IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ディラック プロプライエタリー リミテッドの特許一覧

特表2024-530623量子処理素子を制御するためのシステム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-23
(54)【発明の名称】量子処理素子を制御するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/06 20060101AFI20240816BHJP
   G06N 10/40 20220101ALI20240816BHJP
   G06F 7/38 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
H01L29/06 601D
H01L29/06 ZAA
G06N10/40
G06F7/38 510
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505404
(86)(22)【出願日】2022-07-29
(85)【翻訳文提出日】2024-03-11
(86)【国際出願番号】 AU2022050804
(87)【国際公開番号】W WO2023004469
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】2021902356
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522366705
【氏名又は名称】ディラック プロプライエタリー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハンセン、イングヴィルド
(72)【発明者】
【氏名】シードハウス、アマンダ エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】サライバ デ オリベイラ、アンドレ ルイス
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、チ - ファン ヘンリー
(72)【発明者】
【氏名】ラウホテ、アーネ
(72)【発明者】
【氏名】ドズラク、アンドリュー スティーブン
(57)【要約】
本開示は、量子処理システムに関連し、より具体的には、量子処理素子を制御するためのシステム及び方法に関連する。量子処理システム内の1つ以上のキュービットを制御するための方法であって、量子処理システムは、複数のキュービットを含む。本方法は、AC電磁場を生成することと、AC電磁場の振幅を変調して、振幅変調AC電磁場を生成することと、振幅変調AC電磁場を量子処理システムに印加することであって、アイドルモードでは、複数のキュービットが、振幅変調AC電磁場と共鳴するように調節される、印加することと、1つ以上のキュービットにおいて演算を実行するために、1つ以上のキュービットのラーモア周波数を、振幅変調AC電磁場と同期して変化するように、個別に制御することと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子処理システム内の1つ以上のキュービットを制御するための方法であって、前記量子処理システムが、複数のキュービットを含み、前記方法が、
AC電磁場を生成するステップと、
前記AC電磁場の振幅を変調して、振幅変調AC電磁場を生成するステップと、
前記振幅変調AC電磁場を前記量子処理システムに印加するステップであって、アイドルモードでは、前記複数のキュービットが、前記振幅変調AC電磁場と共鳴するように調節される、ステップと、
前記1つ以上のキュービットにおいて演算を実行するために、前記1つ以上のキュービットのラーモア周波数を、前記振幅変調AC電磁場と同期して変化するように、個別に制御するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記振幅変調AC電磁場が、全てのキュービットに大域的に印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記振幅変調AC電磁場が、各キュービットに局所的に印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記振幅変調AC電磁場の振幅変調周波数が、前記複数のキュービットのラビ周波数と所定の割合になるように操作される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記複数のキュービットの前記ラーモア周波数が、所定の閾値範囲内に設定される、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記複数のキュービットの前記ラビ周波数が、所定の閾値範囲内に設定される、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記キュービットが、半導体基板内のスピンキュービットである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記量子処理システムが、シリコンベースのシステムである、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記量子処理システムが、シリコンMOSシステムである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記複数のキュービットが、量子ドットに閉じ込められた1つ以上の電子又は正孔に符号化される、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ以上のキュービットの前記ラーモア周波数が、スピン軌道相互作用を介して制御される、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記振幅変調AC電磁場の前記振幅変調周波数にほぼ一致する周波数を有する周波数変調信号を使用して、前記キュービットの前記ラーモア周波数をシフトさせることによって、前記1つ以上のキュービットのうちのキュービットにおいて単一キュービットゲート演算を実行するステップを更に含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
量子処理システム内の1つ以上のキュービットを制御するための方法であって、前記量子処理システムが、複数のキュービットを含み、前記方法が、
常時オンのAC電磁場を前記量子処理システムに印加するステップであって、アイドルモードでは、前記複数のキュービットが、前記AC電磁場と共鳴するように調節される、ステップと、
前記AC電磁場が前記量子処理システムに印加されている間、パウリの排他原理を活用することによって、前記1つ以上のキュービットにおいて初期化、キュービットゲート、又は読み出し動作を実行するステップと
を含む、方法。
【請求項14】
前記1つ以上のキュービットにおいてキュービットゲート演算を実行するために、前記1つ以上のキュービットのラーモア周波数を個別に制御して、前記AC電磁場との共鳴から前記1つ以上のキュービットを外すステップを更に含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記AC電磁場が、振幅変調AC電磁場である、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記AC電磁場が、一定振幅を有する、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項17】
前記AC電磁場が、全てのキュービットに大域的に印加される、請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記AC電磁場が、各キュービットに局所的に印加される、請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記複数のキュービットの前記ラーモア周波数が、所定の閾値範囲内に設定される、請求項13~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記複数のキュービットのラビ周波数が、所定の閾値範囲内に設定される、請求項13~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記1つ以上のキュービットの前記ラーモア周波数が、スピン軌道相互作用を介して制御される、請求項13~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記キュービットの前記ラーモア周波数と前記AC電磁場の周波数との間の離調を変調することによって、前記1つ以上のキュービットのうちのキュービットにおいて単一キュービットゲート演算を実行するステップであって、前記離調が、前記キュービットの前記ラビ周波数の振幅に一致する周波数で、前記キュービットの前記ラーモア周波数を正弦波状にシフトすることによって変調される、ステップを更に含む、請求項13~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記1つ以上のキュービットのうちの2つのキュービット間で、前記2つのキュービット間のゲート電極の電圧をパルス化することによって、又は一方のキュービットを他方のキュービットに対して離調することによって、2キュービットゲート演算を実行して、制御可能な交換結合を作り出すステップを更に含む、請求項13~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記キュービットが、半導体基板内のスピンキュービットである、請求項13~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記量子処理システムが、シリコンベースのシステムである、請求項13~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記量子処理システムが、シリコンMOSシステムである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記複数のキュービットが、1つ以上の電子又は正孔を有する量子ドットに符号化される、請求項13~26のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の態様は、量子処理システムに関連し、より具体的には、量子処理素子を制御するためのシステム及び方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
量子コンピュータ及び量子シミュレータは、基礎科学及び医学研究から国家安全保障に至るまで、我々の現代社会の多くの側面に大改革をもたらそうとしている。素因数の発見又は暗号解読、第一原理からの新しい材料の設計、人工知能、機械学習などの、このようなアプリケーションの多くの防御への影響は相当なものになるであろう。少数のアプリケーションは、エラー訂正プロトコルを用いない(100~1000キュービットを有する)中規模の量子コンピュータで実行可能であると予想されているが、最も破壊的なアルゴリズムのいくつか、例えば、素因数分解のためのショアのアルゴリズムは、100万キュービットを超える大規模かつ完全なフォールトトレラントな量子コンピュータを必要とする。
【0003】
しかしながら、そのような大規模な量子コンピュータが商業的に製造される前に、いくつかの障害を克服する必要がある。そのような障害の1つは、キュービット(量子情報制御の基本単位)の制御である。これまで、いくつかの技法が、キュービットの状態を制御するために提案されてきたが、これらの技法は、効果的にスケールアップすることができないか、又はより高速なデコヒーレンスをもたらす。
【0004】
したがって、キュービットの動作に悪影響を及ぼさずに、複数のキュービットを同時に制御することができる拡大縮小が可能なキュービット制御システムの必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
本開示の第1の態様によれば、量子処理システム内の1つ以上のキュービットを制御するための方法であって、量子処理システムは、複数のキュービットを含み、方法は、AC電磁場を生成することと、AC電磁場の振幅を変調して、振幅変調AC電磁場を生成することと、振幅変調AC電磁場を量子処理システムに印加することであって、アイドルモードでは、複数のキュービットが、振幅変調AC電磁場と共鳴するように調節される、印加することと、1つ以上のキュービットにおいて演算を実行するために、1つ以上のキュービットのラーモア周波数を、振幅変調AC電磁場と同期して変化するように、個別に制御することと、を含む、方法、が提供される。
【0006】
本開示の第2の態様によれば、量子処理システム内の1つ以上のキュービットを制御するための方法であって、量子処理システムは、複数のキュービットを含み、方法は、常時オンのAC電磁場を量子処理システムに印加することであって、アイドルモードでは、複数のキュービットが、AC電磁場と共鳴するように調節される、印加することと、AC電磁場が量子処理システムに印加されている間、パウリの排他原理を活用することによって、1つ以上のキュービットにおいて初期化、キュービットゲート、又は読み出し動作を実行することと、を含む、方法、が提供される。
【0007】
本発明の更なる態様、及び前段落に記載の態様の更なる実施形態は、例として及び添付の図面を参照して与えられる以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本発明の特徴及び利点は、添付の図面を参照して、実施例としてのみ、本発明の実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【0009】
図1A】単一キュービットにスピンキュービット共鳴を使用する、既知のキュービット制御方法を示す。
図1B図1Aに示される4つのキュービットの周波数の関数としての時間トレースを示す。
図2A】グローバルフィールドを使用する、既知のスピンキュービット制御方法を示す。
図2B図2Aのグローバルフィールド内のキュービットにおいて実行される演算を示す。
図3A】本発明の態様による、ドレストキュービットのグローバル制御の概略図を示す。
図3B図3Aのグローバルフィールド内のキュービットにおいて実行される演算を示す。
図4】アダマール変換を介した、ベアスピンキュービットフレームのドレストフレームへの変換から生じるフレームの変換のブロッホ球の表現を示す。
図5A】ゼーマンエネルギー(Δν=Δν=0)に差がない場合の電位離調εの関数としてのエネルギー線図を示す。
図5B】駆動周波数がゼーマンエネルギー差の中心に当たる(Δν1=-Δν2)場合の電位離調εの関数としてのエネルギー線図を示す。
図5C】エネルギー軸がスピン保存遷移の近くに集束した(0,2)構成|S(0,2)〉の一重項状態を示す。
図5D】時間が縦軸で、離調が横軸の初期化シーケンスを示す。
図5E】ランプ時間の関数としての状態確率を示す。
図6A】単一キュービット制御の周波数シフトキーイング方法を示し、時間に対して周波数離調がプロットされている。
図6B】単一キュービット制御のFM共鳴法を示し、時間に対して周波数離調がプロットされている。
図7】2キュービットゲートのためのブロッホ球のz軸から測定された歳差軸θの角度によって決定される、SWAPゲートレジームのCPHASEレジームへの遷移を示す。
図8A】ドレスト方法の離調ノイズへの抵抗力を示す。
図8B】SMART方法の離調ノイズへの抵抗力を示す。
図8C】ドレスト方法の離調ノイズへの抵抗力を示す。
図8D】ドレスト方法の離調ノイズへの抵抗力を示す。
図8E】SMART方法の離調ノイズへの抵抗力を示す。
図8F】SMART方法の離調ノイズへの抵抗力を示す。
図9A】ドレスト技法のノイズキャンセリング特性を記述する幾何学的図形の形式を示す。
図9B】SMART技法のノイズキャンセリング特性を記述する幾何学的図形の形式を示す。
図9C】ドレスト技法のノイズキャンセリング特性を記述する幾何学的図形の形式を示す。
図9D】SMART技法のノイズキャンセリング特性を記述する幾何学的図形の形式を示す。
図9E】ドレスト技法のノイズキャンセリング特性を記述する幾何学的図形の形式を示す。
図9F】SMART技法のノイズキャンセリング特性を記述する幾何学的図形の形式を示す。
図10】2つの軸v及びwの回転軸パラメータを示し、SMARTキュービット法の場合、φ((a)~(b))、θ((c)~(d))、及びη((e)~(f))を含む。(g)~(h)では、2つの軸がブロッホ球に示されており、それらの間の相対角度が強調表示されている。
図11】ベア一致、ドレスト一致、SMART一致の場合の異なる周波数離調及び振幅ノイズレベルに対するキュービットゲート忠実度を示し、(a)~(c)では、ベアキュービット、ドレストスピンキュービット、及び
【数1】

ゲート演算に対する一致ゲート忠実度を示し、(d)~(f)では、SMARTキュービット法の一致性、
【数2】

ゲート演算、及び
【数3】

ゲート演算を示す。
図12】異なる周波数離調及び振幅ノイズレベルに対する2つのキュービットゲートの忠実度を示し、(a)~(b)では、ドレストキュービット及びSMARTキュービットそれぞれの
【数4】

を示し、(c)~(d)では、ドレストキュービット及びSMARTキュービットのCNOTゲートを示し、(e)~(f)では、ドレストキュービット及びSMARTキュービットのCNOTゲートを示す。
図13】SMART技法における
【数5】

ゲート及び
【数6】

ゲートに対する、シュタルクシフト制御に使用される2つの高調波の振幅の収束をそれぞれ示す。
図14図11図13の二次元マップをガウスノイズで生成するために使用されるモデルを示し、(a)~(c)では、固定ノイズマップ及び二次元ガウスを伴って3つの異なるノイズレベルを例解し、(d)では、それらを乗算して3つの星印が生成されている。
図15】SMART技法下で動作するキュービットの2キュービット初期化を示し、(a)では、エネルギー線図を示し、(b)では、ランプがmw最小値を中心とする、ランプシーケンスを示し、(c)及び(d)では、S(0,2)からS(1,1)が初期化された、結果として生じる状態確率を示し、(e)~(h)では、(a)~(d)と同じであるが、mw最大値を中心とするランプを用いたものを示す。
図16】ドレストプロトコルの2キュービット初期化を示し、S(1,1)がS(0,2)から初期化された状態確率を示す。
図17】デバイスの画像、基底変換及びキュービット読み出しウィンドウを示し、(a)では、同一のデバイスの偽色走査電子顕微鏡(SEM)画像を示し、(b)では、(a)の破線からのデバイスの断面を示し、(c)では、基底変換を示し、(d)では、読み出しに使用されるキュービット安定線図を示す。
図18】ベアキュービットと、ドレストプロトコル及びSMARTプロトコルで動作するキュービットとの間のコヒーレンス時間の比較を示し、(a)では、y軸上に待ち時間及びx軸上に変調周期を有するラムゼー様実験を示し、(b)では、ゼロ次ベッセル関数と適合及び比較した減衰率を示し、(c)~(e)では、ベア技法、ドレスト技法及びSMART技法それぞれに対するコヒーレンスデータの比較を示し、(f)では、3つの場合全てのmwパルス列を示す。
図19】シュタルクシフトデータを示し、(a)~(b)では、シュタルクシフトの大きさが-55.13MHz/Vとなる、傾斜ゲートG2から生じるシュタルクシフトを示し、(c)~(d)では、大きさが-124.71MHz/VのゲートG1からのシュタルクシフトを示す。
図20】(a)~(b)では、FM共鳴制御を有するドレストキュービットの場合のゲート
【数7】

及びゲート
【数8】

に対するプロセストモグラフィの結果を示し、(c)~(d)では、余弦変調を使用するSMARTキュービットの場合のゲート
【数9】

及びゲート
【数10】

に対するプロセストモグラフィの結果を示し、(e)~(h)では、正弦変調を有するSMARTキュービットの場合のゲート
【数11】

ゲート
【数12】

ゲート
【数13】

及びゲート
【数14】

に対するプロセストモグラフィの結果を示す。
図21】SMARTキュービット及びドレストキュービットの両方に対するランダム化ベンチマークの結果を示し、(a)では、ノイズの導入及びそれぞれのパルス列を示し、(b)では、ノイズを追加しないドレストキュービットに対するランダム化ベンチマークデータを示し、(c)では、σ=20kHz(白)、G2Cに追加された準静的ガウスノイズを有するランダム化ベンチマークデータを示し、(d)及び(e)では、正弦変調SMARTキュービットに対する同様のデータを示す。
図22】変調高調波を組み合わせる変調技法の試験結果を示し、(a)では、θ=-0.67545ラジアンの変調駆動場に対し、異なる特性を有する駆動場が現れる、正弦曲線の第1の高調波及び第3の高調波の組み合わせによって生成された異なる駆動場を示し、(d)では、対応する変調形状を示し、実験及びシミュレートラムゼーデータのうち、(b)では、待ち時間が400μsに固定され、かつTmodが40μsに等しい場合のデータを示し、(e)では、振幅の範囲に対して記録された更なるラムゼーデータを示し、(c)及び(f)では、シミュレートデータを示す。
図23】ドレスト技法を使用する例示的な方法を例解するフローチャートである。
図24】SMART技法を使用する例示的な方法を例解するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書における任意の先行技術への言及は、この先行技術が、任意の管轄区域における共通の一般的知識の一部を形成しているか、又はこの先行技術が、当業者によって理解され、関連しているとみなされ、及び/若しくは他の先行技術と組み合わされることが合理的に予想され得るという認識又は示唆ではない。
【0011】
概要
量子コンピューティングシステムの一種は、個々の量子処理素子のスピン状態に基づいており、量子処理素子は、半導体チップ内に局在する電子スピン、正孔スピン、又は核スピンであり得る。これらの電子スピン、正孔スピン及び/又は核スピンは、ゲート定義量子ドット、又は半導体基板内に位置決めされたドナー原子若しくはアクセプタ原子のいずれかに閉じ込められ、量子ビット又はキュービットと称される。
【0012】
量子ドット自体は容易に拡大縮小が可能であるが、キュービットの量子状態を初期化、制御、及び読み出しを行うために、これらのキュービットを、電子リザーバ、単一電子トランジスタ、及びマイクロ波アンテナなどの他の電子デバイスに接続することが一般的に必要である。これらの電子デバイスは、量子ドット自体ほど容易には拡大縮小が可能でないことが多く、量子デバイスの周辺の様々なソースからの電流の配線を必要とする。これらの電子デバイスの数が増加するにつれて、電流用の非遮断ビアの作成はますます困難になる。
【0013】
任意の大規模な量子コンピュータの構成要素は、量子ゲート、すなわち、1つ又は2つのキュービットに作用する基本的な量子演算である。量子ゲートの例としては、一致ゲート、パウリゲート、制御ゲート、位相シフトゲート、スワップゲート、トフォリゲートなどが挙げられる。半導体においてスピンベースのキュービットを操作すること、具体的には、キュービットのスピン状態で高速演算を実行することは、量子ゲートを構築するための重要な手段である。特に、高速で、個別にアドレス指定可能な(ユニタリ変換、量子測定、及び初期化などの)キュービット演算は、拡大縮小が可能なアーキテクチャに不可欠である。
【0014】
これまでのところ、そのようなゲート機能を果たすように、キュービットのスピン状態を操作/制御するための主な手段は2つあり、磁気制御及び電気制御である。磁気制御では、オンチップ生成磁場又はオフチップ外部生成(又はグローバル)磁場のいずれかが、量子チップに印加されて、キュービットを駆動/制御する。具体的には、キュービット制御は、印加されたDC磁場に垂直な方向に交番磁場を導入することによって、実現することができる。このことは、一般的に、キュービットの近くのオンチップアンテナ電極にAC電流を流すことによって行われる。AC電流は、交番磁場を生成する。この磁場の周波数が、キュービットの共鳴周波数と一致すると、スピンキュービットは時間の関数として回転し始める。これらの振動はラビ振動と呼ばれ、単一キュービット回転及び制御の基礎を形成する。
【0015】
キュービットアレイ内の複数の量子ドットの統合は、複数の電子を二次元格子内に閉じ込めるための電極の緻密な配置の作成を必要とする。このことにより、当該キュービットを制御及び読み出すために必要であり得る他のオンチップデバイスを統合することを困難になる。スピン共鳴のために広帯域マイクロ波アンテナを統合すること(スピン制御のための1つの可能な方策である)は、平面幾何学的形状に重要な制約を作り出し、チップのかなりの領域を占有し、システム内の特定のスピンに非常に近く(典型的には、数百ナノメートル以下で)位置決めされた場合にのみ、スピン回転を駆動するのに効果的である。
【0016】
磁気制御は、シリコンベースのキュービットにおける高忠実度の単一キュービットゲート及び2キュービットゲートを可能にするが、ナノメートルスケール(量子ドットが製造されることが多いスケール)で局所振動磁場を生成する技術的な複雑さは、磁気制御の将来的な拡張性にとって有意な障害のままである。更に、局所振動電流は、量子コンピューティングチップで熱を生成することが多く、キュービットコヒーレンスに必要な極低温環境と適合しない。オンチップアンテナによって磁場が生成される場合、アンテナは、量子コンピューティングチップ上の貴重な不動産を占有する。これらの困難は、スピンを電気的に操作するための動機付けを与える。
【0017】
デバイス設計に困難な制約を作り出す別のスピン制御技法は、集積磁性材料を使用する(典型的には、オンチップマイクロ磁石を使用する)電気駆動スピン共鳴(EDSR)技法である。これらの材料のサイズと、望ましい磁場勾配を得るために必要な幾何学的形状とは、その適用範囲を量子ドットの小さいセットのみに制限し、この技術を量子ドットの大きい二次元アレイに統合するための経路は不明確である。
【0018】
個々のスピンキュービットの選択制御は、制御機構がマイクロ波パルススピン共鳴を使用し、それぞれの固有ラーモア周波数によって各スピンをアドレス指定する場合、制限的になる。一般的に言えば、スピンの状態は、外部に印加されたDC磁場
【数15】

によってエネルギー的に分離され、(
【数16】

に平行及び逆平行な)アップスピン状態及びダウンスピン状態は、|0〉状態及び|1〉状態である。実験室のフレームから観察された場合、アップ状態及びダウン状態の任意の重ね合わせは、キュービットのラーモア周波数又は歳差運動周波数と呼ばれる
【数17】

によって設定された周波数を有する
【数18】

によって定義された軸の周りを歳差運動する。半導体デバイス内のスピンのラーモア周波数は、gの有効値を設定するスピンを取り囲む微視的環境によって決定される。同位体濃縮シリコン(28Si)におけるスピンキュービットの場合、スピン軌道相互作用は、可変キュービットラーモア周波数をもたらす主機構である。
【0019】
図1Aは、単一キュービット制御のためのスピンキュービット共鳴の本方法を概略的に示す。図1Aでは、マイクロ波パルス102が、キュービット104のアレイに印加される。キュービットアレイ内のキュービット104の各々は固有ラーモア周波数を有するため、マイクロ波パルス102の周波数は、対象キュービット、例えば、キュービット104Aに影響を与えるように選択され得る。
【0020】
この例では、マイクロ波パルス102は、対象キュービット104Aのみを「オン共鳴」させる。このように、キュービット104Aは、時間の関数として、スピンアップ状態とスピンダウン状態との間で回転し得る。これらの振動は、ラビ振動と呼ばれ、単一キュービット回転及び制御の基礎を形成する。他のキュービットは、「オフ共鳴」であり、それぞれの固有ラーモア周波数を有する
【数19】

によって定義された軸の周りを単に歳差運動している。
【0021】
キュービット104Aを対象にするマイクロ波制御パルス102は、同時に、キュービットアレイの全てのキュービットに作用する。このため、マイクロ波場と、キュービットアレイ内の他のキュービットとの間の意図していない相互作用が可能である。この例では、キュービット104Bは、対象キュービット104Aに近いラーモア周波数を有し、キュービット104Bにおいて望ましくない回転をもたらし得る。
【0022】
図1Bは、図1Aに示される4つのキュービットの周波数の関数としての時間トレースを示す。周波数はx軸にプロットされ、一方、時間はy軸にプロットされている。4つのキュービット104A、104B、104C及び104Dのスピンラーモア周波数は、プロットの垂直実線によって表される。所与のキュービットがオン共鳴するための条件は、初期状態がスピンアップ又はスピンダウンのいずれかであったと想定して、マイクロ波制御パルス102から生じるラビ振動の振幅を示す勾配マップ110として表される。
【0023】
この振幅は、マイクロ波パルス102がキュービット周波数と一致するときに最大であり、ラビ周波数によって設定された範囲でキュービットが離調するにつれて減衰する。キュービット104C及び104Dの制御パルスは、望ましくない回転を伴わずに実行されるが、キュービット104A及び104Bは、周波数が同様であるため、一方のキュービットが対象とされるとき、隣接するキュービット上に顕著なオフ共鳴駆動が存在する。白色の破線112は、図1Aが表す時間インスタンスを示す。
【0024】
他の例では、マイクロ波パルス周波数は、キュービットアレイ104内の他のキュービットのいずれかを対象にするように選択され得る。
【0025】
各個々のラーモア周波数を選択的に駆動することによって、大規模なキュービットアレイでスピン共鳴を達成するには、各キュービットのラーモア周波数は、フォールトトレラント動作の品質を低下させ得る(図1A及び図1Bに関して示される望ましくない回転などの)エラーを回避するために、ラビ周波数の数倍で分離されるべきである。マイクロ磁石によって引き起こされる磁場勾配を有するパルス整形、又は異なるキュービットラーモア周波数の操作の使用は、前述のエラーを回避するのに役立ち得る。しかしながら、限られたオンチップスペースで数百又は数千のキュービットのオーダーでシステム内のキュービットを個別にアドレス指定することには有意な障害が残っている。
【0026】
可能な解決策は、オンチップデバイスから離れ、遠隔で生成された交番電磁場によってスピン共鳴を駆動することである。これらの磁場を遠隔で作り出すための潜在的な方法の例としては、誘電共振器、キュービットチップに隣接した異なるチップ上に取り付けられた磁気共鳴器、三次元空洞などの使用が挙げられ得る。
【0027】
このような方策の主な難点は、個別化したキュービットの制御をアドレス指定可能な方式で実行すること、すなわち、要求に応じてアレイ内のキュービットの各々の量子状態を個別に制御することである。このような個別化制御を達成するための1つの方策は、シリコン/酸化物界面によって引き起こされるスピン軌道効果を使用する。具体的には、この方法は、スピン共鳴周波数の値を動的に制御するために、ゲート電極に電界を印加することによって、スピン軌道相互作用を局所的に制御する。
【0028】
図2Aは、グローバルフィールドを使用する、例示的なスピンキュービット制御方法を概略的に示す。この例では、グローバル電磁場210は、キュービット104のアレイに印加される。グローバル電磁場210は、常にオンである。
【0029】
更に、図2Aに示される配置は、電極126を含む。電極126は、量子ドット内の電子を閉じ込めることに関与している。これらの電極はまた、特定の範囲内のキュービット共鳴周波数のシフトを達成するためにも使用され得る。このような制御技法では、キュービット104は、アイドル状態にあり、通常の動作中、グローバルフィールド210との共鳴から外れている。つまり、キュービットは、通常の動作中、
【数20】

の周りを単に歳差運動している。キュービット演算を実行するために、キュービットは、キュービット周波数を局所的に制御するいくつかの方法によって、グローバルフィールド210と個別に共鳴させられ得る。このことは、例えば、ゲート電極を使用して超微細又はスピン軌道相互作用によって引き起こされる周波数シフトを電気的に制御することによって、g因子を局所的に制御することによってキュービットをシフトさせることによって、又はこれら2つの組み合わせによって、実行され得る。
【0030】
キュービットのうちの1つ、例えば、キュービット104Cを動作させるために、その特定のキュービットを取り囲む電極(例えば、126C)の電圧が、次に、キュービット104Cのシュタルクシフトを変化するように変化され、したがって、そのg因子を変化させる。g因子の変化は、キュービットをグローバルフィールド210と共鳴させるように選択され、回転が生じることを可能にする。
【0031】
この方法は、各キュービットに対して個々の共鳴振動数を有するという問題を取り除き、クロストーク効果を低減する。図2Bは、そのようなオフ共鳴グローバルフィールド内のキュービットにおいて実行される3つの回転を示す。制御回転が実行されると、個々のキュービットが共鳴させられ、グローバルフィールド周波数に一致する。
【0032】
この方法の限界は、これらのキュービットに見られる典型的なノイズであり、これにより、キュービットがグローバルフィールド線幅よりも更に離調され得る必要がある。この方策は、電気ノイズがなく、核スピンがない、理想的なキュービットデバイスにおいて実行可能であり得る。29Si原子核のスピンの存在下、又は電気ノイズの存在下では、キュービット周波数は時間とともにシフトする。これは、以下のシナリオにおいて、2つの効果がスピン制御の精度を制限することを意味する:キュービットの周波数のシフトが、回転フレームに対するキュービットの回転不足又は過回転を引き起こし、キュービットが外部AC電磁場と共鳴させられ得る精度を損なうキュービット位相のエラーを引き起こす。
【0033】
更に、これらの微視的ノイズ源によって誘起されるエラーは、相対的に遅い。したがって、特定の時間ステップで特定のキュービットが位相エラーを被ると、次の時間ステップで同じエラーが生じる可能性が高い。これは、エラーが、キュービットアレイにわたり、まばらで無相関の方式でのみ生じると仮定する、量子エラー訂正スキームの問題である。
【0034】
本開示の態様は、「常時オン」のグローバル電磁場を使用して個々のキュービットを制御するための新しい技法を提案することによって、これらの課題に対処する。具体的には、本開示の態様は、キュービットが常に駆動されているか、又はこのような常時オンのグローバル電磁場と「オン共鳴」しているようにキュービットが調節されている、キュービットを制御するための技法を提供する。これは、ドレストキュービット、すなわち、キュービットアレイのスピンをグローバル電磁場の光子と結合するキュービットを作り出す。ドレストキュービットは、標準のスピンキュービットよりもはるかに長く量子情報を保持する。本開示の態様は、ドレストキュービットに基づいた新しく普遍的かつ拡大縮小が可能な制御技法を提供し、これは、本開示ではドレスト技法と称される。ドレスト技法では、グローバル電磁場がオンの間、パウリの排他原理を活用することによって、読み出し、初期化、ゲート動作などの制御動作がキュービットにおいて実行される。更に、ドレストキュービットがグローバル電磁場と共鳴している間、ドレストキュービットにおいて読み出し及び初期化を実施することができる。ゲート動作を実行するには、1つ以上のキュービットは、ゲート動作を実行するために、グローバル電磁場とオフ共鳴とされ得、次いで、動作が実行されると、グローバル電磁場とのオン共鳴に戻され得る。
【0035】
更に、本開示の態様は、外部ACグローバルフィールドを操作するための2つのアプローチを提供する。第1のアプローチは、一定振幅を有する外部マイクロ波場を使用する。第2のアプローチは、より大きい振幅のノイズ及び/又は量子化軸を横断するノイズを回避するように操作された、正弦波的に変調されたマイクロ波振幅を使用する。この第2のアプローチは、優れたノイズ抵抗力を提供する。本開示では、第2のアプローチ(すなわち、振幅変調正弦波マイクロ波)を使用するキュービット動作は、SMART(正弦波的に変調された、常時回転及び状況に応じた)技法と称される。更に、このSMART技法がキュービットに適用される場合、これらのキュービットは、本開示ではSMARTキュービットと称される。この技法は、準静的ノイズに対するキュービットの堅牢性を最大化するグローバル駆動場の分析形式を見出すために使用される。
【0036】
SMART技法はまた、原則として、量子ドット内のスピンキュービット以外の他のキュービット技術でも使用され得る。本開示の実施例は、シリコン量子ドット内のスピンに焦点を合わせているが、SMART技法の背後にある数学モデルは、他のほとんどの2準位システム、例えば、ドナーキュービット及びアクセプタキュービット、色中心、及び超伝導キュービットに容易に移行可能である。
【0037】
本開示では、ドレスト技法及びSMART技法は、グローバル電磁場、つまり、オフチップ電磁波源によって量子処理システムに大域的に印加されるフィールドに関して説明される。しかしながら、このようなグローバル電磁場は、局所的に印加された電磁場、つまり、局所的に印加されたAC電磁場とキュービットが共鳴するように、キュービット処理システム内の各キュービットに局所的に印加される電磁場によって置き換えることができることが理解されるであろう。電磁場は、量子処理システム上の1つ以上の追加の構造を使用するか、又は1つ以上のゲート電極を使用することによって、局所的に印加され得る。いくつかの実施例では、電磁場を、量子処理システム内の全てのキュービットに局所的に印加する代わりに、量子処理システムのキュービットのサブセットに印加し得る。
【0038】
ドレスト技法及びSMART技法の両方は、全てのキュービットを同じマイクロ波周波数で動作させるが、それらを個別にアドレス指定可能にすることと、電気制御システム間のジッタの影響を回避することと、キュービットを駆動するための強力なオフチップ電磁マイクロ波放射源を使用する可能性を作り出すことと、様々な微視的ノイズ源から動的に分離されたキュービット状態を作り出すことと、頻度が低く、時間的な相関性が低く、空間的な相関性が潜在的に低いエラーを伴うキュービットをもたらすことと、を行うことによって、大規模なキュービットシステムの実装を簡素化する。
【0039】
本開示のキュービットデバイス及び制御/演算技法のこれら及び他の利点は、以下の節で詳細に説明される。
【0040】
ドレストプロトコルにおける例示的な量子処理システム
図3Aは、本開示による、ドレストキュービットのグローバル制御方法の概略図300を示す。概略図300は、スピンキュービット304の3×4アレイを示す。各スピンキュービット304は、量子ドットシステムの場合、ゲート電極306の下で電子を隔離してキュービット304を形成するために使用することができる、関連付けられたゲート電極306を有し得る。いくつかの実施例では、スピンキュービット304は、シリコン基板(図示せず)内に、より具体的には、シリコン基板と、二酸化シリコンなどの誘電体材料(図示せず)との間に形成された界面の下に形成され得る。
【0041】
ACグローバル電磁場302は、全てのキュービット304がグローバルフィールド302と共鳴するよう調節されるように、キュービットアレイに印加される。つまり、キュービットは、それぞれのアイドル状態においてグローバルフィールド302によって駆動される。いくつかの実施例では、グローバルフィールド302は、一定振幅の正弦波駆動場である。いくつかの実施例では、グローバルフィールド302は、磁場であり得、他の実施例では、グローバルフィールド302は、電界であり得る。一定振幅のグローバルフィールド302は、広帯域アンテナ、空洞、又は任意のタイプの共振器などの外部駆動マイクロ波システムに印加された定電力の結果であり得る。この場合、外部駆動マイクロ波システムは、初期化、全ての制御ステップ及び読み出しを含む量子プロセッサの完全な動作の初めから終わりまで振幅が一定であるため、任意に大きいQ値(任意に小さい帯域幅)を有し得る。
【0042】
スピンキュービット304のアレイは、所定の閾値範囲内のラーモア周波数を有するように設定される。具体的には、キュービットは、グローバル駆動に使用される同様のラーモア周波数を有するように設定することができる。一実施形態では、キュービットアレイ内の全てのキュービット304は、周波数fMWで振動する外部グローバルフィールド302と完全に共鳴するように設定される。これは、スピン軌道結合によって引き起こされる周波数シフトを使用して、キュービットの共鳴周波数を較正することによって行うことができ、スピン軌道結合は、各個々のトップゲート306の電圧と、全てのキュービット304に作用するグローバルDC磁場と、によって制御され得る。結晶格子に対する外部DC磁場の方向は、スピン軌道結合がキュービット周波数にどのように影響するかを決定する。
【0043】
キュービット共鳴周波数の電気シフトは、シュタルクシフトと呼ばれる。実際には、キュービットラーモア周波数間のいくつかのオフセットは、外部に印加されたAC電磁駆動マイクロ波場から生じるラビ周波数Ωと比較して小さい限り、許容され得る。このことは、ドレスト技法のノイズデカップリング効果が実現されることを確実にするために、σ方向のエネルギー(Ω)が支配的である、以下のハミルトニアンHρで実証される。
ρ=Ωσ+(f-fMW)σ
式中、Ωは、ラビ周波数であり、σ、σは、パウリ行列のうちの2つであり、fは、キュービット周波数であり、fMWは、駆動磁場周波数である。
【0044】
ドレストキュービットシステムは、図4に示すように、アダマール演算子によって変換されたベアスピンキュービットフレームであるアダマールフレームで最良に説明される。具体的には、この図は、|↑〉に沿ったスピン量子化軸を有する回転フレームのブロッホ球(すなわち、従来のスピンキュービット)400の表現を示す。ブロッホ球は、キュービットの状態空間の幾何学的表現である。ブロッホ球は、一対の相互直交状態のベクトルに対応する対蹠点を有するユニット2球である。
【0045】
ブロッホ球400の北極及び南極は、典型的には、標準基底ベクトルに対応するように選択されており、スピンキュービットの文脈では、論理キュービット状態|0〉(又はスピンアップ状態|↑〉)402及び論理キュービット状態|1〉(又はスピンダウン状態|↓〉)404に対応する。球の表面上の点は、システムの状態に対応する。この例では、球の表面は、重ね合わせ状態|+〉、|-〉、|i〉、
【数21】

を描示する。キュービットの動作は、球体上のキュービットの|0〉状態〉と|1〉状態の間の回転を必要とする。
【0046】
ドレストフレームに変換するために、一定振幅のグローバルフィールド302がスピンキュービットに印加される。グローバルフィールド302は〉、量子化軸を、|+〉、|-〉軸に沿うように変化させる。したがって、ドレストキュービットは、重ね合わせ状態
【数22】

及び
【数23】

として定義される。図4は、|0〉 = |zρ〉(422)及び
【数24】

(424)として定義されたキュービット状態を有する、ドレストフレームのブロッホ球420の表現を例解する。
【0047】
ドレストキュービットの論理状態間のエネルギー差は、ラビ周波数Ωによって決定され、キュービット周波数からの駆動グローバルフィールド302の離調は、キュービット回転を決定し、Δν=f-fMWである。この周波数離調Δνは、ドット間離調であり、所与のキュービットのラーモア周波数からの離調を表す。
【0048】
図3Aに戻ると、キュービット304Cを制御するために、キュービット304Cのラーモア周波数を、ゲート電極306Cに電圧を印加することによって、シフトさせることができる。いくつかの実施例では、キュービット304Cのラーモア周波数は、ゲート電極306のサブセットに電圧を印加することによって、シフトすることができる。このことは、キュービット周波数とグローバルフィールド302の周波数との間の離調に影響を及ぼし、したがって、キュービット304Cをオフ共鳴とし、ドレストフレーム内のキュービットのx回転につながる。
【0049】
図3Bは、時間がy軸で周波数がx軸のオン共鳴グローバルフィールド内で実行された3つの制御回転を示す。キュービットアレイ内のキュービット304の各々のラーモア周波数は、同様であり、プロットの垂直線322によって表される。白色の破線320は、図3Aが表す時間インスタンスを表す。
【0050】
同様の変換は、2キュービットスピン状態で行うことができる。例えば、二重量子ドット内である。二重量子ドットは、左の量子ドット及び右の量子ドットの2つの量子ドットを含み、各々は、1つ以上の電子を有し、並んで構成され、それらがトンネル結合されるように調節される。
【0051】
本開示の態様は、左の量子ドット又は右の量子ドットにおいて(N、M)電荷占有を有する、そのような二重量子ドットにおいて同様の変換を実行することができ、ここで、N、Mは、整数である。いくつかの実施例では、N=Mであり、他の実施例では、
【数25】

である。
【0052】
各々が量子ドット内に静電的に閉じ込められた2つのキュービットの例では、一重項-三重項キュービット状態は、2キュービット相互作用から生じる。一重項状態は、総スピン量子数S=0を有し、三重項状態は、総スピン量子数S=1を有する。例えば、|S(0,2)〉と表される二重に占有された量子ドットは、低いエネルギーの一重項状態である。従来の(ドレストではない)スピンキュービットの場合、他の4つの準位は、単一の占有された、2スピンシステム|↑↑〉、|↑↓〉、|↓↑〉、|↓↓〉である。ドレスト一重項-三重項像の固有状態は、{|S(0,2)〉,|T+,ρ〉,|S(1,1)〉,|T0,ρ〉,|T-,ρ〉}であり、これは、ドレスト5準位システムである。
【0053】
更に、二重量子ドットでは、各量子ドットは、それぞれのキュービット周波数fQ,1及びfQ,2を有する。したがって、各量子ドットは、それぞれのドット間周波数離調Δν=fQ,1-fMW及びΔν=fQ,2-fMWを有する。
【0054】
二重量子ドットシステムでは、2つの量子ドット間のエネルギー離調、すなわち、ドット間離調である第2のタイプの離調εもまた存在する。これらのタイプの離調Δν及びεは、両方とも本開示で使用される。
【0055】
初期化及び読み出し
任意のゲート演算をキュービットにおいて実行することができるようになる前に、キュービット304を、動作のために適切なスピン状態で初期化する必要がある。例えば、2キュービットゲート演算を実行する場合、ゲート演算を実行され得る前に、ゲート演算に関与する2つのキュービットを正しいスピン状態で初期化する必要がある。本開示のキュービットアレイ内のキュービット304は、外部グローバルフィールド302によって連続的に駆動されるので、初期化及び読み出しは、パウリスピンブロッケードを使用して達成され得る。パウリスピンブロッケードは、2つのフェルミ粒子(半整数スピンを有する粒子)が同じ量子状態に存在することはできないとする、スピン間のパウリの排他原理の原則を活用する。
【0056】
図5A図5Dは、システムパラメータに応じて特定の状態を初期化する確率を含む、一重項-三重項キュービットで二重量子ドットを初期化するための初期化プロセスを示す。リザーバへのエネルギー依存トンネリングは、電子スピンが連続的に駆動されるという事実、すなわち、駆動マイクロ波場が読み出しステップのためにオフにされないという事実によって損なわれることになる。これにより、他の素子が動作可能な状態のままである間、いくつかの処理素子の読み出しが可能になる。
【0057】
パウリブロッケードが一重項状態(例えば、|S(0,2)〉、|S(1,1)〉)を隔離することに留意することが重要である。一重項状態は、総スピンがゼロであり、回転の下で不変である。したがって、一重項状態は、スピンを記述するための基礎(フレーム)の選択には依存しない。一重項状態はまた、外部グローバルフィールド302の影響も受けない。これにより、近くの電子リザーバを必要とせず、隔離された二重ドットシステムにおける対ごとの読み出し及び初期化が可能になる。
【0058】
ドレスト5準位システム内の各固有エネルギーの挙動は、2つの量子ドット間の離調εの関数として調査される。これは、図5A図5Cに示される。具体的には、図5Aは、2つの量子ドット間にゼーマンエネルギーの差がない場合(すなわち、Δν=Δν=0の場合)の電位離調の関数としてのエネルギー線図を示し、図5Bは、駆動周波数がゼーマンエネルギー差の中心に当たる場合(すなわち、Δν=-Δνの場合)の電位離調の関数としてのエネルギー線図を示す。線の色は、各状態の寄与を示す。紺青色は、|S(0,2)〉を示し、青色は、|S(1,1)〉であり、黄色は、T0,ρ〉であり、茶色は、|T+,ρ〉であり、オレンジ色、は|T-,ρ〉である。黒矢印は、初期化の経路を示し、反交差を横切る(図5A及び図5Bの両方)か、又は回避(図5Bのみ)するかのいずれかである。図5Cは、エネルギー軸がスピン保存遷移の近くに集束した(0,2)構成|S(0,2)〉の一重項状態を示す。時間が縦軸で、離調が横軸の初期化シーケンスは、図5Dに示される。各初期化について、離調εは、特定のランプ時間の間、一定のレートで正エネルギーから負エネルギーへランプする(図5Dを参照のこと)。
【0059】
初めに、2つのドット間のエネルギー離調εが、|S(0,2)〉を|S(1,1)〉に移行するようにランプされる場合を考慮する。一例では、キュービットの周波数離調は、2つの量子ドットの状態間にゼーマンエネルギーの差がないようなもの(すなわち、Δν=Δν=0)であり得る。この場合、|S(1,1)〉と|T-,ρ〉との間に反交差が不在で、|S(0,2)〉から|S(1,1)〉へのスムーズな遷移を可能にする、図5Aで実証される結合項は存在しない。
【0060】
|S(1,1)〉への遷移は、|S(0,2)〉を通って|S(1,1)〉反交差へランプするときの離調εが変化する速さに依存する。量子ドット間のトンネル結合の逆は、ランプ時間の時間スケールを設定する。ランプ時間が著しく十分に速い場合、|S(0,2)〉はエネルギー反交差を非断熱的に横切り、|S(0,2)〉にとどまる。
【0061】
ランプ時間が増加するにつれて、断熱交差を介して|S(1,1)〉を準備する確率が高くなる。ランプ時間に対する、ランプシーケンスの終了時に各状態を準備する確率は、図5Eに破線でプロットされる。
【0062】
Δν=Δν=0の場合、相互作用状態のみが、一重項状態である。この場合、図は、ランプ時間が増加するにつれて低減する、|S(0,2)〉を初期化する確率と、増加する、|S(1,1)〉を初期化する確率を示す。ランプ時間1μsは、図5に示されたパラメータに対して|S(1,1)〉を初期化するのに十分である。
【0063】
|T-,ρ〉の初期化に移り、Δν=-Δνの場合に目を向ける。ここで、図5Bに示すように、|S(1,1)〉と|T-,ρ〉との間には反交差が存在する。既に述べたように、εは、様々なランプ時間の間、正エネルギーから負エネルギーへランプする。ランプ時間に対する各状態を準備する確率は、図5Eに実線でプロットされる。
【0064】
導入された条件Δν=-Δνは、ランプ時間約110μsで|T-,ρ〉状態を初期化することを可能にする。|T-,ρ〉が完全に初期化される前に、|S(1,1)〉及び|T0,ρ〉の両方が結合項によって相互作用する。結合項のない場合と同様に、ランプ時間が1μsに近づくにつれて、|S(1,1)〉状態の確率がより高まる。ランプ時間を更に増加させると、状態は、最低エネルギー反交差を断熱的に横切り、|T-,ρ〉を初期化することができる。
【0065】
図5A及び図5Bにおいて上で考察される2つの例から、最低エネルギー反交差が、どのように状態が初期化されるかに影響を与えることが明らかである。
【0066】
回転ベアスピンの基礎からドレストスピンの基礎への変換は、ユニタリである。これは、システムの固有エネルギーが、この基礎の変化に対して同じままであることを意味する。したがって、最低エネルギー分裂は、回転ベアスピンの場合及びドレストスピンの場合の両方で同じ値であるべきである。これは、反交差が、Δν-Δνに比例することを意味する。
【0067】
異なるキュービット環境間のばらつきを考慮すると、最低エネルギー反交差を理解することの重要性がより明らかになる。量子ドット内の一対のスピン間にg因子の差があることが一般的であり、したがって、Δν及びΔνの値は、典型的には、異なるであろう。外部グローバルフィールド302は、2つのg因子間の差を最小化する角度に回転され得るが、より大規模なシステムについては、依然としてばらつきがあるであろう。これは、最低エネルギー反交差を含むシナリオ(図5B)がより現実的であり得ることを意味する。
【0068】
ドレストキュービットの読み出しは、初期化と同様の方法に従う。εを正エネルギーから負エネルギーへランプさせる代わりに、逆のことが実装される。ランプは、S(1,1)〉が|S(0,2)〉にトンネルすることを可能にするが、三重項状態は可能にしないように、特定のレートで選択される。これは、ベアスピンキュービットを回転させるために使用される同じ一重項-三重項読み出し技法である。パウリスピンブロッケードが依然として活性であるため、システム内の位相緩和を考慮すると、ドレストパリティの読み出しもまた達成可能であり、そのため、回転ベアスピンの場合と同様のダイナミクスに従う。
【0069】
単一キュービット制御
普遍的な量子計算のために、キュービットシステムは、2つの軸についての制御を有しなければならない。ドレストキュービットについて、単一キュービットゲートは、離調Δνの振幅をパルス化することによって達成され得る。離調Δνは、キュービットとマイクロ波周波数との間の相対的シフトであり、Δν=f-fMWである。
【0070】
ドレストキュービットの単一キュービット制御は、2つの方法のうちの1つで実装することができる。第1の制御方法は、所与のキュービットのシュタルクシフトを有する制御の範囲に依存する。正確な範囲は、印加されたマイクロ波パルスの周波数が、関連するゲート電圧とともに変えられるスピン分光法によって、較正され得る。共鳴は、電圧に応じて異なる周波数で取得され、シュタルクシフトの最大範囲と、そのような範囲を達成するために必要な電圧パルスの振幅と、を決定する。この範囲がラビ周波数Ωの振幅よりも大きい場合、キュービットのラーモア周波数fは、スピンがもはやグローバルフィールド周波数fMWと共鳴しないように、電気的にシフトされ得る。
【0071】
離調Δν=f-fMWは、ドレストプロトコルにおいてキュービット304が定義されているフレームに対するX回転につながる所与のキュービットの章動を停止させる効果を有する。この方法は、周波数シフトキーイングと呼ばれ、図6Aに示される。周波数シフトキーイングは、周波数の変化が控えめである、周波数変調スキームである。つまり、離調Δνは、(図6Aに示される方形波602及び604などの)方形波によって変調される。
【0072】
この場合、二軸制御は、章動フレーム(すなわち、回転フレーム内のx-y平面も回転しているフレーム)を画定することによって取得される。これは、印加される離調パルスが、キュービットが回転するのが、ドレスト章動フレームにおけるx軸の周りかy軸の周りかを設定するタイミングとなるように、回転フレーム内で定義されるラビ周波数よりもわずかに遅い又は速い周波数fであり得る。これは、従来のベアスピンキュービットのx回転及びy回転を実行するために使用されるIQ変調方法に類似している。
【0073】
図6Aの左のパネルは、所与のキュービットがドレスト状態|xρ〉又は
【数26】

(プロット606を参照のこと)である確率を示し、右のパネルは、ドレストキュービットのブロッホ球の表現を示す(ブロッホ球608を参照のこと)。ドレストキュービット608のブロッホ球の表現は、グローバルフィールド302と共鳴しており、そのため、ブロッホ球608のx-y平面内の方向円によって示される状態|xρ〉と状態
【数27】

の間で歳差運動する。
【0074】
章動フレームへの変換により、方形波が、互いに対して位相がずれるようにタイミングを合わせることができ、Xゲート又はYゲートをもたらすように、離調Δνに時間依存性を追加する。Xゲートパルス602及びYゲートパルス604は、キュービットが|xρ〉又は
【数28】

の状態にある確率に関して示されている。π/2ゲートを実行するドレストスピンを示す、対応するブロッホ球の表現を、それぞれ610及び612に示す。
【0075】
二軸回転を作り出すための第2の方策は、図6Bに示される、共鳴の第2の準位に基づく。この場合、キュービットのラーモア周波数とグローバルフィールド302のマイクロ波周波数との間の離調は、ラビ周波数Ωの振幅に一致する周波数で、ラーモア周波数を正弦波状にシフトさせることによって変調される(これは、本開示ではFM共鳴法と称される)。この変調離調パルスは、それが正弦周波数変調であるか余弦周波数変調であるかに応じて、x回転又はy回転につながる可能性がある。
【0076】
図6Bはまた、左のパネル及び右のパネルも含む。左のパネルは、キュービットがドレスト状態|xρ〉又は
【数29】

622である確率のプロットと、離調でのXゲートパルス624及びYゲートパルス626と、をそれぞれ示す。右のパネルは、ドレストキュービットの、対応するブロッホ球の表現を示す。ブロッホ球(628)に見られるように、グローバルフィールドと共鳴しており、そのため、ドレスト状態xρ〉と
【数30】

との間で回転する。
【0077】
(プロット624に見られるように)正弦変調を離調に適用すると、ブロッホ球の表現630に示すように、x軸周りの回転がもたらされる。離調の振幅が(プロット626に見られるように)余弦波に追随し、したがって、y軸周りの回転を実行するように、位相を変調に追加することができる。y軸周りのこのような回転は、ドレストキュービットのブロッホ球の表現632に示される。
【0078】
周波数シフトキーイングは、より高速な2つのキュービットゲートをもたらし得るが、より広い範囲の離調制御を必要とし得る。特に、シュタルクシフト制御の範囲は、ラビ周波数を超える必要があり、ラビ周波数は、次に、複数のドット間のキュービット周波数の自然なばらつきよりも大きい必要がある。実際の離調範囲は、これが適用される量子処理システムのアーキテクチャに依存する。その一方で、FM共鳴法は、小さい周波数シフトに対して機能する。しかしながら、ゲート誘起離調シフトの範囲が小さいほど、この方法を使用するゲートが遅くなる。
【0079】
2キュービット制御
ドレスト像における普遍的なユニバーサル量子コンピューティングのための2キュービットゲートの原点を理解することが重要である。ここで考察される固有ゲートは、SWAPゲート及びCPHASEゲートである。これらのゲートは、例として選択されているに過ぎず、本明細書に記載の技法は、本開示の範囲から逸脱することなく、他のゲート動作を制御するために使用され得ることが理解されるであろう。
【0080】
2キュービットゲートは、量子コンピューティングシステムにおける2つのキュービット間の制御された動作である。図3Aを参照すると、2つのキュービットゲートは、キュービットアレイ内の2つのキュービット304間で実行され得る。例えば、キュービット304A及びキュービット304Cは、2キュービットゲートを実行する対象とされ得る。他の実施形態では、キュービットアレイ内の任意の対のキュービット304は、2つのキュービットゲートを実行する対象とされ得る。
【0081】
2キュービットゲートは、対応する量子ドット間のゲート電極306の電圧をパルス化することによって、又は1つの量子ドットを別の量子ドットに対して離調させることによって実行され得、制御可能な交換結合を作り出す。結果として生じるゲートは、SWAPゲートであろうとCPHASE ゲートであろうと関係なく、システムパラメータに依存する。
【0082】
パルスゲートシーケンス全体にわたって同じラーモア周波数及び同じラビ周波数を有するキュービットの場合、交換結合は、SWAPゲートをもたらす。このことは、図7で実証される。特に、図7は、2キュービットゲート演算を描示する。上のプロット702は、SWAPゲートレジームのCPHASEゲートレジームへの遷移を示す。プロット702の横軸は、両方のキュービットの周波数離調差(Δv-Δv)をラビ周波数で割ったものを示す。3つの曲線(710、712、714)がプロット702に示され、各々は異なるトンネル結合レートである。具体的には、曲線710、712、及び714は、それぞれ、トンネル結合レートが0.04GHz、0.40GHz、及び4.00GHzに対する遷移を表す。
【0083】
プロット702に見られるように、SWAPレジームのCPHASEレジームへの遷移は、2つのキュービット間の相対的な周波数離調によって制御され得る。このような離調は、ゲート電極306に電圧を印加することによって制御することができる。例えば、図3Aでは、ゲート電極306A及び306Cに印加された電圧は、キュービット304A及び304Cのキュービット周波数にそれぞれ影響を及ぼし得る。更に、図7は、2キュービットゲートのSWAPゲート706及びCPHASEゲート708の対応するブロッホ球の表現を示す。
【0084】
量子ドット内のスピンキュービット間のトンネルレートは、典型的には、1GHzのオーダーである。SWAPゲートとCPHASEゲートとの間の位相遷移は、トンネル結合に依存する。
【0085】
目標は、全てのラーモア周波数を同じ値に調節できるキュービットアレイシステムを持つことだが、より現実的な場合は、ゲートパルシングが、ある程度のラーモア周波数離調を引き起こす場合である。更に、ゲート演算における2つのキュービットのラビ周波数は、潜在的に同一ではない。どちらにしても、結果として生じる2キュービット演算は、ラビ周波数間の相対的な離調と、トンネル結合がオン及びオフにされる速度との間の比較に依存する。ゆっくりと活性化されたトンネル結合の場合、離調(又はラビ周波数差)は、ドレストプロトコルで回転するスピンの横方向の成分間のスカラー積の平均化を引き起こし、量子化軸のみに沿った相互作用(ZZ相互作用)をもたらす。
【0086】
交換結合が高速パルスで活性化される場合、横方向のスピン成分の積は平均するとゼロにならず、SWAPゲートが正常な状態に戻る。早すぎることも遅すぎることもないランプによって実装されるゲートは、ランプレート自体に依存し、ケースバイケースでのみ検討され得る。
【0087】
同様に、キュービット読み出し及び初期化は、キュービット離調又はラビ周波数の差の影響を受け、二重量子ドットにおける(1,1)電子構成から(0,2)構成へのランプの結果は、2つの量子ドット間のエネルギー離調(Δv-Δv)のランプレートが、スピン間の周波数離調とどのように比較されるかに依存する。
【0088】
次に、ノイズの影響、量子ドット特性間のばらつきの影響、及びグローバル制御技法がどのように影響を受けるかについて説明する。
【0089】
単一キュービットゲートに関連して前述したように、所望のゲート方策は、ゲート電圧によって所与のキュービット内で誘起され得るシュタルクシフトの範囲によって影響される。その一方で、これは、主にキュービットに影響を及ぼすスピン軌道結合のタイプによって設定される。シリコンと(二酸化シリコンなどの)バリアとの間の原子的に略平坦な界面では、スピン軌道結合のタイプは、外部DC磁場を異なる方向に印加することによって制御することができる。(001)界面に対して形成された量子ドットの(100)又は(010)のいずれかの方向に沿って向いている磁場は、キュービットのラーモア周波数に及ぼすドレッセルハウススピン軌道効果の影響を除去し、ラシュバオンリー(Rashba-only)スピン軌道結合、すなわち、二次元スピン軌道相互作用をもたらす。その一方で、(110)又は(1-10)に沿ったDC磁場の場合、ドレッセルハウス効果が存在し、通常、ラシュバスピン軌道結合に対して支配的である。
【0090】
ドレッセルハウス効果は、シリコンとバリアとの間の原子的に平坦な界面の結果であり、シリコンのバルクに存在する反転対称性の除去をもたらす。このような効果は、界面によって本質的に決定されるため、電子波動関数を界面に当てる電界、並びにドットからドットへの界面粗さ及びばらつきによって強く影響される。これは、(110)に沿って向いているDC磁場の場合、±70MHz/T付近で最大のシュタルクシフトが得られることを意味する。(典型的には、トップゲート又は次の最隣接ゲートによって制御される)。その一方で、同じ垂直電界における電子のg因子は、80MHz/Tの広範囲であり得る最も大きい変動を有する。シュタルクシフトは、ラーモア周波数間の最小変動のある点に近い電子を潜在的に調節するために使用することができるが、全てのキュービットを、ラビ周波数Ωを超えない範囲内で外部ACグローバルフィールド302と共鳴する状態にすることは、(10~100MHzのオーダーの非常に高いΩが達成可能でない限り)小さい磁場を使用することを必要とする場合がある。
【0091】
その一方で、(100)方向に沿って向いているDC磁場は、ラーモア周波数の最大のばらつきである20MHz/Tをもたらし得るが、より典型的な値は、5MHz/T未満である。これにより、(数百mTの強さになり得る)DC外部磁場と、(10MHz未満になり得る)ラビ周波数との両方に関する条件が緩和される。その一方で、このフィールド方向は、シュタルクシフトを5MHz/T以下に制限する。
【0092】
量子ドット特性間の現実的なばらつきは、周波数の離調ノイズ及び不均一性に対する更なる堅牢性の重要性を強調する。
【0093】
SMARTプロトコルに基づく例示的な量子処理システム
上述の普遍的な量子計算のための方策は、より一般的な文脈で使用することができる。上述のキュービット初期化、2つのキュービットゲート及び読み出しは、スピン一重項が、基礎/フレームの選択にどのように無関係であるかに基づいていた。これは、より高度な常時オンのグローバル駆動場は、これらの動作に悪影響を及ぼさない可能性があるが、制御パルスのノイズ、ばらつき、及び不正確さに対するシステムの堅牢性を潜在的に改善し得ることを意味する。
【0094】
ノイズは、一般的に、時間に依存する。大体において、最も有害なノイズは、ほとんどの実験と比較して長い時間スケールで生じるが、100kHzを超える周波数のノイズはスピンキュービットに影響を及ぼし、ハーンエコー又はCPMGなどのリフォーカス実験で観察されたようなコヒーレンス時間を制限する。
【0095】
場合によっては、グローバルマイクロ波信号302の振幅は、これらの高次ノイズを打ち消す方法で変調されるように操作することができる。例えば、本開示の発明者らは、正弦波形状によって変調されたより一般的なパラメータ化された駆動振幅が、自由パラメータ(二次ノイズを打ち消すために選択され得る変調周波数fmod)をもたらすことを見出した。
グローバル変調:A cos(2πfmodt+φglobal
【0096】
変調位相φglobalは、従来のx軸回転及びy軸回転を実行するために必要なシュタルクシフト制御に影響を及ぼす、別の自由パラメータである。具体的には、φglobal=π/2及びφglobal=0を検討する。変調周波数に対する振幅もまた重要であり、ノイズを打ち消すために使用することができる。
【0097】
前述のように、本開示の態様は、効果的に時間に依存したラビ周波数を振幅変調が作り出すように、時間に依存した振幅を有する発振駆動場の服をキュービットに着せる方法を導入する。振幅変調周波数をラビ周波数と特定の割合になるように操作することによって、異なるタイプのノイズを相殺することができる。一般に、異なる周波数及び位相成分を振幅変調に加えることによって、複数のタイプのノイズを対象にすることができる。
【0098】
正弦波グローバル駆動場の影響を受けるキュービットを記述するために使用されるフレームの選択は、キュービット制御のためのこの技法を理解するのに役立つ。上記のドレストプロトコルに使用されるフレームに従って、アダマール変換を回転フレームに適用することができる。このフレームでは、SMARTプロトコルにおける「アイドル」キュービットは、正弦波駆動場302によって駆動され、実際にはアイドル/静止状態ではなく、駆動場軸の周りを前後に振動する。任意の初期化状態が静的(振動していない)である、従来の方法でSMART技法を記述するために、振動フレームを実装する必要がある。ベアキュービットに対する類似の状況は、静的Bフィールドから生じるスピン歳差運動を除去する回転フレームを考慮する場合である。
【0099】
変調の周波数fmodが、電磁マイクロ波放射の最小帯域幅を設定することに留意すべきである。これは、高Q値の共振器を使用するための制限因子となり得る。それにも関わらず、この目的のために使用されることになるほとんどの共振器は、ここで考察される目的に十分な数十MHzを上回る帯域幅を有する。更に、共振器とマイクロ波源との間の結合は、Q値を低減し、必要な帯域幅を達成するために、常に増加させることができる。
【0100】
マイクロ波駆動場302のノイズキャンセリング特性を最適化する周波数fmodは、マグナス展開の一次項及び二次項の同時エコーをもたらすものである。このことは、マグナス展開の理論的解析によって、又は任意の重ね合わせ状態でキュービットを最大限に保護するfmodの値を実験的に較正することによって見出すことができる。マグナス展開の理論的解析は、φglobal=0を設定する際のゼロ次のベッセル関数を返す。
【0101】
振幅の正弦波的な変調は、キュービットアレイ内の全てのキュービット304に同時に影響を及ぼすことに留意すべきである。この技法におけるキュービット状態は、より複雑であり、前後に回転し、マイクロ波振幅に応じて1つ又は別の方向に章動する基準フレームによって観察されるように定義される。
【0102】
この技法における単一キュービット動作はまた、グローバルフィールド302の振幅変調(又はいくつかの高調波)に一致する周波数を有する周波数変調によって実装され得る個々のシュタルクシフトにも依存する。周波数変調の直角位相に応じて、実装された単一キュービットゲートは、x-y平面内のx方向、y方向又は任意の他の方向に沿って指向され得る。これは、直交振幅変調(QAM)方法と称される。これらのゲート動作は、それぞれのシュタルクシフトを介してグローバルフィールドの振幅変調と同期して変化するキュービットのラーモア周波数に依存する。しかしながら、スピンキュービットのラーモア周波数をシュタルクシフトさせることで周波数離調を制御することの本説明は、周波数離調を制御する代替的な方法が等しく有効である他のキュービットシステムに拡張され得ることに留意すべきである。
【0103】
シュタルクシフトの振幅の単純な正弦波的な変調が直交回転軸を実装しない(φglobal=π/2)正弦波的に変調されたグローバル駆動場の場合。x回転及びy回転の理想的な実装は、少数の高調波を分析的な方法で組み合わせることによって与えられる。
シュタルクシフト:αx/ysin(2πfmod+φmod)+βx/ysin(4πfmodt+φmod
【0104】
式中、φmodは、シュタルクシフトAC制御の位相である。その一方で、正弦波的な変調及び(φglobal=0)を伴うグローバル駆動場については、第1の高調波及び第2の高調波のみを、x回転及びy回転をそれぞれ作り出すためにシュタルクシフト振幅変調に使用することができる。
【0105】
この制御技法の別の興味深い特徴は、基本2キュービットゲートに関する。共鳴からの逸脱への抵抗力が向上したため、グローバル制御のためのこの方策は、キュービット間のより大きな離調の存在下でも、より効率的にSWAPゲートを実装する。
【0106】
図8Aは、連続駆動からなるグローバルフィールドによってまとめて駆動されるキュービットアレイを示す。図8Bは、正弦波的な変調された場からなるグローバルフィールドによってまとめて駆動されるキュービットアレイを示す。連続駆動のためのブロッホ球を、ベアスピンフレームからドレストスピンフレームへの変換とともに図8Cに示す。図8Dは、忠実度が99%を超える範囲が網掛けされている、様々な離調オフセットに対する同値演算子の忠実度を示す。正弦波的な変調された場合のブロッホ球及び同値演算子の忠実度を、図8E及び図8Fに示す。このシミュレーションでは、ラビ周波数は1MHzである。この図に見られるように、SMART技法を使用する場合の忠実度が99%を超える離調オフセットの範囲は、ドレスト技法と比較すると大きい。
【0107】
図9は、ノイズキャンセリング特性を記述する幾何学的図形の形式を示す。具体的には、図9A及び図9Bは、ドレスト技法及びSMART技法の時間の関数としてのグローバルフィールド振幅変調A(τ)を示すプロットである。図9C及び図9Dは、ドレスト技法及びSMART技法のために、マグナス展開級数から計算された対応する空間曲線
【数31】

を示す。
【数32】

の曲率は、A(τ)に対応する。これらの図では、理想的な変調条件(完全なノイズ除去)は、実線でプロットされ、非理想的な条件は、黒色の破線でプロットされる。|xρ〉に初期化されたキュービットの展開は、ドレスト技法及びSMART技法について、図9E及び図9Fにそれぞれ示される。図9A図9Dは、閉じた空間曲線(実線)、ドレストの場合の円、及びSMARTの場合の8の字を示す。図9C及び図9Dの破線は、振幅が、同じゲート時間の間オフセットされ、閉じていない空間曲線又は同等に非理想的なノイズ除去をもたらす場合を示す。
【0108】
一次ノイズを相殺するための幾何学的要件は、閉じた曲線
【数33】

である
【数34】

である。二次ノイズを同様に相殺するために、
【数35】

からx-y平面、x-z平面及びy-z平面に投影された面積は、全てゼロに等しくなければならない。投影面積の符号は、空間曲線の巻方向によって決定されるため、第4象限(図9D)における8の字のローブは正符号を有し、第2象限における8の字のローブは負符号を有する。したがって、投影面積の合計は、正弦波駆動場についてはゼロになるが、x-y平面に投影された正味の円形面積を有する連続駆動についてはゼロにならない。よって、SMART技法が一次ノイズと二次ノイズの両方を打ち消す場合、ドレストキュービットは、一次ノイズ除去のみを提供する。
【0109】
単一キュービット演算子に関する情報は、τ=Tに対するτ=0の傾斜
【数36】

で見出し得る。平行な傾斜は、U(T)(黒色及びベージュ色の並列矢印)で表される図9Dの理想的なノイズ除去の場合である、同値演算子に対応する。垂直傾斜は
【数37】

ゲート及び
【数38】

ゲートなどに対応する。グローバルフィールドの最適な変調条件は、一次マグナス展開級数項及び二次マグナス展開級数項を強制的にゼロにすることによって識別することができる。最適な変調周波数
【数39】

は、Ωと次の関係を有することが見出され、
【数40】
【0110】
式中、jは、ゼロ次のベッセル関数の解iである。
【0111】
グローバルフィールドの1周期の期間は、Tmodと表される。グローバルフィールド軸に垂直な平面で初期化され、正規化振幅及びΔν(τ)=0の
【数41】

で駆動されたSMARTキュービットの場合、図9Bに示すように、グローバル駆動の全てのTmodに対して、約3π/2の正回転、続いて、同じ角度の逆回転が生じる。その一方で、ドレストキュービットは、角加速度を変化させることなく連続的に回転する。SMARTキュービットの前後の揺動と、グローバルフィールド軸の周りのドレストキュービットの連続回転は、連続的なエコーに寄与する。
【0112】
この変調スキームから現れる、結果として生じる制御軸は、ハミルトニアンを記述するために使用される座標系に平行ではないことに留意すべきである。代わりに、回転軸w及びvは、時間発展演算子から計算することができる。
【0113】
図10Aは、軸νの回転軸パラメータφを示す。図10Bは、軸νの回転軸パラメータφを示す。図10Cは、軸νの回転軸パラメータθを示し、図10Dは、制御振幅νv,w、及びグローバルマイクロ波場302とゲート変調φmodとの間の位相オフセットの異なる値に対するSMART方法の軸νの回転軸パラメータθを示す。回転軸は、座標系の軸に対角である。位相π/2は、破線の水平線で示されている。回転効率ηを図10E及び図10Fに示し、軸v及び軸wの最大値は、それぞれ53.9%及び37.3%である。回転効率ηは、φmod及びνv,wの関数として与えられる。この値は、次式に従って計算され、
【数42】

ベアスピンの方形波制御の場合は100%、ドレストスピンの場合は50%である。これは、v回転及びw回転の両方が、ドレストスピンキュービットと同等の制御強度を有することを示す。
【0114】
小さい値のνv,w及びφmod=π/2について、結果として生じる一対の垂直回転軸が、ドレストx-y軸系に対するφ=0.834ラジアンの相対角度で、図10G及び図10Hのブロッホ球面上に例解される。ここで、Ω=1MHzである。周波数離調及びマイクロ波振幅変動に対するSMARTキュービット法ゲートの堅牢性を評価するために、ノイズ解析が実施される。
【0115】
図11は、ベアスピンキュービット、ドレストスピンキュービット及びSMARTスピンキュービットに対する振幅及び離調オフセット/ノイズの異なる値のゲート忠実度を示す。具体的には、図11A図11Cは、ベアスピンキュービット、ドレストスピンキュービット、及びドレストキュービットの
【数43】

ゲート演算に対する一致ゲート忠実度をそれぞれ示す。図11D図11Fでは、SMARTキュービット法の一致、
【数44】

ゲート演算及び
【数45】

ゲート演算が示される。図の1列目は、関連するグローバルフィールド、局所制御フィールド及び回転軸を有するブロッホ球を示す。2列目では、振幅及び離調のオフセット値の忠実度が示される。最後、3列目及び4列目は、線形スケール及び対数スケールでガウス分布ノイズをそれぞれ示す。これらの実施例では、ラビ振動は、1MHzであるとみなされる。
【0116】
図12Aは、ドレストキュービットの2キュービット
【数46】

ゲートの忠実度を示し、図12Bは、SMARTキュービットの2キュービット
【数47】

ゲートの忠実度を示す。図12C及び図12Dでは、ドレストキュービット法及びSMARTキュービット法に対する2キュービットCNOTゲートのゲート忠実度が与えられる。図12E及び図12Fは、ドレストキュービット及びSMARTキュービットの2キュービットCNOTゲートの忠実度をそれぞれ示す。1列目は、共通グローバルフィールド及び局所シュタルクシフトフィールドを有する2つのキュービットを示す。2列目及び3列目では、ガウスノイズが印加されたゲートの忠実度が、線形スケール及び対数スケールでそれぞれ示される。ここで、Ωは1MHzである。
【0117】

【数48】

ゲートは、交換ゲート制御を想定して実装され、SWAP様動作は、同じ共鳴周波数を有するキュービットのための固有の2キュービットゲートである。ここで使用されるCNOTゲートシーケンス及びCNOTゲートシーケンスは、それぞれ
【数49】

及び
【数50】

である。
【0118】
ここで、2つのキュービットが同じノイズレベルを経験すると仮定される。1キュービットゲート及び2キュービットゲートの両方について、離調及び振幅ノイズに対する堅牢性は、ベアの場合及びドレストの場合と比較して、SMARTの場合において改善されることが分かる。対数スケールの結果から、このような改善は、同じノイズ条件で桁違いにフォールトトレラントなゲートに対応する、1桁近くに相当する。
【0119】
図13は、異なるゲート持続時間に対する
【数51】

図13A)ゲート及び
【数52】

図13B)ゲートの場合のゲートの持続時間の係数ν及びνを示す。破線の水平線は、収束値を示す。図13Bでは、y軸は不連続であることに留意すべきである。これらの図に見られるように、コヒーレンス値は、より長いゲート持続時間で明らかに収束する。この収束は、大きな駆動振幅のために近似値が損なわれる回転波近似(RWA)によってもたらされる。ゲート持続時間に対して小さい整数nを選択することにより、ν及びνが強制的により高くなり、同じ回転角度を達成し、回転軸θ及びφの精度に影響を及ぼすので、正確な回転軸と高速制御との間には妥協が存在する。あり得る最速ゲートは、システム及び
【数53】

におけるシュタルクシフトによって制限される。
【0120】
図14は、ガウスノイズモデルを構成するために使用される方法の概略図を示す。固定オフセットノイズマップは、図14A図14Cにおける3つの異なる場合についてここに示されるように、離調ノイズレベル及び振幅ノイズレベルに対応するσ及びσを有する二次元ガウスによって乗算される。図14Dの色付きの星印は、低離調ノイズ及び高振幅ノイズ(黄色)、高離調ノイズ及び高振幅ノイズ(赤色)、並びに低振幅ノイズ及び低離調ノイズ(緑色)を示す。
【0121】
図15は、SMART技法を使用する2キュービット初期化及び読み出しの概略図を示す。具体的には、図15Aは、ゼロ周波数離調のためのΔν=-Δν=0でのSMART2キュービットシステムのエネルギー線図を示す。非ゼロ周波数離調では、反交差が現れ、ランプレートは、スピンがこのエネルギー反交差をスピンが非断熱的に横切るかどうかを決定する。システムは、図15Bに例解されるように、最小マイクロ波振幅又は最大マイクロ波振幅(A及びB)のいずれかを中心とするランプを用いて、S(0,2)状態からS(1,1)状態に初期化される。正の離調から負の離調への遷移は、図15Bのε-ランプから見られるように、より低いランプレートを達成するための遅いランプの前後のステップからなる。異なるランプレート及び固定電荷離調ランプ範囲50GHz~-50GHz(約0.2meV)の結果を図15C及び図15Dに示し、S(0,2)及びS(1,1)の確率がランプ時間に対してプロットされる。周波数離調の固定オフセット(Δν、Δν)が、カラーバー(2つのキュービットを表す2色の破線)によって与えられる大きさで導入される。図15Eでは、Δν=-Δν=0.2MHzのエネルギー線図が示される。最大マイクロ波振幅及び対応する一重項S(0,2)状態確率及びS(1,1)状態確率を中心とするランプでの初期化を図15F図15Hに示す。ここで使用されるパラメータには、ΩR1=ΩR2=1MHz、(Δν,Δν)∈{0,±0.05,±0.1}MHz、t=0.5GHzが含まれる。合計時間は、2×Tmodである。
【0122】
比較のために、2キュービットドレスト初期化を図16に示す。具体的には、図16は、異なるランプ時間及び周波数離調オフセットのためのドレスト2キュービット初期化を示す。S(0,2)及びS(1,1)の状態確率は、Ω=1MHz及び合計時間2/Ωで示される。共鳴周波数ばらつきに対する堅牢性を示すために、Δν及びΔν∈{0,±0.05,±0.1}MHzの異なる組み合わせがシミュレートされる。(最悪の周波数オフセットで)ケースAでは約0.1μs、ケースBでは約1μs後、99%を超える忠実度でS(1,1)状態を達成する。最小マイクロ波振幅(A)を中心としてランプを置くことは、三重項状態とのより少ない混合を引き起こす、より堅牢な選択肢であるように見える。このことは、どちらにしても、どの程度のエコーが達成されるかを比較することによって理解することができる。ケースAの場合、グローバルフィールドの全期間に近く、ランプに追随するが、一方、ケースBの場合、期間の4分の3未満である。読み出しは、上述のプロセスを逆にして、ドレストフレーム内のパウリスピンブロッケードに依存することによって、同様に実行することができる。
【0123】
試作の結果
SMART技法の背後にある原理のいくつかを試作するために、単一キュービットシステムで電子スピン共鳴(ESR)実験を行った。
【0124】
この実験は、普遍的な量子計算の全ての側面を網羅するものではなく、グローバル制御のためのベア技法、ドレスト技法、及びSMART技法を使用して、スピンの単一キュービット性能を比較することに焦点を合わせている。
【0125】
実験装置を図17に示す。図17Aに見られるように、装置1700は、ゲート電極G1の下の量子ドット内の単一の電子802を隔離するために、電極(G1、G2)の配置を含み、それらに印加される電圧バイアスを有する。ゲート電極G2は、当該量子ドットと、他のゲート電極の下の電子のリザーバ(R)との間のバリアを制御する。更に、ゲートG2は、シュタルクシフトを通してキュービットを制御するためにパルス化される。G1の下の電子の数は、近くで製造された単一電子トランジスタ(SET)で感知される電流特性の変化に基づいて数える。グローバルマイクロ波場は、この実験装置1700に印加され、ベア制御技法、ドレスト制御技法、及びSMART制御技法をシミュレートする。図17Aはまた、装置1700に印加された振幅変調正弦波グローバルフィールド1704と、電極G1、G2を介してキュービットに印加されたxゲート変調信号及びyゲート変調信号を示すプロット1706と、をも示す。
【0126】
図17Bは、図17Aに示された破線からのデバイスの断面を示す。図17Bに見られるように、量子ドットは、シリコン28基板と二酸化シリコン層との間の界面に形成されている。図17C及び図17Dは、読み出しに使用される基底変換及びキュービット安定線図をそれぞれ示す。
【0127】
実験1:ドレストプロトコル及びSMARTプロトコルでのキュービットのコヒーレンス時間
第1の実験では、所与のキュービット(例えば、図3Aのキュービットアレイのキュービット304A)は、|i〉状態で調製され、特定の待ち時間の間、連続駆動マイクロ波場302の影響を受ける(すなわち、ドレスト制御方法の場合は一定であり、SMART制御方法の場合は正弦波的に変調される)。その後、キュービットが測定基準に逆投影され、状態確率が記録される(従来のラムゼー実験と同様)。キュービットの減衰率は、連続駆動のノイズ特性を示す。
【0128】
図18は、SMARTキュービット法を使用するラムゼー実験を示す。具体的には、図18Aは、グローバル変調場の周期が変動する、ラムゼー実験の結果を示す。図18Bは、ゼロ次のベッセル関数の絶対値(赤色の線)に適合した、抽出された減衰率(黒色の線)を示す。図18C及び図18Dは、ベアキュービット(100ショット、6回繰り返し)、ドレストキュービット(300ショット、2回繰り返し)と、(Tmod=24.12μsでの)SMARTキュービット法の減衰時間との間の比較(左の列)を、それぞれのマイクロ波パルス列(右の列)とともに示す。この実験では、
【数54】

は回転式である。
【0129】
駆動スピンキュービットは、駆動場302の周波数でのノイズによって支配される。変調駆動場を有するSMARTキュービット法の場合、コヒーレンス時間はまた、量子化軸に垂直な平面内の初期状態に対しても感度が高い。Tdecayは、|i〉に初期化されると、駆動場から生じるスピン回転の測定コヒーレンス時間として定義される。
【0130】
i(回転フレーム内のx)周りのπ/2回転を介してキュービットを|i〉に初期化した後、同じ軸周りの変調駆動を特定の待ち時間t図waitの間オンにし、続いて、
【数55】

周りの最終的なπ/2回転を行う(図18Eを参照のこと)。スピンは、次いで、正弦波的な変調の第n周期ごとに測定され、変調駆動自体は、理想的には、全ての周期の後の一致演算に相当する。Ωを一定に保ち、周期Tmodを変えることによって、図18Aの二次元マップが取得される。同様に、Tmodは、Ωを変えながら一定に保つことができる。データは、指数関数的減衰
【数56】

に従って適合され、図18Bにプロットされた減衰率をもたらす。減衰率は、比較のためにプロットされたゼロ次ベッセル関数の絶対値に非常によく似ている。ここで測定された最大Tdecayは、Tmod=24.12μsで1.21(60)msである。比較のために、ベアスピンキュービット
【数57】

及びドレストキュービットは、同じデバイスにおいて、16.1(27)μs及び248(39)μsと測定される(図18C及び図18Dを参照のこと)。図18Aの4つのピークによって明らかなように、マイクロ波場変調の異なる周期を用いたコヒーレンス時間の改善は、幾何学的図形の形式に由来する理論予測と一致する。
【0131】
特定の変調周波数は、一次ノイズと二次ノイズの両方を打ち消すため、より望ましく、SMARTキュービット法は、離調ノイズ及びマイクロ波振幅ノイズに対してより堅牢になる。図18A及び18Bから、最適な変調周期が、どのように次式に従うかが分かる:
【数58】

式中、jは、ゼロ次ベッセル関数の解iである。この実験では、j=2.404826である。図18Aの4つのピークの幅は、変調周波数変動、又は同様に、マイクロ波振幅変動に対する堅牢性を実証する。アンテナが広帯域でない場合、例えば、マイクロ波共振器が、スピンキュービット304に駆動場を提供するために使用される場合、大きな振幅変動が観察され得る。Q値が10の6GHz共振器は、わずか600kHzの帯域幅を有する。いくつかの実施形態では、共振器の帯域幅は、変調周波数(MHz)の範囲内にあり、SMARTキュービット法を可能にする。これは、より長いゲート時間を犠牲にして、より大きなTmod図18Aの右側のピーク]を選択することによって、緩和され得る。別の代替案は、マルチモード空洞を使用することである。
【0132】
実験2:ゲート較正及びプロセストモグラフィ
正弦波的に変調正弦波的な変調されたグローバル駆動について前述したように、シュタルクシフト振幅の単純なは、x又はyのどちらにも一致しないキュービット制御回転軸をもたらす。これは、従来の回転軸を取り戻すために、理論から得られ、プロセストモグラフィを使用して直接較正できる組み合わせで、複数の正弦波的な変調を組み合わせる必要があることを意味する。したがって、回転軸を確認するために、プロセストモグラフィデータを取得する。
【0133】
SMARTキュービット技法の典型的なシュタルクシフト領域は図19A及び図19Bに示され、ゲートG2のシュタルクシフトの大きさ-55 MHz/Vが測定される。図19C及び図19Dでは、ゲートG1に対するシュタルクシフトの大きさ-125MHz/Vが測定される。ゲートG1の場合、シュタルクシフトはより大きな大きさを有するが、線形性がより小さいことが観察される。したがって、ゲートG2は、これらの実験でゲート制御に使用される。
【0134】
前もって予測された回転軸を確認するために、プロセストモグラフィが実行される。2×2密度行列を完全に再構築するために、6つのトモグラフィ投影を取得する。この実験から、SMARTキュービット法の2つの変形(すなわち、余弦変調を伴うSMARTキュービット法及び正弦変調を伴うSMARTキュービット法)が実証される。これらの変形は、ドレストキュービットと比較される。
【0135】
図20は、FM共鳴制御を使用するドレストキュービットの場合のゲート
【数59】

に対するプロセストモグラフィの結果(図20A及び図20B)と、余弦変調SMART変形の場合のプロセストモグラフィの結果(図20C及び図20D)と、正弦変調SMART変形の場合のプロセストモグラフィの結果(図20E図20H)と、を示す。バーの高さ及びカラーコードは、超演算子行列要素の絶対値及び複素位相情報をそれぞれ表す。データを、120回のスピンショット及び30回以下の繰り返しで取得する。
【数60】

ゲート及び
【数61】

ゲートは、SMARTキュービット法に使用され得る代替の回転軸の対角セット(右上の差し込みを参照のこと)周りの回転を構成する。個々のパネルは、測定超演算子行列、並びにパルス列及び変調形状の詳細を含む。比較のために、理想的な超演算子が右端にプロットされる。全ての測定超演算子行列は、良好な忠実度で理想的な行列と一致する。ドレストキュービット法とSMARTキュービット法との間の比較を公平にするために、同じグローバルフィールド2乗平均平方根指数が使用される。制御回転の場合、シュタルクシフト振幅は、2つのキュービットのゲート持続時間がほぼ同じになるように選択される。図20に示すように、SMARTキュービットのゲート時間は、7×Tmodであり、ドレストキュービットのゲート時間は、10/Ωである。
【0136】
実験3:ランダム化ベンチマークによるキュービット性能
SMARTキュービットの性能を評価するために、ランダム化ベンチマークも実行される。状態純度に従ったこの実験では、平均クリフォードゲート忠実度F及びノイズコヒーレンスζを決定する。クリフォードゲートは、ドレスト式ゲートセット
【数62】

を使用して生成される。ドレストキュービット及びSMARTキュービットの場合の結果を図21に提示する。具体的には、図21は、堅牢性テストのために離調ノイズが追加された単一キュービットランダム化ベンチマークを示す。図21Aでは、ノイズの導入及びそれぞれのパルス列が示される。図21Bでは、ノイズを追加しないドレストキュービットに対するランダム化ベンチマークデータが示され、図21Cでは、σ=20kHz(白)で、準静的ガウスノイズがG2に追加されたランダム化ベンチマークデータが示される。図21D及び図21Eでは、正弦変調SMARTキュービットに対する同じデータが示される。状態忠実度データは、A(1+2B)+1/2に適合され、ノイズコヒーレンスは、A(1+2B)2x+Cに適合される。データは、120回のスピンショットと、各シーケンス長に対して20個の異なるクリフォードシーケンスと、で取得される。これらの実験から、ドレストスキームの場合、平均クリフォードゲート忠実度及びノイズコヒーレンスは、追加ノイズなしでは、それぞれ98.6(14)%及び99.1(14)%であり、追加ノイズありでは、それぞれ95.2(48)%及び98.3(48)%であることが分かる。SMARTスキームの場合、ゲート忠実度及びノイズコヒーレンスは、追加ノイズなしでは、99.1(9)%及び99.4(6)%であり、追加ノイズありでは、98.2(18)%及び99.0(11)%であることが観察される。
【0137】
したがって、SMARTキュービット技法は、離調ノイズに対してより堅牢であり、平均クリフォードゲート忠実度及びノイズコヒーレンスの両方で1%未満低下することが分かる。1つのSMARTゲートが、変調場の少なくとも1つの周期にわたって持続するため、ラビ周波数は、SMARTキュービット技法のゲート速度を制限することが見出される(≧Tmod∝1/Ω)。
【0138】
したがって、SMARTキュービット技法ゲートの持続時間は、従来の方形波キュービットゲートと比較して、必然的に長くなる。
【0139】
実験4:より高度な変調方策
考察されるように、振幅変調によって利用可能になる追加のパラメータは、高次ノイズ効果を相殺することを可能にするものである。その結果として、更にいっそう高度な変調スキームは、ますます高次のノイズ除去を可能にすることができる。
【0140】
この実験では、2つの変調高調波を組み合わせる変調スキームが試験される。具体的には、第1の高調波及び第3の高調波が組み合わされる。パラメータθは、電力を一定に保ちながら、2つの高調波の比率を変化させるために使用される。
グローバル変調:cos(θ)cos(2πfmodt)+sin(θ)cos(6πfmodt)
【0141】
この実験で使用される異なる変調形状の例を、図22Aに示す。具体的には、図22Aは、上記の方程式に従って正弦曲線の第1の高調波及び第3の高調波を組み合わせることによって生成される異なる駆動場を示しており、変調駆動場は、θ=-0.67545ラジアンに対するものである。図22Bは、待ち時間が400μsに固定され、Tmodが40μsに等しい場合の、実験ラムゼーデータ(100ショット、3回繰り返し)を示す。|↑〉確率は、異なるグローバルフィールド振幅Ω、及びθで表される第1の高調波と第3の高調波との間の比率に対して示される。図22Dは、θ=-0.67545ラジアンにおける異なる待ち時間及びグローバル振幅の|↑〉確率を破線で示す。破線は、図22Cのデータが取得された400μsの待機時間を示す。図22C及び図22Fは、シミュレートデータを示す。図18で観察された4つのピークは、3次高調波の相対振幅がゼロであるθ=0の場合に対応する。図22Bの高スピンアップ確率領域(Tdecay>400μs)は、SMARTキュービット法が振幅変動に対して感度が低い多階調駆動のためのより理想的な変調パラメータを示す。これらの領域は、図22Cのシミュレートデータに非常によく似ている。高い堅牢性のこれらの領域のうちの1つは、図22B及び図22Cの破線によって示されるように、θ=-0.67545radにおけるものであり、対応する変調形状は、図22Dに示される。このような特別な場合は、様々な振幅に対するラムゼーデータを記録することによって更に調査される(図22E及び22Fを参照のこと)。図22Eの最大Tdecayは、2.15msである。ピークの幅は、Ωの10%程度の振幅変動への高い抵抗力を表す。
【0142】
ドレストキュービットのための例示的な方法
図23は、キュービットアレイ(例えば、キュービット304)で演算を実行するためにドレスト技法を使用する例示的な方法2300を例解するフローチャートを示す。具体的には、初期化動作、読み出し動作、単一又は2キュービット演算ごとに、ステップ2302~2308が実行される。
【0143】
例示的な方法は、各量子ドットが少なくとも1つの不対電子を有するように、量子ドットアレイ内の量子ドットの各々に1つ以上の電子が装填される、ステップ2302で開始する。この例では、キュービットは、各量子ドット内の不対電子のスピンに符号化される。
【0144】
次に、ステップ2304では、DC磁場がキュービットアレイ300に印加されて、不対電子のスピン状態のエネルギー準位を分離する。一例では、DC磁場は、外部超伝導磁石によって印加される。更に、磁場の強度は、0.1~1.5Tであり得る。
【0145】
次に、ステップ2306では、ラーモア周波数は、全てのキュービットが同様のラーモア周波数を有するように、小さい帯域幅内にあるように較正される。一例では、ラーモア周波数は、キュービットのアレイの全てのラーモア周波数が互いに約0~100kHzの範囲内にあるように較正される。前述のように、半導体デバイス内のスピンのラーモア周波数は、スピンを取り囲む微視的環境によって決定される。同位体濃縮シリコン(28Si)におけるスピンキュービットの場合、スピン軌道相互作用は、可変キュービットラーモア周波数をもたらす主機構である。一実施形態では、より純度の高い28Si基板は、残留29Si原子核への超微細結合によって引き起こされる様々なキュービット間のラーモア周波数の変動を最小化するために利用され得る。
【0146】
次に、ステップ2308では、一定振幅を有するAC正弦波グローバル電磁場302が、キュービットアレイ内のキュービット304に印加される。これは、キュービット304のスピン自由度をグローバル電磁場302の光子と結合することによって、キュービット304をドレストにする。グローバル電磁場302の周波数は、キュービットがグローバルフィールド302と共鳴するように、ラーモア周波数の帯域幅に一致するように選択される。グローバルフィールド302は常にオンであり、キュービットアレイ内のキュービット304は、グローバルフィールド302によって常に駆動されている。
【0147】
いくつかの実施例では、グローバルフィールド302は、AC磁場であり得、他の実施例では、グローバルフィールド302は、AC電界であり得る。いくつかの実施例では、外部グローバルフィールド302は、マイクロ波周波数電磁場である。
【0148】
ステップ2308の後、フローチャートは、キュービットにおいて実行される必要がある動作に応じて分岐する。つまり、初期化及び読み出しの場合、方法2300はステップ2310Aに進み、ゲート動作を実行するには、方法2300はステップ2310Bに進み、読み出しの場合、方法2300はステップ2310Cに進む。重要なことには、グローバルフィールド302は、初期化2310A、ゲート動作2310B、及び読み出し2310Cの各々の間、常にオンである。
【0149】
例えば、2つのキュービットを初期化して2キュービットゲート演算を実行するために、ステップ2310Aでは、離調εが正エネルギーから負エネルギーにランプされる(図5を参照のこと)が、キュービットは依然としてグローバル磁場302と共鳴している。同様に、ドレストキュービットの読み出しの場合、ステップ2310Cでは、離調εは、負エネルギーから正エネルギーにランプされる(図5を参照のこと)が、キュービットは依然としてグローバル磁場と共鳴している。
【0150】
キュービットゲートを実行するために、ステップ2310Bでは、電圧を電極に印加して、キュービットアレイ内の少なくとも1つのキュービットを制御し得る。例えば、所与のキュービットを使用して単一キュービットゲートを実行するために、周波数シフトキーイング方法(図6A)又はFM共鳴法(図6B)を使用して、そのキュービットを取り囲む電極306に電圧が印加される。また、本開示の態様に従って、ステップ2310Bで、2キュービットゲートを実行することができる。
【0151】
SMART技法のための例示的な方法
図24は、SMART技法を使用して、時間に依存した振幅を有する振動駆動場の服を、キュービットアレイ内のキュービット(例えば、キュービット304)に着せる例示的な方法2400を例解するフローチャートを示す。
【0152】
例示的な方法は、1つ以上の電子がキュービットアレイに装填される、ステップ2402で開始する。本開示の実施例は、シリコン量子ドット内のスピンに焦点を合わせているが、キュービット制御のためのSMART技法の背後にある数学モデルは、スピンだけでなく、他のキュービット技術にも適用することができる。技術の例としては、超伝導キュービット(位相、電荷、及びトランスモンキュービット)、ダイヤモンドのNV中心、トラップ内のイオン、中性原子などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0153】
次に、ステップ2404では、磁場がキュービットアレイに印加されて、不対電子のスピン状態のエネルギー準位を分離する。
【0154】
次に、ステップ2406では、ラーモア周波数は、全てのキュービットが同様のラーモア周波数を有するように、小さい帯域幅内にあるように較正される。SMART技法は、ノイズに対してより堅牢であるため、ドレスト技法よりも、キュービットラーモア周波数のより大きい変動を処理することができる。一例では、この技法下で、キュービットアレイ内のキュービットのラーモア周波数は、0~500kHzの範囲内であり得る。これは、シリコン基板上の制約を緩和し、ドレスト技法で許容されるよりも純度の低い28Si 基板が使用されることを可能にする。
【0155】
次に、ステップ2408では、キュービットのラビ周波数が識別されて、AC外部グローバル電磁場の振幅変調プロファイルを決定する。グローバルフィールド302の振幅変調周波数をラビ周波数と特定の割合になるように操作することによって、異なるタイプのノイズを相殺することができる。具体的には、この較正ステップ2408は、グローバルフィールド302が、高次ノイズを打ち消し、ドレストキュービットをノイズに対してより抵抗力のあるものにするように操作されることを可能にする。方法2400は、異なる周波数及び位相成分を振幅変調に加えることによって、複数のタイプのノイズを対象にすることができる。
【0156】
次に、ステップ2410では、変調振幅を有するAC外部グローバル電磁場が、キュービットアレイ内のキュービット304に印加される。いくつかの実施例では、グローバルフィールド302は、同時にキュービットアレイ内の全てのキュービット304に影響を及ぼす振幅の正弦波的な変調である。他の実施例では、グローバルフィールドは、キュービットアレイ内の全てのキュービット304に同時に影響を及ぼす振幅の余弦波変調であり得る。一般に、振幅、周波数及び位相変調グローバルフィールド302は、ノイズキャンセリング特性を決定する。
【0157】
上記の試作は、シリコン金属酸化物半導体(MOS)量子ドットを例解するが、本開示のシステム及び方法は、シリコンゲルマニウムシステムにも適用することができることが理解されるであろう。
【0158】
また、記載されたシステムは、界面によって作り出された固有スピン軌道結合を活用するが、本開示のシステム及び方法は、量子ドットシステムの近くに堆積された磁性材料の不均一な磁場によって作り出された人工スピン軌道場を有するシステムに適用することができることも理解されよう。
【0159】
また、試作に記載のマイクロ波駆動場は、その磁場成分を通して支配的にスピンに影響を及ぼすが、同じ動的デカップリング効果を有する全てのキュービットの同様の共鳴駆動を得るために、AC電界もまた、大域的に又は個別に全てのゲートに印加され得ることも理解されよう。
【0160】
当業者であれば、このシステムが電子スピンの文脈で説明されているが、同じ方法が、正孔を含む量子ドットにも適用可能であることも理解するであろう。また、複数の電子又は正孔の電荷、谷又は複合スピン状態、例えば、スピン一重項及び三重項、又は混成スピン-谷状態などの、電子及び正孔の他の自由度にも適用可能である。
【0161】
また、キュービット制御のためのSMARTプロトコルは、スピンだけでなく、他のキュービット技術にも適用することができることが当業者によって認識されるであろう。技術の例としては、超伝導キュービット(位相、電荷、及びトランスモンキュービット)、ダイヤモンドのNV中心、トラップ内のイオン、中性原子などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0162】
更に、本明細書に記載の量子処理システムは、対応するキュービットを制御するためのゲート電極で示されているが、これらは必ずしも必要ではない場合がある。他の実施形態及び実施例では、他の制御手段は、本開示の範囲から逸脱することなく利用され得る。
【0163】
したがって、本実施形態は、あらゆる点で、例解的であり、限定的ではないとみなされるべきである。
【0164】
本明細書で使用される場合、文脈が別途必要とする場合を除き、「含む(comprise)」という用語及び用語の変形、例えば「含むこと(comprising)」、「含む(comprises)」及び「含まれる(comprised)」は、更なる添加物、構成要素、整数又はステップを除外することを意図するものではない。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
【国際調査報告】