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特表2024-530516高強度及び衝撃靭性に優れた鋼材及びその製造方法
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  • 特表-高強度及び衝撃靭性に優れた鋼材及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-21
(54)【発明の名称】高強度及び衝撃靭性に優れた鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240814BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20240814BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20240814BHJP
   C22C 38/16 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C21D8/02 B
C22C38/14
C22C38/16
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510418
(86)(22)【出願日】2022-11-01
(85)【翻訳文提出日】2024-02-19
(86)【国際出願番号】 KR2022016882
(87)【国際公開番号】W WO2023113219
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】10-2021-0178434
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソ,テ‐イル
(72)【発明者】
【氏名】カン,サン‐ドク
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA05
4K032AA11
4K032AA12
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032BA01
4K032CA02
4K032CB02
4K032CC04
4K032CD05
(57)【要約】
【課題】熱処理工程を省略しても、優れた強度と衝撃靭性を有する鋼材及びそれを製造する方法を提供する。
【解決手段】
重量%で、C:0.12~0.18%、Si:0.2~0.5%、Mn:1.0~1.7%、P:0.012%以下、S:0.003%以下、Al:0.015~0.045%、Nb:0.02~0.05%、V:0.01~0.08%、Ti:0.005~0.017%、N:0.002~0.01%、残りはFe及び不可避不純物からなり、下記[関係式1]の炭素当量(Ceq)が0.48以下であり、微細組織は、面積分率で、フェライト60~85%、残りはパーライトを含み、前記微細組織内にNbC及びVCのうち一つ以上の析出物を含み、前記析出物のサイズは50nm以下であることを特徴とする。
[関係式1]
Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15
(前記関係式1において、C、Mn、Cr、Mo、V、Cu、Niは各成分の含量(重量%)値である)
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.12~0.18%、Si:0.2~0.5%、Mn:1.0~1.7%、P:0.012%以下、S:0.003%以下、Al:0.015~0.045%、Nb:0.02~0.05%、V:0.01~0.08%、Ti:0.005~0.017%、N:0.002~0.01%、残りはFe及び不可避不純物からなり、
下記[関係式1]の炭素当量(Ceq)が0.48以下であり、
微細組織は、面積分率で、フェライト60~85%、残りはパーライトを含み、
前記微細組織内にNbC及びVCのうち一つ以上の析出物を含み、
前記析出物のサイズは50nm以下であることを特徴とする高強度及び衝撃靭性に優れた鋼材。
[関係式1]
Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15
(前記関係式1において、C、Mn、Cr、Mo、V、Cu、Niは各成分の含量(重量%)値である)
【請求項2】
前記鋼材は、Cu:0.5%以下及びNi:0.5%以下のうち一つ以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の高強度及び衝撃靭性に優れた鋼材。
【請求項3】
前記フェライト結晶粒サイズは30μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の高強度及び衝撃靭性に優れた鋼材。
【請求項4】
前記NbC及びVCのうち一つ以上の析出物はフェライト結晶粒内に存在することを特徴とする請求項1に記載の高強度及び衝撃靭性に優れた鋼材。
【請求項5】
前記鋼材は、厚さ方向のt/4地点(ここで、tは鋼材の厚さ(mm)を意味する)において、圧延方向の垂直に評価した降伏強度が370MPa以上であり、引張強度が520MPa以上であり、-20℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギー(CVN、-20℃)値が平均40J以上であることを特徴とする請求項1に記載の高強度及び衝撃靭性に優れた鋼材。
【請求項6】
重量%で、C:0.12~0.18%、Si:0.2~0.5%、Mn:1.0~1.7%、P:0.012%以下、S:0.003%以下、Al:0.015~0.045%、Nb:0.02~0.05%、V:0.01~0.08%、Ti:0.005~0.017%、N:0.002~0.01%、残りはFe及び不可避不純物からなり、
下記[関係式1]の炭素当量(Ceq)が0.48以下である鋼スラブを下記[関係式2]の条件で加熱する段階と、
前記加熱された鋼スラブを900~1100℃の温度範囲で粗圧延した後、Ar3以上に仕上げ熱間圧延する段階と、を含むことを特徴とする高強度及び衝撃靭性に優れた鋼材の製造方法。
[関係式1]
Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15
(前記関係式1において、C、Mn、Cr、Mo、V、Cu、Niは各成分の含量(重量%)値である)
[関係式2]
スラブ抽出温度(℃)>10300/{4.09-log([Nb][C]0.24[N]0.65)}-273
(前記関係式2において、[Nb]、[C]及び[N]はそれぞれ合金組成の含量(重量%)を意味する)
【請求項7】
前記鋼スラブは、Cu:0.5%以下及びNi:0.5%以下のうち一つ以上をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の高強度及び衝撃靭性に優れた鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記スラブ抽出温度は1200℃以下であることを特徴とする請求項6に記載の高強度及び衝撃靭性に優れた鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度及び衝撃靭性に優れた鋼材及びその製造方法に係り、より詳しくは、陸上用風力発電機等に使用することができる鋼材であって、高強度及び衝撃靭性に優れた鋼材及びそれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、陸上用風力発電機のタワーの高さが徐々に高度化するにつれて、荷重抵抗能力に優れた厚物高強度鋼材に対する要求が増大し、それとともに、衝撃靭性に対する保証も求められている。
鋼材の高強度及び優れた衝撃靭性を実現するためには、結晶粒微細化が必須であるが、圧延工程が結晶粒微細化の代表的な方法の一つである。再結晶が可能な温度で圧延を行うと、圧下力によって生成された内部応力を駆動力として新たなオーステナイト微細結晶粒が生成される。一方、再結晶が可能な温度に至らない温度領域での圧延は、結晶粒が応力を受けて圧延方向にバンド構造が形成されるようになり、内部に多くの転位(dislocation)が発生してオーステナイトが相変態するとき、より多くの核生成サイトが提供され、結晶粒微細化効果を誘発することができる。
【0003】
しかし、鋼材の厚さが増加するほど、圧延により加えられる圧下力が制限され、内部組織、特に、鋼材の中心部に近づくほど、圧延による微細な結晶粒の形成が難しくなる。これは、オーステナイト結晶粒がAe3以上の温度において高温であるほど、かつ加熱時間が長いほど、成長する傾向を示すためである。
一方、オーステナイト結晶粒微細化が主に起こる過程でスラブ再加熱及び圧延のみでは、十分に小さいサイズの結晶粒を確保しにくい場合が多い。特に、圧延される鋼材が高温であるほど、圧延時に変形抵抗が減少するため、圧延が容易となり、そのために、スラブ再加熱は主にAe3温度に比べて遥かに高い温度で実施されるが、その際、オーステナイト結晶粒は大きく成長することになる。圧延による結晶粒微細化効果が十分でない場合には、圧延工程後の再熱処理を通じて更なるオーステナイト結晶粒微細化効果が期待できるが、一般には焼ならし(Normalizing)熱処理がこれに該当する。
【0004】
風力タワー用素材は、伝統的に焼ならし(Normalizing)熱処理された鋼材を適用してきたが、製造工程上、上記のような熱処理が適用される場合、製造コストが大幅に増加し、熱間圧延(As-rolled)鋼材またはTMCP(Thermo Mechanical Controlled Process)鋼材に比べて、商業的に容易ではない側面がある。よって、焼ならし熱処理を行わなくとも焼ならし熱処理した鋼材と類似の物性を有する鋼材の製造が求められている実情がある。
【0005】
特許文献1には、焼ならし熱処理なしでも衝撃靭性に優れた鋼材を製造する方法を提示している。しかし、上記特許文献1は、炭素含量が低く十分な低温衝撃靭性を確保する上では有利であり得るが、十分な強度を確保しにくい側面があり、さらに、厚さが厚物化するほど強度は大きく低下する虞があるという限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国登録特許第10-1917453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的とするところは、熱処理工程を省略しても、優れた強度と衝撃靭性を有する鋼材及びそれを製造する方法を提供することにある。
本発明の課題は、上述した事項に限定されない。本発明の更なる課題は、明細書全体の内容に記載されており、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書に記載された内容から本発明の更なる課題を理解する上で何ら困難もない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の高強度及び衝撃靭性に優れた鋼材は、重量%で、C:0.12~0.18%、Si:0.2~0.5%、Mn:1.0~1.7%、P:0.012%以下、S:0.003%以下、Al:0.015~0.045%、Nb:0.02~0.05%、V:0.01~0.08%、Ti:0.005~0.017%、N:0.002~0.01%、残りはFe及び不可避不純物からなり、下記[関係式1]の炭素当量(Ceq)が0.48以下であり、 微細組織は、面積分率で、フェライト60~85%、残りはパーライトを含み、上記微細組織内にNbC及びVCのうち一つ以上の析出物を含み、上記析出物のサイズは50nm以下であることを特徴とする。
ここで[関係式1]は、Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15であり、上記C、Mn、Cr、Mo、V、Cu、Niは各成分の含量(重量%)値である。
【0009】
本発明の高強度及び衝撃靭性に優れた鋼材の製造方法は、重量%で、C:0.12~0.18%、Si:0.2~0.5%、Mn:1.0~1.7%、P:0.012%以下、S:0.003%以下、Al:0.015~0.045%、Nb:0.02~0.05%、V:0.01~0.08%、Ti:0.005~0.017%、N:0.002~0.01%、残りはFe及び不可避不純物からなり、下記[関係式1]の炭素当量(Ceq)が0.48以下である鋼スラブを下記[関係式2]の条件で加熱する段階と、上記加熱された鋼スラブを900~1100℃の温度範囲で粗圧延した後、Ar3以上に仕上げ熱間圧延する段階と、を含むことを特徴とする。
ここで、[関係式1]は、Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15であり、上記C、Mn、Cr、Mo、V、Cu、Niは各成分の含量(重量%)値である。
また[関係式2]は、スラブ抽出温度(℃)>10300/{4.09-log([Nb][C]0.24[N]0.65)}-273であり、上記関係式2において、[Nb]、[C]及び[N]はそれぞれ合金組成の含量
(重量%)を意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、圧延後に焼ならし(Normalizing)熱処理を行わなくても、優れた強度及び衝撃靭性を確保する鋼材を提供し、風力構造用等に広く使用されることができる。また、熱処理の省略による製造コストを削減し、商業的に有用な鋼材を提供することが可能である。
本発明の多様かつ有益な利点及び効果は上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例で示すスラブ抽出温度と降伏強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書で使用される用語は、本発明を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。また、本明細書で使用される単数形は、関連する定義がそれと明らかに反対の意味を示さない限り、複数の形態も含む。
本明細書で使用される「含む」の意味は、構成を具体化し、他の構成の存在や追加を除外するものではない。
他に定義しない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。辞書に定義された用語は、関連する技術文献と現在開示されている内容に一致する意味を有するものとして解釈される。
【0013】
本発明者らは、圧延後に焼ならし(Normaliing)熱処理を行わなくとも、焼ならし熱処理した鋼材と同等またはそれ以上の物性を有する温度範囲で熱間圧延後に空冷する製造法としてNR(Normalized Rolling)法があるが、これを最適な成分設計と製造条件の確立により、焼ならし熱処理材と同等またはそれ以上の物性を確保できることを認知するようになった。
特に、陸上用風力タワーなどに使用される構造用鋼の場合、大型化して経済性が要求され、その素材に求められる物性を確保しながらも、経済的に製造できる方案が必要である。そこで、合金設計において、合金組成及び一部の成分間の関係を究明して最適化し、製造条件を最適化することで、目標物性を有する鋼材を提供できることを確認し、本発明を完成するに至った。
以下、本発明の鋼材の一実現例について詳細に説明する。
【0014】
まず、上記鋼材の合金組成について詳細に説明する。本発明の鋼材は、重量%で、C:0.12~0.18%、Si:0.2~0.5%、Mn:1.0~1.7%、P:0.012%以下、S:0.003%以下、Al:0.015~0.045%、Nb:0.02~0.05%、V:0.01~0.08%、Ti:0.005~0.017%、N:0.002~0.01%を含み、
Cu:0.5%以下及びNi:0.5%以下のうち一つ以上をさらに含むことができる。
【0015】
炭素(C):0.12~0.18重量%(以下、%という。本発明で特に断らない限り、各元素の含量は、重量%を基準とする。)
上記Cは、鋼の強度を向上させるのに効果的な元素である。このためには、上記Cを0.12%以上含むことが好ましい。但し、その含量が0.18%を超えると、鋼材中心部の偏析度が増加し、島状マルテンサイト(MA)組織が形成され、低温衝撃靭性を大きく阻害するという問題がある。より有利には0.17%以下で含むことである。
【0016】
シリコン(Si):0.2~0.5%
上記Siは、脱酸剤として使用されるだけでなく、鋼の強度向上及び靭性向上に有利な元素である。このような効果を十分に得るためには、上記Siが0.2%以上含まれることが好ましい。しかし、その含量が0.5%を超える場合には、MAを過剰に形成させて低温衝撃靭性が低下する虞がある。したがって、上記Siは0.2~0.5%であることが好ましい。
【0017】
マンガン(Mn):1.0~1.7%
上記Mnは、固溶強化効果により鋼の強度を向上させるのに有利な元素である。その効果を十分に得るために、上記Mnを1.0%以上含むことが好ましい。但し、その含量が1.7%を超えると、鋼中の硫黄(S)と結合してMnSを形成するため、低温衝撃靭性を大きく阻害する虞がある。したがって、上記Mnは1.0~1.7%含むことが好ましく、より有利には1.35~1.65%で含むことである。
【0018】
リン(P):0.012%以下
上記Pは、鋼の強度向上及び耐食性確保に有利な元素であるが、鋼の衝撃靭性を大きく阻害する虞があるため、できるだけ低い含量に制限することが好ましい。本発明において、上記Pを最大0.012%で含有しても目標とする物性の確保には支障がないため、その含量を0.012%以下とすることが好ましい。但し、不可避に混入されるレベルを考慮すると、0%は除くことができる。
【0019】
硫黄(S):0.003%以下
上記Sは、鋼中のMnと結合してMnS等を形成することにより、鋼の水素誘起割れ抵抗性と衝撃靭性を大きく阻害する元素である。したがって、上記Sは、できるだけ低い含量に管理することが有利である。本発明において、上記Sを最大0.003%含有しても目標とする物性の確保には支障がないため、その含量を0.003%以下に制限することができる。但し、不可避に混入されるレベルを考慮すると、0%は除くことができる。
【0020】
アルミニウム(Al):0.015~0.045%
上記Alは、溶鋼を安価に脱酸できる元素であって、上記の効果を十分に得るためには、上記Alを0.015%以上含むことが好ましいが、その含量が過剰になり0.045%を超えると、連続鋳造時にノズル詰まりを誘発するだけでなく、Al系酸化性介在物の形成により衝撃靭性が大幅に低下することがあるため好ましくない。したがって、上記Alは0.015~0.045%で含むことが好ましい。
【0021】
ニオブ(Nb):0.02~0.05%
上記Nbは、NbCまたはNb(C、N)の形態で析出して母材の強度を大きく向上させ、高温で再加熱時、固溶したNbがオーステナイトの再結晶及びフェライトまたはベイナイトの変態を抑制することにより組織微細化の効果を得ることができる。このために0.02%以上を含むことが好ましい。しかし、その含量が過度になると、未溶解のNbがTiNb(C、N)の形態で形成され、超音波探傷検査(UT)不良及び低温衝撃靭性を阻害する要因となるため、上記Nbの上限は0.05%であることが好ましい。より有利には0.035~0.045%を含むことである。
【0022】
バナジウム(V):0.01~0.08%
上記Vは、他の合金元素に比べて固溶する温度が低く、熱間圧延後の空冷過程でVCを形成して強度増加に大きく寄与する効果がある。本発明のような鋼材は、溶接後熱処理(PWHT)後の強度が十分に確保できない可能性がある。よって、上記Vを0.01%以上含むことで強度向上効果を得ることができる。但し、その含量が0.08%を超えると、マルテンサイト-オーステナイト(MA)のような硬質相の分率が高くなり、低温衝撃靭性が大幅に低下するという問題がある。したがって、上記V含量は0.01~0.08%であることが好ましい。
【0023】
チタン(Ti):0.005~0.017%
上記Tiは、Nと共に含まれると、TiNを形成することにより、AlN析出物の形成による表面クラックの発生を低減する役割を果たすため、0.005%以上含むことが好ましい。但し、その含量が0.017%を超えると、鋼スラブの再加熱中に粗大なTiNが形成され、低温衝撃靭性を阻害する要因として作用する。したがって、上記Tiは0.005~0.017%であることが好ましく、より好ましくは0.01~0.015%である。
【0024】
窒素(N):0.002~0.01%
上記Nは、Tiと共に含まれると、TiNを形成し、溶接時に熱影響による結晶粒の成長を抑制するのに有利な元素である。上記Tiを添加する際、上述した効果を十分に得るためには、上記Nを0.002%以上含むことがよい。但し、その含量が0.01%を超えると、粗大なTiNが形成され、低温衝撃靭性が阻害されるため好ましくない。したがって、上記Nの含量は0.002~0.01%であることが好ましい。
【0025】
上記組成以外に、銅(Cu):0.5%以下及びニッケル(Ni):0.5%以下のうち一つ以上をさらに含むことができる。
【0026】
銅(Cu):0.5%以下
上記Cuは、固溶強化により強度を大きく向上させることができる元素である。しかし、上記Cuの含量が過剰であると、炭素当量を高めて溶接性を阻害するだけでなく、製品の表面品質を大きく低下させるという問題がある。したがって、上記Cuの添加時に最大0.5%を含むことが好ましい。但し、本発明では、上記Cuを添加しなくても、目標とする物性の確保には支障がないため、上記Cuは必須ではないことを明らかにしておく。
【0027】
ニッケル(Ni):0.5%以下
上記NIは、母材の強度と低温衝撃靭性を同時に向上させることができる元素であるが、高価な元素であって、その含量が0.5%を超えると、経済性が大きく低下するという問題がある。したがって、上記Niは0.5%以下で含むことが好ましい。但し、本発明では、上記Niを添加しなくても、目標とする物性の確保には支障がないため、上記Niは必須ではないことを明らかにしておく。
【0028】
残りは鉄(Fe)及び不可避不純物からなる。不可避不純物は、通常の鉄鋼製造工程で意図せずに混入し得るものであるため、これを全面的に排除することはできない。通常の鉄鋼製造分野における技術者であれば、その意味を容易に理解することができる。なお、本発明は、上述した鋼組成以外の他の組成の添加を全面的に排除するものではない。
【0029】
本発明の鋼材は、目標レベルの強度と共に衝撃靭性を確保するために、このような物性向上に有利な元素を一定量添加するにあたり、それらの含量を適宜調節することが好ましい。よって、下記[関係式1]で表される炭素当量(Ceq)が0.48以下であることが好ましい。上記炭素当量(Ceq)が0.48を超えると、強度確保には有利であるが、溶接後の物性を大きく阻害する虞がある。また、多量の合金元素が含まれると、原価上昇により経済性を損なうことになるため、炭素当量(Ceq)は0.48以下であることが好ましい。
[関係式1]
Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15
(上記関係式1で、C、Mn、Cr、Mo、V、Cu、Niは各成分の含量(重量%)値である)
【0030】
本発明の鋼材の微細組織は、面積分率で、フェライト60~85%を含み、残部はパーライトを含む。上記フェライトの分率が60%未満であるか、残部であるパーライト分率が40%を超えると、強度確保には有利であるが、衝撃靭性が大幅に減少する虞がある。また、フェライト分率が85%を超えると、衝撃靭性の確保には有利であるが、十分な強度を確保することは困難であるため、本発明の鋼材はフェライトが60~85面積%、残部はパーライトであることが好ましい。
上記フェライトの平均結晶粒サイズは30μm以下であることが好ましい。上記フェライトの平均結晶粒サイズが30μmを超えると、降伏強度の確保に困難があり、衝撃靭性が大きく低下する虞があるため、平均結晶粒サイズは30μm以下であることが好ましい。
【0031】
上記鋼材の微細組織内にNbC及び/またはVC析出物を含むことができる。上記析出物のサイズは50nm以下であることが好ましい。上記析出物のサイズが50nmを超えると、衝撃靭性が大きく低下する虞があるため好ましくない。上記析出物はフェライト結晶粒内に存在することが好ましい。
【0032】
一方、本発明の鋼材は、厚さ方向のt/4地点(ここで、tは鋼材の厚さ(mm)を意味する)において、圧延方向の垂直に評価した降伏強度が370MPa以上、引張強度が520MPa以上、-20℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギー(CVN、-20℃)値が平均40J以上であり、優れた強度と低温衝撃靭性を有する。
次に、本発明の鋼材の製造方法に対する一実施例について詳細に説明する。上記製造方法は、上述した合金組成及び[関係式1]の炭素当量(Ceq)が0.48以下である鋼スラブを加熱し、熱間圧延して製造する。以下、各工程について詳細に説明する。
【0033】
鋼スラブ加熱
上記の合金組成を満たす鋼スラブを加熱して均質化処理を行うことが好ましい。このとき、下記[関係式2]で規定する温度条件を満たすように加熱を行うことが好ましい。一方、下記[関係式2]のスラブ抽出温度は1200℃を超えないことが好ましい。
【0034】
上記鋼スラブの加熱温度が下記関係式2の条件を満たさないと、スラブ内に形成された析出物(炭、窒化物)が十分に再固溶されず、熱間圧延後の工程で析出物の形成が減少し、最終的に、本発明で提示した降伏強度及び引張強度を満たしにくい。一方、上記スラブ抽出温度が1200℃を超えると、オーステナイト結晶粒が粗大化して鋼の物性を阻害する虞があるため、1200℃を超えないことが好ましい。
[関係式2]
スラブ抽出温度(℃)>10300/{4.09-log([Nb][C]0.24[N]0.65)}-273
(上記関係式2において、[Nb]、[C]及び[N]はそれぞれ合金組成の含量(重量%)を意味する)
【0035】
熱間圧延
上記加熱された鋼スラブを熱間圧延する。上記加熱された鋼スラブを900~1100℃の温度範囲で粗圧延した後、Ar3以上に仕上げ熱間圧延することが好ましい。上記粗圧延時の温度が950℃未満である場合、後続する仕上げ熱間圧延時の温度が過度に低くなるという問題がある。一方、仕上げ熱間圧延温度がAr3未満であると、圧延負荷が大きくなり、表面クラック等の品質不良が発生する虞がある。
Ar3=910-310C-80Mn-20Cu-55Ni-80Mo+119V+124Ti-18Nb+179Al
(ここで、各元素は含量(重量%)を意味する)
上記熱間圧延後、空冷を行う。
上記方法で製造された本発明の鋼材は、後続の熱処理、例えば、焼ならし(Normalizing)熱処理などを行わなくても、高い強度及び優れた衝撃靭性を確保することができる。
【実施例
【0036】
次に、本発明の実施例について説明する。
下記の実施例は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の範疇から逸脱しない範囲内で、様々な変形が可能であることは言うまでもない。下記の実施例は本発明の理解を助けるためのものであって、本発明の権利範囲は下記の実施例に限定して定められてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、これと均等なものによって定められるべきである。
【0037】
(実施例1)
下記表1に示す合金組成(重量%、残りはFe及び不可避不純物)を有する溶鋼を連続鋳造してスラブを製造した。このとき、上記スラブは300mmの厚さで製造した。表1の発明例1~4は、本発明で特定する合金組成及び関係式1をいずれも満たす場合であり、比較例1は、Cの含量及び関係式1が本発明で特定した値を外れた場合であり、比較例3は、Nb含量が本発明で特定した値を外れたものである。
【0038】
【表1】
【0039】
上記表1において、関係式1は以下のように計算される。
[関係式1]
Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15
(上記関係式1において、C、Mn、Cr、Mo、V、Cu、Niは各成分の含量(重量%)値である)
【0040】
上記スラブを表2の条件で加熱、粗圧延し、880~900℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延して厚さ5mmの熱延鋼板を製造し、常温まで空冷した。発明例1~4、比較例1及び3は本発明で特定した工程条件を満たすが、比較例2の場合は、下記関係式2の条件を満たさなかった。
【0041】
【表2】
【0042】
上記表2において、関係式2は以下の通りである。
[関係式2]
スラブ抽出温度(℃)>10300/{4.09-log([Nb][C]0.24[N]0.65)}-273
(上記関係式2において、[Nb]、[C]及び[N]はそれぞれ合金組成の含量(重量%)を意味する)
【0043】
上記のとおり製造された鋼材について、微細組織及び機械的物性を評価した。
微細組織は光学顕微鏡で観察した後、分析プログラムを用いてフェライトの分率と直径を測定し、析出物のサイズは透過電子顕微鏡を活用して平均直径を測定した。このとき、上記微細組織は各鋼材の厚さ方向のt/4(tは鋼材の厚さ、mm)地点で測定し、その結果を下記表3に示した。
そして、各鋼材の厚さ方向の1/4t地点で機械的物性を評価し、このとき、引張試験片は圧延方向に垂直な方向に各厚さ方向の地点で採取し、引張強度(TS)、降伏強度(YS)及び伸び率(El)を測定し、衝撃試験片はJIS4号規格試験片を、圧延方向に厚さ方向の1/4t地点で採取し、-20℃での平均衝撃靭性(CVN)を測定し、その結果を下記表4に示した。
【0044】
【表3】
【0045】
上記表3に示すとおり、本発明では、提案する合金組成、成分関係及び製造条件により製造された発明鋼1~4は、本発明で特定したポリゴナルフェライトの分率、結晶粒サイズ及び析出物サイズを満たしている。これに対し、比較例1及び3は、ポリゴナルフェライトの分率は満たしているものの、フェライト結晶粒サイズが本発明で特定した値を外れている。また、比較例1は、本発明で特定した析出物のサイズを外れている。
【0046】
【表4】
【0047】
上記表4では、焼ならし前後における引張物性及び低温衝撃靭性を示した。このとき、焼ならし(Normalizing)処理は870℃で128分間保持した後、空冷した。
【0048】
発明例1~4の場合、本発明で特定した成分範囲、関係式1と2、及び微細組織の特性を満たし、引張物性及び低温衝撃靭性の両方を満たしている。具体的に、発明例1~4の場合、As-rolled及び焼ならし熱処理後の結果を比較すると、熱処理後の降伏強度及び引張強度が僅かに低下するが、依然として本発明で特定した強度を満たしている。衝撃靭性の場合にも、熱処理後にNR法で製造した場合に比べて、僅かに増加し、本発明で特定した衝撃靭性を満たしていることが確認できる。
【0049】
一方、比較例1の場合、Cの含量と関係式1が、本発明で特定した範囲から外れた成分系であって、C含量の過剰添加により、降伏/引張強度は本発明で特定した値を満たしているものの、衝撃靭性は、特定した値を満たさないことが確認できる。比較例2は、本発明で特定した成分範囲を全て満たしているが、関係式2を満たすことができず、スラブ抽出温度が非常に低い場合であり、熱間圧延(as-rolled)及び焼ならし熱処理後ともに、本発明で特定した降伏強度と引張強度を満たさなかったことが分かる。また、発明例1~4に比べて、降伏強度の下落幅が非常に大きいことが分かる。これは、Nbがスラブ内で十分に固溶されず、圧延中にNbCが十分に析出しなかったため、強度が大きく低下したものと判断される。比較例3は、これとは逆に、Nbの含量が本発明で特定した値を外れた場合であって、Nbがスラブ内に十分に固溶する温度で加熱されたにもかかわらず、含量自体が非常に低く、NbC析出物が十分に析出せず、本発明で特定した降伏強度及び引張強度を満たさないことが確認でき、比較例3も焼ならし熱処理後の降伏強度が大幅に低下することが確認できる。
【0050】
(実施例2)
一方、別の実施例として、上記実施例1の発明例1の成分を有するスラブを圧延して厚さ75mmtを有する鋼材を製造した。このとき、スラブ抽出温度による降伏強度を確認するために、抽出温度の上記関係式2の結果を異なるように行った場合、上記抽出温度と降伏強度との関係の結果を図1に示した。抽出温度が関係式2を満たさない場合には、本発明で特定した降伏強度を満たしていないのに対し、関係式2を満たす場合には、全て優れた降伏強度を示すことが分かる。

図1
【国際調査報告】