(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-22
(54)【発明の名称】濾過材をコーティングするための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
C23C 16/513 20060101AFI20240815BHJP
H05H 1/26 20060101ALI20240815BHJP
B01D 39/16 20060101ALN20240815BHJP
A01N 37/36 20060101ALN20240815BHJP
A01N 33/12 20060101ALN20240815BHJP
A01N 37/18 20060101ALN20240815BHJP
A01N 61/00 20060101ALN20240815BHJP
A01N 59/20 20060101ALN20240815BHJP
A01N 59/16 20060101ALN20240815BHJP
A01N 59/12 20060101ALN20240815BHJP
A01P 1/00 20060101ALN20240815BHJP
A01P 3/00 20060101ALN20240815BHJP
【FI】
C23C16/513
H05H1/26
B01D39/16 A
A01N37/36
A01N33/12 101
A01N37/18 Z
A01N61/00 D
A01N59/20 Z
A01N59/16 Z
A01N59/12
A01P1/00
A01P3/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572643
(86)(22)【出願日】2022-05-25
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2022064313
(87)【国際公開番号】W WO2022248610
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520061701
【氏名又は名称】モレキュラー・プラズマ・グループ・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】MOLECULAR PLASMA GROUP SA
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エベルジェ,レジス
(72)【発明者】
【氏名】ファンサン,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ボレク-ドンテン,ジョアンナ
(72)【発明者】
【氏名】ロペス,マクシミリアン
【テーマコード(参考)】
2G084
4D019
4H011
4K030
【Fターム(参考)】
2G084AA01
2G084AA26
2G084BB03
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2G084GG02
4D019AA01
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4K030JA10
4K030JA16
(57)【要約】
本発明は、圧縮可能な構造をプラズマコーティングするための方法であって、圧縮可能な構造を圧縮し、これにより少なくとも部分的に、好ましくは本質的に完全に、圧縮可能な構造から空気を除去するステップと、以下のステップ:a)150℃以下の温度および大気圧に近い圧力でプラズマガスをイオン化し、これによりプラズマを発生させるステップと、b)前駆物質を前記プラズマに導入し、これにより前駆物質を含むプラズマを得るステップと、c)圧縮構造を前記前駆物質を含むプラズマに曝露し、これにより構造の表面にコーティングを形成するステップとに従って、圧縮構造をコーティングするステップとを含む方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮可能な構造をプラズマコーティングするための方法であって、
- 前記圧縮可能な構造を圧縮し、これにより少なくとも部分的に、好ましくは本質的に完全に、前記圧縮可能な構造から空気を除去するステップと、
- 以下のステップ:
i)150℃以下の温度および大気圧に近い圧力でプラズマガスをイオン化し、これによりプラズマを発生させるステップと、
ii)前駆物質を前記プラズマに導入し、これにより前駆物質を含むプラズマを得るステップと、
iii)前記圧縮構造を前記前駆物質を含むプラズマに曝露し、これにより前記構造の表面にコーティングを形成するステップと
に従って、前記圧縮構造をコーティングするステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記圧縮可能な構造が、機械的に圧縮されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記圧縮構造が、前記圧縮構造が前記前駆物質を含むプラズマに曝露される間に減圧される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記前駆物質が、生物病原体伝播阻害化合物を含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記生物病原体伝播阻害化合物が、生物病原体不活性化化合物、生物病原体固定化化合物および/または生物病原体増殖減少化合物である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記生物病原体伝播阻害化合物が、殺ウイルス化合物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記前駆物質が、クエン酸または塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウムであるかまたはそれを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記プラズマガスが、少なくとも99容量%の不活性ガスを含み、好ましくは、前記不活性ガスがN2であり、および/または前記プラズマガスが最大で1容量%のO2を含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記前駆物質が、前記プラズマのプラズマガス残光に導入される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記前駆物質をエアロゾルとして、前記プラズマに投与する、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記圧縮可能な構造が通気性であり、好ましくは前記圧縮可能な構造が通気性フィルターである、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
コーティングした構造の通気性が、コーティングしていない構造の通気性に対して、20%以下、より好ましくは、15%以下、なおより好ましくは、10%以下、またより好ましくは、8%以下、さらにより好ましくは6%以下、例えば、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、または最も好ましくは、1%以下に低下している、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記圧縮構造が、少なくとも2つの側面から同時に、前記前駆物質を含むプラズマに曝露される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記構造が少なくとも1mmの厚さを含むか、または前記構造が少なくとも3cmの厚さを含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記請求項のいずれかに記載の方法を使用して得られたコーティングを含む圧縮可能な構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、通気性濾過材をコーティングするための方法およびシステム、ならびにそれから得られるコーティングした濾過材に関する。ここで、本発明は、コーティング前駆物質がプラズマジェットに挿入され、これにより、コーティング前駆物質を含むプラズマ流が生じ、濾過材が前記コーティング前駆物質を含むプラズマ流に晒される、大気圧プラズマコーティング技術を使用する。本発明は、厚いフィルターをコーティングするのに特に適しており、厚いフィルターはオープンかまたはオープンセルを含むことができる。
【背景技術】
【0002】
背景
Sars-Cov-2ウイルスおよびCovid-19疾患の現在のアウトブレイクにより、生物病原体、特には、ウイルスだけでなく他の生物病原体、例えば、細菌の拡散の予防にも役立つプロセスの必要性が存在することが示されている。これらの病原体は、直接的接触によって、または空気感染によって伝播し得る。
【0003】
典型的には、生物病原体の空気感染は、例えば、病原体を運ぶ体液の小滴を介して起こり得、この小滴は空気、すなわちエアロゾルを介して輸送される。空気感染は、病原体がガス様の状態で輸送されることによって起こる場合もある。
【0004】
病原体が空気を介して拡散するのを防ぐ1つの方法は、空気を濾過することによるものである。これにより、空気は、通気性材料から作製されたフィルターを含むフィルターシステムを通って流され得る。空気をフィルターに通して流す方法は用途によって異なる。例えば、空気は空調システムを使用して循環させることができ、これにより、フィルターは1つまたは複数のチューブ内に配置される。別の例では、フィルターはフェイシャルマスク内に配置され、誰かが息を吸ったり吐いたりすると、その結果生じる空気流がフェイシャルマスク内のフィルターを通過する。
【0005】
通気性フィルターは、エアロゾルを止める、すなわち空気流からエアロゾルを濾過するのには非常に有効な場合がある。しかし、エアロゾルの飛沫を止めるだけでは、病原体が拡散するのを防ぐには不十分な場合がある。特に、フィルターが病原体で飽和状態になり、病原体を含まない空気流がフィルターから病原体を拾ってしまう場合がある。このようなケースは、例えば空調システム用フィルターまたはフェイスマスク用フィルターで起こり得る。
【0006】
主にフィルターに捕捉された病原体が再び空気中に浮遊するのを防ぐために、濾過材料、すなわち濾過材を生物病原体伝播阻害物質で処理することが1つの解決策である。このような生物病原体伝播阻害物質は、生物病原体を破壊、不活性化および/または固定することが可能である。本発明は、ウイルス、特にSars-Cov-2ウイルスの拡散に対して特に適している。しかし、フィルターの正常な作動を妨げてはならないことに留意されたい。したがって、処理された濾過材は、無処理の濾過材と比較して、空気流を実質的に低減したり、さらには遮断したりせず、通気性を保たなければならない。これは、HVACシステム(暖房、換気および空調)の濾過材にとって特に重要であり、これは、適切な換気および通気が、建物環境内での病原体を含むエアロゾルの拡散を制限するのに重要であるため、HVACシステムの通気および換気の性能が、コーティングによって悪影響を受けるべきではないからである。
【0007】
EP0859547B1の文書では、接触時にウイルス、特には、脂質エンベロープウイルスを不活性化するように布基材を修飾するための試薬および方法を開示している。このような基材は、四級アンモニウム基および炭化水素鎖の両方を含む親水性ポリマーの光化学的固定化により修飾することができ、これにより基材との接触時に脂質エンベロープウイルスを破壊することが可能な界面活性性の局在化が生じる。この発明の基材により、医療および関連する使用のための物品の形態に製作することができる。この文書は、ウェット沈着法に関し、ここで基材は、フォトポリマーを含む溶液に曝露する。
【0008】
WO2008127416A2の文書では、固体表面、例えば、金属、プラスチック、ガラス、ポリマー、織物ならびに他の基材、例えば、布、ガーゼ、包帯、ティシューおよび他の繊維に、塗布と同様に、例えば、刷毛塗り、噴霧または浸漬により非共有結合的に適用して、表面を殺ウイルス性かつ殺菌性とし得る、疎水性ポリマーコーティングを開示している。またここでは、コーティングは、ウェット法により適用する。
【0009】
上記のコーティング技術では、「ウェットコーティング」を利用し、これにより表面を、コーティング材を含む液体溶液に晒す。このようなウェットコーティング技術は一般に、
- 高エネルギー消費をもたらす長い乾燥時間、
- 環境に対する大きな影響をもたらす大量の廃棄物、
- コーティングの均一性およびコンフォーマル性が常に所望通りとは限らないこと、
- コーティングの厚さが、常に制御下にあるとは限らず、局所的に所望よりもはるかに高い場合があること、
- コーティングが、多孔性基材に十分深く浸透しない場合があること、
- 水溶液を使用する場合、大量の水を消費すること
等の多くの欠点を抱えている。
【0010】
その上、ウェットコーティング技術を使用する場合、後すすぎが必要であることがわかっており、多くの残留コーティング材が洗い流され、すなわち、多くのコーティング材が、基材に十分に接着しないことが示されている。殺生物性コーティングを想定する場合では、これにより、ユーザーに対して望まない健康リスクがもたらされ得る。
【0011】
また、ウェットコーティングは、厚くなる、すなわち1マイクロメートルまたはそれを超えるオーダーになる傾向があり、このことにより、通気性の実質的低下がもたらされ得る。
【0012】
過去数十年間において勢いを増しているコーティング技術は、プラズマコーティングである。これによって、基材の表面上にコーティングを形成するための前駆物質を少なくとも部分的にプラズマ状態とし、基材の表面をプラズマ化前駆物質に晒す。結果として、前駆物質により、基材との強力な結合を形成し、および/または物質分子間に架橋結合を形成することができ、これにより、薄くても非常に耐久性、均一性かつコンフォーマルであり得るコーティングが生じる。前駆物質が重合性単量体である場合、重合は、基材の表面上に直接生じ得る。
【0013】
プラズマコーティング技術は、大気圧よりも著しく低い動作圧を用いる真空技術、および大気圧またはこれに近い圧力、例えば、700mbarおよび1600mbarであるが、好ましくは、大気圧に非常に近い圧力、例えば、950mbar~1050mbarで動作する大気圧技術に分けられ得る。
【0014】
表面上に薄層を沈着させるプラズマ技術は、これまでに適用されている。
WO2019243631A1の文書では、a)ジェット入口、ノズル出口、およびジェット入口からノズル出口まで延長している側壁を含む交換可能なシールドを製造するステップであって、ノズル出口が、対象プロファイルの少なくとも一部と本質的に合同の縁を含む、ステップと、b)交換可能なシールドをプラズマジェット発生装置のジェット出口に脱離可能に連結するステップと、c)対象プロファイルがノズル出口の縁と密接に適合するように対象をノズル出口に配置し、これによりノズル出口と対象との間のギャップを最小化するステップと、d)プラズマジェット発生装置によりシールド内にプラズマジェットを生成して、シールド内のプラズマジェットにコーティング前駆物質を注入し、これにより動作圧を生成することにより、大気圧よりも好ましくは、最大で10%高い前記動作圧の低温無酸素のプラズマによって対象をプラズマコーティングし、これにより酸素枯渇プラズマ域において対象をプラズマコーティングするステップとを含む、対象プロファイルを含む対象をプラズマコーティングするための方法を開示している。
【0015】
WO2019038378A1の文書では、基材上にコーティングを沈着させるための方法を開示している。フルオロ-アクリレート単量体、フルオロ-アルキルアクリレート単量体、フルオロ-メタクリレート単量体、フルオロ-アルキルメタクリレート単量体、フルオロ-シラン単量体またはこれらの組合せもしくは誘導体を含む第1の前駆物質を提供している。線状シロキサン、シラン単量体、環状シロキサン、環状シラン単量体またはこれらの組合せもしくは誘導体を含む第2の前駆物質を提供している。第1および第2の前駆物質は、処理領域に同時注入する。大気または減圧プラズマ放電をこの処理領域内に生成する。基材コーティングは、交互多積層ナノ構造を含み、第1および第2の前駆物質の共重合により形成する。
【0016】
これらの文書では、好ましくは、低酸素または無酸素のプラズマ放電を生成し、プラズマ放電にコーティング前駆物質を導入することにより、表面上に層を沈着させるための多数のプラズマ技術を記載している。次いで、プラズマ放電は、処理される基材の1つまたは複数の表面に配向され、これによりコーティングが形成される。
【0017】
これらの文書に開示されている方法では、典型的には、0℃~100℃の間の温度、好ましくは、室温の低温プラズマを利用する。プラズマ放電圧を周囲圧力よりもわずかに高くして、プラズマ放電の配向を確実とし、処理中に周囲の空気に存在する酸素を基材表面から抜くことを確実とする。
【0018】
本発明は、フィルターに典型的であるように、オープン構造をコーティングすることが可能な方法およびシステムを提供することも目的とする。実際に、本発明は、これにより、より一般的には、多種多様な圧縮可能な構造をコーティングするための方法およびシステムを提供することも目的とする。
【発明の概要】
【0019】
発明の概要
本発明は、通気性濾過材をコーティングするための方法およびシステムを提供することを目的とし、これにより通気性は、コーティングにより実質的に低下しない。これにより、コーティングは、病原体を破壊、不活性化および/または固定することによって生物病原体の空気中の伝播を阻害する。コーティングの生物病原体伝播阻害特性は、病原体を破壊、不活性化および/または固定化する特性を有するプラズマコーティング前駆物質を使用することによって得ることができる。
【0020】
本発明は、時間のかかる減圧ステップは必要としないこと、ならびにバッチプロセスおよび処理する1つまたは複数の対象を連続的に処理するインラインプロセスの両方が容易に達成可能であること等、真空プラズマ技術を越える多くの利点を呈する大気圧プラズマ技術に関する。したがって、基材は、非常に滑らかで薄いコーティングを可能にしながら、ハイスループット率で処理することができる。
【0021】
本発明の第1の態様において、本発明は、通気性濾過材をプラズマコーティングするための方法であって、以下のステップ:
a)低温、例えば150℃以下の温度、および大気圧に近い圧力でプラズマガスをイオン化し、これによりプラズマ放電を発生させるステップと、
b)コーティング前駆物質を前記プラズマ放電に導入し、これによりコーティング前駆物質を含むプラズマ放電を得るステップと、
c)濾過材を前記コーティング前駆物質を含むプラズマ放電またはその結果生じる残光に曝露し、これにより濾過材の表面にコーティングを形成するステップ
とを含み、
これによりコーティングした濾過材が通気性となる、方法に関する。
【0022】
これにより、前駆物質は、生物病原体伝播阻害化合物を含み、これは、好ましくは、生物病原体不活性化化合物、生物病原体固定化化合物および/または生物病原体増殖減少化合物である。不活性化化合物の好ましい実施形態は、殺生物化合物、殺ウイルス化合物および/または殺菌化合物である。
【0023】
好ましくは、これにより、本発明の方法を使用してコーティングした濾過材の通気性は、コーティング前の濾過材(無処理の濾過材)と実質的に同じ通気性である。これは、主に、特に濾過材がオープン構造および/またはオープンセル構造を含む場合、プラズマが濾過材材料内の奥深くまで浸透する能力のためであり、これにより、コーティングは、プラズマが到達する濾過材構造の表面、すなわち内部表面も兼ねた両方の外部表面に沈着し、これによりこれらの表面のテクスチャーに密着する。その結果、本方法を使用して沈着したコーティングは、フィルターの開口または孔を横切る層を形成せず、よって、通気性を実質的に低下させない。
【0024】
濾過材などの織物の通気性は、ISO 9237またはASTM D737に従って測定することができ、布の所与の面積を垂直に通過する空気の流量は、所与の期間にわたって織物検査面積を横切る所与の圧力差で測定される(単位:cm3/(s.cm2))。好ましくは、無処理の濾過材と比較したコーティングした濾過材の通気性の減少は、15%以下、好ましくは、10%以下、より好ましくは、5%以下、例えば3%以下、2%以下またはさらには1%以下である。
【0025】
好ましくは、本発明の方法を使用してコーティングした濾過材の圧力降下は、コーティング前の濾過材(無処理の濾過材)と実質的に同じ圧力降下である。圧力降下は、濾過材を横切る圧力差(「デルタP」)、すなわち濾過材を通過する前と通過した後のガス流の圧力の差を表す。通気性に関して「実質的に同じ」の用語は、コーティング後の濾過材のデルタPが、コーティング前の濾過材のデルタPに対して有意に増加しないことを意味することを意図している。好ましくは、無処理の濾過材と比較したコーティングした濾過材の圧力降下の増加は、15%以下、好ましくは、10%以下、より好ましくは、8%以下、さらにより好ましくは、6%以下、例えば5%以下、4%以下、3%以下、2%以下または最も好ましくは、1%以下である。
【0026】
本発明の実施形態では、プラズマコーティングは、5~600nm、好ましくは、5~500nm、より好ましくは、10~500nm、さらにより好ましくは、10~300nm、またより好ましくは、10~200nm、なおより好ましくは、10~100nm、最も好ましくは、約20nmの厚さを有する。プラズマコーティング厚は、コーティング前駆物質を含むプラズマ放電への濾過材の曝露時間を制御することにより良好に制御することができる。
【0027】
また、本発明は、本発明の方法を使用して得られる生物病原体伝播阻害コーティングを含む通気性濾過材に関する。好ましくは、濾過材はディスポーザブルである。
【0028】
また、本発明は、本発明による通気性濾過材を含むフィルターシステムに関し、これにより濾過材は、好ましくは交換可能である。好ましくは、濾過材はディスポーザブルである。
【0029】
本発明は、厚い濾過材を処理するのに特に適している。濾過材は、少なくとも1mm、より好ましくは、少なくとも2mm、なおより好ましくは、少なくとも3mm、さらにより好ましくは、少なくとも4mmの厚さを含み得る。有利には、濾過材の厚さは2mm~20mmである。
【0030】
好ましくは、濾過材は、50g/m2、好ましくは、少なくとも75g/m2、より好ましくは、少なくとも100g/m2、さらにより好ましくは、少なくとも120g/m2の基準重みを含む。本発明において利用される好ましい濾過材の基準重みは、100g/m2~250g/m2、好ましくは、120g/m2~200g/m2である。基準重みは、濾過材の面積あたりの重量に相当する。
【0031】
有利には、濾過材は、互いに積層された複数の層を含む多層濾過材である。複数の層は、例えば、ラミネーションまたは縫製によって互いに連結させるのが有利である。濾過材の複数の層は、異なる厚さおよび/または異なる密度を有し得る。濾過材は、好ましくは、例えば交互に山と谷を有する1つまたは複数の波状層からなり、有利には、山と連続する谷との間の高さは、波状層を構成する基材の厚さよりも大きい。波状層は、起伏があってもよく、または複数のプリーツを含んでもよい。加えて、または代替的に、濾過材は、例えば、波状層の支持層または裏打ち層として使用される、1つまたは複数の平坦層を含み得る。本明細書で上に示した厚さおよび基準重み値は、全体として多層濾過材に適用されることに留意すると好都合であろう。
【0032】
多層濾過材の複数の層は、プラズマ放電またはプラズマ残光に同時に曝露するのが有利である。驚くべきことに、本明細書に記載のプラズマコーティング方法は、多層濾過材の深さまでコーティングを塗布することを可能にし、したがって、異なる層を別々にプラズマコーティングする必要がないことが観察されている。この点で、多層濾過材の外層が、多層濾過材の内層と比較して低い密度を有する場合、濾過材中へのプラズマ活性化種のより深い浸透を可能にするために有益であり得る。
【0033】
有利には、濾過材は、少なくとも50%、好ましくは、少なくとも70%、より好ましくは、少なくとも80%のISO 16890-ePM10に従う粒子保持効率を有する。有利には、濾過材は、少なくとも50%、好ましくは、少なくとも60%、好ましくは、少なくとも70%、好ましくは、少なくとも80%のISO 16890-ePM1に従う粒子保持効率を有する。
【0034】
好ましくは、濾過材は、(合成)ポリマー材料を含むかまたはそれからなる。合成ポリマーの例は、ポリプロピレン(PP)またはポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル、ポリスチレン(PS)、ポリエーテル、またはポリイミドである。濾過材は、好ましくは、合成繊維を含むかまたはそれからなり、好ましくは、1つまたは複数の不織布層に配置される。繊維を含む濾過材層は、メルトブロー不織布またはスパンボンド不織布などの不織材料であり得る。好ましくは、濾過材は、ポリプロピレン、より好ましくは、メルトブローポリプロピレン(MBPP)および/またはスパンボンドポリプロピレン(SBPP)を含むかまたはそれからなる。
【0035】
特に好ましい実施形態では、コーティング前駆物質は、クエン酸を含む。クエン酸は、好ましくは、純度99.5の無色結晶の形態で提供され得る。このような場合および他の場合では、好ましくは、水溶液、好ましくは、10wt%~90wt%、より好ましくは、20wt%~80wt%、なおより好ましくは、30wt%~70wt%、またより好ましくは、40wt%~60wt%、例えばおよそ50wt%の濃度の水溶液にクエン酸を溶解することが好ましい。
【0036】
本発明の方法を使用して濾過材の表面にコーティングを沈着させるためにクエン酸を含むコーティング前駆物質を使用することの利点は、沈着したコーティングの殺ウイルス特性および殺菌特性が耐久性であることが証明されていることである。さらに、クエン酸は、空気濾過材に使用するのに安全な物質であることが知られており、その近傍でもそれと接触しても、人間に対して無毒である。
【0037】
上記の方法の実施形態では、前駆物質をガス、液体または固体として、好ましくはガスとしてまたはエアロゾルの形態の液体として、最も好ましくはエアロゾルの形態の液体として、プラズマに投与する。
【0038】
第2の態様において、本発明は、圧縮可能な構造をプラズマコーティングするための方法であって、以下のステップ:
- 圧縮可能な構造を圧縮し、これにより少なくとも部分的に、好ましくは本質的に完全に、圧縮可能な構造から空気を除去するステップと、
- 以下のステップ:
i)低温および大気圧に近い圧力でプラズマガスをイオン化し、これによりプラズマを発生させるステップと、
ii)前駆物質を前記プラズマに導入し、これにより前駆物質を含むプラズマを得るステップと、
iii)圧縮構造を前記前駆物質を含むプラズマに曝露し、これにより構造の表面にコーティングを形成するステップと
に従って、圧縮構造をコーティングするステップと
を含む方法に関する。
【0039】
本発明者らは、コーティングされる構造の内側の空気の存在が、コーティングの質を制限する場合があることを見い出した。理論に拘束されることは望まないが、発明者らは、これは2つの主な理由による可能性があると考える:空気の存在が、前駆物質を含むプラズマが構造に浸透するのを少なくとも部分的に妨げること、および空気中の酸素の存在が、コーティングの品質低下をもたらす可能性があることである。したがって、構造を前駆物質を含むプラズマに曝露する前に構造を圧縮することによって、空気が構造から押し出され、プラズマが構造に深く浸透することが可能になる。さらに、酸素の非存在により、構造の表面により良好なコーティングが形成される。
【0040】
好ましい実施形態では、圧縮可能な構造は機械的に、より好ましくはローラーのセットによって圧縮される。これは、圧縮可能な構造が、マット、層、または互いに重なった層のセットのような本質的に平坦な形状を含む場合に特に有用である。好ましくは、圧縮可能な構造は、織布または不織布材料を含み、より好ましくはそれから構成される。
【0041】
以前に議論されたように、圧縮可能な構造を圧縮し、これにより少なくとも部分的に、好ましくは本質的に完全に、圧縮可能な構造から空気を除去する。このことは、標準的な大気条件下での非圧縮状態では、圧縮可能な構造が空気で満たされたオープン構造を含み、これにより元の容量が規定されることを意味する。圧縮可能な構造が圧縮されると、構造から空気の少なくとも一部が排出され、構造に取り込まれる容量が低減する。したがって、圧縮構造は、元の容量よりも小さい容量を含むことになる。圧縮された後、構造が元の容量を取り戻せば、それはもはや「圧縮構造」ではない。
【0042】
本発明の主旨は、構造が圧縮構造である間に、構造を前駆物質を含むプラズマに曝露することである。曝露中の構造の圧縮は、いくつかの方法で得ることができる:
- 圧縮可能な構造が圧縮された後に元の容量を取り戻すまでには時間がかかる。圧縮構造は、この間に前駆物質を含むプラズマに曝露され得る。
- 前駆物質を含むプラズマが存在するプラズマ域またはプラズマ残光域は、構造を圧縮した後に直接配置されてもよい。例えば、構造を圧縮するためにローラーのセットが使用される場合、このローラーのセットは、プラズマ域またはプラズマ残光域の開始を規定することができる。圧縮可能な構造がその元の容量を回復するのに要する時間が非常に短くても、前駆物質を含むプラズマに曝露される場合、構造は常に圧縮された状態にある。
- 構造を圧縮するための手段は、プラズマ域またはプラズマ残光域内に位置してもよい。この場合、空気は、プラズマ域またはプラズマ残光域内の圧縮可能な構造から押し出すことができる。次いで、圧縮手段を、直接またはゆっくりと除去することができ、その間に、圧縮構造は、前駆物質を含むプラズマに曝露される。あるいは、圧縮構造は、圧縮がかけられている間、前駆物質を含むプラズマに曝露されてもよい。プラズマは、圧縮構造をどの側からもコーティングすることができ、どの側からも構造に深く浸透することができるので、機械的手段によって圧縮されたとしても、圧縮構造の一部が前駆物質を含むプラズマに曝露されることに留意されたい。
- 構造を異なる位置で圧縮するための手段が存在してもよく、例えば、ローラーのセットは、第1の対のローラーおよび第2の対のローラーを含んでもよく、これにより構造は、第1の対のローラーと第2の対のローラーとの間の領域において前駆物質を含むプラズマに曝露され得る。このように、構造は、前駆物質を含むプラズマに曝露されている間、圧縮状態に保たれ得る。このようなセットアップは、第1の対のローラーと第2の対のローラーとの間の前記領域の少なくとも一部内で構造を減圧することもできることに留意されたい。
【0043】
本出願人は、上記で与えられた実施形態が、前駆物質を含むプラズマに曝露されている圧縮構造の意味を明確に例示すると考える。「圧縮構造」の用語は、圧縮可能な構造が圧縮状態にあること、すなわち、圧縮されていない構造の元の容量よりも小さい容量を有する状態にあることを指し、「圧縮構造」の用語は、構造がその瞬間に積極的に圧縮されていることを必ずしも意味しないことに留意されたい。例えば、構造は圧縮手段によって圧縮することができ、次いで、圧縮手段を除去することができ、その後、構造は、構造が周囲流体(好ましくは、前駆物質を含むプラズマであり得る)を吸収するのに要する時間のために、ある期間、依然として圧縮構造であり得る。
【0044】
多くの場合、圧縮可能な構造は可逆的に圧縮可能である。これは、構造を圧縮した後、例えばローラーのセットの背後にある圧縮源を取り除いた後、圧縮可能な構造が容量を回復し、本質的に元の形状およびサイズに戻ることを意味する。本発明は、可逆的に圧縮可能な圧縮可能な構造のコーティングに特に適している。
【0045】
したがって、好ましい実施形態では、圧縮構造は、圧縮構造が前駆物質を含むプラズマに曝露される間、すなわちステップcの間に減圧される。
【0046】
好ましい実施形態では、圧縮構造は、複数の側面から同時に、好ましくは少なくとも2つの側面から同時に、より好ましくは少なくとも2つの対向する側面から、前記前駆物質を含むプラズマに曝露される。上側領域側と、上側領域側に対向する下側領域側とを有する本質的に平坦な構造の特に好ましい場合には、構造は、上側領域側と下側領域側の両方から前記前駆物質を含むプラズマに曝露される。これは、プラズマおよび/または前駆物質を含むプラズマのための複数の出口を含むプラズマ装置によって達成することができ、出口は、曝露される必要がある構造の側面の方に向けられるか、または単に、それぞれが構造の所定の側面を前駆物質を含むプラズマに曝露するように構成された多数のプラズマ装置によって達成することができる。この実施形態では、プラズマコーティングプロセスのスループットをより高くすることができる、および/または前駆物質を含むプラズマによる構造への浸透をより良好にすることができ、より良好なコーティングをもたらす。
【0047】
前駆物質は、好ましくは、生物病原体伝播阻害化合物を含み、これは、好ましくは、生物病原体不活性化化合物、生物病原体固定化化合物および/または生物病原体増殖減少化合物である。不活性化化合物の好ましい実施形態は、殺生物化合物、殺ウイルス化合物および/または殺菌化合物である。
【0048】
好ましい実施形態では、圧縮可能な構造は、通気性である。これにより、通気性は、本発明の方法を使用してコーティングする前の構造の通気性と実質的に同じである。これは、主に、特に圧縮可能な構造がオープン構造および/またはオープンセル構造である場合、プラズマが圧縮可能な構造内の奥深くまで浸透する能力のためであり、これにより、コーティングは、構造の表面に沈着し、これによりこれらの表面に密着する。その結果、本方法を使用して沈着したコーティングは、構造の開口または孔を横切る層を形成せず、よって、通気性を実質的に低下させない。これは、構造が通気性フィルターである場合に特に好ましい。したがって、特に好ましい実施形態では、圧縮可能な構造は、通気性フィルターである。
【0049】
また、本発明は、コーティング、好ましくは本発明の方法を使用して得られる生物病原体伝播阻害コーティングを含む圧縮可能な構造に関する。好ましくは、構造は、ディスポーザブル材料から構成される。好ましくは、圧縮可能な構造は、通気性フィルターである。
【0050】
また、本発明は、本発明による圧縮可能な構造を含むシステムに関し、これにより構造は、好ましくは交換可能である。好ましくは、構造は、ディスポーザブルである。これは、構造がフィルターであり、システムがフィルターシステムである場合に特に好ましい。
【0051】
本発明は、厚い圧縮可能な構造を処理するのに特に適している。したがって、実施形態では、構造は、少なくとも1mm、より好ましくは、少なくとも2mm、なおより好ましくは、少なくとも3mm、さらにより好ましくは、少なくとも4mm、またさらにより好ましくは、少なくとも5mm、例えば、6mm、7mm、8mm、9mm、10mm、11mm、12mm、13mm、14mm、15mm、16mm、17mm、18mm、19mm、20mmの厚さを含む。本発明の実施形態では、構造は、少なくとも3cm、より好ましくは、少なくとも4cm、なおより好ましくは、少なくとも5cm、例えば、6cm、7cm、8cm、9cm、10cm以上の厚さを含む。これは、構造がフィルターである場合に特に好ましい。
【0052】
好ましくは、構造は、少なくとも1g/m2、なおより好ましくは少なくとも5g/m2、またより好ましくは少なくとも10g/m2、さらにより好ましくは少なくとも15g/m2、および/または好ましくは最大100g/m2、より好ましくは最大60g/m2、なおより好ましくは最大50g/m2、例えば、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49g/m2またはこれらの間の任意の値の基準重みを含む。基準重みは、構造の面積あたりの重量に相当する。典型的には、構造は、ここで、本質的に均一な厚みを含む。これは、構造がフィルターである場合に特に好ましい。
【0053】
好ましくは、構造は、ポリマー材料を含む。より好ましくは、構造は、ポリマー材料から構成される。好ましくは、構造は、ポリプロピレン、より好ましくはメルトブローポリプロピレン(MBPP)および/またはスパンボンドポリプロピレン(SBPP)を含む。
【0054】
特に好ましい実施形態では、前駆物質は、クエン酸を含む。クエン酸は、好ましくは、純度99.5の無色結晶の形態で提供され得る。このような場合および他の場合では、好ましくは水溶液、好ましくは10wt%~90wt%、より好ましくは20wt%~80wt%、なおより好ましくは30wt%~70wt%、またより好ましくは40wt%~60wt%、例えばおよそ50wt%の水溶液にクエン酸を溶解することが好ましい。クエン酸は、本発明の方法を使用して、コーティングとして沈着した後に残る殺ウイルス特性および殺菌特性を有する。さらに、クエン酸は、エアーフィルターならびにヒトの近傍でおよび/またはヒトと接触して使用される他の構造に使用するのに安全である。また、クエン酸は容易に入手できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】t=t0でプラズマをオンにした場合を示す図である。コーティング前駆物質R-Xをプラズマ放電に加え、コーティング前駆物質を含むプラズマ放電を基材に接触させる。これにより、コーティング前駆物質R-Xをラジカル化し、基材の表面を活性化する。
【
図2】t=t1でプラズマをオンにした場合を示す図である。ラジカル再結合反応が基剤の表面上で起こり、基材とコーティング前駆物質との間に共有結合が生じる。
【
図3】t=t2でプラズマをオンにした場合を示す図である。フィルムの成長およびコーティング厚さは、処理時間ならびに印加電力および温度などの処理パラメータに依存する。また、架橋結合が起こる。
【
図4】t=t3でプラズマをオフにした場合を示す図である。プラズマ処理後、プラズマ沈着コーティングが残り、これは、基材上に(好ましくは共有結合により)移植する。
【
図5】複数(3つ)の波状層および裏打ち層を有する多層濾過材の概略断面図である。
【
図6】複数(2つ)の波状層および裏打ち層を有する多層濾過材の概略断面図である。
【
図7】プラズマ処理装置内に配置された多層濾過材の図である。
【
図8】多層濾過材を含むポケットフィルターを表す図である。
【
図9】本開示の態様において使用される4層の波状濾過材の4層の画像を表す図である。
【
図10A】波状層および裏打ち層から構成される、実施例2および3において使用される第1の多層濾過材の概略断面図である。
【
図10B】
図9Aの2つの濾過材の重層から構成される、実施例2および3において使用される第2の多層濾過材の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
発明の詳細な説明
本明細書において使用する場合、次の用語は、次の意味を有する。
「a」、「an」および「the」は、本明細書において使用する場合、文脈上明白に他に指示しない限り、単数と複数の両参照対象を指す。例として、「a compartment(区画)」は、1つまたは2つ以上の区画を指す。
【0057】
「約」は、本明細書において使用する場合、測定可能な値、例えば、パラメータ、量、経時的期間等を指すが、そのような変動が、開示の発明において実施するのに適切である限り、特定する値の、および特定する値から+/-20%以下、好ましくは、+/-10%以下、より好ましくは、+/-5%以下、さらにより好ましくは、+/-1%以下、なおより好ましくは、+/-0.1%以下の変動を包含することを意味する。ただし、「約」の修飾語が指す値は、それ自体をも詳細に開示するものであることが理解されるべきである。
【0058】
「comprise(含む)」、「comprising」および「comprises」ならびに「comprised of(からなる)」は、本明細書において使用する場合、「include(含む)」、「including」、「includes」または「contain(含む)」、「containing」、「contains」と同義であり、続くもの、例えば、成分の存在を特定し、当技術分野において公知のまたは当技術分野において開示されるさらなる列挙しない成分、特徴、要素、メンバー、ステップの存在を除外または排除しない、包括的または無制限の用語である。
【0059】
その上、第1、第2、第3等の用語は、本明細書および特許請求の範囲において、類似の要素を区別するために使用し、特定しない限り、連続的または経時的順序を記載するために必ずしも使用しない。このように使用する用語は、適切な状況下で可換であり、本明細書において記載する本発明の実施形態が、本明細書に記載または例示する以外の順序で動作可能であることが理解されるべきである。
【0060】
エンドポイントによる数値範囲の列挙は、その範囲内に包含するすべての数および数画分、ならびに列挙するエンドポイントを含む。
【0061】
「重量%」、「重量パーセント」、「%wt」または「wt%」の表現は、ここおよび本明細書を通じて他に定義しない限り、製剤の全重量に基づくそれぞれの成分の相対重量を指す。「容量%」、「容量パーセント」、「%vol」または「vol%」の表現は、ここおよび本明細書を通じて他に定義しない限り、製剤の全容量に基づくそれぞれの成分の相対容量を指す。
【0062】
「1つまたは複数」または「少なくとも1つ」の用語、例えば、群のメンバーの1つまたは複数あるいは少なくとも1つのメンバー(複数可)は、それ自体は明白である一方、さらなる例証によって、この用語は、例えば、このメンバーのいずれか≧3、≧4、≧5、25≧6または≧7等、およびこのすべてのメンバーに至るまでのような、このメンバーのいずれか1つまたはこのメンバーのいずれか2つ以上への参照を、とりわけ包含する。
【0063】
本明細書において使用する場合、抗微生物の用語は、表面上に存在し得る微生物材料、特には、ウイルスおよび/または細菌材料の増殖の減少を指す。
【0064】
本明細書において使用する場合、抗ウイルスおよび殺ウイルスの用語は、接触時にウイルスを破壊または不活性化する能力を指す。
【0065】
本明細書において使用する場合、エアロゾルの用語は、空気または別のガス中の微細固体粒子または液滴の懸濁液を指す。
【0066】
「生物病原体」の用語は、疾患をもたらし得る生物有機体または化合物を指す。病原体は、感染体、または単純に病原菌とも呼び得る。好ましくは、生物病原体は、ウイルス、細菌、原生動物、プリオン、ビロイドまたは真菌である。特に好ましい実施形態では、生物病原体は、ウイルスである。好ましい実施形態では、生物病原体を不活性化することが好ましい。
【0067】
ウイルスエンベロープは、多くの種類のウイルスの最外層である。これは、宿主細胞間を移動する場合、ウイルスの生活環における遺伝子材料を保護する。すべてのウイルスが、エンベロープを有するとは限らない。本発明の実施形態では、生物病原体は、脂質エンベロープウイルスまたは非脂質エンベロープウイルス、好ましくは、脂質エンベロープウイルスである。
【0068】
エンベロープは、宿主細胞膜(リン脂質およびタンパク質)の一部に典型的に由来するが、一部のウイルス糖タンパク質を含む。これらは、ウイルスが宿主免疫系を回避するのに役立ち得る。エンベロープ表面上の糖タンパク質は、宿主膜上の受容体部位を同定し、これに結合するように作用する。次いで、ウイルスエンベロープは、宿主膜と融合して、カプシドおよびウイルスゲノムが宿主に侵入し、これに感染することが可能となる。
【0069】
また、一部のエンベロープウイルスは、もう1つのタンパク質層であるカプシドをエンベロープとゲノムの間に有する。
【0070】
ウイルスが出芽する細胞は、大抵は死滅するか、または衰弱し、長時間さらなるウイルス粒子を脱落させる。このようなウイルスの脂質二重層エンベロープは、乾燥、熱および界面活性剤に対して相対的に感受性であり、このため、このようなウイルスは、非エンベロープウイルスよりも滅菌することが容易であり、宿主環境外では生存が制限され、典型的には、宿主から宿主へ直接伝播しなければならない。エンベロープウイルスは、優れた適応性を有し、免疫系から逃れるために短時間に変化することができる。エンベロープウイルスは、持続感染を引き起こすことができる。
【0071】
エンベロープウイルスの例:
- DNAウイルス:ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、ヘパドナウイルス、アスファウイルス科(Asfarviridae)
- RNAウイルス:フラビウイルス、アルファウイルス、トガウイルス、コロナウイルス、D型肝炎ウイルス、オルソミクソウイルス、パラミクソウイルス、ラブドウイルス[2]、ブニヤウイルス、フィロウイルス
- レトロウイルス
【0072】
「ウイルス」の用語は、本発明によれば、2本鎖または1本鎖RNAまたはDNAウイルスを含み、これは、細菌、植物および/または動物の細胞に感染する。これらは、次のウイルスファミリー由来のウイルスを含む:イリドウイルス科(Iridoviridae)、アフリカブタ熱ウイルス、ポックスウイルス科(Poxyiridae)、パルボウイルス科(Parvoviridae)、レオウイルス科(Reoviridae)、ビルナウイルス科(Birnaviridae)、ピコルナウイルス科(Picornaviridae)、トガウイルス科(Togaviridae)、フラビウイルス科(Flaviviridae)、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)、ブニヤウイルス科(Bunyaviridae)、ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)、アデノウイルス科(Adenoviridae)、パポバウイルス科(Papovaviridae)、ヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)、コロナウイルス科(Coronaviridae)、カリシウイルス、アレナウイルス科(Arenaviridae)、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)、オルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)、フィロウイルス科(Filoviridae)、レトロウイルス科(Retroviridae)、バキュロウイルス科(Baculoviridae)、ポリドナウイルス科(Polydnaviridae)、ヌダウレリア(Nudaurelia)(3ウイルス群、ノダウイルス科(Nodaviridae)、カリモウイルス、ジェミニウイルス、トマト黄化壊疽ウイルス群、ルテオウイルス、マクロウイルス(Machlovirus)、ネクロウイルス、ソベモウイルス、トンブスウイルス、ティモウイルス、ブロモウイルス、ククモウイルス、イラルウイルス、アルファルファモザイクウイルス群、コモウイルス、ダイアンソウイルス、ネポウイルス、エンドウマメひだ葉モザイクウイルス群、トバモウイルス、トブラウイルス、ホルデイウイルス、ポテックスウイルス、ポティウイルス、カルラウイルス、クロステロウイルス、トティウイルス科(Totiviridae)、パルティティウイルス科(Partitiviridae)、ミオウイルス科(Myoviridae)、スチロウイルス科(Styloviridae)、ポドウイルス科(Podoviridae)、テクティウイルス科(Tectiviridae)、プラズマウイルス科(Plasmaviridae)、コルチコウイルス科(Corticoviridae)、ミクロウイルス科(Microviridae)、イノウイルス科(Inoviridae)、シストウイルス科(Cystoviridae)およびレビウイルス科(Leviviridae)。好ましい実施形態では、生物病原体は、ヒト細胞に感染する病原体である。
【0073】
ウイルスは、上記のファミリーに該当しないウイルスまたは感染体、例えば、植物サテライトウイルス、プリオン、バキュロウイルスおよびバクテリオファージをそれぞれ含み得ることが理解されるべきである。
【0074】
「バクテリオファージ」の用語は、本発明によれば、バクテリオファージを示し、これは、細菌の特定の株、例えば、サルモネラ(salmonella)、大腸菌(Escherichia coli)、ブドウ球菌(staphylococcus)またはシュードモナス(pseudomonus)バクテリオファージに感染する。実施形態では、生物病原体は、バクテリオファージである。
【0075】
本発明の第1の態様に関して、プラズマコーティング技術は従来技術で知られている。例えば、Molecular Plasma Group S.A.によって開発されたPlasmaSpot(登録商標)システムおよびPlasmaline(登録商標)システムは、この文書で特定されている生物病原体伝播阻害化合物を含むコーティング前駆物質が供給され、方法が濾過材上で実施されることを条件として、本発明の方法を実施することが可能である。濾過材の通気性はこれにより実質的に影響を受けない。
【0076】
本発明の第2の態様によれば、プラズマコーティング技術は従来技術で知られている。例えば、Molecular Plasma Group S.A.によって開発されたPlasmaSpot(登録商標)システムおよびPlasmaline(登録商標)システムは、圧縮可能な構造を圧縮するための構造圧縮システムが、Molecular Plasma Group S.A.によって開発されたPlasmaSpot(登録商標)システムおよびPlasmaline(登録商標)システムなどのコーティングシステムのプラズマ域の前および/またはその中に配置されることを条件として、本発明の方法を実施することが可能である。このような構造圧縮システムは、ローラーのセットを含むことが好ましい場合がある。このようなローラーは、構造が前駆物質を含むプラズマに曝露されるプラズマ域に入る前に、圧縮可能な構造を圧縮させることができる。好ましくは、プラズマ装置は、この文書において特定されている生物病原体伝播阻害化合物を含む前駆物質を供給され、好ましくは、コーティングは通気性構造、より好ましくは通気性フィルター上で実施される。フィルターの通気性は、これにより実質的に影響を受けない。
【0077】
本発明が、例えばHVACシステム用の空気濾過材に関する場合、この空気濾過材は、好ましくは、空気中のウイルスの通過を遮断するためにウイルス抑制剤でコーティングされている。同時に、濾過材料の通気性は、コーティングプロセスによって本質的に影響を受けないままである。これは、Sars-Cov-2ウイルスが空気またはエアロゾルを介して拡散する危険性を減少させるのに特に適している。さらに、ウイルス抑制剤はSars-Cov-2ウイルスに有害であるが、コーティングプロセスと同様に環境に優しい。したがって、コーティングした空気濾過材を廃棄する際に、追加の処理ステップは必要とされない。
【0078】
本発明は、したがって、第1の態様において、通気性濾過材をプラズマコーティングするための方法であって、以下のステップ:
a)150℃以下の温度および大気圧に近い圧力でプラズマガスをイオン化し、これによりプラズマ放電を発生させるステップと、
b)コーティング前駆物質を前記プラズマ放電に導入し、これによりコーティング前駆物質を含むプラズマ放電を得るステップと、
c)濾過材を前記コーディング前駆物質を含むプラズマ放電、またはその結果生じるプラズマ残光に曝露し、これにより濾過材の表面にコーティングを形成するステップ
とを含む、方法に関する。
【0079】
コーティングした濾過材は通気性である。
これにより、コーティング前駆物質は、生物病原体伝播阻害化合物を含み、これは、好ましくは、生物病原体不活性化化合物、生物病原体固定化化合物および/または生物病原体増殖減少化合物である。不活性化化合物の好ましい実施形態は、殺生物化合物、殺ウイルス化合物および/または殺菌化合物である。
【0080】
本発明は、本発明の方法を使用してコーティングした濾過材、および前記濾過材を含む濾過システムにも関する。
【0081】
本発明は、第2の態様において、圧縮可能な構造をプラズマコーティングするための方法であって、以下のステップ:
- 圧縮可能な構造を圧縮し、これにより少なくとも部分的に、好ましくは本質的に完全に、圧縮可能な構造から空気を除去するステップと、
- 以下のステップ:
i)低温および大気圧に近い圧力でプラズマガスをイオン化し、これによりプラズマを発生させるステップと、
ii)前駆物質を前記プラズマに導入し、これにより前駆物質を含むプラズマを得るステップと、
iii)圧縮構造を前記前駆物質を含むプラズマに曝露し、これにより構造の表面にコーティングを形成するステップと
に従って、圧縮構造をコーティングするステップと
を含む方法に関する。
【0082】
好ましくは、前駆物質は、生物病原体伝播阻害化合物を含み、これは、好ましくは、生物病原体不活性化化合物、生物病原体固定化化合物および/または生物病原体増殖減少化合物である。不活性化化合物の好ましい実施形態は、殺生物化合物、殺ウイルス化合物および/または殺菌化合物である。
【0083】
濾過材は、単一層の材料であり得る。あるいは、本発明の一態様において、濾過材は、2つ以上の層を含む。2つ以上の層は、同一のまたは異なる組成物、すなわち同じポリマーまたは異なるポリマーを含む組成物を有し得る。さらに、これらの層は、例えば、第1の層がメルトブローポリプロピレンであってもよく、第2の層がスパンボンドポリプロピレンであってもよい、同じまたは異なる構造を有し得る。さらに、これらの層は、特にこれらの層が好ましい向きを有する繊維を含む場合に、同じかまたは異なる向きを有し得る。さらに、これらの層は、同じかまたは異なる厚さを有し得る。
【0084】
この方法の好ましい実施形態では、コーティング前駆物質は、殺生物化合物、より好ましくは表1の任意の化合物または化合物の任意の組合せを含み、ここで、容易に参照できるように構造を示す。コーティング前駆物質の化学的性質は、古典的単量体から飽和分子、有機から無機分子、低分子量(例えば、単量体、オリゴマー)から高分子量(例えば、溶解または乳化されるポリマー)の範囲におよび得る。
【0085】
【0086】
殺ウイルス性前駆物質は、細胞外ウイルス粒子(ビリオン)を攻撃および不活性化する、すなわち、この感染性を少なくとも部分的に低下させる化学物質、例えば、個々の化合物または組成物である。多くの場合では、殺ウイルス物質は、(i)ビリオンタンパク質カプシドもしくは超カプシド膜を損傷するか(この殻が破壊されると、ウイルスが物質を宿主細胞に注入する方法は存在しない)、または(ii)ビリオンに侵入し、ウイルスゲノムを破壊することにより、宿主においてウイルスゲノムがそれ自体を複製することは、もはやできなくなる。ウイルス粒子完全性も影響され得る。
【0087】
好ましい実施形態では、コーティング前駆物質は、殺ウイルス化合物を含む。より好ましくは、コーティング前駆物質は、疎水性前駆物質、親水性グリコールベースの前駆物質、アミノベースの前駆物質、スルホネートベースの前駆物質、アンモニウムベースの前駆物質、ホスホネートベースの前駆物質、天然化合物、またはこれらの任意の組合せ、例えば表2の化合物の任意の1つまたは任意の組合せのうちの1つまたは複数を含む。
【0088】
【0089】
特に好ましい実施形態では、コーティング前駆物質は、クエン酸を含む。好ましくは、前駆物質は、前駆物質の総重量に基づいて、少なくとも15重量%のクエン酸、例えば、少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%のクエン酸を含む。
【0090】
クエン酸は、好ましくは、純度99.5%の無色結晶の形態で提供され得る。好ましくは、クエン酸は少なくとも部分的に水などの水溶液に溶解している。あるいは、クエン酸はアルコールを含む溶液、より好ましくはアルコールまたは2種以上のアルコールの組合せに溶解している。クエン酸を溶解するのに適したアルコールの例は、メタノール、エタノールおよびプロパノール、例えばイソプロパノールである。最も好ましくは、クエン酸はエタノールに溶解している。
【0091】
コーティング前駆物質としてのクエン酸の好ましい実施形態によれば、少なくとも部分的に溶解したクエン酸を含む溶液は、エアロゾルとしてプラズマ放電に導入される。
【0092】
本発明の実施形態では、1つまたは複数の追加成分は、プラズマ放電にコーティング前駆物質と同時注入する。このような追加成分の具体例は、無機粒子、金属粒子または金属酸化物粒子である。同時注入とは、プラズマ放電に導入する前に、追加成分をコーティング前駆物質と混合し、追加粒子とコーティング前駆物質とが一緒にプラズマ放電に導入されることを意味する。あるいは、プラズマ放電において、追加成分をコーティング前駆物質と同時にではなく別に注入することも可能である。
【0093】
実施形態では、コーティング前駆物質は、抗生物質および/またはペプチドをさらに含む。好ましい実施形態では、コーティング前駆物質は、ヒダントイン(CAS番号461-72-3)および/または1つまたは複数のヒダントイン誘導体をさらに含む。
【0094】
前駆物質は、好ましくは、次の化合物:
.アルファ.,.アルファ.’,.アルファ.’’-トリメチル-1,3,5-トリアジン-1,3,5(2H,4H,6H)トリエタノール(HPT)、
プロパン-1-オール、プロパン-2-オール、2-フェノキシエタノール、ビフェニル-2-オール、クロロクレゾール、クロロフェン、
5-クロロ-2-(4-クロロフェノキシ)フェノール(DCPP)、
D-グルコン酸、N,N’’-ビス(4-クロロフェニル)-3,12-ジイミノ2,4,11,13-テトラアザテトラデカンジアミジン(2:1)との化合物(CHDG)、6-(フタルイミド)ペルオキシヘキサン酸(PAP)、
クエン酸、ギ酸、グリコール酸、L-(+)-乳酸、過酢酸、サリチル酸、ノナン酸、
アルキル(C12~18)ジメチルベンジルアンモニウムクロリド(ADBAC(C12~18))、
アルキル(C12~C14)エチルベンジルアンモニウムクロリド(ADEBAC(C12~C14))、
ジデシルジメチルアンモニウムクロリド(DDAC)、
ジメチルオクタデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド、四級アンモニウム化合物、ベンジル-C12-18-アルキルジメチル、1,2-ベンゾイソチアゾール-3(2H)-オン1,1-ジオキシド(1:1)との塩(ADBAS)、
N-(3-アミノプロピル)-N-ドデシルプロパン-1,3-ジアミン(ジアミン)、グルタルアルデヒド、グリオキサール、桂皮アルデヒド、3-フェニル-プロペン-2-アール(桂皮アルデヒド)、ジクロロイソシアヌレートナトリウム二水和物、N-クロロベンゼンスルホンアミドナトリウム(クロラミンB)、シムクロセン、
ブロモクロロ-5,5-ジメチルイミダゾリジン-2,4-ジオン(BCDMH/ブロモクロロジメチルヒダントイン)、
トシルクロルアミドナトリウム(トシルクロルアミドナトリウム-クロラミンT)、トロクロセンナトリウム、
5-クロロ-2-メチル-2H-イソチアゾール-3-オン(EINECS247-500-7)および2-メチル-2H-イソチアゾール-3-オン(EINECS220-239-6)の混合物(CMIT/MITの混合物)、
モノリニュロン、
ビス(ペルオキシモノサルフェート)ビス(サルフェート)ペンタカリウム、
ピリジン-2-チオール1-オキシド、ナトリウム塩(ピリチオンナトリウム)、
ブロノポール、銅、1,2-ベンゾイソチアゾール-3(2H)-オン(BIT)、
3,3’-メチレンビス[5-メチルオキサゾリジン](オキサゾリジン/MBO)、
N-C10-16-アルキルトリメチレンジ-アミン、クロロ酢酸との反応産物(Ampholyt20)
2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート(DIAMA)、
2-(tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレート(BUTAMA)、
3-(ジメチルアミノ)-1-プロピルアミン(DIMAP)、
N-[3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド(DMAPMA)、PVP-I2ポリ(ビニルピロリドン)-ヨウ素錯体、
キトサン、
ナイシン、
ナタマイシン、
クロルヘキシジングルコネート、
CuOナノ粒子
のいずれかまたは任意の組合せを含む。
【0095】
特に好ましい実施形態では、前駆物質は、クエン酸を含む。上記の前駆物質、特には、クエン酸は、好ましくは、生物病原体不活性化化合物として使用し、このため、殺生物層が望ましい場合に好ましい。
【0096】
加えて、またはあるいは、前駆物質は、疎水性前駆物質、グリコールベースの親水性前駆物質、アミノベースの前駆物質、スルホネートベースの前駆物質、アンモニウムベースの前駆物質、ホスホネートベースの前駆物質、天然化合物またはこれらの任意の組合せを含み得る。より好ましくは、前駆物質は、次の化合物のいずれかまたは任意の組合せを含み得る:
1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシルアクリレート、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクチルアクリレート(2-(ペルフルオロヘキシル)エチルアクリレートとも呼ばれる)、
1H,1H,2H,2Hペルフルオロデシル、
トリエトキシシラン、
ポリ(エチレングリコール)メタクリレート、好ましくは高グリコール含量を有し、好ましくはヒドロキシ基が末端である、
ジ(エチレングリコール)エチルエーテルアクリレート、
ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート、好ましくは高グリコール含量を有する、
ジプロピレングリコールジアクリレート、
トリプロピレングリコールジアクリレート、
アクリルアミド、
2-ヒドロキシプロピルメタクリルアミド、
2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、
[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、好ましくは溶解方法を使用する、
[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、好ましくは溶解方法を使用する、
[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、好ましくは水溶液を用い、より好ましくは少なくとも75wt%の溶液を用いる、
[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、好ましくは水溶液を用い、より好ましくは少なくとも80wt%の溶液を用いる、
[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド、好ましくは水溶液を用い、より好ましくは少なくとも50wt%の溶液を用いる、
(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、好ましくは水溶液を用い、より好ましくは少なくとも75wt%の溶液を用いる、
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、好ましくは溶解方法を使用する、
ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ホスフェート、
ジエチル(アクリロイルオキシエチル)、
ホスホロアミデート、好ましくは合成である、
ジエチルアリルホスフェート、
チモール、好ましくは溶解方法を使用し、より好ましくはアルコール溶液を用いるか、または有機溶剤の溶液を用いる、
クエン酸、好ましくは溶解方法を使用し、より好ましくはアルコール溶液を用い、より好ましくはエタノール溶液を用いるか、または水溶液に少なくとも部分的に溶解する、
乳酸(DL)、好ましくは液体形態であり、および/または水溶液もしくはアルコール溶液、例えばエタノール溶液を用いる。
このような前駆物質は、好ましくは、生物病原体不活性化化合物として使用し、ここで、生物病原体はウイルスであり、このため、殺ウイルス層が望ましい場合に好ましい。
【0097】
好ましい実施形態では、コーティング前駆物質は、ハロゲン含有化合物、より好ましくは、本発明のコーティング層に存在する場合、そのハロゲンを浸出させることが可能なハロゲン浸出化合物を含む。好ましくは、化合物は、塩素、フッ素、臭素および/またはヨウ素を含む。ハロゲン化ヒダントインまたはヒダントインベースの化合物が特に好ましく、例えば、好ましくは、1-ブロモ-3-クロロ-5,5-ジメチルヒダントイン(BCDMHまたはブロモクロロジメチルヒダントイン、CAS番号16079-88-2とも呼ばれる)である。理論に拘束されることは望まないが、ハロゲンを浸出させるコーティング層と接触することとなる生物病原体を不活性化し得ることが予想される。
【0098】
好ましい実施形態では、前駆物質は、サクシンイミドまたはサクシンイミドベースの化合物を含む。サクシンイミド(CAS番号123-56-8)は、次の構造式を有する。
【0099】
【0100】
サクシンイミドおよびサクシンイミドベースの化合物は、生物病原体固定化化合物として特に好ましい。
【0101】
実施形態では、前駆物質は、次:
- 病原体官能基を有する有機シロキサン、
- 官能基を有し、これにより、好ましくは、この重合性化合物がアクリレート、メタクリレートもしくはビニルである、重合性化合物、および/または
- 官能基を有する飽和化合物
のいずれかを含み、ここで、官能基は、生物病原体伝播阻害官能基であり、これは、フッ素化官能基、グリコールベースの官能基およびアミン基、スルホネートベースの官能基、アンモニウムベースの官能基またはホスフェートベースの官能基であり得る。これにより、好ましくは、アミン基は、一級アミン基、二級アミン基または三級アミン基であり得る。好ましい実施形態では、前駆物質は、FPDAおよび/またはBUTAMAを含む。
【0102】
実施形態では、前駆物質は、ヒドロキシ(アルコール)、カルボキシ(酸)、アルデヒド、アミン、グリコール、フッ素化炭素、シロキサン、四級アンモニウム、スルホネート、アンモニウム、ホスホネート、ハロゲン、天然油、金属(金属ナノ粒子)、金属酸化物、無機粒子、塩、酵素、界面活性物質、ペプチド、リポペプチド、キトサン、抗生物質またはこれらの任意の組合せを含む。
【0103】
本発明の実施形態では、生物病原体伝播阻害化合物は、生物病原体増殖減少化合物、好ましくは、微生物増殖減少化合物である。次いで、本発明の方法は、表面に接着する微生物材料の増殖を減少させるために使用することができる。これにより、好ましくは、前駆物質は、アミン、シロキサン、スルホネート、アンモニウム、ホスホネート、四級アンモニウム、金属ナノ粒子、酵素、界面活性物質、ペプチド、リポペプチドまたはこれらの任意の組合せを含む。
【0104】
本発明の実施形態では、生物病原体伝播阻害化合物は、生物病原体固定化化合物、好ましくは、微生物採取化合物である。次いで、本発明の方法は、微生物材料を表面上で採取するために使用することができる。これにより、好ましくは、前駆物質は、キトサンを含む。
【0105】
本出願人らは、上述のコーティング前駆物質が、通気性を有意に低下させることなく、圧力降下を有意に増加させることなく、生物有機体および化合物に関して濾過材の表面特性を有意に変化させることを見出した。より詳細には、コーティング前駆物質は、本発明の方法を使用して沈着させた層を設けた濾過材の表面と接触する状態となる生物病原体の伝播の少なくとも部分的な阻害が可能となる化合物である。上に示すように、生物病原体の伝播の少なくとも部分的な阻害は、前駆物質として使用する化合物に応じた様々な方法で生じさせることができる。少なくとも3つの可能な作用が、生物病原体の伝播を阻害するために使用可能である。
【0106】
本文書の文脈では、「阻害」の用語は、生物病原体の伝播が不完全であるか、または遅延するという意味において、部分的阻害を含むことに留意されたい。好ましくは、伝播の完全な阻害を生じる。
【0107】
本発明は、前駆物質の生物病原体伝播阻害機能性が、コーティング層を沈着させるプロセス、よって、濾過材の表面に沈着したコーティングにおいて維持されることを確実とするのに極めて好適である。これは、プラズマガスを標準的な温度および圧力条件下、例えば、室温または室温に近い温度および大気圧または大気圧に近い圧力で適用し、前駆物質を、直接プラズマ化するのではなく、プラズマ放電に導入する、すなわち、前駆物質を、プラズマ種との衝突により主に間接的に励起するためである。この種類の励起により、前駆物質の断片化のリスクまたは機能性喪失の他の可能な任意の原因が減少する。
【0108】
コーティングを沈着させる濾過材が、任意の種類の形状およびサイズを有する場合があり、例えば、天然材料、生物分解性または水溶性材料のように、それらの不活性な性質または極度の脆弱性のため、処理が困難であり得ることを理解することは重要である。しかし、本発明の方法は、際立って低刺激であり、多数の材料に使用することができる。
【0109】
上記の方法の実施形態では、前駆物質をガス、液体または固体として、好ましくはガスとしてまたはエアロゾルの形態の液体として、最も好ましくはエアロゾルの形態の液体として、プラズマ放電に投与する。
【0110】
好ましくは、低エネルギープラズマが本発明において使用される。低エネルギープラズマは、電力密度が、前駆物質および/または基材、すなわち濾過材を活性化して化学反応を起こすことが可能となるのに十分に高いが、前駆物質および基材の破壊を防ぐのに十分に低いプラズマとして本明細書において定義する。電力密度は、好ましくは、0.2W/l(反応が行われるチャンバーの容量1リットルあたりのW)~8W/l、より好ましくは、0.5W/l~7W/l、なおより好ましくは、0.8W/l~6W/l、またより好ましくは、1W/l~5W/l、さらにより好ましくは、1.5W/l~4W/l、なおさらにより好ましくは、2W/l~3W/lの範囲、例えば2W/l、2.1W/l、2.2W/l、2.3W/l、2.4W/l、2.5W/l、2.6W/l、2.7W/l、2.8W/l、2.9W/l、3W/lまたはその間の任意の値、最も好ましくは、2.4W/l~2.6W/lの範囲である。
【0111】
好ましくは、コールドプラズマが本発明において使用される。コールドプラズマは、このコールドプラズマに曝露される前駆物質(例えば、断片化)および/または濾過材(例えば、融解)へのいずれの損傷も回避するのに十分に温度が低いプラズマとして、本明細書において定義する。有利には、プラズマ放電の温度は、150℃以下、より好ましくは、130℃以下、なおより好ましくは、100℃以下、またより好ましくは、70℃以下、さらにより好ましくは、60℃以下、またより好ましくは、55℃以下、なおさらにより好ましくは、50℃以下、さらにまたより好ましくは、45℃以下である。プラズマ放電の温度は、好ましくは、室温、すなわち、プラズマ放電周囲の温度まで下げ得る。コーティングプロセスを行う場所に応じて、室温は、10~40℃、好ましくは、15~30℃、例えば、20~25℃の範囲であり得る。プラズマ放電の温度は一般に、室温以上である。
【0112】
温度感受性コーティングを沈着させる場合、プラズマの温度を最適値で定常に維持することが重要である。前駆物質もしくは前駆物質混合物の種類および/または圧力に応じて、最適温度を選択し得る。したがって、実施形態では、前駆物質、前駆物質混合物および/またはプラズマ圧力の種類を考慮して、プラズマの温度を選択する。
【0113】
本発明のプラズマは、好ましくは、周囲圧力に近い圧力を有する大気圧プラズマである。このようなプラズマは、500~1300hPaの圧力、好ましくは、600~1250hPa、さらにより好ましくは、700hPa~1200hPa、なおより好ましくは、800hPa~1150hPa、またより好ましくは、900hPa~1100hPa、最も好ましくは、典型的には、約1013hPaであり得る周囲圧力に近い圧力で発生および放電させる。低エネルギーのコールドプラズマは、400hPa未満から真空まで低下させる減圧または1600hPaを超える加圧下で適用してもよく、両方の場合では、このような低または高圧力を維持する圧力容器を必要とすることに留意されたい。しかし、周囲圧力に近い現在好まれる範囲の圧力によるプラズマの使用により、圧力差および圧力勾配の維持に関する任意のコストおよび困難が削減される。
【0114】
好ましい実施形態では、プラズマは、大気圧下の誘電体バリア放電プラズマである。
好ましい実施形態では、プラズマガスを電極によってイオン化し、このため、より好ましくは、このプラズマガスをこの電極によって、電極表面1cm2あたり最大10ワット、より好ましくは、最大で9W/cm2、なおより好ましくは、最大で8W/cm2、さらにより好ましくは、最大で7.5W/cm2の電力でイオン化する。本発明の多くの実施形態では、電極により適用される電力は、最小で1W/cm2、好ましくは、最小で2W/cm2、なおより好ましくは、最小で2.5W/cm2である。電力は、最も好ましくは、2.5~7.5W/cm2である。
【0115】
好ましい実施形態では、プラズマガスは、少なくとも容量99%の不活性ガスを含む。不活性ガスのプラズマガスとしての使用により、温度が上昇する場合でなくても、このプラズマガスおよび設備によって、プラズマガスそれ自体の分子間に副反応が起こらないことが本質的に確実となる。実際、副反応の欠如によっても、プロセス温度を低く、例えば、50℃未満、好ましくは、室温に近い温度に維持することが可能となると思われる。低温のプラズマにより、広範な材料から作られた基材の処理が可能となる。その上、これにより、コーティングの形成およびこの接着特性のより良い制御が可能となる。理論に拘束されることは望まないが、発明者らは、プラズマガス中の反応性ガスの欠如により、プラズマガスによる化学反応が、基材の表面において、まったくまたはほとんど起こらず、このため、コーティング特性のより良い制御が可能となることが確実となると考える。また、プラズマガスが窒素(N2)であるか、または主にN2からなる場合、本発明の実施形態においてプラズマに適用する低電力により、生じるコーティングに窒素が取り込まれても非常に少量であるか、またはまったく取り込まれないことがわかる。これは、例えば、O2、NH3またはCH4のプラズマガスとしての使用とはまったく対照的であり、これらはすべて反応性ガスであるとされ、これらはすべてプラズマガスのコーティング中にさらなる微量を残し、これによりコーティング特性が制御不能となると思われる。
【0116】
好ましい実施形態では、このプラズマガスは、少なくとも容量99%の不活性ガスを含む、すなわち、プラズマガスの容量1%(vol%)以下が、反応性ガスである。より好ましくは、プラズマガスの少なくとも99.5vol%、なおより好ましくは、少なくとも99.8vol%、なおより好ましくは、少なくとも99.9vol%、さらにより好ましくは、少なくとも99.95vol%、またより好ましくは、少なくとも99.99vol%が、不活性ガスである。これは、プラズマガスが、好ましくは、1vol.%以下のO2、より好ましくは、最大で0.5vol%、なおより好ましくは、最大で0.2vol%、またより好ましくは、最大で0.1vol%、なおより好ましくは、最大で0.05vol%、さらにより好ましくは、最大で0.01vol%のO2を含むことを意味する。本発明の大気プラズマプロセスでは、これは、例えば、周囲圧力に関して過度の圧力を使用することにより達成することができ、例えば、プラズマガスは、少なくとも1013mbar、好ましくは、少なくとも1020mbar、より好ましくは、少なくとも1030mbar、さらにより好ましくは、少なくとも1040mbar、さらにより好ましくは、少なくとも1050mbarの圧力で送達される。このようなわずかに過度の圧力により、プラズマ残光に低酸素およびさらには無酸素域を生成することが可能となる。
【0117】
好ましい実施形態では、前駆物質は、プラズマガス残光に加える。これにより、プラズマガスが、プラズマ誘導システム、例えば、電極のセットを越えておよびこの間に流れる。プラズマ誘導システムの下流に、プラズマガス残光が存在し、これは、多数の励起プラズマ種、例えば、脱イオン化する時間を有しなかったイオン化プラズマガス分子または励起状態のプラズマガス分子を含む。前駆物質は、好ましくは、このプラズマガス残光に導入する。結果として、前駆物質は、例えば、プラズマガスのイオン化に使用する電極間に導入する必要はなく、したがって、前駆物質が電極上に層を形成することができないため、電極は長時間清浄に維持され得る。
【0118】
本発明の大気圧プラズマコーティングプロセスでは、バッチプロセスおよびインラインプロセスの両方が可能となる。したがって、実施形態では、濾過材などの構造は、濾過材などの構造をコーティング前駆物質を含むプラズマ放電に曝露するステップの間に移動する。別の実施形態では、濾過材などの構造は、濾過材などの構造をコーティング前駆物質を含むプラズマ放電に曝露するステップの間、静止している。また別の実施形態では、濾過材などの構造は、濾過材などの構造をコーティング前駆物質を含むプラズマ放電に曝露するステップの間、所定の軌道に従って移動し、静止したままである。これにより、例えば、濾過材などの構造の一部分上には厚いコーティングを、この濾過材などのこの構造の他の部分上には薄いコーティングを生成することが可能となる。
【0119】
本発明の実施形態では、プラズマガス流は、1~1500標準リットル毎分(「slpm」)、より好ましくは、50~1500slpmである。1「slpm」は、大気圧および室温における1リットルのガスである。より好ましくは、プラズマガス流は、80slm~1000slm、例えば、100slm~750slm、125slm~600slm、または150slm~500slmである。
【0120】
好ましくは、前駆物質を含むプラズマガスは、プラズマジェットノズルの出口から排出する。好ましい実施形態では、プラズマガス流は、基材の表面とプラズマジェットノズルの出口との間の距離を考慮して決定する。このような距離が長いほど、使用した前駆物質以外の反応性ガスを有しないプラズマに濾過材の表面を晒すことを確実とするために、プラズマガス流がより必要とされる。特には、プラズマが、例えば、周囲の空気に由来する酸素を本質的に含まないことを確実とすることができる。
【0121】
本発明の実施形態では、構造、例えば、フィルターは、前駆物質を含むプラズマに晒す前にプラズマ前処理ステップを経る。これにより、プラズマ前処理によって、好ましくは、構造、例えばフィルターの表面が活性化され、すなわち、微小有機夾雑が除去され、および/または表面ラジカルが生成され、また、好ましくは、表面が少なくとも部分的に酸化されて、多くの場合、表面エネルギーの上昇が引き起こされ得る。
【0122】
好ましい実施形態では、前処理は、
- 酸素に富むプラズマ環境において、より好ましくは、空気またはCO2もしくは他の酸素含有種を使用して、
- プラズマガスイオン化ステップa)の間に使用する電力と比較して高い電力で、および/あるいは
- 化学的前駆物質を加えずに
実施する。
【0123】
本発明の実施形態では、コーティングした構造、例えば濾過材は、大気プラズマ後処理ステップを経る。好ましくは、この後処理ステップ中、例えば、沈着したコーティングのさらなる架橋によって、コーティングの分子量は増加する、および/またはコーティングの熱安定性は改善する。
【0124】
好ましい実施形態では、プラズマ後処理は、
- 酸素の非存在下で、不活性プラズマガス、例えば、N2、ArもしくはHe(またはこれらの混合物)を使用して、
- プラズマガスイオン化ステップa)の間に使用する電力よりも低いプラズマ電力において、および/あるいは
- 化学的前駆物質を加えずに
実施する。
【0125】
プラズマにより、コーティング前駆物質および/または濾過材の表面が化学的に活性化される。前駆物質および/または表面のこの活性化は、二重原子結合開口、ラジカル除去および/またはイオン形成により生じ得る。これにより、コーティング層の形成に必要とされる反応が可能となり、および/または向上する。このような反応は、
- 前駆物質分子間の反応、例えば、重合反応および架橋結合反応、ならびに/または
- 前駆物質分子と表面との間の反応、例えば、共有結合反応
を含み得る。
【0126】
好ましくは、コーティングは、表面に共有結合的に移植する。
本発明の実施形態では、プラズマコーティングは、5~600nm、好ましくは、5~500nm、より好ましくは、10~500nm、さらにより好ましくは、10~300nm、またより好ましくは、10~200nm、なおより好ましくは、10~80nm、例えば、10nm、20nm、30nm、40nm、50nm、60nm、70nm、80nmまたはこれらの間の任意の値、最も好ましくは、約20nmの厚さを有する。プラズマコーティングの厚さは、コーティング前駆物質を含むプラズマ放電への表面の曝露時間、および/または適用される温度、圧力および電力などのプロセスパラメータを制御することによって、良好に制御することができる。
【0127】
好ましくは、本発明の方法を使用してコーティングした濾過材の通気性は、コーティング前の濾過材(無処理の濾過材)と実質的に同じ通気性である。通気性は、ISO 9237またはASTM D737に従って測定することができ、布の所与の面積を垂直に通過する空気の流量は、所与の期間にわたって織物検査面積を横切る所与の圧力差で測定される(単位:cm3/(s.cm2))。好ましくは、無処理の濾過材と比較したコーティングした濾過材の通気性の減少は、20%以下、好ましくは、15%以下、より好ましくは、10%以下、例えば9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、または5%以下、4%以下、3%以下、2%以下またはさらには1%以下である。
【0128】
好ましくは、本発明の方法を使用してコーティングした濾過材の流れ抵抗は、コーティング前の濾過材(無処理の濾過材)と実質的に同じ流れ抵抗である。流れ抵抗は、濾過材を横切る圧力差(「デルタP」)、すなわち、制御された流量および/または流速で流される空気などのガスの濾過材を横切る圧力の差として表される。濾過材の流れ抵抗は、TSI Incorporatedの自動フィルターテスター8130型を用いて検査することができる。「実質的に同じ」の用語は、コーティング後の濾過材のデルタPが、コーティング前の濾過材のデルタPに対して有意に増加しないことを意味することを意図している。好ましくは、無処理の濾過材と比較したコーティングした濾過材の流れ抵抗の増加は、20%以下、好ましくは、15%以下、より好ましくは、10%以下、例えば9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、例えば5%以下、4%以下、3%以下、2%以下または1%以下である。好ましくは、本発明の態様によるプラズマコーティングした濾過材の流れ抵抗は、120Pa以下、有利には、100Pa以下、有利には、90Pa以下、有利には、80Pa以下、有利には、70Pa以下である。
【0129】
無処理の濾過材と比較したコーティングした濾過材の通気性の低下および流れ抵抗の増加は、コーティングの厚さと濾過材の構造との両方に関係する。より厚いコーティングは、特に濾過材の孔がかなり小さい場合、より薄いコーティングよりも高い程度まで通気性を低下させ、圧力降下を増加させ得る。
【0130】
本出願人は、本発明の方法により、優れた殺ウイルス性および抗細菌性と組み合わせて、無処理の濾過材と比較して通気性の減少が限定的で、かつ流れ抵抗の増加が限定的である、コーティングした濾過材が得られることを見出した。この特性の組合せは、2mm以上の厚さを有する濾過材でさえも得られる。本発明で使用されるコーティング前駆物質は、600nm以下の厚さを有する薄いコーティングによって、基材に優れた殺ウイルス性および抗細菌性を提供することが証明されている。さらに、本出願人は、本発明の方法のプロセスパラメータを使用することにより、濾過材の開放性を維持することを可能にしながら、薄い殺ウイルス性および抗菌性コーティングが濾過材の深さまで沈着し、したがって通気性の低下および圧力降下の増加を制限することを発見した。
【0131】
好ましい実施形態では、プロセス温度は、最大で50℃、より好ましくは、最大で40℃、なおより好ましくは、最大で30℃、最も好ましくは、室温に近い温度である。
【0132】
好ましい実施形態では、プロセス温度は、より好ましくは、プラズマガスのイオン化に使用する電極のうちの1つまたは複数を加熱または冷却することにより制御する。電極の温度は、空気または液体、例えば、水または油が電極を通過することによって調節され得る。好ましくは、プラズマガスの温度をより良好に制御できるようにするために、電極および/または濾過材(または、濾過材がプラズマ処理装置内の基材ホルダー上に配置されている場合には基材ホルダー)の温度が測定される。典型的には、これは、温度制御システム、例えばPID制御システムを使用して、所定の所望の処理温度が測定温度とどのように関連しているかをチェックするために達成することができ、これにより、プラズマ放電の冷却/加熱を、例えば、電極(単数または複数)、濾過材、および使用される場合には基材ホルダーを冷却/加熱することによって操ることが可能になる。必要に応じて、装置のプラズマ放電チャンバーのうちの1つまたは複数の壁も温度制御することができる。好ましくは、温度制御システムは、処理温度が電極温度と濾過材(基材)温度との間にあることを保証する。
【0133】
本発明のプラズマ沈着プロセスは、プラズマガス段階における表面ラジカル(すなわち、難処理基材の活性化)およびラジカル化種の同時生成に基づき、これにより、基材への種のラジカル再結合反応(すなわち、共有結合に基づく移植)が引き起こされる。
【0134】
図1~4に概要を述べるスキームは、大気圧プラズマ沈着プロセスの間の種々の段階を示す。
図1:t=t0でプラズマをオンにする。コーティング前駆物質R-Xをプラズマガスに加え、コーティング前駆物質を含むプラズマ放電を基材(濾過材)の表面と接触させる。これにより、前駆物質R-Xをラジカル化し、表面を活性化する。
図2:t=t1でプラズマをオンにする。ラジカル再結合反応が表面上で起こり、基材の表面とコーティング前駆物質との間に共有結合が生じる。
図3:t=t2でプラズマをオンにする。フィルムの成長およびコーティング厚さは、処理時間ならびに印加電力および温度などの処理パラメータに依存する。また、架橋結合が起こる。
図4:t=t3でプラズマをオフにする。プラズマ処理後、機能性プラズマ沈着コーティング(フィルム)が残り、これは、基材の表面上に移植、好ましくは共有結合により移植する。
【0135】
ステップ1では、プラズマを発生させて(不活性プラズマガス、例えば、N2、アルゴン、ヘリウムまたはこれらの任意の混合物を使用する、直接的または間接的プラズマ構造に基づき得る)、プラズマガス段階においてラジカル化種を即時的に生成する。このような種は、ガス(もしくはガス混合物)または液体(例えば、エアロゾル、噴霧、液体混合物、乳濁液、分散液もしくはポリマー溶液)として、好ましくは、ガスまたはエアロゾルとして、プラズマに加えることができる。
図1~4に概略を示したスキームでは、「R-X」という表記は最初のコーティング前駆物質を示すため、「R-X・」は前駆物質のラジカル化形態を示すために使用され、「R」は標的官能基であり、「X」はラジカル化され得る分子の一部である。例えば、「X」は、反応性であり得るが(例えば、C=C二重結合、C=O、エポキシ、イソジアネート、等)、非反応性であってもよく(すなわち、飽和している)、この特異的場合では、ラジカルは、水素引抜きまたは他の任意の単結合切断に基づいて形成される。
【0136】
ラジカル化種に加えて、ガス段階において、プラズマ放電に接触する場合基材(濾過材)の表面上に表面ラジカルも形成する。このような表面ラジカルの生成は、水素引抜きまたは基材の表面に位置する共有結合の切断に主に基づき得る。
【0137】
ステップ2では、ラジカル化種と表面ラジカルとの間にラジカル再結合反応が起こる。このラジカル再結合反応によって、共有結合の形成による濾過材の表面への前駆物質の永久的移植が生じる。反応性ガス、例えば、O2の存在は、好ましくは、この段階の間に回避されることに注目しなければならない。
【0138】
ステップ3では、ラジカル再結合による種の連続的組込みによって、フィルム成長が起こる。プラズマプロセスが「非特異的」であり、これは、特異的前駆物質を表面上の任意の位置に構築可能であることを意味し、プラズマ沈着フィルムの不均一な構造が分子レベルでもたらされることに注目しなければならない。その上、「連続的」プラズマまたは「瞬間的」プラズマプロセスにおいて、フィルム成長が起こり得る。この瞬間的プラズマは、その間電力が印加されない、特異的プラズマオフタイムを有し、ここでは、従来のポリマー合成における伸張と同様に、再結合反応が支持される。
【0139】
プラズマ沈着プロセスの最終段階(ステップ4)では、プラズマのスイッチをオフにするか、または同様に、基材をプラズマ残光域から離して、基材の表面に共有結合する完全機能性コーティング層を生成した。
【0140】
生物病原体伝播阻害化合物を有する前駆物質を使用することにより形成した層の生物病原体伝播阻害特性は、広範な動作条件下で得ることができることが観察されている。これにより、生物病原体の伝播を阻害する機能は、複雑な触媒を必要としないという意味では、相対的に未熟であることに留意されたい。本発明の本旨は、濾過材基材の表面上で複雑な化学反応を誘導することではなく、生物病原体の伝播を減少させることである。
【0141】
本発明の一態様によれば、濾過材は多層濾過材である。
図5を参照すると、多層濾過材10は、好ましくは、互いに連結した複数の濾過層11~14を含む。1つまたは複数の層、例えば、層11~13は、波状層と呼ばれる波状形状を有し得る。波状層は、交互の山101と谷102とを特徴とする。山101は、典型的には、波状層の基材の厚さTの数倍(少なくとも2倍)の高さHを超えて谷から突出している。波状層は、均一な層厚を有することができる。さらに、層14のような1つまたは複数の層は、平坦層または平面層、すなわち、いかなる波状表面も含まない層であり得る。層14は、有利には、裏打ち層または支持層として使用され、例えば、波状層11~13に支持を与える。層11~13の波状形状は、基材を起伏させることによって、または複数のプリーツによって得ることができる。このような多層濾過材は、第1の曝露表面を規定する第1の面103と、第1の面103とは反対側の第2の曝露表面を規定する第2の面104とを有し得る。濾過材10は、空気流に対して所定の向きを有してもよく、例えば、濾過材は、第1の面103が上流側(すなわち、濾過される空気流に曝露される側-塵埃側)に配置され、第2の面104が下流側(すなわち、清浄側または濾過される側)に配置されるように、気流中に配置することができる。
【0142】
図6を参照すると、多層濾過材20の別の例は、正弦波の断面形状に似た起伏のある形状を有する1つまたは複数の波状層21、22を含む。層21、22は、互いに、および平坦であってもよい裏打ち層23に連結され得る。層は、縫製および/またはラミネーションによって連結されていてもよい。
【0143】
濾過材10、20内の様々な層11~14および21~23は、有利には、様々な密度および/または気孔率を有する。これにより、濾過材の空気濾過特性を高めることができる。有利には、濾過材10の外層11、14および濾過材20の外層21、23は、それぞれ内層12または22よりも低い密度を有する。例として、外層11、21(または14、13または23)の密度に対する内層12または22の密度の比は、少なくとも1.2、好ましくは、少なくとも1.4である。
【0144】
利点として、本発明の方法では、多層濾過材10、20は、プラズマ放電またはその結果生じるプラズマ残光に曝露される。
図7を参照すると、濾過材10、20は、例えばコンベアベルトとすることができる支持プラットフォーム33上に配置することができる。支持プラットフォーム33は、プラズマジェットまたはプラズマトーチなどの大気圧プラズマ装置30のプラズマチャンバー31の出口32に対向して配置されている。濾過材10、20は、出口32と支持プラットフォーム33との間に延びるプラズマ残光域34に配置することができる。可能性として、濾過材は、裏打ち層14、23が支持プラットフォーム33に面し、外側波状層11、21が出口32に面するように配置されている。あるいは、濾過材は、支持プラットフォーム33に上下逆さまに、すなわち裏打ち層14、23が出口32に面するように配置することもできる。有利には、濾過材は、プラズマ装置30を通して2回処理され、例えば、外層11、21が出口32に面している1回目と、濾過材が反転している(裏打ち層14、23が出口32に面している)2回目である。
【0145】
このようにすることで、多層濾過材の複数の層を一度にプラズマ処理することができる。以下に示すように、多層濾過材の内層にコーティングを沈着することができ、生物病原体を阻害するためのより効率的な濾過材を提供する一方で、濾過材の通気性および空気濾過特性は影響を受けないことが観察されている。
【0146】
このような多層濾過材は、HVACシステムにおいて有利に使用される。
図8を参照すると、1つの有利な用途において、濾過材10、20は、ポケットフィルター40において使用され、濾過材は、台形の断面形状を有することができる複数のポケット41を形成するように配置されている。これらのポケットの大きさは、有利には、多層濾過材の波の大きさよりも数桁大きい。濾過材、例えば濾過材10は、濾過材の第1(上流)面103が塵埃を含んだ空気流105に曝露され、第2(下流)面104がフィルターの清浄面に曝露されるように、フィルター40内に配置されている。
【実施例】
【0147】
検査および実施例
実施例1
以下に記載する検査におけるコーティングは、Molecular Plasma Technology社(Luxembourg)によるPlasmaSpot(登録商標)装置を使用し、およそ100Wの電力(ただし、60~450Wの任意の電力を使用し得る)、約15kVの電位(ただし、5~25kVの任意の電位を使用し得る)、約60kHzの周波数、プラズマガスN2(ただし、N2、He、Ar、さらに空気およびこれらの混合物をも使用し得るが、不活性ガスが好ましい)、約100slmのプラズマガス流(ただし、10~250slmの任意のプラズマ流を使用し得る)、エアロゾルとして注入する前駆物質(ただし、液体前駆物質、ガス前駆物質、液体、溶液、懸濁液等の混合物も良好に機能する)、約8mmの作動距離(ただし、1~20mmの任意の作動距離が機能すると考えられる)、およそ室温の温度を使用して得た。
【0148】
1.MS2による殺ウイルス検査
コーティングの生物病原体伝播阻害特性を、多数の前駆物質について検査した。以下の検査は、バクテリオファージMS2を使用して実施した。バクテリオファージMS2は、大腸菌に感染する275ÅのRNAウイルスである。小型のサイズ、相対的に単純な組成および成長の容易さのため、ウイルス複製、翻訳、感染および集合を含む多くの高分子プロセスのモデル生物としてMS2は使用される。精製の容易さ、人類に対する無害性および耐久性のため、MS2は、抗ウイルスおよび防腐剤の有効性ならびに水処理工場および濾過デバイスの効率についての定量的マーカーとしても益々使用されている。加えて、遺伝子修飾形態のMS2もワクチン開発のため、および臨床診断ツールとしての使用のために利用可能である。MS2の検査を一般に使用して、エンベロープウイルスに対して一般に手順が有する作用を調べる。この場合では、検査は、本発明による方法を使用して沈着させた生物活性層を有する基材を、MS2夾雑物に晒すことを含む。
検査は、LIST(ルクセンブルグ科学技術研究所)において実施した。
【0149】
ウイルス量減少検査をASTM E2721-16規格に従って実施した。ASTM E2721-16において提唱されているA型インフルエンザウイルスは、モデルとして別のウイルス:MS2に置換した。MS2は、検査間のいかなる生物安全性リスクをも防ぐバクテリオファージである。殺ウイルス活性についての結果は、A型インフルエンザ(3~4日)よりも早く(24時間)得られる。MS2は、殺ウイルス作用に関する他の規格(例えば、医療分野における殺ウイルス活性の評価のための定量的懸濁検査であるEN14476)において使用される裸のウイルスである。
【0150】
検査は、検証部分およびデータ収集部分を含んだ。対照部分では、MS2ファージを無処理の濾過材表面、すなわち、PPE口マスクの表面上に噴霧した。MS2ファージの回収物は、濾過材、すなわち、PPE口マスクをすすぐことにより得る。データ収集部分は、対照部分において同様に使用する噴霧およびすすぎステップの前に、処理ステップを含む。これにより、処理ステップでは、多くの実施形態のために本発明の方法の実施を必要とする。作用は、データ収集部分の結果を検証部分の結果と比較することにより得ることができる。
【0151】
感染制御に関しては、「対数減少値」により、病原体の減少における産物の有効性がわかる。対数減少値が大きいほど、細菌および感染を生じ得る他の病原体の殺傷において産物は、より有効である。
【0152】
産物有効性検査において、微生物学実験室では、細菌検査の場合はコロニー形成単位(CFU)または検査開始時にウイルスが存在する場合はプラーク形成単位(PFU)の数を計数する。検査は、検査する処理基材上で、対照基材と並行して実施し、必要な検査時間待機した後、存在するCFUまたはPFUの数を計数する。
【0153】
次いで、対照と検査基材との間の差異の結果は、対数減少値として表す。例えば、対照におけるCFUの数が1,000,000(または106)であることが見出され、産物を使用した最終結果が、たった1,000(103)であった場合、この結果は、対数減少値が3であるか、または減少率が99.9%である。
【0154】
Tyvek(登録商標)基材上で検査した前駆物質の結果は、表3に要約する。Tyvek(登録商標)は、高密度スパンボンドポリエチレン繊維から作られた100%合成材料である。Tyvek(登録商標)は、多くの用途、特には、個人用保護具において、一般に使用される。
【0155】
本明細書では、「LOD」は、検査方法の「検出限界」を指す。「EPA安全化学物質リスト」は、化合物を環境保護庁の安全化学物質成分リストに見出すことができるかどうかを指す。「EPA Covid」は、Sars-Cov-2ウイルスおよびCovid-19疾患に対して有効であるとされる化合物のリストを指す。
【0156】
【0157】
AntibakResidualは、エトキシ化C6~C12アルコール、2-アミノエタノール、ジデシルジメチルアンモニウムクロリドおよびN-ベンジル-N,N-ジメチルテトラデカン-1-アミニウムクロリドを含む(CAS番号は表において提供する)。ATACは、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート,メチルクロリド四級塩を指す。APTACは、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドを指し、これは、好ましくは、溶液で用いる。
【0158】
上の表の結果は、検査した前駆物質により、対数の減少がもたらされ、生物病原体の伝播の阻害におけるこれらの有効性が示されることを示す。検査した前駆物質が、多数のクラスに属することに留意されたい。クエン酸は、有機酸であり、ベンザル、SiQAMおよびAPTACは、アンモニウムクロリドであり、Antibak residualは、アルコールおよびアンモニウムクロリドの混合物であり、ATACは、四級塩であり、キトサンは、天然抗細菌物質であり、AuOおよびCuOは、金属ナノ粒子である。本発明の方法を使用してコーティングした場合の生物病原体の伝播の阻害に対する、特には、これらの抗ウイルスまたは殺ウイルス特性に対するこれらの有効性は、同一クラスの他の前駆物質に対して例示的である。
【0159】
2.黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)および大腸菌に関する抗細菌検査
検査は、25g/m2の密度を有するポリプロピレン不織布(PPNW)基材上で実施した。これは、手術用フェイスマスクの外層として、および合成織物であるTyvek(登録商標)に対して一般に使用される。
【0160】
細菌懸濁液を含む液滴を処理材料上に配置し、インキュベーション期間後に評価する。インキュベーション後、細菌は、回収培地でこれを洗浄することにより検査材料から回収する。次いで、アガープレート上での回収培地のインキュベーションにより、病原体の存在について、この回収培地を解析する。
【0161】
材料が抗細菌特性を有する場合、アガープレート上の細菌コロニー形成単位の量は、無処理の参照材料と比較すると大きく減少する。
【0162】
検査に使用する細菌は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus/S.aureus)(グラム陽性)および大腸菌(グラム陰性)であった。
【0163】
検査は、ISO規格22197/20743:多孔性および非多孔性抗細菌処理材料の抗細菌活性を評価するための定量的方法に基づく化学物質の検査ためのOECDガイドラインにより提供される国際規格に基づく。
【0164】
試料サイズは100mm2であり、細菌株は黄色ブドウ球菌ATCC6538Pであり、接種物の容量は0.2ml(40×5μl)であり、検査接種物における生細菌の数は6.60E+05CFU/ml(コロニー形成単位/ml)であり、中和剤はSCDLP(ISO22196)である。
【0165】
有効な検査の条件:
(a)および(b)にそれぞれ与えられた3つの条件が満たされる場合、検査は、有効であるとされる。すべての条件が満たされない場合、検査は、有効であるとは考えられず、試料は、再検査されるものとする。
【0166】
a)無処理検査試料から接種直後に回収したコロニー形成単位の平均数は、非多孔性材料では6.2×103CFU/cm2~2.5×104CFU/cm2、多孔性材料では1.2×105CFU/g~4.5×105CFU/gの範囲内である。
多孔性材料0.4gの範囲:合計4.80E+04~1.80E+05CFU
b)24時間のインキュベーション後に各無処理検査試料から回収したコロニー形成単位の数は、非多孔性材料では6.2×101CFU/cm2、多孔性材料では1.2×103CFU/g以上である。
多孔性材料0.4gの範囲:合計480CFU以上
PPNW基材上での種々の前駆物質の検査結果は、表4に、Tyvek(登録商標)基材に関しては表5に要約する。
【0167】
【0168】
【0169】
3.Phi-6検査
この研究のために、Molecular Plasma Group S.A.が開発したPlasmaSPOT設備をその迅速なセットアップと信頼性により概念証明を確立するために使用した。50wt%の水溶液中のクエン酸を前駆物質として使用した。クエン酸プラズマ処理の性能を評価するために、Phi6殺ウイルス検査(SARS-Cov-2の直接の代用であるエンベロープバクテリオファージを使用)をルクセンブルグ科学技術研究所(LIST)において実施した。
【0170】
Phi-6バクテリオファージはエンベロープウイルスであり、インフルエンザAまたはSars-Cov-2などのエンベロープウイルスの有意義な代用として使用されている。Phi-6はシストウイルス科に属するウイルスである。典型的には、IV型ピラスまたはシュードモナスシリンゲ(Pseudomonas syringae)に付着するため、感染性ビリオンの検出には後者が使用される。本分析には、修正ISO標準10705-1:1995が使用されている。
【0171】
その原理は次の通りである:試料、すなわちコーティングした濾過材材料は、少量の半固形栄養培地と混合される。宿主株の培養物を加え、固形栄養培地上にプレーティングする。この後、インキュベーションを行い、目に見えるプラークの有無をプレートで読み取る。アッセイでは、Phi-6ファージ懸濁液の液滴を加え、検査試料と対照試料の表面上で乾燥させ、室温で接触時間を変化させて保持し(各実験で別々に定義される)。ウイルス粒子を回収し、上記のように生存ウイルスについてアッセイした。
【0172】
使用した濾過材はPP不織布であり、検査は濾過材の2つの基準重み(20g/m2と38g/m2)について実施した。使用した前駆物質は、表6において「beCA 50%」と表記したCitrique Belge社によって提供される50%のクエン酸水溶液であった。
【0173】
結果は表6にまとめられており、「通過」は濾過材料がプラズマ源の下を通過した(またはプラズマ残光域を通過した)回数を指す。
【0174】
【0175】
20g/m2と38g/m2の濾過材はいずれも、プラズマプロセスで良好な加工性を示し、表6から明らかなように、Phi-6ウイルスの代用に対して高い対数減少値が得られることがわかった。これらの濾過材の基準重みは、Deltrian International S.A.社(Belgium)のDeltriSafe+フェイシャルマスク(20g/m2)およびDeltriSafe IIR+フェイシャルマスク(38g/m2)に使用されているような濾過材に相当する。対数減少値は実験の検出限界を超えていた。Phi-6 Sars-Cov-2代用ウイルスは、10分間のインキュベーション後にすでに高い不活化レベルを示し、実験の検出限界である対数減少値を超えていた。この殺ウイルスコーティングは、検査した材料の基準重みが異なっても、その活性を維持する。濾過材料がスパンボンドプロピレンであったことに留意されたい。
【0176】
4.性能検査(EN 14683)
コーティングしたフィルターを使用したフェイシャルマスクDeltriSafe IIR+も検査し、EN14683の性能要件を満たすことが判明し、これには、通気性に関する検査(デルタP検査)が含まれ、コーティングによる影響は基本的にないことが判明した。EN 14683検査の条件を以下に要約する:
使用した標準検査:EN 14683 - 附属書B(2019)+AC(2019)
製品規格:EN 14683(2019)+AC(2019)
検査したマスクの数:5
検査検体の寸法:16.5cm×15cm
検査したBFE面積:約49cm2(BFE=細菌濾過効率)
マスクのコンディショニング:21±5℃および85±5RH(相対湿度)
マスクの細菌負荷に接触する側:内側
使用した負荷細菌株:黄色ブドウ球菌 ATCC6538
検査あたりの細菌負荷:1700~3000CFU
総検査時間:1分の送達負荷+負荷なし1分(空気流は継続)
流量:28.3l/分
陽性対照:気流中に濾過材料を含まない状態で実施した検査
陰性対照:負荷なしで実施した検査
細菌濾過効率BはB=(C-T)/Tと定義し、パーセンテージで表し、Cは陽性対照を実行した全プレートカウントの平均値、Tは検査マスクの全カウントである。Bは、すべての検査済みマスクで99.9%より高かった。
【0177】
ブレーサビリティは、EN 14683 - 附属書C(2019)+AC(2019)規格を使用し、5枚のマスクについて、各マスクの5つの異なる位置で検査した。各マスクの各位置において、デルタPはEN 14683規格に従い40Pa/cm2未満であった。結果を以下の表7にまとめる。
【0178】
【0179】
これらのデルタP値は、無処理のマスクと本質的に同じである。この検査ではさらに、試料の微生物清浄度が30cfu/g未満であり、細胞毒性がないことが示された。
【0180】
実施例2
WA0190XT - NanoWave(登録商標)XT、Hollingsworth & Voseの種類の4層濾過材を使用した。この濾過材は、
図9に別々に示した4つの層51~54、特に
図5の構成と類似する3つの波状層51、52および53と裏打ち層54の重ね合わせで構成されていた。中間層52が最も高密度の層であり、上(外側波状)層51と下波状層53(層51より低密度)がそれに続く。すべての層はPP繊維製であった。濾過材全体の基準重みは約180g/m
2(ISO536による)、総厚は約5mmであった。
【0181】
濾過材は、大気圧プラズマコーティングプロセスの間、外側裏打ち層54と共に支持プラットフォーム33上に配置され(
図7)、外側波状層51がコーティング前駆物質を含むプラズマ放電に曝露されるようにした。
【0182】
使用した設備はPlasmaSPOT(登録商標)設備であり、使用したコーティング前駆物質は、20重量%のクエン酸を含む水溶液であった。コーティングは、プラズマ残光域を通過する濾過材の通過回数をそれぞれ6回、10回、20回と変えて塗布した。
【0183】
1.浸透深度
外側波状層51の試料について、コーティング前後のpH値の変化を測定することによって、浸透深度を測定した。結果を表8に示す。すべての試料は、少なくとも1.3の全体的なpH変化を示し、効果的な処理レベルを示した。クエン酸の存在は中間層52でも検出された。
【0184】
2.Phi-6による殺ウイルス検査
Phi-6バクテリオファージはエンベロープウイルスであり、インフルエンザAまたはSARS-CoV-2などのエンベロープウイルスの有意義な代用として使用されている。Phi-6はシストウイルス科に属するウイルスである。典型的には、IV型ピラスまたはシュードモナスシリンゲに付着するため、感染性ビリオンの検出には後者が使用される。本分析には、修正ISO標準10705-1:1995が使用されている。
【0185】
Phi-6ウイルス検査は、基材からの有意義なウイルス回収率を得るために、外側波状層の試料に関して実施した。試料は少量の半固形栄養培地と混合した。宿主株の培養物を加え、固形栄養培地上にプレーティングした。この後、インキュベーションを行い、目に見えるプラークについてプレートの読み取りを実施した。アッセイでは、Phi-6ファージ懸濁液の液滴を検査試料と対照試料の表面に加え乾燥させ、試料を室温で2時間接触させて保持した。ウイルス粒子を回収し、「生存」ウイルスについてアッセイした。すべての試料は、99.37%を超えるPhi-6ウイルスの中和を示し、これにより検査に合格し(99%必要)、その結果、Phi-6の対数レッド値は2.2より大きかった(検査に合格するための最小値である2を大きく上回った)。
【0186】
3.MS2による殺ウイルス検査
実施例1で説明したように、外側波状層の試料と濾過材全体についてMS2検査を実施した。表8から明らかなように、不合格の境界を示す10回合格した外側波状試料を除いて、すべての試料が検査に合格した(少なくとも99%のMS2中和および少なくとも2の対数レッド値)。これは、コーティング前駆物質として20重量%のクエン酸水溶液から得られたプラズマコーティングの優れた殺ウイルス機能性を示した。
【0187】
4.緩衝剤検査
ウイルス培地に対するクエン酸の活性を評価し、処理した試料が緩衝培地のpHを変化させる能力を評価するために、外側波状試料と濾過材の両方で緩衝剤検査を実施した。ウイルス有効性検査に使用されるすべての細胞培養培地は、フェノールレッドという指示染料を含んでいる。この染料は液体を酸性化すると赤から黄色に変色する。
【0188】
コーティングの活性および酸性効果を検査する方法は、コーティング上の液滴中の緩衝細胞培地の色の変化を検査することである。処理された表面上の培地がpHを変化させ、それによって指示染料の色が黄色になれば、それは活性を保証するのに十分高い処理レベルであることを意味する。表8に示すように、検査した試料はすべて緩衝剤検査に合格した。
【0189】
【0190】
実施例3
図10Aに示すように、波状層11と平面裏打ち層14とを重ね合わせることにより、第1の2層濾過材(濾過材2.1と称する)を形成した。波状層と平面裏打ちの両方がPS不織布製であった。
図10Bに示すように、第1の濾過材2.1の2枚を重ね合わせることにより、第2の4層濾過材(濾過材2.2と称する)を得た。
コーティング前駆物質として、40重量%(wt%)のクエン酸と5mg/リットルのUVマーカー(Radglo CFF-X-03(CAS 91-44-1))とを含む水溶液を使用した。前駆物質のエアロゾルは、前駆物質溶液を50slmのN
2中に噴射することによって生成した(1.2slmの前駆物質溶液を4回噴射)。プラズマガスとして窒素を500slmの流量で使用した。印加した総電力は1500Wであり、プラズマ源と基材の露出面との距離は6mmであった。ライン速度は2.4m/分であり、基材をプラズマ残光領域に10回通過させた。プラズマ装置はPlasmaline(登録商標)(Molecular Plasma Group SA、Luxembourg)を使用した。
【0191】
1.浸透深度
上記のパラメータを使用して、濾過材2.1の試料を、波状層がプラズマチャンバー出口に面するようにプラズマコーティングし、濾過材2.1の第2の試料を、裏打ち層がプラズマチャンバー出口に面するようにプラズマコーティングし、裏打ち層のみからなる第3の試料をプラズマコーティングした。
試料を365nmのUV光源下に置くことによって、沈着したコーティングの浸透深度を可視化するためにUVマーカーを使用した。コーティングは濾過材に十分に浸透し、曝露された表面だけでなく濾過材の内面にもコーティングが沈着していることがわかった。
【0192】
2.機能検査用に調製した試料
同じPlasmaLine(登録商標)設備を使用して、表9のプロセスパラメータに従って濾過材2.2をコーティングした。各コーティングプロセスでは、2つの試料を外側波状層がプラズマ源に露出した状態でコーティングし、2つの試料を外側裏打ち層表面が露出した状態でコーティングした。
【0193】
2つの前駆物質:40重量%のクエン酸を含む水溶液、およびエタノール中15重量%のクロロクレゾールの溶液を使用した。
【0194】
【0195】
3.MS2による殺ウイルス検査
抗ウイルス特性を、MS2ウイルスを含む一定数の水滴を試料表面に塗布することによって検査した。液滴を、大気圧プラズマコーティングプロセス中にプラズマ源に曝露された表面に塗布した。2時間のインキュベーション後に、試料を回収液に浸し、試料からウイルスを抽出した。この回収液をシャーレに入れ、大腸菌を増殖させ、ウイルス域(死滅菌を含む域)の数をカウントした。ウイルス域の数が少ないほど、プラズマコーティングによるウイルスの中和が大きいことを示す。
【0196】
表10に結果を示す。殺ウイルスの結果(対数値)により、回収液中に見られる生きたウイルスの数の対数値を得る。
【0197】
【0198】
表10から明らかなように、外側裏打ち層がプラズマ源に曝露された濾過材試料は、外側波状層が曝露された場合よりも良好な結果を示す。さらに、特に波状層が曝露された試料について見られるように、プラズマ残光域を10回および20回通過させてコーティングした濾過材では、5回通過させた場合よりも良好な結果が得られる。
【0199】
また、特にナノ波状側がプラズマ源に曝露された濾過材では、クロロクレゾールコーティングよりもクエン酸コーティングの方が良い結果が得られることも明らかである。
【0200】
実施例4
実施例3と同じ濾過材2.2を使用した。この濾過材を、外側裏打ち層を支持プラットフォーム上に置き、外側波状層を、大気圧プラズマコーティングプロセス中のコーティング前駆物質を含むプラズマ放電(またはプラズマ源)に曝露した。
【0201】
2つの異なる前駆物質を使用した:50重量%のクエン酸(CAS 77-92-9)を含む水溶液、および25重量%のn-アルキル(C12~16)-n,n-ジメチル-n-ベンジルアンモニウムクロリド(BTC50E;CAS 68424-85-1)を含む水溶液(水中での1:1w/w希釈)。
【0202】
濾過材試料を、プラズマ放電領域を3回または6回通過させることにより、各コーティングでコーティングした。殺ウイルス性能は、上記で説明したようにMS2検査によって検査した。ASTM F1980-16に従って加速エージング検査を実施した。試料を55℃および相対湿度75%に3日間および6日間加熱し、その後MS2検査を実施した。55℃および75%のRHで3日間のエージング検査は、実際の生活条件における1ヵ月に相当する。エージング後の殺ウイルス性能の結果は、コーティングの経時的な耐久性の概念を与える。結果を表11に示す。
【0203】
【0204】
表11から、結果のばらつきがMS2検査の許容誤差の範囲内であることから、両コーティングの殺ウイルス特性は、最大36日間の検査(実際の生活条件では12ヵ月)で、湿度の影響を受けないようである。
【0205】
さらに、6回の通過で表される厚いコーティングは、3回の通過で表される薄いコーティングよりも有意に良好な結果をもたらさないようである。したがって、厚さが制限されたコーティングであれば、時間が経過しても濾過材に十分な殺ウイルス特性を与えるようである。さらに、上記で説明したように、一般に、濾過材の通気性の低下および圧力降下の増加を制限するために、コーティングを薄くするのが有利である。
【0206】
表11から、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(すなわち塩化ベンザルコニウム)コーティングが、クエン酸コーティングよりも湿度劣化に対する抵抗性の改善を示すことがさらにわかる。
【0207】
実施例5:差圧
実施例2と同じ濾過材を使用して(
図9)、濾過材にわたる差圧に対するプラズマコーティングの影響を調べた。濾過材の無処理試料とプラズマコーティングした試料の両方を差圧検査に供した。PlasmaLine(登録商標)装置を用いて、1500Wおよび100slmのN
2流でコーティングすることによって、プラズマコーティングした試料を得た。前駆物質エアロゾルを、50wt%のクエン酸水溶液を50slmのN
2流に噴射することによって生成し、エアロゾル用の追加ベクターガスとして50slmのN
2を使用した。
【0208】
差圧検査には、それぞれコーティングしていない濾過材とコーティングした濾過材を用いて4ポケットフィルターを調製した。4ポケットフィルターは、0.082m2(一辺の長さが0.287mの正方形断面)の表面積および0.800m2の総有効フィルター面積を有した。40.5%のRH、981.1hPaの大気圧で、約200m3/時~1000m3/時の異なる流量で差圧(dP)を測定した。結果を表12にまとめ、測定結果から、プラズマコーティングした試料と無処理の試料との間に差圧の差を観察することはできなかった。
【0209】
【0210】
実施例6:分画効率
実施例5と同じ濾過材を使用して、濾過材粒子保持効率に対するプラズマコーティングの影響を調べた。濾過材の無処理試料とプラズマコーティングした試料の両方をISO 16890に従う分画効率検査に供した。表面積が0.082m2およびフィルター面積が0.800m2の実施例5と同一の4ポケットフィルターを構築した。検査中、温度は20.5℃、相対湿度は42.1%RH、および大気圧は981.5hPaであった。使用した流量は799,60m3/時であり、粉塵濃度(DEHS)は30,0mg/m3であった。
【0211】
検査では、粒子分布濃度を標準化した流れをフィルターに流し、フィルターの上流と下流の粒子量を一定数の粒子サイズ範囲について測定する。濾過材は、外側波状層を上流側(塵埃側)に向け、外側裏打ち層を清浄空気側に向けて配置した。
【0212】
0.3μm~10μmの粒子サイズ範囲において、プラズマコーティングした濾過材の平均保持効率は88.8%と測定され、無処理の濾過材では88.7%であった。異なる粒子サイズ範囲の効率を表13にまとめる。
【0213】
【国際調査報告】