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特表2024-530461外因性酵素を含む真核細胞溶解物及びそれを調製するための方法
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  • 特表-外因性酵素を含む真核細胞溶解物及びそれを調製するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-21
(54)【発明の名称】外因性酵素を含む真核細胞溶解物及びそれを調製するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20240814BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240814BHJP
   C12N 9/00 20060101ALI20240814BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20240814BHJP
   C12N 15/52 20060101ALI20240814BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20240814BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20240814BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240814BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20240814BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N1/19
C12N9/00
C12N9/10
C12N15/52 Z
C12N15/54
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12N15/31
C12P21/02 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506474
(86)(22)【出願日】2022-07-29
(85)【翻訳文提出日】2024-03-28
(86)【国際出願番号】 EP2022071358
(87)【国際公開番号】W WO2023012059
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】21189381.3
(32)【優先日】2021-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515230084
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツゥア フェアデルング デア アンゲヴァンドテン フォァシュング エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(72)【発明者】
【氏名】シュロスハウアー、ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】ゼメラ、アンネ
(72)【発明者】
【氏名】クビック、ステファン
(72)【発明者】
【氏名】カヴァック、ニノ
(72)【発明者】
【氏名】ソリンク、レナ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ13
4B063QR08
4B064AG01
4B065AA72X
4B065AA80X
4B065AA90X
4B065BA01
4B065BD01
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つの外因性酵素を含む無細胞タンパク質合成のための真核細胞溶解物を産出するための方法であって、少なくとも、a)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ及びウイルスRNAポリメラーゼを含む群から選択される少なくとも1つの外因性酵素をコードする少なくとも1つのドナーテンプレートでトランスフェクトされた真核細胞を提供する工程、b)工程a)のトランスフェクトされた細胞を所定の期間培養し、続いて細胞を回収する工程、及びc)回収された細胞を破砕し、そこから、無細胞タンパク質合成のための細胞溶解物を調製する工程を含む、方法に関する。より具体的には、本発明は、非標準アミノ酸を含む標的タンパク質の無細胞合成が可能である真核細胞溶解物を産出するための、少なくとも、a)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ、即ち、真核細胞中の内因性アミノアシル-tRNAシンセターゼによって認識されないtRNAに特異的であり、対応する非標準アミノ酸に特異的なアミノアシル-tRNAシンセターゼをコードする少なくとも1つのドナーテンプレートでトランスフェクトされた前記真核細胞を提供する工程、b)工程a)のトランスフェクトされた細胞を所定の期間培養し、続いて細胞を回収する工程、及びc)回収された細胞を破砕し、そこから細胞溶解物を調製する工程を含む方法に関する。本発明の更なる態様は、特に、上記方法によって得ることができる真核細胞溶解物、及び非標準アミノ酸を含む標的タンパク質の無細胞合成を行うための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの外因性酵素を含む真核細胞溶解物を産出するための方法であって、少なくとも、
a)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ及びウイルスRNAポリメラーゼを含む群から選択される少なくとも1つの外因性酵素をコードする少なくとも1つのドナーテンプレートでトランスフェクトされた真核細胞を提供する工程、
b)工程a)の前記トランスフェクトされた細胞を所定の期間培養し、続いて前記細胞を回収する工程、及び
c)前記回収された細胞を破砕し、そこから細胞溶解物を調製する工程を含む、方法。
【請求項2】
標的タンパク質の無細胞合成に要求されている又は有利な少なくとも1つの外因性酵素を含む、前記無細胞タンパク質合成のための翻訳活性真核細胞溶解物を産出するための、少なくとも、
a)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ及びウイルスRNAポリメラーゼを含む群から選択される少なくとも1つの外因性酵素をコードする少なくとも1つのドナーテンプレートでトランスフェクトされた真核細胞を提供する工程、
b)工程a)の前記トランスフェクトされた細胞を所定の期間培養し、続いて前記細胞を回収する工程、及び
c)前記回収された細胞を破砕し、そこから、無細胞タンパク質生産のための細胞溶解物を調製する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非標準アミノ酸を含む標的タンパク質の無細胞合成が可能である真核細胞溶解物を産出するための、少なくとも、
a)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ、即ち、前記真核細胞中の内因性アミノアシル-tRNAシンセターゼによって認識されないtRNAに特異的であり、対応する非標準アミノ酸に特異的なアミノアシル-tRNAシンセターゼをコードする少なくとも1つのドナーテンプレートでトランスフェクトされた真核細胞を提供する工程、
b)工程a)の前記トランスフェクトされた細胞を所定の期間培養し、続いて前記細胞を回収する工程、及び
c)前記回収された細胞を破砕し、そこから細胞溶解物を調製する工程を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも、
a1)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ及びウイルスRNAポリメラーゼを含む群から選択される少なくとも1つの外因性酵素をコードする少なくとも1つのドナーテンプレートで真核細胞にトランスフェクトする工程、
a2)抗生物質選択剤による選択圧で工程a1)の細胞を保持する工程、
a3)a2)から細胞のプールの単一クローンを選択する工程、
a4)工程a3)の単一クローンをより高い細胞密度に拡大する工程、
a5)遺伝子型決定PCR及びqPCR、並びに前記所望の標的遺伝子型及びドナーテンプレートを有する細胞クローンの選択によって、工程a4)の細胞を分析する工程、
b)制御された条件下で、好ましくはバイオリアクターにおいて、工程a5)の細胞を培養し、続いて前記細胞を回収する工程、
c)前記回収された細胞を破砕し、そこから細胞溶解物を調製する工程を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも、
a1)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼをコードする少なくとも1つのドナーテンプレートで真核細胞にトランスフェクトする工程、
a2)抗生物質選択剤による選択圧で工程a1)の細胞を保持する工程、
a3)a2)から細胞のプールの単一クローンを選択する工程、
a4)工程a3)の単一クローンをより高い細胞密度に拡大する工程、
a5)遺伝子型決定PCR及びqPCR、並びに前記所望の標的遺伝子型及びドナーテンプレートを有する細胞クローンの選択によって、工程a4)の細胞を分析する工程、
b)制御された条件下で、好ましくはバイオリアクターにおいて、工程a5)の細胞を培養し、続いて前記細胞を回収する工程、
c)前記回収された細胞を破砕し、そこから細胞溶解物を調製する工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
非標準アミノ酸を含む標的タンパク質の無細胞合成を行うための方法であって、少なくとも、
請求項3又は5に記載の方法の工程a)~c)、及び
少なくとも1つの非標準アミノ酸を、前記非標準アミノ酸に特異的な少なくとも1つの直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼを含む工程c)の溶解物に基づいた無細胞タンパク質合成反応において、標的タンパク質の中に組み込む工程d)を行う工程を含む、方法。
【請求項7】
前記真核細胞は、非ヒト哺乳動物細胞、特にCHO細胞、昆虫細胞、特にツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)細胞、ヒト細胞、特にHEK293及びK562細胞、並びに酵母、特にピキア・パストリス及びサッカロミセス・セレビシエを含む群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記真核細胞溶解物は、膜小胞を含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼは、ピロリジンtRNAシンセターゼ、チロシルtRNAシンセターゼ及びロイシンtRNAシンセターゼを含む群から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼは、大腸菌チロシル-tRNAシンセターゼ、メタノサルシナ・マゼイピロリジンtRNAシンセターゼ又は大腸菌ロイシンtRNAシンセターゼである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
標的タンパク質の無細胞合成のための真核細胞溶解物であって、細胞溶解物は、前記標的タンパク質の前記無細胞合成に要求されている又は有利な少なくとも1つの外因性酵素を含み、直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ及びウイルスRNAポリメラーゼを含む群から選択される、真核細胞溶解物。
【請求項12】
翻訳後修飾及び/又は非標準アミノ酸を含む標的タンパク質の無細胞合成のための、請求項11に記載の真核細胞溶解物。
【請求項13】
細胞溶解物は、少なくとも1つの直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ、即ち、前記細胞溶解物の由来である前記対応する真核細胞における内因性アミノアシル-tRNAシンセターゼによって認識されないtRNAに特異的なアミノアシル-tRNAシンセターゼを含む、請求項11又は12に記載の真核細胞溶解物。
【請求項14】
トランスフェクトされた真核細胞又は少なくとも1つの直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼを発現する細胞株由来であり、前記細胞は、CHO細胞、ツマジロクサヨトウ細胞、HEK293細胞、K562細胞、ピキア・パストリス及びサッカロミセス・セレビシエから選択され、前記アミノアシル-tRNAシンセターゼは、大腸菌チロシル-tRNAシンセターゼ、メタノサルシナ・マゼイピロリジン-tRNAシンセターゼ又は大腸菌ロイシン-tRNAシンセターゼから選択される、請求項11~13のいずれか一項に記載の真核細胞溶解物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
今日、タンパク質生産系は、複雑な細胞機構の理解のための基礎研究から生物学的製剤の開発及び生産を範囲とする多様な用途に要求されている。複雑なタンパク質の迅速且つコスト効率の高い合成を目指して、改良された新規なタンパク質生産系の需要がここ数年にわたって増加している。原則として、タンパク質生産は、細胞ベース及び無細胞のタンパク質合成系とに細分され得る。今まで、細胞ベースの系は、研究及び産業用途のために十分に確立されており、主にタンパク質生産のために使用されている。
【0002】
細胞ベースの系は、生細胞の時間集約的で難儀な修飾を要求するが、無細胞タンパク質合成系は、全細胞の代わりに細胞抽出物を使用する単純化されたバージョンである。これらの細胞抽出物は、リボソーム、tRNA、アミノアシルtRNAシンセターゼ及び翻訳因子を含む、タンパク質翻訳に要求される全因子を含有する。公然の特徴により、細胞ベースの生産系と比較してより柔軟性を有する系となる。所望の標的タンパク質をエンコードするDNA又はmRNAは、精巧なクローニング及びクローン選択工程を必要とせずに無細胞反応に直接補充され得る。合成条件は、細胞機能を損なうことなく、個々のタンパク質ごとに直接調整され得る。近年、真核及び原核細胞抽出物ベースで、様々な無細胞系が開発された。原核無細胞系は、高いタンパク質収量をもたらすが、翻訳後修飾の能力において限定される。真核無細胞系は、過去数十年の間に、大々的な開発を受けて、導出されるタンパク質の収量を低μg/mLから最大mg/mLの範囲の所望の標的タンパク質まで増加させ、それによって、それらをタンパク質生産に対してより魅力的なものにしている。真核無細胞系は、典型的には、Sf21細胞、CHO細胞、HeLa又はK562細胞などのヒト細胞株、タバコ細胞、酵母細胞及び網状赤血球から導出される。
【0003】
真核系、特にSf21、CHO及びヒト細胞溶解物ベースのものは、翻訳後修飾されるタンパク質の生産を可能にする。そのような翻訳後修飾(PTM)は、グリコシル化、シグナルペプチド切断、リン酸化、ジスルフィド結合形成及び脂質修飾を含む。これに関連して、真核無細胞系は、複雑な哺乳動物タンパク質の生産に特に有利である。PTMは、小胞体由来の内因性膜粒子である、いわゆるミクロソームの存在下で行われ得る。内在性ミクロソームを有する溶解物では、分泌され膜に埋め込まれたタンパク質の共翻訳転座が起こり、ERベースのタンパク質処理の天然の機構を模倣する。この処理は、典型的には、転座機構のない無細胞系とは対照的に、複合タンパク質の増加された機能をもたらす。
【0004】
無細胞合成、特に真核無細胞系の障害は、ほとんどが、無細胞生産を、工業及び製造目的のための細胞ベースの系ほど今のところ魅力的ではないものにしている、反応のコストである。現在、無細胞反応のほとんどは、小規模な実験室規模の反応でのみ行われており、大腸菌ベースの無細胞系については、限定されたスケールアップされた生産プラットフォームしか報告されていない。大腸菌ベースの無細胞系を真核無細胞系と比較すると、溶解物の調製は、真核のものに対してよりコスト集約的である。
【0005】
細胞溶解物とは別に、効率的な無細胞反応を行うために追加の因子が要求される。所望の標的タンパク質のテンプレートを追加するために、タンパク質をエンコードするDNAは、無細胞反応に直接補充され得る。分子生物学のセントラルドグマによれば、DNAは、タンパク質翻訳がリボソームで始まる前にmRNAに転写される。mRNA転写を可能にするために、組換えRNAポリメラーゼが反応に補充される。ほとんどの場合、T7ファージ由来のDNA依存性RNAポリメラーゼが、転写反応を行うべく使用される。この組換え酵素の補充は、無細胞反応における最もコストのかかる問題の1つである。T7 RNAポリメラーゼの補充とは別に、エネルギー再生のために更なる酵素が要求される。エネルギー消費タンパク質の合成を支援するために、定められた量のATPが利用可能である必要がある。エネルギー再生系は、典型的には、特異的基質を使用してADPをリン酸化してATPにする酵素からなる。無細胞タンパク質合成に適用される一般的なエネルギー再生系は、クレアチンキナーゼ、ピルビン酸キナーゼ及び酢酸キナーゼといった酵素に基づく。組換えキナーゼは、溶解物に補充され、それによってATPを再利用することによって系の生産性を増加させる。
【0006】
無細胞系には、直交型tRNA、非標準アミノ酸(ncaa)及び直交型アミノアシルtRNAシンセターゼ(aaRS)を包含する直交型翻訳反応物が更に補充され得る。したがって、細胞ベースの系における非標準アミノ酸の毒性効果が克服され得、タンパク質は、定められた化学基で修飾され得、例えば蛍光基、バイオポリマー及び糖部分を用いてタンパク質を短期間で修飾する。通常、直交型aaRSは、それらの精製された形態で無細胞系に別々に追加され、それによって追加のコストが生じ、時間のかかる精製工程の実施が避けられなくなる。
【0007】
T7 RNAポリメラーゼ及び直交型aaRSは、大腸菌における形質転換されたプラスミドから、又は大腸菌ゲノムの組込み部位から発現されることが以前に示された(米国特許第10118950号明細書)。後続の無細胞抽出物の調製は、直交型翻訳反応においてタンパク質を合成するために利用される。しかしながら、そのような原核系は、ほとんどの哺乳動物タンパク質によって真核反応条件に従ってPTM及び適切なタンパク質折り畳み装置が要求されるので、複雑なタンパク質の生産には適していない。哺乳動物細胞のトランスフェクション及び後続の陽性クローンの単離は、原核系と比較して実施することが困難である。大腸菌などの原核細胞は、より速く増殖され得、より堅牢であり得る。更に、原核遺伝子回路は周知であり、簡単に修飾され得る。対照的に、哺乳動物のタンパク質発現及びゲノムの修飾は、非常に多くの調節因子を伴い、新規な生産系を確立することを困難にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第10118950号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この状況を考慮して、本発明の根底にある主な目的は、翻訳後修飾及び及び/又は非標準アミノ酸を有するタンパク質を含むタンパク質の無細胞合成のための新規且つ改良された手段であって、先行技術の欠点、特に従来のアプローチに伴う高いコストを克服又は大幅に軽減する手段を提供することである。
【0010】
この目的は、無細胞タンパク質合成に要求される外因性酵素を含む真核細胞溶解物を産出するための請求項1及び2に記載の方法、並びに請求項11に記載の真核細胞溶解物を提供することによって、本発明に従って達成される。本発明の更なる態様及び好ましい実施形態は、更なる請求項の保護対象である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の、少なくとも1つの外因性酵素を含む真核細胞溶解物を産出するための本発明の方法は、少なくとも、
a)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ及びウイルスRNAポリメラーゼを含む群から選択される少なくとも1つの外因性酵素をコードする少なくとも1つのドナーテンプレートでトランスフェクトされた真核細胞を提供する工程、
b)工程a)のトランスフェクトされた細胞を所定の期間培養し、続いて細胞を回収する工程、及び
c)回収された細胞を破砕し、そこから細胞溶解物を調製する工程を含む。
【0012】
より具体的には、本発明は、標的タンパク質の無細胞合成に要求されている又は有利な少なくとも1つの外因性酵素を含む、無細胞タンパク質合成のための翻訳活性真核細胞溶解物を産出するための、少なくとも、
a)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ及びウイルスRNAポリメラーゼを含む群から選択される少なくとも1つの外因性酵素をコードする少なくとも1つのドナーテンプレートでトランスフェクトされた真核細胞を提供する工程、
b)工程a)のトランスフェクトされた細胞を所定の期間培養し、続いて細胞を回収する工程、及び
c)回収された細胞を破砕し、そこから、無細胞タンパク質生産のための細胞溶解物を調製する工程を含む方法に関する。
【0013】
典型的には、一過性にトランスフェクトされた細胞についての工程b)における培養期間の持続期は、2~4日の範囲であり、安定してトランスフェクトされた細胞については、単一クローン選択及びクローンの増殖の段階を含めて4から10週間の範囲である。適切且つ最適な培養期間は、日常的な実験によって当業者によって決定され得る。
【0014】
より具体的な実施形態では、本発明の方法は、少なくとも、
a1)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ及びウイルスRNAポリメラーゼを含む群から選択される少なくとも1つの外因性酵素をコードする少なくとも1つのドナーテンプレートで真核細胞にトランスフェクトする工程、
a2)抗生物質選択剤による選択圧で工程a1)の細胞を保持する工程、
a3)a2)から細胞のプールの単一クローンを選択する工程、
a4)工程a3)の単一クローンをより高い細胞密度に拡大する工程、
a5)遺伝子型決定PCR及びqPCR、並びに所望の標的遺伝子型及びmRNA発現を有する細胞クローンの選択によって、工程a4)の細胞を分析する工程、
b)制御された条件下で、好ましくはバイオリアクターにおいて、工程a5)の細胞を培養し、続いて細胞を回収する工程、
c)回収された細胞を破砕し、そこから、細胞溶解物を調製する工程を含む。
【0015】
本明細書で使用される「外因性酵素」という用語は、本発明で使用されるそれぞれの真核細胞によって天然に産生されず、直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ、ウイルスRNAポリメラーゼ、特にT7 RNAポリメラーゼ、T5 RNAポリメラーゼを含む群から選択される任意の酵素を指す。一般に、細胞溶解物中のこれらの酵素の存在は、所望の標的タンパク質の生産に要求されている又は少なくとも有利である。
【0016】
具体的な実施形態では、直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼは、ピロリジン-tRNAシンセターゼ、チロシル-tRNAシンセターゼ及びロイシン-tRNAシンセターゼを含む群から選択される。
【0017】
いくつかのより具体的な実施形態では、直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼは、大腸菌チロシル-tRNAシンセターゼ、メタノサルシナ・マゼイピロリジン-tRNAシンセターゼ又は大腸菌ロイシン-tRNAシンセターゼである。
【0018】
本発明の好ましい実施形態は、非標準アミノ酸を含む標的タンパク質の無細胞合成が可能である真核細胞溶解物を生産するための、少なくとも、
a)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ、即ち、真核細胞中の内因性アミノアシル-tRNAシンセターゼによって認識されないtRNAに特異的であり、対応する非標準アミノ酸に特異的なアミノアシル-tRNAシンセターゼをコードする少なくとも1つのドナーテンプレートでトランスフェクトされた前記真核細胞を提供する工程、
b)工程a)のトランスフェクトされた細胞を所定の期間培養し、続いて細胞を回収する工程、及び
c)回収された細胞を破砕し、そこから細胞溶解物を調製する工程を含む方法に関する。
【0019】
より具体的には、本発明は、少なくとも、
a1)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼをコードする少なくとも1つのドナーテンプレートで真核細胞にトランスフェクトする工程、
a2)抗生物質選択剤による選択圧で工程a1)の細胞を保持する工程、
a3)a2)から細胞のプールの単一クローンを選択する工程、
a4)工程a3)の単一クローンをより高い細胞密度に拡大する工程、
a5)遺伝子型決定PCR及びqPCR、並びに所望の標的遺伝子型及びmRNA発現を有する細胞クローンの選択によって、工程a4)の細胞を分析する工程、
b)制御された条件下で、好ましくはバイオリアクターにおいて、工程a5)の細胞を培養し、続いて細胞を回収する工程、
c)回収された細胞を破砕し、そこから細胞溶解物を調製する工程を含む。
【0020】
本発明はまた、非標準アミノ酸を含む標的タンパク質の無細胞合成を行うための方法であって、少なくとも、
上で概説した非標準アミノ酸を含む標的タンパク質の無細胞合成が可能である真核細胞溶解物を産出するための方法の工程a)~c)、及び少なくとも1つの非標準アミノ酸を、前記非標準アミノ酸に特異的な少なくとも1つの直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼを含む工程c)の溶解物に基づいた無細胞タンパク質合成反応において、標的タンパク質の中に組み込む工程d)を行う工程を含む、方法に関する。
【0021】
本発明で使用される真核細胞は、特に限定されない。主として、細胞抽出物を調製するために先行技術で使用される任意の真核細胞が適している。好ましくは、そのような細胞は、膜小胞を含有する細胞溶解物を提供する本発明において使用される。
【0022】
具体的には、真核細胞は、非ヒト哺乳動物細胞、特にCHO細胞、昆虫細胞、特にツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)細胞、ヒト細胞、特にHEK293及びK562細胞、並びに酵母、特にピキア・パストリス及びサッカロミセス・セレビシエを含む群から選択され得る。
【0023】
それぞれの真核細胞が、所望の外因性タンパク質のためのドナーテンプレートで、一過性に又は安定してトランスフェクトされる。
【0024】
一過性トランスフェクションのために、典型的には、標準的な手順(Rajendra 2011;DOI:10.1016/j.jbiotec.2011.03.001)を使用して、PEI(ポリエチレンイミン)をトランスフェクション剤として使用して、それぞれのドナーテンプレートの発現カセットを含むプラスミドが標的細胞に導入される。
【0025】
あるいは、安定トランスフェクションが適用されて、所望のゲノム遺伝子座で目的のタンパク質をエンコードするドナーDNAを導入する。この目的のために、最近確立されたCRISPR/Cas9(CC9)技術は、目的の遺伝子を宿主細胞に部位特異的に組み込むための特に効率的で好ましいアプローチを表す。エンドヌクレアーゼCas9及び配列特異的RNA分子からなるタンパク質複合体は、目的のタンパク質コード配列を送達するドナーテンプレートと組み合わせて細胞にトランスフェクトされ得る。ヌクレアーゼ誘導された複合体は、所望のゲノム遺伝子座に結合し、二本鎖切断を誘発することができる。修復プロセスの間、ドナー配列は、相同組換え修復によって、標的とされるゲノム遺伝子座に導入され得る(Ran and Hsu,2013;DOI:10.1038/nprot.2013.143)。されども、当技術分野で知られている真核細胞の安定トランスフェクションのための他の方法も同様に使用され得る。
【0026】
適切な期間、典型的にはトランスフェクションの2日後、細胞は、編集された細胞を富化するための選択手順を受け得る。追って、細胞クローンの単一細胞クローニング及び拡大が行われる。結果生じたクローンは、フランキングプライマーを用いた遺伝子型決定PCRによって分析され、mRNA発現がqPCRによってモニタされる。成功裏に編集された細胞クローンは、制御された条件下で、好ましくはバイオリアクターにおいて培養され、最適な増殖期に細胞が回収される。無細胞タンパク質合成のために内因性タンパク質を無傷に保ちながら、細胞が破砕される。細胞溶解物は、クロマトグラフィーによって処理され、所望の添加剤で補充される。新たに生成された溶解物の能力は、定められた位置にアンバー終止コドンを有するタンパク質コード配列と、アンバー終止コドンを含まない対応する参照タンパク質コード配列とからなるレポーター系によって分析される。典型的には、アンバー終止コドンが非標準アミノ酸にカップリングされた直交型tRNAによって対処される場合、レポータータンパク質は、蛍光又は発光シグナルのいずれかを生成する。出力シグナルは、アンバー終止コドンを含まない参照タンパク質コード配列と比較され得る。
【0027】
より具体的な実施形態では、直交型アミノアシルtRNAシンセターゼ、例えば大腸菌チロシルtRNAシンセターゼ(eAzFRS)がCHO細胞に導入される。そのような直交型合成酵素は、アンバーサプレッション技術を使用した非標準アミノ酸のタンパク質への部位特異的な組込みに適している。単一細胞クローニングが、96ウェルプレートにおける限界希釈工程によって行われた。結果生じた細胞クローンが、遺伝子型決定PCR及びqPCRによって分析された。直交型eAzFRSを含有する細胞溶解物が、例えば、コード配列内側に導入されたアンバー終止コドンの位置、及びC末端に位置付けられたNanoLucルシフェラーゼがある膜タンパク質アデノシン受容体A2aから構成されるレポーター遺伝子構築物を利用することによって、アンバーサプレッションのために分析される。アンバーサプレッションは、末端にされた(terminated)タンパク質とは対照的に、より高い分子量のアンバーサプレッションされたレポータータンパク質に基づいて、オートラジオグラフィーによって、更に検証され得る。
【0028】
上記の様々な真核細胞からの細胞溶解物の調製は、当技術分野で周知であり(例えば、Broedel、2013 https://doi.org/10.1002/bit.25013)、所望により、公知の手順の適切な改変が当業者によりなされ得る。
【0029】
本発明は更に、標的タンパク質の無細胞合成のための真核細胞溶解物に関し、当該細胞溶解物は、前記標的タンパク質の無細胞合成に要求されている又は有利であり、直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ及びウイルスRNAポリメラーゼを含む群から選択される少なくとも1つの外因性酵素を含む。
【0030】
好ましくは、真核細胞溶解物は、膜小胞を含有する細胞溶解物である。具体的には、真核細胞溶解物は、非ヒト哺乳動物細胞、特にCHO細胞、昆虫細胞、特にツマジロクサヨトウ細胞、ヒト細胞、特にHEK293及びK562細胞、並びに酵母、特にピキア・パストリス及びサッカロミセス・セレビシエを含む細胞の群に由来し得る。
【0031】
典型的には、前記真核細胞溶解物は、翻訳後修飾及び/又は非標準アミノ酸を含む複合体又は特異的標的タンパク質の無細胞合成が可能であり、該合成のために使用される。そのような翻訳後修飾(PTM)は、例えば、グリコシル化、シグナルペプチド切断、リン酸化、ジスルフィド結合形成及び脂質修飾を含む。
【0032】
好ましい一実施形態では、前記真核細胞溶解物は、少なくとも1つの直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ、即ち、細胞溶解物の由来である対応する真核細胞における内因性アミノアシル-tRNAシンセターゼによって認識されないtRNAに特異的なアミノアシル-tRNAシンセターゼを含む。
【0033】
具体的には、直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼは、ピロリジンtRNAシンセターゼ、チロシルtRNAシンセターゼ及びロイシンtRNAシンセターゼを含む群から選択され得る。
【0034】
いくつかのより具体的な実施形態では、直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼは、大腸菌チロシル-tRNAシンセターゼ、メタノサルシナ・マゼイピロリジン-tRNAシンセターゼ又は大腸菌ロイシン-tRNAシンセターゼである。
【0035】
本発明のいくつかの好ましい実施形態では、真核細胞溶解物は、トランスフェクトされた真核細胞又は少なくとも1つの直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼを発現する細胞株由来であり、細胞は、CHO細胞、ツマジロクサヨトウ細胞、HEK293細胞、K562細胞、ピキア・パストリス及びサッカロミセス・セレビシエから選択され、アミノアシル-tRNAシンセターゼは、大腸菌チロシル-tRNAシンセターゼ、メタノサルシナ・マゼイピロリジン-tRNAシンセターゼ又は大腸菌ロイシン-tRNAシンセターゼから選択される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】真核宿主細胞へのドナーDNAの組込み、後続する細胞溶解物の調製及び標的タンパク質の無細胞タンパク質合成を概略的に示す。
図2】選択された単一CHOクローンの特徴付けを示す。図2aは、PCR反応におけるフランキングプライマー対でのゲノム修飾されたCHO細胞クローンの遺伝子型決定を示す。DNA断片サイジングには、ニュー・イングランド・バイオラボの市販のQuick-Load(登録商標)2-Log DNA Ladder(0.1~10.0kb)が使用された。図2bは、qPCRによるCRISPR操作CHO単一クローンの転写活性の推定を示す。決定されたeAZFRSの転写発現レベルの正規化は、ハウスキーピング遺伝子Gnb1の発現レベルを使用して達成された。
図3】CRISPRで編集された細胞ベースのクローンCHO細胞株由来の細胞溶解物における標的タンパク質の発現を示す。無細胞タンパク質合成中のタンパク質のサイズ及び14Cロイシンの取り込みに基づくオートラジオグラフィーによって、標的タンパク質が可視化され得た。オートラジオグラムは、表3に示されているNano-Glo(登録商標)ルシフェラーゼアッセイに対応する。
図4】安定してトランスフェクトされたCHO細胞及び対照としての非トランスフェクトCHO細胞(参照)由来の細胞溶解物における融合タンパク質Adora 2a/Nlucの発現を示す。ルシフェラーゼ活性の決定が、Nano-Glo(登録商標)ルシフェラーゼアッセイを発光プレートリーダーにおいて利用することによって推定された。W/o T7 RNA Pol=T7 RNAポリメラーゼ非存在下;w T7 RNA Pol=T7 RNAポリメラーゼ存在下。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、以下の具体的であるが非限定的な例によって更に説明される。
【実施例1】
【0038】
(アミノアシル-tRNAシンセターゼによるCHO細胞のトランスフェクション)
[1.一過性トランスフェクション]
大腸菌チロシル-tRNAシンセターゼ(eAzFRS)又はメタノサルシナ・マゼイピロリジン-tRNAシンセターゼ(PylRS-AF)の発現カセットをそれぞれ含むプラスミドが、PEIをトランスフェクション剤として使用して、CHO宿主細胞に導入された。したがって、4℃で5分間、200xgで遠心分離することによって、1×10細胞/mLがペレット化された。細胞ペレットは、50mLコニカルチューブ中、40×10細胞/mLの細胞密度で、25mLの体積の4mMのAla-Gluで補充されたProCHO5培地で、再懸濁された。トランスフェクションのために、1×10個の細胞あたり1.5μgのプラスミドDNAが追加された。後に、1×10個の細胞あたり2μgのPEI試薬が追加された。トランスフェクション試薬、プラスミド及び細胞の混合物が、37℃、5%のCOで4時間インキュベートされ、ホイール上で回転された。ProCHO5培地及び4mMのAla-Gluを用いて、1リットルの最終的な体積(1×10細胞/mLの細胞密度)になるまで、細胞の後続の希釈が実行された。トランスフェクトされた細胞が、1Lのバイオリアクター(及び代替的に2Lの振盪フラスコ)内で、制御された条件下で培養され、細胞は、最適増殖期、典型的にはトランスフェクションの約2日後に回収された。
【0039】
無細胞タンパク質合成のために内因性タンパク質を無傷に保ちながら、細胞が破砕された。細胞溶解物は、クロマトグラフィーによって処理され、所望の添加剤で補充された。新たに生成された溶解物の能力が、レポーター系によって分析された(結果については表3を参照)。
【0040】
[2.安定トランスフェクション]
大腸菌チロシル-tRNAシンセターゼ(eAzFRS)が、Zhaoら2018(DOI:10.1007/s00253-018-9021-6)の修正されたプロトコルに従ってCHO-K1ゲノムに導入された。eAzFRSは、真核細胞に対して直交性を呈し、したがって、アンバーサプレッション技術によるタンパク質への非標準アミノ酸の部位特異的な組込みに適している。CRISPR/Cas9による安定トランスフェクションのために、3つのプラスミドのドナーベクター(DV)、Cas9発現ベクター及びガイドRNA発現ベクターが、リポフェクタミンLTX(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)によって、2:2:1の比率でトランスフェクトされた。したがって、500ngのプラスミド混合物を含む5μLが、100μLのOpti-MEM(Gibco;サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)還元培地に追加され、2.5μLのリポフェクタミンLTX(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)及び0.5μLのPLUS試薬(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)が続いて追加された。DNA-脂質混合物が、室温で30分間インキュベートされた。後に、100μLの混合物が、24ウェルプレート中0.5×10個の細胞と共に、500μLになるよう追加された。トランスフェクションの効率を増加させるために、プレートが室温で15分間、400xgで遠心分離された。細胞が、37℃及び5%のCOでインキュベートされた。トランスフェクションの2日後、細胞は、編集された細胞を富化するための選択手順を受ける。したがって、培養物は10μg/mLのピューロマイシンで補充され、選択培地が週に2回交換された。単一細胞クローニングが、100μLの体積の96ウェルプレートにおいて、50%馴化培地を使用して、アレイ希釈法又は限界希釈工程のいずれかによって行われた。結果生じた細胞クローンが拡大され、遺伝子型決定PCR及びqPCRによって分析された。細胞は、最適な増殖期で回収され、無細胞タンパク質合成のための細胞溶解物を産出するために破砕された。直交型eAzFRSを含有する細胞溶解物が、コード配列内側に導入されたアンバー終止コドンの位置、及びC末端に位置付けられたNanoLucルシフェラーゼがある膜タンパク質アデノシン受容体A2aから構成されるレポーター遺伝子構築物を利用することによって、アンバーサプレッションのために分析された。アンバーサプレッションは、末端にされたタンパク質とは対照的に、より高い分子量のアンバーサプレッションされたレポータータンパク質に基づいて、オートラジオグラフィーによって、更に検証された。
【実施例2】
【0041】
(安定してトランスフェクトされたCHO細胞の特徴付け)
eAzFRSをコードするDNAが、実施例1で概説したように、CHO-K1ゲノムのHPRT又はC12orf35遺伝子座の4つの異なる標的部位に組み込まれた。緑色蛍光タンパク質(GFP)配列が、レポーター遺伝子としてゲノムに更に組み込まれて、各sgRNA:DV対についてCRISPR/Cas9(CC9)HDR技術を利用して、目的の遺伝子(GoI)の遺伝子編集効率を証明した。
【0042】
アレイ希釈法が、10μg/mLのピューロマイシンで選択圧を一定に保ちながら、CHO細胞を異なる細胞密度で培養すべく利用された。ポジティブにトランスフェクトされたクローンのプールが、96ウェルプレートから12ウェルプレートに徐々に拡大されて、より多くの量の改変された細胞を達成した。後に、qPCRによって細胞が分析された。
【0043】
[1.CHOクローンのプールの転写分析]
eAzFRS又はGFPのコード配列のいずれかを送達するドナーベクター(DV)でそれぞれトランスフェクトされた2つのCHOクローンのプールが、表1に示されているように、qPCR分析のための増殖挙動に基づいて選択された。
【0044】
標的遺伝子並びにハウスキーピング遺伝子(HKG)Gnb1及びFkbp1Aに特異的なプライマー配列を用いてQPCRが実行された。転写発現は、HKGに対して正規化され、Gnb1/Fkbp1Aの比率として可視化された。
【表1】
【0045】
表1は、転写プロファイルに基づく様々なsgRNA:DV対に基づいた、単離されたクローンのプールの違いを表示している。未処理のCHO細胞が、CHO-K1細胞株の標的遺伝子配列の非存在を示すために、陰性対照として利用された。DV7.2及びDV8.2に基づいたCHOクローンのプールは、それぞれ27.3及び37.7の最高値に達した。対照的に、DV5及びDV6に基づかれるクローンのプールは、13.7までの値を達成する。したがって、eAzFRS遺伝子の転写活性は、HPRT遺伝子座と相同性を有するDVと比較して、C12orf35遺伝子座に対処するDV(DV7及びDV8)を利用して、より高いように見える。しかしながら、GFPによる安定トランスフェクションは、18.7(DV10.1)から26.9(DV9.1)の範囲にわたるHPRT遺伝子座(DV9及びDV10)及びC12orf35遺伝子座(DV11)の標的化に基づいて、CHOクローンのプールについて同様の値を示し、標的とされた遺伝子座が転写活性において有意に異ならないことを示した。実際、クローンのプールDV8.2は、試験された全クローンのプールの中で最も強いmRNA発現レベルを示し、したがって単一細胞クローニングに供された。
【0046】
[2.CHO単一細胞クローンの特徴付け]
単一クローンの所望の遺伝子座の内側へのクローニングカセットの成功裏の取り込みが、遺伝子型決定PCRによって検証された。遺伝子型決定プライマーは、CHOゲノムのC12orf35遺伝子座における組込み部位の下流及び上流に特異的に結合する。図2は、選択された単一クローンの特徴付けを示す。図2aは、PCR反応におけるフランキングプライマー対でのゲノム修飾されたCHO細胞クローンの遺伝子型決定を示す。DNA断片サイジングには、ニュー・イングランド・バイオラボ製のQuick-Load(登録商標)2-Log DNA Ladder(0.1~10.0kb)が使用された。組み込まれた大型のDNA配列に起因して、単一クローンについてはより大きな産生物サイズが検出され得たが、野生型CHO細胞(WT)については、小さな産生物が可視化された。図2b及び表2は、qPCRによるCRISPR操作されたCHO単一クローンの転写活性を表している。決定されたeAZFRSの転写発現レベルの正規化が、ハウスキーピング遺伝子Gnb1の発現レベルを使用して達成された。qPCR測定が試料1つにつき3回行われた。
【表2】
【0047】
単一クローン6の場合、発現カセットは、細胞又はCHO細胞によって各々除去され、当該細胞は、ピューロマイシン遺伝子のランダムな組込みによる選択プロセスにて残存した所望の遺伝子座において特異的に修飾されなかった。実際、単一クローン1及び8は標的配列の組込みを表示したが、遅くのみ増殖した(図2b)。とは言え、単一クローン2~5、7及び9は、より高い増殖速度を達成し、mRNA含有量の分析に供された。3及び4では上昇されたmRNA発現レベルが観察されるが、最も高い増殖速度を示したという理由で、単一クローン7が更なる粗抽出物調製に利用された。
【0048】
クローンCHO細胞株の培養は、粗抽出物調製の前に、1L規模のバイオリアクターで行われた。培養プロセスは、pO、pH、撹拌機の速度及び温度を含む重要なパラメータを利用することによって制御された。培養中、CHO発酵プロセスを制御するべく、温度:37℃、pO:40%及びpH:7.1という設定値が用いられた。撹拌、O及び空気に応じて、pO調節カスケードを適用することによって、pOの設定値が維持された。約5×10細胞/mLから開始して、約9日間にわたって生細胞数の増加がモニタされた。後続の細胞破砕のために、3日間にわたって更なる培養のためにバイオリアクターにおいて約5×10細胞/mLの細胞密度を維持しながら、3日後に4~6×10細胞/mLの密度で、細胞が回収された。このいわゆる反復バッチは、無細胞タンパク質合成のための粗抽出物調製のための3つの回収点で9日間にわたって実行された。
【0049】
典型的には、細胞生存率は、全培養プロセスを通して95%から最高100%の範囲であり、翻訳活性細胞溶解物の調製に最適な条件を示した。
【実施例3】
【0050】
(eAzFRSでトランスフェクトされたCHO細胞由来の細胞溶解物の評価)
反復バッチ法の異なる回収点から新たに生成された細胞溶解物による直交型翻訳が特徴付けられて、細胞溶解物の安定性及び比較可能性を分析した(データは示されず)。「JS-09/20」と呼ばれる、クローン7及び回収点3に基づいて新規に生成された細胞溶解物が、参照溶解物254/15と比較された。「AzFRS溶解物」と呼ばれる一過性にトランスフェクトされたCHO細胞から調製された細胞溶解物が、参照溶解物と更に比較された。
【表3】
【0051】
表3は、一過性にトランスフェクトされた細胞及びCRISPR/Cas9改変CHOクローン由来の細胞溶解物における標的タンパク質の発現を示す。完全長融合タンパク質Adora 2a-amb/Nlucを発現させるために、CFPSにおいて位置215でのアンバーサプレッションが利用された。アンバー終止コドンを含まないAdora2a/Nlucが、陽性対照として利用された。ルシフェラーゼ活性の決定が、Nano-Glo(登録商標)ルシフェラーゼアッセイ(プロメガ)を発光プレートリーダー(Mithras)において利用することによって推定された。測定は、試料1つにつき3回で行われた。図3は、表3に示されている安定トランスフェクション法のNlucアッセイに対応するオートラジオグラフィーを表している。
【0052】
Adora2a-amb-NlucのC末端Nluc活性は、更なるeAzFRSの追加なしで、1.1×10RLUをもたらしたが、安定トランスフェクション法の場合、テンプレートなしの対照(NTC)については、活性は観察されなかった(表2)。一過性トランスフェクション法は、約1.3×10RLUを示す。実際、PEIのみで処理された細胞は、NTCよりも高い約0.04×10RLUという低い値を示すが、eAzFRSの追加なしの参照溶解物は、約0.02×10のRLUを有する同様の低いNluc活性を示す。結果は、AzFが新しい溶解物と共にGタンパク質共役受容体に部位特異的に導入され得ることを示唆している。
【0053】
更に、より高濃度のeAzFRSが、JS-09/20及び参照溶解物に基づいた無細胞反応に、CRISPRベースの細胞溶解物のごくわずかな影響で補充されたが、eAzFRSの補充は、参照溶解物との無細胞反応においてNluc活性を有意に増加させた。これらの結果は、オートラジオグラフィーに基づいた、SDS-PAGEゲルの対応するバンド強度によって検証され得た(図3)。
【実施例4】
【0054】
(T7 RNAポリメラーゼで安定してトランスフェクトされたCHO細胞由来の細胞溶解物の評価)
抗生物質選択圧を適用することによって、安定してトランスフェクトされたCHO細胞が富化された。細胞溶解物が調製され、「T7 RNA Pol CHO溶解物」と呼ばれた。リーディングフレームの中にアンバー終止コドンを含まないレポータータンパク質Adora 2a/Nlucとの無細胞反応において、新規細胞溶解物が、参照CHO溶解物と比較された。
【0055】
図4は、安定してトランスフェクトされたCHO細胞(T7 RNA Pol CHO溶解物)及び対照としての非トランスフェクトのCHO細胞(参照CHO溶解物)由来の細胞溶解物におけるアンバー終止コドンを含まない融合タンパク質Adora 2a/Nlucの発現を図示している。無細胞反応が、精製されたT7 RNAポリメラーゼの存在下(w)又は非存在下(w/o)で行われた。ルシフェラーゼ活性の決定が、Nano-Glo(登録商標)ルシフェラーゼアッセイ(プロメガ)を発光プレートリーダー(Mithras LB 943)において利用することによって推定された。
【0056】
図4は、参照CHO溶解物を使用した精製されたT7 RNAポリメラーゼの追加なしでは発光シグナルを示さないが、精製されたT7 RNAポリメラーゼの存在下では約1.37×10RLUの値が検出され得た。対照的に、新規の「T7 RNA Pol CHO溶解物」は、精製されたT7 RNAポリメラーゼの非存在下で約0.86×10RLUの発光の値をもたらし、新規のCHO溶解物中のT7 RNAポリメラーゼの存在を示した。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2024-05-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの外因性酵素を含む真核細胞溶解物を産出するための方法であって、少なくとも、
a)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ及びウイルスRNAポリメラーゼを含む群から選択される少なくとも1つの外因性酵素をコードする少なくとも1つのドナーテンプレートでトランスフェクトされた真核細胞を提供する工程、
b)工程a)の前記トランスフェクトされた細胞を所定の期間培養し、続いて前記細胞を回収する工程、及び
c)前記回収された細胞を破砕し、そこから細胞溶解物を調製する工程を含む、方法。
【請求項2】
標的タンパク質の無細胞合成に要求されている又は有利な少なくとも1つの外因性酵素を含む、前記無細胞タンパク質合成のための翻訳活性真核細胞溶解物を産出するための、少なくとも、
a)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ及びウイルスRNAポリメラーゼを含む群から選択される少なくとも1つの外因性酵素をコードする少なくとも1つのドナーテンプレートでトランスフェクトされた真核細胞を提供する工程、
b)工程a)の前記トランスフェクトされた細胞を所定の期間培養し、続いて前記細胞を回収する工程、及び
c)前記回収された細胞を破砕し、そこから、無細胞タンパク質生産のための細胞溶解物を調製する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非標準アミノ酸を含む標的タンパク質の無細胞合成が可能である真核細胞溶解物を産出するための、少なくとも、
a)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ、即ち、前記真核細胞中の内因性アミノアシル-tRNAシンセターゼによって認識されないtRNAに特異的であり、対応する非標準アミノ酸に特異的なアミノアシル-tRNAシンセターゼをコードする少なくとも1つのドナーテンプレートでトランスフェクトされた真核細胞を提供する工程、
b)工程a)の前記トランスフェクトされた細胞を所定の期間培養し、続いて前記細胞を回収する工程、及び
c)前記回収された細胞を破砕し、そこから細胞溶解物を調製する工程を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも、
a1)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ及びウイルスRNAポリメラーゼを含む群から選択される少なくとも1つの外因性酵素をコードする少なくとも1つのドナーテンプレートで真核細胞にトランスフェクトする工程、
a2)抗生物質選択剤による選択圧で工程a1)の細胞を保持する工程、
a3)a2)から細胞のプールの単一クローンを選択する工程、
a4)工程a3)の単一クローンをより高い細胞密度に拡大する工程、
a5)遺伝子型決定PCR及びqPCR、並びに前記所望の標的遺伝子型及びドナーテンプレートを有する細胞クローンの選択によって、工程a4)の細胞を分析する工程、
b)制御された条件下で、好ましくはバイオリアクターにおいて、工程a5)の細胞を培養し、続いて前記細胞を回収する工程、
c)前記回収された細胞を破砕し、そこから細胞溶解物を調製する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも、
a1)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼをコードする少なくとも1つのドナーテンプレートで真核細胞にトランスフェクトする工程、
a2)抗生物質選択剤による選択圧で工程a1)の細胞を保持する工程、
a3)a2)から細胞のプールの単一クローンを選択する工程、
a4)工程a3)の単一クローンをより高い細胞密度に拡大する工程、
a5)遺伝子型決定PCR及びqPCR、並びに前記所望の標的遺伝子型及びドナーテンプレートを有する細胞クローンの選択によって、工程a4)の細胞を分析する工程、
b)制御された条件下で、好ましくはバイオリアクターにおいて、工程a5)の細胞を培養し、続いて前記細胞を回収する工程、
c)前記回収された細胞を破砕し、そこから細胞溶解物を調製する工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記真核細胞は、非ヒト哺乳動物細胞、特にCHO細胞、昆虫細胞、特にツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)細胞、ヒト細胞、特にHEK293及びK562細胞、並びに酵母、特にピキア・パストリス及びサッカロミセス・セレビシエを含む群から選択される、請求項1又は4に記載の方法。
【請求項7】
前記真核細胞溶解物は、膜小胞を含有する、請求項1又は4に記載の方法。
【請求項8】
前記直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼは、ピロリジンtRNAシンセターゼ、チロシルtRNAシンセターゼ及びロイシンtRNAシンセターゼを含む群から選択される、請求項1又は4に記載の方法。
【請求項9】
前記直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼは、大腸菌チロシル-tRNAシンセターゼ、メタノサルシナ・マゼイピロリジンtRNAシンセターゼ又は大腸菌ロイシンtRNAシンセターゼである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
非標準アミノ酸を含む標的タンパク質の無細胞合成を行うための方法であって、少なくとも、
請求項3又は5に記載の方法の工程a)~c)、及び
少なくとも1つの非標準アミノ酸を、前記非標準アミノ酸に特異的な少なくとも1つの直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼを含む工程c)の溶解物に基づいた無細胞タンパク質合成反応において、標的タンパク質の中に組み込む工程d)を行う工程を含む、方法。
【請求項11】
前記真核細胞は、非ヒト哺乳動物細胞、特にCHO細胞、昆虫細胞、特にツマジロクサヨトウ細胞、ヒト細胞、特にHEK293及びK562細胞、並びに酵母、特にピキア・パストリス及びサッカロミセス・セレビシエを含む群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記真核細胞溶解物は、膜小胞を含有する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼは、ピロリジンtRNAシンセターゼ、チロシルtRNAシンセターゼ及びロイシンtRNAシンセターゼを含む群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼは、大腸菌チロシル-tRNAシンセターゼ、メタノサルシナ・マゼイピロリジンtRNAシンセターゼ又は大腸菌ロイシンtRNAシンセターゼである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
標的タンパク質の無細胞合成のための真核細胞溶解物であって、細胞溶解物は、前記標的タンパク質の前記無細胞合成に要求されている又は有利な少なくとも1つの外因性酵素を含み、直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ及びウイルスRNAポリメラーゼを含む群から選択される、真核細胞溶解物。
【請求項16】
翻訳後修飾及び/又は非標準アミノ酸を含む標的タンパク質の無細胞合成のための、請求項15に記載の真核細胞溶解物。
【請求項17】
細胞溶解物は、少なくとも1つの直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ、即ち、前記細胞溶解物の由来である前記対応する真核細胞における内因性アミノアシル-tRNAシンセターゼによって認識されないtRNAに特異的なアミノアシル-tRNAシンセターゼを含む、請求項15又は16に記載の真核細胞溶解物。
【請求項18】
トランスフェクトされた真核細胞又は少なくとも1つの直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼを発現する細胞株由来であり、前記細胞は、CHO細胞、ツマジロクサヨトウ細胞、HEK293細胞、K562細胞、ピキア・パストリス及びサッカロミセス・セレビシエから選択され、前記アミノアシル-tRNAシンセターゼは、大腸菌チロシル-tRNAシンセターゼ、メタノサルシナ・マゼイピロリジン-tRNAシンセターゼ又は大腸菌ロイシン-tRNAシンセターゼから選択される、請求項15又は16に記載の真核細胞溶解物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
今日、タンパク質生産系は、複雑な細胞機構の理解のための基礎研究から生物学的製剤の開発及び生産を範囲とする多様な用途に要求されている。複雑なタンパク質の迅速且つコスト効率の高い合成を目指して、改良された新規なタンパク質生産系の需要がここ数年にわたって増加している。原則として、タンパク質生産は、細胞ベース及び無細胞のタンパク質合成系とに細分され得る。今まで、細胞ベースの系は、研究及び産業用途のために十分に確立されており、主にタンパク質生産のために使用されている。
【0002】
細胞ベースの系は、生細胞の時間集約的で難儀な修飾を要求するが、無細胞タンパク質合成系は、全細胞の代わりに細胞抽出物を使用する単純化されたバージョンである。これらの細胞抽出物は、リボソーム、tRNA、アミノアシルtRNAシンセターゼ及び翻訳因子を含む、タンパク質翻訳に要求される全因子を含有する。公然の特徴により、細胞ベースの生産系と比較してより柔軟性を有する系となる。所望の標的タンパク質をエンコードするDNA又はmRNAは、精巧なクローニング及びクローン選択工程を必要とせずに無細胞反応に直接補充され得る。合成条件は、細胞機能を損なうことなく、個々のタンパク質ごとに直接調整され得る。近年、真核及び原核細胞抽出物ベースで、様々な無細胞系が開発された。原核無細胞系は、高いタンパク質収量をもたらすが、翻訳後修飾の能力において限定される。真核無細胞系は、過去数十年の間に、大々的な開発を受けて、導出されるタンパク質の収量を低μg/mLから最大mg/mLの範囲の所望の標的タンパク質まで増加させ、それによって、それらをタンパク質生産に対してより魅力的なものにしている。真核無細胞系は、典型的には、Sf21細胞、CHO細胞、HeLa又はK562細胞などのヒト細胞株、タバコ細胞、酵母細胞及び網状赤血球から導出される。
【0003】
真核系、特にSf21、CHO及びヒト細胞溶解物ベースのものは、翻訳後修飾されるタンパク質の生産を可能にする。そのような翻訳後修飾(PTM)は、グリコシル化、シグナルペプチド切断、リン酸化、ジスルフィド結合形成及び脂質修飾を含む。これに関連して、真核無細胞系は、複雑な哺乳動物タンパク質の生産に特に有利である。PTMは、小胞体由来の内因性膜粒子である、いわゆるミクロソームの存在下で行われ得る。内在性ミクロソームを有する溶解物では、分泌され膜に埋め込まれたタンパク質の共翻訳転座が起こり、ERベースのタンパク質処理の天然の機構を模倣する。この処理は、典型的には、転座機構のない無細胞系とは対照的に、複合タンパク質の増加された機能をもたらす。
【0004】
無細胞合成、特に真核無細胞系の障害は、ほとんどが、無細胞生産を、工業及び製造目的のための細胞ベースの系ほど今のところ魅力的ではないものにしている、反応のコストである。現在、無細胞反応のほとんどは、小規模な実験室規模の反応でのみ行われており、大腸菌ベースの無細胞系については、限定されたスケールアップされた生産プラットフォームしか報告されていない。大腸菌ベースの無細胞系を真核無細胞系と比較すると、溶解物の調製は、真核のものに対してよりコスト集約的である。
【0005】
細胞溶解物とは別に、効率的な無細胞反応を行うために追加の因子が要求される。所望の標的タンパク質のテンプレートを追加するために、タンパク質をエンコードするDNAは、無細胞反応に直接補充され得る。分子生物学のセントラルドグマによれば、DNAは、タンパク質翻訳がリボソームで始まる前にmRNAに転写される。mRNA転写を可能にするために、組換えRNAポリメラーゼが反応に補充される。ほとんどの場合、T7ファージ由来のDNA依存性RNAポリメラーゼが、転写反応を行うべく使用される。この組換え酵素の補充は、無細胞反応における最もコストのかかる問題の1つである。T7 RNAポリメラーゼの補充とは別に、エネルギー再生のために更なる酵素が要求される。エネルギー消費タンパク質の合成を支援するために、定められた量のATPが利用可能である必要がある。エネルギー再生系は、典型的には、特異的基質を使用してADPをリン酸化してATPにする酵素からなる。無細胞タンパク質合成に適用される一般的なエネルギー再生系は、クレアチンキナーゼ、ピルビン酸キナーゼ及び酢酸キナーゼといった酵素に基づく。組換えキナーゼは、溶解物に補充され、それによってATPを再利用することによって系の生産性を増加させる。
【0006】
無細胞系には、直交型tRNA、非標準アミノ酸(ncaa)及び直交型アミノアシルtRNAシンセターゼ(aaRS)を包含する直交型翻訳反応物が更に補充され得る。したがって、細胞ベースの系における非標準アミノ酸の毒性効果が克服され得、タンパク質は、定められた化学基で修飾され得、例えば蛍光基、バイオポリマー及び糖部分を用いてタンパク質を短期間で修飾する。通常、直交型aaRSは、それらの精製された形態で無細胞系に別々に追加され、それによって追加のコストが生じ、時間のかかる精製工程の実施が避けられなくなる。
【0007】
T7 RNAポリメラーゼ及び直交型aaRSは、大腸菌における形質転換されたプラスミドから、又は大腸菌ゲノムの組込み部位から発現されることが以前に示された(米国特許第10118950号明細書)。後続の無細胞抽出物の調製は、直交型翻訳反応においてタンパク質を合成するために利用される。しかしながら、そのような原核系は、ほとんどの哺乳動物タンパク質によって真核反応条件に従ってPTM及び適切なタンパク質折り畳み装置が要求されるので、複雑なタンパク質の生産には適していない。哺乳動物細胞のトランスフェクション及び後続の陽性クローンの単離は、原核系と比較して実施することが困難である。大腸菌などの原核細胞は、より速く増殖され得、より堅牢であり得る。更に、原核遺伝子回路は周知であり、簡単に修飾され得る。対照的に、哺乳動物のタンパク質発現及びゲノムの修飾は、非常に多くの調節因子を伴い、新規な生産系を確立することを困難にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第10118950号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この状況を考慮して、本発明の根底にある主な目的は、翻訳後修飾及び及び/又は非標準アミノ酸を有するタンパク質を含むタンパク質の無細胞合成のための新規且つ改良された手段であって、先行技術の欠点、特に従来のアプローチに伴う高いコストを克服又は大幅に軽減する手段を提供することである。
【0010】
この目的は、無細胞タンパク質合成に要求される外因性酵素を含む真核細胞溶解物を産出するための請求項1及び2に記載の方法、並びに請求項15に記載の真核細胞溶解物を提供することによって、本発明に従って達成される。本発明の更なる態様及び好ましい実施形態は、更なる請求項の保護対象である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の、少なくとも1つの外因性酵素を含む真核細胞溶解物を産出するための本発明の方法は、少なくとも、
a)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ及びウイルスRNAポリメラーゼを含む群から選択される少なくとも1つの外因性酵素をコードする少なくとも1つのドナーテンプレートでトランスフェクトされた真核細胞を提供する工程、
b)工程a)のトランスフェクトされた細胞を所定の期間培養し、続いて細胞を回収する工程、及び
c)回収された細胞を破砕し、そこから細胞溶解物を調製する工程を含む。
【0012】
より具体的には、本発明は、標的タンパク質の無細胞合成に要求されている又は有利な少なくとも1つの外因性酵素を含む、無細胞タンパク質合成のための翻訳活性真核細胞溶解物を産出するための、少なくとも、
a)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ及びウイルスRNAポリメラーゼを含む群から選択される少なくとも1つの外因性酵素をコードする少なくとも1つのドナーテンプレートでトランスフェクトされた真核細胞を提供する工程、
b)工程a)のトランスフェクトされた細胞を所定の期間培養し、続いて細胞を回収する工程、及び
c)回収された細胞を破砕し、そこから、無細胞タンパク質生産のための細胞溶解物を調製する工程を含む方法に関する。
【0013】
典型的には、一過性にトランスフェクトされた細胞についての工程b)における培養期間の持続期は、2~4日の範囲であり、安定してトランスフェクトされた細胞については、単一クローン選択及びクローンの増殖の段階を含めて4から10週間の範囲である。適切且つ最適な培養期間は、日常的な実験によって当業者によって決定され得る。
【0014】
より具体的な実施形態では、本発明の方法は、少なくとも、
a1)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ及びウイルスRNAポリメラーゼを含む群から選択される少なくとも1つの外因性酵素をコードする少なくとも1つのドナーテンプレートで真核細胞にトランスフェクトする工程、
a2)抗生物質選択剤による選択圧で工程a1)の細胞を保持する工程、
a3)a2)から細胞のプールの単一クローンを選択する工程、
a4)工程a3)の単一クローンをより高い細胞密度に拡大する工程、
a5)遺伝子型決定PCR及びqPCR、並びに所望の標的遺伝子型及びmRNA発現を有する細胞クローンの選択によって、工程a4)の細胞を分析する工程、
b)制御された条件下で、好ましくはバイオリアクターにおいて、工程a5)の細胞を培養し、続いて細胞を回収する工程、
c)回収された細胞を破砕し、そこから、細胞溶解物を調製する工程を含む。
【0015】
本明細書で使用される「外因性酵素」という用語は、本発明で使用されるそれぞれの真核細胞によって天然に産生されず、直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ、ウイルスRNAポリメラーゼ、特にT7 RNAポリメラーゼ、T5 RNAポリメラーゼを含む群から選択される任意の酵素を指す。一般に、細胞溶解物中のこれらの酵素の存在は、所望の標的タンパク質の生産に要求されている又は少なくとも有利である。
【0016】
具体的な実施形態では、直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼは、ピロリジン-tRNAシンセターゼ、チロシル-tRNAシンセターゼ及びロイシン-tRNAシンセターゼを含む群から選択される。
【0017】
いくつかのより具体的な実施形態では、直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼは、大腸菌チロシル-tRNAシンセターゼ、メタノサルシナ・マゼイピロリジン-tRNAシンセターゼ又は大腸菌ロイシン-tRNAシンセターゼである。
【0018】
本発明の好ましい実施形態は、非標準アミノ酸を含む標的タンパク質の無細胞合成が可能である真核細胞溶解物を生産するための、少なくとも、
a)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ、即ち、真核細胞中の内因性アミノアシル-tRNAシンセターゼによって認識されないtRNAに特異的であり、対応する非標準アミノ酸に特異的なアミノアシル-tRNAシンセターゼをコードする少なくとも1つのドナーテンプレートでトランスフェクトされた前記真核細胞を提供する工程、
b)工程a)のトランスフェクトされた細胞を所定の期間培養し、続いて細胞を回収する工程、及び
c)回収された細胞を破砕し、そこから細胞溶解物を調製する工程を含む方法に関する。
【0019】
より具体的には、本発明は、少なくとも、
a1)直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼをコードする少なくとも1つのドナーテンプレートで真核細胞にトランスフェクトする工程、
a2)抗生物質選択剤による選択圧で工程a1)の細胞を保持する工程、
a3)a2)から細胞のプールの単一クローンを選択する工程、
a4)工程a3)の単一クローンをより高い細胞密度に拡大する工程、
a5)遺伝子型決定PCR及びqPCR、並びに所望の標的遺伝子型及びmRNA発現を有する細胞クローンの選択によって、工程a4)の細胞を分析する工程、
b)制御された条件下で、好ましくはバイオリアクターにおいて、工程a5)の細胞を培養し、続いて細胞を回収する工程、
c)回収された細胞を破砕し、そこから細胞溶解物を調製する工程を含む。
【0020】
本発明はまた、非標準アミノ酸を含む標的タンパク質の無細胞合成を行うための方法であって、少なくとも、
上で概説した非標準アミノ酸を含む標的タンパク質の無細胞合成が可能である真核細胞溶解物を産出するための方法の工程a)~c)、及び少なくとも1つの非標準アミノ酸を、前記非標準アミノ酸に特異的な少なくとも1つの直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼを含む工程c)の溶解物に基づいた無細胞タンパク質合成反応において、標的タンパク質の中に組み込む工程d)を行う工程を含む、方法に関する。
【0021】
本発明で使用される真核細胞は、特に限定されない。主として、細胞抽出物を調製するために先行技術で使用される任意の真核細胞が適している。好ましくは、そのような細胞は、膜小胞を含有する細胞溶解物を提供する本発明において使用される。
【0022】
具体的には、真核細胞は、非ヒト哺乳動物細胞、特にCHO細胞、昆虫細胞、特にツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)細胞、ヒト細胞、特にHEK293及びK562細胞、並びに酵母、特にピキア・パストリス及びサッカロミセス・セレビシエを含む群から選択され得る。
【0023】
それぞれの真核細胞が、所望の外因性タンパク質のためのドナーテンプレートで、一過性に又は安定してトランスフェクトされる。
【0024】
一過性トランスフェクションのために、典型的には、標準的な手順(Rajendra 2011;DOI:10.1016/j.jbiotec.2011.03.001)を使用して、PEI(ポリエチレンイミン)をトランスフェクション剤として使用して、それぞれのドナーテンプレートの発現カセットを含むプラスミドが標的細胞に導入される。
【0025】
あるいは、安定トランスフェクションが適用されて、所望のゲノム遺伝子座で目的のタンパク質をエンコードするドナーDNAを導入する。この目的のために、最近確立されたCRISPR/Cas9(CC9)技術は、目的の遺伝子を宿主細胞に部位特異的に組み込むための特に効率的で好ましいアプローチを表す。エンドヌクレアーゼCas9及び配列特異的RNA分子からなるタンパク質複合体は、目的のタンパク質コード配列を送達するドナーテンプレートと組み合わせて細胞にトランスフェクトされ得る。ヌクレアーゼ誘導された複合体は、所望のゲノム遺伝子座に結合し、二本鎖切断を誘発することができる。修復プロセスの間、ドナー配列は、相同組換え修復によって、標的とされるゲノム遺伝子座に導入され得る(Ran and Hsu,2013;DOI:10.1038/nprot.2013.143)。されども、当技術分野で知られている真核細胞の安定トランスフェクションのための他の方法も同様に使用され得る。
【0026】
適切な期間、典型的にはトランスフェクションの2日後、細胞は、編集された細胞を富化するための選択手順を受け得る。追って、細胞クローンの単一細胞クローニング及び拡大が行われる。結果生じたクローンは、フランキングプライマーを用いた遺伝子型決定PCRによって分析され、mRNA発現がqPCRによってモニタされる。成功裏に編集された細胞クローンは、制御された条件下で、好ましくはバイオリアクターにおいて培養され、最適な増殖期に細胞が回収される。無細胞タンパク質合成のために内因性タンパク質を無傷に保ちながら、細胞が破砕される。細胞溶解物は、クロマトグラフィーによって処理され、所望の添加剤で補充される。新たに生成された溶解物の能力は、定められた位置にアンバー終止コドンを有するタンパク質コード配列と、アンバー終止コドンを含まない対応する参照タンパク質コード配列とからなるレポーター系によって分析される。典型的には、アンバー終止コドンが非標準アミノ酸にカップリングされた直交型tRNAによって対処される場合、レポータータンパク質は、蛍光又は発光シグナルのいずれかを生成する。出力シグナルは、アンバー終止コドンを含まない参照タンパク質コード配列と比較され得る。
【0027】
より具体的な実施形態では、直交型アミノアシルtRNAシンセターゼ、例えば大腸菌チロシルtRNAシンセターゼ(eAzFRS)がCHO細胞に導入される。そのような直交型合成酵素は、アンバーサプレッション技術を使用した非標準アミノ酸のタンパク質への部位特異的な組込みに適している。単一細胞クローニングが、96ウェルプレートにおける限界希釈工程によって行われた。結果生じた細胞クローンが、遺伝子型決定PCR及びqPCRによって分析された。直交型eAzFRSを含有する細胞溶解物が、例えば、コード配列内側に導入されたアンバー終止コドンの位置、及びC末端に位置付けられたNanoLucルシフェラーゼがある膜タンパク質アデノシン受容体A2aから構成されるレポーター遺伝子構築物を利用することによって、アンバーサプレッションのために分析される。アンバーサプレッションは、末端にされた(terminated)タンパク質とは対照的に、より高い分子量のアンバーサプレッションされたレポータータンパク質に基づいて、オートラジオグラフィーによって、更に検証され得る。
【0028】
上記の様々な真核細胞からの細胞溶解物の調製は、当技術分野で周知であり(例えば、Broedel、2013 https://doi.org/10.1002/bit.25013)、所望により、公知の手順の適切な改変が当業者によりなされ得る。
【0029】
本発明は更に、標的タンパク質の無細胞合成のための真核細胞溶解物に関し、当該細胞溶解物は、前記標的タンパク質の無細胞合成に要求されている又は有利であり、直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ及びウイルスRNAポリメラーゼを含む群から選択される少なくとも1つの外因性酵素を含む。
【0030】
好ましくは、真核細胞溶解物は、膜小胞を含有する細胞溶解物である。具体的には、真核細胞溶解物は、非ヒト哺乳動物細胞、特にCHO細胞、昆虫細胞、特にツマジロクサヨトウ細胞、ヒト細胞、特にHEK293及びK562細胞、並びに酵母、特にピキア・パストリス及びサッカロミセス・セレビシエを含む細胞の群に由来し得る。
【0031】
典型的には、前記真核細胞溶解物は、翻訳後修飾及び/又は非標準アミノ酸を含む複合体又は特異的標的タンパク質の無細胞合成が可能であり、該合成のために使用される。そのような翻訳後修飾(PTM)は、例えば、グリコシル化、シグナルペプチド切断、リン酸化、ジスルフィド結合形成及び脂質修飾を含む。
【0032】
好ましい一実施形態では、前記真核細胞溶解物は、少なくとも1つの直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼ、即ち、細胞溶解物の由来である対応する真核細胞における内因性アミノアシル-tRNAシンセターゼによって認識されないtRNAに特異的なアミノアシル-tRNAシンセターゼを含む。
【0033】
具体的には、直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼは、ピロリジンtRNAシンセターゼ、チロシルtRNAシンセターゼ及びロイシンtRNAシンセターゼを含む群から選択され得る。
【0034】
いくつかのより具体的な実施形態では、直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼは、大腸菌チロシル-tRNAシンセターゼ、メタノサルシナ・マゼイピロリジン-tRNAシンセターゼ又は大腸菌ロイシン-tRNAシンセターゼである。
【0035】
本発明のいくつかの好ましい実施形態では、真核細胞溶解物は、トランスフェクトされた真核細胞又は少なくとも1つの直交型アミノアシル-tRNAシンセターゼを発現する細胞株由来であり、細胞は、CHO細胞、ツマジロクサヨトウ細胞、HEK293細胞、K562細胞、ピキア・パストリス及びサッカロミセス・セレビシエから選択され、アミノアシル-tRNAシンセターゼは、大腸菌チロシル-tRNAシンセターゼ、メタノサルシナ・マゼイピロリジン-tRNAシンセターゼ又は大腸菌ロイシン-tRNAシンセターゼから選択される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】真核宿主細胞へのドナーDNAの組込み、後続する細胞溶解物の調製及び標的タンパク質の無細胞タンパク質合成を概略的に示す。
図2】選択された単一CHOクローンの特徴付けを示す。図2aは、PCR反応におけるフランキングプライマー対でのゲノム修飾されたCHO細胞クローンの遺伝子型決定を示す。DNA断片サイジングには、ニュー・イングランド・バイオラボの市販のQuick-Load(登録商標)2-Log DNA Ladder(0.1~10.0kb)が使用された。図2bは、qPCRによるCRISPR操作CHO単一クローンの転写活性の推定を示す。決定されたeAZFRSの転写発現レベルの正規化は、ハウスキーピング遺伝子Gnb1の発現レベルを使用して達成された。
図3】CRISPRで編集された細胞ベースのクローンCHO細胞株由来の細胞溶解物における標的タンパク質の発現を示す。無細胞タンパク質合成中のタンパク質のサイズ及び14Cロイシンの取り込みに基づくオートラジオグラフィーによって、標的タンパク質が可視化され得た。オートラジオグラムは、表3に示されているNano-Glo(登録商標)ルシフェラーゼアッセイに対応する。
図4】安定してトランスフェクトされたCHO細胞及び対照としての非トランスフェクトCHO細胞(参照)由来の細胞溶解物における融合タンパク質Adora 2a/Nlucの発現を示す。ルシフェラーゼ活性の決定が、Nano-Glo(登録商標)ルシフェラーゼアッセイを発光プレートリーダーにおいて利用することによって推定された。W/o T7 RNA Pol=T7 RNAポリメラーゼ非存在下;w T7 RNA Pol=T7 RNAポリメラーゼ存在下。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、以下の具体的であるが非限定的な例によって更に説明される。
【実施例1】
【0038】
(アミノアシル-tRNAシンセターゼによるCHO細胞のトランスフェクション)
[1.一過性トランスフェクション]
大腸菌チロシル-tRNAシンセターゼ(eAzFRS)又はメタノサルシナ・マゼイピロリジン-tRNAシンセターゼ(PylRS-AF)の発現カセットをそれぞれ含むプラスミドが、PEIをトランスフェクション剤として使用して、CHO宿主細胞に導入された。したがって、4℃で5分間、200xgで遠心分離することによって、1×10細胞/mLがペレット化された。細胞ペレットは、50mLコニカルチューブ中、40×10細胞/mLの細胞密度で、25mLの体積の4mMのAla-Gluで補充されたProCHO5培地で、再懸濁された。トランスフェクションのために、1×10個の細胞あたり1.5μgのプラスミドDNAが追加された。後に、1×10個の細胞あたり2μgのPEI試薬が追加された。トランスフェクション試薬、プラスミド及び細胞の混合物が、37℃、5%のCOで4時間インキュベートされ、ホイール上で回転された。ProCHO5培地及び4mMのAla-Gluを用いて、1リットルの最終的な体積(1×10細胞/mLの細胞密度)になるまで、細胞の後続の希釈が実行された。トランスフェクトされた細胞が、1Lのバイオリアクター(及び代替的に2Lの振盪フラスコ)内で、制御された条件下で培養され、細胞は、最適増殖期、典型的にはトランスフェクションの約2日後に回収された。
【0039】
無細胞タンパク質合成のために内因性タンパク質を無傷に保ちながら、細胞が破砕された。細胞溶解物は、クロマトグラフィーによって処理され、所望の添加剤で補充された。新たに生成された溶解物の能力が、レポーター系によって分析された(結果については表3を参照)。
【0040】
[2.安定トランスフェクション]
大腸菌チロシル-tRNAシンセターゼ(eAzFRS)が、Zhaoら2018(DOI:10.1007/s00253-018-9021-6)の修正されたプロトコルに従ってCHO-K1ゲノムに導入された。eAzFRSは、真核細胞に対して直交性を呈し、したがって、アンバーサプレッション技術によるタンパク質への非標準アミノ酸の部位特異的な組込みに適している。CRISPR/Cas9による安定トランスフェクションのために、3つのプラスミドのドナーベクター(DV)、Cas9発現ベクター及びガイドRNA発現ベクターが、リポフェクタミンLTX(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)によって、2:2:1の比率でトランスフェクトされた。したがって、500ngのプラスミド混合物を含む5μLが、100μLのOpti-MEM(Gibco;サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)還元培地に追加され、2.5μLのリポフェクタミンLTX(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)及び0.5μLのPLUS試薬(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)が続いて追加された。DNA-脂質混合物が、室温で30分間インキュベートされた。後に、100μLの混合物が、24ウェルプレート中0.5×10個の細胞と共に、500μLになるよう追加された。トランスフェクションの効率を増加させるために、プレートが室温で15分間、400xgで遠心分離された。細胞が、37℃及び5%のCOでインキュベートされた。トランスフェクションの2日後、細胞は、編集された細胞を富化するための選択手順を受ける。したがって、培養物は10μg/mLのピューロマイシンで補充され、選択培地が週に2回交換された。単一細胞クローニングが、100μLの体積の96ウェルプレートにおいて、50%馴化培地を使用して、アレイ希釈法又は限界希釈工程のいずれかによって行われた。結果生じた細胞クローンが拡大され、遺伝子型決定PCR及びqPCRによって分析された。細胞は、最適な増殖期で回収され、無細胞タンパク質合成のための細胞溶解物を産出するために破砕された。直交型eAzFRSを含有する細胞溶解物が、コード配列内側に導入されたアンバー終止コドンの位置、及びC末端に位置付けられたNanoLucルシフェラーゼがある膜タンパク質アデノシン受容体A2aから構成されるレポーター遺伝子構築物を利用することによって、アンバーサプレッションのために分析された。アンバーサプレッションは、末端にされたタンパク質とは対照的に、より高い分子量のアンバーサプレッションされたレポータータンパク質に基づいて、オートラジオグラフィーによって、更に検証された。
【実施例2】
【0041】
(安定してトランスフェクトされたCHO細胞の特徴付け)
eAzFRSをコードするDNAが、実施例1で概説したように、CHO-K1ゲノムのHPRT又はC12orf35遺伝子座の4つの異なる標的部位に組み込まれた。緑色蛍光タンパク質(GFP)配列が、レポーター遺伝子としてゲノムに更に組み込まれて、各sgRNA:DV対についてCRISPR/Cas9(CC9)HDR技術を利用して、目的の遺伝子(GoI)の遺伝子編集効率を証明した。
【0042】
アレイ希釈法が、10μg/mLのピューロマイシンで選択圧を一定に保ちながら、CHO細胞を異なる細胞密度で培養すべく利用された。ポジティブにトランスフェクトされたクローンのプールが、96ウェルプレートから12ウェルプレートに徐々に拡大されて、より多くの量の改変された細胞を達成した。後に、qPCRによって細胞が分析された。
【0043】
[1.CHOクローンのプールの転写分析]
eAzFRS又はGFPのコード配列のいずれかを送達するドナーベクター(DV)でそれぞれトランスフェクトされた2つのCHOクローンのプールが、表1に示されているように、qPCR分析のための増殖挙動に基づいて選択された。
【0044】
標的遺伝子並びにハウスキーピング遺伝子(HKG)Gnb1及びFkbp1Aに特異的なプライマー配列を用いてQPCRが実行された。転写発現は、HKGに対して正規化され、Gnb1/Fkbp1Aの比率として可視化された。
【表1】
【0045】
表1は、転写プロファイルに基づく様々なsgRNA:DV対に基づいた、単離されたクローンのプールの違いを表示している。未処理のCHO細胞が、CHO-K1細胞株の標的遺伝子配列の非存在を示すために、陰性対照として利用された。DV7.2及びDV8.2に基づいたCHOクローンのプールは、それぞれ27.3及び37.7の最高値に達した。対照的に、DV5及びDV6に基づかれるクローンのプールは、13.7までの値を達成する。したがって、eAzFRS遺伝子の転写活性は、HPRT遺伝子座と相同性を有するDVと比較して、C12orf35遺伝子座に対処するDV(DV7及びDV8)を利用して、より高いように見える。しかしながら、GFPによる安定トランスフェクションは、18.7(DV10.1)から26.9(DV9.1)の範囲にわたるHPRT遺伝子座(DV9及びDV10)及びC12orf35遺伝子座(DV11)の標的化に基づいて、CHOクローンのプールについて同様の値を示し、標的とされた遺伝子座が転写活性において有意に異ならないことを示した。実際、クローンのプールDV8.2は、試験された全クローンのプールの中で最も強いmRNA発現レベルを示し、したがって単一細胞クローニングに供された。
【0046】
[2.CHO単一細胞クローンの特徴付け]
単一クローンの所望の遺伝子座の内側へのクローニングカセットの成功裏の取り込みが、遺伝子型決定PCRによって検証された。遺伝子型決定プライマーは、CHOゲノムのC12orf35遺伝子座における組込み部位の下流及び上流に特異的に結合する。図2は、選択された単一クローンの特徴付けを示す。図2aは、PCR反応におけるフランキングプライマー対でのゲノム修飾されたCHO細胞クローンの遺伝子型決定を示す。DNA断片サイジングには、ニュー・イングランド・バイオラボ製のQuick-Load(登録商標)2-Log DNA Ladder(0.1~10.0kb)が使用された。組み込まれた大型のDNA配列に起因して、単一クローンについてはより大きな産生物サイズが検出され得たが、野生型CHO細胞(WT)については、小さな産生物が可視化された。図2b及び表2は、qPCRによるCRISPR操作されたCHO単一クローンの転写活性を表している。決定されたeAZFRSの転写発現レベルの正規化が、ハウスキーピング遺伝子Gnb1の発現レベルを使用して達成された。qPCR測定が試料1つにつき3回行われた。
【表2】
【0047】
単一クローン6の場合、発現カセットは、細胞又はCHO細胞によって各々除去され、当該細胞は、ピューロマイシン遺伝子のランダムな組込みによる選択プロセスにて残存した所望の遺伝子座において特異的に修飾されなかった。実際、単一クローン1及び8は標的配列の組込みを表示したが、遅くのみ増殖した(図2b)。とは言え、単一クローン2~5、7及び9は、より高い増殖速度を達成し、mRNA含有量の分析に供された。3及び4では上昇されたmRNA発現レベルが観察されるが、最も高い増殖速度を示したという理由で、単一クローン7が更なる粗抽出物調製に利用された。
【0048】
クローンCHO細胞株の培養は、粗抽出物調製の前に、1L規模のバイオリアクターで行われた。培養プロセスは、pO、pH、撹拌機の速度及び温度を含む重要なパラメータを利用することによって制御された。培養中、CHO発酵プロセスを制御するべく、温度:37℃、pO:40%及びpH:7.1という設定値が用いられた。撹拌、O及び空気に応じて、pO調節カスケードを適用することによって、pOの設定値が維持された。約5×10細胞/mLから開始して、約9日間にわたって生細胞数の増加がモニタされた。後続の細胞破砕のために、3日間にわたって更なる培養のためにバイオリアクターにおいて約5×10細胞/mLの細胞密度を維持しながら、3日後に4~6×10細胞/mLの密度で、細胞が回収された。このいわゆる反復バッチは、無細胞タンパク質合成のための粗抽出物調製のための3つの回収点で9日間にわたって実行された。
【0049】
典型的には、細胞生存率は、全培養プロセスを通して95%から最高100%の範囲であり、翻訳活性細胞溶解物の調製に最適な条件を示した。
【実施例3】
【0050】
(eAzFRSでトランスフェクトされたCHO細胞由来の細胞溶解物の評価)
反復バッチ法の異なる回収点から新たに生成された細胞溶解物による直交型翻訳が特徴付けられて、細胞溶解物の安定性及び比較可能性を分析した(データは示されず)。「JS-09/20」と呼ばれる、クローン7及び回収点3に基づいて新規に生成された細胞溶解物が、参照溶解物254/15と比較された。「AzFRS溶解物」と呼ばれる一過性にトランスフェクトされたCHO細胞から調製された細胞溶解物が、参照溶解物と更に比較された。
【表3】
【0051】
表3は、一過性にトランスフェクトされた細胞及びCRISPR/Cas9改変CHOクローン由来の細胞溶解物における標的タンパク質の発現を示す。完全長融合タンパク質Adora 2a-amb/Nlucを発現させるために、CFPSにおいて位置215でのアンバーサプレッションが利用された。アンバー終止コドンを含まないAdora2a/Nlucが、陽性対照として利用された。ルシフェラーゼ活性の決定が、Nano-Glo(登録商標)ルシフェラーゼアッセイ(プロメガ)を発光プレートリーダー(Mithras)において利用することによって推定された。測定は、試料1つにつき3回で行われた。図3は、表3に示されている安定トランスフェクション法のNlucアッセイに対応するオートラジオグラフィーを表している。
【0052】
Adora2a-amb-NlucのC末端Nluc活性は、更なるeAzFRSの追加なしで、1.1×10RLUをもたらしたが、安定トランスフェクション法の場合、テンプレートなしの対照(NTC)については、活性は観察されなかった(表2)。一過性トランスフェクション法は、約1.3×10RLUを示す。実際、PEIのみで処理された細胞は、NTCよりも高い約0.04×10RLUという低い値を示すが、eAzFRSの追加なしの参照溶解物は、約0.02×10のRLUを有する同様の低いNluc活性を示す。結果は、AzFが新しい溶解物と共にGタンパク質共役受容体に部位特異的に導入され得ることを示唆している。
【0053】
更に、より高濃度のeAzFRSが、JS-09/20及び参照溶解物に基づいた無細胞反応に、CRISPRベースの細胞溶解物のごくわずかな影響で補充されたが、eAzFRSの補充は、参照溶解物との無細胞反応においてNluc活性を有意に増加させた。これらの結果は、オートラジオグラフィーに基づいた、SDS-PAGEゲルの対応するバンド強度によって検証され得た(図3)。
【実施例4】
【0054】
(T7 RNAポリメラーゼで安定してトランスフェクトされたCHO細胞由来の細胞溶解物の評価)
抗生物質選択圧を適用することによって、安定してトランスフェクトされたCHO細胞が富化された。細胞溶解物が調製され、「T7 RNA Pol CHO溶解物」と呼ばれた。リーディングフレームの中にアンバー終止コドンを含まないレポータータンパク質Adora 2a/Nlucとの無細胞反応において、新規細胞溶解物が、参照CHO溶解物と比較された。
【0055】
図4は、安定してトランスフェクトされたCHO細胞(T7 RNA Pol CHO溶解物)及び対照としての非トランスフェクトのCHO細胞(参照CHO溶解物)由来の細胞溶解物におけるアンバー終止コドンを含まない融合タンパク質Adora 2a/Nlucの発現を図示している。無細胞反応が、精製されたT7 RNAポリメラーゼの存在下(w)又は非存在下(w/o)で行われた。ルシフェラーゼ活性の決定が、Nano-Glo(登録商標)ルシフェラーゼアッセイ(プロメガ)を発光プレートリーダー(Mithras LB 943)において利用することによって推定された。
【0056】
図4は、参照CHO溶解物を使用した精製されたT7 RNAポリメラーゼの追加なしでは発光シグナルを示さないが、精製されたT7 RNAポリメラーゼの存在下では約1.37×10RLUの値が検出され得た。対照的に、新規の「T7 RNA Pol CHO溶解物」は、精製されたT7 RNAポリメラーゼの非存在下で約0.86×10RLUの発光の値をもたらし、新規のCHO溶解物中のT7 RNAポリメラーゼの存在を示した。
【国際調査報告】