(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-21
(54)【発明の名称】炭素系層で被覆された部品
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20240814BHJP
C23C 14/22 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C23C14/06 F
C23C14/22 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024513438
(86)(22)【出願日】2022-08-31
(85)【翻訳文提出日】2024-04-26
(86)【国際出願番号】 FR2022051642
(87)【国際公開番号】W WO2023031558
(87)【国際公開日】2023-03-09
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506126266
【氏名又は名称】イドロメカニーク・エ・フロットマン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マリー-アリックス・ルロワ
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル・ウジエ
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA34
4K029CA05
4K029CA08
4K029CA13
4K029DC02
4K029DC39
4K029DE02
4K029GA02
4K029JA02
(57)【要約】
本発明は、炭素系材料(M)の層で被覆された外表面を有する金属性基板(S)を含む金属部品に関する。本発明によれば、炭素系材料の層は、- a-Cファミリーからの「DLC」非晶質炭素型のものである、・炭素系材料層内に3at%未満の酸素を含む、・水素、窒素、又はドープ元素を含有しない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系材料(M)外側層で被覆された外表面を有する金属性基板(S)を含む金属部品であって、前記炭素系材料層が、
- a-Cファミリーからの「DLC」非晶質炭素型のものであり、
- 前記炭素系材料層内に最大で3at%の酸素を含み、
- 水素、窒素、又はドープ元素を含有しない
ことを特徴とする、部品。
【請求項2】
前記基板(S)と前記炭素系材料(M)との間に前記炭素系材料(M)と接触して配置される炭素系副層(SC)を含み、前記炭素系副層(SC)が、3at%から15at%の間の残留酸素を含むことを特徴とする、請求項1に記載の部品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の部品を含む、燃料電池のためのモノポーラ型又はバイポーラ型のプレート。
【請求項4】
イオンアシストを用いて、金属性基板(S)上に炭素系材料(M)外側層を堆積させるための方法であって、前記堆積が、
- マグネトロンスパッタリング、連続的又はパルス、
- 高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)、
- アンバランス構成マグネトロンスパッタリング、及び任意選択で閉磁界で、
- 高周波スパッタリング(RFスパッタリング)、
- 又はこれらの技法からの、行うことができる任意の組合せ
の中からの技法のうちの1つに従って行われ、
前記方法が、イオンアシストを用いて堆積が行われる工程からなり、前記イオンアシストのレベルが、前記炭素系材料(M)層が前記炭素系材料(M)層内に最大で3at%の酸素を含有するように調整されている、
方法。
【請求項5】
前記基板(S)上に堆積される前記材料(M)が、20nm以上、好ましくは20nmから500nmの間、より好ましくは50nmから250nmの間、更により好ましくは80nmから150nmの間、及びより好ましくは80nmから120nmの間の厚さを有する、薄層と呼ばれる層を形成することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記基板(S)上、前記基板(S)と前記炭素系材料(M)との間に前記基板(S)と接触して配置されることが意図される金属副層(SC)を堆積させる前工程であって、前記金属副層(SC)の材料が、以下の材料:クロム、チタン、ジルコニウム、タンタル、又はそれらの合金、並びにそれらの窒化物及び炭化物のうちの1又は複数の中から選ばれる、前工程を含むことを特徴とする、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記金属副層(SC)の厚さが、5から100nmの間、好ましくは20nmから40nmの間であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記基板(S)と前記炭素系材料(M)との間に前記炭素系材料(M)と接触して、炭素系副層(SC)を堆積させる前工程を含み、前記炭素系副層(SC)が、3at%から15at%の間の残留酸素を含有するように、前記前工程中に前記アシストのレベルが調整されることを特徴とする、請求項4から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記炭素系副層(SC)が、前記基板(S)から前記炭素系材料(M)層の方向に減少する酸素含有量勾配を有することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記炭素系副層(SC)の厚さが、2から40nmの間、好ましくは10nmから30nmの間であることを特徴とする、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記基板(S)が、ステンレス鋼、チタン、チタン合金、又はニッケル系合金、クロム系合金、及び鉄系合金を含むことを特徴とする、請求項4から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記基板(S)が、10μmから1000μmの間の厚さのプレートであることを特徴とする、請求項4から11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池又は電解槽の電極のための被覆の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、燃料電池及び電解槽等の電気化学システム、特に、プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)に関する。
【0003】
これらの電気化学システムの動作は、酸性又は塩基性の環境、カソードへの酸化、温度が60から160℃までであることが可能であること、及びハロゲン化物の任意選択の存在を包含する。この環境は、電極とも呼ばれるインターコネクトプレート、インターコネクタ、又はバイポーラプレート若しくはモノポーラプレート等の、前記システムの素子の腐食を助長する。
【0004】
特に、バイポーラプレートは、これらのシステムの耐久性に関して極めて重要なコンポーネントのうちの1つであり、厚さが約100μmの金属シートから構成されている。それらは、表面での十分な電気伝導を保持し、界面での電気的損失を最小限にするために、及び電池の攻撃的な媒質における金属シートの腐食を回避するために、被覆によって保護されていなければならない。
【0005】
腐食性媒質中を含む、金属材料製のバイポーラプレートの表面伝導は一般に、基板の最表面上に炭素系又は金系の機能性層を堆積させることによって得られる。炭素層の場合、基板上に副層を先に堆積させることにより、機能性層の付着を向上させ、スタックの機械的耐性を確実にすることができる。
【0006】
一般に、層と基板との付着、及び、亀裂による又は層間剥離による損傷の不在によって表される機能性層の機械的強度は、重要なパラメーターである。
【0007】
実際、電気化学システムの動作継続時間にわたってこの層のバリア機能は劣化してはならず、基板から来る金属カチオンの電池の媒質中への放出を、低量であっても阻止するために、酸化から金属性基板を保護しなければならない。
【0008】
局所的及び一般に一時的な電気機械的システムの状態の変動は、内部で、欠落、亀裂、穴、列間の空間等の欠陥が、特に機能性層とのガルバニックカップリングによって、基板の急速な劣化を引き起こしうる機能性層をいっそう促す。
【0009】
更に、電池の膜がフルオロポリマー製である場合、それは、ステンレス鋼基板の点食によって、一緒に腐食を促進するフッ化物F-イオンを解放しうる。次いで、これは、電池全体の急速且つ壊滅的な不具合にいたりうる。
【0010】
上述の機械的強度及び電気伝導の目標を満たすことによって、そのような不具合から電池を保護するために、特に炭素系の機能性層を堆積させることが先行技術から公知である。
【0011】
炭素の物理蒸着(PVD)は、例えば、混成原子sp2の混成原子sp3に対する比率を変えることによって、炭素堆積のみの場合を含む、大幅に異なりうる特性を有する広範囲の材料を得る選択肢によって特徴付けられ、使用するのに互いに非常に異なる特性を得ることが可能である。堆積された層の特長を向上させるために、一般に、堆積中に追加のエネルギーが与えられる。炭素層内の水素をより大きい又はより小さい比率にすることも可能である。
【0012】
文献国際公開第2020/019693号は、堆積中、グラファイトの形態で、堆積の部分的な再結晶を得るために、基板が高温に、即ち、400から500℃の間に加熱される、炭素系機能性層の堆積を説明している。しかしながら、部品の加熱は、処理の継続時間及びエネルギーコストを増大させる。
【0013】
他の元素を炭素に加えることによっても、良好な性能が得られている。したがって、文献国際公開第2011/077755号は、3から20at%の間の含有量を有する窒素、及び0%より大きく20at%以下である含有量を有する水素をドープされた炭素系機能性層で被覆された燃料電池のためのバイポーラプレートを説明している。
【0014】
文献国際公開第2007/136131号は、1at%未満の含有量で珪素をドープされ、30at%の最大含有量で水素を含有する非晶質炭素層を備える伝導性部材を説明している。
【0015】
文献国際公開第2013/114836号は、30、20、及び3at%の最大含有量で水素、窒素、及び酸素を含有する非晶質炭素層を説明している。
【0016】
しかしながら、追加の元素の含有量を制御することは、方法に負担をかけ、処理をより高価にする。
【0017】
最後に、困難さは、その堆積が高速であるようなできるだけ薄い層を有することと、より急速に劣化することになる薄層が有するよりも低い耐久性との矛盾にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開第2020/019693号
【特許文献2】国際公開第2011/077755号
【特許文献3】国際公開第2007/136131号
【特許文献4】国際公開第2013/114836号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明の目的は、上述の先行技術の不利点を克服することである。
【0020】
この目的のために、最初に、本発明は、炭素被覆であって、その固有の特長が、電極、例えば燃料電池のための高い性能を確実にするために最適である、炭素被覆を提案することを目的とする。
【0021】
本発明はまた、効率的で安価である、燃料電池の特定の用途に適合された部品に関する。
【0022】
次いで、本発明は、そのような炭素被覆を得ることを可能にする堆積方法に関する。
【0023】
本発明は最後に、できるだけ多くの堆積技法に適合され得る、炭素層のアシストを用いて堆積を最適化するための方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この目的のために、炭素系材料の外側層で被覆された外表面を有する金属性基板を含む、即ち、炭素系材料層が、部品の露出した表面を構成する、金属部品が開発されている。
【0025】
本発明によれば、炭素系材料の層は、
- a-Cファミリーからの「DLC」非晶質炭素型のものであり、
- 炭素系材料層内に最大で3at%の酸素を含み、
- 水素、窒素、又はドープ元素を含有しない。
【0026】
このようにして、炭素系層は、最適な固有の特長を有して、電極のための高い性能を確実にする。その製造は、それが追加の元素を含まないため、容易であり、安価である。
【0027】
「水素、窒素、又はドープ元素を含有しない」によって、これは、これらの元素は堆積された層に意図的に加えられず、堆積された層に特定の特性を与えるには不十分な分量で存在しうるのみであることを意味する。好ましくは、これらの元素は、微量でのみ存在する。
【0028】
燃料電池内での特定の使用の場合、部品は、燃料電池のためのモノポーラ型又はバイポーラ型のプレートの一部を形成する。この場合において、部品は、DOEの要件を満足する。
【0029】
有利には、金属部品は、基板と炭素系材料との間に前記炭素系材料と接触して配置される炭素系副層を含み、炭素副層は、3at%から15at%の間の残留酸素を含む。このようにして、基板上での材料層の付着は向上される。
【0030】
十分な付着を与えるために、しかし重大すぎる堆積継続時間(及びしたがって、部品のコスト)の増大を伴なうことなく、炭素系副層の厚さは2nmから40nmの間、好ましくは10nmから30nmの間である。
【0031】
本発明はまた、イオンアシストを用いて、金属性基板上の炭素系材料外側層の堆積を最適化するための方法であって、堆積は、
- マグネトロンスパッタリング、連続的又はパルス、
- 高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)、
- アンバランス構成マグネトロンスパッタリング、及び任意選択で閉磁界で、
- RFスパッタリング、
- 又はこれらの技法からの、行うことができる任意の組合せ
の中からの技法のうちの1つに従って行われる、方法に関する。
【0032】
本発明によれば、方法は、炭素系材料層が炭素系材料層内に最大で3at%の酸素を含有する、アシストのレベルを決定することからなる。
【0033】
このようにして、堆積方法は、上述の有利な特長を有する炭素系層を得ることを可能にする。
【0034】
当然ながら、望ましい酸素含有量を得ることを可能にするいくつかのレベル又はある範囲のレベルがありうる。
【0035】
本発明はまた、ひとたびアシストレベルが決定されると、イオンアシストを用いて、金属性基板上に炭素系材料層を堆積させることであって、
- マグネトロンスパッタリング、連続的又はパルス、
- 高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)、
- アンバランス構成マグネトロンスパッタリング、及び任意選択で閉磁界で、
- 高周波スパッタリング(「RF」スパッタリング)、
- 又はこれらの技法からの、行うことができる任意の他の組合せ
の中からの技法のうちの1つに従って行われる、堆積させることに関する。
【0036】
本発明によれば、堆積は、イオンアシストを用いて行われ、イオンアシストのレベルは、炭素系材料層が炭素系材料層内に最大で3at%の酸素を含有するように調整されている。
【0037】
出願人が、満足のいく性能を得ることを可能にする共通の特長は炭素層内で低くなくてはならない残留酸素含有量であることを観察したのは、実際、多数の堆積試験(種々のPVD技術を用いた)、及び種々の技法によって得られた層の耐性試験が進められた後である。
【0038】
実際、本発明の適正な実施は、良好な状態のPVD装備において最小値として、酸素が、残留真空から又は常に多孔質である炭素ターゲット(多孔率は最小値としてターゲットの体積の10%に達する)から来うるため、先行技術の炭素系堆積における酸素含有量を最小限にすることを可能にする。
【0039】
更に、工業的な方法の場合、工業的な方法は一般に、高い生産性を有し、したがって時間があまりかからないことを要求されるため、堆積の酸素の除去は所与のものではない。しかし、チャンバーを真空下に置く間、蒸気は、表面に強く吸着されているため、ポンプ式に出すことがより困難である。蒸気の完全な除去は、チャンバーが加熱されたとしても多くの時間がかかるであろう。一般に、チャンバー内に常に残留蒸気が存在し、これは、酸素及び水素が堆積中にほとんどないことによって表される。
【0040】
堆積を最適化する範囲において、したがって、本発明は、例えば、特に、炭素に対する酸素の投与量の質を確実にするためにEDX測定を校正した後、堆積のEDX特徴付けによって、酸素含有量の決定を組み込む。
【0041】
方法は、いくつかの堆積技法に適合しており、これは、部品の製造者が、自分が有する材料に従って、ある特定の材料に関して専門値知識のある、又は経済的理由のために、自分にとって好適である技法を選択することを可能にする。
【0042】
イオンアシストは、イオンによって炭素層をその成長中にボンバード処理することからなり、この層中の酸素分量を低減する効果的な手段のうちの1つである。イオンアシストは、例えば、
- アンバランスマグネトロンスパッタリング(UBMS)を使用することによって生成される開磁力線によって得られるイオンボンバードメント、
- 部品の近傍に制限されたプラズマの高周波による励起によって得られるイオンボンバードメント、
- 例えば、マイクロ波によって生成されるプラズマによって得られるイオンボンバードメント
とすることができる。
【0043】
アシストを調整することは、堆積中に与えられる追加のエネルギーと堆積される材料の分量との間のバランスを見出すために、堆積のパラメーターに対してアシストパラメーターを変更することを意味する:
- 不十分なエネルギー供給は、酸素が、炭素系材料層中に混合されるのを防止することを可能にしない、及び
- 過剰のエネルギー供給は、処理チャンバー中に存在する酸素が、形成されている層によって再吸収されるように、炭素系材料層の構造を劣化させる。その上、過剰のエネルギー供給は、より多くの部品を、したがって、間接的にチャンバーを加熱する。これは、壁からのより多くの水分の脱離を、したがって、堆積中により多くの酸素を生成する。
【0044】
実践では、アシストを調整することは、
- 例えば、補助プラズマのバイアス又は密度を調整することによって、アシストの強さを変更すること、
- 交替の機能するアシスト又はパルススパッタリングの使用の継続時間を変更すること(Ton/Toff比を変更するための照光継続時間及び/又は吸光継続時間)、
- いくつかのアシストモードを組み合わせて、及び/又は交替で、使用すること
ということになりうる。
残留酸素含有量を測定することは、最適のアシストを決定することを可能にする。
【0045】
したがって、望ましい含有量を得ることを可能にするアシストレベルを保持するためにのみ、堆積に対して必要なアシストレベルを決定することは、アシストレベルが異なって調整された数連の堆積を行い、次いで、炭素系材料層内の残留酸素含有量の測定を進めることからなる。
【0046】
イオンアシストの場合、成長材料層に向けられたイオンの分量によって、及びこれらのイオンのエネルギーによって、特徴付けられることが想起される。イオンの流れは、基板に向けられ、後者のバイアスは、イオンの流れを加速する。イオンと基板とのこれらの相互作用は、基板の近傍において生じる。
【0047】
成長層に衝突するイオンは、マグネトロンカソードから(例えば、アンバランスマグネトロンカソードスパッタリングの場合)、補完的なプラズマ源が存在する場合、マグネトロンカソード及び主に前記補完的なプラズマ源から、来る。
【0048】
したがって、イオンの流れは、例えば、アルゴンイオン、及び任意選択でターゲットから来るイオン等の、プラズマが生成されているガス状混合物からのイオンを含む。イオンの性質のいかんを問わず、それらは成長層に衝突し、これは、堆積を高密度にすること、及び酸素分量を調整することを可能にする。
【0049】
イオンアシストは、カソードスパッタリングと必ずしも同時ではない。それらは、
- スパッタリングによって、基板が、炭素系材料の第1の分量を受け取る、
- 次いで、イオンアシストが実施されて堆積される材料を高密度にする
ように、交互に動作することができる。
【0050】
したがって、基板は、炭素源の前、次いでイオン源の前を繰り返し通過する。
【0051】
この交互は、カソードスパッタリング法に従って、及び堆積方法を実施する設備の設計に従って、選ばれる。実践では、スパッタリング及びイオンアシストシステムは、連続的に動作することができ、一方で被覆されることになる部品は、前記システムの前を次々にスクロールする。明らかに、イオンアシストが実施される場合、関連付けられるイオンの流れは常にゼロより大きい、即ち、イオンの流れはゼロではなく、そうでない場合、イオンアシストはその役割を果たすことができないと考えられる。
【0052】
中性炭素原子(φn)の流れは、ターゲットから基板に方向付けられる。それは、堆積されることになる材料層を構成し、ターゲットから来る炭素原子を主に含む。
【0053】
炭素系材料層が薄い、典型的に500nm未満の厚さであり、100nm未満であることさえあり、残留酸素割合が低いと、堆積中にインサイチュで残留流れを測定することはできない。したがって、3at%以下の残留酸素割合を達成するために、一連の堆積は、事前に確立された実験計画に従って行われ、次いで、種々の堆積パラメータートルク及びアシストパラメーターに従って得られる残留酸素割合を測定しなければならない。
【0054】
基板のバイアス電圧、又はより簡潔に基板のバイアスは、基板と方法を実施する装置の土台との間に印加される電位差であると定義される。このバイアスは、連続的又はパルスとすることができる。後者の場合、バイアス電圧は、基板に印加される電圧の平均値である。バイアス電流は、バイアスをかけられた基板上で測定された(平均)強さである。
【0055】
イオンの(運動)エネルギーは、基板の周りの電界における加速によってそれらに与えられる。それは、バイアス電圧に関係付けられ、基板とプラズマとの間の電位差の絶対値に、粒子の又は考察される種の電荷を乗ずることによって算出される。一般に、土台に対するプラズマの電位は、土台と部品との間の電位差の前では重要でないと考えられる。これは、eVで単電荷のイオンのエネルギーは、ボルトでのバイアス生成器によって送達される電圧に対応すると考えることに帰る。
【0056】
この場合は常に、また好ましくは、方法を最適化する理由で、堆積は、制御された雰囲気下チャンバー中で行うことができ、その作動圧力は、0.8×10-3mbarから8×10-3mbarの間、好ましくは1.5×10-3mbarから4×10-3mbarの間、更により好ましくは2.0×10-3mbarから2.6×10-3mbarの間である。
【0057】
動作事象又は動作パラメーターの局所的変異の場合に基板の保護が十分となるために、特に、電気化学システムを動作させるための過渡的又は偶発的なシステムに過電位が関係付けられる場合に、基板上に堆積される材料は、20nm以上、好ましくは20nmから500nmの間、より好ましくは50nmから250nmの間、更により好ましくは80nmから150nmの間、より好ましくは80nmから120nmの間の厚さを有する、薄層と呼ばれる層を形成する。
【0058】
第1の実施形態において、イオンの流れ(イオンアシストの)は、例えば、方法がアンバランスマグネトロンカソードスパッタリングからなる場合、マグネトロンカソードによって生成される。
【0059】
第2の実施形態において、イオンの流れは、マグネトロンカソードに補完的なシステムによって、好ましくはマイクロ波プラズマによって、生成される。
【0060】
装置の生産性及び合理化を目的として、また、任意選択で、基板は、設備内でマグネトロンカソードスパッタリングステーションの前を、次いで、プラズマ生成ステーションの前を、好ましくは環状でスクロールする。
【0061】
基板上に堆積される炭素系材料の付着を向上するために、及び起こりうる酸化から基板を保護するために、方法は、基板上に、基板と炭素系材料との間に前記基板と接触して配置されることが意図される金属副層を堆積させる前工程であって、金属副層の材料が、以下の材料:クロム、チタン、ジルコニウム、タンタル、又はそれらの合金、並びにそれらの窒化物及び炭化物、好ましくは、チタン又はタンタル又はそれらの合金(チタン及び/又はタンタルを含む合金)、並びにそれらの窒化物及び炭化物のうちの1又は複数の中から選ばれる、前工程を含むことができる。
【0062】
金属副層を堆積させる工程の継続時間と、それが与える付着の向上との好都合な妥協を有するために、その厚さは5nmから100nmの間、好ましくは20nmから40nmの間である。
【0063】
基板上に堆積される炭素系材料の付着を向上するために、方法は、基板上に、上述の基板と炭素系材料との間に配置されることが意図される炭素系副層を堆積させる前工程であって、前記副層が前記炭素系材料と接触している、前工程を含むことができる。
【0064】
炭素系副層は好ましくは、上を覆う炭素系材料の層と同じ材料から構成される。副層の材料として炭素を選ぶことは、マグネトロン内でただ1つのスパッタリングターゲットのみを使用することを可能にし、したがって、これは方法の実施を簡潔にすることを可能にする。
【0065】
炭素系副層の堆積を行うために、堆積中、炭素系材料から酸素を追い出すのに不十分な、中程度のイオンアシストを用いた堆積が進められる。したがって、炭素系副層は、3at%より大きく15at%未満の、好ましくは5at%から10at%の間の残留酸素割合を含む。
【0066】
炭素系副層は、副層と層との間の境界が、残留酸素含有量が本発明によって定義される閾値に達するレベルであるように、基板から炭素系材料の方向に減少する酸素含有量の勾配を有することができる。
【0067】
上述の特長に従う、マグネトロンカソードスパッタリングによるターゲットから金属基板上への炭素系材料の工程を含む方法の実施は、したがって、例えば、高い表面電気伝導レベルを経時的に維持しながら、バイポーラプレートの腐食に対して耐久性のある保護を確実にすることによって、前記炭素系材料を含む層によって覆われた前記金属基板を含むモノポーラプレート又はバイポーラプレートの機能化を可能にする。
【0068】
燃料電池の分野に適合される特定の実施形態において、基板は、ステンレス鋼、チタン、チタン合金、又はニッケル系合金、クロム系合金、及び鉄系合金を含み、好ましくはインコネル(登録商標)である。
【0069】
好ましくは、基板は、10μmから1000μmの間の厚さのプレートである。
【0070】
本発明による部品は、特に伝導率及び耐腐食性の、非常に良好な特長を有する炭素系材料層を含む。
【0071】
そのような部品は、それに耐久性と、燃料電池の分野の要件を満足するのに十分な性能とを保証する技術的特長を有するため、好ましくは、燃料電池のためのモノポーラ型又はバイポーラ型のプレートの一部を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【
図1】本発明による方法の実施のための設備の上面図としての概略図である。
【
図2】本発明による方法の実施のための別の設備の上面図としての概略図である。
【
図3】本発明によらない堆積で被覆された基板の腐食試験後の剥離を例示する顕微鏡写真である。
【
図4】数連の試験中に得られた、残留酸素含有量に従って、ステンレス鋼基板上に堆積される炭素系材料層に関して行われた、塩素化環境におけるサイクリックボルタンメトリーのグラフである。
【
図6】本発明の方法に従って処理された基板を電子走査することによる電子顕微鏡法において作製された切片の観察記録である。
【
図7】数連の試験中に得られた、経時的に、基板上に堆積される炭素系材料層の腐食電流密度の進展を例示するグラフである。
【
図8】EDX測定によって得られるスペクトルグラフである。
【
図10】イオンボンバードメントの強さに従って、いくつかの試験中に得られた炭素系材料層の酸素含有量を例示するグラフである。
【
図12】そのようなプレートの切片の部分的な図である。
【
図13】経時的に基板上に堆積される炭素系材料層の腐食電流密度の進展を、これらの層の酸素含有量に従って例示するグラフである。
【
図14】基板上に堆積される炭素系材料層の界面接触抵抗の進展を、これらの層の酸素含有量に従って例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0073】
真空堆積の分野において、いくつかの種類の技術があり、それぞれが、その利点及びその不利点を有する。部品を処理する範囲において、特に、燃料電池のためのモノポーラプレート又はバイポーラプレートにおいて、出願人は、公知の堆積方法を最適化することを追求してきた。
【0074】
イオンアシストマグネトロンカソードスパッタリング堆積の公知で工業化可能な技術に基づいて、出願人は、基板(S)上に層を形成し、及び特に、機械的強度、耐腐食性、付着、及び電気伝導の良好な特性を有する炭素系材料(M)の堆積を得ることを目的とする、種々の一連の試験及び解釈を行った。
【0075】
図1及び
図2を参照すると、方法の好ましい実施形態を実施するために使用される設備(1)は、ポンプシステム(20)、従来の(バランス又はアンバランス)マグネトロンスパッタリング源(30)、ガス状のイオンプラズマ(P)を生成する補完的なプラズマ源(40)、及び処理されることになる基板(S)が取り付けられる基板担体(50)を備える二次真空チャンバー(10)を含む。
【0076】
ポンプシステム(20)は、チャンバー(10)中に二次真空、即ち、10-7mbarから5×10-5mbarの間の桁の圧力を得ることを可能にする。ポンプシステム(20)又は別の独立したシステムは、真空チャンバー(10)にガス(希ガス)を導入することが可能である。ガスはイオン化されることが意図され、これは好ましくはアルゴンである。
【0077】
マグネトロンスパッタリング源(30)は、連続的に供給される従来のマグネトロン(30)である。この実施形態において、アシストイオンは、マグネトロンカソード(30)に補完的なプラズマ源(40)によって主に生成される。プラズマ源(40)は、任意の好適な種類のものであるが、プラズマ(P)は好ましくは、マイクロ波によって生成される。
【0078】
他の実施形態において、特にマグネトロンがアンバランスである場合、イオンは、マグネトロンカソード(30)によって生成される。アンバランスマグネトロンは、アンバランス磁気構造を有し、これは、カソードのプラズマによって生成されるイオンの一部を部品に送ることを可能にする。
【0079】
したがって、プラズマ源(40)は、任意選択であり、その存在は、実施されるマグネトロンスパッタリングの種類に、及び成長堆積上に十分なイオンの流れ(φi)を生成するのに利用可能なイオンの分量に、依存する。
【0080】
いずれの場合でも、いくつかのマグネトロンカソード(30)を加えて、基板(S)上に材料(M)をより迅速に堆積させることが可能であり、その場合、各カソードは、それ自体の生成器によって供給される。
【0081】
プラズマのガス状のイオンを加速し、このようにして基板担体(50)の方向にイオンの流れ(φi)を作り出すために、基板担体(50)はバイアスされる、即ち、負電圧又は電位差がその端子において印加される。部品をバイアスすることから生じる電界が、約1mm~3mmの短距離にわたって延在するため、ガス状のイオンのこの加速は、基板(S)の付近において生じる。
【0082】
考察されるスパッタリングモードのいかんを問わず、マグネトロンの材料(M)ターゲットをスパッタリングし、基板(S)上に堆積を形成する原子を放出するために、イオンは、マグネトロンの材料(M)ターゲットへと引き付けられる。これらのイオンは、本発明において出願人が関心を持っているものではない。実際、これらは、イオンアシストを定義し、堆積された層の品質のために重要である、材料(M)堆積が成長する基板(S)へと引き付けられるイオンである。本実施形態の範囲において、イオンは、ガス状種、好ましくはアルゴン等から構成される。
【0083】
これらのイオンの役割は、基板上の成長による材料(M)堆積物に衝突して、それを圧縮し、材料の原子と十分に安定な結合を形成しない種を除去することである。これは、成長材料(M)層の密度を増大し、前記成長材料(M)層中の酸素を除去することを可能にする。しかしながら、堆積を減速しない又は目下の堆積の品質を劣化させないために、基板(S)上に既に載置されている材料(M)をはじき出すことも、基板を過熱することもないように注意が必要である。
【0084】
一般に、マグネトロンカソード又はマイクロ波プラズマ型の補助プラズマ源から来るプラズマのイオンは、「遅い」。したがって、それらは、成長材料(M)層を圧縮する又はこの層から酸素を除去するための力を有しない。したがって、また上述に示されるように、被覆されることになる基板(S)に負電圧が印加され、これは、前記基板(S)に陽イオンを引き付け、加速する。
【0085】
プラズマ(P)中で基板(S)をバイアスする場合、バイアス電圧は、基板(S)と設備(1)の土台との間に印加される。電位差は、基板(S)とプラズマ(P)との間で確立される。イオンが加速されるのは、基板(S)の表面の約1~3mmにわたるこの電位降下域においてである。
【0086】
イオンの運動エネルギーは、プラズマ(P)と基板(S)との間の電位差とほぼ同等である。ほとんどのプラズマにおいて、プラズマの電位は公知であるが、一般に、数ボルト、例えば、+5V~+10Vである。実践では、基板(S)に印加される電圧が、絶対値として数十ボルトに達する場合、プラズマ(P)の電位は、0Vとほぼ同等である。
【0087】
基板(S)の近傍において、加速相における衝突によってイオンが減速されないため、この近似値は、低圧において妥当である。
【0088】
これらのイオンの加速はそれらの電荷に対して、及び電位差に対して比例しており、バイアス電圧は、このバイアス電圧に電子の電荷を乗ずることによって、堆積中にイオンに与えられるエネルギーに同化される。実際、考察される技術的分野において、イオンは一般に、単電荷である。
【0089】
図1で例示される設備(1)において、基板担体(50)はキャリッジ型である、即ち、平行移動で及び交替で、材料(M)を受け取るためにマグネトロン(30)の前で、次いで、ガス状のイオンの衝撃が堆積された材料(M)層を圧縮するようにプラズマ源(40)の前の位置(S’)で、基板(S)を駆動するためのリニアアクチュエーターを含む。この場合において、設備は長さによって配される。
【0090】
図2で例示される設備(1)において、基板担体(50)は、自転型である、即ち、1又は複数の基板(S)が配されているプレート(51)を含み、このプレート(51)は回転(r1)状に駆動される。このようにして、各基板(S)は、代替的に、マグネトロンカソードスパッタリングステーションの前を、次いで、プラズマ生成ステーション(P)の前をスクロールする。
【0091】
正確な実施及び基板のサイズによれば、追加の回転が、プレートの回転(r1)に当然、重ねられうる。
【0092】
これらの実施形態のそれぞれにおいて、いくつかのマグネトロンカソード(30)を、いくつかのプラズマ源(40)と交互に配することは有利である。このようにして、基板(S)の動きは連続的であり、これは、マグネトロンカソードスパッタリングステーションの前を、次いで、プラズマ生成ステーション(P)の前を交替でスクロールする。マグネトロンカソード(30)をプラズマ源(40)と交互に加えることは、設備(1)の生産性を増大することを可能にする。
【0093】
いずれの場合でも、基板担体(50)は、処理されることになる基板(S)に又は設備(1)の構造に従って、任意の好適な型とすることができ、垂直に若しくは水平に配すること、又は形状によって及び寸法によって適合することも可能である。
【0094】
基板(S)上に堆積された材料(M)層の性能を評価することが可能であるために、以下の測定が行われる。
【0095】
堆積された材料(M)層の実用寿命は、電気化学腐食試験にかけることによって評価される。
【0096】
電気化学試験は、0.1ppmのフッ化物イオンを有する80℃の、3に等しいpHの酸性溶液(H2SO4)中で行われる。これらのパラメーターは、PEMFCの動作媒質を模擬するように、アメリカ合衆国DOE(エネルギー省)によって定義される。電位は、参照電極Ag/AgClに対して、試験されることになる材料が取り付けられる作動電極において+0.8Vに設定される。試験を短くするために、及び最良の堆積のみを選択するために、使用される電位は、DOEによって推奨されるもの(0.6V)より大きい。気泡を加えることは、燃料電池のカソード挙動を模擬することを可能にする。
【0097】
腐食電流は、材料(M)層を受け取った基板(S)を含む部品の劣化速度のイメージである。実際、腐食電流が大きいほど、部品はより酸化されるプロセスにある、即ち、材料(M)層は、その保護的な役割をあまり良く果たさない(それ自体が酸化され、消費されうる)。実践では、0.8Vの電位下、24時間後の300nA/cm2未満の腐食電流密度は、許容されると考えられる。
【0098】
被覆の表面伝導率は、その界面接触抵抗又は「ICR」の測定によって評価される。良好な表面伝導率を有する被覆は、低いICR、例えば10mΩ.cm2未満を有する。
【0099】
ICR測定は、銅-炭素シートブロック(GDL-ガス拡散層)-基板上の堆積-ニッケル塗装(基板の背面)-銅ブロックから構成されるスタック上で行われ、そこでは1cm2の表面積に関して100mAの電流が印加され、次いで、測定された電圧からアセンブリの抵抗が算出される。
【0100】
このスタックは、被覆されたバイポーラプレートとGDLとの間の接触の代表的なものである。重み付きレバーアームシステムによって、これに138N/cm2の圧力が印加され、この圧力は、電気化学電池に、そのアセンブリ中に印加される圧力の代表的なものである。
【0101】
得られる抵抗R総は、(方程式1)
・Cu-Cuシステムの抵抗(Rオフセット)の
・銅炭素RCu/C界面接触抵抗を1回
・炭素RCフェルトの抵抗(ゼロ)を1回
・堆積と炭素との界面接触抵抗RC/堆積の
・堆積の直線抵抗R堆積の
・316L R316L鋼プレートレットの抵抗(ゼロ)の
・ニッケル銅RNi/Cu界面接触抵抗を1回
の総和である。
【0102】
[数1]
R総=Rオフセット+Rcu/c+Rc/堆積+R堆積+RNi/Cu (1)
【0103】
方程式(2)を用いて、ICRは決定される。
【0104】
[数2]
Rc/堆積+R堆積=RCI=R総-Rオフセット-Rcu/c-RNi/cu (2)
【0105】
ICRは、腐食試験前又は後に測定することができ、その場合、後者は、処理された部品の加速されたエージングを模擬する。
【0106】
耐腐食性に補完的に、被覆された基板(S)の表面伝導率に関心を持つことが適切である。実際、金属副層(SC)、次いで炭素層で被覆された基板(S)は、良好な耐腐食性を有することができ、これは、ある特定の場合に、炭素層の劣化の場合に副層(SC)の材料が不動態化することによって説明することができる。しかしながら、この不動態化した材料は、表面で十分に伝導性ではなく、これは、そのような堆積で機能化されたバイポーラプレートは偶発的な劣化から燃料電池を保護するが、この燃料電池の性能はより低くなる(著しいオーム損失に起因する低い収率)ことを意味する。したがって、これら2つのパラメーターの累積的な考察が必要である。
【0107】
必要に応じて、堆積された層のモルフォロジーを観察するために、例えば、イオンビーム(集束イオンビーム-FIB)によって、試料の切片を作製することが可能である。
【0108】
設備(1)内で、数連の試験が行われた。バイポーラプレートの被覆を模擬するために、使用される基板(S)は、2つの面が被覆されることが意図されるステンレス鋼試験片316Lである。
【0109】
基板(S)は、取り付け台に位置付けされ、清浄にされ、ブラストされて、その表面に存在しうる汚染物質及びほこりが除去される。次いで、真空の堆積設備(1)に導入される。
【0110】
チャンバー(10)中の圧力が5×10-6mbar未満であるように、ポンプシステム(20)は始動され、チャンバー(10)は加熱されてその壁に吸着された水が除去される。
【0111】
被覆されることになる基板(S)の表面は加熱され、ボンバード処理されて、表面に吸着された水が除去され、表面に存在する酸化クロム層が剥離される。
【0112】
次いで、2.5×10-6mbarのアルゴンの圧力があるように、ポンプシステム(20)はチャンバー(10)にアルゴンを導入する。アルゴンは、イオン化されるために使用され、炭素系層中に含有されることは意図されない。
【0113】
炭素系材料(M)層の良好な付着を保証するために、炭素系副層(SC)は、マグネトロンカソード(30)によって基板(S)上に堆積される。副層(SC)の堆積中、イオンアシストは弱く、特に、3at%未満の残留酸素含有量を得るために、酸素を追い出さない。
【0114】
次いで、十分なイオンの流れ(φi)を生成するために、補助プラズマ源(40)は照光される。プラズマ源(40)は400Wの動力で維持される。残りの堆積は、25分の総継続時間にわたって、マグネトロンカソード(30)上のターゲット及びプラズマ源(40)によるイオンボンバードメントの交互スパッタリングを用いて、行われる。
【0115】
この第1の例を用いると、このようにして、100nmの炭素層が基板(S)の2つの面で得られる。次いで、チャンバー(10)はガス抜きされ、基板(S)は回収される。
【0116】
第1の一連の試験は、
- 多少厚く堆積された層を与える堆積継続時間、
- イオンアシストの動力、及び
- 基板(S)上の材料(M)層の耐性を向上させることを可能にする副層(SC)の有無
を変更することによって行われる。
【0117】
マグネトロンカソード(30)に適用される動力、したがって堆積速度は、一定に保たれる。試験の適合性は、ICRを測定することによって、及び堆積された層の耐腐食性によって評価される。
【0118】
得られた結果は、下記の表に示される。これは、EDXによる測定の分解能に対応するため、酸素含有量は端数が切り上げられている。
【0119】
【0120】
下記で詳細に説明されるもの等の、堆積された層の耐腐食性、及び低いICR評価基準を確認することによって性能が得られる。
【0121】
この表は、炭素系材料(M)層内の低い酸素含有量は、期待される評価基準を満足することを可能にすることを示す。金属副層の存在、及び堆積された層の厚さは、前記堆積された層の機械的及び物理的特性を最適化するように調整することが可能であるパラメーターである。
【0122】
図3を参照すると、チタン副層を、次いで、過度に強い(4at%の残留酸素)イオンアシストのボンバードメントに供されることによって堆積された20nm厚さの炭素層を受け取った基板(S)上で、走査電子顕微鏡による観察が行われる。これらの観察は、0.8Vでの腐食試験後、著しい数の被覆の欠落が試料の表面上に現われ、そこでは炭素層はもはや存在せず、色が明るい箇所ではチタン副層は剥離されていることを示す。チタン副層(SC)の存在にもかかわらず、20nm厚さの炭素系材料(M)層は、被覆された基板(S)が最適な特性を有するように十分ではなく、20nm厚さの炭素系材料(M)層は、本発明によって定義される評価基準に従って堆積されることが必要であり、言い換えれば、酸素含有量が好適である。
【0123】
覆いの、及び基板への堆積によって提供される保護の品質を評価する別の手段は、塩分媒質における腐食試験である。試料は、室温で3時間、海水と同様の35g/Lの塩化ナトリウム溶液に浸漬される。電位は、E0から最大+0.8Vまでのバランス電位で試料に印加され、次いで、電位は、1mV/sの走査速度で、E0に戻る前に-0.4Vに減少する(参照Ag/AgClに対して)。電流は、2サイクルの間測定される。
【0124】
図4及び
図5は、そのような試験中に得られたボルタンメトリーグラフを例示する。
【0125】
試験された3つの試料は、100nm厚さの炭素系材料(M)層が堆積されている316Lの基板(S)であり、
- 第1の試料の堆積は、本発明に対応せず、8at%の酸素含有量を有する、
- 第2の試料の堆積は、本発明に対応し、2at%の酸素含有量を有する、
- 第3の試料の堆積は、本発明に対応せず、4at%の酸素含有量を有する。
【0126】
第1の試料の堆積は、このように堆積された層はDOEの要件を満足しないため、本発明に対応しないが、しかしながら、それは基板(S)上での良好な付着を有する。したがって、そのような層は、炭素系副層(SC)として働き、次いで、本発明による炭素層を受け取ることができる。
【0127】
したがって、副層(SC)は、層(M)の付着に関して期待される特長を部品に与え、一方で、前記層(M)は、耐腐食性及びICRに関して期待される特長を部品に与える。
【0128】
図4において、
- 第1の試料は、中程度の腐食電流を有する、
- 本発明に対応する第2の試料は、非常に低い腐食電流を有する、
- 第3の試料は、電位が0.5Vを超える場合、急な電流の増大を有する
ことがわかる。これは、周知の現象であるNaCl媒質中のステンレス鋼の点食による腐食に対応する。試験からもたらされて、ステンレス鋼ホイルは、いくつかの点において貫通される。
【0129】
図4の詳細な図である
図5において、
- 第1の試料は、電流の増大を有し、確かに限定されているが、ステンレス鋼の点食にも対応する、
- 本発明に対応する第2の試料は、アノード電流が1μA/cm
2未満であるため、非常に低い電流を有する
ことが観察される。
【0130】
したがって、過度に高い酸素含有量を用いて堆積される炭素層は、腐食から基板(S)を効果的に保護せず、一方で、本発明に対応する範囲の酸素含有量を用いて堆積される炭素層は、基板(S)を最適に保護することが、推論されうる。
【0131】
特に、これらの耐腐食性試験は、過度にボンバード処理された炭素系材料(M)層が、100nmより大きい厚さにもかかわらず、基板(S)又は副層(SC)を効果的に保護せず、腐食性媒質において層中の局所的な欠陥(欠落)が現われることを示す。後に続く、腐食性媒質における副層(SC)の又は基板(S)の剥離は、それらの腐食、及びそれらが解放する金属カチオン溶液における少なくとも全体の塩析を引き起こす。電池において、これらは、膜電極アセンブリの、したがって、電池の耐久性に損傷を与える。
【0132】
常に、機能化された基板(S)を組み込む電気化学システムの実用寿命を向上させる目的で、より厳しい他の腐食試験が行われた。これらの試験において、継続時間は1時間に、電位は1.4V及び1.6V(ref(Ag/AgCl)に対して)にする。異なる厚さの炭素層を受け取っており、副層(SC)を含む又は含まない、異なる基板(S)において、これらの厳しい試験は行われた。
【0133】
これらの腐食条件下の炭素消費は、漸進的である:
- 20nm及び50nmの炭素層は完全に消費され、基板(S)又は金属副層(SC)は、基板(S)のほぼ表面全体にわたって剥離される、
- 100nm、160nm、又は300nmの層は、完全には消費されず、試験された表面は黒い外観を保ち、ある特定の炭素堆積の厚さは、表面上に常に存在し、これは、低いICRを有する被覆の良好な表面伝導特性を保持することを可能にする。
【0134】
この実施形態において、したがって、十分に高い炭素厚さを堆積させて、電池の使用中に、即ち、動的な動作条件(電位のサイクルを伴なう)、又は電池を起動する及び停止するためのサイクル(これは、より大きいカソード電位、又は起動時にアノード媒質において二水素と接触する空気の存在にいたる)等とともに、生じうる偶発的な過電位に対する処理の良好な耐性を確実にすることは関心事である。
【0135】
当然ながら、炭素層の最大厚さは、必要な堆積継続時間に関係付けられる処理のコストによって限定される。
【0136】
次いで、出願人は、構造に、及び準拠する堆積の化学組成物に関心がある。
【0137】
図6を参照すると、以下のパラメーターに従って得られた準拠する堆積が観察されうる:
- 結果として8%の酸素割合を有する、表1の第1の試験中等のマグネトロンスパッタリングを行うことによって得られた炭素副層(SC)の基板(S)上の堆積、
- 本発明によるイオンアシストを用いたマグネトロンスパッタリングを行うこと、即ち、≦3at%の酸素含有量を与えることによって得られた高密度炭素層(M)の堆積。
【0138】
イオンビームによる切削を行うことを可能にするために、異なる形態である白金層(Pt)が、部品上に堆積されて切削中それを保護し、
図6において見ることができるが、この層は方法の範囲に入らない。
【0139】
この試料について、
- 基板(S)と接触している炭素副層(SC)は、約17nmの厚さである、
- 副層(SC)上に堆積される高密度炭素層(M)は、約98nmの厚さである、
- したがって、堆積の総厚さは約115nmの厚さである。
【0140】
図7を参照すると、出願人は、2at%の酸素を含み、本実施形態に対応する100nmの炭素層が与えられた2つの試料に関して、0.8V(vs参照Ag/AgCl)での定電位試験において測定された腐食電流密度の24時間にわたる進展を比較した。第1の試料は、炭素副層があらかじめ与えられており、第2の試料は、チタン副層があらかじめ与えられていた。
【0141】
このグラフにはDOEの要件に基づく300nA/cm2の閾値が表示されている。この閾値を超えると試料は良好ではなく(NG)、下回ると試料はOKである。
【0142】
継続時間が延長されたこの試験は、上述の試験と同様のエージング試験であり、本事例においては、より具体的には電流密度の進展が経時的に表されるという違いがある。
【0143】
- 炭素副層を有する第1の試料は、低い腐食電流を有し、それは特に経時的に減少する、
- 第2の試料は、わずかにより大きいが、特に、時間とともに増大する傾向がある腐食電流を有する
ことが観察される。この結果は、第2の試料の実用寿命は第1の試料のものより短くなることを示唆する。
【0144】
この試験は、このモードに従って堆積された高密度炭素層(M)の更に増大された実用寿命を得るために、炭素副層は好ましくは金属副層であることを実証する。
【0145】
しかしながら、金属副層は、使用される基板の種類に従う利害関係があり得、
- 基板(S)がステンレス鋼製である場合、チタン製金属副層は、炭素系材料(M)層の劣化の場合、不動態化層を作り出すことを可能にし、不動態化層は、基板(S)のステンレス鋼が金属カチオンを電気化学システムに放出することがないことを保証する。
【0146】
したがって、特定の実施形態は、
- 基板(S)、
- 基板(S)上に堆積される第1の金属副層(SC)、
- 第1の金属副層(SC)上に堆積される第2の炭素系副層(SC)、
- 第2の炭素系副層(SC)上に堆積される炭素系材料(M)層
を含むことができる。
【0147】
次いで、バイアス電流に及び/又はプラズマの密度に従って、基板上に堆積された材料(M)層のエネルギー分散型X線分光法(EDX)によって分量を決める方法による化学的特長が、行われた。これらの特徴付けの利益は、堆積によって機能化されたプレートから、本発明によるパラメーターに従って堆積が行われたかどうかを知ることが可能であることである。
【0148】
核反応分析(NRA)等のEDX以外の方法が、考察されうる。EDXは、実施するのが容易であるため、好ましい方法である。異なる測定方法がわずかに異なる結果を与えうるように、検出されることになる含有量は低いことに留意されなければならない。本発明及び3at%(この文献において説明される方法に従ってEDXによって得られる値)の酸素含有量を得る必要性を報告される当業者であれば、前記含有量を測定し、及びその準拠を確実にするために、これらの測定技法、又は、この目的に適合された、それ自体で公知であり、及び対象となっている技術分野において慣例的である任意の他の測定技法を、どのように実施するかを知っている。
【0149】
EDX分析は、以下のパラメーターを用いて行われる:
- 倍率×1000での領域分析、
- 加速電圧:機能性炭素層(M)から酸素を組み込むことのみを考慮して2.5keV。過度に高い電圧は、任意選択の金属副層(SC)又は任意選択で基板(S)の酸素を組み込むことによって、測定にバイアスをかける、
- 作動距離:10mm、
- 分析継続時間:90~120秒、
- プローブ電流:70~80μA。
【0150】
EDXによる測定を向上させ、残留酸素割合の定量化につきものの非常に低くなるおそれという測定の不確実性を低減する目的で、その化学式、即ち酸素組成が公知であるポリマーの酸素割合を測定することによって機器を校正することが可能である。
【0151】
これを行うために、種々の酸素含有量の種々のポリマー試料が使用される(表2を参照されたい)。それらは最初にエタノールで清浄され、次いで、24時間90℃の加熱チャンバーに導入されて、表面上に吸着された水及びエタノールが除去される。次いで、それらはMEBに迅速に導入されて、外気による汚染が回避される。
【0152】
結果の再現性及び一貫性を示すために、鎖の長さが異なる(これはO/C比に影響を及ぼさない)2つのPMMA試料が試験される。
【0153】
【0154】
図8において、言及される条件下で得られるスペクトルXの例が呈示されている。
【0155】
図9を参照すると、測定される酸素含有量は、理論的なものに十分に近く、直線的な進展を有し、したがって、校正は適正であることが留意される。
【0156】
図10は、表1に記載される結果と同様のグラフを例示する。予想されるように、スパッタリングされるターゲットは炭素系であるため、炭素系材料(M)層は炭素を主に含む。しかしながら、残留酸素割合は、イオンボンバードメントに従って変動する:
- イオンアシストボンバードメントが十分でない場合、酸素は、成長堆積層に混合される。したがって、このモードを用いて得られる試料において、残留酸素含有量は3at%より大きい。
- ボンバードメントが強くなる場合、酸素含有量は減少し、最小値を通過するように思われる。
- 次いで、イオンアシストボンバードメントが過度に高い場合、酸素含有量は再度増大することが観察される。
【0157】
したがって、このモードにおいて機能化されたプレートは、その機能性層内に3at%以下の酸素含有量を含む。
【0158】
機能性層はまた、イオンアシストから来るアルゴンを含むことができる(又は、アルゴン以外のガスが使用される場合、別の希ガス)。
【0159】
図11は、機能性層の堆積に先立って成形されている、ガスを運ぶための及び水蒸気を排出するためのチャネルを区別することができる、機能化されていないモノポーラプレート(60)を例示する。
【0160】
図12は、そのようなバイポーラプレート(60)の切断面の部分的な表示を例示するダイアグラムである。このダイアグラムについて、基板の厚さ(Es)は、バイポーラプレート(60)の厚さ(Epb)より小さいことがわかる。実際、最終のプレート(60)の厚さは、これが成形される方法に依存する。
【0161】
炭素層中の低い残留酸素割合と良好な耐腐食性との関係の予想外の観察に始まって、次いで、出願人は、他の堆積技法と適合するような、マグネトロンカソードスパッタリングを用いて実施される最適化方法を一般化することを追求してきた。実際、これは、利用可能な堆積技法のいかんを問わず、燃料電池の要件に準拠する炭素層(M)を得ることを可能にする。
【0162】
対象となっている技術分野内で真空化が進行される場合、窒素は、チャンバー(10)の、基板(S)の表面上、又はターゲット中に、非常にわずかに吸着されているため、チャンバー(10)から完全に排出されることが想起される。
【0163】
反応性スパッタリングを行うことは追求されず、ポンプシステム(20)は、チャンバー(10)中に窒素もドープ元素等の他の追加元素も導入せず、チャンバー(10)の内容積、及びしたがって、堆積される材料(M)層は、窒素又は他の追加元素を有しない(微量を除く)。
【0164】
材料層(M)は、水素、窒素、又は、タングステン等の任意の他のドープ元素を含有しない。対象となっている技術分野(非晶質材料の化学)において、「含有しない」によって、ゼロの含有量、微量で、又は少なくとも、1at%未満の含有量を意味する。いずれの場合でも、これらの元素が堆積された材料(M)層に特性を与えることができないような十分に低い分量を得ることが追求される。これらの元素のいずれも、堆積中に意図的に加えられない。
【0165】
しかしながら、加熱が行われるにもかかわらず、少しの吸着された水がチャンバー(10)内に依然として残り、実践では、実施される約10-5mbarの真空圧力で、目立った漏れがない程度まで、チャンバー(10)内に蒸気がほとんど残る。したがって、水を通してチャンバー(10)中の酸素の存在を回避することは可能ではなく、この成分はその形成中に堆積中に見出すことができる。グラファイトターゲットは一般に多孔質であるため、酸素は炭素系ターゲット中にも含有されうる。
【0166】
酸素は、堆積された層から容易に除去されず、その含有量は、適用されるイオンボンバードメントの条件に依存し、イオンボンバードメントの条件自体は用いられる方法に特定的である。酸素は、その存在がDOEの要件に対する準拠に影響を与えるため、堆積を汚染する。
【0167】
したがって、出願人は、材料(M)層がDOEの要件を満足するような、決定されることになる閾値を下回って残留酸素の分量を低減するための種々の方法を追求した。
【0168】
種々の適合した堆積及びアシストモードの中から、出願人は、第2の実施形態の例のみを与えているが、本発明は、請求項4に記載される方法の実施にあることが理解される。
【0169】
この第2の実施形態において、第1のフェーズは、炭素層(M)の良好な機械的強度を保証するために基板(S)上に副層(SC)を堆積させることからなる。
【0170】
次いで、基板(S)の2つの面で100nmの炭素層を得るために、堆積は40分間パルスDCモードで行われる。堆積中に、
- 3.2kWのパルス動力がマグネトロンカソードに適用される、
- 堆積の残留酸素含有量を変更するために、パルスモードでの-100Vの電位が基板(S)に印加され、パルスモードの周波数と周期の比が連続する試験によって調整される。
【0171】
パルスモードの周波数と周期の比の調整は、多少残留している酸素を含む炭素層(M)を得ることを可能にする。
【0172】
図13を参照すると、以下が、各試験に関して測定された。
- 上述と同じ条件下の腐食電流密度、
- EDXによる残留酸素含有量、
超えるべきではない閾値が示されており、下回ると、試料は良好ではない(NG)。
【0173】
炭素系材料(M)層内の残留酸素含有量と材料(M)層の腐食電流密度との相関関係もあること、即ち、炭素層(M)の酸素含有量と耐久性との相関関係があること、及び、これは、用いられる堆積方法のいかんにかかわらないことが、
図13のグラフにおいて観察される。マイクロ波プラズマによるアシストによって得られるものと同様の酸素含有量をもたらすバイアス電流は、2つの方法の間で異なることも観察される。
【0174】
これは、
- 最初に、層(M)内の残留酸素含有量は実際、層の性能と相関することを確認すること、
- 次いで、異なる堆積技法のアシストは、EDXによって測定されて3at%、好ましくは2at%、より好ましくは1at%以下の残留酸素含有量を得るために、各方法に特定的に調整されなければならないことを確言すること
を可能にする。
【0175】
第1の試験によって得られた結果を確認するために、上述の条件下で行われる0.8Vでのエージング試験後、ICRを測定する第2の試験が行われる。
【0176】
図14を参照すると、低い残留酸素割合を含む種々の層の中で、実施されるすべての堆積技法は、ICRの評価基準を満足することが観察される。
【0177】
次いで、出願人は、第3の実施形態の最後の一連の試験を行い、ここで、
- 堆積技法は、第2のモードのもの、言い換えれば、パルスDCモードにおけるマグネトロンカソードスパッタリングである、
- イオンアシストは、第1の実施形態のもの、言い換えれば、マイクロ波プラズマアシストである。
【0178】
この第3のモードにおいて、出願人は、炭素系材料(M)層内の、3at%以下である残留酸素割合を得ることを可能にする調整が何であるかを決定するまでアシストの動力を変更することによって、形成されている堆積に対してイオンアシストのパラメーターを適合させた。
【0179】
ICR及び耐腐食性試験は、ここでも、この新規の堆積モードとイオンアシストとの組合せとともに、DOEの評価基準を満足することを可能にするのは3at%以下の残留酸素割合であることを示す。
【0180】
3つのモードの試験は、下記の表において要約される。
【0181】
【0182】
この表は、堆積モードのいかんにかかわらず、イオンアシストモードのいかんにかかわらず、重要であるのは、a-Cの形態である炭素系材料層内の残留酸素割合が、3at%以下であることを例示するため、本発明を要約することを可能にする。
【0183】
したがって、当業者は、残留酸素割合を最小限にすることを考慮して堆積パラメーターをどのように適合させ、したがって、本発明に準拠するかがわかるであろう。
【0184】
結論として、本発明による方法は、考察される堆積技法のいかんにかかわらず、炭素系材料(M)層中の特定の残留酸素割合を得るために、イオンアシストの及び堆積のパラメーターを調整することによって、最も効率的な堆積を見出すことを可能にする。
【0185】
本発明による様々なPVD方法は実際、基板(S)を機能化することを可能にする:
- 腐食試験の前だけでなく後も、低いICR値を提供することによって、
- 著しい継続時間及び高い電位にわたってさえ、腐食に対して良好な保護を提供することによって、
- 例えばドロップレット型の欠陥を有しないため、良好な構造的品質を有する堆積された層、
- シート、モノポーラプレート又はバイポーラプレート(任意選択で既に溶接された及び組み立てられた)等の、並びに種々のステンレス鋼系、チタン系、インコネル(登録商標)型の合金系材料、即ち、ニッケル系合金、クロム系合金、及び鉄系合金から構成される、種々の種類の部品に適合した方法。
【0186】
その上、方法は、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から離れることなく、与えられる例とは異なったように行うことができる。
【0187】
例えば、表3において例示されるように、これらの代替法が技術的に達成されうる場合、呈示された堆積モード及び/又はアシストモードを交換すること、又は堆積中に、いくつかのアシスト技法を組み合わせることが可能である。当業者は、最適な機能特性を与える酸素含有量の範囲を得ること考慮して、例えば、タイプIIマグネトロンをより強く又は弱く不均衡にすることによって、及び、堆積装備の構成がこれを許す場合、それらを閉磁界において組み合わせることによって、この場合において説明されていないPVD技法に堆積条件をどのように調整するかがわかるであろう。補助プラズマ源と又はアンバランスマグネトロンとパルスDCスパッタリング技術を組み合わせることも考察されうる。各場合において、各技術に特定的にイオンからの及びイオンの流れからのエネルギーを調整することは、好適な残留酸素含有量をターゲットにすることを可能にする。
【0188】
更に、上に言及される様々な実施形態及び変形例の技術的特徴は、それらの全体において又は部分においてのみ組み合わせることができる。したがって、方法及び設備(1)は、コスト、機能性、及び性能に関して適合させることができる。
【0189】
例えば、1つのみの炭素系副層(SC)、1つのみの金属副層(SC)、又は炭素系副層(SC)及び金属副層(SC)を生産することは可能である。副層(SC)の厚さは、10nmから60nmの間、例えば、30nmとすることができる。
【符号の説明】
【0190】
1 設備
10 チャンバー
20 ポンプシステム
30 マグネトロンカソード
30 マグネトロンスパッタリング源
30 マグネトロン
40 プラズマ源
50 基板担体
51 プレート
60 機能化されていないモノポーラプレート
60 バイポーラプレート
60 最終のプレート
Epb バイポーラプレートの厚さ
Es 基板の厚さ
M 材料
M 炭素系材料
M 層
M 高密度炭素層
M 機能性炭素層
P プラズマ
r1 回転
S 基板
S’ プラズマ源の前の位置
SC 副層
φi イオンの流れ
φn 中性炭素原子の流れ
【手続補正書】
【提出日】2023-01-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
最後に、困難さは、その堆積が高速であるようなできるだけ薄い層を有することと、より急速に劣化することになる薄層が有するよりも低い耐久性との矛盾にある。
文献国際公開第2013/124690号、記事D.G. TEER“Technical note: a magnetron sputter ion-plating system”、SURFACE AND COATING TECHNOLOGY、vol.39/40(1989-12-01)p.565-572、及び米国特許出願公開第2016/0240865号明細書に記載される方法及び製品は完全に満足できるものではない。
【国際調査報告】