(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-21
(54)【発明の名称】ペロブスカイト材料バイパスダイオード及びその製造方法、ペロブスカイト太陽電池モジュール及びその製造方法、太陽光発電モジュール
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20240814BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20240814BHJP
H10K 39/12 20230101ALI20240814BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K39/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508438
(86)(22)【出願日】2022-05-10
(85)【翻訳文提出日】2024-02-09
(86)【国際出願番号】 CN2022091970
(87)【国際公開番号】W WO2023015994
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】202110927793.1
(32)【優先日】2021-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522400560
【氏名又は名称】隆基緑能科技股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】LONGI GREEN ENERGY TECHNOLOGY CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】解 俊杰
(72)【発明者】
【氏名】徐 ▲チェン▼
(72)【発明者】
【氏名】李 子峰
(72)【発明者】
【氏名】呉 兆
(72)【発明者】
【氏名】劉 童
【テーマコード(参考)】
5F251
【Fターム(参考)】
5F251AA11
5F251JA08
(57)【要約】
本開示はペロブスカイト材料バイパスダイオード及びその製造方法、ペロブスカイト太陽電池モジュール及びその製造方法、太陽光発電モジュールを開示し、太陽光発電の技術分野に関し、ペロブスカイト材料バイパスダイオードの製造の困難性を低下させる。該ペロブスカイト材料バイパスダイオードの製造方法は、1層のペロブスカイト材料層を提供し、ペロブスカイト材料層を処理してP型ペロブスカイト材料領域及びN型ペロブスカイト材料領域を形成し、それによってペロブスカイト材料バイパスダイオードを形成するステップを含む。本開示に係るペロブスカイト材料バイパスダイオード及びその製造方法、ペロブスカイト太陽電池モジュール及びその製造方法、太陽光発電モジュールは、太陽光発電モジュールの製造に使用される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1層のペロブスカイト材料層を提供し、前記ペロブスカイト材料層を処理してP型ペロブスカイト材料領域及びN型ペロブスカイト材料領域を形成し、それによってペロブスカイト材料バイパスダイオードを形成することを特徴とするペロブスカイト材料バイパスダイオードの製造方法。
【請求項2】
前記ペロブスカイト材料層のペロブスカイト材料の一般式はABX
3であり、ここで、Aは1価カチオン、Bは2価カチオン、Xは1価アニオンであり、
前記P型ペロブスカイト材料領域のAXの含有量はBX
2の含有量よりも大きく、前記N型ペロブスカイト材料領域のAXの含有量はBX
2の含有量よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のペロブスカイト材料バイパスダイオードの製造方法。
【請求項3】
前記ペロブスカイト材料層を処理するステップは、
前記ペロブスカイト材料層の局所を加熱して前記N型ペロブスカイト材料領域を形成するステップ、及び/又は、
AXの雰囲気中で、前記ペロブスカイト材料層の局所を熱処理してP型ペロブスカイト材料領域を形成するステップを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のペロブスカイト材料バイパスダイオードの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法により得られたペロブスカイト材料バイパスダイオード。
【請求項5】
直列接続される複数のペロブスカイト電池と、前記ペロブスカイト電池に並列接続される少なくとも1つのペロブスカイト材料バイパスダイオードとを含み、前記ペロブスカイト材料バイパスダイオードは、ペロブスカイト材料層を処理してP型ペロブスカイト材料領域及びN型ペロブスカイト材料領域を形成することによって得られることを特徴とするペロブスカイト太陽電池モジュール。
【請求項6】
前記ペロブスカイト材料バイパスダイオードの数は前記ペロブスカイト電池の数と同じであり、前記ペロブスカイト材料バイパスダイオードは前記ペロブスカイト電池に1対1で対応して並列接続されることを特徴とする請求項5に記載のペロブスカイト太陽電池モジュール。
【請求項7】
前記ペロブスカイト材料バイパスダイオードのペロブスカイト材料の一般式はABX
3であり、ここで、Aは1価カチオン、Bは2価カチオン、Xは1価アニオンであり、
前記ペロブスカイト材料バイパスダイオードのP型ペロブスカイト材料領域のAXの含有量はBX
2の含有量よりも大きく、前記ペロブスカイト材料バイパスダイオードのN型ペロブスカイト材料領域のAXの含有量はBX
2の含有量よりも小さいことを特徴とする請求項5に記載のペロブスカイト太陽電池モジュール。
【請求項8】
各前記ペロブスカイト材料バイパスダイオードは前記ペロブスカイト電池の正電極と負電極との間に設けられ、
前記ペロブスカイト材料バイパスダイオードのP型ペロブスカイト材料領域は前記ペロブスカイト電池の負電極に電気的に接続され、前記ペロブスカイト材料バイパスダイオードのN型ペロブスカイト材料領域は前記ペロブスカイト電池の正電極に電気的に接続され、
及び/又は、前記ペロブスカイト材料バイパスダイオードの横断面は長方形、三角形又は台形であることを特徴とする請求項5に記載のペロブスカイト太陽電池モジュール。
【請求項9】
前記ペロブスカイト太陽電池モジュールは、前記ペロブスカイト材料バイパスダイオードと前記ペロブスカイト電池のペロブスカイト材料層との間に設けられる電気的分離壁をさらに含み、前記電気的分離壁の材料は誘電体材料、セラミック絶縁材料又は有機絶縁材料のうちのいずれか1種を含むことを特徴とする請求項5~8のいずれか1項に記載のペロブスカイト太陽電池モジュール。
【請求項10】
前記ペロブスカイト材料バイパスダイオードは、前記ペロブスカイト電池のペロブスカイト材料層のエッジ部分を熱処理することによって製造されることを特徴とする請求項5~8のいずれか1項に記載のペロブスカイト太陽電池モジュール。
【請求項11】
モジュールベースを提供するステップであって、前記モジュールベースは機能層を含み、前記機能層はペロブスカイト材料層を含むステップと、
前記ペロブスカイト材料層の一部を露出させ、前記ペロブスカイト材料層の露出部分を処理してP型ペロブスカイト材料領域及びN型ペロブスカイト材料領域を形成し、それによってペロブスカイト材料バイパスダイオードを形成するステップと、
前記ペロブスカイト材料バイパスダイオードをペロブスカイト太陽電池モジュールのペロブスカイト電池に並列接続するステップと、を含むことを特徴とするペロブスカイト太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項12】
前記ペロブスカイト材料バイパスダイオードはペロブスカイト太陽電池モジュールのペロブスカイト電池に1対1で対応して並列接続されることを特徴とする請求項11に記載のペロブスカイト太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項13】
モジュールベースを提供した後、前記ペロブスカイト材料層の一部を露出させる前に、前記ペロブスカイト太陽電池モジュールの製造方法は、前記モジュールベースに直列接続溝を開設するステップと、前記モジュールベースに少なくとも1つの電気的分離壁を形成するステップと、各前記電気的分離壁はペロブスカイト電池が位置する領域に位置し、ペロブスカイト電池の機能層を電池領域及びバイパスダイオード領域に分割するステップと、その後、前記直列接続溝を充填する第2電極層を前記モジュールベースに形成するステップと、をさらに含み、
前記ペロブスカイト材料層の一部を露出させるステップは、隣接するペロブスカイト電池を分離する分離溝を前記第2電極層に開設し、前記分離溝が前記ペロブスカイト材料層の内部に延びることで、各前記バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層の一部を露出させるステップを含むことを特徴とする請求項11に記載のペロブスカイト太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項14】
前記モジュールベースに少なくとも1つの電気的分離壁を形成するステップは、
前記モジュールベースに前記機能層を貫通する少なくとも1つの電気的分離溝を開設するステップと、
前記電気的分離溝内に絶縁材料を充填して電気的分離壁を形成するステップと、を含み、
絶縁材料の充填方法は成膜、蒸着又は印刷であり、
直列接続溝の開設方法及び電気的分離溝の開設方法はいずれも化学エッチング、レーザースクライビング又はメカニカルスクライビングから選ばれることを特徴とする請求項13に記載のペロブスカイト太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項15】
前記直列接続溝の幅は10μm~100μmであり、前記電気的分離溝の幅は5μm~50μmであり、前記電気的分離溝と前記直列接続溝との距離は20μm~200μmであることを特徴とする請求項14に記載のペロブスカイト太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項16】
同一の電極ブロックにおいて、前記分離溝は前記直列接続溝と前記電気的分離壁との間に位置し、及び/又は、
前記分離溝が前記ペロブスカイト材料層の内部に延びる深さは、前記ペロブスカイト材料層の厚さ値の30%以上且つ前記ペロブスカイト材料層の厚さ値の70%以下であり、
及び/又は、前記分離溝の幅は10μm~100μmであることを特徴とする請求項13~15のいずれか1項に記載のペロブスカイト太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項17】
前記ペロブスカイト材料層の露出部分は前記バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層の露出部分であり、
前記ペロブスカイト材料層の露出部分を処理するステップは、
前記バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層の露出部分のAXの含有量を増加させるステップ、又は前記バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層の露出部分のAXの含有量を減少させるステップを含むことを特徴とする請求項13~15のいずれか1項に記載のペロブスカイト太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項18】
前記ペロブスカイト材料層の露出部分を処理するステップは、
前記バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層の露出部分を加熱してペロブスカイト材料バイパスダイオードのN型ペロブスカイト材料領域を形成するステップ、又はAXの雰囲気中で、前記バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層の露出部分を熱処理してペロブスカイト材料バイパスダイオードのP型ペロブスカイト材料領域を形成するステップを含むことを特徴とする請求項17に記載のペロブスカイト太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項19】
ペロブスカイト材料バイパスダイオードを形成した後、前記分離溝を深くしてペロブスカイト太陽電池モジュールを形成するステップをさらに含むことを特徴とする請求項13~15のいずれか1項に記載のペロブスカイト太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項20】
前記モジュールベースは順に積層される基板、第1電極層及び機能層を含み、前記第1電極層は前記基板に間隔をおいて分布する複数の電極ブロックを含み、
前記機能層は第1キャリア輸送層及び第2キャリア輸送層をさらに含み、前記第1キャリア輸送層は第1電極層とペロブスカイト材料層との間に位置し、前記第2キャリア輸送層は前記ペロブスカイト材料層の第1電極層から離れた面に位置することを特徴とする請求項13~15のいずれか1項に記載のペロブスカイト太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項21】
モジュールベースを提供するステップは、
導電層を有する基板を提供するステップと、
前記基板に前記導電層を貫通する第1溝を開設し、第1電極層を形成するステップと、
前記第1電極層上に前記第1電極層の電極ブロックと前記電極ブロックとの間の基板を被覆する前記機能層を形成するステップと、を含むことを特徴とする請求項20に記載のペロブスカイト太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項22】
請求項5~10のいずれか1項に記載のペロブスカイト太陽電池モジュールを少なくとも1つ含むことを特徴とする太陽光発電モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2021年8月10日に中国特許庁に提出された、出願番号が202110927793.1、発明の名称が「ペロブスカイト材料バイパスダイオード及びその製造方法、ペロブスカイト太陽電池モジュール及びその製造方法、太陽光発電モジュール」の中国特許出願の優先権を主張し、その全内容が引用により本願に組み込まれている。
【0002】
本開示は、太陽光発電の技術分野に関し、特にペロブスカイト材料バイパスダイオード及びその製造方法、ペロブスカイト太陽電池モジュール及びその製造方法、太陽光発電モジュールに関する。
【背景技術】
【0003】
従来のペロブスカイト材料バイパスダイオードは一般には、シリコン、ゲルマニウムなどの半導体材料を使用し、薄膜成膜、フォトリソグラフィーなどの様々なステップによって、ペロブスカイト材料バイパスダイオードのPN接合構造を形成する。
【0004】
従来のペロブスカイト材料バイパスダイオードの製造過程では、多くの高温・高真空成膜装置を使用する必要があり、作製プロセスが複雑である。そして、作製過程におけるフォトリソグラフィーなどのプロセスはプロセス及び装置に対して極めて高い要件を求めている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、ペロブスカイト材料バイパスダイオードの製造の困難性を低下させるために、ペロブスカイト材料バイパスダイオード及びその製造方法、ペロブスカイト太陽電池モジュール及びその製造方法、太陽光発電モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様によれば、本開示は、ペロブスカイト材料バイパスダイオードの製造方法を提供する。該ペロブスカイト材料バイパスダイオードの製造方法は、1層のペロブスカイト材料層を提供し、ペロブスカイト材料層を処理してP型ペロブスカイト材料領域及びN型ペロブスカイト材料領域を形成し、それによってペロブスカイト材料バイパスダイオードを形成するステップを含む。
【0007】
上記技術案によれば、ペロブスカイト材料の結晶構造が「ソフト格子」の特徴を有することに鑑みて、低い温度(300度以下)で、簡単な雰囲気熱処理、イオン拡散などのプロセスによって、P型ペロブスカイト材料又はN型ペロブスカイト材料を形成することができる。熱処理によって、ペロブスカイト材料の導電型をP型とN型の間で変換することができる。これにより、熱処理などの簡単なプロセスによって、ペロブスカイト材料層を容易に処理してP型ペロブスカイト材料領域及びN型ペロブスカイト材料領域を形成することができる。このとき、ペロブスカイト材料バイパスダイオードの作製プロセスが簡単で、コストが低く、作製の困難性を大幅に低下させ、太陽光発電、発光ダイオード、検出器などの多くの用途におけるペロブスカイト材料バイパスダイオードの産業応用を容易にすることができる。
【0008】
また、ペロブスカイト材料バイパスダイオードをペロブスカイト太陽電池モジュールに応用すると、ペロブスカイト太陽電池モジュールの既存のペロブスカイト材料層を使用してペロブスカイト材料バイパスダイオードをその場で製造することができる。このとき、スクライビングプロセスで作製されたペロブスカイト太陽電池モジュールにおいてペロブスカイト電池ごとに1つのペロブスカイト材料バイパスダイオードを配置することができ、それによってホットスポット効果やエネルギー変換効率の減衰を回避し、ペロブスカイト電池の安定性及び寿命を向上させることができる。
【0009】
いくつかの実現形態では、ペロブスカイト材料層のペロブスカイト材料の一般式はABX3であり、ここで、Aは1価カチオン、Bは2価カチオン、Xは1価アニオンであり、P型ペロブスカイト材料領域のAXの含有量はBX2の含有量よりも大きく、N型ペロブスカイト材料領域のAXの含有量はBX2の含有量よりも小さい。このとき、AX及びBX2の含有量を調整することで、ペロブスカイト材料の導電型を容易に調整でき、さらにペロブスカイト材料層のPN接合構造を容易に作製できる。
【0010】
いくつかの実現形態では、ペロブスカイト材料層を処理するステップは、ペロブスカイト材料層の局所を加熱してN型ペロブスカイト材料領域を形成するステップ、及び/又は、AXの雰囲気中で、ペロブスカイト材料層の局所を熱処理してP型ペロブスカイト材料領域を形成するステップを含む。加熱及びAX雰囲気中での熱処理はいずれも簡単なプロセス方法である。これらの簡単なプロセス方法によってペロブスカイト材料層を局所的に処理することで、ペロブスカイト材料バイパスダイオードのPN接合構造を簡単かつ迅速に製造できる。
【0011】
第2態様によれば、本開示は、第1態様又は第1態様の実現形態のいずれか1項に記載の製造方法により得られたペロブスカイト材料バイパスダイオードを提供する。
【0012】
第2態様に係るペロブスカイト材料バイパスダイオードの有益な効果について、第1態様又は第1態様の実現形態のいずれか1項に記載のペロブスカイト材料バイパスダイオードの製造方法の有益な効果を参照すればよく、ここでは重複説明を省略する。
【0013】
第3態様によれば、本開示は、ペロブスカイト太陽電池モジュールを提供する。該ペロブスカイト太陽電池モジュールは、直列接続される複数のペロブスカイト電池と、ペロブスカイト電池に並列接続される少なくとも1つのペロブスカイト材料バイパスダイオードとを含み、ペロブスカイト材料層を処理してP型ペロブスカイト材料領域及びN型ペロブスカイト材料領域を形成することによって得られる。
【0014】
上記技術案によれば、ペロブスカイト太陽電池モジュールは、ペロブスカイト電池に並列接続される少なくとも1つのペロブスカイト材料バイパスダイオードを含む。ペロブスカイト太陽電池モジュールのペロブスカイト電池が正常に動作して光電変換を行うことができる場合、ペロブスカイト材料バイパスダイオードはオンにならず、光生成電子及び光生成正孔は直列接続された複数のペロブスカイト電池内で輸送される。ペロブスカイト太陽電池モジュールでは、ペロブスカイト材料バイパスダイオードに並列接続されるペロブスカイト電池のペロブスカイト材料層(ペロブスカイト材料)に劣化や分解などの故障問題が発生する場合、該ペロブスカイト材料バイパスダイオードは故障したペロブスカイト電池をバイパスする。このとき、故障したペロブスカイト電池に並列接続されるペロブスカイト材料バイパスダイオードはその前後のペロブスカイト電池に直列接続されてオンになり、ペロブスカイト太陽電池モジュールの電流(光生成電子及び光生成正孔)はペロブスカイト材料バイパスダイオードによって輸送される。これにより、故障したペロブスカイト電池による電流の輸送に起因する電力損失を回避でき、さらにペロブスカイト太陽電池モジュールの変換効率を向上させることができる。
【0015】
また、バイパスダイオードがペロブスカイト材料バイパスダイオードであため、P型ペロブスカイト材料及びN型ペロブスカイト材料を使用してPN接合を容易に製造してペロブスカイト材料バイパスダイオードを形成することができる。また、ペロブスカイト材料バイパスダイオードの材料がペロブスカイト電池のペロブスカイト材料層の材料と同じであることで、ペロブスカイト材料層を製造すると同時にペロブスカイト材料バイパスダイオードを製造するか、又はペロブスカイト材料層を使用してペロブスカイト材料バイパスダイオードを製造することができる。
【0016】
いくつかの実現形態では、ペロブスカイト材料バイパスダイオードの数はペロブスカイト電池の数と同じであり、ペロブスカイト材料バイパスダイオードはペロブスカイト電池に1対1で対応して並列接続される。このとき、ペロブスカイト太陽電池モジュールのペロブスカイト電池ごとに1つのペロブスカイト材料バイパスダイオードを配置することができる。どのペロブスカイト電池が故障しても、それに並列接続されたペロブスカイト材料バイパスダイオードによってバイパスでき、さらに故障したペロブスカイト電池の電力消費を回避することができる。これにより、ペロブスカイト太陽電池モジュール全体を故障から保護することができる。
【0017】
いくつかの実現形態では、ペロブスカイト材料バイパスダイオードのペロブスカイト材料の一般式はABX3であり、ここで、Aは1価カチオン、Bは2価カチオン、Xは1価アニオンであり、ペロブスカイト材料バイパスダイオードのP型ペロブスカイト材料領域のAXの含有量はBX2の含有量よりも大きく、ペロブスカイト材料バイパスダイオードのN型ペロブスカイト材料領域のAXの含有量はBX2の含有量よりも小さい。このとき、AX及びBX2の含有量を調整することで、ペロブスカイト材料の導電型を容易に調整でき、さらにペロブスカイト材料バイパスダイオードのPN接合構造を容易に作製できる。
【0018】
いくつかの実現形態では、各ペロブスカイト材料バイパスダイオードはペロブスカイト電池の正電極と負電極との間に設けられる。このとき、ペロブスカイト材料バイパスダイオードの2つの電極は、接続補助用のほかの構造を介せずに、ペロブスカイト電池の2つの電極に直接電気的に接触可能であり、それによって構造を簡素化することができる。ペロブスカイト材料バイパスダイオードのP型ペロブスカイト材料領域はペロブスカイト電池の負電極に電気的に接続され、ペロブスカイト材料バイパスダイオードのN型ペロブスカイト材料領域はペロブスカイト電池の正電極に接続される。このとき、ペロブスカイト材料バイパスダイオードの電流方向と、該ペロブスカイト材料バイパスダイオードに並列接続されるペロブスカイト電池の電流方向とは同じであり、ペロブスカイト材料バイパスダイオードとペロブスカイト電池との並列接続を実現することができる。
【0019】
いくつかの実現形態では、ペロブスカイト材料バイパスダイオードの横断面は長方形、三角形又は台形である。このとき、ペロブスカイト太陽電池モジュールの回路設計に応じて、異なる形状及びサイズのペロブスカイト材料バイパスダイオードを設置することができる。
【0020】
いくつかの実現形態では、ペロブスカイト太陽電池モジュールは、ペロブスカイト材料バイパスダイオードとペロブスカイト電池のペロブスカイト材料層との間に設けられる電気的分離壁をさらに含み、電気的分離壁の材料は誘電体材料、セラミック絶縁材料又は有機絶縁材料のうちのいずれか1種を含む。このとき、電気的分離壁はペロブスカイト材料バイパスダイオードとペロブスカイト材料層との絶縁分離をよく実現し、両者の漏電などの問題を回避し、ペロブスカイト材料バイパスダイオードのバイパス性能を向上させることができる。
【0021】
いくつかの実現形態では、各ペロブスカイト材料バイパスダイオードは、ペロブスカイト電池のペロブスカイト材料層のエッジ部分を熱処理することによって製造される。このとき、ペロブスカイト電池の製造過程で、ペロブスカイト材料層から一部の領域を分離し、後処理によって、該領域にPN接合を有するペロブスカイト材料バイパスダイオードを構築する。このペロブスカイト材料バイパスダイオードの製造方法は、従来のスクライビングモジュールのプロセスと互換性があり、いくつかの簡単なステップを追加するだけでペロブスカイト材料バイパスダイオードの製造を実現でき、プロセスが簡単である。また、該方法は従来のプロセスの改善が少なく、コストの増加が少なく、生産と応用が容易である。
【0022】
第4態様によれば、本開示は、ペロブスカイト太陽電池モジュールの製造方法を提供する。該ペロブスカイト太陽電池モジュールの製造方法は、
モジュールベースを提供するステップであって、モジュールベースは機能層を含み、機能層はペロブスカイト材料層を含むステップと、
ペロブスカイト材料層の一部を露出させ、ペロブスカイト材料層の露出部分を処理してP型ペロブスカイト材料領域及びN型ペロブスカイト材料領域を形成し、それによってペロブスカイト材料バイパスダイオードを形成するステップと、
ペロブスカイト材料バイパスダイオードをペロブスカイト太陽電池モジュールのペロブスカイト電池に並列接続するステップと、を含む。
【0023】
上記技術案によれば、ペロブスカイト太陽電池モジュールの製造過程で、ペロブスカイト太陽電池モジュール内の既存のペロブスカイト材料層を利用して、その一部を露出及び処理してペロブスカイト材料バイパスダイオードのPN接合構造を形成する。つまり、ペロブスカイト材料層にペロブスカイト材料バイパスダイオードをその場で作製する。このとき、ペロブスカイト材料バイパスダイオードの作製プロセスは、スクライビングプロセスとよく組み合わせ、ペロブスカイト電池ごとに1つのペロブスカイト材料バイパスダイオードを配置し、ホットスポット効果やエネルギー変換効率の減衰を回避し、ペロブスカイト電池の安定性及び寿命を向上させることができる。
【0024】
いくつかの実現形態では、ペロブスカイト材料バイパスダイオードはペロブスカイト太陽電池モジュールのペロブスカイト電池に1対1で対応して並列接続される。
【0025】
いくつかの実現形態では、モジュールベースを提供した後、ペロブスカイト材料層の一部を露出させる前に、ペロブスカイト太陽電池モジュールの製造方法は、モジュールベースに直列接続溝を開設するステップと、モジュールベースに少なくとも1つの電気的分離壁を形成するステップと、各電気的分離壁はペロブスカイト電池が位置する領域に位置し、ペロブスカイト電池の機能層を電池領域及びバイパスダイオード領域に分割するステップと、その後、直列接続溝を充填する第2電極層をモジュールベースに形成するステップと、をさらに含む。
【0026】
いくつかの実現形態では、ペロブスカイト材料層の一部を露出させるステップは、隣接するペロブスカイト電池を分離する分離溝を第2電極層に開設し、分離溝がペロブスカイト材料層の内部に延びることで、各バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層の一部を露出させるステップを含む。このとき、分離溝を開設することでバイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層の一部を容易に露出させ、後続でペロブスカイト材料層の露出部分を容易に処理することができる。
【0027】
いくつかの実現形態では、モジュールベースに少なくとも1つの電気的分離壁を形成するステップは、モジュールベースに機能層を貫通する少なくとも1つの電気的分離溝を開設するステップと、電気的分離溝内に絶縁材料を充填して電気的分離壁を形成するステップと、を含み、絶縁材料の充填方法は成膜、蒸着又は印刷であり、直列接続溝の開設方法及び電気的分離溝の開設方法はいずれも化学エッチング、レーザースクライビング又はメカニカルスクライビングから選ばれる。このとき、電気的分離溝を開設し絶縁材料を充填することによって、ペロブスカイト電池の機能層をバイパスダイオード領域及び電池領域に容易に分割することができる。また、電気的分離溝の開設と直列接続溝の開設は同期して実行されてもよく、プロセスが簡単である。
【0028】
いくつかの実現形態では、直列接続溝の幅は10μm~100μmであり、電気的分離溝の幅は5μm~50μmであり、電気的分離溝と直列接続溝との距離は20μm~200μmである。このとき、電気的分離溝で形成された電気的分離壁は十分な幅を有し、良好な絶縁分離作用を発揮できる。また、電気的分離溝と直列接続溝との間に十分な空間があり、ペロブスカイト電池を分割する分離溝の設置が容易である。
【0029】
いくつかの実現形態では、同一の電極ブロックにおいて、分離溝は直列接続溝と電気的分離壁との間に位置する。このとき、分離溝は2つのペロブスカイト電池を分割するとともに、前のペロブスカイト電池の直列接続溝と後のペロブスカイト電池のペロブスカイト材料バイパスダイオードとを分離する。
【0030】
分離溝がペロブスカイト材料層の内部に延びる深さは、ペロブスカイト材料層の厚さ値の30%以上且つペロブスカイト材料層の厚さ値の70%以下である。このとき、バイパスダイオード領域は2つの部分に分割され、一方は露出し、他方は分離溝の底部にある材料に遮られるままである。この2つの部分はペロブスカイト材料バイパスダイオードのP領域及びN領域にそれぞれ対応する。また、P領域とN領域の体積の差が小さく、機能が良好なPN接合を形成することを確保し、大きな体積差による機能不全を回避することができる。
【0031】
いくつかの実現形態では、分離溝の幅は10μm~100μmである。
【0032】
いくつかの実現形態では、ペロブスカイト材料層の露出部分はバイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層の露出部分であり、ペロブスカイト材料層の露出部分を処理するステップは、
バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層の露出部分のAXの含有量を増加させるステップ、又はバイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層の露出部分のAXの含有量を減少させるステップを含む。ペロブスカイト材料中のAXとBX2との比によってペロブスカイト材料の導電型を調整できるため、AXの含有量を変更することでAXとBX2との比を容易に調整でき、それによってPN接合を形成する。
【0033】
いくつかの実現形態では、ペロブスカイト材料層の露出部分を処理するステップは、
バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層の露出部分を加熱してペロブスカイト材料バイパスダイオードのN型ペロブスカイト材料領域を形成するステップ、又はAXの雰囲気中で、バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層の露出部分を熱処理してペロブスカイト材料バイパスダイオードのP型ペロブスカイト材料領域を形成するステップを含む。ペロブスカイト格子におけるAXの結合力があまりに高くないため、加熱処理によってAXをペロブスカイト材料から放出してN型ペロブスカイト材料を形成することができる。AXの雰囲気中で熱処理することで、AXをペロブスカイト材料に注入してP型ペロブスカイト材料を形成することができる。このようにバイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層の露出部分を処理することで、PN接合を簡単かつ迅速に製造することができる。
【0034】
いくつかの実現形態では、ペロブスカイト材料バイパスダイオードを形成した後、ペロブスカイト太陽電池モジュールの製造方法は、分離溝を深くしてペロブスカイト太陽電池モジュールを形成するステップをさらに含む。
【0035】
いくつかの実現形態では、モジュールベースは順に積層される基板、第1電極層及び機能層を含み、第1電極層は前記基板に間隔をおいて分布する複数の電極ブロックを含み、機能層は第1キャリア輸送層及び第2キャリア輸送層をさらに含み、第1キャリア輸送層は第1電極層とペロブスカイト材料層との間に位置し、第2キャリア輸送層はペロブスカイト材料層の第1電極層から離れた面に位置する。このとき、ペロブスカイト電池の設計需要に応じて、第1キャリア輸送層及び第2キャリア輸送層を設定することができる。
【0036】
いくつかの実現形態では、モジュールベースを提供するステップは、
導電層を有する基板を提供するステップと、
基板に導電層を貫通する第1溝を開設し、第1電極層を形成するステップと、
第1電極層上に第1電極層の電極ブロックと電極ブロック間の基板を被覆する機能層を形成するステップと、を含む。
【0037】
第5態様によれば、本開示は、太陽光発電モジュールを提供する。該太陽光発電モジュールは、第3態様又は第3態様の実現形態のいずれか1項に記載のペロブスカイト太陽電池モジュールを少なくとも1つ含む。
【0038】
第5態様に係る太陽光発電モジュールの有益な効果について、第3態様又は第3態様の実現形態のいずれか1項に記載のペロブスカイト太陽電池モジュールの有益な効果を参照すればよく、ここでは重複説明を省略する。
【0039】
ここで説明される図面は本開示をさらに理解するためのものであり、本開示の一部を構成し、本開示の例示的な実施例及びその説明は本開示を解釈するために使用され、本開示を不適切に限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本開示の実施例に係るペロブスカイト太陽電池モジュールの構造模式図である。
【
図2】本開示の実施例に係るペロブスカイト太陽電池モジュールのペロブスカイト電池の正常動作の模式図である。
【
図3】本開示の実施例に係るペロブスカイト太陽電池モジュールのペロブスカイト電池の故障時の動作模式図である。
【
図4】本開示の実施例に係るペロブスカイト材料層でペロブスカイト材料バイパスダイオードを製造したペロブスカイト太陽電池モジュールの構造模式図である。
【
図5-14】本開示の実施例に係るペロブスカイト太陽電池モジュールの製造方法の各段階状態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本開示の実施例の技術案を明確に説明しやすいために、本開示の実施例では、「第1」、「第2」などの単語を使用して略同じ機能及び作用を持つ同じ項目又は類似項目を区別する。当業者であれば、「第1」、「第2」などの単語は数や実行順序を限定せず、且つ「第1」、「第2」などの単語は必ずしも異なるものを限定しないことを理解できる。
【0042】
本開示の説明では、理解できるように、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」などの用語で指示される方位又は位置関係は図示に基づく方位又は位置関係であり、本開示を簡単に説明し且つ説明を簡略化するためのものに過ぎず、係る装置又は素子が必ずしも特定の方位を有したり、特定の方位で構成及び操作されたりすることを指示又は暗示するものではなく、本開示を限定するものではないと理解すべきである。
【0043】
なお、本開示では、「例示的」又は「例えば」などの単語は、例、例示又は説明を示すために用いられる。本開示では、「例示的」又は「例えば」として説明されるいかなる実施例又は設計スキームもほかの実施例又は設計スキームよりも好ましい又は優れているわけではないと理解すべきである。詳しく言えば、「例示的」又は「例えば」などの単語の使用は、概念を具体的に提示することを意図する。
【0044】
本開示では、「少なくとも1つ」は1つ又は複数を意味し、「複数」は2つ以上を意味する。「及び/又は」は、関連オブジェクトの関連関係を説明し、3種の関係が存在することを示し、例えば、A及び/又はBは、Aのみが存在する場合、AとBの両方が存在する場合、及びBのみが存在する場合を示し、A、Bは単数形又は複数形であってもよい。文字「/」は一般には、前後の関連オブジェクトが「又は」の関係を持つことを示す。「以下の少なくとも1項(個)」又はその類似表現は、これらの項目の任意の組み合わせを意味し、1つの項目(個)又は複数の項目(個)の任意の組み合わせを含む。例えば、a、b又はcのうちの少なくとも1項(個)は、a、b、c、a及びbの組み合わせ、a及びcの組み合わせ、b及びcの組み合わせ、又はa、b及びcの組み合わせを示してもよく、a、b、cは1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0045】
ペロブスカイト材料バイパスダイオードの製造プロセスが複雑であるという問題を解決するために、本開示の実施例はペロブスカイト材料バイパスダイオードの製造方法を提供する。該ペロブスカイト材料バイパスダイオードの製造方法は、1層のペロブスカイト材料層を提供し、ペロブスカイト材料層を処理してP型ペロブスカイト材料領域及びN型ペロブスカイト材料領域を形成し、それによってペロブスカイト材料バイパスダイオードを形成するステップを含む。
【0046】
上記製造方法によれば、ペロブスカイト材料の結晶構造が「ソフト格子」の特徴を有することに鑑みて、低い温度(300度以下)で、簡単な雰囲気熱処理、イオン拡散などのプロセスによって、P型ペロブスカイト材料又はN型ペロブスカイト材料を形成することができる。熱処理によって、ペロブスカイト材料の導電型をP型とN型の間で変換することができる。これにより、熱処理などの簡単なプロセスによって、ペロブスカイト材料層を容易に処理してP型ペロブスカイト材料領域及びN型ペロブスカイト材料領域を形成することができる。このとき、ペロブスカイト材料バイパスダイオードの作製プロセスが簡単で、コストが低く、作製の困難性を大幅に低下させ、太陽光発電、発光ダイオード、検出器などの多くの用途におけるペロブスカイト材料バイパスダイオードの産業応用を容易にすることができる。
【0047】
また、ペロブスカイト材料バイパスダイオードをペロブスカイト太陽電池モジュールに応用すると、ペロブスカイト太陽電池モジュールの既存のペロブスカイト材料層を使用してペロブスカイト材料バイパスダイオードをその場で製造することができる。このとき、スクライビングプロセスで作製されたペロブスカイト太陽電池モジュールにおいてペロブスカイト電池ごとに1つのペロブスカイト材料バイパスダイオードを配置することができ、それによってホットスポット効果やエネルギー変換効率の減衰を回避し、ペロブスカイト電池の安定性及び寿命を向上させることができる。
【0048】
上記ペロブスカイト材料層のペロブスカイト材料の一般式はABX3であり、ここで、Aは1価カチオン、Bは2価カチオン、Xは1価アニオンである。具体的には、AはFA+、MA+又はCs+のうちの少なくとも1種であってもよく、BはPb2+又はSn2+のうちの少なくとも1種であってもよく、XはCl-、Br-又はI-のうちの少なくとも1種であってもよい。このとき、P型ペロブスカイト材料とN型ペロブスカイト材料とを接触させることで、PN接合を容易に形成できる。
【0049】
上記P型ペロブスカイト材料領域のAXの含有量はBX2の含有量よりも大きく、N型ペロブスカイト材料領域のAXの含有量はBX2の含有量よりも小さい。ABX3ペロブスカイト材料は、通常、AX及びBX2からなる。BX2の含有量がAXよりも大きいと、ペロブスカイト材料はN型ペロブスカイト材料であり、AXの含有量がBX2よりも大きいと、ペロブスカイト材料はP型ペロブスカイト材料である。ABX3ペロブスカイト材料中のAXとBX2との比を調整しやすいという材料の特徴に基づいて、ペロブスカイト材料中のAXとBX2との比を調整することで、P型ペロブスカイト材料及びN型ペロブスカイト材料を容易に製造でき、それによってPN接合を有するペロブスカイト材料バイパスダイオード20を形成する。
【0050】
1層のペロブスカイト材料層を提供する方法は、塗布、成膜、スパッタリングなどであってもよい。
【0051】
ペロブスカイト材料層を処理するステップは、ペロブスカイト材料層の局所を加熱してN型ペロブスカイト材料領域を形成するステップ、及び/又は、AXの雰囲気中で、ペロブスカイト材料層の局所を熱処理してP型ペロブスカイト材料領域を形成するステップを含む。加熱及びAX雰囲気中での熱処理はいずれも簡単なプロセス方法である。これらの簡単なプロセス方法によってペロブスカイト材料層を局所的に処理することで、ペロブスカイト材料バイパスダイオードのPN接合構造を簡単かつ迅速に製造できる。ペロブスカイト材料層の処理過程について、以下、ペロブスカイト太陽電池モジュールを参照して詳細に説明する。
【0052】
本開示の実施例は、上記製造方法により得られたペロブスカイト材料バイパスダイオードをさらに提供する。該ペロブスカイト材料バイパスダイオードの有益な効果について、上記ペロブスカイト材料バイパスダイオードの製造方法の有益な効果を参照すればよく、ここでは重複説明を省略する。
【0053】
本開示の実施例は、ペロブスカイト太陽電池モジュールをさらに提供する。
図1に示すように、該ペロブスカイト太陽電池モジュールは、直列接続される複数のペロブスカイト電池10と、ペロブスカイト電池に並列接続される少なくとも1つのペロブスカイト材料バイパスダイオード20とを含み、ペロブスカイト材料層を処理してP型ペロブスカイト材料領域及びN型ペロブスカイト材料領域を形成することによって得られる。
【0054】
上記構造からわかるように、ペロブスカイト太陽電池モジュールは、ペロブスカイト電池10に並列接続される少なくとも1つのペロブスカイト材料バイパスダイオード20を含む。
図1及び
図2に示すように、図中の点線は光生成電子及び光生成正孔の流れ方向を示す。ペロブスカイト太陽電池モジュールのペロブスカイト電池10が正常に動作して光電変換を行うことができる場合、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20はオンにならず、光生成電子及び光生成正孔は直列接続された複数のペロブスカイト電池10内で輸送される。
図3に示すように、ペロブスカイト太陽電池モジュールでは、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20に並列接続されるペロブスカイト電池10のペロブスカイト材料層14(ペロブスカイト材料)に劣化や分解などの故障問題が発生する場合、該ペロブスカイト材料バイパスダイオード20は故障したペロブスカイト電池10をバイパスする。このとき、故障したペロブスカイト電池10に並列接続されるペロブスカイト材料バイパスダイオード20はその前後のペロブスカイト電池10に直列接続されてオンになり、ペロブスカイト太陽電池モジュールの電流(光生成電子及び光生成正孔)はペロブスカイト材料バイパスダイオード20によって輸送される。これにより、故障したペロブスカイト電池による電流の輸送に起因する電力損失を回避でき、さらにペロブスカイト太陽電池モジュールの変換効率を向上させることができる。
【0055】
また、バイパスダイオードがペロブスカイト材料バイパスダイオードであため、P型ペロブスカイト材料及びN型ペロブスカイト材料を使用してPN接合を容易に製造してペロブスカイト材料バイパスダイオードを形成することができる。また、ペロブスカイト材料バイパスダイオードの材料がペロブスカイト電池のペロブスカイト材料層の材料と同じであることで、ペロブスカイト材料層を製造すると同時にペロブスカイト材料バイパスダイオードを製造するか、又はペロブスカイト材料層を使用してペロブスカイト材料バイパスダイオードを製造することができる。
【0056】
数量に関して、上記ペロブスカイト材料バイパスダイオード20の数はペロブスカイト電池10の数と同じであってもよく、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20はペロブスカイト電池10に1対1で対応して並列接続される。このとき、ペロブスカイト太陽電池モジュールのペロブスカイト電池10ごとに1つのペロブスカイト材料バイパスダイオード20を配置することができる。どのペロブスカイト電池10が故障しても、それに並列接続されたペロブスカイト材料バイパスダイオード20によってバイパスでき、さらに故障したペロブスカイト電池10の電力消費を回避する。これにより、ペロブスカイト太陽電池モジュール全体を故障から保護することができる。
【0057】
例示的には、ペロブスカイト太陽電池モジュールが直列接続される10個のペロブスカイト電池10を含む場合、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20の数は10個であり、ペロブスカイト電池10ごとに1つのペロブスカイト材料バイパスダイオード20が並列接続される。
【0058】
材料に関して、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20のペロブスカイト材料の一般式はABX3であり、ここで、Aは1価カチオン、Bは2価カチオン、Xは1価アニオンであり、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20のP型ペロブスカイト材料領域のAXの含有量はBX2の含有量よりも大きく、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20のN型ペロブスカイト材料領域のAXの含有量はBX2の含有量よりも小さい。このとき、AX及びBX2の含有量を調整することで、ペロブスカイト材料の導電型を容易に調整でき、さらにペロブスカイト材料バイパスダイオード20のPN接合構造を容易に作製できる。
【0059】
図1-4に示すように、設置位置に関して、各ペロブスカイト材料バイパスダイオード20はペロブスカイト電池10の正電極と負電極との間に設けられる。このとき、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20の2つの電極は、接続補助用のほかの構造を介せずに、ペロブスカイト電池10の2つの電極に直接電気的に接触可能であり、それによって構造を簡素化することができる。
【0060】
理解できるように、ペロブスカイト電池10の正電極と負電極との間には、ペロブスカイト材料層14などの機能構造が設置されるだけでなく、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20が設置される。つまり、正電極と負電極との間には、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20とペロブスカイト材料層14が並列に設置されている。
【0061】
接続方法に関して、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20のP型ペロブスカイト材料領域はペロブスカイト電池10の負電極に電気的に接続され、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20のN型ペロブスカイト材料領域はペロブスカイト電池10の正電極に電気的に接続される。このとき、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20の電流方向と、該ペロブスカイト材料バイパスダイオード20に並列接続されるペロブスカイト電池10の電流方向とは同じであり、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20とペロブスカイト電池10との並列接続を実現することができる。
【0062】
理解できるように、上記ペロブスカイト材料バイパスダイオード20のP型ペロブスカイト材料領域とは、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20が有するPN接合のP領域である。ペロブスカイト材料バイパスダイオード20のN型ペロブスカイト材料領域とは、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20が有するPN接合のN領域である。
【0063】
具体的な実施において、正電極と負電極との間に位置するペロブスカイト材料バイパスダイオード20は、そのP型ペロブスカイト材料領域が負電極に電気的に接触してもよく、そのN型ペロブスカイト材料領域が正電極に電気的に接触してもよい。勿論、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20のP型ペロブスカイト材料領域(N型ペロブスカイト材料領域)はキャリア輸送層を介して負電極(正電極)に電気的に接触してもよい。
【0064】
形状に関して、上記ペロブスカイト材料バイパスダイオード20の横断面は長方形又は三角形又は台形であってもよい。このとき、ペロブスカイト太陽電池モジュールの回路設計に応じて、異なる形状及びサイズのペロブスカイト材料バイパスダイオード20を設置することができる。
【0065】
上記横断面とは、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20をペロブスカイト電池10の厚さ方向と垂直に切断したペロブスカイト材料バイパスダイオード20の断面形状である。該横断面は、ペロブスカイト太陽電池モジュールの基板11上でのペロブスカイト材料バイパスダイオード20の正投影のパターンでもある。
【0066】
上記ペロブスカイト電池10はN-I-P構造であってもよいし、ペロブスカイト電池10はP-I-N構造であってもよい。具体的には、ペロブスカイト電池10は順に積層された基板11、第1電極層12、第1キャリア輸送層13、ペロブスカイト材料層14、第2キャリア輸送層15及び第2電極層16を含んでもよい。該ペロブスカイト材料層14の材料はペロブスカイト材料であり、ペロブスカイト材料の一般式はABX3であり、ここで、AはFA+、MA+又はCs+のうちの少なくとも1種であり、BはPb2+又はSn2+のうちの少なくとも1種であり、XはCl-、Br-又はI-のうちの少なくとも1種である。N-I-P構造のペロブスカイト電池10の場合、第1電極層12は負電極、第2電極層16は正電極、第1キャリア輸送層13は電子輸送層、第2キャリア輸送層15は正孔輸送層である。P-I-N構造のペロブスカイト電池10の場合、第1電極層12は正電極、第2電極層16は負電極、第1キャリア輸送層13は正孔輸送層、第2キャリア輸送層15は電子輸送層である。
【0067】
図4に示すように、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20の材料がペロブスカイト材料層14の材料と同じであり得るため、各ペロブスカイト材料バイパスダイオード20は、ペロブスカイト電池10のペロブスカイト材料層14のエッジ部分を熱処理することによって製造され得る。このとき、ペロブスカイト電池10の製造過程で、ペロブスカイト材料層14から一部の領域を分離し、後処理によって、該領域にPN接合を有するペロブスカイト材料バイパスダイオード20を構築する。このペロブスカイト材料バイパスダイオード20の製造方法は、従来のスクライビングモジュールのプロセスと互換性があり、いくつかの簡単なステップを追加するだけでペロブスカイト材料バイパスダイオード20の製造を実現でき、プロセスが簡単である。また、該方法は従来のプロセスの改善が少なく、コストの増加が少なく、生産と応用が容易である。
【0068】
上記エッジ領域とは、上面視において、ペロブスカイト材料層14のエッジに近い領域である。該エッジ部分のサイズは、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20の需要に応じて設定できる。ただし、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20が占有するエッジ部分は、ペロブスカイト材料層14の光電変換領域の面積を確保するために、できるだけ小さくすべきである。ペロブスカイト材料バイパスダイオード20の製造が完了すると、ペロブスカイト材料層14のエッジ部分はペロブスカイト材料バイパスダイオード20となり、ペロブスカイト材料層14の残りの部分はペロブスカイト材料層14であり、光電変換を実現する。
【0069】
図1-4に示すように、上記ペロブスカイト太陽電池モジュールは電気的分離壁30をさらに含む。電気的分離壁30はペロブスカイト材料バイパスダイオード20とペロブスカイト電池10のペロブスカイト材料層14との間に設けられ、電気的分離壁30の材料は誘電体材料又はセラミック絶縁材料又は有機絶縁材料であってもよい。このとき、電気的分離壁30は、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20とペロブスカイト材料層14との絶縁分離をよく実現し、両者の漏電などの問題を回避し、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20のバイパス性能を向上させることができる。
【0070】
基板11から離れる方向に沿って、電気的分離壁30の高さはペロブスカイト材料層14の厚さ以上であり、電気的分離壁30は少なくともペロブスカイト材料層14とペロブスカイト材料バイパスダイオード20との接触を防止することができる。
【0071】
本開示の実施例は上記ペロブスカイト太陽電池モジュールの製造方法をさらに提供する。
図5-14に示すように、該製造方法は、以下のステップを含む。
【0072】
ステップS100:
図5に示すように、導電層を有する基板11を提供する。該導電層は基板11全体を被覆する。該基板11はガラスなどであってもよい。
【0073】
ステップS200:
図6に示すように、上記基板11に導電層を貫通する第1溝41を開設し、第1電極層12を形成する。この過程では、導電層は第1溝41により複数の電極ブロック121に分割される。このとき、第1電極層12は基板11に間隔をおいて分布する複数の電極ブロック121を含む。電極ブロック121同士は互いに電気的に分離される。各電極ブロック121はペロブスカイト電池10の第1電極層12である。上記第1溝41の数は電極ブロック121の数と一致する。第1溝41の幅は10μm~100μmであってもよい。例えば、第1溝41の幅は10μm、20μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、80μm、90μm、100μmなどであってもよい。ただし、本開示の実施例では、各溝の幅とは、溝の2つの側壁間の距離である。
【0074】
ステップS300:
図7に示すように、第1電極層12上に機能層を形成し、機能層は第1電極層12の電極ブロック121と電極ブロック121との間の基板11を被覆する。機能層はペロブスカイト材料層14を含み、第1キャリア輸送層13及び第2キャリア輸送層15をさらに含んでもよい。第1キャリア輸送層13は第1電極層12とペロブスカイト材料層14との間に位置し、第2キャリア輸送層15はペロブスカイト材料層14の第1電極層12から離れた面に位置する。このとき、ペロブスカイト電池10の設計需要に応じて、第1キャリア輸送層13及び第2キャリア輸送層15を設置することができる。
【0075】
機能層が第1キャリア輸送層13、ペロブスカイト材料層14及び第2キャリア輸送層15を含むことを例とすると、機能層の形成方法は、第1電極層12上に第1キャリア輸送層13、ペロブスカイト材料層14及び第2キャリア輸送層15を順番成膜させることである。このとき、第1キャリア輸送層13は第1電極層12の電極ブロック121を被覆するだけでなく、第1溝41を充填する。理解できるように、機能層に含まれる各層の形成方法は実際の生産に応じて選択することができる。
【0076】
以上の3つのステップは後続の製造ステップのためにモジュールベースを提供することができる。該モジュールベースは順に積層される基板11、第1電極層12及び機能層を含む。第1電極層12は基板11に間隔をおいて分布する複数の電極ブロック121を含み、機能層は少なくともペロブスカイト材料層14を含む。
【0077】
ステップS400:
図8及び
図9に示すように、モジュールベースに直列接続溝42を開設し、モジュールベースに少なくとも1つの電気的分離壁30を形成し、各電気的分離壁30はペロブスカイト電池10が位置する領域に位置し、ペロブスカイト電池10の機能層を電池領域及びバイパスダイオード領域に分割する。
【0078】
図8に示すように、上記直列接続溝42は後続のプロセスで第2電極材料を充填するために用いられ、それによって隣接するペロブスカイト電池10の直列接続を実現する。該直列接続溝42は機能層を貫通し、第1電極層12を破壊しない。直列接続溝42の幅は10μm~100μmであってもよく、例えば10μm、20μm、40μm、50μm、70μm、90μm、100μmなどである。直列接続溝42と第1溝41との距離は5μm~50μmであってもよく、例えば5μm、10μm、30μm、40μm、50μmなどである。
【0079】
モジュールベースに少なくとも1つの電気的分離壁30を形成する具体的なステップは、以下のステップを含む。
【0080】
図8に示すように、モジュールベースに少なくとも1つの電気的分離溝43を開設し、電気的分離溝43は機能層を貫通する。
【0081】
図9に示すように、その後、電気的分離溝43内に絶縁材料を充填して電気的分離壁30を形成する。絶縁材料の充填方法は、成膜、蒸着又は印刷である。絶縁材料は誘電体材料、セラミック絶縁材料又は有機物絶縁材料であってもよい。このとき、電気的分離溝43を開設し絶縁材料を充填することによって、ペロブスカイト電池10の機能層をバイパスダイオード領域及び電池領域に容易に分割することができる。また、電気的分離溝43の開設と直列接続溝42の開設は同期して実行されてもよく、プロセスが簡単である。
【0082】
図8に示すように、上記電気的分離溝43の幅は5μm~50μmであってもよく、例えば5μm、10μm、20μm、30μm、40μm、50μmなどである。電気的分離溝43と直列接続溝42との距離は20μm~200μmであってもよく、例えば20μm、40μm、60μm、100μm、120μm、150μm、180μm、190μm、200μmなどである。このとき、電気的分離溝43で形成された電気的分離壁30は十分な幅を有し、良好な絶縁分離作用を発揮できる。また、電気的分離溝43と直列接続溝42との間に十分な空間があり、ペロブスカイト電池10を分割する分離溝440の設置が容易である。
【0083】
理解できるように、実際の応用では、各電極ブロック121には1つの直列接続溝42と1つの電気的分離溝43が設けられてもよい。直列接続溝42を開設してから電気的分離溝43を開設してもよい。電気的分離溝43を開設してから直列接続溝42を開設してもよい。直列接続溝42と電気的分離溝43を同時に開設してもよい。また、上記絶縁材料の充填過程で、絶縁材料は電気的分離溝43のみに充填される。
【0084】
ステップS500:
図9に示すように、直列接続溝42を充填する第2電極層16をモジュールベースに形成する。第2電極層16は直列接続溝42を充填することで、第2電極層16と第1電極層12との電気的接続を実現する。また、第2電極層16は機能層の表面を被覆する。第2電極層16の材料は導電性が良好な材料である。このとき、第1電極層12は正電極、第2電極層16は負電極である。又は、第1電極層12は負電極、第2電極層16は正電極である。
【0085】
ステップS600:
図10に示すように、ペロブスカイト材料層の一部を露出させる。具体的な方法は、隣接するペロブスカイト電池10を分離する分離溝440を第2電極層16に開設する。分離溝440がペロブスカイト材料層14の内部に延びることで、各バイパスダイオード領域の一部を露出させる。
【0086】
同一の電極ブロック121において、分離溝440は直列接続溝42と電気的分離壁30との間に位置する。このとき、分離溝440は2つのペロブスカイト電池10を分割するとともに、前のペロブスカイト電池10の直列接続溝42と後のペロブスカイト電池10のペロブスカイト材料バイパスダイオード20とを分離する。
【0087】
分離溝440がペロブスカイト材料層14の内部に延びる深さは、ペロブスカイト材料層14の厚さ値の30%以上且つペロブスカイト材料層14の厚さ値の70%以下である。ペロブスカイト材料層14の厚さ値とは、第1電極層12上に位置するペロブスカイト材料層14の高さ値であり、第1溝41内に位置する可能性があるペロブスカイト材料層14部分の高さを含む。具体的には、分離溝440がペロブスカイト材料層14の内部に延びる深さはペロブスカイト材料層14の厚さ値の30%、35%、40%、45%、50%、56%、58%、60%、65%、70%などの位置と合わせる。このとき、バイパスダイオード領域は2つの部分に分割され、一方は露出し、他方は分離溝440の底部にある材料に遮られるままである。この2つの部分はペロブスカイト材料バイパスダイオード20のP領域及びN領域にそれぞれ対応する。分離溝440がペロブスカイト材料層14の厚さの30%~70%まで延びる場合、P領域とN領域の体積の差が小さく、機能が良好なPN接合を形成することを確保し、大きな体積差による機能不全を回避することができる。
【0088】
上記分離溝440の幅は10μm~100μmであってもよく、例えば10μm、20μm、40μm、50μm、60μm、70μm、90μm、100μmなどである。
【0089】
ステップS700:
図11に示すように、ペロブスカイト材料層14の露出部分を処理してP型ペロブスカイト材料領域及びN型ペロブスカイト材料領域を形成し、それによってペロブスカイト材料バイパスダイオード20を形成する。ペロブスカイト材料層14の露出部分は、バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層14の露出部分である。
【0090】
バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層の材料はABX3ペロブスカイト材料であり、所定の化学量論比に従ってAXとBX2で構成される。ここで、AはFA+、MA+又はCs+イオンのうちの少なくとも1種であってもよく、BはPb2+又はSn2+イオンのうちの少なくとも1種であってもよく、XはCl-、Br-又はI-のうちの少なくとも1種であってもよい。
【0091】
ペロブスカイト材料層14の露出部分を処理するステップは、以下のステップを含む。
【0092】
バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層14の露出部分のAXの含有量を増加させることで、該バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層14の露出部分をP型ペロブスカイト材料に変換する。又は、バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層14の露出部分のAXの含有量を減少させることで、バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層14の露出部分をN型ペロブスカイト材料に変換する。ペロブスカイト材料中のAXとBX2との比によってペロブスカイト材料の導電型を調整できるため、AXの含有量を変更することでAXとBX2との比を容易に調整でき、それによってPN接合を形成する。
【0093】
ペロブスカイト材料層14の露出部分を処理するステップは、バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層14の露出部分を加熱してペロブスカイト材料バイパスダイオード20のN型ペロブスカイト材料領域を形成するステップ、又はAXの雰囲気50中で、バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層14の露出部分を熱処理してペロブスカイト材料バイパスダイオード20のP型ペロブスカイト材料領域を形成するステップを含む。ペロブスカイト格子におけるAXの結合力があまりに高くないため、加熱処理によってAXをペロブスカイト材料から放出してN型ペロブスカイト材料を形成することができる。AXの雰囲気50中で熱処理することで、AXをペロブスカイト材料に注入してP型ペロブスカイト材料を形成することができる。このようにバイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層14の露出部分を処理することで、PN接合を簡単かつ迅速に製造することができる。
【0094】
例示的には、
図12に示すように、ペロブスカイト材料層14がN型ペロブスカイト材料である場合、分離溝440を有するモジュールベースを形成し、AXの雰囲気50中で熱処理すると、AXがバイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層14の露出部分から拡散して上半部のペロブスカイト材料に注入され、上半部の露出したペロブスカイト材料がP型ペロブスカイト材料となり、それによって
図12におけるペロブスカイト材料バイパスダイオード20のPN接合を形成する。このとき、形成されたペロブスカイト材料バイパスダイオード20の上側はP領域、下側はN領域である。このようなペロブスカイト材料バイパスダイオード20をP-I-N構造のペロブスカイト電池10に製造することができる。
【0095】
例示的には、
図13に示すように、ペロブスカイト材料層14がP型ペロブスカイト材料である場合、分離溝440を形成した後、バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層14の露出部分を加熱処理することで、バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層14の露出部分のAXの一部をペロブスカイト材料から放出する。加熱処理後、バイパスダイオード領域の上半部のペロブスカイト材料がN型ペロブスカイト材料に変換され、それによって
図13に示すペロブスカイト材料バイパスダイオード20のPN接合を形成する。このとき、形成されたペロブスカイト材料バイパスダイオード20の上側はN領域、下側はP領域である。このようなペロブスカイト材料バイパスダイオード20をN-I-P構造のペロブスカイト電池10に製造することができる。
【0096】
ステップS800:
図14に示すように、分離溝440を深くして、分離溝440から第2溝44を形成し、ペロブスカイト太陽電池モジュールを形成する。分離溝440を深くして形成された第2溝44は第2電極層16及び機能層を貫通し、第1電極層12を破壊しない。このとき、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20はペロブスカイト太陽電池モジュールのペロブスカイト電池10に1対1で対応して並列接続される。
【0097】
上記第1溝41の開設、直列接続溝42の開設、電気的分離溝43の開設、分離溝440の開設及び分離溝440の深めの方法は、化学エッチング、レーザースクライビング又はメカニカルスクライビングから選ばれる。
【0098】
以上のように、本開示の実施例では、ペロブスカイト材料バイパスダイオード20の製造過程で、電気的分離溝43を開設するプロセスと、従来のプロセスで直列接続溝42を開設するプロセスとは同じプロセスを使用して同時に行われてもよい。絶縁材料の充填プロセスは第2電極層16の形成プロセスと高い互換性がある。これにより、一方では、工程を簡略化し、製造の困難性を低下させることができる。他方では、従来のプロセスの改善が少なく、改良コストを削減でき、生産と応用が容易である。本開示の実施では、従来技術で一括して開設された第2溝44を2つのステップで形成し、まず、ペロブスカイト材料層14の内部に延びる分離溝440を開設し、その後、分離溝440を深くする。この過程で、分離溝440を使用してペロブスカイト材料バイパスダイオード20を2つの部分に分割し、それによってペロブスカイト材料バイパスダイオード20の一部のみを処理してPN接合を有するペロブスカイト材料バイパスダイオード20を形成することができる。また、第2溝44を2つのステップで開設することは第2溝44とペロブスカイト太陽電池モジュールに影響しない。このようにペロブスカイト材料バイパスダイオード20を形成する方法は、従来のスクライビング直列接続プロセスとよく組み合わせることができ、第2溝44を形成する元のステップをわずかに改善するだけでペロブスカイト材料バイパスダイオード20を形成することができる。この場合、製造プロセスが簡単で、製造の困難性が低く、生産と応用が容易であるだけでなく、従来のプロセスの改良コストが小さい。
【0099】
本開示の実施例は、太陽光発電モジュールをさらに提供する。該太陽光発電モジュールは少なくとも1つの上記ペロブスカイト太陽電池モジュールを含む。
【0100】
具体的には、太陽光発電モジュールは、1つの基板に複数のペロブスカイト太陽電池モジュールを電気的に接続するものであってもよい。太陽光発電モジュールは複数のペロブスカイト太陽電池モジュールを溶接ストリップによって直列・並列接続して形成された太陽光発電モジュールであってもよい。
【0101】
ペロブスカイト太陽電池モジュールをさらに説明するために、本開示は上記ペロブスカイト太陽電池モジュール及びその製造方法の具体的な実施例をさらに提供する。
【0102】
<実施例1>
本実施例では、長さ、幅、厚さがそれぞれ600mm×600mm×2.2mmのITO導電性ガラスを基板として使用し、ペロブスカイト太陽電池モジュールを製造した。
【0103】
ステップ1では、ITO導電性ガラスに第1溝を形成した。レーザーエッチング方法を使用して、ITO導電性ガラスの導電面に、10mmおきに、幅50μmの第1溝を開設し、第1電極層を形成した。
【0104】
ステップ2では、第1溝を有する基板上にTiO2電子輸送層(厚さ50nm)、P型FAPbI3ペロブスカイト材料層(厚さ1000nm)、Spiro-OMeTAD正孔輸送層(厚さ150nm)を製造した。
【0105】
ステップ3では、レーザーエッチング方法を使用して直列接続溝(幅50μm)及び電気的分離溝(幅20μm)を開設し、直列接続溝と第1溝との距離は10μm、電気的分離溝と直列接続溝との距離は50μmであり、その後、電気的分離溝内にZrO2絶縁材料を充填した。
【0106】
ステップ4では、絶縁材料を充填した後、厚さ100nmのAu金薄膜を第2電極層として製造した。その後、レーザーエッチング方法を使用して分離溝を開設した。
【0107】
ステップ5では、分離溝を有する基板を不活性雰囲気中で80℃で5h加熱し、バイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層の露出部分中のFAIの一部をペロブスカイト材料から放出し、上半部にペロブスカイト材料バイパスダイオードのN型領域を形成し、ペロブスカイト材料バイパスダイオードを得た。
【0108】
ステップ6では、レーザーエッチング方法を使用して分離溝の深さをペロブスカイト材料層の内部位置からITO層と電子輸送層との境界位置までエッチングし、ペロブスカイト太陽電池モジュールの製造が完了した。
【0109】
<実施例2>
本実施例では、長さ、幅、厚さがそれぞれ600mm×600mm×2.2mmのITO導電性ガラスを基板として使用し、ペロブスカイト太陽電池モジュールを製造した。
【0110】
ステップ1では、ITO導電性ガラスに第1溝を形成した。レーザーエッチング方法を使用して、ITO導電性ガラスの導電面に、10mmおきに、幅50μmの第1溝を開設し、第1電極層を形成した。
【0111】
ステップ2では、第1溝を有する基板上にPC61BM正孔輸送層(厚さ150nm)、P型FAPbI3ペロブスカイト材料層(厚さ1000nm)、NiO電子輸送層(厚さ50nm)を製造した。
【0112】
ステップ3では、レーザーエッチング方法を使用して直列接続溝(幅50μm)及び電気的分離溝(幅20μm)を開設し、直列接続溝と第1溝との距離は10μm、電気的分離溝と直列接続溝との距離は50μmであり、その後、電気的分離溝内にZrO2絶縁材料を充填した。
【0113】
ステップ4では、絶縁材料を充填した後、厚さ100nmのAu金薄膜を第2電極層として製造した。その後、レーザーエッチング方法を使用して分離溝を開設した。
【0114】
ステップ5では、分離溝を有する基板をFAI雰囲気中で80℃で5h加熱し、加熱過程でFAIをバイパスダイオード領域のペロブスカイト材料層の露出部分に注入し、上半部にペロブスカイト材料バイパスダイオードのP型領域を形成し、ペロブスカイト材料バイパスダイオードを得た。
【0115】
ステップ6では、レーザーエッチング方法を使用して分離溝の深さをペロブスカイト材料層の内部位置からITO層と電子輸送層との境界位置までエッチングし、ペロブスカイト太陽電池モジュールの製造が完了した。
【0116】
実施例1及び実施例2で製造されたペロブスカイト太陽電池モジュールをテストした。テスト過程で、1つのペロブスカイト電池のペロブスカイト材料層のペロブスカイト材料を破壊して故障させた。その後、その変換効率をテストし、ペロブスカイト材料バイパスダイオードを設置していないペロブスカイト太陽電池モジュールと比較した。結果は、本開示の実施例1及び実施例2で製造されたペロブスカイト太陽電池モジュールの変換効率が、ペロブスカイト材料バイパスダイオードを設置していないペロブスカイト太陽電池モジュールよりも有意に高いことを示した。
【0117】
ここでは各実施例を参照しながら本開示を説明したが、保護しようとする本開示を実施する過程で、当業者は、図面、開示の内容、及び添付の特許請求の範囲を読むことで開示の実施例のほかの変更を理解及び実現することができる。請求項では、「含む」(comprising)という用語は、ほかの構成部分又はステップを除外せず、「一」又は「1つ」は複数の場合を除外しない。互いに異なる従属請求項にはいくつかの措置が記載されているが、これらの措置を組み合わせて良い結果を生成できないことを意味するものではない。
【0118】
具体的な特徴及びその実施例を参照しながら本開示を説明したが、本開示の趣旨及び範囲を逸脱せずに、種々の変更や組み合わせを行うことができることは明らかである。従って、本明細書及び図面は添付の特許請求の範囲に定められる本開示の例示的な説明に過ぎず、本開示の範囲内の任意及びすべての変更、変形、組み合わせ又は同等物をカバーするものとみなされる。明らかに、当業者は本開示の趣旨及び範囲を逸脱せずに本開示に対して種々の変更や変形を行うことができる。このように、本開示のこれらの変更や変形が本開示の特許請求の範囲及びその同等な技術的範囲に属すると、本開示はこれらの変更や変形も含むことを意図する。
【符号の説明】
【0119】
図1-
図14では、10-ペロブスカイト電池、11-基板、12-第1電極層、121-電極ブロック、13-第1キャリア輸送層、14-ペロブスカイト材料層、15-第2キャリア輸送層、16-第2電極層、20-ペロブスカイト材料バイパスダイオード、30-電気的分離壁、41-第1溝、42-直列接続溝、43-電気的分離溝、440-分離溝、44-第2溝、50-AX雰囲気である。
【国際調査報告】