化ビニル、スチレン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリレートおよびその誘導体(例えば、アクリレートエステル、アクリルアミド)、ならびにメタクリレートおよびその誘導体(例えば、メタクリル酸エステル、メタクリルアミド)を含む、広く使用されている多くのビニルモノマー(エチレンを含む)から形成されるポリマー骨格がある。
【0132】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、Rは水素である。いくつかのそのような実施形態では、RおよびRはそれぞれ水素である。
【0133】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、Rはメチルである。いくつかのそのような実施形態では、RおよびRはそれぞれ水素である。いくつかのそのような実施形態では、骨格単位は、メタクリレートまたはその誘導体(例えば、メタクリル酸エステル、メタクリルアミド)の単位である。
【0134】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、変数Dで表される連結基は、-O-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、またはフェニレンである。例示的な実施形態では、Dは-C(=O)O-である。
【0135】
例えば骨格単位は、任意にDが-O-である場合、ビニルアルコール誘導体(例えば、ビニルアルコール単位のエステルもしくはエーテル);Dが-C(=O)O-である場合、アクリレートもしくはメタクリレート誘導体(例えば、アクリレートもしくはメタクリレート単位のエステル);Dが-C(=O)NH-である場合、アクリルアミドもしくはメタクリルアミド単位;および/またはDがフェニレンである場合、スチレン誘導体(例えば、置換スチレン単位)であり得る。
【0136】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、Lは、1~10炭素原子長で、置換または非置換の炭化水素である。いくつかの実施形態では、炭化水素は非置換である。いくつかの実施形態では、炭化水素は、直鎖状非置換炭化水素、すなわち-(CH-であり、iは1~10の整数である。
【0137】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、Lは、置換または非置換のエチレン基である。いくつかの実施形態では、Lは非置換エチレン基(-CHCH-)である。
【0138】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、Bは酸素原子である。いくつかのそのような実施形態では、Lは、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による炭化水素であり(すなわち、Lは存在する)、Zは、Lに結合したリン酸基である。
【0139】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、Bは存在しない。いくつかのそのような実施形態では、Lは、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による炭化水素であり(すなわち、Lは存在する)、Zは、Lに結合したホスホン酸基である。いくつかの実施形態では、Lも存在しないため、式IIのリン原子はYに直接結合する。
【0140】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、Aは、1~4炭素原子長で、置換または非置換の炭化水素である。
【0141】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、Aは非置換炭化水素である。いくつかのそのような実施形態では、非置換炭化水素は、長さが1~4個の炭素原子である。いくつかの実施形態では、炭化水素は、直鎖状非置換炭化水素、すなわち-(CH-であり、jは1~4の整数である。
【0142】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、Aは置換または非置換のエチレン基である。
【0143】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、Aは非置換エチレン基(-CHCH-)である。そのような実施形態では、(変数Zで表される)一般式IIを有する部分は、ホスホエタノールアミンまたはホスホコリン部分と類似または同一である。ホスホエタノールアミンおよびホスホコリン部分は、多くの天然に存在する化合物(例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン)中に存在する。
【0144】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、Aは、C-カルボキシ基で置換されたエチレン基である。いくつかの実施形態では、C-カルボキシは、式IIに示した窒素原子に隣接する炭素原子に結合している(示した酸素原子に結合した炭素原子ではない)。そのような実施形態では、(変数Zで表される)一般式IIを有する部分は、ホスホセリン部分と類似または同一である。ホスホセリンは、多くの天然に存在する化合物(例えば、ホスファチジルセリン)中に存在する。
【0145】
特定の理論に縛られることなく、ホスホコリン、ホスホエタノールアミン、および/またはホスホセリンなどの天然に存在する部分と類似または同一の部位は、特に生体適合性があると考えられている。
【0146】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、R~R(一般式IIに示す窒素原子の置換基)は、それぞれ独立して、水素またはC1-4-アルキルである。いくつかの実施形態では、R~Rは、それぞれ独立して、水素またはメチルである。いくつかの実施形態では、R~Rはそれぞれメチルである。いくつかのそのような実施形態では、R~Rはそれぞれ水素である。
【0147】
変数nは、(-L-Z)で表されるペンダント基で置換されている骨格単位(変数Yで表される)の数を表すとみなしてよく、変数mは、そのようなペンダント基で置換されていない骨格単位の数を表すとみなしてよい。n+mの合計は、ポリマー骨格中の骨格単位の総数を表すとみなしてよい。n/(n+m)の比は、(-L-Z)で表されるペンダント基で置換されている骨格単位の割合を表すとみなしてよい。
【0148】
ペンダント基で置換された骨格ユニットYは、ペンダント基で置換されていない骨格単位Yと同じでも異なっていてもよい(例えば、mが少なくとも1である場合)。
【0149】
ペンダント基で置換された(変数nで示される)複数の骨格単位Yは、互いに同じでも異なっていてもよい。
【0150】
さらに、複数の骨格単位Yに結合した(変数nで示される)複数のペンダント基(-L-Z)は、互いに同じでも異なっていてもよい(例えば、A、B、R、R、R、およびLのいずれか1つまたは複数の同一性が異なっていてもよい)。
【0151】
2つ以上の骨格単位Yが、本明細書に記載するペンダント基で置換されていない(即ち、mが1超である)本明細書に記載する実施形態のいずれかでは、ペンダント基で置換された(変数mで示される)複数の骨格単位Yは、互いに同じでも異なっていてもよい。
【0152】
ペンダント基で置換された骨格単位の種類の数、ペンダント基で置換されていない骨格単位の種類の数(そのような単位が存在する場合)、および/またはポリマー部分中のペンダント基の種類の数は、それぞれ独立して、任意の数(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10以上)であり得る。
【0153】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、ポリマー部分はコポリマー部分であり、すなわち、ポリマー部分は少なくとも2種類のモノマー単位を含む。モノマー単位の種類の違いは、(例えば、mが少なくとも1である場合)本明細書に記載する任意の対応する実施形態によるペンダント基(-L-Z)を含むかどうかの違い、骨格単位Yの種類の違い、および/またはペンダント基(-L-Z)の種類の違いであり得る。
【0154】
例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、Y(-L-Z)単位のそれぞれにおける骨格単位Yは、任意に同じでも異なっていてもよく、一方、LおよびZ部分は、Y(-L-Z)単位の中で同じである。いくつかのそのような実施形態では、ペンダント基で置換されていない骨格単位(そのような単位が存在する場合)は、任意にY(-L-Z)単位のそれぞれにおける骨格単位Yと同じであってよい。代替的に、ペンダント基で置換されていない骨格単位(そのような単位が存在する場合)は、任意にY(-L-Z)単位のそれぞれにおける骨格単位Yと異なっていてよい(一方、任意に、ペンダント基で置換されていないすべての骨格単位の中で同じである)。
【0155】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、Y(-L-Z)単位のそれぞれにおけるL部分は、任意に同じでも異なっていてもよく、一方、骨格単位YおよびZ部分は、Y(-L-Z)単位の中で同じである。いくつかのそのような実施形態では、ペンダント基で置換されていない骨格単位(そのような単位が存在する場合)は、任意にY(-L-Z)単位のそれぞれにおける骨格単位Yと同じであってよい。代替的に、ペンダント基で置換されていない骨格単位(そのような単位が存在する場合)は、任意にY(-L-Z)単位のそれぞれにおける骨格単位Yと異なっていてよい(一方、任意に、ペンダント基で置換されていないすべての骨格単位の中で同じである)。
【0156】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、Y(-L-Z)単位のそれぞれにおけるZ部分は、任意に同じでも異なっていてもよく、一方、骨格単位YおよびZ部分は、Y(-L-Z)単位の中で同じである。いくつかのそのような実施形態では、ペンダント基で置換されていない骨格単位(そのような単位が存在する場合)は、任意にY(-L-Z)単位のそれぞれにおける骨格単位Yと同じであってよい。代替的に、ペンダント基で置換されていない骨格単位(そのような単位が存在する場合)は、任意にY(-L-Z)単位のそれぞれにおける骨格単位Yと異なっていてよい(一方、任意に、ペンダント基で置換されていないすべての骨格単位の中で同じである)。
【0157】
ポリマー部分がコポリマー部分である本明細書に記載する実施形態のいずれかでは、任意の2つ以上の異なる種類のモノマー単位は、ポリマー部分全体にランダムにまたは非ランダムに分布し得る。異なる種類のモノマー単位が非ランダムに分布している場合、コポリマーは、例えば、交互コポリマー、周期コポリマー、および/またはブロックコポリマーなど、任意の非ランダム分布によって特徴付けられるものであり得る。
【0158】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、ポリマー部分のモノマー単位の少なくとも一部は、(標的部分に関する本明細書に記載する実施形態のいずれかによる)標的部分を含む。いくつかの実施形態では、標的部分、標的部分を含むモノマー単位、および/または標的部分を含む高分子化合物は、任意に、それぞれ参照により本明細書に援用される国際公開第2018/150429号に記載されている任意の標的部分、標的部分を含むモノマー単位、および/または標的部分を含む高分子化合物を含み得る。
【0159】
本明細書において「標的部分」は、化合物(例えば、本発明のいくつかの実施形態による化合物)を、選択した物質および/または材料(本明細書では「標的」と呼ぶ)と近接させることが可能な部分を指す。標的は任意に細胞(例えば、増殖性疾患または障害に伴う増殖細胞)であり、近接により、標的部分が化合物を標的細胞に付着および/または内部移行させることが容易となり、化合物が治療効果を発揮し得る。
【0160】
標的部分は、任意に、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による骨格単位Y、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による連結部分L、および/または本明細書に記載する任意の対応する実施形態による部分Zに含まれていてよく、例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による置換基は、標的部分を含む(および任意に、標的部分からなる)。例えば、骨格単位Yの少なくとも一部が(対応する実施形態のいずれかにおいて本明細書に記載するように)式-CR-CRD-を有するいくつかの実施形態では、R~RおよびD(任意にDは、本明細書に記載するRである)のいずれか1つまたは複数が、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による標的部分を含み(例えば、R~RおよびDのいずれか1つまたは複数が置換基であり、標的部分である置換基を含む)、および任意に、R~RおよびDのいずれか1つまたは複数が標的部分である。しかし、標的部分を含む(および任意に標的部分からなる)置換基を含むモノマー単位の他の多くの構造も、本発明の実施形態に包含される。
【0161】
Yが、LまたはZ(すなわち、本明細書に記載するペンダント基)に結合していない骨格単位である場合、DはR(本明細書で定義する末端基)であり;かつYが、LまたはZに結合している骨格単位である場合、Dは、YをLまたはZに結合する共有結合または連結基である。連結基は、任意に-O-、-S-、アリーレン、スルフィニル、スルホニル、ホスフェート、ホスホニル、ホスフィニル、カルボニル、チオカルボニル、尿素、チオ尿素、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、スルホンアミド、またはアミノであり得る。
【0162】
~Rは、それぞれ独立して、水素、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、スルフィニル、スルホニル、シアノ、ニトロ、アジド、アゾ、ホスフェート、ホスホニル、ホスフィニル、オキソ、カルボニル、チオカルボニル、尿素、チオ尿素、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、スルホンアミド、またはアミノである。
【0163】
いくつかの実施形態では、ポリマー部分はコポリマー部分であり、少なくとも1種類のモノマー単位は(本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)標的部分を含み、かつ少なくとも1種類のモノマー単位はこのような標的部分を含まない。標的部分を含むモノマー単位の分布は、コポリマー部分(例えば、ランダム、交互、周期コポリマー、および/またはブロックコポリマー)におけるモノマー単位の、本明細書に記載する任意の分布に従ってよい。
【0164】
モノマー単位の一部が標的部分を含む本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、標的部分を含むモノマー単位は、平均して、脂質部分より遠位にあるポリマー部分の末端により近く、例えば、脂質部分から、標的部分を含むモノマー単位までの(ポリマー部分の骨格に沿った原子または骨格単位で測定される)平均距離は、脂質部分から、他のモノマー単位までの平均距離よりも大きい。
【0165】
いくつかの実施形態では、標的部分を含むモノマー単位の少なくとも一部(および任意に全部)は、脂質部分より遠位にあるポリマー部分の末端付近(および任意に末端)に(1つまたは複数のモノマー単位の)ブロックを形成する。いくつかのそのような実施形態では、コポリマー部分は、標的部分を含む単一のモノマー単位を含み、モノマー単位は、脂質部分より遠位にあるポリマー部分の末端にある。
【0166】
特定の理論に縛られることなく、例えば、標的部分が(例えば、脂質部位が会合している表面によって)立体的に遮蔽されにくく、そのため水性環境において標的に曝露されやすいが故に、標的によりうまく接触できることから、脂質部位の遠位に位置する標的部分は、標的部分としてより効果的(例えば、標的への結合においてより効果的)であり得ると想定される。
【0167】
mが少なくとも1である本明細書に記載する実施形態のいずれかでは、ポリマー部分は、標的部分を含むモノマー単位を含み、モノマー単位は、脂質部分より遠位にあるポリマー部分の末端にある。そのような実施形態では、一般式Iで表される化合物は式Ibを有する。
【化9】
上記式中、
Tは(本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)標的部分を含むモノマー単位であり;
XおよびTは、[Y(-L-Z)]n[Y]m-1で表される部分の遠位末端に結合しており;ならびに
X、Y、L、Z、n、およびmは、一般式Iに関する本明細書に記載する実施形態のいずれかに従って定義され、ただしmは少なくとも1である。
【0168】
式Ib中のTは、式IおよびIa中のY(すなわち、(-L-Z)で表されるペンダント基を有さない)で表されるモノマー単位の一種であり、T以外のY(すなわち、(-L-Z)で表されるペンダント基を有さない)で表されるモノマー単位の数は、値m-1で表され、そのため、Tを含む、(-L-Z)で表されるペンダント基を有さないモノマー単位の総数は、式IおよびIa中のように変数mで表されることを理解されたい。
【0169】
いくつかの実施形態では、mは1であり、そのためm-1はゼロであり、式Ibで表される化合物は、結果として、式X-[Y(-L-Z)]n-Tを有し、式中、L、T、X、Y、Z、およびnは、本明細書に記載する実施形態のいずれかに従って定義される。
【0170】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態による標的部分を含むモノマー単位は、任意に、連結技術を含むがこれらに限定されない当技術分野で既知の任意の好適な技術を用いて、標的部分を含むモノマーを調製し、かつそのモノマーを用いて本明細書に記載するポリマー部分を調製することによって(例えば、本明細書に記載する対応する実施形態のいずれかに従ったモノマーの重合によって)、および/またはポリマー部分の調製に続いてポリマー部分中のモノマー単位を修飾することによって(例えば、本明細書に記載する対応する実施形態のいずれかに従ったモノマーの重合によって)調製し得る。
【0171】
代替的な実施形態では、ポリマー部分は、任意の対応する実施形態による本明細書に記載する標的部分を含まない。
【0172】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、(-L-Z)で表されるペンダント基で置換されている(変数Yで表される)骨格単位の(式: 100%*n/(n+m)で表される)割合は少なくとも20%である。いくつかの実施形態では、前述のペンダント基で置換された骨格単位の割合は少なくとも30%である。いくつかの実施形態では、前述のペンダント基で置換された骨格単位の割合は少なくとも40%である。いくつかの実施形態では、前述のペンダント基で置換された骨格単位の割合は少なくとも50%である。いくつかの実施形態では、前述のペンダント基で置換された骨格単位の割合は少なくとも60%である。いくつかの実施形態では、前述のペンダント基で置換された骨格単位の割合は少なくとも70%である。いくつかの実施形態では、前述のペンダント基で置換された骨格単位の割合は少なくとも80%である。いくつかの実施形態では、前述のペンダント基で置換された骨格単位の割合は少なくとも90%である。いくつかの実施形態では、前述のペンダント基で置換された骨格単位の割合は少なくとも95%である。いくつかの実施形態では、前述のペンダント基で置換された骨格単位の割合は少なくとも98%である。
【0173】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、mは0であり、そのため、(変数Yで表される)骨格単位のそれぞれは、(-L-Z)で表されるペンダント基で置換されている。
【0174】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、nは少なくとも5である。いくつかの実施形態では、nは少なくとも10である。いくつかの実施形態では、nは少なくとも15である。
【0175】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、nは、2~1,000の範囲にあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、nは、2~500の範囲にあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、nは、2~200の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、nは、2~100の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、nは、2~50の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、nは、10~100の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、nは、10~50の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、nは、50~100の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、nは、30~100の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、nは、20~120の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。いくつかのそのような実施形態では、mは0である。
【0176】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、nは、3~1,000の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、nは、3~500の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、nは、3~200の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、nは、3~100の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、nは、3~50の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、nは、5~50の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、nは、10~50の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、nは、10~25の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。いくつかのそのような実施形態では、mは0である。
【0177】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、mは、0~1,000の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。いくつかのそのような実施形態では、nは2~1,000の範囲内であり、そのため、骨格単位の総数は2~2,000の範囲にある。いくつかのそのような実施形態では、nは3~1,000の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~500の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~200の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは5~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~50の範囲にある。
【0178】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、mは、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む、0~500の範囲にある。いくつかのそのような実施形態では、nは2~1,000の範囲にある。いくつかのそのような実施形態では、nは3~1,000の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~500の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~200の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは30~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは50~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは5~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~50の範囲にある。
【0179】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態ではmは、0~200の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。いくつかのそのような実施形態では、nは2~1,000の範囲にある。いくつかのそのような実施形態では、nは3~1,000の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~500の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~200の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは30~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは50~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは5~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~50の範囲にある。
【0180】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、mは、0~100の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。いくつかのそのような実施形態では、nは2~1,000の範囲にある。いくつかのそのような実施形態では、nは3~1,000の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~500の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~200の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは30~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは50~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは5~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~50の範囲にある。
【0181】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、mは、0~50の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。いくつかのそのような実施形態では、nは2~1,000の範囲にある。いくつかのそのような実施形態では、nは3~1,000の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~500の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~200の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは30~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは50~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは5~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~50の範囲にある。
【0182】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、mは、0~20の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。いくつかのそのような実施形態では、nは2~1,000の範囲にある。いくつかのそのような実施形態では、nは3~1,000の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~500の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~200の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは30~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは50~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは5~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~50の範囲にある。
【0183】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、mは、0~10の範囲ににあり、任意の中間値およびそれらの間の部分範囲を含む。いくつかのそのような実施形態では、nは2~1,000の範囲にある。いくつかのそのような実施形態では、nは3~1,000の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~500の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~200の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは30~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは50~100の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは3~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは5~50の範囲にある。いくつかの実施形態では、nは10~50の範囲にある。
【0184】
本明細書の任意の対応する実施形態による(本明細書の式Iにおいて変数Xで表される)脂質部分は、ポリマー部分に関して本明細書に記載する実施形態のいずれかによるポリマー部分に結合し得る。
【0185】
脂質部分は、任意に、当技術分野で既知の任意の脂質(天然に存在する脂質を含むがこれらに限定されない)から誘導され得る。脂質からの脂質部分の誘導は、任意に、脂質の任意の位置にある水素原子を、一般式Iにおいて[Y(-L-Z)]n[Y]mで表されるポリマー部分(すなわち、一般式Iaで表されるポリマー部分)と置換することからなり得る。
【0186】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、リポソーム中のポリマー部分は、(本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)ポリマー部分に加えて、リポソームに含まれる二重層形成脂質(例えば、グリセロリン脂質)の残基を含む脂質部分、またはリポソームに含まれるこのような二重層形成脂質と密接に関連する脂質部分(例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による式Iの変数Xによって表される脂質部分)を含み;例えば、脂質部分はグリセロリン脂質残基を含み、かつリポソームは、二重層形成脂質として別のグリセロリン脂質を含む(例えば任意に、グリセロリン脂質残基中の脂肪酸残基は、二重層形成脂質中の脂肪酸残基とほぼ同じ長さを有し、および任意に、グリセロリン脂質残基中の脂肪酸残基は、二重層形成脂質中の脂肪酸残基と実質的に同じである)。
【0187】
特定の理論に縛られることなく、ポリマー部分の脂質部分と二重層形成脂質との類似性により、ポリマー部分の脂質部分が、二重層形成脂質を含むリポソーム中に固定しやすくなると考えられる。
【0188】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、(本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)脂質部分は、(Y、L、および/またはZに関する本明細書に記載する実施形態のいずれかによる)Y(-L-Z)単位、すなわち、(例えば、ペンダント基で置換されていない骨格単位ではなく)本明細書に記載するペンダント基で置換された骨格単位に結合されている。
【0189】
代替的または追加的に、mが少なくとも1である本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、(本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)脂質部分は、任意に(例えば、ペンダント基で置換された骨格単位に結合するのではなく)本明細書に記載するペンダント基によって置換されていない骨格単位(Y)に結合していてよい。例えば、ポリマー部分は、任意に、脂質部分に結合した骨格単位の同一性が分子間でランダムに変化するコポリマーであり得る。したがって、式I中のXが、非置換の骨格単位Yではなく、ペンダント基で置換された骨格単位(すなわち、Y-(L-Z))に結合しているという描写は任意であり、限定することを意図していない。
【0190】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、脂質部分は、脂肪酸、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、またはステロールである脂質の部分である。いくつかの実施形態では、脂質は、グリセロリン脂質、例えば、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、および/またはホスファチジルイノシトールである。
【0191】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかの実施形態では、脂質部分は、少なくとも1つの脂肪酸部分(例えば、脂肪酸由来のアシル基)を含む。脂肪酸部分は、飽和または不飽和脂肪酸から誘導され得る。例えば脂質部分は、脂肪酸部分からなっていてよい、または1つの脂肪酸部分を含むモノグリセリド部分、2つの脂肪酸部分を含むジグリセリド部分、もしくは3つの脂肪酸部分を含むトリグリセリド部分であってよい。
【0192】
任意に、脂質部分に含まれる得る脂肪酸部分の例には、限定しないが、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル、パルミトレオイル、オレオイル、およびリノレオイルがある。
【0193】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、変数Xで表される脂質部分は一般式IIIを有する。
【化10】
およびWは、それぞれ独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、またはアシルであり、WおよびWの少なくとも1つは水素ではなく;
Jは-P(=O)(OH)-O-であり、またはJは存在せず(そのため、グリセロール部分に示される酸素原子にKが直接結合している);
Kは1~10炭素原子長の置換または非置換の炭化水素であり、またはKは存在せず(そのため、MがJに直接結合している、またはJが存在しない場合、グリセロール部分に示される酸素原子にMが直接結合している);
Mは、-O-、-S-、アミノ、スルフィニル、スルホニル、ホスフェート、ホスホニル、ホスフィニル、カルボニル、チオカルボニル、尿素、チオ尿素、カルバミル、チオカルバミル、アミド、カルボキシ、もしくはスルホンアミドである連結基であり、またはMは存在せず;
Qは、1~10炭素原子長の置換または非置換の炭化水素であり、かつ本明細書に記載する任意の対応する実施形態によるポリマー骨格単位に結合している。
【0194】
Mが存在しない場合、Kも存在せず、QがJに直接結合している、またはJが存在しない場合、グリセロール部分に示される酸素原子にQが直接結合している。
【0195】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、WおよびWの一方は水素であり、他方は水素ではない。
【0196】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、WおよびWのいずれも水素ではない。
【0197】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、WおよびWの少なくとも1つは、10~30炭素原子長であるアルキル、アルケニル、アルキニル、またはアシルである。いくつかの実施形態では、WおよびWはそれぞれ、10~30炭素原子長である。
【0198】
任意に、独立してWおよび/またはWとして機能し得るアシル基の例には、限定しないが、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル、パルミトレオイル、オレオイル、およびリノレオイルがある。
【0199】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、Jは-P(=O)(OH)-O-である(例えば、脂質部分はグリセロリン脂質である)。
【0200】
本明細書では、変数Kで表される炭化水素の長さは、式IIIに示すように、JとMを隔てる(すなわち、JとMの間の最短経路に沿った)原子の数を指す。
【0201】
Kが置換炭化水素の場合、Mは炭化水素自体の炭素原子に結合していても、炭化水素の置換基に結合していてもよい。
【0202】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、Kは、エタノールアミン部分(例えば、-CH-CH-NH-、または窒素原子に結合した-CH-CH-)、セリン部分(例えば、-CH-CH(COH)-NH-、または窒素原子に結合した-CH-CH(COH)-)、グリセロール部分(例えば、-CH(OH)-CH(OH)-CH-O-)、およびイノシトール部分(例えば、-シクロヘキシル(OH)-O-)である。いくつかの実施形態では、Jは-P(=O)(OH)-O-である。
【0203】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、Mはアミド、任意に-C(=O)NH-である。
【0204】
いくつかの実施形態では、アミドの窒素原子はKに結合している。いくつかのそのような実施形態では、Kは、本明細書に記載するエタノールアミンまたはセリン部分である。
【0205】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、Jは存在しない(例えば、脂質部分が、グリセロリン脂質部分ではないグリセロ脂質部分である)。いくつかのそのような実施形態では、Kも存在せず、そのため、グリセロール部分に示される酸素原子にMが直接結合している、またはMも存在しない場合、グリセロール部分に示される酸素原子にQが直接結合している(例えば、グリセロ脂質がモノアシルグリセロール誘導体またはジアシルグリセロール誘導体である)。いくつかの実施形態では、Mはカルボニル連結基であり、そのため、グリセロール部分の前述の酸素原子へのMの結合がエステル結合を介して行われる。
【0206】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、Qは置換または非置換のメチレン基である。いくつかのそのような実施形態では、Mはカルボニル(すなわち、C(=O))連結基を含む。いくつかの実施形態では、Mは(カルボニルおよび窒素原子を含む)アミドである。いくつかの実施形態では、(例えば、アミドの)C(=O)はQに結合している。いくつかの実施形態では、Mはカルボニル連結基からなる。
【0207】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、Qは、1つまたは2つの置換基で置換されたメチレン基である。いくつかの実施形態では、メチレン基は、1つまたは2つのアルキル基(例えば、C1-4-アルキル)で置換されている。
【0208】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、Qは、2つの置換基で置換されたメチレン基である。いくつかの実施形態では、メチレン基は2つのアルキル基(例えば、C1-4-アルキル)で置換されている。いくつかの実施形態では、アルキル基はメチルであり、そのため、Qはジメチルメチレン(-C(CH-)である。
【0209】
本明細書の実施例の項に例示するように、変数Qで表される置換メチレン(例えば、ジ置換メチレン)は、メチレン上のフリーラジカルおよび/またはイオンがそれらの置換基(複数可)によって安定化され得るため、重合反応に(例えば、開始剤として)関与するのに特に好適である。
【0210】
本明細書でさらに例示するように、(変数Mで表される)アミド基の形成は、ホスファチジルエタノールアミンまたはホスファチジルセリンなどの脂質(例えば、天然に存在する脂質)に上述の置換メチレンを結合させる簡便な方法として機能し得る。
【0211】
本明細書でさらに例示するように、(例えば、Mに含まれる)カルボニルと脂質の酸素原子(例えば、グリセロール部分の酸素原子)との間のエステル結合の形成は、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、ホスファチジルグリセロール、またはホスファチジルイノシトールなどの脂質(例えば、天然に存在する脂質)に上述の置換メチレンを結合させる簡便な方法として機能し得る。
【0212】
製造物品:
本明細書で論じるように、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による無菌組成物は、任意に、その中に浸漬された製造物品を含んでよく、無菌の製造物品は、任意に、本明細書に記載する各方法に従って(例えば、リポソーム含有組成物中に浸漬した状態、および/またはその表面の少なくとも一部に脂質が付着した状態で)得てよい。
【0213】
本発明のいくつかの実施形態の一態様によると、無菌の製造品を得る方法に関する本明細書に記載する実施形態のいずれかによる方法に従って調製された無菌の製造物品が提供される。
【0214】
本明細書において「製造物品」という用語は、材料の新たな形状、性質、特性、または組み合わせをもたらすような方法で材料から製造された物品であって、人間の一部を含まないものを指す。この定義は、この用語の標準的な法的定義と必ずしも同一ではないことを理解されたい。
【0215】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態による製造物品は、好ましくは、自然界に存在しない形態の1つまたは複数の物質を含む。自然界に存在しない形態は、任意に、自然界に存在しない組み合わせの天然物質を含んでよい、および/または任意に、自然界に存在しない1つまたは複数の物質を含んでよい。
【0216】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態のいくつかでは、製造物品は、その表面の少なくとも一部に非共有的に付着した脂質を有し、例えば、脂質の少なくとも一部は、脂質二重層(すなわち、脂質の分子の2つの平行な層)の形態である。いくつかのそのような実施形態では、(例えば、二重層における)脂質の分子の少なくとも一部は、その極性基(例えば、荷電基)が製造物品の表面で外側を向くように配向される。
【0217】
本明細書で使用する「表面で外側を向く」という語句は、基質の表面(例えば、脂質が付着している製造物品の表面)にある分子(例えば、脂質)中の基が、分子の質量中心から外部環境までの距離よりも外部環境に近く、かつ基質から分子の質量中心までの距離よりも基質から遠いことを指す。
【0218】
特定の理論に縛られることなく、本発明のいくつかの実施形態による外側に向いた極性基(例えば、荷電基)は、水和極性基(例えば、水和潤滑)、特に水和荷電基の特性に少なくとも部分的に起因して、接着、バイオファウリング、および/またはバイオフィルム形成の非常に効果的な潤滑および/または抑制をもたらすと考えられる。
【0219】
本明細書に記載する実施形態のいずれかでは、脂質が付着する製造物品の部分は、結晶性、非晶質、および/またはゲル(例えば、ハイドロゲル)形態の無機材料および/または有機材料、例えば、金属、鉱物、セラミック、ガラス、ポリマー(例えば、合成ポリマー、バイオポリマー)、植物および/または動物バイオマス(例えば、木材または皮革)、ならびにこれらの組み合わせを含む任意の種類の材料、または異なる種類の材料の組み合わせを含み得る。
【0220】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、製造物品は医療機器、例えばその表面の少なくとも一部に脂質が付着した医療機器である。いくつかの実施形態では、医療器具は、身体の内部、粘膜、および/または眼の表面など、感染しやすい身体の一部と接触するように設計された器具である。このような医療機器の例には、限定しないが、(身体の内部と接触する)手術道具およびインプラント、ならびに(眼の表面と接触する)コンタクトレンズがある。
【0221】
本明細書全体を通して使用する「医療機器」という語句は、例えば、(例えば、疾患または傷害の)医療処置の過程で、対象の身体上、身体内、または身体を通して使用される任意の材料または機器を含む。対象はヒトでもヒト以外の動物でもよいため、「医療機器」という語句には獣医学的機器も含まれる。医療機器には、(永久インプラントおよび一時的インプラントを含む)医療用インプラント、創傷治療機器、薬物送達用医療機器、コンタクトレンズ、ならびに体腔および個人保護機器などがあるがこれらに限定されない。医療用インプラントには、カテーテル(例えば、尿路カテーテル、血管内カテーテル)、注入ポート、挿管器具、透析シャント、創傷ドレーンチューブ、皮膚縫合糸、血管移植片、移植可能メッシュ、眼内器具、心臓弁などがあるがこれらに限定されない。創傷治療機器には、一般的な創傷被覆材、生物学的移植材、テープ閉鎖材および被覆材、ならびに外科用切開ドレープがあるがこれらに限定されない。薬物送達用医療機器には、注射針、薬物送達皮膚パッチ、薬物送達粘膜パッチ、および医療用スポンジがあるがこれらに限定されない。体腔および個人保護機器には、タンポン、スポンジ、手術および検査用手袋、ならびに歯ブラシがあるがこれらに限定されない。避妊具には、子宮内避妊具(IUD)、ダイアフラム、およびコンドームがあるがこれらに限定されない。
【0222】
医療機器の文脈では、巨視的な医療機器は本明細書に記載する二重層によって被覆されていると理解されたい。
【0223】
好適な製造物品の例としては、限定しないが、以下が挙げられる:
医療機器(例えば、コンタクトレンズ、ペースメーカー、心臓弁、人工関節、カテーテル、カテーテルアクセスポート、透析チューブ、胃バンド、シャント、スクリュープレート、人工脊椎円板、体内植込み型除細動器、心臓再同期療法装置、植込み型心臓モニター、僧帽弁輪修復装置、左室補助装置(LVAD)、人工心臓、植込み型輸液ポンプ、植込み型インスリンポンプ、ステント、植込み型神経刺激装置、顎顔面インプラント、歯科インプラントなど);
包装または容器、例えば、食品ならびに/または飲料用の包装または容器(例えば、食肉および/もしくは乳製品用包装、ならびに/または食肉および/もしくは乳製品を貯蔵もしくは輸送するための容器、例えば、貯蔵タンク、生乳保持装置、乳加工作業用コンベアベルト、管壁、ガスケット、ゴムシール、ステンレス鋼クーポン、配管系、充填機、サイロタンク、熱交換器、低温殺菌後装置、ポンプ、バルブ、セパレーター、ならびに噴霧装置など)、医療機器包装、(農薬の)農業用包装および容器、血液試料などの生体試料用包装および容器、ならびにさまざまな物品の任意のその他の包装または容器;ならびに
(例えば、水性媒体もしくは水を含有および/または輸送および/または処理するための)水処理システムの構成要素、装置、容器、フィルター、管、溶液、および気体など。
【0224】
本明細書に記載する実施形態のいずれか1つのいくつかでは、製造物品は、例えばその少なくとも一部に脂質が付着したハイドロゲル表面を含む。
【0225】
コンタクトレンズは、ハイドロゲル表面を含む例示的な製造物品である。いくつかの実施形態では、コンタクトレンズは、ハイドロゲル表面と硬い中心とを含む。いくつかの実施形態では、コンタクトレンズは、基本的にハイドロゲルからなる。
【0226】
ハイドロゲルは、ハイドロゲルコンタクトレンズに使用するために、当技術分野で既知の任意の材料を含み得る。このようなハイドロゲル材料の例には、限定しないが、アルファフィルコンA、アスモフィルコンA、バラフィルコンA、ブフィルコンA、コムフィルコンA、クロフィルコン、デルタフィルコンA、ジメフィルコン、ドロキシフィルコンA、エンフィルコンA、エタフィルコンA、ガリフィルコンA、ヘフィルコンA、ヘフィルコンB、ヒラフィルコンA、ヒラフィルコンB、ヒオキシフィルコンA、ヒオキシフィルコンD、イソフィルコン、リドフィルコンA、リドフィルコンB、ロトラフィルコンB、マフィルコン、メタフィルコンA、メタフィルコンB、ナラフィルコンA、ナラフィルコンB、オクフィルコンA、オクフィルコンB、オフィルコンA、オマフィルコンA、ペルフィルコン、フェムフィルコンA、ポリマコン、スカフィルコンA、セノフィルコンA、サーフィルコン、テフィルコン、テトラフィルコンA、テトラフィルコンB、ビフィルコンA、およびキシロフィルコンAがある。
【0227】
本明細書に記載する実施形態のいずれか1つのいくつかの実施形態では、ハイドロゲルは、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)および/またはシリコーンからなるポリマーを含む。いくつかの実施形態では、ポリマーはシリコーンを含む。このようなポリマーは、任意に2-ヒドロキシエチルメタクリレートまたはシリコーンモノマーと共重合した少量の追加のモノマー(例えば、架橋性モノマー)を含み得る。例えば、2-ヒドロキシエチルメタクリレートは、任意にハイドロゲルコンタクトレンズにおいて、ビニルピロリドン、メチルメタクリレート、メタクリル酸(アニオン性モノマー)、エチレングリコールジメタクリレート(架橋性モノマー)、および/または3-(エチルジメチル-アンモニウム)プロピルメタクリルアミド(カチオン性モノマー)と共重合し得る。
【0228】
組成物の使用:
本明細書に記載する実施形態のいずれかによる組成物は、その無菌性の観点から、体内生理的環境または眼部環境などの生理的環境における使用に有用であり得る。したがって、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による水性担体は、意図する用途に従って、例えば、生理学的に許容される担体および/または眼科的に許容される担体から任意に選択し得る。
【0229】
本明細書全体を通して、「生理学的に許容される担体」という用語は、意図する方法での投与時に対象に著しい刺激をもたらさず、かつ組成物の活性および特性(例えば、対応する実施形態のいずれか1つにおいて本明細書に記載するように、その中のリポソームが状態を治療する能力および/または表面の摩擦係数を低減する能力)を損なわない担体または希釈剤を指す。限定しないが、好適な水性担体の例には、生理食塩水、ならびに有機溶媒と水(または生理食塩水)との乳濁液および/または混合物がある。
【0230】
本明細書において「眼科的に許容される担体」という語句は、対象の眼(例えば、角膜および/または強膜)に接触させた場合に対象に著しい刺激をもたらさず、かつ組成物の活性および特性(例えば、その中のリポソームがコンタクトレンズの表面および/または眼の表面の摩擦係数を低減する能力)を損なわない担体または希釈剤を指す。
【0231】
生理的環境における使用は、任意に、例えば表面の摩擦係数の上昇に関連する疾患または障害の治療において、生理的表面(例えば、関節表面または眼表面)および/または非生理的表面(例えば、コンタクトレンズ表面)の摩擦係数を低減(本明細書では、「潤滑」、「潤滑すること」、およびそれらの変形でも呼ばれる)するためであってよい。表面の摩擦係数の低減は、任意に、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による二重層形成脂質および/または高分子化合物を含む、(本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)リポソーム中に存在する任意の1つまたは複数の化合物によって行ってよい。
【0232】
本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかでは、無菌組成物は、コンタクトレンズをすすぐ、洗浄する、および/またはその中に浸漬するためのものである。いくつかのそのような実施形態では、無菌組成物は眼科的に許容される担体を含み、かつコンタクトレンズを眼に装着したときに残液が眼に害を与えないことから、任意に、すすぎ、洗浄および/または溶液中への浸漬の後にコンタクトレンズ上に残留していてよい。いくつかの代替的な実施形態では、水性担体は、眼科的に許容される担体ではなく(例えば、担体が、眼科的に許容されない防腐剤および/または眼科的に許容されない濃度の防腐剤を含む)、無菌組成物(例えば、本明細書に記載する対応する実施形態のいずれかに従ってその中に浸漬された無菌コンタクトレンズを有する組成物)は、任意に、コンタクトレンズを長期間(例えば、夜間などコンタクトレンズを使用していないときに)浸漬しながら、および/または長期間(例えば、コンタクトレンズの製造から最初の使用までの間)保存しながら、溶液中で細菌が増殖するリスクを抑えるためのものであってよい。例えば、このような組成物は、コンタクトレンズを眼に装着する前に、眼科的に許容される溶液(例えば、水、生理食塩水)ですすがれる。
【0233】
コンタクトレンズに関する本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかでは、無菌組成物は、(例えば、コンタクトレンズの水分を保持し、任意にコンタクトレンズの摩擦係数も低減させるために)コンタクトレンズをその中に浸漬するためのものである。いくつかのそのような実施形態では、無菌組成物の担体は、洗浄を行うのに好適な追加の成分、例えば防腐剤を含む。このような組成物は、任意に、その中に浸漬されたコンタクトレンズとともに単一の製品として提供されてよく、例えば、無菌コンタクトレンズと無菌組成物とが一緒に包装される。無菌組成物は、任意に、眼に挿入する前に、より眼科的に許容される組成物ですすがれることを意図してよい。
【0234】
コンタクトレンズに関する本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかでは、無菌組成物は、(例えば、コンタクトレンズから別の組成物、例えば眼科的に許容されない液体を除去するため、および/またはコンタクトレンズの摩擦係数を低減させるために)コンタクトレンズをすすぐためのものである。このような組成物は、任意に、コンタクトレンズとは別個の製品として提供してよい。いくつかのそのような実施形態では、無菌組成物の担体は眼科的に許容される担体である。
【0235】
コンタクトレンズに関する本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかでは、無菌組成物は、(例えば、細菌および/または他の不純物を除去し、任意にコンタクトレンズの摩擦係数も低減させるために)使用したおよび/または新しいコンタクトレンズを洗浄するためのものである。いくつかのそのような実施形態では、無菌組成物の担体は、洗浄を行うのに好適な追加の成分を含み、例えば、抗菌剤(例えば、過酸化物および/もしくは他の酸化剤)ならびに/または不純物を除去するための洗浄剤は、眼科的に許容される担体である。このような組成物は、任意に、コンタクトレンズとは別個の製品として提供してよく、眼に挿入する前に、より眼科的に許容される組成物ですすぐことを意図してよい。
【0236】
任意の実施形態のいくつかでは、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による無菌組成物は、滑膜関節障害の治療に使用するためのものであり、例えば、治療は組成物の関節内投与を含む。
【0237】
本発明のいくつかの実施形態の一態様によると、滑膜関節障害の治療用医薬品の製造における、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による無菌組成物の使用が提供され、例えば、治療は組成物の関節内投与を含む。
【0238】
本発明のいくつかの実施形態の一態様によると、それを必要とする対象における滑膜関節障害の治療方法が提供され、方法は、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による無菌組成物を、例えば関節内投与により対象に投与することを含む。
【0239】
本発明のさまざまな態様の実施形態に従って治療可能な滑膜関節障害の例には、限定しないが、関節炎(例えば、変形性関節症、関節リウマチ、および/または乾癬性関節炎)、滑液包炎、手根管症候群、線維筋炎、痛風、(任意に、離断性骨軟骨炎および/または滑膜性骨軟骨腫症に伴う)関節ロッキング、腱炎、(任意に、外傷に直接起因する、例えば、外傷時に受けた、および/または外傷後しばらくして起こる外傷後損傷など以前の外傷による)外傷性関節損傷、ならびに手術に伴う関節損傷(任意に、切開によるものなど関節面に直接損傷を与える手術、および/または関節面を間接的にしか損傷しない手術;例えば、靭帯および/もしくは半月板など、関節近傍の組織を修復する、または他の方法で関節近傍の組織に影響を与える手術は、関節の力学的変化に起因する関節損傷を伴う可能性がある)がある。変形性関節症は、本発明のいくつかの実施形態に従って治療可能な例示的な滑膜関節障害である。
【0240】
任意の対応する実施形態のいくつかでは、滑膜関節障害(例えば、変形性関節症)の治療は、例えば、動作時、夜間、および/または安静時の疼痛の軽減によって特徴付けられる。
【0241】
そのような実施形態では、疼痛の軽減は、当技術分野で既知の任意の好適な技術によって決定し得る。疼痛の軽減を決定するのに好適な技術の例には、限定しないが、簡易疼痛質問票(例えば、短縮版)、身体活動テスト(例えば、Timed Up&Go)、疼痛を評価するためのVAS(ビジュアルアナログスケール)質問票(痛みなし~耐えられないほど痛い)、WOMAC(ウエスタンオンタリオ大学・マクマスター大学)スケール、および/またはKOOS(膝損傷・変形性関節症転帰スコア)がある。
【0242】
任意の対応する実施形態のいくつかでは、滑膜関節障害(例えば、変形性関節症)の治療は、関節生理機能の改善によって特徴付けられる。
【0243】
任意の対応する実施形態のいくつかでは、関節生理機能の改善は、放射線学的重症度のKellgren-Lawrenceスケールによって決定し、例えば、改善は重症度の軽減によって特徴付けられる。いくつかのそのような実施形態では、治療はさらに、(例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)疼痛の軽減によって特徴付けられる。
【0244】
任意の対応する実施形態のいくつかでは、関節生理機能の改善は、任意にKellgren-Lawrenceスケールによる重症度の軽減によって特徴付けられることに加えて、患部関節の可動域によって決定する(例えば、改善は関節の可動域の増加によって特徴付けられる)。いくつかのそのような実施形態では、治療はさらに、(例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)疼痛の軽減によって特徴付けられる。
【0245】
任意の対応する実施形態のいくつかでは、関節生理機能の改善は、任意に(例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)Kellgren-Lawrenceスケールによる重症度の軽減および/または可動域の増加によって特徴付けられることに加えて、身体活動(例えば、患部関節を伴う活動)の増加によって特徴付けられる。いくつかのそのような実施形態では、治療はさらに、(例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)疼痛の軽減によって特徴付けられる。
【0246】
任意の対応する実施形態のいくつかでは、関節生理機能の改善は、(例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)Kellgren-Lawrenceスケールによる重症度の軽減、可動域の増加、および/または身体活動の増加によって特徴付けられることに加えて、生活の質の増加によって特徴付けられる。いくつかのそのような実施形態では、治療はさらに、(例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)疼痛の軽減によって特徴付けられる。
【0247】
任意の対応する実施形態のいくつかでは、関節生理機能の改善は、(例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)放射線学的重症度のKellgren-Lawrenceスケール、関節可動域、身体活動、および生活の質の少なくとも1つ、または少なくとも2つ、または少なくとも3つ、または4つすべてによって決定する。いくつかのそのような実施形態では、治療はさらに、(例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)疼痛の軽減によって特徴付けられる。
【0248】
任意の対応する実施形態のいくつかでは、本明細書に記載する実施形態のいずれかによる無菌組成物は、変形性関節症の動物モデルにおいて組成物の関節内注射後に膝の組織の病的変化を改善することが可能である。当技術分野で既知の任意の好適な変形性関節症の動物モデルを任意に使用してよい。好適な動物モデルの例には、限定しないが、Hartleyモルモットモデルおよび(任意に、本明細書の実施例の項に記載するように実施した)ラット内側半月板不安定化モデルがある。いくつかの実施形態では、動物モデルは、ラット動物モデル、例えば(任意に、本明細書の実施例の項に記載するように実施した)ラット内側半月板不安定化モデルである。
【0249】
本明細書に記載する任意の対応する実施形態による滑膜関節障害(例えば、変形性関節症)の治療に使用する組成物は、任意に(例えば、本明細書に記載する任意の対応する実施形態による)1つまたは複数の治療活性薬剤を含み得る。滑膜関節障害を治療するための組成物に好適な治療活性薬剤の例には、限定しないが、鎮痛剤および抗炎症薬がある。
【0250】
好適な鎮痛剤の例には、限定しないが、アリルプロジン、アルファメチルフェンタニル、AP-237、ベジトラミド、ブトルファノール、ブプレノルフィン、カルフェンタニル、クロニジン、コデイン、デスメチルプロジン、デキストロモルアミド、デキソシン、ジフェノキシン、ジヒドロコデイン、ジヒドロエトルフィン、ジヒドロモルヒネ、ジフェノキシレート、ジピパノン、エルクサドリン、エチルモルヒネ、エトルフィン、フェンタニル、ヘテロコデイン、ヒドロコン(hydrocone)、ヒドロモルフォン、ケタミン、ケトベミドン、レフェタミン、レボメタジル(例えば、酢酸レボメタジル)、レボメトルファン、レボルファノール、ロペラミド、メプタジノール、メタドン、メキシレチン、ミトラギニン、モルヒネ、ナルブフィン、オーメフェンタニル、オキシコドン、オキシモルフォン、パラセタモール、ペンタゾシン、ペチジン、フェネチルフェニルアセトキシピペリジン、ピリトラミド、プロジン、プロメドール、プロポキシフェン、レミフェンタニル、スルフェンタニル、タペンタドール、チリジン、およびトラマドールがある。
【0251】
ステロイド性抗炎症薬と同様に非ステロイド性抗炎症薬(例えば、本明細書に記載の非ステロイド性抗炎症)も鎮痛剤として使用し得る。
【0252】
好適な抗炎症薬の例には、限定しないが、アルクロフェナク;アルクロメタゾン(例えば、ジプロピオン酸アルクロメタゾン);アルゲストン(例えば、アルゲストンアセトニド);αアミラーゼ;アムシナファル;アムシナフィド;アンフェナク(例えば、アンフェナクナトリウム);アミプリロース(例えば、塩酸アミプリロース);アナキンラ;アニロラク;アニトラザフェン;アパゾン;アスピリン;バルサラジド二ナトリウム;ベンダザック;ベノキサプロフェン;ベンジダミン(例えば、塩酸ベンジダミン);ブロメライン;ブロペラモール;ブデソニド;カルプロフェン;シクロプロフェン;シンタゾン;クリプロフェン;クロベタゾール(例えば、プロピオン酸クロベタゾール、酪酸クロベタゾン);クロピラク;クロチカゾン(プロピオン酸クロチカゾン);コルメタゾン(酢酸コルメタゾン);コルトドキソン;デフラザコート;デソニド;デソキシメタゾン;デキサメタゾン(例えば、ジプロピオン酸デキサメタゾン);ジクロフェナク(例えば、ジクロフェナクカリウム、ジクロフェナクナトリウム);ジフロラゾン(例えば、二酢酸ジフロラゾン);ジフルミドン(例えば、ジフルミドンナトリウム);ジフルニサル;ジフルプレドナート;ジフタロン;ドロシノニド;エンドリソン;エンリモマブ;エノリカム(例えば、エノリカムナトリウム);エピリゾール;エトドラク;エトフェナメート;フェルビナク;フェナモール;フェンブフェン;フェンクロフェナク;フェンクロラク;フェンドサル;フェンピパロン;フェンチアザク;フラザロン;フルアザコート;フルフェナム酸;フルミゾール;フルニソリド(例えば、酢酸フルニソリド);フルニキシン(例えば、フルニキシンメグルミン);フルオコルチン(例えば、フルオコルチンブチル);フルオロメトロン(例えば、酢酸フルオロメトロン);フルカゾン;フルルビプロフェン;フルレトフェン;フルチカゾン(例えば、プロピオン酸フルチカゾン);フラプロフェン;フロブフェン;ハルシノニド;ハロベタゾール(例えば、プロピオン酸ハロベタゾール);ハロプレドン(例えば、酢酸ハロプレドン);イブフェナク;イブプロフェン(例えば、イブプロフェンアルミニウム、イブプロフェンピコノール);イロニダプ;インドメタシン(例えば、インドメタシンナトリウム);インドプロフェン;インドキソール;イントラゾール;イソフルプレドン(例えば、酢酸イソフルプレドン);イソキセパック;イソキシカム;ケトプロフェン;ロフェミゾール(例えば、塩酸ロフェミゾール);ロモキシカム;ロテプレドノール(例えば、エタボン酸ロテプレドノール);メクロフェナメート(例えば、メクロフェナメートナトリウム、メクロフェナム酸);メクロリゾン(例えば、二酪酸メクロリゾン);メフェナム酸;メサラミン;メセクラゾン;メチルプレドニゾロン(例えば、スレプタン酸メチルプレドニゾロン);モミフルメート;ナブメトン;ナプロキセン(例えば、ナプロキセンナトリウム);ナプロキソール;ニマゾン;オルサラジン(例えば、オルサラジンナトリウム);オルゴテイン;オルパノキシン;オキサプロジン;オキシフェンブタゾン;パラニリン(例えば、塩酸パラニリン);ポリ硫酸ペントサン(例えば、ポリ硫酸ペントサンナトリウム);フェンブタゾン(例えば、フェンブタゾンナトリウムグリセラート);ピルフェニドン;ピロキシカム(例えば、ケイ皮酸ピロキシカム、ピロキシカムオラミン);ピルプロフェン;プレドナゼート;プリフェロン;プロドール酸;プロカゾン;プロキサゾール(例えば、クエン酸プロキサゾール);リメキソロン;ロマザリット;サルコレクス;サリチル酸塩(例えば、サリチル酸);サルナセジン;サルサラート;サングイナリウム(例えば、塩化サングイナリウム);セクラゾン;セルメタシン;スドキシカム;スリンダク;スプロフェン;タルメタシン;タルニフルマート;タロサラート;テブフェロン;テニダップ(例えば、テニダップナトリウムなど);テノキシカム;テシカム;テシミド;テトリダミン;チオピナク;チキソコルトール(例えば、ピバル酸チキソコルトール);トルメチン(例えば、トルメチンナトリウム);トリクロニド;トリフルミダート;ジドメタシン;およびゾメピラック(例えば、ゾメピラックナトリウム)がある。
【0253】
滑膜関節障害を治療するための組成物に好適なこの他の治療活性薬剤の例には、限定しないが、カンナビノイド(例えば、カンナビジオール)および他のカンナビス由来物質がある。
【0254】
化合物の製剤化および投与に関する技術は、“Remington's Pharmaceutical Sciences” Mack Publishing Co.(ペンシルベニア州イーストン)最新版で参照することができ、本文献は参照により本明細書に援用される。
【0255】
本発明の実施形態のいずれか1つによる無菌組成物(例えば、溶液)は、当技術分野で周知の方法、例えば従来の混合または溶解方法によって製造し得る。
【0256】
したがって、本発明に従った使用のための無菌組成物(例えば、溶液)は、リポソーム(および任意に、本明細書に記載する組成物の他の成分)を、薬学的に使用可能な製剤に加工しやすくする1つまたは複数の生理学的に許容される担体を使用し、従来の方法で製剤化し得る。適切な製剤化は、選択した投与経路に依存する。
【0257】
注射の場合、無菌組成物は、好適な水性担体、好ましくは、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどの有機溶媒を含む、または含まない、ハンクス液、リンゲル液、ヒスチジン緩衝液、または生理食塩水緩衝液などの生理学的に適合性のある緩衝液を用いて製剤化し得る。
【0258】
本明細書に記載する無菌組成物は、例えばボーラス注射または持続注入による非経口投与用に製剤化し得る。注射用製剤は、単位剤形で、例えばアンプルに入れて、または任意に保存剤を添加した多回投与容器で提供し得る。組成物は、(例えば、本明細書に記載の水性担体中の)懸濁液、溶液、または乳濁液として製剤化してよく、懸濁剤、安定化剤、および/または分散剤などの製剤化剤を含有してよい。
【0259】
無菌組成物は、それ自体水溶液として製剤化し得る。さらに無菌組成物は、例えば製剤の粘度を増加させるために、懸濁液および/または乳濁液(例えば、油中水型、水中油型、または油中油中水型乳濁液)の形態であり得る。水性注射用懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランなど、懸濁液の粘度を増加させる物質を含有してよい。任意に懸濁液は、例えば高濃度溶液を製剤化できるよう、本明細書に記載のリポソームの溶解性および/または安定性を増加させる適切な安定化剤または薬剤を含有してもよい。
【0260】
無菌組成物は、リポソームが、意図する目的を達成するのに有効な量、例えば治療対象における障害の症状を予防、緩和、または改善するのに有効な量で含有されるように製剤化し得る。
【0261】
投与量は、採用した剤形、利用する投与経路、および投与部位(例えば、リポソームと接触する部位の体積および/または表面)に応じて変化し得る。
【0262】
投与する組成物の量は、当然ながら、治療対象、苦痛の重症度、投与方法、処方医の判断などによって異なる。
【0263】
本発明の実施形態による無菌組成物(例えば、溶液)は、所望により、FDA(米国食品医薬品局)承認キットなどのパックまたはディスペンサー装置で提供してよく、これは、活性成分(複数可)(例えば、本明細書に記載のリポソーム)を含有する1つまたは複数の単位剤形を含んでよい。パックは例えば、ブリスターパックに限定しないが、金属またはプラスチック箔を含み得る。パックまたはディスペンサー装置には、投与に関する説明書を添付してよい。パックまたはディスペンサーには、医薬品の製造、使用、または販売を規制する政府機関が定めた形式で、容器に付随した通知を添付してもよく、この通知は、ヒトまたは動物に投与する組成物の形態に対する政府機関による承認を反映するものである。このような通知は、例えば処方薬について米国食品医薬品局が承認した表示、または承認した製品挿入物であってよい。生理学的に許容される担体中に配合された、対応する実施形態のいずれか1つにおいて本明細書に記載するようなリポソームを含む無菌組成物も、本明細書で詳述するように、提示した状態または診断の治療のために調製し、適切な容器に入れ、さらに表示を付してよい。
【0264】
その他の定義:
本明細書において「炭化水素」という用語は、その基本骨格として、主に水素原子で置換された炭素原子の鎖を含む有機部分を表す。炭化水素は、飽和または非飽和であること、脂肪族、脂環式、または芳香族部分からなることができ、および任意に、1つまたは複数の置換基(水素以外)で置換できる。置換炭化水素は1つまたは複数の置換基を有してよく、それにより各置換基は、独立して、例えばシクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、アミン、ハロゲン化物、スルホン酸塩、スルホキシド、ホスホネート、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、オキソ、シアノ、ニトロ、アゾ、アジド、スルホンアミド、カルボキシ、チオカルバメート、尿素、チオ尿素、カルバメート、アミド、およびヒドラジンであり得る。炭化水素は末端基または連結基であり得る(これらの用語は本明細書で定義する)。炭化水素部分は、任意に、限定しないが、1つまたは複数の酸素、窒素、および/または硫黄原子を含む1つまたは複数のヘテロ原子で中断されている。炭化水素に関する本明細書に記載する任意の実施形態のいくつかの実施形態では、炭化水素は、いかなるヘテロ原子によっても中断されていない。
【0265】
好ましくは、そして別段の定義がない限り、炭化水素部分は1~20個の炭素原子を有する。例えば「1~20」のような数値範囲を本明細書に記載する場合は常に、その基(この場合はアルキル基)が、1個の炭素原子、2個の炭素原子、3個の炭素原子などから最大20個の炭素原子(20個を含む)を含み得ることを意味する。
【0266】
本明細書において「アルキル」という用語は、直鎖および分枝鎖基を含む、任意の飽和脂肪族炭化水素を指す。好ましくは、アルキル基は1~20個の炭素原子を有する。より好ましくは、アルキルは、1~10個の炭素原子を有する中程度の大きさのアルキルである。最も好ましくは、別段の定義がない限り、アルキルは1~4個の炭素原子を有する低級アルキルである。アルキル基は置換または非置換であり得る。置換されている場合、置換基は、例えばシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、スルフィニル、スルホニル、スルホン酸塩、硫酸塩、シアノ、ニトロ、アジド、ホスホニル、ホスフィニル、オキソ、イミン、オキシム、ヒドラゾン、カルボニル、チオカルボニル、尿素基、チオ尿素基、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、S-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、スルホンアミド、グアニル、グアニジニル、ヒドラジン、ヒドラジド、チオヒドラジド、およびアミノであり得る(これらの用語は本明細書で定義する)。
【0267】
本明細書において「アルケニル」という用語は、直鎖および分枝鎖基を含む、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素を表す。好ましくは、アルケニル基は2~20個の炭素原子を有する。より好ましくは、アルケニルは、2~10個の炭素原子を有する中程度の大きさのアルケニルである。最も好ましくは、別段の定義がない限り、アルケニルは2~4個の炭素原子を有する低級アルケニルである。アルケニル基は置換または非置換であり得る。置換アルケニルは1つまたは複数の置換基を有してよく、それにより各置換基は、独立して、例えばアルキニル、シクロアルキル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、スルフィニル、スルホニル、スルホン酸塩、硫酸塩、シアノ、ニトロ、アジド、ホスホニル、ホスフィニル、オキソ、イミン、オキシム、ヒドラゾン、カルボニル、チオカルボニル、尿素基、チオ尿素基、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、S-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、スルホンアミド、グアニル、グアニジニル、ヒドラジン、ヒドラジド、チオヒドラジド、およびアミノであり得る。
【0268】
本明細書において「アルキニル」という用語は、直鎖および分枝鎖基を含む、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素を表す。好ましくは、アルキニル基は2~20個の炭素原子を有する。より好ましくは、アルキニルは、2~10個の炭素原子を有する中程度の大きさのアルキニルである。最も好ましくは、別段の定義がない限り、アルキニルは2~4個の炭素原子を有する低級アルキニルである。アルキニル基は置換または非置換であり得る。置換アルキニルは1つまたは複数の置換基を有してよく、それにより各置換基は、独立して、例えばシクロアルキル、アルケニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、スルフィニル、スルホニル、スルホン酸塩、硫酸塩、シアノ、ニトロ、アジド、ホスホニル、ホスフィニル、オキソ、イミン、オキシム、ヒドラゾン、カルボニル、チオカルボニル、尿素基、チオ尿素基、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、S-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、スルホンアミド、グアニル、グアニジニル、ヒドラジン、ヒドラジド、チオヒドラジド、およびアミノであり得る。
【0269】
「アルキレン」という用語は、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素連結基(この用語は本明細書で定義する)を表し、これは、アルキレンが末端基ではなく連結基であるという点でのみ、本明細書で定義するように、アルキル基(飽和の場合)またはアルケニル基もしくはアルキニル基(不飽和の場合)と異なる。
【0270】
「シクロアルキル」基は、飽和または不飽和の全炭素単環式または縮合環式(すなわち、隣接する一対の炭素原子を共有する環)の基であって、1つまたは複数の環が完全に共役したπ電子系を有しないものを指す。シクロアルキル基の例は、限定しないが、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタン、シクロヘプタトリエン、およびアダマンタンである。シクロアルキル基は置換または非置換であり得る。置換されている場合、置換基は、例えばアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、スルフィニル、スルホニル、スルホン酸塩、硫酸塩、シアノ、ニトロ、アジド、ホスホニル、ホスフィニル、オキソ、イミン、オキシム、ヒドラゾン、カルボニル、チオカルボニル、尿素基、チオ尿素基、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、S-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、スルホンアミド、グアニル、グアニジニル、ヒドラジン、ヒドラジド、チオヒドラジド、およびアミノであり得る(これらの用語は本明細書で定義する)。シクロアルキル基が不飽和である場合、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合および/または少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を含んでよい。シクロアルキル基は、単一の隣接原子に結合している末端基(この語句は本明細書で定義する)、または2つ以上の部分を連結する連結基(この語句は本明細書で定義する)であり得る。
【0271】
「アリール」基は、完全に共役したπ電子系を有する全炭素単環式または縮合環多環式(すなわち、隣接する炭素原子対を共有する環)の末端基を指す。アリール基の例は、限定しないが、フェニル、ナフタレニル、およびアントラセニルである。アリール基は置換または非置換であり得る。置換されている場合、置換基は、例えばアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、スルフィニル、スルホニル、スルホン酸塩、硫酸塩、シアノ、ニトロ、アジド、ホスホニル、ホスフィニル、オキソ、イミン、オキシム、ヒドラゾン、カルボニル、チオカルボニル、尿素基、チオ尿素基、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、S-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、スルホンアミド、グアニル、グアニジニル、ヒドラジン、ヒドラジド、チオヒドラジド、およびアミノであり得る(これらの用語は本明細書で定義する)。
【0272】
「ヘテロアリール」基は、例えば窒素、酸素、および硫黄などの1つまたは複数の原子を環(複数可)内に有し、さらに、完全に共役したπ電子系を有する単環式または縮合環式(すなわち、隣接する一対の原子を共有する環)の末端基を指す。ヘテロアリール基の例には、限定しないが、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピリミジン、キノリン、イソキノリン、およびプリンがある。ヘテロアリール基は置換または非置換であり得る。置換されている場合、置換基は、例えばアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、スルフィニル、スルホニル、スルホン酸塩、硫酸塩、シアノ、ニトロ、アジド、ホスホニル、ホスフィニル、オキソ、イミン、オキシム、ヒドラゾン、カルボニル、チオカルボニル、尿素基、チオ尿素基、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、S-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、スルホンアミド、グアニル、グアニジニル、ヒドラジン、ヒドラジド、チオヒドラジド、およびアミノであり得る(これらの用語は本明細書で定義する)。
【0273】
「アリーレン」という用語は、単環式または縮合環多環式連結基、(この用語は本明細書で定義する)を表し、アリーレンが末端基ではなく連結基であるという点でのみ、アリールまたはヘテロアリール基(これらの基は本明細書で定義する)とは異なる連結基を包含する。
【0274】
「ヘテロ脂環式」基は、窒素、酸素、および硫黄などの1つまたは複数の原子を環(複数可)内に有する単環式または縮合環式の基を指す。環は、1つまたは複数の二重結合も有してよい。しかし、環は完全に共役したπ電子系を有していない。ヘテロ脂環式は置換または非置換であり得る。置換されている場合、置換基は、例えばアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、スルフィニル、スルホニル、スルホン酸塩、硫酸塩、シアノ、ニトロ、アジド、ホスホニル、ホスフィニル、オキソ、イミン、オキシム、ヒドラゾン、カルボニル、チオカルボニル、尿素基、チオ尿素基、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、S-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、スルホンアミド、グアニル、グアニジニル、ヒドラジン、ヒドラジド、チオヒドラジド、およびアミノであり得る(これらの用語は本明細書で定義する)。代表的な例は、ピペリジン、ピペラジン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、モルホリンなどである。ヘテロ脂環式基は、単一の隣接原子に結合している末端基(この語句は本明細書で定義する)、または2つ以上の部分を連結する連結基(この語句は本明細書で定義する)であり得る。
【0275】
本明細書において「アミン」および「アミノ」という用語はそれぞれ、-NR’R’’基または-NR’R’’R’’’基のいずれかを指し、R’、R’’、およびR’’’はそれぞれ、水素、または、本明細書で定義する置換もしくは非置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロ脂環式(その環炭素を介してアミン窒素に連結される)、アリール、もしくはヘテロアリール(その環炭素を介してアミン窒素に連結される)である。任意にR’、R’’、およびR’’’は、水素、または1~4個の炭素原子を含むアルキルである。任意にR’およびR’’(および存在する場合はR’’’)は水素である。置換されている場合、アミンの窒素原子に結合しているR’、R’’、またはR’’’炭化水素部分の炭素原子は、(別段の明示がない限り)オキソで置換されていないため、R’、R’’、およびR’’’は(例えば)カルボニル、C-カルボキシ、またはアミド(これらの基は本明細書で定義する)ではない。
【0276】
「アジド」基は-N=N=N末端基を指す。
【0277】
「アルコキシ」基は、本明細書で定義する-O-アルキル、-O-アルケニル、-O-アルキニル、-O-シクロアルキル、および-O-ヘテロ脂環式の末端基のいずれか、または本明細書で定義する-O-アルキレン、-O-シクロアルキル-、および-O-ヘテロ脂環式の連結基のいずれかを指す。
【0278】
「アリールオキシ」基は、本明細書で定義する-O-アリールおよび-O-ヘテロアリール基の両方、または-O-アリーレンを指す。
【0279】
「ヒドロキシ」基は-OH基を指す。
【0280】
「チオヒドロキシ」または「チオール」基は-SH基を指す。
【0281】
「チオアルコキシ」基は、本明細書で定義する-S-アルキル、-S-アルケニル、-S-アルキニル、-S-シクロアルキル、および-S-ヘテロ脂環式の末端基のいずれか、または本明細書で定義する-S-アルキレン-、-S-シクロアルキル-、および-S-ヘテロ脂環式の連結基のいずれかを指す。
【0282】
「チオアリールオキシ」基は、本明細書で定義する-S-アリールおよび-S-ヘテロアリール基の両方、または-S-アリーレンを指す。
【0283】
「カルボニル」または「アシル」基は-C(=O)-R’末端基を指し、R’は上記のように定義される、または-C(=O)-連結基を指す。
【0284】
「チオカルボニル」基は、-C(=S)-R’末端基を指し、R’は本明細書で定義する通りである、または-C(=S)-連結基を指す。
【0285】
「カルボキシ」、「カルボキシル」、「カルボン酸」、または「カルボン酸塩」基は、本明細書で定義する「C-カルボキシ」および「O-カルボキシ」末端基の両方、ならびに本明細書で定義するカルボキシ連結基を指す。
【0286】
「C-カルボキシ」基は-C(=O)-O-R’基を指し、R’は本明細書で定義する通りである。
【0287】
「O-カルボキシ」基はR’C(=O)-O-基を指し、R’は本明細書で定義する通りである。
【0288】
「カルボキシ連結基」は-C(=O)-O-連結基を指す。
【0289】
「オキソ」基は=O末端基を指す。
【0290】
「イミン」基は=N-R’末端基を指し、R’は本明細書で定義する通りである、または=N-連結基を指す。
【0291】
「オキシム」基は=N-OH末端基を指す。
【0292】
「ヒドラゾン」基は=N-NR’R’’末端基を指し、R’およびR’’はそれぞれ本明細書で定義する通りである、または=N-NR’-連結基を指し、R’は本明細書で定義する通りである。
【0293】
「ハロ」基は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素を指す。
【0294】
「スルフィニル」基は-S(=O)-R’末端基を指し、R’は本明細書で定義する通りである、または-S(=O)-連結基を指す。
【0295】
「スルホニル」基は-S(=O)-R’末端基を指し、R’は本明細書で定義する通りである、または-S(=O)-連結基を指す。
【0296】
「スルホン酸塩」基は-S(=O)-O-R’末端基を指し、R’は本明細書で定義する通りである、または-S(=O)-O-連結基を指す。
【0297】
「硫酸塩」基は-O-S(=O)-O-R’末端基を指し、R’は本明細書で定義する通りである、または-O-S(=O)-O-連結基を指す。
【0298】
「スルホンアミド(sulfonamide)」または「スルホンアミド(sulfonamido)」基は、本明細書で定義するS-スルホンアミドおよびN-スルホンアミド末端基の両方、ならびに本明細書で定義するスルホンアミド連結基を包含する。
【0299】
「S-スルホンアミド」基は-S(=O)-NR’R’’末端基を指し、R’およびR’’はそれぞれ本明細書で定義する通りである。
【0300】
「N-スルホンアミド」基はR’S(=O)-NR’’-末端基を指し、R’およびR’’はそれぞれ本明細書で定義する通りである。
【0301】
「スルホンアミド連結基」は-S(=O)-NR’-連結基を指し、R’は本明細書で定義する通りである。
【0302】
「カルバミル」基は、本明細書で定義するO-カルバミルおよびN-カルバミル末端基の両方、ならびに本明細書で定義するカルバミル連結基を包含する。
【0303】
「O-カルバミル」基は-OC(=O)-NR’R’’末端基を指し、R’およびR’’はそれぞれ本明細書で定義する通りである。
【0304】
「N-カルバミル」基はR’OC(=O)-NR’’-末端基を指し、R’およびR’’はそれぞれ本明細書で定義する通りである。
【0305】
「カルバミル連結基」は-OC(=O)-NR’-連結基を指し、R’は本明細書で定義する通りである。
【0306】
「チオカルバミル」基は、本明細書で定義するO-チオカルバミル末端基、S-チオカルバミル末端基、およびN-チオカルバミル末端基、ならびに本明細書で定義するチオカルバミル連結基を包含する。
【0307】
「O-チオカルバミル」基は-OC(=S)-NR’R’’末端基を指し、R’およびR’’はそれぞれ本明細書で定義する通りである。
【0308】
「N-チオカルバミル」基はR’OC(=S)NR’’-末端基を指し、R’およびR’’はそれぞれ本明細書で定義する通りである。
【0309】
「S-チオカルバミル」基は-SC(=O)-NR’R’’末端基を指し、R’およびR’’はそれぞれ本明細書で定義する通りである。
【0310】
「チオカルバミル連結基」は、-OC(=S)-NR’-または-SC(=O)-NR’-連結基を指し、R’は本明細書で定義する通りである。
【0311】
「アミド(amide)」または「アミド(amido)」基は、本明細書で定義するC-アミドおよびN-アミド末端基、ならびに本明細書で定義するアミド連結基を包含する。
【0312】
「C-アミド」基は-C(=O)-NR’R’’末端基を指し、R’およびR’’はそれぞれ本明細書で定義する通りである。
【0313】
「N-アミド」基はR’C(=O)-NR’’-末端基を指し、R’およびR’’はそれぞれ本明細書で定義する通りである。
【0314】
「アミド連結基」は-C(=O)-NR’-連結基を指し、R’は本明細書で定義する通りである。
【0315】
「尿素基」は-N(R’)-C(=O)-NR’’R’’’末端基を指し、R’、R’’、およびR’’’はそれぞれ本明細書で定義する通りである、または-N(R’)-C(=O)-NR’’-連結基を指し、R’およびR’’はそれぞれ本明細書で定義する通りである。
【0316】
「チオ尿素基」は-N(R’)-C(=S)-NR’’R’’’末端基を指し、R’、R’’、およびR’’’はそれぞれ本明細書で定義する通りである、または-N(R’)-C(=S)-NR’’-連結基を指し、R’およびR’’はそれぞれ本明細書で定義する通りである。
【0317】
「ニトロ」基は-NO基を指す。
【0318】
「シアノ」基は-C≡N基を指す。
【0319】
「ホスホニル」または「ホスホネート」という用語は-P(=O)(OR’)(OR’’)基を表し、R’およびR’’は本明細書で定義する通りである、または-P(=O)(OR’)-O-連結基を表し、R’は本明細書で定義する通りである。
【0320】
「ホスフェート」という用語は-O-P(=O)(OR’)(OR’’)末端基を表し、R’およびR’’はそれぞれ本明細書で定義する通りである、または-O-P(=O)(OR’)-O-連結基を表し、R’は本明細書で定義する通りである。
【0321】
「ホスフィニル」という用語は-PR’R’’末端基を表し、R’およびR’’はそれぞれ本明細書で定義する通りである、または-PR’-連結基を表し、R’は本明細書で定義する通りである。
【0322】
「ヒドラジン」という用語は-NR’-NR’’R’’’末端基を表し、R’、R’’、およびR’’’は本明細書で定義する通りである、または-NR’-NR’’-連結基を表し、R’およびR’’は本明細書で定義する通りである。
【0323】
本明細書で使用する「ヒドラジド」という用語は-C(=O)-NR’NR’’R’’’末端基を表し、R’、R’’、およびR’’’は本明細書で定義する通りである、または-C(=O)-NR’NR’’-連結基を表し、R’およびR’’は本明細書で定義する通りである。
【0324】
本明細書で使用する「チオヒドラジド」という用語は-C(=S)-NR’NR’’R’’’末端基を表し、R’、R’’、およびR’’’は本明細書で定義する通りである、または-C(=S)-NR’NR’’-連結基を表し、R’およびR’’は本明細書で定義する通りである。
【0325】
「グアニジニル」基は-RaNC(=NRd)-NRbRc末端基を指し、Ra、Rb、Rc、およびRdはそれぞれ、R’およびR’’について本明細書で定義する通りであってよく、または-R’NC(=NR’’)-NR’’’-連結基を表し、R’、R’’、およびR’’’は本明細書で定義する通りである。
【0326】
「グアニル」または「グアニン」基はR’’’R’’NC(=NR’)-末端基を指し、R’、R’’、およびR’’’は本明細書で定義する通りである、または-R’’NC(=NR’)-連結基を指し、R’およびR’’は本明細書で定義する通りである。
【0327】
本明細書に記載する実施形態のいずれについても、本明細書に記載する化合物は、塩、例えば薬学的に許容される塩の形態であってよい。
【0328】
本明細書で使用する「薬学的に許容される塩」という語句は、親化合物およびその対イオンの荷電種を指し、これは通常、親化合物の溶解度特性を変更するため、および/または親化合物による生物体への任意の著しい刺激を低減するために使用されるものの、投与される化合物の生物学的活性および特性を損なわない。本明細書に記載する化合物の薬学的に許容される塩は、代替的に、化合物の合成中、例えば反応混合物から化合物を単離する過程または化合物を再結晶化する過程で形成され得る。
【0329】
本実施形態のいくつかの文脈では、本明細書に記載する化合物の薬学的に許容される塩は、任意に酸付加塩および/または塩基付加塩であり得る。
【0330】
酸付加塩は、正に荷電した形態である(例えば、塩基性基がプロトン化されている)化合物の少なくとも1つの塩基性(例えば、アミンおよび/またはグアニジニル)基と、選択した酸に由来する少なくとも1つの対イオンとの組み合わせを含み、薬学的に許容される塩を形成する。したがって、本明細書に記載する化合物の酸付加塩は、化合物の1つまたは複数の塩基性基と1つまたは複数の当量の酸との間に形成される複合体であり得る。
【0331】
塩基付加塩は、負に荷電した形態である(例えば、酸性基が脱プロトン化されている)化合物の少なくとも1つの酸性(例えば、カルボン酸)基と、選択した塩基に由来する少なくとも1つの対イオンとの組み合わせを含み、薬学的に許容される塩を形成する。したがって、本明細書に記載する化合物の塩基付加塩は、化合物の1つまたは複数の酸性基と1つまたは複数の当量の塩基との間に形成される複合体であり得る。
【0332】
化合物中の荷電基(複数可)と塩中の対イオンとの化学量論比に応じて、酸付加塩および/または塩基付加塩は、モノ付加塩またはポリ付加塩のいずれかであり得る。
【0333】
本明細書で使用する「モノ付加塩」という語句は、対イオンと化合物の荷電形態との化学量論比が1:1である塩を指し、そのため付加塩は、化合物1モル当量あたり1モル当量の対イオンを含む。
【0334】
本明細書で使用する「ポリ付加塩」という語句は、対イオンと化合物の荷電形態との化学量論比が1:1よりも大きな塩、例えば2:1、3:1、4:1などである塩を指し、そのため付加塩は、化合物1モル当量あたり2モル当量以上の対イオンを含む。
【0335】
薬学的に許容される塩の例には、限定しないが、アンモニウムカチオンまたはグアニジニウムカチオンおよびその酸付加塩、ならびに/またはカルボン酸アニオンおよびその塩基付加塩がある。
【0336】
塩基付加塩は、薬学的に許容される塩を形成するナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウムなどのカチオン対イオンを含んでよい。
【0337】
酸付加塩は、さまざまな有機酸および無機酸であってよく、例えば、塩酸付加塩を形成する塩酸、臭化水素酸付加塩を形成する臭化水素酸、酢酸付加塩を形成する酢酸、アスコルビン酸付加塩を形成するアスコルビン酸、ベシル酸付加塩を形成するベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸付加塩を形成するカンファースルホン酸、クエン酸付加塩を形成するクエン酸、マレイン酸付加塩を形成するマレイン酸、リンゴ酸付加塩を形成するリンゴ酸、メタンスルホン酸(メシル酸)付加塩を形成するメタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸付加塩を形成するナフタレンスルホン酸、シュウ酸付加塩を形成するシュウ酸、リン酸付加塩を形成するリン酸、p-トルエンスルホン酸付加塩を形成するトルエンスルホン酸、コハク酸付加塩を形成するコハク酸、硫酸付加塩を形成する硫酸、酒石酸付加塩を形成する酒石酸、およびトリフルオロ酢酸付加塩を形成するトリフルオロ酢酸があるがこれらに限定されない。これらの酸付加塩はそれぞれ、モノ付加塩またはポリ付加塩のいずれかである(これらの用語は本明細書で定義する)。
【0338】
さらに、本明細書に記載する化合物はそれぞれ、その塩を含め、その溶媒和物または水和物の形態であり得る。
【0339】
「溶媒和物」という用語は、溶質(本明細書に記載の複素環化合物)および溶媒で形成される可変化学量論の複合体(例えば、ジ-、トリ-、テトラ-、ペンタ-、ヘキサ-など)を指し、それにより溶媒は溶質の意図する活性を妨げない。
【0340】
「水和物」という用語は、溶媒が水である上記で定義する溶媒和物を指す。
【0341】
本明細書に記載する化合物は多形体として使用でき、本実施形態はさらに、化合物の任意の同形体およびそれらの任意の組み合わせを包含する。
【0342】
本明細書に記載する化合物および構造は、特定の立体異性体が具体的に示されていない限り、本明細書に記載する化合物のエナンチオマーおよびジアステレオマーを含む任意の立体異性体を包含する。
【0343】
本明細書で使用する「エナンチオマー」という用語は、互いに完全に反転/反射したとき(鏡像)のみその対応物に重ね合わせが可能な化合物の立体異性体を指す。エナンチオマーは、右手と左手のように互いに向き合うことから、「掌性」を有すると言われている。エナンチオマーは、それ自体が掌性を有する環境、例えば、全ての生命系、に存在する場合を除き、同一の化学的および物理的特性を有する。本実施形態の文脈では、化合物は、それぞれが(R)体または(S)体を示す1つまたは複数のキラル中心、および任意の組み合わせを示してよく、本発明のいくつかの実施形態による化合物は、それらのキラル中心のいずれかが(R)体または(S)体を示し得る。
【0344】
本明細書で使用する「ジアステレオマー」という用語は、互いにエナンチオマーではない立体異性体を指す。ジアステレオマー性は、化合物の2つ以上の立体異性体が、すべてではないが1つまたは複数の対応する(関連する)立体中心で異なる配置を有し、互いの鏡像ではない場合に生じる。2つのジアステレオ異性体が1つの立体中心でのみ互いに異なる場合、それらはエピマーである。各立体中心(キラル中心)は2つの異なる配置を生じ、したがって2つの異なる立体異性体を生じる。本発明の文脈において本発明の実施形態は、立体配置の任意の組み合わせ、すなわち任意のジアステレオマーで生じる複数のキラル中心を有する化合物を包含する。
【0345】
本明細書で使用する「約」という用語は、±10%、および任意に±5%を指す。
【0346】
「comprises(含む)」、「comprising(含んでいる)」、「includes(含む)」、「including(含んでいる)」、「having(有する)」という用語、およびこれらの活用形は、「含むがこれらに限定されない」を意味する。
【0347】
「からなる」という用語は、「含み、かつこれらに限定される」を意味する。
【0348】
「から基本的になる」という用語は、組成物、方法、または構造が、追加の成分、ステップ、および/または部分を含んでもよいが、その追加の成分、ステップ、および/または部分が、クレームされた組成物、方法、または構造の基本的かつ新規な特徴を実質的に変更しない場合に限ることを意味する。
【0349】
本明細書で使用する単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかに他の定めがない限り、複数の参照を含む。例えば、用語「a compound(化合物)」または「at least one compound(少なくとも1つの化合物)」は、それらの混合物を含む複数の化合物を含んでよい。
【0350】
本出願を通じて、本発明のさまざまな実施形態を範囲形式で示す場合がある。範囲形式での説明は、単に利便性と簡潔性のためであり、本発明の範囲の確固たる制限と解釈すべきでないことを理解されたい。したがって、範囲の記述は、すべての可能な部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数値が具体的に開示されているとみなされるべきである。例えば1~6などの範囲の記述は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数値、例えば、1、2、3、4、5、および6が具体的に開示されているとみなされるべきである。これは範囲の広さに関係なく適用される。
【0351】
本明細書において数値範囲が示される場合は常に、示された範囲内の任意の列挙された数字(分数または整数)を含むことを意味する。本明細書では、第1の指示数値と第2の指示数値「に及ぶ/の範囲」、および第1の指示数値「から」第2の指示数値「までに及ぶ/の範囲」という表現は、同じ意味に使用し、第1および第2の指示数値ならびにその間のすべての分数および整数を含むことを意味する。
【0352】
本明細書で使用する「方法」という用語は、化学、薬理学、生物学、生化学、および医学の実務家に知られている、または既知の様式、手段、技術、および手順から容易に開発される様式、手段、技術、および手順を含むがこれらに限定されない、所定の課題を達成するための様式、手段、技術、および手順を指す。
【0353】
本明細書で使用する「治療する」という用語は、状態の進行を抑制する、実質的に阻止する、遅らせる、もしくは逆転させること、状態の臨床的もしくは審美的症状を実質的に改善すること、または状態の臨床的または審美的症状の出現を実質的に予防することを含む。
【0354】
当然のことながら、明確にするために別個の実施形態の文脈で記載する本発明の特定の特徴は、単一の実施形態で組み合わせて提供してもよい。逆に、簡潔にするために単一の実施形態の文脈で記載する本発明のさまざまな特徴も、別個に、または任意の好適な部分的組み合わせで、または本発明に記載する任意の他の実施形態において好適なように提供してもよい。さまざまな実施形態の文脈で記載する特定の特徴は、その実施形態がそれらの要素なしでは動作不能でない限り、それらの実施形態の本質的な特徴とみなすべきではない。
【0355】
上記で詳述し、以下の特許請求の範囲でクレームする本発明のさまざまな実施形態および態様については、以下の実施例において実験的確証が見出される。
【実施例
【0356】
次に、上記の説明と共に、本発明のいくつかの実施形態を非限定的に示す以下の実施例を見ていく。
【0357】
材料および方法
DPPE-Br(1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-2’-ブロモイソブチレート)の合成および特性
DPPE-Br(1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-2’-ブロモイソブチレート)は、Li et al.[J Controlled Release 2014, 176:104-114]に記載されている手順に従って調製した。DPPE脂質をフラスコ中でジクロロメタン(DCM)と混合し、手で振とうして白色懸濁液を得た。フラスコにトリエチルアミンを添加し、完全に混合するまで混合物を撹拌した。次に、α-ブロモイソブチリルブロミドを懸濁液に注意深く添加した。次いで、分液漏斗を用いて溶液をHClで洗浄した。有機相をNaSOで脱水し、ロータリーエバポレーターを用いて標的溶液の体積を減少させた。DCM溶液を冷メタノールに添加して、最終生成物を単離した。冷凍庫で一晩かけて沈殿させた。DPPE-Brの白色粉末をろ過し、デシケーターで3日間乾燥させた。最終生成物は、以下の特徴を示した。H NMR(300MHz、CDCl):δ=5.25(-OCHCHO-P-);δ=4.45(-CHCOOCH-);δ=4.30(-P-OCHCH-);δ=4.14(-P-OCHCH-);δ=3.57(-OCHCHN-);δ=2.30(-COCHCH-);δ=1.95(-BrCCHCH);δ=1.60(-COCHCH-);δ=1.25(-(CH14-);δ=0.88(-CHCH)。
【0358】
DPPE-pMPC(1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-ポリ(2-(メタクリロイルオキシ)エチルホスホリルコリン)の合成および特性
脂質共役ポリマーDPPE-pMPCの合成の一般的なスキームは、Lin et al.[Langmuir 2019, 35:6048-6054]に記載されている通りである。DPPE-Br開始剤をエタノール中でMPCモノマーと混合し、次いでPMDETA(N,N,N′,N′′,N′′-ペンタメチルジエチレントリアミン)リガンドをフラスコに添加した。原子移動ラジカル重合は、触媒CuBrを添加して引き起こした。重合終了後、反応混合物を冷ジエチルエーテル中に沈殿させ、青色の固体中間体をろ過し、エタノールに再溶解した。エタノール溶液を水に撹拌しながら滴下し、次いで塩酸を添加して無色透明の溶液を得た。TFF(接線流ろ過)カセット洗浄を行い、低分子化合物を排除した。凍結乾燥後、最終生成物を得た。脂質共役ポリマーは、以下の特徴を示した。H NMR(300MHz、CDCl:CDOD 1:1):δ=5.25(-OCHCHO-P-);δ=4.32(-N-CHCHO-);δ=4.22(-CO-OCHCH-);δ=4.07(-OCHCHO-P-);δ=3.75(-(CH-CHCH-);δ=3.34(-(CH-);δ=1.9(-(CH-、活性中心);δ=1.28(-(CH12-);δ=0.88(-CHCH)。分子量は、脂質部分とモノマー部分の水素原子の相対量に対応する化学シフトδ=1.28およびδ=3.75のピークの積分によって決定した。
【0359】
DPPE-pMPCなどの脂質共役ポリマーの調製および特性評価に関するさらなるデータは、国際公開第2017/109784号に記載されている。
【0360】
実施例1
無菌リポソーム組成物の調製
リポソームは、Cao et al.[Langmuir 2012, 28:11625-11632]などに記載されている手順に従って、水和・押出法で調製した。ホスファチジルコリンとDPPE-pMPCを、加熱した有機溶媒に溶解した。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去し、乾燥した均一な脂質混合物を得た。得られた脂質粉末をエタノールに溶解した。エタノール溶液を0.2μmフィルターでろ過して高温の水性媒体に直接投入することで、多層小胞(MLV)を形成させる。リポソーム懸濁液は65℃で少なくとも25分間撹拌した。小胞サイズを小さくするために、MLVを規定の孔径400nmと200nmのメンブレンフィルターに通した。押し出しを繰り返し、小型単層小胞(SUV)を得た。
【0361】
TFFシステムを使用し、低分子量画分を除去した。
【0362】
リポソーム溶液を5mLの滅菌済みガラスバイアルに充填し、各バイアルをゴム栓で閉じ、アルミキャップで密封した。一次包装したリポソーム製品を121℃で20分間蒸気滅菌した。この滅菌手順の有効性は、無菌性試験結果に従って微生物の増殖がないこと、および存在するエンドトキシンが25EU/mL未満であることで確認した(細菌エンドトキシン試験の合格基準は35EU/mL未満)。
【0363】
リポソーム溶液の浸透圧をマイクロ浸透圧計(スタンドアローン型)で測定したところ、289mOsm/kgであり、これは小型単層小胞が浸透圧的に活性でないことと一致する。
【0364】
滅菌溶液中のリポソームの粒度分布とゼータ電位は、Zetasizer(登録商標)Nano ZS装置(Malvern社)を使用して動的光散乱法により決定した。ゼータ電位は、試料を10μm食塩水で希釈して測定した。
【0365】
粒度分布およびゼータ電位のデータは、図1および以下の表1に示す。
【0366】
【表1】
【0367】
リポソームを可視化し、その粒度と形状を特徴付けるために、カーボングリッド上の例示的なリポソーム組成物を急速凍結させ、クライオ・トンネル電子顕微鏡観察を行った。
【0368】
図2Aおよび2Bに示すように、リポソームは一般に球形で、単層および多層構造を含み、クライオ・トンネル電子顕微鏡で測定したところ、直径50~200nmの不均一な粒度分布を有していた。
【0369】
図3および4に示すように、滅菌リポソーム溶液のリポソーム直径のZ平均(図3)および多分散指数(図4)は、動的光散乱で測定したところ、350日間(室温保存)にわたって安定していた。
【0370】
これらの結果は、蒸気滅菌によってリポソームの加水分解が誘発される可能性があるにもかかわらず、蒸気滅菌後も滅菌リポソーム溶液が非常に安定していることを示している[Toh & Chiu, Asian J Pharm Sci 2013, 8:88-95]。蒸気滅菌は通常、γ線照射、エチレンオキサイド、紫外線滅菌などの代替的な滅菌手順よりも安価で、便利かつ安全であるため、これは有利である。
【0371】
実施例2
例示的な無菌リポソーム組成物が模擬膝関節モデルの潤滑性に及ぼす効果
ASTM F732規格に準拠した持続時間、負荷、および波形パラメータを有するピンオンディスク試験を用いて、実施例1に記載のように調製した例示的な無菌組成物が模擬膝関節の潤滑性に及ぼす効果を、500,000サイクルにわたって測定した。摩擦係数は500,000サイクルにわたって測定し、摩耗率は500,000サイクル後のピンの重量減少を測定して評価した。潤滑剤としての例示的な組成物の効果を、仔ウシ血清(BCS)ベースの潤滑剤(ヒト滑液を模倣)、ならびに例示的な組成物とBCSの50:50および25:75混合物と比較した。
【0372】
以下の表2および図5に示すように、例示的な組成物(それ自体およびBCSとの混和物)は、BCSよりも平均摩擦係数および最大摩擦係数が低かった。
【0373】
さらに表2に示すように、例示的な組成物では、BCSと比較して、500,000サイクル後の摩耗(ピンの重量減少)の程度が用量依存的に大幅に減少した。
【0374】
これらの結果は、本明細書に記載する無菌組成物が関節の潤滑性を高めるのに好適であることを示している。
【0375】
【表2】
【0376】
実施例3
例示的な無菌リポソーム組成物が軟骨の潤滑性に及ぼす効果
実施例1に記載のように調製した例示的な組成物が軟骨表面の潤滑性に及ぼす効果をin vitroで評価した。1歳の仔ウシの膝から採取した新鮮な関節軟骨を円盤状に切断する。試料の機械的特性はインデンテーション試験で測定し、任意にピンオンディスク設定で、最大実験接触圧力を計算する。トライボロジー測定は、生理的な関節運動を表す速度、例えば1mm/秒で1時間行う。摩擦係数は、測定された横力を、せん断中に加えられた垂直力で割ることにより算出する。対照測定は、例えばPBS溶液を用いて行う。結果は、例えば高分子ヒアルロン酸、またはSynvisc(登録商標)組成物などの市販のヒアルロン酸関節内注入剤を用いて実施した対応する測定の結果と比較する。
【0377】
実施例4
動物モデルの変形性関節症の治療における例示的な無菌リポソーム組成物の有効性
光学顕微鏡試験では、Hartleyモルモットは生後6~12ヵ月の間に、主に内側脛骨プラトーの中央部において、中等度から重度の軟骨破壊と軟骨下骨硬化を生じ、通常、その変化が老年期に重度の変形性関節症(OA)へと進行することが示されている[de Bri et al., J Orthop Res 1995, 13:769-776、de Bri et al., Acta Orthop Scan 1996, 67:498-504]。これはヒトの疾患を模倣した典型的な変化である[Bendele & Hulman, Arthritis Rheum 1988, 31:561-565]。そのため、Dunkin Hartleyモルモットを、加齢に伴う自然発症の変形性関節症のモデルとして選択し、実施例1に記載のように調製した例示的な組成物が、関節内投与による膝の関節潤滑に及ぼす効果のin vivo前臨床試験を実施した。
【0378】
動物を1週間馴化させた後、試験組成物を関節内注射で投与する。次いで、動物を3~6ヵ月間観察し、試験組成物の効果を評価する。組織学的分析では、主に組織病変と最終的な組織再生を扱う。染色スライドはすべてNanoZoomer(登録商標)デジタルスライドスキャナ(Hamamatsu社)を用いてスキャンし、デジタルフォーマットに変換して、その後の分析とOAスコアリングを行う。
【0379】
別の試験では、変形性関節症のラット内側半月板不安定化モデルを使用する。ラットを各群に無作為に割り付け、イソフルランで麻酔し、外科的に誘発した変形性関節症の処置を右膝に行う。関節内投与した試験組成物が、術後56日目の膝の組織の病的変化(例えば、軟骨細胞死、軟骨変性)および疼痛に及ぼす効果を評価する。
【0380】
上述した疾患の徴候の1つまたは複数が軽減したかを判定する。
【0381】
実施例5
ヒトの変形性関節症の治療における例示的な無菌リポソーム組成物の有効性
試験対象膝における疼痛がスクリーニング前1週間の平均VAS(ビジュアルアナログスケール)スコア(有効)で5超であり、かつ膝の立位後前方および側面X線画像に基づいて試験対象膝がグレードIII~IV(Kellgren-Lawrence)に分類できる退行性変化を示す[Kellgren & Lawrence, Ann Rheum Dis 1957, 16:494-502]変形性関節症のボランティア(18~85歳(任意に、40~80歳)、ボディマス指数:18.5~35)を対象に、第I相非盲検試験を実施する。
【0382】
被験者には、鎮痛剤とNSAIDのウォッシュアウト期間を、薬剤に応じて2~5日間設け、その後、標準的な保存療法(例えば、軽度の疼痛にはパラセタモール500mg、より重度の疼痛にはパラセタモール1g)と併せて、実施例1に記載のように調製した例示的な組成物(本明細書では「AqueousJoint」とも呼ぶ)4mLを標的膝に単回関節内注射によって投与した(注射量は、通常1週間間隔で複数回注射される標準的なヒアルロン酸ナトリウム製剤の量に基づく)。患者を仰臥位にして目をつぶらせ、膝を約60度屈曲させ、無菌的に準備した21ゲージの針(0.8×50mm)を関節包に挿入する。投与後、4、8、12、24週目にフォローアップを行う。
【0383】
被験者への関節内注射における最長6ヵ月間の安全性は、注射材料に関連する有害反応、注射部位反応、紅斑、腫脹、注射部位疼痛、およびそう痒などの注射関連副作用を調査することにより評価する。さらに、可動域、機能性、生活の質、および鎮痛剤の消費に対する治療効果も任意に評価してよい。
【0384】
被験者の状態を評価する診断技術には、治療した膝のMRI分析(例えば、治療後4および/または24週目);診断による等級付け;例えば、内反膝(O脚)/外反膝(X脚)、変形性膝関節症の病因(膝のアライメント異常もしくは前十字靭帯損傷)、および/もしくは罹患した膝の主要コンパートメント(膝蓋大腿骨と内側、脛骨大腿骨と外側脛骨大腿骨)の理学的評価;Kellgren-LawrenceスケールによるX線画像の重症度;可動域(腹臥で万能角度計を用いた膝屈伸運動試験);疼痛評価(例えば、簡易疼痛質問票(短縮版)で測定);ならびに/または身体活動テスト(例えば、Timed Up&Go);鎮痛薬および/または抗炎症薬の記録;有害事象および重篤な有害事象(すなわち、入院の必要性もしくは入院期間の延長、持続的もしくは重大な身体障害もしくは能力障害、もしくは生命を脅かすもしくは死に至る)の記録;および/または、例えば動作時、夜間、安静時の疼痛(痛みなし~耐えられないほど痛い)を評価するVASなどの質問票への被験者による記入;疼痛、こわばり、および身体活動を評価するWOMAC(ウエスタンオンタリオ大学・マクマスター大学)スケール;疼痛、その他の症状、日常生活における機能、スポーツ・レクリエーションにおける機能、および膝関連の生活の質を評価するKOOS(膝損傷・変形性関節症転帰スコア);および/または(健康関連の生活の質を評価する)SF12質問票がある。
【0385】
上述した疾患の徴候の1つまたは複数が軽減したかを判定する。
【0386】
試験の概要は以下の表3に示す。
【0387】
【表3】
【0388】
実施例6
ラット動物モデルの変形性関節症の治療における例示的な無菌リポソーム組成物の有効性
方法:
ラットは1群15匹で無作為に群分けした。試験0日目に動物をイソフルランで麻酔し、右膝に内側半月板不安定化(DMM)外科手術を行った。実施例1に記載のように調製した例示的な組成物(本明細書では「AqueousJoint」とも呼ぶ)、Synvisc(登録商標)(市販のHA注射剤)、または生理食塩水(ビヒクルとして)50μLを、群別に術後7、21、35、および49日目に関節内(IA)に局所注射した。動物は術後56日目に安楽死させた。術後56日間にわたって、すべてのラットで、手術した脚と非処置の脚にかかる力の差を比較する動的体重負荷を分析した。迅速な疼痛管理の目的で、手術前30~60分の間にメロキシカム(1mg/kg)を経口投与し、術後24時間後に追加投与した。試験期間にわたって臨床パラメータ、動的体重負荷(DWB、侵害受容性疼痛(炎症性痛覚過敏/機械的アロディニア)を評価する)、および歩行(運動性)を評価した。歩行は以下のようにスコア化した:0=正常、1=軽微、2=軽度、3=中等度、4=顕著、5=重度、6=ホッピング。膝の組織病理学的評価を行って、関節の損傷を評価した。すべての動物は試験終了まで生存した。
【0389】
結果:
変形性関節症のラット内側半月板不安定化モデルをin vivo前臨床モデルとして使用し、軟骨の自然な潤滑特性を回復させて患部関節内での関節接合を円滑にすることにより変形性関節症を治療する、実施例1に記載のように調製した例示的な組成物の効果を調べた。理論に縛られることなく、この製剤は、軟骨表面上で長持ちするリポソーム、つまり高度に水和された境界潤滑剤として作用し、またリポソームに組み込まれた独特の脂質-ポリホスホコリン共役体は、凝集を防ぎ、極めて効率的な潤滑要素として作用することで、摩耗および損傷からの保護を可能にする。
【0390】
図6の7日目に示されるように、全群のラットで、手術処置後の手術した脚と手術していない脚の体重負荷に明らかな差が見られた。Synvisc(登録商標)の投与では術後28日目に有益な効果が見られたが、AqueousJointを用いた治療は有効性の点で有意に良好であり、両脚の体重負荷はほぼ同等であった(図6および以下の表4)。術後56日目のAqueousJointの効果は安定したままであったが、Synvisc(登録商標)の効果はビヒクル群の体重負荷特性に戻った(図6)。図7および以下の表4に示すように、AqueousJointで治療したラットの運動性は、術後10日目の歩行スコアで判断すると、Synvisc(登録商標)またはビヒクル対照で治療したラットと比較して有意に良好であった。さらに、Synvisc(登録商標)投与群では、ビヒクル投与群と比較して滑膜炎スコアが有意に増加した(以下の表4)。
【0391】
まとめると、変形性関節症モデルラットにおけるAqueousJointによる治療は、現在の市場標準治療と比較して優れていた。
【0392】
【表4】
【0393】
実施例7
トライボロジー測定
方法:
測定はマイクロトライボメータを用いて行った。評価は、Roba et al.[Tribology Letters 2011, 44, 387-397]が公表している研究に基づく標準的な手順に従って行った。簡単に説明すると、FnとFtの間に線形依存性があるという仮定の下で、約1.5mmの距離で20のデータ点を平均することにより、横力および実験的に決定した垂直力の値を計算してから、グラフにプロットした。このようにして得たトレース曲線とリトレース曲線を平均し、選択した点の線形回帰の傾きから摩擦係数を求めた。接触圧はヘルツモデルを用いて計算し、5.6MPaと算出した。
【0394】
比較測定は、1mm/秒の速度で、以下の5つのステップの手順で行った:(i)PBS-ベースライン、(ii)HA溶液、(iii)PBSすすぎ、(iv)実施例1に記載のように調製した例示的な組成物の溶液(本明細書では「合成脂質溶液」とも呼ぶ)、(v)PBSすすぎ。各ステップの後、系を新鮮なPBSで少なくとも3回すすぎ、またステップ(iii)の前にはすすぎを少なくとも6回繰り返し、溶液を1時間静置した。ステップ(ii)と(iv)では、摩擦測定を開始する前に、2つの表面を、接触させずに溶液に30分間浸漬した。5つのステップのそれぞれについて、トライボロジー実験(すなわち、力勾配)を2回行った。可視性を高めるために、既定の試料と条件の2つの値を平均してプロットした(「内部平均」)。
【0395】
結果:
合成脂質とヒアルロン酸の2つの試験溶液にそれぞれ曝露した新鮮な軟骨と凍結軟骨の摩擦反応の変化を、同じ試料を対照(緩衝液)または試験溶液に交互に曝露する(対照-試験溶液-対照-試験溶液-対照)比較プロトコル内で調べた。
【0396】
一般に、合成脂質溶液中のCoFはHAで測定されたものよりも低かった(図8)。
【0397】
まとめると、結果から、合成脂質の添加は、ヒアルロン酸の場合よりも摩擦力の大幅な低下をもたらすことが示唆される。
【0398】
実施例8
摩耗測定
方法:
実施例1に記載のように調製した例示的な無菌組成物(本明細書では「AqueousJoint」とも呼ぶ)を使用した場合のポリエチレン(PE)テストピンの摩耗性能を評価するピンオンディスク(POD)試験。3つのステーションに、仔ウシ血清潤滑剤で1:1の比率に希釈した無菌組成物を入れた。対照として使用した3つのステーションには、仔ウシ血清潤滑剤のみを入れた。試験は200万サイクル(Mc)実施し、試験後のすべてのテストピンで、観察可能な損傷が報告された。試験はASTM F732-00およびOICの試験プロトコル21091-P01 Rev Aに従って実施した。試験前に、すべてのピンとディスクに固有の識別番号を付した。ディスクには1~6のラベルを貼り、対応するステーション番号に装着した。試験開始前に、すべてのディスクを平均粗さ(Ra)≦0.05±0.006μmまで研磨した。ディスク1枚につき3回のスキャンを行い、平均値8.1を得て、平均粗さ仕様への準拠を確認した。ピンとディスクの関節表面のデジタル画像を撮影した。試験終了後、ピンとディスクの表面のデジタル画像を撮影し、試験前後の表面を比較した。すべての構成要素について巨視的に定性分析を行い、存在する損傷の特徴を判定した。PEピン表面の顕微鏡画像を撮影し、存在する損傷特性を特徴付けた。
【0399】
結果:
AqueousJointを入れたステーションでは、2.0Mc後の平均摩耗が5.487±0.693mgであったのに対し、標準的な仔ウシ血清潤滑剤では、2.0Mc後の平均摩耗は25.732±0.361mgであった(図9)。試験後のピンの損傷には、目に見える違いは見られなかった。
【0400】
本発明をその特定の実施形態と併せて説明してきたが、多くの代替、変更、および変形が当業者に明らかであることは明白である。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲の趣旨および広範な範囲に入るそのような代替、変更、および変形をすべて包含することを意図している。
【0401】
本明細書において参照されるすべての刊行物、特許、および特許出願は、参照により本明細書に援用されることが、参照される際に個々の刊行物、特許、または特許出願について具体的かつ個別に言及されているかのように、参照によりその全体が本明細書に援用されることが出願人(ら)の意図である。さらに、本出願における何らかの参考文献の引用または特定は、当該参考文献が本発明の先行技術として利用可能であることを認めるものと解釈してはならない。項目の見出しを使用する範囲において、それらは必ずしも限定的であると解釈されるべきではない。さらに、本出願の優先権文書(複数可)は、参照によりそれらの全体が本明細書に援用される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】