(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-21
(54)【発明の名称】表面品質に優れた高強度鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/02 20060101AFI20240814BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240814BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20240814BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C23C2/02
C22C38/00 301T
C22C38/06
C23C28/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505380
(86)(22)【出願日】2022-09-15
(85)【翻訳文提出日】2024-01-29
(86)【国際出願番号】 KR2022013778
(87)【国際公開番号】W WO2023043216
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】10-2021-0123764
(32)【優先日】2021-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】イ、 カン-ミン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 チョン-ホワン
(72)【発明者】
【氏名】カン、 キ-チョル
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ナム―ア
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、 ユン-モ
【テーマコード(参考)】
4K027
4K044
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AA23
4K027AB28
4K027AB42
4K027AC15
4K027AC73
4K027AE12
4K044AA02
4K044AB02
4K044BA06
4K044BA10
4K044BB03
4K044BC08
4K044CA11
4K044CA18
(57)【要約】
本発明は、めっき性が向上し、優れた表面品質を有する高強度鋼板及びその製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板と、
前記素地鋼板の表層部に形成されたフェライト層を含み、
前記フェライト層はその上部に、Fe-Ni合金層が形成されている内部酸化層を有し、
前記内部酸化層は、前記フェライト層の表面から前記素地鋼板の基地組織の結晶粒界に沿ってその厚さ方向に最大3μmの深さまで形成されており、且つ
前記Fe-Ni合金層は、前記フェライト層の表面から前記素地鋼板の基地組織の結晶粒界に沿ってその厚さ方向に最大2μmの深さまで前記内部酸化層内に形成されている、表面品質に優れた高強度鋼板。
【請求項2】
前記フェライト層は、前記素地鋼板の厚さ方向を基準として、前記素地鋼板の内部に最大50μmの厚さで存在する、請求項1に記載の表面品質に優れた高強度鋼板。
【請求項3】
前記フェライト層は、面積分率50%以上のフェライト(ferrite)相を含む、請求項2に記載の表面品質に優れた高強度鋼板。
【請求項4】
前記フェライト層は、前記素地鋼板の厚さ方向を基準として、前記素地鋼板の内部に最大30μmの厚さで存在する、請求項1に記載の表面品質に優れた高強度鋼板。
【請求項5】
前記Fe-Ni合金層内には、還元されたグラフェン酸化物(rGO)をさらに含む、請求項1に記載の表面品質に優れた高強度鋼板。
【請求項6】
前記素地鋼板は、重量%で、炭素(C):0.17~0.19%、シリコン(Si):1.3~1.7%、マンガン(Mn):2.4~2.7%、アルミニウム(Al):0.01~0.7%、リン(P):0.01%以下、硫黄(S):0.003%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む冷延鋼板である、請求項1に記載の表面品質に優れた高強度鋼板。
【請求項7】
前記フェライト層の表面に形成されているめっき層をさらに含み、
前記フェライト層に接するめっき層の内部にはFe-Ni合金層が形成されている、請求項1に記載の表面品質に優れた高強度鋼板。
【請求項8】
素地鋼板を準備する段階と、
前記素地鋼板の少なくとも一面にNi+Fe/rGO複合コーティング層を形成する段階と、
前記複合コーティング層が形成された素地鋼板を焼鈍熱処理する段階と、を含み、
前記焼鈍熱処理は、最大850℃の温度範囲、-10~+5℃の露点温度で行うものである、表面品質に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記複合コーティング層のFe/rGOは、rGOの表面にFe酸化物がコーティングされたものである、請求項8に記載の表面品質に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記複合コーティング層を形成する段階は、
i)rGOを製造する段階と、
ii)前記製造されたrGOを鉄酸化物水溶液に混合し、前記水溶液を超音波処理する段階と、
iii)前記超音波処理された水溶液とニッケル化合物とを混合してコーティング組成物を形成する段階と、
iv)前記コーティング組成物を前記素地鋼板の少なくとも一面に電気めっき処理する段階と、を含むものである、請求項8に記載の表面品質に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記コーティング組成物はpHが1~2である、請求項10に記載の表面品質に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記電気めっき段階は、Ni付着量を基準として、単位面積(m
2)当たり200~800mgの付着量で行うものである、請求項10に記載の表面品質に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記焼鈍熱処理時の昇温温度が700℃以上であるときに50~200m
3/hの含湿窒素を投入するものである、請求項8に記載の表面品質に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記素地鋼板は、重量%で、炭素(C):0.17~0.19%、シリコン(Si):1.3~1.7%、マンガン(Mn):2.4~2.7%、アルミニウム(Al):0.01~0.7%、リン(P):0.01%以下、硫黄(S):0.003%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む冷延鋼板である、請求項8に記載の表面品質に優れた高強度鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき性が向上し、優れた表面品質を有する高強度鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ギガ(Giga)レベルの高成形鋼である変態誘起塑性鋼(TRansformation Induced Plasticity、TRIP鋼)は、オーステナイト相を活用することで、他のギガレベルの鋼と比べて伸び率に優れるという利点がある一方、溶接時に高成形のために1.5重量%レベルで添加されるSiによる液体金属脆化(Liquid Metal Embrittlement、LME)が発生するという問題がある。
【0003】
LME現象は、鋼をスポット溶接する過程で液状の亜鉛(Zn)が素地鉄の表層部の結晶粒界に浸透して割れを発生させ、このような割れを加速化させる現象であって、スポット溶接時の入熱量と熱応力、鋼内のC及びSiの割合によって大きな影響を受ける。
【0004】
このようなLME現象を抑制するために、TRIP鋼を製造する過程において、焼鈍熱処理中に鋼を約600℃付近で酸化させた後、700~800℃で再還元させる酸化-還元法を適用するか、鋼内にアンチモン(Sb)、錫(Sn)等を添加して酸化性元素(Mn、Si等)の内部酸化を抑制する方法等を適用することにより、素材の特性を改善しようとした。
【0005】
ところが、上記方法を適用してもLME現象を改善する効果はそれほど大きくないという欠点がある。
【0006】
そこで、酸化性元素を一定量含有するTRIP鋼のLME現象を大きく抑制することにより、めっき性、表面品質などを改善することができる方案が求められているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国登録特許公報第10-1630976号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一側面は、鋼内に存在するMn、Si等の表面濃化を最小化することによりLME割れ現象を抑制し、表面品質に優れた高強度鋼板及びその製造方法を提供しようとするものである。
【0009】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の内容全体から理解することができ、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の更なる課題を理解する上で何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、
素地鋼板と、
上記素地鋼板の表層部に形成されたフェライト層と、を含み、
上記フェライト層はその上部に、Fe-Ni合金層が形成されている内部酸化層を有し、
上記内部酸化層は、上記フェライト層の表面から上記素地鋼板の基地組織の結晶粒界に沿ってその厚さ方向に最大3μmの深さまで形成されており、且つ
上記Fe-Ni合金層は、上記フェライト層の表面から上記素地鋼板の基地組織の結晶粒界に沿ってその厚さ方向に最大2μmの深さまで上記内部酸化層内に形成されている表面品質に優れた高強度鋼板を提供する。
【0011】
本発明の他の一側面は、素地鋼板を準備する段階と、上記素地鋼板の少なくとも一面にNi+Fe/rGO複合コーティング層を形成する段階と、上記複合コーティング層が形成された素地鋼板を焼鈍熱処理する段階と、を含み、
上記焼鈍熱処理は、最大850℃の温度範囲、-10~+5℃の露点温度で行うものである、表面品質に優れた高強度鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、TRIP鋼のLME現象を抑制するための従来技術に比べて、より効果的にLME現象を抑制することができ、特に鋼の表面付近で酸化物の形成を最小化することにより、上記TRIP鋼のめっき性だけでなく表面品質が向上した高強度鋼板を提供する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施例に係る高強度鋼板の厚さ方向の断面を図式化して示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、酸化性元素を一定量含有するTRIP鋼が延性に優れ、高成形に適しているものの、溶接過程で上記酸化性元素が表面濃化してLME等の欠陥を発生させるという問題を効果的に抑制することができる方案について鋭意研究した。
【0015】
その結果、TRIP鋼の製造時、焼鈍熱処理する前にNiコーティングを行う一方、上記Niコーティング時に特定物質をさらに添加して複合コーティング層を形成しつつ、その後の焼鈍熱処理工程を最適化することにより、酸化性元素の表面濃化を根本的に抑制することができることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
まず、本発明で提供する表面品質に優れた高強度鋼板は、素地鋼板と、上記素地鋼板の表層部に形成されたフェライト層と、を含み、上記フェライト層はその上部に、Fe-Ni合金層が形成された内部酸化層を有することができる。
【0018】
上記素地鋼板は、高強度を有するTRIP鋼であって、その合金組成については特に限定しないが、一例として、重量%で、炭素(C):0.17~0.19%、シリコン(Si):1.3~1.7%、マンガン(Mn):2.4~2.7%、アルミニウム(Al):0.01~0.7%、リン(P):0.01%以下、硫黄(S):0.003%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含むことができる。
【0019】
炭素(C)は、強度確保及び残留オーステナイトの安定化のために添加される重要な元素である。上述した効果を十分に得るためには0.17%以上を含むことができるが、その含有量が過剰な場合、溶接性が低下するという問題が発生するため、これを考慮して0.19%以下に制限することができる。
【0020】
シリコン(Si)は、フェライト内で炭化物の析出を抑制し、フェライト内の炭素がオーステナイトに拡散することを助長する元素であって、残留オーステナイトの安定化に寄与する元素である。上述した効果を十分に得るためには、1.3%以上のSiを含むことができるが、その含有量が過剰な場合、圧延性が低下し、鋼板表面にSi酸化物を形成することでめっき性を阻害するという問題があるため、これを考慮して1.7%以下に制限することができる。
【0021】
マンガン(Mn)は、残留オーステナイトの形成及び安定化に寄与する元素であって、強度及び延性の確保に効果的な元素である。上述した効果を十分に得るためには、2.4%以上のMnを含むことが有利であるが、その含有量が過剰な場合、鋳造及び熱延工程で誘発された偏析によって機械的物性が低下することがあるため、これを考慮して2.7%以下に制限することができる。
【0022】
アルミニウム(Al)は、鋼の脱酸のために添加する元素であり、セメンタイトの析出を抑制するため、残留オーステナイトの安定化に効果的である。このようなAlの含有量が0.01%未満であると、脱酸効果が不十分となり、鋼の清浄性が劣化する。一方、残留オーステナイトの安定化効果を高めるためには、上記Alを0.1%以上添加することが有利であるが、その含有量が0.7%を超えると、鋼の鋳造性及びめっき密着性が低下するという問題がある。
【0023】
リン(P)は、固溶強化元素であるが、その含有量が過剰な場合、鋼の脆性が発生する可能性があるため、上記Pの上限を0.01%に制限することができる。
【0024】
硫黄(S)は、鋼中の不純物元素であり、鋼の延性及び溶接性を阻害する可能性があるため、その含有量を0.003%以下に制限することができる。
【0025】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入する可能性があるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程における技術者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書では、特にその全ての内容について言及しない。
【0026】
すなわち、本発明は、Mn、Siのような酸化性元素を一定量含有する鋼を対象として、上記鋼中に存在するMn、Siなどの酸化性元素の表面濃化を最小化することに技術的意義がある。
【0027】
本発明の高強度鋼板は、上記素地鋼板の表層部に形成されたフェライト層を含み、上記フェライト層はその上部に、Fe-Ni合金層が形成された内部酸化層を有することに特徴がある(
図1)。
【0028】
まず、上記素地鋼板の表層部は、上記フェライト層の最表面から上記素地鋼板の厚さ方向に最大50μmまで、より有利には、最大30μmまでの領域と称することができる。これにより、本発明において、上記フェライト層は、上記素地鋼板の厚さ方向を基準として、上記素地鋼板の内部に最大50μmまで、好ましくは、最大30μmまで存在することができる。上記フェライト層内において上記内部酸化層は、上記フェライト層の表面から上記素地鋼板の基地組織の結晶粒界に沿ってその厚さ方向に最大3μmの深さまで形成され、上記Fe-Ni合金層は上記フェライト層の表面から上記素地鋼板の基地組織の結晶粒界に沿ってその厚さ方向に最大2μmの深さまで上記内部酸化層内に形成されることができる。このとき、上記Fe-Ni合金層と内部酸化層は、上記フェライト層の最表面からそれぞれ最大2μm、3μmの深さで結晶粒界に沿って連続して存在するか、一定距離をおいて不連続的に存在することもできる。ここで、結晶粒界とは、素地鋼板の基地組織の結晶粒界をいうものであり、フェライト粒界だけでなく、オーステナイト粒界、ベイナイト粒界、マルテンサイト粒界を意味し、各相(phase)のうち少なくとも一つの相(phase)の粒界に存在し得ることを明らかにする。
【0029】
上記素地鋼板は、めっき処理されて上記素地鋼板の少なくとも一面にめっき層が存在するめっき鋼板であってもよく、この場合には、上記めっき層直下、すなわち、上記素地鋼板とめっき層との界面にフェライト層を含むことができる。このとき、上記めっき層直下の面を上記フェライト層の最表面とすることができる。
【0030】
本発明では、例えば、GAめっき鋼板の場合、上記フェライト層に隣接するめっき層の内部にはFe-Ni合金層が形成されてもよい。
【0031】
以下に詳述するように、上記フェライト層の上部のFe-Ni合金層と内部酸化層は、上記素地鋼板を焼鈍熱処理する前にNi複合コーティング層を形成した後に、焼鈍熱処理工程を行うことにより形成することができる。
【0032】
より具体的には、上記Ni複合コーティング層は、還元されたグラフェン酸化物、すなわち、rGOがコーティングされたFe酸化物とNi化合物の混合組成物から形成することができ、これにより形成されたコーティング層内のFe酸化物が、後続の焼鈍熱処理過程で素地鋼板内に拡散して鋼内のMn、Si等の表面拡散を抑制する一方、上記Feよりも素地鋼板内への拡散がより速いNiと結合し、表面にFe-Ni酸化層を形成する。
【0033】
Ni-X又はFe-X(ここで、XはSi又はMn)系の結晶粒において、各元素別のsegregation energyを確認してみると、Fe-SiとFe-Mnはいずれも10~90kJ/molレベルであり、Ni-Siは負の値、Ni-Mnは正の値を有する。すなわち、Ni-Mn結晶粒界においてMnは偏析(segregation)が起こり易い条件となるが、Fe内へのNiの拡散によりMnは表面への拡散が難しくなる。
【0034】
一方、この過程でSiの表面拡散は容易であるが、Ni複合コーティング層内に含有されたrGOも素地内に拡散して上記Fe-Ni合金層内に共に存在し、上記rGO内に存在するピリジニック(pyridinic)とグラフィティック(graphitic)の高い酸素反応性により、Siをはじめとする鋼内の酸化性元素の表面拡散を有効に抑制することができる。
【0035】
また、上記焼鈍熱処理過程で露点を高めるために含湿窒素を投入するが、これによりSi、Mn等が表層内に内部酸化層を形成する。
【0036】
一方、上記素地鋼板の表面に存在するフェライト層は、上記素地鋼板の厚さ方向を基準として、上記素地鋼板の内部に最大50μmの厚さで存在することができる(
図1)。
【0037】
本発明において、上記フェライト層は、焼鈍熱処理過程で形成された内部酸化層の酸素(O)原子が鋼内の炭素と結合し、一酸化炭素(CO)に脱炭される反応によって形成される。
【0038】
上記フェライト層は軟質の性質を有するため、割れが生じにくくなり、LME現象を抑制する効果がある。このような効果を十分に発現させるためには、上記フェライト層内に面積分率50%以上のフェライト(ferrite)相を含むことが好ましい。
【0039】
本発明における素地鋼板は、前述した合金組成を有する冷延鋼板であってもよく、上記冷延鋼板の少なくとも一面にめっき層を含むめっき鋼板であってもよい。
【0040】
上記素地鋼板がめっき鋼板の場合、上記めっき層は特に限定されないが、一般的に亜鉛系めっき層であってもよく、このめっき層は、上記素地鋼板(冷延鋼板)の表面に存在するフェライト層の上部に形成されてもよいことを明らかにする。
【0041】
以下、本発明で提供する表面品質に優れた高強度鋼板を製造する方法について詳細に説明する。
【0042】
簡略に説明すると、素地鋼板を準備した後、上記素地鋼板の少なくとも一面にNiを含有する複合コーティング層を形成した後、上記複合コーティング層が形成された素地鋼板を焼鈍熱処理する段階を含むことができる。
【0043】
各工程条件については、下記で詳細に説明する。
【0044】
まず、素地鋼板は前述したように、TRIP鋼であって、その合金組成については特に限定しないが、一例として、重量%で、炭素(C):0.17~0.19%、シリコン(Si):1.3~1.7%、マンガン(Mn):2.4~2.7%、アルミニウム(Al):0.01~0.7%、リン(P):0.01%以下、硫黄(S):0.003%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含むことができる。
【0045】
上記素地鋼板は冷延鋼板であってもよく、上記各元素の説明は上述の内容で代替することを明らかにする。
【0046】
上記により準備された素地鋼板の少なくとも一面にNiを含有した複合コーティング層、好ましくはNi+Fe/rGO複合コーティング層を形成することができる。
【0047】
上記Ni+Fe/rGO複合コーティング層は、ニッケル(Ni)化合物とFe/rGO水溶液をそれぞれ製造した後、これを混合して製造したコーティング組成物から形成することができる。
【0048】
まず、還元されたグラフェン酸化物であるrGOを製造する。上記rGOは、黒鉛を酸化させて表面に酸素(O)原子を含む酸化グラフェン(graphene oxide、GO)を還元させることにより得られる。
【0049】
具体的に、酸化グラフェン(GO)を蒸留水1ml当たり0.001~0.01gで分散させた溶液200mlを基準として、ヒドラジンモノハイドレート(hydrazine monohydrate)を1~10ml添加した後、高温で保持する。その後、50~100mlの硫酸を添加してから超音波処理することによりrGOを製造することができる。
【0050】
このとき、高温で保持する工程は70~90℃で1~3時間行うことができ、超音波処理は20~40分間行うことができる。上記保持工程の際、90℃を超える温度で3時間以上行うと、蒸発する水の量が過剰になり、適正レベルの溶液を得ることが難しい。また、超音波処理時間が20分未満であると、均一なrGOの確保に困難があり、後続のFeコーティング工程時に超音波工程を再び伴うため、これを考慮して40分以下で行うことができる。
【0051】
本発明は、上記rGOをFeコーティングさせることができる。上記Feは複合コーティング層内のNiと合金相を形成する上で有効であり、上記rGOは素地鋼板内の酸化性元素の表層拡散を抑制する上で有効である。
【0052】
上記rGOをFeでコーティングさせる工程は、上記により製造されたrGOを鉄(Fe)酸化物水溶液に混合した後、この混合された溶液を超音波処理することで行うことができる。
【0053】
具体的には、10ml/LのrGOを基準として、FeSO4又はFeCl3水和物が飽和した水溶液1~10mg/Lと上記rGOとを100~500mlの純水(pure water)に入れて混合した後、60~600分間超音波処理することによりナノサイズのFe酸化物が最大3重量%含有されたFe/rGOを得ることができる。上記超音波処理時間が60分未満であると、Feコーティング量が不足してFeコーティングされたrGOを円滑に形成することができない。一方、600分を超えると、むしろFeコーティングが難しくなるという問題がある。
【0054】
上述した超音波工程によって、上記Fe酸化物は数十ナノサイズ(nm)でコーティングされることができ、好ましくは、そのサイズは10~50nmであってもよい。
【0055】
上記により製造されたFe/rGO水溶液に、ニッケル(Ni)化合物を混合して複合コーティング層を形成するためのコーティング組成物を製造することができる。
【0056】
具体的には、上記Fe/rGO水溶液10mlを基準として、1~1.5M(mol)のNiSO4、0.1~0.5MのNiCl2及び0.1~0.5MのH3BO3で構成されたワット浴(Watts bath)を製造した後、上記Fe/rGO水溶液を上記ワット浴内に添加してNi+Fe/rGOコーティング組成物を得ることができる。
【0057】
上記Ni+Fe/rGOコーティング組成物はpHが1~2であってもよい。このように、コーティング組成物のpHを上述の範囲に調節することにより、組成物内に含有されたグラフェン(rGO)をコーティング層内に均一に分散させることができる。上記rGOをコーティング層内に均一に分散させることにより、鋼板の耐腐食性、電気的、物理的物性などを向上させることができる。
【0058】
上記ワット浴内に添加されるFe/rGO水溶液の量が過剰になると、多量の浸漬が発生し、溶液安定性の確保が困難になるという問題がある。
【0059】
本発明では、上記により製造されたNi+Fe/rGOコーティング組成物を、先に準備した素地鋼板の少なくとも一面にコーティング処理することができ、このとき、電気めっきによるコーティング処理から意図するNi+Fe/rGO複合コーティング層を形成することができる。
【0060】
上記電気めっきによって複合コーティング層を形成する際に、Ni付着量を基準として、単位面積(m2)当たり200~800mgの付着量で行うことが好ましい。上記Ni付着量が単位面積当たり200mg未満であると、鋼内部の酸化性元素の表層拡散を効果的に抑制することができない。一方、800mgを超えると、その効果が飽和して経済的に不利となる。より有利には、単位面積(m2)当たり400mg以上の付着量で行うことができる。
【0061】
上記電気めっき時に溶液の温度を上げるほど、電気伝導度が上昇し、めっき効率が向上する。しかし、その温度が60℃を超えると、溶液の蒸発量が著しく増加するため、60℃以下で行うことができ、一定レベルの電気伝導度を得るためには30℃以上の温度で行うことが有利である。
【0062】
上記電気めっきを完了して少なくとも一面にNi+Fe/rGO複合コーティング層が形成された素地鋼板を焼鈍熱処理することが好ましい。
【0063】
上記焼鈍熱処理時に、素地鋼板内の酸化性元素の表層拡散を抑制しつつ、内部酸化を促進するために-10~+5℃の露点温度、最大850℃の温度範囲で行うことが好ましい。
【0064】
上記焼鈍熱処理時の露点温度が+5℃を超えると、素地鉄自体が酸化するおそれがある。但し、その温度が過度に低いと、めっき性能が劣化するという問題があるため、これを考慮して上記露点温度の下限を-10℃に制限することができる。
【0065】
上記のように雰囲気が制御された焼鈍炉内での焼鈍時、最大850℃、好ましくは750~850℃の温度範囲で熱処理を行うことができる。上記熱処理時の温度が750℃未満であると、内部酸化が十分に起こらなくなるおそれがある。一方、その温度が850℃を超えると、脱炭が過度になり、引張物性が低下するおそれがある。
【0066】
一方、上記焼鈍熱処理のために加熱する際に加熱区間、好ましくは700℃以上に昇温したときに含湿窒素を投入することができる。これは、酸化性元素の内部酸化及び脱炭を誘導するためのものであって、50~200m3/hで投入することが有利である。このとき、投入される含湿窒素の量が50m3/h未満であると、露点の上昇効果が不十分であり、内部酸化層は一部形成されることができるものの、脱炭を誘導することが難しくなる。一方、200m3/hを超えると、露点が5℃を超えて過度に高くなり、素地鉄自体が酸化するという問題がある。
【0067】
本発明は、上述した条件で焼鈍熱処理を行うことにより、素地鋼板の少なくとも一面に形成されたNi+Fe/rGO複合コーティング層のrGOに付与されたFe酸化物は、焼鈍炉内の還元雰囲気により表層でFeに還元され、このように還元されたFeの一部が素地鋼板の内部に拡散する。
【0068】
このとき、複合コーティング層内のNiはFeに拡散することで表層にFe-Ni酸化層を形成する。
【0069】
そして、鋼の内部に存在する酸化性元素(Mn、Si等)は、上記Fe-Ni酸化層により表面濃化が抑制される一方、焼鈍炉の雰囲気窒素内の水蒸気又はrGOのピリジニック、グラフィティックにより酸化されて内部酸化層を形成するようになる。
【0070】
上記Fe-Ni酸化層及び内部酸化層は、いずれも結晶粒界に沿って形成されることができ、それぞれ最大2μm、最大3μmのサイズ(長さ)で形成されることができる。
【0071】
上記焼鈍熱処理過程で焼鈍濃化物の代わりに内部酸化層が形成されることにより、水蒸気が素地鋼板の表層でO原子に解離し、このO原子が鋼中の炭素(C)と結合して一酸化炭素(CO)に脱炭される反応が後続的に伴う。これにより、素地鋼板の表面において素地鋼板の内部方向に一定厚さのフェライト層が形成され、上記フェライト層はその上部に、Fe-Ni合金層が形成されている内部酸化層を含む。
【0072】
このように、素地鋼板の表層部に、上記Fe-Ni酸化層が形成されている内部酸化層を有するフェライト層が存在することにより、割れの伝播を最小化する効果があり、結果的にLMEの発生を抑制する効果がある。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【0074】
(実施例)
重量%で、0.18%C-1.5%Si-2.5%Mn-0.05%Al-0.005%P-0.0015%S(残部Fe及び不可避不純物)で組成された厚さ1.5mmの冷延鋼板(TRIP鋼)を準備した後、上記冷延鋼板の一面をコーティング処理した。
【0075】
上記コーティング処理のためのコーティング組成物を次のようにして製造した。
【0076】
[rGO製造]
蒸留水1ml当たり酸化グラフェン(GO)0.01gが分散された酸化グラフェン分散液(200ml)にヒドラジンモノハイドレート10mlを徐々に滴加した後、80℃で2時間の間、撹拌した。その後、上記溶液に硫酸を添加した後、30分間超音波処理し、酸化グラフェンが還元されたrGOが分散された溶液を得た。
【0077】
[コーティング組成物の製造]
上記製造されたrGO溶液10mlとFeSO4水和物が飽和した水溶液10mg/Lを500mlの純水に添加して混合した後、60分間超音波処理してFe/rGO水溶液を得た。このとき、上記Fe/rGOは、10nmのFe酸化物が3重量%含有されたものである。
【0078】
その後、上記Fe/rGO水溶液10mlを硫酸ニッケル(262.7g、1M)、塩化ニッケル(64.9g、0.5M)及びホウ酸(30.4g、0.5M)が溶解したワット浴に添加した後、1時間撹拌してpH1のNi+Fe/rGoコーティング組成物を得た。
【0079】
上記により製造されたNi+Fe/rGoコーティング組成物を前述の素地鋼板の一面にコーティング処理し、このとき、200~800mg/m2のNi付着量で50℃で電気めっきを行った。
【0080】
その後、Ni付着量を異ならせてコーティング処理したそれぞれの素地鋼板を、3~5体積%で窒素を含有する焼鈍炉内で850℃まで昇温させて焼鈍熱処理を行った。このとき、露点温度を-50℃、-10℃又は+5℃で適用し、700℃の区間で含湿窒素100m3/hを投入した。
【0081】
下記表1は、電気めっき及び焼鈍熱処理後、各試験片の最表面から厚さ方向100nmまでのMn、Siの含有量をGDSで分析した結果を示したものである。このとき、Ni+Fe/rGoコーティング組成物を用いて電気めっき時のNi付着量と焼鈍熱処理時の露点温度による変化とともに、Fe/rGOの有無による結果を併せて比較した。
【0082】
【0083】
上記表1に示すように、コーティング組成物がNi単独組成物に対してNi+Fe/rGOコーティング組成物である場合、表面でのMn、Siの濃化が大きく抑制されることが確認できる。
【0084】
さらに、露点温度が高いほど、そしてNi付着量が高いほど、酸化性元素の表面拡散を抑制する傾向が大きくなることが分かる。
【0085】
下記表2は、電気めっき及び焼鈍熱処理後、各試験片の内部酸化層の深さ(μm)を測定した結果を示したものである。このとき、Ni+Fe/rGoコーティング組成物を用いて電気めっき時のNi付着量と焼鈍熱処理時の露点温度による変化とともに、Fe/rGOの有無による結果を併せて比較した。内部酸化層の深さは、試験片を圧延方向の直角方向に切断した後、その断面をSEMで観察して測定した。
【0086】
【0087】
上記表2に示すように、コーティング組成物がNi単独の場合には、内部酸化層が観察されないことが分かる。一方、Ni+Fe/rGOコーティング組成物を用いる場合、露点温度が-50℃ではNi付着量が400mg/m2以上であるときに内部酸化層が観察され、露点温度が-10℃、+5℃ではNi付着量が大きいほど、最大2.5±1.2μmまで形成された。
【0088】
一方、付着量が800mg/m2の場合には、400mg/m2に対する内部酸化層の厚さが減少したことが分かる。これは、コーティング層が相対的に厚くなることで拡散せずに、一部のNiが残留して残存層を形成したことに起因するものと確認される。
【0089】
下記表3は、電気めっき及び焼鈍熱処理後、各試験片の最表面から厚さ方向50μmまでのフェライト分率(面積%)を測定した結果を示したものである。このとき、Ni+Fe/rGOコーティング組成物を用いて電気めっき時のNi付着量と焼鈍熱処理時の露点温度による変化とともに、Fe/rGOの有無による結果を併せて比較した。
【0090】
【0091】
上記表3に示すように、コーティング組成物がNi単独の場合には、脱炭が全く発生しなかったことが分かる。そして、露点温度が高いほど、そしてNi付着量が高いほど、脱炭が有利に発生することによりフェライト分率が高くなることが分かる。
【0092】
下記表4は、電気めっき及び焼鈍熱処理後、合金化溶融亜鉛めっき処理を行った後、各試験片の表面品質を観察した結果を示したものである。このとき、合金化溶融亜鉛めっき処理は、通常の亜鉛めっき浴を用いて溶融亜鉛めっき処理した後、480℃での合金化熱処理により行った。
【0093】
そして、Ni+Fe/rGoコーティング組成物を用いて電気めっき時のNi付着量と焼鈍熱処理時の露点温度による変化とともに、Fe/rGOの有無による結果を併せて比較した。このとき、表面マイクロ分析器を用いて未めっきの有無を観察し、未めっきが観察されなかった試験片については「良好」と判定した。
【0094】
【0095】
上記表4に示すように、コーティング組成物がNi単独の場合には、Ni付着量に関係なく未めっきが発生するか、又は合金化度が不良であった。すなわち、表面改善効果が全く現れなかった。
【0096】
一方、Ni+Fe/rGoコーティング組成物を用いた場合、露点温度-50℃では、Ni付着量が400mg/m2以上であるときに表面が改善される現象を示し、露点温度-10℃では、付着量が200mg/m2以上のときから表面が改善され、+5℃では、Ni付着量に関係なく表面品質が良好であった。
【国際調査報告】