(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-21
(54)【発明の名称】再生乳酸塩を生成するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
C07C 51/09 20060101AFI20240814BHJP
C07C 59/08 20060101ALI20240814BHJP
C07C 51/41 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C07C51/09
C07C59/08
C07C51/41
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504185
(86)(22)【出願日】2022-08-02
(85)【翻訳文提出日】2024-02-19
(86)【国際出願番号】 IL2022050832
(87)【国際公開番号】W WO2023012791
(87)【国際公開日】2023-02-09
(32)【優先日】2021-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522327348
【氏名又は名称】トリプルダブリュー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】シャピラ,タル
(72)【発明者】
【氏名】パポ,ニトサン
(72)【発明者】
【氏名】ピンスキー,ディナ
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC41
4H006AC48
4H006AC81
4H006AC91
4H006BN10
4H006BS10
4H006BS70
(57)【要約】
本発明は、分解された有機性廃棄物から高純度のL-乳酸マグネシウム塩を生成し、再生乳酸塩のエナンチオマー純度を高めるためのプロセスに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分解された有機性廃棄物由来のエナンチオマー混合物からL-乳酸塩エナンチオマーを濃縮するためのプロセスであって:
(a)D-およびL-乳酸塩のエナンチオマー混合物ならびにマグネシウム以外の対イオンを含む分解された有機性廃棄物を得るステップ;
(b)場合によっては、前記D-およびL-乳酸塩を中和するステップならびに前記分解された有機性廃棄物から固体粒子を除去するステップのうち少なくとも1つを実行するステップ;ならびに
(c)マグネシウム塩をステップ(a)または(b)の前記エナンチオマー混合物に添加し、それによってL-乳酸マグネシウム塩を高エナンチオマー純度で沈澱させるステップ
を含む、プロセス。
【請求項2】
1%またはそれ以上までのL-乳酸塩エナンチオマーの濃縮を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
5%またはそれ以上までのL-乳酸塩エナンチオマーの濃縮を含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
10%またはそれ以上までのL-乳酸塩エナンチオマーの濃縮を含む、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記分解された有機性廃棄物が、乳酸発酵プロセスから得られる、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記分解された有機性廃棄物が、ポリ乳酸ポリマーの加水分解から得られる、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記分解された有機性廃棄物が、ステップ(a)の前に前処理され、非乳酸含有不純物を除去する、請求項1から6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記エナンチオマー混合物が、20%またはそれより少ないD-乳酸塩を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記対イオンが、ナトリウム、カリウムおよびアンモニウムからなる群より選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記D-およびL-乳酸塩を中和するステップを含むステップ(b)が実行される、請求項1から9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記D-およびL-乳酸塩を中和するステップが、塩酸、臭化水素酸、硝酸、リン酸、硫酸、およびそれらの組み合わせから選択される酸の添加を含む、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記D-およびL-乳酸塩を中和するステップが、ナトリウム、カリウム、またはアンモニウムの水酸化物、およびそれらの組み合わせから選択される塩基の添加を含む、請求項10に記載のプロセス。
【請求項13】
前記分解された有機性廃棄物から固体粒子を除去するステップを含むステップ(b)が実行され、固体粒子の除去が固液分離を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
ステップ(c)が、20℃~80℃の範囲内の高温で実行される、請求項1から13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
ステップ(c)における前記マグネシウム塩が固形で添加される、請求項1から14のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
ステップ(c)における前記マグネシウム塩が、水溶液として添加される、請求項1から14のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項17】
ステップ(c)における前記マグネシウム塩が、最大20%過剰で添加される、請求項1から16のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項18】
ステップ(c)における前記マグネシウム塩が、硫酸マグネシウムである、請求項1から17のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項19】
前記得られたL-乳酸マグネシウム塩が、濾過または遠心分離により分離される、請求項1から18のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項20】
前記得られたL-乳酸マグネシウム塩が、後に続く精製に供される、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
後に続く精製が、結晶化、再結晶化、分画、シリカゲルクロマトグラフィ、および分取HPLCのうち少なくとも1つを含む、請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
後に続く精製が、前記得られたL-乳酸マグネシウム塩を精製水で洗浄するステップを含む、請求項20に記載のプロセス。
【請求項23】
前記得られたL-乳酸マグネシウム塩が、3%未満のD-乳酸マグネシウムを含む、請求項1から22のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項24】
前記得られたL-乳酸マグネシウム塩が、2%未満のD-乳酸マグネシウムを含む、請求項23に記載のプロセス。
【請求項25】
前記得られたL-乳酸マグネシウム塩が、1.5%未満のD-乳酸マグネシウムを含む、請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】
前記得られたL-乳酸マグネシウム塩が、1%未満のD-乳酸マグネシウムを含む、請求項25に記載のプロセス。
【請求項27】
前記得られたL-乳酸マグネシウム塩が、結晶のL-乳酸マグネシウム二水和物である、請求項1から26のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項28】
前記得られたL-乳酸マグネシウムが、塩酸、臭化水素酸、硝酸、リン酸、硫酸、およびそれらの組み合わせの少なくとも1つにより酸性化されて、L-乳酸を形成し、後に続くポリ乳酸形成のために使用される、請求項1から27のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項29】
さらに、分解された有機性廃棄物からのL-乳酸塩の純度を高めるステップを含む、請求項1から28のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項30】
分解された有機性廃棄物からのL-乳酸塩の純度を高めるためのプロセスであって:
(a)L-乳酸塩およびマグネシウム以外の対イオンを含む分解された有機性廃棄物を得るステップ;
(b)場合によっては、前記L-乳酸塩を中和するステップおよび前記分解された有機性廃棄物から固体粒子を除去するステップのうち少なくとも1つを実行するステップ;ならびに
(c)マグネシウム塩をステップ(a)または(b)の前記分解された有機性廃棄物に添加し、それによってL-乳酸マグネシウム塩を高純度で沈澱させるステップ
を含む、プロセス。
【請求項31】
分解された有機性廃棄物から高純度でL-乳酸マグネシウム塩を生成するためのプロセスであって:
(a)L-乳酸塩およびマグネシウム以外の対イオンを含む分解された有機性廃棄物を得るステップ;
(b)場合によっては、前記L-乳酸塩を中和するステップおよび前記分解された有機性廃棄物から固体粒子を除去するステップのうち少なくとも1つを実行するステップ;ならびに
(c)マグネシウム塩をステップ(a)または(b)の前記分解された有機性廃棄物に添加し、それによってL-乳酸マグネシウム塩を高純度で沈澱させるステップ
を含む、プロセス。
【請求項32】
分解された有機性廃棄物からL-乳酸マグネシウム塩を生成するためのプロセスであって:
(a)乳酸産生微生物を使用する有機性廃棄物発酵およびアルカリ化合物の存在下でのPLA加水分解のうち少なくとも1つを実行することにより有機性廃棄物を分解して、L-乳酸塩およびマグネシウム以外の対イオンを含む分解された有機性廃棄物を得るステップ;
(b)場合によっては、前記L-乳酸塩を中和するステップおよび前記分解された有機性廃棄物から固体粒子を除去するステップのうち少なくとも1つを実行するステップ;ならびに
(c)マグネシウム塩をステップ(a)または(b)の前記分解された有機性廃棄物に添加し、それによってL-乳酸マグネシウム塩を沈澱させるステップ
を含む、プロセス。
【請求項33】
前記アルカリ化合物が、NaOH、KOH、NH
4OH、Ca(OH)
2、およびそれらの混合物または組み合わせのうち少なくとも1つを含む、請求項32に記載のプロセス。
【請求項34】
前記アルカリ化合物が、Mg(OH)
2および/またはMgCO
3の組み合わせならびにNaOH、KOH、NH
4OH、Ca(OH)
2、およびそれらの混合物または組み合わせのうち少なくとも1つを含む、請求項32に記載のプロセス。
【請求項35】
前記アルカリ化合物が、乳酸発酵の前のバッチから得られた固体バイオマスの嫌気的消化由来のNH
4OHを含む、請求項32に記載のプロセス。
【請求項36】
前記NH
4OHが、ガスストリッピングにより得られる、請求項35に記載のプロセス。
【請求項37】
ステップ(c)における前記マグネシウム塩が、乳酸発酵の前のバッチのL-乳酸マグネシウムの酸性化、メチル化またはアセチル化に由来する、請求項32から36のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項38】
ステップ(c)における前記マグネシウム塩が、PLA加水分解の前のバッチのL-乳酸マグネシウムの酸性化、メチル化またはアセチル化に由来する、請求項32から36のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高エナンチオマー純度で非乳酸塩不純物が少量のL-乳酸マグネシウムを生成するためのプロセスに関する。本発明はさらに、L-およびD-乳酸塩のエナンチオマー混合物を含む再生乳酸塩のエナンチオマー純度を高めるためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸発酵
乳酸発酵、すなわち、微生物発酵を介した炭水化物源からの乳酸の産生は、バイオプラスチックの製造において基本要素として乳酸を使用する能力のため、近年注目を集めている。乳酸は、石油から製造されるプラスチックの潜在的な代替物と考えられる、生分解性で再生利用可能なポリエステル、ポリ乳酸(PLA)を形成するために重合され得る。PLAは、食品包装、消耗品、織物の繊維および衛生用品産業などを含む、種々の製品の製造で使用される。
【0003】
発酵バイオプロセスによる乳酸の産生は、環境に対する関心、費用および化学合成によりエナンチオマー的に純粋な乳酸を産生させる困難さを含む種々の考慮事項について化学合成法全体で好ましく、ほとんどの産業用途にとって望ましい。従来の発酵プロセスは、典型的に、炭水化物発酵の主要な代謝最終産物として乳酸を産生する、乳酸産生微生物による嫌気性発酵に基づいている。PLAの産生のため、発酵中に産生される乳酸は、発酵ブロスから分離され、種々のプロセスにより精製され、精製された乳酸は、その後重合に供される。
【0004】
乳酸は、キラルな炭素原子を有しており、そのため、D-およびL-乳酸の2つのエナンチオマー型が存在する。産業用途に適したPLAを産生するため、産生プロセスに入るD-またはL-乳酸は、重合および再利用に必要な仕様に合致するように高度に精製されている必要がある。L-乳酸塩エナンチオマーのみまたはD-乳酸塩エナンチオマーのみを産生する乳酸菌は、典型的には、1つの別個のエナンチオマー(それぞれLまたはD)を産生させるために使用される。
【0005】
現在利用可能な商業的プロセスにおいて、乳酸発酵のための炭水化物源は、典型的に、とうもろこしおよびキャッサバ根など、でんぷん含有の再生可能な源である。セルロースに富むサトウキビバガスなどの追加の源も、提案されている。典型的に、乳酸産生菌は、グルコースおよびフルクトースなどの還元糖を利用することができるが、でんぷんおよびセルロースなどの多糖を分解する能力を有していない。したがって、そのような多糖を利用するため、プロセスは、多糖を分解し、還元糖を放出するために、典型的に化学的処理と組み合わせた解糖酵素の添加を必要とする。
【0006】
提案されている乳酸発酵のための炭水化物の追加の源は、都市、産業および商業の起源に由来する混合食品廃棄物などの複合有機性廃棄物である。有機性廃棄物は、乳酸発酵のための他の炭水化物源と比較して利用しやすく、安価であるので、好都合である。
【0007】
混合食品廃棄物は、典型的に、様々な比率の還元糖(グルコース、フルクトース、乳糖など)、でんぷんおよびリグノセルロース系材料を含む。混合食品廃棄物はまた、内在性のD,L-乳酸(例えば、乳製品または輸送中に自然分解したものに由来する)を含み、その1つは、光学的に純粋な乳酸(L-またはD-乳酸)を産生させるための基質として廃棄物を利用するために除去される必要がある。本発明の出願人に割り当てられている国際公開第2017/122197号は、廃棄物に存在する乳酸を排除し、かつ複合多糖類を分解するように有機性廃棄物を処理するのに有用なセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、およびアミラーゼなどの多糖分解酵素を分泌するように遺伝子組換えされた二重作用の乳酸(LA)利用細菌を開示する。本発明の出願人に割り当てられている国際公開第2020/208635号は、有機性廃棄物に存在するD-乳酸を排除するD-乳酸塩オキシダーゼを使用して有機性廃棄物、特に混合食品廃棄物を処理するためのシステムおよび方法を開示する。
【0008】
ポリ乳酸(PLA)の再生利用
再生可能な資源から生成されたPLAは、石油由来のプラスチックの代替物であり、食品包装などの製品の製造におけるその使用は、継続的に増大している。使い捨て最終製品内のPLAの存在が増加するため、PLAが、廃棄後に適切に対処されることを確実にすることが重要である。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンおよびポリ(エチレンテレフタラート)などの熱可塑性樹脂とは異なり、PLAは、熱分解に供される。したがって、PLAおよび前述のプラスチックの混合物を含む製品が再生利用される場合、リサイクル流の汚染を回避するためにPLAを分離することが望ましい。
【0009】
PLAのための再生利用の選択肢には、埋め立て、堆肥化、嫌気的消化(バイオガス生産)、焼却および構成要素のモノマーへのケミカルリサイクルが含まれる。モノマーを新たなPLAの生産で再利用することができるので、ケミカルリサイクルは、他の方法よりも好ましい。
【0010】
市場にあるPLAの一般的な形態の1つは、主にPLLA(L-乳酸から作られた)、および少量のPDLA(D-乳酸から作られた)で構成されるコポリマーPDLLA(ポリ(D-L-)乳酸)である。市場に存在するPLAプラスチックの大部分は、加水分解されるとD-乳酸を放出する、少量のPDLAを含む。加水分解された物質はまた、加水分解中にラセミ化により形成された未知の量のD-乳酸を含む場合がある。99%を超える光学純度は、典型的にPLAの産生プロセスに入るD-乳酸およびL-乳酸の両方に必要とされる。そのため、PLAの再生プロセスは、異性体分離の問題に対処すべきである。通常、液体もしくは固体のエナンチオ選択性膜または高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)を使用する2つのエナンチオマーの化学分離は高価である。
【0011】
Cam,HyonおよびIkada(1995)Biomaterials,16(11):833-43は、アルカリ媒体中での高分子量ポリ(L-ラクチド)の分解を報告する。研究では、加水分解に対する分子量および形態の影響をテストした。分解は、0.01N NaOH溶液中、37℃で実行された。
【0012】
Siparsky,Voorhees,およびMiao(1998)Journal of environmental polymer degradation,6(1):31-41は、アセトニトリル水溶液でのポリ乳酸(PLA)およびポリカプロラクトン(PCL)の加水分解を報告する。
【0013】
Xu,CrawfordおよびGorman(2011)Macromolecules,44(12):4777-4782は、ポリ(乳酸)ブラシの分解に対する温度およびpHの影響を報告する。
【0014】
Chauliac(2013)「Development of a thermochemical process for hydrolysis of polylactic acid polymers to L-lactic acid and its purification using an engineered microbe」博士論文、フロリダ大学、UMI番号:3583516は、PLAポリマーの消費後使用のためのプロセスを提案している。このプロセスにおいて、熱加水分解は第1のステップであり、続いて、加水分解物質からD-LAを除去し、ポリマーそれ自体の生産に方向転換される可能性がある純粋なL-LAを生じる。熱加水分解は、NaOHの存在下で水を用いて実行された。得られるシロップからのD-LA除去は、同定された3つのL-乳酸塩デヒドロゲナーゼすべてを欠く大腸菌(Escherichia coli)を使用して達成された。
【0015】
WadsoおよびKarlsson(2013)Polymer Degradation and Stability,98(1):73-78は、カルボン酸のエステルを含むポリマーのアルカリ加水分解のエンタルピーを測定するための2つの研究を報告する。2つの材料:ポリ(酢酸ビニル)、PVAcのフィルムおよびポリ(乳酸)、PLAの繊維を使用した。分解は、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムを使用して30℃で実行された。
【0016】
Elsawyら(2017)Renewable and Sustainable Energy Reviews,79:1346-1352は、ポリ乳酸(PLA)およびその複合物の加水分解をレビューする。
【0017】
Motoyamaら(2007)Polymer Degradation and Stability,92(7):1350-1358は、ポリ-L-乳酸のL,L-ラクチドへの脱重合に対するMgO触媒の影響を報告する。
【0018】
国際公開第2015/112098号は、PLAベースのプラスチックを調製するステップ、アルコーリシスまたは加水分解によるプラスチック内のポリ乳酸の分解を加速させて、低分子量ポリ乳酸を提供するステップ、および低分子量ポリ乳酸を熱分解してラクチドを与えるステップを含む、ポリ乳酸(PLAベースのプラスチック)を有するプラスチックからラクチドを製造するためのプロセスを開示する。また、プロセスはさらに、調製ステップの後にPLAベースのプラスチックのサイズを最小化するステップ、および低分子量ポリ乳酸の熱分解の後にラクチドを精製するステップを含む。
【0019】
米国特許第7,985,778号明細書は、加水分解処理およびその後の分離回収処理を実行することにより、その構成構造にエステル結合を有する合成樹脂を分解および回収するための方法を開示する。加水分解処理において、分解され、回収された合成樹脂を含む物品は、飽和水蒸気圧下、処理温度または合成樹脂の融点以下で充填された水蒸気雰囲気に曝露される。処理される物品中の合成樹脂は、エステル結合を含む合成樹脂に重合する前に、処理温度で生成された水蒸気により加水分解され、分解生成物を生成する。分離回収処理は、加水分解処理により生成された分解生成物が、液体の構成要素および固体の構成要素に分離され、個々に回収される処理である。
【0020】
米国特許第8,614,338号明細書は、そのモノマーまたはその誘導体の1つを再形成するため、ポリ乳酸PLAに基づくポリマーの混合物の立体特異的ケミカルリサイクルのための方法を開示する。方法は、ポリマーの混合物を、PLA画分を溶解することができる乳酸エステルの懸濁液に入れ、続いて最初に乳酸エステル、PLAおよび他の溶解した不純物を、次に不溶性である他のポリマーおよび不純物の混合物を分離するステップを含む。このように得られたPLAを含む溶液は、その後、オリゴエステルを形成するためにエステル交換反応による触媒的脱重合反応に供される。エステル交換反応による脱重合反応は、その後、所与の時点で停止され、残留乳酸エステルを分離する。このように得られたオリゴエステルは、その後、0.1%~40%のメソラクチド含有量を有する精製ラクチドの画分を得るように、最終的に立体特異的に精製されるラクチドを生成するために環化反応が実行される。
【0021】
米国特許第8,431,683号明細書および米国特許第8,481,675号明細書は、研削、圧縮、PLAの溶媒に溶解するステップ、未溶解の汚染ポリマーを除去するステップ、アルコーリシス脱重合反応および精製ステップを含む、必然的にPLAを含むポリマーブレンドを再生利用するためのプロセスを開示する。
【0022】
米国特許第8,895,778号明細書は、使用済みポリ乳酸などのポリエステルの脱重合を開示する。超音波による内破は、脱重合を促進するために使用することができる。使用済みPLAは、脱重合触媒として炭酸カリウムおよび水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の有機またはイオン性の塩の存在下で懸濁培地としてのメタノールに曝露され、高収率で高品質の乳酸モノマーを提供した。
【0023】
米国特許出願公開第2018/0051156号明細書は、ポリマー(例えば、加水分解性の結合を含むもの)の脱重合を強化/促進するための方法を開示しており、その方法は、一般に、加水分解性の結合を含むポリマーを溶媒およびアルコールと接触させて、ポリマーが実質的に溶解しているポリマー混合物を与えるステップを含み、その接触は、ポリマー混合物の沸点またはそれ未満の温度で実行される。得られる脱重合したポリマーは、それら(例えば、モノマーおよび/またはオリゴマーを含む)から分離することができる。そのような方法は、比較的温和な温度および圧力の条件下で実行することができる。いくらかの実施形態において、ポリマーは、ポリ(乳酸)である。
【0024】
本発明の出願人に割り当てられている国際公開第2021/165964号は、乳酸を高収率で得るために、ポリ乳酸のケミカルリサイクルと組み合わせた、有機性廃棄物からの乳酸の産生のための工業的発酵を開示する。
【0025】
L-およびD-乳酸塩エナンチオマーの両方を含む分解された廃棄物からのエナンチオマー的に純粋なL-乳酸塩の生成のための、経済的で信頼できるプロセスについての満たされていない必要性がある。
【発明の概要】
【0026】
本発明は、有機性廃棄物の乳酸発酵および/またはPLAの化学的加水分解からの高純度のL-乳酸塩モノマーを提供する。本発明はまた、有機性廃棄物および/またはPLA廃棄物の再生利用から得られる乳酸塩のエナンチオマー純度を高めるためのプロセスを提供する。
【0027】
本発明は、一部は、発酵ブロスまたは種々の濃度のD-乳酸塩モノマーを含むPLA加水分解スラリーで乳酸塩対イオンのイオン交換または交換を実行し、L-乳酸塩、特にL-乳酸マグネシウム塩のエナンチオ選択的沈澱をもたらすことにより、L-乳酸塩のエナンチオマー純度を高めることができるという予期しない知見に基づく。そのため、本発明は、内在性のD-乳酸塩モノマーを含む廃棄物を含む種々の源からの廃棄物の再生利用を可能にする一方で、D-乳酸塩モノマーを排除するためのD-乳酸利用細菌または酵素の必要性を回避する。本発明は、異性体分離のための追加の処理なしで、PLAの商業生産のために使用することができるL-乳酸塩を99%超のエナンチオマー純度で好都合に生成する。
【0028】
本発明の原理によれば、有機性廃棄物の発酵およびPLAの加水分解は両方とも、アルカリ化合物の存在下で実行される。発酵中、発酵槽内のpHは、乳酸の生成のために低下し、乳酸産生微生物の生産性に悪影響を及ぼす。このため、アルカリ化合物、典型的にはナトリウム、カリウム、アンモニウムまたはマグネシウムの水酸化物、およびそれらの混合物または組み合わせを添加して、pHを中和し、それによって乳酸塩が形成される。本発明は、発酵またはPLA加水分解中、アルカリ化合物の源として、発酵プロセスの固体バイオマス廃棄物の嫌気的消化に由来するアンモニア水(ammonia water)(アンモニア水(aqua ammonia))の使用を初めて開示する。前の発酵プロセスの固体バイオマスに由来するアンモニア水(ammonia water)は、発酵ブロスのpHを所望の値に調節するために添加される優れたアルカリ源であり、一方で、添加される高価なアルカリ化合物の必要性を取り除くことにより大幅な費用の削減も可能である。さらに、乳酸発酵後に得られる固体バイオマスのさらなる再生利用を与える。
【0029】
本発明のプロセスの追加の利点は、発酵ブロスまたはPLA加水分解スラリーで乳酸塩対イオンのイオン交換または交換を与える、乳酸塩の前の酸性化に由来する再生塩を使用することから生じる。典型的に、乳酸発酵プロセスおよびPLA分解プロセスは両方とも、乳酸塩を生じる。ポリ乳酸を得るため、乳酸塩は、乳酸モノマーに酸性化されるか、酸の存在下でメチル化またはアセチル化されることが必要である。このため、塩酸、臭化水素酸、硝酸、リン酸、硫酸、およびそれらの混合物または組み合わせなどの酸が使用される。これらのプロセス中、乳酸塩の対イオンおよび酸のアニオンが沈殿し、塩を形成する。本発明の原理によれば、この塩は、乳酸塩対イオンのイオン交換または交換のためのイオン源として、発酵またはPLA加水分解の後に続くプロセスで再利用することができる。
【0030】
第1の態様によれば、分解された有機性廃棄物由来のエナンチオマー混合物からL-乳酸塩エナンチオマーを濃縮するためのプロセスが提供され、そのプロセスは:
(a)D-およびL-乳酸塩のエナンチオマー混合物ならびにマグネシウム以外の対イオンを含む分解された有機性廃棄物を得るステップ;
(b)場合によっては、D-およびL-乳酸塩を中和するステップならびに分解された有機性廃棄物から固体粒子を除去するステップのうち少なくとも1つを実行するステップ;ならびに
(c)マグネシウム塩をステップ(a)または(b)のエナンチオマー混合物に添加し、それによってL-乳酸マグネシウム塩を高エナンチオマー純度で沈澱させるステップ
を含む。
【0031】
一実施形態において、プロセスは、1%またはそれ以上までのL-乳酸塩エナンチオマーの濃縮を与える。別の実施形態において、プロセスは、5%またはそれ以上までのL-乳酸塩エナンチオマーの濃縮を与える。さらに別の実施形態において、プロセスは、10%またはそれ以上までのL-乳酸塩エナンチオマーの濃縮を与える。特定の実施形態において、プロセスは、最大15%のL-乳酸塩エナンチオマーの濃縮を与える。他の実施形態において、プロセスは、最大20%のL-乳酸塩エナンチオマーの濃縮を与える。さらに他の実施形態において、プロセスは、最大25%のL-乳酸塩エナンチオマーの濃縮を与える。
【0032】
ある特定の実施形態において、分解された有機性廃棄物は、乳酸発酵プロセスから得られる。さらなる実施形態において、分解された有機性廃棄物は、乳酸含有廃棄物から得られる。追加の実施形態において、分解された有機性廃棄物は、ポリ乳酸ポリマーの加水分解から得られる。
【0033】
種々の実施形態において、有機性廃棄物は、炭水化物源を含む。他の実施形態において、有機性廃棄物は、食品廃棄物、都市の食品廃棄物、住宅の食品廃棄物、農業廃棄物、食品加工施設からの産業食品廃棄物、業務用食品廃棄物(病院、レストラン、ショッピングセンター、空港などからの)、およびそれらの混合物または組み合わせから選択される。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。
【0034】
さらなる実施形態において、分解された有機性廃棄物は、ステップ(a)の前に前処理される。特定の実施形態において、前処理は、非乳酸含有不純物の除去を含む。
【0035】
本発明の原理によれば、分解された有機性廃棄物は、内在性のD-乳酸塩を最大20wt.%の量で含む。いくらかの実施形態において、エナンチオマー混合物は、20%またはそれより少ないD-乳酸塩を含む。他の実施形態において、エナンチオマー混合物は、10%またはそれより少ないD-乳酸塩を含む。さらに他の実施形態において、エナンチオマー混合物は、5%またはそれより少ないD-乳酸塩を含む。
【0036】
ある特定の実施形態において、対イオンは、ナトリウム、カリウムおよびアンモニウムからなる群より選択される。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。本発明のプロセスが、D-およびL-乳酸塩のエナンチオマー混合物ならびにマグネシウム以外の対イオンを含む分解された有機性廃棄物を利用する一方で、マグネシウムイオンが、分解された有機性廃棄物に存在し得ることが考えられる。このため、種々の実施形態によれば、分解された有機性廃棄物は、D-およびL-乳酸塩のエナンチオマー混合物、マグネシウムイオン、ならびにマグネシウム以外の対イオンを含む。
【0037】
さらなる実施形態において、D-およびL-乳酸塩を中和するステップを含むステップ(b)が実行される。典型的には、中和は、指定された範囲内の各値を含む、約6.5~約7.5のpHで実行される。一実施形態において、中和は、塩酸、臭化水素酸、硝酸、リン酸、硫酸、およびそれらの組み合わせから選択される酸の存在下で実行される。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。一実施形態において、中和は、硫酸の存在下で実行される。他の実施形態において、中和は、ナトリウム、カリウム、またはアンモニウムの水酸化物、およびそれらの組み合わせから選択される塩基の存在下で実行される。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。
【0038】
種々の実施形態において、分解された有機性廃棄物から固体粒子を除去するステップを含むステップ(b)が実行され、固体粒子の除去には、固液分離が含まれる。
【0039】
追加の実施形態において、ステップ(c)は、高温で実行される。いくらかの実施形態において、ステップ(c)は、指定された範囲内の各値を含む、20℃~80℃の範囲内の温度で実行される。
【0040】
ある特定の実施形態において、ステップ(c)におけるマグネシウム塩は、固形で添加される。代替の実施形態において、ステップ(c)におけるマグネシウム塩は、水溶液として添加される。さらなる実施形態において、ステップ(c)におけるマグネシウム塩は、徐々に添加される。他の実施形態において、ステップ(c)におけるマグネシウム塩は、最大20%過剰で添加される。さらなる実施形態において、ステップ(c)におけるマグネシウム塩は、前のバッチのL-乳酸マグネシウムの酸性化、メチル化またはアセチル化に由来する。
【0041】
特定の実施形態において、ステップ(c)におけるマグネシウム塩は、硫酸マグネシウムである。
【0042】
追加の実施形態において、得られるL-乳酸マグネシウム塩は、濾過または遠心分離により分離される。さらなる実施形態において、得られるL-乳酸マグネシウム塩は、後に続く精製に供される。他の実施形態において、後に続く精製には、結晶化、再結晶化、分画、シリカゲルクロマトグラフィ、分取HPLC、およびそれらの組み合わせのうち少なくとも1つが含まれる。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。
【0043】
特定の実施形態において、後に続く精製には、例えば精製水を使用して、得られるL-乳酸マグネシウム塩を洗浄するステップが含まれる。他の実施形態において、後に続く精製には、得られるL-乳酸マグネシウム塩を溶解および再結晶化するステップが含まれる。
【0044】
一実施形態において、得られるL-乳酸マグネシウム塩は、3%未満のD-乳酸マグネシウムを含む。別の実施形態において、得られるL-乳酸マグネシウム塩は、2%未満のD-乳酸マグネシウムを含む。さらに別の実施形態において、得られるL-乳酸マグネシウム塩は、1.5%未満のD-乳酸マグネシウムを含む。特定の実施形態において、得られるL-乳酸マグネシウム塩は、1%未満のD-乳酸マグネシウムを含む。
【0045】
さらなる実施形態において、得られるL-乳酸マグネシウム塩は、結晶L-乳酸マグネシウム二水和物である。
【0046】
他の実施形態において、得られるL-乳酸マグネシウムは、酸性化され、塩酸、臭化水素酸、硝酸、リン酸、硫酸、およびそれらの組み合わせの少なくとも1つによりL-乳酸を形成する。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。特定の実施形態において、L-乳酸は、後に続くポリ乳酸形成のために使用される。
【0047】
いくらかの実施形態において、本明細書で開示されるプロセスはさらに、分解された有機性廃棄物からのL-乳酸塩の純度を高めるステップを含む。
【0048】
別の態様によれば、分解された有機性廃棄物からのL-乳酸塩の純度を高めるためのプロセスが提供され、そのプロセスは:
(a)L-乳酸塩およびマグネシウム以外の対イオンを含む分解された有機性廃棄物を得るステップ;
(b)場合によっては、L-乳酸塩を中和するステップおよび分解された有機性廃棄物から固体粒子を除去するステップのうち少なくとも1つを実行するステップ;ならびに
(c)マグネシウム塩をステップ(a)または(b)の分解された有機性廃棄物に添加し、それによってL-乳酸マグネシウム塩を高純度で沈澱させるステップ
を含む。
【0049】
さらに別の態様によれば、分解された有機性廃棄物から高純度でL-乳酸マグネシウム塩を生成するためのプロセスが提供され、そのプロセスは:
(a)L-乳酸塩およびマグネシウム以外の対イオンを含む分解された有機性廃棄物を得るステップ;
(b)場合によっては、L-乳酸塩を中和するステップおよび分解された有機性廃棄物から固体粒子を除去するステップのうち少なくとも1つを実行するステップ;ならびに
(c)マグネシウム塩をステップ(a)または(b)の分解された有機性廃棄物に添加し、それによってL-乳酸マグネシウム塩を高純度で沈澱させるステップ
を含む。
【0050】
さらなる態様によれば、分解された有機性廃棄物からL-乳酸マグネシウム塩を生成するためのプロセスが提供され、そのプロセスは:
(a)乳酸産生微生物を使用する有機性廃棄物発酵およびアルカリ化合物の存在下でのPLA加水分解のうち少なくとも1つを実行することにより有機性廃棄物を分解して、L-乳酸塩およびマグネシウム以外の対イオンを含む分解された有機性廃棄物を得るステップ;
(b)場合によっては、L-乳酸塩を中和するステップおよび分解された有機性廃棄物から固体粒子を除去するステップのうち少なくとも1つを実行するステップ;ならびに
(c)マグネシウム塩をステップ(a)または(b)の分解された有機性廃棄物に添加し、それによってL-乳酸マグネシウム塩を沈澱させるステップ
を含む。
【0051】
いくらかの実施形態において、アルカリ化合物には、NaOH、KOH、NH4OH、Ca(OH)2、およびそれらの混合物または組み合わせのうち少なくとも1つが含まれる。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。他の実施形態において、アルカリ化合物には、Mg(OH)2および/またはMgCO3と、NaOH、KOH、NH4OH、Ca(OH)2、およびそれらの混合物もしくは組み合わせのうち少なくとも1つとの組み合わせが含まれる。さらなる実施形態において、アルカリ化合物は、乳酸発酵の前のバッチから得られた固体バイオマスの嫌気的消化由来のNH4OHを含む。種々の実施形態において、固体バイオマスの嫌気的消化由来のNH4OHは、ガスストリッピングにより得られる。
【0052】
いくらかの実施形態において、ステップ(c)におけるマグネシウム塩は、乳酸発酵の前のバッチのL-乳酸マグネシウムの酸性化、メチル化またはアセチル化に由来する。他の実施形態において、ステップ(c)におけるマグネシウム塩は、PLA加水分解の前のバッチのL-乳酸マグネシウムの酸性化、メチル化またはアセチル化に由来する。
【0053】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の説明、実施例および図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】本発明のある特定の実施形態によるプロセスの概略図。
【
図2】本発明のある特定の実施形態による、PLAグレード番号4032Dを加水分解することから生成された乳酸ナトリウム(NaLa)の交換反応中の溶液の乳酸塩濃度(●)およびD-乳酸塩(×)濃度の%。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明は、分解された有機性廃棄物から高エナンチオマー純度で不純物の量が低いL-乳酸マグネシウム塩を生成するためのプロセスを提供する。本発明はさらに、D-およびL-乳酸塩のエナンチオマー混合物からL-乳酸塩エナンチオマーを濃縮し、分解された有機性廃棄物からのL-乳酸塩の純度を高めるためのプロセスを提供する。高純度のL-乳酸マグネシウム塩はさらに、新たな乳酸ベースの生成物を生成するために使用することができる。
【0056】
本明細書で使用されるように、用語「乳酸」は、以下の化学式CH3CH(OH)CO2Hを有するヒドロキシカルボン酸を指す。乳酸または乳酸塩(非プロトン化乳酸)という用語は、乳酸:L-乳酸/L-乳酸塩、D-乳酸/D-乳酸塩の立体異性体(エナンチオマー)、またはそれらの組み合わせを指す可能性がある。本明細書で使用される用語「エナンチオマー」は、互いに重ね合わせることができない鏡像である化合物の2つの立体異性体を指す。
【0057】
ほとんどの産業用途では、適切な特性を有するPLAを生成するために、高純度のL-乳酸モノマーが必要とされる。したがって、本発明のプロセスは、特に、D-乳酸塩モノマーを除去する必要がなく、再利用に適したL-乳酸に変換され得る高いエナンチオマー純度またはキラル純度を有するL-乳酸塩の生成に向けられる。
【0058】
本発明のプロセスに起因する1つの利点は、エナンチオ濃縮であり、乳酸の再利用にとって特に有利である。本発明のプロセスによるL-乳酸塩エナンチオマーの濃縮は、初期L-乳酸塩含有量の少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%またはそれ以上である。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。例えば、90%のL-乳酸塩および10%のD-乳酸塩を含む初期エナンチオマー混合物については、10%の濃縮で、99%のL-乳酸塩および1%のD-乳酸塩を含む乳酸マグネシウム塩となる。初期D-乳酸塩含有量の少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、またはさらに100%までの本明細書で開示されるプロセスによるD-乳酸塩含有量の低下は、本発明の範囲内である。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。例えば、90%のL-乳酸塩および10%のD-乳酸塩を含む初期エナンチオマー混合物については、D-乳酸塩含有量の50%の低下で、95%のL-乳酸塩および5%のD-乳酸塩を含む乳酸マグネシウム塩となる。得られるL-乳酸マグネシウム結晶は、本発明の原理によれば、3%未満のD-乳酸マグネシウム、2%未満のD-乳酸マグネシウム、1.5%未満のD-乳酸マグネシウム、または1%未満のD-乳酸マグネシウムを含む。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。
【0059】
本発明のプロセスに起因する追加の利点は、L-乳酸マグネシウムの純度の向上である。典型的には、分解された有機性廃棄物中の乳酸塩の初期純度は低い。有機性廃棄物に存在し、その分解生成物に引き継がれる多くの非乳酸塩不純物がある。好都合には、本発明は、本明細書で開示されるプロセスを使用して直接形成された粗L-乳酸マグネシウムの少なくとも80%の純度を与える。純度のさらなる向上は、高純度のL-乳酸マグネシウム塩を得るための洗浄、結晶化または再結晶化のプロセスの影響を受ける可能性がある。
【0060】
本発明の原理によれば、本明細書で開示されるプロセスで使用される分解された有機性廃棄物は、アルカリ化合物、例えば水酸化ナトリウムを使用する加水分解に供されたポリ乳酸ポリマーなどであるがこれらに限定されない、あらゆる乳酸含有廃棄物の分解生成物である。追加の実施形態によれば、本明細書で開示されるプロセスで使用される分解された有機性廃棄物は、有機性廃棄物由来のものなどであるがこれらに限定されない、発酵性炭水化物の乳酸発酵から得られる。本発明の範囲内の有機性廃棄物供給原料は、食品廃棄物、都市の食品廃棄物、住宅の食品廃棄物、農業廃棄物、食品加工施設からの産業食品廃棄物、業務用食品廃棄物(病院、レストラン、ショッピングセンター、空港などからの)、およびそれらの混合物または組み合わせを含むがこれらに限定されない、あらゆる廃棄物源に由来する可能性がある。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。有機性廃棄物は、さらに、動物およびヒトの排泄物、青果物残渣、植物、調理済み食品、タンパク質残渣、屠殺場廃棄物、およびそれらの組み合わせなどの残渣に由来する可能性がある。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。産業有機食品廃棄物には、副産物などの工場の廃棄物、工場での不合格品(例えば期限切れ製品、不良品)、店への返品または食用に適さない食品部分(薄皮、脂肪、殻および皮など)の切り落としが含まれる場合がある。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。産業有機食品廃棄物には、ショッピングモール、レストラン、スーパーマーケットなどからの廃棄物が含まれる場合がある。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。
【0061】
ある特定の態様および実施形態によれば、有機性廃棄物は、フルクトース、糖液、または高フルクトースコーンシロップ(HFCS)の生成などであるがこれらに限定されない製糖の副産物としててんさい糖または甘藷糖から得られた単糖または二糖を含む。他の態様および実施形態によれば、有機性廃棄物は、でんぷんの加水分解に由来する精製グルコースシロップなどのでんぷんおよびでんぷん誘導体を含み、でんぷんは、トウモロコシでんぷん、タピオカでんぷん、小麦でんぷん、馬鈴薯でんぷんなどであり得る。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。有機性廃棄物はさらに、酵母自己消化物および加水分解物などであるがこれらに限定されない、ワインまたはビール生産の副産物、ならびに植物タンパク質加水分解物、動物タンパク質加水分解物、および小麦またはトウモロコシを浸漬させたときの可溶性副産物に由来する可能性がある。製紙スラッジをセルロース分解酵素で加水分解することにより得られる製紙スラッジ加水分解物はまた、チーズ生産および、例えば乳糖不使用飲料を含む、乳ベースの飲料の乳飲料生産の間に生成された乳製品副産物と同様に使用される場合がある。
【0062】
種々の態様および実施形態によれば、分解された有機性廃棄物は、炭水化物源の発酵プロセスから得られた発酵ブロスを含む。不均質な供給原料を使用する場合、分解された有機性廃棄物または発酵ブロスは、典型的に、微生物(例えば酵母、細菌および真菌を含む、例えば乳酸産生微生物)、脂肪および油、脂質、凝集タンパク質、骨片、毛髪、析出塩、細胞破片、繊維(例えば果物および/または野菜の皮)、ならびに残留する未処理の廃棄物(例えば食品の殻、種子、不溶性食品粒子および屑など)などであるがこれらに限定されない、不溶性の有機系不純物を含む。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。不溶性の無機系不純物の非限定例には、プラスチック、ガラス、食品包装由来の残渣、砂、およびそれらの組み合わせが含まれる。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。
【0063】
必要ではないが、分解された有機性廃棄物はさらに、本発明のプロセスを使用する前に前処理され得る。適切な前処理には、濾過、限外濾過、ナノ濾過、逆浸透(RO)濾過、溶媒抽出、斥力抽出、塩析沈澱、結晶化、蒸留、蒸発、電気透析、および多様な種類のクロマトグラフィ(例えば吸着またはイオン交換)が含まれるがこれらに限定されない。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。
【0064】
分解された廃棄物は、種々の濃度のD-およびL-乳酸塩を含む場合がある。本発明のプロセスは、好都合には、D-およびL-乳酸塩モノマーの初期濃度が10%程度と低い場合であっても、高純度のL-乳酸マグネシウムを提供する。典型的には、D-およびL-乳酸塩モノマーの初期濃度は、指定された範囲内の各値を含む、約20%~約50%の範囲内である。分解された廃棄物におけるD-およびL-乳酸塩モノマーの比率は、内在性のD-乳酸塩含有量および分解中に生じるラセミ乳酸形成に応じて異なる場合がある。典型的には、D-乳酸塩モノマー対L-乳酸塩モノマーの比率は、1:99、2:98、3:97、4:96、5:95、6:94、7:93、8:92、9:91、10:90、11:89、12:88、13:87、14:86、15:85、16:84、17:83、18:82、19:81、または20:80を含むがこれらに限定されない。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。
【0065】
ここで図面を参照すると、
図1は、本発明のある特定の実施形態によるL-乳酸マグネシウムの産生のための動作スキームを示した図である。乳酸発酵が実行される。都市廃棄物、食品廃棄物および農業廃棄物などの有機性廃棄物は、L-乳酸産生微生物、例えばバチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)によるL-乳酸発酵のための基質として機能する。L-乳酸の形成のため、内因性のpH低下が生じる。このため、発酵プロセスは、発酵中、pHを調節するために、アルカリ性物質の存在下で実行される。アルカリ性物質は、pHを中和し、L-乳酸イオンおよび対イオンの形成をもたらす。有機性廃棄物の分解には、典型的に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化アンモニウムから選択されるアルカリ性物質が関与しそれによって、分解された廃棄物で、それぞれナトリウム、カリウムまたはアンモニウム対イオンを生成する。このため、水酸化ナトリウムの使用により、対イオンであるナトリウムを用いて乳酸ナトリウムの形成となり、水酸化アンモニウムの使用により、対イオンであるアンモニウムを用いて乳酸アンモニウムの形成となる。好都合には、乳酸発酵に添加されるアルカリ性物質は、アンモニア水(ammonia water)またはアンモニア水(aqua ammonia)である。アンモニア水(ammonia water)の使用は、発酵プロセス後に残る廃棄物のさらなる再生利用を可能にする。この動作モードは、1つのバッチの乳酸の産生で使用されるアルカリ化合物の源が、前のバッチの乳酸の産生から得られる「逆流」と呼ばれる。特に、乳酸産生の主流が、下流の乳酸塩精製および分離の処理まで続く一方で、発酵由来のバイオマスは、副流として再利用され得る(#2:嫌気性発酵性有機物および脂肪酸)。この副流で、嫌気的消化が実行され、主生成物として、バイオガス(主にメタン)が産生される。嫌気的消化後に残ったバイオマスが濃縮される場合、例えば、ガスストリッピングによりアンモニア水(ammonia water)を生成するために使用され得る。アンモニア水(ammonia water)は、その後、pHを調節するために、後に続く発酵プロセスで使用され得る。この動作モードは、高価なアルカリ化合物の費用を削減して、発酵中のpHを中和することを可能にするので費用効果がある。追加のアンモニア水(ammonia water)源として、スキームは、例えば、Mg(OH)
2を使用することによる発酵ブロス中の乳酸塩対イオン(NH
4
+)のイオン交換または交換のステップを示し、それによって、後に続く発酵バッチに還流させることができる追加のアンモニア水(ammonia water)を提供する。発酵後に残るバイオマスのための追加使用は、紙屑加水分解物、酵母ライセート、および酪農用水などであるがこれらに限定されない、栄養素含有量が低いリサイクル流を補うためのものである。
【0066】
ある特定の態様および実施形態によれば、分解された有機性廃棄物は、場合によっては、当技術分野で既知の酸または塩基を使用して中和される場合がある。典型的には、中和は、その間の任意の値を含む、約6.5~7.5のpHで実行される。分解された有機性廃棄物のpHが塩基性である場合、中和が、酸の添加により実行されることが当業者に認識されるであろう。適切な酸には、塩酸、臭化水素酸、硝酸、リン酸、硫酸、およびそれらの組み合わせが含まれるがこれらに限定されない。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。代わりに、分解された有機性廃棄物のpHが酸性である場合、中和は、塩基の添加により実行される。適切な塩基には、ナトリウム、カリウム、またはアンモニウムの水酸化物、およびそれらの組み合わせが含まれるがこれらに限定されない。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。
【0067】
分解された有機性廃棄物が、加水分解に失敗したPLA廃棄物または非乳酸含有不純物の粒子を含む場合、例えば、濾過またはデカンテーションなどの固液分離技術により分解された有機性廃棄物から分離される場合がある。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。
【0068】
本発明の原理によれば、イオン交換は、その後、マグネシウム塩の添加により実行され、全体的な純度およびエナンチオマー純度が高いL-乳酸マグネシウム塩の沈澱物となる。本発明のイオン交換を完了することができる、すなわち、アルカリ性物質由来の対イオンがマグネシウム以外であるか、一部、すなわち、1つがマグネシウムイオンを含み、他方がマグネシウム以外のカチオンを含む、2つまたはそれ以上のアルカリ性物質が使用されることが理解されるべきである。イオン交換に使用されるマグネシウム塩は、固形で、または水溶液として添加され得る。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。マグネシウム塩が水溶液として添加される場合、典型的に、水溶液は、指定された範囲内の各値を含む約50~約500g/Lの範囲の濃度でマグネシウムイオンを含む。代表的なマグネシウムイオン濃度には、指定された範囲内の各値を含む、約75g/L~約400g/L、約100g/L~約300g/L、または約150g/L~約250g/Lが含まれるがこれらに限定されない。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。いくらかの実施形態において、マグネシウム塩は、混合している間、徐々に添加される。
【0069】
ある特定の態様および実施形態において、マグネシウム塩は、前のバッチからの乳酸塩の酸性化、メチル化またはアセチル化に由来する。これらの実施形態にしたがって、塩は、再生塩であり、それによって、費用削減という追加の利点が与えられる。典型的には、本発明のプロセスは、最終生成物として乳酸マグネシウム塩を生成する。しかし、ポリ乳酸を得るために、乳酸塩は、重合のために、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、リン酸、硫酸、およびそれらの混合物または組み合わせを使用して酸性化される場合がある。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。酸の添加に続いて、マグネシウムイオンは、酸のアニオンと一緒に沈澱し、本発明の原理にしたがって後に続くイオン交換に使用することができるマグネシウム塩を形成することができる。乳酸塩生成物がメチル化またはアセチル化を受けると、これらのプロセスはまた、典型的に、酸の存在下で実行され、それによって、後に続くイオン交換プロセスで使用され得るマグネシウム塩の沈澱物がもたらされる。
【0070】
本発明の範囲内のマグネシウム塩には、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどが含まれるがこれらに限定されない。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。本発明の原理によるマグネシウム塩には、MgCl2・xH2O(x=0~6)、MgCO3・xH2O(x=0、1、2、3、または5)、MgSO4・xH2O(x=0~11)、Mg3(PO4)2・xH2O(x=0、5、8、または22)、MgHPO4・xH2O(x=0または3)、Mg(H2PO4)2・xH2O(x=0、2または4)、Mg(OH)2などであるがこれらに限定されない、任意の水和物または無水物の形態が含まれる。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。一実施形態において、硫酸マグネシウム(例えば硫酸マグネシウム七水和物)が添加される。
【0071】
いくらかの態様および実施形態において、マグネシウム塩は、化学量論量で添加される。他の態様および実施形態において、マグネシウム塩は、過剰で添加される。最大20%過剰のマグネシウム塩は、本発明の原理にしたがって添加され得る。
【0072】
室温または高温でのマグネシウム塩の添加は、本発明の範囲内である。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。適切な温度には、20℃~80℃の範囲、例えば、約20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、75℃、または80℃が含まれる。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。
【0073】
このように得られたL-乳酸マグネシウム塩はさらに、下流の精製プロセスに供される場合がある。驚いたことにL-乳酸マグネシウムのエナンチオマー純度を改善することも分かっている1つの簡単な精製は、例えば精製水を使用して、粗L-乳酸マグネシウム塩を洗浄することである。追加の精製ステップ、例えば、結晶化、再結晶化、分画、シリカゲルクロマトグラフィ、分取HPLC、およびそれらの組み合わせは、本発明の範囲内である。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。再酸性化ステップはまた、粗L-乳酸を得るために実行され、続いて精製L-乳酸を得るために精製ステップが実行される場合がある。再酸性化は、例えば、塩酸、臭化水素酸、硝酸、リン酸、硫酸、およびそれらの組み合わせのうち少なくとも1つを使用することにより、当技術分野で既知のとおりに実行することができる。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。
【0074】
精製プロセスには、抽出、電気透析、吸着、イオン交換、結晶化、およびこれらの方法の組み合わせが含まれる場合がある。いくつかの方法は、例えば、Ghaffarら(2014)Journal of Radiation Research and Applied Sciences,7(2):222-229;およびLopez-Garzonら(2014)Biotechnol Adv.,32(5):873-904にレビューされている。代わりに、1つのステップでの回収および乳酸のラクチドへの変換が使用される場合がある(Dusselierら(2015)Science,349(6243):78-80)。
【0075】
結晶化を介して乳酸マグネシウムを精製するための特定の下流の精製プロセスは、本発明の出願人に割り当てられている、同時継続中の特許出願、国際公開第2020/110108号で説明されている。精製プロセスは、以下のステップ:
- 乳酸マグネシウムを含む清澄溶液を45℃~75℃の温度で提供するステップ;
- 150~220g/Lの乳酸塩の濃度まで溶液を濃縮するステップ;
- 濃縮溶液の少なくとも1つの冷却結晶化を実行して、乳酸マグネシウム結晶を得るステップ;ならびに
- 得られた乳酸マグネシウム結晶を回収するステップ
を含む。
【0076】
いくらかの実施形態において、溶液は、指定された範囲内の各値を含む、55℃~65℃の温度で提供される。
【0077】
溶液の濃縮は、蒸発、ナノ濾過、逆浸透、またはそれらの組み合わせにより実行される場合がある。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。いくらかの実施形態において、溶液は、指定された範囲内の各値を含む、160~220g/Lの乳酸塩、例えば、170~220g/Lの乳酸塩、または180~220g/Lの乳酸塩の濃度まで濃縮される。
【0078】
少なくとも1つの冷却結晶化は、指定された範囲内の各値を含む、50~75℃の範囲内の第1の温度で開始される場合がある。いくらかの実施形態において、少なくとも1つの冷却結晶化は、指定された範囲内の各値を含む、50~70℃の範囲内の第1の温度で開始される。追加の実施形態において、少なくとも1つの冷却結晶化は、指定された範囲内の各値を含む、50~65℃の範囲内の第1の温度で開始される。
【0079】
少なくとも1つの冷却結晶化ステップは、指定された範囲内の各値を含む、10~1℃の範囲内の第2の温度で終了する場合がある。いくらかの実施形態において、少なくとも1つの冷却結晶化は、指定された範囲内の各値を含む、6~2℃の範囲内の第2の温度で終了する。
【0080】
少なくとも1つの冷却結晶化の冷却速度は、指定された範囲内の各値を含む10~0.5℃/時の範囲内である場合がある。いくらかの実施形態において、冷却速度は、指定された範囲内の各値を含む、5~1℃/時の範囲内である。
【0081】
冷却結晶化の前に、濃縮混合物のpHは、その間の各値を含む、6~7の範囲内に調節される場合がある。
【0082】
得られた乳酸マグネシウム結晶は、精密濾過またはナノ濾過により残りの液体から分離される場合がある。残りの液体は、追加の乳酸マグネシウム結晶を得るために、濃縮に続いて少なくとも1つの追加の冷却結晶化を受ける場合がある。液体からの分離に続いて、乳酸マグネシウム結晶は、水溶液またはエタノールもしくはアセトンなどの有機溶媒で洗浄され、精製される場合がある。乳酸マグネシウム結晶のさらなる処理には、抽出、精密濾過、ナノ濾過、活性炭処理、乾燥および研削のうち少なくとも1つが含まれる場合がある。それぞれの可能性は、別個の実施形態を表す。
【0083】
本明細書で開示されるプロセスが、主に、分解された有機性廃棄物由来のD-およびL-乳酸塩を含むエナンチオマー混合物からL-乳酸塩エナンチオマーを濃縮するために企図されているが、D-乳酸塩エナンチオマーの濃縮もまた本発明により企図される。
【0084】
したがって、ある特定の態様および実施形態によれば、本発明は、分解された有機性廃棄物由来のエナンチオマー混合物からD-乳酸塩エナンチオマーを濃縮するためのプロセスを提供し、そのプロセスは:
(a)D-およびL-乳酸塩のエナンチオマー混合物ならびにマグネシウム以外の対イオンを含む分解された有機性廃棄物を得るステップ;
(b)場合によっては、D-およびL-乳酸塩を中和するステップならびに分解された有機性廃棄物から固体粒子を除去するステップのうち少なくとも1つを実行するステップ;ならびに
(c)マグネシウム塩をステップ(a)または(b)のエナンチオマー混合物に添加し、それによってD-乳酸マグネシウム塩を高エナンチオマー純度で沈澱させるステップ
を含む。
【0085】
他の態様および実施形態によれば、本発明は、分解された有機性廃棄物からD-乳酸マグネシウム塩を高純度で生成するためのプロセスを提供し、そのプロセスは:
(a)D-乳酸塩およびマグネシウム以外の対イオンを含む分解された有機性廃棄物を得るステップ;
(b)場合によっては、D-乳酸塩を中和するステップおよび分解された有機性廃棄物から固体粒子を除去するステップのうち少なくとも1つを実行するステップ;ならびに
(c)マグネシウム塩をステップ(a)または(b)の分解された有機性廃棄物に添加し、それによってD-乳酸マグネシウム塩を高純度で沈澱させるステップ
を含む。
【0086】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるように、用語「約(about)」は、±10%を指す。
【0087】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「一つの(a)」、「一つの(an)」、および「その(the)」は、文脈上特に明確に別のものと指示されていない限り、複数の参照を含む。したがって、例えば、「一つの(a)対イオン」への言及では、文脈上特に明確に別のものと指示されていない限り、複数のそのような対イオンが含まれる。用語「および(and)」または用語「または(or)」が、一般に、文脈上特に明確に別のものと指示されていない限り、「および/または(and/or)」を含む意味で使用されることは注意すべきである。
【0088】
以下の実施例は、本発明のある特定の実施形態をより完全に例証するために提示されている。しかし、それらは決して本発明の広い範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書で開示される原理の多くのバリエーションおよび修正を容易に考案することができる。
【0089】
実施例
実施例1
水酸化ナトリウムを使用するPLAペレットのアルカリ熱加水分解
50gのPLAペレット(Ingeo(商標)バイオポリマー4032D、ネイチャーワークスLLC.)を、凝縮器および温度計を備えた250mlの三口フラスコに添加した。150mlのNaOH 5Mを添加し、フラスコを80℃まで加熱した(測定されたpHは13.5であった)。
【0090】
急速分解の3.5時間後、乳酸塩濃度は、320g/Lに到達し、時間経過に伴う乳酸塩濃度のさらなる上昇はわずかであった。21.5時間後、乳酸塩濃度は、増加を停止し(340g/Lの終濃度)、反応を室温まで冷却した。
【0091】
焼結ガラス漏斗を使用してPLA残渣を濾過し、透明溶液となった。測定された最終pHは追加のPLA分解に適切である12.9であった。
【0092】
溶液を濃H2SO4で中和し、その後、280mlの硫酸マグネシウム七水和物溶液(300g/L)を滴下で撹拌しながら添加した。焼結ガラス漏斗を使用して形成されたMgLa2・2H2O沈澱物を濾過し、アセトンで洗浄し、64grの最終重量まで80℃で乾燥した。濾液を滴下で撹拌しながら500mlのアセトンに添加し、その後、さらに1時間撹拌した。焼結ガラス漏斗を使用して形成された沈澱物を濾過し、アセトンで洗浄し、80℃で乾燥した。収率:74%。
【0093】
実施例2
MgLa
2
・2H
2
O沈澱を通じたPLAの再生利用
適切なステンレス鋼容器に、4032D PLAペレットから得られるか、カフェテリア廃棄物から再生されたPLA(2kg)を、撹拌している5M水酸化ナトリウム溶液(4L)に添加し、乳酸塩濃度が約30%に到達するまで、90℃まで加熱した。溶液を室温まで冷却して、不溶の残余物から濾別(0.45μmカットオフ)し、濃硫酸を使用して濾液のpHを6.5~7.0まで中和した。その後、乳酸塩のかなりの部分(>85%)を、混合溶液に一部ずつ添加された0~20%過剰のMgSO
4・xH
2O(x=0~11)を用いる20~80℃での交換反応により、固体のMgLa
2・2H
2Oとして回復させた。その後、沈澱した固体を濾別し、RT水で1回洗浄して、典型的に純度が>80%の粗MgLa
2・2H
2Oを与えた。粗乳酸マグネシウムを水で1回すすぐと、正常に>95%まで純度が改善した。この交換手順を、2.4%のD-乳酸塩を含む市販のNaLa溶液にも適用した。D-乳酸塩エナンチオマーの濃度を、キラルHPLC分離を使用して測定した。驚いたことに、そのプロトコルは、D-乳酸塩対L-乳酸塩の比率における低下をもたらした。別の実験において、前述のプロトコルにしたがって、ネイチャーワークス4032D PLAペレットの分解から得られた30%w/w乳酸ナトリウム溶液からMgLa
2を抽出した。乳酸塩濃度およびD-乳酸塩の%は両方とも、HPLCを使用して別個に測定された。
図2で見ることができるように、溶液中の全乳酸塩濃度は、30%から4%に低下した一方で、溶液中のD-乳酸塩の%(全乳酸塩含有量の)は、2.4%から6.3%に増加した。溶液中のD-乳酸塩の%のこの上昇は、初期Dエナンチオマー含有量よりも少ないDエナンチオマーを含む、沈澱したMgLa
2の改善されたエナンチオマー純度を与える。結果を表1A~表1Bに要約する。
【0094】
【0095】
【0096】
したがって、結果は、本発明のプロセスが、L-乳酸マグネシウム結晶を選択的に沈殿させることにより乳酸塩のエナンチオマー純度を高め、そのため、溶液中のD-乳酸塩濃度が上昇することになることを示す。このプロセスにより得られた乳酸マグネシウムは、再生乳酸塩のPLAへの再重合に特に適している。
【0097】
実施例3
乳酸発酵プロセスにおける有機性廃棄物の再生利用
混合食品廃棄物は、pH調節アルカリ化合物としてNaOHまたはNH4OHの存在下で乳酸発酵により分解される。このように得られた発酵ブロスは、乳酸イオンおよびナトリウムまたはアンモニウム対イオンを含む。ブロスを室温まで冷却させ、続いて濾過により未溶解物質を除去する。その後、乳酸塩は、混合溶液に添加される0~20%過剰のMgSO4・xH2O(x=0~11)を用いる20~80℃での交換反応により、固体のMgLa2・2H2Oとして回復される。乳酸塩濃度およびD-乳酸塩の%は、HPLCを使用して別個に測定される。その後、沈澱した固体を濾別し、水で洗浄して、典型的に粗MgLa2・2H2Oを与える。場合によっては、粗乳酸マグネシウムをRT水ですすぎ、その後の再結晶化に供する。
【0098】
実施例4
L-乳酸塩濃縮
商業的に購入した、または食品廃棄物発酵ブロスから供給された乳酸アンモニウム溶液では、乳酸塩の初期濃度を30%にした。溶液の約250gを、凝縮器およびメカニカルスターラーを備えた1Lの三口丸底フラスコに移した。溶液を70℃まで加熱し、水酸化アンモニウムの添加により、5.5の初期pHを7.2に調節した。1.1モル当量のMgSO4を1.5時間かけて8等分で添加したところ、乳酸マグネシウムの沈澱物が生じた。混合物をさらに2時間撹拌し、その後、P3焼結ガラス漏斗を使用して濾過した。濾過済み沈澱物を1重量当量の冷水で洗浄し、70℃で乾燥させた。乳酸塩濃度およびD-乳酸塩の%を、HPLCを使用して別個に測定した。結果を表2A~表2Bに要約する。
【0099】
【0100】
【0101】
結果から、本発明のプロセスが、L-乳酸塩のエナンチオマー純度を高めることが示される。好都合には、D-乳酸塩含有量の50%超の低下は、かなりの量の不純物を含む食品廃棄物発酵に由来するNH4Laを利用する場合であっても達成された。
【0102】
実施例5
イオン交換とそれに続く再結晶化によるL-乳酸塩濃縮
食品廃棄物発酵ブロスから供給される乳酸アンモニウム溶液では、乳酸塩の開始濃度を29%にした。溶液の約250gを、凝縮器およびメカニカルスターラーを備えた1Lの三口丸底フラスコに移した。溶液を70℃まで加熱し、水酸化アンモニウムの添加により、5.7の初期pHを7.3に調節した。1.1モル当量のMgSO4を1.5時間かけて8等分で添加したところ、乳酸マグネシウムの沈澱物が生じた。混合物をさらに4時間撹拌し、その後、P3焼結ガラス漏斗を使用して濾過した。濾過済み沈澱物を1重量当量の冷水で洗浄し、70℃で乾燥させた。その後、乾燥乳酸マグネシウム沈澱物を、8.4%の乳酸塩の濃度まで水に再溶解した。5%w/wの活性炭を添加し、溶液を一晩撹拌した。活性炭を濾別し、清澄溶液を70℃に予熱した0.5Lの反応器に移し、300RPMで撹拌した。溶液を真空で濃縮し、水の75%を除去し、乳酸マグネシウムの結晶化となった。その後、結晶を回収し、焼結ガラス漏斗を使用して濾過した。得られた結晶を冷水で洗浄し、70℃で乾燥させた。結果を表3A~表3Dに要約する。
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
再結晶化後の乳酸マグネシウム結晶は、1%未満のD-乳酸塩を含み、そのため新たなポリ乳酸の形成での再利用に特に適している。
【0108】
特定の実施形態の前述の説明は、現在の知識を適用することにより、他人が、過度の実験なしで、また一般的な概念から逸脱することなく、そのような特定の実施形態を種々の用途のために容易に修正および/または適合することができ、そして、そのため、そのような適応および修正が、本開示の実施形態の等価物の意味および範囲内で理解されると意図されるべきであり、意図されるという本発明の一般的な性質をそのように完全に明らかにするであろう。本明細書で採用される表現法または専門用語が、説明の目的のためであり、限定のためではないことが理解されるべきである。種々の開示された機能を実行するための手段、材料、およびステップは、以下の、特許請求の範囲により説明されるように、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、多種多様の代替の形態をとる可能性がある。
【国際調査報告】