(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-23
(54)【発明の名称】結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 67/04 20060101AFI20240816BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20240816BHJP
C08K 5/05 20060101ALI20240816BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20240816BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20240816BHJP
【FI】
C08L67/04
C08K5/20
C08K5/05
C08K5/09
C08L101/16 ZBP
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023569756
(86)(22)【出願日】2022-12-28
(85)【翻訳文提出日】2023-11-07
(86)【国際出願番号】 CN2022142865
(87)【国際公開番号】W WO2024031920
(87)【国際公開日】2024-02-15
(31)【優先権主張番号】202210965103.6
(32)【優先日】2022-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521480950
【氏名又は名称】上海藍晶微生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Shanghai Bluepha Microbiology Technology Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】Building 1, No.351 Yuexiu Road, Hongkou District, Shanghai, China
(71)【出願人】
【識別番号】523421085
【氏名又は名称】江蘇藍素生物材料有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬志宇
(72)【発明者】
【氏名】馬一鳴
(72)【発明者】
【氏名】李騰
(72)【発明者】
【氏名】張浩千
【テーマコード(参考)】
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4J002CF181
4J002EC067
4J002EF057
4J002EP016
4J002FD206
4J002FD207
4J002GG02
4J200AA04
4J200AA05
4J200BA12
4J200BA15
4J200CA01
4J200EA21
(57)【要約】
本発明は、生分解性材料の分野に関するものであり、具体的には、結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物及び成形体を提供するものである。前記ポリヒドロキシアルカノエート組成物は、ポリヒドロキシアルカノエート及び結晶化促進剤を含み、前記結晶化促進剤は、脂肪酸アミド類化合物のうちの1種または複数種である。本発明が提供する組成物は、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶化促進剤として、脂肪酸アミドを選択して用いることにより、成形体の結晶化の時間をある程度保証し、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶の成形を促進するとともに、従来技術中のポリヒドロキシアルカノエート成形体を加工する過程において、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂と加工装置の部品とが癒着するという問題を解決し、成形体を製造する加工効率を向上させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカノエート及び結晶化促進剤を含有し、前記結晶化促進剤が、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、リノール酸アミド、パルミチン酸アミドのうちの1種または複数種であり、
さらに、脂肪族アルコール及び/または脂肪酸である結晶核剤を含む
ことを特徴とする、結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物。
【請求項2】
前記結晶化促進剤の添加量が前記ポリヒドロキシアルカノエートの質量の0.01%~20%であり、前記結晶核剤の添加量が前記ポリヒドロキシアルカノエートの質量の0.01%~20%であることを特徴とする、請求項1に記載の結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物。
【請求項3】
前記結晶化促進剤がエルカ酸アミドであり、前記エルカ酸アミドの添加量が前記ポリヒドロキシアルカノエートの質量の0.5%~2%であることを特徴とする、請求項2に記載の結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物。
【請求項4】
前記結晶核剤の添加量が、前記ポリヒドロキシアルカノエートの質量の0.3%~10%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物。
【請求項5】
前記結晶核剤の添加量が、前記ポリヒドロキシアルカノエートの質量の0.3%~5%であることを特徴とする、請求項4に記載の結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物。
【請求項6】
前記脂肪酸が、炭素数5~30の脂肪酸であり、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、テトラコサン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸を含み、
前記脂肪族アルコールが炭素数5~32の脂肪族アルコールであり、1,16-ヘキサデカンジオール、ステアリルグリコール、1,22-ドコサンジオール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パームアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコール、セリルアルコール、ポリコサノール、トリアコンタノール、ドトリアコンタノールを含むことを特徴とする、請求項5に記載の結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物。
【請求項7】
前記ポリヒドロキシアルカノエート組成物において、前記ポリヒドロキシアルカノエートが、下記の一般式(1):
[CHRCH
2COO] (1)
(一般式(1)において、RはC
pH
2p+1で表されるアルキル基を示し、pは1~15の整数を示す。)
で表される構成単位を含む重合体であることを特徴とする、請求項1に記載の結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物。
【請求項8】
前記ポリヒドロキシアルカノエートが、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘプタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシノナノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシウンデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項7に記載の結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物を含有する原料により製造されたものであることを特徴とするポリヒドロキシアルカノエート成形体。
【請求項10】
請求項9に記載のポリヒドロキシアルカノエート成形体を製造する方法であって、
加熱溶融後に室温で冷却成形することを含み、室温での冷却成形方法は、室温において、空冷ストランドペレット化、水浴ストランドペレット化、研磨およびホットカット、ウォーターリングカットまたは水中ペレット化のペレット化方法により造粒を行うことを含み、
または、トンネル乾燥機を使用して室温でのオンライン結晶化を行う方法によりフィルムを製造することを含む
ことを特徴とする、ポリヒドロキシアルカノエート成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2022年08月12日に提出された、発明の名称が「結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物及び成形体」である中国特許出願第202210965103.6号の優先権を主張し、当該出願のすべでの内容を引用により、本願に援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、生分解性材料の分野に関するものであり、特に、結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物及び成形体に関するものである。
【背景技術】
【0003】
生分解性プラスチックは、自然界に存在する微生物の働きによって分解されうるプラスチックである。理想的な生分解性プラスチックは、分解された後に無毒無害であり、優れる使用性能を有する。しかし、生分解性材料であっても、海洋環境では生分解が困難であり、環境にある程度の危害を及ぼすこともある。
【0004】
ポリヒドロキシ脂肪酸エステル(PHAs)は、多くの微生物によって合成される細胞内のポリヒドロキシ脂肪酸エステルであって、天然の高分子生体材料である。ポリヒドロキシアルカノエートにおける多くのモノマーは、鎖長がC3~C14の3-ヒドロキシ脂肪酸であり、その側鎖Rは高度可変の飽和または不飽和の直鎖または分岐鎖の脂肪族基または芳香族基であり、その構成や構造の多様性による性能の多様化のため、応用において顕著な優位性を有する。それとともに、ポリヒドロキシアルカノエートは、バイオ由来で海洋環境において生分解できる重合体であり、廃棄プラスチックによる環境問題を解決でき、そして、優れる生体適合性および機械的性能を有するため、ポリヒドロキシ脂肪酸エステルは、例えば、フィルム、ストロー、食器などの各種の成形体に加工でき、結晶化速度の制御は、ポリヒドロキシ脂肪酸エステルの加工速度の重要要素である。しかし、ポリヒドロキシアルカノエートを熱加工により各種の成形体に製造する過程において、結晶化速度が遅く、結晶化度が低く、加工する際に癒着しやすいなどの問題が存在する。
【0005】
現在、成形体の組成物に結晶核剤などの助剤を添加することは、PHAsの結晶化速度を向上させるための主要手段である。それとともに、各種の成形体に加工する過程において、融点近傍の温度で溶融させて押出した後も、成形体を一定の温度范囲内で一定の時間保温することで、結晶化を促進する必要がある。例えば、結晶核剤と可塑剤を用いたポリヒドロキシアルカノエート加工組成物において、結晶核剤は、タルク、ミクロン化マイカ、炭酸カルシウム、窒化ホウ素、塩化アンモニウム、ナトリウム塩、及び元素周期表の第1族および第2族金属のカルボン酸塩からなる群から選択されるものである。さらに、例えば、結晶核剤は、カーボンブラック、シアヌル酸、ウラシル、チミン、マイカタルク、シリカ、窒化ホウ素、窒化バリウム、粘土、炭酸カルシウム、合成ケイ酸及びその塩、有機リン酸の金属塩、およびカオリンまたはその組み合わせから選択されるものである。
【0006】
従来技術において、結晶核剤を添加することで、結晶化時間をある程度短縮できたが、根本的に加工の難易度を下げておらず、特に、加工する際に癒着しやすい問題を解決することが困難であり、これは加工効率の向上に不利である。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、従来技術におけるポリヒドロキシアルカノエート成形体の加工過程に存在する、結晶化速度が遅く、結晶化度が低く、加工する際に癒着しやすいという欠陥を解決し、加工効率の大幅の向上を実現するための、結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物及び成形体を提供する。
【0008】
第1の態様において、本発明は、ポリヒドロキシアルカノエート及び結晶化促進剤を含有し、前記結晶化促進剤が脂肪酸アミド類化合物のうちの1種または複数種である、結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物を提供する。
【0009】
従来技術において、産業上、脂肪酸アミド類化合物は、主に、高圧ポリエチレン(LDPE)フィルム及びポリ塩化ビニル(PVC)圧延フィルム、ポリプロピレン(PP)、無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルムの滑剤、開口剤及び帯電防止剤として用いられ、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、パラホルムアルデヒド(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)などの樹脂の潤滑剤及び離型剤としても用いられる。
【0010】
一方、本発明は、研究により、脂肪酸アミドを、本発明の組成物樹脂を加工する過程において、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶化促進剤として使用することができ、それがポリヒドロキシアルカノエート成形体の加工過程において、結晶化率の比較的に低い成形体同士の癒着を抑制するように機能し、成形体の結晶化の時間をある程度保証し、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶の形成を促進するとともに、従来技術中のポリヒドロキシアルカノエート成形体を加工する過程において、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂と金型、プレスロール、カッター、ガイドロールなどの加工装置の部品とが癒着するという問題を解決し、さらに、加工効率を向上させることを見出した。
【0011】
本発明が提供する結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物によれば、前記結晶化促進剤は、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、リノール酸アミド、パルミチン酸アミドのうちの1種または複数種であり;前記結晶化促進剤の添加量は、前記ポリヒドロキシアルカノエートの質量の0.01%~20%である。さらに、前記結晶化促進剤の添加量は前記ポリヒドロキシアルカノエートの質量の0.1%~10%である。さらに、前記結晶化促進剤はエルカ酸アミドであることが好ましい。
【0012】
本発明が提供する結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物によれば、前記結晶化促進剤の添加量は、前記ポリヒドロキシアルカノエートの質量の0.5%~2%である。添加量が0.5%未満の場合、効果は顕著ではなく、添加量が増えるにつれ、製造される成形体の匂いも大きくなる。
【0013】
また、本発明は、研究により、結晶化促進剤の添加割合を上記の範囲に制御することにより、結晶化の促進効果が一層良好になり、かつ製造される成形体の加工性もより優れるものとなることを見出した。例えば、その添加量は、0.5%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、1.4%、1.5%、1.8%、2%であってもよい。
【0014】
本発明が提供する結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物によれば、前記ポリヒドロキシアルカノエート組成物は、結晶核剤を更に含有し、前記結晶核剤の添加量は、前記ポリヒドロキシアルカノエートの質量の0.01%~20%である。
【0015】
本発明は、研究により、結晶化促進剤と結晶核剤とを組み合わせることで、より効率的にポリヒドロキシアルカノエートの結晶化を促進できることを見出した。
【0016】
本発明が提供する結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物によれば、前記ポリヒドロキシアルカノエート組成物において、前記結晶核剤は、脂肪酸及び/または脂肪族アルコールである。
【0017】
本発明は、ポリヒドロキシアルカノエート及び結晶化促進剤に加え、異なる成形体の加工により適する結晶核剤を用い、さらに、その添加量は、好ましくは0.3%~10%であり、例えば、結晶核剤の添加量は、0.3%、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、8%、9%、10%であってもよいが、これらに限定されない。当該組成物は、核形成の効率が高く、加工方式がより簡便であるという特徴を有し、幅広く応用されるものとなる。
【0018】
本発明が提供する結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物によれば、前記脂肪酸は炭素数5~30の脂肪酸、例えば、ペンタン酸、デカン酸(カプリン酸/n-カプリン酸)である。さらに、融点がポリヒドロキシアルカノエートの溶融温度より低い脂肪酸、例えば、炭素数8~30の末端カルボキシル基を有する脂肪酸を選択する。炭素数が10以上である高級脂肪酸がさらに好ましく、炭素数が偶数である長鎖高級脂肪酸、具体的には、特に限定されるものではないが、例えば、ラウリン酸(ドデカン酸)、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、アラキジン酸(エイコサン酸)、ベヘン酸(ドコサン酸)、テトラコサン酸(リグノセリン酸)、セロチン酸(ヘキサコサン酸)、モンタン酸(オクタコサン酸)またはメリシン酸(トリアコンタン酸)のうちの1種または複数種が好ましく、ベヘン酸がより好ましい。
【0019】
本発明が提供する結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物によれば、前記脂肪族アルコールは炭素数5~32の脂肪族アルコール、例えば、ペンタノール、オクタノールなどである。さらに、融点がポリヒドロキシアルカノエートの溶融温度よりも低い脂肪族アルコール、例えば、炭素数8~30の末端ヒドロキシ基を含有する脂肪族アルコールを選択する。炭素数が10以上である高級脂肪族アルコールがさらに好ましく、炭素数が偶数である長鎖高級脂肪族アルコール、具体的には、特に限定されるものではないが、例えば、1,16-ヘキサデカンジオール、ステアリルグリコール(1,2-オクタデカンジオール)、1,22-ドコサンジオール、ラウリルアルコール(ドデカノール)、ミリスチルアルコール(テトラデカノール)、パームアルコール(ヘキサデカノール)、アラキジルアルコール(エイコサノール)、ベヘニルアルコール(ドコサノール)、セリルアルコール(ヘキサコシルアルコール)、ポリコサノール(モンタニルアルコール)、トリアコンタノール(ミリシルアルコール)、ドトリアコンタノール(ラクセリルアルコール)の1種または複数種が好ましく、ドコサノールがより好ましい。他のアルコール類物質と比べて、本発明に記載の脂肪族アルコールは化学的活性および水溶性が低く、例えば、水酸基の多い糖アルコール類物質より、化学的活性および水溶性が低いものであり、かつ、本願に記載の脂肪族アルコールは由来がより幅広く、コストも低く、保存および加工においてより安全であり、本発明に記載の結晶促進剤と組み合わせると、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶化を効果的に促進することができるとともに、加工の難易度を効果的に下げることができる。
【0020】
さらに、前記ポリヒドロキシアルカノエート組成物において、前記結晶核剤は、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、テトラコサン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、1,16-ヘキサデカンジオール、ステアリルグリコール、1,22-ドコサンジオール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パームアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコール、セリルアルコール、ポリコサノール、トリアコンタノール、ドトリアコンタノールのうちの1種または複数種である。
【0021】
本発明に記載のポリヒドロキシアルカノエート組成物は、ポリヒドロキシアルカノエート、エルカ酸アミドおよび脂肪酸からなるものである。そのうち、エルカ酸アミドの添加量は前記ポリヒドロキシアルカノエートの質量の0.5%~2%であり、脂肪酸の添加量は前記ポリヒドロキシアルカノエートの質量の0.3%~5%である。本発明の一つの具体的な実施形態において、前記脂肪酸はベヘン酸である。
【0022】
本発明に記載のポリヒドロキシアルカノエート組成物はポリヒドロキシアルカノエート、エルカ酸アミドおよび脂肪族アルコールからなるものである。そのうち、エルカ酸アミドの添加量は前記ポリヒドロキシアルカノエートの質量の0.5%~2%であり、脂肪族アルコールの添加量は前記ポリヒドロキシアルカノエートの質量の0.3%~5%である。本発明の他の具体的な実施形態において、前記脂肪族アルコールはドコサノールである。
【0023】
本発明に記載のポリヒドロキシアルカノエート組成物は、ポリヒドロキシアルカノエート、エルカ酸アミド、脂肪酸および脂肪族アルコールからなるものである。そのうち、エルカ酸アミドの添加量は前記ポリヒドロキシアルカノエートの質量の0.5%~2%であり、脂肪酸および脂肪族アルコールの添加量の合計は前記ポリヒドロキシアルカノエートの質量の0.3%~5%である。本発明の他の具体的な実施形態において、結晶核剤における前記脂肪酸はベヘン酸であり、前記脂肪族アルコールはドコサノールである。
【0024】
研究により、上述の組み合わせ条件で、結晶化効果がより良好になり、かつ製造される成形体の加工性もより良好になることが明らかになった。
【0025】
本発明が提供する結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物によれば、前記ポリヒドロキシアルカノエートは、単独の重合体、あるいは2種以上の重合体の組成物である。
【0026】
さらに、前記ポリヒドロキシアルカノエートは当分野で慣用の原材料から選択でき、下記の一般式(1):
[CHRCH2COO] (1)
(一般式(1)において、RはCpH2p+1で表されるアルキル基を示し、pは1~15の整数、好ましくは1~10の整数、より好ましくは1~8の整数を示す。)で表される構成単位を含む重合体である。
【0027】
好ましくは、RはC1~C6の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を示す。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などである。
【0028】
具体的には、例えば、3-ヒドロキシアルカノエート構成単位及び/または4-ヒドロキシアルカノエート構成単位を含む重合体が挙げられる。
【0029】
前記ポリヒドロキシアルカノエートが2種以上の重合体の組成物である場合、前記ポリヒドロキシアルカノエートには、少なくとも一種のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)が含まれる。さらに、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)には3-ヒドロキシブチレート構成単位(以下、「3HB」と称することがある。)のみが含まれ、あるいは3-ヒドロキシブチレート構成単位および他のヒドロキシアルカノエート構成単位が含まれ、そのうち、前記他のヒドロキシアルカノエート構成単位は、3-ヒドロキシプロピオネート、3-ヒドロキシペンタノエート、3-ヒドロキシヘキサノエート、3-ヒドロキシヘプタノエート、3-ヒドロキシオクタノエート、3-ヒドロキシノナノエート、3-ヒドロキシデカノエート、3-ヒドロキシウンデカノエートおよび4-ヒドロキシブチレートから選ばれる少なくとも一種である。
【0030】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)が、3-ヒドロキシブチレート構成単位および他のヒドロキシアルカノエート構成単位を含む場合、前記3-ヒドロキシブチレート構成単位と他のヒドロキシアルカノエート構成単位との平均含有比率は、50/50~99/1(モル%/モル%)であり、好ましくは80/20~94/6(モル%/モル%)であり、ポリヒドロキシアルカノエートの原材料が2種以上のポリヒドロキシアルカノエートの混合物である場合、平均含有比率は、混合物全体に含まれる各モノマーのモル比を指す。
【0031】
ポリヒドロキシアルカノエートの具体例として、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)(略称:P3HB3HV、以下、PHBVと称する)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(略称:P3HB3HV3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(略称:P3HB3HH、以下、PHBHと称する)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘプタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)(略称:PHBO)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシノナノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシウンデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(略称:P3HB4HB、以下、P34HBと称する)などが挙げられる。特に、加工性および機械的特性などの観点から、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)が好ましい。
【0032】
前記ポリヒドロキシアルカノエートは、微生物によって生成されたポリヒドロキシアルカノエートであることが特に好ましい。微生物によって生成されたポリヒドロキシアルカノエートにおいて、3-ヒドロキシアルカノエート構成単位はすべて、(R)3-ヒドロキシアルカノエート構成単位として含有される。
【0033】
さらに、前記ポリヒドロキシアルカノエートの重量平均分子量は、10万~100万であり、20万~90万であることが好ましく、30万~80万であることがさらに好ましい。重量平均分子量が10万未満である場合、得られるポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成形体の機械的特性が低下する傾向にある。一方、重量平均分子量が100万を超える場合、溶融加工の際に機械への負荷が高くなり、生産性が低下する傾向にある。
【0034】
第2の態様において、本発明は、上述のポリヒドロキシアルカノエート組成物を含む原料により製造されるポリヒドロキシアルカノエート成形体を提供する。
【0035】
本発明で得られるポリヒドロキシアルカノエート成形体は、結晶化速度が速く、力学的性能が良好であるというメリットを有するため、幅広く応用されるものとなる。
【0036】
また、本発明の効果を損なわない限り、成形体の生産の需要に応じて、添加剤などの助剤を添加して組成物と組み合わせることができる。前記添加剤として、可塑剤、架橋剤、鎖延長剤、潤滑剤などの有機または無機材料を含んでもよい。有機または無機材料は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
尚、本発明では、生産の需要に応じて、添加剤の添加量を調整でき、当該添加量は特に制限されるものではない。
【0038】
本発明におけるポリヒドロキシアルカノエート成形体は、押出成形、射出成形、カレンダー成形、テープキャスティング、ブロー成形、二軸延伸成形などの各種の熱成形法により製造されるものであってもよく、溶液流延などの非熱成形法により製造されるものであってもよい。熱成形法により製造することが好ましい。本発明に記載のポリヒドロキシアルカノエート成形体には、例えば、ペレット、フィルム、ストロー、射出成形品などの複数種のタイプが含まれてもよい。
【0039】
さらに、前記ポリヒドロキシアルカノエート成形体の製造方法は、第1の温度において加熱溶融することと、前記成形体のガラス転移温度から融点温度までの第2の温度において冷却成形することとを含む。
【0040】
第1の温度が低いほど、成形体が第2の温度において癒着を発生するまでの時間が短くなり、第1の温度が高いほど、ポリヒドロキシアルカノエートの流動性が高くなり、成形に有利である。第1の温度は、ポリヒドロキシアルカノエートの融点より60℃以上高いことが好ましい。
【0041】
第2の温度が、ポリヒドロキシアルカノエート成形体が癒着を発生するまでの時間を影響することが知られており、特に、第2の温度を、前記成形体のガラス転移温度から融点温度までの温度、例えば、成形体のガラス転移温度より30℃以上高く、成形体の融点温度より20℃以下低い温度とすることが一般的である。あるいは、第2の温度の範囲を、具体的に40~65℃とすることが一般的である。しかし、研究により、本発明の結晶化促進剤と結晶核剤とを含む組成物が、生産過程において、第2の温度を設定する必要がなく、即ち、押出後に一定の温度を設定する必要がなく、室温(ここでいう室温は、通常20~30℃であり、高くとも40℃以下であって、典型的には、20℃、25℃、30℃、35℃であってもよいが、これらに制限されない)においても成形状態が良好な成形体を獲得でき、例えば、インフレーションによりフィルムなどを製造できることが見出され、特に、大量生産の過程では、加工効率の向上のみならず、生産におけるエネルギー消費を減少することもできる。
【0042】
本発明は結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物およびポリヒドロキシアルカノエート成形体を提供し、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶化促進剤として、脂肪酸アミドを選択することにより、成形体の結晶化の時間をある程度保証し、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶の形成を促進するとともに、ポリヒドロキシアルカノエート成形体を加工する過程において現れやすいポリヒドロキシアルカノエートと金型、プレスロール、カッター、ガイドロールなどの加工装置の部品との癒着という問題を解決し、さらに、加工効率を向上させる。
【0043】
本発明の結晶化促進剤は、由来が幅広く、かつ製品が安価であり、各種の成形体の原材料のコストを減らすことができる。それとともに、本発明が提供する結晶核剤は生物に由来するものであり、ポリヒドロキシアルカノエート成形体においてバイオ炭が占める割合を影響せず、100%生物に由来することを実現できる。本発明が提供するポリヒドロキシアルカノエート組成物は、異なる成形体の加工により適する結晶核剤を用いており、当該組成物は、核形成の効率が高く、加工方式がより簡便であるという特徴を有し、幅広く応用されるものとなる。
【0044】
本発明の他の特徴およびメリットについては、後述の発明を実施するための形態において詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の目的、技術案およびメリットをより明確にするために、以下では、本発明における技術案を明確、かつ完全に記述する。記述された実施例が全ての実施例ではなく、本発明の一部の実施例に過ぎないことは明白である。本発明の実施例に基づいて、当業者が創造的な労働を行うことなく得ることのできる他のすべての実施例は、いずれも本発明の保護範囲に属する。
【0046】
本明細書において開示された範囲の端点および任意の値は、当該正確な範囲または値に限定されず、これらの範囲または値は、これらの範囲または値に近い値を含むと理解されるべきである。数値範囲については、各範囲の端点値、各範囲の端点値と単独の一つの数値、ならびに単独の一つの数値を互いに組み合わせて、1つまたは複数の新たな数値範囲を得ることができ、これらの数値範囲は本明細書において具体的に開示されたものとみなされるべきである。
【0047】
特に断らない限り、以下の各実施例、比較例で使用される全ての原材料は、いずれも市販品である。
【0048】
使用する原材料:
PHBH-330:ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、型番:BP330、3HB(3-ヒドロキシブチレート単位)の含有量94%、重量平均分子量約10~80万、Beijing Bluepha Microbiology Technology Co.,Ltd.。
【0049】
PHBH-350:ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、型番:BP350、3HB(3-ヒドロキシブチレート単位)の含有量89%、重量平均分子量約10~80万、Beijing Bluepha Microbiology Technology Co.,Ltd.。
【0050】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)(PHBV)、重量平均分子量約30~80万、Beijing Bluepha Microbiology Technology Co.,Ltd.。
【0051】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(P34HB)、重量平均分子量約30~80万、Beijing Bluepha Microbiology Technology Co.,Ltd.。
【0052】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)(PHBO)、重量平均分子量約30~80万、Beijing Bluepha Microbiology Technology Co.,Ltd.。
【0053】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート-コ-3-ヒドロキシプヘキサノエート(P3HB3HV3HH)、重量平均分子量約30~80万、Beijing Bluepha Microbiology Technology Co.,Ltd.。
【0054】
ポリヒドロキシアルカノエート成形体の性能の評価方法:
結晶化度:
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント株式会社製、DSC25型)を用いて、ポリヒドロキシアルカノエート成形体2~10mgを計量し、10℃/minの昇温速度で、一度に-50℃から180℃まで昇温させ、DSC曲線を得る。結晶化度が大きいほど、成形体の結晶性が高くなり、後続の加工成形により有利である。
【0055】
結晶化度(%)=100%×(融解エンタルピー-冷結晶化エンタルピー)/100%結晶融解エンタルピー(そのうち、100%結晶融解エンタルピーは147.4J/gである)。
【0056】
二回昇温後の冷結晶化半値幅:
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント株式会社製、DSC25型)を用いて、ポリヒドロキシアルカノエート成形体2~10mgを計量し、10℃/minの昇温速度で一度に-50℃から180℃まで昇温させ、180℃で3分間保持し、10℃/minの降温速度で180℃から-50℃まで温度を下げ、さらに、10℃/minの昇温速度で-50℃から180℃まで二回目の昇温を行い、二回昇温後のDSC曲線を得る。冷結晶化ピークを有する場合、二回昇温後の冷結晶化半値幅のデータが小さいほど、加工過程において、成形体の結晶がより固くなり易く、加工成形により有利である。
【0057】
ポリヒドロキシアルカノエート成形体を射出成形機に通過させ、相応の規格要件を満たす試験品を得る:
ISO1133-1:2011に準拠し、190℃、2.16kgの条件でメルトフローレートを測定する。
【0058】
ISO527-2-2012に準拠し、試験速度5mm/minの条件で引張強度および破断伸度を測定する。
【0059】
メルトフローレートの単位はg/10minであり、引張強度の単位はMPaであり、破断伸度の単位は%である。
【0060】
成形体/ペレットの加工難易度の記号の意味について、以下のとおり説明する。
【0061】
○○:安定して連続加工ができ、成形体/ペレット同士が癒着しない;それとともに、第2の温度で結晶化を促進する必要がなく、室温にて結晶化すればよい
○:安定して連続加工ができ、成形体/ペレット同士が癒着しない
△:熱可塑化加工時に安定的に押出され、成形体/ペレットまたは押出されたストランドが癒着するが、一定時間後に振動を加えることでいずれも分離できる
□:熱可塑化加工時に安定的に押出され、成形体/ペレットまたは押出されたストランドが癒着し、一定時間後にも少量の成形体/ペレット同士が癒着している
×:押出機で押し出す場合は不安定であり、成形体/ペレット同士が癒着し、分離できない
フィルム成形体の試験:
フィルム成形体の試験は、ISO527-2-2012に準拠して行い、500mm/minの試験速度で、縦方向における引張強度および縦方向における破断伸度を測定する。フィルムの縦方向における引張強度の単位はMPaであり、フィルムの縦方向における破断伸度の単位は%である。
【0062】
実施例:
本実施例では、ポリヒドロキシアルカノエートと、脂肪酸アミド類化合物のうちの1種または複数種である結晶化促進剤とを含む、結晶化促進剤を含有するポリヒドロキシアルカノエート組成物を提供する。本実施例において、ポリヒドロキシアルカノエートとして、PHBH-BP330、PHBH-BP350、PHBV、P34HB、PHBO、P3HB3HV3HHのうちの一種またはその組み合わせを使用し、結晶化促進剤として、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、リノール酸アミド、パルミチン酸アミドのうちの一種またはその組み合わせを使用した。
【0063】
加工効率をさらに向上させるために、本実施例におけるポリヒドロキシアルカノエート組成物に結晶核剤をさらに添加し、そのうち、結晶核剤は脂肪酸及び/または脂肪族アルコールであり、本実施例では、ペンタン酸、カプリン酸、ベヘン酸、テトラコサン酸、セロチン酸、ステアリン酸、ペンタノール、オクタノール、ドコサノール、オクタデカノール、ドデカノールのうちの一種またはその組み合わせを使用した。
【0064】
以下、ポリヒドロキシアルカノエート組成物のペレット、フィルムを製造することを含む、ポリヒドロキシアルカノエート組成物の製造方法を具体的に提供する。
【0065】
1、ポリヒドロキシアルカノエート組成物のペレットの製造
実施例1~15が提供するポリヒドロキシアルカノエート組成物を、ポリヒドロキシアルカノエート成形体(ペレット)に製造し、その製造方法は以下のとおりである。
【0066】
ポリヒドロキシアルカノエート組成物を高速ミキサーに仕込み、室温で、100~600r/minの速度で3~10分間混合した。
【0067】
混合材料を二軸押出機(Nanjing Mianya Machinery Manufacturing Co.,Ltd.、JSH-65)のホッパーまたはロスインウェイト式フィーダーの中に仕込み、押出造粒装置の温度を50~180℃の範囲に設定し、主機関の回転速度を50~600r/minとし、実際の生産状態に応じて、仕込み量またはキャパシティを調整した。その後、空冷ストランドペレット化、水浴ストランドペレット化、研磨およびホットカット、ウォーターリングカットまたは水中ペレット化のペレット化方式により造粒を行い、そして、生産加工の過程において、40~65℃の水浴条件(即ち、造粒の第2の温度)を保持し、製造されたペレットを送風式オーブンで乾燥させ、水分によるペレット性能への影響を排除するとともに、ペレットを完全に結晶化させた。
【0068】
比較例1~4が提供するポリヒドロキシアルカノエート組成物(比較例1では、ポリヒドロキシアルカノエートのみである)を、ポリヒドロキシアルカノエート成形体(ペレット)に作製し、その製造方法は以下のとおりである。
【0069】
ポリヒドロキシアルカノエート組成物(比較例1では、ポリヒドロキシアルカノエートのみである)を、高速ミキサーに仕込み、室温で、100~600r/minの速度で3~10分間混合した。
【0070】
混合材料を二軸押出機(Nanjing Mianya Machinery Manufacturing Co.,Ltd.、JSH-65)のホッパーまたはロスインウェイト式フィーダーの中に仕込み、押出造粒装置の温度を50~180℃の範囲に設定し、主機関の回転速度を50~600r/minとし、実際の生産状態に応じて、仕込み量またはキャパシティを調整した。その後、空冷ストランドペレット化、水浴ストランドペレット化、研磨およびホットカット、ウォーターリングカットまたは水中ペレット化のペレット化方法により造粒を行い、そして、生産加工の過程において、45℃の水浴条件(即ち、造粒の第2の温度が45℃である)を保持し、製造されたペレットを送風式オーブンで乾燥させ、水分によるペレット性能への影響を排除するとともに、ペレットを完全に結晶化させた。
【0071】
具体的なプロセスパラメータ及び得られたペレットの物性パラメータは、表1-1、表1-2、表1-3に示すとおりである。
【0072】
ポリヒドロキシアルカノエート成形体の加工過程に存在する、結晶化速度が遅く、結晶化度が低く、加工する際に癒着しやすいという欠陥を解決するために、本発明は研究を行い、ポリヒドロキシアルカノエートに脂肪酸アミド類化合物を加えることが結晶化の促進に有利であることを見出した。表1-1が示すように、実施例1~7の組成物にそれぞれエルカ酸アミド、オレイン酸アミド、リノール酸アミド、パルミチン酸アミドを添加した。さらに、本発明は、脂肪酸アミド類化合物が、一般的に滑剤として使用されるのではなく、ポリヒドロキシアルカノエートにおいて核形成を促進する役割を果たし、そして、成形体(ペレット)の加工難易度を顕著に低減できることを見出した。一方、脂肪酸アミド類化合物を加えなかったポリヒドロキシアルカノエートは、表1-3における比較例1のように、加工製造時の成形加工の難易度が高かった。
【0073】
結晶化を促進する脂肪酸アミドの添加量について、本発明は、結晶化促進剤の添加量が前記ポリヒドロキシアルカノエートの質量の0.01%~20%である場合、通常の生産が求める範囲を満たせることを見出した。また、他の助剤を添加することで、脂肪酸アミドによる匂いを吸着または減少させる場合、脂肪酸アミドの添加量を増やすことも可能である。添加量が少なすぎると、結晶化の促進効果を顕著に奏することができず、添加量が多すぎると、加工された成形体のにおいが大きくなる。さらに、添加量がポリヒドロキシアルカノエートの0.5%~2%であることを選択してもよく、表1-3における比較例2のように、添加量が0.5%未満であれば、成形加工の難易度を改善する効果が実施例1~15より小さいものとなる。添加量の増加につれ、製造される成形体の匂いも大きくなり、その添加量が2%を超えると、匂いは実施例1~15よりも大きくなる(例えば、表1-3における比較例3)。
【0074】
さらに、当分野で慣用の類似機能を有する他の助剤、例えば、滑剤が同じ効果を有するかどうかを検討するために、表1-3における比較例4のように、当分野で慣用のシリカを採用した。結果、それが成形加工の難易度を改善するために奏する効果が小さいことが明白に観られた。
【0075】
【0076】
ポリヒドロキシアルカノエート組成物におけるポリヒドロキシアルカノエートについて、本実施例では、単一のポリヒドロキシアルカノエート、例えば、表1-1における実施例1~7が提供するPHBH-BP350を使用し、また、他の純粋物質、例えば、表1-2における実施例10が提供するPHBH-BP330、実施例11が提供するPHBVを使用した。そこに脂肪酸アミドを添加することで、結晶化を促進でき、結晶化度もある程度向上し、そして、成形体(ペレット)の加工難易度を顕著に下げることができた。
【0077】
上記の純粋物質に加え、混合されたポリヒドロキシアルカノエート、例えば、表1-2における実施例8~9が提供するPHBH-BP330とPHBH-BP350との混合物、実施例12が提供するPHBV、P34HBおよびP3HB3HV3HHの混合物、実施例13が提供するPHBH-BP350とPHBVとの混合物、実施例14が提供するP34HBとPHBOとの混合物、実施例15が提供するPHBH-BP350、P34HBおよびPHBOの混合物も使用した。そこに脂肪酸アミドを添加することで、結晶化を促進でき、結晶化度もある程度向上し、そして、成形体(ペレット)の加工難易度を顕著に下げることができた。
【0078】
【0079】
【0080】
さらに、加工効率を向上させるとともに加工難易度を下げることを検討するために、本発明は研究を行い、結晶核剤と脂肪酸アミドとを組み合わせた場合、加工する際に第2の温度を設定する必要がなく、室温でも結晶化が可能であり、加工難易度が低下するとともに加工効率が向上し、エネルギー消費が減少することを見出した。具体的な組み合わせ組成物及び加工方法は以下のとおりである。
【0081】
表1-4、1-5における実施例16~25、26~30が提供するポリヒドロキシアルカノエート組成物をポリヒドロキシアルカノエート成形体(ペレット)に製造し、その製造方法は以下のとおりである。
【0082】
ポリヒドロキシアルカノエート組成物を高速ミキサーに仕込み、室温で、100~600r/minの速度で3~10分間混合した。
【0083】
混合材料を二軸押出機(Nanjing Mianya Machinery Manufacturing Co.,Ltd.、JSH-65)のホッパーまたはロスインウェイト式フィーダーの中に仕込み、押出機で造粒を行い、温度を50~180℃の範囲に設定し、主機関の回転速度を50~600r/minとし、実際の生産状態に応じて、仕込み量またはキャパシティを調整した。その後、室温(即ち、造粒の第2の温度が室温である)で空冷ストランドペレット化、水浴ストランドペレット化、研磨およびホットカット、ウォーターリングカットまたは水中ペレット化のペレット化方法により造粒を行った。
【0084】
表1-4において、比較例5および6が提供するポリヒドロキシアルカノエート組成物は、ポリヒドロキシアルカノエートおよび結晶核剤のみを含み、表1-5における比較例7、8は、対照として他のアルコール類物質、例えば、糖アルコール類物質のうちのソルビトール、及び環状アルコール類物質のうちの1,4-シクロヘキサンジオールを使用した。それらをポリヒドロキシアルカノエート成形体(ペレット)に製造する方法は以下のとおりである。
【0085】
ポリヒドロキシアルカノエート組成物を高速ミキサーに仕込み、室温で、100~600r/minの速度で3~10分間混合した。
【0086】
混合材料を二軸押出機(Nanjing Mianya Machinery Manufacturing Co.,Ltd.、JSH-65)のホッパーまたはロスインウェイト式フィーダーの中に仕込み、押出造粒装置の温度を50~180℃の範囲に設定し、主機関の回転速度を50~600r/minとし、実際の生産状態に応じて、仕込み量またはキャパシティを調整した。その後、空冷ストランドペレット化、水浴ストランドペレット化、研磨およびホットカット、ウォーターリングカットまたは水中ペレット化のペレット化方法により造粒を行い、そして、生産加工の過程において、40~65℃の水浴条件(即ち、造粒の第2の温度;比較例5、7、8で用いたのは45℃であり、比較例6で用いたのは55℃である)を保持し、製造されたペレットを送風式オーブンで乾燥させ、水分によるペレット性能への影響を排除するとともに、ペレットを完全に結晶化させた。
【0087】
具体的なプロセスパラメータ及び得られたペレットの物性パラメータは、表1-4、1-5に示すとおりである。
【0088】
表1-1、表1-2、表1-3、表1-4および表1-5を比較すると分かるように、結晶核剤のみを添加した比較例5および6に比べ、脂肪酸アミドをさらに添加した実施例16~25、実施例26~30の効果はより優れ、核形成の効率がより高い。尚、結晶核剤のみを添加した技術案について、本発明では、さらに、他の種類のアルコールも核形成の効果を有するかどうかを比較した。結果、ソルビトール及び1,4-シクロヘキサンジオールを使用した比較例7~8が核形成の効果を有しないことが観られた。結晶核剤として本発明に記載の脂肪酸、脂肪族アルコールのみを採用した場合、例えば、比較例5のように1%の結晶核剤であるベヘン酸のみを添加した場合、その加工性は1%の結晶核剤であるベヘン酸と1%のエルカ酸アミドを同時に添加した実施例16より劣り、かつ結晶化度の数値指標についても、実施例16のほうが比較例5より優れている。実施例17と比べ、比較例6は加工性が劣り、かつ結晶化度の数値が小さい。
【0089】
本発明の結晶核剤としては、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、ミョウバン、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、カーボンブラック、マイカなどを含む当分野における慣用の有機/無機結晶核剤を選択してもよいが、それらに限定されない。
【0090】
本発明は、結晶核剤として、脂肪酸及び/または脂肪族アルコール(例えば、実施例16、22ではベヘン酸、実施例17ではドコサノール、実施例18ではテトラコサン酸およびステアリン酸、実施例19ではセロチン酸、実施例20ではベヘン酸およびステアリン酸、実施例21ではベヘン酸およびドコサノール、実施例23ではドコサノールおよびオクタデカノール、実施例24ではオクタデカノールおよびドデカノール、実施例25ではステアリン酸およびドコサノール、実施例26~30では短鎖の脂肪酸、脂肪族アルコール、例えば、ペンタン酸、カプリン酸、ペンタノール、オクタノール)を使用できることを見出し、エルカ酸アミドとベヘン酸及び/またはドコサノールとを組み合わせ(例えば、実施例16、17、21)、エルカ酸アミドの添加量がポリヒドロキシアルカノエートの質量の0.5%~2%であり、ベヘン酸及び/またはドコサノールの添加量がポリヒドロキシアルカノエートの質量の0.3%~5%であることがより好ましい。実施例16~25が示すように、結晶核剤と脂肪酸アミドとを組み合わせた場合、加工する際に第2の温度を設定する必要はない。表1-4、1-5において、実施例16~25、26~30の造粒の第2の温度(℃)は室温であり、即ち、実施例における成形体は室温でも結晶化することができ、その加工難易度が低下するとともに、加工の効率が向上し、エネルギー消費が減少した。
【0091】
実施例26~30で用いる短鎖の脂肪酸、脂肪族アルコールと結晶化促進剤とを組み合わせた場合、効率的に結晶化を達成でき、第2の結晶化温度を使用する必要もない(第2の温度は室温である)が、結晶化効果は、実施例16~25における長鎖の脂肪酸、脂肪族アルコールより低い。例えば、実施例27、28の結晶化度は、実施例21より低く、実施例29、30の結晶化度は実施例22、23より低い。
【0092】
更に、研究により、結晶化促進剤である脂肪酸アミドの使用量を増やす場合、結晶核剤の添加量が影響されることがあり、具体的には、脂肪酸アミドの使用量を増やす場合、結晶核剤の添加量を低減でき、かつ成形体の結晶化度を保持でき、あるいは結晶化度を明らかに向上できることが見出された。例えば、実施例17における脂肪酸アミド:結晶核剤は1:3であり、その結晶化度は5.11%であり、実施例21における脂肪酸アミド:結晶核剤は2:1.5であり、その結晶化度は24.32%である。それと同様に、実施例18における脂肪酸アミド:結晶核剤は0.5:2.5であり、その結晶化度は37.12%であり、実施例22における脂肪酸アミド:結晶核剤は2:1であり、その結晶化度は45.32%である。
【0093】
【0094】
【0095】
ポリヒドロキシアルカノエート組成物を他の成形体に製造する際に、当該組成物の当該成形体の性能への影響を検討するため、本願はさらに下記の実施例を含む。
【0096】
2、ポリヒドロキシアルカノエート成形体(フィルム)の製造:
実施例31~35では、実施例1、2、16、17、25のポリヒドロキシアルカノエート組成物のペレットのそれぞれに対して、インフレーション成形を行い、前記インフレーション成形の手順は下記のとおりである。
【0097】
ポリヒドロキシアルカノエート組成物のペレットをインフレーション成形機(Wenzhou Zhengchang Machinery Co.,Ltd.、SD 50-65)に仕込み、スクリューとダイの温度を50~180℃(インフレーション加工温度)とし、製造されたフィルムを巻き取る前に、トンネル乾燥機を用いて室温でオンライン結晶化を行い、同じ厚さのフィルム成形体を製造した。本発明において、一括して製造厚さを0.4mmとした。
【0098】
比較例9~13では、比較例1、2、3、5、6のポリヒドロキシアルカノエート組成物のペレットのそれぞれに対して、インフレーション成形を行い、前記インフレーション成形の手順は下記のとおりである。
【0099】
ポリヒドロキシアルカノエート組成物のペレットをインフレーション成形機(Wenzhou Zhengchang Machinery Co.,Ltd.、SD 50-65)に仕込み、スクリューとダイの温度を50~180℃(インフレーション加工温度)とし、製造されたフィルムを巻き取る前に、トンネル乾燥機(トンネル乾燥機温度45℃)を用いてオンライン結晶化を行い、同じ厚さのフィルム成形体を製造した。本発明において、一括して製造厚さを0.4mmとした。
【0100】
具体的なプロセスパラメータ及び得られたフィルムの物性パラメータを表2に示した。
【0101】
【0102】
表2の結果から分かるように、インフレーション加工の場合、エルカ酸アミドを単独に添加した実施例31~32、エルカ酸アミドと結晶核剤を組み合わせた実施例33~35は、いずれもフィルムを製造でき、かつその品質は良好である。一方、比較例9、10は、エルカ酸アミドを添加せず、あるいはその添加量が少なすぎるため、フィルムを製造することができず、比較例11~13はフィルムを製造できたが、通常のように第2の加工温度を設定する必要がある。これに対し、実施例31~35は、第2の温度を設定する必要がなく、室温でもフィルムを製造できた。
【0103】
上述のように、実施例1~15において、単一のポリヒドロキシアルカノエートあるいは混合されたポリヒドロキシアルカノエートに各種の異なる種類の脂肪酸アミドを添加することで、いずれも結晶化を促進する役割を果たすことができた。このことから、本発明が、ポリヒドロキシアルカノエート組成物に脂肪酸アミド類化合物を添加することにより、結晶化を促進する機能を果たすことができ、従来技術中のポリヒドロキシアルカノエート成形体の加工過程において、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂と金型、プレスロール、カッター、ガイドロールなどの加工装置の部品とが癒着するという問題を解決し、かつ加工効率を向上させることが分かる。
【0104】
さらに、実施例16~25、26~30と実施例1~15との比較から分かるように、ポリヒドロキシアルカノエート組成物が結晶化促進剤である脂肪酸アミドを含むことに加え、さらに、結晶核剤である脂肪酸及び/または脂肪族アルコールを添加すると、核形成の効率がより高くなり、成形体の加工難易度がより低くなる。そして、生産過程においては第2の温度を設定する必要がなく、即ち、押出した後、室温でも成形状態が良好な成形体を得ることができ、大量生産において、加工効率を向上できるだけでなく、生産におけるエネルギー消費も減少できる。本発明におけるポリヒドロキシアルカノエート組成物を成形体に製造する場合、製造されるのは、ペレット、フィルム、ストロー、射出成形品などに限定されない。そして、成形体の製造過程において、当分野で慣用の加工成形方法を採用する(第1の温度で加熱溶融し、第2の温度で結晶化・成形を行う)場合、製造過程において癒着しやすい問題を効率的に解決でき、それとともに、脂肪酸または/および脂肪族アルコール類の結晶核剤を加えた組成物は、製造過程において第2の温度を設定する必要がなく、即ち、癒着させないとともに加工中のエネルギー消費を減らすことができる。
【0105】
最後に、上記の実施例は本発明の技術案を説明するためのものにすぎず、本発明の技術案はそれらに制限されない。そして、上記の実施例を参照して本発明を詳細に説明したが、当業者は、前記の各実施例に記載の技術案を修正でき、あるいはそのうちの一部の技術的特徴を等価物に置換できること、そして、これらの修正または置換によって、相応の技術案の本質が本発明の各実施例の技術案の趣旨または範囲から逸脱することはないことを当然理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、結晶化促進剤を含むポリヒドロキシアルカノエート組成物およびポリヒドロキシアルカノエート成形体を提供し、そして、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶化促進剤として、特定の脂肪酸アミドを選択して用いることにより、成形体の結晶化の時間をある程度保証し、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶の成形を促進するとともに、ポリヒドロキシアルカノエート成形体を加工する過程において現れやすい、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂と金型、プレスロール、カッター、ガイドロールなどの加工装置の部品とが癒着するという問題を解決し、さらに、加工効率を向上させることができる。尚、本発明の結晶化促進剤の由来は幅広く、そして製品は安価であり、各種の成形体の原料のコストを下げることができる。また、結晶核剤は生物に由来するものであり、ポリヒドロキシアルカノエート成形体においてバイオ炭素が占める割合を影響せず、100%生物に由来することを実現できる。本発明が提供するポリヒドロキシアルカノエート組成物は、異なる成形体の加工により適する結晶核剤を使用し、核形成効率が高く、加工方式がより簡便であるという特徴を有し、幅広く応用されるものとなる。
【国際調査報告】