(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-23
(54)【発明の名称】ナノ秒スケールの光熱変換動態イメージング
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
G01N21/17 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506905
(86)(22)【出願日】2022-08-05
(85)【翻訳文提出日】2024-04-04
(86)【国際出願番号】 US2022074606
(87)【国際公開番号】W WO2023015294
(87)【国際公開日】2023-02-09
(32)【優先日】2021-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】301069856
【氏名又は名称】トラスティーズ オブ ボストン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(72)【発明者】
【氏名】チェン, ジ-シン
(72)【発明者】
【氏名】ラン, ルー
(72)【発明者】
【氏名】イン, ジアズ
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA03
2G059AA05
2G059BB14
2G059EE02
2G059FF01
2G059FF03
2G059FF05
2G059GG01
2G059GG08
2G059HH02
2G059MM01
(57)【要約】
光熱変換動態イメージングを行うためのシステムおよび方法が提供される。例示的な方法は、試料を走査して複数の生の光熱変換動態信号を生成すること、試料の生の光熱変換動態信号を受信すること、生の光熱変換動態信号を整合フィルタリングして非変調ノイズを除去することによって複数の第2の信号を生成すること、および第2の信号に逆演算を実行して時間領域における少なくとも1つの熱動態信号を取り出すこと、を含む、方法。
【選択図】
図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光熱変換動態イメージングを実行するための方法であり:
試料を走査して複数の生の光熱変換動態信号を生成すること;
前記試料の前記生の光熱変換動態信号を受信すること;
前記生の光熱変換動態信号を整合フィルタリングして非変調ノイズを除去することによって複数の第2の信号を生成すること、ここで、前記整合フィルタリングは、周波数領域における櫛状通過帯域によって実行され、前記櫛状通過帯域は、非変調ノイズを除去するために高調波周波数で共局在する中心位置を有する少なくとも1つの窓を含み;および、
前記第2の信号に対して逆演算を実行して、時間領域における少なくとも1つの熱動態信号を取り出すこと、を含む、光熱変換動態イメージングを実行するための方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの熱動態信号を使用して、前記試料の減衰定数を決定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの熱動態信号に対して微分を実行して、前記試料の時間分解されたエネルギー流束を決定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの熱動態信号が、周波数領域における複数の高調波を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
整合フィルタリングによって前記複数の第2の信号を生成することが、基本周波数および赤外線(IR)変調周波数の高調波において整合フィルタリングを実行することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの熱動態信号が、ナノ秒スケールの熱動態情報を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記試料を走査することが、前記試料を、1ns~1000nsのパルス幅および1μs~100μsの期間を有する単一の赤外線(IR)パルス励起に供することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
整合フィルタリングによって前記複数の第2の信号を生成することは、前記生の光熱変換動態信号に対してフーリエ変換を実行することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
光熱変換動態イメージングを実行するための方法であり:
試料を走査して複数の生の光熱変換動態信号を生成すること;
前記試料の前記生の光熱変換動態信号を受信すること;
前記生の光熱変換動態信号を整合フィルタリングして非変調ノイズを除去することによって複数の第2の信号を生成すること、ここで、前記整合フィルタリングは、周波数領域における櫛状通過帯域によって実行され、前記櫛状通過帯域は、非変調ノイズを除去するために高調波周波数で共局在する中心位置を有する少なくとも1つの窓を含む;
前記第2の信号に対して逆演算を実行して、時間領域における少なくとも1つの熱動態信号を取り出すこと;
前記少なくとも1つの熱動態信号を用いて、前記試料の水バックグラウンドを決定すること;
前記水バックグラウンドおよび前記試料間の熱減衰の差分を決定すること;および
前記熱減衰の差分を使用して、前記試料の光熱変換イメージングにおける前記水バックグラウンドを抑制すること、を含む、光熱変換動態イメージングを実行するための方法。
【請求項10】
前記熱減衰の差分を決定することが、前記少なくとも1つの熱動態信号に対して指数関数的フィッティングを実行して、前記水バックグラウンドおよび前記試料の前記減衰定数を決定することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの熱動態信号に対して微分を実行して、前記試料の時間分解されたエネルギー流束を決定することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
整合フィルタリングによって前記複数の第2の信号を生成することが、基本周波数および赤外線(IR)変調周波数の高調波において整合フィルタリングを実行することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの熱動態信号が、ナノ秒スケールの熱動態情報を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記試料を走査することが、前記試料を、1ns~1000nsのパルス幅および1μs~100μsの期間を有する単一の赤外線(IR)パルス励起に供することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
整合フィルタリングによって前記複数の第2の信号を生成することは、前記生の光熱変換動態信号に対してフーリエ変換を実行することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記試料の前記水バックグラウンドを決定することが、前記試料を1650cm
-1の単一の赤外線(IR)パルス励起に供することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
光熱変換動態イメージングを実行するためのシステムであり、
前記システムが:
1つまたは複数のコンピューティングデバイスプロセッサと;
前記1つまたは複数のコンピューティングデバイスプロセッサに結合された1つまたは複数のコンピューティングデバイスメモリと、を備え、
前記1つまたは複数のコンピューティングデバイスメモリが、前記1つまたは複数のコンピューティングデバイスプロセッサによって実行される命令を記憶し、
前記命令が、
試料を走査して複数の生の光熱変換動態信号を生成し;
前記試料の前記生の光熱変換動態信号を受信し;
前記生の光熱変換動態信号を整合フィルタリングして非変調ノイズを除去することによって複数の第2の信号を生成し、
ここで、前記整合フィルタリングは、周波数領域における櫛状通過帯域によって実行され、前記櫛状通過帯域は、非変調ノイズを除去するために高調波周波数で共局在する中心位置を有する少なくとも1つの窓を含む;および
前記第2の信号に対して逆演算を実行して、時間領域における少なくとも1つの熱動態信号を取り出す、ように構成される、
光熱変換動態イメージングを実行するためのシステム。
【請求項18】
前記命令は、前記少なくとも1つの熱動態信号を使用して、前記試料の減衰定数を決定するようにさらに構成される、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記命令は、前記少なくとも1つの熱動態信号に対して微分を実行して、前記試料の時間分解されたエネルギー流束を決定するようにさらに構成される、請求項17に記載のシステム。
【請求項20】
前記命令は、整合フィルタリングによって前記複数の第2の信号を生成する間に、基本周波数および赤外線(IR)変調周波数の高調波で整合フィルタリングを実行するように構成される、請求項17に記載のシステム。
【請求項21】
前記少なくとも1つの熱動態信号は、ナノ秒スケールの熱動態情報を含む、請求項17に記載のシステム。
【請求項22】
前記命令は、前記試料を走査している間に、前記試料に単一の赤外線(IR)パルス励起を受けさせるように構成される、請求項17に記載のシステム。
【請求項23】
前記命令は、整合フィルタリングによって前記複数の第2の信号を生成する間に、前記生の光熱変換動態信号に対してフーリエ変換を実行するように構成される、請求項17に記載のシステム。
【請求項24】
光熱変換動態イメージングを実行するためのシステムであり、
前記システムが:
複数の生の光熱変換動態信号を増幅するための1つまたは複数の信号増幅デバイス;
前記1つまたは複数の信号増幅デバイスに結合された1つまたは複数の信号取得デバイス;
前記1つまたは複数の信号取得デバイスに結合された1つまたは複数のコンピューティングデバイスプロセッサ;および
前記1つまたは複数のコンピューティングデバイスプロセッサに結合された1つまたは複数のコンピューティングデバイスメモリを備え、
前記1つまたは複数のコンピューティングデバイスメモリが、前記1つまたは複数のコンピューティングデバイスプロセッサによって実行される命令を記憶し、
前記命令は、
試料を走査して前記複数の生の光熱変換動態信号を生成し;
前記試料の前記生の光熱変換動態信号を受信し;
前記生の光熱変換動態信号を整合フィルタリングして非変調ノイズを除去することによって複数の第2の信号を生成し、ここで、前記整合フィルタリングは、周波数領域における櫛状通過帯域によって実行され、前記櫛状通過帯域は、非変調ノイズを除去するために高調波周波数で共局在する中心位置を有する少なくとも1つの窓を含み;および
前記第2の信号に対して逆演算を実行して、時間領域における少なくとも1つの熱動態信号を取り出す、ように構成される、
光熱変換動態イメージングを実行するためのシステム。
【請求項25】
前記命令は、前記少なくとも1つの熱動態信号を使用して、前記試料の減衰定数を決定するようにさらに構成される、請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記命令は、前記少なくとも1つの熱動態信号に対して微分を実行して、前記試料の時間分解されたエネルギー流束を決定するようにさらに構成される、請求項24に記載のシステム。
【請求項27】
前記命令は、整合フィルタリングによって前記複数の第2の信号を生成する間に、基本周波数および赤外線(IR)変調周波数の高調波で整合フィルタリングを実行するように構成される、請求項24に記載のシステム。
【請求項28】
前記少なくとも1つの熱動態信号は、ナノ秒スケールの熱動態情報を含む、請求項24に記載のシステム。
【請求項29】
前記命令は、前記試料を走査している間に、前記試料に、1ns~1000nsのパルス幅および1μs~100μsの期間を有する単一の赤外線(IR)パルス励起に供するように構成される、請求項24に記載のシステム。
【請求項30】
前記命令は、整合フィルタリングによって前記複数の第2の信号を生成する間に、前記生の光熱変換動態信号に対してフーリエ変換を実行するように構成される、請求項24に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年8月5日に出願された米国仮出願第63/229,841号の優先権を主張し、その内容は、その全体が本明細書に含まれる。
【0002】
政府支援
本発明は、認可番号GM136223の下で政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
光熱変換顕微鏡法は、極めて高い感度で光吸収を測定するための多用途の分析ツールである。光減衰を測定する従来の分光法とは異なり、光熱変換検出は、吸収帯域外の別の光ビームによる熱作用を精査することによって吸収情報を取得する。その高い感度は、主に、変調された熱ビームと、ロックイン増幅器を用いた周波数シフトされたプローブビームのヘテロダイン検出とを用いることによって、バックグラウンドが低減されることから高い恩恵を受ける。そのような検出スキームを使用して、直径1.4nmの単一金ナノ粒子のイメージングのショットノイズが制限されることが、実証されている。単一分子の検出限界もまた報告されている。
【0004】
最近、新たに出現した無標識の振動分光イメージングモダリティは、ポンプ源として中赤外(mid-IR)レーザを、プローブとして可視光を使用する。このイメージングモダリティでは、mid-IR吸収コントラストは、吸収体の近傍に閉じ込められた過渡温度場から生じる。300nm程度のサブミクロン空間分解能は、そのような場を、しっかりと焦点を合わせた可視光で探ることによって達成される。この新しいイメージングモダリティは、膨大な分子指紋情報により光熱変換技術を強化させ、従来のmid-IR吸収顕微鏡法および近接場IRアプローチにおける制限を克服する。
【0005】
水性環境における化学結合のサブミクロンの化学マッピングが可能になったことにより、中赤外光熱変換イメージング分野は様々な革新技術や用途を拡大してきた。それらは、広視野検出、光位相検出、光音響検出、ラマンとの相乗的な統合、非接触材料の特性評価、生体分子マッピング、ならびに生細胞および他の生命体の代謝の画像化等が挙げられる。
【0006】
光熱変換顕微鏡法の開発および応用におけるその成功にもかかわらず、物体の熱動態(thermodynamics)および過渡的な光熱変換プロセスに関する貴重な情報はめったに利用されない。ロックインアプローチを活用する光熱変換ヘテロダインイメージング(photothermal heterodyne imaging)(PHI)は、媒体の熱拡散率を明らかにし得る。このアプローチは、超伝導転移の観察、組織分化、および膜界面の解明を含む、様々な用途を可能にしてきた。しかしながら、ロックインの復調が一般に光熱変換信号の高次高調波を全て失い時間分解能の悪化をもたらす。
【0007】
したがって、PHIを用いて包埋剤および物体から生じる中赤外光熱変換信号を解釈することは困難である。時間領域では、短パルスプローブを使用する時間ゲートアプローチは、プローブパルスとポンプパルスとの間の遅延を調整することによってそのダイナミクスを分解し得る。しかし、ナノ秒の分解能での温度上昇および減衰を示す完全な熱動態スペクトルを取得するには、数千回の反復測定が必要であり、日常的な使用には適さない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に記載される主題の一態様によれば、光熱変換動態イメージング(photothermal dynamic imaging)を実行するための方法が提供される。本方法は、以下のステップを含む:試料を走査して複数の生の光熱変換動態信号を生成すること;試料の生の光熱変換動態信号を受信すること;生の光熱変換動態信号を整合フィルタリングして非変調ノイズを除去することによって複数の第2の信号を生成すること、ここで、整合フィルタリングは、その周波数領域における櫛状通過帯域によって実行され、櫛状通過帯域は非変調ノイズを除去するために高調波周波数で共局在する中心位置を有する少なくとも1つの窓を含む;および、前記第2の信号に対して逆演算を実行して時間領域において少なくとも1つの熱動態信号を取り出すこと。
【0009】
本開示に記載される主題の一実施態様によれば、光熱変換動態イメージングを実行するための方法が提供される。この方法は、以下のステップを含む:試料を走査して複数の生の光熱変換動態信号を生成すること;試料の生の光熱変換動態信号を受信すること;生の光熱変換動態信号を整合フィルタリングすることによって複数の第2の信号を生成すること、ここで、整合フィルタリングは、周波数領域の櫛状通過帯域によって実行され、この櫛状通過帯域は、非変調ノイズを除去するために高調波周波数で共局在する中心位置を有する少なくとも1つの窓を含む;第2の信号に逆演算を実行して、時間領域の少なくとも1つの熱動態信号を取り出すこと;その少なくとも1つの熱動態信号を使用して、試料の水バックグラウンド(water background)を決定すること;水バックグラウンドと試料との間の熱減衰差を決定すること;および、その熱減衰差を使用して、試料の光熱変換イメージングにおいて水バックグラウンドを抑制すること。
【0010】
本開示に記載される主題の別の態様によれば、光熱変換動態イメージングを実行するためのシステムが提供される。システムは、1つまたは複数のコンピューティングデバイスプロセッサと、1つまたは複数のコンピューティングデバイスプロセッサに結合された1つまたは複数のコンピューティングデバイスメモリとを含む。1つまたは複数のコンピューティングデバイスメモリは、1つまたは複数のコンピューティングデバイスプロセッサによって実行される命令を記憶し、命令は:試料を走査して複数の生の光熱変換動態信号を生成し;試料の生の光熱変換動態信号を受信し;生の光熱変換動態信号を整合フィルタリングして非変調ノイズを除去することによって複数の第2の信号を生成し、ここで、整合フィルタリングは周波数領域における櫛状通過帯域によって実行され、櫛状通過帯域は、非変調ノイズを除去するために高調波周波数で共局在する中心位置を有する少なくとも1つの窓を含み;および、第2の信号に対して逆演算を実行して、時間領域における少なくとも1つの熱動態信号を取り出す、ように構成される。
【0011】
本開示に記載される主題の別の実施態様によれば、光熱変換動態イメージングを実行するためのシステムが提供される。システムは、複数の生の光熱変換動態信号を増幅するための1つまたは複数の信号増幅デバイスを含む。1つまたは複数の信号取得装置が、1つまたは複数の信号増幅装置に結合される。1つまたは複数のコンピューティングデバイスプロセッサは、1つまたは複数の信号取得デバイスに結合される。1つまたは複数のコンピューティングデバイスメモリが、1つまたは複数のコンピューティングデバイスプロセッサに結合される。1つまたは複数のコンピューティングデバイスメモリは、1つまたは複数のコンピューティングデバイスプロセッサによって実行される命令を記憶し、命令は:試料を走査して複数の生の光熱変換動態信号を生成し;試料の生の光熱変換動態信号を受信し;生の光熱変換動態信号を整合フィルタリングして非変調ノイズを除去することによって複数の第2の信号を生成し、ここで整合フィルタリングは周波数領域における櫛状通過帯域によって行われ、櫛状通過帯域は、非変調ノイズを除去するために高調波周波数で共局在する中心位置を有する少なくとも1つの窓を含み;および、第2の信号に逆演算を行って時間領域における少なくとも1つの熱動態信号(thermodynamic signal)を取り出す、ように構成される。
【0012】
本開示に記載された主題の別の実施態様によれば、コンピュータによって実行された場合に、光熱変換動態イメージングを実行するための方法をコンピュータに実行させる命令を記憶する非一時的コンピュータ可読記憶媒体が提供される。この方法は、以下のステップを含む:試料を走査して複数の生の光熱変換動態信号を生成すること;試料の生の光熱変換動態信号を受信すること;生の光熱変換動態信号を整合フィルタリングして非変調ノイズを除去することによって複数の第2の信号を生成すること、ここで、整合フィルタリングは、周波数領域において櫛状通過帯域によって実行され、櫛状通過帯域は、非変調ノイズを除去するために高調波周波数で共局在する中心位置を有する少なくとも1つの窓を含み;および、第2の信号に対して逆演算を実行して時間領域において少なくとも1つの熱動態信号を取り出すこと、を含む方法。
【0013】
本開示のさらなる特徴および利点は、本開示の詳細な説明に記載されており、本開示の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本開示は、添付図面の図において、例示的様式で示されるが、限定的様式ではなく、図において、同様の参照番号は、同様の要素を指すために使用される。様々な特徴は、一定の縮尺で描かれていない場合があり、様々な特徴の寸法は、議論を明確にするために任意に拡大または縮小されている場合があることを強調する。
【0015】
【
図1】
図1A~
図1Cは、いくつかの実施形態による、パルスポンプ源下での光熱変調のグラフである。
【0016】
【
図2A-B】
図2A~
図2Bは、いくつかの実施形態による、光熱変換動態イメージング(photothermal dynamic imaging)(PDI)システムの概略図である。
【0017】
【
図3A】
図3Aは、いくつかの実施形態による、光熱変換イメージングシステムによって使用されるデジタル処理のフローグラフである。
【0018】
【
図3B】
図3Bは、いくつかの実施形態による、光熱変換イメージングシステムによって使用される櫛状通過帯域の概略図である。
【0019】
【
図4A-B】
図4A~
図4Bは、いくつかの実施形態による、1729cm
-1の吸収ピークおよび1600cm
-1のオフ共鳴ピークにおける300nmのポリメチルメタクリレート(PMMA)ビーズの光熱変換の輝度画像である。
【0020】
【
図4C】
図4Cは、いくつかの実施形態による、同じ視野でのロックイン(LIA)に基づく方法を用いた光熱変換の輝度画像である。
【0021】
【0022】
【
図6】
図6は、いくつかの実施形態による、PMMAのスペクトルプロファイルを示すグラフである。
【0023】
【
図7A】
図7Aは、いくつかの実施形態による、吸収ピーク1729cm
-1における300nmおよび500nmのPMMAビーズ混合物の光熱変換の輝度画像である。
【0024】
【
図7B】
図7Bは、いくつかの実施形態による、300nmおよび500nmのPMMAビーズの光熱変換動態のグラフである。
【0025】
【
図7C】
図7Cは、いくつかの実施形態による、経時的な導関数によって取得された時間分解されたエネルギー流束の関数のグラフである。
【0026】
【
図7D】
図7Dは、いくつかの実施形態による、PDIシステムによって生成された減衰定数マップである。
【0027】
【
図7E】
図7Eは、いくつかの実施形態による、
図7Dの選択された領域の減衰定数マップのヒストグラムである。
【0028】
【
図8A】
図8Aは、いくつかの実施形態による、1650cm
-1でのU87がん細胞のPDI取得光熱変換の輝度画像である。
【0029】
【
図8B】
図8Bは、いくつかの実施形態による、脂質C=Oバンドの1750cm
-1における中赤外光熱変換(MIP)画像である。
【0030】
【0031】
【0032】
【
図8E】
図8Eは、いくつかの実施形態による、指数関数的フィッティングによる
図8A~
図8Bに示される位置の1650cm
-1における減衰定数マップである。
【0033】
【
図8F】
図8Fは、いくつかの実施形態による、指数関数的フィッティングによる、
図8A~
図8Bに示される位置の1750cm
-1における減衰定数マップである。
【0034】
【
図8G】
図8Gは、いくつかの実施形態による、1650cm
-1における
図8Eに示される脂肪滴の熱動態グラフである。
【0035】
【
図8H】
図8Hは、いくつかの実施形態による、1750cm
-1における
図8Fに示される脂肪滴の熱動態グラフである。
【0036】
【
図8I】
図8Iは、いくつかの実施形態による、1650cm
-1でのバックグラウンドの熱動態を伴う1750cm
-1でのマージされた光熱変換の輝度画像である。
【0037】
【
図8J】
図8Jは、いくつかの実施形態による、1650cm
-1でのタンパク質内容物と1750cm
-1での脂質含有量のマージされた光熱変換の輝度画像である。
【0038】
【
図9A】
図9Aは、いくつかの実施形態による、1750cm
-1におけるU87がん細胞のPDI取得光熱変換の輝度画像である。
【0039】
【
図9B】
図9Bは、いくつかの実施形態による、共振増幅器を用いたロックインによって取得された1750cm
-1における
図9Aと同じ視野のMIP画像である。
【0040】
【
図9C】
図9Cは、いくつかの実施形態による、
図9Aと同じ視野におけるU87がん細胞の第21次高調波振幅画像である。
【0041】
【
図9D】
図9Dは、いくつかの実施形態による、
図9Aに示される位置におけるバックグラウンドおよび脂肪滴の正規化された熱動態グラフである。
【0042】
【
図9E】
図9Eは、いくつかの実施形態による、それぞれ、5μsおよび300nsの減衰定数を伴う、バックグラウンドおよび脂肪滴の伝達関数である。
【0043】
【
図9F】
図9Fは、いくつかの実施形態による、異なる周波数における
図9Cに示される線の強度プロファイルである。
【0044】
【
図10】
図10は、いくつかの実施形態による、光熱変換動態イメージングを実行するための例示的なプロセスに含まれる動作のプロセスフロー図である。
【0045】
【
図11】
図11は、いくつかの実施形態による、
図2Aに示されるコンピュータシステムに含まれ得る構成要素の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本明細書に提供される図および説明は、本明細書に説明されるデバイス、システム、および方法の明確な理解のために関連する態様を図示するように簡略化されている一方、明確にする目的で、典型的な類似のデバイス、システム、および方法に見出され得る他の態様を排除している場合がある。当業者は、他の要素および/または動作が、本明細書に説明されるデバイス、システム、および方法を実装するために望ましくあり得る、および/または必要であり得ることを認識し得る。しかし、そのような要素および動作は当技術分野でよく知られており、それらは本開示のより良い理解を容易にしないので、そのような要素および動作の説明は本明細書では提供されないことがある。しかしながら、本開示は、当業者に知られているであろう、説明された態様に対するすべてのそのような要素、変形形態、および修正形態を本質的に含むと考えられる。
【0047】
本明細書で使用される用語は、特定の例示的な実施形態を説明するためのものに過ぎず、限定することを意図したものではない。例えば、本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、複数形も含むことを意図し得る。「備える(comprise)」、「備えている(comprising)」、「含んでいる(including)」、および「有している(having)」という用語は、包括的であり、したがって、述べられた特徴、整数、ステップ、動作、要素、および/または構成要素の存在を指定するが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、および/またはそれらのグループの存在または追加を排除しない。本明細書に記載された方法のステップ、プロセス、および動作は、実行の順序として具体的に特定されない限り、必ずしも説明または図示された特定の順序での実行を必要とすると解釈されるべきではない。追加のまたは代替のステップが使用されてもよいことも理解されたい。
【0048】
第1、第2、第3などの用語は、本明細書では、様々な要素、構成要素、領域、層、および/またはセクションを説明するために使用され得るが、これらの要素、構成要素、領域、層、および/またはセクションは、これらの用語によって限定されるべきではない。これらの用語は、1つの要素、構成要素、領域、層、またはセクションを別の要素、構成要素、領域、層、またはセクションと区別するためにのみ使用され得る。すなわち、「第1の」、「第2の」などの用語、および他の数値用語は、本明細書で使用される場合、文脈によって明確に示されない限り、順序(sequence)または順序(order)を暗示しない。
【0049】
本明細書には、ナノ秒スケールの時間分解能を有し、25MHzよりも大きい帯域幅をカバーするmid-IRの光熱変換動態イメージング(PDI)システムの例示的な実装形態が記載される。帯域幅は、1kHz~1GHzであってもよい。単一のIRパルス励起に応答する熱動態スペクトルが、広帯域電圧増幅器およびメガヘルツデジタイザを使用して取得され、デジタル信号処理と組み合わせて、基本IR変調周波数および高調波の外側のノイズをフィルタリングして除去する。PDIシステムは、ロックインに基づく光熱ヘテロダインイメージング(PHI)よりも信号対ノイズ比(SNR)において5倍を超える改善を達成することができる。さらに、PDIシステムは、過渡温度場特性を検索し、ターゲットの物理的特性および微小環境に関する情報を提供する。
【0050】
がん細胞内の様々な細胞小器官の光熱変換動態を、このアプローチを使用して取得し得る。組織または細胞の均一な熱応答の巨視的観察とは異なり、細胞内では熱環境は化学的依存性が極めて不均一であることが描写され得る。水と生体分子との間の熱減衰差を利用することによって、従来の光熱変換顕微鏡法では水バックグラウンドから分離することが困難な細胞成分が、それらの時間分解された特性に基づいてここで区別し得る。
【0051】
まとめると、PDIシステムは、ナノ秒の時間分解能で過渡的な光熱変換プロセスの直接検出を可能にする。mid-IRの励起と共に、このアプローチは、試料の固有の化学的及び物理的特性の非破壊的調査を可能にし、化学物質特有の過渡熱イメージング用途を可能にする。
【0052】
光熱変換現象は、吸収された光子エネルギーを、非放射緩和を介して熱に変換することから生じる。パルスレーザ励起下では、熱緩和時間よりも短い吸収エネルギーがその吸収体に蓄積し、局所的な温度場を形成する。これが、局所的な密度変化を介して局所的な光屈折率を変更する熱弾性変形を並行して誘発し、光散乱を通して時間分解された光熱変換信号として検出され得る。ナノ粒子のPHI検出と比較して、中赤外光熱(MIP)の熱動態を解釈する際に2つの違いがある。
【0053】
第1に、MIP吸収体は、媒体、特に生体システムにおける点熱源によってモデル化することができない。例えば、脂肪滴、タンパク質凝集、および細胞質のような結合選択的標的は、嵩高い。熱動態は、吸収体と局所媒体の両方によって集合的に影響を受ける。第2に、mid-IR範囲における水吸収を考えると、吸収体および媒体の両方が、信号コントラストに影響を及ぼす水性環境における温度上昇となり得る。したがって、不均一な熱拡散率内の温度場の発生を考慮すべきである。
【0054】
mid-IRポンプの下での吸収体の局所的な温度の急激な変化は、
図1Aに示すように、mid-IRパルスの存在に伴う温度の急激な変化と、それに続く、
図1Bに示すような、熱放散(heat dissipation)に関連する指数関数的な減衰とからなる。この過渡的プロセスは、以下の熱伝達方程式を解くことによって得られる。
【数1】
ここで、mおよびC
sは、吸収体の重量および特定の熱容量を表し、dT/dtは、時間に対する温度変化であり、(Q
abs-Q
diss)は、吸収されたエネルギーと散逸されたエネルギーとのレート差を表すエネルギー流束を示す。IRパルス持続時間(パルス幅)は、1ns~1000nsであり、1μs~100μsの期間(period)を有し得る。
【0055】
Qabsの量は、IIR(t)σabsによって近似され得、ここで、IIR(t)は、IRパルスにわたる入射IR強度を表し、σabsは、IR吸収断面積を表す。熱放散は、ニュートンの法則(Newtown’s Law)に従い、Qdissは、温度勾配によって導出され、(hS[T(t)-T0])で与えられ、ここで、hおよびSは、それぞれ、被検査物から環境への熱伝達係数および有効伝達表面積を表す。関係(hS[T(t)-T0])は、吸収体と周囲環境T0との間の時間依存性の温度の差である。
【0056】
加熱プロセス中、T(t)は、初期条件T(0)=T
0を用いて式(1)を解くことにより導出され得、IRパルス波形を無視し得る。
【数2】
【0057】
IRパルス加熱が終了すると、Q
absはゼロになる。その温度変化はQ
dissによってのみ導出され、T(t)は次のように解かれる。
【数3】
ここで、T
maxは加熱終了後の吸収体の最大温度である。
【0058】
このモデルから、加熱プロセスと冷却プロセスの両方が、mCs/hSの時定数τを有する指数関数的プロセスとして記述され得ることが分かる。加熱プロセス中、レーザパルス持続時間がτよりもはるかに短い場合にのみ、放熱が無視できると仮定して、放熱閉じ込め条件が満たされ、式(2)は、(T0+(IIRσabs/hS)t)になる。そうでなければ、温度は、吸収体がその熱平衡状態に近づくときに、徐々にプラトーに到達し得る。
【0059】
抵抗-コンデンサ回路と同様に、mCsは熱コンデンサの量であり、1/hSは熱抵抗である。これらのいずれの増分も、かなりの時定数をもたらす。これらの時定数は、かさ高い水および大きな粒子などの大きな熱容量を有する吸収体にとって重要であると予想される。hSの量は、包埋媒体の伝熱能力および吸収体の形状に最も関連する。したがって、熱応答は、試料及び連関する環境の両方の物理的特性に密接に関連しており、生細胞のような不均一系では大きく異なり得る。
【0060】
周波数領域において、短パルスレーザによって誘起される熱応答は、広帯域にわたって広がり、これは、パルス周波数スペクトルを吸収体の伝達関数と多重化した結果である。時定数τを有する特定の吸収体の伝達関数は、以下の式によって近似し得る。
【数4】
【0061】
この表現は、光熱変換信号に関する重要な事実を伝える。第1に、吸収体は、1/2πτで-3dBのカットオフを有する過渡的な熱摂動のためのローパスフィルタである。この関係は、熱残留を回避し、かなりの変調度を維持するために適切なIR繰り返し率を選択することに対処する。第2に、fIRの繰り返し率を有するIRによって生成される光熱変換信号は、そのような関数のフーリエ合成として扱うことができ、
図1Cの直径D=500nmのPMMAビーズを有する空気中のポリメチルメタクリレート(PMMA)ビーズのシミュレーションに示されるように、fIRの各高調波における成分を含む。
【0062】
特に、
図1Cは、高調波が周波数領域において広く拡散され、帯域幅がカットオフ周波数によって決定されることを示す。τが大きいと、スパンが狭くなる。光熱変換信号は、変調周波数で正弦波に近くなり、高次高調波をほとんど有さないが、高速減衰信号は、多くの強い高調波成分を有する。さらに、これらの特徴は、従来のロックインベースのMIPシステムに対する微小環境の影響を強調する。ロックイン法は、基本高調波振幅のみを回復し、高調波周波数での他の全ての信号を見逃すものであり、これは感度を犠牲にし、異なる熱応答を有する異種の試料においてコントラスト歪みを引き起こす。加えて、水のバックグラウンドは、変調周波数で最大になり、弱い信号の大きさで小さな細胞小器官の信号を隠すが、周波数領域で様々な高次の高調波成分をロードする。
【0063】
光熱変換信号は、微細であり、大きなバックグラウンド信号にわたって変調される。ロックイン検出アプローチは、変調周波数帯域の外側のノイズを除去することによって信号を復調する。しかしながら、この狭帯域フィルタリング技術は、検出帯域幅および時間分解能を失う。PDIシステムは、ノイズを抑制するために整合フィルタリングを使用する広帯域取得方式を利用する。このようにして、帯域幅、時間分解能、および感度が良好に維持される。
【0064】
図2Aは、いくつかの実施形態に従って使用される例示的なmid-IR PDIシステムの概略図である。量子カスケードレーザは、第1のダイクロイックミラー(DM1)を通過し、次いで反射対物レンズ(RL)を用いて試料上に集束されるパルス化されたmid-IRポンプビーム210を提供する。ダイクロイックミラーDMによって反射された残留mid-IRビーム212は、MCT検出器で監視される。連続波532nmレーザからの逆伝播プローブビーム214は、第2のダイクロイックミラー(DM2)を通過し、水浸対物レンズ(OL)上に集束される。後方散乱プローブ光子216は、50/50ビームスプリッタ(BS)で収集され、前方散乱プローブ光子218は、反射対物レンズ(RL)によって収集され、ダイクロイックミラー(DM3)によって分離される。前方プローブ光子218及び後方プローブ光子216の両方が収集され、
図2Bに示すように、広帯域電圧増幅器202に接続されたシリコンフォトダイオードPD1及びPD2に送られる。
【0065】
図2Bは、25MHzのカットオフ周波数を伴うローパスフィルタ204でフィルタリングされ、1秒当たり5000万試料のサンプリングレートで高速デジタイザ(DAQ)206に送られる電圧信号を示す。DAQ206は、1秒当たり100万試料から30億試料のサンプリングレートを有する。コンピュータ208は、走査台209とQCLレーザとを同期して制御するために使用される。一方、IRポンプパルスを監視するためにテルル化水銀カドミウム(MCT)検出器が配置され、信号は同じDAQ206によって同期してデジタル化される。
【0066】
フレームごとに取得された生のPDIデータは、試料の走査が終了した後にDAQ206からコンピュータ208のメモリに転送され、カスタムコード化されたソフトウェアで処理される。時間トレース全体は、割り当てられたピクセル滞留時間に従ってセグメント化される。次いで、各セグメントは、高調波ポンプレーザ繰り返し率で各通過窓を伴う櫛状通過帯域を用いて周波数領域内でフィルタリングされる(100kHzで作動するレーザの場合、通過窓は、100kHz、200kHz、...、2MHz、2.1MHzで選択される)。スペクトル分解能は、ピクセル滞留時間に従ってウィンドウサイズを定義する。通過する高調波の数は、熱動態の帯域幅を決定し、SNRに影響を及ぼす。この場合、吸収コントラストを描くために第16次高調波(1.6MHz)を使用して、最も高い画像SNRを与えることができる。一方で、完全な光熱変換動態プロファイルを定義するために、25MHzの帯域幅を使用してもよい。
【0067】
図3Aは、いくつかの実施形態による、PDIを実行するためのプロセスフロー図である。生のPDIのデータは、IRポンプ下、1729cm
-1の吸収ピークで500nmのPMMAビーズの中心から取得した(ステップ302)。単一パルス光熱変換信号は、広帯域検出スキームを使用して平均化することなく、43を超える信号対ノイズ比(SNR)で明確に分解し得る。この単一パルスの分解能力は、PDIを、数マイクロ秒の最小取得時間を有する前例のない撮像速度に押し上げる。実際には、ステージ走査速度によって制限され、ピクセルごとに取得される信号は、数百マイクロ秒のセグメントである。フーリエ変換を使用する整合フィルタリングは、SNRを向上させるために、周波数領域において櫛状通過帯域310を有する各セグメントに対して実行される(ステップ304)。
図3Bは、櫛状の通過帯域310を示し、各窓312は、非変調ノイズ314のほとんどを除去するために、周波数領域における高調波周波数で共局在する中心位置を有する。フィルタリング後、フィルタリングされた光熱変換信号308が、逆フーリエ変換を用いて取得される(ステップ306)。フィルタリングされた光熱変換信号は、時間領域において拡張された各空間画素で再構成されたX-Y-tスタックに関連付けられる(ステップ306)。
【0068】
PDIは、公称直径300nmのPMMAビーズに対して実施した。QCLレーザを、PMMA中のC=O結合の吸収ピークに対応する1729cm
-1に調整した後、
図4Aに示すように、PMMAビーズの光熱変換の輝度画像を取得した。
図4Aは、PMMAビーズの大部分がt=440nsで最高温度に達したことを示す。
図4Bは、1600cm
-1のオフレゾナンスmid-IR励起で光熱変換コントラストを示さない。
図4Cは、ロックインおよび共振増幅器を使用した、
図4Aと同じ視野を有する1729cm
-1の励起における従来のMIP顕微鏡の光熱変換の輝度画像を示す。一方、ロックイン法は、500μsのピクセル滞留時間で71のSNRを生成し、検出感度の5倍に近い改善を示す。ピクセル滞留時間は200μsに押し上げられ、PDIを使用して単一のPMMAビーズに対して220のSNRを達成することができる。
【0069】
図5Aは、
図4Aに示されるPMMAビーズの光熱変換動態プロファイルを示す。現在のPDIシステムにおける最も高い時間分解能は、最終的には、数ナノ秒であるフォトダイオード応答時間によって制限される。しかし、デジタイザ206のために、50M試料/秒のサンプリングレート、すなわち20ナノ秒が使用される。取得された時間プロファイルを用いて、IRパルスが終了するt3の後の散逸プロセスの熱減衰定数を定量的に測定し得る。破線502によって示されるように、指数関数的フィッティング関数を使用することによって、フィッティングされた減衰定数は300nsである。
【0070】
式3から、この時定数は、mCs/hSによって与えられる。吸収体とその微小環境との間の伝熱パラメータhSは、材料の濃度ρおよびCsに関する情報を使用して決定されてもよい。フッ化カルシウム(CaF2)基板上の300nmのPMMA粒子の場合、熱伝達パラメータは7.78E-8W/Kと決定される。有限要素法(FEM)を用いて、このパラメータは7.65E-8W/Kであると決定され、これは実験測定値と密接に一致する。
【0071】
式1の時間分解されたエネルギー流束の関数[Q
abs(t)-Q
diss(t)]は、
図5Bに示すように、過渡光熱変換信号の時間に対する導関数を取ることによって直接評価することができる。モデルから、この関数は次のように書かれる。
【数5】
ここで、
【数6】
は、特定の試料に対するケルビン当たりの散乱強度変化を表す係数である。
【0072】
この関数は、実験結果におけるIRパルス形状とよく一致した。熱動態は3つの段階からなる。加熱の開始時(t1からt2)には、熱放散は無視できる。エネルギー吸収に関連する第1項が支配的であり、
図5Cに示すように、IRパルス波状I
IR(t)に類似したパルス状波形が得られる。温度は、熱放散項が熱流入に等しくなるまで上昇し続け、この時点で、エネルギー流束の関数はゼロになり、吸収体は熱平衡状態に入る。
【0073】
非理想的なIRパルス波形に起因して、冷却プロセスは、IRパルスが完全に終了する前に起こった。t2からt3まで、IR強度は徐々に減少し、散逸エネルギーが支配的になり、エネルギー流束の関数は負になり始め、吸収体が冷却段階に入ったことを示す。IRパルスが終了した後(>t3)、熱流束の関数は、指数関数的減衰として熱放散項のみを示す。これは、300nmのPMMAビーズの実験的に得られた熱動態が、冷却の開始時に凹関数様の減衰を有する理由を説明した。
【0074】
スペクトル忠実度を検証するために、異なるIR波長下で光熱変換の強度を測定した。
図6に示すように、300nmのPMMAビーズのMIPスペクトルを、FTIRで取得したPMMAフィルムのスペクトルと比較した。IRレーザーパルスエネルギーは、生の光熱変換スペクトルを正規化した。良好な一貫性が全領域で観察された。
【0075】
上述の熱動態モデルは、温度上昇と温度減衰の両方が、時定数mC
s/hSに強く関連していることを示している。均一な媒体に埋め込まれた球状微粒子に対して、パラメータhSは、2πκDによって近似され得、ここで、κは、媒体の熱伝導性であり、Dは、粒径である。その結果、減衰定数は、γ
2ρCs/κに比例する。同じ材料及び均一な微小環境を有する微粒子に対して、時定数はγ
2に依存する。
図7Aに示すように、この関係を検証するために、異なるサイズ(300nmおよび500nm)のPMMA粒子の熱動態イメージングを行った。光熱強度の差を除いて、それらの熱動態に有意な差が観察される。
図7Aに示された粒子の熱動態および熱流束の関数は、それぞれ
図7Bおよび
図7Cに示されている。300nmおよび500nmの粒子についての検索された減衰定数は、それぞれ290nsおよび540nsである。
【0076】
各ピクセルにおける減衰信号が適合され、
図7Dに示されるように、統計分析を実行するために熱寿命を示す減衰定数マップが生成される。減衰定数マップにおける選択された領域のヒストグラムが
図7Eに示されており、ここでは、それぞれ280nsおよび495nsの中心値を有する300nmのPMMA粒子および500nmのPMMA粒子を表す2つのピークが観察される。この結果から、減衰定数は、300nmと500nmのPMMA粒子の間で1.8倍にスケーリングされる。また、減衰定数は、γ
2依存性で推定される場合、2.8倍にスケーリングされ得る。
【0077】
CaF
2基板は、空気(0.026W/(mK))よりもはるかに大きい熱伝導率(9.71W/(mK))を有する。この違いは、異なる粒子の基板接触面積のばらつきの影響によるものである。その結果、そのような微小環境中の粒子は、様々なサイズの表面積付着を有する不均一な熱放散能力を有する。サイズが大きくなるにつれて、基板の表面接触面積が大きくなり、大きな粒子の伝熱能力が増大する。実際に、減衰定数マップから、
図7Dの500nmのPMAA粒子の不均一な熱特性を観察することができる。中央領域は、表面接触面積が小さい縁部よりも速い減衰を有する。
【0078】
細胞内の様々な細胞小器官の一過性熱応答を調べるために、酸化重水素(D
2O)リン酸緩衝食塩水(PBS)中でのU87がん細胞の結合選択的PDIを実施した。IRをアミドIバンドに対応する1650cm
-1に調整することによって、細胞内のタンパク質に富む内容物は、
図8Aに示される光熱強度マップに明確なコントラストをなす。D
2O PBSは、細胞形態を維持し、1650cm
-1でのmid-IRの著しい水吸収を減少させるために使用される。
【0079】
図8Aでは、細胞質中に均一に分布したタンパク質内容物および核小体からの強い信号を観察することができる。バックグラウンドは光熱変換信号を有するが、細胞の信号と比較して相対的に弱い。これは、この波数における残留水吸収によるものである。IRを脂質からのC=Oバンドに対応する1750cm
-1に調整することによって、個々の脂肪滴は、
図8Bにおいて強い信号を示した。
【0080】
光熱変換分光法を、脂肪滴、核、細胞質、およびバックグラウンド培地について実施した。各内容物のスペクトルを
図8Cに示す。核および細胞質でのスペクトルは、1655cm
-1でアミドIバンドの強いピークを示し、N-H結合の重水素置換により1450cm
-1でアミドIIバンドをシフトした。脂肪滴のスペクトルにおいて、強いピークが1750cm
-1で生じ、高いC=O含有量を示した。
図8Dは、脂肪滴、核、細胞質、およびバックグラウンド媒体の光熱変換動態をそれぞれ示す。
【0081】
興味深いことに、脂肪滴のスペクトルは、1650cm
-1を中心とする広いピークを示した。これは、1650cm
-1での
図8Aの輝度マップの結果と一致し、ここでは脂肪滴も明るくなる。このタンパク質バンドにおける脂質の異常な強いコントラストは、他の報告された散乱に基づく光熱変換システムにおいて広く観察される。この信号の起源は、本明細書に記載されるPDIアプローチによって可能となる、その過渡的な光熱変換信号を研究することにより、調査し得る。
【0082】
このIRの化学的特異性と共に、
図8Dに示すように、様々な細胞内成分の光熱変換動態を評価する。結果は、異なる細胞小器官の間の明確な熱応答を示した。細胞内の脂肪滴は、水性環境に埋め込まれた単離粒子と類似している。したがって、それらは、300nsの時定数を有する比較的速い減衰信号を有する。豊富なタンパク質含有量を有する核小体および細胞質は、脂肪滴と比較して、2.5μsである、より遅い減衰シグナルを有する。
【0083】
興味深いことに、1650cm
-1のバックグラウンドは、その大きな水熱容量のために、5μsよりも大きな減衰定数を有する最長減衰を有する。より直感的な例示のために、1650cm
-1(
図8Eに示す)および1750cm
-1(
図8Fに示す)の減衰定数マップを生成した。
図8Eおよび
図8Fの減衰マップから、バックグラウンド構造と細胞構造とを、それらの異なる熱動態について区別することができる。細胞とバックグラウンド媒体との間の熱境界は、
図8Eの破線802として示される縁で観察され得る。
【0084】
脂肪滴は、
図8Fに示すように、1750cm
-1励起で150ns~500nsの範囲の減衰定数を有する。しかしながら、脂質のより高い減衰定数は、1650cm
-1未満では明らかにされない。その代わりに、それらは、バックグラウンド媒体と同様の減衰定数を有する。細胞質および核は、1650cm
-1励起で2.5μsの減衰定数を有する。
【0085】
検出された信号は、典型的には、散乱場変調から生じる。散乱強度は、(ns-nm)に比例し、ここで、nsおよびnmは、それぞれ、試料およびバックグラウンド媒体の屈折率である。これは、サイズの影響が無視できると仮定している。吸水によるMIP調節において、ns(t)およびnm(t)の両方は、時間依存性である。これらの変化のいずれも、散乱強度変調をもたらし得る。
【0086】
脂肪滴の基礎となる動態は、励起1650cm
-1(
図8Gに示す)および1750cm
-1(
図8Hに示す)でプロットされる。実際、明らかになった動態は、異なる熱特性を示す。1750cm
-1では、脂質信号LD1、LD2、およびLD3は、迅速に応答し、数百ナノ秒のオーダーの減衰時間を有する。しかしながら、1650cm
-1では、脂質シグナル信号LD1、LD2、およびLD3は、5μsより高い減衰定数を有する比較的遅い減衰を示した。この過渡応答は、
図8Gの破線804で示すように、水のバックグラウンドと同様である。
【0087】
時間分解された光熱変換信号の導関数をとって、このクロストークが水バックグラウンド媒体と脂質との間の熱交換から生じるかどうかを決定した。このような異なる熱特性により、脂質信号LD1、LD2、およびLD3における1650cm-1ピークは、細胞小器官自体ではなく、水バックグラウンド媒体から生じるはずである。1650cm-1では、20ナノ秒より長い遅延は観察されず、加熱および信号生成中の熱拡散は無視できることを示している。したがって、バックグラウンド媒体は、水の吸収に起因するnmの変化の主な原因である。
【0088】
PDIシステムは、水バックグラウンド媒体と脂肪滴LD1、LD2、およびLD3との間の明確な熱特性を利用することによって、時間領域における信号寄与を区別した。
図8Iに示すように、脂質LD1、LD2、およびLD3の水誘導信号を、それらの光熱強度および減衰定数を評価する単純なプログラムによって首尾よく抽出し得る。強度画像から1650cm
-1での水誘導信号を除去した後、
図8Jに示すように、脂質とタンパク質との間で十分に分離された内容物マップが得られる。
【0089】
光熱変換動態結果は、脂肪滴が数百ナノ秒で急速に減衰することを示す。同時に、水のバックグラウンドは、数マイクロ秒のオーダーで、はるかに遅い。高次の高調波信号を捕捉することによって、PDIは、
図9Aに示されるように、小脂質902~908を可視化することをさらに可能にした。これらの小さな脂質902~908は、
図9Bに示されるように、ロックイン検出が使用された場合、水バックグラウンド中に完全に埋もれた。この能力をより詳しく理解するため、光熱変換動態信号のフーリエ解析を行った。
【0090】
脂質902~908に関連するバックグラウンド信号(BD)および脂質信号(LD)の過渡的光熱変換信号を
図9Cに示す。
図9Cは、フーリエ変換によって取得され、プロットされたバックグラウンド信号(BD)および脂質信号(LD)についての、100kHzにおける基本成分または第1次高調波を示す。バックグラウンド信号(BD)および脂質信号は迅速に応答し、高次の高調波成分を提示する。これに対して、水のバックグラウンドは、基本変調周波数に局在する。したがって、基本周波数でのロックイン復調は、脂肪滴とバックグラウンドとの間のコントラストを最小化する。
【0091】
バックグラウンド信号(BD)および脂質信号(LD)の周波数応答を
図9Dに示す。低速バックグラウンド信号は、第1次および第2次高調波の成分を有する。比較として、高速脂質信号(LD)は、周波数領域において広く拡散され、第1次高調波は、全エネルギーの5分の1未満しか含有しない。その結果、脂質対バックグラウンド比(L/D)は、第21次高調波まで増加する。
【0092】
復調をロックインする第1次高調波では、
図9Dに示すようにコントラストが最も低く、脂質信号はバックグラウンド信号からほとんど分解されない。
図9Eは、第21次高調波(2.1MHz)の光熱変換画像を示し、最小のバックグラウンドを有する小さな脂質についての明確なコントラストを実証する。
図9Eに示されるような線910の強度プロファイルは、異なる周波数で
図9Fにプロットされる。脂質対バックグラウンド比(L/D)が適切な脂質信号は、高次の高調波(0.7MHz~2.1MHz)で示される。
【0093】
図10は、いくつかの実施形態による、光熱変換動態イメージングを実行するための例示的なプロセス1000に含まれる動作のプロセスフロー図である。動作は、1つまたは複数の非一時的機械可読記憶媒体に記憶されたコンピュータ実行可能命令を使用して実装され得る。命令は、
図2に記載されたプロセッサ208などの1つまたは複数の処理デバイスによって実行されて、動作を実施してもよい。
【0094】
プロセス1000は、試料を走査して複数の生の光熱変換動態信号を生成することを含む(ステップ1002)。プロセス1000は、試料の生の光熱変換動態信号を受信することを含む(ステップ1004)。プロセス1000は、生の光熱変換動態信号を整合フィルタリングして非変調ノイズを除去することによって、複数の第2の信号(フィルタリングされた光信号など)を生成することを含む。整合フィルタリングは、周波数領域における櫛状の通過帯域(通過帯域302)によって実行される。櫛状通過帯域は、非変調ノイズ(ノイズ308など)を除去するために高調波周波数で共局在する中心位置を有する少なくとも1つの窓(窓304など)を含む。プロセス1000は、第2の信号に対して逆演算を実行して、時間領域における少なくとも1つの熱動態信号を取り出すことを含む。プロセス1000は、少なくとも1つの熱動態信号を使用して、試料の水バックグラウンド(
図8A~
図8Iの水バックグラウンドなど)を決定することを含む(ステップ310)。水バックグラウンドと試料との間の熱減衰差が決定される(ステップ1012)。プロセスは、熱減衰差を使用して、試料の光熱変換イメージング(
図8Iの十分に分離された内容物(content)マップなど)における水バックグラウンドを抑制することを含む(ステップ1014)。
【0095】
図11は、いくつかの実施形態による、コンピュータシステム208に含まれ得る構成要素の概略図である。
図11に示されるように、コンピュータシステム208は、コンピュータハードディスクなどの非一時的コンピュータ可読媒体を含み得るメモリ1120を含む。メモリ1120は、とりわけ、データ1121、コンピュータプログラム1122、およびオペレーティングシステム1123を記憶する。オペレーティングシステム1123は、コンピュータシステム208の動作を制御するためのドライバ、例えばカーネルドライバ1144を含む。メモリ1120に記憶されたコンピュータプログラムの中には、方法300および1000に関連するコンピュータコード1124がある。コンピュータシステム208には、ドライブインターフェース1126、ディスプレイインターフェース1127、キーボードインターフェース1128、マウスインターフェース1129、1つまたは複数のコンピュータバス1130、ランダムアクセスメモリ(RAM)1131、プロセッサ(CPU)1132、およびグラフィック処理ユニット(GPU)1141も含まれる。コンピュータシステム208は、ディスプレイインターフェース1127と連動して動作するディスプレイと、テキストおよびユーザコマンドを入力するためのキーボードインターフェース1128と連動して動作するキーボードとを含み得る。また、コンピュータシステム208は、ディスプレイスクリーン上にカーソルを位置決めし、ユーザコマンドを入力するためにマウスインターフェース1129とともに動作するマウスを含んでもよい。
【0096】
いくつかの実施形態では、メモリ1120は、データを記憶するための複数のメモリ構成要素を含み得る。いくつかの実施形態では、RAM1131は、コンピュータ命令を処理するための複数のRAMを含んでもよい。
【0097】
プロセッサ1132は、RAM1131から、上述したようなコンピュータプログラムを実行するためのマイクロプロセッサ、プログラマブルロジック等であってもよい。プロセッサ1132は、ドライブインターフェース1126を介して外部デバイスに記憶されたコンピュータプログラム(または他のデータ)にアクセスする。GPU1141は、処理デバイスの一種である。例えば、GPU1141は、表示機能を実装し、制御するように構成されたプログラマブルロジックチップであってもよい。この目的のために、GPU1141は、コンピュータの画面上に画像、アニメーション、およびビデオをレンダリングするようにプログラムされ得る。GPU1141は、コンピュータシステムのマザーボード上のプラグインカード上またはチップセット内に配置されてもよく、またはGPU1141は、CPU1132と同じ物理チップ内にあってもよい。いくつかの実装形態では、CPU1132は、複数のCPUを含み得る。いくつかの実施形態では、複数のCPUは、並列コンピューティング用に構成されてもよい。
【0098】
コンピュータシステム208は、情報を無線等で受信および/または送信するための受信機1119、例えば、無線受信機を有してもよい。コンピュータシステム208は、受信機1119からの入力アナログRF信号をデジタル試料に変換するための1つまたは複数のアナログデジタル変換器(ADC)1133を含んでもよい。コンピュータシステム208は、デジタル試料に対してデジタル信号処理動作を実行するためのデジタル信号プロセッサ(DSP)1135も含み得る。DSP1135はまた、デジタル試料の品質を改善するように動作されてもよい。DSPは、信号処理に関係しないコンピュータプログラムを実行することもできる。
【0099】
コンピュータシステム208は、インターネットなどのネットワークにインターフェースするためのイーサネット(登録商標)ポートなどのネットワークインターフェース1140を含む。いくつかの実施形態では、コンピュータシステム208は、複数のコンピュータシステム208に接続されたサーバであってもよい。
【0100】
いくつかの実装形態では、GPU1141、CPU1132、および/またはDSP1135などの複数の電子構成要素が、1つまたは複数のコンピュータプログラムを同時にまたは同時期に実行してもよい。いくつかの実装形態では、GPU1141は、
図11に示された各タイプの複数の構成要素、たとえば、複数のCPU、複数のGPU、複数のDSPなどを含み得る。各種類の構成要素のうちの1つ以上は、1つ以上のコンピュータプログラムを並行して、同時期に、または同時に実行するように構成されてもよい。
【0101】
本開示は、ナノ秒の時間分解能で過渡光熱変調を感知することができる光熱変換動態イメージング(PDI)システムを記載する。この先進技術は、サブミクロンの空間分解能で化学的に特異的なIR吸収と物理的に特異的な熱動態とを同時に検出することを可能にする。初めて、細胞内の様々な細胞小器官の熱応答を検索することができる。PDIシステムを使用して、検索されたデータは、細胞質、核、および脂肪滴が時間分解された異なる特性を示すことを示す。時間分解された特性に基づき、PDIシステムにより、水媒体の寄与から微小な信号を区別することが可能となった。
【0102】
PDIシステムは、全ての高調波を捕捉することによって、1桁を超えるSNRを改善し得る。従来のロックインアプローチと比較して、PDIシステムは、低デューティサイクルの光熱変換信号に対して4倍を超えて感度を増加させる。この改善は、短パルスIRポンプによって誘起される全ての高調波成分を捕捉するための広い検出帯域幅を活用する。特に、このアプローチは、主に、数ナノ秒のパルス持続時間および数十キロヘルツの固定繰り返し率を有する、強力な光学パラメトリック発振器(OPO)源を伴うmid-IR光熱変換顕微鏡に利益をもたらす。そのような短パルスおよび高ピークパワー励起源は、熱放散が比較的急速である、熱伝導性基板上または水性環境内の小さい物体の大きい変調深度を生成するために非常に好ましい。そのような場合、光熱変換信号は、1%未満のデューティサイクルを有し、ロックイン増幅器は、変調のごく一部しか捕捉することができない。
【0103】
本明細書における「一実装形態(one implementation)」または「実装形態(an implementation)」への言及は、実装形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、本開示の少なくとも1つの実装形態に含まれることを意味する。本明細書の様々な箇所における「一実装形態では(in one implementation)」、「いくつかの実装形態では(in some implementations)」、「一事例では(in one instance)」、「いくつかの事例では(in one instances)」、「一事例では(in one case)」、「いくつかの事例では(in some cases)」、「一実施形態では(in one embodiment)」、または「いくつかの実施形態では(in some embodiments)」という句の出現は、必ずしもすべてが同じ実装形態または実施形態を指すとは限らない。
【0104】
最後に、本開示の実施態様の上記の説明は、例示および説明の目的で提示された。網羅的であること、または本開示を開示された厳密な形態に限定することは意図されていない。上記の教示に照らして、多くの修正および変形が可能である。本開示の範囲は、この詳細な説明によってではなく、むしろ本出願の特許請求の範囲によって限定されることが意図される。当業者には理解されるように、本開示は、その趣旨または本質的な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で具現化されてもよい。したがって、本開示は、以下の特許請求の範囲に記載される本開示の範囲を限定するのではなく、例示することを意図している。
【国際調査報告】