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特表2024-530410スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が化学的に結合した変性ポリマー、その製造方法、変性ポリマーを絶縁層として組み込んだ液体レンズ、並びに直流電流下でも使用可能な高い品質係数を有する絶縁層を備えた液体レンズ
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  • 特表-スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が化学的に結合した変性ポリマー、その製造方法、変性ポリマーを絶縁層として組み込んだ液体レンズ、並びに直流電流下でも使用可能な高い品質係数を有する絶縁層を備えた液体レンズ 図1
  • 特表-スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が化学的に結合した変性ポリマー、その製造方法、変性ポリマーを絶縁層として組み込んだ液体レンズ、並びに直流電流下でも使用可能な高い品質係数を有する絶縁層を備えた液体レンズ 図1A
  • 特表-スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が化学的に結合した変性ポリマー、その製造方法、変性ポリマーを絶縁層として組み込んだ液体レンズ、並びに直流電流下でも使用可能な高い品質係数を有する絶縁層を備えた液体レンズ 図1B
  • 特表-スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が化学的に結合した変性ポリマー、その製造方法、変性ポリマーを絶縁層として組み込んだ液体レンズ、並びに直流電流下でも使用可能な高い品質係数を有する絶縁層を備えた液体レンズ 図2
  • 特表-スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が化学的に結合した変性ポリマー、その製造方法、変性ポリマーを絶縁層として組み込んだ液体レンズ、並びに直流電流下でも使用可能な高い品質係数を有する絶縁層を備えた液体レンズ 図3
  • 特表-スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が化学的に結合した変性ポリマー、その製造方法、変性ポリマーを絶縁層として組み込んだ液体レンズ、並びに直流電流下でも使用可能な高い品質係数を有する絶縁層を備えた液体レンズ 図4
  • 特表-スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が化学的に結合した変性ポリマー、その製造方法、変性ポリマーを絶縁層として組み込んだ液体レンズ、並びに直流電流下でも使用可能な高い品質係数を有する絶縁層を備えた液体レンズ 図5
  • 特表-スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が化学的に結合した変性ポリマー、その製造方法、変性ポリマーを絶縁層として組み込んだ液体レンズ、並びに直流電流下でも使用可能な高い品質係数を有する絶縁層を備えた液体レンズ 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-21
(54)【発明の名称】スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が化学的に結合した変性ポリマー、その製造方法、変性ポリマーを絶縁層として組み込んだ液体レンズ、並びに直流電流下でも使用可能な高い品質係数を有する絶縁層を備えた液体レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/14 20060101AFI20240814BHJP
   C08G 81/00 20060101ALI20240814BHJP
   C08G 77/42 20060101ALI20240814BHJP
   C08G 61/02 20060101ALI20240814BHJP
   G02F 1/1516 20190101ALI20240814BHJP
【FI】
G02B3/14
C08G81/00
C08G77/42
C08G61/02
G02F1/1516
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502484
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(85)【翻訳文提出日】2024-03-05
(86)【国際出願番号】 US2022036757
(87)【国際公開番号】W WO2023003721
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】63/224,197
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100224775
【弁理士】
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】ビュルジェ,バンジャマン ジャン-バティスト フランソワ
【テーマコード(参考)】
2K101
4J031
4J032
4J246
【Fターム(参考)】
2K101AA11
2K101AA33
2K101CA01
2K101CA06
2K101CB03
2K101CC13
2K101CD12
2K101EK13
4J031AA48
4J031AA59
4J031AB04
4J031AC13
4J031AD01
4J031AE15
4J031AF21
4J032CA06
4J032CA07
4J032CB04
4J032CF03
4J032CG02
4J246AA03
4J246AB02
4J246BA02X
4J246BB021
4J246BB02X
4J246CA34E
4J246CA34U
4J246CA34X
4J246CA39M
4J246CA39X
4J246EA11
4J246HA12
(57)【要約】
液体レンズは、(i)封じ込め領域内に配置された第1の液体及び第2の液体であって、該第1の液体と第2の液体との間に界面を形成する、第1の液体及び第2の液体;(ii)電極;並びに、(iii)電極を第1の液体及び第2の液体から分離する絶縁層であって、該絶縁層が、ポリマー材料と、該ポリマー材料に化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体とを含み、該スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が、第1の液体及び第2の液体のうちの1つ以上に接触する表面を提供する、絶縁層を含む。絶縁層のポリマー材料はポリ(パラキシリレン)でありうる。スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体は、シリコーン又はポリオレフィンの単位を含むことができ、各単位は、ポリマー材料の繰り返し単位に個別に結合する。液体レンズは、少なくとも200の品質係数を有する絶縁層を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体レンズにおいて、
封じ込め領域内に配置された第1の液体及び第2の液体であって、前記第1の液体と前記第2の液体との間に界面を形成する、第1の液体及び第2の液体、
電極、及び
前記電極を前記第1の液体及び前記第2の液体から分離する絶縁層であって、該絶縁層が、ポリマー材料と、該ポリマー材料に化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体とを含み、該スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が、前記第1の液体及び前記第2の液体のうちの1つ以上に接触する表面を提供する、絶縁層
を備えている、液体レンズ。
【請求項2】
前記絶縁層の前記ポリマー材料がポリ(パラキシリレン)を含み、かつ
任意選択的に、前記絶縁層の前記ポリマー材料が次式のうちの1つ以上の繰り返し単位を含み:
【化1】
nが整数である、
請求項1に記載の液体レンズ。
【請求項3】
前記スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が、前記ポリマー材料の繰り返し単位に結合した、シリコーン鎖、ポリオレフィン鎖、及び/又は長鎖アルキル鎖を含む、
請求項1に記載の液体レンズ。
【請求項4】
前記絶縁層が、次式のうちの1つ以上によって表される繰り返し単位を含み:
【化2-1】
【化2-2】
【化2-3】
【化2-4】
【化2-5】
v、w、x、y、及びzが1より大きい整数であり、かつ
R、R1、R2、R3、及びR4が、(i)水素、(ii)アルキル鎖、(iii)フッ素化アルキル部分のうちのいずれか1つを含む、
請求項1に記載の液体レンズ。
【請求項5】
前記液体レンズが、(i)直流電流下、又は(ii)0.1Hz以下の周波数を有する交流電流下で作動し、
前記絶縁層が、1kHzの周波数を有する交流電流下で測定して、少なくとも200の品質係数を含み、かつ
任意選択的に、前記ポリマーコーティングに化学的に結合した前記スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が25nm以下の厚さを含む、
請求項1から4のいずれか一項に記載の液体レンズ。
【請求項6】
液体レンズにおいて、
封じ込め領域内に配置された第1の液体及び第2の液体であって、前記第1の液体と前記第2の液体との間に界面を形成する、第1の液体及び第2の液体、
電極、及び
前記電極を前記第1の液体及び前記第2の液体から分離する絶縁層であって、前記絶縁層又は前記液体レンズが、1kHzの周波数を有する交流電流下で測定して、少なくとも200の品質係数を示す、絶縁層
を含み、
前記液体レンズが、(i)直流電流、又は(ii)0.1Hz以下の周波数を有する交流電流のいずれかの下で作動する、
液体レンズ。
【請求項7】
変性ポリマーであって、
ポリマー材料と、該ポリマー材料に化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体とを含み、
任意選択的に、絶縁層の前記ポリマー材料がポリ(パラキシリレン)を含む、
変性ポリマー。
【請求項8】
前記スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が25mN/m以下の表面エネルギーを含み、前記表面エネルギーの極性部分が1mN/m以下であり、
任意選択的に、前記スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が表面を提供し、エチレングリコール中、0.1w/w酢酸カリウムの存在下での前記表面上のドデカンが、前記表面に対して20°以下の接触角を形成する、
請求項7に記載の変性ポリマー。
【請求項9】
前記変性ポリマーが、次式のうちの1つ以上によって表される繰り返し単位を含み:
【化3-1】
【化3-2】
【化3-3】
【化3-4】
【化3-5】
【化3-6】
v、w、x、y、zが1より大きい整数であり、かつ
R、R2、R3、R4が、(i)水素、(ii)アルキル鎖、(iii)フッ素化アルキル部分のうちのいずれか1つを含む、
請求項7又は8に記載の変性ポリマー。
【請求項10】
ポリ(パラキシリレン)を変性させる方法であって、
ポリ(パラキシリレン)の表面を、シリコーン、ハロゲン化ポリオレフィン、又はハロゲン化長鎖アルキル鎖を含む溶液と接触させるステップ、及び
任意選択的に、前記溶液に接触させたポリ(パラキシリレン)を、室温を超える温度を含む環境に供するステップ
を含み、ここで、
前記溶液に含まれる前記シリコーン、前記ハロゲン化ポリフィン、又は前記ハロゲン化長鎖アルキルの鎖が、前記ポリ(パラキシリレン)の繰り返し単位に化学的に結合し、
任意選択的に、
前記溶液が前記シリコーンを含む場合、前記シリコーンが、
ポリジメチルシロキサン・ホモポリマー又はコポリマー、
ジメチルシロキサンとメチルフルオロアルキルシロキサンとのコポリマー(任意選択的に、前記メチルフルオロアルキルシロキサンはトリデカフルオロオクチルメチルシロキサンである)、
ビニル末端ポリジメチルシロキサン・ホモポリマー又はコポリマー、
クロロメチル末端ポリジメチルシロキサン・ホモポリマー又はコポリマー、
トリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン・ホモポリマー又はコポリマー、又は
メチルヒドロシロキサン/ジメチルシロキサン・コポリマー、
のうちの1つ以上を含み、
前記溶液が前記ハロゲン化ポリオレフィンを含む場合、該ハロゲン化ポリオレフィンが塩素化ポリエチレンである、
ポリ(パラキシリレン)を変性させる方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、その全体がここに参照することによって本願に援用される、2021年7月21日出願の米国仮特許出願第63/224,197号の優先権の利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
本開示は液体レンズに関し、より詳細には、変性ポリマーを絶縁層として組み込んだ液体レンズに関する。
【背景技術】
【0003】
可変焦点レンズは、固定焦点レンズと比較して作業範囲を拡大する。固定焦点レンズでは、焦点距離を変えることはできない。しかしながら、可変焦点レンズでは、レンズの焦点距離を変えることができる。
【0004】
液体レンズは可変焦点レンズの一種である。液体レンズは概して、その中に配置された極性又は導電性の液体と無極性又は絶縁性の液体とを含むキャビティを備えている。液体は互いに非混和性であり、液体間の界面がレンズを形成するように異なる屈折率を有している。共通電極は、極性又は導電性の液体と電気的に連絡する。駆動電極は液体の近くにあるが、絶縁層によって液体から分離されている。絶縁層は誘電特性を有する。極性又は導電性の液体は、ある接触角で絶縁層に接触する。駆動電極と共通電極との間に電圧を印加すると、絶縁層が容量性電荷を蓄積し、これが極性又は導電性の液体と絶縁層との間の相互作用を変化させ、それによって接触角が変化するため、接触角を変化させることができる。したがって、電圧を変化させることによって接触角を変化させることができ、それによって界面の形状を変化させる。界面の形状を変化させると、レンズの焦点距離が変化する。
【0005】
選択されたポリマー材料が絶縁層として用いられており、有益な誘電特性が実証されている。しかしながら、これらのポリマー材料の中には十分な疎水性が欠けているものもある。極性又は導電性の液体と絶縁層との間の凝集相互作用が強すぎると、電圧を変化させても接触角を変化させることができない。さらに、極性液体の存在下でのポリマー材料上の非極性液体の接触角が高すぎると(例えば、20°を超える)、絶縁層としてポリマー材料を組み込んだ液体レンズのヒステリシスが高くなりすぎて信頼できなくなる。例えば、エチレングリコール中、0.1%w/w酢酸カリウムの極性液体溶液の存在下での非極性液体としてのドデカンは、パリレンC(ポリマー材料)上に60°の接触角を形成する。この接触角は、非常に高いエレクトロウェッティングのヒステリシスをもたらす。
【0006】
適切な疎水性と接触角の不足を補うために、絶縁層に別個の疎水性コーティングを追加することができる。別個の疎水性コーティングは通常、別のポリマー材料の薄層である。この戦略は、絶縁層を形成するポリマー材料をその誘電性能に基づいて選択することができ、疎水性コーティングを形成するポリマー材料をその疎水性特性に基づいて選択することができることから、特に有利である。疎水性コーティングは、湿式又は気相堆積プロセス(例えば、スピンコーティング、ディップコーティング、CVD、PECVD、及びiCVD)を通じて施すことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、絶縁層上に疎水性コーティングを追加する戦略は、(i)疎水性コーティングの接着力が乏しいこと、(ii)疎水性コーティングの被覆率と厚さが不均一であること、(iii)疎水性コーティングによる絶縁層の厚さの増加に起因して、液体レンズの動作に必要な電圧が増加すること、(iv)製造時間とコストが増加すること、及び(v)設計の複雑さによる故障モードの増加に起因して、故障モードが増加することを含む、さまざまな問題を引き起こす。例えば、フッ素化ポリマー(例えば、Teflon(登録商標)AF、Cytop(登録商標)、及びFluoroPel)の疎水性コーティングを備えたパリレンCの絶縁層を組み込んだ液体レンズは、高温での保管後に信頼性が乏しくなることがわかっている。これらの問題は、液体レンズの場合にそうでありうるように、エレクトロウェッティングに用いられる表面が平坦でない場合に増幅され、深刻になる。
【0008】
加えて、状況によっては、液体レンズの性能を維持しつつ、液体レンズが消費する電力を低減することが望ましい。液体レンズには、通常、交流電流が供給される。電力消費を低減するために、低周波の交流電流(例えば、1kHz未満)又は直流電流(交流電流の代わりに)を利用して、液体レンズに電力を供給することができる。しかしながら、典型的に用いられる絶縁層は、低周波の交流電流又は直流電流が供給されると、液体レンズが最適な性能を得られなくなるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体(「SOCAL」)を絶縁層のポリマー材料上にグラフトすることによって、第1の問題に対処する。したがって、SOCALは絶縁層の作用面であり、絶縁層を高度に疎水性にする。しかしながら、SOCALはグラフト化されているため、疎水性コーティングに固有の接着力(化学的結合ではなく機械的結合)が潜在的に不足する可能性については心配ない。さらには、SOCALのグラフト化によって絶縁層の厚さはそれほど増加せず、(i)被覆率と厚さの均一性の欠如、及び(ii)疎水性コーティングに伴う電圧要件の増加が回避される。最後に、絶縁層のポリマー材料上へのSOCALのグラフト化は、前述の疎水性コーティングほど複雑ではなく、労力と時間の負担がかからない。
【0010】
本開示は、比較的低い誘電損失係数(すなわち、高い品質係数)を有する絶縁層を利用する液体レンズに関する第2の問題に対処する。このような絶縁層を利用すると、性能上の問題を引き起こすことなく液体レンズに直流電流を電力供給することができる。性能を維持しつつ直流電流を利用することができることから、液体レンズは低電力消費が要求される用途、又は有益である用途に利用することができる。絶縁層は、ポリマー材料である場合、やはり、その上にスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体をグラフトすることによって、変性させることができる。
【0011】
本開示の第1の態様によれば、液体レンズは、(i)封じ込め領域内に配置された第1の液体及び第2の液体であって、該第1の液体と第2の液体との間に界面を形成する、第1の液体及び第2の液体;(ii)電極;並びに、(iii)電極を第1の液体及び第2の液体から分離する絶縁層であって、該絶縁層が、ポリマー材料と、該ポリマー材料に化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体とを含み、該スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が第1の液体及び第2の液体のうちの1つ以上に接触する表面を提供する、絶縁層を含む。
【0012】
本開示の第2の態様によれば、絶縁層のポリマー材料がポリ(パラキシリレン)を含む、第1の態様に記載の液体レンズが提供される。
【0013】
本開示の第3の態様によれば、絶縁層のポリマー材料が次式の繰り返し単位を含み:
【0014】
【化1】
【0015】
nが整数である、第1の態様に記載の液体レンズが提供される。
【0016】
本開示の第4の態様によれば、絶縁層のポリマー材料が次式の繰り返し単位を含み:
【0017】
【化2】
【0018】
nが整数である、第1の態様に記載の液体レンズが提供される。
【0019】
本開示の第5の態様によれば、絶縁層のポリマー材料が次式の繰り返し単位を含み:
【0020】
【化3】
【0021】
nが整数である、第1の態様に記載の液体レンズが提供される。
【0022】
本開示の第6の態様によれば、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が、ポリマー材料の繰り返し単位に結合したシリコーン鎖を含む、第1から第5の態様のいずれかに記載の液体レンズが提供される。
【0023】
本開示の第7の態様によれば、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が、ポリマー材料の繰り返し単位に結合したポリオレフィン又は長鎖アルキル鎖を含む、第1から第5の態様のいずれかに記載の液体レンズが提供される。
【0024】
本開示の第8の態様によれば、絶縁層が、次式のうちの1つ以上によって表される繰り返し単位を含み:
【0025】
【化4-1】
【0026】
【化4-2】
【0027】
【化4-3】
【0028】
【化4-4】
【0029】
v、w、x、y、zが、1より大きい整数であり;かつ、R、R1、R2、R3、R4が、(i)水素、(ii)アルキル鎖、(iii)フッ素化アルキル部分のうちのいずれか1つを含む、第1の態様に記載の液体レンズが提供される。
【0030】
本開示の第9の態様によれば、(i)絶縁層のポリマー材料がポリ(パラキシリレン)を含み;かつ、(ii)絶縁層が、ポリマー材料をシリコーン、ハロゲン化ポリオレフィン、又はハロゲン化長鎖アルキル鎖を含む溶液と接触させた結果、表面の絶縁層の化学組成を変化させる生成物である、第1の態様に記載の液体レンズが提供される。
【0031】
本開示の第10の態様によれば、ポリマーコーティングに化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が25nm以下の厚さを含む、第1から第9の態様のいずれかに記載の液体レンズが提供される。
【0032】
本開示の第11の態様によれば、(i)第1の液体が絶縁性又は無極性の液体であり;(ii)第2の液体が導電性又は極性の液体であり;かつ、(iii)第2の液体の存在下での第1の液体が、絶縁層の表面に20°以下の接触角を形成する、第1から第10の態様のいずれかに記載の液体レンズが提供される。
【0033】
本開示の第12の態様によれば、(a)液体レンズが、(i)直流電流下、又は(ii)0.1Hz以下の周波数を有する交流電流下で作動し;かつ、(b)絶縁層又は液体レンズが、少なくとも200の、1kHzの周波数を有する交流電流下で測定した品質係数を示す、第1から第11の態様のいずれかに記載の液体レンズが提供される。
【0034】
本開示の第13の態様によれば、液体レンズは、(i)封じ込め領域内に配置された第1の液体及び第2の液体であって、第1の液体と第2の液体との間に界面を形成する、第1の液体及び第2の液体;(ii)電極;並びに、(iii)電極を第1の液体及び第2の液体から分離する絶縁層であって、該絶縁層又は液体レンズが、1kHzの周波数を有する交流電流下で測定した品質係数が少なくとも200を示す、絶縁層を含み、ここで、液体レンズは、(i)直流電流下、又は(ii)0.1Hz以下の周波数を有する交流電流下で作動する。
【0035】
本開示の第14の態様によれば、絶縁層がポリマー材料をさらに含み、該絶縁層のポリマー材料が、ポリ(パラキシリレン)を含む、第13の態様の液体レンズが提供される。
【0036】
本開示の第15の態様によれば、ポリ(パラキシリレン)が、次式のうちの1つ以上の繰り返し単位を有し:
【0037】
【化5】
【0038】
nが整数である、第14の態様の液体レンズが提供される。
【0039】
本開示の第16の態様によれば、絶縁層が、ポリマー材料に化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体をさらに含み、該スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が、第1の液体及び第2の液体のうちの1つ以上に接触する表面を提供する、第14の態様の液体レンズが提供される。
【0040】
本開示の第17の態様によれば、絶縁層が、ポリマー材料に化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体をさらに含み、該スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が、第1の液体及び第2の液体のうちの1つ以上に接触する表面を提供する、第15の態様液体レンズが提供される。
【0041】
本開示の第18の態様によれば、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が、ポリマー材料の繰り返し単位に結合した、シリコーン鎖、ポリオレフィン鎖、又は長鎖アルキル鎖を含む、第16又は第17の態様に記載の液体レンズが提供される。
【0042】
本開示の第19の態様によれば、ポリマーコーティングに化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が25nm以下の厚さを含む、第16から第18の態様のいずれかに記載の液体レンズが提供される。
【0043】
本開示の第20の態様によれば、(i)第1の液体が絶縁性又は無極性の液体であり;かつ、(ii)第1の液体が、絶縁層の表面に20°以下の接触角を形成する、第13から第19の態様のいずれかに記載の液体レンズが提供される。
【0044】
本開示の第21の態様によれば、絶縁層が、ポリマー材料を、シリコーン、ハロゲン化ポリオレフィン、又はハロゲン化長鎖アルキル鎖を含む溶液と接触させた結果、表面の絶縁層の化学組成を変化させる生成物である、第14から第17の態様のいずれかに記載の液体レンズが提供される。
【0045】
本開示の第22の態様によれば、変性ポリマーは、ポリマー材料と、該ポリマー材料に化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体とを含む。
【0046】
本開示の第23の態様によれば、絶縁層のポリマー材料がポリ(パラキシリレン)を含む、第22の態様の変性ポリマーが提供される。
【0047】
本開示の第24の態様によれば、ポリマーコーティングに化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が25nm以下の厚さを含む、第22又は第23の態様に記載の変性ポリマーが提供される。
【0048】
本開示の第25の態様によれば、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が25mN/m以下の表面エネルギーを含み、表面エネルギーの極性部分が1mN/m以下である、第22から第24の態様のいずれかに記載の変性ポリマーが提供される。
【0049】
本開示の第26の態様によれば、(i)スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が表面を提供し;かつ、(ii)エチレングリコール中、0.1w/w酢酸カリウムの存在下での表面上のドデカンが、該表面に対して20°以下の接触角を形成する、第22から第25の態様のいずれかに記載の変性ポリマーが提供される。
【0050】
本開示の第27の態様によれば、変性ポリマーが、次式のうちの1つ以上によって表される繰り返し単位を含み:
【0051】
【化6-1】
【0052】
【化6-2】
【0053】
【化6-3】
【0054】
【化6-4】
【0055】
v、w、x、y、zは1より大きい整数であり;かつ
R、R1、R2、R3、R4は、(i)水素、(ii)アルキル鎖、(iii)フッ素化アルキル部分のうちのいずれか1つを含む、第22の態様の変性ポリマーが提供される。
【0056】
本開示の第28の態様によれば、ポリ(パラキシリレン)を変性させる方法は、ポリ(パラキシリレン)の表面を、シリコーン、ハロゲン化ポリオレフィン、又はハロゲン化長鎖アルキル鎖を含む溶液と接触させるステップを含み、溶液に含まれるシリコーン、ハロゲン化ポリフィン、又はハロゲン化長鎖アルキルの鎖が、ポリ(パラキシリレン)の繰り返し単位に化学的に結合する。
【0057】
本開示の第29の態様によれば、溶液がシリコーンを含み、該シリコーンがポリジメチルシロキサン・ホモポリマー又はコポリマーである、第28の態様の方法が提供される。
【0058】
本開示の第30の態様によれば、溶液がシリコーンを含み、該シリコーンがジメチルシロキサンとメチルフルオロアルキルシロキサンとのコポリマーである、第28の態様の方法が提供される。
【0059】
本開示の第31の態様によれば、メチルフルオロアルキルシロキサンがトリデカフルオロオクチルメチルシロキサンである、第30の態様の方法が提供される。
【0060】
本開示の第32の態様によれば、溶液がシリコーンを含み、該シリコーンがビニル末端ポリジメチルシロキサン・ホモポリマー又はコポリマーである、第28の態様の方法が提供される。
【0061】
本開示の第33の態様によれば、溶液がシリコーンを含み、該シリコーンがクロロメチル末端ポリジメチルシロキサン・ホモポリマー又はコポリマーである、第28の態様の方法が提供される。
【0062】
本開示の第34の態様によれば、溶液がシリコーンを含み、該シリコーンがトリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン・ホモポリマー又はコポリマーである、第28の態様の方法が提供される。
【0063】
本開示の第35の態様によれば、溶液がシリコーンを含み、該シリコーンがメチルヒドロシロキサン/ジメチルシロキサン・コポリマーである、第28の態様の方法が提供される。
【0064】
本開示の第36の態様によれば、溶液がハロゲン化ポリオレフィンを含み、該ハロゲン化ポリオレフィンが塩素化ポリエチレンである、第28の態様の方法が提供される。
【0065】
本開示の第37の態様によれば、ポリ(パラキシリレン)が次式のうちの1つ以上の繰り返し単位を含み:
【0066】
【化7】
【0067】
nが整数である、第28の態様の方法が提供される。
【0068】
本開示の第38の態様によれば、溶液がKarstedt触媒をさらに含む、第28から第37の態様のいずれかに記載の方法が提供される。
【0069】
本開示の第39の態様によれば、溶液がパラジウム錯体触媒をさらに含む、第28から第37の態様のいずれかに記載の方法が提供される。
【0070】
本開示の第40の態様によれば、溶液が塩化アルミニウムをさらに含む、第28から第37の態様のいずれかに記載の方法が提供される。
【0071】
本開示の第41の態様によれば、溶液が過酸化物をさらに含む、第28から第37の態様のいずれかに記載の方法が提供される。
【0072】
本開示の第42の態様によれば、溶液に接触させたポリ(パラキシリレン)を、室温を超える温度を含む環境に供するステップをさらに含む、第28から第41の態様のいずれかに記載の方法が提供される。
【0073】
本開示の第43の態様によれば、(i)ポリ(パラキシリレン)を溶液と接触させる前に、極性液体の存在下でポリ(パラキシリレン)の表面に接触する非極性液体が、50°以上の第1の接触角を形成し;かつ、(ii)ポリ(パラキシリレン)を溶液と接触させた後に、極性溶液の存在下で表面に接触する非極性液体が、30度以下の第2の接触角を形成する、第28から第42の態様のいずれかに記載の方法が提供される。
【0074】
本開示の第44の態様によれば、ポリ(パラキシリレン)が、封じ込め領域内の電極上に配置され;かつ、該方法が、(i)封じ込め領域内に第1の液体及び第2の液体を堆積するステップ、及び(ii)封じ込め領域を閉じて、封じ込め領域内に第1の液体及び第2の液体を捕捉し、第1の液体と第2の液体との間に界面が形成されるステップをさらに含む、第28から第43の態様のいずれかに記載の方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0075】
図1】電極を第1の液体及び第2の液体から分離する絶縁層、並びに該絶縁層上に配置された第1の液体と第2の液体との間の界面を示す、本開示の液体レンズの断面の斜視図
図1A】本開示の液体レンズの断面の斜視図
図1B】本開示の液体レンズの断面の斜視図
図2】(i)ポリ(パラキシリレン)の表面を、該ポリ(パラキシリレン)と反応してシリコーン又はハロゲン化ポリオレフィンの単位をポリ(パラキシリレン)の繰り返し単位に結合する、シリコーン又はハロゲン化ポリオレフィンを含む溶液と接触させ、その結果、表面がポリ(パラキシリレン)に化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体となるステップ、並びに(ii)スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体を有する変性ポリ(パラキシリレン)を絶縁層として使用する図1の液体レンズを形成するステップを示す、ポリマー材料を変性させる方法の概略図
図3】ポリ(パラキシリレン)と、それに化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体とを絶縁層として利用する、図1の液体レンズに印加される電圧の関数として屈折力と波面誤差をプロットした実施例1に関するグラフ。屈折力と波面誤差の両方における最小限のヒステリシスを示している。
図4】直流電力の印加前後の、ポリ(パラキシリレン)層上に配置された液体についての接触角を時間の関数としてプロットした実施例5に関するグラフ。経時的な接触角の最小変化を示している。
図5】ポリ(パラキシリレン)を絶縁層として使用する、図1の液体レンズに適用された、直流電力を使用した電圧の関数として屈折力をプロットした実施例6に関するグラフ。最小限のヒステリシスで変化する電圧の関数としての屈折力の応答変化を示している。
図6】化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体を含むように変性されていないポリ(パラキシリレン)上の液体の接触角(負電圧直流電流及び正電圧直流電流の両方)を時間の関数としてプロットした比較例1に関するグラフ。時間の経過とともに大きく変化する接触角を示している。
【発明を実施するための形態】
【0076】
- 液体レンズ10 -
ここで図1を参照すると、実施形態では、液体レンズ10は、ベース12とキャップ14とを含む。ベース12及びキャップ14は、該ベース12とキャップ14との間に電気絶縁を提供するための液密封じ込め領域16の維持を容易にするために、互いに対して取り付けることができる。液密封じ込め領域16の維持を容易にするために、ガスケット18がベース12とキャップ14との間に配置されうる。
【0077】
液体レンズ10は、第1の電極20、光軸22、及び第2の電極24を含む。実施形態では、液体レンズ10は、光軸22に関して回転対称である。第1の電極20及び/又は第2の電極24は導体を含みうる。実施形態では、第1の電極20及び/又は第2の電極24は、銅、銀、金、白金、アルミニウム、クロム、チタン、ニッケル、鋼、青銅、及び/又は真鍮のうちの1つ以上など、金属を含む。実施形態では、第1の電極20及び/又は第2の電極24は、導電性ポリマー、例えば、ポリ(3,4,-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリフェニルスルフィド(PSS)、PEDOT:PSS、ポリ-p-フェニレン(PpP)、ポリチオフェン(PTh)、ポリアニリン類(PANI)、ポリピロール(PPy)、ポリフタロシアニン(PPhc)、又はポリイソチアナフタレン(PITN)のうちの1つ以上を含む。実施形態では、第1の電極20及び/又は第2の電極24は、液体レンズ10の所望の動作波長範囲にわたって透明な材料を含む。実施形態では、第2の電極24は、PEDOT、PEDOT:PSS、酸化アルミニウム、酸化カドミウム、酸化ガリウム、酸化スズ(例えば、酸化インジウムスズ(ITO))、及び酸化亜鉛のうちの1つ以上を含む。実施形態では、第1の電極20及び/又は第2の電極24に、1つ以上の遷移金属及び/又は第IIIA族金属(例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム)がドープされる。実施形態では、第1の電極20及び/又は第2の電極24は、本質的に導電性のポリマー(例えば、ポリマーの大部分が導電性である)を含む。実施形態では、第1の電極20及び/又は第2の電極24は、ナノ粒子及び/又は炭素繊維を含むポリマー複合体を含む。
【0078】
実施形態では、第1の電極20は、貫通開口28を介して第1のウィンドウ26を取り囲む。実施形態では、第1のウィンドウ26は、第1の基板30をさらに含む。実施形態では、第1の基板30は、貫通開口28に対して取り付けられる。実施形態では、第1の基板30は、第1の電極20の貫通開口28内に全体的に取り付けられ、第1の電極20が第1の基板30を全体的に取り囲む。
【0079】
実施形態では、第2の電極24は、該第2の電極24の貫通開口34を介して第2のウィンドウ32を少なくとも部分的に囲む。実施形態では、第2の電極24の貫通開口34は、光軸22に垂直な方向に断面直径を有しており、台座35を画成するように段状になっている。実施形態では、第2のウィンドウ32は、第2の基板36をさらに含む。実施形態では、第2の基板36は、対応する貫通開口34に対して取り付けられる。実施形態では、第2の電極24の部分38は、第2の基板36の一方又は両方の主面の外周部分の上に延在する。
【0080】
実施形態では、第2の基板36は、取付具40によって貫通開口34の台座35に取り付けられる。さらには、実施形態では、ベース12は、第2の電極24、第2のウィンドウ32、及び取付具40を含む。このような実施形態では、ガスケット18は、ベース12の第2の電極24とキャップ14との間に流体シールを提供し、液密封じ込め領域16の維持を容易にする。
【0081】
実施形態では、キャップ14は、第1の電極20及び第1のウィンドウ26を含むか、又はこれらを支持する。実施形態では、キャップ14は、第1の電極20の貫通開口28の直径よりも小さい有効貫通開口42を画成し、ここで、リップ44が第1の電極20の外面の上及び第1のウィンドウ26の外周部分の上に延在し、第1の電極20、及び第1の基板30と第1の電極20との間の界面を外力及び環境条件から保護する。さらには、リップ44は、第1の電極20の外周面上に延在し、第1の電極20を外力及び環境条件から保護するのにさらに役立ち、また第1の電極20をキャップ14の受け入れ領域内に設置するのに役立つ。実施形態では、キャップ14は、光軸22を中心として回転対称な形状を有する。実施形態では、示されるように、キャップ14は、屈曲部分を有しうる実質的に「S」字形の部分46を有し、一方の屈曲部分は液密封じ込め領域16に面する開口部を有しており、別の屈曲部分は液密封じ込め領域16とは反対側に面する開口部を有している。実質的に「S」字形の部分46は、液密液体レンズ10の封じ込め領域16内の流体(明確にするために図示せず)によって圧力が加えられるとき、及び/又は液体レンズ10のキャップ14に外部から圧力が加えられるときに、光軸22に沿った第1の基板30aのある程度の移動を可能にしうる。
【0082】
光軸22は、第1のウィンドウ26及び第2のウィンドウ32の両方と交差する。実施形態では、示されるように、光軸22は、第1の基板30と第2の基板36の両方の体積中心を通過する。実施形態では、第2のウィンドウ32は、光軸22に沿って第1のウィンドウ26と位置合わせされる。
【0083】
実施形態では、第1のウィンドウ26及び第2のウィンドウ32を通って液密封じ込め領域16内に入る、又は液密封じ込め領域16から出る所望の波長範囲の入射電磁放射線46の透過率は、約85%以上である。実施形態では、第1の基板30及び第2の基板36は各々、入射電磁放射線46の動作波長範囲にわたって、約85%以上、約88%以上、約90%以上、約92%以上、約94%以上、約96%以上、約98%以上、又は約99%以上の平均透過率を有する。本明細書で用いられる場合、透過率とは、動作波長範囲にわたって材料又はデバイスを透過した電磁放射線46の入射強度の算術平均(例えば、平均)パーセンテージを指す。実施形態では、動作波長範囲は可視光波長を超えうる。実施形態では、動作波長範囲は、約400ナノメートル(nm)から700nm、約400nmから約550nm、約550nmから約700nm、約600nmから約700nmまでの波長範囲、又はそれらの間の任意の範囲若しくは部分範囲にわたりうる。幾つかの実施形態では、動作波長範囲は、約700nmから約1,000マイクロメートル(μm)までの波長範囲にわたるなど、赤外線波長にわたりうる。実施形態では、動作波長範囲は、約10nmから約400nmまでの波長範囲にわたるなど、紫外線波長の範囲にわたりうる。
【0084】
第1の基板30及び/又は第2の基板36は、ポリマー、結晶材料(例えば、石英、サファイア、単結晶又は多結晶アルミナ、スピネル(MgAl))、ガラスベースの材料、又はそれらの組合せを含みうる。適切なポリマーの例としては、コポリマー及びそれらのブレンドを含む以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)を含めた熱可塑性プラスチック、ポリエチレンテレフタレート(PET)を含めたポリエステル、ポリエチレン(PE)を含めたポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を含めたアクリルポリマー、エポキシ、及びポリジメチルシロキサン(PDMS)を含めたシリコーン。本明細書で用いられる場合、「ガラスをベースとした」には、ガラスとガラスセラミックの両方が含まれ、ガラスセラミックは、1つ以上の結晶相と、非晶質の残留ガラス相とを有する。ガラスをベースとした材料は、非晶質の材料(例えば、ガラス)、及び任意選択的に1つ以上の結晶性材料(例えば、セラミック)を含みうる。例示的なガラスをベースとした材料には、それらがリチアを含んでいるか、いないかにかかわらず、ソーダ石灰ガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、アルカリ含有ホウケイ酸ガラス、アルカリアルミノホスホケイ酸塩ガラス、及びアルカリアルミノボロケイ酸塩ガラスが含まれうる。
【0085】
液体レンズ10は、液密封じ込め領域16内に配置された第1の液体48及び第2の液体50をさらに含む。第1の液体48と第2の液体50との間に界面52が形成される。例えば、実施形態では、第1の液体48と第2の液体50とは非混和性である。実施形態では、図示されていないが、界面52は、第1の液体48を第2の液体50から分離する透明な膜でありうる。界面52はレンズを形成する。実施形態では、第1の液体48及び第2の液体50は実質的に同じ密度を有しており、これは、液体レンズ10の物理的配向の変化の結果として(例えば、重力の結果として)、界面52の形状の変化を回避するのに役立ちうる。実施形態では、第1の液体48は、第2の液体50の屈折率より大きい屈折率を有する実施形態では、第1の液体48は、第2の液体50の屈折率より小さい屈折率を有する。光軸22は、界面52を通過する。
【0086】
実施形態では、第1の液体48は非導電性の液体である。実施形態では、第1の液体48は非極性液体である。第1の液体48の例としては、無機液体(例えば、シリコーン油)、アルキル鎖分子(例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン)、芳香族化合物(例えば、ベンゼン、トルエン、ジフェニルジメチルシラン、2-(エチルチオ)ベンゾチアゾール、1-クロロナフタレン、チアナフテン、4-ブロモジフェニルエーテル、1-フェニルナフタレン、2,5,-ジブロモトルエン、フェニルスルフィド)、フッ素化炭化水素、フッ素化シリコーン、ゲルマニウム有機金属化合物(例えば、テトラメチルゲルマン、テトラエチルゲルマン、ヘキサメチルジゲルマン、ヘキサエチルジゲルマン、ジフェニルジメチルゲルマン、フェニルトリメチルゲルマン)、又はそれらの組合せが挙げられる。
【0087】
実施形態では、第2の液体50は導電性液体である。実施形態では、第2の液体50は極性液体である。第2の液体50の例としては、アルコール(例えば、メタノール、プロパンジオール)、グリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール)、イオン性液体(例えば、炭酸リチウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム系、1-アルキルピリジニウム系、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム・テトラフルオロボラート系、N-メチル-N-アルキルピロリジニウム系の液体)、無機イオン性溶液(例えば、リン酸ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化リチウム、炭酸アンモニウム、四フッ化ホウ酸アンモニウム、硝酸カリウム)、有機イオン性溶液(例えば、酢酸カリウム、酢酸、コハク酸、イミノ二酢酸(IDA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,-N’N’-四酢酸(BAPTA)、2,2’2”-(1,4,7,-トリアゾナン-1,4,7,-トリイル)三酢酸(NOTA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA))、及びそれらの組合せ(例えば、エチレングリコール中、0.1w/wの酢酸カリウム)が挙げられる。
【0088】
液体レンズ10は絶縁層54をさらに含む。絶縁層54は、封じ込め領域16の観点から、第2のウィンドウ32、貫通開口34、及び第2の電極24を覆う。絶縁層54は、第2の電極24が覆わない第2の基板36の部分を覆う。絶縁層54は厚さ56を有する。実施形態では、絶縁層54の厚さは、光軸22からの距離の関数として変化する。第1の電極20は、第2の液体50と電気的に連絡する。絶縁層54は、第1の液体48及び第2の液体50を第2の電極24から絶縁する。実施形態では、絶縁層54は、感知されることが望ましい電磁放射線46が、本明細書に記載されるように、第2のウィンドウ32を通過することができるように十分に透明である。本開示の目的のための絶縁層54の追加の態様については、以下でさらに論じる。
【0089】
実施形態では、封じ込め領域16は、第1の部分58(又は、ベース部分)及び第2の部分60(又は、ヘッドスペース)を含む。実施形態では、第1の液体48の少なくとも一部は封じ込め領域16の第1の部分58に配置され、一方、第2の液体50の少なくとも一部は、封じ込め領域16の第2の部分60内に配置される。実施形態では、第1の液体48の実質的にすべてが、封じ込め領域16の第1の部分58内に配置される。実施形態では、界面52の周囲62(例えば、絶縁層54と接触する界面52のエッジ)が、封じ込め領域16の第1の部分58内に配置される。
【0090】
実施形態では、封じ込め領域16(例えば、封じ込め領域16の第1の部分58)は、図1に示されるように先細になっており、封じ込め領域16の断面積は、光軸22に沿って第1のウィンドウ26から第2のウィンドウ32に向かう方向に減少する。例えば、封じ込め領域16の第1の部分58は、狭い端部64と広い端部66とを含む。「狭い」及び「広い」という用語は相対的な用語であり、狭い端部64が広い端部66よりも狭い、又はより小さい幅若しくは直径を有することを意味する。このような先細の封じ込め領域16は、光軸22に沿った第1の液体48と第2の液体50との間の界面52の整列を維持するのに役立ちうる。他の実施形態では、封じ込め領域16は、該封じ込め領域16の断面積が光軸22に沿って第1のウィンドウ26から第2のウィンドウ32に向かう方向に増加するように先細になっているか、又は封じ込め領域16の断面積が光軸22に沿って実質的に一定のままになるように、先細になっていない。
【0091】
実施形態では、電磁放射線46(例えば、可視光線、紫外線、及び赤外線のうちの1つ以上)は、第1のウィンドウ26を通って液体レンズ10に入り、第1の液体48と第2の液体50との間の界面52で屈折し、第2のウィンドウ32を通って液体レンズ10から出る。実施形態では、説明したように、第1の基板30及び第2の基板36は、電磁放射線46の所望の波長の通過を可能にするのに十分に透明である。第2のウィンドウ38から出る電磁放射線46は、センサ(図示せず)によって感知することができる。
【0092】
幾つかの実施形態では、第1の基板30の外面68及び第2の基板36の外面70のいずれか又は両方が、実質的に平面である。したがって、液体レンズ10はレンズとして機能することができるが(例えば、界面52を通過する電磁放射線46を屈折させることによって)、液体レンズ10の外面68、70は、固定レンズの外面のように湾曲しているのとは対照的に、平坦であってもよい。他の実施形態では、外面68、70のいずれか又は両方が湾曲している(例えば、凹面又は凸面)。
【0093】
実施形態では、液体レンズ10は、第1の電極20及び第2の電極24に接続された電源を含む。実施形態では、図示されていないが、第1の電極20は第1のリードによってアースに接続され、一方、第2の電極24は第2のリードによって電源に接続される。実施形態では、図示されていないが、第1の電極20は第1のリードによって電源に接続され、一方、第2の電極24は第2のリードによってアースに接続される。本明細書で用いられる場合、接地とは、アース、又は大きい電荷槽、例えば大きい導電性の本体などへの接続を指す。本明細書で用いられる場合、電源とは、電位差を生み出すことができるあらゆる装置である。
【0094】
電源から第1の電極20及び第2の電極24との間に電位差を印加すると、第1の液体48と第2の液体50との間の界面52によって形成されるレンズの形状を変化させることができる。理論に縛られることは望まないが、第1の液体48と第2の液体50との間の界面52によって形成されるレンズは、エレクトロウェッティング現象を使用して、第1の電極20と第2の電極24との間に印加される電位差を調整することによって調整することができる。実施形態では、印加電圧を調整することにより、レンズの焦点距離を変化させる。例えば、このような焦点距離の変化により、液体レンズ10がオートフォーカス機能を実行できるようになる。本明細書で用いられる場合、レンズの屈折力は、レンズの焦点距離の逆数であるディオプタを使用して測定される。幾つかの実施形態では、屈折力は、約0.25ディオプタ(D)以上、約1D以上、約2D以上、約5D以上、約40D以下、約30D以下、約20D以下、又は約10D以下で調整することができる。幾つかの実施形態では、レンズの屈折力は、約-20Dから約20D、約-15Dから約15D、約-10Dから約10D、約-5Dから約5D、約-2Dから約2D、約0Dから約20D、約0Dから約10D、約0Dから約5D、約0Dから約2Dの範囲、又はそれらの間の任意の範囲若しくは部分範囲で調整可能でありうる。
【0095】
加えて又は代替的に、電源から第1の電極20と第2の電極24との間に電位差を印加すると、液体レンズ10の光軸22に対して界面52が傾斜する。このような傾斜により、液体レンズ10が光学的画像安定化(「OIS」)機能の実施が可能となりうる。界面52の調整(例えば、傾斜、形状の変更)は、画像センサ、固定レンズ若しくはレンズスタック、ハウジング、又はカメラモジュール若しくは液体レンズ10を組み込むことができる他のモジュールの他の構成要素に対して、液体レンズ10を物理的に移動させることなく達成することができる。実施形態では、交流電力が駆動電極34に印加されて、第1の液体48と第2の液体50との間の界面52を操作する。
【0096】
- 絶縁層54 -
実施形態では、絶縁層54は、ポリマー材料54aと、該ポリマー材料に化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bとを含む。スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bは、第1の液体48及び第2の液体50のうちの1つ以上と接触する絶縁層54の表面106を提供する。実施形態では、図示されるように、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bは、第1の液体48と第2の液体50の両方と接触する絶縁層54の表面106を提供する。スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bを用いたポリマー材料54aは、その表面106におけるポリマー材料54aの変性である。したがって、本開示は、そのように変性させたポリマー材料54aを、例えば、「変性ポリマー」と呼ぶ。
【0097】
実施形態では、絶縁層54のポリマー材料54aは、ポリ(パラキシリレン)を含む。ポリ(パラキシリレン)は、商業的にはパリレンと呼ばれることが多い。実施形態では、絶縁層54のポリマー材料54aは、商業的にパリレンNと呼ばれることもあり、次式で表される繰り返し単位を有する:
【0098】
【化8】
【0099】
ここで、nは整数である。実施形態では、絶縁層54のポリマー材料54aは、商業的にパリレンCと呼ばれることもあり、次式で表される繰り返し単位を有する:
【0100】
【化9】
【0101】
ここで、nは整数である。実施形態では、絶縁層54のポリマー材料54aは、商業的にパリレンHT(登録商標)又はパリレンAF-4と呼ばれることもあり、次式で表される繰り返し単位を有する:
【0102】
【化10】
【0103】
ここで、nは整数である。実施形態では、絶縁層54のポリマー材料54aは、商業的にパリレンVT4と呼ばれることもあり、次式で表される繰り返し単位を有する:
【0104】
【化11】
【0105】
ここで、xは整数である。実施形態では、絶縁層54のポリマー材料54aは、商業的にパリレンDと呼ばれることもあり、次式で表される繰り返し単位を有する:
【0106】
【化12】
【0107】
ここで、xは整数である。
【0108】
実施形態では、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bは、ポリマー材料54aの繰り返し単位に結合したポリマー又は長鎖アルキル鎖を含む。例えば、実施形態では、ポリマーはシリコーンであり、したがって、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bは、ポリマー材料54aの繰り返し単位に結合したシリコーン鎖を含む。別の例として、実施形態では、所望のポリマーは、ポリオレフィン又は長鎖アルキル鎖であり、したがって、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bは、ポリマー材料54aの繰り返し単位に結合したポリオレフィン又は長鎖アルキル鎖を含む。「長鎖アルキル鎖」は、5つ以上の炭素原子長を有する任意のアルキル鎖を含む。
【0109】
さまざまなな反応を利用して、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bをポリマー材料54aに化学的に結合させることができる。例えば、AlClの存在下、長鎖アルキル鎖のハロゲン化物でパリレンN(ポリマー材料54aとして)をフリーデル・クラフツアルキル化すると(スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bを形成することが望ましい)、次の反応が生じる:
【0110】
【化13】
【0111】
ここで、nは整数であり、mは2以上の整数である。反応の生成物は、ポリマー材料54a(ここではパリレンN)に化学的に結合した長鎖アルキル鎖のスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bである。実施形態では、反応の生成物は絶縁層54を表す。上記はほんの一例であり、任意の所望のポリオレフィン又はアルキル鎖を同様の方法でパリレンNの繰り返し単位にグラフトさせることができる。
【0112】
別の例として、紫外線又はラジカル開始剤(過酸化物、例えば過酸化ベンゾイルなど)は、パリレンC(ポリマー材料54a)などの塩素化ポリ(パラキシリレン)の繰り返し単位内の塩素と炭素との間の結合を破壊することができ、これにより、塩素化ポリ(パラキシリレン)の繰り返し単位内の塩素があった部分をシリコーン鎖に置換することが可能となる。この反応の例を以下に示す:
【0113】
【化14】
【0114】
「n」は1より大きい整数であり、R’はシリコーンの残りの部分を表す。反応の生成物は、ポリマー材料54a(ここでは、パリレンC)に化学的に結合したシリコーンの鎖のスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bである。実施形態では、反応の生成物は絶縁層54を表す。
【0115】
別の例として、AlClの存在下、パリレンNなどのポリマー材料54aをシリコーンポリマーのハロゲン化物でフリーデル・クラフツアルキル化すると、次の反応が生じる:
【0116】
【化15】
【0117】
ここで、nは1より大きい整数であり、R’はシリコーン鎖の残りの部分である。反応の生成物は、ポリマー材料54a(ここでは、パリレンC)に化学的に結合したシリコーンの鎖のスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bである。実施形態では、反応の生成物は絶縁層54を表す。
【0118】
別の例として、パラジウム又は白金触媒の存在下でパリレンC(ポリマー材料54aとして)などの塩素化ポリ(パラキシリレン)とビニル基を有するシリコーンとの溝呂木・ヘック反応により、以下の反応が生じ、シリコーン鎖がパリレンCの塩素を置き換える。
【0119】
【化16】
【0120】
ここで、nは1より大きい整数であり、R’はシリコーン鎖の残りの部分である。反応の生成物は、ポリマー材料54a(ここでは、パリレンC)に化学的に結合したシリコーンの鎖のスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bである。実施形態では、反応の生成物は絶縁層54を表す。
【0121】
別の例として、パリレンC(ポリマー材料54aとして)などの塩素化ポリ(パラキシリレン)中の塩素を有機金属で置換すると、シリコーンの鎖上にグラフトすることができる。反応の簡略化した図は以下のとおりである:
【0122】
【化17】
【0123】
ここで、Mは金属であり、nは1より大きい任意の整数であり、R’はシリコーン鎖の残りの部分である。反応の生成物は、ポリマー材料54a(ここでは、パリレンC)に化学的に結合したシリコーンの鎖のスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bである。実施形態では、反応の生成物は絶縁層54を表す。
【0124】
別の例として、パリレンC(ポリマー材料54aとして)などの塩素化ポリ(パラキシリレン)を、ルイス酸又はブレンステッド酸の存在下でシリコーンと反応させると、塩素化ポリ(パラキシリレン)の繰り返し単位の塩素がシリコーンの鎖で還元的に置換される。機構の簡略化バージョンを以下に示す:
【0125】
【化18】
【0126】
ここで、nは1より大きい整数であり、R’はシリコーン鎖の残りの部分である。反応の生成物は、ポリマー材料54a(ここでは、パリレンC)に化学的に結合したシリコーンの鎖のスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bである。実施形態では、反応の生成物は絶縁層54を表す。
【0127】
上述の機構は単なる例であり、シリコーン、ポリオレフィン、又は長いアルキルの鎖は、ポリマー材料54aに化学的に結合して、ポリマー材料54a上にスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bを形成する方法を限定することを意図するものではない。
【0128】
実施形態では、上述の反応のうちの1つを実施することにより、絶縁層54は、次式のうちの1つ以上によって表される繰り返し単位を含んでいた:
【0129】
【化19-1】
【0130】
【化19-2】
【0131】
【化19-3】
【0132】
【化19-4】
【0133】
【化19-5】
【0134】
ここで、v、w、x、y、zは1より大きい整数であり、R、R1、R2、R3、及びR4は、(i)水素、(ii)アルキル鎖、(iii)フッ素化アルキル部分のうちのいずれか1つを含む。R1、R2、R3、R4はすべて同じであってもよい。R1、R2、R3、R4はすべて異なっていてもよい。
【0135】
ポリマーコーティング54aに化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bは、厚さ55を有する。実施形態では、厚さ55は25nm以下である。
【0136】
スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bは、絶縁層54に有益な接触角特性を付与する。実施形態では、第2の液体50(例えば、導電性又は極性液体)の存在下での第1の液体48(例えば、絶縁性又は無極性の液体)は、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bが提供する絶縁層54の表面106に、20°以下の接触角を形成する。実施形態では、第2の液体50としてのエチレングリコール中、0.1%w/w酢酸カリウムの溶液の存在下での第1の液体48としてのドデカンは、本明細書に記載されるように、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bが提供する絶縁層54の表面106に、10°以下の接触角を形成する。本明細書で用いられる場合、「接触角」とは、液体界面が固体表面と接触する角度である。接触角は、Connelly Applied Research社(米国ペンシルベニア州ナザレ所在)製などのゴニオメータを使用して測定することができる。接触角は、各試料の5つの異なる部位で測定され、平均されて接触角の値が得られる。
【0137】
加えて、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bは、絶縁層54に有益な表面エネルギーを付与する。手短に言えば、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bは、市販のポリ(パラキシリレン)よりも低い表面エネルギーを有する。実施形態では、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bは、25mN/m以下の表面エネルギーを有し、表面エネルギーの極性部分は1mN/m以下である。スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bのより低い表面エネルギーにより、液体レンズ10において第1の液体48及び第2の液体50として利用することができる液体の一覧が拡大する。さらには、以下の例が示すように、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bを用いた絶縁層54は、絶縁層54としての変性されていないパリレンC単独と比較して、屈折力のヒステリシスが低い。スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bのより低い表面エネルギーは、さらに、印加電圧の変化に応答する応答時間の短縮をもたらす。最後に、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bは、絶縁層54の上に施されたコーティングではなく、むしろ表面106における絶縁層54のポリマー材料54aの化学変性であることから、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bを用いた絶縁層54は、該絶縁層54の上に疎水性コーティングを使用する他の解決策よりも、高温及びストレスのかかる電圧下でより信頼性がある。
【0138】
さらには、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bを有する絶縁層54は信頼性が高く、これにより、液体レンズ10の信頼性が高くなる。実施形態では、液体レンズ10は、該液体レンズ10の有用な動作範囲内で光学ヒステリシス及び波面誤差を増加させることなく、85℃で1000時間以上の保管に合格する。実施形態では、液体レンズ10は、有用な動作範囲内で光学ヒステリシス及び波面誤差を増加させることなく、85℃で4000時間以上の保管に合格する。実施形態では、液体レンズ10は、有用な動作範囲内で光学ヒステリシス及び波面誤差を増加させることなく、70VのAC、1kHz、及び85℃で1000時間の連続動作に合格する。実施形態では、液体レンズ10は、有用な動作範囲内で光学ヒステリシス及び波面誤差を増加させることなく、70VのAC、1kHz、及び85℃で3000時間の連続動作に合格する。実施形態では、液体レンズ10は、有用な動作範囲内で光学ヒステリシス及び波面誤差を増加させることなく、60℃で1000万回の作動サイクルに合格する。実施形態では、液体レンズ10は、有用な動作範囲内で光学ヒステリシス及び波面誤差を増加させることなく、60℃で5000万回の作動サイクルに合格する。作動サイクルは、周波数3Hzの0Vから70Vの方形電圧交流によって模倣され、液体レンズ10にその最大電圧まで電力を供給し、液体レンズ10に電力を供給しないことをモデル化する。
【0139】
- ポリ(パラキシリレン)102ポリマー材料54aを変性させて該ポリマー材料54a上にスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bを形成する方法100 -
次に図2を参照すると、絶縁層54のポリマー材料54aを変性させるなど、ポリ(パラキシリレン)102を変性させる方法100が、本明細書に示されている。ポリ(パラキシリレン)102を変性させると、該ポリ(パラキシリレン)102上にスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bが形成する。ステップ104では、方法100は、ポリ(パラキシリレン)102の表面106を、シリコーン、ハロゲン化ポリオレフィン、又はハロゲン化長鎖アルキルを含む溶液108と接触させるステップを含む。実施形態では、ポリ(パラキシリレン)102は、基板110(例えば、第2の基板36)、導電性材料113(例えば、第2の電極24)、又は基板110と導電性材料113の両方の上に配置される。実施形態では、ポリ(パラキシリレン)102は、第1の液体48及び第2の液体50が加えられ、封じ込め領域16がキャップ14、ガスケット16、及び第1の基板30で閉じられる前に、液体レンズ10の封じ込め領域16内の第2の電極24及び第2の基板36上に配置された、ポリマー材料54aである。
【0140】
ポリ(パラキシリレン)102の表面106を溶液108と接触させることにより、ポリ(パラキシリレン)102が、少なくとも該ポリ(パラキシリレン)102の表面106において変化する。溶液108と接触する前は、ポリ(パラキシリレン)102の表面106は、上述の繰り返し単位を含む化学組成を有している。ポリ(パラキシリレン)102が溶液108と接触した後、表面106におけるポリ(パラキシリレン)102の化学組成は異なる。ポリ(パラキシリレン)102の繰り返し単位は、溶液108に含まれるシリコーン、ハロゲン化ポリオレフィン、又はハロゲン化長鎖アルキルの鎖を含み、ポリ(パラキシリレン)の繰り返し単位に化学的に結合し、したがってポリ(パラキシリレン)102上にスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bを形成する。
【0141】
実施形態では、溶液108は、シリコーンを含む。実施形態では、シリコーンは、ポリジメチルシロキサン・ホモポリマー又はコポリマーである。
【0142】
実施形態では、シリコーンは、ジメチルシロキサンとびメチルフルオロアルキルシロキサンとのコポリマーである。実施形態では、メチルフルオロアルキルシロキサンは、トリデカフルオロオクチルメチルシロキサンである。一例は、Gelest,Inc.社(米国ペンシルベニア州モリスビル所在)製の製品コードFMS-736である。
【0143】
実施形態では、シリコーンは、ビニル末端ポリジメチルシロキサン・ホモポリマー又はコポリマーである。一例は、Gelest,Inc.社(米国ペンシルベニア州モリスビル所在)製の製品コードDMS-V31である。実施形態では、シリコーンは、クロロメチル末端ポリジメチルシロキサン・ホモポリマー又はコポリマーである。一例は、製品コードDMS-L21(米国ペンシルベニア州モリスビル所在のGelest,Inc.社製)である。実施形態では、シリコーンは、トリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン・ホモポリマー又はコポリマーである。例は、Gelest,Inc.社(米国ペンシルベニア州モリスビル所在)製の製品コードDMS-T25、及びGelest,Inc.社(米国ペンシルベニア州モリスビル所在)製の製品コードDMS-T02である。実施形態では、シリコーンは、メチルヒドロシロキサン/ジメチルシロキサン・コポリマーである。一例は、製品コードHMS053(米国ペンシルベニア州モリスビル所在のGelest,Inc.社製)である。
【0144】
実施形態では、溶液108はハロゲン化ポリオレフィンを含む。実施形態では、ハロゲン化ポリオレフィンは、塩素化ポリエチレンである。塩素化ポリプロピレンなどの他のハロゲン化ポリオレフィンも想定される。
【0145】
実施形態では、方法100に供されるポリ(パラキシリレン)102は、次式のうちの1つ以上の繰り返し単位を含み:
【0146】
【化20】
【0147】
ここで、nは整数である。上記のように、これらのポリマーは、順に、パリレンN、パリレンC、及びパリレンAF-4及びパリレンHT(登録商標)(米国インディアナ州インディアナポリス所在のSpecialty Coating Systems,Inc.社の登録商標)として商業的に知られている。
【0148】
実施形態では、溶液108は1つ以上の触媒をさらに含む。実施形態では、溶液108はKarstedt触媒をさらに含む。実施形態では、溶液108はパラジウム錯体触媒をさらに含む。実施形態では、溶液108は塩化アルミニウムをさらに含む。実施形態では、溶液108は、過酸化ベンゾイル又は過酸化ジクミルなどの過酸化物をさらに含む。
【0149】
実施形態では、ステップ111において、方法100は、溶液108が接触した接触ポリ(パラキシリレン)102を、室温を超える温度を有する環境112に供することをさらに含む。実施形態では、環境112の高温は、ポリ(パラキシリレン)102と、その表面106におけるポリ(パラキシリレン)102の組成を変化させる溶液108(例えば、シリコーン、ハロゲン化ポリオレフィン、又は長鎖アルキル鎖)の反応種との間の反応を促進し、その結果、溶液108に含まれるシリコーン、ハロゲン化ポリオレフィン、又はハロゲン化長鎖アルキルの鎖は、ポリ(パラキシリレン)の繰り返し単位に化学的に結合し、したがって、ポリ(パラキシリレン)102上にスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bを形成する。実施形態では、温度は75℃から180℃である。実施形態では、環境112は空気を含む。実施形態では、環境112は不活性アルゴンを含む。
【0150】
上で論じたように、ポリ(パラキシリレン)102(ポリマー材料54aとして)をその上にスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bを含むように変性させると、極性液体(すなわち、第2の液体20)の存在下で、非極性液体(例えば、第1の液体48)がその表面106に形成する接触角が大幅に低下する。実施形態では、ポリ(パラキシリレン)102を溶液108と接触させる前に、極性液体(例えば、第2の液体50)の存在下でポリ(パラキシリレン)102の表面106上に配置された非極性液体(例えば、第1の液体48)は、50°以上の第1の接触角を形成する。背景技術で説明したように、このような接触角は、エチレングリコール中、0.1%w/w酢酸カリウムの極性液体溶液の存在下で、ドデカンがパリレンC上にあるときに形成される。しかしながら、ポリ(パラキシリレン)102を溶液108と接触させた後(かつ、その上にスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bを形成した後)、表面106(ここでは、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bによって提供される)上に配置された非極性液体(例えば、第1の液体48)は、極性液体(例えば、第2の液体50)の存在下で、30度以下の第2の接触角を形成する。実施形態では、第2の接触角は20度以下である。
【0151】
実施形態では、ポリ(パラキシリレン)102を溶液108と接触させる前に、ポリ(パラキシリレン)102は、(液体レンズ10となるべきものの)ベース12の一部としての第2の電極24及び第2の基板36上の絶縁層54のポリマー材料54aとして配置される。次に、溶液108を、ポリマー材料54aとしてポリ(パラキシリレン)102に施し、その結果、ポリマー材料54a上にスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bが形成され、その後、絶縁層54がすすがれる。このような状況では、実施形態では、ステップ114において、方法100は、(i)封じ込め領域16内に第1の液体48及び第2の液体50を堆積すること、及び(ii)封じ込め領域16を、キャップ14、ガスケット18、第1の電極20、及び第1の基板30で閉じることをさらに含む。封じ込め領域16をキャップ14、ガスケット18、第1の電極20、及び第1の基板30で閉じることにより、第1の液体48及び第2の液体50が封じ込め領域16内に捕捉される。界面52は、第1の液体48と第2の液体50との間に形成される。ポリマー材料54a上のスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bは、第1の液体48及び第2の液体50に接触する、少なくとも絶縁層54の表面106を形成する。
【0152】
したがって、液体レンズ10の実施形態が形成される。絶縁層54は、ポリマー材料54aとしてのポリ(パラキシリレン)102を、シリコーン、ハロゲン化ポリオレフィン、又は長鎖アルキル鎖を含む溶液108と接触させた生成物である。よって、ポリマー材料54aとしてのポリ(パラキシリレン)102を溶液108と接触させると、表面106に絶縁層54の化学組成の変化(より具体的には、表面106にスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bの形成)がもたらされる。
【0153】
- 直流電力下で動作可能な液体レンズ10 -
背景技術で特定した第2の問題にさらに関連して、低い誘電損失係数を有する材料が、直流電力で動作する液体レンズ10の絶縁層54として有用であることが発見された。上述のように、絶縁層54は誘電体材料を含む。誘電体材料は電気絶縁体である(すなわち、電流は材料を通過しない)。しかしながら、誘電体材料に電場が印加されると、誘電体材料が分極する可能性がある。誘電体材料内の正電荷は場と整列し、誘電体材料内の負電荷は場に対して整列する。誘電率(ε)は、誘電体材料がどの程度分極しやすいかを示す尺度である。誘電率(ε)が高いほど、誘電体材料は分極しやすくなり、したがって、電場に応じて誘電体材料が蓄えるエネルギーが多くなる。比誘電率(ε)(「誘電定数」と呼ばれることがある)は、材料の誘電率(ε)を自由空間の誘電率(ε)で割った商である。したがって、比誘電率は無次元値であり、実数部
【0154】
と虚数部
【0155】
を有する。
【0156】
誘電率(ε)、したがって比誘電率(ε)は、印加される電磁場の周波数(ω)の関数である。したがって、比誘電率は次のようになる:
【0157】
虚数部は、束縛電荷と双極子緩和によるものであると考えられ、
【0158】
は、印加される電磁場に応じて誘電体材料が放散する熱と考えることができる。
【0159】
液体レンズ10の消費電力を低減するためには、比誘電率
(ε(ω))の実数部
【0160】
は、液体レンズ10の誘電体材料として機能するのに十分でなければならず、虚数部
【0161】
は、熱放散の形での電力損失を避けるために低くなければならない。誘電正接は、この比率を次のように定量化する:
【0162】
【数1】
【0163】
誘電正接は、「誘電損失係数」とも呼ばれる。誘電正接の逆数は「品質係数」と呼ばれることもある。虚数部
【0164】
は、材料の「損失弾性率」と呼ばれることがある。
【0165】
上述のように、実施形態では、交流電力の代わりに、直流電力が第2の電極24に印加されて、第1の液体48と第2の液体50との間の界面52を操作する。(i)直流電流印加時の絶縁層54の性能と、(ii)誘電正接、又はより具体的には、交流電流印加時の絶縁層54の虚数部
【0166】
との間には強い相関がある。虚数部
【0167】
も、部分的には双極子緩和による熱損失と考えることができる。直流電流が印加されると、すべての双極子は電場と整列したままになる(この状態は分極位相と呼ばれる)。しかしながら、この整列(すなわち、材料が分極位相に到達するまで)には時間がかかる。材料が分極位相に達するまでに必要な時間は、虚数部
【0168】
に比例するように見える。言い換えれば、誘電損失係数が比較的高い材料(すなわち、虚数部
【0169】
が比較的高い材料を意味する)は、印加された直流電流に応じて双極子を整列させるのに比較的長い時間を必要とする。また、材料が分極位相に達するのにかかる時間が長ければ長いほど、直流電流又は低周波交流電流が利用される場合、その材料は液体レンズ10の絶縁層66としての適用には、より不適となる。
【0170】
実施形態では、絶縁層54は、1kHzの周波数を有する交流電流下で測定した場合、少なくとも200の品質係数を有する。本開示の目的では、材料に印加される交流の周波数の関数として、材料の誘電損失係数(したがって、品質係数)を測定するために、インピーダンス分光法が利用される。品質係数が少なくとも200である場合、液体レンズ10は(かつ、実施形態では)、(i)直流電流、又は(ii)0.1Hz以下の周波数を有する交流電流のいずれかで作動することができる。したがって、液体レンズ10は、少ない電力で動作することができ、エネルギー効率がよい。
【0171】
論じたように、実施形態では、絶縁層54は、ポリ(パラキシリレン)を含みうるポリマー材料54aを含む。(i)直流電流下、又は(ii)0.1Hz以下の周波数を有する交流電流下のいずれかで動作する液体レンズ10の実施形態では、ポリ(パラキシリレン)は、次式のうちの1つ以上の繰り返し単位を適切に有することができる:
【0172】
【化21】
【0173】
ここで、nは整数である。これらのポリマーは、それぞれパリレンHT(登録商標)及びパリレンNとして商業的に知られている。インピーダンス分光法により、パリレンNの比誘電率(ε(ω))の実数部
【0174】
及び虚数部
【0175】
は、誘電正接tanδ(0.1Hz)が0.004(又は、品質係数が250)では、20℃、0.1Hzの周波数で、それぞれ、約2.6及び0.01であると測定された。対照的に、インピーダンス分光法では、商業的にパリレンCと呼ばれるポリ(パラキシリレン)の比誘電率(ε(ω))の実数部
【0176】
及び虚数部
【0177】
は、誘電正接tanδ(0.1Hz)が0.038(又は、品質係数が27)では、20℃、0.1Hzの周波数で、約4及び0.15であると測定された。
【0178】
実施形態では、絶縁層54のポリマー材料54aは、パリレンCとパリレンNの両方を含む。このようなポリマー材料54aは、パリレンCの品質の一部を含むが、より許容可能な誘電正接を有し、絶縁層54を直流電流用途に適したものにする。
【0179】
実施形態では、絶縁層54は、上で説明したように、ポリマー材料54aに化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bを含む。スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54b、ポリマー材料54aに耐久性を付与し、液体レンズ10を商業的に実用的なものにする。ポリマー材料54aのみを有する絶縁層54(スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体54bを有しないパリレンNなど)を含む液体レンズ10は、用途によっては商業的に実用化するのに十分なほど耐久性がない可能性がある。
【実施例
【0180】
実施例1 - 実施例1では、3つのケイ素試片を、4.2μmの厚さを有するパリレンCの層でコーティングした(以下、試料1A、試料1B、及び試料1Cと呼ぶ)。以下に説明するように、試料1A及び試料1Bは対照試料である。ドデカンを、その後に試料の接触角の決定に使用するために、エチレングリコールと混合した。試料1AのパリレンCの層上のエチレングリコールの存在下での混合ドデカンの接触角は、61°であった。
【0181】
同じく対照試料である試料1Bでは、次に、ビニル末端ポリジメチルシロキサンのみ(製品コードDMS-V31、Gelest,Inc.社(米国ペンシルベニア州モリスビル所在)製)を一滴だけ、パリレンCの層上に置いた。次に、試料1Bを、85℃の温度を有する空気環境に1時間30分、置いた。その後、試料をシリコーン油(より具体的には、Gelest,Inc.社(米国ペンシルベニア州モリスビル所在)から製品コードDMS-T02で得られるトリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン)ですすいだ。次に、試料をアセトンですすいだ。次に、試料を水ですすいだ。次に、試料をイソプロパノールですすいだ。次に、試料に乾燥するまで空気を吹き込んだ。次に、エチレングリコールと混合したドデカンを、試料1B上に置いた。エチレングリコールの存在下でのドデカンの接触角は、71°であると決定された。試料1B対試料1Aは、パリレンCをビニル末端ポリジメチルシロキサンと接触させるだけでは接触角に有利な効果はなく、実際に非極性液体ドデカンの接触角を増加させることを示している。
【0182】
試料1Cでは、次の成分を混合することによって溶液を調製した:
99質量%のビニル末端ポリジメチルシロキサン
1質量%の、ビニル末端ポリジメチルシロキサン中、1質量%白金。
【0183】
ビニル末端ポリジメチルシロキサンは、これもGelest,Inc.社(米国ペンシルベニア州モリスビル所在)製の製品コードDMS-V31であった。ビニル末端ポリジメチルシロキサンは、約28,000グラム/モルの平均分子量を有すると考えられる。ビニル末端ポリジメチルシロキサンは、次式によって表されると考えられ、ここで、nは、平均した、考えられた分子量を与える整数である:
【0184】
【化22】
【0185】
ビニル末端ポリジメチルシロキサン中、1質量%の白金を、製品コードSIP6830.1でGelest,Inc.社(米国ペンシルベニア州モリスビル所在)から入手した。ビニル末端ポリジメチルシロキサン中、1質量%の白金は、重量パーセントの降順で、(i)モノビニル末端ポリジメチルシロキサン、(ii)白金、1,3-ジエテニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体、及び(iii)ジビニルテトラメチルジシロキサンであると考えられる。
【0186】
次いで、溶液の一滴を試料1CのパリレンCの層上に置いた。次に、試料1Cを、85℃の温度を有する空気環境に1時間30分、置いた。その後、試料をシリコーン油(より具体的には、Gelest,Inc.社(米国ペンシルベニア州モリスビル所在)から製品コードDMS-T02で得られるトリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン)ですすいだ。次に、試料をアセトンですすいだ。次に、試料を水ですすいだ。次に、試料をイソプロパノールですすいだ。次に、試料に乾燥するまで空気を吹き込んだ。
【0187】
次に、エチレングリコールと混合したドデカンを、試料1Cのパリレンの変性された層上に置いた。エチレングリコールの存在下でのドデカンの接触角は、23°であると決定された。23°の接触角は、対照試料1A(61°)と比較して大幅に改善されている。試料1A(61°)と比較した試料1Cの接触角(23°)の違いは、表面のパリレンCの化学組成が変化したことを示しており、これはビニル末端ポリジメチルシロキサンに白金が含まれていることに起因すると考えられる。理論に束縛されるものではないが、白金は、ビニル末端ポリジメチルシロキサンがパリレンCの繰り返し単位の塩素を置換する溝呂木・ヘック反応を促進する一種のKarstedt触媒として作用すると考えられる。反応を簡略化して説明すると次のようになると考えられる:
【0188】
【化23】
【0189】
ここで、n及びmは整数である。本発明者が知っている文献には、本発明者が反応であると考えているものは記載されていない。いずれにしても、試料1Cと試料1Bとの比較から、反応が起こり、パリレンCの繰り返し単位が表面で変性され、そこに化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が形成されることは明らかである。スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体は、ポリジメチルシロキサンの鎖を含む。
【0190】
パリレンCを絶縁層として用いて液体レンズを調製した。次に、絶縁層を試料1Cに使用した溶液と接触させ、続いて試料1Cと同じ方法で加熱し、すすぎ、乾燥させた。したがって、絶縁層は、ポリジメチルシロキサンの鎖が化学的に結合したパリレンCとなり、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体を形成した。スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が絶縁層の表面を提供した。第1の液体及び第2の液体を加え、最上部の外層に施して液体レンズを形成した。第1の液体及び第2の液体は、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が提供する表面と接触していた。
【0191】
次に図3を参照すると、液体レンズの測定に基づいて電気光学曲線を生成した。より具体的には、屈折力と波面誤差の両方を測定し、印加電圧の関数としてグラフ化した。結果は、広範囲の屈折力が利用可能であることを示している。加えて、0Vrmsから80Vrmsまでの電圧の関数としての屈折力(「上方屈折力」)は、80Vrmsから0Vrmsに戻る電圧の関数としての屈折力(「下方屈折力」)とほとんど差がない。-5ディオプタと+13ディオプタとの間で測定された最大ヒステリシス、すなわち、(i)電圧を増加させる前に、レンズを-5ディオプタと+13ディオプタとの間の屈折力に設定した場合に、所与の電圧で生成される屈折力と、(ii)80Vrmsの最大電圧まで増加し、その後電圧を基準電圧まで低下させた後に同じ電圧で生成される屈折力との間の最大差は、約0.4ディオプタであった。この例では、-5ディオプタ及び+13ディオプタが、レンズの動作ディオプタ範囲として規定される。
【0192】
比較のために、溶液と接触させることなく、またパリレンCの層上に別の疎水性層を配置することなく、絶縁層としてパリレンCの層を使用して、液体レンズを調製した。液体レンズは機能しなかった。これはおそらく、パリレンCの層上での非極性液体の接触角が高すぎたためと考えられる。パリレンCを絶縁層として使用し、パリレンCの上に疎水性層を含み、かつ同じ液体を使用する液体レンズは、2ディオプタを超えるヒステリシスを生成する。
【0193】
実施例2 - 実施例2では、2つのケイ素試片を、3.6μmの厚さを有するパリレンCの層でコーティングした(以下、試料2A及び試料2Bと呼ぶ)。試料2Aは対照試料である。ドデカンを、その後に試料の接触角の決定に使用するために、エチレングリコールと混合した。試料2AのパリレンCの層上のエチレングリコールの存在下でのドデカンの接触角は、60°を超えていた。
【0194】
以下の成分を使用して溶液を調製した:
10グラムのトリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン
50ミリグラムの過酸化ジクミル
トリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサンは、Gelest,Inc.社(米国ペンシルベニア州モリスビル所在)から製品コードDMS-T25として入手した。トリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサンの化学構造は、次式で表されると考えられる:
【0195】
【化24】
【0196】
次いで、溶液の一滴を試料2BのパリレンCに施した。次いで、試料2Bを、160℃の温度を有する不活性アルゴンの環境に2時間供した。次に、試料2Bをシリコーン油(より具体的には、Gelest,Inc.社(米国ペンシルベニア州モリスビル所在)から製品コードDMS-T02で得られるトリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン)ですすいだ。次に、試料をアセトンですすいだ。次に、試料を水ですすいだ。次に、試料をイソプロパノールですすいだ。次に、試料に乾燥するまで空気を吹き込んだ。この溶液は表面のパリレンCを変性させ、その結果、パリレンCに化学的に結合した、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が形成された。スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体には、溶液からのポリジメチルシロキサンの鎖が含まれる。
【0197】
次に、試料2Bの変性パリレンCの層の厚さを測定した。測定された厚さは再度3.6μmであった。スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体の厚さはパリレンCの厚さと比較して有意ではなかった。ポリジメチルシロキサンの鎖がパリレンCに化学結合し、したがって、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が形成されたことを確認するには、エネルギー分散型X線分光法(「EDS」)を用いた走査型電子顕微鏡(「SEM」)を使用して、試料2A、次いで試料2Bの両方に対して分析を実施した。試料2Bは、変性されたパリレンCの表面に、試料2Aの変性されていないパリレンCの表面に存在すると測定されたものよりも約5%多い原子ケイ素と約10%多い原子酸素を含んでいた。結果は、パリレンCを上記の溶液と接触させると、たとえ厚さが大幅に変化しなかった場合でも、表面の化学組成が変化したことを示している。
【0198】
溶液がパリレンCの表面上にコーティングをもたらしただけであれば、パリレン層の厚さは試料2Aと比較して試料2Bでは増加したであろう。しかしながら、パリレン層の厚さは試料2Aと試料2Bの両方で同じであり、表面のパリレン層の化学組成はSEM-EDS分析によれば異なることが示された。
【0199】
このスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体の厚さを推定するために、偏光解析を行った。対照試料2Aと、溶液で変性されたパリレンCを含む試料2Bの両方とも、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体を検出するために偏光解析で研究した。試料2Aでは、偏光解析により、1.63の屈折率及び3.6μmの厚さを有する単一層が示された。試料2Bでは、偏光解析により、1.62の屈折率及び3.6μmの厚さを有する第1の層と、1.22の屈折率及び22nmの厚さを有する第2の層が示された。第2の層の非常に低い屈折率は密度が低いことを裏付けており、その液体のような挙動と非常に一致している。
【0200】
溶液中の過酸化ジクミルは、表面にあるパリレンCの繰り返し単位の塩素と炭素との間の結合を切断するラジカル開始剤として作用し、これにより、塩素をトリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサンに置き換えることが可能となったと考えられる。得られた変性パリレンCは、次式で表される繰り返し単位を有すると考えられる:
【0201】
【化25】
【0202】
ここでの文字k、m、及びnは整数である。
【0203】
試料2Bの変性パリレンCのスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体上のエチレングリコールの存在下でのドデカンの接触角は、10°であると測定され、これは、試料2Aの変性されていないパリレンCの層と比較して約50°減少している。次に、2Bの試料をアセトンですすいだ。試料2B上のエチレングリコールの存在下でのドデカンの接触角を再度測定し、測定された接触角は17°であった。
【0204】
実施例3 - 実施例3では、2つのケイ素試片を、パリレンHT(登録商標)の層でコーティングした(以下、試料3A及び試料3Bと呼ぶ)。試料3Aは対照試料である。ドデカンを、その後に試料の接触角の決定に使用するために、エチレングリコールと混合した。試料3AのパリレンHT(登録商標)の層上のエチレングリコールの存在下でのドデカンの接触角は、90°を超えていた。
【0205】
以下の成分を使用して溶液を調製した:
10グラムのトリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン
50ミリグラムの過酸化ジクミル
これは、実施例2で使用した溶液と同じ溶液である。次いで、溶液の一滴を試料3BのパリレンHT(登録商標)に施した。次いで、試料3Bを、160℃の温度を有する不活性アルゴンの環境に2時間供した。次いで、試料3Bをシリコーン油(より具体的には、Gelest,Inc.社(米国ペンシルベニア州モリスビル所在)から製品コードDMS-T02で得られるトリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン)ですすいだ。次に、試料をアセトンですすいだ。次に、試料を水ですすいだ。次に、試料をイソプロパノールですすいだ。次に、試料に乾燥するまで空気を吹き込んだ。この溶液は、パリレンHT(登録商標)の表面を変性させ、その結果、化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が形成される。スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体には、溶液からのポリジメチルシロキサンの鎖が含まれる。
【0206】
スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が提供された試料3Bの表面上のエチレングリコールの存在下でのドデカンの接触角は、16°であると測定され、試料3Aの変性されていないパリレンHT(登録商標)と比較して約74°減少している。
【0207】
溶液中の過酸化ジクミルは、その表面にあるパリレンHT(登録商標)の繰り返し単位のフッ素と炭素との間の結合を切断するラジカル開始剤として作用し、これにより、塩素をトリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサンに置き換えることが可能となったと考えられる。表面の変性されたパリレンHT(登録商標)の繰り返し単位は、次式で表されると考えられる:
【0208】
【化26】
【0209】
ここでの文字k、m、及びnは整数である。
【0210】
実施例4 - 実施例4では、2つのケイ素試片を、パリレンCの層でコーティングした(以下、試料4A及び試料4Bと呼ぶ)。試料4Aは対照試料である。以下の成分を含む溶液を調製した:
10グラムの(15~20%トリデカフルオロオクチルメチルシロキサン)-(80~85%ジメチルシロキサン)コポリマー
90ミリグラムの過酸化ジクミル
フッ素化シリコーンコポリマーは、製品コードFMS-736(米国ペンシルベニア州モリスビル所在のGelest,Inc.社製)として入手した。溶液の一滴をシリコーン試片4Bに施した。次いで、試料4Bを、160℃の温度を有する不活性アルゴンの環境に2時間供した。次に、試料4Bをヘキサメチルジシロキサンで2回洗浄した。次に、試料に乾燥するまで空気を吹き込んだ。この溶液は、パリレンHT(登録商標)の表面を変性させ、その結果、化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が形成される。スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体は、溶液からのフッ素化シリコーンコポリマーの鎖を含む。
【0211】
試料4Bの変性パリレンCのスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体上のエチレングリコールの存在下でのドデカンの接触角は、4°であると測定され、これは、試料4Aの変性されていないパリレンCの層と比較して約55°減少している。
【0212】
パリレンCを絶縁層として用いて液体レンズを調製した。次に、絶縁層を試料4Bに使用した溶液と接触させ、続いて試料4Bと同じ方法で加熱し、すすぎ、乾燥させた。したがって、絶縁層は、ポリジメチルシロキサンの鎖が化学的に結合したパリレンCとなり、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体を形成した。スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が絶縁層の表面を提供した。第1の液体及び第2の液体を加え、最上部の外層に施して液体レンズを形成した。第1の液体及び第2の液体は、スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が提供する表面と接触していた。
【0213】
液体レンズの測定に基づいて電気光学曲線を生成した。より具体的には、屈折力と波面誤差の両方を測定し、印加電圧の関数としてグラフ化した。液体レンズの-5ディオプタから+13ディオプタの動作範囲で記録された最大ヒステリシスは、0.1ディオプタであった。
【0214】
実施例5 - 実施例5では、図4を参照すると、時間の関数としてのパリレンN上の水の接触角を、直流電力の印加の前後で測定した。結果をグラフ化し、図2に再現した。直流電流の印加は、20秒の時点で開始した。約43度の接触角はほぼ瞬時に生じ、その後、接触角はほとんど変化を示さなかった。
【0215】
実施例6 - 実施例6では、図5を参照して、導電性液体として水を用い、絶縁性液体として油を用い、絶縁層としてパリレンNを用いて、液体レンズを形成した。直流電流を使用してさまざまな電圧を印加して水と油との間の界面を操作し、界面(レンズ)の屈折力をさまざまな電圧の関数として測定した。結果をグラフ化し、そのグラフを図5に再現する。該グラフは、印加電圧に直線的に関係する屈折力を備えた、機能する液体レンズを示している。該グラフはまた、電圧の増加を電圧の減少と比較した場合の屈折力のヒステリシスが最小限であることも示している。実施例5及び6は、パリレンNなどの高品質係数ポリマー材料を絶縁層として組み込んだ液体レンズが、直流電力又は低周波交流電力で作動させた場合に良好に機能することができることを示している。化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体を含むパリレンNの変性は、変動する電圧又はヒステリシスに対する応答に悪影響を及ぼさないであろうと考えられる。
【0216】
比較例1 - 比較例1では、図6を参照すると、パリレンC(フルオロポリマーであるCytop(登録商標)の疎水性層で覆われている)上の水の接触角を時間の関数として、直流電力(負電圧と正電圧の両方)を印加する前後で測定した。結果をグラフ化し、図3に再現した。直流電流の印加は、約5秒の時点で開始した。正電圧の直流電流を印加すると、接触角は約87度まで急速に上昇したが、その後、60秒の時点に至るまでは約94度までゆっくりと増加した。負電圧の直流電流を印加すると、接触角は約85度まで急速に上昇したが、その後、約60秒の時点に至るまでは約89度までゆっくりと増加し、次いで、約135秒の時点で直流電流の印加が停止するまでゆっくりと減少した。直流電流の印加下でのパリレンCの時間の関数としての接触角の変動は、パリレンNの時間の関数としての定常接触角とは対照的である。パリレンCの時間の関数としての接触角の変動は、双極子の分極の結果であると考えられ、交流の印加下で誘電熱損失が生じる機構と同じである。パリレンNは、交流電流の印加下でのパリレンCと比較してはるかに低い誘電正接値に反映されるように、また、印加された直流電流に対して非常に高速かつ安定した接触角の応答に反映されるように、同じ分極を被らない。手短に言えば、パリレンNはすぐに分極するが、パリレンCは分極しないため、パリレンNは直流電流を印加する液体レンズの絶縁層としての使用に適しているが、パリレンCは適していない。
【0217】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0218】
実施形態1
液体レンズであって、該液体レンズが、
封じ込め領域内に配置された第1の液体及び第2の液体であって、前記第1の液体と前記第2の液体との間に界面を形成する、第1の液体及び第2の液体、
電極、及び
前記電極を前記第1の液体及び前記第2の液体から分離する絶縁層であって、該絶縁層が、ポリマー材料と、該ポリマー材料に化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体とを含み、該スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が、前記第1の液体及び前記第2の液体のうちの1つ以上に接触する表面を提供する、絶縁層
を含む、液体レンズ。
【0219】
実施形態2
前記絶縁層の前記ポリマー材料がポリ(パラキシリレン)を含む、
実施形態1に記載の液体レンズ。
【0220】
実施形態3
前記絶縁層の前記ポリマー材料が次式の繰り返し単位を含み:
【0221】
【化27】
【0222】
nが整数である、
実施形態1に記載の液体レンズ。
【0223】
実施形態4
前記絶縁層の前記ポリマー材料が次式の繰り返し単位を含み:
【0224】
【化28】
【0225】
nが整数である、
実施形態1に記載の液体レンズ。
【0226】
実施形態5
前記絶縁層の前記ポリマー材料が次式の繰り返し単位を含み:
【0227】
【化29】
【0228】
nが整数である、
実施形態1に記載の液体レンズ。
【0229】
実施形態6
前記スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が、前記ポリマー材料の繰り返し単位に結合したシリコーン鎖を含む、
実施形態1から5のいずれかに記載の液体レンズ。
【0230】
実施形態7
前記スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が、前記ポリマー材料の繰り返し単位に結合したポリオレフィン又は長鎖アルキル鎖を含む、
実施形態1から5のいずれかに記載の液体レンズ。
【0231】
実施形態8
前記絶縁層が、次式のうちの1つ以上によって表される繰り返し単位を含み:
【0232】
【化30-1】
【0233】
【化30-2】
【0234】
【化30-3】
【0235】
【化30-4】
【0236】
【化30-5】
【0237】
【化30-6】
【0238】
v、w、x、y、及びzが、1より大きい整数であり、かつ
R、R1、R2、R3、及びR4が、(i)水素、(ii)アルキル鎖、(iii)フッ素化アルキル部分のうちのいずれか1つを含む、
実施形態1に記載の液体レンズ。
【0239】
実施形態9
前記絶縁層の前記ポリマー材料がポリ(パラキシリレン)を含み、かつ
前記絶縁層が、前記ポリマー材料をシリコーン、ハロゲン化ポリオレフィン、又はハロゲン化長鎖アルキル鎖を含む溶液と接触させた結果、前記表面における前記絶縁層の化学組成を変化させる生成物である、
実施形態1に記載の液体レンズ。
【0240】
実施形態10
前記ポリマーコーティングに化学的に結合した前記スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が、25nm以下の厚さを含む、
実施形態1から9のいずれかに記載の液体レンズ。
【0241】
実施形態11
前記第1の液体が絶縁性又は無極性の液体であり、
前記第2の液体が導電性又は極性の液体であり、かつ
前記第2の液体の存在下での前記第1の液体が、前記絶縁層上に20°以下の接触角を形成する、
実施形態1から10のいずれかに記載の液体レンズ。
【0242】
実施形態12
前記液体レンズが、(i)直流電流下、又は(ii)0.1Hz以下の周波数を有する交流電流下で作動し、かつ
前記絶縁層が、周波数1kHzの交流下で測定して、少なくとも200の品質係数を含む、
実施形態1から11のいずれかに記載の液体レンズ。
【0243】
実施形態13
液体レンズにおいて、
封じ込め領域内に配置された第1の液体及び第2の液体であって、前記第1の液体と前記第2の液体との間に界面を形成する、第1の液体及び第2の液体、
電極、及び
前記電極を前記第1の液体及び前記第2の液体から分離する絶縁層であって、前記絶縁層又は前記液体レンズが、1kHzの周波数を有する交流電流下で測定して、少なくとも200の品質係数を示す、絶縁層
を含み、
前記液体レンズが、(i)直流電流、又は(ii)0.1Hz以下の周波数を有する交流電流のいずれかの下で作動する、
液体レンズ。
【0244】
実施形態14
前記絶縁層がポリマー材料をさらに含み、該絶縁層のポリマー材料が、ポリ(パラキシリレン)を含む、
実施形態13に記載の液体レンズ。
【0245】
実施形態15
前記ポリ(パラキシリレン)が、次式のうちの1つ以上の繰り返し単位を有しており:
【0246】
【化31】
【0247】
nが整数である、
実施形態14に記載の液体レンズ。
【0248】
実施形態16
前記絶縁層が、前記ポリマー材料に化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体をさらに含み、前記スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が、前記第1の液体及び前記第2の液体のうちの1つ以上に接触する表面を提供する、
実施形態14に記載の液体レンズ。
【0249】
実施形態17
前記絶縁層が、前記ポリマー材料に化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体をさらに含み、前記スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が、前記第1の液体及び前記第2の液体のうちの1つ以上に接触する表面を提供する、
実施形態15に記載の液体レンズ。
【0250】
実施形態18
前記スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が、前記ポリマー材料の繰り返し単位に結合したシリコーン鎖、ポリオレフィン鎖、又は長鎖アルキル鎖を含む、
実施形態16又は17に記載の液体レンズ。
【0251】
実施形態19
前記ポリマーコーティングに化学的に結合した前記スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が、25nm以下の厚さを含む、実施形態1から9のいずれかに記載の液体レンズ。
【0252】
実施形態20
前記第1の液体が絶縁性又は無極性の液体であり、かつ
前記第1の液体が、前記絶縁層の前記表面に20°以下の接触角を形成する、
実施形態13から19のいずれかに記載の液体レンズ
実施形態21
前記絶縁層が、前記ポリマー材料をシリコーン、ハロゲン化ポリオレフィン、又はハロゲン化長鎖アルキル鎖を含む溶液と接触させた結果、前記表面における前記絶縁層の化学組成を変化させる生成物である、
実施形態14から17のいずれかに記載の液体レンズ。
【0253】
実施形態22
変性ポリマーであって、
ポリマー材料と、該ポリマー材料に化学的に結合したスリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体と
を含む、変性ポリマー。
【0254】
実施形態23
前記絶縁層の前記ポリマー材料がポリ(パラキシリレン)を含む、
実施形態22に記載の変性ポリマー。
【0255】
実施形態24
前記ポリマーコーティングに化学的に結合した前記スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が、25nm以下の厚さを含む、
実施形態22から23のいずれかに記載の変性ポリマー。
【0256】
実施形態25
前記スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が25mN/m以下の表面エネルギーを含み、前記表面エネルギーの極性部分が1mN/m以下である、
実施形態22から24のいずれかに記載の変性ポリマー。
【0257】
実施形態26
前記スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体が表面を提供し;かつ
エチレングリコール中、0.1w/w酢酸カリウムの存在下での前記表面上のドデカンが、前記表面に対して20°以下の接触角を形成する、
実施形態22から25のいずれかに記載の変性ポリマー。
【0258】
実施形態27
前記変性ポリマーが、次式のうちの1つ以上によって表される繰り返し単位を含み:
【0259】
【化32-1】
【0260】
【化32-2】
【0261】
【化32-3】
【0262】
【化32-4】
【0263】
【化32-5】
【0264】
v、w、x、y、zが1より大きい整数であり、かつ
R、R1、R2、R3、R4が、(i)水素、(ii)アルキル鎖、(iii)フッ素化アルキル部分のうちのいずれか1つを含む、
実施形態22に記載の変性ポリマー。
【0265】
実施形態28
ポリ(パラキシリレン)を変性させる方法であって、
ポリ(パラキシリレン)の表面を、シリコーン、ハロゲン化ポリオレフィン、又はハロゲン化長鎖アルキル鎖を含む溶液と接触させるステップ
を含み、ここで、
前記溶液に含まれる前記シリコーン、前記ハロゲン化ポリフィン、又は前記ハロゲン化長鎖アルキルの鎖が、前記ポリ(パラキシリレン)の繰り返し単位に化学的に結合する、
ポリ(パラキシリレン)を変性させる方法。
【0266】
実施形態29
前記溶液が前記シリコーンを含み、該シリコーンがポリジメチルシロキサン・ホモポリマー又はコポリマーである、実施形態28に記載の方法。
【0267】
実施形態30
前記溶液が前記シリコーンを含み、該シリコーンがジメチルシロキサンとメチルフルオロアルキルシロキサンとのコポリマーである、実施形態28に記載の方法。
【0268】
実施形態31
前記メチルフルオロアルキルシロキサンがトリデカフルオロオクチルメチルシロキサンである、実施形態30に記載の方法。
【0269】
実施形態32
前記溶液が前記シリコーンを含み、該シリコーンがビニル末端ポリジメチルシロキサン・ホモポリマー又はコポリマーである、実施形態28に記載の方法。
【0270】
実施形態33
前記溶液が前記シリコーンを含み、該シリコーンがクロロメチル末端ポリジメチルシロキサン・ホモポリマー又はコポリマーである、実施形態28に記載の方法。
【0271】
実施形態34
前記溶液が前記シリコーンを含み、該シリコーンが、トリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン・ホモポリマー又はコポリマーである、実施形態28に記載の方法。
【0272】
実施形態35
前記溶液が前記シリコーンを含み、該シリコーンがメチルヒドロシロキサン/ジメチルシロキサン・コポリマーである、実施形態28に記載の方法。
【0273】
実施形態36
前記溶液が前記ハロゲン化ポリオレフィンを含み、該ハロゲン化ポリオレフィンが塩素化ポリエチレンである、実施形態28に記載の方法。
【0274】
実施形態37
前記ポリ(パラキシリレン)が、次式のうちの1つ以上の繰り返し単位を含み、
【0275】
【化33】
【0276】
nが整数である、
実施形態28に記載の方法。。
【0277】
実施形態38
前記溶液がKarstedt触媒をさらに含む、実施形態28から37のいずれかに記載の方法。
【0278】
実施形態39
前記溶液がパラジウム錯体触媒をさらに含む、実施形態28から37のいずれかに記載の方法。
【0279】
実施形態40
前記溶液が塩化アルミニウムをさらに含む、実施形態28から37のいずれかに記載の方法。
【0280】
実施形態41
前記溶液が過酸化物をさらに含む、実施形態28から37のいずれかに記載の方法。
【0281】
実施形態42
前記溶液に接触させたポリ(パラキシリレン)を、室温を超える温度を含む環境に供するステップをさらに含む、実施形態28から41のいずれかに記載の方法。
【0282】
実施形態43
前記ポリ(パラキシリレン)を前記溶液と接触させる前に、極性液体の存在下で前記ポリ(パラキシリレン)の前記表面に接触する非極性液体が、50°以上の第1の接触角を形成し、かつ
前記ポリ(パラキシリレン)を前記溶液と接触させた後に、前記極性溶液の存在下で前記表面に接触する前記非極性液体が、30度以下の第2の接触角を形成する、
実施形態28から42のいずれかに記載の方法。
【0283】
実施形態44
前記ポリ(パラキシリレン)が、封じ込め領域内の電極上に配置され、かつ
前記方法が、(i)前記封じ込め領域内に第1の液体及び第2の液体を堆積するステップ、並びに(ii)前記封じ込め領域を閉じて、前記封じ込め領域内に前記第1の液体及び前記第2の液体を捕捉し、前記第1の液体と前記第2の液体との間に界面が形成されるステップをさらに含む、
実施形態28から43のいずれかに記載の方法。
【符号の説明】
【0284】
10 液体レンズ
12 ベース
14 キャップ
16 液密封じ込め領域
18 ガスケット
20 第1の電極
22 光軸
24 第2の電極
26 第1のウィンドウ
28、34 貫通開口
30 第1の基板
32 第2のウィンドウ
35 台座
36 第2の基板
40 取付具
42 有効貫通開口
44 リップ
48 第1の液体
50 第2の液体
52 界面
54 絶縁層
54a ポリマー材料
54b スリッパリーかつオムニフォビックな共有結合液体
102 ポリ(パラキシリレン)
106 表面
108 溶液
110 基板
112 環境
113 導電性材料
図1
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】