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特表2024-530408LC-MSによるヒト脳脊髄液中の高リン酸化Tauの決定方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-21
(54)【発明の名称】LC-MSによるヒト脳脊髄液中の高リン酸化Tauの決定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20240814BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240814BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20240814BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240814BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20240814BHJP
【FI】
G01N33/48 A
G01N27/62 V ZNA
C12Q1/37
G01N33/68
C07K14/47
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502004
(86)(22)【出願日】2022-08-04
(85)【翻訳文提出日】2024-03-13
(86)【国際出願番号】 EP2022071958
(87)【国際公開番号】W WO2023012278
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】21190078.2
(32)【優先日】2021-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】591143065
【氏名又は名称】ハー・ルンドベック・アクチエゼルスカベット
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100141195
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブセン,アン-マリー
(72)【発明者】
【氏名】オルセン,ライン,ロールベック
(72)【発明者】
【氏名】マルベル,ニコ,ファン デ
(72)【発明者】
【氏名】シャルク,フランク
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA12
2G041HA01
2G041JA02
2G041JA10
2G041LA08
2G045AA25
2G045BA13
2G045BB60
2G045DA36
2G045FA40
2G045FB06
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QR16
4B063QS40
4B063QX04
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA50
(57)【要約】
本発明は、サンプル中のpS396Tauを測定する方法であって、i~ivのステップ、i)Tau病態を患っているか又は患っていることが疑われる対象からのCSFサンプルをトリプシンで処理するステップと、ii)ステップi)のサンプルを脱リン酸化剤にさらし、続いて、ステップiv)のためにサンプルの一部を取り置きした後、残りのサンプルを用いてステップiii)に進むステップと、iii)ステップii)からの脱リン酸化サンプルを第2のトリプシン処理にさらすステップと、iv)LC-MSを用いて、ステップii)及びステップiii)からのサンプル中のTau残基396~406に相当するTauペプチド(SPVVSGDTSPR)の量を測定するステップとを含む方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中のpS396Tauを測定する方法であって、i~ivのステップ、
i)Tau病態を患っているか又は患っていることが疑われる対象からのCSFサンプルをトリプシンで処理するステップと、
ii)前記ステップi)のサンプルを脱リン酸化剤にさらし、続いて、ステップiv)のために前記サンプルの一部を取り置きした後、残りのサンプルを用いてステップiii)に進むステップと、
iii)前記ステップii)からの脱リン酸化サンプルを第2のトリプシン処理にさらすステップと、
iv)LC-MSを用いて、前記ステップii)及び前記ステップiii)からのサンプル中のTau残基396~406に相当するTauペプチド(SPVVSGDTSPR)の量を測定するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記ステップiv)で測定された、前記ステップii)及び前記ステップiii)からのTauペプチド(SPVVSGDTSPR)の量を比較するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップiv)で得られた結果と、Tau残基260~267(IGSTENLK)を含む対照とを比較するステップをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記対象はヒトである、請求項1~3に記載の方法。
【請求項5】
前記Tau病態は、アルツハイマー病、ダウン症候群、嗜銀顆粒病(AGD)、精神病、特に、ADによる精神病又はAD患者における精神病、ADによるアパシー又はAD患者におけるアパシー、レビー小体型認知症患者の精神症状、進行性核上性麻痺(PSP)、前頭側頭型認知症(FTD又はその変異型)、TBI(外傷性脳損傷、急性又は慢性)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、ピック病、原発性加齢性タウオパチー(PART)、神経原線維変化優位型老年認知症、拳闘家認知症、慢性外傷性脳症、脳卒中、脳卒中回復、パーキンソン病に関連する神経変性、染色体に連鎖するパーキンソニズム、Lytico-Bodig病(グアムのパーキンソン-認知症複合)、神経節膠腫及び神経節細胞腫、髄膜血管腫症、脳炎後パーキンソニズム、亜急性硬化性全脳炎、ハンチントン病、鉛脳症、結節性硬化症、ハラーフォルデン-シュパッツ病及びリポフスチン沈着症から選択される、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記Tau病態はアルツハイマー病又はダウン症候群である、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
Tau病態を有する患者を診断するための、先行請求項のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項8】
Tau病態を有する患者の疾患を監視するための、先行請求項のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項9】
Tau病態を患っている対象における治療効果を監視するための、先行請求項のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項10】
前記治療は、抗Tau抗体治療である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記Tau病態は、アルツハイマー病、ダウン症候群、嗜銀顆粒病(AGD)、精神病、特に、ADによる精神病又はAD患者における精神病、ADによるアパシー又はAD患者におけるアパシー、レビー小体型認知症患者の精神症状、進行性核上性麻痺(PSP)、前頭側頭型認知症(FTD又はその変異型)、TBI(外傷性脳損傷、急性又は慢性)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、ピック病、原発性加齢性タウオパチー(PART)、神経原線維変化優位型老年認知症、拳闘家認知症、慢性外傷性脳症、脳卒中、脳卒中回復、パーキンソン病に関連する神経変性、染色体に連鎖するパーキンソニズム、Lytico-Bodig病(グアムのパーキンソン-認知症複合)、神経節膠腫及び神経節細胞腫、髄膜血管腫症、脳炎後パーキンソニズム、亜急性硬化性全脳炎、ハンチントン病、鉛脳症、結節性硬化症、ハラーフォルデン-シュパッツ病及びリポフスチン沈着症から選択される、請求項7~10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記Tau病態はアルツハイマー病又はダウン症候群である、請求項7~10のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリプシン消化及び液体クロマトグラフィー/質量分析ワークフロー(LC-MS)を用いて、ヒト脳脊髄液(CSF)中の高リン酸化Tau、特に、Tauの396位のセリン残基(S396)でリン酸化されたTauを決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)又はダウン症候群などのTau病態においてTau病態の進行を追跡する方法は、患者を診断するため、又はその病期を監視するために非常に適切であり得る。現在、後になってADに進行する可能性のある軽度認知機能障害(MCI)を有する患者に見られるようなTau病態の初期段階の患者を特定するために、診断及び予測バイオマーカー、並びに分類目的のバイオマーカーが臨床的に強く必要とされている。
【0003】
有望な脳脊髄液(CSF)バイオマーカー候補は、十分な診断精度及び予測力を有することが判明する可能性のある総Tauタンパク質及びリン酸化Tauタンパク質(pTau)である。本発明者らは、セリン396でリン酸化された(pS396)Tauタンパク質を用いて、高リン酸化Tauを検出することができるアッセイを開発し、この分析/バイオマーカーは、例えば、高レベルのヒトTau及びTau病態を発現するトランスジェニックマウスにおける抗体治療の効果を示し得ることが示された。
【0004】
本発明の発明者らは、高リン酸化Tau病態における特徴である、Tauがセリン396でリン酸化されている(pS396)場合、トリプシンがアミノ酸リジン395の後で切断しないという事実を利用する方法を用いて、pS396-Tauを測定する信頼できる方法を見出した。したがって、この部位でリン酸化されていないTauタンパク質のみがトリプシンによって切断され、ペプチド
【化1】

(配列番号1)が生じることになる。ここで、
【化2】

は非リン酸化S396セリンである。
【0005】
Tauタンパク質は、(少なくとも)6つのプロテオフォーム(352~441アミノ酸の範囲)からなり、翻訳後修飾(PTM)のために80を超える可能な部位を含有する非常に複雑な構造である。不均一な構造は、対象となるシグネチャーペプチドの質量が可能性なPTMに応じて変化し得るので、タンパク質の質量分光分析にとっての課題である。
【0006】
本発明において、対象となるシグネチャーペプチドは、セリン396を含有する。トリプシンの切断点は、後のアミノ酸がリン酸化されている場合を除いて、アミノ酸Lys(K)及びArg(R)のカルボニル(C)側である。したがって、pS396-Tauの分析の場合、トリプシン切断により、シグネチャーペプチド
【化3】

(配列番号2)が生じる。しかしながら、このペプチドは、アミノ酸T386、Y394、S400、T403及びS404においてリン酸化されている(又はされていない)可能性がある。これらのリン酸化の種々の可能な組合せは何百もの異なるペプチドをもたらし、これらはそれぞれ、LC-MS分析に対して特定のクロマトグラフ保持時間及び/又は分子質量を有する。pS396を含有するシグネチャーペプチドの直接定量分析がLC-MSを用いて実行される場合、リン酸化ペプチドの個々の変化形のそれぞれの定量化が必要とされ得る。このアプローチは膨大な分析作業を必要とし、pS396のより重要な分析シグナルがこれらの種々のペプチドに「希釈」され得る。ヒトCSF中のpS396の予想濃度は低pM範囲なので、このような直接分析を適用する場合、質量分析計の感度への要求が制限となり得る。
【0007】
したがって、本発明の態様は、CSFから得られるサンプルのトリプシン消化にある。本発明では、単一のヒトTau由来ペプチドSPVVSGDTSPR[aa396~406](配列番号1)に分析の焦点を合わせることを可能にする、間接的な分析アプローチが適用される。
【0008】
この方法では、S396におけるリン酸化によってこの位置でトリプシンがタンパク質鎖を切断することが防止され、したがって、S396-リン酸化Tauタンパク質のトリプシン消化は、ペプチドTDHGAEIVYK[p]SPVVSGDTSPR(配列番号2)をもたらすという事実を利用する。したがって、S396でリン酸化されていないTauタンパク質のみが最初のワークフローでトリプシンによって切断され、ペプチドSPVVSGDTSPR(配列番号1)をもたらす(ホスファターゼ処理により全ての可能なリン酸化を除去した後)。したがって、SPVVSGDTSPRのワークフロー1分析は、非リン酸化S396の量に相当する。
【0009】
ワークフロー2では、第2のトリプシン消化が適用される。ペプチドSPVVSGDTSPR(配列番号1)はこの処理の影響を受けないが、TDHGAEIVYKSPVVSGDTSPRは、セリン396においてペプチドがもはやリン酸化されていない(ホスファターゼ処理により除去される)ので、この時点でアミノ酸リジン395とセリン396との間で切断されることになる。したがって、第2のトリプシン消化により追加量のSPVVSGDTSPRが生じ、ワークフロー2分析は、非リン酸化S396及びリン酸化S396の合計(Tauの総量に等しい)に相当する。
【0010】
したがって、ワークフロー1及びワークフロー2で測定されるSPVVSGDTSPR[396~406](配列番号1)の量の差は、最初にS396でリン酸化されていたTauタンパク質(pS396-Tau)の量に等しい。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、CSFサンプル中のpS396Tauを測定する方法であって、
i)Tau病態を患っているか又は患っていることが疑われる対象からの(インビトロ)CSFサンプルをトリプシンで処理するステップと、
ii)ステップi)のサンプルを脱リン酸化剤にさらし、続いて、ステップiv)のためにサンプルの一部を取り置きした後、残りのサンプルを用いてステップiii)に進むステップと、
iii)ステップii)からの脱リン酸化サンプルを第2のトリプシン処理にさらすステップと、
iv)LC-MSを用いて、ステップii)及びステップiii)からのサンプル中のTau残基396~406に相当するTauペプチド(SPVVSGDTSPR(配列番号1))の量を測定するステップと
を含む方法に関する。
【0012】
本方法は、Tau病態を有する患者を診断する、又はTau病態を有する患者の疾患を監視するのに使用することができる。或いは、本方法は、Tau病態を有する患者の治療効果を監視するために使用可能であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】全長Tauタンパク質と、LC-MS分析のために選択されたペプチドであるTau(260~267)及びTau(396~406)との概略図である。またこの図は、S396上のリン酸化の位置(pS396)及びペプチドTDHGAEIVYK[p]SPVVSGDTSPR(Tau(386~406))も示し、これは、リジン395における切断ミスの結果である。pS396-Tauは、脱リン酸化の前後のTauペプチド(アミノ酸396~406)濃度の差として間接的に測定される。
図2】S396での30%のリン酸化によって例示されるS396リン酸化Tauの分析について、サンプルワークフローの個々のステップで得られるシグネチャーペプチドを示す理論的なLC-MS/MSクロマトグラムである。本方法ではSPVVSGDTSPR(配列番号1)が測定されるが、この図には参考のためだけにTDHGAEIVYKSPVVSGDTSPR(配列番号2)が含まれる。上部区画(A+B)は、第1のトリプシン消化及び脱リン酸化の後の分析ピークを示す。A:TDHGAEIVYKSPVVSGDTSPRの分析ピークはS396でリン酸化されたTauに相当する(切断ミス)が、B:SPVVSGDTSPRの分析ピークはS396でリン酸化されていないTauに相当する。下部区画(C+D)は、第2のトリプシン消化後に得られる分析ピークを示す。C:TDHGAEIVYKSPVVSGDTSPRは、この時点でリジン395部位において切断されている(S396はもはやリン酸化されていない)ので、これは検出不能である。D:SPVVSGDTSPRの分析ピークは、区画Aのピークに相当する面積を伴って増大する。追加の面積は、S396でリン酸化された(pS396)Tauの量に相当する。
図3A図3A-B。ヒトCSF中のTau(396~406)SPVVSGDTSPRペプチドの内因性レベルの分析についてのLC-MS/MSクロマトグラムである。パネルAは、ワークフロー1の後(すなわち、第1のトリプシン消化及び脱リン酸化後)に得られたクロマトグラムを示し、パネルBは、ワークフロー2の後(すなわち、第2のトリプシン消化後)のクロマトグラムを示す。分析ピーク面積は、WF1の30489カウントからWF2の52585カウントまで増大し、22096カウント又は42%の差に等しいことに注意されたい。この差は、S396におけるリン酸化(pS396)の量に相当する。
図3B】上記と同じ。
図4-1】図4A-D。人工CSFにおいて調製された較正標準中のTau(396~406)SPVVSGDTSPRペプチドの分析についてのLC-MS/MSクロマトグラムである。パネル1はブランクサンプルを示し、パネル2は定量下限(LLOQ)に相当する2pMの較正標準を示し、パネル3は20pMの較正標準(ヒトCSF中の通常のレベル)を示し、パネル4は定量上限(ULOQ)に相当する100pMの較正標準を示す。各パネルにおいて、図aは非標識ペプチドであり、図bは内部標準(15N-SPVVSGDTSPR)である。
図4-2】上記と同じ。
図4-3】上記と同じ。
図4-4】上記と同じ。
図4-5】上記と同じ。
図4-6】上記と同じ。
図4-7】上記と同じ。
図4-8】上記と同じ。
図5】対照hIgG抗体(B12、Tauに結合することは予想されない)、又はpS396-Tauエピトープを標的とするように開発されたモノクローナルhIgG抗Tau抗体のいずれかを6週間投与(週1回)した後に、トランスジェニックマウス(rtg4510)からのCSFサンプルの分析で得られたデータである。若齢マウスは、CSFを採取したときに3.5ヶ月であり、低レベルのTau病態を有することが分かっている。老齢マウスは、CSFを採取したときに9カ月であり、その齢で重度レベルのTau病態を有することが分かっている。上部区画はTau(396~406)の分析の結果を示し、下部区画は、第2のトリプシン消化の前後のTau(396~406)の間の差として計算されたS396リン酸化Tauの結果を示す。対照抗体処置マウスでは、tau(396~406)及びpS396の測定濃度は、若齢マウスと比較して老齢マウスの方が高いことが観察され得る。さらに、老齢マウス(Tau病態を有する)では、抗Tau hIgGによる処置後にtau(396~406)及びpS396の用量依存的な減少が観察される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
参照によって援用される配列
配列番号1 SPVVSGDTSPR(Tau396~406)
配列番号2 TDHGAEIVYKSPVVSGDTSPR(Tau386~406)
配列番号3 IGSTENLK(Tau260~267)。
【0015】
発明の説明
本発明は、ヒト脳脊髄液(CSF)サンプル中のセリン残基S396でリン酸化された(pS396)Tauの量を測定するアッセイに関する。目的は、特に、診断が所望される対象又は治療の効果を決定若しくは監視すべき対象において、pS396を測定することによって対象のCSF中の高リン酸化Tauの尺度を得ることである。これらの対象は、アルツハイマー病(AD)及びダウン症候群などのTau病態を患っているか又は患っていることが疑われる。
【0016】
本発明の発明者らは、CSF中の高リン酸化Tauの間接的な尺度として、pS396Tauの分析を使用した。トリプシン切断ステップを使用することにより、本発明の発明者らは、リン酸化されているときにTauのセリン残基396(S396)の直前でトリプシンがTauを切断できないことを利用した。
【0017】
したがって、本発明の態様は、CSFから得られるサンプルのトリプシン消化にある。TauがS396位でリン酸化されていないと、トリプシンは残基S396の直前で切断して、ペプチドSPVVSGDTSPR[アミノ酸396~406]を生成することができる。この断片は、例えば、Tau病態のない健常者において優勢である。Tau病態の病期(例えば、AD)において、Tauは高リン酸化され、残基S396もリン酸化されることになる。pS396を生じるS396でのリン酸化はトリプシンの切断能力を妨害し、したがって、トリプシン消化によってシグネチャーペプチドSPVVSGDTSPRが生じないことになる。代わりに、より大きいペプチドTDHGAEIVYKSPVVSGDTSPRが生じる。
【0018】
一態様では、本発明は、
i)対象(例えば、ヒト)からのCSFサンプルをトリプシンで処理するステップと、
ii)ステップi)の残りのサンプルを脱リン酸化剤(ホスファターゼなど)にさらし、続いて、ステップiv)のためにサンプルの一部を取り置きした後、ステップiii)に進むステップと、
iii)ステップii)からの脱リン酸化サンプルをトリプシン処理にさらすステップと、
iv)ステップii)及びステップiii)からのサンプル中のペプチドSPVVSGDTSPRの量を測定する(例えば、LC-MSを用いて)ステップと、
v)任意選択的に、ステップiv)で測定されたステップii)及びステップiii)からのTauペプチド(SPVVSGDTSPR)の量を比較するステップと、
vi)任意選択的に、ステップiv)で測定されたステップii)及びステップiii)からのTauペプチド(SPVVSGDTSPR)の量と、リン酸化による影響を受けないトリプシン消化されたTauペプチド断片(例えば、残基260~267(IGSTENLK)を含むTauペプチド)(配列番号3)などの対照とを比較するステップと
を含む方法に関する。
【0019】
トリプシンは、セリン396がリン酸化されていない場合にだけアミノ酸リジン395とセリン396の間を切断することができるので、上記ステップii)で測定されるSPVVSGDTSPRは、CSFサンプル中の非リン酸化S396に相当するSPVVSGDTSPRの部分を測定することになる。
【0020】
ステップiii)において、第2のトリプシン消化は、ステップii)の脱リン酸化ステップの後に適用される。ステップi)からのリン酸化及び非切断TauペプチドTDHGAEIVYKSPVVSGDTSPRの部分は、セリン396においてTauがもはやリン酸化されていないので、この時点でアミノ酸リジン395とセリン396の間で切断されることになる。したがって、第2のトリプシン消化は、非リン酸化S396及びリン酸化S396の合計(Tauの総量)に相当する追加量のSPVVSGDTSPRをもたらす。
【0021】
さらに、ステップi)の後に直接測定されるSPVVSGDTSPR(非リン酸化S396)の量と、ステップiii)の第2の消化後に測定されるSPVVSGDTSPR(総Tau)の量との差は、S396でリン酸化されたTauタンパク質の量である。IGSTENLK[260~267]はリン酸化部位を全く含有しないので、このペプチドは参照ペプチドとしての役割を果たし、第2のトリプシン消化ステップの前後で同じ濃度が測定されるはずである。これは、Tauタンパク質の総濃度を測定するための確認ペプチドとしての役割を果たす。
【0022】
脱リン酸化ステップの前にトリプシンの残留物を除去するために、ステップi)でトリプシン消化されたペプチドは、脱リン酸化処理の前に固相抽出(SPE)にさらされる(リン酸化が除去されたときにS396における切断を回避するため)。脱リン酸化の前に、pHは5.5に調整される。このpHでは、トリプシンの酵素活性は最小限にされるが、ラムダタンパク質ホスファターゼ(λPP)の活性は維持される。ステップv)において、上記のアッセイでのTauタンパク質の分析に適した方法は、ペプチドTau(396~406)及びTau(260~267)のLC-MS分析であり得る。
【0023】
本発明に従う方法は、哺乳類(マウス又はサル)、特にヒトなどの対象のTau病態を評価又は監視するために使用することができる。
【0024】
Tau病態は、アルツハイマー病、ダウン症候群、嗜銀顆粒病(AGD)、精神病、特に、ADによる精神病又はAD患者における精神病、ADによるアパシー又はAD患者におけるアパシー、レビー小体型認知症患者の精神症状、進行性核上性麻痺(PSP)、前頭側頭型認知症(FTD又はその変異型)、TBI(外傷性脳損傷、急性又は慢性)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、ピック病、原発性加齢性タウオパチー(PART)、神経原線維変化優位型老年認知症、拳闘家認知症、慢性外傷性脳症、脳卒中、脳卒中回復、パーキンソン病に関連する神経変性、染色体に連鎖するパーキンソニズム、Lytico-Bodig病(グアムのパーキンソン-認知症複合)、神経節膠腫及び神経節細胞腫、髄膜血管腫症(Meningioangiomatosis)、脳炎後パーキンソニズム、亜急性硬化性全脳炎、ハンチントン病、鉛脳症、結節性硬化症、ハラーフォルデン-シュパッツ病及びリポフスチン沈着症などの多くの疾患で見ることができる。上記で開示された方法は、アルツハイマー病又はダウン症候群などのTau病態を有する患者を診断するために使用可能であることが予想される。さらに、この方法は、Tau病態を有する対象の疾患を監視するためにも有用であると考えられる。
【0025】
さらに、上記で開示された方法は、アルツハイマー病又はダウン症候群などのTau病態を有する対象における治療効果を監視するために使用可能であることが予想される。特に、この方法は、抗Tau抗体治療などの、Tau病態を標的とし得る任意の治療を監視するために有用であると考えられる。
【実施例
【0026】
実施例1:材料及び試薬
ラムダタンパク質ホスファターゼ(λPP、50μLの400000単位/mL)及び10mMの塩化マンガン(II)(1mLの10mMのMnCl2)は、Biokeから入手した。
【0027】
Sep-Pak(登録商標)tC18 100mg 96ウェルSPEプレートは、Waters,USから入手した。
【0028】
ホスファターゼ阻害剤カクテルIIIは、Sigma Aldrichから入手した。
【0029】
トリプシン(ブタ膵臓由来、T0303)は、Sigma Aldrichから入手した。
【0030】
トリプシン阻害剤は、Sigma Aldrichから入手した。
【0031】
生体サンプル
ヒトCSFは、BioIVT又はPrecisionMedから入手した。
【0032】
マウスCSFは、自社の研究所から入手した。CSFは、疾患関連変異P301Lを保有するヒト0N4R tauを発現するrtg4510マウスから採取した。
【0033】
【表1】
【0034】
以下の試薬は、サンプルの調製中に新たに調製される。調製の詳細はサンプル調製で説明される:
消化混合物1 水中250mMのABC中100μg/mLのトリプシン
トリプシン停止溶液 水中1.00mg/mLのトリプシン阻害剤
塩化マンガン(II)溶液 水中3.125mMのMnCl
ラムダタンパク質ホスファターゼ(λPP)溶液 水中36364単位/mLのλPP
消化混合物2 水中250mMのABC中300μg/mLのトリプシン。
【0035】
原液
原液15N-Tauタンパク質(1.00mg/mL)(=21.6μM、MW=46353.2g/mol)
100μg相当を100μLのPBS中0.1%のTween20中に溶解する。
【0036】
原液pS396Tauタンパク質(約1.20mg/mL)(=26.1μM、MW=45902.2g/mol)
この溶液は、方法の適合性を実証し、確実に測定可能なS396-リン酸化の最低の割合を決定するために使用される。
【0037】
実施例2:サンプル調製のための手順-ワークフロー1
第1のトリプシン消化
凍結したCSFサンプルを室温で解凍し、ゆっくり反転させて(少なくとも5回)30秒間ボルテックスすることによって均質化した。サンプルを約500xg及び20℃で1分間遠心分離し、200μLのサンプルを1mLのプレートにピペットで移す。10.0μLのPBS中0.1%のTween20を(ダブル)ブランクに添加し、10.0μLの内部標準ワーキング溶液(2.7nMの15N-Tauタンパク質)を他の全てのウェルに添加する。
【0038】
材料及び試薬で説明されるように、消化混合物1を新たに調製する(100μg/mLのトリプシン)。1mMのHCl溶液中5mg/mLのトリプシン100μLをチューブ内で4900μLの消化溶媒(水中250mMのABC)と混合する。新たに調製した消化混合物40.0μLを各ウェルに添加し、プレートを1200rpm(サーモミキサー)及び37℃で60分間ボルテックスする。
【0039】
消化停止溶液を新たに調製する(1.00mg/mL)。約1.5mgの量のトリプシン阻害剤を秤量し、1.00mg/mLの濃度を達成するために必要な量のMilli-Qに溶解させる。
【0040】
新たに調製された消化停止溶液12.0μLを各ウェルに添加し、プレートを1200rpm(サーモミキサー又はミックスメイト)及び37℃で2分間ボルテックスする。
【0041】
60.0μLの消化溶媒(水中250mMのABC)及び300μLのPBS中0.1%のTween20を各ウェルに添加し、ボルテックス混合する。
【0042】
固相抽出
固相抽出ステップは、脱リン酸化ステップの前にトリプシンの残留物を除去し(リン酸化が除去されたときにS396における切断を回避するため)、サンプルを濃縮するために適用される。
【0043】
SPEカラム(Sep-Pak(登録商標)tC18 100mg)を500μLのメタノールでコンディショニングした後、1000μLのMilli-Q水でコンディショニングした。完全なサンプルをSPEカラムにロードする。1000μLのSPE洗浄液(100mMの酢酸アンモニウム、pH=5.5)でSPEカラムを2回洗浄する。
【0044】
SPEプレートを(清浄な)500μLプレート上に置き、500μLプレート上のSPEプレートを400*gで1分間遠心分離して、残存するSPE洗浄液(廃棄物)を全て収集する。450μLのメタノールでサンプルを新しい清浄な500μLのLoBindプレートディープウェルプレート内に溶出させる。
【0045】
穏やかな窒素流の下、65℃で約45分間溶媒を蒸発乾固させ、20.0μLの脱リン酸化溶媒(100mMの酢酸アンモニウム、pH=5.5)でサンプルを再構成する。このpHでは、トリプシンの酵素活性は最小限にされるが、ラムダタンパク質ホスファターゼ(λPP)の活性は維持される。
【0046】
脱リン酸化ステップ
1000μLの10mMのMnClをチューブ内で2200μLのMilli-Qと混合することにより、MnClの3.125mM溶液を調製する。20.0μLの(新たに)調製された3.125mMのMnCl溶液をサンプルに添加する。50.0μLのλPP溶液(20000単位を含有する)を元のカップ内で500μLのMilli-Qと混合することにより、λPP溶液を新たに調製する。10.0μLの(新たに)調製されたλPP溶液をサンプルに添加し、プレートを1200rpm(サーモミキサー)及び37℃で120分間ボルテックスする。50.0μLの脱リン酸化溶媒(100mMの酢酸アンモニウム、pH=5.5)をプレートに添加し、プレートを1200rpm(サーモミキサー)及び37℃で1分間ボルテックスする。
【0047】
ワークフロー1を終了させ、ワークフロー2に備える
50.0μLのサンプルを新しい500μLのタンパク質プレートに移す。このサンプルはワークフロー2で使用され、第2のトリプシン消化を受ける(ワークフロー2プレート)。
【0048】
元のプレートに、50.0μLの水中1%のギ酸を添加し、プレートを1200rpm及び室温で1分間ボルテックスする。このプレートは、LC-MS/MS分析の準備ができている。
【0049】
第2のトリプシン消化
1mMのHCl溶液中5mg/mLのトリプシン300μLを250mMのABC溶液4700μLとチューブ内で混合することにより、消化混合物2を新たに調製する(300μg/mLのトリプシン)。30.0μLの新たに調製された消化混合物2をワークフロー2プレートの各ウェルに添加し、1200rpm(サーモミキサー)及び37℃で60分間ボルテックスする。
【0050】
20.0μLの水中1%のギ酸をワークフロー2プレートに添加することによって消化を停止させ、プレートを1200rpm及び37℃で1分間ボルテックスする。このプレートは、この時点でLC-MS/MS分析の準備ができている。
【0051】
実施例3:LC-MS/MS分析
内因性妨害化合物からの分離は、30℃に設定されたAcquity HSS T3(100x2.1mm、1.8μm)分析カラムと、移動相Aとして水中0.1%のギ酸及び0.5%のDMSO、及び移動相Bとしてメタノールとを用いて、LC-MS/MSによって達成される。流速0.500mL/分で11分のグラジエントが適用され、最初の1分間は5%の移動相Bで実行し、9分後に14%のBになるまで直線的に増大され、続いて90%のBまでステップされ、これを1分間維持した後、再び5%のBまで減少される。注入量は40μLである。
【0052】
SPVVSGDTSPR[396~406]の予想される保持時間は7.2分であり、IGSTENLK[260~267]では6.5分である。
【0053】
ターボイオンスプレー源を備えたSCIEX triple quad 6500質量分析計を、陽イオンモードでの検出に使用する。ターボイオンスプレー源は、イオンスプレー電圧5500V及び温度500℃において陽イオンモードで操作される。カーテンガスは30に設定される。
【0054】
定量化は、以下の表に明記されるトランジションを用いた多重反応モニタリング(MRM)に基づく。CSF中の総Tauタンパク質2~100pMの範囲で、1/x2重み付け因子を有する線形(アナリスト)較正曲線が使用される。
【0055】
【表2】
図1
図2
図3A
図3B
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図4-5】
図4-6】
図4-7】
図4-8】
図5
【配列表】
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【国際調査報告】