IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ティコナ・エルエルシーの特許一覧

特表2024-530676燃料電池システム中で使用するための流体部材
<>
  • 特表-燃料電池システム中で使用するための流体部材 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-23
(54)【発明の名称】燃料電池システム中で使用するための流体部材
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20240816BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20240816BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20240816BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20240816BHJP
   H01M 8/04029 20160101ALI20240816BHJP
   H01M 8/04119 20160101ALI20240816BHJP
   F16L 11/08 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
H01M8/04 N
C08L81/02
C08L33/14
H01M8/10 101
H01M8/04029
H01M8/04119
F16L11/08 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508395
(86)(22)【出願日】2022-08-12
(85)【翻訳文提出日】2024-04-01
(86)【国際出願番号】 US2022040141
(87)【国際公開番号】W WO2023018925
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】63/232,360
(32)【優先日】2021-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/275,065
(32)【優先日】2021-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/339,633
(32)【優先日】2022-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500100822
【氏名又は名称】ティコナ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】ユー,ウィエファ
(72)【発明者】
【氏名】ヌーン,マシュー・アイ
(72)【発明者】
【氏名】カリガン,ショーン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーガントウォー,プルテス
【テーマコード(参考)】
3H111
4J002
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
3H111AA04
3H111BA15
3H111DB27
4J002BG072
4J002CD003
4J002CD192
4J002CN011
4J002EC046
4J002EC056
4J002EF066
4J002EF106
4J002EG036
4J002EG046
4J002EN036
4J002EN076
4J002ER006
4J002FD143
4J002FD146
4J002FD202
4J002GF00
4J002GQ00
4J002GT00
5H126BB06
5H127AA06
5H127AC07
5H127BA02
5H127BA52
5H127BA57
5H127BA59
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB37
5H127CC07
(57)【要約】
本発明の一実施形態によれば、燃料電池と、流体(ガス、液体、蒸気、もしくはこれらの任意の組み合わせ)の、燃料電池への直接的または間接的な搬送において利用される燃料電池用流体部材と、を含む燃料電池システムが開示される。燃料電池用流体部材は、流体を燃料電池のアノードもしくはカソードへまたは該アノードもしくはカソードから直接的に搬送する上で、および流体を流体電池システムの二次構成要素(例えば、フィルタ、清浄器など)へまたは該二次構成素から搬送し、それによって流体を燃料電池へまたは該燃料電池から間接的に搬送する上で利用することができる。燃料電池用流体部材は、ポリアリーレンスルフィドを含むポリマー組成物を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と、前記燃料電池中で流体を搬送するように構成された燃料電池用流体部材と、を含む燃料電池システムであって、前記燃料電池用流体部材が、ポリアリーレンスルフィドを含むポリマー組成物を含む、燃料電池システム。
【請求項2】
前記ポリマー組成物が、約310℃の温度および剪断速度1,200秒-1でISO1143:2021に従って決定した場合、約2,000Pa・s以下の溶融粘度を有する、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記ポリマー組成物が、約1,200ppm以下の塩素含量を有する、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記ポリマー組成物が、ISO試験番号179-1:2010に従って23℃の温度で決定した場合、約20kJ/m以上のノッチ付きシャルピー衝撃強さを示す、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記ポリマー組成物が、ISO試験番号179-1:2010に従って-30℃の温度で決定した場合、約10kJ/m以上のノッチ付きシャルピー衝撃強さを示す、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記ポリマー組成物が、ISO527:2019に従って23℃の温度で決定した場合、約20MPa以上の引張強さ、約20%以上の引張破壊歪み、および/または約10,000MPa以下の引張弾性率を示す、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記ポリマー組成物が、ISO178:2019に従って23℃の温度で決定した場合、約20MPa以上の曲げ強さおよび/または約10,000MPa以下の曲げ弾性率を示す、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記ポリマー組成物が、ASTM D1434-82(2015)(体積法)に従って約23℃の温度および1気圧の圧力差で決定した場合、約30ml/m*日以下の水素透過速度を示す、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記ポリマー組成物が、ASTM D1434-82(2015)(体積法)に従って約23℃の温度および1気圧の圧力差で決定した場合、約30ml/m*日以下の酸素透過速度を示す、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項10】
前記ポリアリーレンスルフィドが、ポリフェニレンスルフィドである、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項11】
前記ポリアリーレンスルフィドが、前記ポリマー組成物の約40wt%~約95wt%を占める、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項12】
前記ポリマー組成物が、耐衝撃性改良剤をさらに含む、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項13】
前記耐衝撃性改良剤が、前記ポリマー組成物中に、前記ポリマー組成物中の100重量部のポリアリーレンスルフィドに対して約5~約50重量部の量で存在する、請求項12に記載の燃料電池システム。
【請求項14】
前記耐衝撃性改良剤が、エポキシ官能化オレフィンコポリマーを含む、請求項12に記載の燃料電池システム。
【請求項15】
前記エポキシ官能化オレフィンコポリマーが、エチレンモノマー単位を含有する、請求項14に記載の燃料電池システム。
【請求項16】
前記エポキシ官能化オレフィンコポリマーが、エポキシ官能性(メタ)アクリルモノマー成分を含有する、請求項14に記載の燃料電池システム。
【請求項17】
前記エポキシ官能性(メタ)アクリルモノマー成分が、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、またはこれらの組み合わせに由来する、請求項16に記載の燃料電池システム。
【請求項18】
前記ポリマー組成物が、前記耐衝撃性改良剤を架橋システムとブレンドすることによって生成された架橋生成物である、請求項12に記載の燃料電池システム。
【請求項19】
前記架橋システムが、金属カルボキシレートを含む、請求項18に記載の燃料電池システム。
【請求項20】
前記金属カルボキシレートが、脂肪酸の金属塩である、請求項19に記載の燃料電池システム。
【請求項21】
前記塩が、二価の金属カチオンを含有する、請求項20に記載の燃料電池システム。
【請求項22】
前記脂肪酸が、約8~約22個の炭素原子の炭素鎖長を有する、請求項20に記載の燃料電池システム。
【請求項23】
前記架橋システムが、多官能性架橋剤を含む、請求項18に記載の燃料電池システム。
【請求項24】
前記多官能性架橋剤が、芳香族ジカルボン酸を含む、請求項23に記載の燃料電池システム。
【請求項25】
前記ポリマー組成物が、角振動数0.1ラジアン/秒、温度310℃、および一定歪み振幅3%で平行板レオメーターによって決定した場合、1,000Pa・s以上の複素粘度を示す、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項26】
前記燃料電池が、プロトン伝導性膜層および対向触媒電極層を含有する、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項27】
前記流体がガスである、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項28】
前記燃料電池用流体部材が、燃料ガスを前記燃料電池のアノードに搬送するように構成されている、請求項27に記載の燃料電池システム。
【請求項29】
前記燃料電池用流体部材が、酸化剤ガスを前記燃料電池のカソードに搬送するように構成されている、請求項27に記載の燃料電池システム。
【請求項30】
前記流体が液体である、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項31】
前記燃料電池用流体部材が、水、冷却液、またはこれらの組み合わせを前記燃料電池にまたは前記燃料電池から搬送するように構成されている、請求項30に記載の燃料電池システム。
【請求項32】
前記燃料電池用流体部材が、流体を、燃料電池システムの二次構成要素にまたは前記二次構成要素から搬送するように構成されている、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項33】
前記燃料電池用流体部材が、入口と出口との間で延伸する通路を画定するホース、チューブ、またはパイプを含む、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項34】
前記燃料電池用流体部材が、コネクタまたは取り付け具を含む、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項35】
前記燃料電池用流体部材が、複数の出口を含む、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項36】
前記燃料電池用流体部材が、複数の角変位を含む、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項37】
前記燃料電池用流体部材の少なくとも一部が、約1~約50ミリメートルの外径を有する、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項38】
前記燃料電池用流体部材が、多層ホースを含み、前記多層ホースが、前記ポリマー組成物を少なくとも1つの層中に含む、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項39】
前記多層ホースが、内層中に前記ポリマー組成物を含む、請求項38に記載の燃料電池システム。
【請求項40】
前記多層ホースが、外層中に前記ポリマー組成物を含む、請求項38に記載の燃料電池システム。
【請求項41】
前記多層ホースが、エラストマー、ポリオレフィン、ポリアミド、フルオロポリマー、またはポリ塩化ビニルを含む別のポリマー組成物を少なくとも1つの層中に含む、請求項38に記載の燃料電池システム。
【請求項42】
前記多層ホースが、熱可塑性エラストマーを少なくとも1つの層中に含む、請求項38に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
[0001]本出願は、参照により本明細書に組み込まれる、2021年8月12日に出願された米国仮特許出願第63/232,360号、2021年11月3日に出願された米国仮特許出願第63/275,065号、および2022年5月9日に出願された米国仮特許出願第63/339,633号に対する優先権に基づき、これを主張するものである。
【背景技術】
【0002】
[0002]ポリマー電解質燃料電池(「PEFC」)は、一般的に、燃料ガス(例えば、水素)、酸化剤ガス(例えば、酸素)、水、冷却液、排出ガスなどのさまざまな流体の燃料電池反応器への供給および燃料電池からの流体の除去に頼る。これらの流体を燃料電池へ/燃料電池から搬送するための従来の燃料電池流体搬送システムは、パイプ、ホース、コネクタ、取り付け具(fitting、フィッティング)などの流体部材を含み、WO2020/055704に記載のものなどの、ある程度の可撓性および耐薬品性を有する伝統的材料から形成されるが、これらを、燃料電池システムに必要とされることが多い複雑な形状に成形するのは比較的難しく、費用がかさむ。したがって、現在、より容易に燃料電池システムに導入することができる燃料電池用流体部材が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
[0003]本発明の一実施形態によれば、燃料電池と、燃料電池への流体(ガス、液体、蒸気、またはこれらの任意の組み合わせ)の直接的または間接的な搬送において利用される燃料電池用流体部材と、を含む燃料電池システムが開示される。燃料電池用流体部材は、流体を燃料電池のアノードもしくはカソードへまたはアノードもしくはカソードから直接的に搬送する上で、および流体を燃料電池システムの二次構成要素(例えば、フィルタ、清浄器など)へまたは二次構成要素から搬送し、それによって流体を燃料電池へまたは燃料電池から間接的に搬送する上で利用することができる。燃料電池用流体部材は、ポリアリーレンスルフィドを含むポリマー組成物を含む。
【0004】
[0004]本発明のその他の特徴および態様は、以下でより詳細に記載する。
[0005]当業者にとって最良の様式を含めた本発明の完全かつ授権開示を、添付の図面の参照を含めた本明細書の残りの部分の中でより具体的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】[0006]本発明の燃料電池システムの一実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[0007]本明細書および図面の中で参照文字を繰り返し使用することは、本発明の同一または類似の特徴または要素を表すことを意図する。
[0008]当業者であれば、本解説が、例示的実施形態の説明のみであり、本発明のより広い態様を限定するものではないことを理解するであろう。
【0007】
[0009]一般的に言えば、本発明は、少なくとも1つの燃料電池用流体部材を含む燃料電池システムを対象とする。流体部材は、燃料電池システム内で、流体、すなわち、液体、蒸気、ガス、またはこれらの任意の組み合わせを搬送する上で利用される燃料電池システムの内のいずれの構成要素であってもよい。例えば、非限定的に、流体部材は、システム内で流体を搬送する上で利用されるパイプ、チューブ、ホース、取り付け具、コネクタなどを包含することができる。流体部材は、例えばパイプ、チューブ、またはホースの場合、搬送される流体に接触しうるが、例えば特定の取り付け具およびコネクタの場合、必ずしも流体に直接接触するわけではない。
【0008】
[0010]燃料電池用流体部材は、ポリアリーレンスルフィドを含むポリマー組成物を含有する。流体部材は、単層または多層流体部材であってもよく、流体部材の少なくとも1つの層は、記載したポリマー組成物を含む。ポリアリーレンスルフィドの特定の性質ならびに組成物中の他の成分の性質および濃度を選択的に制御することによって、結果として得られた組成物が、燃料電池用流体部材に一意的に適した特性の組み合わせを示しうることが発見された。例えば、ポリマー組成物は、ISO11443:2021に従って約310℃の温度および剪断速度1200秒-1で毛管レオメーターによって決定した場合、比較的低い溶融粘度、例えば約2,000Pa・s以下、一部の実施形態では約1,000Pa・s以下、一部の実施形態では約800Pa・s以下、一部の実施形態では約50~約600Pa・sを示しうる。それにもかかわらず、ポリマー組成物は、角振動数0.1ラジアン/秒、温度310℃、および一定歪み振幅(amplitude)3%で平行板レオメーターによって決定した場合、高い溶融強度の特徴である高い複素粘度、例えば約1,000Pa・s以上、一部の実施形態では約1,500Pa・s以上、一部の実施形態では約2,000~約10,000Pa・sを示しうる。
【0009】
[0011]比較的低い溶融粘度に起因して、比較的高い分子量のポリアリーレンスルフィドも、それほど困難なく用いることができる。例えば、そのような高分子のポリアリーレンスルフィドは、下記のゲル浸透クロマトグラフィーを使用して決定する場合、約14,000グラム/モル(「g/mol」)以上、一部の実施形態では約15,000g/mol以上、一部の実施形態では約16,000g/mol~約60,000g/molの数平均分子量、ならびに約35,000g/mol以上、一部の実施形態では約50,000g/mol以上、一部の実施形態では約60,000g/mol~約90,000g/molの重量平均分子量を有しうる。そのような高分子量ポリマーを使用する一利益は、一般的に少ない塩素含量を有することである。これに関して、得られるポリマー組成物は、約1200ppm以下、一部の実施形態では約900ppm以下、一部の実施形態では0~約800ppm、一部の実施形態では約1~約500ppmなどの少ない塩素含量を有しうる。
【0010】
[0012]低い溶融粘度を有するにもかかわらず、ポリマー組成物は、それでも高度な衝撃強さを維持することができ、結果として得られる燃料電池ホースに強化された可撓性をもたらすことができる。例えば、ポリマー組成物は、ISO試験番号179-1:2010に従って温度23℃で決定した場合、約20kJ/m以上、一部の実施形態では約40~約150kJ/m、一部の実施形態では約55~約100kJ/mのノッチ付きシャルピー衝撃強さを示しうる。有利には、ポリマー製品は、高度な耐熱性を有し、したがって高温および低温の両方で良好な衝撃強さを示しうる。例えば、ポリマー製品は、ISO試験番号179-1:2010に従って温度-30℃で決定した場合、約10kJ/m以上、一部の実施形態では約20~約100kJ/m、一部の実施形態では約30~約80kJ/mのノッチ付きシャルピー衝撃強さを示しうる。
【0011】
[0013]引張および曲げ機械特性も良好でありうる。例えば、組成物は、約20MPa以上、一部の実施形態では約25~約200MPa、一部の実施形態では約30~約150MPa、一部の実施形態では約35~約100MPaの引張強さ;約20%以上、一部の実施形態では約25%以上、一部の実施形態では約30%以上、一部の実施形態では約35%~約100%の引張破壊歪み;および/または約10,000MPa以下、一部の実施形態では約500MPa~約8,000MPa、一部の実施形態では約1,000MPa~約6,000MPa、一部の実施形態では約1,500MPa~約5,000MPaの引張弾性率を示しうる。引張特性は、ISO試験番号527:2019に従って23℃の温度で決定されうる。組成物は、約20MPa以上、一部の実施形態では約25~約200MPa、一部の実施形態では約30~約150MPa、一部の実施形態では約35~約100MPaの曲げ強さおよび/または約10,000MPa以下、一部の実施形態では約500MPa~約8,000MPa、一部の実施形態では約1,000MPa~約6,000MPa、一部の実施形態では約1,500MPa~約5,000MPaの曲げ弾性率も示しうる。曲げ特性は、ISO試験番号178:2019に従って23℃の温度で決定されうる。
【0012】
[0014]ポリマー組成物は一般的に、典型的には燃料電池用流体部材と接触すると考えられる、水素、酸素、水、冷却液などの流体の浸透に耐性でもありうる。例えば、ポリマー組成物は、ASTM D1434-82(2015)(体積法)に従って約23℃の温度および1気圧の圧力差で決定した場合、約30ml/m*日以下、一部の実施形態では約20ml/m*日以下、一部の実施形態では約10ml/m*日以下、一部の実施形態では約0.1~約5ml/m*日の水素透過速度を有しうる。ポリマー組成物はまた同様に、ASTM D1434-82(2015)(体積法)に従って約23℃の温度および1気圧の圧力差で決定した場合、約30ml/m*日以下、一部の実施形態では約20ml/m*日以下、一部の実施形態では約10ml/m*日以下、一部の実施形態では約0.1~約5ml/m*日の酸素透過速度を示しうる。ポリマー組成物は、n-ヘキサン(7時間)、アセトン(7時間)、および/または脱イオン水(24時間)と接触した後、低濃度の抽出可能な汚染物質、例えば約2mg/cm以下、一部の実施形態では約1.5mg/cm以下、一部の実施形態では約0.5mg/cm以下の抽出可能な化合物を含有するということで、本質的に比較的純粋でもありうる。
【0013】
[0015]本発明のさまざまな実施形態を、ここで、以下でより詳細に記載していく。
I.ポリマー組成物
A. ポリアリーレンスルフィド
[0016]ポリアリーレンスルフィドは、典型的には、ポリマー組成物の約40wt%~約95wt%、一部の実施形態では約50wt%~約90wt%、一部の実施形態では約60wt%~約80wt%を占める。組成物中に用いられるポリアリーレンスルフィドは、一般的に、次式の繰り返し単位を有する:
-[(Ar-X]-[(Ar-Y]-[(Ar-Z]-[(
Ar-W]
(式中、
Ar、Ar、Ar、およびArは、独立して、6~18個の炭素原子のアリーレン単位であり、
W、X、Y、およびZは、独立して、-SO-、-S-、-SO-、-CO-、-O-、-C(O)O-または1~6個の炭素原子のアルキレン基もしくはアルキリデン基であり、ここで、結合基のうちの少なくとも1つは-S-であり、
n、m、i、j、k、l、o、およびpは、独立して、0、1、2、3、または4であるが但し、これらの合計は2以上であることに従うことを条件とする)。
【0014】
[0017]アリーレン単位Ar、Ar、Ar、およびArは、選択的に置換されても、されなくてもよい。有利なアリーレン単位は、フェニレン、ビフェニレン、ナフタレン、アントラセンおよびフェナントレンである。ポリアリーレンスルフィドは、典型的には、約30mol%超、約50mol%超、または約70mol%超のアリーレンスルフィド(-S-)単位を含む。例えば、ポリアリーレンスルフィドは、2つの芳香環に直接結合された少なくとも85mol%のスルフィド結合を含んでもよい。特定の一実施形態において、ポリアリーレンスルフィドは、その成分としてフェニレンスルフィド構造-(C-S)-(式中、nは1以上の整数である)を含有するような本明細書に規定のポリフェニレンスルフィドである。
【0015】
[0018]ポリアリーレンスルフィドを作製する上で使用されうる合成技術は、一般的に、当該技術分野において公知である。例として、ポリアリーレンスルフィドを生成するための工程は、水硫化イオンをもたらす物質(例えば、アルカリ金属硫化物)とジハロ芳香族化合物とを有機アミド溶媒中で反応させるステップを含んでもよい。アルカリ金属スルフィドは、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムまたはこれらの混合物であってもよい。アルカリ金属硫化物が水和物または水性混合物である場合、重合反応に先立って、脱水化工程によってアルカリ金属硫化物を処理してもよい。アルカリ金属硫化物をインサイチュで発生させることもできる。加えて、少量のアルカリ金属水酸化物を反応に含ませて、アルカリ金属硫化物と一緒に非常に少ない量で存在しうるアルカリ金属ポリ硫化物またはアルカリ金属チオ硫酸塩などの不純物を除去または反応させることができる(該不純物を無害な物質に変化させるために)。
【0016】
[0019]ジハロ芳香族化合物は、非限定的に、o-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、p-ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ-ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシドまたはジハロジフェニルケトンであってもよい。ジハロ芳香族化合物は、単一でまたはこれらの任意の組み合わせで使用してよい。特定の例示的ジハロ芳香族化合物としては、非限定的に、p-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、O-ジクロロベンゼン、2,5-ジクロロトルエン、1,4-ジブロモベンゼン、1,4-ジクロロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジクロロベンゼン、4,4’-ジクロロビフェニル、3,5-ジクロロ安息香酸、4,4’-ジクロロジフェニルエーテル、4,4’-ジクロロジフェニルスルホン、4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド、および4,4’-ジクロロジフェニルケトンを挙げることができる。ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素であってもよく、同じジハロ芳香族化合物中の2個のハロゲン原子は、互いに同一であっても異なっていてもよい。一実施形態において、O-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼンまたはこれらの2つ以上の化合物の混合物が、ジハロ芳香族化合物として使用される。当該技術分野において公知であるように、ポリアリーレンスルフィドの末端基を形成するために、または重合反応および/もしくはポリアリーレンスルフィドの分子量を調整するために、モノハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくてもよい)をジハロ芳香族化合物と組み合わせて使用することも可能である。
【0017】
[0020]ポリアリーレンスルフィドは、ホモポリマーであっても、コポリマーであってもよい。例えば、ジハロ芳香族化合物の選択的な組み合わせは、2つ以上の異なる単位を含有するポリアリーレンスルフィドコポリマーを生成することができる。例えば、p-ジクロロベンゼンをm-ジクロロベンゼンまたは4,4’-ジクロロジフェニルスルホンと組み合わせて使用する場合、次式:
【0018】
【化1】
【0019】
の構造を有するセグメントおよび次式:
【0020】
【化2】
【0021】
の構造を有するセグメントまたは次式:
【0022】
【化3】
【0023】
の構造を有するセグメントを含有するポリアリーレンスルフィドコポリマーが形成されうる。
[0021]ポリアリーレンスルフィドは、直鎖状、半直鎖状、分枝状または架橋であってもよい。直鎖状ポリアリーレンスルフィドは、典型的には、80mol%以上の繰り返し単位-(Ar-S)-を含有する。そのような直鎖状ポリマーは、少量の分枝単位または架橋単位も含みうるが、分枝単位または架橋単位の量は、典型的には、ポリアリーレンスルフィドの総モノマー単位の約1mol%未満である。直鎖状ポリアリーレンスルフィドポリマーは、上述の繰り返し単位を含有するランダムコポリマーまたはブロックコポリマーであってもよい。半直鎖状ポリアリーレンスルフィドもまた同様に、3つ以上の反応性官能基を有する1種以上のモノマー少量のポリマーに導入された架橋構造または分枝構造を有しうる。例として、半直鎖状ポリアリーレンスルフィドを形成する上で使用されるモノマー成分は、分枝状ポリマーを調製する上で利用できる一分子当たり2つ以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物をある程度含む。そのようなモノマーは、式R’X(式中、各Xは、塩素、臭素、およびヨウ素から選択され、nは3~6の整数であり、R’は、最大で約4つのメチル置換基を有しうる原子価nの多価芳香族基であり、R’中の炭素原子の合計数は6~約16の範囲内である)によって表すことができる。半直鎖状ポリアリーレンスルフィドを形成する上で用いることができる一分子当たり2つ超のハロゲンが置換された一部のポリハロ芳香族化合物の例としては、1,2,3-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,3-ジクロロ-5-ブロモベンゼン、1,2,4-トリヨードベンゼン、1,2,3,5-テトラブロモベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロ-2,4,6-トリメチルベンゼン、2,2’,4,4’-テトラクロロビフェニル、2,2’,5,5’-テトラ-ヨードビフェニル、2,2’,6,6’-テトラブロモ-3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル、1,2,3,4-テトラクロロナフタレン、1,2,4-トリブロモ-6-メチルナフタレンなど、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0024】
[0022]要望に応じて、ポリアリーレンスルフィドは、官能化することができる。例としては、反応性官能基(例えば、カルボキシル、ヒドロキシル、アミンなど)を含有するジスルフィド化合物は、ポリアリーレンスルフィドと反応することができる。さらに、ポリアリーレンスルフィドの官能化は、任意選択のいずれかの耐衝撃性改良剤とポリアリーレンスルフィドとの間に結合部位をもたらすことができ、これは、ポリアリーレンスルフィド全体にわたる耐衝撃性改良剤の分布を改善して相分離を防止することができる。ジスルフィド化合物は、全溶融粘度を低下させるために、溶融加工中、ポリアリーレンスルフィドとの鎖の切断反応を経ることができる。ジスルフィド化合物は、用いられる場合、典型的には、ポリマー組成物の約0.01wt%~約3wt%、一部の実施形態では約0.02wt%~約1wt%、一部の実施形態では約0.05~約0.5wt%を占める。ポリアリーレンスルフィドの量とジスルフィド化合物の量との比も同様に、約1000:1~約10:1、約500:1~約20:1、または約400:1~約30:1であってもよい。好適なジスルフィド化合物は、典型的には、以下の式を有するものである:
-S-S-R
[0023]式中、RおよびRは、同一であっても異なっていてもよく、独立に1~約20個の炭素原子を含む炭化水素基である。例えば、RおよびRは、アルキル、シクロアルキル、アリール、または複素環式基であってもよい。特定の実施形態において、RおよびRは、一般的に、非反応性の官能基、例えばフェニル、ナフチル、エチル、メチル、プロピルなどである。そのような化合物の例としては、二硫化ジフェニル、二硫化ナフチル、二硫化ジメチル、二硫化ジエチル、および二硫化ジプロピルが挙げられる。RおよびRは、ジスルフィド化合物の末端基に反応性官能基も含みうる。例えば、RおよびRのうちの少なくとも1つは、末端カルボキシル基、ヒドロキシル基、置換もしくは非置換アミノ基、またはニトロ基などを含みうる。化合物の例としては、非限定的に、二硫化2,2’-ジアミノジフェニル、二硫化3,3’-ジアミノジフェニル、二硫化4,4’-ジアミノジフェニル、二硫化ジベンジル、ジチオサリチル酸(または2,2’-ジチオ安息香酸)、ジチオグリコール酸、α,α’-ジチオジ乳酸、β,β’-ジチオジ乳酸、3,3’-ジチオジピリジン、4,4’-ジチオモルホリン、2,2’-ジチオビス(ベンゾチアゾール)、2,2’-ジチオビス(ベンズイミダゾール)、2,2’-ジチオビス(ベンゾオキサゾール)、2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなど、およびこれらの混合物を挙げることができる。
【0025】
B. 耐衝撃性改良剤
[0024]耐衝撃性改良剤もポリマー組成物中に用いることができる。該耐衝撃性改良剤は、用いられる場合、典型的には、100重量部のポリアリーレンスルフィドに対して5~約50重量部、一部の実施形態では約10~約45重量部、一部の実施形態では約20~約40重量部を占める。例えば、耐衝撃性改良剤は、ポリマー組成物の約1wt%~約40wt%、一部の実施形態では約5wt%~約35wt%、一部の実施形態では約15wt%~約30wt%を占めうる。
【0026】
[0025]好適な耐衝撃性改良剤の例としては、例えば、ポリエポキシド、ポリウレタン、ポリブタジエン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン、ポリアミド、ブロックコポリマー(例えば、ポリエーテル-ポリアミドブロックコポリマー)など、およびこれらの混合物を挙げることができる。一実施形態において、一分子当たりに平均で2つ以上のエポキシ官能基を含有する「エポキシ官能化」されたオレフィンコポリマーが用いられる。コポリマーは、一般的に、1種以上のα-オレフィンに由来するオレフィン系モノマー単位を含有する。そのようなモノマーの例としては、例えば、2~20個の炭素原子、典型的には2~8個の炭素原子を有する直鎖状および/または分枝状α-オレフィンが挙げられる。具体例としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1-ペンテン、1つ以上のメチル、エチルまたはプロピル置換基を有する1-ペンテン、1つ以上のメチル、エチルまたはプロピル置換基を有する1-ヘプテン、1つ以上のメチル、エチルまたはプロピル置換基を有する1-オクテン、1つ以上のメチル、エチルまたはプロピル置換基を有する1-ノネン、エチル、メチルまたはジメチル置換1-デセン、1-ドデセン、およびスチレンが挙げられる。特に望ましいα-オレフィンモノマーは、エチレンおよびプロピレンである。コポリマーは、エポキシ官能性モノマー単位も含有しうる。そのような単位の一例は、エポキシ官能性(メタ)アクリル系モノマー成分である。本明細書中で用いられる場合、用語「(メタ)アクリル系」は、アクリルおよびメタクリル系モノマー、ならびにこれらの塩またはエステル、例えばアクリレートおよびメタクリレートモノマーを含む。例えば、好適なエポキシ官能性(メタ)アクリル系モノマーとしては、これらに限定されないが、アクリル酸グリシジルおよびメタクリル酸グリシジルなどの1,2-エポキシ基を含有するものを挙げることができる。その他の好適なエポキシ官能性モノマーとしては、アリルグリシジルエーテル、メタクリル酸グリシジル(glycidyl ethacrylate)、およびイタコン酸グリシジルが挙げられる。その他の好適なモノマーも、所望の分子量の達成を助けるために用いることができる。
【0027】
[0026]当然ながら、コポリマーは、当該技術分野において公知の他のモノマー単位も含有しうる。例えば、別の好適なモノマーには、エポキシ官能性でない(メタ)アクリル系モノマーを挙げることができる。そのような(メタ)アクリル系モノマーの例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸s-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸n-アミル、アクリル酸i-アミル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸2-エチルブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸n-デシル、アクリル酸メチルシクロヘキシル、アクリル酸シクロペンチル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸n-アミル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸i-アミル、メタクリル酸s-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルブチル、メタクリル酸メチルシクロヘキシル、メタクリル酸シンナミル、メタクリル酸クロチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸2-エトキシエチル、メタクリル酸イソボルニルなど、およびこれらの組み合わせを挙げることができる。特定の一実施形態において、例えば、コポリマーは、エポキシ官能性(メタ)アクリル系モノマー成分、α-オレフィンモノマー成分、および非エポキシ官能性(メタ)アクリル系モノマー成分から形成されるターポリマーであってもよい。コポリマーは、例えば、以下の構造:
【0028】
【化4】
【0029】
(式中、x、y、およびzは1以上である)
を有するポリ(エチレン-コ-ブチルアクリレート-コ-グリシジルメタクリレート)であってもよい。
【0030】
[0027]モノマー成分の関連部分は、エポキシ反応性と溶融流量との間のバランスを達成するように選択されうる。より具体的には、高いエポキシモノマー含量は、マトリックスポリマーとの良好な反応性をもたらしうるが、多すぎる含量は、コポリマーがポリマーブレンドの溶融強度に悪影響を及ぼすほど溶融流量を減少させうる。したがって、ほとんどの実施形態において、エポキシ官能性(メタ)アクリル系モノマーは、コポリマーの約1wt%~約20wt%、一部の実施形態では約2wt%~約15wt%、一部の実施形態では約3wt%~約10wt%を占める。α-オレフィンモノマーも同様に、コポリマーの約55wt%~約95wt%、一部の実施形態では約60wt%~約90wt%、一部の実施形態では約65wt%~約85wt%を占めうる。その他のモノマー成分(例えば、非エポキシ官能性(メタ)アクリル系モノマー)は、用いられる場合、コポリマーの約5wt%~約35wt%、一部の実施形態では約8wt%~約30wt%、一部の実施形態では約10wt%~約25wt%を占めうる。得られる溶融流量は、荷重2.16kgおよび温度190℃でASTM D1238-13に従って決定した場合、典型的には、10分当たり約1~約30グラム(「g/10min」)、一部の実施形態では約2~約20g/10min、一部の実施形態では約3~約15g/10minである。
【0031】
[0028]要望に応じて、追加の耐衝撃性改良剤もエポキシ官能性耐衝撃性改良剤と組み合わせて用いてもよい。例えば、追加の耐衝撃性改良剤は、少なくとも1つの相が室温で硬質であるが加熱すると流体になる材料で作られ、他方の相が室温でゴムのような軟質の材料であるブロックコポリマーを含んでもよい。例としては、ブロックコポリマーは、A-BまたはA-B-Aブロックコポリマー繰り返し構造を有してよく、ここで、Aはハードセグメントを表し、Bはソフトセグメントである。A-B繰り返し構造を有する耐衝撃性改良剤の非限定例は、ポリアミド/ポリエーテル、ポリスルホン/ポリジメチルシロキサン、ポリウレタン/ポリエステル、ポリウレタン/ポリエーテル、ポリエステル/ポリエーテル、ポリカーボネート/ポリジメチルシロキサン、およびポリカーボネート/ポリエーテルを含む。トリブロックコポリマーもまた同様に、ハードセグメントとしてポリスチレンを含有し、ソフトセグメントとしてポリブタジエン、ポリイソプレン、またはポリエチレン-コ-ブチレンのいずれかを含有しうる。同様に、スチレンブタジエン繰り返しコポリマーおよびポリスチレン/ポリイソプレン繰り返しポリマーを用いてもよい。特定の一実施形態において、ブロックコポリマーは、ポリアミドおよびポリエーテルの交互ブロックを有しうる。該材料は、例えばAtofina社からPEBAX(商標)の商標名で市販されている。ポリアミドブロックは、二酸成分およびジアミン成分のコポリマーに由来してもよく、または環状ラクタムの単独重合によって調製されてもよい。ポリエーテルブロックは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、およびテトラヒドロフランなどの環状エーテルのホモまたはコポリマーに由来しうる。
【0032】
C. 架橋システム
[0029]要望に応じて、架橋システムもまた、さまざまな異なる条件下で組成物の強さおよび可撓性のさらなる改善を助けるために、任意選択のいずれかの耐衝撃性改良剤と組み合わせて用いることができる。そのような状況において、ポリアリーレンスルフィド、耐衝撃性改良剤、および架橋システムを含有する架橋性ポリマー組成物から架橋産物が形成されうる。1種以上の架橋剤を含有しうる該架橋システムは、用いられる場合、典型的には、100部のポリアリーレンスルフィドに対して約0.1~約15部、一部の実施形態では約0.2~約10部、一部の実施形態では約0.5~約5部、およびポリマー組成物の約0.05wt%~約15wt%、一部の実施形態では約0.1wt%~約10wt%、一部の実施形態では約0.2wt%~約5wt%を占める。そのような架橋システムの使用によって、ポリアリーレンスルフィドおよび耐衝撃性改良剤の相溶性および分布は顕著に改善されうる。例えば、耐衝撃性改良剤は、ナノスケールサイズの離散領域の形態でポリマー組成物中に分散可能である。例えば、領域は、約1~約1000ナノメートル、一部の実施形態では約5~約800ナノメートル、一部の実施形態では約10~約500ナノメートルの平均断面寸法を有しうる。領域は、楕円形、球形、円筒形、板状、管状などのさまざまな異なる形状を有しうる。そのような改善された分散は、より良好な機械特性をもたらすことができる、またはより少量の耐衝撃性改良剤で同等の機械特性の達成を可能にする。
【0033】
[0030]さまざまな異なる架橋剤のいずれも、一般的には架橋システム内で用いることが可能である。一実施形態において、例としては、架橋システムは金属カルボキシレートを含んでもよい。理論によって制限されることを意図するものではないが、カルボキシレート中の金属原子が、耐衝撃性改良剤の官能基(例えば、エポキシ官能基)中に位置する酸素原子から電子を受容するルイス酸として作用しうると考えられる。カルボキシレートと反応すると、官能基は活性化になり、求核置換反応を介して三員環中のどちらか一方の炭素原子で容易に攻撃され得、それによって耐衝撃性改良剤の鎖間が架橋形成される。金属カルボキシレートは、典型的には、脂肪酸の金属塩である。塩の中で用いられる金属カチオンはさまざまでよいが、典型的にはカルシウム、マグネシウム、鉛、バリウム、ストロンチウム、亜鉛、鉄、カドミウム、ニッケル、銅、スズなど、およびこれらの混合物などの二価金属である。亜鉛が特に好適である。脂肪酸は、一般的に、炭素鎖長が約8~22個の炭素原子、一部の実施形態では約10~約18個の炭素原子の任意の飽和または不飽和酸であってもよい。必要に応じて、酸は置換されていてもよい。好適な脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ベヘン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リシノール酸、カプリン酸、ネオデカン酸、水素化獣脂脂肪酸、ヒドロキシステアリン酸、水素化ヒマシ油の脂肪酸、エルカ酸、ヤシ油脂肪酸など、およびこれらの混合物を挙げることができる。金属カルボキシレートは、典型的には、ポリマー組成物の約0.05wt%~約5wt%、一部の実施形態では約0.1wt%~約2wt%、一部の実施形態では約0.2wt%~約1wt%を占める。
【0034】
[0031]架橋システムは、少なくとも2つの反応性官能基を含有する程度までの「多官能性」である架橋剤も用いることができる。そのような多官能性架橋剤は、耐衝撃性改良剤の活性化官能基(例えば、エポキシ官能基)と反応することができる弱求核剤として作用しうる。そのような分子の多官能性の性質は、耐衝撃性改良剤の2つの官能基を架橋して、硬化剤として効果的に作用させることを可能にする。多官能性架橋剤は、一般的に、結合または非ポリマー(非繰り返し)結合成分によって結合された2つ以上の反応的に官能性の末端部分を含む。例として、架橋剤としては、ジエポキシド、多官能性エポキシド、ジイソシアネート、ポリイソシアネート、多価アルコール、水溶性カルボジイミド、ジアミン、ジオール、ジアミノアルカン、多官能性カルボン酸、二酸ハロゲン化物などを挙げることができる。多官能性カルボン酸およびアミンが特に好適である。多官能性カルボン酸架橋剤の具体例としては、非限定的に、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、1,2-ジ(p-カルボキシフェニル)エタン、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4’-ビス安息香酸、1,4-または1,5-ナフタレンジカルボン酸、デカヒドロナフタレンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ビシクロオクタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(シスおよびトランスの両方)、1,4-ヘキシレンジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、ジカルボキシドデカン酸、コハク酸、マレイン酸、グルタル酸、スベリン酸、アゼライン酸ならびにセバシン酸を挙げることができる。対応するジカルボン酸誘導体、例えばアルコール基の中の1~4個の炭素原子を有するカルボン酸ジエステル、カルボン酸無水物またはカルボン酸ハロゲン化物も利用されうる。特定の実施形態において、芳香族ジカルボン酸、例えばイソフタル酸またはテレフタル酸が特に好適である。
【0035】
[0032]多官能性架橋剤は、用いられる場合、典型的には、架橋システムの約50wt%~約95wt%、一部の実施形態では約60wt%~約90wt%、一部の実施形態では約70wt%~約85wt%を占め、一方で、金属カルボキシレートは、典型的には、架橋システムの約5wt%~約50wt%、一部の実施形態では約10wt%~約40wt%、一部の実施形態では約15wt%~約30wt%を占める。例えば、多官能性架橋剤は、ポリマー組成物の約0.1wt%~約10wt%、一部の実施形態では約0.2wt%~約5wt%、一部の実施形態では約0.5wt%~約3wt%を占めうる。当然ながら、特定の実施形態では、組成物は、一般的に、多官能性架橋剤を含まないことがある、または架橋システムは、一般的に、金属カルボキシレートを含まないことがある。
【0036】
D. その他の成分
[0033]上記の成分に加えて、ポリマー組成物は、全特性の改善を助けるために、その他のさまざまな異なる成分も含有しうる。一実施形態において、例えば、ポリマー組成物は熱安定剤を含有してもよい。例としては、熱安定剤は、有機亜リン酸塩などの亜リン酸塩安定剤であってもよい。例えば、好適な亜リン酸塩安定剤としては、一亜リン酸塩および二亜リン酸塩が挙げられ、二亜リン酸塩は、吸湿を阻害しかつ/または比較的高いスピロ異性体含量を有する分子構造を有する。例としては、90%超、例えば95%超、例えば98%超のスピロ異性体含量を有する二亜リン酸塩安定剤が選択されうる。そのような二亜リン酸塩安定剤の具体例としては、例えば、二亜リン酸ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトール、二亜リン酸ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール、二亜リン酸ジステアリルペンタエリスリトール、これらの混合物などが挙げられる。熱安定剤は、用いられる場合、典型的には、組成物の約0.1wt%~約3wt%、一部の実施形態では約0.2wt%~約2wt%を占める。
【0037】
[0034]無機繊維は、例えば、ポリマー組成物の約wt%~約50wt%、一部の実施形態では約2wt%~約40wt%、一部の実施形態では約5wt%~約30wt%の量でも用いられうる。ガラス;ネオケイ酸塩、ソロケイ酸塩、イノケイ酸塩(例えば、珪灰石などのイノケイ酸カルシウム;透角閃石などのイノケイ酸カルシウムマグネシウム;陽起石などのイノケイ酸カルシウムマグネシウム鉄;直閃石などのイノケイ酸マグネシウム鉄など)、フィロケイ酸塩(例えば、パリゴルスカイトなどのフィロケイ酸アルミニウム)、テクトケイ酸塩など;などのケイ酸塩;硫酸カルシウム(例えば、脱水または無水石膏);および鉱滓綿(例えば、岩石またはスラグウール)などの硫酸塩に由来するものなど、さまざまな異なるタイプの無機繊維のいずれも、一般的には用いることが可能である。本発明における使用には、E-ガラス、A-ガラス、C-ガラス、D-ガラス、AR-ガラス、R-ガラス、S1-ガラス、S2-ガラスなど、およびこれらの混合物から形成されるものなどのガラス繊維が特に好適である。要望に応じて、ガラス繊維は、サイズ剤または当該技術分野において公知の他のコーティング剤と一緒に供給されうる。
【0038】
[0035]無機繊維は、円形、平らなどの任意の所望の断面形状を有しうる。特定の実施形態において、約1.5~約10、一部の実施形態では約2~約8、一部の実施形態では約3~約5のアスペクト比(すなわち、断面の厚さで割られた断面の幅)を有することで比較的平らな断面の寸法を有する繊維を用いることが望ましいことがある。そのような平らな繊維を特定の濃度で用いたとき、ポリマー組成物の溶融粘度に実質的な悪影響を及ぼすことなく成形部品の機械特性をさらに改善することができる。無機繊維は、例えば、約1~約50マイクロメートル、一部の実施形態では約5~約50マイクロメートル、一部の実施形態では約10~約35マイクロメートルの公称幅を有しうる。繊維は、約0.5~約30マイクロメートル、一部の実施形態では約1~約20マイクロメートル、一部の実施形態では約3~約15マイクロメートルの公称厚さも有しうる。さらに、無機繊維は狭いサイズ分布を有しうる。すなわち、少なくとも約60体積%、一部の実施形態では少なくとも約70体積%、一部の実施形態では少なくとも約80体積%の繊維は、上記の範囲内の幅および/または厚さを有しうる。成形部品において、ガラス繊維の体積平均長さは、約10~約500マイクロメートル、一部の実施形態では約100~約400マイクロメートル、一部の実施形態では約150~約350マイクロメートルであってもよい。
【0039】
[0036]オルガノシラン化合物もまた、特定の実施形態において用いることができる。そのようなオルガノシラン化合物は、典型的には、ポリマー組成物の約0.01wt%~約3wt%、一部の実施形態では約0.02wt%~約1wt%、一部の実施形態では約0.05~約0.5wt%を占める。オルガノシラン化合物は、例えば、当該技術分野において公知の任意のアルコキシシラン、例えばビニルアルコキシシラン、エポキシアルコキシシラン、アミノアルコキシシラン、メルカプトアルコキシシラン、およびこれらの組み合わせであってもよい。一実施形態において、例えば、オルガノシラン化合物は、以下の一般式:
-Si-(R
[式中、
は、スルフィド基(例えば、-SH)、1~10個の炭素原子を含有する硫化アルキル(例えば、メルカプトプロピル、メルカプトエチル、メルカプトブチルなど)、2~10個の炭素原子を含有する硫化アルケニル、2~10個の炭素原子を含有する硫化アルキニル、アミノ基(例えば、NH)、1~10個の炭素原子を含有するアミノアルキル(例えば、アミノメチル、アミノエチル、アミノプロピル、アミノブチルなど);2~10個の炭素原子を含有するアミノアルケニル、および2~10個の炭素原子を含有するアミノアルキニルなどであり;
は、1~10個の炭素原子のアルコキシ基、例えばメトキシ、エトキシ、およびプロポキシなどである]
を有しうる。
【0040】
[0037]混合物中に含まれうるオルガノシラン化合物の一部の代表例としては、メルカプトプロピルトリメトキシシラン(trimethyoxysilane)、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルトリメトキシシラン、エチレントリメトキシシラン、エチレントリエトキシシラン、エチントリメトキシシラン、エチントリエトキシシラン、アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシランまたは3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-メチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(3-アミノプロピル)テトラメトキシシラン、ビス(3-アミノプロピル)テトラエトキシジシロキサン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ジアリルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ジアリルアミノプロピルトリメトキシシランなど、およびこれらの組み合わせが挙げられる。特に好適なオルガノシラン化合物は、3-アミノプロピルトリエトキシシランおよび3-メルカプトプロピルトリメトキシシランである。
【0041】
[0038]要望に応じて、シロキサンポリマーもポリマー組成物中で用いることができる。理論によって制限されることを意図するものではないが、シロキサンポリマーは、とりわけ、例えば、より良好な金型充填、内部潤滑、離型などをもたらすことによって、組成物の加工を改善することができると考えられる。さらに、シロキサンポリマーは、組成物の表面に移動または拡散しにくいとも考えられており、これは、相分離の可能性をさらに最小限に抑え、衝撃エネルギーの低下をさらに助ける。例としては、そのようなシロキサンポリマーは、典型的には、約100,000グラム/モル以上、一部の実施形態では約200,000グラム/モル以上、一部の実施形態では約500,000グラム/モル~約2,000,000グラム/モルの重量平均分子量を有する。シロキサンポリマーは、比較的高い動粘性率、例えば約10,000センチストークス以上、一部の実施形態では約30,000センチストークス以上、一部の実施形態では約50,000~約500,000センチストークスも有しうる。
【0042】
[0039]さまざまな高分子量シロキサンポリマーのいずれも、一般的には、ポリマー組成物中で用いることができる。特定の実施形態において、例えば、シロキサンポリマーは、主にRSiO1/2およびSiO4/2単位(それぞれ、MおよびQ単位)(式中、Rは官能性または非官能性有機基である)から形成される高分子のポリマーである「MQ」樹脂であってもよい。好適な有機官能基(「R」)としては、例えば、アルキル(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチルなど)、アリール(例えば、フェニル)、シクロアルキル(例えば、シクロペンチル)、アリーレニル(arylenyl)、アルケニル、シクロアルケニル(例えば、シクロヘキセニル)、アルコキシ(例えば、メトキシ)など、およびこれらの組み合わせを挙げることができる。そのような樹脂は、一般的に、低重量平均分子量(例えば、100,000グラム/モル未満)のMQ樹脂分子をポリシロキサンリンカーと化学的に結合(共重合)させることによって調製される。特定の一実施形態において、例としては、樹脂は、低分子量MQ固体樹脂(A)を、例えば米国特許第6,072,012号(Juenら著)に記載の実質的に直鎖状のポリジオルガノシロキサンリンカー(B)と共重合させることによって形成されうる。樹脂(A)は、例としては、以下の一般式:
SiO(4-a-b-c)/2
[式中、
は、ヒドロキシル基であり;
は、ケイ素結合された水素原子と付加反応できる少なくとも1つの不飽和炭素-炭素結合を有する一価の炭化水素基(すなわち、ビニル)であり;
各Rは、独立して、アルキル、アリールおよびアリールアルキル基からなる群から選択され;
aは、0~1、一部の実施形態では0~0.2の数であり;
bは、0~3、一部の実施形態では0~1.5の数であり;
cは、0以上の数である]
を有するMおよびQシロキシ単位を有しうる。
【0043】
[0040]実質的に直鎖状のポリジオルガノシロキサンリンカー(B)もまた同様に、以下の一般式:
(R (3-p) SiO1/2)(R SiO2/2((RSiO2/2)(R SiO2/2(R (3-p) SiO1/2
[式中、
各Rは、独立して、アルキル、アリール、およびアリールアルキル基からなる群から選択される一価の基であり;
各Rは、独立して、水素、ヒドロキシル、アルコキシ、オキシモ、アルキルオキシモ、およびアリールオキシモ基からなる群から選択される一価の基であり、ここで、少なくとも2つのR基は、典型的には、各分子中に存在し、異なるケイ素原子に結合されており;
pは、0、1、2、または3であり;
xは、0~200、一部の実施形態では0~100の範囲であり;
yは、0~200、一部の実施形態では0~100の範囲である]
を有しうる。
【0044】
[0041]高分子シロキサンポリマーは、典型的には、ポリマー組成物の約0.05wt%~約5wt%、一部の実施形態では約0.1wt%~約3wt%、一部の実施形態では約0.5~約2wt%を占める。
【0045】
[0042]特定の実施形態において、シロキサンポリマーは、担体樹脂を含むマスターバッチの形態で提供されうる。担体樹脂は、例としては、ポリマー組成物の約0.05wt%~約5wt%、一部の実施形態では約0.1wt%~約3wt%、一部の実施形態では約0.5~約2wt%を占めうる。ポリオレフィン(エチレンポリマー、プロピレンポリマーなど)、ポリアミドなどのさまざまな担体樹脂のいずれも用いることができる。一実施形態において、例えば、担体樹脂はエチレンポリマーである。エチレンポリマーは、エチレンとC~C20α-オレフィンまたはC~C12α-オレフィンなどのα-オレフィンとのコポリマーであってもよい。好適なα-オレフィンは、直鎖状であっても分枝状(例えば、1つ以上のC~Cアルキル分枝、またはアリール基)であってもよい。具体例としては、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1-ペンテン、1つ以上のメチル、エチルまたはプロピル置換基を有する1-ペンテン、1つ以上のメチル、エチルまたはプロピル置換基を有する1-ヘキセン、1つ以上のメチル、エチルまたはプロピル置換基を有する1-ヘプテン、1つ以上のメチル、エチルまたはプロピル置換基を有する1-オクテン、1つ以上のメチル、エチルまたはプロピル置換基を有する1-ノネン、エチル、メチルまたはジメチル置換1-デセン、1-ドデセン、およびスチレンが挙げられる。特に望ましいα-オレフィンコモノマーは、1-ブテン、1-ヘキセンおよび1-オクテンである。そのようなコポリマーのエチレン含量は、60モル%~約99モル%、一部の実施形態では約80モル%~約98.5モル%、一部の実施形態では約87モル%~約97.5モル%でありうる。α-オレフィン含量もまた同様に、約1モル%~約40モル%、一部の実施形態では約1.5モル%~約15モル%、一部の実施形態では約2.5モル%~約13モル%の範囲でありうる。エチレンポリマーの密度は、用いられるポリマーのタイプに応じて変動しうるが、一般的に約0.85~約0.96グラム/立方センチメートル(g/cm)の範囲である。ポリエチレン「プラストマー」は、例としては、約0.85~約0.91g/cmの範囲の密度を有しうる。同様に、ASTM D792に従って決定した場合、「直鎖状低密度ポリエチレン」(LLDPE)は、約0.91~約0.940g/cmの範囲の密度を有し得、「低密度ポリエチレン」(LDPE)は、約0.910~約0.940g/cmの範囲の密度を有し得、「高密度ポリエチレン」(HDPE)は、約0.940~約0.960g/cmの範囲の密度を有しうる。用いられうる高分子量シロキサンポリマーマスターバッチの一部の非限定的な例としては、例えば、Dow Corning社からMB50-001、MB50-002、MB50-313、MB50-314およびMB50-321の商標名で入手可能なものが挙げられる。
【0046】
[0043]要望に応じて、組成物の結晶化特性をさらに強化するために核形成剤も用いることができる。そのような核形成剤の一例は、ホウ素含有化合物(例えば、窒化ホウ素、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム、四ホウ酸カルシウムなど)、アルカリ土類金属炭酸塩(例えば、炭酸カルシウムマグネシウム)、酸化物(例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、三酸化アンチモンなど)、ケイ酸塩(例えば、タルク、ケイ酸ナトリウムアルミニウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウムなど)、アルカリ土類金属塩(例えば、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなど)などの無機結晶化合物である。窒化ホウ素(BN)は、本発明のポリマー組成物中で用いる場合、特に有益であることが発見された。窒化ホウ素は、多種多様な結晶形態(例えば、h-BN-六方晶、c-BN-立方または閃亜鉛鉱(spharlerite)、およびw-BN-ウルツ鉱)で存在し、一般的には、これらのいずれかを、本発明において用いることができる。六方晶形態は、その安定性および柔らかさのために特に好適である。
【0047】
[0044]組成物中に含まれうるさらに他の成分としては、例えば、微粒子充填剤(例えば、タルク、マイカなど)、抗菌剤、顔料(例えば、黒色色素)、酸化防止剤、安定剤、界面活性剤、ワックス、流動促進剤、固体溶媒、難燃剤、ならびに特性および処理可能性を強化するために添加されるその他の材料を挙げることができる。
【0048】
II.溶融加工
[0045]ポリアリーレンスルフィドおよび他の任意選択の添加剤を合わせる方法は、当該技術分野において公知であるようにさまざまでありうる。例えば、材料を分散的にブレンドする溶融加工装置へ材料を同時にまたは順々に供給してよい。バッチ式および/または連続式溶融加工技術を用いることができる。例えば、ミキサー/ニーダー、バンバリーミキサー、ファーレル連続式ミキサー、一軸押出機、二軸押出機、ロールミルなどを利用して材料をブレンドし、溶融加工することができる。特に好適な一溶融加工装置は、共回転式二軸押出機(例えば、Leistritz社製共回転式の完全インターメッシュの二軸押出機)である。そのような押出機は、供給部および排出部を含み得、高輝度分配および分散ミキサーを提供する。例えば、成分を二軸押出機の同じまたは異なる供給部に供給し、溶融ブレンドして、実質的に均一に溶融された混合物を形成することができる。溶融ブレンドは、高剪断/高圧下で生じ得、加熱して十分な分散を確定することができる。例えば、溶融加工は、約100℃~約500℃、一部の実施形態では約150℃~約300℃の温度で生じうる。架橋システムの存在下でポリアリーレンスルフィドと耐衝撃性改良剤とを反応させるために、さまざまな異なる技術を本発明において用いることができる。同様に、溶融加工中の見掛けの剪断速度は、約100秒-1~約10,000秒-1、一部の実施形態では約500秒-1~約1,500秒-1の範囲であってよい。当然ながら、スループット率に反比例する溶融加工中の滞留時間などの他の変数も制御して、所望の均一度を実現することができる。
【0049】
[0046]要望に応じて、1つ以上の分配および/または分散混合素子を、溶融加工ユニットの混合部の内部に用いてもよい。好適な分配ミキサーとしては、例えば、Saxon、Dulmage、Cavity Transferミキサーなどを挙げることができる。同様に、好適な分散ミキサーとしては、Blisterリング、Leroy/Maddock、CRDミキサーなどを挙げることができる。当該技術分野において周知であるように、ミキサーは、Buss Kneader押出機、Cavity Transferミキサー、およびVortex Intermeshing Pinミキサーにおいて使用されるものなど、ポリマー溶解物の折り畳みおよび再配向を作るバレル中のピンを使用することによって強度をさらに増してもよい。また、スクリュー速度を制御して組成物の特性を改善することもできる。例えば、スクリュー速度は、約400rpm以下、一実施形態では、例えば約200rpm~約350rpm、または約225rpm~約325rpmであってもよい。一実施形態において、改善された特性を示すポリマー組成物を提供するために、配合条件のバランスをとることができる。例えば、配合条件は、弱、中または強のスクリュー条件を提供するスクリュー設計を含みうる。例えば、システムは、スクリューが、穏やかな溶解および分配溶解物均一化を目的としたスクリューの下流半に単一の溶解部を有する、強度が弱のスクリュー設計を有しうる。強度が中のスクリュー設計は、均一な溶解のためにより強力な分散素子によりフォーカスを当てた充填剤供給バレルの上流に、より強力な溶解部を有することができる。加えて、充填剤を混合するために下流に別の穏やかな混合部を有しうる。この混合部は、弱の強度設計に比べて、より弱いが、スクリューの剪断強度にさらに加えて、全体的にはより強力にすることができる。高度に強のスクリュー設計は、3つのうち最強の剪断強度を有しうる。主な溶解部は、高い分散性のニーディングブロックの長い配列で構成されうる。下流の混合部は、分配および集中分散素子のミックスを利用して、全種類の充填剤の均一な分散を達成できる。高度に強のスクリュー設計の剪断強度は、他の2つの設計より優位に高いことがある。一実施形態において、システムは、比較的穏やかなスクリュー速度(例えば、約200rpm~約300rpm)で中から強のスクリュー設計を含むことができる。
【0050】
[0047](成形部品に成形される前の)結果として得られたポリマー組成物の結晶化温度は、約250℃以下、一部の実施形態では約100℃~約245℃、一部の実施形態では約150℃~約240℃でありうる。また、ポリマー組成物の融解温度は、約250℃~約320℃、一部の実施形態では約260℃~約300℃の範囲であってもよい。融解温度および結晶化温度は、ISO試験番号11357-3:2018に従って示差走査熱量測定を用い、当該技術分野において周知であるとおりに決定されうる。
【0051】
III.燃料流体部材
[0048]ポリマー組成物は、当該技術分野において公知であるようにさまざまな技術のいずれかを使用して、燃料電池用流体部材の形態に成形されうる。特定の実施形態において、例としては、成形部品は、射出成形、圧縮成形、ナノ成形、オーバーモールド、ブロー成形、熱成形などの成形技術、管状捕捉気泡フィルム法、フラットまたはチューブキャストフィルム法、スリットダイフラットキャストフィルム法などの溶融押出技術、他によって成形されうる。例えば、ブロー成形は、一般的に、成形部材の内部表面に押し込まれる加圧ガスの使用を要する。例としては、ポリマー組成物は、加熱されてパリソン中に押し出され得、三次元型穴を形成するように合わさる分離部を含む金型によって受け取られうる。より具体的には、パリソンが望ましい長さに達した後、クランプ機構はパリソンを金型と相互作用するような位置に移動させることができる。次いで金型を閉じ、加圧ガス(例えば、不活性ガス)を供給して、パリソンの内部表面に対して十分な圧力を印加し、それによって型穴の形状に適合させる。そのようなブロー成形の操作の後、ポリマー組成物を除去前に固化するために、冷気が成形部品中に注入されうる。
【0052】
[0049]実施形態において、燃料電池用流体部材は、ガス(例えば、燃料ガス、酸化剤ガスなど)および/または液体(例えば、水(例えば、脱イオン水)、冷却液など)などの流体が通過できる中空内部を一般的に画定するパイプ、チューブ、またはホースなどの細長部材であってもよい。例えば、流体部材は、流体がホースに入ることができる入口と流体が退出できる出口との間で延伸する通路を画定しうる。流体部材は、単一入口および/または単一出口を含有しうる。しかしながら、その他の場合、流体部材は、流体が流体部材をそれぞれ入るおよび/または出ることができる複数の入口および/または出口を画定しうる。
【0053】
[0050]その他の実施形態では、流体部材は、例としてはホース、管、もしくはパイプを互いにかつ/または燃料電池システムの別の構成要素に接続するために利用されうる、コネクタ、取り付け具などであってもよい。
【0054】
[0051]ガスを燃料電池に搬送するために使用される場合、例としては、流体部材は、複数の出口を含有してもよく、該複数の出口を通して、燃料ガス(例えば、水素)が退出して燃料電池のアノード側に接触できる、または酸化剤ガス(例えば、酸素)が退出して燃料電池のカソード側に接触できる。同様に、水および/または冷却液を搬送するために使用される場合、流体部材は、複数の出口を含有してもよく、該複数の出口を通して、望ましい流体を退出させて燃料電池のアノードおよび/もしくはカソード側と接触させるか、または該アノードおよび/もしくはカソード側から除去することが可能である。要望に応じて、該出口は、中心部から延伸する流体部材の分枝部分によって設けられうる。流体部材もまた同様に、さまざまな形状を有してよく、単一方向または複数の方向に延伸してもよく、したがって複数の角変位を含む。角変位は、比較的大きな角度、例えば約60°~約120°、一部の実施形態では約70°~約110°、一部の実施形態では約80°~約100°(例えば、90°)でありうる。流体部材は、同様に、角変位を画定する1つ以上の曲線部および角変位に隣接して位置する1つ以上の直線部を含有しうる。曲線部は、(軸が各面内にあるような流体部材の軸に基づいて)単一面内にあってもよく、または複数の面内にあってもよい。
【0055】
[0052]特定の構成にもかかわらず、流体部材は、さまざまな形状および/またはサイズを有しうる。例としては、少なくとも一部の流体部材および任意選択で全流体部材は、本質的に円形、楕円形、正方形、三角形、矩形、または不規則な断面形状を有しうる。流体部材はまた、内側または外側の寸法、壁の厚さなどに別段の制限がなく、任意の望ましいサイズのものでありうる。一実施形態において、例としては、少なくとも一部の流体部材および任意選択により全体の流体部材は、約1~約50ミリメートル、一部の実施形態では約2~約40ミリメートル、一部の実施形態では約3~約30ミリメートルの外径を有する。流体部材の厚さもまた同様に、約0.5~約45ミリメートル、一部の実施形態では約1~約35ミリメートル、一部の実施形態では約2~約25ミリメートルの範囲でありうる。これに関連して、流体部材の壁の厚さは、典型的には、約0.5~約5ミリメートルである。流体部材は、本発明のポリマー組成物を含有する単層から形成されうる。他の実施形態では、流体部材は、複数の層を含有してもよく、1つ以上の該層は、本発明のポリマー組成物を含有する。一実施形態において、例としては、多層流体部材は、ホースの外径を画定する外層、ホースの内径を画定する内層、および外層と内層との間に位置する1つ以上の任意選択の中間層を含有しうるホースであってもよい。本発明のポリマー組成物は、内層、外層、および/または中間層に用いることができる。一実施形態において、例としては、外層を形成するためにポリマー組成物が使用される。別の実施形態では、内層を形成するためにポリマー組成物が使用される。
【0056】
[0053]熱可塑性組成物の高い強度特性は、優れたバリア特性および良好な可撓性と合わせて、熱可塑性組成物を、多層流体部材の外層、内層、および/または中間層を形成する上での使用に適したものにする。例としては、熱可塑性組成物の優れたバリア特性は、熱可塑性組成物の可撓性および耐薬品性と合わせて、多層流体部材(例えば一実施形態ではホース)の内層の形成における使用に適したものにする。
【0057】
[0054]多層流体部材は、2、3または4つ以上の層を含むことができ、流体部材の1つ以上の層は、本発明のポリマー組成物を含みうる。多層流体部材は、上述のさまざまな断面形状およびサイズならびに任意の好適な長さの構成を有しうる。一般的には、多層流体部材の各層は、約0.5~約5ミリメートルの壁の厚さを有しうる。
【0058】
[0055]要望に応じて、他のタイプのポリマー材料を使用して、エラストマー(例えば、シリコーン、天然ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、スチレンエラストマーなど)、ポリオレフィン、ポリアミド、フルオロポリマー、ポリ塩化ビニルなどの流体部材の他の層(例えば、内層または外層)を形成してもよい。例としては、多層ホースの1つ以上の層は、ホモポリアミド、コポリアミド、それらのブレンド、または互いのもしくは他のポリマーとの混合物の群からのポリアミドから形成されうる。非限定的に、ポリアミド熱可塑性エラストマー、ポリエステル熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン熱可塑性エラストマー、およびスチレン熱可塑性エラストマーを含めた熱可塑性エラストマーは、多層流体部材の1つ以上の層を形成する上で利用されうる。例示的材料としては、非限定的に、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマーゴム、エチレン-プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンド、アクリロニトリル-ブタジエンゴムとエチレン-プロピレン-ジエンターポリマーゴムとのブレンド、および塩素化ポリエチレンゴムを挙げることができる。多層流体部材は、例えば、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエステルエラストマー、ポリエーテルエラストマー、ポリアミド、ポリエーテルポリアミド、ポリエーテルポリイミド、官能化ポリオレフィンなどの接着材料から形成される1つ以上の中間接着層をさらに含有しうる。
【0059】
[0056]多層流体部材を製造するために、別段の制限なく、任意の公知のプロセスを用いることができる。例としては、ホースを形成する層は、押出法または1つ以上の他の従来の方法、例えば共押出、ドライラミネーション、サンドイッチラミネーション、共押出コーティングなどによって成形することができる。隣接層は、共押出法によって、すなわち、こうした層の溶融材料を同心円状にかつ同時に押し出し、これらを互いに接着させることによって、同時に成形することができる。共押出は、共押出ヘッドを含む任意の公知の装置を使用して実施されうる。一般的に、共押出は、2~約6つの層を有する多層流体部材を形成する上で使用することができる。
【0060】
[0057]共押出は、押出成形法の必要条件ではないが、その他の実施形態において、流体部材の外層は、あらかじめ形成された層の上に形成されうる。例としては、外層は、1つ以上のあらかじめ形成された内層周囲(内壁層、または内壁および中間壁層)に押し出すことによって形成することができるが、他の任意の方法も用いることができる。
【0061】
[0058]多層流体部材はまた、ホースの1つ以上の層を形成するブロー成形法を利用して形成されうる。例としては、ブロー成形法は、同様にブロー成形法によってまたは異なる成形技術、例えば押出法によって形成されうるあらかじめ形成された層の上に内層を形成するために利用することができる。
【0062】
IV.燃料電池システム
[0059]燃料電池用流体部材は、当該技術分野において公知であるようなさまざまな異なるタイプの燃料電池システムで用いることができる。典型的には、燃料電池システムは、高分子電解質燃料電池(「PEFC」)などの燃料電池を含有する。そのような燃料電池は、一般的に、燃料電池の電解質およびガスセパレーターとして作用するプロトン伝導性高分子電解質膜(PEM)層(例えば、ペルフルオロカーボンスルホン酸アイオノマー)を含有する。対向触媒電極層(例えば、炭素材によって支持された白金触媒)は、イオン膜層の各側面と接触するように置かれ、電極/電解質/電極セル構成を形成する。水素が燃料電池の片面に供給され、ここで、触媒が、水素イオンへの電解変換(H→2H+2電子)の確定を助ける。酸素もまた同様に、燃料電池の他方の側面に供給され、そこで、触媒が、水への電解変換(O+4電子+4H→2HO)の確定を助ける。
【0063】
[0060]例えば、図1を参照して、その入口および出口それぞれにおいて酸化剤ガス供給ホース12および排出ホース13と接続されたカソード10bを含む燃料電池10の一実施形態が示される。換気扇11は、酸化剤ガス供給ホース12に接続される。一方で、燃料電池は、その入口に燃料ガス供給ホース20が接続されたアノード10aを有する。燃料ガス供給ホース20は、その中に設けられた燃料ガス供給弁21、三方弁22、および閉止弁23も含む。給水ユニットとしての送水ポンプ30を有するホース31は、三方弁22に接続される。アノード10aの出口に、排出ホース25が接続され、その末端は外部に開放されている。排出ホース25は、その長さの途中に設けられた閉止弁26を有する。特に、ホース12、13、20、31、および/または25ならびにホースを互いにもしくは燃料電池10の別の構成要素に接続するコネクタ、取り付け具などを含めた流体部材は、本発明に従って成形されうる。
【0064】
[0061]燃料電池の操作を開始するために、閉止弁23および閉止弁26を開け、それによって三方弁22から燃料電池10のアノード10aまでの管の経路が外部に向かって開放される。このプロセスの間、三方弁22は、供給弁21への経路を閉じ、送水ポンプ30への経路を開ける。次いで、送水ポンプ30を操作して、三方弁22および燃料ガス供給ホース20を介して水を燃料電池10のアノード10aに導入する。水によって、高分子電解質膜の性能を可能にするのに十分高い水分を有する高分子電解質膜がもたらされる。次いで水は、燃料電池10のアノード10aから外へ排出される。このプロセスの間、水素富化ガスまたは原料ガスが燃料電池のアノード10a中に残留される場合でも、これらの残留されたガスは、燃料電池のアノード10aから該ガスをパージするのに十分多い量の水が供給される限り、水によって排出されうる。その後、三方弁22を操作して三方弁22から送水ポンプ30までの経路を閉じ、三方弁22から供給弁21までの経路を開ける。同時に、供給弁21を開けて、燃料ガスを燃料電池10のアノード10a中に供給する。
【0065】
[0062]燃料ガスが燃料電池10のアノード10a中に供給されうる一方で、酸化剤ガスは換気扇11から燃料電池10のカソード10b中へ供給される。燃料電池10において、燃料ガス由来の水素および酸化剤ガス由来の酸素が互いに反応して発電が生じる。次いで未反応で残った燃料ガスは、排出ホース25を介して、燃料電池のアノード10aからアノード排出ガスとして排出される。次いで未反応で残った酸化剤ガスは、排出ホース13を介して、燃料電池のカソード10bから排出される。燃料電池の操作を一時停止するために、燃料ガス供給弁21を閉じて燃料ガスの供給を止める。後続して、三方弁22を操作して、三方弁22から燃料ガス供給弁21までの経路を閉じ、三方弁22から送水ポンプ30までの経路を開ける。次いで送水ポンプ30を操作して送水ポンプ30から燃料電池10のアノード10a中へ水を供給する。こうして燃料電池のアノード10a中に導入された水は、残留した燃料ガスと共に燃料電池のアノード10aから外へ排出される。この操作において、燃料電池のアノード10a中に残留した燃料ガスは、水によってパージされる。その後、送水ポンプ30による水の供給が停止され、燃料電池10のアノード10a中への水の供給は中断される。同時に、閉止弁23および閉止弁26を閉じ、それによって燃料電池10のアノード10aを介する閉止弁23から閉止弁26までの経路中に水が残留する。これらの条件下で燃料電池を維持することによって、PEMの乾燥および収縮を防止することができ、電極(図示せず)への接着力の劣化を防止することを可能にする。したがって、燃料電池を一時停止している間、閉止弁23から燃料電池10のアノード10aまでの経路中の水は残留したままである。上記の実施形態において、水は、燃料電池10のアノード10a中に供給される。当然ながら、水は、燃料電池10のカソード10b中にも供給して同様の効果を与えることが可能であることを理解すべきである。あるいは、水は、燃料電池10のアノード10aおよびカソード10bの両方に供給されうる。
【0066】
[0063]燃料電池システムは、燃料電池それ自体に加えて、二次構成要素を含んでもよく、一部の実施形態では、該二次構成要素は、記載した燃料電池用流体部材を組み込むことができる。例としては、図1に例示したように、ホース12、13、20、31、および/または25は、本発明に従って成形することができ、これらのホースは、アノード10aまたはカソード10bに/アノード10aまたはカソード10bから流体を直接供給する必要はなく、弁21、22、23、26などのシステムの二次構成要素に/二次構成要素から流体を搬送し、それにより燃料電池のアノード/カソードとの間接的な伝達であってもよい。当該技術分野において公知のその他の二次構成要素もまた同様に、本明細書に記載の流体部材を利用して、流体を二次構成要素に/二次構成要素から搬送することができる。燃料電池システムの二次構成要素としては、非限定的に、冷却液、燃料ガスまたは酸化剤ガスから微粒子を除去するために利用されうるフィルタと、流体をアノードまたはカソードへ供給する前に、燃料ガスまたは酸化剤ガスを浄化するために利用されうる清浄器と、を挙げることができる。
【0067】
[0064]本発明は、以下の実施例を参照して、よりよく理解されうる。
【実施例
【0068】
試験方法
[0065]溶融粘度:溶融粘度(Pa・s)は、ISO試験番号11443:2021に従って、剪断速度1,200s-1でDynisco LCR7001毛管レオメーターを使用して決定されうる。レオメーターオリフィス(ダイ)は、直径1mm、長さ20mm、L/D比20.1、および導入角180°を有しうる。バレルの直径は9.55mm+0.005mmであってもよく、ロッドの長さは233.4mmだった。溶融粘度は、典型的には、310℃の温度で決定される。
【0069】
[0066]融解温度:融解温度(「Tm」)は、当該技術分野において公知の示差走査熱量測定(「DSC」)によって決定されうる。半結晶および結晶材料の場合、融解温度は、ISO11357:2018によって決定される示差走査熱量測定(DSC)ピーク融解温度である。DSC手順の下、試料を、TA Q2000機器で実施されるDSC測定法を用いて、10℃/分で加熱および冷却した。
【0070】
[0067]引張弾性率、引張応力、および引張破断伸び:引張特性は、ISO試験番号527-2/1A:2019(ASTM D638-14に技術的に相当する)に従って試験することができる。係数および強度測定は、長さ80mm、厚さ10mm、および幅4mmの同じ試験片試料で行ってもよい。試験温度は23℃であってもよく、試験速度は、引張強さおよび引張破壊歪みでは5mm/min、引張弾性率では1mm/minであってもよい。
【0071】
[0068]曲げ弾性率および曲げ応力:曲げ特性は、ISO試験番号178:2019(ASTM D790-17に技術的に相当する)に従って試験することができる。この試験は、64mmの支持スパンで実施してよい。試験は、カットされていないISO3167マルチパーパスバーの中心部で行うことができる。試験温度は23℃であってもよく、試験速度は1または5mm/minであってもよい。
【0072】
[0069]ノッチ付きシャルピー衝撃強さ:ノッチ付きシャルピー特性は、ISO試験番号ISO 179/1eU:2010(ASTM D256-10、方法Bに技術的に相当する)に従って試験することができる。この試験は、タイプAのノッチ(底面半径0.25mm)およびタイプ1の試験片寸法(長さ80mm、幅10mm、および厚さ4mm)を使用して行うことができる。試験片は、一枚歯フライス盤を使用してマルチパーパスバーの中心からカットしてもよい。試験温度は23℃であってもよい。
【0073】
[0070]塩素含量:塩素含量は、Parr Bomb燃焼を用いた元素分析と、後続するイオンクロマトグラフィーと、に従って決定されうる。
[0071]複素粘度:複素粘度は、本明細書において、低周波におけるポリマー組成物の「低剪断」粘度の推定値として用いられる。複素粘度は、角振動数0.1および500ラジアン/秒での剪断応力の強制調和振動中に決定される、周波数依存粘度である。測定値は、平行板構造(板径25mm)を用いたARES-G2レオメーター(TA Instruments社)を使用し、一定温度310℃および一定歪み振幅3%で決定されうる。間隙距離は、ペレット試料の場合、1.5mmで維持してよい。LVE体制および最適化試験状況を見つけるための周波数掃引に先立って、試料に対して動的歪み掃引を実施してもよい。歪み掃引は、周波数6.28rad/sで0.1%から100%まで行ってもよい。
【0074】
実施例1
[0072]試料1~5を燃料電池ホース中で使用するために生成する。試料は、Coperion社製32mm共回転式の完全インターメッシュの二軸押出機を使用して溶融混合され、ポリアリーレンスルフィド、耐衝撃性改良剤、熱安定剤、テレフタル酸、ステアリン酸亜鉛、および/または滑剤を含む。耐衝撃性改良剤は、8wt%のメタクリル酸グリシジル含量および190℃で5g/10minのメルトフローインデックスを有するエチレンとメタクリル酸グリシジルとのランダムコポリマーである。結果として得られた組成物を、以下の表に詳述する。
【0075】
【表1】
【0076】
[0073]生成後、試料を、さまざまな物理特性について試験する。結果を以下に記載する。
【0077】
【表2】
【0078】
実施例2
[0074]試料6~14を燃料電池ホース中で使用するために生成する。試料は、Coperion社製32mm共回転式の完全インターメッシュの二軸押出機を使用して溶融混合され、ポリアリーレンスルフィド、耐衝撃性改良剤、熱安定剤、テレフタル酸、ステアリン酸亜鉛、モノステアリン酸アルミニウム、ネオデカン酸亜鉛、および/または滑剤を含む。結果として得られた組成物を、以下の表に詳述する。
【0079】
【表3】
【0080】
[0075]生成後、試料を、さまざまな物理特性について試験する。結果を以下に記載する。
【0081】
【表4】
【0082】
[0076]これらのおよび他の修正ならびに本発明の変更を、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、当業者によって実践することが可能である。加えて、さまざまな実施形態の態様を全体または一部の両方で入れ替えられることを理解すべきである。さらに、当業者は、前述の説明が例として挙げただけであり、該添付の特許請求の範囲内でさらに記載される本発明を制限することを意図しないことを理解するであろう。
図1
【国際調査報告】