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特表2024-530465細胞療法に使用するための識別可能な細胞表面タンパク質変異体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-21
(54)【発明の名称】細胞療法に使用するための識別可能な細胞表面タンパク質変異体
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20240814BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240814BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240814BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240814BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20240814BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20240814BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240814BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240814BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240814BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240814BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240814BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N15/09 100
C12N15/12
A61K35/12
A61K35/28
A61P7/00
A61P35/02
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K35/17
A61K39/395 N
A61K39/395 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506654
(86)(22)【出願日】2022-08-05
(85)【翻訳文提出日】2024-03-28
(86)【国際出願番号】 EP2022072168
(87)【国際公開番号】W WO2023012367
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】22158991.4
(32)【優先日】2022-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21306100.5
(32)【優先日】2021-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520104880
【氏名又は名称】ウニバズィテート バーゼル
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAET BASEL
(71)【出願人】
【識別番号】524042805
【氏名又は名称】シメイオ セラピューティクス アーゲー
【氏名又は名称原語表記】CIMEIO THERAPEUTICS AG
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】レポレ, ロザルバ
(72)【発明者】
【氏名】イエカー, ルカス
(72)【発明者】
【氏名】ウルリンガー, シュテファニー
(72)【発明者】
【氏名】ランドマン, エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】シノーポリ, アレサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィーダーケア, アメリー
(72)【発明者】
【氏名】ドゥボー, アナ
(72)【発明者】
【氏名】カミュ, アナ
(72)【発明者】
【氏名】ハイデン, アナ
(72)【発明者】
【氏名】マター-マローネ, ロミーナ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZA511
4C084ZA512
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C084ZC75
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB11
4C085CC01
4C085DD62
4C085EE03
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB44
4C087BB65
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA51
4C087ZB26
4C087ZB27
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、治療に使用するための、操作されたまたは天然に存在する突然変異を有するが機能的な表面タンパク質を有する識別可能な表面タンパク質を有する細胞の使用に関する。本発明はまた、識別可能なCD123表面タンパク質変異体を有するが、治療、特に養子細胞療法に使用するための機能性表面タンパク質を有する細胞の使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする患者における医学的治療に使用するためのCD123の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、
前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記表面タンパク質の前記第2のアイソフォームを発現する細胞を有する前記患者の前記ゲノムに存在せず、前記第1および第2のアイソフォームが機能的である、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項2】
CD123の前記第1および前記第2のアイソフォームが、IL-3結合、IL-3依存的増殖、前記細胞表面での発現または細胞内シグナル伝達能に関して機能的である、請求項1に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項3】
前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、配列番号1のE51位またはS59位のアミノ酸の少なくとも1つの置換を特徴とする、請求項1または2に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項4】
前記残基E51が、K、N、T、R、M、GおよびAからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはK、AまたはTで置換されており、ならびに/あるいは前記残基S59が、I、P、E、L、K、F、R、およびYからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくは、P、E、RまたはFで置換されている、請求項3に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項5】
前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、前記第1のアイソフォームをコードする核酸において少なくとも1つの天然多型対立遺伝子を有する天然ゲノムDNAを含む対象から選択されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項6】
前記第1のアイソフォームが、遺伝子編集によって、好ましくは少なくとも第1の抗原結合領域を含む薬剤の結合に関与する表面タンパク質領域をコードする標的配列内部に部位特異的変異を誘導することができる遺伝子編集酵素を細胞に導入することによって、前記表面タンパク質をコードする前記核酸配列をエクスビボで改変することによって得られる、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項7】
前記医学的治療が、
それを必要とする前記患者に前記第1のアイソフォームを発現する治療有効量の前記細胞または細胞の集団を、前記第2のアイソフォームに特異的に結合する少なくとも第1の抗原結合領域を含む治療有効量の枯渇剤と併用して投与して、第2のアイソフォームを発現する患者の細胞を特異的に枯渇させ、好ましくは造血疾患の前記治療における、好ましくは急性骨髄性白血病(AML)、芽球性形質細胞樹状細胞新生物(BPDCN)、またはB-急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)などの悪性造血疾患の前記治療における免疫療法後に正常な造血を回復させること、を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の、哺乳動物細胞または細胞の集団、好ましくは造血幹細胞。
【請求項8】
前記枯渇剤が、抗体、抗体-薬物コンジュゲートまたは免疫細胞、好ましくは、前記第2のアイソフォームに特異的に結合し、前記第1のアイソフォームに結合しない第1の抗原結合領域を含むキメラ抗原受容体(CAR)を有するT細胞である、請求項7に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項9】
前記表面タンパク質がCD123であり、前記枯渇剤の前記第1の抗原結合領域が、配列番号1のアミノ酸T48、D49、E51、A56、D57、Y58、S59、M60、P61、A62、V63、N64、T82、R84、V85、A86、N87、P89、F90、S91を含むエピトープに特異的に結合し、好ましくは、前記第1の抗原結合領域が、
a)VHCD1が配列番号2であり、VHCD2が配列番号3であり、VHCDR3が配列番号4である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR、VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号5または6であり、VLCDR2は配列番号7であり、VLCDR3は配列番号8であり、より好ましくは前記第1の抗原結合領域は、配列番号9、11および13から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはからなる重鎖可変ドメイン、および/または配列番号10、12、および14から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはからなる軽鎖可変ドメインを含む、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)
を含む抗原結合領域と同じエピトープ特異性を有する抗原結合領域を含む、請求項8に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項10】
前記医学的治療が、
第1のアイソフォームを発現する移入された細胞を特異的に枯渇させるために、好ましくは養子細胞移入療法における使用のために、より好ましくは悪性造血疾患、例えば急性骨髄性白血病(AML)、芽球性形質細胞樹状細胞新生物(BPDCN)、またはB-急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)の治療のために、前記第1のアイソフォームと特異的に結合する少なくとも第2の抗原結合領域を含む治療有効量の枯渇剤と併用して、それを必要とする前記患者に前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞または細胞の集団の治療有効量を投与することであって、再度、より好ましくは、前記枯渇剤は、移植による移植片対宿主病などの最終的な重篤な副作用を回避するために、表面タンパク質の前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞または細胞の集団に続いて投与される、投与されること、を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の、哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項11】
前記第1のアイソフォームを発現する細胞または細胞の集団が、キメラ抗原受容体(CAR)を有する免疫細胞、好ましくはT細胞である、請求項10に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項12】
前記CARが、第3の細胞外ループ内部、または配列番号1の前記アミノ酸T48、D49、E51、A56、D57、Y58、S59、M60、P61、A62、V63、N64、T82、R84、V85、A86、N87、P89、F90、S91を含むポリペプチド内に位置するCD123のエピトープに特異的に結合する抗原結合領域を含み、好ましくは、前記第1の抗原結合領域が、
a)VHCD1が配列番号2であり、VHCD2が配列番号3であり、VHCDR3が配列番号4である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR、VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号5または6であり、VLCDR2は配列番号7であり、VLCDR3は配列番号8であり、より好ましくは前記抗原結合領域は、配列番号9、11および13から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはからなる重鎖可変ドメイン、および/または配列番号10、12、および14から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはからなる軽鎖可変ドメインを含み、再度より好ましくは、前記CARが、配列番号15のアミノ酸配列を含むもしくはからなる、抗体軽鎖可変ドメイン
を含む、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)
を含む抗原結合領域と同じエピトープ特異性を有する抗原結合領域を含む、請求項11に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
【請求項13】
哺乳動物細胞、好ましくは造血幹細胞または免疫細胞、例えば請求項1から12のいずれか一項に定義されているT細胞、好ましくは請求項8または9に定義されている枯渇剤、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項14】
表面タンパク質の第1のアイソフォームを発現する細胞を投与されたことがある患者において重篤な副作用のリスクを防止することまたは低下させることにおいて使用するための枯渇剤であって、前記患者の天然の細胞が、表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現し、前記枯渇剤は、前記第1のアイソフォームに特異的に結合し、前記第2のアイソフォームに結合しない少なくとも第2の抗原結合領域を含み、好ましくは前記表面タンパク質がCD123である、枯渇剤。
【請求項15】
それを必要とする患者において宿主細胞を選択的に枯渇させるのに使用するための枯渇剤であって、前記患者の天然細胞は表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現し、前記枯渇剤は、前記第2のアイソフォームに特異的に結合する少なくとも第1の抗原結合領域を含み、好ましくは、前記表面タンパク質はCD123であり、前記枯渇剤の前記第1の抗原結合領域は、配列番号1の前記アミノ酸T48、D49、E51、A56、D57、Y58、S59、M60、P61、A62、V63、N64、T82、R84、V85、A86、N87、P89、F90、S91を含むエピトープに特異的に結合し、より好ましくは、前記第1の抗原結合領域は、
a)VHCD1が配列番号2であり、VHCD2が配列番号3であり、VHCDR3が配列番号4である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR、VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号5または6であり、VLCDR2は配列番号7であり、VLCDR3は配列番号8であり、再度、より好ましくは前記第1の抗原結合領域は、配列番号9、11および13から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはからなる重鎖可変ドメイン、および/または配列番号10、12、および14から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはからなる軽鎖可変ドメイン
を含む、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)を含む抗原結合領域と同じエピトープ特異性を有する抗原結合領域を含む、枯渇剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療に使用するための、操作されたまたは天然に存在する突然変異を有するが機能的な表面タンパク質を有する識別可能な表面タンパク質を有する細胞の使用に関する。本発明はまた、識別可能なCD123表面タンパク質変異体を有するが、治療、特に養子細胞療法に使用するための機能性表面タンパク質を有する細胞の使用に関する。
【0002】
資金の記載
本願につながるプロジェクトは、欧州連合のHorizon2020研究およびイノベーションプログラム(認可合意第818806番)の下で、欧州研究会議(ERC)から資金提供を受けている。
【背景技術】
【0003】
細胞療法は、抗体を含む組換えタンパク質などの生物製剤に基づく小分子療法および治療後の医学の第3の柱として浮上している。細胞療法は、造血性悪性疾患を治療するための腫瘍学で使用することができるが、遺伝性疾患、固形臓器腫瘍および自己免疫疾患の治療などの他の用途も開発中である。しかしながら、細胞療法は、重度の望ましくない副作用に関連し得る。実際、キメラ抗原受容体(CAR)T細胞を用いたがん免疫療法は、特定の抗原を発現する悪性細胞を標的化し、根絶することに成功しているが、それは正常細胞と悪性細胞とを区別しないことが多く、したがって、正常な造血系の破壊を誘導する。標的療法は、抗体に基づく療法、例えば従来のモノクローナル抗体、多重特異性抗体、例えばT細胞エンゲージャー(例えば、BiTE)および細胞療法、例えばCAR細胞(例えば、CAR T細胞、CAR NK細胞またはCARマクロファージ)を含み、標的分子を発現するすべての細胞を排除する。しかしながら、ほとんどのがん細胞表面抗原は、正常な造血細胞または他の細胞と共有される。したがって、健常細胞への損傷を回避しながら腫瘍を含む病んだ細胞を殺傷させる標的を同定することは、標的療法の主要な課題である。特に、骨髄異形成症候群(MDS)、急性骨髄性白血病(AML)または芽球性形質細胞樹状細胞新生物(BPDCN)などの骨髄性悪性腫瘍を含む骨髄性疾患では、CD33またはCD123などの細胞表面抗原が正常な骨髄前駆細胞と共有される。したがって、MDS、AMLまたはPBDCNに対するCD33またはCD123抗原を標的とする免疫療法は、患者の悪性細胞に加えて正常な造血細胞の枯渇に関連し得る(Gill S.I.Best practice&Research Clinical Hematology,2019)。結果として、mAb、T細胞エンゲージャーまたはCAR Tを含む標的化免疫療法は、一部には真に疾患特異的な表面抗原が存在しないために、ほとんどが困難であった(Gill S.I.Best practice&Research Clinical Hematology,2019)。
【0004】
CD33-CAR T細胞移入によって枯渇した正常な造血を再生するために、CD33 CAR T細胞耐性造血細胞が、CD33遺伝子全体がノックアウトされるように操作されている(Kim et al.,2018.Cell.173:1439-53)。しかしながら、CD33は、その免疫受容体チロシンベース阻害性モチーフ(ITIM)シグナル伝達ドメインを介して骨髄細胞に対して構成的阻害効果を有する。したがって、CD33の喪失がどの程度良好に許容され得るかは不明のままである。患者に移植されたCD33ノックアウト(CD33 KO)操作細胞は、長期の機能的欠陥および非常に不均一な結果を示す可能性がある(国際公開第2018/160768号パンフレット、Kim et al.2018.Cell.173:1439-53,Borot et al.2019.PNAS.116:11978-87,Humbert et al.2019.Leukemia.33:762-808)。実際、CD33 KO細胞の頻度は、長期観察が報告された2匹のサルで減少した。これは、例えばCD33 KO長期再増殖HSC(LT-HSC)の生着の減少による、または競合的不利益による、CD33 KO細胞の機能障害を示し得る(Kim et al.2018.Cell.173:1439-53)。さらに、必須の機能を有する細胞表面抗原の数は非常に限られており、前記冗長な細胞表面抗原の喪失は抗原陰性再発を誘発し得る。CD19陰性再発が、CD19標的化CAR T療法を受けている患者のおよそ30%において認められる(Orlando et al.2018 Nat Med 24:1504-6)。CD19およびCD123の二重標的化は、抗原喪失の再発を予防することができる(Ruella et al.2016 J Clin Invest1 26:3814-26)。
【0005】
国際公開第2018/160768号パンフレットは、表面抗原CD33上のエピトープ全体が欠失するように造血細胞を操作するアプローチを記載している。このような大きな欠失を有する抗原は、それぞれの野生型表面抗原と同等の機能を有さないと予想され得る。国際公開第2014/138805号パンフレットは、特定の抗体への結合の減少を示すCD123の特定の変異体を開示している。Cell Reports(2014)8:410-9には、CD123へのCSL362の結合に関与する特定のアミノ酸が開示されている。米国特許出願公開第20190185573号明細書は、CD123の特定の変異体の抗体結合特性を開示している。これらの文献のいずれも、本開示において企図されるような変異体の使用を開示していない。欧州特許第3769816号明細書は、本開示に開示される特定の分子のCDRと相同性を有する抗体鎖を開示している。Blood(2017)130 Suppl 1:2625は、抗CD123 CAR-T細胞を利用してがんを治療する方法を開示している。そのような治療は、CD123のいかなる変異体も使用しない。
【0006】
以前の特許出願において本発明者らは、表面タンパク質変異体における単一アミノ酸の相違を操作して造血細胞に入れて抗原性を変化させ、特異的および選択的抗体によって識別することができることを示した(国際公開第2017/186718号パンフレット、国際公開第2018/083071号パンフレット)。CD33 KO細胞とは対照的に、これらの細胞における表面タンパク質変異体は、それらの正常な発現および機能を保持し、重要な非冗長機能を有する表面タンパク質を標的化することを可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2018/160768号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2014/138805号パンフレット
【特許文献3】米国特許出願公開第20190185573号明細書
【特許文献4】欧州特許第3769816号明細書
【特許文献5】国際公開第2017/186718号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2018/083071号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Gill S.I.Best practice&Research Clinical Hematology,2019
【非特許文献2】Kim et al.,2018.Cell.173:1439-53
【非特許文献3】Borot et al.2019.PNAS.116:11978-87
【非特許文献4】Humbert et al.2019.Leukemia.33:762-808
【非特許文献5】Orlando et al.2018 Nat Med 24:1504-6
【非特許文献6】Ruella et al.2016 J Clin Invest 126:3814-26
【非特許文献7】Cell Reports(2014)8:410-9
【非特許文献8】Blood(2017)130 Suppl 1:2625
【発明の概要】
【0009】
本開示の目的の1つは、悪性腫瘍、特にがん、血液学的悪性腫瘍、骨髄性疾患を治療するためのより安全な方法を開発することである。したがって、本発明者らは、正常な機能を保持しながら免疫学的に区別可能であり、アミノ酸の変化が単一または複数のヌクレオチド変異に起因して生じる表面タンパク質の変異を求めた。特に、本発明者らは、CD123の合理的に設計された天然に存在する変異体を同定し、これらの変異が、その正常な発現および機能、特にインターロイキン-3(IL-3)の結合を保持しながら、CD123の特異的抗体に対する抗原性を変化させることを示した。
【0010】
本発明は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質、好ましくはCD123の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者が前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型または遺伝子操作された対立遺伝子が、前記表面タンパク質の前記第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在せず、好ましくは前記第1および第2のアイソフォームが機能的である、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関する。
【0011】
特定の実施形態において、本発明は、それを必要とする患者における医学的治療に使用するための哺乳動物細胞または細胞の集団、好ましくは造血幹細胞に関し、前記医学的治療は、それを必要とする前記患者に前記第1のアイソフォームを発現する治療有効量の前記細胞または細胞の集団を、前記第2のアイソフォームに特異的に結合する少なくとも第1の抗原結合領域を含む治療有効量の枯渇剤と併用して投与して、第2のアイソフォームを発現する患者の細胞を特異的に枯渇させ、好ましくは造血疾患、好ましくは急性骨髄性白血病(AML)、芽球性形質細胞樹状細胞新生物(BPDCN)、またはB-急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)などの悪性造血疾患の治療における免疫療法後に正常な造血を回復させることを含む。
【0012】
別の特定の実施形態において、本発明は、それを必要とする患者における医学的治療においての使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団に関し、前記医学的治療が、第1のアイソフォームを発現する移入された細胞を特異的に枯渇させるために、好ましくは養子細胞移入療法における使用のために、より好ましくは悪性造血疾患、例えば急性骨髄性白血病(AML)、芽球性形質細胞樹状細胞新生物(BPDCN)、またはB-急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)の治療のために、前記第1のアイソフォームと特異的に結合する少なくとも第2の抗原結合領域を含む治療有効量の枯渇剤と併用して、それを必要とする前記患者に前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞または細胞の集団の治療有効量を投与することであって、再度、より好ましくは、前記枯渇剤は、移植による移植片対宿主病などの最終的な重篤な副作用を回避するために、表面タンパク質の前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞または細胞の集団に続いて投与される、投与されることを含む。
【0013】
別の態様では、本発明は、哺乳動物細胞、好ましくは造血幹細胞または免疫細胞、例えば上記のT細胞、および好ましくは枯渇剤、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。
【0014】
本発明はまた、表面タンパク質の第1のアイソフォームを発現する細胞を投与されたことがある患者において重篤な副作用のリスクを防止することまたは低下させることにおいて使用するための枯渇剤であって、前記患者の天然の細胞が、表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現し、前記枯渇剤は、前記第1のアイソフォームに特異的に結合し、前記第2のアイソフォームに結合しない少なくとも第2の抗原結合領域を含み、好ましくは前記表面タンパク質がCD123である、枯渇剤に関する。
【0015】
別の態様では、本発明は、それを必要とする患者において宿主細胞を選択的に枯渇させるのに使用するための枯渇剤であって、前記患者の天然細胞は表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現し、前記枯渇剤は、前記第2のアイソフォームに特異的に結合する少なくとも第1の抗原結合領域を含み、好ましくは、前記表面タンパク質はCD123であり、前記枯渇剤の前記第1の抗原結合領域は、配列番号1のアミノ酸T48、D49、E51、A56、D57、Y58、S59、M60、P61、A62、V63、N64、T82、R84、V85、A86、N87、P89、F90、S91を含むエピトープに特異的に結合し、より好ましくは、前記第1の抗原結合領域は、
a)VHCD1が配列番号2であり、VHCD2が配列番号3であり、VHCDR3が配列番号4である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR、VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号5または6であり、VLCDR2は配列番号7であり、VLCDR3は配列番号8であり、再度、より好ましくは前記第1の抗原結合領域は、配列番号9、11および13から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはからなる重鎖可変ドメイン、および/または配列番号10、12、および14から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはからなる軽鎖可変ドメイン
を含む、枯渇剤に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】A)CD123の残基あたりの相対的な溶媒へのアクセス可能性(RSA)。CD123-CSL362複合体のX線構造に基づいて、CSL362に結合した状態およびCSL362を含まない状態についてRSAを計算した(PDB ID:4JZJ)。N末端ドメインについてデータを示す。矢印は、残基E51、S59およびR84のRSAを示す。B)CD123-CSL362複合体および選択されたアミノ酸変異体の3D構造。CD123残基E51、S59およびR84をスティックとして示す。CSL362抗体の構造を分子の表面として示す。
図2】2つのモノクローナル抗体クローンMIRG123および6H6で染色したCD123変異体および対照(HEK、HEK-CD123)のフローサイトメトリー。変異体は、MIRG123に対するそれらの消失された結合(下線)、弱い結合(丸)または強い結合(アスタリスク)に従って符号化されている。灰色のHEKおよびHEK-CD123を対照とする。
図3図2のFACSプロットの定量。MIRG1236H6二重陽性(右上象限)細胞の百分率を、対照およびすべての変異体についてプロットする。6H6結合は変化しなかった(図2を参照されたい)。3つの独立した実験の概要。突然変異変異体は、非結合剤(下線、<1%のMIRG1236H6)、弱結合剤(丸、1から20%のMIRG1236H6)および強結合剤(アスタリスク、>20%のMIRG1236H6)として適格である。
図4】CD123アイソフォーム変異体はFcgRIIIA活性化を防止する。HEK、HEK-CD123(野生型)およびHEK CD123変異体アイソフォームとJurkat/FcγRIIIa/NFAT-Lucレポーター細胞およびMIRG123との共培養後に測定された相対発光シグナル。RLUは、HEK-CD123(野生型)で測定されたシグナルに対して正規化される。突然変異変異体は、非結合剤(下線、<1%のMIRG1236H6)、弱結合剤(丸、1から20%のMIRG1236H6)および強結合剤(アスタリスク、>20%のMIRG1236H6)として適格である。
図5】CD123アイソフォーム変異体は、CD3/CSL362 BiTE媒介T細胞の活性化を防止する。安定的な標的細胞株HEK、HEK-CD123およびCD123変異体を、300ng/mLのCD3/CSL362 BiTEの存在下、10:1のE:T比で、ヒト初代pan T細胞と共培養した。HEK、HEK-CD123またはすべてのCD123変異体との共培養後に測定されたCD69T細胞の百分率の概要が示されている。データを、HEK標的細胞の存在下におけるCD69細胞の百分率に対して正規化する。エラーバーは平均±SDを示す。データは、5人の独立した血液ドナーおよび群あたり2回の技術的反復実験を表す。
図6】CD123アイソフォーム変異体は、CD3/CSL362 BiTE媒介ヒトT細胞殺傷から保護されている。安定的な標的細胞株HEK、HEK-CD123およびCD123変異体を、300ng/mLのCD3/CSL362 BiTEの存在下、10:1のE:T比で、ヒト初代pan T細胞と共培養した。72時間の共培養後のHEK、HEK-CD123およびすべてのCD123変異体の特異的BiTE媒介殺傷が百分率で示されている。エラーバーは平均±SDを示す。データは、5人の独立した血液ドナーおよび群あたり2回の技術的反復実験を表す。CD123変異体の発現を、モノクローナル抗体6H6を用いたFACSによって確認した。
図7】CRISPR/Cas9を使用したTRAC遺伝子座のエクソン1へのCD123特異的第2世代CARの非ウイルスHDR媒介性インテグレーションおよびCSL362に基づくCAR構築物の設計。
図8】エフェクターCAR T細胞を異なる標的細胞と1日共培養した後のエフェクターCAR T細胞活性化(CD69)を表すFACS分析の結果。単独のCD69+CAR T細胞(エフェクターT細胞)、または24時間の共培養後のHEK、HEK-CD123もしくはすべてのCD123変異体の存在下のCD69CAR T細胞の百分率の概要である。データを、HEK標的細胞の存在下におけるCD69細胞の百分率に対して正規化する。CARを発現しない対照T細胞は活性化されなかった。
図9図8の定量化基礎データ。共培養の1日目にCD123特異的CAR T細胞によるHEK、HEK-CD123およびその変異体のフローサイトメトリーによって測定された特異的殺傷の定量化。エラーバーは平均±SDを示す。3人の独立した血液ドナーおよび群あたり2回の技術的反復実験からのデータである。
図10A】CSL362に対するCD123 WTおよびE51TのBLIセンソグラム。
図10B】280秒における、捕捉されたCSL362抗体(同じレベルで捕捉された)との、50nMの最高濃度でのCD123_WTおよび変異体の結合のレベル。
図10C】対照抗体6H6に対するCD123_WTおよびE51TのBLIセンソグラム。
図10D】250秒での、捕捉された6H6抗体(捕捉/負荷レベルに対して正規化)とのCD123_WTおよび変異体の結合のレベル。
図10E】CSL362に対するE51QおよびE51TのBLIセンソグラム。
図10F】280秒における、捕捉されたCSL362抗体(最高濃度で捕捉)との、Bよりも高い濃度(最高濃度として300nM)でのCD123_変異体の結合のレベル。
図10G】250秒における、捕捉されたフロテツズマブ(同じレベルで捕捉)との、50nMの最高濃度でのCD123_WTおよび300nMの最高濃度でのCD123_変異体との結合レベル。
図11A】IL3に結合するCD123_WTおよびE51TのBLIセンソグラム。
図11B】250秒での捕捉されたビオチン化CD123変異体とのIL3の結合のレベル(捕捉/負荷レベルに対して正規化)。
図12A】SYPRO Orangeを使用して熱的アンフォールディングを監視する。挿入図は一次導関数データである。蛍光を、PBS緩衝液5×Syproオレンジ色素でモニターした。タンパク質濃度は0.25mg/mLである。使用した加熱速度は1.5℃/分ランプであり、25から95℃まで記録した。CD123_WTおよびCD123変異体の熱的アンフォールディング(E51T、E51K、E51Q、S59P、S59EおよびR84E)。
図12B】SYPRO Orangeを使用して熱的アンフォールディングを監視する。挿入図は一次導関数データである。蛍光を、PBS緩衝液5×Syproオレンジ色素でモニターした。タンパク質濃度は0.25mg/mLである。使用した加熱速度は1.5℃/分ランプであり、25から95℃まで記録した。CD123変異体の熱的アンフォールディング(E51A、S59R、S59F、S59Y、R84QおよびR84T)。
図13】バルクTF-1細胞を、対照(crRNAなし)、KO(crRNAはあるがHDRTなし)、またはKI(crRNA+KI HDRT、E51KまたはE51T)として培養した。IL-3またはGM-CSFと共に培養した対照細胞は、MIRG123+、6H6+のままであった。GM-CSFと共に培養したKO細胞は、ほとんどがMIRG123-、6H6+のままであった。対照的に、IL-3と共に徐々に培養したKO細胞を含む培養物では、MIRG123+、6H6+細胞の集団が検出可能になった。6日目に、MIRG123+、6H6+集団が支配的であり、CD123受容体を発現する細胞がIL3の存在下で競合的利点を有したことが実証された。KI細胞(E51KまたはE51T)では、MIRG123-6H6+の集団だけでなく、MIRG123+6H6+細胞の集団も、IL3と共に徐々に増加した。これは、GM-CSFと共に培養した細胞ではあまり顕著ではなかった。したがって、KI細胞(MIRG123-6H6+)は機能的受容体を有する。
図14】TF-1細胞(野生型、ノックアウト、ならびにE51KおよびE51Tノックイン細胞を、IL3で刺激されるそれらの能力について試験した。CD123のE51KおよびE51T変異体を発現するTF-1ノックイン細胞は、hIL3の添加により、野生型CD123を発現するTF-1細胞と同程度に増殖することができる。ノックアウト細胞は、hIL3に対して最小限の応答しか示さない。
図15】抗体MIRG123を、TF-1細胞(野生型、ノックアウト、ならびにE51KおよびE51Tノックイン細胞)に結合するその能力について試験した。MIRG123は、IL3刺激野生型TF-1細胞の用量依存的な増殖遮断およびアポトーシスをもたらす。対照的に、CD123のE51KおよびE51T変異体を発現するTF-1ノックイン細胞は、MIRG123の遮断効果から効率的に保護される。
図16】E51KおよびE51Tノックインを有するHSPC細胞を首尾よく生成することができた。エレクトロポレーション(EP)の2日後および5日後のノックイン細胞の百分率をプロットしている。
図17】E51KおよびE51TノックインのHSCは、対照抗体6H6によって評価した場合、抗体MIRG123への結合の喪失を示したが、CD123の発現を保存した。
図18】LT-HSC(長期再増殖造血幹細胞)、ならびにMPP1細胞(CD34+CD38-CD90-CD45RA-)およびMPP2細胞(CD34+CD38-CD90-CD45RA+)も首尾よく編集されている。
図19】ヒトエフェクターT細胞と対照または編集されたHSPC細胞(E:T=3:1)とを、CD3/CSL362 BiTEの存在下で共培養すると、フローサイトメトリープロットの定量化によって測定した場合、BiTEで処理すると野生型HSPCの減少に至った。対照的に、CD123 E51KまたはE51T変異体を発現するHSCは、保護され、富化される。エラーバーは平均±SDを示す。2人の独立したドナーでデータを作成した。
図20】ヒトエフェクターT細胞と対照または編集されたHSPC細胞(E:T=3:1)とを、CD3/CSL362 BiTEの存在下で共培養すると、フローサイトメトリープロットの定量化によって測定した場合、BiTEで処理すると野生型HSPCの減少に至った。対照的に、CD123 E51KまたはE51T変異体を発現するHSCは、保護され、富化される。エラーバーは平均±SDを示す。2人の独立したドナーでデータを作成した。
【発明を実施するための形態】
【0017】
免疫療法は、がん、遺伝性および自己免疫疾患を治療するための有望な治療法である。腫瘍抗原を対象として操作された免疫細胞などの免疫枯渇剤は、腫瘍細胞を標的化して殺傷させるために患者に投与される。しかしながら、腫瘍表面タンパク質はまた造血細胞を含む正常細胞の表面で発現されるので、この戦略は、例えば造血を変化させることによって患者に重篤な副作用を誘発することができる。患者における造血を回復させるために、造血細胞をその後に患者に移植することができる。しかしながら、病んだ細胞だけでなく、新たに移植された健常な細胞への枯渇剤の結合は、最大耐量を制限し得るか、または健常な細胞の移植前の治療への使用を制限し得る。あるいは、移植された細胞が、前記免疫枯渇剤によって標的化され、排除されないように、前記免疫枯渇剤に対して耐性である必要がある。したがって、本発明者は、患者における正常な造血を回復させるためのそれらの機能を保持しながら、免疫療法において使用される前記免疫枯渇剤に対して耐性の細胞を選択した。
【0018】
本発明者らは、特定の枯渇剤の結合に関与する表面タンパク質領域をコードする遺伝子配列の機能的対立遺伝子変異体を同定する方法を開発する。そのような変異体は、天然に存在する多型および/または設計および操作された変異体であり得る。表面タンパク質の異なるアイソフォームを選択または生成することができる。前記多型の核酸によってコードされる表面タンパク質の前記第1のアイソフォームは、特定の枯渇剤によって認識されない。この変異対立遺伝子は、特に表面タンパク質の機能を変化させない。したがって、前記枯渇剤を使用して、一方のアイソフォームに特異的に結合し、他方のアイソフォームには結合せず、それによって、1つのアイソフォームを発現する細胞を特異的に枯渇させることができる。例えば、枯渇剤が第1のアイソフォームではなく第2のアイソフォームに特異的に結合する場合、前記枯渇剤は、前記第2のアイソフォームを発現する細胞を特異的に枯渇させる。別の実施形態では、前記第1のアイソフォームは、第2の薬剤によって認識され得、したがって、この第2の薬剤は、第2のアイソフォームではなく、第1のアイソフォームを発現する細胞を特異的に枯渇させるために使用され得る。少なくとも1つの変異対立遺伝子によってコードされる表面タンパク質の第1のアイソフォームを発現する細胞は、第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者における医学的治療において、特に、それぞれ第2または第1の薬剤を使用することによって、特異的に移植された細胞または患者の細胞を枯渇させるために有利に使用される。
【0019】
枯渇剤
本開示は、細胞上の表面タンパク質の1つのアイソフォームに特異的に結合し、前記表面タンパク質の別のアイソフォームには結合しない抗原結合領域を含む薬剤に関する。そのような薬剤は、本明細書では「枯渇剤」と呼ばれる。前記表面タンパク質の両方のアイソフォームは機能性であり、すなわち、前記表面タンパク質の少なくとも1つの関連する特性に関して機能性である場合、表面タンパク質である。好ましくは、前記表面タンパク質の両方のアイソフォームは、同じ機能を有する、すなわち、機能的に区別できない。
【0020】
しかしながら、表面タンパク質の2つのアイソフォームは、枯渇剤への結合に関して異なる。枯渇剤は、前記表面タンパク質のアイソフォームの1つにのみ特異的に結合する。したがって、アイソフォームは、機能的に同一であるが免疫学的に区別可能であると記載することができる。
【0021】
前記表面タンパク質の第1のアイソフォームおよび第2のアイソフォームは、前記表面タンパク質の多型対立遺伝子であり得る。好ましくは、前記表面タンパク質の第1のアイソフォームおよび第2のアイソフォームは、前記表面タンパク質の天然に存在する多型対立遺伝子である。また好ましくは、前記表面タンパク質の第1のアイソフォームおよび第2のアイソフォームは、一塩基多型(SNP)対立遺伝子である。
【0022】
前記表面タンパク質の第1のアイソフォームおよび第2のアイソフォームはまた、遺伝子操作された対立遺伝子であり得る。好ましくは、前記表面タンパク質の第1のアイソフォームおよび第2のアイソフォームは、1、2、3、4または5アミノ酸異なる。最も好ましくは、前記表面タンパク質の第1のアイソフォームおよび第2のアイソフォームは、1つのアミノ酸が異なる。
【0023】
第2のアイソフォームを生成するために表面タンパク質に導入される突然変異を判定するために、様々な方法を使用することができる。例えば、突然変異を表面タンパク質にランダムに挿入し、続いて生成された変異体の機能的および免疫学的スクリーニングを行うことができる。あるいは、突然変異は、例えば表面タンパク質の二次または三次タンパク質の構造の分析によって合理的に設計することができる。
【0024】
枯渇剤は、細胞上の表面タンパク質の1つのアイソフォームに特異的に結合し、前記表面タンパク質の別のアイソフォームには結合しない抗原結合領域を含む。本開示の枯渇剤は、2つの主要なカテゴリーに分けることができる。
【0025】
第1に、枯渇剤は、抗原結合領域を含むポリペプチドであり得る。前記ポリペプチドは、1つ以上のポリペプチド鎖からなり得る。好ましくは、抗原結合領域を含む前記ポリペプチドは抗体である。抗原結合領域を含む前記ポリペプチドはまた、抗体断片、抗体薬物コンジュゲート、または抗体もしくは足場の別の変異体であり得る。例示的な抗体断片および足場には、単一ドメイン抗体、マキシボディ、ミニボディ、イントラボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、v-NAR、ビス-scFv、ラクダ抗体、アンキリン、センチリン、ドメイン抗体、リポカリン、小型モジュール免疫医薬品、マキシボディ、プロテインAおよびアフィリンが含まれる。
【0026】
抗原結合領域を含む前記ポリペプチドは、二重特異性、バイスペシフィックまたは多重特異性抗体であってもよい。そのような分子はまた、さらなる機能的ドメインを含有し得る。例えば、抗原結合領域を含む前記ポリペプチドは、T細胞エンゲージャー、例えばBiTEであり得る。抗原結合領域を含む前記ポリペプチドはまた、サイトカインもしくはケモカイン、または細胞表面受容体の細胞外ドメインに融合され得る。
【0027】
あるいは、枯渇剤は、抗原結合領域を含む細胞であり得る。例えば、枯渇剤はキメラ抗原受容体(CAR)であり得る。本開示の特定の実施形態では、抗原結合領域を含む前記細胞は、CAR T細胞、CAR NK細胞またはCARマクロファージである。本開示の好ましい実施形態では、抗原結合領域を含む前記細胞はCAR T細胞である。本開示の別の好ましい実施形態では、抗原結合領域を含む前記細胞は、CARを含む初代T細胞である。
【0028】
枯渇剤は、表面タンパク質の1つのアイソフォームに特異的に結合するが、第2のアイソフォームには結合せず、したがって、1つのアイソフォームを発現する細胞を特異的に枯渇させる。
【0029】
特定の実施形態では、本開示は、表面タンパク質の第2のアイソフォームに特異的に結合し、第1のアイソフォームに結合しない第1の抗原結合領域を含む薬剤に関する。他の実施形態では、本開示はまた、第1のアイソフォームに特異的に結合し、第2のアイソフォームに結合しない第2の抗原結合領域を含む薬剤に関する。
【0030】
表面タンパク質の第1および第2のアイソフォームは、1つのアミノ酸置換のみが互いに異なり得る。第1のアイソフォームと第2のアイソフォームとの間の前記1つのアミノ酸の相違はまた、天然に存在する一塩基多型などの一塩基多型が存在することの結果であり得る。表面タンパク質の第1および第2のアイソフォームはまた、1個より多いアミノ酸、例えば2個、3個、または3個より多いアミノ酸が互いに異なっていてもよい。表面タンパク質の第1および第2のアイソフォームはまた、アイソフォームの一方が他方のアイソフォームと比較して1個、2個、3個または3個を超えるアミノ酸の挿入を有するという点で互いに異なり得る。表面タンパク質の第1および第2のアイソフォームはまた、アイソフォームの一方が他方のアイソフォームと比較して1個、2個、3個または3個を超えるアミノ酸の欠失を有するという点で互いに異なり得る。好ましい実施形態では、前記枯渇剤は抗体または抗原結合断片である。
【0031】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち抗原に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含む分子を指す。したがって、抗体という用語は、抗体分子全体だけでなく、抗体断片ならびに抗体の変異体(誘導体を含む)も包含する。
【0032】
げっ歯類および霊長類の天然の抗体では、2本の重鎖がジスルフィド結合によって互いに連結されており、各重鎖はジスルフィド結合によって軽鎖に連結されている。ラムダ(λ)とカッパ(κ)という2種類の軽鎖が存在する。IgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEという、抗体分子の機能活性を決定する5つの主要な重鎖クラス(またはアイソタイプ)がある。各鎖は、異なる配列ドメインを含む。典型的なIgG抗体では、軽鎖は2つのドメイン、可変ドメイン(VL)および定常ドメイン(CL)を含む。重鎖は、4つのドメイン、可変ドメイン(VH)および3つの定常ドメイン(CH1、CH2、およびCH3、総合的にCHと呼ばれる)を含む。軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)の両方が、抗原に対する結合認識および特異性を決定する。軽鎖定常領域ドメイン(CL)および重鎖定常領域ドメイン(CH)は、抗体鎖会合、分泌、経胎盤移動性、補体結合、およびFc受容体(FcR)への結合などの重要な生物学的特性を付与する。
【0033】
Fv断片は、免疫グロブリンのFab断片のN末端部分であり、1つの軽鎖および1つの重鎖の可変部分からなる。抗体の特異性は、抗体結合部位と抗原決定基との間の構造的相補性にある。抗体結合部位は、主に超可変または相補性決定領域(CDR)に由来する残基で構成される。時折、非超可変領域またはフレームワーク領域(FR)由来の残基は、抗体結合部位に関与し得るか、またはドメイン構造全体、したがって結合部位に影響を及ぼし得る。相補性決定領域、つまりCDRは、天然の免疫グロブリン結合部位の天然のFv領域の結合親和性および特異性を一緒に定めるアミノ酸配列を指す。免疫グロブリンの軽鎖および重鎖はそれぞれ、3つのCDRを有し、L-CDR1、L-CDR2、L-CDR3、およびH-CDR1、H-CDR2、H-CDR3とそれぞれ呼ばれる。したがって、抗原結合部位は、典型的には、重鎖V領域および軽鎖V領域のそれぞれに由来するCDRセットを含む6つのCDRを含む。フレームワーク領域(FR)は、CDR間に介在するアミノ酸配列を指す。したがって、軽鎖および重鎖の可変領域は、典型的には、以下の配列、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の4つのフレームワーク領域および3つのCDRを含む。
【0034】
抗体可変ドメインの残基は、従来、Kabatらによって考案されたシステムに従ってナンバリングされる。このシステムは、Kabat et al.,1987,in Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Department of Health and Human Services,NIH,USA(Kabat et al.,1992、以降「Kabat et al.」)に記載されている。このナンバリングのシステムが、本明細書で使用されている。Kabatの残基表記は、配列番号の配列におけるアミノ酸残基の線形の番号付けと必ずしも直接対応しない。実際の線形のアミノ酸配列は、基本的な可変ドメイン構造のフレームワークまたは相補性決定領域(CDR)にかかわらず、構造成分の短縮または挿入に対応する厳密なKabatナンバリングよりも少ないまたは付加的なアミノ酸を含み得る。残基の正確なKabatナンバリングは、抗体の配列における相同性の残基と「標準的な」Kabatナンバリングのなされた配列とのアラインメントによって、所与の抗体について決定され得る。重鎖可変ドメインのCDRは、Kabatナンバリングシステムに従って、残基31から35(H-CDR1)、残基50から65(H-CDR2)および残基95から102(H-CDR3)に位置する。軽鎖可変ドメインのCDRは、Kabatナンバリングシステムに従って、残基24から34(L-CDR1)、残基50から56(L-CDR2)、および残基89から97(L-CDR3)に位置する。
【0035】
特定の実施形態では、本明細書において提供される抗体は、抗体断片、より具体的には本明細書に開示される抗体の抗原結合ドメインを含む任意のタンパク質である。抗原結合ドメインはまた、別のタンパク質足場に組み込まれ得る。抗体断片および足場には、Fv、Fab、F(ab’)2、Fab’、dsFv、scFv、sc(Fv)2、ダイアボディ、単一ドメイン抗体、マキシボディ、ミニボディ、イントラボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、v-NAR、ビス-scFv、ラクダ科抗体、アンキリン、センチリン、ドメイン抗体、リポカリン、小型モジュール免疫医薬品、マキシボディ、プロテインAおよびアフィリンが含まれるが、これらに限定されない。
【0036】
本明細書で使用される場合、「抗原結合領域」または「抗体の抗原結合断片」は、場合によってはそのネイティブ形態で、特定の抗原に対する抗原結合能力を示す抗体の一部、すなわち抗体の構造の一部に対応する分子を意味する。そのような断片は、特に、対応する4鎖抗体の抗原結合特異性と比較して、前記抗原に対して同じまたは実質的に同じ抗原結合特異性を示す。抗原結合能は、抗体と標的断片との間の親和性を測定することによって、決定することができる。この抗原結合領域は、抗体の「機能的断片」と呼ばれることもある。
【0037】
本開示の薬剤は、抗体およびその断片を含むが、本明細書では抗原結合抗体模倣物とも呼ばれる、抗体の抗原を模倣する、抗原に結合する能力を有する人工タンパク質も含む。抗原結合抗体模倣物は、抗原に特異的に結合するが、抗体に構造的に関連しない有機化合物である。それらは、通常、約3kDaから20kDaのモル質量を有する人工ペプチドまたは小タンパク質である。
【0038】
「抗原を認識する抗原結合領域」および「抗原に対する特異性を有する抗原結合領域」という語句は、本明細書では「抗原に特異的に結合する抗原結合領域」という用語と互換的に使用される。本明細書で使用される場合、「特異性」という用語は、抗体などの抗原結合領域を含む薬剤が抗原において提示されたエピトープに検出可能に結合できることを指す。
【0039】
「明らかな親和性」または「特異的結合」または「特異的に結合する」には、約10-8M(KD)またはそれより強い親和性での結合が含まれる。好ましくは、結合親和性が10-8M(KD)から10-12M(KD)、任意選択で10-8M(KD)から10-10M(KD)、特に少なくとも10-8M(KD)である場合、結合は特異的であると考えられる。親和性は、当業者に周知の様々な方法によって決定することができる。これらの方法には、表面プラズモン共鳴(SPR)、バイオレイヤー干渉法(BLI)、マイクロスケール熱泳動(MST)およびスキャッチャードプロットが含まれるが、これらに限定されない。結合ドメインが標的と特異的に反応するかまたは標的に結合するかどうかは、とりわけ、前記結合ドメインと標的タンパク質または抗原との反応を、前記結合ドメインと標的タンパク質以外のタンパク質または抗原との反応と比較することによって、容易に試験することができる。
【0040】
本明細書で使用される場合、「エピトープ」という用語は、抗体またはその抗原結合領域が結合する抗原の一部を意味する。タンパク質抗原のエピトープは、立体構造エピトープおよび線状エピトープの2つのカテゴリーに分けることができる。立体構造エピトープは、抗原のアミノ酸配列の不連続の部分に対応する。線状エピトープは、抗原からのアミノ酸の連続した配列に対応する。
【0041】
別の態様では、二重特異性または多重特異性の分子、例えば二重特異性抗体または多重特異性抗体が、本明細書にさらに開示される。例えば、抗体は、少なくとも2つの異なる結合部位または標的分子に結合する二重特異性分子を生成するために、別の機能性分子、例えば別のペプチドまたはタンパク質(例えば、受容体に対する別の抗体またはリガンド)に誘導体化または連結され得る。抗体は、実際には、2つを超える異なる結合部位および/または標的分子に結合する多重特異性分子を生成するために、1つを超える他の機能性分子に誘導体化または連結され得る。そのような多重特異性分子はまた、本明細書で使用される「二重特異性分子」、「二重特異性抗体」、「二重特異性分子」、「二重特異性抗体」、「多重特異性分子」、および「多重特異性抗体」という用語に包含されることが意図される。二重特異性分子を作出するために、本発明の抗体は、二重特異性分子が生じるように、1つまたはそれを超える他の結合分子、例えば、別の抗体、抗体断片、ペプチドまたは結合模倣物、サイトカイン、ケモカイン、または受容体細胞外ドメインに機能的に連結され得る(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合または他の方法によって)。本開示によって企図される特定の二重特異性分子および多重特異性分子は、T細胞エンゲージャー、例えば二重特異性T細胞エンゲージャー、例えばBiTEである。
【0042】
本明細書で使用される場合、特定のアイソフォームに結合しない薬剤には、前記特定のアイソフォームを発現する細胞に結合することができない薬剤が含まれる。特に、前記薬剤は、蛍光マーカーで標識されるか、または前記薬剤を対象とする二次抗体で検出され、FACS分析によって検出された表面での前記蛍光マーカーまたは前記二次抗体染色を提示する細胞の割合は、実験のパートにおいて記載されているように判定される。変異体アイソフォームの発現をモニタリングするために、細胞を2つの薬剤で同時に染色し、一方は変異体が導入されたエピトープに結合し(例えば、抗CD123 CSL362)、第2のものは第1の薬剤によって結合されたものとは異なるエピトープに結合する(例えば抗CD123クローン6H6)。第2のエピトープは変化しないままであり、したがって、この染色は発現の制御として働く。非結合制御として、目的のタンパク質を発現しない細胞(例えばHEK細胞)を使用した。最大限の結合制御として、目的のタンパク質を通常発現しない細胞を、野生型アイソフォーム(例えばHEK-CD123)でトランスフェクトした。したがって、特定の実施形態では、FACS分析により検出する蛍光マーカーにカップリングされる薬剤(例えば抗CD123抗体)にその表面で結合する細胞のパーセンテージが10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは1%未満、または検出可能な限界に満たないものである場合、前記薬剤は、前記特定のアイソフォームを発現する細胞に結合することができない。これにより、結合を、右上象限(すなわち、制御薬剤および目的の薬剤の両方への結合)のFACSにおける蛍光によって測定する。結合の減少はまた、前記第1の薬剤の蛍光の減少をもたらすが、前記第2の薬剤の蛍光の減少をもたらさない。
【0043】
別のアッセイでは、2つの薬剤の結合、すなわち、変異体が導入されたエピトープに結合するもの(例えば抗CD123抗体CSL362)と、第1の薬剤によって結合されたものとは異なるエピトープに結合する第2のもの(例えば抗CD123クローン6H6)との結合を、標識なしで、リアルタイムで、野生型の精製された組換えCD123細胞外ドメインならびに変異体アイソフォームについて、バイオレイヤー干渉法によって、測定する。したがって、特定の実施形態において、前記第1の薬剤は、バックグラウンドを上回る関連シグナルが50nMから300nMという抗体の濃度において検出可能でない場合、組換えCD123変異体アイソフォーム細胞外ドメインに結合することができない。50nMから300nMの濃度での不変異体エピトープに対する第2の薬剤の検出可能な結合は、結合および完全性の制御として作用する。
【0044】
前記薬剤の結合は、第1のアイソフォームを発現する細胞の枯渇をもたらし得る。様々な機構が細胞の枯渇をもたらし得る。抗体依存性細胞傷害(ADCC)は、標的タンパク質への薬剤の結合およびNK細胞によって発現されるFcRによって結合される薬剤へのFc部分を介したNK細胞の活性化から生じる。免疫グロブリンのFc部分は、免疫グロブリンの重鎖のC末端領域を指す。Fc部分は、野生型または操作されたものであり得る。強化され操作されたFc部分の突然変異は、当技術分野で公知である。特定の治療の状況では、エフェクター機能を誘導する抗体の能力を低減または無効にするために、Fc受容体の1つ以上または全部への野生型IgG Fc領域などの抗体の野生型Fc領域の正常な結合、および/またはC1qなどの補体成分への結合を、低減または無効にすることが所望される。例えば、FcyRI、FcyRIla、FcyRIIb、FcyRIIIaなどのFcy受容体の1つ以上またはすべてに対する抗体のFc領域の結合を低減または無効にすることが所望され得る。エフェクター機能には、以下の、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、サイトカインの分泌、抗原提示細胞による免疫複合体媒介性の抗原取り込み、NK細胞への結合、マクロファージへの結合、単球への結合、多形核細胞への結合、アポトーシスを誘導する直接シグナル伝達、標的結合抗体の架橋、樹状細胞の成熟、またはT細胞プライミングのうちの1つまたは複数が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0045】
Fc受容体および/またはC1qへのFc領域の結合の低減または無効は、典型的には、野生型Fc領域、例えばIgG1 Fc領域、より具体的にはヒトIgG1 Fc領域を変異させて、前記野生型Fc領域の変異または操作されたFc領域、例えば変異体ヒトIgG1 Fc領域をもたらすことによって達成される。結合の低減をもたらす置換が有用であり得る。Fc受容体に対するFc領域の結合特性を低減または無効にするために、非保存的アミノ酸置換、すなわちあるアミノ酸を異なる構造的および/または化学的特性を有する別のアミノ酸で置換することが好ましい。
【0046】
代用のADCCアッセイは、実験のパートに記載されているように、ADCCを媒介する薬剤の効力を定量するための業界の標準を構成する。操作されたJurkatレポーター細胞は、NFAT応答性ルシフェラーゼ遺伝子およびFc受容体を有する。結合する抗体とのFc受容体の結合は、NFAT誘導、したがってルシフェラーゼシグナルを生じる。結合がないと、ルシフェラーゼシグナルを生じない。標的タンパク質を発現しない細胞(例えばHEK)、野生型タンパク質を発現する細胞(例えばHEK-CD123)または個々の変異体を発現する細胞(例えば、CD123変異体)を試験薬剤(例えば、CSL362またはMIRG123)と共にインキュベートし、ADCCレポーター細胞と混合した。次いで、ルシフェラーゼを測定してADCCシグナルを定量した。ルシフェラーゼ発光シグナルを、HEK-CD123において観察された最大のシグナルに対して正規化した。ADCCは、ADCCレポーターアッセイ(Promega、カタログ番号G7015)を用いて測定した。
【0047】
標的細胞を枯渇させる別の方法は、T細胞エンゲージャー分子の使用によるものである。本発明者らは、Hutmacher,Leuk Res,2019に記載されているように、CSL362由来のCD123結合部位およびCD3(OKT3)結合部位を使用して二重特異性T細胞エンゲージャーを構築した。ADCCアッセイに使用したのと同じ標的細胞を使用した。初代ヒトT細胞および二重特異性T細胞エンゲージャーを添加した。ヒトT細胞の活性化を、CD69アップレギュレーションの頻度を決定することによってFACSによって定量した。さらに、方法に記載されているように、特異的殺傷を計算した。
【0048】
本開示による枯渇剤は、表面タンパク質の1つのアイソフォームに特異的に結合し、前記アイソフォームを発現する細胞の枯渇を可能にする。
【0049】
より好ましくは、特定の実施形態において、本開示による前記枯渇剤は、細胞表面タンパク質の第1のアイソフォームに結合せず、前記細胞表面タンパク質の第2のアイソフォームに特異的に結合し、特に本明細書において開示されるような使用方法において、前記第2のアイソフォームを発現する前記細胞の枯渇を可能にする。特に、細胞表面タンパク質の第1のアイソフォームに結合しないが、患者の細胞において発現される第2のアイソフォームに特異的に結合する前記枯渇剤は、患者の細胞を枯渇させるために使用されるが、前記患者において造血を回復させるために移植された前記第1のアイソフォームを発現する造血幹細胞またはその継代を枯渇させない。
【0050】
別の実施形態において、本開示による前記枯渇剤は、細胞表面タンパク質の第2のアイソフォームに結合せず、前記細胞表面タンパク質の第1のアイソフォームに特異的に結合し、特に本明細書において開示されるような使用方法において、前記第1のアイソフォームを発現する細胞の枯渇を可能にする。特に、細胞表面タンパク質の第2のアイソフォームに結合しないが、移植された細胞において発現される第1のアイソフォームに特異的に結合する前記枯渇剤は、移植された細胞を特異的に枯渇させて、移植による移植片対宿主病などの最終的な重篤な副作用を回避するために使用される。
【0051】
表面タンパク質の特異的アイソフォームを発現する細胞の選択的枯渇は、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)または抗体依存性細胞貪食(ADCP)によって制限なく達成することができる。
【0052】
特定の実施形態では、抗原結合領域を、薬物または毒素などのエフェクター化合物にカップリングさせる。そのようなコンジュゲートは、本明細書では「イムノコンジュゲート」または「抗体-薬物コンジュゲート」(ADC)と呼ばれる。細胞毒または細胞傷害剤は、細胞に有害な(例えば、殺傷する)任意の薬剤を含む。例としては、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、t.コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、メイタンシノイド、カリケアマイシン、インドリノベンゾジアゼピン、ピロロベンゾジアゼピン、アルファ-アマニチン、ミクロシスチン、アウリスタチン、およびピューロマイシンならびにそれらの類似体またはホモログが挙げられる。
【0053】
別の特定の実施形態において、前記枯渇剤は、キメラ抗原受容体(CAR)などの抗原受容体を有する免疫細胞である。前記免疫細胞は、その細胞表面に、抗原受容体とも呼ばれる組換え抗原結合領域を発現し得る。「組換え体」とは、その天然の状態で細胞によってコードされない、すなわち異種の非内因性である抗原結合領域を意味する。したがって、組換え抗原結合領域の発現は、免疫細胞に新しい抗原特異性を導入し、細胞に以前に認識されていない抗原を認識させて結合させるということが分かる。抗原受容体は、任意の有用な供給源から単離され得る。本開示の特定の実施形態では、抗原結合領域を含む前記細胞は、CAR T細胞、CAR NK細胞、またはCARマクロファージである。本開示の好ましい実施形態では、抗原結合領域を含む前記細胞はCAR T細胞である。本開示の別の好ましい実施形態では、抗原結合領域を含む前記細胞は、CARを含む初代T細胞である。
【0054】
特定の実施形態では、前記組換え抗原受容体はキメラ抗原受容体(CAR)である。CARは、TCR複合体のシグナル伝達ドメインに連結された、典型的には抗体に由来する抗原結合領域を含む融合タンパク質である。CARは、適切な抗原結合領域が選択される場合、T細胞またはNK細胞などの免疫細胞を標的抗原に対して指向させるために使用することができる。
【0055】
CARの抗原結合領域は、典型的には、抗体に由来するscFv(一本鎖可変断片)に基づく。N末端の細胞外抗体結合領域に加えて、CARは、典型的には、それが発現される免疫エフェクター細胞の原形質膜から離れるように抗原結合領域を延ばすためのスペーサーとして機能するヒンジドメイン、膜貫通(TM)ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメイン(例えば、TCR複合体のCD3分子のゼータ鎖(CD3ζ)由来のシグナル伝達ドメイン、または同等物)、および任意選択でCARを発現する細胞のシグナル伝達または機能性を支援し得る1つまたは複数の共刺激ドメインを含み得る。CD28、OX-40(CD134)および4-1BB(CD137)を含む共刺激分子からのシグナル伝達ドメインは、CAR改変免疫細胞の生存を増強し、増殖を増加させるために、単独で(第2世代)または併用して(第3世代)添加することができる。
【0056】
当業者は、本発明に従って使用される免疫細胞をリダイレクトするための上記の適切な抗原結合領域を選択することができる。特定の実施形態では、本発明の方法で使用するための免疫細胞は、リダイレクトされたT細胞、例えば、リダイレクトされたCD8+T細胞もしくはリダイレクトされたCD4+T細胞、またはリダイレクトされたNK細胞である。
【0057】
本発明者らは、クローンCSL362の一本鎖可変断片(scFv)、CD8アルファヒンジおよび膜貫通ドメイン(Gen CD8A ENSG00000153563)、細胞内シグナル伝達部分4-1BB(Gen TNFRSF9 ENSG00000049249)、およびCD3ゼータ(Gen CD247 ENSG00000198821)を有するCD123特異的CARを生成した。特異的殺傷は、実施例に記載されているように、フローサイトメトリーによって生存細胞の数を判定することによって測定することができる。特異的殺傷を、示された式、(1-CAR T細胞と共培養した生存標的細胞数/対照細胞と共培養した生存標的細胞数)*100に従って計算した。
【0058】
組換え抗原結合領域を発現するように免疫細胞を遺伝子改変することができる方法は、当技術分野で周知である。抗原受容体をコードする核酸分子は、例えばベクター、または任意の他の適切な核酸構築物の形態で、細胞に導入され得る。ベクターおよびそれらの必要な成分は、当技術分野で周知である。抗原結合領域をコードする核酸分子は、当技術分野で公知の任意の方法、例えばPCRを用いた分子クローニングを用いて生成することができる。抗原結合領域配列は、部位特異的突然変異誘発などの一般的に使用される方法を使用して改変することができる。
【0059】
抗CD123剤
抗CD123剤は当技術分野で公知である。例えば、タラコツズマブ(CSL362)は、CSL Limitedのヒト化抗CD123抗体であり、フロテツズマブは、Macrogenics(Uy et al.Blood 137:751-62)によって開発された二重特異性T細胞エンゲージャーである。抗CD123/抗CAR-Tは、Chongqing Precision Biotechによって開発されている。MB-102、抗CD123/抗CD28共刺激細胞剤は、Mustang Bioによって開発されている。IMG-532は、Immunogenによって開発された抗CD123-ADCである。UCART-123は、Cellectisによって開発された抗CD123 CAR-Tである。Vibecotamabは、Xencorによって開発された抗CD123/抗CD3二重特異性抗体である。GeMoaB Monoclonals、Novartis(JEZ-567)、Hrain Biotechnology(HRAIN-004)、およびHebei Senlang Biotechnologyのものを含む他の抗CD123 CAR-Tも開発中である。開発中の二重特異性分子には、Aptevo TherapeuticsのAPVO-436およびJohnson&JohnsonのJNJ-63709178が含まれる。これらの分子はすべて、本開示による細胞表面タンパク質の2つのアイソフォームを区別することができる限り、主に本開示の方法および組成物に使用することができる。
【0060】
タラコツズマブ(CSL362)、フロテツズマブおよびビベコタマブは、同じ親抗体の誘導体であり、それらのCDRは98から100%の配列同一性を有する。したがって、CSL362のエピトープを知ることにより、フロテツズマブおよびビベコタマブが同一のエピトープに結合すると仮定することができる。
【0061】
特定の実施形態では、前記表面タンパク質がCD123である場合、上記のように前記第2のアイソフォームに結合し、前記第1のアイソフォームに結合しない前記枯渇剤は、配列番号1のアミノ酸T48、D49、E51、A56、D57、Y58、S59、M60、P61、A62、V63、N64、T82、R84、V85、A86、N87、P89、F90、S91を含むエピトープに特異的に結合する。
【0062】
好ましい実施形態では、前記抗CD123剤は、以下を含む抗原結合領域を含む。
a)3つのCDR VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、VHCDR1は配列番号2(DYYMK)であり、VHCDR2は配列番号3(DIIPSNGATFYNQKFKG)であり、VHCDR3は配列番号4(SHLLRASWFAY)である、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、VLCDR1は配列番号5(ESSQSLLNSGNQKNYLT)または配列番号6(KSSQSLLNSGNQKNYL)であり、VLCDR2は配列番号7(WASTRES)であり、VLCDR3は配列番号8(QNDYSYPYT)である。
【0063】
抗原結合領域は、上で定義されたそれらの結合特性についてさらにスクリーニングまたは最適化され得ることがさらに企図される。特に、その前記抗原結合領域は、本明細書において提供されるモノクローナル抗体の1、2、3、4、5または6つのCDR、特に配列番号3から8のアミノ酸配列において1、2、3、4、5、6またはそれを超える変化を有し得ることが企図される。抗原結合領域の軽鎖可変領域または重鎖可変領域のVJ領域またはVDJ領域のCDR1、CDR2、CDR3、CDR4、CDR5、またはCDR6の1位、2位、3位、4位、5位、6位、7位、8位、9位または10位のアミノ酸は、保存アミノ酸または非保存アミノ酸による挿入、欠失または置換を有し得ることが企図される。置換され得るかまたは置換を構成し得るそのようなアミノ酸は、上に開示されている。
【0064】
いくつかの実施形態では、アミノ酸の相違は、保存的置換、すなわち、類似の化学的または物理的特性(サイズ、電荷、または極性)を有する別のアミノ酸による1つのアミノ酸の置換であり、この置換は、一般に、抗体の生化学的、生物物理学的、および/または生物学的特性に悪影響を及ぼさない。特に、置換は、抗体とCD123抗原との相互作用を破壊しない。前記保存的置換は、有利には、以下の5つの群、第1群-小脂肪性、非極性またはわずかに極性の残基(A、S、T、P、G)、第2群-極性、負に荷電した残基、およびそれらのアミド(D、N、E、Q)、第3群-極性、正に荷電した残基(H、R、K)、第4群-大脂肪、非極性残基(M、L、I、V、C)、および第5群-大きな、芳香族残基(F、Y、W)の中で選択される。
【0065】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD123剤は、抗原結合領域と同じエピトープに結合する抗原結合領域を含み、抗原結合領域は、以下を含む。
a)3つのCDR VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、VHCDR1は配列番号2(DYYMK)であり、VHCDR2は配列番号3(DIIPSNGATFYNQKFKG)であり、VHCDR3は配列番号4(SHLLRASWFAY)である、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、VLCDR1は配列番号5(ESSQSLLNSGNQKNYLT)または配列番号6(KSSQSLLNSGNQKNYL)であり、VLCDR2は配列番号7(WASTRES)であり、VLCDR3は配列番号8(QNDYSYPYT)である。
【0066】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD123剤は、抗原結合領域と同じエピトープ特異性を有する抗原結合領域を含み、抗原結合領域は、以下を含む。
a)3つのCDR VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、VHCDR1は配列番号2(DYYMK)であり、VHCDR2は配列番号3(DIIPSNGATFYNQKFKG)であり、VHCDR3は配列番号4(SHLLRASWFAY)である、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、VLCDR1は配列番号5(ESSQSLLNSGNQKNYLT)または配列番号6(KSSQSLLNSGNQKNYL)であり、VLCDR2は配列番号7(WASTRES)であり、VLCDR3は配列番号8(QNDYSYPYT)である。
【0067】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD123剤は、抗原結合領域と免疫学的に区別できない抗原結合領域を含み、抗原結合領域は、以下を含む。
a)3つのCDR VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、VHCDR1は配列番号2(DYYMK)であり、VHCDR2は配列番号3(DIIPSNGATFYNQKFKG)であり、VHCDR3は配列番号4(SHLLRASWFAY)である、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、VLCDR1は配列番号5(ESSQSLLNSGNQKNYLT)または配列番号6(KSSQSLLNSGNQKNYL)であり、VLCDR2は配列番号7(WASTRES)であり、VLCDR3は配列番号8(QNDYSYPYT)である。
【0068】
より特定の実施形態では、前記第1の抗原結合領域が、配列番号9、11および13から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる重鎖可変ドメイン、および/または配列番号10、12および14から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインを含む。
【0069】
別の特定の実施形態では、前記第1の抗原結合領域が、配列番号9、11および13から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる抗原結合領域と同じエピトープに結合する重鎖可変ドメイン、および/または配列番号10、12および14から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインを含む。
【0070】
別の特定の実施形態では、前記第1の抗原結合領域が、配列番号9、11および13から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる抗原結合領域および/または配列番号10、12および14から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインと同じエピトープ特異性を有する。
【0071】
別の特定の実施形態では、前記第1の抗原結合領域が、配列番号9、11および13から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる抗原結合領域および/または配列番号10、12および14から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインと免疫学的に区別できない。
【0072】
上で定義されたアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも90%、例えば少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有するその前記第1の抗原結合領域はまた、本開示の一部であり、典型的には、第1の抗原結合領域は、配列番号9、11、および13から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つからなる重鎖と、配列番号10、12、および14から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つからなる軽鎖とからなる前記第1の抗原結合領域と少なくとも同等またはそれより高次の結合活性を有する。
【0073】
特定の実施形態では、前記抗CD123剤は、CD123に対する少なくとも1つの第1の結合特異性、例えば本明細書に記載の抗CD123の1つの抗原結合領域、および第2の標的エピトープまたは標的抗原に対する第2の結合特異性を含む二重特異性CD123抗体であり得る。特に、前記二重特異性抗体は、Kuo S.R.,et al.Protein Eng.Des.Sel.2012;25:561-569,137;Hussaini M.,Blood.2013;122:360.;Chicili G.R.,Sci.Transl.Med.2015;7:289ra82 and Al-Hussaini M.Blood.2016;127:122-131)に記載されているように、二官能性融合抗CD123および抗CD3である。
【0074】
本開示によれば、前記抗CD123剤は、CD123標的抗原受容体、例えばCD123標的CARを有する免疫細胞であり得、前記抗原受容体は上記の抗原結合領域を含む。
【0075】
特定の実施形態では、CD123標的CARを有する前記免疫細胞(例えば、T細胞)は、それを必要とする患者において発現されるCD123の第2のアイソフォームを認識し、CD123の第1のアイソフォームを認識しない。特に、前記免疫細胞は、配列番号1のアミノ酸T48、D49、E51、A56、D57、Y58、S59、M60、P61、A62、V63、N64、T82、R84、V85、A86、N87、P89、F90、S91を含むエピトープに特異的に結合し得る。
【0076】
特定の実施形態では、前記抗CD123剤は、CARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、前記CARは、抗原結合領域、例えばscFvを含み、抗原結合領域は以下を含む。
a)VHCD1が配列番号2であり、VHCD2が配列番号3であり、VHCDR3が配列番号4である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、VLCDR1は配列番号5または6であり、VLCDR2は配列番号7であり、VLCDR3は配列番号8である。
【0077】
別の特定の実施形態において、前記抗CD123剤は、CARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、前記CARは、抗原結合領域、例えばscFvを含み、それは、抗原結合領域と同じエピトープに結合する抗原結合領域を含み、抗原結合領域は、以下を含む。
a)VHCD1が配列番号2であり、VHCD2が配列番号3であり、VHCDR3が配列番号4である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、VLCDR1は配列番号5または6であり、VLCDR2は配列番号7であり、VLCDR3は配列番号8である。
【0078】
別の特定の実施形態において、前記抗CD123剤は、CARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、前記CARは、抗原結合領域、例えばscFvを含み、それは、抗原結合領域と同じエピトープ特異性を有し、抗原結合領域は、以下を含む。
a)VHCD1が配列番号2であり、VHCD2が配列番号3であり、VHCDR3が配列番号4である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、VLCDR1は配列番号5または6であり、VLCDR2は配列番号7であり、VLCDR3は配列番号8である。
【0079】
別の特定の実施形態において、前記抗CD123剤は、CARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、前記CARは、抗原結合領域、例えばscFvを含み、それは、以下を含む抗原結合領域と免疫学的に区別できない抗原結合領域であり、
a)VHCD1が配列番号2であり、VHCD2が配列番号3であり、VHCDR3が配列番号4である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、VLCDR1は配列番号5または6であり、VLCDR2は配列番号7であり、VLCDR3は配列番号8である。
【0080】
より特定の実施形態では、前記抗CD123剤は、前記第1の抗原結合領域、例えばscFvを含むCARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、それは、配列番号9、11、および13から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる重鎖可変ドメイン、および/または配列番号10、12および、14から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインを含む。
【0081】
別の特定の実施形態では、前記抗CD123剤は、前記第1の抗原結合領域、例えばscFvを含むCARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、それは、配列番号9、11、および13から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる重鎖可変ドメイン、および/または配列番号10、12および、14から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインを含む抗原結合領域と同じエピトープに結合する。
【0082】
別の特定の実施形態では、前記抗CD123剤は、前記第1の抗原結合領域、例えばscFvを含むCARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、それは、配列番号9、11、および13から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる重鎖可変ドメイン、および/または配列番号10、12および、14から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインを含む抗原結合領域と同じエピトープ特異性を有する。
【0083】
別の特定の実施形態では、前記抗CD123剤は、前記第1の抗原結合領域、例えばscFvを含むCARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、それは、配列番号9、11、および13から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる重鎖可変ドメイン、および/または配列番号10、12および、14から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインを含む抗原結合領域として含む抗原結合領域と免疫学的に区別できない。
【0084】
好ましい実施形態では、前記抗CD123剤は、実施例に記載のCD123の特異的アイソフォームを標的とするCARを有する免疫細胞であり得、典型的には、前記抗CD123 CARは、ヒンジドメイン、CD8a膜貫通ドメイン、およびCD3分子のゼータ鎖からの細胞内シグナル伝達ドメイン、ならびに共刺激ドメイン4-1BBを含み、好ましくは、前記抗CD123 CARは、配列番号15を含むかまたはこれからなる。
【0085】
本開示によれば、前記抗CD123剤は、CD123を標的とする抗原受容体、例えばCD123の特異的アイソフォームを標的とするCARを有する免疫細胞であり得、前記抗原受容体は上記の抗原結合領域を含み、前記免疫細胞はCD123を発現しないか、または前記CARによって認識されないCD123のアイソフォームを発現する。
【0086】
特定の実施形態では、前記抗CD123剤は、CARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、CD123の特異的アイソフォームを標的とするCARは、scFvなどの抗原結合領域を含み、抗原結合領域は、以下を含む。
a)VHCD1が配列番号2であり、VHCD2が配列番号3であり、VHCDR3が配列番号4である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、VLCDR1は配列番号5または6であり、VLCDR2は、配列番号7であり、VLCDR3は、配列番号8である、
また、前記免疫細胞は、CD123を発現しないか、または前記CARによって認識されないCD123のアイソフォームを発現するかのいずれかである。
【0087】
より特定の実施形態では、前記抗CD123剤は、前記第1の抗原結合領域、例えばscFvを含むCARを有する免疫細胞(例えば、T細胞)であり得、それは、配列番号9、11、および13から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる重鎖可変ドメイン、および/または配列番号10、12および、14から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインを含み、前記免疫細胞は、前記CARによって認識されないCD123のアイソフォームを発現する。
【0088】
より好ましい実施形態では、前記抗CD123剤は、実施例に記載のようにCSL362抗体である。
【0089】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD123剤は、実施例に記載のようにMIRG123抗体である。
【0090】
別の好ましい実施形態では、前記抗CD123剤は、実施例に記載のCD123の特異的アイソフォームを標的とするCARを有する免疫細胞であり得、典型的には、前記抗CD123 CARは、ヒンジドメイン、CD8a膜貫通ドメイン、およびCD3分子のゼータ鎖からの細胞内シグナル伝達ドメイン、ならびに共刺激ドメイン4-1BBを含み、好ましくは、前記抗CD123 CARは、配列番号15を含むかまたはこれからなる。
【0091】
特に、本開示はまた、それを必要とする対象において、宿主細胞または移入細胞をそれぞれ選択的に枯渇させるのに使用するための第1または第2の抗原結合領域を含む上記の抗CD123剤(例えば、CAR細胞組成物または抗体)を枯渇させることに関する。
【0092】
表面タンパク質の第1のアイソフォームを発現する細胞または細胞の集団
本開示は、哺乳動物細胞、好ましくは造血細胞、または表面タンパク質の第1のアイソフォームを発現する細胞の集団に関し、前記細胞または細胞の集団は、前記第1のアイソフォームをコードする核酸において少なくとも1つの多型対立遺伝子を含む細胞表面タンパク質の第1のアイソフォームを発現し、前記第1のアイソフォームは、本明細書に記載の第1の抗原結合領域を含む枯渇剤によって認識されない。
【0093】
前記細胞または細胞の集団は、前記細胞表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する患者における医学的治療に特に有用である。
【0094】
特定の実施形態において、枯渇剤(例えば造血細胞)によって認識されない前記第1のアイソフォームをコードするかまたは発現する前記細胞(例えば造血幹細胞)は、免疫療法後に正常な造血を回復させるための医学的治療、例えば、前記第2のアイソフォームを発現する患者における養子細胞移入において特に有用であり、具体的には、前記治療は、前記第1のアイソフォームを発現する治療有効量の前記造血細胞を、前記第2のアイソフォームを標的化する治療有効量の枯渇剤と組み合わせて投与することを含む。特に、前記造血細胞、好ましくは造血幹細胞は、前記枯渇剤に続いて投与される。別の特定の実施形態において、前記造血細胞、好ましくは造血幹細胞は、前記枯渇剤の前に、または前記枯渇剤と同時に投与され得る。
【0095】
別の特定の実施形態において、第2のアイソフォームに結合しない枯渇剤によって特異的に認識される前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞は、前記第2のアイソフォームを発現する患者における医学的治療において、特に、移植される細胞に関連する重篤な副作用を回避するために(安全スイッチ)特に有用であり、前記治療は、前記第1のアイソフォームを標的とする治療有効量の枯渇剤を投与することを含む。特に、前記造血細胞、好ましくはCARを有する免疫細胞は、前記枯渇剤の前に投与される。
【0096】
本明細書で使用される場合、細胞という用語は、哺乳動物の細胞、好ましくはヒトの細胞に関する。
【0097】
特定の実施形態では、前記細胞は造血細胞である。造血細胞は、B細胞およびT細胞などのリンパ球、ナチュラルキラー細胞、単球などの骨髄細胞、マクロファージ、好酸球、肥満細胞、好塩基球、顆粒球、樹状細胞(DC)および板状樹状細胞(pDC)を含む免疫細胞を含む。
【0098】
好ましい実施形態では、前記免疫細胞はT細胞である。別の好ましい実施形態では、前記免疫細胞は初代T細胞である。本明細書で使用される場合、「T細胞」という用語は、T細胞受容体(TCR)を有する細胞、またはTCRを有するT細胞に由来する細胞を含む。本開示によるT細胞は、炎症性Tリンパ球、細胞傷害性Tリンパ球、制御性Tリンパ球、腫瘍浸潤リンパ球、または1型および2型ヘルパーT細胞とTh17ヘルパー細胞の両方を含むヘルパーTリンパ球からなる群から選択することができる。別の実施形態では、前記細胞は、CD4+Tリンパ球およびCD8+Tリンパ球または非古典的T細胞、例えばMR1拘束性T細胞、MAIT細胞、NKT細胞、ガンマデルタT細胞、または自然免疫様T細胞からなる群に由来し得る。
【0099】
T細胞は、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位からの組織、腹水、胸水、脾臓組織および腫瘍を含む複数の非限定的な供給源から得ることができる。特定の実施形態では、T細胞は、当業者に公知の任意の数の技術を使用して、対象から採取された血液の単位から得ることができる。あるいは、T細胞をiPS細胞から分化させることができる。
【0100】
別の好ましい実施形態では、前記造血細胞は造血幹細胞である。幹細胞は、成体幹細胞、胚性幹細胞、より具体的には非ヒト幹細胞、臍帯血幹細胞、前駆細胞、骨髄幹細胞、人工多能性幹細胞、全能性幹細胞、または造血幹細胞であり得る。代表的なヒト幹細胞はCD34細胞である。造血幹細胞は、iPS細胞から分化され得るか、または動員されたもしくは動員されていない末梢血から採取され得る。
【0101】
特定の実施形態では、細胞は、同種異系細胞であり、これは、あるHLAについて細胞を投与されている人と少なくとも類似する、類似するHLAを提示するドナーに由来する細胞を指す。ドナーは、血縁者であっても非血縁者であってもよい。特定の実施形態では、細胞は、細胞を投与されている同じ人に由来する細胞を指す自己細胞である。
【0102】
前記細胞は、健常なドナーまたは患者、特にがんまたは自己免疫疾患と診断された患者または感染症と診断された患者に由来し得る。造血細胞は、血液から抽出され得るか、または幹細胞に由来し得る。
【0103】
当業者は、移植される患者または対象に応じてより適切な細胞を選択されよう。
【0104】
本開示はさらに、本明細書に開示される治療に使用するための細胞または細胞の集団の組成物に関する。
【0105】
表面タンパク質
本開示によれば、前記細胞は表面タンパク質の第1のアイソフォームを発現する。本開示による表面タンパク質は、細胞膜に付着したタンパク質である。前記表面タンパク質は、本明細書では細胞表面抗原とも呼ばれる。特に、造血細胞では、前記表面タンパク質は、CD123、CD33、CD7、CD117、CD45、CD135、CLEC12a、CD44、およびCD70からなる群から選択される細胞表面マーカーであり得る。
【0106】
特定の実施形態では、前記表面タンパク質は、インターロイキン-3受容体アルファサブユニット(IL3RA)遺伝子(遺伝子ID:3563)によってコードされるCD123である。IL3RAは、インターロイキン3(IL3)、コロニー刺激因子2(CSF2/GM-CSF)およびインターロイキン5(IL5)の受容体によって共有されるリガンド特異的アルファサブユニットおよびシグナル伝達ベータサブユニットから構成されるヘテロ二量体サイトカイン受容体の特異的サブユニットである。IL-3は、赤血球、骨髄およびリンパ系統の細胞への造血前駆細胞の発生を促進する多能性サイトカインである。IL3RA 1型(NCBI参照番号:NP_002174.1,10-Jan-2021)(配列番号1)および2型(NCBI参照番号:NP-001254642.1,10-Jan-2021)の異なるタンパク質をコードするスプライシングされた転写変異体が見出されている。
【0107】
本開示に沿って、本開示の方法および組成物の中でCD123のさらなる変異体またはアイソフォームを組み合わせることも可能である。そのようなアイソフォームは、例えば二重変異体を含み得る。そのようなアイソフォームは、例えば、単一変異体および二重変異体も含み得る。本開示の方法および組成物はまた、CD123ノックアウト、例えば永続的ノックアウトまたは一時的ノックアウト(例えばCRISPRoffを介して)を有する細胞と組み合わせることができる。本開示の方法および組成物はまた、腫瘍の応答を増強するために、固形腫瘍における骨髄細胞の枯渇において使用され得る。
【0108】
本開示の方法および組成物はまた、特に前記表面タンパク質が、CD123と他の標的のKO、すなわちCD33 KO、CD7 KO、CLEC12A、CD44 KOおよびそれらの組み合わせである場合、細胞の組み合わせと組み合わせることができる。
【0109】
本開示の方法および組成物はまた、CD123の第1のアイソフォーム(CD123変異体)、および他の表面タンパク質変異体、例えばCD33変異体、CD7変異体、およびそれらの任意の組み合わせを発現する細胞を含み得る。
【0110】
表面タンパク質アイソフォームの多型
本開示による表面タンパク質の第1のアイソフォームを発現する細胞は、前記表面タンパク質をコードする核酸に、少なくとも1つの多型対立遺伝子を有するゲノムDNAを含む。特に、前記多型は、前記第2のアイソフォームと比較して、特定の薬剤の結合に関与する表面タンパク質領域における少なくとも1つの変異を誘導する。
【0111】
好ましい実施形態では、表面タンパク質の前記第1のアイソフォームは機能性のままであり、顕著な障害なしに、細胞内で対応する野生型アイソフォームと同じ機能を実行する能力を保持する。特に、CD123の前記第1のアイソフォームは、CD123の第2のアイソフォームの特性と同様の以下の特性の1つまたは複数を有する
-細胞表面での発現、
-保持される構造、
-IL-3結合、
-実験のパートに記載の機能アッセイで測定しているような、細胞内シグナル伝達能力(例えば、STAT5リン酸化/シグナル伝達)、IL-3に応答した細胞株の細胞の増殖の誘導、ヒト化マウスにおける複数の系統/細胞型への分化、ヒト化マウスから単離したpDCのpDC機能。
【0112】
CD123の前記第1のアイソフォームは、CD123の第2のアイソフォームのものと同様の造血幹細胞生着能力または編集された造血幹細胞コロニー形成能力を有することができる。より詳細には、TF-1細胞の増殖はIL-3によって誘導することができ、このIL-3依存的な増殖の誘導は、CSL362またはMIRG123によって阻止される。HDRなどの適切な遺伝子編集方法によってCD123変異体アイソフォームをTF-1細胞に導入することにより、各CD123変異体アイソフォームを用いてTF-1細胞の増殖速度を決定し、それを野生型TF-1細胞のIL-3依存的増殖と直接比較することが可能になる。野生型CD123と等しい増殖速度をもたらすCD123変異体アイソフォームは、機能的に等価であると見なされる。
【0113】
特に、表面タンパク質がCD123(IL3RA)である場合、CD123の第1のアイソフォームは機能的なままであり、抗原活性化T細胞によって産生されるサイトカインであるIL-3によって活性化され、IL-3シグナル伝達を誘導することができる。
【0114】
前記多型は、好ましくは、第1の薬剤の結合に関与する表面タンパク質領域をコードする核酸配列内部にあり、好ましくは前記表面タンパク質の細胞外部分、特に溶媒露出二次構造要素に位置する。より詳細には、前記多型は、第1の薬剤の結合に関与する少なくとも1つの特定のアミノ酸残基をコードする核酸配列内部にある。前記多型は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、15または20ヌクレオチドの欠失、置換、および/または挿入などの突然変異であり得る。特定の実施形態では、前記多型は一塩基多型である。
【0115】
2つのアイソフォームの配列の相違はまた、遺伝的に導入され得る。また、ここで、配列の相違は、好ましくは、第1の薬剤の結合に関与する表面タンパク質領域をコードする核酸配列内部にあり、好ましくは前記表面タンパク質の細胞外部分、特に溶媒露出二次構造要素に位置する。より詳細には、前記配列の相違は、第1の薬剤の結合に関与する少なくとも1つの特定のアミノ酸残基をコードする核酸配列内部にある。前記相違は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、15または20ヌクレオチドの欠失、置換、および/または挿入などの突然変異であり得る。特定の実施形態では、前記配列の相違は単一点の変異である。
【0116】
本発明者らは、上記のように抗CD123剤の結合に関与するアミノ酸残基をコードする核酸配列における天然の多型、特にCD123の配列(配列番号1)に対する残基E51、S59またはR84、好ましくはE51またはS59の置換を誘導する多型を同定した。したがって、本開示は、CD123のアイソフォームを発現する細胞に関し、前記アイソフォームは、CD123(配列番号1)のE51、S59およびR84、好ましくはE51またはS59から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基に置換を有する。
【0117】
天然の多型
特定の実施形態では、本開示による前記細胞は、前記アイソフォームをコードする核酸において、少なくとも1つの天然多型対立遺伝子、好ましくは一塩基多型(SNP)を有する天然ゲノムDNAを含む対象から選択される。
【0118】
特定の実施形態では、表面タンパク質がCD123である場合、細胞は、好ましくは前記表面タンパク質の細胞外部分、より好ましくは溶媒露出二次構造要素に位置する、抗CD123剤結合に関与するCD123領域をコードする核酸配列において、少なくとも1つの天然多型対立遺伝子、特にSNPを有する天然ゲノムDNAを含む対象から選択される。より具体的には、前記多型対立遺伝子は、配列番号1の残基E51、S59および/またはR84、好ましくは配列番号1のE51またはS59をコードする核酸配列の内部にある。特に、前記多型対立遺伝子は、配列番号1のE51、S59および/またはR84位、好ましくは配列番号1のE51またはS59から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基の置換を引き起こす。好ましくは、アミノ酸残基E51は、K、N、T、S、Q、R、M、GおよびAからなる群、好ましくはKまたはTから選択されるアミノ酸で置換される。また好ましくは、アミノ酸残基S59は、I、G、P、E、L、T、K、F、RおよびYからなる群、好ましくはPまたはEから選択されるアミノ酸によって置換されている。また好ましくは、アミノ酸残基R84は、T、K、S、Q、N、E、H、LおよびAからなる群から選択されるアミノ酸によって置換される。
【0119】
遺伝子編集方法
別の特定の実施形態では、本開示による第1のアイソフォームを発現する前記細胞は、遺伝子編集によって、好ましくは患者の天然ゲノムDNAの前記表面タンパク質をコードする配列を変更することによって、得られる。
【0120】
細胞は、表面タンパク質のアミノ酸の挿入、欠失および/または置換をもたらす前記多型を誘導する遺伝子編集酵素を細胞に導入することによって、遺伝子操作することができる。前記遺伝子編集酵素は、本明細書では上記の第1の薬剤結合に関与する表面タンパク質領域をコードする標的配列と呼ばれる核酸配列を標的とする。特に、前記表面タンパク質がCD123である場合、前記遺伝子編集酵素は、好ましくは配列番号1の位置E51、S59および/またはR84の少なくとも1つの残基が置換されるように、配列番号1のE51、S59および/またはR84位の少なくとも1つの残基をコードする核酸を標的とする。好ましくは、アミノ残基E51は、K、N、T、S、Q、R、M、GおよびAからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはKまたはTによって置換されている。また、好ましくは、アミノ酸残基S59は、I、G、P、E、L、T、K、F、RおよびYからなる群、好ましくはPまたはEから選択されるアミノ酸によって置換されている。また好ましくは、アミノ酸残基R84は、T、K、S、Q、N、E、H、LおよびAからなる群から選択されるアミノ酸によって置換される。
【0121】
遺伝子編集酵素は、配列特異的ヌクレアーゼ、塩基またはプライムエディタであり得る。
【0122】
「ヌクレアーゼ」という用語は、核酸(DNAまたはRNA)分子、好ましくはDNA分子のヌクレオチド間のホスホジエステル結合の加水分解(切断)を触媒することができる野生型または変異型酵素を指す。「切断」とは、二本鎖切断または一本鎖切断事象を意味する。
【0123】
「配列特異的ヌクレアーゼ」という用語は、配列特異的に核酸を切断するヌクレアーゼを指す。メガヌクレアーゼ、TALヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、または集まって規則的に間を空けて配置された短い回文配列の繰り返し(CRISPR)/Cas系およびアルゴノートのようなRNA/DNAガイドエンドヌクレアーゼなど、異なるタイプの部位特異的ヌクレアーゼを使用することができる(Review in Li et al.,Nature Signal transduction and targeted Therapy,5,2020;Guha et al.,Computational and Structural Biotechnology Journal,2017,15,146-160)。
【0124】
本開示によれば、ヌクレアーゼは、標的配列内にDNA切断を生じさせ、前記標的配列は、上記のように第1の薬剤結合に関与する表面タンパク質領域をコードする。特定の実施形態では、本発明者らは、CRISPRのシステムを使用して、上記のように第1の薬剤によって認識される表面タンパク質領域をコードする標的配列内で切断を誘導する。
【0125】
「標的配列」とは、上記のように記載した第1の薬剤結合に関与する表面タンパク質領域をコードする配列の一部および/または第1の薬剤結合に関与する前記表面タンパク質領域に隣接する配列、特に第1の薬剤結合に関与する前記表面タンパク質領域に隣接する最大50ヌクレオチド、好ましくは前記リプレッサー結合部位に隣接する20、15、10、9、8、7、6または5ヌクレオチドの少なくとも1つ(1つまたは2つ)の配列を標的とすることを意図する。
【0126】
CRISPRシステムは、2つ以上の成分、Casタンパク質(CRISPR関連タンパク質)および単一ガイドRNAを含む。Casタンパク質は、ガイドRNA配列をガイドとして使用して、単一ガイドRNA配列に相補的なDNAの二本鎖の切断を認識および生成するDNAエンドヌクレアーゼである。Casタンパク質は、2つの活性切断部位、すなわちHNHヌクレアーゼドメインおよびRuvC様ヌクレアーゼドメインを含む。
【0127】
Casタンパク質はまた、標的核酸配列を切断することができるCas9の操作されたエンドヌクレアーゼまたはホモログを意味する。特定の実施形態では、Casタンパク質は、二本鎖切断または一本鎖切断のいずれかに対応し得る核酸標的配列の切断を誘導し得る。Casタンパク質変異体は、天然には存在せず、タンパク質のエンジニアリングまたはランダムな突然変異誘発によって得られるCasエンドヌクレアーゼであり得る。Casタンパク質は、当技術分野で公知のCasタンパク質の1つのタイプであり得る。Casタンパク質の非限定的な例としては、Casl、CaslB、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(CsnlおよびCsxl2としても知られる)、CaslO、Csyl、Csy2、Csy3、Csel、Cse2、Cscl、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Cmrl、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cnrr6、Csbl、Csb2、Csb3、Csxl7、CsxM、CsxlO、Csl6、CsaX、Csx3、Csl、Csxl5、Csfl、Csf2、CsO、Csf4、そのホモログ、オルソログ、またはそれらの改変型が挙げられる。好ましくは、Casタンパク質は化膿性連鎖球菌Cas9タンパク質である。
【0128】
Casを、標的配列の相補的な配列を含むように設計されたガイドRNA(gRNA)と接触させて、前記標的配列内、特に本開示によれば、上記の薬剤によって認識される表面タンパク質領域をコードする標的配列の一部の相補配列のDNA切断を特異的に誘導する。
【0129】
本明細書で使用される場合、「ガイドRNA」、「gRNA」または「単一ガイドRNA」は、標的核酸へのgRNA/Cas複合体の特異的標的化またはホーミングを促進する核酸を指す。
【0130】
特に、gRNAは、トランス活性化crRNA(tracrRNA)およびcrRNAを含むRNAを指す。好ましくは、前記ガイドRNAは、別々に使用され得るかまたは一緒に融合され得るcrRNAおよびtracrRNAに対応する。標的配列との相補的な配列対合は、Casを動員して、標的配列においてDNAに結合して切断する。
【0131】
本開示によれば、crRNAは、薬剤によって認識される表面タンパク質領域を標的化することができるように、薬剤によって認識される表面タンパク質領域をコードする上記の標的配列の一部に相補的な配列を含むように操作される。
【0132】
特定の実施形態では、crRNAは、標的配列に相補的な5~50ヌクレオチド、好ましくは15~30ヌクレオチド、より好ましくは20ヌクレオチドの配列を含む。本明細書で使用される場合、「相補配列」という用語は、標準的で低ストリンジェントな条件下でポリヌクレオチドの別の部分にハイブリダイズすることができるポリヌクレオチド(例えばcrRNAまたはtracRNAの一部)の配列部分を指す。好ましくは、配列は、鎖間のワトソン-クリック塩基対合、すなわちアデニン・チミン(A-T)ヌクレオチドとグアニン・シトシン(G-C)ヌクレオチドとの間の固有の塩基対合に依存する2つの核酸鎖間の相補性に従って、互いに相補的である。前記gRNAは、本開示を考慮して当業者に公知の任意の方法によって設計することができる。
【0133】
本開示によれば、前記標的配列は、第1の薬剤結合に関与する表面タンパク質領域をコードし、好ましくは前記表面タンパク質の細胞外部分に位置し、より好ましくは前記第2のアイソフォームと比較して細胞外ループに位置し、やはりより好ましくは、薬剤の結合に関与するアミノ酸残基を含む。
【0134】
好ましい実施形態では、表面タンパク質がCD123である場合、前記標的配列は、上に開示されるような抗CD123剤結合などの第1の薬剤の結合に関与するCD123領域をコードする。好ましくは、前記標的配列は、配列番号1のE51、S59および/またはR84、好ましくは配列番号1のE51またはS59位の少なくとも1つの残基をコードする。
【0135】
特定の実施形態では、前記gRNAは、第1の薬剤の結合に関与するCD123領域をコードする配列を標的とし、特に表1に記載の配列の1つ(gRNA配列)を含み得る。
【表1】
【0136】
換言すれば、表面タンパク質がCD123である場合、前記核酸構築物は、好ましくは、以下を含み得る。
配列番号1に対して置換E51Kをコードする配列を標的とする、配列番号16または17のgRNA配列、
-配列番号1に対して置換S59Pをコードする配列を標的とする、配列番号18から20からなる群から選択されるgRNA配列、または
-配列番号1に対して置換R84Eをコードする配列を標的とする、配列番号21から23からなる群から選択されるgRNA配列。
【0137】
本開示によるヌクレアーゼによって導入されるDNA鎖の切断は、非相同末端結合(NHEJ)を介した切断部位でのDNAの突然変異をもたらし得、これは頻繁に、相同組換え修復(HDR)を介した切断部位周囲のDNAの小さな挿入および/または欠失または置換をもたらす。
【0138】
好ましい実施形態では、表面タンパク質アイソフォームをコードする核酸内部の前記多型は、DNA切断後のHDR修復、および本明細書でHDR鋳型と呼ばれる外因性ヌクレオチド配列の導入を介して誘導される。
【0139】
HDR鋳型は、標的配列の領域5’および3’にそれぞれ相同な配列の第1および第2の部分と、多型を含む外因性配列とを含む。標的配列の切断に続いて、標的配列を含有するゲノムとHDR鋳型との間で相同組換え事象が達成され、標的配列を含有するゲノム配列が外因性配列によって置き換えられる。
【0140】
好ましくは、少なくとも20bp、好ましくは50bp超、より好ましくは200bp未満の相同配列が使用される。実際、共有するDNA相同性は、切断部位の上流および下流に隣接する領域に位置し、導入される外因性配列は、2つのアームの間に位置するはずである。
【0141】
好ましい実施形態では、本開示による細胞は、上記のような前記第1の薬剤によって認識される表面タンパク質領域をコードする配列およびHDR鋳型を標的とする前記部位特異的ヌクレアーゼを前記細胞に導入することによって遺伝子操作される。
【0142】
別の特定の実施形態では、前記遺伝子編集酵素は、Komor et al.,Nature533,420-424,doi:10.1038/nature17946、およびRees HA,Liu DR.Nat Rev Genet.2018 Dec;19(12):770-788に記載されているDNA塩基エディタであるか、またはAnzalone AV.Et al.Nature,2019,576:149-157,Matsoukas IG.Front Genet.2020;11:528 and Kantor A.et al.Int.J.Mol.Sci.2020,21(6240)で説明されているプライムエディタである。塩基エディタまたはプライムエディタを使用して、標的配列の特定の部位に突然変異を導入することができる。
【0143】
本開示によれば、塩基エディタまたはプライムエディタは、第1の薬剤結合に関与する表面タンパク質領域をコードする配列の配列特異的標的化によって標的配列の内部に突然変異を生成する。
【0144】
特に、前記塩基エディタまたはプライムエディタは、CRISPRベースまたはプライムエディタである。前記CRISPR塩基またはプライムエディタは、触媒的に不活性な配列特異的ヌクレアーゼとして、死んだCasタンパク質(dCas)を含む。dCasは、エンドヌクレアーゼ活性を欠く改変Casヌクレアーゼを指す。ヌクレアーゼ活性は、Casタンパク質のHNHおよび/またはRuvC様触媒ドメインにおける1つ以上の突然変異および/または1つ以上の欠失によって、dCasタンパク質において阻害または防止され得る。得られたdCasタンパク質はヌクレアーゼ活性を欠くが、特異的標的配列に対して高い特異性および効率でガイドRNA(gRNA)-DNA複合体に結合する。特定の実施形態では、前記死んだCasは、Casの1つの触媒ドメインが阻害または防止されるCasニッカーゼであり得る。
【0145】
前記塩基エディタを、標的核酸配列の相補的配列を含むように設計されたガイドRNA(gRNA)と接触させて、上記のように前記標的配列に特異的に結合させる。
【0146】
前記gRNAは、本開示を考慮して当業者に公知の任意の方法によって設計することができる。特定の実施形態では、前記gRNAは、上記のように前記第1の薬剤によって認識される表面タンパク質領域をコードする配列を標的とすることができ、特に表面タンパク質がCD123である場合、表1に記載の配列の1つ(gRNA配列)を含む。
【0147】
非限定的な例として、前記塩基エディタは、死んだCasタンパク質、特にCasニッカーゼに融合したヌクレオチドデアミナーゼドメインである。前記ヌクレオチドデアミナーゼは、アデノシンデアミナーゼまたはシチジンデアミナーゼであり得る。前記ヌクレオチドデアミナーゼは、天然または操作されたデアミナーゼであり得る。
【0148】
特定の実施形態では、前記塩基エディタは、BE1、BE2、BE3、BE4、HF-BE3、Sa-BE3、Sa-BE4、BE4-Gam、saBE4-Gam、YE1-BE3、EE-BE3、YE2-BE3、YEE-BE3、VQR-BE3、VRER-BE3、SaKKH-BE3、cas12a-BE、Target-AID、Target-AID-NG、xBE3、eA3A-BE3、A3A-BE3、BE-PLUS、TAM、CRIPS-X、ABE7.9、ABE7.10、ABE7.10*xABE、ABESa、ABEmax、ABE8e、VQR-ABE、VRER-ABEおよびSaKKH-ABEからなる群から選択される非限定的な例であってもよい。
【0149】
前記プライムエディタは、上記の触媒的に不活性な配列特異的ヌクレアーゼ、特にCasニッカーゼと触媒的に活性な操作された逆転写酵素(RT)酵素との融合からなる。前記融合タンパク質は、特に表面タンパク質がCD123である場合、上記の標的配列と相補的な配列を含むプライム編集ガイドRNA(pegRNA)と併用して使用され、表1に記載の配列の1つと、DNAのプライマー結合部位領域に結合する配列も含む追加の配列を含む。特定の実施形態では、前記逆転写酵素は、マロニーマウス白血病ウイルスRT酵素およびその変異体である。前記プライムエディタは、PE1、PE2、PE3およびPE3bからなる群から選択される非限定的な例であり得る。
【0150】
CAR
養子細胞移入療法に使用するために、本開示による第1のアイソフォームを発現する前記細胞を、所望の特異性および増強された機能性を示すように改変することができる。特に、細胞は、特定の標的に向けられるように改変され得る。特定の実施形態では、前記細胞は、上記のようにその細胞表面に抗原受容体とも呼ばれる組換え抗原結合領域を発現し得る。特定の実施形態では、前記組換え抗原受容体はキメラ抗原受容体(CAR)である。本開示によれば、細胞表面タンパク質の第1のアイソフォームおよびCARを発現する前記免疫細胞は、前記表面タンパク質の前記第1のアイソフォームに特異的に結合するが第2のアイソフォームには結合しない第2の抗原結合領域を含む治療有効量の薬剤の投与によって特異的に枯渇させることができ、それにより、前記免疫細胞の移植に起因する最終的な重篤な副作用を回避する。
【0151】
特定の実施形態では、免疫細胞はがん抗原に対して再配向される。「がん抗原」とは、がんに関連する任意の抗原(すなわち、免疫応答を誘導することができる分子)を意味する。本明細書で定義される抗原は、免疫応答を誘導する任意の種類の分子であり得、例えば、多糖または脂質であり得るが、最も好ましくはペプチド(またはタンパク質)である。ヒトがん抗原は、ヒトまたはヒト由来であり得る。がん抗原は腫瘍特異的抗原であり得、これは健常な細胞には見られない抗原を意味する。腫瘍特異的抗原は、一般に、健康なヒトのプロテオームには見られない全く新しいアミノ酸配列を生成する突然変異、特にフレームシフト突然変異から生じる。
【0152】
がん抗原には、腫瘍関連抗原も含まれ、腫瘍関連抗原は、その発現または産生が腫瘍細胞に関連する(しかし、これに限定されない)抗原である。腫瘍関連抗原の例としては、例えばHer2、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、アルファ-フェトプロテイン(AFP)、がん胎児性抗原(CEA)、がん抗原-125(CA-125)、CA19-9、カルレチニン、MUC-1、上皮膜タンパク質(EMA)、上皮腫瘍抗原(ETA)、チロシナーゼ、メラノーマ関連抗原(MAGE)、CD34、CD45、CD99、CDl17、CD123、クロモグラニン、サイトケラチン、デスミン、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、総嚢胞性疾患液タンパク質(GCDFP-15)、HMB-45抗原、タンパク質メラン-A(Tリンパ球によって認識されるメラノーマ抗原;MART-1)、myo-D1、筋特異的アクチン、神経線維、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、胎盤アルカリホスファターゼ、シナプトフィシン、サイログロブリン、甲状腺転写因子-1、ピルビン酸キナーゼアイソエンザイムM2型(腫瘍M2-PK)の二量体形態、CD19、CD22、CD33、CD123、CD27、CD30、CD70、GD2(ガングリオシドG2)、EGFRvIII(上皮成長因子変異体III)、精子タンパク質17(Spl7)、メソテリン、PAP(前立腺酸性ホスファターゼ)、プロステイン、TARP(T細胞受容体ガンマ鎖代替リーディングフレームタンパク質)、Trp-p8、STEAP1(前立腺6膜貫通上皮抗原1)、異常なrasタンパク質または異常なp53タンパク質が挙げられる。別の特定の実施形態では、前記腫瘍関連抗原または腫瘍特異的抗原は、インテグリンανβ3(CD61)、ガラクチン、K-Ras(V-Ki-ras2 Kirstenラット肉腫ウイルスがん遺伝子)、またはRal-Bである。
【0153】
特定の実施形態では、養子細胞移入療法に使用するために、好ましくは急性骨髄性白血病(AML)またはB-急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)などの悪性造血疾患の治療のために、本開示による免疫細胞は、CD123標的CARなどの組換え抗原結合領域を発現する。第1のアイソフォームを発現し、CAR(例えば、CAR-CD123)を発現する前記細胞は、CD123の第1のアイソフォームに特異的に結合するが、CD123の第2のアイソフォームには結合しない第2の抗原結合領域を含む枯渇剤を投与することによって、さらに特異的に枯渇され得、それにより、移植に起因する移植片対宿主病などの最終的な重篤な副作用が回避される。
【0154】
特定の実施形態では、第1のアイソフォームを発現する前記免疫細胞(例えば、T細胞)は、CD123標的CARを有し、前記CARは、N末端ドメイン内、または配列番号1のアミノ酸T48、D49、E51、A56、D57、Y58、S59、M60、P61、A62、V63、N64、T82、R84、V85、A86、N87、P89、F90、S91を含むポリペプチド内に位置するCD123のエピトープに特異的に結合する抗原結合領域を含む抗原結合領域、例えばscFvを含む。
【0155】
特に、第1のアイソフォームを発現する前記免疫細胞(例えば、T細胞)は、抗原結合領域、例えばscFvを含むCD123標的CARを有し、抗原結合領域は、以下を含み
a)VHCD1が配列番号2であり、VHCD2が配列番号3であり、VHCDR3が配列番号4である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
b)3つのCDR VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、VLCDR1は配列番号5または6であり、VLCDR2は配列番号7であり、VLCDR3は配列番号8である、
より好ましくは、配列番号9、11および13から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる重鎖可変ドメイン、および/または配列番号10、12および14から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインを含む抗原結合領域を含む。
【0156】
好ましい実施形態では、前記抗CD123剤は、実施例に記載のCD123の特異的アイソフォームを標的とするCARを有する免疫細胞であり得、典型的には、前記抗CD123 CARは、ヒンジドメイン、CD8a膜貫通ドメイン、およびCD3分子のゼータ鎖からの細胞内シグナル伝達ドメイン、ならびに共刺激ドメイン4-1BBを含み、好ましくは、前記抗CD123 CARは、配列番号15を含むかまたはこれからなる。
【0157】
第1のアイソフォームを発現する細胞を調製するインビトロの方法
本開示による第1のアイソフォームを発現する細胞は、上記の遺伝子編集酵素および/またはHDR鋳型を含む少なくとも1つの遺伝子編集酵素またはリボ核タンパク質複合体をコードする核酸構築物(例えばmRNA)を前記細胞に導入することによって、遺伝子操作することができる。前記細胞はまた、上記のCARをコードする核酸構築物を前記細胞にさらに導入することによって、遺伝子操作され得る。特に、前記方法は、細胞の培養物に対して行われるエクスビボな方法である。
【0158】
本明細書で使用される「核酸構築物」という用語は、組換えDNA技術の使用から生じる人工の核酸分子を指す。核酸構築物は、一本鎖または二本鎖のいずれかの核酸分子であり、核酸配列のセグメントを含むように修飾されており、普通なら自然界に存在しない様式で組み合わされ、並置される。核酸構築物は、通常、「ベクター」、すなわち外因的に作製されたDNAを宿主細胞に送達するために使用される核酸分子である。
【0159】
好ましくは、核酸構築物は、1つ以上の制御配列に作動可能に連結された前記遺伝子編集酵素、HDR鋳型および/またはCARを含む。前記制御配列は、標的器官(すなわち、造血細胞)の細胞において機能的である遍在性、組織特異的または誘導性プロモーターであり得る。当技術分野で周知のそのような配列には、特にプロモーター、および導入遺伝子の発現をさらに制御することができるさらなる調節配列、例えば限定されないが、エンハンサー、ターミネーター、イントロン、サイレンサーが含まれる。
【0160】
上記のような核酸構築物は、発現ベクターに含まれていてもよい。ベクターは、自律複製ベクター、すなわち、その複製が染色体の複製とは無関係である染色体外実体として存在するベクター、例えば、プラスミド、染色体外エレメント、ミニ染色体または人工染色体であり得る。ベクターは、自己複製を保証するための任意の手段を含み得る。あるいは、ベクターは、宿主細胞に導入されると、ゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであり得る。
【0161】
適切なベクターの例としては、組換え組込み型または非組込み型ウイルスベクター、および組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNAまたはコスミドDNAに由来するベクターが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、ベクターは組換え組込み型または非組込み型ウイルスベクターである。組換えウイルスベクターの例としては、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスまたはウシパピローマウイルスに由来するベクターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0162】
本開示は、上記の遺伝子編集酵素および/またはHDR鋳型を含む遺伝子編集酵素またはリボ核タンパク質複合体をコードする核酸構築物(例えばmRNA)を細胞に導入することによって、細胞表面タンパク質の第1のアイソフォームを細胞において発現させる方法に関する。前記方法は、CARをコードする核酸構築物を前記細胞に導入する工程をさらに含み得る。前記方法は、Casタンパク質、塩基エディタまたはプライムエディタおよびガイドRNA(crRNA、tracrRNa、または融合ガイドRNAまたはpegRNA)などの遺伝子編集酵素を細胞に導入することを含む。特に、前記遺伝子編集酵素は、上記のCRISPR/cas遺伝子編集酵素である。より特定の実施形態では、前記遺伝子編集酵素は、ガイドRNAおよびCasタンパク質を含む部位特異的ヌクレアーゼ、より好ましくはCRISPR/Casヌクレアーゼであり、Casタンパク質と併用した前記ガイドRNAは、上記のように薬剤結合に関与する表面タンパク質領域をコードする核酸を含む前記標的配列内部で切断する、および切断を誘導する。
【0163】
好ましい実施形態では、前記核酸構築物は、枯渇剤への結合に関与する表面タンパク質領域をコードする核酸配列を標的化することができるCRISPR/Casヌクレアーゼを含む。表面タンパク質がCD123である場合、前記核酸構築物は、好ましくは、以下を含む。
配列番号1に対して置換E51Kをコードする配列を標的とする、配列番号16または17のgRNA配列、
-配列番号1に対して置換S59Pをコードする配列を標的とする、配列番号18から20からなる群から選択されるgRNA配列、または
-配列番号1に対して置換R84Eをコードする配列を標的とする、配列番号21から23からなる群から選択されるgRNA配列。
【0164】
上記のような前記遺伝子編集酵素、好ましくはガイドRNAおよび/またはCasタンパク質、塩基エディタまたはプライムエディタは、核酸構築物、好ましくは上記のようなガイドRNAおよび/またはCasタンパク質、塩基エディタまたはプライムエディタなどの前記遺伝子編集酵素をコードする発現ベクターの細胞への導入の結果として、細胞でインサイチュで合成され得る。あるいは、ガイドRNAおよび/またはCasタンパク質、塩基エディタまたはプライムエディタなどの前記遺伝子編集酵素は、細胞外で産生され、次いでそれに導入され得る。
【0165】
前記核酸構築物または発現ベクターは、当技術分野で公知の任意の方法によって細胞に導入することができ、非限定的な例として、核酸構築物または発現ベクターが細胞のゲノムに組み込まれる安定的な形質導入方法、核酸構築物または発現ベクターが細胞のゲノムに組み込まれない一過性のトランスフェクション方法、およびウイルス媒介方法が挙げられる。例えば、一過性の形質転換方法は、例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、細胞スクイージングまたは粒子衝撃を含む。
【0166】
医薬組成物
さらなる態様では、本開示はまた、1つまたは複数の薬学的または生理学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤と共に、上記の細胞表面タンパク質の第1のアイソフォームを発現する細胞または細胞の集団を含む医薬組成物を提供する。
【0167】
特定の実施形態では、前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)、好ましくは上記のように前記患者の細胞によって発現されるCD123の第2のアイソフォームを標的とするCARを有する免疫細胞、好ましくはT細胞、より好ましくは初代T細胞である。
【0168】
別の特定の実施形態では、細胞表面タンパク質の第1のアイソフォームを発現する前記細胞は造血幹細胞である。
【0169】
医薬組成物は、上記のような第1または第2の抗原結合領域を含む枯渇剤をさらに含み得る。
【0170】
医薬組成物は、投与経路に従って薬学的に許容される担体中に製剤化される。好ましくは、組成物は、静脈内注射によって投与されるように製剤化される。そのような投与に適した医薬組成物は、1つ以上の薬学的に許容され得る滅菌等張水溶液もしくは非水溶液(例えば、平衡塩類溶液(BSS))、分散液、懸濁液もしくはエマルジョン、または使用直前に滅菌注射液もしくは分散液に再構成され得る滅菌粉末と併用して、上記の第1のアイソフォームを発現する細胞を含み得、これは抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、溶質もしくは懸濁剤もしくは増粘剤を含み得る。
【0171】
任意選択で、第1のアイソフォームを発現する細胞を含む組成物は、細胞の保存に適切な任意の温度で保存のために凍結され得る。例えば、細胞は、約-20℃、-80℃または任意の他の適切な温度で凍結され得る。極低温凍結細胞は、細胞への損傷のリスクを低減し、細胞が融解後に生存する可能性を最大化するために、適切な容器に保存され、保存用に調製され得る。あるいは、細胞を冷蔵の室温、例えば約4℃に維持してもよい。
【0172】
治療での使用
本開示は、医薬として使用するための、特に患者における養子細胞移入療法などの免疫療法に使用するための、上記の第1のアイソフォームを発現する細胞または細胞の集団に関する。
【0173】
本開示によれば、上記のような細胞表面タンパク質の第1のアイソフォーム(例えば、CD123の第1のアイソフォーム)を発現する前記細胞または細胞の集団(例えば、造血細胞)は、それを必要とする患者の医学的治療に使用され、前記医学的治療は、前記細胞表面タンパク質の前記第1のアイソフォームを発現する治療有効量の細胞または細胞の集団を、前記細胞表面タンパク質の(例えばCD123の)前記第2のアイソフォームまたは第1のアイソフォームに特異的に結合する治療有効量の枯渇剤(例えば、CAR細胞または抗体)と併用して投与して、それぞれ患者または移植細胞を特異的に枯渇させることを含む。
【0174】
本明細書で使用される場合、「併用して」または「併用療法で」という用語は、2つ(またはそれ以上)の異なる治療が、障害により対象が苛まれる過程のさなかに対象に送達されること、例えば、2つ以上の治療が、対象が障害と診断された後、障害が治癒もしくは排除される前、または他の理由で治療が中止される前に送達されることを意味する。いくつかの実施形態では、一方の治療の送達が、第2の治療の送達が開始されたときに依然として行われているので、投与に関する重複がある。これは、本明細書では「同時」または「同時送達」と呼ばれることがある。他の実施形態では、一方の治療の送達は、他方の治療の送達が始まる前に終了している。送達は、送達される第1の治療の効果が、第2の治療が送達されるときに依然として検出可能であるようなものであり得る。1つの実施形態において、細胞表面タンパク質の第2のアイソフォームまたは第1のアイソフォームに結合する枯渇剤が、本明細書に記載されている用量および/または投薬スケジュールで投与され、第1のアイソフォームを発現する細胞が、本明細書に記載されている用量および/または投薬スケジュールで投与される。いくつかの態様では、「と併用して」は、細胞表面タンパク質の第2のアイソフォーム(例えば、CD123の第2のアイソフォームを認識するCAR細胞または抗体)または第1のアイソフォームを標的とする枯渇剤、および前記細胞表面タンパク質の前記第1のアイソフォーム(例えば、CD123の第1のアイソフォーム)を発現する細胞の組成物が、同時に投与されなければならない、および/または一緒に送達するべく製剤化されなければならないということを意味するよう意図されてはいない、ただしこれらの送達方法は本開示の範囲内である。枯渇剤(例えば、CD123の第2のアイソフォームを標的とするCAR細胞または抗体)は、細胞表面タンパク質の第1のアイソフォーム(例えば、CD123の第1のアイソフォーム)を発現する造血幹細胞の用量と同時、(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、12週間、または16週間)前、または後(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、12週間、または16週間後)に投与され得る。特定の実施形態では、各薬剤は、その特定の薬剤について決められている用量および/または時間スケジュールで投与される。
【0175】
本開示による養子細胞移入療法は、がん、自己免疫疾患、感染性疾患、造血幹細胞移植(HSCT)を必要とする疾患、臓器拒絶の予防、腫瘍移植前処置、腫瘍維持療法、最小残存疾患、再発の予防と診断された患者を治療するために使用することができる。
【0176】
本開示はまた、患者における養子移入細胞療法のための医薬の製造における、上記の細胞表面タンパク質の第1のアイソフォームを発現する細胞の使用に関する。
【0177】
本明細書で使用される場合、「対象」または「患者」という用語は、ヒト、ブタ、チンパンジー、イヌ、ネコ、ウシ、マウス、ウサギまたはラットを含む動物、好ましくは免疫応答が誘発され得る哺乳動物を指す。より好ましくは、対象は、成人、小児および出生前段階のヒトを含むヒトである。
【0178】
本明細書で使用される場合、「治療」、「治療する」または「治療すること」という用語は、疾患の治療、予防(preventionおよびprophylaxis)、および遅延などの患者の健康状態を改善することを意図した任意の行為を指す。特定の実施形態では、そのような用語は、疾患または疾患に関連する症状の改善または根絶を指す。他の実施形態では、この用語は、そのような疾患を有する対象への1つまたは複数の治療薬の投与から生じる疾患の進展または悪化を最小限に抑えることを指す。
【0179】
治療され得るがんには、血管新生していない、またはまだ実質的に血管新生していない腫瘍、ならびに血管新生した腫瘍が含まれる。がんは、非固形腫瘍(例えば、血液腫瘍、例えば、白血病およびリンパ腫、例えば再発および治療関連腫瘍、例えば、造血幹細胞移植(HSCT)後の二次性悪性腫瘍)を含み得るか、または固形腫瘍を含み得る。
【0180】
本明細書で使用される「自己免疫疾患」という用語は、自己免疫応答に起因する障害として定義される。自己免疫疾患は、自己抗原に対する不適切かつ過剰な応答の結果である。
【0181】
感染症は、細菌、ウイルス、寄生虫または真菌などの病原性微生物によって引き起こされる疾患である。特定の実施形態では、本開示による感染症は、HSCT後の患者または固形臓器移植を受けた患者などの免疫抑制患者で起こる。
【0182】
好ましい実施形態では、本開示は、血液がん、好ましくは白血病またはリンパ増殖性障害に使用するための上記のCD123の第1のアイソフォームを発現する細胞に関する。前記白血病は、急性骨髄性白血病(AML)、骨髄異形成症候群(MDS)、芽球性形質細胞樹状細胞新生物(BPDCN)、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性二表現型白血病、有毛細胞白血病、インターロイキン-3受容体サブユニットアルファ陽性白血病、B細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)、T細胞急性リンパ芽球性白血病(T-ALL)、ホジキンリンパ腫(HL)、全身性肥満細胞症、好ましくはMDS、好ましくはAMLまたはBPDCNからなる群から選択することができる。
【0183】
特定の実施形態では、上記の細胞表面タンパク質の第1のアイソフォーム(例えば、CD123の第1のアイソフォーム)を発現する前記細胞または細胞の集団(例えば、造血細胞)は、固形腫瘍の治療、特に患者の固形腫瘍の骨髄細胞の選択的枯渇のために使用して、腫瘍の骨髄細胞は免疫抑制性であり得るので、免疫チェックポイント阻害剤、CAR T細胞またはTILなどの免疫療法剤が腫瘍にアクセスすることを可能にすることができる。この状況では、上記の細胞表面タンパク質の第1のアイソフォーム(例えば、CD123の第1のアイソフォーム)を発現する前記細胞または細胞の集団(例えば、造血細胞)は、固形腫瘍の骨髄細胞を枯渇させることを意図した治療によって影響を受け得る造血系を補充するのに役立ち得る。
【0184】
別の特定の実施形態では、上記の細胞表面タンパク質の第1のアイソフォーム(例えば、CD123の第1のアイソフォーム)を発現する前記細胞または細胞の集団(例えば、造血細胞)は、狼瘡、多発性硬化症、強皮症などの自己免疫疾患の治療に使用することができる。
【0185】
本開示はまた、それを必要とする対象において、宿主細胞または移入細胞をそれぞれ選択的に枯渇させるのに使用するための第1または第2の抗原結合領域を含む枯渇剤(例えば、CAR細胞組成物または抗体)に関する。
【0186】
特異的に患者の細胞を枯渇させ、移植された細胞は枯渇させない方法。
【0187】
本開示によれば、上記のような細胞表面タンパク質の第1のアイソフォーム(例えば、CD123の第1のアイソフォーム)を発現する前記細胞または細胞の集団(例えば、造血細胞)は、それを必要とする患者の医学的治療に使用され、前記医学的治療は、前記細胞表面タンパク質の前記第1のアイソフォームを発現する治療有効量の細胞または細胞の集団を、前記細胞表面タンパク質の(例えばCD123の)前記第2のアイソフォームに特異的に結合する治療有効量の枯渇剤(例えば、CAR細胞または抗体)と併用して投与することを含む。
【0188】
実際、免疫療法中に、腫瘍抗原(例えば、CD123)を対象とするCAR発現免疫細胞などの免疫枯渇剤を患者に投与して、腫瘍細胞を標的とし、殺傷させることができる。しかしながら、腫瘍表面タンパク質はまた、正常な造血細胞の表面で発現されるので、この戦略は、造血を変化させることによって患者に重篤な副作用を誘発することができる。患者における造血を回復させるために、造血細胞をその後に患者に移植することができる。しかしながら、これらの細胞は、前記薬剤によって標的化されないように、前記薬剤(例えば、CD123発現細胞用の枯渇剤)に対して耐性がある必要がある。
【0189】
したがって、あるいは、本開示によれば、細胞表面タンパク質の(例えば、CD123の)第2のアイソフォームに特異的に結合する第1の抗原結合領域を含む枯渇剤を投与して、細胞表面タンパク質の(例えば、CD123の)前記第2のアイソフォームを発現する患者の細胞であって、前記第1のアイソフォーム(例えば、CD123の)を発現する移植細胞ではない患者の細胞を特異的にアブレーションすることができる。患者の細胞は枯渇するが移植された細胞は枯渇させない選択的枯渇は、免疫枯渇剤によってもはや枯渇されない健常な造血系で患者を再構成することを可能にする。したがって、本治療的使用によれば、患者は、免疫抑制を長期間経るより、むしろ機能的な免疫系を有する。本開示による細胞の使用は、現在のHSC移植の主要な合併症としての感染症を排除する。
【0190】
別の実施形態において、本開示は、表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞(例えば、CD123)を有する患者において正常な造血を回復させるための養子細胞移入療法のための、好ましくは造血幹細胞移植のための方法に関し、それは以下を含む。
(i)前記表面タンパク質(例えば、CD123)の第1のアイソフォームを発現する有効量の細胞(例えば造血幹細胞)であって、前記第1のアイソフォーム(例えば、CD123)を発現する前記細胞が、前記第1のアイソフォームをコードする核酸に少なくとも1つの多型対立遺伝子、好ましくは一塩基多型(SNP)対立遺伝子、または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型が、前記表面タンパク質の(例えば、CD123の)前記第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在しない、細胞、またはその医薬組成物を投与すること、および
(ii)前記表面タンパク質の(例えば、CD123の)前記第2のアイソフォームに特異的に結合し、前記表面タンパク質の(例えばCD123の)前記第1のアイソフォームに結合しない少なくとも第1の抗原結合領域を含む薬剤の治療有効量を投与して、前記表面タンパク質の前記第2のアイソフォームを発現する細胞(患者の細胞)を特異的に枯渇させること。
【0191】
第1のアイソフォームを発現する前記細胞またはその医薬組成物は、上記のような第1の抗原結合領域を含む薬剤と併用して(例えば、前に、同時に、または後に)対象に投与される。
【0192】
好ましい実施形態では、枯渇剤(例えば、CD123の第2のアイソフォームを標的とするCAR細胞または抗体)は、前記表面タンパク質の第1のアイソフォーム(例えば、CD123の第1のアイソフォーム)を発現する造血幹細胞の用量の、(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、12週間、または16週間)前、または後(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、12週間、または16週間後)に投与される。
【0193】
「治療有効量」または「有効量」とは、上で定義した治療、特に患者における正常な造血の回復を構成するのに十分な、対象に投与される、上で説明したような第1のアイソフォームを発現するいくつかの細胞、特に造血幹細胞を意図する。
【0194】
本開示による細胞または医薬組成物の投与は、注射、輸血、または移植(implantation、transplantation)を含む任意の好都合な様式で行われ得る。本明細書に記載の組成物は、皮下、皮内、腫瘍内、結節内、髄内、筋肉内、静脈内またはリンパ内注射によって、または腹腔内に患者に投与することができる。別の実施形態では、本発明の細胞または医薬組成物は、好ましくは静脈内注射によって投与される。本発明の細胞または医薬組成物は、腫瘍、リンパ節または感染部位に直接注射され得る。
【0195】
細胞または細胞の集団の投与は、それらの範囲内の細胞数のすべての整数の値を含む、10から10細胞/kg体重、好ましくは10から10細胞/kg体重の投与からなることができる。投与される投与量は、レシピエントの年齢、健康状態および体重、もしあれば併用治療の種類、治療の頻度および所望の効果の性質に依存する。細胞または細胞の集団は、1つまたは複数の用量で投与することができる。投与のタイミングは、管理医師の判断の範囲内であり、対象の臨床状態に依存する。細胞または細胞の集団は、血液バンクまたはドナーなどの任意の供給源から得ることができる。個々の必要性は様々であるが、当技術分野の範囲内の特定の疾患または状態に対する所与の細胞型の有効量の最適範囲の決定がなされた。
【0196】
特に、本開示はまた、それを必要とする対象において、宿主細胞を選択的に枯渇させるのに使用するための第1の抗原結合領域を含む上記の抗CD123剤(例えば、CAR細胞組成物または抗体)を枯渇させることに関する。
【0197】
特異的に移植された細胞を枯渇させ、患者の細胞は枯渇させない方法(安全スイッチ)。
【0198】
本開示によれば、上記のような前記表面タンパク質の第1のアイソフォーム(例えば、CD123の第1のアイソフォーム)を発現する前記細胞または細胞の集団(例えば、造血細胞)は、それを必要とする患者の医学的治療に使用され、前記医学的治療は、前記表面タンパク質の前記第1のアイソフォームを発現する治療有効量の細胞または細胞の集団を、前記表面タンパク質の(例えばCD123の)前記第1のアイソフォームに特異的に結合する治療有効量の枯渇剤(例えば、CAR細胞または抗体)と併用して投与することを含む。
【0199】
本開示の第1のアイソフォームを発現する細胞または細胞の集団、好ましくは免疫細胞は、患者への養子移入細胞移入療法において特に使用される。前記表面タンパク質の前記第1のアイソフォームを発現する前記移植細胞は、移植による移植片対宿主病などの最終的な重篤な副作用を回避するために、特に第1のアイソフォームに特異的に結合し、患者の細胞によって発現される前記表面タンパク質の第2のアイソフォームには結合しない第2の抗原結合領域を含む治療有効量の枯渇剤を投与することによって、患者においてさらに枯渇させることができる。この場合、(移植された細胞によって発現される)前記表面タンパク質の前記第1のアイソフォームに特異的に結合する第2の抗原結合領域を含む前記薬剤は、患者の細胞ではなく特異的に移植された細胞を枯渇させるために投与される。移植細胞の選択的枯渇は、「安全スイッチ」を設けることによって重要な安全機能を構成する。
【0200】
移植片対宿主病(GvHD)は、遺伝的に異なる人からの移植組織の受け入れ後の医学的合併症に関する。提供された組織(移植片)の免疫細胞は、レシピエント(宿主)を外来細胞として認識する。特定の実施形態では、医学的状態は、免疫細胞が患者に移入される造血幹細胞移植または養子細胞移入療法によって引き起こされる移植片対宿主病である。
【0201】
前記副作用は、移植細胞、特にCARを有する免疫細胞がサイトカイン放出症候群および/または神経毒性などの重篤な副作用を有する場合にも起こり得る。この場合、第1のアイソフォームを発現する移植細胞は、前記細胞が悪性になるか、または安全スイッチとして任意のタイプの望ましくないオンターゲットまたはオフターゲットの損傷を引き起こすと排除することができる。
【0202】
本開示は、表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞(例えば、CD123)を有する患者における養子細胞移入療法のための方法に関し、方法は以下を含む。
(i)前記表面タンパク質(例えば、CD123)の第1のアイソフォームを発現する有効量の細胞であって、前記第1のアイソフォーム(例えば、CD123)を発現する前記細胞が、前記表面タンパク質の前記第1のアイソフォームをコードする核酸に少なくとも1つの多型対立遺伝子、好ましくは一塩基多型(SNP)対立遺伝子、または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、前記多型が、前記表面タンパク質の(例えば、CD123の)前記第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムに存在しない、細胞、またはその医薬組成物を投与すること、および
(ii)前記表面タンパク質の(例えば、CD123の)前記第1のアイソフォームに特異的に結合し、前記表面タンパク質の(例えばCD123の)前記第2のアイソフォームに結合しない少なくとも第2の抗原結合領域を含む薬剤の治療有効量を投与して、前記第1のアイソフォームを発現する細胞を特異的に枯渇させること。
【0203】
第1のアイソフォームを発現する前記細胞またはその医薬組成物は、上記のような第2の抗原結合領域を含む薬剤と併用して(例えば、前に、同時に、または後に)対象に投与される。
【0204】
好ましい実施形態では、枯渇剤(例えば、CD123の第2のアイソフォームを標的とするCAR細胞または抗体)は、第1のアイソフォーム(例えば、CD123の第1のアイソフォーム)を発現する造血幹細胞の用量の、(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、12週間、または16週間)前、または後(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、12週間、または16週間後)に投与される。
【0205】
本開示による細胞または医薬組成物の投与は、注射、輸血、または移植(implantation、transplantation)を含む、任意の好都合な様式で行われ得る。本明細書に記載の組成物は、皮下、皮内、腫瘍内、結節内、髄内、筋肉内、静脈内またはリンパ内注射によって、または腹腔内に患者に投与することができる。別の実施形態では、本発明の細胞または医薬組成物は、好ましくは静脈内注射によって投与される。本発明の細胞または医薬組成物は、腫瘍、リンパ節または感染部位に直接注射され得る。
【0206】
細胞または細胞の集団の投与は、それらの範囲内の細胞数のすべての整数の値を含む、10から10細胞/kg体重、好ましくは10から10細胞/kg体重の投与からなることができる。投与される投与量は、レシピエントの年齢、健康状態および体重、もしあれば併用治療の種類、治療の頻度および所望の効果の性質に依存する。細胞または細胞の集団は、1つまたは複数の用量で投与することができる。投与のタイミングは、管理医師の判断の範囲内であり、対象の臨床状態に依存する。細胞または細胞の集団は、血液バンクまたはドナーなどの任意の供給源から得ることができる。個々の必要性は様々であるが、当技術分野の範囲内の特定の疾患または状態に対する所与の細胞型の有効量の最適範囲の決定がなされた。
【0207】
したがって、特定の実施形態において、本開示は、上で記載されるような細胞表面タンパク質の第1のアイソフォームを発現する細胞を投与されたことがある患者において重篤な副作用のリスクを防止することまたは低下させることにおいて使用するための枯渇剤(例えば、CAR細胞または抗体)に関し、前記患者は、前記細胞表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する天然の細胞を有し、前記枯渇剤は、前記細胞表面タンパク質の前記第1のアイソフォームに特異的に結合し、前記細胞表面タンパク質の前記第2のアイソフォームに結合しない少なくとも第2の抗原結合領域を含む。
【0208】
キット
別の態様では、本開示は、上記の表面タンパク質の第1のアイソフォームを細胞に発現させるためのキットであって、Casタンパク質、塩基エディタもしくはプライムエディタ、核酸構築物、上記の発現ベクターと併用させたガイドRNAなどの遺伝子編集酵素、または本開示による単離細胞を含むキットに関する。
【0209】
本発明は、以下のクレームに開示される。
1.それを必要とする患者における医学的治療に使用するための表面タンパク質の第1のアイソフォームを発現する哺乳動物細胞または細胞の集団であって、前記患者は前記表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現する細胞を有し、
前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞は、少なくとも1つの多型または遺伝子操作された対立遺伝子を有するゲノムDNAを含み、好ましくは、前記多型は、前記第1のアイソフォームをコードする核酸における、一塩基多型(SNP)対立遺伝子であり、前記多型対立遺伝子は、前記表面タンパク質の前記第2のアイソフォームを発現する細胞を有する患者のゲノムには存在しない、使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
2.表面タンパク質の前記第1および第2のアイソフォームが機能的である、クレーム1に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
3.前記表面タンパク質がCD123である、クレーム1または2に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
4.前記多型対立遺伝子または遺伝子操作された対立遺伝子が、配列番号1と比較してE51位、S59位および/またはR84位のアミノ酸の少なくとも1つの置換によって特徴付けられる、クレーム3に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
5.前記残基E51が、K、N、T、R、M、GおよびAからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはKまたはTで置換されている、クレーム4に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
6.前記残基S59が、I、P、E、L、K、F、R、およびYからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはP、Eによって置換されている、クレーム4または5に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
7.前記残基R84が、T、S、Q、N、HおよびAからなる群から選択されるアミノ酸によって置換されている、クレーム4から6のいずれか一項に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
8.前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、前記第1のアイソフォームをコードする核酸において少なくとも1つの天然多型対立遺伝子を有する天然ゲノムDNAを含む対象から選択されている、クレーム1から7のいずれか一項に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
9.前記第1のアイソフォームが、遺伝子編集によって前記表面タンパク質をコードする核酸配列をエクスビボ修飾することによって得られる、クレーム1から7のいずれか一項に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
10.表面タンパク質をコードする前記核酸配列が、少なくとも第1の抗原結合領域を含む薬剤の結合に関与する表面タンパク質領域をコードする標的配列内部に部位特異的変異を誘導することができる遺伝子編集酵素を細胞に導入することによって改変される、クレーム9に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
11.前記遺伝子編集酵素が、部位特異的ヌクレアーゼ、塩基エディタまたはプライムエディタ、好ましくは前記標的配列に対する相補配列を含むガイドRNAを含むCRISPR/Cas遺伝子編集酵素である、クレーム10に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
12.前記表面タンパク質がCD123であり、
-ガイドRNA配列は配列番号16または17であり、配列番号1と比較して置換E51Kをコードする配列を標的とし、
-ガイドRNA配列が、配列番号18から20からなる群から選択され、配列番号1と比較して置換S59Pをコードする配列を標的とし、および/または
-ガイドRNA配列は、配列番号21から23からなる群から選択され、配列番号1と比較して置換R84Eをコードする配列を標的とする、クレーム11に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
13.前記表面タンパク質をコードする前記核酸配列が、HDR鋳型をさらに導入することによって改変されている、クレーム9から12のいずれか一項に記載の使用のための哺乳動物細胞。
14.前記医学的治療が、
第2のアイソフォームを発現する患者の細胞を特異的に枯渇させるために、前記第2のアイソフォームに特異的に結合する少なくとも第1の抗原結合領域を含む治療有効量の枯渇剤と併用して、それを必要とする前記患者に前記第1のアイソフォームを発現する治療有効量の前記細胞または細胞の集団を投与すること
を含む、クレーム1から13のいずれか一項に記載の哺乳動物細胞または集団。
15.前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が造血細胞、好ましくは造血幹細胞である、クレーム14に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
16.造血疾患、好ましくは急性骨髄性白血病(AML)、芽球性形質細胞樹状細胞新生物(BPDCN)、またはB-急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)などの悪性造血疾患の治療における免疫療法後に正常な造血を回復するための、クレーム14または15に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
17.前記枯渇剤が、前記第2のアイソフォームに特異的に結合し、前記第1のアイソフォームに結合しない第1の抗原結合領域を含む抗体または抗体-薬物コンジュゲートである、クレーム14から16のいずれか一項に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
18.前記枯渇剤が、免疫細胞、好ましくは、前記第2のアイソフォームに特異的に結合し、前記第1のアイソフォームに結合しない第1の抗原結合領域を含むキメラ抗原受容体(CAR)を有するT細胞である、クレーム14から16に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
19.前記表面タンパク質がCD123であり、前記枯渇剤の前記第1の抗原結合領域が、配列番号1のアミノ酸T48、D49、E51、A56、D57、Y58、S59、M60、P61、A62、V63、N64、T82、R84、V85、A86、N87、P89、F90、S91を含むエピトープに特異的に結合する、クレーム17または18に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
20.前記第1の抗原結合領域が、
c)VHCD1が配列番号2であり、VHCD2が配列番号3であり、VHCDR3が配列番号4である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
d)3つのCDR、VLCDR1、VLCDR2およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号5または6であり、VLCDR2は配列番号7であり、VLCDR3は配列番号8である、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)
を含む、クレーム19に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団。
21.前記第1の抗原結合領域が、配列番号9、11および13から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる重鎖可変ドメイン、および/または配列番号10、12および14から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインを含む、クレーム20に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団。
22.前記医学的治療が、
第1のアイソフォームを発現する移入された細胞を特異的に枯渇させるために、前記第1のアイソフォームに特異的に結合する少なくとも第2の抗原結合領域を含む治療有効量の枯渇剤と併用して、それを必要とする前記患者に前記第1のアイソフォームを発現する治療有効量の前記細胞または細胞の集団を投与すること
を含む、クレーム1から13のいずれか一項に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団。
23.養子細胞移入療法において、好ましくは、急性骨髄性白血病(AML)、芽球性形質細胞樹状細胞新生物(BPDCN)、またはB-急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)などの悪性造血疾患の治療のための、クレーム22に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
24.移植による移植片対宿主病などの最終的な重篤な副作用を回避するために、前記枯渇剤が、表面タンパク質の前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞または細胞の集団に続いて投与される、クレーム22または23に記載の哺乳動物細胞または細胞の集団。
25.前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞が、造血細胞、好ましくは免疫細胞、より好ましくはT細胞である、クレーム22から24のいずれか一項に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
26.前記第1のアイソフォームを発現する前記免疫細胞が、キメラ抗原受容体(CAR)を有する免疫細胞、好ましくはT細胞である、クレーム25に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
27.前記キメラ抗原受容体(CAR)が、前記患者の細胞によって発現される第2のアイソフォームを標的とする、クレーム26に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
28.前記CARが、第3の細胞外ループ内、または配列番号1のアミノ酸T48、D49、E51、A56、D57、Y58、S59、M60、P61、A62、V63、N64、T82、R84、V85、A86、N87、P89、F90、S91を含むポリペプチド内に位置するCD123のエピトープに特異的に結合する抗原結合領域を含む、クレーム27に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
29.前記CARが、
-VHCD1が配列番号2であり、VHCD2が配列番号3であり、VHCDR3が配列番号4である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
-3つのCDR、VLCDR1、VLCDR2およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号5または6であり、VLCDR2は配列番号7であり、VLCDR3は配列番号8である、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)
を含む、抗原結合領域を含む、クレーム28に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
30.前記CARが、配列番号9、11および13から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる重鎖可変ドメイン、および/または配列番号10、12および14から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインを含む抗原結合領域を含み、好ましくは前記CARがアミノ酸配列の配列番号15を含むかまたはそれからなる、クレーム29に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
31.前記枯渇剤が、前記第1のアイソフォームに特異的に結合し、前記第2のアイソフォームに結合しない第2の抗原結合領域を含む抗体または抗体-薬物コンジュゲートである、クレーム22から30のいずれか一項に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
32.前記枯渇剤が、免疫細胞、好ましくは、前記第1のアイソフォームに特異的に結合し、前記第2のアイソフォームに結合しない第2の抗原結合領域を含むキメラ抗原受容体(CAR)を有するT細胞である、クレーム22から30に記載の使用のための哺乳動物細胞または細胞の集団。
33.哺乳動物細胞、好ましくは造血幹細胞または免疫細胞、例えばクレーム1から13のいずれか一項に定義されているT細胞、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
34.前記第1のアイソフォームを発現する前記細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)、好ましくは前記患者の細胞によって発現されるCD123の第2のアイソフォームを標的とするCARを有する免疫細胞、好ましくはT細胞である、クレーム33に記載の医薬組成物。
35.前記CARが、第3の細胞外ループ内、または配列番号1のアミノ酸T48、D49、E51、A56、D57、Y58、S59、M60、P61、A62、V63、N64、T82、R84、V85、A86、N87、P89、F90、S91を含むポリペプチド内に位置するCD123のエピトープに特異的に結合する抗原結合領域を含む、クレーム34に記載の医薬組成物。
36.前記CARが、
-VHCD1が配列番号2であり、VHCD2が配列番号3であり、VHCDR3が配列番号4である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
-3つのCDR、VLCDR1、VLCDR2およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号5または6であり、VLCDR2は配列番号7であり、VLCDR3は配列番号8である、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)
を含む、抗原結合領域を含む、クレーム35に記載の医薬組成物。
37.前記CARが、配列番号9、11および13から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる重鎖可変ドメイン、および/または配列番号10、12および14から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインを含む抗原結合領域を含み、好ましくは前記CARが配列番号15を含むかまたはそれからなる、クレーム36に記載の医薬組成物。
38.クレーム27から27、31および32に定義されている枯渇剤をさらに含む、クレーム33から37のいずれか一項に記載の医薬組成物。
39.表面タンパク質の第1のアイソフォームを発現する細胞を投与されたことがある患者において重篤な副作用のリスクを防止することまたは低下させることにおいて使用するための枯渇剤であって、前記患者の天然の細胞が、表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現し、前記枯渇剤は、前記第1のアイソフォームに特異的に結合し、前記第2のアイソフォームに結合しない少なくとも第2の抗原結合領域を含む、枯渇剤。
40.前記枯渇剤が、表面タンパク質の第1のアイソフォームに特異的に結合し、前記表面タンパク質の第2のアイソフォームに結合しない第2の抗原結合領域を含む抗体または抗体-薬物コンジュゲートである、クレーム39に記載の使用のための枯渇剤。
41.前記枯渇剤が、免疫細胞、好ましくは、前記第1のアイソフォームに特異的に結合し、前記第2のアイソフォームに結合しない第2の抗原結合領域を含むキメラ抗原受容体(CAR)を有するT細胞である、クレーム40に記載の使用のための枯渇剤。
42.前記表面タンパク質がCD123である、クレーム39から41のいずれか一項に記載の使用のための枯渇剤。
43.それを必要とする患者において宿主細胞を選択的に枯渇させることにおいて使用するための枯渇剤であって、前記患者の天然の細胞が表面タンパク質の第2のアイソフォームを発現し、前記枯渇剤が、前記第2のアイソフォームに特異的に結合する少なくとも第1の抗原結合領域を含む、使用のための枯渇剤。
44.前記枯渇剤が、前記表面タンパク質の第2のアイソフォームに特異的に結合する第1の抗原結合領域を含む抗体または抗体-薬物コンジュゲートである、クレーム44に記載の使用のための枯渇剤。
45.前記枯渇剤が、免疫細胞、好ましくは、前記第2のアイソフォームに特異的に結合する第1の抗原結合領域を含むキメラ抗原受容体(CAR)を有するT細胞である、クレーム44に記載の使用のための枯渇剤。
46.前記表面タンパク質がCD123である、クレーム44から46のいずれか一項に記載の枯渇剤。
47.前記枯渇剤の前記第1の抗原結合領域が、第3の細胞外ループ内、または配列番号1のアミノ酸T48、D49、E51、A56、D57、Y58、S59、M60、P61、A62、V63、N64、T82、R84、V85、A86、N87、P89、F90、S91を含むポリペプチド内に位置するエピトープに特異的に結合する、クレーム47に記載の使用のための枯渇剤。
48.前記第1の抗原結合領域が、
e)VHCD1が配列番号2であり、VHCD2が配列番号3であり、VHCDR3が配列番号4である、3つのCDR、VHCDR1、VHCDR2およびVHCDR3を含む抗体重鎖可変ドメイン(VH)、および
f)3つのCDR、VLCDR1、VLCDR2およびVLCDR3を含む抗体軽鎖可変ドメイン(VL)であって、VLCDR1は配列番号5または6であり、VLCDR2は配列番号7であり、VLCDR3は配列番号8である、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)
を含む、クレーム48に記載の使用のための枯渇剤。
49.前記第1の抗原結合領域が、配列番号9、11および13から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる重鎖可変ドメイン、および/または配列番号10、12および14から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むもしくはそれからなる軽鎖可変ドメインを含み、好ましくは前記枯渇剤が配列番号15を含むかまたはそれからなるCARである、クレーム49に記載の枯渇剤。
【0210】
ここで、本発明を以下の実施例によって例示するが、これらは限定的ではない。
【実施例
【0211】
1.CD123の計算分析
細胞表面タンパク質のエピトープの同一性および局在化は、複合体の3D構造から抽出するか、配列および/または構造ベースのエピトープ予測ツールに基づいて予測することができる。線状または立体配座B細胞エピトープを予測するための方法としては、限定されないが、BepiPred PMID:28472356、DiscoTope PMID:26424260、ElliPro PMID:19055730、およびSVMTriP PMID:32162263が挙げられる。
【0212】
タンパク質の構造的および機能的状態ならびに可能性のある病原性作用に対する変異体の作用を推定するために、生物物理学的特徴、進化的保存パターン、生物学的に関連する部位、すなわち相互作用部位、機能的および構造的に関連する部位への近接性を含む情報、タンパク質の安定性が考慮される。
【0213】
タンパク質での変異体の位置は、i)タンパク質の利用可能なまたは予測される3D構造、ii)既知の構造の相同タンパク質との配列比較に基づいてマッピングされる。変異体を含有するアミノ酸部位および全体的なタンパク質領域の溶媒アクセス可能性またはアクセス可能表面積(ASA)は、入手可能な場合、3D構造情報に基づいて計算されるか、または配列ベースの特徴から予測される。
【0214】
アミノ酸配列からASAを予測する方法としては、配列プロファイル、構造の類似性および機械学習アプローチ、例えば、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシン(SVM)およびベイズ統計PMID:2217139、PMID:7892171、PMID:15281128、PMID:15814555、PMID:8727318が挙げられる。変異体の作用を予測するための方法には、SIFT、PolyPhen、MutationTaster、Condel、FATHMMが含まれるが、これらに限定されない。
【0215】
タンパク質の安定性に対するアミノ酸変異の影響を予測するための構造に基づく方法は、統計的ポテンシャル、物理的または経験的エネルギー関数に基づいており、FoldX、Rosetta、CC/PBSA(PMID:12079393、PMID:18410248、PMID:19116609、PMID:15063647)を含むがこれらに限定されない。
【0216】
複数の配列アラインメントから計算された大域的および局所的確率モデルを使用して、配列情報のみからの単一または高次の置換の作用を定量化することができ、相互情報、直接カップリング分析および共分散推定PMID:28092658、PMID:22101153、PMID:23458856、PMID:24573474を含む。
【0217】
2.CD123-CSL362複合体の分析
CSL362エピトープ:開状態対閉状態
CD123-CSL362相互作用複合体の三次元構造を使用して、タンパク質変異体を生成するための優先部位として重要な相互作用部位を同定した。タンパク質部位および変異体を、i)CSL362に結合した状態およびCSL362を含まない状態で観察された、残基ごとの相対的溶媒接近可能性、ii)複数の配列アラインメントからの、部位ごとの進化的保存およびアミノ酸使用、iii)配列(EV突然変異)および構造ベースのシミュレーション(FoldX)に基づくインシリコの突然変異誘発後の予測された安定性変化および、構造ベースのシミュレーション(FoldX)に基づいて選択した(図1)。
【0218】
3.CD123のSNP分析
アミノ酸の変化の性質と共に、所与の集団における対立遺伝子の分布または頻度、ホモ接合体の状態、疾患関連データ、表現型関連データ、ならびにタンパク質、細胞および生物レベルでの変異の影響に基づいて、各変異体を分析し、優先順位付けする。
【0219】
対立遺伝子頻度データは、1000ゲノムプロジェクトを含む一連のプロジェクトおよびリポジトリから検索することができる。ゲノム集約データベース(gnomAD)、dbSNP、Ensembl、Uniprot(表1)。
【0220】
表現型データおよび疾患関連変異体は、ClinVar、COSMIC表現型変異体、HGMD-PUBLIC変異体、表現型変異体のNHGRI-EBIカタログ、OMIM表現型変異体、PhenCode、GWAS、遺伝子型-組織発現(GTEx)を含む様々なプロジェクトおよびリポジトリから検索することができる。
【表1】
【0221】
4.生細胞に対するFACSスキャン
CSL362/Okt3の発現および精製
CSL362/Okt3 BiTEをコードするプラスミドは、Dario Neriからの親切な贈呈品である(Hutmacher et al.,Leuk Res.2019 Sep;84:106178)。
【0222】
CHO-Sは、Power CHO2培地(Lonza:BELN12-771Q、1XHT、Glutamax、抗生物質-抗真菌剤を補充した)において、2000万個/mlの密度まで成長させた。
【0223】
次いで、2.10個の細胞を遠心分離し、500mlのProCHO4培地(Lonza:BEBP12-029Q、1XHT、Glutamax、抗生物質-抗真菌剤を補充した)において再懸濁する。1.7mgのCSL362/Okt3 BiTE DNAを5mlのPEI(1mg/ml)と共に細胞に添加する。次いで、細胞を4×500mlのローラーボトルに分配し、COインキュベーターで31℃、140rpmで6日間増殖させる。
【0224】
次いで、CHO-S細胞を3000rpmで20分遠心分離する。上清を0.22mmフィルターで濾過し、100mlの洗浄液(150mMのNaClおよび5mMのイミダゾールを含有するPBS、pH7.4)で予備洗浄した5mlのNi NTAカラム(ThermoFisher)に適用する。
【0225】
カラムを100mlの洗浄培地で洗浄する。溶出は、PBS、150mMのNaCl、250mMのイミダゾール、pH=8.0で行う。0.5mlの画分を回収し、ODを280mMで測定する。高濃度画分をプールし、PBSに対して2回O/N透析する。バイトを0.22μmで滅菌濾過し、1mg/mlで等分し、-80℃で保存する。
【0226】
CSL362およびMIRG123
CSL362は、Fc領域にS239DおよびI332E変異を有するキメラ抗体である(Leukemia(2014)28:2213-21)。モノクローナルIgG1抗CD123抗体MIRG123を作製するために、重鎖可変領域およびカッパ軽鎖可変領域(VHおよびVKL)をCSL362/OKT3 BiTEから誘導させた。VHおよびVKLの配列を、hCMVプロモーターの制御下で、それぞれAbVec2.0-IGHG1(Addgeneプラスミド#80795)およびAbVec 1.1-IGKC(Addgeneプラスミド#80796)にクローニングした(Tiller et al J Immunol Methods.2008 Jan 1;329(1-2):112-24.Epub 2007 Oct 31)。
VH配列(配列番号9):
EVQLVQSGAEVKKPGESLKISCKGSGYSFTDYYMKWARQMPGKGLEWMGDIIPSNGATFYNQKFKGQVTISADKSISTTYLQWSSLKASDTAMYYCARSHLLRASWFAYWGQGTMVTVSS
VKL配列(配列番号10)
DIVMTQSPDSLAVSLGERATINCESSQSLLNSGNQKNYLTWYQQKPGQPPKPLIYWASTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCQNDYSYPYTFGQGTKLEIK
【0227】
次いで、両方のプラスミドを発現のためにCHO-S細胞に同時トランスフェクトする。CHO-Sは、Power CHO2培地(Lonza:BELN12-771Q、glutamax、HT補充物、抗生物質-抗真菌剤を補充した)において、2000万個/mlの密度まで成長させた。
【0228】
次いで、2×10個の細胞を遠心分離し、500mlのProCHO4培地(Lonza:BEBP12-029Q、1XHT、Glutamax、抗生物質-抗真菌剤を補充した)において再懸濁する。0.6mgのVHおよび0.6mgのVKL DNAを、5mlのPEI(1mg/ml)と共に細胞に添加する。次いで、細胞を4×500mlのローラーボトルに分配し、CO2インキュベーターで31℃、140rpmで6日間増殖させる。
【0229】
次いで、CHO-S細胞を3000rpmで20分遠心分離する。上清を0.22μmフィルターで濾過し、PBSで前洗浄したプロテインAカラムに適用する。次いで、カラムを100mlのPBSで洗浄する。抗体を0.1MのグリシンpH=2.2で溶出する。0.5mlの画分を回収し、ODを280mMで測定する。高濃度画分をプールし、PBSに対して2回O/N透析する。
【0230】
5.FACSによる結合アッセイ
5.1材料および方法
真核細胞株
ヒト胎児由来腎臓293細胞株(HEK-293)は、M.Zavolan(Biozentrum Basel)から寄贈された。全細胞株を新たに解凍し、アッセイに使用する前に3から6回継代した。HEK-293を、10%熱不活化ウシ胎仔血清(FCS;Gibco Life Technologies)および2mMのGlutamaxを補充したダルベッコ改変イーグル培地-高グルコース(Sigma-Aldrich)において、37℃、5%のCO2で培養し、週に3回分割した。ネオマイシン耐性カセットを発現するすべての安定的な細胞株の培養培地に、Geneticin G418(50mg/ml;BioConcept)を350μg/mlの濃度で添加した。
【0231】
CD123に対して陰性に染色された野生型HEK-293をHEKと命名し、野生型CD123を発現するHEK-293をHEK-CD123と標識し、CD123変異体を残基の位置および変化したアミノ酸によって記載する。
【0232】
ヒトインターロイキン3受容体(CD123)の完全長cDNA(NM_002183.2)を、pCMV3ベクター(カタログ番号:HG10518-NF)において、Sino Biologicalから購入した。安定した細胞株生成のために、ハイグロマイシンをネオマイシンに置き換えた。
【0233】
E51は、K、N、T、S、Q、R、M、G、Aに変異している。
【0234】
S59は、I、G、P、E、L、T、K、F、R、Yに変異されている。
【0235】
R84は、T、K、S、Q、N、E、H A、Lに変異している。
【0236】
次いで、すべての点突然変異がPCRによって導入され、単一のアミノ酸の変化をもたらした。
【0237】
Neonエレクトロポレーター(Invitrogen;1100V-20ms-2パルス)を使用して、2.10個のHEK細胞に6μgのDNA(pCMVプラスミド-huCD123 wtまたは変異体)をエレクトロポレーションする。48時間後、細胞を一過性のトランスフェクションとしてFACSによる結合分析に使用する。次いで、それらをG418選択下で2週間維持し(350μg/ml培地)、次いで、結合について安定的な細胞株として試験する。
【0238】
FACS:
2×10個のHEK細胞を、抗HuCD123-Buv450クローン6H6(Biolegend-Cat:306020-1/100)により、MIRG123-ビオチン(1/50)+ストレプトアビジン-FITC(1/200)と一緒に染色し、FACSによって分析する。
【0239】
フローサイトメトリーに基づく結合アッセイ:
CD123変異体のMIRG123への結合を試験するために、安定した細胞株を高抗体濃度で染色する:抗HuCD123-Buv450クローン6H6(1/12:4.2mg/ml)およびビオチン化MIRG123-Bio(1/7.5:50mg/ml)+ストレプトアビジン-PE(1/200)。
【0240】
5.2結果
図2は、HEK-293細胞においてインビトロで安定的に発現された野生型CD123およびその変異体に対する抗ヒトCD123抗体クローン6H6(x軸)およびMIRG123(y軸)の結合を示すフローサイトメトリーのプロットを示す。6H6による濃い染色は、CD123タンパク質の安定した発現を示すが、異なるCD123変異体アイソフォームは、クローンMIRG123への結合が消失した(<1のMIRG1236H6細胞(右上象限))、弱い(1から20%のMIRG1236H6細胞)または強い(>20%のMIRG1236H6細胞)ことを示す。対照の条件(灰色)は、ヒト野生型CD123を安定的に発現するHEK-293細胞(HEK-CD123)および形質導入されていないHEK-293細胞(HEK)である。3つの独立した実験の代表的なフローサイトメトリーデータ。
【0241】
標的細胞は、野生型CD123(HEK-CD123)を発現する、形質導入されていない(HEK)もの、またはその変異体アイソフォーム(変化したアミノ酸を有する残基の位置を示す)いずれかの、安定的なHEK-293細胞株である。CD123変異体は、抗CD123抗体クローンMIRG123に対するそれらの消失された結合(下線)、弱い結合(丸)または強い結合(アスタリスク)に従って符号化されている。3つの独立したフローサイトメトリー実験のコンパイルデータを図3に示す。
【0242】
6.ADCCアッセイ:MIRG123によって媒介されるADCC活性を定量するためのインビトロのアッセイ
6.1ADCCアッセイ法
ADCC活性を、ADCCレポーターバイオアッセイ、V変異体(Promega、参照番号G7015)を用いて実施したFcγRIIIa活性化アッセイから外挿した。hCD123変異体を安定的に発現するHEK293細胞株を白色96ウェルプレートの透明な底部(Corning costar#3610)に播種した。0日目に、4400個の細胞を100ulの培養培地に播種して、24時間後に6250個の細胞を得た(E:T比12:1)。1日目に、培地をHEK293細胞培養物から除去し、以下を添加した。(i)25μlのADCC緩衝液(Promega)、(ii)最終濃度の3倍のADCC緩衝液(最終濃度1ug/ml)に希釈した25μlのMIRG123抗体、(iii)3M細胞/mlの濃度のADCC緩衝液に希釈した25μlのエフェクター細胞(Jurkat/FcγRIIIa/NFAT-Luc細胞)。混合物を37℃、5%のCO2で5時間インキュベートした。Bio-Glo(商標)ルシフェラーゼアッセイ試薬(Promega)を使用してルシフェラーゼ活性を測定した。75μlの試薬を添加し、細胞を撹拌しながら室温で10分間インキュベートした。不透明なラベル(Elmer 6005199)を使用してプレートの底部を覆い、PHERAstart FSX(BMG LABTECH)プログラムLuc-Glo(LUM)、GainA=3600、Optic module=LUMplusで発光を読み取った。
【0243】
このアッセイでは、1μg/mlのリツキシマブでインキュベートしたRaji細胞を陽性対照として使用した。
【0244】
6.2結果
HEK、HEK-CD123(野生型)およびHEK CD123変異体アイソフォームとJurkat/FcγRIIIa/NFAT-Lucレポーター細胞との共培養後に測定された相対発光シグナル。RLUは、HEK-CD123(野生型)で測定されたシグナルに対して正規化される(図4)。
【0245】
7.T細胞エンゲージャアッセイ:CSL362由来のT細胞エンゲージャーによるT細胞活性化および標的細胞殺傷を定量するためのインビトロのアッセイ。
7.1材料および方法
初代ヒトT細胞単離培養
匿名の健常人のドナーからの白血球バフィーコートを、献血センターBasel(Blutspendezentrum SRK beider Basel、BSZ)から購入した。製造業者のプロトコルに従って、密度勾配培地Ficoll-Paque(商標)(GE Healthcare)を用いたSepMate(商標)チューブ(Stemcell technologies)を用いた密度遠心分離によって末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。次いで、ヒトT細胞を、EasySep Human T Cell Isolation Kit(Stemcell Technologies)を製造者の説明書に従って使用して、磁気陰性選択によって精製した(純度>96%)。凍結PBMCを使用する場合、T細胞を解凍後に単離し、刺激なしで補充培地で一晩培養した。T細胞を、10%熱不活性化ヒト血清(AB+、雄;BSZ Baselから購入)、2mMのGlutamax、10mMのHEPES、1mMのピルビン酸ナトリウム、0.05mMの2-メルカプトエタノールおよび1%のMEM非必須アミノ酸(100×)(すべてGibco Life Technologies)を補充したRPMI-1640培地(Sigma-Aldrich)で培養した。
【0246】
インビトロでのBiTE媒介殺傷アッセイ
BiTE殺傷アッセイのために、HEK-293標的細胞を、初代ヒトエフェクターT細胞および300ng/mL CD3/CSL365 BiTEと共に、10:1のエフェクター対標的の比(E:T比)で72時間共培養した。
【0247】
共培養を開始する前に、HEK、HEK-CD123、およびCD123変異体を安定的に発現するHEKを、製造業者のプロトコルに従ってCellTraceViolet(CTV)で染色し、完全ヒト培地の96ウェル培養プレートで37℃、5%のCO2で一晩培養した。翌日、補充培地に一晩維持した解凍T細胞または新たに単離したT細胞のいずれかにBiTEを300ng/mlの濃度でHEK-293細胞に添加し、37℃で72時間維持した。T細胞活性化を、フローサイトメトリーによってCD69%陽性T細胞の割合を定量することによって評価した。T細胞の細胞傷害活性および活性化をフローサイトメトリーによって分析した。特異的殺傷を以下のように計算した。(1-BiTEを含むNr.生存標的細胞/BiTEを含まないNr.生存標的細胞)*100。光学顕微鏡Axio Vert.A1(Zeiss)、倍率20倍を用いて細胞形態を評価した。
【0248】
7.2結果:
T細胞エンゲージャー媒介T細胞活性化
安定的な標的細胞株HEK、HEK-CD123およびCD123変異体を、300ng/mLのCD3/CSL362 BiTEの存在下、10:1のE:T比で、ヒト初代pan T細胞と共培養した。図5は、HEK、HEK-CD123またはすべてのCD123変異体との共培養後に測定された%CD69+T細胞の概要を示す。データを、HEK標的細胞の存在下におけるCD69細胞の百分率に対して正規化する。エラーバーは平均±SDを示す。データは、5人の独立した血液ドナーおよび群あたり2回の技術的反復実験を表す。
【0249】
T細胞エンゲージャー媒介性細胞殺傷
安定的な標的細胞株HEK、HEK-CD123およびCD123変異体を、300ng/mLのCD3/CSL362 BiTEの存在下、10:1のE:T比で、ヒト初代pan T細胞と共培養した。図6は、72時間の共培養後のHEK、HEK-CD123およびすべてのCD123変異体の特異的BiTE媒介殺傷を百分率で示す。エラーバーは平均±SDを示す。データは、5人の独立した血液ドナーおよび群あたり2回の技術的反復実験を表す。
【0250】
8.CAR T殺傷
8.1材料および方法
フローサイトメトリーおよび細胞の選別
フローサイトメトリーを、BD FACSDivaソフトウェアを用いてBD LSRFortessaで行い、データをFlowJoソフトウェア(FlowJoバージョン10.7.1)で分析した。
【0251】
初代T細胞を氷冷PBSで洗浄した後、固定可能な生存性色素で暗所において4℃で20分間染色した。その後、蛍光標識抗体を含む50μlのFACS緩衝液(PBS+2% FCS+0.1% NaN3)で、暗所において室温で20分間、細胞表面染色を行った。ビオチン標識抗体の場合、ストレプトアビジンを含む二次抗体を続いて同じプロトコルで染色した。染色した細胞をFACS緩衝液で1回洗浄し、次いで直ちに取得した。
【0252】
細胞の選別のために、細胞をペレット化し、1mMのEDTAを補充したFACS緩衝液(PBS+2% FCS)に再懸濁し、分析まで氷で保った。FACSは、BD FACSAriaまたはBD FACSMelody Cell Sorterのいずれかで行った。対照細胞も選別プロセスに供した。
【0253】
CD123-CAR HDRTの設計および製造
CAR T細胞を、TRAC遺伝子座(配列番号24)に特異的なCRISPR-Cas9リボヌクレオタンパク質(RNP)と二本鎖DNA HDR鋳型(HDRT)との同時エレクトロポレーションによって生成した。HDRTは、クローンCSL362の一本鎖可変断片(scFv)(D.Neriからの心づかいの贈呈品であり、先行して公表(HUTMACHER et al.2019)、CD8アルファヒンジ(配列番号25)、および膜貫通ドメイン(配列番号26)(Gen CD8A ENSG00000153563)、細胞内シグナル伝達部分4-1BB(配列番号27)(Gen TNFRSF9 ENSG00000049249)、ならびにCD3ゼータ(配列番号28)(Gen CD247 ENSG00000198821)、ならびに蛍光レポータータンパク質GFPを有する第2世代CD123特異的CAR(配列番号15)をコードする。TRAC遺伝子座エクソン1(図7)に相補的な相同の対称アーム(300bp)が隣接している。構築物を合成し、GenScript(登録商標)によってクローニングベクター(pUC57骨格)にクローニングし、Kapa高忠実度ポリメラーゼ(Kapa Hifi Hotstart Ready Mix、Roche)を使用してプラスミドからHDRTをPCR増幅した。PCRアンプリコンを製造者の説明書に従ってNucleoSpin GelおよびPCRクリーンアップキット(Macherey-Nagel)で精製し、正しいサイズを1%アガロースゲルでのゲル電気泳動によって検証した。次いで、HDRTを真空濃度を使用して1ug/μlの最終濃度に濃縮し、使用するまで-20℃で保存した。
【0254】
ヒトT細胞からのゲノムDNA抽出および配列決定
ゲノムDNAを、プロテイナーゼK(0.1μg;シグマ・アルドリッチ)を含有する100μlの尾部溶解緩衝液(100mMトリス[pH8.5]、5mMのNa-EDTA、0.2%のSDS、200mMのNaCl)に再懸濁し、Eppendorf Thermomix Comfortシェーカーで1000rpmで56℃でインキュベートすることによって、遺伝子改変ヒトT細胞から抽出した。1時間後、酵素を95℃で15分間熱不活性化した。遠心分離(14000rpm、10分)後、試料を1:1の体積比でイソプロパノールと混合することによってDNAを沈殿させた。DNAをペレット化し、70%エタノールで洗浄し、風乾し、Milli-Q水に再懸濁した。最後に、NanoDrop(商標)装置(Thermo Fisher)を用いてDNAの濃度を測定した。TRAC遺伝子座へのCAR導入遺伝子の正しい挿入を検証するために、プライマーを相同性の5’および3’アームの外側に設計した。Phusion High-Fidelity DNA Polymerase(Thermo Scientific)を用いたPCRの後、PCR産物を0.8%アガロースゲルでのゲル電気泳動によってサイズ分離し、正しいアンプリコン長をNucleospin PCRおよびGel Clean-upキット(Macherey-Nagel;製造業者のプロトコルに従う)を用いて精製した。100ngの溶出DNAを、DNAの量を増加させるために同じプライマーを用いた、さらなるPCR増幅のために利用した。PCRアンプリコンを、Nucleospin PCRおよびGel Clean-upキット(Macherey-Nagel)を使用して清浄化し、ConeJET PCR Cloning Kit(Thermo Scientific)を使用して22℃で2時間、pJET 1.2/平滑末端クローニングベクターにライゲートした。コンピテント細菌(JM109)への細菌形質転換および37℃での一晩のインキュベーションの後、32個のコロニーを選び取り、PCRによってスクリーニングした。導入遺伝子が正しく組み込まれたコロニーを、50ug/mlのアンピシリンを補充した5mlのLB培地に接種し、37℃で一晩増殖させた。プラスミドDNAを、GenElute Plasmid Miniprepキット(Sigma-Aldrich)を製造者のプロトコルに従って使用して、培養された細菌から単離した。サンガー配列決定をMicrosynth AG Switzerlandで行った。MegAlign Pro(DNASTAR、バージョン17.0.1.183)を使用して配列を分析した。
【0255】
非ウイルス性CRISPR/Cas9ベースの編集によるヒトCD123-CAR T細胞の生成
各エレクトロポレーションの前にCas9リボヌクレオタンパク質(RNP)を新たに生成した。解凍したcrRNA(TRAC遺伝子座に特異的であり、先行して公表のROTH et al.2018)およびtracrRNA(両方ともIDT Technologiesから購入し、200μMで再懸濁)を1:1のモル比(それぞれ120pmol)で混合し、95℃で5分間変性させ、室温で10から20分間アニールさせて、80μMの単一ガイドRNA(sgRNA)溶液を複合化させた。ポリグルタミン酸(PGA;100mg/mlで15から50kDa;シグマ・アルドリッチ)を0.8:1の体積比でsgRNAに添加した。最後に、リボ核タンパク質(RNP)を複合化するために、60pmolの組換えCas9(40μM、カリフォルニア大学バークレー校)を新たに調製したsgRNA(モル比Cas9:sgRNA=1:2)と混合し、暗所において室温で20分間インキュベートした。
【0256】
エレクトロポレーションの前に、単離されたヒトT細胞を、CD3/CD28 Dynabeads(Thermofisher)により、1:1の細胞対ビーズ比で、組換えヒトサイトカインIL-2(150U/ml;Proleukin、University Hospital Baselで購入)、IL-7(5ng/ml;R&Dシステム)およびIL-15(5ng/ml;R&Dシステム)と共に、37℃、5%のCO2、1.5から2×10細胞/mlの細胞密度で、48時間活性化した。
【0257】
エレクトロポレーションは、プログラムEH-115を用いて4D-Nucleofector(商標)システム(Lonza)で行った。活性化後、再懸濁したT細胞をEasySep(商標)磁石に2分間入れることによって、CD3/CD28-Dynabeadsを除去した。各エレクトロポレーションについて、1×10個の活性化T細胞を使用し、PBSで1回洗浄し、次いで20μlのLonza補充P3エレクトロポレーション緩衝液に再懸濁した。別個の96ウェル培養プレートにおいて、HDRT(3μgから4μg)およびRNP(60pmol)を完全に混合し、5分間インキュベートした。次いで、細胞を添加し、混合し、全体積を16ウェルNucleocuvette(商標)ストリップに移した。エレクトロポレーションの直後に、予熱した補足培地80μlを各キュベットに添加し、37℃でインキュベートした。20分後、細胞を48ウェル培養プレートに1×10細胞/mlで移し、IL-2 500U/mlを補充した。培地およびIL-2を2日ごとに補充し、細胞を1×10細胞/mlの細胞密度で維持した。エレクトロポレーション後3日目から5日目のフローソーティングの後、補充した培地を1%ペニシリン-ストレプトマイシン(10’000U/ml)およびIL-2(50U/ml)で補完し、その後の実験に使用するまで細胞を5から6日間増殖させた。対照T細胞に、不完全なRNP(特異的crRNAを欠く)をエレクトロポレーションし、そうでなければCAR T細胞と完全に同一にプロセシングした。
【0258】
インビトロのヒトCD123-CAR殺傷アッセイ
共培養の前日に、HEK-293標的細胞(HEK、HEK-CD123、CD-123変異体)を製造者の説明書に従ってCTVで染色し、補充したヒト培地で37℃および5%のCO2で一晩維持した。フローソーティングされ、増殖されたGFP+CAR T細胞および対照細胞を、エフェクターと標的との比10:1で、標的細胞に添加し、37℃、5%のCO2で、24時間共培養した。特異的殺傷およびT細胞活性化をフローサイトメトリーによって測定した。特異的殺傷を、示された式、(1-CAR T細胞と共培養した生存標的細胞数/対照細胞と共培養した生存標的細胞数)*100に従い、計算した。Axio Vert.A1(Zeiss)の顕微鏡を使用して、細胞の形態を記録した。
【0259】
ヒトサイトカインの測定(ELISA)
共培養実験(BiTEおよびCAR)の上清を回収し、ヒトサイトカインの測定のために-20℃で保存した。IFNγを、比色ELISA MAX Standard Set Human IFNγキット(BioLegend)を製造者の説明書に従って使用して測定した。手短に言えば、ヒトIFNγ特異的捕捉抗体を96ウェルプレートにコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。翌日、サンプル(希釈率1:10)および標準物を添加し、ビオチン化抗ヒトIFNγ検出抗体とインキュベートした。その後、アビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼ溶液を添加し、比色基質TMBを使用して発色を誘導し、停止溶液で終了させた。マイクロプレートリーダーを用いて450nmで光学密度を読み取った。標準希釈から計算した標準的な曲線を実験ごとに二連で実行した。データをpg/mlで示す。
【0260】
統計分析
Prism 9.1.2ソフトウェア(GraphPad)で統計分析を行った。N個の値が各図の凡例の中で見出される。
【0261】
8.2結果
CAR T細胞媒介T細胞活性化
図8は、標的細胞HEK、HEK-CD123、E51K、および対照細胞またはCD123特異的CAR T細胞のいずれかの1日の共培養後のエフェクターT細胞活性化(CD69)を表すFACSプロットを示す。単独のCD69+CAR T細胞(エフェクターT細胞)、または24時間の共培養後のHEK、HEK-CD123もしくはすべてのCD123変異体の存在下のCD69+CAR T細胞の概要である。データを、HEK標的細胞の存在下における%CD69+細胞に対して正規化する。
【0262】
CAR T細胞媒介性細胞殺傷
図9は、共培養の1日目にCD123特異的CAR T細胞によるHEK、HEK-CD123およびその変異体のフローサイトメトリーによって測定された特異的殺傷の定量化を示す。エラーバーは平均±SDを示す。3人の独立した血液ドナーおよび群あたり2回の技術的反復実験からのデータである。
【0263】
9.選択された変異体の親和性の測定:
9.1材料および方法
全BLI実験は、1×Kinetic Buffer(Sartorius、PN:18-1105)を用いて1000rpmで振盪しながら、25℃でOctet RED96eまたはOctet R8で行った。
【0264】
CSL362 hIgG1のCD123 ECDwtおよび変異体への結合
CD123 ECDwtおよび変異体(分析物)への抗体CSL362 hIgG1の結合を、低濃度(50nM)と高濃度(300nM)の分析物で実施した。
【0265】
抗体CSL362 hIgG1を、抗ヒトFcキャプチャバイオセンサ(AHC)(Sartorius、PN:18-5060)によって0.5μg/mLで300秒間捕捉した。分析物CD123 ECDwtおよび変異体(高分析物濃度でのCD123 ECD変異体のみ)を、50nMから0.78nM(300nMから4.7nM)の7つの濃度で滴定した。分析物との会合を300秒間、解離を600秒間(900秒間)監視した。二重の参照の減算を、緩衝液のみのウェルおよび陰性のhIgG1対照を負荷したバイオセンサに対して行った。再生を10mMのGly-HCl、ph1.7で行った。Octet Data AnalysisソフトウェアHT 12.0を使用してデータを分析した。データを1:1結合モデルに適合させた(可能な場合)。速度論的速度kaおよびkdを全体に適合させた。図10A、B、E、およびFの定性的な説明では、結合レベルは、すべての濃度について280秒の会合で得られた。
【0266】
6H6 mIgG1のCD123 ECDwtおよび変異体への結合
CD123 ECDwtおよび変異体(分析物)への抗体6H6mIgG1(Biolegend、PN:306002)の結合を、ストレプトアビジン捕捉バイオセンサ(SA)(Sartorius、PN:18-5019)を使用して行った。CaptureSelect(商標)Biotin Anti-LC-κ(マウス)(Thermo Fischer、PN:7103152100)をSAチップにて1μg/mLで600秒間捕捉した。次いで、それらのバイオセンサを使用して、抗体6H6 mIgG1を2.5μg/mLで300秒間捕捉した。分析物CD123 ECDwtおよび変異体を50nMから0.78nMの7つの濃度で滴定した。分析物との会合を300秒間、解離を600秒間監視した。緩衝液のみのウェルを参照として使用した。再生を10mMのGly-HCl、pH1.7で行った。Octet Data AnalysisソフトウェアHT 12.0を使用してデータを分析した。データを1:1結合モデルに適合させた(可能な場合)。速度論的速度kaおよびkdを全体に適合させた。図10CおよびDの定性的な説明では、結合レベルは、すべての濃度について250秒の会合で得られた。
【0267】
フロテツズマブhIgG1のCD123 ECDwtおよび変異体への結合
抗体フロテツズマブhIgG1のCD123 ECDwtへの結合を、低濃度(50nM)の分析物および高濃度(300nM)の分析物のCD123変異体(分析物)に対して行った。
【0268】
抗体フロテツズマブhIgG1を、抗ヒトFcキャプチャバイオセンサ(AHC)(Sartorius、PN:18-5060)によって0.5μg/mLで300秒間捕捉した。分析物CD123 ECDwtおよび変異体(高分析物濃度でのCD123 ECD変異体のみ)を、それぞれ、50nMから0.78nMまたは300nMから4.7nMの7つの濃度で滴定した。分析物との会合を300秒間、解離を600秒間(CD123wt)および900秒間(CD123変異体)監視した。二重の参照の減算を、緩衝液のみのウェルおよび陰性のhIgG1対照を負荷したバイオセンサに対して行った。再生を10mMのGly-HCl、pH1.7で行った。Octet Data AnalysisソフトウェアHT 12.0を使用してデータを分析した。データを1:1結合モデルに適合させた(可能な場合)。速度論的速度kaおよびkdを全体に適合させた。図10Gの定性的な説明では、結合レベルは、すべての濃度について250秒の会合で得られた。
【0269】
9.2結果
CSL362抗体を固定化し、続いて組換えCD123 wtまたは示された変異体への結合を、時間の関数として、様々な濃度で測定した。野生型CD123は、用量依存的に結合したが(図10A、B)、変異体E51T、E51K、E51Q、S59P、S59EおよびR84Eは、最大50nMまではCSL362に結合しなかった(図10B)。結合が存在しないため、本発明者らは親和性を決定することができなかった。対照的に、野生型CD123およびすべての試験した変異体は、変異体のいずれとも重複しないエピトープに結合する対照抗体6H6に結合した。結合が低下した唯一の変異体は、R84Eであり、これはR84Eがタンパク質の安定性の低下をもたらすことを示し得る(図10D)。本発明者らは、50nMの最大分析物濃度でCSL362に対する親和性を決定することができなかったので、最大300nMの分析物で、実験を繰り返した。これらの濃度では、野生型CD123をもはや測定することができなかった。この非常に高いタンパク質濃度でさえ、「非結合剤」(E51T、E51K、E51A、S59P、S59E、S59R;S59F;R84E)として特徴付けられる試験変異体のいずれも、検出可能な結合を生じなかった(例えば、図10E、F)。300nMで非常に弱い結合をもたらした変異体(E51Q、S59Y、R84T、およびR84Q)は、「弱い結合剤」として特徴付けられた。したがって、試験したすべての非結合剤について、変異体R84Eを除いて、6H6への結合は保存されたが、変異体とCSL362との間で相互作用を検出することはできなかった。
【0270】
10.CD123アイソフォームはインターロイキン-3の結合を保存する
10.1材料および方法
hIL3のCD123 ECDwtおよび変異体への結合
CD123 ECDwtおよび変異体(リガンド)とのhIL3(SinoBiological、PN:11858-H08H)(分析物)の結合を、ストレプトアビジン捕捉バイオセンサ(SA)(Sartorius、PN:18-5019)を用いて作製した。CD123 ECDwtおよび変異体を、Biotinylation kit Type B(Abcam、PN:ab201796)を、製造者の説明書に従って使用してビオチン化した。ビオチン化CD123 ECDwtおよび変異体(リガンド)をSAチップにおいて1000秒間捕捉して、1.5から2nmのnmシフトを達成した。分析物hIL3を500nMから7.8nMの7つの濃度で滴定した。分析物との会合を300秒間、解離を120秒間監視した。緩衝液のみのウェルを参照として使用した。再生は行わず、ビオチン化捕捉リガンドごとに新しいチップセットを使用した。Octet Data AnalysisソフトウェアHT 12.0を使用してデータを分析した。相互作用データのオン/オフ特性が速いため、定常状態分析を使用して分析した。図11の結合レベルの定性的表示は、すべての濃度について250秒の会合で得られた。
【0271】
10.2結果
組換え野生型CD123または示された変異体をビオチン化し、捕捉した。インターロイキン-3(IL-3)の結合を時間の関数として決定した。
【0272】
組換え野生型CD123および示された変異体は、用量依存的にIL-3に結合した。したがって、非結合変異体はCSL362に結合しないが、タンパク質は通常、対照抗体の6H6およびIL-3によって結合される(図11)。
【0273】
変異体S59PおよびR84Eは、WTと比較してIL3への結合がわずかに減少していることを示す。
【0274】
11.熱的アンフォールディング
11.1材料および方法
Bio-Rad CFX96 Touch Deep Well RT PCR Detection SystemでDSF分析を行った。DMSOのSypro Orange 5000X(Sigma、PN:S5692)を5×の最終濃度で使用した。20uLの反応体積で1.5℃刻みで25から95℃までの温度勾配。「FRET」走査モードを使用して蛍光を監視した。すべての試料を三連で0.25mg/mLの最終濃度で分析した。タンパク質のアンフォールディング転移温度Tmは、一次微分法を用いて計算した。
【0275】
11.2結果
熱的アンフォールディングの測定は、ほとんどの変異体が除いて野生型CD123に匹敵する熱安定性を有することを実証した(図12)。R84Eは熱の安定性が低下していた。この結果は、R84Eが、R84Eの変異自体に影響されないエピトープに結合する対照抗体6H6との結合の減少を示した理由を説明し得る。加えて、変異体R84Qはより低いTmを有する。
【0276】
12.CD123変異体を発現する遺伝子操作されたTF-1細胞
12.1材料および方法
赤血球白血球のヒト細胞株TF-1(DSMZ番号ACC 334)を造血幹細胞(HSC)のモデルとして使用した。E51KおよびE51T変異体をCD123の内因性DNAにノックインするために、TF-1細胞にCRISPR-Cas9およびHDR鋳型をエレクトロポレーションした。
【0277】
各エレクトロポレーションの前にCas9リボヌクレオタンパク質(RNP)を新たに生成した。解凍したcrRNAおよびtracrRNA(両方ともIDT Technologiesから購入し、200μMで再懸濁)を1:1のモル比(それぞれ120pmol)で混合し、95℃で5分間変性させ、室温で10から20分間アニールさせて、80μMの単一ガイドRNA(sgRNA)溶液を複合化させた。ポリグルタミン酸(PGA;100mg/mlで15から50kDa;シグマ・アルドリッチ)を0.8:1の体積比でsgRNAに添加した。最後に、リボ核タンパク質(RNP)を複合化するために、60pmolの組換えCas9(40μM、カリフォルニア大学バークレー校)を新たに調製したsgRNA(モル比Cas9:sgRNA=1:2)と混合し、暗所において室温で20分間インキュベートした。エレクトロポレーションの5分前に、50pmolのHDR鋳型を複合体化RNP(60pmol)に添加した。
【0278】
エレクトロポレーションは、Neon(商標)トランスフェクションシステム(Thermo Fischer)を使用して行った。各エレクトロポレーションについて、0.2×10個のTF-1細胞を使用し、PBSで2回洗浄し、次いで10μlのR緩衝液に再懸濁した。R緩衝液中の細胞を複合体RNP/HDR鋳型と混合し、1200V、40ms、1パルスの条件で、エレクトロポレーションした。エレクトロポレーション後、細胞を、GM-CSF(RPMI-1640、10%のFCS、1%のGlutamax、2ng/mlのGM-CSF)を含む新鮮培地中0.4×10細胞/mlで48ウェル培養プレートに移し、2日ごとに分割した。
【0279】
エレクトロポレーションの12日後、操作された細胞を、それらのCD123変異体発現に従ってフローサイトメトリーによってバルク選別した。細胞を、MIRG123-ビオチン/Strep-PEおよび6H6-Bv650で染色した。E51KおよびE51Tノックイン(MIRG123-、6H6+)、CD123ノックアウト(MIRG123-、6H6-)およびWT細胞(MIRG123+、6H6+)を選別し、変異体の機能性を試験する前に14日間培養した。
CD123 KOに使用されるsgRNA:
GTCTTTAACACACTCGATAT(配列番号29)
E51K HDR鋳型:
TTTTAGATCCAAACCCACCAATCACGAACCTAAGGATGAAAGCAAAGGCTCAGCAGTTGACCTGGGACCTTAACAGAAATGTGACaGAcATtaagTGTGTTAAAGACGCCGACTATTCTATGCCGGTAAATCATACTCTCTATTGTTTTTTTATTTTTATTTTATTTATTTATGTATTTA(配列番号30)
E51T HDR鋳型:
TTTTAGATCCAAACCCACCAATCACGAACCTAAGGATGAAAGCAAAGGCTCAGCAGTTGACCTGGGACCTTAACAGAAATGTGACaGAcATtaccTGTGTTAAAGACGCCGACTATTCTATGCCGGTAAATCATACTCTCTATTGTTTTTTTATTTTTATTTTATTTATTTATGTATTTA(配列番号31)
【0280】
12.2結果
E51KおよびE51Tノックインを有するTF-1細胞を首尾よく生成することができた。細胞を選別し、E51KおよびE51T変異体が抗体MIRG123との結合の喪失を示すことを確認することができた(データは示さず)。細胞を選別し、その後の実験のために分析する。
【0281】
13.非結合変異体は、IL3と共に培養することによって富化することができる。
13.1材料および方法
エレクトロポレーションの12日後、細胞をPBSで2回洗浄した後、それらを2ng/ml GM-CSF(RPMI 1640、10%のFCS、1%のGlutamax)または10ng/mlのhIL3(RPMI 1640、10%のFCS、1%のGlutamax)を含む1mlの培地に30万の細胞/mlの濃度で再懸濁した。細胞を6日間培養し、0、2、4および6日目に、フローサイトメトリーによって分析した。分析の日に、200μlの細胞を培養物から採取し、PBSで洗浄した。次いで、それらを96ウェルプレート中2ng/mlのGM-CSFを含む200μlの培地に再懸濁し、37℃および5%のCO2で7時間インキュベートした後、MIRG123-biot/Strep-PEおよび6H6-Bv650によるフローサイトメトリー染色を行った。ゲノムDNAを200μlの培養物から0、2、4および6日目に抽出した。2、4および6日目に、400μlの培地を培養物に添加した。
【0282】
13.2結果
バルクTF-1細胞を、対照(crRNAなし)、KO(crRNAはあるがHDRTなし)、またはKI(crRNA+KI HDRT、E51KまたはE51T)として培養した。IL-3またはGM-CSFと共に培養した対照細胞は、MIRG123+、6H6+のままであった。GM-CSFと共に培養したKO細胞は、ほとんどがMIRG123-、6H6+のままであった。対照的に、IL-3と共に徐々に培養したKO細胞を含む培養物では、MIRG123+、6H6+細胞の集団が検出可能になった。6日目に、MIRG123+、6H6+集団が支配的であり、CD123受容体を発現する細胞がIL3の存在下で競合的利点を有したことが実証された。KI細胞(E51KまたはE51T)では、MIRG123-6H6+の集団だけでなく、MIRG123+6H6+細胞の集団も、IL3と共に徐々に増加した。これは、GM-CSFと共に培養した細胞ではあまり顕著ではなかった。したがって、KI細胞(MIRG123-6H6+)は機能的受容体を有する。図13を参照されたい。
【0283】
14.遺伝子編集された細胞はIL3による刺激に応答性のままである
14.1材料および方法
TF-1細胞は、GM-CSF、IL3およびSCFによる刺激に応答性であることが知られている。TF-1細胞(野生型、ノックアウト、ならびにE51KおよびE51Tノックイン細胞を、IL3で刺激されるそれらの能力について試験した。
【0284】
TF-1(ACC 334、DSMZ)細胞を、10%熱不活性化FCS、2mMのGlutaMAX(商標)(Gibco)および2ng/mlのhGM-CSF(215-GM、バイオテクノロジー)を補充したRPMI-1640培地で維持した。tracRNA/crRNAミックス(配列番号29から31)およびPGAによるCas9ハイブリダイゼーションのために、追加がなされた(実施例8.1「非ウイルス性CRISPR/Cas9ベースの編集によるヒトCD123-CAR T細胞の生成」に記載されている方法を参照されたい)。エレクトロポレーションの直前に、50pmolの180bp長のssDNA HDR鋳型(ウルトラマーDNAオリゴヌクレオチド、IDT)をRNPに添加した。各エレクトロポレーションについて、20万個のTF-1細胞をPBSで2回洗浄し、10μlのR緩衝液(Neon(商標)Transfection System 10uL)に再懸濁した。RNP/HDR鋳型の混合物を穏やかに添加し、設定1200V、40ms、1パルスでNeon Transfection System/Thermo Fisher)を使用して細胞をエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションした細胞を、富化アッセイのために11日間、および機能アッセイのためにフローサイトメトリーソーティングの前に12日間、2から3日ごとに増殖させた。
【0285】
選別した細胞をPBSで一回洗浄した後、それらを96ウェル白色マイクロプレート透明平底(Greiner bio-one)に分配した。各ウェルにおいて、10,800個の細胞を、GM-CSFを含まない(RPMI-1640、10%のFCS、1%のGlutamax)150μlの培地で、増加する濃度のhIL3(0.2ng/ml、0.8ng/ml、3.13ng/ml、12.5ng/ml、50ng/ml)と共に培養した。細胞の増殖を、15μlのCellTiter-Glo(登録商標)(Promega)を使用して37C、5%のCOで、72時間後に測定した。発光を、Synergy H1(BioTek)を使用して1秒の積分時間で読み取った。
【0286】
14.2結果
結果を図14に示す。CD123のE51KおよびE51T変異体を発現するTF-1ノックイン細胞は、hIL3の添加により、野生型CD123を発現するTF-1細胞と同程度に増殖することができる。ノックアウト細胞は、hIL3に対して最小限の応答しか示さない。
【0287】
15.遺伝子編集された細胞は、MIRG123によるブロッキングから保護される
15.1材料および方法
抗体MIRG123を、TF-1細胞(野生型、ノックアウト、ならびにE51KおよびE51Tノックイン細胞)に結合するその能力について試験した。
【0288】
選別した細胞をPBSで一回洗浄した後、それらを96ウェル白色マイクロプレート透明平底(Greiner bio-one)に分配した。各ウェルにおいて、10,800個の細胞を、GM-CSFを含まない150μlの培地(RPMI-1640、10%のFCS、1%のGlutamax)中、固定の濃度のhIL3(2.5ng/ml)であるが異なる濃度のMIRG123(0.0013nM、0.004nM、0.012nM、0.036nM、0.11nM、0.33nM、1nM)で培養した。細胞の増殖を、15μlのCellTiter-Glo(登録商標)(Promega)を使用して37℃、5%のCOで、72時間後に測定した。発光を、Synergy H1(BioTek)を使用して1秒の積分時間で読み取った。
【0289】
15.2結果
結果を図15に示す。MIRG123は、IL3刺激野生型TF-1細胞の用量依存的な増殖遮断およびアポトーシスをもたらす。対照的に、CD123のE51KおよびE51T変異体を発現するTF-1ノックイン細胞は、MIRG123の遮断効果から効率的に保護される。
【0290】
16.HSPCの編集
16.1材料および方法
HSPCを、HSC-Brew GMPサプリメント、2%ヒト血清アルブミン、100ng/mLのSCF、100ng/mLのTPO、100ng/mLのFlt3Lおよび60ng/mLのIL3(Miltenyi)を補充したHSC-Brew GMP Basal Medium(Miltenyi)で0.5×10細胞/mlの密度で解凍した。2日後に細胞をエレクトロポレーションした。解凍したcrRNAおよびtracrRNA(両方ともIDT Technologiesから購入し、200μMで再懸濁)を1:1のモル比(それぞれ120pmol)で混合し、95℃で5分間変性させ、室温(RT)で5分間アニールさせて、80μMの単一ガイドRNA(gRNA)溶液を複合化させた。最後に、リボ核タンパク質(RNP)を複合化するために、1μMのSpyfi Cas9(61.889μMのAldevron)を、新たに調製したgRNA(モル比Cas9:gRNA=1:2)と混合し、RTで20分間インキュベートした。RNP複合体化の間、HSPC細胞を収集し、エレクトロポレーション緩衝液(Miltenyi)で2回洗浄し、1×10細胞/50μlでエレクトロポレーション緩衝液に再懸濁した。次いで、細胞をRNP(5μl)およびHDRT(500pmolに相当する5μl)と混合し、全体積をエレクトロポレーション核キュベットに移した。エレクトロポレーションは、Miltenyi CliniMACS Prodigyを用いて、設定として600V 100μsバースト/400V 750μsスクエアを使用して行った。エレクトロポレーションの直後に、細胞を6ウェルプレートに移し、RTで20分間静置した。20分後、100ng/mLのSCF、100ng/mLのTPOおよび100ng/mLのFlt3Lを補充した2mLの予熱HSPC培地を、各ウェルに添加し、プレートを37℃でインキュベートした。異なる時点で、細胞を回収し、抗体6H6-BV650およびMIRG123-biot/Strep-PEを用いてフローサイトメトリーのために染色した。ゲノムDNA(gDNA)を、配列決定分析のためにDNA Quick抽出物(Lucigen)を使用して抽出した。CD123 KOに使用したsgRNAおよびE51KおよびE51TのHDR鋳型を、それぞれ配列番号29から31として実施例12に示す。
【0291】
16.2結果
E51KおよびE51Tノックインを有する動員された末梢血CD34+HSPCを、首尾よく生成することができた(図16)。細胞をFACSによって分析し、成功したノックインをSangerシーケンシングにより検証した。RNP単独(KO)をエレクトロポレーションしたHSPCは、CD123陰性細胞の割合の増加を示した。対照的に、E51KおよびE51T変異体は、対照抗体6H6によって評価した場合、抗体MIRG123への結合の喪失を示したが、CD123の発現を保存した(図17)。CD90およびCD45 RAを使用して、本発明者らは、LT-HSC(長期再増殖造血幹細胞)、ならびにMPP1細胞(CD34+CD38-CD90-CD45RA-)およびMPP2細胞(CD34+CD38-CD90-CD45RA+)も編集されたことを示した(図18)。
【0292】
17.BiTEを用いたインビトロのHSPC殺傷アッセイ
17.1材料および方法
BiTE殺傷アッセイのために、HSPCを上記のように編集した。同じHSPCドナーのヒトT細胞を、製造者の説明書に従ってEasySep Human T Cell Isolation Kit(Stemcell Technologies)を使用して、磁気陰性選択によって、PBMCから単離した。単離されたT細胞を、刺激なしで補充培地で一晩培養した。エレクトロポレーションの2日後、編集したHSPCを、3:1のエフェクター対標的の比のヒトエフェクターT細胞、および100ng/mlのCD3/CSL362 BiTEと共に、96 U底プレートで、37℃で72時間共培養した。細胞傷害活性(HSPCの特異的殺傷および排除)をフローサイトメトリーによって分析した。特異的殺傷を以下のように計算した。(BiTEを含む生存標的細胞の数/BiTEを含まない生存標的細胞の数)*100。
【0293】
17.2結果
ヒトエフェクターT細胞と対照または編集されたHSPC細胞(E:T=3:1)とを、100ng/mlの濃度のCD3/CSL362 BiTEの存在下で共培養すると、フローサイトメトリープロットの定量化によって測定した場合、BiTEで処理すると野生型HSPCが減少した。対照的に、CD123 E51KまたはE51T変異体を発現するHSCは、MIRG123-6H6+細胞の集団の増加によって証明されるように、保護され、富化された。図19および図20を参照されたい。さらに、72時間の共培養後、HSC細胞を、フローサイトメトリーを使用してCD123抗体クローン6H6+および6H6-細胞に選別した。ノックイン細胞の富化を、それぞれの細胞の集団のサンガーシーケンシングによって確認した。
【0294】
18.編集されたHSPCのインビボ生着
18.1材料および方法
HSC細胞を上記のように編集した。エレクトロポレーションの1日後、細胞を回収し、PBSで1回洗浄し、10×10個の生細胞/mlの濃度でPBSに再懸濁した。前日に200cGyを照射したNSG-SGM3雌性マウス(3週齢)に細胞をi.v.注射した。マウスおよびヒトCD45の6週間および10週間の染色後に末梢血を分析することによって、生着をFACSで監視した。マウスを、血液、脾臓および骨髄の分析のために、ヒト化の13週間後に安楽死させた。
【0295】
18.2結果
HSPCの生着を、HSPC注射の13週間後のマウスの脾臓におけるヒトCD45(ヒトキメラ現象)の割合を測定することによって定量化した。E51KまたはE51TノックインHSPCを投与されたマウスは、首尾よく生着し、ヒトCD45+免疫細胞の発達の証拠を示した。さらに、脾臓および骨髄におけるヒトCD45細胞の中のB細胞(CD19によって測定)、T細胞(CD3によって測定)およびCD33+骨髄細胞の存在は、操作されたE51KまたはE51TノックインHSPCの多系統分化能の成功を実証する。ヒトHSPCが骨髄で検出された。
【0296】
本発明の実施において使用するための配列
ヒトCD123(配列番号1)
MVLLWLTLLLIALPCLLQTKEDPNPPITNLRMKAKAQQLTWDLNRNVTDIECVKDADYSMPAVNNSYCQFGAISLCEVTNYTVRVANPPFSTWILFPENSGKPWAGAENLTCWIHDVDFLSCSWAVGPGAPADVQYDLYLNVANRRQQYECLHYKTDAQGTRIGCRFDDISRLSSGSQSSHILVRGRSAAFGIPCTDKFVVFSQIEILTPPNMTAKCNKTHSFMHWKMRSHFNRKFRYELQIQKRMQPVITEQVRDRTSFQLLNPGTYTVQIRARERVYEFLSAWSTPQRFECDQEEGANTRAWRTSLLIALGTLLALVCVFVICRRYLVMQRLFPRIPHMKDPIGDSFQNDKLVVWEAGKAGLEECLVTEVQVVQKT
抗CD123抗体(フロテツズマブ)VH(配列番号11)
EVQLVQSGAELKKPGASVKVSCKASGYTFTDYYMKWVRQAPGQGLEWIGDIIPSNGATFYNQKFKGRVTITVDKSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCARSHLLRASWFAYWGQGTLVTVSS
抗CD123抗体(フロテツズマブ)VL(配列番号12)
DFVMTQSPDSLAVSLGERVTMSCKSSQSLLNSGNQKNYLTWYQQKPGQPPKLLIYWASTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCQNDYSYPYTFGQGTKLEIK
抗CD123抗体(Vibecotabam)VH CDR1(配列番号13)
QVQLQQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFTDYYMKWVKQSHGKSLEWMGDIIPSNGATFYNQKFKGKATLTVDRSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCARSHLLRASWFAYWGQGTLVTVSS
抗CD123抗体(Vibecotabam)VL CDR1(配列番号14)
DFVMTQSPDSLAVSLGERATINCKSSQSLLNTGNQKNYLTWYQQKPGQPPKLLIYWASTRESGVPDRFTGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCQNDYSYPYTFGGGTKLEIK
抗CD123 CAR(配列番号15)
MALPVTALLLPLALLLHAARPDIVMTQSPDSLAVSLGERATINCESSQSLLNSGNQKNYLTWYQQKPGQPPKPLIYWASTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCQNDYSYPYTFGQGTKLEIKGGGGSGGGGSGGGGSEVQLVQSGAEVKKPGESLKISCKGSGYSFTDYYMKWARQMPGKGLEWMGDIIPSNGATFYNQKFKGQVTISADKSISTTYLQWSSLKASDTAMYYCARSHLLRASWFAYWGQGTMVTVSSTTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACDIYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLYCKRGRKKLLYIFKQPFMRPVQTTQEEDGCSCRFPEEEEGGCELRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPQRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR
gRNA TRAC(配列番号24)
AGAGTCTCTCAGCTGGTACA
CD8-ヒンジドメイン(配列番号25)
TTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACD
CD8膜貫通ドメイン(配列番号26)
IYIWAPLAGTCGVLLLSLVIT
4-1BB細胞質ドメイン(配列番号27)
KRGRKKLLYIFKQPFMRPVQTTQEEDGCSCRFPEEEEGGCEL
CD3-ゼータドメイン(配列番号28)
RVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPQRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR
図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3
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図5
図6
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図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
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図10G
図11A
図11B
図12A
図12B
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図19
図20
【配列表】
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【国際調査報告】