(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-21
(54)【発明の名称】微小循環の評価
(51)【国際特許分類】
A61B 3/13 20060101AFI20240814BHJP
A61B 5/026 20060101ALI20240814BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20240814BHJP
A61B 5/1455 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
A61B3/13
A61B5/026 120
A61B10/00 E
A61B5/1455
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531564
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(85)【翻訳文提出日】2024-04-02
(86)【国際出願番号】 EP2021079284
(87)【国際公開番号】W WO2023011743
(87)【国際公開日】2023-02-09
(32)【優先日】2021-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】524050246
【氏名又は名称】オーディーアイ メディカル エーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】クヴェルネボ、アンネ カリ
(72)【発明者】
【氏名】クヴェルネボ、クヌート
(72)【発明者】
【氏名】モゼー、スヴェイン‐エリック
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
4C316
【Fターム(参考)】
4C017AA11
4C017AB07
4C017AC28
4C017EE01
4C017FF05
4C038KK01
4C038KL07
4C038VB04
4C038VC05
4C316AA01
4C316AA03
4C316AB06
4C316AB16
4C316FZ03
(57)【要約】
本発明は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおいて微小循環を評価することを含む、被験者における循環不全を特定またはモニターする方法であって、当該方法は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおいて、(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または(ii)毛細血管流速(CFV)のパラメータを評価することを含み、パラメータ(i)およびパラメータ(ii)は、顕微鏡法により評価される、方法に関する。本発明はまた、このような方法を行うために設計された装置およびソフトウェアに関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者における循環不全を特定またはモニターする方法、あるいは被験者の予後を予測する方法、あるいは被験者に関する臨床的に関連性のある情報を提供する方法、あるいは被験者における治療の有効性をモニターする方法であって、
前記方法は、
前記被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおける微小循環を評価することを含み、前記方法は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおいて、
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または
(ii)毛細血管流速(CFV)
のパラメータを評価することを含み、
パラメータ(i)およびパラメータ(ii)は、顕微鏡法で評価される、方法。
【請求項2】
前記被験者の角膜縁においてパラメータ(i)および/またはパラメータ(ii)を評価することが、前記被験者の角膜縁におけるパラメータ(i)および/またはパラメータ(ii)についての値を取得することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被験者の角膜縁におけるパラメータ(i)およびパラメータ(ii)についての値が取得される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記被験者の角膜縁におけるパラメータ(i)および/またはパラメータ(ii)について取得された値を、健康な基準値またはより早い時点における前記被験者についての値と比較することをさらに含む、請求項2または請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記被験者の角膜縁におけるパラメータ(i)およびパラメータ(ii)のいずれか1つについて取得された値が、対応する健康な基準値もしくはより早い時点における前記被験者についての値を下回っている、および/または
前記被験者の角膜縁における他のパラメータについて取得された値が、対応する健康な基準値もしくはより早い時点における前記被験者についての値を上回っている、
という結果または結果の組み合わせが、前記被験者における循環不全を示す、請求項2~請求項4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記被験者の角膜縁におけるパラメータ(ii)について取得された値が、対応する健康な基準値またはより早い時点における前記被験者についての値を下回っている、
という結果が、前記被験者における循環不全を示す、請求項2~請求項5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記被験者の眼球結膜における微小循環を評価することをさらに含み、前記評価することが、前記被験者の眼球結膜において、
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または
(ii)毛細血管流速(CFV)
のパラメータを評価することを含み、
パラメータ(i)およびパラメータ(ii)は、顕微鏡法で評価される、請求項1~請求項6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記被験者の眼球結膜においてパラメータ(i)および/またはパラメータ(ii)を評価することが、前記被験者の眼球結膜におけるパラメータ(i)および/またはパラメータ(ii)についての値を取得することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記被験者の眼球結膜におけるパラメータ(i)およびパラメータ(ii)についての値が取得される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記被験者の眼球結膜におけるパラメータ(i)および/またはパラメータ(ii)について取得された値を、健康な基準値またはより早い時点における前記被験者についての値と比較することをさらに含む、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記被験者の眼球結膜におけるパラメータ(i)およびパラメータ(ii)のいずれか1つについて取得された値が、対応する健康な基準値もしくはより早い時点における前記被験者についての値を下回っている、および/または
前記被験者の眼球結膜における他のパラメータについて取得された値が、対応する健康な基準値もしくはより早い時点における前記被験者についての値を上回っている、
という結果または結果の組み合わせが、前記被験者における循環不全を示す、請求項8~請求項10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記被験者の眼球結膜におけるパラメータ(i)について取得された値が、対応する健康な基準値もしくはより早い時点における前記被験者についての値を上回っている、および/または
前記被験者の眼球結膜におけるパラメータ(ii)について取得された値が、対応する健康な基準値もしくはより早い時点における前記被験者についての値を下回っている、
という結果または結果の組み合わせが、前記被験者における循環不全を示す、請求項8~請求項11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
循環不全が示された場合に、前記被験者における循環不全の診断を行うことをさらに含む、請求項1~請求項12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記被験者の治療を変更、中止、または継続することをさらに含む、請求項1~請求項13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記顕微鏡は、非偏光および/または多色光を用い、好ましくは白色非偏光を用いる、請求項1~請求項14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記顕微鏡は、ビデオ顕微鏡であり、好ましくはコンピュータ援用ビデオ顕微鏡(CAVM)である、請求項1~請求項15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記被験者から以前に取得したデータに対して、前記評価が行われ、前記被験者は、まだモニタリングを受けている状態ではない、請求項1~請求項16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
(a)FCDの不均一性、
(b)CFVの不均一性、
(c)微小血管赤血球の酸素飽和度(SmvO
2)、および
(d)SmvO
2の不均一性
のうちの1つまたは複数のパラメータが、さらに評価され、
好ましくは、パラメータ(a)およびパラメータ(b)は、顕微鏡法によって評価され、パラメータ(c)およびパラメータ(d)は、拡散反射分光法(DRS)で評価される、請求項1~請求項17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
パラメータ(a)からパラメーター(d)のうちの2つ以上、より好ましくは3つまたは4つが、最も好ましくは角膜縁および眼球結膜の両方において評価される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記被験者は、
(i)体外式膜型人工肺(ECMO)および/または体外式生命維持治療(ECLS)などの集中治療法が考慮されるか、またはこのような集中治療法を受けている、
(ii)子癇前症を患っている、
(iii)敗血症を患っている、
(iv)慢性または急性の心不全を患っている、
(v)窒息している、
(vi)急性又は慢性の呼吸不全を患っている、あるいは
(vii)臓器移植のレシピエントである、請求項1~請求項19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記被験者は、
(i)緑内障、湿潤加齢性黄斑変性(湿潤AMD)、翼状片、眼がん、局所炎症、強膜炎/上強膜炎、幹細胞不全、角膜移植不全、円錐角膜、眼虚血症候群、前部乏血性視神経症(AION)、または眼もしくはまぶたに行われた美容目的の処置後の合併症から選択されることが好ましい眼病を患っている、
(ii)例えば、虚血性もしくは出血性の脳卒中、多発性硬化症、髄膜炎、または頭蓋内圧上昇などの脳の循環障害といった神経病を患っている、あるいは
(iii)血液量減少性ショック、微小血管障害を伴う糖尿病、または早産児関連症(prematurity)を患っている、請求項1~請求項20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記眼がんは、ぶどう膜黒色腫、結膜黒色腫、またはまぶたの基底細胞癌である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記眼の局所炎症は、血管炎、ぶどう膜炎、またはアレルギーによるものである、請求項21または請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記眼における幹細胞不全は、フックスジストロフィーである、請求項21~請求項23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記AIONは、動脈炎性AIONまたは非動脈炎性AIONであり、好ましくは網膜動脈塞栓、網膜静脈閉塞、化学的熱傷、または脳卒中によるものである、請求項21~請求項24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記被験者は、結膜色素沈着を発症している、請求項1~請求項25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
顕微鏡と、任意に分光計と、コンピュータとを含む、被験者の角膜縁における微小循環を評価するための装置であって、前記コンピュータは、前記顕微鏡を用いて取得された前記微小循環の画像を1枚(または複数枚)と任意に分光計からのSmvO
2に関連するデータとを受信するように、また任意に病変に関係する特性/パラメータを同定および/または決定するために前記画像およびデータを処理するようになっており、前記画像およびデータは、
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または
(ii)毛細血管流速
のパラメータと、任意に
(a)FCDの不均一性、
(b)CFVの不均一性、
(c)微小血管赤血球の酸素飽和度(SmvO
2)、および
(d)SmvO
2の不均一性
のうちの1つまたは複数のパラメータと、に関連する、装置。
【請求項28】
前記装置は、前記被験者の別の結膜領域、好ましくは眼球結膜における微小循環を評価するためのものでもある、請求項27に記載の装置。
【請求項29】
顕微鏡を用いて取得された被験者の角膜縁の微小循環の画像を1枚(または複数枚)と任意に分光計からのSmvO
2に関連するデータとを受信するように、また病変に関係する特性/パラメータを同定および/または決定するために前記画像およびデータを処理するようになっているコンピュータを含む、被験者の角膜縁における微小循環を評価するための装置であって、前記画像およびデータは、
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または
(ii)毛細血管流速
のパラメータと、任意に
(a)FCDの不均一性、
(b)CFVの不均一性、
(c)微小血管赤血球の酸素飽和度(SmvO
2)、および
(d)SmvO
2の不均一性
のうちの1つまたは複数のパラメータと、に関連する、装置。
【請求項30】
前記特性/パラメータに対応する値、および/または好ましくは加重和もしくは加重平均などのそれらの組み合わせに基づく値を出力するための手段をさらに含む、請求項27~請求項29のいずれかに記載の装置。
【請求項31】
請求項27~請求項30のいずれかに定義される前記画像処理ステップおよび/または前記出力ステップをコンピュータに実行させるための命令を含む、ソフトウェア。
【請求項32】
被験者における循環不全を特定またはモニターする方法、あるいは被験者の予後を予測する方法、あるいは被験者に関する臨床的に関連性のある情報を提供する方法、あるいは被験者における治療の有効性をモニターする方法であって、
前記方法は、
顕微鏡を用いて以前に取得した、前記被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおける前記微小循環の1枚(または複数枚)の画像を、コンピュータによって処理することで、前記被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおける
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または
(ii)毛細血管流速(CFV)
のパラメータについての値を取得することを含む、方法。
【請求項33】
前記被験者の眼球結膜における前記微小循環の1枚(または複数枚)の画像を、コンピュータによって処理することで、前記被験者の眼球結膜における
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または
(ii)毛細血管流速(CFV)
のパラメータを取得することをさらに含み、
パラメータ(i)およびパラメータ(ii)は、顕微鏡法で評価される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
(a)FCDの不均一性、
(b)CFVの不均一性、
(c)微小血管赤血球の酸素飽和度(SmvO
2)、および
(d)SmvO
2の不均一性
のうちの1つまたは複数のパラメータについての値がさらに取得され、
好ましくは、前記パラメータ(a)およびパラメータ(b)の値は、前記画像を用いて生成され、前記パラメータ(c)およびパラメータ(d)の値は、拡散反射分光法(DRS)によって以前に取得したデータを用いて生成される、請求項32または請求項33に記載の方法。
【請求項35】
パラメータ(a)からパラメーター(d)のうちの2つ以上、より好ましくは3つまたは4つが、最も好ましくは角膜縁および眼球結膜の両方において取得される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
請求項2~請求項6、請求項8~請求項17、および請求項20~請求項26のいずれかに記載の特徴を含む、請求項32~請求項35のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
微小循環とは、臓器組織内に存在する微小血管系における血液の循環のことである。本発明は、被験者の角膜縁および眼球結膜における微小循環の分析に関し、特に、このような分析の方法およびそのための装置、ならびにそれによって得られたデータの使用に関する。例えば、被験者の予後を診断または評価するために、本発明によって得られたデータが用いられてもよい。また、本発明の方法によって、臨床診断に先立ち、循環障害についての警告を早期に発することもできる。
【背景技術】
【0002】
循環不全は、身体の細胞の代謝要求を満たすのに十分な量の酸素を心臓血管系が供給できないことと定義することができる。血液の循環とは、心臓の左側から分岐する動脈を通り、体のすべての部分の微細血管に到達して横断し、静脈を経由して心臓の右側へ戻り、さらに肺を通って再び左心に戻る連続的な流れを指すので、心臓、肺、および輸送血管、ならびに微小循環における疾患の進行は、循環不全を引き起こし得る。
【0003】
これらの病気は、急に発症する場合もあれば、徐々に発症する場合もある。酸素送達の欠如は、細胞機能障害または細胞死へと至る場合もあり、臓器不全や個人の死へと進行する場合もある。循環不全は、局所的または全身的なものであり得る。全般性(すなわち、全身性)であって、かつ臨床的に明らかな不全、すなわちショック状態は、中枢性(例えば、心不全または血液量過多が原因となる)の場合もあれば、末梢性(例えば、敗血症による血液分布異常性不全)の場合もある。
【0004】
生命を脅かす場合もある全身性循環不全だけでなく、肢端紅痛症のような局部的循環不全(例えば、罹患臓器が不可欠である場合、または罹患領域が壊死して敗血症を引き起こす可能性がある場合には、それ自体が生命にかかわる場合もある)もある。生命にかかわることがないとしても、循環不全は、身体障害、慢性健康障害、および生活の質の低下へとつながる可能性がある。微小循環を評価し、生成されたデータについて臨床的な決定を行うための、信頼できかつ容認できるパラメータまたはパラメータのセットは、確立されていない。
【0005】
動脈循環および静脈循環の臨床検査によって、有益な情報が得られるかもしれないが、その結論が、微小血管機能における結論に当てはまると誤って推測されることが多い。イメージング技術だけでなく、血液ガス分析や血液サンプル中の代謝産物の評価、および血圧や心拍出量の測定などの多くの技術が、循環不全を診断しその治療の指針とするために用いられる。これらの技術は、身体の代謝機能の平均指数だけでなく、心臓、静脈および動脈の機能を評価するデータを収集する。しかしながら、これらの測定にも、臨床的評価に関して同様の問題があり、測定値が基準スペクトル内にある場合に、重大な全身性または局所的な循環不全が存在する可能性がある。
【0006】
上記のように、循環不全を診断し評価するためのさまざまなパラメータおよび測定技術が、無数に存在する。この中には、例えば動脈血中の酸塩基平衡や血清中の乳酸レベルを求めるための、血液検査が含まれ得る。動脈循環および静脈循環を測定してもよく、ここでは、造影剤を用いるイメージング(血管造影、静脈造影、および磁気共鳴(MR)評価)、血流速度のドップラー超音波測定、ならびに侵襲的および非侵襲的な血圧測定が挙げられる。
【0007】
結膜血管の主な機能は、代謝要求を満たすために酸素および栄養素を輸送し供給すること、眼の温度調節を行うこと、ならびに感染または炎症の場合に「警戒」機能を果たすことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
国際公開第2014/114814号に記載されているように、本発明者らは、ビデオ顕微鏡法および分光法を用いて微小循環パラメータを記録し、分析し、評価する方法を、以前に開発している。国際公開第2014/114814号には、循環不全を判定するために皮膚の微小循環の評価を行うことが記載されている。舌または結膜の研究の可能性についても言及されているが、そのような評価の報告はない。結膜は単一の領域として扱われ、特に眼球結膜、または隣接する角膜縁への言及はない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、その後、特に結膜の角膜縁および/または眼球結膜領域における特定の微小循環パラメータを測定することが、診断上、特に価値があることを明らかにし、角膜縁微小循環パラメータを分析する方法を初めて開発した。本発明者らは、初めて、毛細血管から結膜の細胞への酸素送達を評価し、結膜の二つの領域(角膜縁および眼球結膜)の機能が異なることは、循環ストレス下でのそれらの振る舞いが異なることを意味するということを立証した。本発明者らは、これらの特定の領域を見ることによって、さらにとりわけ、対象となるパラメータを二つの領域間で比較することによって、関連する臨床情報を得ることができることを示した。本発明者らは、特にこれらの領域で特定の微小循環パラメータを評価することは、局所的な眼病、神経病、および全身性循環不全の評価、診断、およびモニタリングにおいて利点があると判断した。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、顕微鏡画像を示す。
図1(a):角膜縁由来のフレーム。左上隅に無血管角膜が見られる。
図1(b):眼球結膜由来のフレーム。
図1(a)および
図1(b)において、ボックスは、6本の平行線と交差する毛細血管を同定したものである。各ボックス横の数字は、毛細血管流速カテゴリーを表す。20ミクロンより大きい血管は、分析に含まれない。両方のフレームに見られる黒い点(*)は、メラニン凝集体である。
【
図2】
図2は、オスロ大学病院(
図2(a)))およびクリーブランドクリニック(
図2(b))での角膜縁および眼球結膜における機能的毛細血管密度を示す。
【
図3】
図3は、角膜縁および眼球結膜における毛細血管流速分布を示す(クリーブランドクリニックの記録)。
【
図4】
図4は、オスロ大学病院およびクリーブランドクリニックからの結膜微小血管酸素飽和度データを示す。
【
図5】
図5は、循環系の健康状態が徐々に悪化する子ブタ(拍動流ポンプを装着した子ブタ)および循環系の健康状態がより急速に悪化する子ブタ(連続流ポンプを装着した子ブタ)の角膜縁(
図5(a))および球(
図5(b))における、ベースライン、3時間、および6時間での機能的毛細血管密度(FCD)を示す。
【
図6A】
図6Aは、角膜縁(パネルaからパネルd)における毛細血管流速パターンを示す。ドットは、ベースライン、3時間、および6時間での各ポンプのすべての記録の百分率を表し、傾向を視覚化するために線で接続されている。PF=拍動流、CF=連続流。
【
図6B】
図6Bは、球(パネルeからパネルh)における毛細血管流速パターンを示す。ドットは、ベースライン、3時間、および6時間での各ポンプのすべての記録の百分率を表し、傾向を視覚化するために線で接続されている。PF=拍動流、CF=連続流。
【
図7】
図7は、循環系の健康状態が徐々に悪化する子ブタモデル(拍動流ポンプを装着した子ブタ)および循環系の健康状態がより急速に悪化する子ブタモデル(連続流ポンプを装着した子ブタ)における微小血管酸素飽和度(SmvO
2)の測定値を示す。
【
図8】
図8は、実施例3における分析中のヒト被験者の角膜縁(a)および眼球結膜(b)由来のフレームを示す。
【
図9】
図9は、健康なヒト被験者の角膜縁および眼球結膜において測定された眼表面機能的毛細血管密度を示す。各ドットは、1人のボランティアからの有効な記録の平均を表す。水平線は、各データセットの平均を表す。
【
図10】
図10は、健康なヒト被験者の角膜縁および眼球結膜において測定された眼表面毛細血管流速を示す。各ドットは、1人のボランティアからの有効な記録の平均を表す。水平線は、各データセットの平均を表す。
【
図11】
図11は、健康なヒト被験者の角膜縁および眼球結膜において測定された眼表面毛細血管酸素飽和度を示す。各ドットは、一個人の記録内の平均値を表す。水平線は、各データセットの平均を表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
したがって、一態様において、本発明は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおける微小循環を評価することを含む、被験者における循環不全を特定またはモニターする方法であって、当該方法は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおいて、
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または
(ii)毛細血管流速(CFV)
のパラメータを評価することを含み、
パラメータ(i)およびパラメータ(ii)は、顕微鏡法で評価される、方法を提供する。
【0012】
いくつかの実施形態では、顕微鏡は、白色非偏光を用いる。
【0013】
いくつかの実施形態では、被験者から以前に取得したデータに対して評価が行われ、被験者はまだモニタリングを受けている状態ではない。
【0014】
別の態様において、本発明は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおいて微小循環を評価することを含む、循環不全に罹患した被験者の予後を予測する方法であって、当該方法は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおいて、
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または
(ii)毛細血管流速(CFV)
のパラメータを評価することを含み、
パラメータ(i)およびパラメータ(ii)は、顕微鏡法で評価される、方法を提供する。
【0015】
いくつかの実施形態では、顕微鏡は、白色非偏光を用いる。
【0016】
いくつかの実施形態では、被験者から以前に取得したデータに対して評価が行われ、被験者はまだモニタリングを受けている状態ではない。
【0017】
好ましい実施形態では、パラメータ(i)およびパラメータ(ii)の両方が評価される。好ましい実施形態では、角膜縁および眼球結膜の両方が評価される。特に好ましいいくつかの実施形態では、角膜縁および眼球結膜の両方において、パラメータ(i)およびパラメータ(ii)の両方が評価される。本発明者らは、驚くべきことに、これらのパラメータおよびこれらの領域が、単独で、または一緒に考慮されて、被験者に関する有用な臨床情報、特に、循環不全を患っているか否か、およびどの程度まで罹患しているのかということを、与えることができることを見出した。
【0018】
したがって、好ましい実施形態において、本発明は、被験者の角膜縁および眼球結膜において微小循環を評価することを含む、被験者における循環不全を特定またはモニターする方法であって、当該方法は、被験者の角膜縁および眼球結膜において、
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または
(ii)毛細血管流速(CFV)
のパラメータを評価することを含み、
パラメータ(i)およびパラメータ(ii)は、顕微鏡法と、任意に
被験者の角膜縁においてパラメータ(i)および/またはパラメータ(ii)に関して得られた測定値を、被験者の眼球結膜において同じパラメータに関して得られた測定値と比較することとによって、評価される、方法を提供する。好ましくは、パラメータ(i)およびパラメータ(ii)が評価される。
【0019】
さらなる好ましい実施形態において、本発明は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおいて微小循環を評価することを含む、被験者における循環不全を特定またはモニターする方法であって、当該方法は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおいて、
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および
(ii)毛細血管流速(CFV)
のパラメータを評価することを含み、
パラメータ(i)およびパラメータ(ii)は、顕微鏡法と、任意に
パラメータ(i)に関して得られた測定値を、パラメータ(ii)に関して得られた測定値と比較することとによって、評価される、方法を提供する。好ましくは、角膜縁および眼球結膜(BC)の両方が評価される。
【0020】
別の態様において、本発明は、被験者における循環不全を特定またはモニターする方法、あるいは被験者の予後を予測する方法、あるいは被験者に関する臨床的に関連性のある情報を提供する方法、あるいは被験者における治療の有効性をモニターする方法であって、
本方法は、
顕微鏡を用いて以前に取得した、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおける微小循環の1枚(または複数枚)の画像を、コンピュータによって処理することで、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおける
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または
(ii)毛細血管流速(CFV)
のパラメータについての値を取得することを含む、方法を提供する。
【0021】
複数の実施形態では、本発明の方法は、
被験者の眼球結膜における微小循環の1枚(または複数枚)の画像を、コンピュータによって処理することで、被験者の眼球結膜における
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または
(ii)毛細血管流速(CFV)
のパラメータについての値を取得することをさらに含み、
パラメータ(i)およびパラメータ(ii)は、顕微鏡法で評価される。
【0022】
複数の実施形態では、以下のパラメータ
(a)FCDの不均一性、
(b)CFVの不均一性、
(c)微小血管赤血球の酸素飽和度(SmvO2)、および
(d)SmvO2の不均一性
のうちの1つまたは複数についての値も取得される。
【0023】
複数の実施形態では、パラメータ(a)およびパラメータ(b)の値は、画像を用いて生成され、パラメータ(c)およびパラメータ(d)の値は、拡散反射分光法(DRS)によって以前に取得したデータを用いて生成される。
【0024】
複数の実施形態では、パラメータ(a)からパラメーター(d)のうちの2つ以上、より好ましくは3つまたは4つについての値が、最も好ましくは角膜縁および眼球結膜の両方において、取得される。
【0025】
任意には、本発明の方法は、1枚(または複数枚)の画像と任意にデータ(すなわち、DRSデータ)とをコンピュータで処理するステップの前に、1枚(または複数枚)の画像と任意にデータ(すなわち、DRSデータ)とをコンピュータで受信することを含む。
【0026】
本発明者らは、身体がストレスを受けているとき、例えば、局所的であろうと全身的であろうと循環不全を経験しているとき、結膜(角膜縁を含む)における微小循環の特徴間における代償機構を、初めて観察した。組織への酸素の適切な送達は、いくつかの要因、特に、毛細血管の分布およびこれらの毛細血管を通る酸素化された血液の流れに依存する。FCDまたはCFV(または、さらにとりわけ、両方のパラメータ)における正常健康値からの偏差は、身体が、循環不全をある程度補償するように、微小循環を引き起こしていることの徴候である。したがって、CFVが正常レベルを(おそらくは有意に)下回る一方で、FCDが正常レベルであったり、正常レベルよりも高かったりする場合がある。他方、FCDが正常レベルを(おそらくは有意に)下回る一方で、CFVが正常レベルであったり、正常レベルよりも高かったりする場合がある。どちらの場合でも、酸素送達が低下し、循環不全が存在する。
【0027】
直感的には、毛細血管密度または流速がより大きいことが常に好ましいと考えられるかもしれないが、必ずしもそうではないということが示されている。例えば、本発明者らは、ECMOを行っている過剰輸血患者は、FCDについては正常を越える値を示したが、これと同時にCFVが正常値以下となり、正味の効果としては酸素送達が低下することを観察した。一方、FCDが正常値以下であると、CFVが最適であるにもかかわらず酸素送達が低下する場合があるが、これは、酸素の拡散距離が増大するためである。
【0028】
同様に、正常値を超えるCFVは、微小血管機能の調節不全の徴候であることが示されているが、これは、多くの赤血球が各毛細血管を通過するが、毛細血管通過時間は短く、各赤血球からの酸素の抽出が少なくなるためである。CFVが正常値以下の場合、毛細血管を通過する赤血球が少なく、毛細血管通過時間が長くなって各赤血球からの酸素送達に十分な時間が与えられるが、毛細血管を通過する赤血球が少ないため、総送達能が低下する。
【0029】
実施例で示すように、鎮静剤を投与されたブタに適用された連続流ポンプを循環障害のモデルとして用いると、これらの2つの重要なパラメータは、個別に(または、好ましくは一緒に考慮した場合に)、健康な被験者と病気の被験者との間の偏差を示し、循環不全の診断または予後の予測を可能にする。なお、拍動流(連続流よりも正常な循環を支援するものである)が与えられたブタであっても、経時的には循環不全時の微小循環への影響に対する洞察が得られる。何故なら、試験の設定が、完全に健康な動物と比較して、やはり動物の循環を損なうからである。
【0030】
したがって、好ましい実施形態では、眼の領域におけるCFVおよびFCDを試験することによって、驚くほど良好かつ簡便に循環不全の徴候が示される。これらの2つのパラメータは、角膜縁において評価されてもよく、好ましくはさらにBCにおいても評価されてもよい。典型的には健康基準値と比較して、かつ/または経時的に、両方のパラメータを評価することによって、循環系の健康状態への独特の窓が得られる。
【0031】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、角膜縁とBCとの間の生理学的関係によって、これらの2つの領域が局所的または全身的な循環不全に対して特に敏感となり、パラメータ(i)およびパラメータ(ii)が特に有益となると考えられる。角膜縁は、より代謝活性の高い領域であり、BCは、角膜縁へ酸素を輸送する機能を提供すると考えることができる。例えば、病気の進行または怪我によって、体の循環に障害を持つようになると、角膜縁において(また、任意にBCにおいても、または代わりにBCにおいて)CFVが低下し、驚くべきことに、BCにおいて、代償機構としてFCDが上昇することが見出された。したがって、これらの特性は、循環不全のマーカーとなる。
【0032】
したがって、パラメータ(i)およびパラメータ(ii)の一方が正常値を下回り、一方が正常値を上回っている場合は、角膜縁もしくは眼球結膜内において、またはこれらの2つの領域にまたがって、循環不全が示される。「正常」とは、同等の健康な被験者において観察されることを意味する。1つのパラメータのみが正常値から有意に逸脱している場合に、循環不全が示されてもよい。
【0033】
眼球結膜において、経時的に、または基準値(例えば、健常者における値)と比較して、または角膜縁と比較して、FCDが上昇していることは、循環不全を発症していること、または循環不全がより重度であることもしくは悪化していることを示している。また、角膜縁および/またはBCにおいて、基準値(例えば、健常者における値)と比較して、CFVが低下していることは、循環不全を発症していること、または循環不全がより重度であるもしくは悪化していることを示している。これらの2つの結果、すなわち、眼球結膜におけるFCDの上昇および角膜縁またはBCにおけるCFVの低下(特に角膜縁およびBCの両方における低下)がいずれも見られる場合、これは、循環不全を発症していること、または循環不全がより重度であるもしくは悪化していることを強く示している。
【0034】
したがって、BCにおいて、経時的に、または基準値(例えば、健常者における値)と比較して、CFVが低下していることは、特に、基準値(例えば、健常者における値)と比較した場合の眼球結膜(BC)におけるFCDの上昇も共に見られる場合には、循環不全を発症していること、または循環不全がより重度であるもしくは悪化していることを示している。
【0035】
本発明によれば、「循環不全」(CF)とは、一組織の細胞に十分な量の酸素を供給できないこと(局所CF)、またはいくつかの組織の細胞に十分な量の酸素を供給できないこと(全身性CF)である。この定義によれば、CFとは、微小循環不全である。十分な量の酸素とは、細胞の代謝要求を満たすのに必要とされる量である。
【0036】
いくつかの実施形態では、角膜縁およびBCのいずれかまたは両方において、1つまたは複数の追加パラメータが評価されてもよく、特に
(a)FCDの不均一性、
(b)CFVの不均一性、
(c)微小血管赤血球の酸素飽和度(SmvO2)、および
(d)SmvO2の不均一性
のうちの1つまたは複数が評価されてもよい。パラメータ(a)およびパラメータ(b)は、顕微鏡法によって評価され、パラメータ(c)およびパラメータ(d)は、好ましくは拡散反射分光法(DRS)で評価される。パラメータ(a)からパラメーター(d)のうち、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つまたは4つが、最も好ましくは角膜縁およびBCの両方において、評価される。
【0037】
角膜縁またはBCにおいて、経時的に、または基準値(例えば、健常者における値)と比較して、SmvO2が低下していることは、特に、BCにおけるFCDの上昇、または眼球結膜もしくは角膜縁におけるCFVの低下も共に見られる場合には、循環不全を発症していること、または循環不全がより重度であるもしくは悪化していることを示している。
【0038】
パラメータは、角膜縁および眼球結膜において、同じ方法論を用いて、すなわち、顕微鏡画像と任意にDRSスペクトルとを取得するために同じ方法論を用いて、かつ同じ下流分析ツールを用いて、評価される。好ましくは、2つの領域由来の顕微鏡画像および(必要に応じて)DRSスペクトルは、分析を行う場所(例えば、病院)への一回の訪問で、被験者から、例えば、好ましくは6時間間隔で、より好ましくは3時間間隔で、より好ましくは1時間間隔で、取得されるか、取得されたものである。
【0039】
好ましくは、試験結果は、比較値のデータベース、すなわち、以前に得られた値に由来するデータベースと比較することができる。
【0040】
角膜縁におけるパラメータの測定値と眼球結膜におけるパラメータの測定値との比較はいずれも、人間のユーザーによって行われてもよいし、コンピュータソフトを用いて自動化されてもよい。角膜縁および眼球結膜におけるパラメータの比較は、当該値の直接比較であってもよい。しかしながら、任意には、同じ結膜部位から取得された基準値/対照値からの当該値の第1の偏差を算出し、その後、基準値/対照値からの偏差の程度を、角膜縁と眼球結膜との間で比較する。
【0041】
好ましくは、被験者の角膜縁(および眼球結膜)において取得されたパラメータ値を、健康な基準被験者における角膜縁(および眼球結膜)に由来する基準値(「健康基準値」)と比較し、偏差を得る。
【0042】
同様に、被験者の角膜縁(および眼球結膜)において取得されたパラメータ値を、病変基準被験者における角膜縁(および眼球結膜)に由来する基準値(「病変基準値」)と比較し、偏差を得てもよい。
【0043】
角膜縁は、眼において、透明で無血管の角膜と、不透明で血管が形成されている結膜組織との間の境界を形成している。角膜縁は、無血管の角膜と血管が形成されている結膜とが融合している領域である。本発明の目的上、角膜縁は、角膜に隣接する血管周辺組織と定義され、角膜縁と角膜との境界からわずか1mmだけ延在し、本発明に係る評価の対象となる標的領域は、典型的には、角膜縁と角膜との境界から0.6mmまたは0.5mmまでの領域である。角膜縁は、眼球結膜と角膜との間に位置している。
【0044】
眼の眼球結膜(本明細書では「球」ともいう)は、杯細胞およびランゲルハンス細胞を内部に含む基底膜上にある、非角質化立方重層上皮の2つまたは3つの層からなる。上皮の下には、血管、神経、線維芽細胞、黒色素細胞、ランゲルハンス細胞、および免疫担当細胞を含有する間質がある。本発明に係る評価の対象となる眼球結膜(BC)標的領域は、角膜縁と角膜との境界から少なくとも2mm離れている。
【0045】
輪部結膜は、角膜縁内に見られる結膜の領域である。本願を通して、「角膜縁」および「輪部結膜」なる語は、同義で用いられる。角膜縁は、解剖学的には、結膜またはその一部とは別々のものであると考えてもよいが、本明細書では、便宜上、結膜の一部と見なす場合がある。
【0046】
本方法は、微小循環の評価に関係するものであるので、対象となるのは、脈管構造を有する角膜縁、すなわち輪部結膜の一部のみである。角膜縁は、角膜組織も含んでいるが、角膜組織は無血管であるので、本発明との関連はない。本方法における角膜縁または眼球結膜の評価は、血管を含むのが間質であるため、その中の間質層の評価であると理解される。
【0047】
微小循環とは、臓器組織内に存在する微小血管系における血液の循環のことである。しかしながら、「微小血管系」なる語は、当該分野で一貫して定義されているわけではない。用いられているいくつかの定義によれば、本用語は、直径100ミクロン以下の全ての血管を含んでおり、細動脈、毛細血管、後細動脈、類洞、および細静脈を含んでいてもよい。しかしながら、本発明の方法では、「微小血管系」及び「微小血管」なる語は、直径20ミクロン以下の血管である、毛細血管を指して用いられる。
【0048】
本発明の方法では、好ましくは、示されたパラメータの評価は、角膜縁/結膜部位の異なる領域において繰り返され、結果は、合計または平均される。
【0049】
結膜は、上まぶたおよび下まぶたの内側において評価されてもよい。
【0050】
「評価する」、「測定する」、および「分析する」なる語は、「評価」、「測定」、および「分析」なる語と同様に、全体を通して同義で用いられる。
【0051】
微小循環の評価には、毛細血管周囲の出血および/または暗色のハローが見えるかどうかの判定など、毛細血管周囲の病変の分析が含まれていてもよい。
【0052】
本発明の全ての方法において、被験者は、非ヒト動物であってもよいしヒトであってもよいが、好ましくはヒトである。被験者は、循環不全を発症しているか、または循環不全の発症を疑われており、循環不全は、局所的であってもよいし全身的であってもよい。
【0053】
被験者は、
(i)体外式膜型人工肺(ECMO)および/または体外式生命維持治療(ECLS)などの集中治療法が考慮されるか、またはこのような集中治療法を受けていてもよいし、
(ii)子癇前症を患っていてもよいし、
(iii)敗血症を患っていてもよいし、
(iv)慢性または急性の心不全を患っていてもよいし、
(v)窒息していてもよいし、
(vi)急性又は慢性の呼吸不全を患っていてもよいし、
(vii)臓器移植のレシピエントであってもよい。
【0054】
被験者は、
(i)緑内障、湿潤加齢性黄斑変性(湿潤AMD)、翼状片、眼がん、局所炎症、強膜炎/上強膜炎、幹細胞不全、角膜移植不全、円錐角膜、眼虚血症候群、前部乏血性視神経症(AION)、または眼もしくはまぶたに行われた美容目的の処置後の合併症から選択されることが好ましい眼病を患っていてもよいし、
(ii)例えば、虚血性もしくは出血性の脳卒中、多発性硬化症、髄膜炎、または頭蓋内圧上昇などの脳の循環障害といった神経病を患っていてもよいし、
(iii)血液量減少性ショック、微小血管障害を伴う糖尿病、または早産児関連症(prematurity)を患っていてもよい。
【0055】
(i)において、がんは、例えば、ぶどう膜黒色腫、結膜黒色腫、またはまぶたの基底細胞がんであってもよい。局所炎症は、血管炎、ぶどう膜炎、またはアレルギーが原因の局所炎症であってもよい。幹細胞不全は、フックスジストロフィーであってもよい。AIONは、動脈炎性AIONであっても非動脈炎性AIONであってもよく、例えば、網膜動脈塞栓、網膜静脈閉塞、化学的熱傷、または脳卒中が原因であってもよい。
【0056】
上記および本明細書の他の箇所における「を患っている」への言及は、1つまたは複数の上記病気を患っていることが疑われる被験者を含む。好ましくは、被験者は、1つまたは複数の上記病気の症状を1つまたは複数提示している。好ましくは、被験者は、1つまたは複数の上記病気の治療を受けたことがあるか、または現在治療を受けている。被験者は、結膜色素沈着を発症していてもよい。結膜色素沈着は、
i)例えば、人種性/民族性の黒色症、先天性黒色細胞種、非病的メラニン増加症、またはアクセンフェルト神経ループなどの非病的色素沈着であってもよいし、
ii)非病的(すなわち、非定型性である)であっても、前がん性であってもよい、母斑(先天性もしくは後天性)黒色症であっても、原発性後天性黒色症であってもよいし、
iii)例えば、結膜黒色腫、色素性眼球腫瘍の結膜領域への伸展、病的メラニン増加症、結膜銀症、ビトー斑(ビタミンA欠乏)、結膜下出血、アジソン病、またはアルカプトン尿症を原因とする病的なものであってもよいし、
iv)例えば、放射線照射、ホルモン変化、化学刺激、または慢性炎症性結膜障害に起因する二次的結膜色素沈着であってもよいし、
v)例えば、クロルプロマジンおよび局所エピネフリンを含むがこれらに限定されない処方薬を原因として、化学的に誘発されたものであってもよいし、
vi)例えば、目の入れ墨や染色などの外因性色素沈着であってもよいし、
vii)例えば、つけるのを失敗した化粧品(例えば、マスカラ)など、結膜における異物を原因とするものであってもよい。
【0057】
あるいは、またはさらに、被験者は、類皮嚢胞を発症していてもよい。
【0058】
顕微鏡法
パラメータ(i)およびパラメータ(ii)(ならびにパラメータ(a)およびパラメータ(b))は、顕微鏡法によって評価される。評価は、画像を提供するための顕微鏡、好ましくはビデオ顕微鏡の使用、ならびに/あるいは(ビデオ)顕微鏡によって得られた画像(静止画および/または動画)の使用を含む。顕微鏡は、好ましくはデジタル顕微鏡であり、好ましくはコンピュータ援用ビデオ顕微鏡法(CAVM)である。
【0059】
顕微鏡は、好ましくは非偏光を用いる。顕微鏡は、好ましくは、例えば従来の顕微鏡光源によって生成される白色光などの、多色光を用いる。白色非偏光が好ましい。特定の種類の光を「用いる」顕微鏡は、単に光源に関連するだけでなく、被験者/サンプルに接触する光の性質、および画像を生成するために用いられる光の性質にも関連する。換言すると、好ましくは、パラメータ(i)およびパラメータ(ii)、ならびにパラメータ(a)およびパラメータ(b)は、白色非偏光顕微鏡法によって評価される。
【0060】
好ましくは、パラメータ(i)およびパラメータ(ii)、ならびにパラメータ(a)およびパラメータ(b)は、全て、同じ機器を用いて評価される。
【0061】
一実施形態では、本方法は、ユーザーが、当該顕微鏡画像を被験者から能動的に取得/収集することを含む。典型的には、顕微鏡/ビデオ顕微鏡の記録レンズは、被験者の結膜に接触しない。本方法は、非侵襲的である。眼の動きを抑制するために、画像を取得する前に、オキシブプロカインなどの局所麻酔薬が眼に塗布されてもよい。眼瞼退縮は、当該分野でよく知られており、眼検査で慣例的に用いられるものであるが、ユーザーが必要と見なした場合に行われてもよい。
【0062】
目の解剖学的構造は十分に記録されており、角膜縁および/または眼球結膜などの所望の結膜領域の顕微鏡画像を取得することは、当業者の能力の範囲内である。
【0063】
好ましくは、顕微鏡の視野は、1.5mm2以下、好ましくは1mm2以下である。
【0064】
複数の顕微鏡「画像」は、複数の単一画像、すなわち複数の単一フレームまたは複数の単一写真であってもよい。しかしながら、好ましくはビデオ顕微鏡が用いられ、「画像」はビデオ画像、すなわち「一連の」または「連続した」画像、換言すれば「CAVMフィルム」などのフィルムであってもよい。本明細書における「1枚(または複数枚)の画像」という用語は、複数の単一画像および一連の画像(フィルム)の両方を明示的に指すことを意図している。
【0065】
CAVMフィルムなどのフィルムは、好ましくは長さが5秒から25秒、好ましくは長さが10秒から20秒、例えば約15秒の長さである。
【0066】
好ましくは、顕微鏡(またはCAVMもしくはデジタル顕微鏡)の記録フレームレートは、1秒あたり5フレーム、好ましくは1秒あたり10フレーム、15フレーム、20フレーム、25フレーム、または30フレーム、より好ましくは1秒あたり30フレームである。
【0067】
好ましくは、顕微鏡は、細隙灯内に収容(もしくは固定)されている(または細隙灯と一体化されている)。この配置により、臨床医が、被験者の目の評価をよりよい安定性と制御性で行うことができるようになり、これによって精度がさらに良好になる。
【0068】
好ましくは、結膜の単一領域から複数の画像を取得する。結膜の単一領域から、好ましくは2枚から10枚、より好ましくは5枚の画像を取得する。好ましくは、画像は、保存用のコンピュータに送信される。顕微鏡画像の収集/取得は、人によって行われてもよいし、自動化されてもよい。
【0069】
しかしながら、好ましい実施形態では、顕微鏡画像は前もって取得されており、本方法は、提供された画像の分析を含む。したがって、顕微鏡画像は、必要に応じて、患者から離れた場所でオフラインにて分析されてもよい。ここで、「オフライン」とは、例えば画像収集の完了後に、被験者への顕微鏡の接触または接続が行われないことを意味する。したがって、特定の実施形態では、本発明の方法は、被験者の微小循環をその顕微鏡画像の分析を通じて評価することを含む。改めて、顕微鏡画像は、動画(フィルム)であってもよいし、静止画(動画の静止画像を含む)であってもよい。
【0070】
任意には、顕微鏡画像は、評価前に保存用のコンピュータに送信されるか、または既に送信されている。
【0071】
顕微鏡法によって取得された画像の分析は、所定の基準(例えば、適切な品質を確保するための)に基づいて1枚または複数枚の画像を選択することと、任意に、例えば光の強度、コントラスト、シャープネス、または品質などの1つまたは複数の画像パラメータを調整/最適化することと、任意に、分析を容易にするために画像に一連の平行線を描くこと(以下でさらに説明する)とを含んでいてもよい。画像がフィルムの場合、分析は、フィルムの全てのフレームではなく一部のフレームで毛細血管が見られる場合に備えて、好ましくはフィルムを流しながら行われる。画像の選択、調整/最適化、および画像上の平行線の描画は、手動で行われてもよいし、コンピュータソフトウェアを介して自動化されてもよい。
【0072】
顕微鏡画像の評価およびDRSスペクトルの評価は、人によって、すなわち目視で、行われてもよい。あるいは、1つ(または複数)の評価は、自動化(すなわち、コンピュータによって実行)されてもよく、それによって、各画像/スペクトルは、上記特性を特定するために、例えば従来の認識技術を用いてスキャンされる。自動評価は、本明細書において、視覚的評価ともいう。したがって、パラメータ(i)およびパラメータ(ii)、ならびにパラメータ(a)およびパラメータ(b)は、目視で評価される。その後、各特性の単位面積あたりの値/数が算出されてもよい。CAVMの場合、このような処理は、画像がアップロードされた同じコンピュータによって実行されてもよいし、処理用のコンピュータに画像が送信されてもよい。
【0073】
任意には、画像およびスペクトルの分析は、画像/スペクトルの判定に経験のある個人による何らかのコンピュータ処理および何らかの分析を伴う。
【0074】
毛細血管周囲の出血および/または暗色のハローが存在する場合、患部毛細血管の単位面積あたりの数および/またはその割合が算出されてもよい。
【0075】
FCD
好ましくは、FCDは、「基準線」(または「グリッド線」)1mmあたりの毛細血管交差数として定義される。
【0076】
好ましくは、顕微鏡画像上において、人間のユーザーによって、またはコンピュータソフトウェアを用いて自動的に、対象となる結膜領域内(例えば、角膜縁または眼球結膜)に複数の平行な直線が描画される(すなわち、重ね合わされる、換言すれば、適用される)。平行線(「基準線」または「グリッド線」)は、典型的には、コンピュータソフトウェアを用いて画面上で描画される。好ましくは、平行線の総数は、2本から10本であり、より好ましくは4本から8本であり、より好ましくは5本から7本であり、より好ましくは6本である。平行線は、等間隔である。好ましくは、平行線間の距離は、10μmから200μm、より好ましくは50μmから150μm、より好ましくは約100μmに相当する。見やすくするために画面上で画像を拡大してもよいが、上記の好ましい平行線の間隔は、結膜領域自体において、すなわち、結膜領域の画像が拡大されていない場合に、つまり結膜領域の見かけの大きさと結膜領域の実際の大きさの比が1:1の場合に、好ましい間隔である。
【0077】
好ましくは、当該平行線の全てが、対象となる結膜領域内に描画される。当該線を角膜縁内に描画する場合には、最初に、一本の線を線の長さが角膜の端縁に接するように描画することが重要であり、これによって、角膜と角膜縁との境界が定まる。したがって、好ましくは、角膜縁の顕微鏡画像上において、人間のユーザーによって、またはコンピュータソフトウェアを用いて自動的に、最初の直線を、線の長さが角膜の端縁に接するように、すなわち、この最初の線によって角膜と角膜縁との境界が規定されるように、描画する。本明細書において、この線を「角膜縁-角膜境界線」という。次いで、画像上において、角膜縁の内部に、かつ角膜縁-角膜境界線に平行に、1本または複数の線をさらに描画する。線は、典型的には、コンピュータソフトウェアを用いて画面上で描画される。好ましくは、線は、コンピュータソフトウェアによって自動的に画像上に描画される。好ましくは、描画される平行線の総数は、2本から10本であり、より好ましくは4本から8本であり、より好ましくは5本から7本であり、より好ましくは6本である。平行線は、等間隔である。好ましくは、平行線間の距離は、10μmから200μm、より好ましくは50μmから150μm、最も好ましくは約100μmに相当する。見やすくするために画面上で画像を拡大してもよいが、上記の好ましい平行線の間隔は、角膜縁自体において、すなわち、角膜縁の画像が拡大されていない場合に、つまり角膜縁の見かけの大きさと角膜縁の実際の大きさの比が1:1の場合に、好ましい間隔である。
【0078】
眼球結膜(BC)の場合、類似したアプローチによって、BC内に、4本から8本、例えば6本の水平かつ平行な線が描画される。好ましくは、平行線間の距離は、10μmから200μm、より好ましくは50μmから150μm、最も好ましくは約100μmに相当する。角膜縁とは異なり、BC上の最初の線の描画は、その後の線が全てBC内に含まれるのであれば、BCの特定の領域に描画されなくてもよい。好ましくは、BC上の全ての線は、角膜縁-眼球結膜境界から少なくとも2mm離れて描画される。
【0079】
FCDを求める場合には、好ましくは、直径20ミクロン未満の血管を毛細血管としてカウントする。20ミクロンより大きい血管は、好ましくは分析に含めない。毛細血管密度は、測定された毛細血管に赤血球が含まれていることが観察されるため、「機能的」である。赤血球を含まない血管は、分析に含まれない。そのような血管は、典型的には、どのような場合でも不可視である。角膜縁-角膜境界線を含む、描画された平行線のそれぞれにおいて、機能的な毛細血管が当該線と交差する件数をカウントする。その後、当該線1mmあたりの機能的毛細血管交差数として、機能的毛細血管密度を求める。換言すると、6本の線について、全長をmmで表し、毛細血管の交差総数を得る。これらの合計を用いて、所与の顕微鏡画像における線1mmあたりの機能的毛細血管の交差数を求める。
【0080】
線1mmあたりの機能的毛細血管交差数を単位とするFCDは、人間のユーザーによって手動で、またはコンピュータソフトウェアを用いて、求めることができる。好ましくは、FCDは、当該交差を特定してカウントするコンピュータソフトウェアを用いて、自動的に求められる。
【0081】
FCDは、好ましくは、例えば、少なくとも4回、好ましくは4回から10回、例えば5回の反復測定に基づいて、平均値として提供される。したがって、本発明の方法によれば、別個の画像またはビデオシーケンスをいくつか取得し、それぞれのFCDを求めてから平均を算出する。
【0082】
ビデオ画像が取得された場合、画像シーケンス内の各フレームは、同じ結膜位置を含んでいる。すなわち、画像を取得(記録)している間、顕微鏡は、移動または再配置されない。
【0083】
反復測定を行う場合、すなわち、静止画像またはビデオ画像のいずれかにかかわらず、角膜縁または眼球結膜の画像を複数取得する場合には、1枚の画像を取得した後、次の画像を取得する前に、好ましくは、顕微鏡を同じ対象領域(すなわち、角膜縁または眼球結膜)内の新しい位置に無作為に移動させる。これにより、対象となる結膜領域内の様々な場所で取得した画像についての測定が、確実に行われる。その後、各画像から得た、線1mmあたりの機能的毛細血管交差数を単位とするFCD値を用いて、平均値を生成する。
【0084】
FCDの不均一性は、複数の値/測定値の間で見られる変動を示す。一般的に、より大きな変動は、循環機能の面で悪い徴候であり、不均一性の上昇は、循環不全の早期の警告であったり、疾患によって引き起こされる課題に対応するための微小循環の自然な代償機構の過度な拡張を示していたりする場合がある。代償機構としては、休眠毛細血管の開放、新しい毛細血管の成長、およびCFVの変化がある。
【0085】
対象となる結膜領域内で複数のFCD測定値を取得する方法は、上述されている。
【0086】
不均一性は、好ましくは、同じ対象結膜部位の異なる場所から得られた測定値の変動係数を決定することで求められる(変動係数(CoV)は、標準偏差を平均で割ったものである)。このような測定値は、対象となる結膜領域、例えば角膜縁において無作為に選択された部位の複数画像を分析することによって、最も好都合に提供される。
【0087】
好ましくは、不均一性は、少なくとも4枚の画像、好ましくは5枚から10枚の画像、例えば5枚の画像を分析することに依拠する。
【0088】
Lineら(1992),Microvascular Research,43,285頁~293頁は、(LD血流測定計測値の文脈において)信頼できる平均値と不均質スコアを提供するために必要となるサンプル数が、どのように導出されるかについて記載している。
【0089】
好ましくは、FCDの不均一性は、コンピュータソフトウェアによって自動的に算出される。
【0090】
血液の毛細血管流速(CFV)
CFVは、その名称が示唆するように、毛細血管内における赤血球の流速のことである。CFVは、複数の微小血管のそれぞれについて測定されてもよい。CFVの分析は、流量を評価することができるようにビデオ画像(フィルム)を流しながら分析することを必然的に伴う。
【0091】
いくつかのカテゴリーに基づいて、速度を推定すればよい。例えば、7つのカテゴリーが用いられてもよく、これらは目視で評価されてもよい。0=可視赤血球、流れなし;1=「緩流」(間欠的な低速流);2=「低速流」(連続的な低速流、または間欠的な「流れなし」と高速流):3=連続流;4=高速流(連続的な高速流、または間欠的な低速流と急速流);5=急速流(連続的な急速流);6=不明確(速度決定不可)。
【0092】
急速流は、正常よりも有意に高い流量であって、このような微小血管内の赤血球によって運搬される酸素が、組織に供給可能となるほど長時間微小血管内に留まらないため、灌流が不良になるような、流量に関連する。このような微小血管は、生理学的動静脈シャントとして機能する。
【0093】
CFVは、好ましくは、上述した速度用のフィルム内で特定された毛細血管のそれぞれをスコア化することによって求められる。その後、フィルム内の速度についてのすべての値を合計し値の個数で割ったものとして、所与のフィルムの平均CFVを求めることができる。
【0094】
好ましくは、FCDの測定に関して上述したように特定された各毛細血管の交差において、CFVが測定される。フィルムシーケンス中に速度が変動することが観察された場合、フィルムシーケンスを通しての平均速度が用いられる。
【0095】
FCDと同様に、CFVのスコア化は、人間のユーザーによって手動で求めることもできるし、コンピュータソフトウェアを用いて求めることもできる。好ましくは、毛細血管を特定してCFVのカテゴリーを決定するコンピュータソフトウェアを用いて、自動的に求められる。
【0096】
CFVは、好ましくは、例えば、少なくとも4回、好ましくは4回から10回、例えば5回の反復測定に基づいて、平均値として提供される。したがって、本発明の方法によれば、別個のビデオシーケンスをいくつか取得し、それぞれのCFVを求めてから平均を算出する。
【0097】
画像を取得(記録)している間、顕微鏡は、移動または再配置されない。
【0098】
反復測定を行う場合、すなわち、角膜縁または眼球結膜のビデオを複数取得する場合には、1つのビデオを取得した後、次のビデオを取得する前に、好ましくは、顕微鏡を同じ対象領域(すなわち、角膜縁または眼球結膜)内の新しい位置に無作為に移動させる。これにより、対象となる結膜領域内の様々な場所で取得したビデオについての測定が、確実に行われる。
【0099】
その後、各ビデオの平均CFV値を用いて、全体の平均CFV値を生成する。
【0100】
好ましくは、平均カテゴリー流速を求める。所与の画像セットにおける毛細血管について、次式によって、平均流れカテゴリー速度(MFCV)を求めてもよい
MCFV={Fr(1)×1}+{Fr(2)×2}+{Fr(3)×3}+{Fr(4)×4}+{Fr(5)×5}
ここで、Frは、各流れカテゴリー内の毛細血管の割合を表す。このような計算は、Westerら,(2011)Clinical physiology and functional imaging 31(2):151~158に記載されている。この計算では、カテゴリー0およびカテゴリー6の毛細血管は除外される。
【0101】
あるいは、CFVは、画像/フィルムあたりのCFV中央値として提供されてもよく、上述した反復測定に基づいて、当該中央値の平均が求められてもよい。
【0102】
実際には、カテゴリー0およびカテゴリー3が、観察される血管における最も優勢なカテゴリーであるので、MCFV値の代替として、カテゴリー0に分類される毛細血管の数または割合(割合が高いと、負の徴候である)、あるいはカテゴリー3に分類される数または割合(高いと、正である)によって、毛細血管流速を評価してもよい。
【0103】
改めて、CFVまたはMCFVは、人間のユーザーによって手動で求めることもできるし、コンピュータソフトウェアを用いて求めることもできる。好ましくは、当該交差を特定して流速のスコア化を行うコンピュータソフトウェアを用いて、自動的に求められる。
【0104】
CFVの不均一性は、複数の値/測定値の間で見られる変動を示す。一般に、より大きな変動は、FCDとの関連で上述したように、悪い徴候である。
【0105】
対象となる結膜領域内で複数のCFV測定値を取得する方法は、上述されている。
【0106】
不均一性は、好ましくは、同じ対象結膜部位の異なる場所から得られた測定値の変動係数を決定することで求められる(変動係数(CoV)は、標準偏差を平均で割ったものである)。このような測定値は、対象となる結膜領域、例えば角膜縁において無作為に選択された部位の複数画像(複数フィルム)を分析することによって、最も好都合に提供される。
【0107】
好ましくは、不均一性は、少なくとも4つのフィルム、好ましくは5つから10個のフィルム、例えば5つのフィルムを分析することに依拠する。
【0108】
Lineら(1992),Microvascular Research,43,285頁~293頁は、(LD血流測定計測値の文脈において)信頼できる平均値と不均質スコアを提供するために必要となるサンプル数が、どのように導出されるかについて記載している。
【0109】
あるいは、毛細血管流速の不均一性は、好ましくは次式を用いて算出される
{Fr(0)×3}+{Fr(1)×2}+{Fr(2)×1}+{Fr(3)×0}+{Fr(4)×1}+{Fr(5)×2}
ここで、Frは、各流れカテゴリー内の毛細血管の割合を表す。
【0110】
好ましくは、CFVの不均一性は、コンピュータソフトウェアによって自動的に算出される。
【0111】
DRSおよび酸素飽和度
本方法は、好ましくは、微小血管赤血球の酸素飽和度(SmvO2)と、任意にその不均一性と、を測定することをさらに含む。本発明の方法(実施例で報告されている)がこのパラメータに関して角膜縁とBCとを区別する能力は、非常に有利である。微小循環のこれらのパラメータは、拡散反射分光法(DRS)によって評価される。DRSスペクトルは、微小血管におけるオキシヘモグロビンおよびデオキシヘモグロビンの量に関する情報を与える。この情報は、微小血管内の赤血球の酸素飽和度(SmvO2)を推定するために用いることができる。
【0112】
この評価は、スペクトルを提供するための拡散反射分光計の使用、および/またはDRSによって取得されたスペクトルの使用を含む。
【0113】
一実施形態では、本方法は、ユーザーが、当該スペクトルを能動的に取得/収集することを含む。スペクトルは、好ましくは、DRSプローブ(後述)を眼の結膜(および/または他の組織)に穏やかに適用することによって取得される。好ましくは、対象となる結膜領域内の異なる場所から、複数のスペクトル、好ましくは少なくとも4つのスペクトル、好ましくは5つから15個のスペクトル、例えば10個または12個のスペクトルが取得される。
【0114】
反復測定を行う場合、すなわち、複数のスペクトルを取得する場合には、1つのスペクトルを取得した後、次のスペクトルを取得する前に、好ましくは、DRSプローブを同じ対象領域(すなわち、角膜縁または眼球結膜)内の新しい位置に無作為に移動させる。これにより、対象となる結膜領域内の様々な場所で取得したスペクトルについての測定が、確実に行われる。その後、平均値を取得することができる。
【0115】
好ましくは、スペクトルは、保存用のコンピュータに送信される。スペクトルの収集/取得は、人によって行われてもよいし、自動化されてもよい。
【0116】
しかしながら、好ましい実施形態では、スペクトルは前もって取得されており、本方法は、提供されたスペクトルの分析を含む。したがって、スペクトルは、必要に応じて、患者から離れた場所でオフラインにて分析されてもよい。ここで、「オフライン」とは、例えばスペクトル収集の完了後に、被験者へのDRSプローブの接触または接続が行われないことを意味する。したがって、特定の実施形態では、本発明の方法は、被験者の微小循環をスペクトルの分析を通じて評価することを含む。
【0117】
任意には、スペクトルは、評価前に保存用のコンピュータに送信されるか、または既に送信されている。
【0118】
DRSによって取得されたスペクトルの分析は、所定の基準(例えば、適切な品質を確保するための)に基づいて1つまたは複数のスペクトルを選択することを含んでいてもよい。
【0119】
顕微鏡画像の評価およびDRSスペクトルの評価は、人によって、すなわち目視で、行われてもよい。あるいは、1つ(または複数)の評価は、自動化(すなわち、コンピュータによって実行)されてもよく、それによって、各画像/スペクトルは、上記特性を特定するために、例えば従来の認識技術を用いてスキャンされる。その後、各特性の単位面積あたりの値/数が算出されてもよい。このような処理は、画像/スペクトルがアップロードされた同じコンピュータによって実行されてもよいし、処理用のコンピュータに画像/スペクトルが送信されてもよい。
【0120】
DRS分光法は、被験者の結膜部位に励起/収集プローブを適用することを含む。実際には、これは、最初にプローブを角膜(脈管構造が存在しない)に配置することを含み、これによって、プローブの画面、またはプローブが接続されている画面に、平坦なDRS曲線が表示される。その後、ユーザーは、画面上に特徴的な二隆起曲線信号が表示されるまで、画面を見ながらプローブを横方向に動かす。この時点で、プローブは、結膜と直接接触しており、正確な対象部位から酸素飽和度データを取得することができる。
【0121】
DRSプローブは、i)光源、好ましくはハロゲン光源と、ii)i)の光源が接続された1本または複数本の発光用光ファイバーと、iii)被験者からの反射光を受光するための1本または複数本の別の光ファイバーと、iv)iii)の光ファイバーが接続された分光計と、を含む。
【0122】
オキシヘモグロビンおよびデオキシヘモグロビンによって、特徴的で識別可能なDRSスペクトルピークが得られる。血管のDRS分析によって、オキシヘモグロビンおよびデオキシヘモグロビンの両方が存在することによる複合スペクトルが得られる。被験者の脈管構造のDRS測定で取得されたスペクトルを慣例的に分析することによって、被験者の血液のパーセンテージ酸素飽和度を求めることができる。
【0123】
SmvO2値は、オキシヘモグロビンおよびデオキシヘモグロビンの濃度(O2の分圧)として表されてもよいし、好ましくは評価された領域における血液の「%飽和度」として表されてもよい。
【0124】
好ましくは、結膜の同じ領域において、調査された全てのパラメータが求められる。実際には、1枚(または複数枚)の結膜部位の画像を取得するために顕微鏡が用いられ、当該顕微鏡は、顕微鏡をDRS励起/収集プローブと置き換えることができるように構成された装置足場に取り付けられている。1枚(または複数枚)の顕微鏡画像を取得した後、被験者や足場を移動させることなく、足場内において顕微鏡をDRS励起/収集プローブに置き換える。これにより、DRSプローブは、顕微鏡と全く同じ位置に配置され、1枚(または複数枚)の顕微鏡画像が取得されたのと全く同じ結膜部位において、酸素飽和度を求めることが可能となる。
【0125】
好ましくは、DRSスペクトルが取得される結膜部位の面積は、FCDおよびCFVを分析するための画像を取得するのに用いられた顕微鏡の視野を越えない、またはそのような視野に相当する、面積であり、すなわち、好ましくは面積は1.5mm2以下、好ましくは1mm2以下である。文献には、DRSプローブの測定体積(測定面積ではなく)が記載されているが、DRSプローブの位置決めには、対象となる結膜部位にプローブを配置することが必要とされる。
【0126】
標準的なDRS技術は、典型的には、1mm3よりもはるかに大きい体積を測定することを含み、これにより、評価された部位における細動脈、毛細血管、および細静脈を合わせたSmvO2に関する情報が提供される。本発明の方法では、DRSの測定体積は、1mm3以下、好ましくは約0.1mm3である。結膜においてこのような小さい体積の測定を行うことによって、取得されたSmvO2測定値が、特に結膜毛細血管内のSmvO2を示すことが確実となり、このことは、被験者の微小循環の評価には望ましいことである。一部の信号は、毛細血管ではなく細動脈または細静脈に由来する場合があるが、小さいDRS測定体積を用いることによって、細動脈または細静脈の寄与を最小限に抑えることができる。
【0127】
好ましい実施形態では、微小血管による酸素抽出も求められ、これは、以下のように算出される
動脈血酸素飽和度(SaO2)-SmvO2
動脈血酸素飽和度は、公知の技術であるパルスオキシメトリを用いて適切に測定される。
【0128】
本発明の方法は、SmvO2の不均一性を評価すること、および必要に応じて酸素抽出の不均一性を評価することも含む。SmvO2の不均一性は、好ましくは、複数の異なる結膜位置にわたるSmvO2の変動係数、すなわち、空間不均一性を決定することで求められる。
【0129】
測定体積は、それぞれ1mm3の何分の1かであるため、異なる測定体積からデータを取得するには、プローブを結膜に配置し、プローブを取り外し、プローブを再度結膜に配置して同じ部位において2回目の評価を行えばよい。
【0130】
好ましくは、不均一性は、少なくとも4つのスペクトル、好ましくは5枚から15枚の画像、例えば10個から12個のスペクトルを分析することに依拠する。
【0131】
Lineら(1992),Microvascular Research,43,285頁~293頁は、(LD血流測定計測値の文脈において)信頼できる平均値と不均質スコアを提供するために必要となるサンプル数が、どのように導出されるかについて記載している。
【0132】
好ましくは、SmvO2の不均一性は、コンピュータソフトウェアによって自動的に算出される。
【0133】
したがって、パラメータ(a)、パラメータ(b)、およびパラメータ(d)に応じて求められる不均一性は、複数の値の間で見られる変動を示す。一般的に、より大きな変動は、悪い徴候である。不均一性は、好ましくは、同じ部位における複数の異なる場所にわたる変動係数を決定することで求められる(変動係数(CoV)は、標準偏差を平均で割ったものである)。これらは、対象となる結膜領域、例えば角膜縁において無作為に選択された部位の複数の画像/スペクトルを分析することによって、最も好都合に提供される。好ましくは、不均一性は、少なくとも4枚の画像/スペクトル、好ましくは5枚から10枚の画像/スペクトル、例えば6枚から8枚の画像/スペクトルを分析することに依拠する。
【0134】
顕微鏡法およびDRSによる評価の全ては、リアルタイムで、すなわち、患者がその場にいる状態で行われてもよく、あるいは、場合によっては好ましくは、本発明の方法は、患者から取得されたデータに基づいて行われ、当該患者は、まだモニタリングを受けている状態ではないか、分析を行うためにその場にいる必要はない。これは、本発明の全ての方法に当てはまる。
【0135】
本発明の全ての方法は、好都合には、数時間、数日、または数週間にわたり、1時間またはそれ以上あるいは1日またはそれ以上の間隔を空けて繰り返されてもよい。例えば、個々の被験者は、3回、5回、10回、または20回を越えて評価されてもよく、診断、予後予測を改善するために、または特に治療の有効性を評価するために、傾向分析が行われてもよい。
【0136】
反復測定を行う場合には、疾患の進行をモニターすることができる。新たな治療の開始前後に測定を行う場合、患者に対する新たな治療の効果(例えば、急性心不全の場合には、薬物の効果、または患者に人工心肺(ECMO)を装着する効果)を定量化することができる。これは、臨床医学において有益な手段であり得、「患者に合わせた治療」に用いることができる。新たな治療的介入が、酸素送達(本発明の方法によって求められる)の増加をもたらさない場合、この介入は、所望の効果を発揮せず、停止される場合もある。
【0137】
上記の分析の出力は、求められた特性(i)、特性(ii)、および任意に特性(a)から特性(d)のそれぞれについて、個別の基準を含んでいてもよい。これらについて、コンピュータに関連付けられたモニターへの表示や、プリンタへの送信が行われてもよい。あるいは、微小循環の病変を示す1つまたは複数のスコアを提供するために、出力が組み合わせられてもよい。例えば、個々の特性の加重和または加重平均を求め、上記のように表示してもよい。好ましくは、パラメータのうちのいずれか2つから6つ、任意にはパラメータのうちの6つ全ての加重和または加重平均が比較される。臨床設定および患者の特性によって異なる場合がある各パラメータに適用される重み付けに基づいて単一の出力値を与えるために、アルゴリズムが用いられてもよい。
【0138】
診断用途および予後予測用途
本発明者らは、驚くべきことに、被験者の角膜縁およびBCから、微小循環の分析を通して被験者の健康に関する意味のあるデータを生成するために、顕微鏡を用いることができるということを示した。角膜縁が分析に特に有用な部位であり、結膜の他の領域より優れていること、非侵襲的技術を用いて微小血管/微小循環についての再現可能で信頼できる情報を取得できることは、期待されていなかった。角膜縁は、解剖学的には、結膜またはその一部とは別々のものであると考えてもよいが、本明細書では、便宜上、結膜の一部と見なす場合がある。このような情報によって、診断および予後予測について結論を下すことが可能となる。
【0139】
本発明者らは、角膜縁と任意にBCとにおける微小循環の状態は、病気を診断し治療を最適化しようと努める際に、貴重な洞察を提供するということを認識している。角膜縁における循環不全を、他の方法による現状よりも早い段階で特定/診断することができ、このような感度の向上および循環不全の早期認識により、治療的介入がより早期に行われるようになり、臨床転帰が現在達成されているよりも優れたものとなるであろうと考えられる。
【0140】
またさらなる態様から見ると、本発明は、臨床的に関連のある、例えば診断的または予後予測的に関連のある、被験者についての情報を提供する方法であって、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおける微小循環を、
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または
(ii)毛細血管流速
のパラメータについて評価することを含み、
パラメータ(i)およびパラメータ(ii)は、顕微鏡法で評価される、方法を提供する。
【0141】
臨床的に関連のある情報は、被験者の疾患状態、すなわち、被験者が疾患または病気を患っているか否か、またはどの程度まで罹患しているのかということに関連する。また、特定の治療的介入の影響についての情報が含まれていてもよい。この情報は、被験者の循環系の健康状態に関係する。
【0142】
関連のある疾患または病気としては、評価される被験者の観点から上述されており、
(i)緑内障、湿潤加齢性黄斑変性(湿潤AMD)、翼状片、眼がん、局所炎症、強膜炎/上強膜炎、幹細胞不全、角膜移植不全、円錐角膜眼虚血症候群、前部乏血性視神経症(AION)から選択されることが好ましい眼病、または
(ii)脳卒中、多発性硬化症、または頭蓋内圧上昇から選択されることが好ましい神経病、あるいは
(iii)慢性心不全または急性心不全、敗血症、血液量減少性ショック、微小血管障害を伴う糖尿病、および早産児関連症(prematurity)から選択されることが好ましい全身性循環不全、が挙げられる。
【0143】
本明細書に記載されている全ての疾患および病気は、本発明の方法を用いて診断またはモニターされてもよい。したがって、別の見方をすれば、本発明は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおいて微小循環を評価することを含む、被験者における疾患または病気(本明細書に記載される)を診断またはモニターする方法であって、当該方法は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおいて、
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または
(ii)毛細血管流速(CFV)
のパラメータを評価することを含み、
パラメータ(i)およびパラメータ(ii)は、顕微鏡法で評価される、方法を提供する。
【0144】
「モニターする」とは、例えば、被験者の疾患/病気の進行を、経時的に、あるいは治療もしくは治療計画、環境の変化、または他の変数に応じて、モニターするために、ある期間にわたって評価を行うことを意味する。
【0145】
さらなる態様から見ると、本発明は、被験者における疾患または病気(本明細書に記載される)の重症度を求める方法であって、当該方法は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおいて、
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または
(ii)毛細血管流速(CFV)
のパラメータを評価することを含み、
パラメータ(i)およびパラメータ(ii)は、顕微鏡法で評価される、方法を提供する。
【0146】
これらの態様においては、好ましくは、被験者は、循環不全を患う被験者、または循環不全を患っていることが疑われる被験者である。「循環不全」は、全不全を意味するのではなく、場合によっては、動脈内の赤血球の酸素飽和度が最大であるにもかかわらず、身体の臓器および細胞への酸素送達が不十分であることを意味する。特定またはモニターされる循環不全は、全身的であってもよいし、局所的であってもよい。角膜縁およびBCの検査は、全身の微小循環の良い指標を提供すると考えられる。
【0147】
さらなる態様から見ると、本発明は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおいて微小循環を評価することを含む、疾患または病気(本明細書に記載される)を患う被験者の予後を予測する方法であって、当該方法は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおいて、
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または
(ii)毛細血管流速(CFV)
のパラメータを評価することを含み、
パラメータ(i)およびパラメータ(ii)は、顕微鏡法で評価される、方法を提供する。
【0148】
さらなる態様から見ると、本発明は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおいて微小循環を評価することを含む、循環不全を患う被験者の予後を予測する方法であって、当該方法は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおいて、
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または
(ii)毛細血管流速(CFV)
のパラメータを評価することを含み、
パラメータ(i)およびパラメータ(ii)は、顕微鏡法で評価される、方法を提供する。
【0149】
これらの方法の好ましい実施形態は、本発明の第一の態様、すなわち被験者における循環不全を特定またはモニターする方法に関連して、前述されている。この第一の態様の好ましい実施形態および追加的な特徴、例えば上述した追加的なパラメータ(a)からパラメータ(d)は、後で定義されるこれらの方法に準用される。
【0150】
本発明の方法は全て、1つ(または複数)のパラメータを評価/分析することを含み、その結果、このようなパラメータについての値、すなわち測定値が得られる。これらの値は、分析の結果である。本明細書の他の箇所で挙げられるパラメータの評価は、当該パラメータについての(または、当該パラメータに関連する、または当該パラメータに対応する)値を取得することを含んでいてもよいし、このような値を取得することからなるものであってもよい。各パラメータに対して、単一の値が取得されてもよい。
【0151】
好ましくは、分析結果は、基準値(または「対照値」)と比較することによって定量化される。このような値は、基準被験者(または「対照被験者」)あるいは被験者群に対する対応する検査で取得される値に基づく。本明細書における「基準被験者」または「対照被験者」への言及は、個々の被験者だけでなく、このような被験者からなる群も包含することが意図される。したがって、「基準値」または「対照値」とは、1人(または複数)の基準/対照被験者からなる群、または個々の被験者から取得される1つ(または複数)の値のことをいう。
【0152】
本明細書における実施形態のいずれにおいても、パラメータ「についての」値は、代替的にまたは追加的に、当該パラメータ「に対応する」または当該パラメータ「に関連する」値とすることができる。
【0153】
本発明の方法の被験者、すなわち、データが最終的に当該基準/対象被験者のデータと比較される被験者のことを、「患者被験者」と呼ぶ。
【0154】
したがって、好ましくは、本発明のいずれの方法も、評価されたパラメータの分析結果を、同じパラメータについての基準値/参照値と比較するステップを含む。
【0155】
好ましくは、本発明の方法は、被験者において評価されたパラメータについて取得された値(または、パラメータの測定値)と、対応する健康基準値、健康な対照の値、または被験者のより早い時点における値との間の偏差を求めることを含み、統計的に有意な偏差は、(典型的には)当該被験者の循環不全を示す。
【0156】
基準値または対照値は、基準被験者または対照被験者に対して対応する評価を行うことで取得される。「対応する評価」とは、基準値/対照値が、患者被験者に対するものと同じ手法を用いて、1人(または複数)の基準被験者/対照被験者における同じ結膜部位から取得されるか、または取得されたことを意味する。
【0157】
好ましくは、基準被験者は、「健康基準被験者」である、すなわち、値は、「健康基準値」である。このような場合では、患者被験者および基準被験者からの微小循環パラメータ値に有意な偏差がないこと、好ましくは偏差がないことによって、肯定的な所見(例えば、健康な循環)が示される。偏差、特に有意な偏差は、否定的な所見(例えば、循環不全)を示す。有意であると見なされる偏差を確認するための統計的手法が多く知られている。一般に、健康基準値からの少なくとも10%、20%、30%、または40%の偏差は、有意であり、典型的にはCFを示す。偏差の程度が大きいほど、所見はより否定的となる。一般に、健康基準値から逸脱するパラメータが多いほど、所見はより否定的となる。
【0158】
あるいは、基準被験者は、公知の疾患状態または病気を患う被験者(被験者群)(「病的基準被験者/病的基準値」)であってもよい。疾患/病気は、好ましくは、本明細書の他の箇所に記載されたものから選択される。このような場合では、患者被験者および基準被験者からの微小循環パラメータ値に有意な偏差がないこと、好ましくは偏差がないことによって、否定的な所見(例えば、疾患の存在)が示される。有意な偏差は、肯定的な所見(例えば、疾患が存在しないこと)を示す。偏差の程度が大きいほど、所見はより肯定的となる。偏差の程度が小さいほど、所見はより否定的となる。一般に、病的基準値から逸脱するパラメータが少ないほど、所見はより否定的となる。
【0159】
好ましくは、試験結果は、基準値のデータベース、またはデータベース(すなわち、以前に得られた値)に由来する閾値と比較することができる。あるいは、本発明のいずれの方法も、基準値/対照値を取得するために、パラメータ(a)からパラメータ(f)について基準被験者/対照被験者を評価する能動的なステップを含んでいてもよい。
【0160】
基準値/対照値は、同じ被験者からより早い時点に取得されたものであってもよく、これは、当該被験者における疾患または病気の進行を経時的にモニターする、あるいは治療、環境の変化、またはその他の変数に対する応答をモニターするのに特に役立つ。このアプローチは、治療体制の有効性をモニターすることも可能にする。このような場合では、例えば、治療的介入を評価している場合に、その被験者の過去値/基準値からの偏差が肯定的な結果となる場合がある。
【0161】
したがって、本発明は、被験者に対する治療の効果をモニターする際に有用となり得る情報を取得することにまで及ぶ。典型的には、評価には、介入の前後(任意に介入中も)に評価を行うこと、ならびに取得された結果を相互に比較すること、および/または取得された結果を基準値と比較することが必要とされる。介入の有効性は、通常、正常な微小循環をもたらす能力、または正常な微小循環へと向かわせる能力と正の相関がある。本発明に係る反復評価により、患者に対する特異的療法の効果を評定することができる。
【0162】
したがって、さらなる態様において、本発明は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおいて微小循環を評価することを含む、被験者における治療の有効性をモニターする方法であって、当該方法は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおいて、
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または
(ii)毛細血管流速(CFV)
のパラメータを評価することであって、
パラメータ(i)およびパラメータ(ii)は、顕微鏡法によって評価される、評価することと、
評価の結果を、同じ被験者からより早い時点に取得された、対応する評価の結果と比較することと、を含む方法を提供する。
【0163】
より早い時点とは、治療を開始する前であってもよいし、治療中のより早い時点であってもよい。
【0164】
治療は、治療薬の投与であってもよいし、治療計画の実施であってもよいし、その他の治療ステップであってもよい。
【0165】
今日、治療法の選択のための科学的根拠は、疾患発症機序(病因)の理解とエビデンスに基づく研究の結果とに基づいている。患者のコホートにおいて、二重盲無作為化プラセボ対照試験で治療法Aが治療法Bよりも有効であることを統計的に証明するためには、治療法Aで治療された患者のうちの少数のみが、治療法Bで治療された患者と比較してより良い結果を示せばよい。しかし、治療法Aは、コホートにおける患者の大多数にとって無価値である場合もあれば、一部の患者には有害でさえある場合もある。(治療法の開始前後の反復測定の傾向分析により)治療法の開始後に、身体の細胞への酸素送達が改善したのはどの患者であるかを特定するために、本発明の方法が用いられてもよい。同様に、治療法Aが有害であり治療法Bが有益である患者を特定することが可能になるであろう。本発明は、最適な個別化治療の設計を提供する。このように治療の有効性、すなわち患者における進行を評価した結果、臨床医は、介入を継続するか、中止するか、変更するかを決定してもよい。
【0166】
したがって、適切な治療の選択を改善するため、および/または治療法を指導もしくはモニターするためにこれらの微小血管検査の結果を用いることができる。
【0167】
特定された循環不全のための特異的治療の開始前後に行われる反復評価からの傾向分析を用いて、その治療に対する応答者を特定することができ、非応答者においてその治療を停止することができる。
【0168】
本明細書に記載の本発明の方法は全て、被験者の角膜縁と任意にBCとにおける微小循環を分析するために顕微鏡と任意に分光計とを用いる、評価ステップを含む。これらの評価の結果、任意には基準値との比較を利用して、循環不全および起こり得る臨床転帰についての情報が取得される。このような情報によって、被験者の診断または予後予測が行われてもよいし、このような情報が、被験者の診断または予後予測に寄与してもよい。その結果、特に、治療的介入または治療計画を中止、継続、または変更するように、治療ステップが選ばれてもよい。情報を取得すること、診断または予後予測を行うこと、およびその結果としての治療ステップは、本発明の方法のさらなる実施形態を構成するステップである。
【0169】
したがって、本方法は、好ましくは、当該評価やいずれかの基準値との比較の後、治療的介入または治療計画を開始するか、あるいは対象者が受けている治療的介入または治療計画を中止、継続、または変更するかを決定する、ステップを含む。
【0170】
本方法は、好ましくは、診断を行うステップを含む。診断は、循環不全の診断であってもよい。診断は、本発明の方法の所見に全体的に基づくものであってもよいし、部分的に基づくものであってもよい。例えば、診断は、本発明の方法の評価ステップ、例えば、当該評価で取得された1つ(もしくは複数)のパラメータの値、または当該値と基準値との比較に基づくものであってもよい。診断は、前述の評価、1つ(もしくは複数)の値、および/または比較から導出された徴候(例えば、循環不全の徴候)に基づいて行うことができる。換言すると、前述の評価、1つ(もしくは複数)の値、および/または比較から疾患(例えば、循環不全)が示された場合に、当該疾患と診断されてもよい。
【0171】
本方法は、好ましくは、当該評価やいずれかの基準値との比較、ならびに/または診断の後、治療的介入または治療計画を開始するか、あるいは対象者が受けている治療的介入または治療計画を中止、継続、または変更する、ステップを含む。
【0172】
上述したように、角膜縁と任意にBCとにおける酸素飽和度に関する情報によって、被験者において、微小循環ならびに全身循環健康状態および関連疾患についての洞察を得ることができる。さらなる態様において、本発明は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおいて微小循環を評価することを含む、被験者における循環不全を特定またはモニターする方法であって、当該方法は、被験者の角膜縁と任意に眼球結膜とにおいて、
(c)微小血管赤血球の酸素飽和度(SmvO2)、および任意に
(d)角膜縁におけるSmvO2の不均一性
のパラメータを評価することを含む、方法を提供する。
【0173】
パラメータ(c)およびパラメータ(d)は、パラメータ(i)およびパラメータ(ii)の一方または両方(できれば両方)と、任意にパラメータ(a)およびパラメータ(b)と一緒に評価されてもよい。
【0174】
パラメータ(i)およびパラメータ(ii)を評価する方法に関連して上述した他の方法(例えば、予後予測)および好ましい特徴は、本発明のこの態様に準用される。
【0175】
本発明は、本明細書に記載の方法を実施するための装置にも及ぶ。したがって、さらなる態様から見ると、顕微鏡と、任意に分光計と、コンピュータとを含む、被験者の角膜縁における微小循環を評価するための装置であって、コンピュータは、顕微鏡を用いて取得された微小循環の画像を1枚(または複数枚)と任意に分光計からのSmvO2に関連するデータとを受信するように、また任意に病変に関係する特性/パラメータを同定および/または決定するために画像およびデータを処理するようになっており(すなわち、そのように構成されており)、画像およびデータは、
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または
(ii)毛細血管流速
のパラメータと、任意に
(a)FCDの不均一性、
(b)CFVの不均一性、
(c)微小血管赤血球の酸素飽和度(SmvO2)、および
(d)SmvO2の不均一性
のうちの1つまたは複数のパラメータと、に関連する、装置が提供される。
【0176】
好ましくは、装置は、被験者の別の結膜領域、好ましくは眼球結膜における微小循環を評価するためのものでもある。
【0177】
収集されたフレーム/フィルムおよび分光計の曲線を分析するためのソフトウェアを、同じコンピュータにインストールすることができるが、収集されたファイルを別のコンピュータに転送した後、この異なるコンピュータ上で分析を行ってもよい。第1のコンピュータ(受信用コンピュータ)には、DRSファイルおよびCAVMファイルの両方をリアルタイム分析するためのソフトウェアをインストールすることができる。好ましくは、一般開業医(GP)から血液サンプルを受け取る専門の生化学研究所と全く同じように、別のコンピュータ(処理用コンピュータ)上でオフライン分析が行われる。
【0178】
顕微鏡は、好ましくは、角膜縁と任意に被験者の結膜の他の部分、好ましくは眼球結膜とから1枚(または複数枚)の画像を取得するために用いられ、その後、処理ステップの前にそこから取り外される。同様に、分光計に取り付けられたプローブが、任意には、角膜縁と任意に被験者の結膜の他の部分、好ましくは眼球結膜とにおいて用いられ、その後、処理ステップの前にそこから取り外される。
【0179】
実際のところ、本発明のさらなる態様は、以前に取得されたデータを処理するための装置に関する。したがって、またさらなる態様から見ると、顕微鏡を用いて取得された被験者の角膜縁の微小循環の画像を1枚(または複数枚)と任意に分光計からのSmvO2に関連するデータとを受信するように、また病変に関係する特性/パラメータを同定および/または決定するために画像およびデータを処理するようになっている(すなわち、そのように構成されている)コンピュータを含む、被験者の角膜縁における微小循環を評価するための装置であって、画像およびデータは、
(i)機能的毛細血管密度(FCD)、および/または
(ii)毛細血管流速
のパラメータと、任意に
(a)FCDの不均一性、
(b)CFVの不均一性、
(c)微小血管赤血球の酸素飽和度(SmvO2)、および
(d)SmvO2の不均一性
のうちの1つまたは複数のパラメータと、に関連する、装置が提供される。
【0180】
好ましくは、装置は、被験者の別の結膜領域、好ましくは眼球結膜における微小循環を評価するためのものでもあり、顕微鏡を用いて取得された被験者の他の結膜領域、好ましくは眼球結膜における微小循環の画像を1枚(または複数枚)と任意に分光計からのSmvO2に関連するデータとを受信するように、また病変に関係する特性/パラメータを同定および/または決定するために画像およびデータを処理するようになっている(すなわち、そのように構成されている)コンピュータを含む。
【0181】
装置は、好ましくは、特性/パラメータに対応する値、および/または加重和または加重平均などのそれらの組み合わせに基づく値を出力するための手段をさらに含む。このような値は、微小血管病変スコアと見なしてもよい。本明細書で定義されるパラメータのそれぞれを重み付けするように生データを処理するためにアルゴリズムを用いることができ、重みは、異なる患者のコホート用、例えば、低出生体重児または満期新生児用に、最適化されていてもよい。アルゴリズムの出力値は、典型的には、加重和または平均に対応する。
【0182】
本発明はまた、データ記憶媒体上の有形の形式またはネットワーク経由でダウンロード可能な形式のいずれかにかかわらず、上記の処理ステップおよび/または出力ステップをコンピュータに実行させるための命令を含む、ソフトウェアにも及ぶ。
【0183】
本発明は、さらに、角膜縁における被験者の微小循環と好ましくはさらに当該被験者の眼球結膜における微小循環とを評価するための、また、臨床的に関連のある、例えば診断的に関連のある、被験者についての情報の提供、被験者の診断、被験者における疾患もしくは病気の重症度の決定、疾患もしくは病気を患う被験者の予後予測、および/または被験者における治療の有効性のモニタリングを、そのような評価/測定値に基づいて行うための、このような装置および/またはこのようなソフトウェアの使用にも及ぶ。
【0184】
さらなる態様において、本発明は、本明細書の他の箇所に記載の方法(または方法ステップ)のいずれかを行う、コンピュータにより実施される方法を提供する。したがって、本明細書の他の箇所に記載の方法(または方法ステップ)はいずれも、コンピュータにより実施されるものであってもよい(すなわち、コンピュータで実施されてもよく、コンピュータを用いて実行されてもよく、コンピュータで行われてもよく、コンピュータを用いて行われてもよい)。
【0185】
以下の非限定の図面および実施例を参照して、さらに本発明をより詳細に説明する。
【0186】
図1は、顕微鏡画像を示す。
図1(a):角膜縁由来のフレーム。左上隅に無血管角膜が見られる。
図1(b):眼球結膜由来のフレーム。
図1(a)および
図1(b)において、ボックスは、6本の平行線と交差する毛細血管を同定したものである。各ボックス横の数字は、毛細血管流速カテゴリーを表す。20ミクロンより大きい血管は、分析に含まれない。両方のフレームに見られる黒い点(*)は、メラニン凝集体である。
【0187】
図2は、オスロ大学病院(
図2(a))およびクリーブランドクリニック(
図2(b))での角膜縁および眼球結膜における機能的毛細血管密度を示す。
【0188】
図3は、角膜縁および眼球結膜における毛細血管流速分布を示す(クリーブランドクリニックの記録)。
【0189】
図4は、オスロ大学病院およびクリーブランドクリニックからの結膜微小血管酸素飽和度データを示す。
【0190】
図5は、循環系の健康状態が徐々に悪化する子ブタ(拍動流ポンプを装着した子ブタ)および循環系の健康状態がより急速に悪化する子ブタ(連続流ポンプを装着した子ブタ)の角膜縁(
図5(a))および球(
図5B)における、ベースライン、3時間、および6時間での機能的毛細血管密度(FCD)を示す。
【0191】
図6(a)は、角膜縁(パネルAからパネルD)および、
図6(b)は、球(パネルEからパネルH)における毛細血管流速パターンを示す。ドットは、ベースライン、3時間、および6時間での各ポンプのすべての記録の百分率を表し、傾向を視覚化するために線で接続されている。PF=拍動流、CF=連続流。
【0192】
図7は、循環系の健康状態が徐々に悪化する子ブタモデル(拍動流ポンプを装着した子ブタ)および循環系の健康状態がより急速に悪化する子ブタモデル(連続流ポンプを装着した子ブタ)における微小血管酸素飽和度(SmvO
2)の測定値を示す。
【0193】
図8は、実施例3における分析中のヒト被験者の角膜縁(a)および眼球結膜(b)由来のフレームを示す。
【0194】
図9は、健康なヒト被験者の角膜縁および眼球結膜において測定された眼表面機能的毛細血管密度を示す。各ドットは、1人のボランティアからの有効な記録の平均を表す。水平線は、各データセットの平均を表す。
【0195】
図10は、健康なヒト被験者の角膜縁および眼球結膜において測定された眼表面毛細血管流速を示す。各ドットは、1人のボランティアからの有効な記録の平均を表す。水平線は、各データセットの平均を表す。
【0196】
図11は、健康なヒト被験者の角膜縁および眼球結膜において測定された眼表面毛細血管酸素飽和度を示す。各ドットは、一個人の記録内の平均値を表す。水平線は、各データセットの平均を表す。
【0197】
実施例
略語
CF 連続流
PF 拍動流
CPB 心肺バイパス
ECMO 体外式膜型人工肺
PP 灌流圧
VR 血管抵抗
CFV 毛細血管流速
FCD 機能的毛細血管密度
ODIN 酸素送達指数
SmvO2 微小血管酸素飽和度
CC クリーブランドクリニック
OUH オスロ大学病院。
【0198】
実施例1-子ブタを用いた角膜縁および眼球結膜の評価試験。
【0199】
材料および方法。
【0200】
試験対象母集団
共通の研究対象を用いて、2つの研究所、すなわちノルウェーのオスロ大学病院(OUH)および米国のクリーブランドクリニック(CC)において実験を行った。ノルウェー産ランドレース種の雌雄の子ブタ5頭(30±3kg)(OUH)およびヨークシャー種の雌の子ブタ8頭(44±4kg)(CC)の結膜微小循環を記録した。OUHでの研究は、ノルウェー食糧安全保障庁(FOTS、id:6689)によって承認された。CCにおいては、動物実験委員会(試験番号2016-1659)によって試験プロトコルが承認された。動物は、実験動物の管理と使用に関する指針および施設のガイドラインに従って、人道的な世話を受けた。
【0201】
微小血管検査用装置
どちらの試験施設も、デジタルビデオ顕微鏡、分光器、および特注のソフトウェアを備えたコンピュータを含む移動式微小血管実験室(mLab、バージョンα1、ODIメディカルAS、オスロ、ノルウェー)を用いた。
【0202】
デジタル顕微鏡法
レンズの倍率が300倍、画像解像度が1920×1080ピクセル、視野が1.13mm×0.7mm、フレームレートが1秒あたり7フレームである携帯型デジタルビデオ顕微鏡(オプティリア(Optilia)、D1、インストゥルメンツAB、ソレンツナ、スウェーデン)を用いて、結膜を20秒間記録した。
【0203】
1人のオペレーター(AKK)が、オフラインで分析を行った(EyeSoftバージョン1.0、ODI)。光の強度、コントラスト、および色調を調整することで、画質を最適化した。角膜縁の記録では、角膜の端縁に触れる線がオペレーターによって作成された。さらに、100μmずつ離れた5本の平行線が、ソフトウェアによって角膜から離れていくように作成された(
図1(a))。眼球結膜由来のフィルムにおいては、100μmずつ離れた6本の水平線を描画した(
図1(b))。
【0204】
線と交差する赤血球含有毛細血管(20μm未満の血管)を同定し、手動でマーキングした。空の毛細血管は、顕微鏡では見られない。FCDについては、毛細血管交差/線1mm(c/mm)で表した。
【0205】
CCでの系列では、各毛細血管交差におけるCFVを、6つのカテゴリーの速度スケールに従って求めた(表1)。フィルムシーケンス中に速度が変動した場合、フィルムを通しての平均速度を用いた。データについては、各血流カテゴリーにおける毛細血管の割合として表した。
【0206】
分光法
本試験で用いた拡散反射分光法(DRS)システムの測定体積は、0.1mm3の範囲である(Sundheimら,2017)。スペクトル範囲が450nmから800nmであるハロゲン光源(AvaLight-HAL、アヴァンテス社(Avantes)、アペルドールン、オランダ)と、6本の発光用400μmファイバーおよび1本の受光用400μmファイバーを有する測定プローブ(FCR-7uv400-2.3-bx、アヴァンテス社)とを、分光計(AvaSpec-2048-2、アヴァンテス社)に接続した。各測定セットの前後に、プローブをポリテトラフルオレチレン製白色タイル(WS-2、アヴァンテス社)に対して保持することで校正を行った。
【0207】
DRSスペクトル分析は、組織内の光の伝播を算出する単純化された組織モデルを用いて、Farrellのアプローチ(Farrellら,1992)およびJacquesのアプローチ(Jacques,2013)を用いて行われた。Python/MATLABに実装されたモデルでは、組織用の一連の初期伝播パラメータから始めて、スペクトルを生成し、取得したDRSと比較して、データに最も適合する最適な伝播パラメータを算出した。最後に、オキシヘモグロビンおよびデオキシヘモグロビンの濃度を算出した。
【0208】
パルスオキシメトリ
動脈血酸素飽和度は、尾部に装着されたパルスオキシメーター(OUH:Capnostream 20p、オリディオンメディカル社(Oridion Medical)、イスラエル)または耳に装着されたパルスオキシメーター(CC:Aisys CS2、GEヘルスケア社(GE Healthcare)、イリノイ、米国)によってモニターされた。
【0209】
検査法
本試験では、角膜縁は、眼の表面において透明な角膜と不透明で血管が形成されている結膜組織とが融合している箇所のことをいう。角膜縁は、角膜(すなわち、角膜と角膜縁との境界)から1mm未満の領域である。眼球結膜については、角膜(すなわち、角膜と角膜縁との境界)から少なくとも2mm離れて位置する結膜組織と定義した。
【0210】
どちらの試験施設においても、全身麻酔後および他の計画された実験の前に、左眼から結膜微小血管ベースラインデータを収集した。
【0211】
OUHでは、試験の3日から6日前に、水と食料を自由に利用できる個室で子ブタを馴致した。ナルケタン/ケタミン(11/33mg/kg)を首の筋肉内に注射することによって、子ブタを鎮静化した。フェンタニル(30μg/kg/hから100μg/kg/h)およびプロポフォール(12mg/kg/hから20mg/kg/h)を注射することによって、全身麻酔を誘導した。子ブタを仰臥位で固定し、経口気管挿管を行った。全身麻酔で安定したら、気管切開を行い、気管内挿入管を挿入した。点滴および血液サンプル用の静脈アクセスを、頸静脈内のカテーテルにより確保した。総頚動脈内のカテーテルを、血圧のモニタリングおよび血液ガス分析のためのサンプリングに用いた。膀胱に外科的に挿入したカテーテルによって、尿量および体温を測定した。手術後、データ取得の前に、右側を下にして動物を載置した。全ての実験が終了すると、塩化カリウムのIV注射によって動物を安楽死させた。
【0212】
CCでは、試験前に少なくとも3日間、動物を隔離し、モニターした。各子ブタは、手術の前に12時間絶食した。前投薬として、キシラジン(2mg/kg、IM)およびケタミン(20mg/kg、IM)を投与した。プロポフォール(1mg/kg、IV)またはブプレノルフィン(0.05mg/kg、IV)によって全身麻酔を誘導した。子ブタに気管内挿入管を装着し、イソフルランガス(1.0%から3.0%)によって麻酔を維持した。体温については、直腸体温計(Aisys CS2 GEヘルスケア社、イリノイ、米国)でモニターした。動物を仰臥位で載置し、その後、心室性不整脈を予防するためにリドカイン(最大2mg/kg/h IV)を投与した。試験の最後に、動物をヘパリン処置(500U/mg)し、イソフルラン(5%)による深麻酔下で塩化カリウム(2.5mEq/kgから3.5mEq/kg、IV)を投与して殺処分した。
【0213】
結膜微小血管測定
2つの試験施設において、同じプロトコルを用いてデータを取得した。顕微鏡法によるフィルムを、次の2つの部位で記録した。1つは角膜縁(角膜から1mm未満、すなわち、一部のフレームで見られる角膜)であり、もう1つは眼球結膜(角膜から2mmを越えて離れている)である。記録を行う前に、アイソトーン食塩水を眼に塗布した。いずれの部位においても、少なくとも4つのフィルムシーケンスを記録した。結膜からDRSスペクトルを収集した。
【0214】
統計
機能的毛細血管密度およびSmvO2の結果を平均±標準偏差として表し、箱ひげ図として表示する。角膜縁のFCDと眼球結膜のFCDとを比較し、有意水準を5%とする独立したサンプルのt-検定を用いた。CFVデータを四分位数範囲の中央値として表し、ヒストグラムで表示する。マン・ホイットニU検定を用いて角膜縁のCFVデータと球のCFVデータとを比較した。統計分析については、SPSSバージョン25(SPSS社、シカゴ、イリノイ、米国)によって行った。
【0215】
結果。
【0216】
OUHおよびCCのいずれにおいても、すべての子ブタから顕微鏡法によるフィルムおよびDRSスペクトルを取得することができた。データ収集中に有害事象は記録されなかった。
【0217】
機能的毛細血管密度(FCD)
119個のフィルムを記録したが、そのうちの47個は画質が劣っており、分析から除外された。3,422本の毛細血管を分析した(表2)。いずれの試験施設においても、FCDは、眼球結膜と比較して角膜縁においてより高かった(OUH:18.1±2.9c/mm対12.2±2.9c/mm、p<0.01、CC:11.3±3.0c/mm対7.1±2.8c/mm、p<0.01)(
図2)。
【0218】
毛細血管流速(CFV)
最も顕著な血流カテゴリーは、角膜縁では0(流れなし)であり、眼球結膜においては3(連続流)であった(
図3)。中央カテゴリーCFVは、角膜縁における記録と比較して眼球結膜における記録においてより高かった(CC:3(1から3)対1(0から3)、p<0.01)。
【0219】
微小血管酸素飽和度(SmvO
2
)
いずれの試験施設においても、全ての子ブタは、パルスオキシメトリによって評価された動脈血酸素飽和度が95%以上であった。DRSスペクトルについては、オスロでは29個、クリーブランドでは91個を分析した(
図4)。いずれの試験施設においても、平均微小血管酸素飽和度は高かった(OUH:88±5.9%、CC:94±7.5%)。
【0220】
【0221】
【0222】
考察
本試験によって、非侵襲的なデジタルビデオ顕微鏡法および拡散反射分光法を結膜微小循環のデータを取得するために用いることができることが示された。子ブタモデルでは、本発明の方法によって測定した場合、角膜縁での結膜微小循環が、眼球結膜と比較してより大きな酸素送達能を有することが、2つの独立した施設において見出された。
【0223】
結膜は、全身的または局所的な眼循環不全(例えば、緑内障、糖尿病、および虚血など)の患者における検査の窓を提供する。眼科においては、眼表面傷害を定量化し、治療の選択肢を導き、治癒の可能性を予測するために、本発明の方法を用いることができるであろう。網膜および眼球結膜が同じ胎生外胚葉起源および血管供給を共有していると仮定すると、結膜の微小循環は、全身性循環不全および脳病変(例えば、虚血性脳卒中や高頭蓋内圧)の両方を患う患者の中枢神経系の微小循環を反映している可能性もある。
【0224】
本試験では、球の記録と比較して、角膜縁の記録においてFCDがより高かった。OUHの子ブタの球におけるFCDが12.2±2.9c/mmであることは、同品種の子ブタの鼠径部皮膚において報告されている10.4c/mmおよび13.2c/mmという知見と同等である。本試験で報告されたFCDの結果は、新生児の手の皮膚(12.4±1.6c/mm)および胸部(10.7±1.6c/mm)の結果とも同じ範囲内である。
【0225】
いずれの試験施設においても2つの結膜領域間で差が見られたが、このことは、本方法によると、球と比べて、角膜縁においてより高い代謝率を検出できるということを支持するものである。
【0226】
参考文献
Farrell, T.J., Patterson, M.S., Wilson, B., 1992. A diffusion theory model of spatially resolved, steady-state diffuse reflectance for the noninvasive determination of tissue optical properties in vivo. Medical physics 19, 879-888.
Jacques, S.L., 2013. Optical properties of biological tissues: a review. Physics in medicine and biology 58, R37-61.
Sundheim, L.K., Sporastoyl, A.H., Wester, T., Salerud, G., Kvernebo, K., 2017. Acute skin trauma induces hyperemia, but superficial papillary nutritive perfusion remains unchanged. Microcirculation (New York, N.Y. : 1994) 24。
【0227】
実施例2-循環系の健康状態が徐々に悪化する子ブタ(PFポンプを装着した子ブタ)または循環系の健康状態がより急速に悪化する子ブタ(CFポンプを装着した子ブタ)の結膜微小循環を本発明の分析方法を用いてモニタリングする試験。
【0228】
材料および方法。
【0229】
睡眠中の子ブタにおいて、角膜縁および眼球結膜における微小循環機能に及ぼす6時間の連続流(CF)および拍動流(PF)の心肺バイパス(CPB)の影響を試験した。拍動流は、連続流よりも正常な循環に近いものであるが、このタイプのポンプを装着された動物は、それでも正常/健康ではなく、時間の経過と共に循環障害の症状を示す傾向がある(例えば、ブタに対するこの療法は、昏睡状態を誘発し、微小血管の灌流に影響を及ぼす場合がある)。
【0230】
試験対象母集団
8頭の健康な雌のヨークシャー種の子ブタ(44±4kg)を試験した。そのうちの5頭には、PFポンプ(VentriFlo True Pulse Pump(登録商標)、デザインメンター社(Design Mentor Inc.)、ペラム、ニューハンプシャー、米国)を装着し、3頭には、CFポンプ(Roatflow(登録商標)、マッケホールディング(Maquet Holding)B.V.&Co.KG、ラシュタット、ドイツ)を装着した。試験プロトコル(番号2016-1659)は、クリーブランドクリニックにおいて動物実験委員会によって承認された。子ブタは、実験動物の管理と使用に関する指針および施設のガイドラインに従って、人道的な世話を受けた。
【0231】
方法
コンピュータ援用ビデオ顕微鏡法(CAVM)および拡散反射分光法(DRS)を用いて、結膜の2つの場所、角膜縁および眼球結膜から、小組織体積(約0.1mm3)における微小血管データを記録した。
【0232】
コンピュータ援用ビデオ顕微鏡法
オートフォーカスであり、視野が1.13mm×0.7mm、フレームレートが1秒あたり7フレーム、画像解像度が1920×1080ピクセルであるデジタル顕微鏡(オプティリア、D1、インストゥルメンツAB、ソレンツナ、スウェーデン)に取り付けた倍率が300倍のレンズによって、20秒間、フィルムを記録した。特注のソフトウェア(EyeSoftバージョン1.0、ODIメディカル社、オスロ、ノルウェー)を用いて、オフラインでフィルム分析を行った。100μmずつ離れた6本の平行線と交差する毛細血管(20μm未満の可視血管と定義される)を同定した。機能的毛細血管密度(FCD)は、毛細血管交差/線1mmで表した。各交差における毛細血管流速(CFV)は、カテゴリー0(流れなし)からカテゴリー5(急速流)までの6つのカテゴリーの速度スケールに従って求めた(カテゴリー0からカテゴリー5は、表1で定義されているカテゴリー0からカテゴリー5と同じである)。
【0233】
拡散反射分光法(DRS)
スペクトル範囲が450nmから800nmであるタングステンハロゲン光源(AvaLight-HAL、アペルドールン、オランダ)を備えた分光計(AvaSpec-2048-2、アペルドールン、オランダ)を用いて、微小血管酸素飽和度(SmvO2)を検査した。各記録セットの前に、ポリテトラフルオレチレン製白色タイル(WS-2、アヴァンテス社、オランダ)に対して光ファイバープローブを校正した。SmvO2を計算するための特注のアルゴリズム(EyeSoftバージョン1.0、ODIメディカル社)によって、DRSスペクトルを分析した。
【0234】
検査法
米国オハイオのクリーブランドクリニックにおいて、子ブタは、少なくとも3日間、実験室施設において隔離、モニターされ、手術の前に12時間絶食した。バイタルサイン(呼吸数、食欲、全身状態)をモニターした。キシラジン(2mg/kg、筋肉内(IM))およびケタミン(20mg/kg、IM)を前投薬として投与した。プロポフォール(1mg/kg、静脈内(IV))またはブプレノルフィン(0.05mg/kg、IV)によって麻酔を誘導し、実験を通して揮発投与(イソフルラン、1.0%から3.0%)によりこれを維持した。
【0235】
四肢、首、鼠径部、および胸部に心電図のリードを装着して仰臥位固定を行い、開胸手術に備えた。心室性不整脈を予防するためにリドカイン(2mg/kg/h未満 IV)を投与した。頸動脈に動脈モニタリング用ラインを挿入し、頸静脈に静脈圧用ラインを挿入した。胸骨正中切開後に心膜を開いた。肺動脈流プローブによって心拍出量を測定した。カニューレを、右心耳を通して上行大動脈(22Fr EOPA(登録商標)[細長い一体型]動脈カニューレ、メドトロニックパーフュージョンシステム社(Medtronic Perfusion Systems)、ミネアポリス、ミネソタ、または、21Fr動脈カニューレ、エドワーズライフサイエンス社(Edwards Lifesciences)、アーヴァイン、カリフォルニア)および下大静脈(34-46Frまたは29-37Fr MC2二段カニューレ、メドトロニックパーフュージョンシステム社、ブルックリンパーク、ミネソタ)に挿入した。左心房または左心室に挿入された通気管により、血液の排出を防いだ。肺動脈流を0L/分で維持した。
【0236】
ヘパリン投与(500IU/kg、IV)後に活性凝固時間が450秒を超過した場合には、PF(VentriFlo True Pulse Pump(登録商標))またはCF(Roatflow(登録商標))のいずれかを装着したCPBを、50ml/kg/分の流量で固定し、6時間維持した。Quadrox(マッケホールディングB.V.&Co.KG、ラシュタット、ドイツ)、Affinity Fusion(メドトロニック社、ミネソタ、米国)、またはCapiox(テルモカルディオバスキュラーシステム社、東京、日本)の人工肺を循環系において用いた。6時間のCPB中、血管作用薬は投与しなかった。動脈血ガスサンプルを1時間ごとに採取した。
【0237】
深麻酔下(イソフルラン 5%)で6時間CPBを行った後、子ブタにヘパリン(500U/mg)を追加投与し、致死量の塩化カリウム(2.5mEq/kgから3.5mEq/kg、iv)により殺処分した。
【0238】
記録手順
測定中、左眼のまぶたは、縫合糸によって後退させられ、記録の合間には閉じられた。測定と測定の間に結膜表面を湿潤に保つために、生理食塩水を塗布した。ベースライン、3時間、および6時間において、角膜縁および眼球結膜から20秒のフィルムシーケンスを少なくとも4つ記録した。結膜からDRSスペクトルを収集した。異なる測定体積をキャプチャするために、各記録の間に、装置をわずかに移動させた。
【0239】
データ収集中、記録された各ファイルについて、コードを用いてラベル付けした。分析者には、心臓ポンプの種類および記録時間が分からないようにした。統計分析の前に、子ブタ、ポンプの種類、および時間の識別情報を分析者に明らかにした。
【0240】
分析された毛細血管の数および位置ならびに光学スペクトルの概要を表3に示す。
【0241】
【0242】
統計
連続変数は、平均±標準偏差として表され、中央値、第25百分位数、第75百分位数、範囲、および外れ値を有する箱ひげ図として表示される。2つの心臓ポンプ間で結膜微小血管変数を比較し、独立したサンプルのt-検定を用いた。CFVパラメータのための速度カテゴリーの比較は、カイ二乗検定を用いて行い、p<0.05を統計的有意であると見なした。統計分析については、SPSSバージョン26(SPSS社、シカゴ、イリノイ、米国)によって行った。
【0243】
結果。
【0244】
機能的毛細血管密度
ベースラインでは、すべての子ブタのFCDは、球(7.1±2.8)と比較して角膜縁(11.3±3.0)においてより高く、p<0.01であった。
【0245】
偶然にも、CFに(無作為に)割り当てられた子ブタは、PFに割り当てられた子ブタと比較して、角膜縁におけるベースラインでのFCDが高かった(
図5(a))。理論的には、いずれの子ブタ群も、ベースライン(ポンプ装着時間=0)では循環系の健康状態は同じはずである。どのような場合でも、3時間および6時間後には、CF子ブタのFCDは、試験を通してFCDが安定していたPF子ブタと同等のレベルにまで低下した。
【0246】
球では、両ポンプともベースラインから3時間までFCDは変化しなかったが、6時間後には、CF子ブタにおける球のFCDは、ベースライン記録と比較して、またPF子ブタと比較して、増加した(
図5(b))。
【0247】
毛細血管流速
カテゴリー0(流れなし)およびカテゴリー3(連続流速)が測定値の55%から87%を占めていた。カテゴリー4(高速流)は、ほとんど観察されず(測定値の4%未満)、カテゴリー5(急速流)は、観察されなかった。
【0248】
角膜縁の記録では、PF子ブタについては、6時間の実験中にカテゴリー0が減少し、カテゴリー3が増加した(
図6A(a)および
図6A(c))。CF子ブタでは、逆のCFVパターンが見られた。(
図6A(b)および
図6A(d))。
【0249】
球では、PFの子ブタは、CF子ブタと比較してベースラインでの速度が速かった(
図6B(e)から
図6B(h))。実験中、ポンプに関係なく、球のカテゴリー3が減少し、カテゴリー0が増加した。
【0250】
拡散反射分光法
すべての子ブタにおいて、実験を通して、99%以上の安定した動脈血酸素飽和度が維持された。DRSプローブの位置決めは、角膜縁の記録と球の記録を区別するには精度が十分ではなかった。一緒にまとめたSmvO
2の結果は、いずれのポンプの場合でも経時的に低下した。実験中はSaO
2値が安定していたため、酸素抽出(SaO
2-SmvO
2)は、3時間後に上昇し、6時間後にはさらに上昇した(
図7)。いかなる時点においても、二つの群間に差はなかった。
【0251】
考察
本試験で用いられた技術、データ取得プロトコル、および分析プラットフォームは、子ブタにおける結膜微小血管機能を特徴付けるのに十分な感度である。その結果、6時間の実験中のすべての測定パラメータ(FCD、CFV、およびSmvO2)の差が示され、さらには、循環系の健康状態が徐々に悪化する子ブタ(PFポンプが装着された子ブタ)および循環系の健康状態がより急速に悪化する子ブタ(CFポンプが装着された子ブタ)からのCFVの結果およびFCDの結果の差が示される。
【0252】
毛細血管からの酸素送達は、ヒト細胞の生命にとって不可欠であり、いくつかの因子間の相互作用に依存している。一連の複雑な生理学的機構(反射作用)によって微小血管の血行動態が調節され、ごくわずかなエネルギー使用により酸素送達を最適化する。結膜において、この調節系の重要な機能は、角膜縁幹細胞へのO2の送達を維持することである。
【0253】
個々の毛細血管における流れおよび流速は、他の血管と同様に、灌流圧(PP)および血管抵抗(VR)によって調節され、CFV=PP/VRである。この実験中、輸液の注入により動脈圧と静脈圧を安定化した(すなわち、安定したPPが維持された)。
【0254】
PF子ブタにおける角膜縁では、CFVは、カテゴリー3の割合が上昇しカテゴリー0が低下しつつ、経時的に上昇した(
図6A(a)および
図6A(c))。CF子ブタでは、逆の傾向が観察された(
図6A(b)および
図A(d))。
【0255】
角膜縁は、多数の幹細胞から角膜細胞を産生することに伴って代謝速度が高い結膜領域である。対照的に、眼球結膜では、幹細胞がほとんどなくて代謝速度が低く、微小血管血流は、角膜縁へのO
2送達を行うための血液の輸送機能をより多く担う。角膜縁におけるより高いO
2送達は、球の記録と比較して角膜縁の記録においてFCDがより高いことに反映される(
図5)。角膜縁におけるベースラインでの可視毛細血管の数は、循環系の健康状態が徐々に悪化する子ブタ(PFポンプが装着された子ブタ)と比較して、循環系の健康状態が急速に悪化する子ブタ(CFポンプが装着された子ブタ)においてより多かった(
図5)が、角膜縁において、ポンプを装着した次の6時間では2つの群の間の変化は見られなかった。球では、6時間後にCF子ブタで上昇が見られるまで、両群のFCDは同様であった(
図5(b))。このような毛細血管の漸増は、前記CF子ブタにおけるCFVの減少と共存しており(
図6B(f)および
図6B(h))、血液から角膜縁へのO
2輸送能を維持するための、CF子ブタにおける代償機構と見なすことができる。
【0256】
図7では、記録が角膜縁由来であるか球由来であるかにかかわらず、全てのDRSデータをまとめて示している。動脈血酸素飽和度が試験を通して99%を超えるレベルに維持され、かつ6時間の実験中にいずれのポンプについても微小血管酸素飽和度(SmvO
2)が低下したので、CPBにおいて、微小血管酸素抽出は、経時的に上昇した。抽出の上昇は、CF子ブタの球で見られる経時的なCFVの低下を相殺する代償機構である可能性がある(
図6B(h))。
【0257】
完全人工心臓を移植したヤギにおける試験では、Babaら(American Society for Artificial Internal Organs,1992;2004;50(4):321-7)は、インビボ顕微鏡法を用いて、眼球結膜微小循環について記載した。移植されたポンプは、PFまたはCFを送達することができ、毛細血管密度および流速は、PFでより良好に保存された。したがって、PFポンプが装着された子ブタは、循環系の健康状態が徐々に悪化する(すなわち、CFポンプ装着6時間後に循環系の健康状態がいくらか悪化している)被験者のモデルとして用いられ、CFポンプが装着された子ブタは、循環系の健康状態がより急速に悪化する(すなわち、CFポンプ装着6時間後に循環系の健康状態がかなり悪化している)被験者のモデルとして用いられた。これらの結果によって、CFポンプが装着された子ブタにおける3時間から6時間の間に、CFVおよびFCDに著しい差が生じたことが示された。結膜検査の結果は、脳微小血管機能の指標として用いられてもよい。
【0258】
実施例3-ヒト被験者における角膜縁および眼球結膜からの結膜微小循環の測定値を評価する試験。
【0259】
材料および方法。
【0260】
試験対象母集団および設計
この横断的試験は、病院の職員およびその知人の間で募集された、性別が均等に分散した自己申告で健康なボランティアを20名登録した。試験対象患者基準は、屈折異常が+/-5球面ジオプトリー未満であり、年齢が18歳から65歳であった。除外基準は、喫煙、全身疾患または眼疾患、および眼科手術歴であった。
【0261】
各参加者には、ヘルシンキ宣言のヒト研究ガイドラインに従って署名されたインフォームドコンセントが提供された。本試験は、医療健康倫理地域委員会(REK:2017/1352-1)への申請が承認された後、オスロ大学病院眼科で行われた。
【0262】
臨床評定
ボランティアは、アンケートで性別、年齢、体重、および身長を報告した後、血圧(Dash3000、GEヘルスケア社、シカゴ、イリノイ、米国)およびパルスオキシメトリで評価する動脈血酸素飽和度(Nellcor、メドトロニック社、ダブリン、アイルランド)を測定した。標準化された照明条件の部屋において、糖尿病網膜症の早期治療試験チャート(Clear Chart 4P、ライヘルト社(Reichert Inc.)、ディピュー、ニューヨーク、米国)を用いて眼内圧(iCare TA01i、アイケア社(iCare)、ヴァンター、フィンランド)および視力を評価した後、オキシブプロカイン(Oxibuprokain minims、4mg/ml、ボシュヘルスアイルランド社(Baush Health Ireland Ltd.)、ダブリン、アイルランド)を1滴、左結膜嚢に塗布した。ボランティアの要望に応じて、追加の滴下を行った。細隙灯ユニットに着座し、前眼部および後眼部の詳細な検査を行った後、微小血管の評価を開始した。すべてのボランティアの最良矯正視力は、少なくとも20/20であった。
【0263】
微小血管評価
各参加者の左眼の眼表面反復測定にはODINコンセプトを用い、異なる測定体積(約0.1mm3)をキャプチャするために、各記録の間に装置を再配置した。分析中、特注のソフトウェア(Eyesoft2.0、ODIメディカル社、オスロ、ノルウェー)を用いて、FCD、CFV、およびSmvO2を定量した。
【0264】
コンピュータ援用ビデオ顕微鏡法
レンズの倍率が200倍、画像解像度が1920×1080ピクセル、視野が1.6mm×0.9mm、フレームレートが1秒あたり30フレームであるスリットランプ固定コンピュータ援用デジタル顕微鏡(CAVM)(Capillaroscope、インスペクティス社(Inspectis)、ソルナ、スウェーデン)を用いて、15秒間のフィルムを取得した。角膜縁および眼球結膜からの5つのフィルムが、コンピュータ(HP Spectra x360、HP社(HP Inc)、パオラアルタ、カリフォルニア州、米国)上で記録、保存、および分析された。分析中、流れているフィルムの上に、100ミクロンずつ離れた傾斜グリッド線(角膜縁)または水平グリッド線(眼球結膜)(そのうちの5つをカウントした)をソフトウェアによって作成した(
図8)。線と交差する可視血管(直径20μm未満)として毛細血管を同定した。各交差において、6つのカテゴリースケール(カテゴリー0(流れなし)からカテゴリー5(急速流)までにわたる)(カテゴリー0からカテゴリー5は、表1で定義されているカテゴリー0からカテゴリー5と同じである)に従って、毛細血管流速(CFV)のスコア化を行った。
【0265】
図8は、分析中の角膜縁(a)および眼球結膜(b)由来のフレームを示す。
【0266】
各参加者(n=20)から無作為に選択された1つの眼球結膜のフィルムを、主研究者(観察者1)および経験豊富な独立した試験官(観察者2)が再分析することで、相互信頼性テストおよび内部信頼性テストを実施した。
【0267】
拡散反射分光法
分光計(AvaSpec-2048-2、アヴァンテス社、アペルドールン、オランダ)を、ハロゲン光源(AvaLight-Hal、アヴァンテス社)と、6本の発光用400μmファイバーおよび1本の受光用400μmファイバーを有する測定プローブとに接続した。各セッションでは、ポリテトラフルオレチレン製白色タイル(WS-2、アヴァンテス社)に対して保持して校正を行い、その後、組織上で12回のスペクトル測定を行った。分析中、アルゴリズムによってSmvO2を算出した。
【0268】
測定手順
記録中の眼の動きを最小限に抑えるために、外部固定ターゲットを提示した。滅菌した非鋭利挿入装置(23ゲージ/0.6mm、D.O.R.C.オランダ眼科研究センター(国際)B.V.ザイトランド、オランダ)を用いて、上耳側象限において角膜縁から4mmに刻印した。球のDRSスペクトルとCAVMの記録については、角膜縁の測定前に記録した。
【0269】
統計分析
結果については、平均±SDまたは中央値および範囲として表す。FCDおよびSmvO2のデータには、ペアサンプルのT検定を適用した。角膜縁および眼球結膜からのCFVの結果を比較するために、非独立サンプルのt-検定を用いた。有意水準を5%に設定した。観察者内および観察者間の信頼性は、クラス内相関係数(ICC)によって決定され、KooおよびLiによって記述されたガイドライン(Journal of Chiropractic Medicine,15巻,2号,2016、155頁~163頁)によって解釈された。統計分析は、SPSSバージョン26(SPSS社(SPSS Inc.)、シカゴ、イリノイ、米国)によって行った。
【0270】
結果
20人の参加者からデータを収集し(表4)、そのうちの3人は、角膜縁の記録中に少し不快感を示していた。分析したデータの一覧を表5に示す。
【0271】
【0272】
【0273】
機能的毛細血管密度
角膜縁における機能的毛細血管密度(11.2(1.8)c/mm)は、眼球結膜(5.2(1.2)c/mm)よりも大きく、p<0.01であった。主研究者による1回目の分析と2回目の分析との間の観察者内信頼性は、良好であった(0.78)が、2人の独立した試験官の間の信頼性は、中程度であった(0.72)。
【0274】
図9は、角膜縁および眼球結膜において測定された眼表面機能的毛細血管密度を示す。各ドットは、1人のボランティアからの有効な記録の平均を表す。水平線は、各データセットの平均を表す。
【0275】
毛細血管流速
スコア化された角膜縁の毛細血管および球の毛細血管のうちの少なくとも80%がカテゴリー3であり、解剖学的位置を比較する流れのパターンに差はなく、pは0.68であった。
【0276】
図10は、眼表面毛細血管流速を示す。各ドットは、1人のボランティアからの有効な記録の平均を表す。水平線は、各データセットの平均を表す。
【0277】
微小血管酸素飽和度
微小血管酸素飽和度は、眼球結膜(89(6)%)と比較して角膜縁における角膜縁において低く(77%(8))、p<0.01であった。
【0278】
図11は、眼表面微小血管酸素飽和度を示す。各ドットは、一個人の記録内の平均値を表す。水平線は、各データセットの平均を表す。
【0279】
結論
本試験で用いられた技術は、試験された個人に害を及ぼすことなく、ヒトの結膜微小循環を評価するために用いることができる。本技術と分析プラットフォームは、角膜縁および眼球結膜のいずれにおいても、CFVおよびFCD(顕微鏡法を用いる)ならびにSmvO2(DRSを用いる)を測定するのに十分な精度であった。
【0280】
本技術および分析プラットフォームは、眼の角膜縁が眼球結膜と比較してより高い代謝活性を有することを示すのに十分な精度であった。この結果は、実施例1および実施例2の所見を裏付けるものである。本技術は、眼疾患(例えば、緑内障および黄斑変性)の試験および疾患(例えば、糖尿病)の進行のモニタリングのための新しいツールである。本ツールは、脳内の循環障害(例えば、虚血性脳卒中や出血性脳卒中)の試験や全身循環不全(例えば、ECMO(体外式膜型人工肺)による治療を受けた急性心不全)の重症度の評価に用いられてもよい。
【国際調査報告】