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特表2024-5306862つのマスを有する防振構造を有する工具ホルダ及び当該工具ホルダに設けられた切削工具
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  • 特表-2つのマスを有する防振構造を有する工具ホルダ及び当該工具ホルダに設けられた切削工具 図1
  • 特表-2つのマスを有する防振構造を有する工具ホルダ及び当該工具ホルダに設けられた切削工具 図2
  • 特表-2つのマスを有する防振構造を有する工具ホルダ及び当該工具ホルダに設けられた切削工具 図3
  • 特表-2つのマスを有する防振構造を有する工具ホルダ及び当該工具ホルダに設けられた切削工具 図4
  • 特表-2つのマスを有する防振構造を有する工具ホルダ及び当該工具ホルダに設けられた切削工具 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-23
(54)【発明の名称】2つのマスを有する防振構造を有する工具ホルダ及び当該工具ホルダに設けられた切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/00 20060101AFI20240816BHJP
   B23B 29/02 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
B23B27/00 C
B23B29/02 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508701
(86)(22)【出願日】2022-08-08
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 IL2022050860
(87)【国際公開番号】W WO2023037353
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】17/467,877
(32)【優先日】2021-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514105826
【氏名又は名称】イスカル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110004358
【氏名又は名称】弁理士法人NYTパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】サフォーリ,ジョニー
(72)【発明者】
【氏名】ヘン,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ラボウ,ラフィ
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046AA05
3C046BB02
3C046KK01
3C046KK02
(57)【要約】
長尺工具ホルダ(22)は、密閉された内部キャビティを備えるマスハウジング部分(40)を構成する工具防振コンポーネントと、密閉された内部キャビティを占有する防振構造(34)と、を有している。防振構造は、ホルダキャビティ内に配置され、かつ、内向きキャビティ壁面に接触する少なくとも3つの弾性サスペンション部材によってその中に弾性的に懸架された2つの振動吸収マス(54a、54b)を含む。2つの振動吸収マスは、異なる材料から形成され、かつ、異なる長さを有している。切削工具(20)は工具ホルダを備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反対の前方向(D)及び後方向(D)を規定するそのホルダ長手方向軸線(B)に沿って長尺の工具ホルダ(22)であって、前記工具ホルダ(22)はその後端で固定されるように構成され、前記工具ホルダ(22)は、
内向きキャビティ壁面(38)を有する内部ホルダキャビティ(36)を備えるマスハウジング部分(40)と、
防振構造(34)であって、
長尺マス中心軸線(E1)を有する長尺振動吸収マス(54a)と、短尺マス中心軸線(E2)を有する短尺振動吸収マス(54b)と、を含み、前記長尺振動吸収マス(54a)及び前記短尺振動吸収マス(54b)の各々が、軸線方向に反対の前方マス端(60a)及び後方マス端(60b)を有する、2つの振動吸収マス(54a、54b)と、
少なくとも3つの弾性サスペンション部材(62)であって、
前記長尺振動吸収マス(54a)は、前記長尺マス中心軸線(E1)に沿って長尺マス軸線長さ(LL)にわたって延在し、かつ、長尺マス材料を備え、
前記短尺振動吸収マス(54b)は、前記短尺マス中心軸線(E2)に沿って短尺マス軸線長さ(LS)にわたって延在し、かつ、短尺マス材料を備え、
前記短尺マス軸線長さ(LS)は前記長尺マス軸線長さ(LL)よりも短く、かつ、前記長尺振動吸収マス(54a)及び前記短尺振動吸収マス(54b)は異なる材料から形成され、
前記工具ホルダ(22)は、非組立状態と組立状態との間で調整可能であり、前記組立状態では、
2つの前記振動吸収マス(54a、54b)が、前記内部ホルダキャビティ(36)内に配置され、かつ、前記内向きキャビティ壁面(38)に接触する少なくとも3つの前記サスペンション部材(62)によって前記内部ホルダキャビティ(36)内に弾性的に懸架される、少なくとも3つの弾性サスペンション部材(62)と、を備える防振構造(34)と、を備える、工具ホルダ(22)。
【請求項2】
前記長尺振動吸収マス(54a)及び前記短尺振動吸収マス(54b)は、前記長尺振動吸収マス(54a)及び前記短尺振動吸収マス(54b)のうちの一方が他方よりも前記工具ホルダ(22)の前記前端により近くなるように前記ホルダ長手方向軸線(B)に沿って軸線方向にオフセットされる、請求項1に記載の工具ホルダ(22)。
【請求項3】
前記短尺振動吸収マス(54b)は、前記長尺振動吸収マス(54a)よりも前記工具ホルダ(22)の前記前端の近くに配置される、請求項2に記載の工具ホルダ(22)。
【請求項4】
前記長尺振動吸収マス(54a)及び前記短尺振動吸収マス(54b)のうちで前記工具ホルダ(22)の前記前端に近い方が、前記長尺振動吸収マス(54a)及び前記短尺振動吸収マス(54b)のうちの他方の密度よりも大きい密度を有している、請求項2又は3に記載の工具ホルダ(22)。
【請求項5】
前記長尺マス材料は前記短尺マス材料よりも高い剛性を有している、請求項1~4のいずれか1項に記載の工具ホルダ(22)。
【請求項6】
少なくとも3つの前記サスペンション部材(62)は少なくとも1つの中央サスペンション部材(63)を備え、
前記長尺振動吸収マス(54a)及び前記短尺振動吸収マス(54b)は、少なくとも1つの前記中央サスペンション部材(63)によって離間される、請求項1~5のいずれか1項に記載の工具ホルダ(22)。
【請求項7】
前記防振構造(34)は、
2つの前記振動吸収マス(54a、54b)の軸線方向前方の前記前方マス端(60a)に配置された1つのサスペンション部材(62)と、
2つの前記振動吸収マス(54a、54b)の軸線方向後方の前記後方マス端(60b)に配置された別のサスペンション部材(62)と、
2つの前記振動吸収マス(54a、54b)を離間する2つの中央サスペンション部材(63)と、を含む4つのサスペンション部材(62)を備える、請求項6に記載の工具ホルダ(22)。
【請求項8】
2つの前記中央サスペンション部材(63)は互いに弾性接触する、請求項7に記載の工具ホルダ(22)。
【請求項9】
前記防振構造(34)は、ちょうど2つの振動吸収マス(54a、54b)を備える、請求項1~8のいずれか1項に記載の工具ホルダ(22)。
【請求項10】
前記長尺振動吸収マス(54a)は、前記長尺振動吸収マス(54a)の前記マス端(60a、60b)の遠位の前記長尺マス中心軸線(E1)に垂直に配向された平面内で一定の長尺マス断面積(CL)を有し、
前記短尺振動吸収マス(54b)は、前記短尺振動吸収マス(54b)の前記マス端(60a、60b)の遠位の前記短尺マス中心軸線(E2)に垂直に配向された平面内で一定の短尺マス断面積(CS)を有し、
前記長尺マス断面積(CL)は前記短尺マス断面積(CS)と同じである、請求項1~9のいずれか1項に記載の工具ホルダ(22)。
【請求項11】
両方の振動吸収マス(54a、54b)は、同一の直径を有する円筒形状を有し、
前記組立状態では、前記長尺マス中心軸線(E1)と前記短尺マス中心軸線(E2)とが、位置合わせされ、かつ、前記ホルダ長手方向軸線(B)に平行なマス共通中心軸線(E)を共有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の工具ホルダ(22)。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の工具ホルダ(22)と、
前記工具ホルダ(22)の前端に配置された切削部分(24)であって、少なくとも1つの切削インサート(26)を備える切削部分(24)と、を備える、切削工具(20)。
【請求項13】
前記切削部分(24)は前記工具ホルダ(22)に取り外し可能に取り付けられている、請求項12に記載の切削工具(20)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の主題は、概して工具ホルダ、特に、防振構造を有するそうした工具ホルダに関し、さらに特に、2つの振動吸収マスを有する防振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
金属切削作業中の工具ホルダの振動を抑制するために工具ホルダには防振構造が設けられ得る。一般に、防振構造は、キャビティと、キャビティ内に弾性支持部材によって懸架された振動吸収マスと、を含むばね質量システムである。
【0003】
あるそのような防振構造では、前記ばね質量システムは2つの振動吸収マスを含み得る。そのような工具保持システムの例は、例えば、米国特許第3559512号、米国特許第3690414号、米国特許第4050665号、米国特許第4130185号及び米国特許第4903785号に開示されている。
【0004】
本願の主題の目的は、新規で改良された防振構造を提供することである。
【発明の概要】
【0005】
本願の主題の第1態様によれば、反対の前方向及び後方向を規定するそのホルダ長手方向軸線に沿って長尺の工具ホルダが提供され、前記工具ホルダはその後端で固定されるように構成され、前記工具ホルダは:
内向きキャビティ壁面を有する内部ホルダキャビティを備えるマスハウジング部分と;
防振構造であって:
長尺マス中心軸線を有する長尺振動吸収マスと、短尺マス中心軸線を有する短尺振動吸収マスと、を含み、前記長尺振動吸収マス及び前記短尺振動吸収マスの各々が、軸線方向に対向する前方マス端及び後方マス端を有する、2つの振動吸収マスと;
少なくとも3つの弾性サスペンション部材であって:
前記長尺振動吸収マスは、前記長尺マス中心軸線に沿って長尺マス軸線長さにわたって延在し、かつ、長尺マス材料を備え;
前記短尺振動吸収マスは、前記短尺マス中心軸線に沿って短尺マス軸線長さにわたって延在し、かつ、短尺マス材料を備え;
前記短尺マス軸線長さは前記長尺マス軸線長さよりも短く、かつ、前記長尺振動吸収マス及び前記短尺振動吸収マスは異なる材料から形成され;
前記工具ホルダは、非組立状態と組立状態との間で調整可能であり、かつ、前記組立状態では:
2つの前記振動吸収マスは、前記内部ホルダキャビティ内に配置され、かつ、前記内向きキャビティ壁面に接触する少なくとも3つの前記サスペンション部材によってその中に弾性的に懸架される、少なくとも3つの弾性サスペンション部材と、を備える防振構造と、を備える。
【0006】
本願の主題の第2態様によれば、切削工具が提供され、前記切削工具は:
上述したタイプの工具ホルダと;
前記工具ホルダの前端に配置された切削部分であって、少なくとも1つの切削インサートを備える切削部分(24)と、を備える。
【0007】
上記は概要であること、かつ、以下に説明される特徴は、本願の主題に対して任意に組み合わせて適用可能であることが理解され、例えば、以下の特徴のいずれもが前記工具ホルダ又は前記切削工具に適用可能であってもよい:
【0008】
前記長尺振動吸収マス及び前記短尺振動吸収マスは、前記長尺振動吸収マス及び前記短尺振動吸収マスのうちの一方が他方よりも前記工具ホルダの前記前端により近くなるように前記ホルダ長手方向軸線に沿って軸線方向にオフセットされてもよい。
【0009】
前記短尺振動吸収マスは、前記長尺振動吸収マスよりも前記工具ホルダの前記前端のより近くに配置されてもよい。
【0010】
前記長尺振動吸収マス及び前記短尺振動吸収マスのうちで前記工具ホルダの前記前端に近い方が、前記長尺振動吸収マス及び前記短尺振動吸収マスのうちの他方の密度よりも大きい密度を有してもよい。
【0011】
前記長尺マス材料は、前記短尺マス材料よりも高い剛性を有してもよい。
【0012】
少なくとも3つの前記サスペンション部材は、少なくとも1つの中央サスペンション部材を備えてもよい。前記長尺振動吸収マス及び前記短尺振動吸収マスは、少なくとも1つの前記中央サスペンション部材によって離間されてもよい。
【0013】
前記防振構造は、2つの前記振動吸収マスの軸線方向前方の前記前方マス端に配置された1つのサスペンション部材と、2つの前記振動吸収マスの軸線方向後方の前記後方マス端に配置された別のサスペンション部材と、2つの前記振動吸収マスを離間する2つの中央サスペンション部材と、を含む4つのサスペンション部材を備えてもよい。
【0014】
2つの前記中央サスペンション部材は互いに弾性接触してもよい。
【0015】
前記防振構造は、ちょうど2つの振動吸収マスを備えてもよい。
【0016】
前記長尺振動吸収マスは、前記長尺振動吸収マスのマス端の遠位の前記長尺マス中心軸線に垂直に配向された平面内で一定の長尺マス断面積を有してもよい。前記短尺振動吸収マスは、前記短尺振動吸収マスのマス端の遠位の前記短尺マス中心軸線に垂直に配向された平面内で一定の短尺マス断面積を有してもよい。前記長尺マス断面積は前記短尺マス断面積と同じであってもよい。
【0017】
両方の振動吸収マスは、同一の直径を有する円筒形状を有してもよい。前記組立状態では、前記長尺マス中心軸線と前記短尺マス中心軸線とは、位置合わせされ、かつ、前記ホルダ長手方向軸線に平行なマス共通中心軸線を共有してもよい。
【0018】
前記切削部分は前記工具ホルダに取り外し可能に取り付けられてもよい。
【0019】
本願をよりよく理解するため、かつ、本願が実際にどのように実施され得るかを示すため、ここで添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本願に係る切削工具の斜視図であり、防振構造を示している。
図2】本願に係る、図1の切削工具の分解斜視図である。
図3図1の切削工具の軸線方向断面図である。
図4図3の線IV-IVに沿った図1の切削工具の径方向断面図である。
図5図3の線V-Vに沿った図1の切削工具の径方向断面図である。
【0021】
説明を簡単かつ明瞭にするため、図面に示される要素は必ずしも一定の縮尺で描かれていないことが理解される。例えば、要素のいくつかの寸法は、明確にするために他の要素と比較して誇張されている場合があり、又は、いくつかの物理的コンポーネントが1つの機能ブロック又は要素に含まれている場合がある。さらに、適切と考えられる場合、対応の要素又は類似の要素を示すために図面間で参照番号が繰り返されている場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の説明では、本願の主題のさまざまな態様が説明される。説明の目的で、特定の構成及び詳細は、本願の主題の完全な理解を提供するために十分に詳細に記載される。ただし、本願の主題は、本明細書に提示される特定の構成及び詳細がなくても実施可能であることも当業者には明らかである。
【0023】
本願の一態様を示す、切屑除去のための切削工具20を示す図1にまず着目する。切削工具20は工具長手方向軸線Aを有している。本願の主題のある実施形態によれば、切削工具20は固定切削工具であってもよい。すなわち、切削工具20は、回転軸線回りに回転するように設計されていない。図面に示されるこの非限定的な例では、切削工具20はボーリングバーである。ただし、本願の主題は、ボーリングバーのみに限定されるものではなく、例えば、限定されないが、旋削工具全般にも適用可能であってもよい。本願の主題は、フライス及びドリルなどの回転切削工具に適用可能であってもよい。このような回転切削工具の場合、切削工具20は工具長手方向軸線Aを中心とした回転方向に回転可能であるように設計される。
【0024】
切削工具20は工具ホルダ22を含む。切削工具20はまた、少なくとも1つの切削インサート26を含み得る切削部分24を含む。少なくとも1つの切削インサート26は、金属切削作業を実行するように設計され、かつ、その目的のための切れ刃を有している。本願の主題のある実施形態によれば、少なくとも1つの切削インサート26は切削部分24に取り外し可能に取り付けられてもよい。切削部分24は、工具ホルダ22と一体的に形成されてもよい。代替的に、図面に示される非限定的な例に見られるように、切削部分24は工具ホルダ22に取り外し可能に取り付けられてもよい。切削部分24は、工具ホルダ22の前端に配置されてもよい。工具ホルダ22の後端は、保持装置によって固定されるように構成される。
【0025】
ここで図2を参照すると、本願の別の態様を示す工具ホルダ22の分解図が示されている。工具ホルダ22は、反対の前方向D及び後方向Dを規定するホルダ長手方向軸線Bを有している。工具ホルダ22はホルダ長手方向軸線Bに沿って長尺である。本願の主題のある実施形態によれば、切削工具20と工具ホルダ22とは互いに同軸であってもよい。2つの要素(例えば、この場合は切削工具20及び工具ホルダ22)は、それらの長手方向軸線が一致する(互いに整列する)場合、互いに同軸であることに留意されたい。
【0026】
さらに、本説明及び特許請求の範囲全体を通じた「前方」及び「後方」という用語の使用は、図3のそれぞれ左側及び右側に向かうホルダ長手方向軸線Bの方向の相対位置を指すことに留意されたい。概して、前方向は、切削部分24に向かう方向である。
【0027】
本願の主題のある実施形態によれば、工具ホルダ22は、それぞれ、2つの反対の前方ホルダ端面30F及び後方ホルダ端面30Rと、それらの間に延在するホルダ周辺面32と、を含んでもよい。ホルダ周辺面32は、ホルダ長手方向軸線B周りに延在してもよい。図面に示されるこの非限定的な例では、ホルダ端面30のうちの一方(例えば、前方ホルダ端面30F)は、切削部分20の対応の表面に係合するために鋸歯状である。
【0028】
工具ホルダ22は、マスハウジング部分40及び防振構造34を含む。工具防振構造34は、切削工具20が金属切削作業を実行する場合の切削工具20の振動を低減又は除去するように設計される。本願の主題のある実施形態によれば、防振構造34は、切削工具20の前端に配置されてもよい。
【0029】
マスハウジング部分40は、それらの中に形成された内部ホルダキャビティ36を有している。すなわち、内部ホルダキャビティ36はマスハウジング部分40内に密閉されている。ホルダキャビティ36は、少なくとも部分的に、内向きキャビティ壁面38によって形成される。キャビティ壁面38は、ホルダキャビティ36をマスハウジング部分40から区切る。マスハウジング部分40はホルダキャビティ36を取り囲んでいる。ホルダキャビティ36はキャビティ中心軸線Dを有している。本願の主題のある実施形態によれば、ホルダキャビティ36は、キャビティ中心軸線Dに沿って長尺であってもよい。ホルダキャビティ36は、工具ホルダ22として同じ方向に長尺であってもよい。特に、ホルダキャビティ36は工具ホルダ22と同軸であってもよい。キャビティ壁面38は、2つの対向するキャビティ壁端面42と、その間に延在するキャビティ壁周辺面44と、を含んでもよい。キャビティ壁周辺面44はキャビティ中心軸線D周りに延在してもよい。
【0030】
さらに図3を参照すると、キャビティ壁周辺面44を通るホルダキャビティ36の(キャビティ中心軸線Dを含む平面に沿った)軸線方向断面図が示されており、ホルダキャビティ36はキャビティ横断面を有している。本願の主題のある実施形態によれば、前記キャビティ横断面はキャビティ中心軸線Dに沿って均一であってもよい。キャビティ壁周辺面44はほぼ円筒形状を有してもよい。キャビティ壁周辺面44は、2つのキャビティ壁端面42(本説明で後述するように、キャビティ壁周辺面44がサスペンション部材62と当接する箇所)の近傍において円筒形状を有してもよい。2つのキャビティ壁端面42は、平面であってもよく、かつ、キャビティ中心軸線Dに対して横断方向に配向されてもよい。2つのキャビティ壁端面42は、キャビティ中心軸線Dに対して垂直に配向されてもよい。
【0031】
図1及び図2に戻ると、本工具ホルダ22は、複数の振動吸収マス54a、54bを備える防振構造34も含む。好ましくは、防振構造34は、ちょうど2つの振動吸収マス54a、54bを含んでもよい。
【0032】
2つの振動吸収マス54a、54bは、長尺マス材料から構成される長尺振動吸収マス54aを含む。長尺振動吸収マス54aは、長尺マス軸方向長さLLにわたって長尺マス中心軸線E1に沿って延在している。2つの振動吸収マス54a、54bには、短尺マス材料から構成される短尺振動吸収マス54bも含まれる。短尺振動吸収マス54bは、短尺マス軸方向長さLSにわたって短尺マス中心軸線E2に沿って延在している。短尺マス軸方向長さLSは長尺軸方向長さLLよりも短い。長尺マス材料と短尺マス材料とは異なる。すなわち、長尺振動吸収マス54a及び短尺振動吸収マス54bは異なる材料から形成されている。好ましくは、両方のマス材料は非磁性である。例えば、短尺マス材料はタングステンであってもよく、長尺マス材料は炭化タングステンであってもよい。本願の主題のある実施形態によれば、長尺マス材料は短尺マス材料よりも高い剛性を有してもよい(すなわち、長尺マス材料は短尺マス材料よりも大きなヤング率を有する)。これにより、(ばね質量システムの軸方向長さの大部分を占める)長尺振動吸収マス54aが曲がり、場合によっては、キャビティ壁周辺面44に衝突する可能性を低減する。
【0033】
図2及び図3を参照すると、2つの振動吸収マス54a、54bの各々が、対応のマス中心軸線E1、E2を有している。組み立てられた工具ホルダ22では、マス中心軸線E1、E2は同軸であり、マス54a、54bは同じマス共通中心軸線Eを共有している。2つの振動吸収マス54a、54bの各々は、2つの軸線方向に対向するマス端60a、60b、前方マス端60a及び後方マス端60bを含み、前方マス端60aは後方マス端60bの前方にある。2つの軸線方向に対向するマス端60a、60bは、対応のマス中心軸線E1、E2に沿って互いに離間されている。本願の主題のある実施形態によれば、各振動吸収マス54a、54bは、2つの対向するマス端面56と、その間に延在するマス周辺面58と、を含んでもよい。マス周辺面58は、対応のマス中心軸線E1、E2周りに延在してもよい。2つのマス端面56は、2つのマス端60a、60bにそれぞれ配置される。各振動吸収マス54a、54bは、対応のマス中心軸線E1、E2に沿って長尺であってもよい。長尺マス軸方向長さLL及び短尺マス軸方向長さLSは、対応のマス中心軸線E1、E2の方向において、それぞれのマス端面56の間で測定されることに留意されたい。
【0034】
図4を参照すると、短尺振動吸収マス54bの中央部分(すなわち、それぞれのマス端60a、60bの遠位)を通るホルダ長手方向軸線Bに垂直な平面における工具ホルダの断面図が示されており、短尺振動吸収マス54bは、短尺マス中心軸線E2に垂直に配向された平面内で一定の短尺マス断面積CSを有してもよい。マス端面56の間の、長尺振動吸収マス54aの中央部分(すなわち、それぞれのマス端60a、60bの遠位)を通るホルダ長手方向軸線Bに垂直に配向された平面における工具ホルダの断面図を示す図5を参照すると、長尺振動吸収マス54aは、長尺マス中心軸線E1に対して垂直に配向された平面における一定の長尺マス断面積CLを有してもよい。長尺マス断面積CLは短尺マス断面積CSと同じであってもよい。したがって、2つのマス54a、54bが両方とも円筒形状を有する実施形態では、それらは同一の直径を有してもよい。
【0035】
図3を参照すると、本願の主題のある実施形態によれば、マス端面56は、振動吸収マス54a、54bの中央部分から離れる方向に内向きに先細りの円錐形状であってもよい。マス周辺面58は円筒形状を有してもよい。
【0036】
防振構造34は、少なくとも3つの弾性サスペンション部材62をさらに含む。少なくとも3つのサスペンション部材62は弾性変形可能である。本願の主題のある実施形態によれば、少なくとも3つのサスペンション部材62は、2つの振動吸収マス54a、54bの材料とは異なる材料から形成されてもよい。ある実施形態では、サスペンション部材62は、60A~95Aのデュロメータ硬さを有するゴムから形成されている。少なくとも3つのサスペンション部材62はOリングであってもよい。
【0037】
工具ホルダ22は、組立状態と非組立状態との間で調整可能である。工具ホルダ22の非組立状態では、2つの振動吸収マス54a、54bが内部ホルダキャビティ36の外側に配置されている。
【0038】
本願の主題のある実施形態によれば、図3を参照すると、工具ホルダ22は、後方向Dにホルダキャビティ36を規定し(境界を定め)、かつ、ホルダキャビティ36をシールするキャビティ軸方向シール部材67を含む。すなわち、キャビティ軸方向シール部材67は、キャビティ壁端面38の一方を形成している。ホルダキャビティ36がキャビティ軸方向シール部材67によってシールされていない間(すなわち、工具ホルダ22が非組立位置にある間)、2つの振動吸収マス54a、54bはホルダキャビティ36内に挿入されてもよい。工具ホルダ22の組立状態では、ホルダキャビティ36はキャビティ軸方向シール部材67によってシールされる。
【0039】
工具ホルダ22の組立状態では、2つの振動吸収マス54a、54bはホルダキャビティ36内に配置される。また、それらのそれぞれの中心軸線E1、E2が位置合わせされることによって、マス共通中心軸線Eを共有してもよい。
【0040】
本願の主題のある実施形態によれば、長尺振動吸収マス54a及び短尺振動吸収マス54bは、ホルダ工具軸線Bに沿って軸方向にオフセットされてもよい。したがって、長尺振動吸収マス54a及び短尺振動吸収マス54bのうちの一方は、他方よりも工具ホルダ22の前端により近い。好ましくは、短尺振動吸収マス54bは、長尺振動吸収マス54aよりも工具ホルダ22の前端のより近くに配置されてもよい。テストにより、切削領域に最も近い最短マスを有することによって減衰効果が向上することがわかっている。
【0041】
本願の主題のある実施形態によれば、長尺振動吸収マス54a及び短尺振動吸収マス54bのうちの工具ホルダ22の前端に近い方が、長尺振動吸収マス54a及び短尺振動吸収マス54bの他方を構成する第2材料の第2密度より大きい第1密度を有する第1材料を構成する。したがって、短尺振動吸収マス54bが工具ホルダ22の前端により近い構成では、短尺マス材料が、長尺マス材料よりも高い密度を有しており、かつ、長尺振動吸収マス54aが工具ホルダ22の前端により近い場合、長尺マス材料がより高い密度を有する。最も密度の高いマスを切削領域に近づけると、減衰効果が向上することがわかっている。
【0042】
本願の主題のある実施形態によれば、工具ホルダ22の組立位置では、2つの振動吸収マス54a、54bが工具ホルダ22と同じ方向に長尺であってもよい。すなわち、マス共通中心軸線Eは、ホルダ長手方向軸線Bと平行であってもよく、軸線B、軸線Eは、工具ホルダ22の最長主寸法及び振動吸収マス54a、54bの最長主寸法をそれぞれ確立する。特に、マス共通中心軸線Eは、ホルダ長手方向軸線Bに一致してもよい(すなわち、2つの振動吸収マス54a、54bは工具ホルダ22と同軸であってもよい)。
【0043】
工具ホルダ22の組立位置では、2つの振動吸収マス54a、54bが、少なくとも3つのサスペンション部材62を介してマスハウジング部分40に接続される。したがって、2つの振動吸収マス54a、54bは、内向きキャビティ壁面38に接触する少なくとも3つのサスペンション部材62によってホルダキャビティ36内に弾性的に懸架されている。各サスペンション部材62は、それぞれのマス端面56に当接してもよい。マス周辺面58のどの部分も内向きキャビティ壁面38と直接接触していないことに留意されたい。本願の主題のある実施形態によれば、少なくとも3つのサスペンション部材62の各々は、内向きキャビティ壁面38に対する、かつ、マス端面56のうちの一方に対する接触による圧縮弾性変形を受けてもよい。
【0044】
本願の主題のある実施形態によれば、少なくとも3つのサスペンション部材が、参照符号63で示される少なくとも1つの中央サスペンション部材を含んでもよい。長尺振動吸収マス54a及び短尺振動吸収マス54bは、少なくとも1つの中央サスペンション部材63によって離間され、かつ、中央サスペンション部材63に接触してもよい。図面に示されるこの非限定的な例では、防振構造34は、合計4つのサスペンション部材を含んでもよく、1つのサスペンション部材62が振動吸収マスの軸線方向前方のものの前方マス端60aに配置され、別のサスペンション部材62が、振動吸収マスのうちの軸線方向後方のものの後方マス端60bに配置され、2つの中央サスペンション部材63が2つの振動吸収マス54a、54bを離間する。2つの中央サスペンション部材63は、互いに弾性的に接触してもよい。2つの中央サスペンション部材63の各々は、2つの振動吸収マス54a、54bのうちの一方のみと接触してもよい。
【0045】
防振構造34は、ホルダキャビティ36内に形成された振動空間68を含む。振動空間68は、2つの振動吸収マス54a、54bとマスハウジング部分40との間(より具体的には、2つの振動吸収マス54a、54bと内向きキャビティ壁面38との間)に配置されている。言い換えると、マスハウジング部分40と2つの振動吸収マス54a、54bとは振動空間68によって離間されている。本願の主題のある実施形態によれば、振動空間68は、2つの振動吸収マス54a、54bを周方向に完全に取り囲んでいる。すなわち、振動空間68は、キャビティ中心軸線Dの全(360°)角度範囲周りに延在してもよい。したがって、振動空間68は、2つの振動吸収マス54a、54bの軸線方向範囲を取り囲む環状の振動空間とみなされてもよい。
【0046】
2つの振動吸収マス54a、54bは、少なくとも3つのサスペンション部材62の弾性変形時に振動空間68内で振動するように構成されている。言い換えると、少なくとも3つのサスペンション部材62が弾性変形する場合、2つの振動吸収マス54a、54bは振動空間68内で振動変位可能である。
【0047】
切削工具20がワークピースに接触する場合、切削工具20は振動を受けやすい。通常、旋削又はフライス切削作業の場合、振動は横方向振動である。通常、穿孔切削作業の場合、振動はねじり振動である。2つの振動吸収マス54a、54bはある振動周波数で振動する。防振構造34は、2つの振動吸収マス54a、54bに、切削工具20の固有周波数と同一ではないにしてもそれに近い振動周波数を提供するように設計されており、それによって、切削工具20の振動を低減又は除去する。
【0048】
本願の主題のある実施形態によれば、振動空間68は空であってもよい。例えば、振動空間68には粘性流体がなくてもよい。
【0049】
本願の主題をある程度詳細に説明してきたが、以下に特許請求される本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、さまざまな変更及び修正を行うことができることを理解されたい。

図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】