(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-23
(54)【発明の名称】乗り物のダッシュボード
(51)【国際特許分類】
B60K 35/231 20240101AFI20240816BHJP
C03C 15/00 20060101ALI20240816BHJP
C03C 23/00 20060101ALI20240816BHJP
B60R 13/02 20060101ALI20240816BHJP
G02B 27/01 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
B60K35/231
C03C15/00 Z
C03C23/00 Z
B60R13/02 Z
G02B27/01
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504575
(86)(22)【出願日】2022-07-19
(85)【翻訳文提出日】2024-01-24
(86)【国際出願番号】 EP2022070247
(87)【国際公開番号】W WO2023006522
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
【住所又は居所原語表記】Avenue Jean Monnet 4, 1348 Louvain-la-Neuve, Belgique
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンテロン, ライオネル
(72)【発明者】
【氏名】ラリチウタ, グラツィア
【テーマコード(参考)】
2H199
3D023
3D344
4G059
【Fターム(参考)】
2H199DA03
3D023BD29
3D023BE04
3D344AA19
3D344AB01
3D344AC04
3D344AC25
4G059AA01
4G059AA08
4G059AB11
4G059AC02
4G059BB04
4G059BB16
(57)【要約】
本発明は、運転者の視覚的快適性が高められたガラスダッシュボード部分(301)を含むベイリンググレア低減システムに関し、特に、フロントガラスを通過しガラスダッシュボード表面で反射する光が、内側のフロントガラス表面によって部分的に反射して運転者位置に向かうように配置され、低減されたベイリンググレアが得られるガラスダッシュボード部分(301)に関する。本発明はさらに、低減したベイリンググレアを有するガラスダッシュボード部分が設けられたヘッドアップディスプレイシステムに関する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントガラス及びダッシュボードを有する乗り物用のベイリンググレア低減システムであって、ベイリンググレア低減システムが、
a.内面及び外面を有しかつ光がそれらを通過することができるフロントガラスと、
b.フロントガラスを通過する光を反射するガラスダッシュボード部分とを含み、
c.ガラスダッシュボード部分の第1の表面が、フロントガラスに面し、かつエッチング及びイオン注入されている、ベイリンググレア低減システム。
【請求項2】
ガラスダッシュボード部分の第1の表面が、12mmの評価長さで、カットオフ波長が0.8mmであるガウシアンフィルタを用いて測定される場合に:
a.0.02μm≦Ra≦0.60μm、
b.0.1μm≦Rz≦3.0μm、及び
c.0.01μm≦RSm≦0.08μm
となるような粗さを与えられていることを特徴とする請求項1に記載のベイリンググレア低減システム。
【請求項3】
第1の表面から測定され、反対側の表面が空気にさらされる場合に、ガラスダッシュボード部分が、以下の光学的性質:
a.1~85%のヘイズ値、
b.10~100%の透明度値、
c.60°において10~50SGUのグロス値、及び
d.7~4.5%の可視光反射率
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のベイリンググレア低減システム。
【請求項4】
注入されたイオンが、O、N、He、Ne、Ar、又はKrの正に帯電したイオンから選択されること、及び/又は注入されたイオンが、第1の表面の近くの、0.1μm~1μmの深さまで存在すること、及び/又は注入されたイオンの量が5×10
14イオンs/cm
2~10
18イオンs/cm
2であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のベイリンググレア低減システム。
【請求項5】
ベイリンググレア低減システムが、ダッシュボード支持構造をさらに含み、ガラスダッシュボード部分が、ダッシュボードの支持構造に少なくとも部分的に積層される、請求項1~4のいずれか一項に記載のベイリンググレア低減システム。
【請求項6】
0.14μm≦Ra≦0.4μm、及び0.015μm≦RSm≦0.060μmである、請求項1~5のいずれか一項に記載のベイリンググレア低減システム。
【請求項7】
第1の表面から測定され、反対側の表面が空気にさらされる場合に、ガラスダッシュボード部分が、以下の光学的性質:1~40%、好ましくは1~35%のヘイズ値;20~100%、好ましくは40~80%の透明度値;60°において10~40SGU、好ましくは20~35SGUのグロス値を有することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のベイリンググレア低減システム。
【請求項8】
フロントガラスを通過しかつガラスダッシュボード表面で反射する光が、内側のフロントガラス表面によって運転者位置に向かって部分的に反射するように、ガラスダッシュボード部分及びフロントガラスが配置される、請求項1~7のいずれか一項に記載のベイリンググレア低減システム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の乗り物のグレア低減システムを有する乗り物。
【請求項10】
フロントガラス及びガラスダッシュボード部分を有する乗り物中のベイリンググレアを低減する方法であって:
a.フロントガラスに光を通過させること;
b.フロントガラスを通過する光を、ガラスダッシュボード部分の表面に当て、ガラスダッシュボード部分の表面によって反射させること;
c.ガラス基材を含むガラスダッシュボード部分によって反射された光を拡散させること、ただし、ガラス基材は、エッチング及びイオン注入され、ある表面粗さを有し、基材中の第1の基材表面に隣接した層中に注入されたイオンを含む第1の表面を有しており、第1の表面により、光がガラスダッシュボード部分から拡散反射される、
を含む方法。
【請求項11】
フロントガラスを通過しかつガラスダッシュボード表面で反射する光が、内側のフロントガラス表面によって運転者位置に向かって部分的に反射するように、ガラスダッシュボード部分及びフロントガラスが配置される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか一項のベイリンググレア低減システムを含む乗り物用のヘッドアップディスプレイシステムであって、
a.フロントガラスが、ポリマーを含む中間層を挟む第1及び第2の実質的に平行に間隔が開けられた基材を含み;
b.フロントガラスにおいて形成される画像に対応する光線が向けられるように画像源が構成され、光線が、ガラスダッシュボード部分を通過してフロントガラスに向かい、
第1の表面とは反対側のガラスダッシュボードの第2の表面が、画像源に面する、ヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項13】
画像源によって向けられる光線がp偏光される、請求項12に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項14】
フロントガラスが低Eコーティングをさらに含む、請求項12又は13のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項15】
フロントガラスが、ガラスダッシュボード部分に面する表面の少なくとも一部の上に、p偏光を選択的に反射させるコーティングを含む、請求項12~14のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の視覚的快適性が増加するガラスダッシュボード部分に関する。特に、本発明は、低減されたベイリンググレアが得られるガラスダッシュボード部分に関する。本発明によって、さらに、ヘッドアップディスプレイの良好な表示を得ることができる。本発明は、さらに、低減されたベイリンググレアを有するガラスダッシュボード部分が設けられたヘッドアップディスプレイシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ダッシュボードから反射して、フロントガラスに反射する光は、運転者の視覚を妨害することがある。
図1を参照すると、周囲光がフロントガラス(105)を透過し、ダッシュボード(101)の上面から反射し(106,107)、フロントガラス(106)中に戻り、フロントガラスから反射して(108)、運転者の目に入るときに、乗り物(100)のフロントガラス(103)中にベイリンググレアが生じる。運転者(104)は、フロントガラス(103)を越えて照らされたダッシュボード(101)の視覚画像を見ることになり、これによって、乗り物の前方の光景を認識する能力が「覆い隠される」又は妨害される。ベイリンググレアは、急勾配で、着色された又はつや出し仕上げが行われたダッシュボードを有するフロントガラスによって悪化する。
【0003】
ベイリンググレアを除去するために、乗り物の製造業者は、フロントガラスの勾配の程度を制限すること、並びに無反射材料、暗色、及び/又はテクスチャー加工された表面をダッシュボード上に使用することが強いられてきた。これらの特徴によって、乗り物の設計の選択肢が限定され、暗色のダッシュボードは放射線を吸収し、その結果として乗り物内部の温度が上昇する。
【0004】
ベイリンググレアを低減するための別のシステムは、反射防止材料、ホログラフィック材料、又は偏光材料をフロントガラス上に配置することなどよってフロントガラスに集中しており、このことは製造が複雑になり費用がかかる。代わりに、偏光コーティングをダッシュボード上に堆積することができる。
【0005】
米国特許出願公開第2009097125A1号明細書には、乗り物の内面上に偏光層を用いる偏光によってベイリンググレアを低減する方法が開示されている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的の1つは、ベイリンググレアが低減される乗り物のガラスダッシュボード部分を提供することである。ガラスダッシュボード部分は、フロントガラスを通過した光を反射するように配置され、このフロントガラスは、内面及び外面を有し、これを光が通過することができる。より少ない光が反射されてフロントガラスに向かって戻り、次にフロントガラス内面から運転者に向かって反射される。
【0007】
本発明のガラスダッシュボード部分(201)は、ガラス基材であって、エッチング及びイオン注入されており、ある表面粗さを有し、基材中のエッチングされた基材表面に隣接した層(203)中に注入されたイオンを含む第1の表面(202)が設けられたガラス基材を含む。
【0008】
したがって、本発明は、さらに、フロントガラス(303)とダッシュボード(302)とを有する乗り物(300)用のベイリンググレア低減システムであって:フロントガラス(303)であって、内面及び外面を有しかつ光がそれらを通過することができるフロントガラスと;フロントガラスを通過した光を反射するガラスダッシュボード部分(201,301)とを含み;ガラスダッシュボード部分(201、301)は、ガラス基材であって、エッチング及びイオン注入され、ある表面粗さを有し、基材中のエッチングされた基材表面に隣接した層(203)中に注入されたイオンを含む第1の表面(202)が設けられたガラス基材を含み、これによって、反射光(306、307)は、ガラスダッシュボード表面で拡散反射され、次にフロントガラスの内面によって反射(308)される、ベイリンググレア低減システムに関する。フロントガラスから反射(308)して運転者の目に入る光の一部であるベイリンググレアは、本発明のベイリンググレア低減システムを用いて低減されることが分かった。
【0009】
疑念を回避するために、システムの目的である、本発明のベイリンググレア低減システムにおいて、フロントガラスを通過しかつガラスダッシュボード表面で反射する光が、内部フロントガラス表面によって運転者の位置まで、すなわち運転者に向かって部分的に反射するように、ガラスダッシュボード部分及びフロントガラスが配列されることが暗に含まれる。
【0010】
本発明は、フロントガラスとガラスダッシュボード部分とを有する乗り物におけるベイリンググレアを低減する方法であって:フロントガラスに光を通過させること;フロントガラスを通過する光を、ガラスダッシュボード部分の表面に当て、ガラスダッシュボード部分の表面によって反射させること;ガラス基材を含むガラスダッシュボード部分によって反射された光を拡散させること、ただし、ガラス基材は、エッチング及びイオン注入され、ある表面粗さを有し、基材中の第1の基材表面に隣接した層中に注入されたイオンを含む第1の表面を有しており、第1の表面により、光がガラスダッシュボード部分から拡散反射される、を含む方法も含む。
【0011】
本発明は、乗り物用ヘッドアップディスプレイシステムであって:
a.フロントガラス(409)と、
b.フロントガラス(409)において形成される画像に対応して、光線(404)が向かうように構成された画像源(403)とを含み、
画像源の光線が、本発明によるガラスダッシュボード部分(401)を通過することと、ガラスダッシュボード部分の第1の表面が、フロントガラス(409)に面することとを特徴とする乗り物用ヘッドアップディスプレイシステムをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ベイリンググレア低減システムを有しない乗り物の一部の概略断面図である。
【0013】
【
図2】本発明の一実施形態によるガラスダッシュボード部分が設けられたダッシュボードの概略断面図である。
【0014】
【
図3】本発明のベイリンググレア低減システムを有する乗り物の一部の概略断面図である。
【0015】
【
図4】本発明のヘッドアップディスプレイシステムを有する乗り物の一部の概略断面図である。
【0016】
【
図5】運転者に向かって反射する光を評価するための構成の概略断面図である。
【0017】
【
図6】種々のガラスダッシュボード部分に関する運転者に向かって反射する光の量を比較するグラフである。
【0018】
【
図7】運転者に向かって反射するヘッドアップディスプレイ源からの光を評価するための構成の概略断面図である。
【0019】
【
図8】種々のガラスダッシュボード部分を透過する光の量を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態によると、
図3を参照すると、ガラスダッシュボード部分(301)は、ダッシュボードの下部構造(302)、例えば低密度樹脂、例えばポリプロピレン、発泡ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、又はアクリロニトリル/スチレンアクリレートでできた成形物体に積層される。
図2を参照すると、ガラスダッシュボード部分(201)は、ダッシュボード構造(205)に透明に積層することができ、そのためダッシュボード構造の色は、ガラスダッシュボード部分を通して見ることができる。積層は、ガラス部分の一部の上、例えばガラス部分の端部の少なくとも一部の周囲に接着材料(204)を塗布することによって、又はガラス部分とダッシュボード構造(205)との間の接触領域全体に接着材料を塗布することによって行うことができる。
【0021】
本発明の一実施形態によると、
図4を参照すると、ガラスダッシュボード部分(401)は、画像源(403)に透明に積層される。ある実施形態では、画像源は、ヘッドアップディスプレイ光源であってよい。
【0022】
本発明の一実施形態によると、ガラスダッシュボード部分のガラス基材の第1の表面の表面粗さは、12mmの評価長さで、カットオフ波長が0.8mmであるガウシアンフィルタを用いて測定される場合に:
a.0.02μm≦Ra≦0.60μm、
b.0.1μm≦Rz≦3.0μm、及び
c.0.01μm≦RSm≦0.08μm
によって規定され、
上記ガラス基材は、有利には、上記第1の表面から測定され、反対側の表面が空気にさらされる場合に、以下の光学的性質:
・ 1~85%のヘイズ値、
・ 10~100%の透明度値、
・ 60°において10~50SGUのグロス値、及び
・ 7~4.5%の可視光反射率(この中の約4%は第1の表面とは反対側の空気/基材界面の反射率である)
を有することができる。
【0023】
本発明の有利な一実施形態によると、ガラスダッシュボード部分のガラス基材は、本明細書の実施例の部とともに以下の詳細に示される方法により測定した場合に、好ましくは10%未満、特に7%未満、特に5%未満の低いスパークル値を有する。
【0024】
上記2つの段落の光学的性質は、第1の表面とは反対側の表面である第2の表面に対してコーティング及び表面処理が全くない状態で得ることができる。
【0025】
本明細書全体にわたって、ある数値範囲が示される場合、その範囲の端の値がその範囲内に含まれると見なされる。さらに、数値範囲内のすべての整数及びサブドメインの値は、明示的に示されているかのように明確に含まれる。
【0026】
「エッチングされた表面」は、機械的又は化学的な方法によって攻撃されており、ある量のガラス材料が除去されて、特定の表面テクスチャー/粗さが得られた表面を意味する。化学エッチングされたガラスにおいて、化学反応/攻撃(すなわち酸エッチング)によって材料の除去が行われる。機械的エッチングされたガラスにおいて、機械的反応/攻撃(すなわちサンドブラスト)によって除去が行われる。或いは、「エッチングされた表面」を得るためにレーザーテクスチャー加工を用いることができる。本発明によると、上記ガラス基材は、有利には実質的にガラス表面全体にわたって、すなわちガラス表面の少なくとも90%にわたってエッチングすることができる。
【0027】
一実施形態では、ガラス表面をエッチングするために化学エッチングが用いられる。ダッシュボード部分のガラス基材を化学的にエッチングして、表面粗さを形成するために、種々の方法を用いることができる。本発明の一実施形態では、粗い表面を形成するために、フッ化物をベースとする溶媒を用いることができる。例えば、重フッ化アンモニウム(NH4F-HF)の水溶液を用いることができ、例えば15~35重量%のNH4-HFを含み、残りがH2Oである水溶液を用いることができる。エッチングされる表面を、ある設定時間の間エッチャント溶液と接触させる。探求される表面粗さを得るために、時間及び濃度が調節される。
【0028】
エッチング及びイオン注入されている第1の表面は、エッチング後、エッチングされた表面に、ガラスダッシュボード部分の可視光反射率が低下するようにイオン注入が行われていることを意味し、その後、基材の第1の表面に最も近い層の中に注入されたイオンを含む。当技術分野において周知のように、イオン注入プロセスは、化学強化のイオン交換プロセスとは異なり、得られるガラス基材に関しても異なる。
【0029】
ガラスダッシュボード部分のエッチング面は、通常はその表面テクスチャー又は粗さによって、特に規格のISO4287-1997において定義されるRa、Rz、及びRsmの値(μmで表される)によって特徴付けられる。テクスチャー/粗さは、表面の不規則性/パターンが存在することで得られる。これらの不規則性は、「山」と呼ばれる隆起部と、「谷」と呼ばれるくぼみとからなる。エッチング面に対して垂直なセクションで、山及び谷は、「平均線」とも呼ばれる「中心線」(代数的平均)のいずれかの側に分布する。あるプロファイルにおいて、一定長さ(「評価長さ」と呼ばれる)に沿った測定の場合で、
a.Ra(振幅値)は、テクスチャーの平均の差に相当し、すなわち、山及び谷の差の絶対値の算術平均を意味する。Raは、この平均と「線」との間の距離を測定しており、エッチング及びイオン注入された第1の表面上のパターンの高さの指標となる;
b.Rz(振幅値)は、「10点平均粗さ」に相当し、最も高い5つの山の間の平均の山と、最も低い5つの谷の間の平均の谷との合計である。
c.Rsm(間隔値、場合によりSmとも呼ばれる)は、「平均線」を通過する断面の2つの連続する推移(passage)の間の平均距離であり、これによって「山」の間の平均距離、したがってパターンの幅の平均値が得られる。
【0030】
本発明による粗さ値は、2Dプロファイル(ISO4287規格に準拠)を用いるプロフィルメーターで測定することができる。あるいは、3Dプロフィロメトリー(ISO 25178規格に準拠)の技術を使用することができるが、2Dプロファイルを分離し、次にこれよりISO4287規格で定義されるパラメータが求められる。
【0031】
本発明の一実施形態によると、粗さ値は、プロファイルフィルタλcとも呼ばれる長波長のフィルタであるガウシアンフィルタを用いて測定される。これは、プロファイルの起伏成分から粗さ/テクスチャー成分を分離するために使用される。
【0032】
本発明による評価長さLは、粗さの評価に使用されるプロファイルの長さである。基準長さlは、評価すべきプロファイルを特徴付ける不規則性を識別するために使用される評価長さの一部である。評価長さLは、プロファイルの不規則性に依存してn個の基準長さlに分割/切断される。基準長さlは、ガウシアンフィルタの「カットオフ」波長(又は制限波長)に相当する(l=λc)。典型的には、評価長さは基準長さの少なくとも5倍である。
【0033】
粗さ測定では、短波長フィルタ(プロファイルフィルタλs)も、バックグラウンドノイズである非常に短波長の影響をなくすために一般に使用される。
【0034】
可視光反射率Rcは、ガラスダッシュボード部分のエッチング及びイオン注入されている第1の表面(又は側)上で、光源D65及び2°の観測者角を用いて測定される。第1の表面とは反対側の表面は、この測定の目的のために空気にさらされる。反射色は、光源D65下で10°の観測者角を用いて、CIELAB色座標a*及びb*を使用して表され、ガラスダッシュボード部分のエッチング及びイオン注入されたガラスダッシュボード部分の側の上で測定される。CIE L*a*b*又はCIELABは、国際照明委員会(International Commission on Illumination)によって規定される色空間であり、特にガラス産業において日常的に使用されている。特に明記されなければ、可視光反射率Rc、及び反射色a*Rc、b*Rcは、ガラスダッシュボード部分の表面に対してほぼ垂直の8°の角度で測定される。別の角度で測定された値は、括弧内に測定角を明記することによって区別され、すなわち35°の測定角の場合、Rc(35°)、a*Rc(35°)、b*Rc(35°)となる。透過率TLも、光源D65及び2°の観測者角を用いて測定される。
【0035】
本発明の一実施形態によると、本発明のエッチング及びイオン注入されている第1の表面の表面粗さは、0.010μm≦RSm≦0.060μmとなる。有利には、本発明のエッチング及びイオン注入されている第1の表面の表面粗さは、例えば0.015μm≦RSm≦0.06μmである。より小さいRSm粗さ値は、場合により特定のヘイズ値及びグロス値と組み合わせることで、より小さいスパークル値を有する本発明のガラスダッシュボード部分が得られ、このことは、ヘッドアップディスプレイシステムなどのガラスを通過して画像が投影される場合に関心が持たれる。
【0036】
本発明の別の有利な一実施形態によると、本発明のエッチング及びイオン注入されている第1の表面の表面粗さは、例えば0.02μm≦Ra≦0.60μmである。或いは、本発明のエッチング及びイオン注入されている第1の表面の表面粗さは、例えば0.05μm≦Ra≦0.40μm、又はさらには0.14μm≦Ra≦0.40μmである。Raの値がより小さいと、より小さいヘイズ値の本発明のガラスダッシュボード部分が得られる。
【0037】
本発明の別の有利な一実施形態によると、本発明のエッチング及びイオン注入されている第1の表面の表面粗さは、例えば0.10μm≦Rz≦3.00μm、又は0.50μm≦Rz≦3.00μm、又はさらには0.75μm≦Rz≦3.00μmである。
【0038】
本発明のガラスダッシュボード部分は、ガラス基材の第1の表面の近くにO、N、He、Ne、Ar、又はKrの正に帯電したイオンから好ましくは選択されるイオンを含むことができる。注入されたイオンは、好ましくは0.1μm~1μmの間で構成される深さまでの第1の表面の近くに存在する。注入されるイオンの量は、好ましくは5×1014イオン/cm2~1018イオン/cm2、有利には1016イオン/cm2~5×1017イオン/cm2、より有利には3×1016イオン/cm2~1017イオン/cm2である。
【0039】
イオン注入は、エッチングされたガラスダッシュボード部分の可視光反射率を低下させるために、O、N、He、Ne、Ar、又はKrの正に帯電したイオンの注入を含む。
【0040】
本発明によると、注入ステップは以下の操作を含む:
a.O2若しくはN2、He、Ne、Ar、又はKrから選択される供給源ガスを提供すること、
b.O、N、He、Ne、Ar、又はKrの正に帯電したイオンが形成されるように、上記供給源ガスをイオン化すること、
c.5kV~100kVの加速電圧を用いて、O、N、He、Ne、Ar、又はKrの正に帯電したイオンを加速させること、
d.エッチングされた第1の表面を有するガラスダッシュボード部分を提供すること、
e.O、N、He、Ne、Ar、又はKrの正に帯電したイオンのビームの軌道内に、エッチングされた表面がビームに面するようにガラスダッシュボード部分を配置し、それによって、選択された供給源ガスからのイオンを、ガラスダッシュボード部分のエッチングされた第1の表面内に注入すること。
【0041】
本発明の一実施形態では、イオンビームの軌道は、ガラスダッシュボード部分のエッチング表面に対して本質的に垂直である。
【0042】
イオン線量又は使用量は、好ましくは5×1014イオン/cm2~1018イオン/cm2、有利には1016イオン/cm2~5×1017イオン/cm2、より有利には3×1016イオン/cm2~1017イオン/cm2である。イオン線量は、例えばイオンビームへの曝露時間によって制御することができ、ビームのフルエンスによっても左右される。
【0043】
ある実施形態では、ガラスダッシュボード部分は、その表面全体を処理するために、1回のパス又は複数回のパスで、イオンビームに対して移動させる。ガラスダッシュボード部分は、20~160mm/sの速度で移動することができる。
【0044】
エッチングされたガラスダッシュボード部分は、イオン注入後に、最大7%の可視光反射率を示し、最も驚くべきことには、エッチング及びイオン注入されている第1の表面の粗さにもかかわらず、表面構造に対して垂直ではない角度でイオン注入が行われるにもかかわらず、不均一性が見られない。さらに、エッチングされたガラスダッシュボード部分は、イオン注入後に、小さな角度で反射した色の変化を示す場合がある。特に、エッチングされたガラスダッシュボード部分は、イオン注入後に、無彩色の反射色又は青色の反射色を示す場合もある。
【0045】
本発明者らは、有利には、一価及び多価のイオンの混合物を含むイオンビームが得られるイオン源が、供給源ガスのイオン化に用いられることを見出した。同じ加速電圧で加速されるこのようなイオン混合物は、一価のイオンビームよりも高いフルエンスを得ることができるので、特に有用である。したがってこれらは、より短時間で特定の線量に到達することができる。多価イオンは、同じ加速電圧で、一価イオンよりも大きな注入深さに到達することでも興味深い。電子ボルト(eV)の単位で表される注入エネルギーは、一価イオン又は多価イオンの電荷に加速電圧を乗じることによって計算される。特定の加速電圧の場合、特定の種の二価のイオン、例えばN2+は、対応する一価のイオンN+の2倍の注入エネルギーを有するので、一価イオン及び多価イオンの混合物を含むイオンビームは特に有用である。そのため、加速電圧を増加させる必要なしに、より大きな注入深さに到達することができる。本発明の有利な一実施形態によると、正に帯電したイオンは、一価のイオン及び/又は多価のイオンの混合物を含む。特定の加速電圧の場合、イオンは、それらの電荷に比例するエネルギーが得られるので、一価及び多価のイオンの混合物によって、一価のイオンを用いる場合よりも、1ステップでより広い深さ範囲にわたる注入が可能となる。より有利には、一価及び多価のイオンの混合物中、異なる電荷のイオンの相対量は、電荷の増加とともに減少する。それによって、基材表面からバルクに向かうときに、物理的性質の段階的な変化とともに、注入されるイオンの量が減少する。
【0046】
本発明の一実施形態では、イオンビーム中のイオンの少なくとも90%は、N、O、He、Ne、Ar、Krから選択される種の一価及び二価のイオンで構成され、一価の種と二価の種との比は少なくとも55/25である。それぞれの一価及び二価の種は、N+及びN2+、O+及びO2+、He+及びHe2+、Ne+及びNe2+、Are及びAr2+である。
【0047】
代わりの一実施形態では、一価のイオンとして選択されたイオンを、例えば異なる加速電圧の幾つかのステップで逐次注入することによって、イオンが注入される。
【0048】
本発明の好ましい一実施形態では、処理される領域の下に配置される、処理されるガラス基材の領域の温度は、ガラス基材のガラス転移温度以下である。この温度は、例えば、ビームのイオン電流、処理領域のビーム中の滞留時間、及び基材の任意の冷却手段による影響を受ける。
【0049】
本発明の有利な一実施形態では、N又はOのいずれかの注入イオンが使用されるが、その理由は、これらが、より重いイオンよりも基材表面スパッタリングが少ないからであり、このことはエッチングで得られる表面粗さを維持するために特に重要である。本発明の別の実施形態では、N及びOの注入イオンが組み合わされる。
【0050】
本発明の別の有利な一実施形態では、Nイオンの注入を用いてより少ない線量で到達できるものと同様の性能で、いずれかのArの注入イオンを用いることができる。
【0051】
本発明の一実施形態では、ガラス基材を処理するために数本のイオン注入ビームが同時に又は連続して使用される。
【0052】
本発明の一実施形態では、ガラス基材の領域の表面単位当たりのイオンの総線量が、イオン注入ビームによる1回の処理で得られる。
【0053】
本発明の別の一実施形態では、ガラス基材の領域の表面単位当たりのイオンの総線量は、1つ以上のイオン注入ビームによる数回の連続する処理によって得られる。O、N、He、Ne、Ar、又はKrの同じ又は異なるイオンを注入するために、イオンビームには同じ又は異なる供給源ガスを使用することができる。
【0054】
本発明の方法は、好ましくは10-2mbar~10-7mbarの圧力、より好ましくは5×10-5mbar~6×10-6mbarの圧力の真空チャンバー中で行われる。
【0055】
本発明の方法を行うためのイオン源の一例は、Ionics SAのHardion+ RCEイオン源である。
【0056】
本発明は、ベイリンググレアを低下させるためのO、N、He、Ne、Ar、又はKrの一価及び多価イオンの混合物の使用にも関し、一価及び多価イオンの混合物は、ベイリンググレアを低下させるのに有効なイオン線量及び加速電圧を用いてガラス基材中に注入される。
【0057】
有利には、イオンの注入深さは、0.1μm~1μm、好ましくは0.1μm~0.5μmであることができる。注入イオンは、基材表面と注入深さとの間に広がる。注入深さは、注入イオンの選択、加速エネルギーによって適合させることができ、ある程度は基材によって変動する。
【0058】
本発明によると、O又はNの一価及び多価イオンの混合物は、好ましくは、O+及びO2+、又はN+、N2+及びN3+又はAr+及びAr2+をそれぞれ含む。
【0059】
本発明の好ましい一実施形態によると、Oの一価及び多価イオンの混合物は、O+よりも少ない量のO2+を含む。本発明のより好ましい一実施形態では、Oの一価及び多価イオンの混合物は55~98%のO+及び2~45%のO2+を含む。
【0060】
本発明の別の好ましい一実施形態によると、Nの一価及び多価イオンの混合物は、N+及びN2+のそれぞれよりも少ない量のN3+を含む。本発明のより好ましい一実施形態では、Nの一価及び多価イオンの混合物は、40~70%のN+、20~40%のN2+、及び2~20%のN3+を含む。
【0061】
本発明の別の好ましい一実施形態によると、Arの一価及び多価のイオンの混合物は、Ar+よりも少ない量のAr2+を含む。本発明のより好ましい一実施形態では、Arの一価及び多価のイオンの混合物は、50~80%のAr+、10~30%のAr2+、及び3~15%のAr3+を含む。
【0062】
本発明の一実施形態では、イオン注入によって、ベイリンググレアが低減される。
【0063】
図3を参照すると、本発明は、乗り物(300)中に使用するためのベイリンググレア低減システムを対象とする。乗り物とは、傾斜のついたフロントガラス及びダッシュボードを有する乗用車、トラック、列車、飛行機、船舶などを意味する。従来の乗り物(300)のフロントガラス(303)は、典型的にはガラス又はプラスチックから製造される。
【0064】
フロントガラス(303)上に入射する光は、フロントガラス(303)の性質、例えば、フロントガラス材料の屈折率、及びフロントガラス(303)の化学組成、並びに光の入射角により、透過する(305)、又は吸収若しくは反射する(図示せず)。
【0065】
フロントガラス(303)を通過する光(305)は、乗り物の内面、例えばダッシュボード(302)の上に位置する本発明(301)のガラスダッシュボード部分のエッチング及びイオン注入されている第1の表面に当たる。ダッシュボード(302)によって反射された光(306、307)は、一部は拡散的に(307)、一部は本質的に鏡面的な方法(306)で反射する。エッチング及びイオン注入された基材表面のために、この表面の反射光の量のみが大きく減少する。それによって、運転者に到達する反射光の量は、さらに減少し、この効果は、反射光の拡散によってさらに増強される。
【0066】
一実施形態では、ガラスダッシュボード部分(301)は、ダッシュボード構造(302)に透明に積層することができ、そのためダッシュボード構造の色は、ガラスダッシュボード部分を通して見ることができる。有利には、ダッシュボード構造は、光吸収性である、及び/又は着色されており、それによって、積層に用いられる接着剤に接触する場所であるその表面の反射される光の量がさらに減少する。本発明のガラスダッシュボード部分のため、ダッシュボード構造の外観、例えば色は、変化しない、又は乱れが生じない。従来の多層反射防止コーティングとは対照的に、本発明のガラスダッシュボード部分を用いると、高視野角、例えば最大60°でさえも、透過した又は反射した色の顕著な変化は生じない。接着材料は、好ましくは、可視波長範囲で、ガラスダッシュボード部分全体の屈折率n(ガラス)に近い屈折率n(接着剤)を有する。この差が小さいほど、ガラス-接着剤界面における光の反射が少なくなる。好ましくは0.8×n(ガラス)≦n(接着剤)≦1.2×n(ガラス)、より好ましくは0.9×n(ガラス)≦n(接着剤)≦1.1×n(ガラス)である。
【0067】
したがって、本発明のベイリンググレア低減システムは、幾つかの利点が存在する。このシステムによって、ベイリンググレアが回避又は最小限となることで改善された視力が得られ、ライトグレー又はベージュ色などの、以前利用できた色よりも薄い色のダッシュボードとともに用いることができる。さらに、ガラスダッシュボード部分の露出面上にコーティングが全くないことによって、化学的及び機械的の両方で耐性がより高くなり、より美しくなる。
【0068】
本発明の好ましい実施形態を以上に説明しているが、本発明の意図及び範囲から逸脱することなく、本発明の明らかな修正及び変更を行うことができる。本発明の範囲は、添付の請求項及びそれらの均等物によって規定される。
【0069】
例えば、角度変化後の色の変化Δa*b*は、それぞれの変化の前の基準点に対して以下のように定義される:
Δa*b*=[(a*(後)-a*(前))2+(b*(後)-b*(前))2]1/2。積層前/後などの別の変化を考慮することもできる。
【0070】
本発明の一実施形態では、ガラスダッシュボード部分は、ダッシュボード構造に積層された場合、ダッシュボード部分を通して見た積層ダッシュボード構造の色はあまり変化しない。有利には、積層前のダッシュボード構造の反射色a*Rc(db)及びb*Rc(db)と、積層後にガラスダッシュボード部分を通して見たダッシュボード構造の反射色a*Rc(db,after lam.)及びb*Rc(db,after lam.)との変化量Δa*b*Rc(db,lam)は、Δa*b*Rc(db,lam)≦1.5となり、又は角度による色の変化量Δa*b*Rc(db,lam)≦1、又は角度による色の変化量Δa*b*Rc(db,lam)≦0.7となり、又は特に少ない角度による色の変化量Δa*b*Rc(db,lam)≦0.5となる。
【0071】
本発明の一実施形態では、ガラスダッシュボード部分は、ダッシュボード構造に積層した場合に、角度による色の変化が少ない。これは、ある角度でガラスダッシュボードのガラスを通して見た場合に、ダッシュボード構造の色が変化しないことを意味する。特に、35°の視野角における角度による色の変化量Δa*b*Rcは、Δa*b*Rc(35°)≦1.5、又は角度による色の変化量Δa*b*Rc(35°)≦1、又は角度による色の変化量a*b*Rc(35°)≦0.7となり、又は特に少ない角度による色の変化量Δa*b*Rc(35°)≦0.5となる。ある実施形態では、最大75°のいずれか1つ以上の観測角の場合に、最大3、最大2、さらには最大1のΔa*b*Rc値が得られる。
【0072】
本発明の一実施形態では、ガラスダッシュボード部分によって、積層ダッシュボード構造なしで空気中で測定される場合に、無彩色の反射光が得られる。特に、ガラス基材のエッチング及びイオン注入されている側の反射光のCIELAB色座標は、反射におけるa*Rc及びb*Rc色座標で表して無彩色であり、すなわち1≦a*Rc≦1及び1≦b*Rc≦1、又はより無彩色であり、すなわち0.5≦a*Rc≦0.5及び0.5≦b*Rc≦0.5であり、又はさらには非常に無彩色であり、すなわち0.3≦a*Rc≦0.3及び0.3≦b*Rc≦0.3である。幾つかの場合では、2≦a*Rc≦2及び2≦b*Rc≦2である反射色を有することで、十分無彩色である。
【0073】
本発明によるガラスダッシュボードは、乗り物に取り付けられたフロントガラス中で低減されたベイリンググレアとともに優れた低スパークル特性を示す。
【0074】
「スパークル」は、画像源の画像、エッチングされたガラス表面の本発明のテクスチャー中に現れる小さな明るい箇所(ほぼピクセルレベルの大きさの規模)を意味し、これによって、透過画像が粒子の粗い外観となる。したがって、「スパークル効果」は、2つの表面領域の間、すなわち規則的なディスプレイのピクセルマトリックス(光源)と規則性のより少ない微細構造を有するエッチングされたガラス表面との間の光学的相互作用である。これは、観察者の頭が左右に動くと、ディスプレイ上の強度の不規則なゆらぎとして現れる(屈折、回折、拡散の現象を含む)。本発明の設定では、これは、画像源、例えばヘッドアップディスプレイ光源からの光の場合、特に、150ドット/インチ(dpi)を超え、又は250dpiを超える高解像度の画像源の場合に重要である。
【0075】
本発明によるガラスダッシュボード部分の光学的性質は、以下によって特徴づけることができる:
a.全直接光透過率(又は正光透過率)TL;
b.(i)「ヘイズ」及び(ii)「透明度」によって測定される拡散光透過率:「ヘイズ」は、広角散乱における拡散透過率に対応し、一方、「透明度」は、狭角散乱における拡散透過率に対応する;及び
c.表面の明るさ又は光沢を特徴付け、特に、特定の角度におけるASTM規格D523準拠した基準(たとえば、認定された黒色ガラス基準など)に対する表面の正反射率に対応するグロスであって、これはSGU(標準グロス単位)の単位で表される。
【0076】
特に記載がなければ、すべての光学的性質は、エッチング及びイオン注入されている第1の表面とは反対側の表面上に追加のコーティング及び表面処理を有さず、ダッシュボード構造に積層されていない、本発明のエッチング及びイオン注入されたガラスダッシュボード部分に対して測定される。
【0077】
光透過率の場合に使用される用語「拡散」は、光がガラスを通過するときに、2.5°を超える散乱によって入射ビームから偏向する光の比率である。光の反射の場合に使用される用語「拡散」は、ガラス/空気界面における反射によって、2.5°を超える散乱によって正反射ビームから偏向する光の比率である。
【0078】
ガラスダッシュボード部分の光学的性質は、本発明において、エッチング及びイオン注入されている第1の表面から測定される。
【0079】
本発明の有利な一実施形態によると、選択された用途に左右されるが、ガラスダッシュボード部分は、1~40%のヘイズを有する。より好ましくは、ガラスダッシュボード部分は、1~35%のヘイズを有する。
【0080】
本発明の別の有利な一実施形態によると、ガラスダッシュボード部分は、20~100%の透明度を有する。本発明の別の有利な一実施形態によると、ガラスダッシュボード部分は、40~80%の透明度を有する。
【0081】
本発明の有利な一実施形態によると、ガラスダッシュボード部分は、60°において10~40SGUのグロス値を有する。本発明の有利な一実施形態によると、ガラスダッシュボード部分は、60°において20~35SGUのグロス値を有する。
【0082】
本発明の有利な一実施形態によると、ガラスダッシュボード部分は、12mmの評価長さ上で、カットオフ波長が0.8mmであるガウシアンフィルタを用いて測定して:
・ 0.05μm≦Ra≦0.4μm、好ましくは0.14μm≦Ra≦0.4μm、
・ 0.010μm≦RSm≦0.060μm、好ましくは0.015μm≦RSm≦0.060μm、
によって規定される表面粗さを有し、
上記ガラスダッシュボード部分は、有利には、エッチング及びイオン注入されている上記第1の表面から測定して、以下の光学的性質:
・ 1~40%、好ましくは1~35%のヘイズ値;
・ 20~100%、好ましくは40~80%の透明度値;
・ 60°において10~40SGU、好ましくは20~35SGUのグロス値、
を有することができる。
【0083】
可視範囲におけるガラスの透過率を定量するために、本発明者らは、ISO9050規格に準拠して380~780nmの間の波長で計算され、2°の立体視野角において、ISO/CIE 10527規格によって定義される測色標準観測者CIE 1931を考慮することによりISO/CIE 10526規格によって定義されるものなどのD65光源を用いて測定される光透過率(TL)を規定する。本発明によるガラスダッシュボード部分は、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%の光透過率TLを有する。
【0084】
本発明によるガラスダッシュボード部分は、マトリックス組成が特に限定されず、したがって異なるガラス分類に属しうるガラスでできている。ガラスは、ソーダ石灰ケイ酸塩ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸塩ガラスなどであってよい。好ましくは、本発明のガラスダッシュボード部分はソーダ石灰ガラス又はアルミノケイ酸塩ガラスでできている。
【0085】
本発明の一実施形態によると、ガラスダッシュボード部分は、以下の表1中に示される、ガラスの全重量のパーセント値で表される含有量の組成を有する。
【0086】
【0087】
このようなソーダ石灰型の基本ガラス組成は、それ自体が機械的抵抗性が低い場合でさえも安価であるという利点を有する。理想的には、この最後の実施形態によると、ガラス組成はB2O3を含まない(意図的に加えられてないが、非常に少量の望ましくない不純物として存在しうることを意味する)。
【0088】
別のより好ましい方法の1つでは、ガラスダッシュボード部分は、ガラスの全重量のパーセント値で表される含有量で:SiO2 55~70%;Al2O3 6~18%;B2O3 0~4%;CaO 0~10%;MgO 0~10%;Na2O 5~20%;K2O 0~10%BaO 0~5%を含む組成を有する。
【0089】
このようなアルミノケイ酸塩型の基本ガラス組成は、機械的抵抗性がより高いという利点を有するが、ソーダ石灰ガラスよりも高価である。理想的には、この最後の実施形態によると、ガラス組成はB2O3を含まない(意図的に加えられてないが、非常に少量の望ましくない不純物として存在しうることを意味する)。
【0090】
本発明の有利な一実施形態によると、基本ガラス組成に関する上記実施形態と組み合わせることができるが、ガラスダッシュボード部分は0.002~0.06重量%の範囲の全鉄(Fe2O3で表される)含有を含む量組成を有する。0.06重量%以下の全鉄(Fe2O3の形態で表される)含有量によって、色がほとんど見えないガラスダッシュボード部分を得ることが可能となり、審美的設計における高い自由度が可能となる。このような低鉄値は、多くの場合高価で非常に純粋な出発物質を必要とし、それらの精製をも必要とするので、上記の最小値によって、ガラスのコストに過度に影響を与えないことが可能となる。好ましくは、組成は0.002~0.04重量%の範囲の全鉄(Fe2O3の形態で表される)含有量を含む。より好ましくは、組成は0.002~0.02重量%の範囲の全鉄(の形態で表されるFe2O3)含有量を含む。ほとんどの好ましい実施形態では、組成は0.002~0.015重量%の範囲の全鉄(Fe2O3の形態で表される)含有量を含む。
【0091】
好ましい一実施形態によると、本発明のガラスダッシュボード部分は、フロートガラス板である。用語「フロートガラス板」は、還元条件下で溶融ガラスを溶融スズ浴上に注ぐことにあるフロート法によって形成されるガラス板を意味するものと理解される。フロートガラス板は、周知の方法では、「スズ面」、すなわち板の表面に近いガラス本体中のスズに富む面を含む。用語「スズに富む」は、実質的にゼロである(スズを含まない)場合もゼロではない場合もある中心におけるガラスの組成に対するスズ濃度の増加を意味するものと理解される。したがって、フロートガラス板は、特に、たとえば約10μmの深さまでの電子マイクロプローブによって測定可能な酸化スズ含有量によって、他のガラス製造方法によって得られた板と容易に区別することができる。
【0092】
別の好ましい一実施形態によると、本発明のガラスダッシュボード部分は、スロットドロー法によって、又はフュージョン法、特にオーバーフローダウンドローフュージョン法によって形成されるガラス板である。これらの方法、特にフュージョン法では、幾つかの用途に必要な優れた平坦性及び平滑性が表面で実現できるガラス板が製造されるが、これらは大規模ガラス製造のためのフロート法よりも費用もかかる。
【0093】
本発明によるガラスダッシュボード部分は、0.1~25mmの厚さを有することができる。有利には、本発明によるガラスダッシュボード部分は、0.1~6mmの厚さを有する。より有利には、特にダッシュボードの形状が曲げを必要とする場合、本発明によるガラスダッシュボード部分の厚さは0.1~2.2mmである。
【0094】
本発明は、化学強化/硬化、又は熱強化が行われるガラスダッシュボード部分にも関する。前述のすべての実施形態は、化学強化/硬化、又は熱強化が行われたガラスダッシュボード部分の本発明にも適用される。
【0095】
一実施形態によると、本発明は、乗り物用のヘッドアップディスプレイシステムであって:本発明のガラスダッシュボード部分、並びにポリマーを含む中間層を挟む第1及び第2の実質的に平行に間隔が開けられた基材を含むフロントガラスと;フロントガラスにおいて形成される画像に対応する光線が向けられるように構成される画像源とを含み、上記光線は、ガラスダッシュボード部分を通してフロントガラスまで向けられ、ガラスダッシュボードの第1の表面は、フロントガラスに面し、エッチング及びイオン注入されており、第1の表面とは反対側の第2の表面は、画像源に面する、ヘッドアップディスプレイシステムに関する。ガラスダッシュボード部分は、上記のいずれかの実施形態、又は上記の実施形態のあらゆる可能な組み合わせを含むことができる。
【0096】
一実施形態では、本発明のヘッドアップディスプレイシステムは、p偏光される光線がフロントガラスに向けられる画像源を含む。
【0097】
一実施形態では、本発明のヘッドアップディスプレイシステムにおいて、フロントガラスは、低Eコーティングをさらに含む。
【0098】
一実施形態では、本発明のヘッドアップディスプレイシステムにおいて、フロントガラスは、ガラスダッシュボード部分に面する表面の少なくとも一部の上でp偏光を選択的に反射するコーティングを含む。
【実施例】
【0099】
基準例R1は、1つの主面上が化学エッチングされ、欧州特許出願公開第3166900 A1号明細書に開示され参照により本明細書に援用される方法により製造された平坦なガラス板である。R1は、それぞれ1.1mmの厚さの透明ソーダ石灰フロートガラスから製造される。
【0100】
以下の表に詳細が示される種々のパラメータにより参照例R1から出発し、Nの一価及び多価イオンのビームを発生させるためにRCEイオン源を使用して、本発明による試料1及び2を作製した。使用したイオン源は、Ionics SAのHardion+RCEイオン源であった。
【0101】
すべての試料は、26×56cm2~56×56cm2のサイズを有し、20~80mm/sの速度でイオンビームを通過するようにガラス基材を移動させることによって、エッチング面全体を処理した。
【0102】
処理されるガラス基材の領域の温度は、ガラス基材のガラス転移温度以下の温度に維持した。
【0103】
すべての試料の場合で、注入は、10-6mbarの圧力の真空チャンバー中で行った。
【0104】
【0105】
比較例C1は、括弧内が厚さである以下の層の順序、ガラス/TiOx(13nm)/SiO2(39nm)/Nb2O3(110nm)/SiO2(65nm)/Ti65Zr35Ox(6nm)をマグネトロンスパッタリングによって堆積することによってR1上に形成することができる。これは、保護オーバーコートを有する4層反射防止コーティングである。比較結果を大きく変化させるものではないが、TiOx及びNb2O3は、交換可能に使用することができ、Ti65Zr35Ox層は、ほとんどが機械的抵抗性の目的で使用され、光学的寄与のためには使用されないので、省略することができる。
【0106】
それぞれのガラスダッシュボード部分のテクスチャー/表面粗さ及び光学的性質に関して分析した。
【0107】
12mmの評価長さに対して、カットオフ波長が0.8mmであるガウシアンフィルタを用いて、3D光学プロファイラーLeica Type DCM3Dを使用し、「Leica map」ソフトウェアを使用して、表面粗さ測定を行った。最初に試料を洗剤で洗浄し乾燥させる。次に顕微鏡下に置き、従来の設定の後、次にプロファイルの2D取得を開始する(ソフトウェアは2.5μmの既定のカットオフ波長λを使用する)。
【0108】
ASTM規格D1003-11に準拠し光源A2を用いてヘイズ及び透明度の測定を行った。
【0109】
60°におけるグロスが96.0である認定黒色ガラス基準を用いて、ASTM規格D523-14に準拠し60°の特定の角度でグロス測定を行った。
【0110】
スパークルは、2つの構造層であるディスプレイのピクセルマトリックスと、エッチングされた表面の不規則な表面構造との間の相互作用の結果である。スパークル効果の測定は、「Display-Messtechnik & Systeme」社が開示する方法に準拠し、装置のSMS-1000を用いて行われる。スパークル強度を評価するために、ディスプレイのピクセルマトリックスによって生じる変調は、スパークルによる不規則な強度変調から分離する必要がある。ディスプレイのガラス表面の数値画像が、限定された並進に対応する2つの異なる曝露に関して記録される。差分画像が形成される。スパークルのレベルは、スパークル領域中の選択された範囲の標準偏差を、元の画像の1つの同じ範囲の平均値で割ることによって評価される。
【0111】
作業のために選択した条件は以下の通りである:
・ ピクセル比264(スクリーンからの距離40cm)
・ 1フィルタ
・ 強度240
【0112】
スパークル測定の場合、各試料は、その反射防止エッチング面がカメラに向かうようにして、緑色背景画像を示すApple iPad(登録商標)4のレティナデイスプレイ上に配置される。
【0113】
透過率及び反射率の測定は、Hunter Associates Laboratory,Inc.のUltraScan PRO Spectrophotometerを用いて行った。反射色は、角度分解反射率測定用のARTAアクセサリを有するPerkin Elmer Lambda 950分光光度計を用いて測定した。
【0114】
以下の表2は、基準試料の粗さを示している。粗さ値は、実施例1及び2の注入後と本質的に同じである。
【0115】
【0116】
結果として得られる光学的性質を以下の表3にまとめている。
【0117】
【0118】
これより分かるように、ほとんどの光学的性質は同じままであるが、反射色はごくわずか変化し、光透過率(TL)は、光反射が低減されることによって2~3%だけ増加する。
【0119】
異なる試料をガラスダッシュボードのように評価するために、Eclat Digital社の仮想試作ソフトウェア‘Ocean’を用いて評価を行った。このソフトウェアは、使用される材料の物理的性質に基づいて現実的なレンダリングを行い、複雑な3次元環境における光学的性質の定量評価を可能にする。
【0120】
上記の異なる試料の反射率は、全可視スペクトルにわたって種々の角度で測定され、‘Ocean’を用いたシミュレート結果は、測定値の0.1%の範囲内となることが分かった。
【0121】
評価構成の2次元断面を
図5中に示す。光源からの光(505)は、平坦なダッシュボードガラス試料(501)の第1の表面に、ダッシュボードガラス試料の表面法線に対して20°の角度で当たる。第1の表面は、本発明のエッチング及びイオン注入されている第1の表面、又は多層反射防止コーティングを有する第1の表面のいずれかであり;第2の反対側の表面は空気にさらされる。入射光(505)は、第1の表面で部分的に反射され、第2の表面で部分的に反射される。両方の表面の正反射を合わせたもの(506)は、フロントガラス(503)の内面に、フロントガラスの表面法線に対して60°の角度で当たり、運転者の意図する位置(504)に向かって反射され、この位置で測定される。
【0122】
この第1の構成では、フロントガラスは、乗り物の外側から内側に向かって、厚さ2.1mmのグリーンガラスの第1のガラスダッシュボード部分、厚さ0.76mmのポリビニルブチラールシート、厚さ1.6mmの透明ガラスを含む積層グレージングである。さらに、入射光(505)は、Hosek-Wilkie環境シミュレート日光及び地球表面の雰囲気照明を用いた実際の太陽光に近いものである。
図6から分かるように、運転者位置(504)で測定される光の強度Iは、波長範囲410~730nmの大部分の場合で、試料2(601)の場合に最低、試料1(603)の場合に最高であり、試料C1(602)はそれらの間である。強度曲線は、試料1及び2の場合、可視波長範囲のほとんどで、平坦又は連続的に減少するが、C1は660nm~780nmの波長で鋭い強度増加を示す。これは、C1の場合は赤色波長範囲で反射光が増加し、したがって、試料1及び2の場合よりも無彩色の反射光が少ないと解釈される。
【0123】
図7中に示される第2の評価構成では、評価されるガラスダッシュボード試料(701)に取り付けられたヘッドアップディスプレイ(HUD)光源(702)からの光(706)は、試料を横断してフロントガラス(703)に向かう。ヘッドアップディスプレイ光源(702)とは反対側の表面は、それぞれ、エッチング及びイオン注入されているエッチングされた第1の表面、又は多層反射防止コーティングが設けられた表面である。光(706)はフロントガラス(703)で反射され、運転者位置(705)に到達する光の量が評価される。
【0124】
HUD光(706)が未偏光の場合、運転者位置(705)に到達する光の相対量は、それぞれ基準のR1又はR2(100%に設定される)と比較して、C1及び試料1の場合108%であり、試料2の場合110%である。
【0125】
HUD光(706)がp偏光される場合、運転者位置(705)に到達する光の相対量は、それぞれ基準のR1又はR2(100%に設定される)と比較して、C1及び試料2の場合103%であり、試料1の場合106%である。この場合、p偏光を反射するように計画されたコーティングは、フロントガラスの内面に堆積することができる。
【0126】
さらに、HUD光(706)がp偏光される場合、
図8を参照すると、C1の光透過率(802)は、可視スペクトルの両端で大きく低下することが分かった。この状況は、可視スペクトル全体にわたって同様の光度が望まれる場合に取り扱いが困難となる。試料1(803)及び2(801)の場合、光透過率は常にC1よりも高くない場合があるが、これらの試料の最大透過率と最小透過率との間の差は、可視波長範囲全体にわたって5%未満である。
【国際調査報告】