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特表2024-530404膀胱癌の第二選択療法のための免疫療法剤としての組換えマイコバクテリウム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-21
(54)【発明の名称】膀胱癌の第二選択療法のための免疫療法剤としての組換えマイコバクテリウム
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20240814BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240814BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20240814BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20240814BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240814BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20240814BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240814BHJP
【FI】
C12N1/21
A61P35/00 ZNA
A61P13/10
A61K35/74
A61P37/04
C12N15/62 Z
C12N15/31
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501689
(86)(22)【出願日】2022-07-20
(85)【翻訳文提出日】2024-02-09
(86)【国際出願番号】 EP2022070373
(87)【国際公開番号】W WO2023001895
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】21187253.6
(32)【優先日】2021-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】63/224,575
(32)【優先日】2021-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/667,784
(32)【優先日】2022-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】524013399
【氏名又は名称】セラム ライフ サイエンス ヨーロッパ ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】524013403
【氏名又は名称】セラム インスティテュート オブ インディア プライベート リミティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【弁理士】
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】グロード レアンダー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA01Y
4B065AA32X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087BC29
4C087CA08
4C087CA12
4C087CA20
4C087NA14
4C087ZA81
4C087ZB09
4C087ZB26
(57)【要約】
本発明は、膀胱癌の治療における、具体的には筋層非浸潤性膀胱癌の第二選択療法における、免疫療法剤としての使用のための、組換えマイコバクテリウム細胞に関連する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えマイコバクテリウム(Mycobacterium)細胞であって、
前記細胞は、ウレアーゼ欠損である、デンマーク株Prague亜型由来の組換えウシ型結核菌(M.bovis)BCG細胞であり、
前記細胞は、以下を含む融合ポリペプチドをコードする、組換え核酸分子を含み:
(a)免疫応答を誘発することができるドメイン、
および
(b)ファゴリソソームエスケープドメイン(phagolysosomal escape domain);
前記組換えマイコバクテリウム細胞が、免疫療法剤として膀胱癌を患う対象へ、第二選択療法として投与される、方法における使用のためのものである;
組換えマイコバクテリウム細胞。
【請求項2】
請求項1に記載された使用のための請求項1に記載された組換えマイコバクテリウム細胞であって、
前記細胞は、ウレアーゼ欠損である、デンマーク株Prague亜型由来の組換えウシ型結核菌BCG細胞であり、
前記細胞は、以下を含む融合ポリペプチドをコードする、組換え核酸分子を含み:
(a)配列番号2のアミノ酸配列41~51を含む、免疫応答を誘発することができるドメイン、
および
(b)以下から選択される核酸分子によってコードされる、リステリア(Listeria)ファゴリソソームエスケープドメイン:
(i)配列番号1に示されるヌクレオチド211~1722を含む、ヌクレオチド配列、
(ii)(i)からの配列と同じアミノ酸配列をコードする、ヌクレオチド配列、
および
(iii)(i)または(ii)からの配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、ヌクレオチド配列;
前記組換えマイコバクテリウム細胞が、免疫療法剤として膀胱癌を患うヒト対象へ、第二選択療法として投与される、方法における使用のためのものである;
組換えマイコバクテリウム細胞。
【請求項3】
請求項1または2に記載された使用のための請求項1または2に記載された細胞であって、
前記組換え核酸分子は、いかなる機能的選択マーカーも含まない
細胞。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載された使用のための請求項1、2または3に記載された細胞であって、
前記ヒト対象が、筋層非浸潤性膀胱癌(NMIBC)を患っている
細胞。
【請求項5】
請求項1、2または4に記載された使用のための請求項1、2または3に記載された細胞であって、
前記ヒト対象が、再発膀胱癌を患っている
細胞。
【請求項6】
請求項1、2または4~5のいずれか一項に記載された使用のための請求項1、2または3に記載された細胞であって、
前記ヒト対象が、膀胱癌の最初の治療後に再発したおよび/または進行した対象である
細胞。
【請求項7】
請求項1または4~6のいずれか一項に記載された使用のための請求項1、2または3に記載された細胞であって、
前記投与は、前記膀胱内へのベシクル滴下を含む
細胞。
【請求項8】
請求項1または4~7のいずれか一項に記載された使用のための請求項1、2または3に記載された細胞であって、
少なくとも1回の不成功に終わった膀胱癌の第一選択療法を、過去に受けた対象の治療における使用のための
細胞。
【請求項9】
請求項1または4~8のいずれか一項に記載された使用のための請求項1、2または3に記載された細胞であって、
免疫療法、具体的には標準BCGを用いた免疫療法を含む、少なくとも1回の不成功に終わった膀胱癌の第一選択療法を、過去に受けた対象の治療における使用のための
細胞。
【請求項10】
請求項1または4~9のいずれか一項に記載された使用のための請求項1、2または3に記載された細胞であって、
膀胱切除術または他の局所治療および/または全身化学療法を含む、少なくとも1回の不成功に終わった膀胱癌の第一選択療法を、過去に受けた対象の治療における使用のための
細胞。
【請求項11】
請求項1または4~10のいずれか一項に記載された使用のための請求項1、2または3に記載された細胞であって、
シスプラチンに基づく化学療法、具体的にはシスプラチンに基づく化学療法に続く膀胱手術および/または放射線療法、併用化学療法、および標準BCGの群から選択される、少なくとも1回の不成功に終わった膀胱癌の第一選択療法を、過去に受けた対象の治療における使用のための
細胞。
【請求項12】
請求項1または4~11のいずれか一項に記載された使用のための請求項1、2または3に記載された細胞であって、
前記対象が喫煙者である
細胞。
【請求項13】
請求項1または4~12のいずれか一項に記載された使用のための請求項1、2または3に記載された細胞であって、
前記免疫療法剤は、週1回滴下を含むスケジュールに従って前記膀胱内へ投与される
細胞。
【請求項14】
請求項1または4~13のいずれか一項に記載された使用のための請求項1、2または3に記載された細胞であって、
前記免疫療法剤は、以下の間、週1回滴下を含むスケジュールに従って前記膀胱内へ投与される:
(i)具体的には週1回で6回滴下する導入フェーズ、
(ii)少なくとも1年の維持フェーズ、具体的には週1回で例えば3回滴下する約3か月後の第1維持フェーズ、例えば3回滴下する約6か月後の第2維持フェーズ、および例えば3回滴下する約12か月後の第3維持フェーズ;
細胞。
【請求項15】
請求項1または4~14のいずれか一項に記載された使用のための請求項1、2または3に記載された細胞であって、
前記免疫療法剤は、1投与あたり約10~5×10CFU、具体的には約2×10CFUの用量で投与される
細胞。
【請求項16】
請求項1または4~15のいずれか一項に記載された使用のための請求項1、2または3に記載された細胞であって、
疾患の再発は、少なくとも1年の期間、具体的には少なくとも2年、少なくとも3年、または少なくとも4年の期間、抑制される
細胞。
【請求項17】
請求項1または4~16のいずれか一項に記載された使用のための請求項1、2または3に記載された細胞であって、
前記免疫療法は、少なくとも1年、具体的には少なくとも2年、少なくとも3年、または少なくとも4年の無病期間を、少なくとも30%の患者のために、具体的には少なくとも45%の患者のために提供する
細胞。
【請求項18】
請求項1または4~17のいずれか一項に記載された使用のための請求項1、2または3に記載された細胞であって、
疾患の再発は、治療開始後2年の期間、疾患の再発がない対象において、少なくともさらに1年間阻止される
細胞。
【請求項19】
請求項1または4~18のいずれか一項に記載された使用のための請求項1、2または3に記載された細胞であって、
全生存期間(overall survival)は、治療しない対象と比較して、少なくとも1年の期間、具体的には少なくとも2年、少なくとも3年、または少なくとも4年の期間において、増加する
細胞。
【請求項20】
請求項1または4~19のいずれか一項に記載された使用のための請求項1、2または3に記載された細胞であって、
膀胱切除術の必要性は、例えば少なくとも1年の期間、具体的には少なくとも2年、少なくとも3年、または少なくとも4年の期間、少なくとも30%の前記患者において、具体的には少なくとも45%の前記患者において、減少するまたは回避される
細胞。
【請求項21】
膀胱癌の、具体的には筋層非浸潤性膀胱癌の、それを必要とする対象における免疫療法治療のための方法であって、
前記方法は、前記対象へ第二選択療法として組換えマイコバクテリウム細胞を投与するステップを含み、
前記細胞は、ウレアーゼ欠損である、組換えウシ型結核菌BCG細胞であり、
前記細胞は、以下を含む融合ポリペプチドをコードする、組換え核酸分子を含む:
(a)免疫応答を誘発することができるドメイン、
および
(b)リステリアファゴリソソームエスケープドメイン;
方法。
【請求項22】
膀胱癌の、具体的には筋層非浸潤性膀胱癌の、それを必要とするヒト対象における免疫療法治療のための方法であって、
前記方法は、前記対象へ第二選択療法として組換えマイコバクテリウム細胞を投与するステップを含み、
前記細胞は、ウレアーゼ欠損である、デンマーク株Prague亜型由来の組換えウシ型結核菌BCG細胞であり、
前記細胞は、以下を含む融合ポリペプチドをコードする、組換え核酸分子を含む:
(a)配列番号2のアミノ酸配列41~51を含む、免疫応答を誘発することができるドメイン、
および
(b)以下から選択される核酸分子によってコードされる、リステリアファゴリソソームエスケープドメイン:
(i)配列番号1に示されるヌクレオチド211~1722を含む、ヌクレオチド配列、
(ii)(i)からの配列と同じアミノ酸配列をコードする、ヌクレオチド配列、
および
(iii)(i)または(ii)からの配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、ヌクレオチド配列;
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膀胱癌の治療における、具体的には筋層非浸潤性膀胱癌の第二選択療法における、免疫療法剤としての使用のための、組換えマイコバクテリウム(Mycobacterium)細胞に関連する。
【背景技術】
【0002】
尿路上皮膀胱癌は、5番目に多い癌である。米国においては、毎年約75000人が新たに診断され、新たな癌全体の4.5%を占め、約15600人が死亡すると予想される。ドイツにおいては、毎年約16000人が新たに診断されている。膀胱癌では疾患再発の可能性が高いため、患者は長期間、監視を受けねばならない。
【0003】
ほとんどの膀胱癌は、膀胱の内壁を構成する移行上皮細胞において始まる。これらの腫瘍が成長するにつれ、周囲の結合組織および筋肉に浸潤しうる。疾患が進行すると、腫瘍は膀胱を越えて近隣のリンパ節または骨盤内器官に広がり、または肺、肝臓、および骨などのより遠隔の器官に転移する。
【0004】
膀胱癌の全5年生存率は77%であり、この率は過去10年間大きく変わっていない。ステージを考慮すると、腫瘍が膀胱の内層に限定されている患者の5年相対生存率は、それぞれ96%および69%である。膀胱を越えて局所的に病変が広がっている場合は34%に、遠隔転移がある場合は6%に、率が減少する。
【0005】
膀胱癌の治療において、腫瘍の再発は、たとえ悪性度の低い患者であっても大きな懸念であり、広範な経過観察を必要とする。新規の免疫療法などのより良い治療法は、再発率を減少させ、膀胱癌を有する患者の生存期間を改善しうる。
【0006】
筋層非浸潤性膀胱癌を有する患者に対しては、治療には通常、腫瘍の外科的切除の後、化学療法、通常はマイトマイシンCの膀胱内への投与(いわゆる膀胱内化学療法)が行われる。手術から回復した後、疾患進行のリスクがより低い患者は、監視または追加の膀胱内化学療法を受けることができる。中等度から高悪性度の患者は、多くの場合、弱毒化された生菌Bacillus Calmette Guerin(BCG)を用いた膀胱内免疫療法を受ける。この療法は、以下において「従来型」または「標準」BCG療法と称される。従来型BCG療法は、FDAが承認した最初の免疫療法であり、細菌および任意の膀胱癌細胞を標的とする免疫応答を刺激することによって、膀胱癌の再発リスクを減少させるのに役立つ。従来型BCG治療の有効性が証明されているにもかかわらず、約35~45%の患者が5年後までに疾患の再発を経験し、約10~13%の患者において疾患が進行する(Oddens et al., Eur Urol 63 (2013, 462-472))。
【0007】
再発および筋層浸潤性疾患への進行は、シスプラチンに基づく化学療法、経尿道的膀胱切除術(TURB)、膀胱切除術、および化学放射線療法を含む、追加の化学療法的、外科手術的、および放射線腫瘍学的介入につながりうる。再発膀胱癌は、ゲムシタビン+シスプラチン、またはメトトレキサート、ビンブラスチン、ドキソルビシン+シスプラチンを含む、併用療法レジメンを用いて治療されうる。
【0008】
再発患者のための別の選択肢は、従来型BCG療法を用いた再治療である(Yates et al, Eur Urol 62 (2012), 1088-1096)。BCGの不成功が早いほど、2回目のBCGサイクルの不成功の可能性が高くなる(Gallagher et al., Urology 71 (2008), 297-301)。
【0009】
しかしながら、筋層非浸潤性膀胱癌における最初のBCG不成功後の第二選択従来型BCG免疫療法は、有効でないことが見出された(Di Lorenzo et al., Cancer 2010, doi: 10.1002/cncr.24914)。87.5%の患者は、1年でのBCG再導入に応答しなかった。37.5%の患者は膀胱切除術を受けなければならず、40%は1年後に放射線療法および全身化学療法を受けた。従来型BCG療法に応答しなかったこれらの患者における成績不良は、従来型BCGまたは他の膀胱内治療不成功後の改善された膀胱温存治療に対する、未充足な医療ニーズを反映している。従って、第一選択療法に対してだけでなく、標準BCG療法の最初のコース後に再発した患者に対しても、より良い治療選択肢が必要とされる。
【0010】
従って、第一選択従来型BCG療法に応答しなかった患者に対して、これらの患者は癌進行のリスクが高いため、改善された治療を提供することが、本発明の目的であった。これらの高リスク患者の治療が改善されれば、膀胱温存率が増加し、その結果、生活の質が改善し、医療費が減少する。
【0011】
ファゴリソソームエスケープドメイン(phagolysosomal escape domain)を発現する組換えBCG株は、WO 99/101496に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。ファゴリソソームエスケープドメインは、感染した宿主細胞のファゴソームから、ファゴソームの膜を穿孔することにより、株が脱出することを可能にする。最適なファゴリソソーム脱出活性のための酸性ファゴソームpHを提供するために、ウレアーゼ欠損組換え株が開発された。この株はWO 2004/094469に開示されており、その内容は本明細書に組み込まれる。
【0012】
WO 2012/085101(その内容は本明細書に組み込まれる)は、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)の膜穿孔性リステリオリシン(Hly)を発現し、ウレアーゼCを欠いた組換えBCG株が、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)(Mtb)による吸入性曝露(aerogenic challenge)に対して、親株BCGと比較して、前臨床モデルにおいて、優れた防御を誘導することを開示する。さらに、組換えおよび非経口(parenteral)株の両方が、顕著なTh1免疫応答を誘導する一方、組換えBCG株だけが、重大なTh17応答をさらに引き起こすことが示される。
【0013】
WO 2016/177717は、組換えウレアーゼ欠損およびリステリオリシン発現組換えBCG株が、非経口(parenteral)BCGと比較して、動物モデルにおいて、優れた免疫応答を誘導することを開示する。さらに、最初の標準BCG療法後の患者において、免疫療法剤として組換えBCGを使用した、ヒト臨床第I/II相試験の開始が、報告されている。
【0014】
従来型BCG療法を第二選択療法として使用した前掲Di Lorenzoらの落胆すべき結果にもかかわらず、ウレアーゼ欠損およびリステリオリシン発現組換えBCGを第二選択BCG免疫療法として、具体的には非筋肉浸潤性膀胱癌における最初のBCG不成功後に使用した療法の開始から3または4年後でも、高い全生存期間および低い疾患再発率を、本発明者らは驚くべきことに観察した。
【発明の概要】
【0015】
本発明の第一の態様は、組換えマイコバクテリウム細胞に関連し、
前記細胞は、以下を含む融合ポリペプチドをコードする、組換え核酸分子を含み:
(a)免疫応答を誘発することができるドメイン、
および
(b)ファゴリソソームエスケープドメイン;
前記組換えマイコバクテリウム細胞が、免疫療法剤として対象へ、例えば膀胱癌を患う、具体的には筋層非浸潤性膀胱癌を患うヒト対象へ、第二選択療法として投与される、方法における使用のためのものである。
【0016】
従って、本発明は、膀胱癌の、具体的には筋層非浸潤性膀胱癌の、対象における、具体的にはヒト対象における、免疫療法治療のための方法にさらに関連し、
前記方法は、前記対象へ第二選択療法として組換えマイコバクテリウム細胞を投与するステップを含み、
前記細胞は、以下を含む融合ポリペプチドをコードする、組換え核酸分子を含む:
(a)免疫応答を誘発することができるドメイン、
および
(b)ファゴリソソームエスケープドメイン。
【0017】
本発明のさらなる態様は、組換えマイコバクテリウム細胞に関連し、
前記細胞は、以下を含む融合ポリペプチドをコードする、組換え核酸分子を含み:
(a)免疫応答を誘発することができるドメイン、
および
(b)ファゴリソソームエスケープドメイン;
膀胱癌の免疫療法治療において使用するためのものであり;
前記組換えマイコバクテリウム細胞は、膀胱癌を患う、具体的には筋層非浸潤性膀胱癌を患う、より具体的には再発膀胱癌を患う対象へ、第二選択療法として投与される。
【0018】
従って、本発明は、膀胱癌の、具体的には筋層非浸潤性膀胱癌の、より具体的には再発膀胱癌の、対象における、具体的にはヒト対象における、免疫療法治療のための方法にさらに関連し、
前記方法は、前記対象へ第二選択療法として組換えマイコバクテリウム細胞を投与するステップを含み、
前記細胞は、以下を含む融合ポリペプチドをコードする、組換え核酸分子を含む:
(a)免疫応答を誘発することができるドメイン、
および
(b)ファゴリソソームエスケープドメイン。
【0019】
本発明のさらなる態様は、組換えマイコバクテリウム細胞であって、
前記細胞は、以下を含む融合ポリペプチドをコードする、組換え核酸分子を含み:
(a)免疫応答を誘発することができるドメイン、
および
(b)ファゴリソソームエスケープドメイン;
膀胱癌の、具体的には再発膀胱癌の、治療において免疫療法剤として使用するためのものであり;
ここで治療される対象が、膀胱癌の最初の治療後に、具体的には従来型BCG療法を用いた最初の治療後に、再発したおよび/または進行した対象である。
【0020】
従って、本発明は、膀胱癌の、具体的には筋層非浸潤性膀胱癌の、より具体的には再発膀胱癌の、それを必要とする対象における、免疫療法治療のための方法にさらに関連し、
前記対象は、膀胱癌の最初の治療後に、具体的には従来型BCG療法を用いた最初の治療後に、再発したおよび/または進行した対象であり、
前記方法は、前記対象へ組換えマイコバクテリウム細胞を投与するステップを含み、
前記細胞は、以下を含む融合ポリペプチドをコードする、組換え核酸分子を含む:
(a)免疫応答を誘発することができるドメイン、
および
(b)ファゴリソソームエスケープドメイン。
【0021】
本発明のさらなる態様は、組換えマイコバクテリウム細胞に関連し、
前記細胞は、以下を含む融合ポリペプチドをコードする、組換え核酸分子を含み:
(a)免疫応答を誘発することができるドメイン、
および
(b)ファゴリソソームエスケープドメイン;
前記組換えマイコバクテリウム細胞が、免疫療法剤として、膀胱癌を患う、具体的には筋層非浸潤性膀胱癌を患う、より具体的には再発膀胱癌を患う対象へ投与される、方法における使用のためのものであり;
ここで疾患の再発は、少なくとも1年の期間、具体的には少なくとも2年、少なくとも3年、または少なくとも4年の期間、抑制される。
【0022】
従って、本発明は、膀胱癌の、具体的には筋層非浸潤性膀胱癌の、より具体的には再発膀胱癌の、対象における、具体的にはヒト対象における、免疫療法治療のための方法にさらに関連し、
前記方法は、前記対象へ組換えマイコバクテリウム細胞を投与するステップを含み、
前記細胞は、以下を含む融合ポリペプチドをコードする、組換え核酸分子を含み:
(a)免疫応答を誘発することができるドメイン、
および
(b)ファゴリソソームエスケープドメイン;
ここで疾患の再発は、少なくとも1年の期間、具体的には少なくとも2年、少なくとも3年、または少なくとも4年の期間、抑制される。
【0023】
本発明のなおさらなる態様は、組換えマイコバクテリウム細胞に関連し、
前記細胞は、以下を含む融合ポリペプチドをコードする、組換え核酸分子を含み:
(a)免疫応答を誘発することができるドメイン、
および
(b)ファゴリソソームエスケープドメイン;
前記組換えマイコバクテリウム細胞が、免疫療法剤として、膀胱癌を患う、具体的には筋層非浸潤性膀胱癌を患う、より具体的には再発膀胱癌を患う対象へ投与される、方法における使用のためのものであり;
ここで全生存期間は、少なくとも1年の期間、具体的には少なくとも2年、少なくとも3年、または少なくとも4年の期間において、増加する。
【0024】
従って、本発明は、膀胱癌の、具体的には筋層非浸潤性膀胱癌の、より具体的には再発膀胱癌の、対象における、具体的にはヒト対象における、免疫療法治療のための方法にさらに関連し、
前記方法は、前記対象へ組換えマイコバクテリウム細胞を投与するステップを含み、
前記細胞は、以下を含む融合ポリペプチドをコードする、組換え核酸分子を含み:
(a)免疫応答を誘発することができるドメイン、
および
(b)ファゴリソソームエスケープドメイン;
ここで全生存期間は、少なくとも1年の期間、具体的には少なくとも2年、少なくとも3年、または少なくとも4年の期間において、増加する。
【0025】
本発明のなおさらなる態様は、組換えマイコバクテリウム細胞に関連し、
前記細胞は、以下を含む融合ポリペプチドをコードする、組換え核酸分子を含み:
(a)免疫応答を誘発することができるドメイン、
および
(b)ファゴリソソームエスケープドメイン;
膀胱癌を患う、具体的には筋層非浸潤性膀胱癌を患う、より具体的には再発膀胱癌を患う対象の、生活の質を改善するための方法における使用のためのものであり;
前記組換えマイコバクテリウム細胞が免疫療法剤として投与され、それにより前記対象における膀胱切除術を減少または回避させる。
【0026】
従って、本発明は、膀胱癌を患う、具体的には筋層非浸潤性膀胱癌を患う、より具体的には再発膀胱癌を患う対象の、対象における、具体的にはヒト対象における、生活の質を改善するための方法にさらに関連し、
前記方法は、前記対象へ組換えマイコバクテリウム細胞を投与するステップを含み、
前記細胞は、以下を含む融合ポリペプチドをコードする、組換え核酸分子を含み:
(a)免疫応答を誘発することができるドメイン、
および
(b)ファゴリソソームエスケープドメイン;
および前記対象における膀胱切除術の必要性を回避または減少させる。
【0027】
注意すべきは、上述の態様の2以上の特徴は、互いに組み合わされうることである。
【0028】
従って、本発明は、rBCGと以下のうちの少なくとも1つとを併用する、第二選択療法に関連する:
- 膀胱癌の最初の治療後に、具体的には従来型BCG療法を用いた最初の治療後に、再発したおよび/または進行した対象の治療、
- 少なくとも1年の期間の、具体的には少なくとも2年、または少なくとも3年、または少なくとも4年の期間の、疾患の再発の抑制、
- 少なくとも1年の期間の、具体的には少なくとも2年、少なくとも3年、または少なくとも4年の期間の、全生存期間の増加、
- および
- 膀胱切除術の必要性を減少させることを含む、生活の質の改善。
【0029】
さらに、本発明は、以下のうちの少なくとも1つと組み合わせて、膀胱切除術の必要性を減少させることを含む、生活の質の改善に関連する:
- 第一選択療法不成功後の疾患の再発および/または疾患の進行を有する対象に対する、第二選択療法、
- 少なくとも1年の期間の、具体的には少なくとも2年、少なくとも3年、または少なくとも4年の期間の、疾患の再発の抑制、
- 少なくとも1年の期間の、具体的には少なくとも2年、少なくとも3年、または少なくとも4年の期間の、全生存期間の増加。
【0030】
具体的な実施形態において、本発明は、以下と併用する第二選択療法に関連する:
- 少なくとも1年の期間の、具体的には少なくとも2年、少なくとも3年、または少なくとも4年の期間の、疾患の再発の抑制、
- 少なくとも1年の期間の、具体的には少なくとも2年、少なくとも3年、または少なくとも4年の期間の、全生存期間の増加、
- および任意選択で、膀胱切除術の必要性を減少させることを含む、生活の質の改善。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】2.9年までの、追跡期間後の膀胱における再発までの時間に関する、カプラン=マイヤー(Kaplan Meier)プロット。
図2】2.9年までの、追跡期間後の全生存率。
図3】SAKK 06/14のCONSORT 2010図表。BCG:Bacillus Calmette-Guerin。ITT:治療企図。FAS:最大の解析対象集団(集団)。PP:プロトコル適合(集団)。FASからの2つの除外も含む。
図4】FASについての膀胱における再発までの時間に関する、カプラン=マイヤープロット(4年までの追跡)。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明者らは、本明細書に記載された組換えマイコバクテリウム細胞の投与を含む第二選択免疫療法が、疾患の発生を減少させ、全生存期間を増加させるのに非常に有効であることを見出した。この文脈において、「第二選択免疫療法(second-line immunotherapy)」という用語は、第一選択療法の不成功後の、対象の、具体的にはヒト対象の、治療を指す。「不成功(failure)」という用語は、具体的には第一選択療法後の原発腫瘍の進行および/または転移の形成を含む、疾患の再発および/または疾患の進行を意味する。より具体的には、「不成功」という用語は、疾患の再発を意味する。「第一選択療法(first-line therapy)」という用語は、具体的には免疫療法を含む第一選択療法を指し、より具体的にはRentsch, C A, Eur Urol 2014, PMID: 24674149に記載されているように以前に承認された標準BCGなど、本明細書に記載されたファゴリソソームエスケープドメインを含まない標準BCGの投与を含む、第一選択免疫療法を指す。「第二選択免疫療法」という用語は、単一の「第一選択療法」サイクル後の、または複数の、例えば2、3またはそれ以上の「第一選択療法」サイクル後の、具体的にはファゴリソソームエスケープドメインを含まないBCGの投与を含む単一サイクルまたは複数サイクル後の、本明細書に記載された組換えマイコバクテリウム細胞の投与を含む。
【0033】
本発明の好ましい実施形態によれば、組換えマイコバクテリウム細胞は、第二選択治療として投与される。そのような実施形態によれば、治療される個体は、最初の治療を、具体的には、標準BCG治療、全身および/または膀胱内化学療法を含む化学療法、膀胱手術、放射線、およびそれらの任意の組合せの群から選択される膀胱癌治療を、受けたことがありうる。例えば、第一選択治療は、シスプラチンに基づく化学療法を、具体的にはシスプラチンに基づく化学療法に続く膀胱手術および/または放射線療法、併用化学療法、および標準BCGを含みうる。好ましくは、治療される個体は、膀胱癌の最初の治療として標準BCG治療を受けたことがあり、および/または、膀胱切除術または他の局所治療または全身化学療法を受けた。
【0034】
本発明に従って治療される対象は、膀胱癌を、具体的には上皮内癌(CIS)を含む筋層非浸潤性膀胱癌(NMIBC)を患っている。具体的な実施形態において、対象は、再発NMBICを患っている。いくつかの実施形態において、対象は、欧州癌研究治療機関(European Organization for Research and Treatment)に基づく進行度(例えば、スコア7~23)の再発高悪性度NMIBCを有する。さらなる実施形態において、対象は、治療開始前に経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)を受けたことがある。いくつかの実施形態において、対象は、例えば経尿道的膀胱切除術(TURB)および生検によって確認されるように、治療開始時に腫瘍のない膀胱状態を有する。
【0035】
具体的な実施形態において、対象は、標準BCG療法の以前のサイクルの開始後6か月で、または3か月と6か月の両時点で存在する、高悪性度NMIBC腫瘍を有し、および、標準BCG療法下で、より高い再発回数、より高い腫瘍カテゴリー、またはより高い悪性度のうち少なくとも1つを含む疾患の悪化を有し、および、場合によっては最初の応答にもかかわらず、低悪性度腫瘍を含むCISの出現を有する患者である。
【0036】
特に好ましい実施形態によれば、対象は喫煙者である。
【0037】
第二選択療法として本明細書に記載された組換えマイコバクテリウム細胞の投与は、治療開始後長期間、例えば少なくとも1年の期間、具体的には少なくとも2年、少なくとも3年、または少なくとも4年の期間、疾患の発生を減少させるのに非常に有効である。治療開始から3年後、疾患の再発の時間の中央値はすでに1.3年であり、おそらくさらに増加する。この時点で、約49%の患者において腫瘍の再発は観察されなかった。
【0038】
従って、本発明の療法は、少なくとも1年、具体的には少なくとも2年、少なくとも3年、または少なくとも4年の無病期間を、少なくとも30%の患者のために、具体的には少なくとも45%の患者のために提供する。
【0039】
注目すべきは、治療開始後2~3年または2~4年の期間において、新たな疾患の再発が観察されなかったことである。従って、この治療法は、治療開始後2年までの期間において疾患の再発がなかった患者の部分群において、疾患の再発を阻止するのに非常に有効である。
【0040】
これとは対照的に、第二選択療法としての標準BCGの投与は、前掲Di Lorenzoらによって記載されたように、治療開始から2年後、腫瘍の再発が観察されなかった患者はわずか5%未満であったため、全く有効ではなかった。
【0041】
本発明の療法のこの高い臨床効率は、臨床的に重要な有害事象の発生無しに見出された。従って、本療法は患者にとって全生存期間の利益につながる。
【0042】
従って、本明細書に記載された組換えマイコバクテリウム細胞の投与は、長期間において、例えば少なくとも1年の期間、具体的には少なくとも2年、少なくとも3年、または少なくとも4年の期間において、全生存期間を増加させるのに非常に有効である。治療開始から3年後、全生存率は70%~80%であった。
【0043】
具体的な実施形態において、本発明の療法は、多数の患者において膀胱切除術を回避するのに適しており、その結果、生活の質が高く改善される。例えば、少なくとも1年の期間、具体的には少なくとも2年、少なくとも3年、または少なくとも4年の期間、少なくとも30%の患者において、具体的には少なくとも45%の患者において、膀胱切除術が回避されうる。
【0044】
免疫療法剤は、生きた組換えマイコバクテリウム細胞であり、前記細胞は、以下を含む融合ポリペプチドをコードする、組換え核酸分子を含む:(a)免疫応答を誘発することができるドメイン、および(b)ファゴリソソームエスケープドメイン。免疫応答を誘発することができるドメインは、好ましくは、病原体由来の免疫原性ペプチドまたはポリペプチド、またはそれらの免疫原性断片である。
【0045】
マイコバクテリウム細胞は、好ましくは、ウシ型結核菌(M.bovis)細胞、結核菌(M.tuberculosis)細胞、具体的には弱毒化された結核菌細胞、または他のマイコバクテリウム属、例えば、M.microti、スメグマ菌(M.smegmatis)、M.canettii、マイコバクテリウム・マリナム(M.marinum)、またはM.fortuitumである。より好ましくは、細胞は、弱毒化された組換えウシ型結核菌(BCG)細胞、具体的にはウシ型結核菌BCG細胞、より具体的にはデンマーク株Prague亜型由来の組換えウシ型結核菌BCG細胞である(Brosch et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 104 (2007), 5396-5601)。特に好ましい実施形態において、マイコバクテリウム細胞は、組換えウレアーゼ欠損である。特に好ましい実施形態において、例えば、ハイグロマイシン遺伝子などの選択マーカー遺伝子により破壊されたureC遺伝子を含有する自殺ベクターを構築し、そのベクターを用いて標的細胞を形質転換し、ウレアーゼ陰性表現型を有する選択マーカー陽性細胞をスクリーニングすることによって、マイコバクテリウム細胞のureC配列は不活性化(ΔUrec)される。さらに好ましい実施形態において、選択マーカー遺伝子、すなわちハイグロマイシン遺伝子は、その後不活性化される。この実施形態において、細胞は、選択マーカーを含まない組換えマイコバクテリウム細胞である。最も好ましくは、細胞は、組換えBCG ΔUrec::Hly+として特徴付けられる、選択マーカーを含まない組換えBCGデンマーク株Prague亜型である。
【0046】
免疫応答を誘発することができるドメインは、好ましくは、ウシ型結核菌、結核菌、またはらい菌(M.leprae)由来の免疫原性ペプチドまたはポリペプチドから、または、少なくとも6個、好ましくは少なくとも8個のアミノ酸、より好ましくは少なくとも9個のアミノ酸、例えば20個までのアミノ酸の長さを有する、それらの免疫原性断片から、選択される。適切な抗原の具体例としては、結核菌由来のAg85B(p30)、ウシ型結核菌BCG由来のAg85B(α-抗原)、結核菌由来のAg85A、および結核菌由来のESAT-6、およびそれらの断片がある。他の実施形態において、免疫応答を誘発することができるドメインは、非マイコバクテリウムポリペプチドから選択される。
【0047】
より好ましくは、免疫原性ドメインは、抗原Ag85Bに由来する。最も好ましくは、免疫原性ドメインは、配列番号2のアミノ酸配列41~51を含む。
【0048】
組換え核酸分子は、ファゴリソソームエスケープドメイン、すなわち、融合ポリペプチドのファゴリソソームから哺乳動物細胞の細胞質への脱出を提供するポリペプチドドメインを、さらに含む。好ましくは、ファゴリソソームエスケープドメインは、参照により本明細書に組み込まれるUS5,733,151に記載されている、リステリア(Listeria)ファゴリソソームエスケープドメインである。より好ましくは、ファゴリソソームエスケープドメインは、リステリア・モノサイトゲネス(L.monocytogenes)のリステリオリシン遺伝子(Hly)に由来する。最も好ましくは、ファゴリソソームドメインは、以下から選択される核酸分子によってコードされる:(a)配列番号1に示されるヌクレオチド211~1722を含む、ヌクレオチド配列、(b)(a)からの配列と同じアミノ酸配列をコードする、ヌクレオチド配列、および(c)(a)または(b)からの配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、ヌクレオチド配列。
【0049】
配列番号1に示されるヌクレオチド配列とは別に、本発明はまた、これとハイブリダイズする核酸配列をも含む。本発明において、「ハイブリダイゼーション(hybridization)」という用語は、Sambrookら(Molecular Cloning. A laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989), 1.101-1.104)で定義されたように使用される。本発明に従って、「ハイブリダイゼーション」という用語は、1×SSCおよび0.1%SDSを用いて、55℃で、好ましくは62℃で、より好ましくは68℃で1時間、具体的には0.2×SSCおよび0.1%SDS中で、55℃で、好ましくは62℃で、より好ましくは68℃で1時間洗浄後に、陽性ハイブリダイゼーションシグナルがなお観察されうる場合に使用される。そのような洗浄条件下で、配列番号1によるヌクレオチド配列とハイブリダイズする配列は、本発明による好ましいファゴリソソームエスケープドメインをコードするヌクレオチド配列である。
【0050】
上述のファゴリソソームエスケープドメインをコードするヌクレオチド配列は、リステリア生物体から直接、または任意の組換え源、例えば上述の対応するリステリア核酸分子を含有する組換え大腸菌(E.coli)細胞、またはそのバリアントから得られうる。
【0051】
好ましくは、融合ポリペプチドをコードする組換え核酸分子は、シグナルペプチドをコードする配列を含有する。より好ましくは、シグナル配列は、マイコバクテリウム属において、好ましくはウシ型結核菌において、活性なシグナル配列であり、例えば天然のウシ型結核菌シグナル配列である。適切なシグナル配列の好ましい例は、Ag85Bシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列であり、これは配列番号1のヌクレオチド1~120に示される。
【0052】
さらに、免疫原性ドメインとファゴリソソームエスケープドメインとの間に、ペプチドリンカーが提供されることが好ましい。好ましくは、前記ペプチドリンカーは、5~50個のアミノ酸の長さを有する。より好ましくは、配列番号1のヌクレオチド154~210に示されるリンカーをコードする配列、または遺伝暗号の変性に関してそれに対応する配列である。
【0053】
核酸は、組換えベクター上に配置されうる。好ましくは、組換えベクターは、原核生物ベクター、すなわち、原核細胞における複製または/およびゲノム組込みのためのエレメントを含有するベクターである。好ましくは、組換えベクターは、発現制御配列と機能的に連結される本発明の核酸分子を運搬する。発現制御配列は、好ましくはマイコバクテリウム属において、具体的にはウシ型結核菌において活性な発現制御配列である。ベクターは、染色体外ベクター、または染色体への組込みに適したベクターでありうる。そのようなベクターの例は当業者に知られており、例えば前掲Sambrookらに示されている。
【0054】
本発明の免疫療法剤は、例えば以下のような膀胱癌の治療に適する:非浸潤性膀胱癌、例えば非浸潤性上皮内乳頭状癌(T)、非浸潤性上皮内癌(Tcis)、上皮下結合組織に浸潤する腫瘍(T)、表層筋(内側半分)に浸潤する腫瘍(T2a)、深層筋(外側半分)に浸潤する腫瘍(T2b)、膀胱周囲組織に浸潤する腫瘍(T3aおよびT3bを含むT)、前立腺、子宮、または膣に浸潤する腫瘍(T4a)、および、骨盤壁または腹壁に浸潤する腫瘍(T4b)。具体的には、腫瘍は、表在性腫瘍または上皮内癌(Tcis)、非浸潤性乳頭状癌(T)、または上皮下結合組織に浸潤する腫瘍(T)である。免疫療法治療は、原発性膀胱癌の治療および/または再発膀胱癌の治療に適する。
【0055】
免疫療法剤は、腫瘍部位へ、すなわち原発腫瘍の部位へ、手術前または手術後に、任意選択で化学療法後に、局所投与される。尿路上皮膀胱癌の治療では、薬剤は、好ましくは膀胱内へのベシクル滴下によって投与される。
【0056】
免疫療法剤は、治療される対象へ有効量で投与される。ヒト対象では、用量は、約10~1010生存単位(viable units)(CFU)、例えば約10~5×10または10~3×10生存単位でありうる。好ましくは、用量は、約2×10生存単位(CFU)である。好ましくは、免疫療法剤は、治療中の予定された時期に数回、例えば少なくとも3回または少なくとも5回から30回まで、具体的には約15回投与される。
【0057】
免疫療法剤は、一般に医薬製剤として提供され、固体形態の組換えマイコバクテリウム属細胞、例えば凍結乾燥または冷凍保存製剤を含み、使用前に適切な液体担体を用いて再構成される。あるいは製剤は、液体形態で、例えば懸濁液として提供されうる。
【0058】
一実施形態において、本発明の免疫療法剤は、上皮内癌の治療のために投与される。標準スケジュールは、導入療法として少なくとも4週間、例えば4、5、6、7、または8週間の、週1回の薬剤投与を含みうる。導入療法は、原発腫瘍の手術後2~3週間まで開始すべきではない。例えば4週間の無治療期間の後、少なくとも6か月または少なくとも1年間、投与は維持療法を用いて継続しうる。
【0059】
さらなる実施形態において、免疫療法剤は、腫瘍再発の予防的治療における導入療法において、投与される。この実施形態において、腫瘍部位の生検から約2~3週間後に療法が開始し、少なくとも4週間、例えば4、5、6、7、または8週間、例えば1週間間隔で繰り返されうる。中程度および高リスクの腫瘍においては、この後に維持療法が行われうる。
【0060】
維持療法は、1か月間隔で治療する長期療法、例えば6、9、12か月、またはそれ以上の療法を含みうる。あるいは維持療法は、3、6、12、18、24、30、および36か月目での、1週間間隔での2、3、または4回投与を含みうる。
【0061】
具体的な実施形態において、免疫療法剤、具体的には組換えBCG ΔUrec::Hly+は、標準BCG療法後に再発した患者における、筋層非浸潤性膀胱癌の治療のために使用される。免疫療法剤は、以下の間、週1回滴下を含むスケジュールに従って膀胱内へ投与される:週1回で例えば6回滴下する導入フェーズ、週1回で例えば3回滴下する約3か月後の第1維持フェーズ、例えば3回滴下する約6か月後の第2維持フェーズ、および例えば3回滴下する約12か月後の第3維持フェーズ。
【0062】
上述の組換えマイコバクテリウム細胞の免疫療法剤としての投与は、さらなる抗腫瘍療法、例えば放射線および/または化学療法と組み合わされうる。さらに上述の免疫療法は、免疫系を全般的に刺激するために、組換えマイコバクテリウム細胞の非腫瘍部位特異的投与と組み合わされうる。この非部位特異的投与は、WO2012/085101に記載されているように、例えば原発腫瘍の手術前に行われうる。この場合、薬剤は、好ましくは約1~10×10、好ましくは約2~8×10細胞の用量で、ヒト対象へ投与される。薬剤は、好ましくは単回投与として、例えば注入により投与される。皮下注入が好ましい。さらに、補助剤無しの薬剤を投与することが好ましい。
【0063】
さらに本発明は、以下の図および実施例1および2により、より詳細に説明される。
【0064】
これらの実施例において使用される免疫療法剤「rBCG」は、不活性化ureC配列(ΔUrec)を有し機能的選択マーカー遺伝子を有しない、配列番号2に示されるAg85B/Hly融合タンパク質を発現する(Hly+)、組換えウシ型結核菌(BCG)デンマーク株Prague亜型である。
【実施例
【0065】
[実施例1:標準BCG療法後に再発した筋層非浸潤性膀胱癌を有するヒト患者における、組換えBCG(rBCG)の膀胱内滴下の安全性および有効性を評価する、第I/II相オープンラベル臨床試験]
[1.1 第I相試験]
第I相試験は、TURBおよび標準BCG療法後に再発した筋層非浸潤性膀胱癌を有する患者における、膀胱内rBCG滴下の安全性、忍容性、および推奨される第II相用量を決定するために行われた。
【0066】
[1.2 第II相試験]
第II相試験は、標準BCG療法におけるTURB後に再発した筋層非浸潤性膀胱癌を有する患者における、膀胱内rBCG滴下の有効性、安全性、忍容性、および免疫原性を調べるために行われた。
【0067】
[1.3 臨床プロトコル]
rBCGは、週1回で15回の滴下で、膀胱内へ投与された(導入フェーズ:滴下1~6;維持3か月目:滴下7~9;維持6か月目:滴下10~12;維持12か月目:滴下13~15)。
【0068】
第I相試験の主要エンドポイントは、標準BCG療法後に再発した患者における、筋層非浸潤性膀胱癌(NMIBC)における膀胱内rBCG滴下の用量制限毒性(DLT)であった。DLT期間は、3回の滴下+1週間に相当し、治療によって誘発される急性毒性をカバーする。患者は3人ずつの2つのコホートで治療され、3+3デザインのルールに従った(用量段階的縮小ルール:用量レベル1で治療された患者がDLTの徴候を示す場合、滴下rBCGの用量は、レベル1よりも10倍低いレベル-1に減少する)。
【0069】
用量レベルは以下の通りであった:
・ 用量レベル1:1~19.2×10CFUのrBCG
・ 用量レベル-1:1~19.2×10CFUのrBCG
【0070】
[1.4 患者の選択]
[1.4.1 組み入れ基準]
- 膀胱に腫瘍がない状態を確認する反復TURBを含む、組織学的な再発NMIBCの確定診断;純粋なCISを有する患者には、反復TURBの必要はない。
- 併発CISを有する患者を除き、治療開始前の細胞診は陰性。
- 予定される治療開始は、最後のTURBから2~6週間後。
- 膀胱内BCG(少なくとも5回滴下の導入フェーズ±維持)を、NMIBCのために5年以内に以前1サイクル受けた。
- 欧州癌研究治療機関採点システムに基づく進行度(進行度スコア7~23)の再発高悪性度NMIBCであり、BCG療法(Babjuk M, Eur Urol 2008 PMID 18468779)が不成功で、根治的膀胱切除術または標準BCGを用いた再導入が必要である。
【0071】
これは具体的には、以前のサイクルのBCG療法開始後3か月と6か月の両時点で存在する高悪性度のNMBIC腫瘍を有し、および、BCG治療下で、より高い再発回数、より高い腫瘍カテゴリー、またはより高い悪性度などの任意の疾患の悪化を有し、または、最初の応答にもかかわらず、低悪性度腫瘍を含むCISの出現を有する患者を含む。
【0072】
[1.4.2 除外基準]
- 現在または過去の、≧T2の膀胱の尿路上皮癌(UC)。
- 上部尿路、前立腺、または尿道の併発UC、膀胱の小細胞癌、微小乳頭状尿路上皮癌、膀胱の純粋な扁平上皮癌、純粋な腺癌、TURB標本におけるリンパ管浸潤。
- 膀胱憩室における、過去または現在のUCの証拠。
- 登録時の(胸部-)腹部CTスキャンにおける、転移性疾患の証拠。
- 治療開始前2週間以内の、膀胱手術または劇的カテーテル法(dramatic catheterization)またはTURB。
- 過去3年以内の全身性細胞毒性薬の投与、または最初のBCG療法後(過去5年間)のEUC再発後の、膀胱内滴下による反復的な細胞分裂阻害薬/細胞毒性薬の投与。
【0073】
[1.5 現在の状況]
臨床第I相試験は終了している。第II相試験は、用量レベル1:1~19.2×10CFUのrBCGで行われた。
【0074】
活性薬剤は、デキストラン、グルコース、0.9%塩化ナトリウム、0.025%Tween 80、および注入用水を含有する、50mlの薬物溶液中で投与された。
【0075】
全ての評価可能な第II相患者の膀胱状態における3年目での再発の追跡データが、表1に示される。20人の患者が確認された事象を経験し、1人の患者が未確認の事象を経験した。この終了点では、10人の患者が生存し、追跡中であった。
【0076】
40人の患者が含まれ、全てが上述の高悪性度腫瘍であった。CISの比は高かった(68%)。図1に示されるように、膀胱における無再発状態(60週目での無再発生存率)は、49.3%であり、3年目では43.7%で、95%信頼区間は[26.9%,59.4%]であった。
【0077】
本治療は安全かつ忍容性が高く、十分な導入療法に耐えることができなかった患者は、わずか5%であった。用量制限毒性は発生せず、グレード3または4の有害事象は観察されなかった。
【0078】
追跡期間の中央値2.9年後の全生存率が、図2に示される。この分析までに、7人の患者が死亡し、9人の患者が追跡不能となり、24人の患者が追跡を継続した。2人の患者(8%)のみが、膀胱切除術を受ける必要があった。4人の患者は、化学療法に切り替える必要があった。
【0079】
[実施例2:従来型BCG療法後に再発した筋層非浸潤性膀胱癌を有するヒト患者における、組換えBCG(rBCG)の膀胱内滴下の安全性および有効性を評価する、第I/II相オープンラベル臨床試験]
[2.1 患者および方法]
[2.1.1 試験デザインおよび参加者]
本試験は、多施設、オープンラベル、シングルアーム、第I/II相試験としてデザインされ、現行版のヘルシンキ宣言、ICH-GCP、および国内法および規制要件に準拠して行われた。登録前に、全ての患者から書面によるインフォームド・コンセントを得た。
【0080】
適格患者は、従来型BCG療法後に再発した、進行度が中等度および高リスク(欧州癌研究治療機関採点システムに基づくスコア7~23)のNMIBCを有した。
【0081】
BCG療法の以前のサイクル開始後3か月と6か月の両時点で存在する、持続性T1疾患または高悪性度筋層非浸潤性腫瘍、または、BCG療法下での、より高い再発回数、より高い腫瘍カテゴリー、またはより高い悪性度など任意の疾患の悪化、または、最初の応答にもかかわらず上皮内癌(CIS)の出現が、必要とされた(EAU2008ガイドライン定義)。以前の療法は、膀胱内BCGの以前受けた1サイクル(導入フェーズ≧5回の滴下±BCG維持)と定義された。組み入れのためには、組織学的な再発NMIBCの確定診断、および現行の病理学的ガイドラインに従って腫瘍がない状態を確認する反復する経尿道的膀胱切除術(TURB)が、必須であった。CISを示す患者には、選択的上部尿路細胞診および前立腺部尿道の生検が、推奨された。試験治療開始時に、膀胱洗浄細胞診は陰性でなければならなかったが、純粋または併発CISを有する患者、および転移性疾患を認めない画像診断の患者は例外であった。
【0082】
除外基準は、ステージ≧T2の膀胱の尿路上皮癌、上部尿路、非前立腺部尿道の併発尿路上皮癌、または転移性疾患の証拠であった
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02371447)。
【0083】
rBCGは、1~19.2×10CFU/バイアルの生きたウシ型結核菌BCGΔureC::hly(SIIPL,Serum Institute of India Private Limited、プネー(Pune)、インド)の製剤化された凍結乾燥粉末として提供され、膀胱内適用のために50mlの0.9%塩水中に再構成された。患者には、週1回で6回の膀胱内滴下に続いて1年間の維持(最初の滴下から3、6、および12か月後に3回の滴下)という、標準治療が予定された。
【0084】
第II相段階の主要エンドポイントは、登録から60週後の膀胱における無再発率(RFR)として定義された。細胞診陽性または膀胱鏡検査での膀胱内腫瘍の視認により再発が疑われる場合は、再発の組織学的証明が必要とされた。前立腺部尿道における癌に関連する膀胱における再発、または上部尿路における癌の証拠は、膀胱における再発とはみなされなかった。予め定義された副次的エンドポイントには、試験登録から膀胱における再発までの時間、進行までの時間、全生存期間(OS)、AE、忍容性、およびQoLを含んだ。進行は、筋層浸潤性膀胱癌への進行または転移性疾患への進行と定義された。OSは、登録からいずれかの原因による死亡までで計算された。忍容性は、治療開始後12週間以内に導入の5回の滴下を終了した患者の比率として定義された。
【0085】
[2.1.2 統計分析]
標本数の計算のために、BCG再曝露とゲムシタビンとを比較した、数少ない前向き無作為化欧州試験の1つから、我々はRFRを推定した。この試験において、BCGを受けている群では、最後のTURBから60週後の推定RFRおよび無進行率は、それぞれ15%および62.5%であった。シングルステージデザインには、H0:60週目のRFR≦15%;およびH1:60週目のRFR≧30%が使用された。有意水準10%および検出力80%のためには、登録から60週後に評価されたカプラン=マイヤー推定値に基づき、第II相試験のために37人の評価可能な患者が必要であった(R package OptInterim)。第I相段階からの6人の患者が、第II相段階に含まれた。評価不能な患者を考慮し、標本数は39人の患者に増加した。
【0086】
[2.2 結果]
[2.2.1 患者]
2015年9月から2018年4月までに、42人の患者が試験に登録された。合計16施設が活動を開始し、14施設が積極的に患者を募集した。2人の患者は主要な組み入れ基準違反のため有効性解析から除外されねばならなかったが、安全性/ITT解析には残った。40人の患者が、最大の解析対象集団(full analysis set)(FAS)を定義し、プロトコル適合集団(per protocol population)(PP)は、22人の患者から構成された。解析された集団の定義および除外の詳細な理由は、図3に示される。
【0087】
患者コホートの原発性NMIBC発生の詳細な腫瘍特性が表2に、FASの詳細な患者および腫瘍特性が表3に示される。再発NMIBCの進行リスクの中央値は、原発発生と比較して7リスクポイント増加した。膀胱癌のリスク因子として化学曝露歴が3人の患者に認められた一方、21人の患者(52.5%)が喫煙歴を有し、中央値(範囲)は38(4.0~99.0)pack-yearsであった。27人(67.5%)の患者に、併発または純粋なCISが存在した。14人の患者(35%)が、BCG維持療法を受けた。進行度スコアの中央値は、以前BCG維持を受けた患者で16(7~20)、受けていない患者で16(7~19)であった。
【0088】
試験に登録された全ての患者は、試験治療を開始した。32人の患者(80%)は、維持療法を開始した。15人の患者(37.5%)が、全ての予定された導入および維持療法の滴下を受けた。試験中に治療を中止した詳細な理由は、図3に示される。解析時の追跡期間の中央値は、74.4(12.3~140.9)週であった。
【0089】
[2.2.2 主要エンドポイント]
rBCG導入および維持療法後、49.3%[95%CI(信頼区間)32.1,64.4]の患者は、試験登録から60週後に膀胱において再発が認められなかった。追跡期間の中央値の2.9年後、RFRは試験登録から2および3年後で、それぞれ47.4%[30.4%,62.6%]および43.7%[26.9%,59.4%]を維持した。試験登録から膀胱における再発までの時間の中央値は、54.1週[95%CI 38.4週]であった(図4)。登録から60週後のITTおよびPP集団についての膀胱におけるRFRは、それぞれ48.0%[95%CI 31.1,63.0]および40.8%[95%CI 19.9,60.9]であった。FAS集団における組織学的には未確認だが臨床的に明らかな膀胱外再発を含む全ての潜在的再発を考慮する場合、60週RFRは、47.6%[95%CI 30.8,62.6]に達した。CISを有する患者(n=27)のうち、15人(55.6%;95%CI[35.3%,74.5%])が、治療開始後12週目で完全奏効(CR)を示した。これら15人の患者の奏効期間(DOR)の中央値は、1.1年(95%CI[0.4年~未到達])であった。主要エンドポイントに関するさらなるサブグループ評価は、表3に示される。
【0090】
[2.2.3 副次的エンドポイント]
FASから7人の患者が、進行性疾患を経験した(進行までの時間の中央値は、未到達)。3人の患者が筋浸潤性疾患への進行を示し、4人の患者が転移性疾患(所属リンパ節n=3、遠隔転移n=1)に進行した。転移性疾患を有する患者のうち、膀胱において併発筋浸潤性疾患を有する患者はいなかった。
【0091】
試験治療後に再発した患者のための追跡治療を、表5に列挙する。解析時までに、5人の患者が死亡した(2人は膀胱癌、2人は組み入れ時に判明しなかった他の癌、1人は試験治療とは無関係の急性呼吸促迫症候群)。
【0092】
要約すると、試験登録から60週後の無進行率およびOS率は、それぞれ76.3%[95%CI 56.4,88.0]および92.9%[95%CI 74.3,98.2]であった。
【0093】
[2.2.4 有害事象および忍容性]
治療関連AEを、表6に列挙する。主なグレード2のAE用語は、3分の1の患者における、一般的な尿路病原性細菌による泌尿生殖器感染症であった。2人の患者は、泌尿生殖器感染症のための院内抗生物質治療を受けねばならなかった。
【0094】
治療フェーズ中、グレード4または5のAEは発生しなかった。42人の患者のうち2人は、5回未満の滴下を受けたが、1人は外傷性カテーテル法によるBCG誘発全身性炎症反応(BCGitis)によるもの、1人は患者の拒否によるものであった(図3)。
【0095】
[2.2.5 PPD検査]
77.5%の患者が、治療開始時にPPD陰性(PPD-)であった(表2)。rBCG療法終了後のPPD検査の転換は、7人の患者にのみ見られた(PPD-からPPD+:n=5;PPD+からPPD-:n=2)。15人の患者(37.5%)が、PPD-からPPD+に転換しなかった。これらの患者では、膀胱におけるRFRは62.9%であった(表4)。
【0096】
[2.2.6 生活の質]
FAS中の40人の患者全てが、ベースライン時にQoL質問表に回答し;維持療法を開始した33人中32人(97%)の患者が、維持療法の開始時に回答し、40人中32人(77.5%)が、治療の終了時に回答した。14人の患者(45.2%)が、プロトコルの要求に従った15回の滴下後にQoL評価に回答した。患者はベースライン時に、機能的尺度のQoLが高く、症状負担が少なかったと報告した。泌尿器症状、将来の不安、および性的問題に関して、いくつかの障害が報告された。ほとんどのQoL尺度は、ベースラインから維持療法の開始まで安定したスコアを示した。情緒的機能および泌尿器症状については、わずかな改善が観察された。将来の不安は、臨床的に関連のある程度まで改善した(すなわち、患者が不安を表明することが少なくなった)。ほぼ半数(n=13、49%)の患者が、情緒的機能における臨床的に関連のある改善を報告したが、一方約3分の1が、導入療法中に、身体的な健康(n=10、30%)、全体的な健康状態/QoL(n=11、33%)、または疲労(n=10、30%)における、臨床的に関連のある悪化を報告した。プロトコルに従って治療を完了した患者では、QoL尺度のいずれにおいてもベースラインから治療の終了まで、大きな変化は観察されなかった。
【0097】
[2.3 考察]
[2.3.1 エンドポイント分析]
我々は、rBCGを試験するために、以前に従来型BCG曝露を受けた、再発および進行についての高リスク集団を選んだ。これらの患者におけるBCG再曝露の成績が悪く、12および24か月目のRFRは、それぞれ15%および3%であったと報告されていることから、プラセボ対照試験または従来型BCGとの比較試験は、非倫理的であると我々は考えた。膀胱におけるRFRは49.3%であり、このシングルアーム試験は、予め定義された試験登録から60週後にRFR>30%という主要エンドポイントを、明らかに達成した。このことはまた、再発の定義を、FAS集団、ITTおよびPP集団における、組織学的に未確認の臨床的に明らかな再発を含む膀胱外再発まで拡張した場合にも当てはまり、同様に患者がBCG維持を受けたかどうかに関わらず当てはまる(表3)。2および3年後ではRFRが47.4%および43.7%であり、治療応答は安定しており、長期的効果が期待できることを示す。
【0098】
本試験の開始後、米国食品医薬品局(FDA)はBCG不成功の新たな定義を発表し、国際膀胱癌グループ(International Bladder Cancer Group)は、BCG不応答患者におけるシングルアーム試験について、臨床的に意味のある初回完全奏効率(CISについて)または無再発率(乳頭状腫瘍について)を、12か月目で少なくとも30%とすることを推奨した。FDAのBCG不成功の定義に従うと、16人の患者(40.0%)が、BCG不応答疾患に該当した。これらのより厳しい基準を適用した場合、60週RFRは24.0%まで低下した(表3)。
【0099】
主要エンドポイントに関するさらなるサブグループ分析は、喫煙状況、CISの存在、および以前のBCG維持療法が、本試験における成績の悪化と関連する可能性を示したが、しかし統計学的に有意ではなく、やはり標本数が少ないことが原因である(表3)。
【0100】
ほとんどの再発患者は、膀胱切除術または他の局所治療を受け、3人の患者は全身化学療法を受けた(表4)。組み入れ時に転移性疾患を見逃したことは、そのような致命的な進行の説明となりうる一方、転移性疾患がTUR後に、および/または膀胱内試験治療下で進行した可能性も否定できない。注目すべきは、転移性疾患を有する患者のうち、膀胱において併発筋浸潤性疾患を有する患者はいなかったことである。
【0101】
[2.3.2 有害事象および忍容性]
最も多いAEは、一般的な細菌による泌尿生殖器(GU)感染症で、3分の1の患者において発生した。可能性のある説明としては、i)滴下用の防腐剤を含む潤滑剤が禁止されていたこと、およびii)尿一般検査が陽性である無症状の患者は、尿培養が陽性であった場合、抗生物質治療を受けねばならなかったことがある。重要なことは、GU感染症が患者のQoLに有意に影響しなかったことである(図示していない)。グレード4または5のAEは発生せず、忍容性(導入期間中に4回を超える滴下を受けた患者と定義)は95.2%であった。従って、本治療は安全かつ忍容性が高いと考えられる。
【0102】
[2.3.3 PPD検査]
実験モデルは、治療開始前のPPD+状態、または治療中のPPD-からPPD+状態への転換のいずれかが、治療に対する応答を予測しうると示唆した。臨床試験において、PPD検査と成績との臨床的相関は、以前のマイコバクテリウム属曝露、および検査自体の実施および解釈における異なる取扱いによって、異質な結果により相反するものであった。本試験において、ほとんどの患者(77.5%)が、以前にBCGに曝露されていたにもかかわらず、rBCGによる治療開始前のPPD検査が陰性であった。予期せぬことに、組み入れ時にPPD検査が陰性であった患者は、膀胱における60週RFLが52.8%を示し、PPD-からPPD+への転換がなくても、膀胱におけるRFLは62.9%のままであり(n=15;表3)、PPD検査陰性および非転換は、この環境では治療成績を予測できない可能性があることを示している。
【0103】
[2.3.4 QoL]
導入および維持療法中に、患者は全体的に安定したQoLを報告したが、情緒的機能および将来の不安についてはわずかな改善があった。約30%の患者が、導入療法中に、身体機能、全体的QoL、または疲労について、臨床的に関連のある悪化を報告した。興味深いことに、プロトコルに従って治療を完了した患者では、いずれのQoL尺度についても大きな変化は観察されなかった。繰り返すが、比較アーム無しの限られた標本数であるため、これらのQoL結果の解釈には慎重を期す。
【0104】
より大規模な試験において良好なQolおよび忍容性が確認されれば、rBCGはBCG治療に耐えられなくなる患者の比率を減少させる可能性があり、効率を上げるためにチェックポイント阻害剤などの他の薬剤と併用されうる。
【0105】
[2.4 結論]
本試験は主要エンドポイントを達成し、1年後にほぼ半数の患者において、膀胱内rBCG治療後の膀胱において再発がないことを示す。rBCGは有望な忍容性、安全性、およびQoLプロファイルを有する。
【0106】
[表および図の説明]
表1.全ての評価可能な第II相患者の膀胱状態における、3年目での再発の追跡データ。
【0107】
表2.NMIBCの最初の発生(最初の従来型BCG治療前)の、ベースライン腫瘍特性。
【0108】
表3.FAS(最大の解析対象集団)のベースライン患者および腫瘍特性。WHO:世界保健機関。BCG:Bacillus Calmette Guerin。CIS:上皮内癌。EORTC:欧州癌研究治療機関。
【0109】
表4.60週での膀胱における無再発率(95%CIを含む)を示す、FASのサブグループ有効性解析。CIS:上皮内癌。BCG:Bacillus Calmette-Guerin。FDA:米国食品医薬品局。PPD:精製タンパク質誘導体。
【0110】
表5.試験治療後に再発および/または進行した患者の治療。BCG:Bacillus Calmette Guerin。複数の治療を受けた患者もいた。膀胱切除術を受けた患者13人のうち1人は、癌の再発のためではなく慢性膀胱炎のために手術を受けた。
*登録後60週以降の再発に基づき、これらの治療のうちの1つが行われた。
【0111】
表6.治療フェーズにおける治療関連有害事象(AE)。BCG:Bacillus Calmette-Guerin。GU:泌尿生殖器。
【0112】


【0113】

【0114】

【0115】
【0116】

【0117】
【0118】
配列番号1および配列番号2として記載されている配列は、以下の通りである:

【0119】

【0120】

図1
図2
図3
図4
【配列表】
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【国際調査報告】