(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-23
(54)【発明の名称】開放型移植可能細胞送達デバイス
(51)【国際特許分類】
A61K 35/39 20150101AFI20240816BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240816BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240816BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240816BHJP
A61K 35/22 20150101ALI20240816BHJP
A61K 35/55 20150101ALI20240816BHJP
A61K 35/26 20150101ALI20240816BHJP
A61K 35/52 20150101ALI20240816BHJP
A61K 35/38 20150101ALI20240816BHJP
A61K 35/407 20150101ALI20240816BHJP
A61K 35/36 20150101ALI20240816BHJP
A61K 35/42 20150101ALI20240816BHJP
A61K 35/50 20150101ALI20240816BHJP
A61K 35/54 20150101ALI20240816BHJP
【FI】
A61K35/39
A61P3/10
A61K47/32
A61K47/34
A61K35/22
A61K35/55
A61K35/26
A61K35/52
A61K35/38
A61K35/407
A61K35/36
A61K35/42
A61K35/50
A61K35/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508729
(86)(22)【出願日】2022-05-18
(85)【翻訳文提出日】2024-04-12
(86)【国際出願番号】 EP2022063424
(87)【国際公開番号】W WO2023016677
(87)【国際公開日】2023-02-16
(32)【優先日】2021-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515288959
【氏名又は名称】ユニフェルシテイト マーストリヒト
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITEIT MAASTRICHT
【住所又は居所原語表記】Minderbroedersberg 4-6 Maastricht The Netherlands
(71)【出願人】
【識別番号】517079054
【氏名又は名称】アカデミシュ ジーケンハウス マーストリヒト
【氏名又は名称原語表記】ACADEMISCH ZIEKENHUIS MAASTRICHT
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン アペルドールン、アールト アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】デ フリース、リック
【テーマコード(参考)】
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA82
4C076BB32
4C076CC50
4C076EE03
4C076EE05
4C076EE10
4C076EE12
4C076EE24
4C076EE25
4C076EE26
4C076FF68
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB41
4C087BB42
4C087BB48
4C087BB50
4C087BB51
4C087BB52
4C087BB55
4C087BB57
4C087BB58
4C087BB60
4C087BB63
4C087MA67
4C087NA10
4C087ZC35
(57)【要約】
本発明は、対象内に細胞を移植するための開放型移植可能細胞送達デバイスに関する。本発明は、開放型移植可能細胞送達デバイスの構築方法、および開放型移植可能細胞送達デバイスに細胞を播種する方法にさらに関する。また、本発明は、治療方法に使用するためのデバイスにも関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象内に細胞を移植するための開放型移植可能細胞送達デバイスであって、
複数の孔を有する表面領域を有する下部フィルムと、
複数の孔を有する表面領域を有し、前記下部フィルムを実質的に覆って内部空間を形成するように前記下部フィルムの上に配置される上部フィルムと、を備え
前記下部フィルムおよび前記上部フィルムは生体適合性生体材料から形成され、
前記下部フィルムは複数のマイクロウェルを含み、前記マイクロウェルはその開放側で前記上部フィルムの表面領域に面するように配置され、
前記下部フィルムおよび任意に前記上部フィルムの孔径は、前記孔を通して前記開放型移植可能細胞送達デバイス内の血管新生または血管内殖を可能にするようなものである開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項2】
前記上部フィルムおよび前記下部フィルムの表面領域の平面内に配置されるように、前記下部フィルムの表面領域および前記上部フィルムの表面領域の実質的に周りに配置されている支持構造体をさらに含み、前記下部フィルムおよび前記上部フィルムは、前記上部フィルムと前記下部フィルムと前記支持構造体との間に、前記内部空間と周囲との間の接触を可能にする1つ以上の開口部を残すように、1箇所以上で前記支持構造体に取り付けられ、好ましくは前記支持構造体も生体適合性生体材料から形成される請求項1に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項3】
前記生体適合性生体材料が、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリ(エチレンテレフタレート(PET)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリアミド(PA)、ポリエチレン(PE)、ポリイミド(PI)、ポリアクリレート、ポリオレフィン、ポリスルホン(PSF)、テトラフルオロエチレン/ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ePTFE(発砲ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(乳酸)(PLA)またはそれらの組み合わせから選択される請求項1または2に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項4】
前記マイクロウェルの直径が200~1000μm、好ましくは250~950μm、より好ましくは300~900μmである請求項1~3のいずれか1項に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項5】
前記下部フィルムおよび任意に前記上部フィルムの孔径が5~100μm、好ましくは10~80μmより好ましくは15~60μm最も好ましくは20~55μmである請求項1~4のいずれか1項に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項6】
前記マイクロウェルが細胞を含み、好ましくは前記細胞はオルガノイドまたは細胞クラスターであり、より好ましくは前記細胞または前記細胞クラスターは、内分泌細胞もしくはサイトカイン産生細胞もしくはそれらの群であるか、またはこれらを含み、より好ましくは前記細胞または前記細胞クラスターは、膵島細胞、腎臓細胞、甲状腺細胞、胸腺細胞、精巣細胞、膵臓細胞またはそれらの群から選択されるか、あるいはより好ましくはオルガノイドは、腸管オルガノイド、胃オルガノイド、甲状腺オルガノイド、胸腺オルガノイド、精巣オルガノイド、肝臓オルガノイド、膵臓オルガノイド、上皮オルガノイド、肺オルガノイド、腎臓オルガノイド、ガストルロイド(胚オルガノイド)、芽球様細胞(胚盤胞様オルガノイド)、心臓オルガノイド、網膜オルガノイドまたは膠芽腫オルガノイドから選択される請求項1~5のいずれか1項に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項7】
前記マイクロウェルの直径が600~1000μm、好ましくは700~900μm、より好ましくは750~850μmであり、任意に前記ウェルが、ヒドロゲルによってカプセル化したオルガノイドまたは細胞クラスターを含む請求項1~4のいずれか1項に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項8】
前記下部フィルムおよび任意に前記上部フィルムの孔径が5~200μmである請求項7に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項9】
前記上部フィルム、前記下部フィルムおよび/または前記支持構造体のPVDFに注入された、またはコーティングされた薬剤を含む請求項1~8のいずれか1項に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項10】
互いに積み重ねられ、任意にスペーサーで分離された請求項1~9のいずれか1項に記載の開放型移植可能細胞送達デバイスを2つ以上積層したものを含む請求項1~9のいずれか1項に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項11】
疾患の治療、予防または寛解における使用のための請求項1~10のいずれか1項に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項12】
前記治療が糖尿病、好ましくは1型糖尿病の治療である請求項11に記載の使用のための開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項13】
開放型移植可能細胞送達デバイスを構築する方法であって、
複数の孔を有する表面領域を有し、複数のマイクロウェルをさらに含む下部フィルムを提供するステップと、
複数の孔を任意に有する表面領域を有する上部フィルムを、前記マイクロウェルの開口部が前記上部フィルムに面するように前記下部フィルム上に位置決めして、前記マイクロウェルと開放的に接触する前記下部フィルムと前記上部フィルムとの間に内部空間を形成するステップと、
任意に、支持構造体を、前記下部フィルムおよび前記上部フィルムの端部と少なくとも部分的に前記支持構造体が重なるように、前記下部フィルムと前記上部フィルムの組立体の実質的に周りに、前記下部フィルムおよび前記上部フィルムと同一平面上に位置決めするステップと、
前記下部フィルムと前記上部フィルムを2箇所以上でスポット溶着して、前記内部空間がアクセス可能な複数の開口部を残すように前記下部フィルムと前記上部フィルムを互いにおよび/または任意に前記支持構造体に取り付けるステップと、を備え、
前記下部フィルムおよび任意に前記上部フィルムの孔径は、前記孔を通して前記開放型移植可能細胞送達デバイス内の血管新生または血管内殖を可能にするようなものである開放型移植可能細胞送達デバイスを構築する方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか1項に記載の開放型移植可能細胞送達デバイスまたは請求項12に記載の方法によって得られるか、もしくは入手可能な開放型移植可能細胞送達デバイスに細胞を播種する方法であって、
細胞用容器をチューブの第1端と連結し、前記内部空間が前記細胞用容器と開放的に連通するように、前記開放型移植可能細胞送達デバイスの開口部を通して前記チューブの第2端を前記内部空間に挿入するステップと、
残りのすべての開口部が密閉されるように、前記開放型移植可能細胞送達デバイスの外側をクランプするステップと、
適した培地中に懸濁した細胞または細胞クラスターを前記細胞用容器に充填するステップと、
余分な培地を孔を通して排出しながら、前記細胞を前記細胞用容器から前記チューブを通して前記開放型移植可能細胞送達デバイスの前記内部空間に流すステップと、を備える細胞を播種する方法。
【請求項15】
前記細胞を、重力によって前記チューブを通して前記開放型移植可能細胞送達デバイスの前記内部空間に流す請求項14に記載の細胞を播種する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植可能な細胞送達デバイスの分野、特に、移植した細胞と宿主組織との相互接続を可能にする開放型の移植可能な細胞送達デバイス。そのようなデバイスは、膵島細胞などの細胞を対象内に移植するのに使用し得る。本発明は、デバイスの構築方法およびデバイスに細胞を入れる方法にさらに関する。さらに、本発明は、デバイスを対象内に移植することによる疾患または障害の治療における細胞を含む開放型の移植可能な細胞送達デバイスの使用に関連する。
【背景技術】
【0002】
ドナー細胞を患者に移植することは、様々な疾患の治療に有望な手段である。例えば、膵島細胞は糖尿病患者に移植することができる。現在、臨床的な膵島移植は、血糖値をコントロールするために外因性インスリン投与がもはや使用できない1型糖尿病の最も重症の症例を治療するための最も有望な最小侵襲療法である。この治療法では、死亡したドナーの膵臓を採取し、膵島を分離して1型糖尿病患者に移植する。膵臓そのものは、消化酵素の漏出の可能性や膵炎の危険性が高いため、膵島の移植部位としては適していないと考えられている。したがって、門脈を介した膵島の肝移植が、臨床的な膵島移植のゴールデンスタンダードとなっている。この20年間で、膵島の分離と移植プロトコールが大きく進歩したにもかかわらず、膵島移植後5年でインスリン自立を示す患者は40%未満であり、さらに10年後には30%に減少する。さらに、膵島移植は、移植後数時間以内に移植膵島の60%が失われることと関連しており、1型糖尿病患者1人を治癒させるために平均2~3人のドナーが必要であることを説明している。この膵島量の経時的減少は、特に機械的ストレス、血管障害による膵島への酸素流不足、肝臓内の即時血液介在性免疫反応の存在によって引き起こされる。膵臓内の膵島の酸素圧は30~40mmHgと報告されているが、膵島には高密度の毛細血管網が存在するため、動脈血の酸素圧(80~100mmHg)近くまで上昇する可能性がある。移植膵島はおよそ14日で再灌流することが知られているが、3ヵ月後でも肝内移植膵島は相対的に低い酸素圧(10mmHg未満)を示す。さらに、一般的に使用される免疫抑制剤は経口投与され、肝臓で最も高い薬物濃度となる初回肝通過がある。免疫抑制剤は膵島に対して毒性があることが示されているので、これは膵島傷害の一因となりうる。マクロカプセル化インプラント(植え込み型細胞送達デバイス)の助けを借りて、膵島を肝外移植部位に提供することは、移植の成功を向上させるものと推測される。
【0003】
2つのタイプのマクロカプセル化移植可能細胞送達デバイスがある。1つは、高分子はデバイスに出入りできるが、細胞はできない「閉鎖型」免疫保護デバイスである。例えば、デバイスの孔径を0.45ミクロン未満に制御する。機能的な閉鎖型(免疫保護)移植可能細胞送達デバイスの製造は、免疫細胞をブロックするために必要な小さな孔径が、栄養素や例えばインスリンの拡散を制限するため、依然として困難である。もう一つのグループは、特に膵島再灌流を刺激することを目的とした、細胞がデバイスに出入りできる「開放型」デバイスである。
【0004】
現在市販されているか試験中の開放型移植可能細胞デバイス、例えばViaCyte社のVC-02またはPEC-Directデバイス[A safety,Tolerability,and Efficacy Study of VC-02 Combination Products in Subjects With Type 1 Diabetes Mellitus and Hypoglycemia Unawareness.https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03163511]がある。このデバイスは開放型であるため、移植後、細胞の迅速な再灌流が促される。このような開放型インプラントの移植後にも免疫抑制剤を使用することは可能であるが、細胞はより刺激の少ない環境で移植することができる。さらに、現在この分野で開発されているように、免疫反応を回避するように細胞を操作すれば、免疫抑制剤は必要でなくなり得る。このことは、移植に必要なドナーの臓器の量を減らすことにつながる可能性があり、膵島細胞の移植の場合、血糖値の維持が改善され、外因性インスリン注射の必要性が減少するか、あるいはなくなる可能性があり、長期的な合併症のリスクも低下する。
【0005】
既存の開放型デバイスの欠点は、細胞が凝集しやすいことである。細胞の凝集は、栄養分と酸素の欠乏により細胞塊の中心部で細胞の壊死を引き起こす傾向がある。凝集を防ぐ方法は、細胞(または細胞クラスター)をヒドロゲルに埋め込むことである。しかしながら、この解決法の欠点は、ヒドロゲルに埋め込むと再び栄養分やタンパク質の拡散が妨げられ、開放型デバイスの利点が部分的に損なわれてしまうことである。したがって、改良された開放型デバイスが必要とされている。
【0006】
本発明者らは以前に、マウスにおいて化学的に誘導された糖尿病を逆転させるために首尾よく使用された開放型マイクロウェルアレイ膵島送達戦略を報告した(Buitinga,M.ら、Microwell scaffolds for the extrahepatic transplantation of islets of Langerhans.PLoS One,2013.8(5):p.e64772;Buitinga,M.,et al.,Micro-fabricated scaffolds lead to efficient remission of diabetes in mice.Biomaterials,2017.135:p.10-22;両文献とも参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。本明細書に記載のデバイスは、上記の問題のいくつかに対処する。このデバイスは、2枚の薄い多孔性ポリマーフィルムからなる。一方のフィルムは、この膵島送達デバイスに特有の特徴であるマイクロウェルの高密度アレイが刻印されている。もう一方のフィルムは蓋の役割を果たし、マイクロウェル内に播種された膵島を包み込む。全体として、このデバイスは膵島を物理的に保護する一方で、シートの孔が再灌流を可能にする。マイクロウェル構造によって、個々の膵島を各マイクロウェルに確実に捕らえることができ、デバイス全体に膵島が均一に分布し、膵島の凝集が防止され、それによって膵島細胞の生存率の低下が抑えられる。
【0007】
しかしながら、マイクロウェルアレイ移植可能細胞送達デバイスにはいくつかの欠点がある。このデバイスは特定のPolyActive(商標)組成物から作られているが、臨床使用は承認されていない。最近、この材料が細胞の壊死を誘発するのではないかという懸念が提起されており、細胞送達デバイスとしては望ましくない。さらなる欠点は、マイクロウェルパターンのフィルムは蓋を縫合することで閉じられるが、これは煩雑であり、比較的壊れやすいデバイスになるということである。また、このデバイスは2枚の薄い膜で構成されているだけで、機械的安定性に欠き、デバイスの折りたたみが可能である。最後に、ヒトの患者に臨床的に適切な大きさまでデバイスを大きくすると、移植手術が困難な大きさになる。
【0008】
本発明は、添付の特許請求の範囲に定義される開放型デバイスによって、特に上記の問題を解決する。
【発明の概要】
【0009】
第1の態様では、本発明は、対象内に細胞を移植するための開放型移植可能細胞送達デバイスに関する。該デバイスは、
複数の孔を有する表面領域を有する下部フィルムと、
複数の孔を有する表面領域を有し、下部フィルムを実質的に覆って内部空間を形成するように下部フィルムの上に配置される上部フィルムと、
を備え、
下部フィルムおよび上部フィルムは生体適合性の生体材料から形成され、
下部フィルムは複数のマイクロウェルを含み、前記マイクロウェルはその開放側で上部フィルムの表面領域に面するように配置され、
下部フィルムおよび任意に上部フィルムの孔径は、孔を通してデバイス内の血管新生または血管内殖を可能にするようなものである。
【0010】
第2の態様では、本発明は、疾患の治療、予防または寛解に使用するための、本発明の第1の態様に従う開放型移植可能細胞送達デバイスに関する。
【0011】
第3の態様では、本発明は、開放型移植可能細胞送達デバイスの構築方法に関する。該方法は、複数の孔を有する表面領域を有し、複数のマイクロウェルをさらに含む下部フィルムを提供するステップと、マイクロウェルの開口部が上部フィルムに面するように、複数の孔を有する表面領域を有する上部フィルムを下部フィルム上に位置決めして、マイクロウェルと開放的に接触する下部フィルムと上部フィルムとの間に内部空間を形成するステップと、任意に、支持構造体を、下部フィルムおよび上部フィルムの端部と支持構造体が少なくとも部分的に重なるように、下部フィルムと上部フィルムの組立体の実質的に周りに、これらのフィルムと同一平面上に位置決めするステップと、下部フィルムと上部フィルムを2箇所以上でスポット溶着して、内部空間がアクセス可能な複数の開口部を残すように下部フィルムと上部フィルムを互いにおよび/または支持構造体に取り付けるステップと、を備え、下部フィルムおよび任意に上部フィルムの孔径は、孔を通してデバイス内の血管新生または血管内殖を可能にするようなものである。
【0012】
第4の態様では、本発明は、本発明の第1の態様で定義されるか、または本発明の第3の態様に従う方法によって得られるかもしくは入手可能な開放型移植可能細胞送達デバイスに細胞を播種する方法に関する。該方法は、細胞用容器をチューブの第1端と連結し、内部空間が容器と開放的に連通するように、開放型移植可能細胞送達デバイスの開口部を通してチューブの第2端を内部空間に挿入するステップと、残りのすべての開口部が密閉されるように開放型移植可能細胞送達デバイスの外側をクランプするステップと、適した培地中に懸濁させた細胞を容器に充填するステップと、余分な培地を孔を通して排出しながら、細胞を容器からチューブを通して開放型移植可能細胞送達デバイスの内部空間に流すステップと、を備える。
定義
【0013】
以下、本発明の目的のために、以下の用語を定義する。
【0014】
本明細書で、単数形の「A」「an」および「the」は、特段の明示がない限り、複数の参照語を含む。したがって、例えば、単数形の「細胞」への言及は、2つ以上の細胞の組み合わせなどを含む。
【0015】
本明細書で、「および/または」は、記載されたケースの1つ以上が、単独で、または記載されたケースの少なくとも1つと組み合わせて、最大で記載されたケースのすべてと組み合わせて起こりうる状況を指す。
【0016】
本明細書で、「少なくとも」特定の値は、その特定の値以上を意味する。例えば、「少なくとも2」は、「2以上」すなわち、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15・・・などと同じであると理解される。本明細書で、「多くとも」特定の値は、特定の値以下を意味する。例えば、「多くとも5」は、「5以下」すなわち、5、4、3・・・-10、-11などと同じであると理解される。
【0017】
本明細書で、「comprise」または「comprises」や「comprising」などのその変形は、記載された要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップのグループを含むが、他の要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップのグループを除外するものではないと理解される。動詞「comprising」は、動詞「から本質的になる(essentially consisting of)」および「からなる(consisting of)」を含む。
【0018】
本明細書で、「従来技術」という用語は、本発明の方法において使用される従来技術の実施方法が当業者に明らかである状況を指す。分子生物学、生化学、計算化学、細胞培養、組織工学、再生医学、組換えDNA、バイオインフォマティクス、ゲノミクス、配列決定および関連分野における従来技術の実施は、当業者に周知であり、例えば、以下の文献に記載されている:Sambrookら、Molecular Cloning.Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989;Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,New York,1987 and periodic updates;and the series Methods in Enzymology,Academic Press,San Diego。
【0019】
本明細書で、「生体外」は、自然の状態から分離された生物の成分を用いて行われる実験または測定を指す。
【0020】
本明細書で、「対象」または「個体」または「動物」または「患者」または「哺乳類」という用語は互換的に使用され、診断、予後、または治療が望まれる任意の対象、特に哺乳類の対象を指す。哺乳類の対象としては、ヒト、家畜、農耕動物、およびイヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ウシ、クマなどの動物園動物、スポーツ動物、またはペット動物が挙げられる。本明細書で定義されるように、対象は生きていても死んでいてもよい。試料は、対象から死後、すなわち死亡後に採取することができ、および/または試料は、生きている対象から採取することができる。
【0021】
本明細書で、「治療」、「処置」、「緩和」、「軽減」または「改善」という用語は、互換的に使用され、治療上の利益を含むがこれらに限定されない有益なまたは所望の結果を得るためのアプローチを指す。治療上の有益性とは、治療される基礎疾患の根絶、改善、または進行の軽減(または遅延)を意味する。また、治療的利益は、患者が依然として基礎疾患に罹患している可能性があるにもかかわらず、患者において改善または低下の減速または減少が観察されるような、基礎疾患に関連する1つまたは複数の生理学的症状の根絶または改善または進行の減少(または遅延)により達成される。
【0022】
本明細書で、「移植可能な細胞送達デバイス」は、と「移植デバイス」、「細胞送達デバイス」、「移植可能なデバイス」、「マクロカプセル化インプラント」または単に「デバイス」もしくは「インプラント」と互換的に使用され、細胞を保持するのに適した筐体を指し、その筐体は対象への移植を意図している。従って、このデバイスは対象に細胞を移植するためのビヒクルの役割を果たす。従って、このデバイスは対象に移植するのに適した材質のものであり、生きた細胞を含むのに適した構造になっているものと考えられる。
【0023】
本明細書で、移植可能な細胞送達デバイスに言及する際の「開口部」という用語は、デバイス内での血管新生や脈管侵入を可能にする1つ以上の開口部をデバイスが有することを意味する。本発明の目的上、開口部とは細孔を指す。したがって、「開口」という用語は、栄養拡散を可能にするために存在する孔を意味する。このように、開口型デバイスの孔の大きさは、デバイス内への脈管の侵入を可能にし、さらに細胞がデバイス内に入ることを可能にするようなものである。このように、開放型デバイスは、血管の伸長と細胞のデバイス内への進入を可能にするのに十分な大きさの孔径を有する孔を有する。同様に、移植可能な細胞送達デバイスに言及する場合、「閉鎖型」という用語は、デバイスが栄養分や酸素の拡散を許すが、デバイス内部での血管新生や細胞のデバイス内への進入を許さず、したがって血管新生を許すには小さすぎる細孔や開口部からなることを意味する。
【0024】
本明細書で「血管内殖」および「血管新生」は互換的に使用され、新しく発達した血管が少なくとも部分的にデバイスの内部空間に入り、特に栄養および酸素の交換を可能にするように、デバイスの開口部を通して血管系が新生することを指す。
【0025】
本明細書で使用する場合、膵島細胞は、ランゲルハンス島としても知られ、インスリンを産生するβ細胞などを含む膵島細胞を指す。この用語には、一次膵島も含まれる。
【0026】
本明細書で使用する場合、インプラントデバイスに使用されることを意図した細胞を指す場合の「細胞」という用語は、細胞クラスターまたはオルガノイドを指す。さらに「細胞クラスター」に言及する場合、この用語は「オルガノイド」を含むと理解される。したがって、細胞を指す場合の「クラスター」という用語は、「オルガノイド」という種の属とみなされる。したがって、本明細書において細胞クラスターと呼ばれる場合、オルガノイドも含まれる。
【0027】
本明細書で使用する場合、「生体適合性」は、その療法のレシピエントまたは受益者において望ましくない局所的または全身的影響を誘発することなく、医療療法に関してその所望の機能を果たす生体材料の能力を指す。望ましくない局所的または全身的影響の非限定的な例としては、生物学的系に対する毒性または傷害作用が挙げられる。
【0028】
本明細書で使用する場合、「生体材料」は、医療目的のために生体系と相互作用するように設計された物質を指す。具体的には、本明細書において生体材料とは、移植可能な細胞送達デバイスまたはその個々の構成要素を指す。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】膵島カプセル化用の多孔性熱成形マイクロウェルアレイ下部フィルムを作成するための、ポリマーフィルムの段階的な微細加工工程を示す図である。走査型電子顕微鏡(SEM)による(上段)溶媒キャストPVDFと(下段)PVDFフィルムのレーザー穿孔および熱成形(E、F)の画像。視野はガラス側(A)、空気側(B)、上面(D、E)、断面(C、F)。(G、H)マイクロ熱成形前(G)と後(H)のPVDFとPolyActiveの平均孔径、およびマイクロ熱成形フィルムのウェル深さ(I)の定量化。データは平均値±SD、*p<0.05で表される。
【
図2】開放型PVDFマイクロウェルアレイインプラントの組み立てを示す図である。A)インプラントの設計(中央)の断面図と、多孔質の蓋(左上、上面図)、マイクロウェルアレイ熱成形フィルム(右上、断面図)、支持リングの表面(左下、上面図)、超音波溶着されたポイントシール(右下、上面図)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真による詳細。B)直径8mmの領域に300個のマイクロウェルが入ったマウスサイズのインプラント(4点で密封)。挿入図は、このマウスサイズのインプラント内に播種されたラット膵島の分布を示す。(C)破壊応力(D)ピーク応力(E)破壊歪みおよび(F)ポリマー薄膜(N=10)およびフィルムと支持リング間の超音波(US)溶着シール(N=6)のヤング率。データは平均値±SDで表される。
【
図3】ラットの膵島は、マウスサイズのインプラントで7日間培養しても、生存可能で機能的なままであることを示す図である。(A-I)1日目(上段)と7日目(中段)に自由浮遊コントロールとして培養した膵島と、7日目にインプラント内で培養した膵島(下段)の生死染色。蛍光顕微鏡像(左2列)は、生きている膵島(緑;A、D、G)と死んでいる膵島(赤;B、E、H)を示す。明視野顕微鏡像(C、F、I)は培養環境中の膵島を示す。(J)膵島の生死染色(A-I)を定量すると、インプラントに播種された膵島は7日目には自由浮遊のコントロールと比較して同程度の生存率を示した。(K)1.67mM、16.7mMおよび1.67mMのグルコースで交互に膵島を培養したグルコース刺激インスリン分泌(GSIS)試験中のラット膵島の分泌インスリン。(L)ラット膵島の刺激指数の経時変化。刺激指数>2(赤線)を示す膵島は機能的であると考えられる。データ(生存率については10個以上の膵島、インスリン分泌についてはn=3)は平均値±SD、*p<0.05で表される。
【
図4】大型動物およびヒトサイズのインプラントへの開放型移植可能細胞送達デバイスのスケールアップを示す図である。インプラント寸法を、ラット(3000IEQ保持)、ミニブタ(13,000IEQ保持)およびヒトサイズ(200,000、450,000、または700,000IEQ保持)のインプラントへ拡大した。インプラント寸法は内径×外径で示される。グリッドパターンの各四角は、1cm
2を表す。1IEQ/ウェルのインプラント1つ(黒)、2IEQ/ウェルのインプラント1つ(灰色)、2IEQ/ウェルのインプラント2つ(白)を通して膵島が分布しているいくつかのインプラント寸法が示されている。
【
図5】ラットの膵島は、ラットサイズのインプラントで7日間培養しても生存可能で機能的であることを示す図である。(A-F)コントロール(自由浮遊膵島、上段)とインプラント内で500IEQ/cm
2(300IEQ/mL)の密度で培養した膵島(2段目)の培養7日目における生死染色。蛍光顕微鏡像(左2列)は、生きている膵島(緑;A、D)と死んでいる膵島(赤;B、E)を示す。明視野顕微鏡(C,F)は培養環境中の膵島を示す。G)膵島の生死染色(A-F)の定量化は、7日目において、インプラントに播種された膵島の生存率が、自由浮遊のコントロールと同程度であることを示している。H)1.67mM、16.7mMおよび1.67mMのグルコースで交互に膵島を培養したグルコース刺激インスリン分泌(GSIS)試験中のラット膵島の分泌インスリン。I)ラット膵島の刺激指数の経時変化。刺激指数>2(赤線)を示す膵島は機能的であると考えられる。データ(生存率については10個以上の膵島、インスリン分泌についてはn=3)は平均値±SD、*p<0.05で表される。
【
図6】ヒト膵島はラットサイズのインプラントで7日間培養しても生存し、機能的であることを示す図である。(A-I)150IEQ/cm
2で培養したコントロール(浮遊膵島)(上段)、600IEQ/cm
2で培養したコントロール(2段目)、インプラント内で600IEQ/cm
2の密度で培養した膵島(3段目)の培養7日目における生死染色。蛍光顕微鏡像(左2列)は、生きている(緑;A、D、G)膵島細胞と死んでいる(赤;B、E、H)膵島細胞を示す。明視野顕微鏡像(C,F,I)は、培養環境における膵島を示す。J)膵島の生死染色の定量化(A-I)は、1日目と7日目において、自由浮遊のコントロールと比較して、インプラントに播種された膵島の生存率が同程度であることを示している。K)1.67mM、16.7mMおよび1.67mMのグルコースで交互に膵島を培養したグルコース刺激インスリン分泌(GSIS)試験中のヒト膵島の分泌インスリン。L)ラット膵島の刺激指数の経時変化。刺激指数>2(赤線)を示す膵島は機能的であると考えられる。データ(生存率については10個以上の膵島、インスリン分泌についてはn=3サンプル)は平均値±SDで表される。
【
図7】超音波溶着によるインプラント組み立てプロセスを示す図である。A)Branson LPX手動超音波溶着システム。B)支持リングの上に熱成形PVDFフィルムと多孔質PVDF蓋を乗せた開放インプラント(1)の組み立てを示す超音波(US)溶着の手順。手動溶着機の先端にあるソノトロードは、ポリマーフィルムに伝達される40kHzの高周波超音波音響振動を引き起こし、PVDFフィルムの局所的溶融(2)とアニーリング(3)を誘発する。(C,D)ステンレス製の底部とテフロン製の上部からなる、マウスサイズ(C)とラットサイズ(D)のインプラント用US溶着ガイド。赤い円筒はUS溶着機の先端を示す。E,F)これらの型を用いて製造された実際のUS溶着インプラント:E)4点シールされたマウスサイズのインプラント、F)7点シールされたラットサイズのインプラント。
【
図8】開放型の細胞送達デバイスの播種手順を示す図である。(A)レトルトスタンド、ビュレットクランプ、細胞容器(シリンジ)、ストップコック、供給カテーテル、細胞播種クランプを含む、重力ベースの細胞播種用セットアップ。(B)デバイスの上面図。(上)播種口から挿入された供給カテーテル。(中)外側の境界をクランプせずに細胞を播種すると、流体がポイントシールの間の大きな開口部で最も抵抗の少ない経路をたどるため、細胞が失われる。(下)播種クランプによる細胞播種。デバイス外部での細胞の損失を防ぐ。(C)クランプを締めるネジと蝶ナットを含む播種ツールの構成部品。クランプにはシリコンリング用の切り欠きがあり、開放型細胞送達デバイスの締め付けを堅いが穏やかなものにする。ナットは播種口に近いネジに配置され、傾きを作って播種口から液体が失われるのを防ぐ。(D)マウスサイズまたは(E)ラットサイズの開放型の細胞送達デバイス用の播種クランプの例。
【
図9】PVDFのレーザー微細加工は、PVDFフィルムの化学組成を燃やさないことを示す図である。(A)EDXを実施した場所の後方散乱像。PVDFフィルムの炭素およびフッ素の含量を、原子%(B)または質量%(C)で示す。炭素含有量の上昇がないことは、材料が燃焼していないことを示している。
【
図10】PolyActiveを段階的に変化させると、PVDFフィルムと同様のマイクロウェル寸法になることを示す図である。(上段)溶媒キャストしたPolyActive、(下段)PolyActiveフィルムのレーザー穿孔および熱成形(E、F)の走査電子顕微鏡(SEM)写真。図は、ガラス面(A)、空気面(B)、上面(E)、断面(C、F)である。レーザー穿孔したPolyActiveフィルムは15μmの孔径を示す(D、実体顕微鏡像)。PVDFおよびPolyActive薄膜の機械的特性:(G)ヤング率、(H)ピーク応力、(I)破壊応力、(J)破壊歪み。
【
図11】臨床膵島移植の改善のためのマクロカプセル化開放膵島送達戦略の最適化を示す図である。A)肝外マイクロウェルアレイ膵島送達デバイスの作動原理。膵島はマイクロウェル上に分散され、膵島が凝集して壊死コアを持つ大きな構築物が形成されるのを防ぐ。デバイスの多孔性の性質は、膵島の迅速な再灌流を可能にし、膵島の生存能力と機能性を維持する。したがって、血糖値の上昇は、移植された膵島によるインスリンの放出によって補うことができる。B)デバイスのこの平面的な構成は、外科的に移植が困難なサイズのデバイスにつながる。C)デバイスの大型化のために膵島の充填密度を高める場合、スケールアップとしては、層の積み重ね、マイクロウェルの密な充填、マイクロウェルの過充填などが考えられる。D)膵島周囲の局所酸素濃度のシミュレーションに使用した計算モデルの領域と酸素供給境界条件。E)酸素値は、マイクロウェル全体の酸素勾配のシミュレーションを可能にするメッシュ上でシミュレーションされた。メッシュは膵島界面でより精緻化された。
【
図12】低酸素染色強度は、INS1E偽膵島の直径が大きくなるにつれて増加することを示す図である。直径200μmのアガロースチップA)50細胞、B)100細胞、C)250細胞、または直径400μmのアガロースチップD)500細胞、E)750細胞、F)1000細胞での3日間のインキュベーションにわたる単一INS1E細胞の播種と凝集。スケールバーは400μmを表す。G)偽膵島直径の定量化。低酸素(5%O
2、H)または正常酸素(21%O
2、J)培養後の偽膵島を低酸素(緑)およびHoechst(青)で染色した。次に染色強度を定量し、シグナル対ノイズ比で表した(Iは低酸素、Kは正常酸素)。赤いバーは低酸素の閾値を示す。データは平均値±SD、*p<0.05で表される。
【
図13】ヒト膵島の生体外低酸素染色とコンピューターによる計算酸素消費モデルの両方を通して決定された、局所酸素レベルに対する膵島直径の重要性を示す図である。低酸素(5%O
2、A)または正常酸素(21%O
2、B)培養後のヒト膵島を低酸素(緑)およびHoechst(青)で染色した。スケールバーは150μmを表す。C)低酸素染色強度を定量し、シグナル対ノイズ比で表した。データは平均値±SD、*p<0.05で表される。直径D)50μm、E)100μm、F)150μm、G)200μm、H)250μmの膵島の計算酸素消費モデリング結果。I)酸素レベルは、
図D~H)に示される2つの膵島の中心を通る線上に可視化された。
【
図14】2つの膵島の間の最適な距離は、それらの直径によって決まることを示す図である。大きさの異なる膵島(直径50~250μm、Y軸)を0~500μm(X軸)の範囲で取り囲む局所酸素濃度。低酸素閾値は5%O
2(水色)であった。
【
図15】マイクロウェルは、深刻な酸素競合を引き起こすことなく、小さな偽膵島で過剰充填することができることを示す図である。A)マイクロウェルに似た領域(幅400μm、高さ250μm)内に保持された異なるサイズの膵島のシミュレーション。膵島の直径は50μm(左列)、100μm(中列)、150μm(右列)の間であった。膵島密度はマイクロウェルあたり2つ(1列目)、3つ(2列目)、4つ(3列目)の範囲内であった。正常酸素条件下で培養したINS1E偽膵島の代表的な画像は、B)50μm前後、C)100μm前後、D)150μm超の膵島径で集合している。低酸素症は、INS1E細胞の低酸素症閾値(SNR=3.0)を超えたことから、膵島の直径が最大のグループでのみ観察された。
【
図16】複数のデバイス層を積み重ねると、3層構造のデバイスでは低酸素状態になることを示す図である。図は、特定のデバイス組立体(左)、直径150μmの膵島の局所O
2濃度(中央)、および構築物の中央で膵島を通る破線の垂直線上の局所酸素濃度の定量(右)を示す。1列目:1層デバイス、2列目:層間距離300μmの2層デバイス、3列目:層間距離600μmの2層デバイス、4列目:層間距離300μmの3層デバイス、5列目:層間距離600μmの3層デバイス。
【
図17】マイクロウェルアレイ膵島送達デバイスの最適充填密度を示す図である。A)2層のマイクロウェルアレイ膵島送達デバイス内の膵島の最適な設計および播種分布。層間距離300μmで構成されたセンチネル2層マイクロウェルデバイスの上面図であり、スケールバーは1cmを表す(左)。二層構築物の各層への充填の可能性を示す、2本の供給カテーテルを挿入されたデバイスの正面図(中央)。層は超音波による点溶着で連結され、自由な酸素拡散と組織内殖を可能にするデバイスの開口端をもたらす(右)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書で使用されている各項の見出しは、整理の目的のみのものであり、記載されている主題を限定するものとして解釈されるものではない。
【0031】
本発明の一部には、著作権保護の対象となる資料が含まれている(図、デバイス写真、またはあらゆる法域で著作権保護が利用可能であるか、または利用可能である可能性のあるこの提出物のその他の側面が含まれるが、これらに限定されない)。著作権所有者は、特許庁の特許ファイルまたは記録に記載されている特許文書または特許発明のファクシミリ複製について何ら異議を唱えるものではないが、それ以外のすべての著作権を留保する。
【0032】
本発明の方法、組成物、用途およびその他の態様に関する様々な用語が、明細書および特許請求の範囲を通して使用されている。このような用語は、特に指示がない限り、本発明が関連する技術分野における通常の意味を与えられる。他の具体的に定義された用語は、本明細書で提供される定義と一致する方法で解釈される。好ましい材料および方法は本明細書に記載されているが、本明細書に記載されているものと類似または同等の任意の方法および材料を、本発明の試験の実施に使用することができる。
【0033】
別段の定めがない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0034】
本発明は、例えば疾患を治療する手段として、対象に細胞を移植することを意図した開放型の移植可能な細胞送達デバイスに関する。移植治療に使用され得る例示的な細胞は、糖尿病の治療における膵島細胞であるが、移植による治療方法に使用され得る他の細胞も当業者に知られている。
【0035】
どのような高分子デバイスの移植でも、人体が異物を隔離し、外への拡散を防ごうとする最終的な試みとして、線維層の形成につながる。細胞送達デバイス周囲の線維性組織層を最小化することは重要である。なぜなら、線維性組織層はインプラントへの酸素や栄養素の拡散距離を増大させ、細胞への血管系の成長を阻害するからである。膵臓β細胞に対する生体適合性バイオマテリアル・スクリーニングの結果、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が有望な候補の一つであることが示された。PVDFは現在、縫合糸、小さな角膜開口部インレー、ヘルニア修復用メッシュとして臨床で使用されている。PVDFは生体適合性が高く、ポリプロピレンのような従来のポリマーに比べて線維組織の形成が少ない。他の生体適合性生体材料が当業者に既知であり、限定されないが、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリ(エチレンテレフタレート(PET)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリアミド(PA)、ポリエチレン(PE)、ポリイミド(PI)、ポリアクリレート、ポリオレフィン、ポリスルホン(PSF)、テトラフルオロエチレン/ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ePTFE(発泡ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(乳酸)(PLA)またはそれらの組み合わせがある。
【0036】
本発明者らは、臨床的に承認されたPVDFから、臨床的に適切なサイズのインプラントにスケールアップ可能な、オープン型マイクロウェルアレイ移植可能細胞送達デバイスの作製について述べている。概念実証として、マウスサイズのインプラントを作製し、初代ラット膵島を播種し、7日間の生体外培養における膵島の生存率とβ細胞の機能性を評価した。マウスサイズのデバイスの設計は、ラットサイズの開放型膵島インプラントにスケールアップされ、その後、ラット膵島またはヒト膵島のインプラントが作製され、7日間の生体外培養における膵島生存率と機能性が評価された。
【0037】
したがって、第1の態様では、本発明は、対象内に細胞を移植するための開放型移植可能細胞送達デバイスに関する。該デバイスは、
複数の孔を有する表面領域を有する下部フィルムと、
複数の孔を有する表面領域を有し、下部フィルムを実質的に覆って内部空間を形成するように下部フィルムの上に配置される上部フィルムと、を備え、下部フィルムおよび上部フィルムは、生体適合性生体材料から形成され、下部フィルムは複数のマイクロウェルを含み、前記マイクロウェルはその開放側で上部フィルムの表面領域に面するように配置される。好ましくは、下部フィルムおよび任意に上部フィルムの孔径は、孔を通してデバイス内の血管新生または血管内殖を可能にし、細胞がデバイスに入ることを可能にするようなものである。
【0038】
一実施形態では、開放型移植可能細胞送達デバイスは、支持構造体が上部フィルムおよび下部フィルムの表面領域の平面内に配置されるように、下部フィルムの表面領域および上部フィルムの表面領域の実質的に周りに配置されている支持構造体をさらに含み、下部フィルムおよび上部フィルムは、上部フィルム、下部フィルムおよび支持構造体との間に1つ以上の開口部を残すように、1箇所以上で支持構造体に取り付けられ、内部空間と周囲との間の接触を可能にする。好ましくは支持構造体も生体適合性生体材料から形成される。
【0039】
一実施形態では、生体適合性生体材料は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリ(エチレンテレフタレート(PET)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリアミド(PA)、ポリエチレン(PE)、ポリイミド(PI)、ポリアクリレート、ポリオレフィン、ポリスルホン(PSF)、テトラフルオロエチレン/ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ePTFE(発砲ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(乳酸)(PLA)またはそれらの組み合わせから選択される。
【0040】
多くの移植部位や移植で懸念されるように、移植片の最適な生存と機能を確保するためには、適切な(再)血管新生が不可欠である。例えば、膵島は高い代謝活性を示すため、生存のためには酸素と栄養素への迅速なアクセスが必要である。したがって、移植片への拡散距離と血管系への侵入距離の両方を減少させるために、送達デバイスができるだけ薄く多孔質であることが極めて重要である。従って、本発明の目的は、特に、細胞送達を実現するための開放型マクロカプセル化細胞送達デバイスを作製し、臨床的に適切なデバイス寸法に向けてインプラントの設計を拡大することである。
【0041】
本明細書で述べる移植可能な細胞送達デバイスの独特なマイクロウェルの特徴は、デバイス内の膵島のような細胞クラスターの空間分布を制御することを可能にし、それによって複数の細胞クラスターがさらに凝集して大きな細胞凝集体になることや、凝集した細胞クラスターに低酸素コアが形成されることを効果的に防止する。ここでは、デバイス内の膵島充填密度を高めるために、理想的なクラスター間(例えば膵島-膵島)の距離、マイクロウェルの過充填の程度、および複数のマイクロウェル層を重ねる可能性を評価した。これらの戦略は、生体外実験と膵島周囲の局所酸素レベルのコンピューターによるモデリングの組み合わせによって検討された。開放デバイスのスケールアップしたバージョンの予測されたデバイス寸法は、腹膜前部位での移植に適したデバイス寸法で、臨床的に適切な数の膵島を収容できることが示された。このモデルは膵島に基づくパラメータに基づいているが、この原理は他の細胞やオルガノイドのタイプにも適用でき、最適なデバイスの寸法を予測することができる。
【0042】
本発明に従う移植可能な細胞送達デバイスは、対象に細胞を移植することを意図している。実施例では、膵島細胞を移植するためのデバイスのデータを提供したが、他の細胞タイプ、細胞タイプの組み合わせ、オルガノイド、または組織や器官の(一部)を移植可能な細胞送達デバイスに含めることができることを理解されたい。本デバイスは対象に移植することを意図しているので、デバイスの寸法だけでなく、生体適合性でなければならない使用材料などにも一定の制限がある。寸法は、デバイスが植え込まれることを意図する対象に依存し得ることが理解される。本明細書で使用する場合、対象は、齧歯類、哺乳類、ヒトなどの動物を指すことがある。したがって、移植可能な細胞送達デバイスの大きさの制限は、例えばマウスとヒトとでは異なるが、同じ種内でさえ、例えば体格の違いが移植可能な細胞送達デバイスの大きさに影響する可能性がある。デバイスの大きさは、植え込み型細胞送達デバイスに含まれることを意図する細胞の種類によってさらに影響を受ける。当業者であれば、特に対象と移植される細胞の種類に基づいて、インプラントのおおよその望ましい大きさを推定することができる。
【0043】
本発明に従う移植可能な細胞送達デバイスは、複数の孔を有する表面領域を有する下部フィルムと、複数の孔を有する表面領域を有し、下部フィルムを実質的に覆って内部空間を形成するように下部フィルムの上に配置される上部フィルムと、を備える。下部フィルムを含む複数のマイクロウェル、これらのウェルの開口部内部空間に面する。ウェルは細胞を保持するためのものである。したがって、内部空間は、好ましくは、細胞(例えば細胞クラスターまたはオルガノイド)が上部フィルムによってウェルの定位置に多かれ少なかれ保持され、細胞がデバイス内部で自由に動かないようになっている。上部フィルムおよび下部フィルムの両方に、細胞に対する栄養および酸素の拡散を可能にし、任意に、分泌される因子が細胞からデバイスの外へ排出されるようにする複数のホール(孔)がある。分泌される因子の非限定的な例はインスリンである。さらに孔径は、血管内殖および細胞のデバイス内への進入を可能にするように十分に大きいものである。
【0044】
本明細書で使用する場合、フィルムは、薄くて平坦な材料を指す。本明細書で使用する場合、フィルムの表面領域は、その表面側を指す。本明細書で使用する場合孔は、フィルムを完全に貫通し、したがってフィルムの一方の側から他方の側への例えば分子の通過を可能にする、フィルムの開口部または空洞を指す。本明細書で使用する場合孔は、血管内殖および細胞のデバイス内への進入を可能にするのに十分に大きいものである。
【0045】
本発明に従う移植可能な細胞送達デバイスは、任意に、支持構体をさらに備え、支持構造体は、上部フィルムおよび下部フィルムの表面領域の平面内に配置されるように、下部フィルムの表面領域および上部フィルムの表面領域の実質的に周りに配置されている。支持構造体は、例えば、楕円形または円形であってもよいが、どのような形状であってもよいことが理解される。理想的には、支持構造体の形状は、上部フィルムおよび下部フィルムの輪郭に沿う。例えば、下部フィルムおよび上部フィルムが楕円形状を有する場合、支持構造体は、好ましくは、下部フィルムおよび上部フィルムの縁に沿った楕円形状の環である。支持構造体は開口部を有してもよく、例えば支持構造体はU字形状でもよいことが理解される。
【0046】
デバイスは、追加の支持構造体を備えてもよいことが理解される。例えば、本発明に従う開放型の移植可能な細胞送達デバイスは、1つ以上の追加の支持構造体を備えてもよく、好ましくは前記1つ以上追加の支持構造体は、は、下部フィルムおよび上部フィルムに対してより中央に配置される。
【0047】
支持構造体の機能は、デバイスにある程度の剛性を与えることである。移植可能な細胞送達デバイスにはある程度の柔軟性が望まれるが、構造的な完全性は確保されなければならない。下部フィルムおよび上部フィルムは、栄養および酸素の拡散、血管内殖を許容しなければならないため、一般的に非常に薄く、したがって壊れやすいフィルムの厚さには限界がある。支持構造体は、フィルムが破れたり裂けたりするのを防ぐのに役立つ。さらに、支持構造体を含めることで、デバイスの折れ曲がりを防ぐことができ、その他の点では、細胞をそれらのウェルから移動させ得る内部空間を増大させることができる。したがって、支持構造体は、一般に、下部フィルムおよび上部フィルムの厚さより実質的に大きい厚さを有する。例えば、上部フィルムおよび下部フィルムの厚さは、それぞれ個別に5~50μm、好ましくは10~30μm、より好ましくは約15μmであり、支持構造体の厚さは、約75~500μm、好ましくは100~400μm、より好ましくは約200μmである。
【0048】
支持構造体は、さらに、下部フィルムおよび上部フィルムを取り付けるための足場として機能することができる。フィルムは、支持構造体がフィルムの縁の間に挟まれるように支持構造体に取り付けることができ、代わりに、フィルムは支持構造体の片側、例えば上側または下側で一緒に取り付けることができる。フィルムは、例えば超音波溶着によって取り付けることができる。支持構造体をデバイスに使用しない場合は、下部フィルムと上部フィルムを直接貼り合わせてもよいことが理解される。
【0049】
本発明に従う移植可能な細胞送達デバイスは、さらに、下部フィルムおよび上部フィルムが1箇所以上で支持構造体に取り付けられている。下部フィルムおよび上部フィルムは、上部フィルムおよび/または下部フィルムと支持構造体との間に1つ以上の開口部を残すように支持構造体に取り付けられていてもよい。これらの開口部の目的は、移植可能な細胞送達デバイスの血管新生が生じ得る1つ以上の空間または開口部を確保することである。開放型の移植可能な細胞送達デバイスの利点は、デバイス内の血管新生を可能にする選択肢であり、その結果、栄養および酸素の交換がより良好となり、移植可能な細胞送達デバイス内の細胞によって分泌される因子(例えばインスリン)の取り込みがより良好となる。したがって、移植可能な細胞送達デバイスの内部空間は、少なくとも複数の孔およびフィルムと支持構造体との間の1つ以上の開口部を介して外部と開放的に連通している。加えて、あるいは代替的に、下部フィルムおよび上部フィルムは支持構造体に対して完全に密閉されていてもよいが(開口部を残さないという意味)、孔径は、孔が血管新生を可能にする(そして細胞がデバイス内に入る)ように選択される。代替として、両方の孔径は、血管新生を可能にするように十分に大きく、下部フィルムおよび上部フィルムと支持構造体との間に開口部を設けられている。
【0050】
上部フィルムおよび下部フィルムは、それ自体折り畳まれた同じフィルムであることがさらに想定される。本明細書で使用する場合、下部フィルムマイクロウェルを含むフィルムとして定義され、結果として、被覆フィルムは、それらの実際の位置(例えば上部または下部)に関係なく上部フィルムとみなされる。両方のフィルムがマイクロウェルを含む場合、フィルムのいずれか一方を下部フィルムとみなし得る。
【0051】
デバイスが、好ましくは生体適合性生体材料から構築されることが見出された。機械的強度を維持しながら、他の適切な材料と比較して改善された多孔性を有することから、特に好ましい材料はPVDFである。さらなる利点は、PVDFが生体適合性であるため、免疫応答を誘発せず、デバイス内の細胞に悪影響を及ぼさないことである。PVDFは適切な材料と混合されてもよく、非限定的な例としてはPVPが挙げられることが理解される。しかしながら、特定の用途(例えば、移植の場所、デバイスのサイズ、デバイス内の細胞のタイプなど)に応じて異なる材料が利点を有する可能性があるため、デバイスは他の生体適合性生体材料から構築することもできる。生体適合性生体材料の他の非限定的な例としては、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリ(エチレンテレフタレート(PET)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリアミド(PA)、ポリエチレン(PE)、ポリイミド(PI)、ポリアクリレート、ポリオレフィン、ポリスルホン(PSF)、テトラフルオロエチレン/ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ePTFE(発砲ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(乳酸)(PLA)またはそれらの組み合わせがある。
【0052】
マイクロウェルは、いずれかの細胞クラスターおよび/またはオルガノイドを保持するものである。したがって、一実施形態では、マイクロウェルの直径は、200~1000μm、好ましくは250~950μm、より好ましくは300~900μmである。理想的には、ウェルは、複数の細胞クラスターが凝集して、凝集体の中心に位置する細胞が栄養や酸素の不足から壊死し始める程度まで凝集するのを防ぐ。細胞タイプ、細胞サイズ、細胞クラスターまたはオルガノイドに応じて、ウェルサイズを変える必要があることを、当業者であれば理解するものである。「細胞クラスターおよび/またはオルガノイド」は、培養細胞またはドナー生物の組織や臓器から切除した細胞を指すことが理解される。
【0053】
特に魅力的な実施形態では、細胞クラスターをウェル内に分離させる際、ウェルサイズは、直径約300~500μm、好ましくは350~450μmより好ましくは約400μmである。別の魅力的な実施形態では、ヒドロゲル(ヒドロゲルカプセルとしても既知)にカプセル化した細胞を含める際、ウェルは、直径600~1000μm、好ましくは700~900μm、より好ましくは約800μm。ヒドロゲルにカプセル化された細胞を用いる利点は、細胞をウェルに固定し、細胞がウェルから脱落したり移動したりするのを防ぐことである。さらなる利点は、免疫系がカプセル化された細胞に到達するのを防ぐことである。しかしながら、ヒドロゲル内に細胞を大量にカプセル化すると、血管系がヒドロゲル内に成長できないため、拡散距離が長くなりすぎる可能性が高い。したがってヒドロゲルカプセルの使用は、免疫系がカプセル化された細胞に到達するのを防ぎつつ、短い拡散距離を確保する魅力的な選択肢である。しかしながら、ヒドロゲルカプセルの主な欠点は、手術後の位置確認と回復が難しいことである。したがって、ヒドロゲルカプセルの長所(免疫系が到達しない)を、開放デバイスの長所、すなわち、細胞クラスターをカプセル化した小さなヒドロゲルカプセルにより栄養と酸素の拡散が増加した回収可能な構築物と組み合わせることができる。ほとんどの応用では、デバイス内の細胞に対する対象の免疫応答は、免疫系による細胞の標的破壊につながり、望ましくないことが想定される。しかしながら、免疫系とデバイス内の細胞との相互作用が望ましい場合には、ヒドロゲルを細胞の包埋に使うべきではない。
【0054】
ヒドロゲルでカプセル化した細胞を用いる場合、細胞がデバイスから出るのをヒドロゲルが防ぐため、孔径はさらに大きくなり得ることが理解される。したがって一実施形態では、細胞はヒドロゲル中にカプセル化され、デバイスの下部フィルムおよび任意に上部フィルムの孔径は5~200μm、例えば25~200、50~190、75~180、100~170または125~160μmである。
【0055】
一実施形態では、ウェルは、ウェル内の細胞クラスターが約300μm間隔、例えば200~400μm間隔、好ましくは250~350μm間隔になるように配置される。しかしながら、細胞クラスターの間隔はそれらのサイズ次第であることが理解され、これは、より大きい細胞クラスターは、局所的酸素減少を防ぐために、より大きい間隔を必要とすることを意味する。例えば、直径50μmの細胞クラスターでは実質的に間隔を空ける必要はないが、100μmの細胞クラスターでは約100μmの距離で十分であり、150μmの細胞クラスターでは約300μmの距離で十分であることがわかった。直径200μm以上の細胞クラスターは、膵島間の距離に関係なく、インスリンの枯渇を示した。
【0056】
上部フィルムおよび下部フィルムの孔は、血管の内殖の結果としての栄養および酸素の拡散に加えて、デバイス内の細胞への栄養および酸素の拡散を可能にする。さらに、孔は、デバイスの内部空間への血管内殖および細胞のデバイス内への進入を可能にする。理想的に、孔径およびピッチは、構造的完全性を維持し、細胞クラスターがデバイスから出るのを防ぎながら、最大限の拡散と血管内殖を可能にするように選択される。したがって、一実施形態では、下部フィルムおよび任意に上部フィルムの孔径は、5~100μm、好ましくは10~80μm、より好ましくは15~60μm、最も好ましくは20~55μmである。任意に孔は、
10~1000μmの平均ピッチ、例えば50または100μm(但し、ピッチは孔径より大きい)、または
25~500孔/mm2、好ましくは40~250孔/mm2の平均細孔密度
を有する。
【0057】
孔径が、デバイスに含まれる細胞クラスターおよび/またはオルガノイドのサイズによって制限され、したがって、好ましくは、孔径は、デバイス内に収容される予定の細胞クラスターまたはオルガノイドの大きさを超えないことが理解される。さらに、細胞クラスターがヒドロゲルに埋め込まれている場合、細胞クラスターのサイズを超えても、デバイスはより大きい孔径を許容し得ることが理解される。上部フィルムおよび下部フィルムの孔径は同じであっても異なっていてもよい。例えば、デバイスが、上部フィルムと下部フィルムの間に、細胞がウェルから出るのを防ぐメッシュを備える場合、上部フィルムは、下部フィルムの孔径より大きい孔径を有し得、上部フィルムの孔径は、細胞(細胞クラスターまたはオルガノイド)サイズを超えてもよい。後者の場合、上部フィルムの孔径はフィルムの構造的完全性によってのみ制約される。本明細書で使用する場合、孔径はその直径を指す。
【0058】
栄養および酸素の拡散は、孔の総表面積によって決定されるだけでなく、デバイス内への血管の内殖に依存し、孔径と上部フィルムまたは下部フィルム内の孔の数の関数を意味することが理解される。したがって、孔のピッチは、孔径に応じて、10~1000μmの間、好ましくは20~900μmの間、より好ましくは40~800μmの間、最も好ましくは50~750μmの間であることが理解される。ピッチは孔径よりも大きいことがさらに理解される。本明細書で使用する場合、ピッチは繰り返し要素(この場合はフィルム中の孔)の中心間の距離を表すのに使用される。孔は多かれ少なかれ均一に分布していると仮定される。孔が均一に分布していない場合、ピッチは、隣接する孔間の平均距離を指す。
【0059】
代替として、孔の数は、孔の数/mm2(細孔密度)として表すことができる。孔径に応じて、細孔密度は、好ましくは25~600、より好ましくは25~500、より好ましくは40~550、より好ましくは40~400、より好ましくは50~500、さらにより好ましくは50~300、さらにより好ましくは75~450または75~300孔/mm2である。
【0060】
一実施形態では、マイクロウェルは細胞クラスターおよび/またはオルガノイドからなり、好ましくは、細胞クラスターが内分泌細胞またはサイトカイン産生細胞またはそのクラスターであり、好ましく細胞クラスターは、膵島細胞、腎臓細胞、甲状腺細胞、胸腺細胞、精巣細胞、膵臓細胞から選択されるか、あるいは好ましくはオルガノイドは、腸管オルガノイド、胃オルガノイド、甲状腺オルガノイド、胸腺オルガノイド、精巣オルガノイド、肝臓オルガノイド、膵臓オルガノイド、上皮オルガノイド、肺オルガノイド、腎臓オルガノイド、ガストルロイド(胚オルガノイド)、芽球様細胞(胚盤胞様オルガノイド)、心臓オルガノイド、網膜オルガノイドまたは膠芽腫オルガノイドから選択される。細胞クラスターは、例えばドナー生物から得た組織や臓器の切除片を指すこともある。あるいは、細胞クラスターやオルガノイドは、細胞株や幹細胞、例えば人工多能性幹細胞などから得られるが、これらに限定されない。
【0061】
デバイスは、ホルモンやサイトカイン、あるいは治療用タンパク質などの物質を分泌する細胞を対象に移植するのに特に適していると想定される。したがって、細胞クラスターおよび/またはオルガノイドは、好ましくは、内分泌細胞またはサイトカイン産生細胞を含むか、またはこれらからなる。
【0062】
一実施形態では、マイクロウェルに含まれる細胞クラスターまたはオルガノイドの直径は40~300μm、好ましくは50~250μmである。理想的には、マイクロウェルは1つの細胞クラスターまたはオルガノイドをそれぞれ含み、したがって、実質的にすべてのマイクロウェルが、少なくとも単一の細胞クラスターまたはオルガノイドを含む場合、デバイス内の空間を効率的に使用するために、細胞クラスターまたはオルガノイドの直径は、好ましくは150~300μm、好ましくは200~250μmであることが理解される。代替として、マイクロウェルに多数の細胞クラスターまたはオルガノイドを充填することもできるが、局所的酸素減少を防ぐために、細胞クラスターまたはオルガノイドサイズは好ましくは小さく保たれることが理解される。例えばマイクロウェルが2つの細胞クラスターまたはオルガノイドを含む場合、直径は、好ましくは40~150、より好ましくは50~100μmである。マイクロウェル当たり3つまたは4つの細胞クラスターまたはオルガノイドを含む場合、直径は、好ましくは40~120、好ましくは50~100μmである。
【0063】
別の好ましい実施形態では、マイクロウェルの直径は600~1000μm、好ましくは700~900μm、より好ましくは750~850μmである。そのような大きいウェル直径は、細胞クラスターおよび/またはオルガノイドがヒドロゲルによってカプセル化される場合、あるいは細胞クラスターまたはオルガノイドのサイズが大きく、それ故に大きいウェルを必要とする場合に有用である。
【0064】
デバイスを製造する材料としてPVDFを使用するさらなる利点は、スポット溶着が可能なことである。そのため、一実施形態では、上部フィルムと下部フィルムは、スポット溶着によって支持構造体に取り付けられている。スポット溶着には、免疫系を誘発したり、生体適合性がなかったり、あるいは毒性があったり、時間の経過とともに溶解してデバイスの構造的な不具合を生じたりする可能性のある接着剤のような追加の材料を使用する必要がないという利点がある。
【0065】
イメージング用のマーカーがデバイス内またはデバイス上に含まれることがさらに想定される。これは、外科的処置を必要とすることなく対象内のデバイスの位置を特定することを可能にするので有利であり得る。したがって、一実施形態では、デバイスは、イメージング用の1つ以上のマーカーを含み、好ましくは、前記1つ以上のマーカーは、上部フィルム、下部フィルムおよび/または支持構造体のPVDFに注入またはコーティングされた放射線増感剤を含み、より好ましくは、前記放射線増感剤が、硫酸バリウムなどのバリウム系、三酸化ビスマス、亜炭酸ビスマスまたはオキシ塩化ビスマスなどのビスマス系、または放射線増感剤がタングステンまたは酸化グラフェンである。
【0066】
本明細書で使用する場合、放射線乳白剤は、放射線造影剤とも呼ばれ、電磁スペクトルのラジオ波およびX線波部分に対して不透明である物質であり、これらの種類の電磁放射線が特定の材料を通過することが相対的にできないことを意味する。放射線造影剤の非限定的な例としては、チタン、タングステン、硫酸バリウム、酸化ビスマス、酸化ジルコニウムなどがある。重元素、例えばヨウ素を高分子鎖に直接結合させる方法もある。
【0067】
デバイスと共に薬物を含むことが有利であり得ることがさらに想定される。したがって、一実施形態では、デバイスは、上部フィルム、下部フィルムおよび/または支持構造体のPVDFに注入された、またはコーティングされた(例えば、デバイスを薬剤の溶液に浸漬することによって)薬剤を含む。例えば、デバイスは、免疫系によるデバイス内の細胞の分解を防止するための免疫抑制剤、または線維化反応を軽減する薬物でコーティングされてもよい。あるいは、対象に治療オプションとしてデバイスを移植する場合に、治療薬を共治療として含めることもできる。非限定的な例としては、癌治療のための化学療法剤、免疫チェックポイント阻害剤、術後早期の細胞クラスターおよび/またはオルガノイドの生存を助ける細胞ストレス阻害剤、または術後のインプラントを追跡するための画像マーカーが挙げられる。さらに、血管内殖を促進する血管新生因子をインプラントに組み込むことも想定されている。
【0068】
デバイスの大きさは、意図される用途(例えば、デバイス内に含まれる治療方法や細胞の種類)に応じて、また対象に応じて、拡大縮小できることが理解されよう。ヒト対象への移植を意図したデバイスは、齧歯類への移植を意図したデバイスよりも大きくする必要があることは、当業者には明らかであろう。デバイスは本質的に二次元であり、つまりウェルのある単一平面で構成されるため、用途によっては、ヒトのような大型哺乳動物では実用的でない大きさにまで拡大する必要があることが予想される。理論的には、複数の小型バージョンのデバイスを使用することができるが、実際には、複数のデバイスを同じ場所または異なる場所に移植することは望ましくない。したがって、複数の小型バージョンのデバイスを一緒に積み重ねることができることがさらに想定される。したがって、一実施形態では、デバイスは、互いに積み重ねられた、またはスペーサーで分離された、本明細書で定義される開放型の移植可能な細胞送達デバイスの2つ以上積層したものを備える。スペーサーは本質的に、個々のデバイス間に距離を生じさせる機能を果たす。したがって、一実施形態では、スペーサーは異なる積み重ねられたデバイス間に200~800μm、好ましくは250~700μm、より好ましくは250~650μmの間隔をとることを可能にする。2つのデバイスのスタックを使用する場合、デバイス間の間隔は250~350μmで十分であることがわかった。より多くの、例えば3つ以上の積み重ねられたデバイスを使用する場合、間隔を広げることが有益である可能性があり、したがって、デバイスが3つ以上の積み重ねられたバージョンのデバイスから構成される場合、間隔は、好ましくは250~750μm、より好ましくは300~700μm、400~650μmまた450~600μmである。より好ましい実施形態では、2つのスタックを使用することで、デバイス内の細胞密度を高めながら、細胞の酸素供給を最適化できることがわかったことから、デバイスは本明細書で定義される開放型の移植可能な細胞送達デバイスの2つのスタックバージョンを備える。
【0069】
細胞への栄養と酸素の適切な拡散が確保される限り、よりコンパクトな設計を得るために2つ以上のデバイスを積み重ねることも原理的には可能である。このことは、3層以上の層を中間層に対して積層する場合に特に関連してくる。したがって、本発明者らは、積層された層はスペーサーによって分離されるべきであることを見出した。好ましくは、スペーサーは、層間の空間がスペーサーによって完全に囲まれないように構成される。したがって、複数の小さなスペーサーを使用するか、スペーサーに開口部を設けてもよい。スペーサーは追加の支持構造体とみなすことができるため、本明細書で使用する場合、スペーサーは「追加の支持構造体」とも呼ばれることがある。好ましくは、スペーサーも、生体適合性を確保するためにPVDFから構成される。支持構造体およびスペーサー(追加の支持構造体)が1つの連続構造体であることがさらに想定される。
【0070】
このデバイスは、医療方法または治療方法において使用されることが想定される。したがって、第2の態様では、本発明は、疾患の治療、予防または寛解に使用するための、本発明に従う開放型の移植可能な細胞送達デバイスに関する。デバイスは、好ましくは細胞、より好ましくは細胞クラスターまたはオルガノイドを含み、したがって、一実施形態では、本発明は、疾患の治療、予防または寛解に使用するための、本発明に従う、細胞、好ましくは細胞クラスターおよび/またはオルガノイドを含む開放型移植可能細胞送達デバイスに関する。代替として、本発明は、それを必要とする対象において疾患もしくは状態を治療、予防または改善する方法に関し、該方法は、細胞、好ましくは細胞クラスター又はオルガノイドを含むデバイスを対象に移植することを含む。
【0071】
デバイスには、いくつかの治療選択肢が想定されている。例えば、デバイスは糖尿病の治療に使用することができる。したがって、一実施形態では、治療は糖尿病、好ましくは1型糖尿病の治療である。好ましくは、治療が糖尿病の治療である場合、デバイスは、膵島細胞またはインスリンを分泌するように操作された細胞などのインスリン分泌細胞を含む。
【0072】
しかしながら、当業者には、デバイスがあらゆるタイプの細胞、細胞クラスターまたはオルガノイドの組み込みを可能にするため、デバイスの使用が糖尿病の治療に限定されないことは明らかである。開放型デバイスは血管系の内殖を可能にするので、外因性因子の投与が望ましい治療選択肢に特に適している。外因性因子の非限定的な例としては、インスリン、グルカゴン、サイトカイン、増殖因子、ホルモン、炭水化物、凝固因子などのペプチドやタンパク質が挙げられる。
【0073】
したがって、多発性骨髄腫、メラノーマ、リウマチ関節炎、炎症性大腸炎、ループス、強皮症、溶血性貧血、血管炎、1型糖尿病、バセドウ病、多発性硬化症、グッドパスチャー症候群、悪性貧血、ミオパシー、ライム病、重症複合免疫不全症(SCID)、ディジョージ症候群、高IgE症候群(ジョブ症候群としても既知)、分類不能型免疫不全症(CVID)、慢性肉芽腫性疾患(CGD)、ウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)、自己免疫性リンパ球増殖症候群(ALPS)、高IgM症候群、白血球接着不全症(LAD)、NF-κB必須修飾因子(NEMO)変異、選択的免疫グロブリンA欠乏症、X連鎖性無ガンマグロブリン血症(XLA;ブルトン型無ガンマグロブリン血症としても既知)、X連鎖性リンパ増殖性疾患(XLP)、毛細血管拡張性運動失調症または後天性免疫不全症候群(AIDS)などの免疫関連障害の治療にデバイスを使用し得る。さらに、癌などの増殖因子関連疾患の治療にデバイスを使用し得る。さらに、副腎不全、アジソン病、クッシング病、クッシング症候群、巨人症(末端肥大症)、甲状腺機能亢進症、グレーブ病、甲状腺機能低下症、下垂体機能低下症、多発性内分泌腫瘍症IおよびII(MENIおよびMENII)、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)または思春期早発症などのホルモンまたは内分泌関連疾患にデバイスを使用し得る。さらに、第V因子ライデン、プロトロンビン遺伝子変異、血液凝固を防ぐ天然タンパク質(抗トロンビン、タンパク質Cおよびタンパク質Sなど)の欠乏、ホモシステイン値の上昇、フィブリノゲン値の上昇または機能不全のフィブリノゲン(異常フィブリノゲン血症)、第VIII因子値および他の因子(第IX因子および第XI因子を含む)の上昇、線溶系の異常(プラスミノゲン欠乏症、プラスミノゲン異常症およびプラスミノゲン活性化因子抑制因子(PAI-1)値の上昇を含む)、癌、肥満、妊娠、エストロゲンの補助的使用(経口避妊薬(バースコントロールピル)を含む)、ホルモン補充療法、長期臥床または不動、心臓発作、鬱血性心不全、脳卒中および活動低下を招くその他の疾患、ヘパリン誘導血小板減少症、抗リン脂質抗体症候群、深部静脈血栓症や肺塞栓症の既住歴、真性多血症や本態性血小板増加症などの骨髄増殖性疾患、発作性夜間ヘモグロビン尿症、炎症性腸症候群、HIV/AIDSまたはネフローゼ症候群などの凝固障害の治療にデバイスを使用し得る。
【0074】
第3の態様では本発明は、開放型移植可能細胞送達デバイスを構築する方法に関する。該方法は、複数の孔を有する表面領域を有し、複数のマイクロウェルをさらに含む下部フィルムを提供するステップと、複数の孔を有する表面領域を有する上部フィルムを、マイクロウェルの開口部が上部フィルムに面するように下部フィルム上に配置して、マイクロウェルと開放的に接触する下部フィルムと上部フィルムとの間に内部空間を形成するステップと、支持構造体を、下部フィルムおよび上部フィルムの端部と少なくとも部分的に支持構造体が重なるように、下部フィルムと上部フィルムの組立体の実質的に周りに、フィルムと同一平面上に位置決めするステップと、下部フィルムと上部フィルムを2箇所以上でスポット溶着して、内部空間がアクセス可能な複数の開口部を残すように、下部フィルムおよび上部フィルムを支持構造体に取り付けるステップと、を備える。下部フィルムおよび任意に上部フィルムの孔径は、孔を通してデバイス内の血管新生または血管内殖を可能にするようなものである。孔径は、細胞のデバイス内への進入をさらに可能にする。
【0075】
本明細書で使用する場合、「スポット溶着」は、好ましくは超音波スポット溶着を指す。超音波スポット溶着は、高周波の超音波音響振動を加圧下で一緒に保持されているワークピースに局所的に印加して、固体溶着部を形成する工業プロセスである。それは、プラスチックによく使用される。
【0076】
一実施形態では、下部フィルムおよび上部フィルムは、2つ以上、好ましくは少なくとも3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10つ以上などの3~50、4~40、5~30、6~25、7~20または8~15ののスポット溶着で支持構造体に取り付けられる。溶着の量は、デバイスの大きさによって規定され、開口部が血管内殖に十分な大きさ(ウェルの間隔による)を保ちつつ、構造的完全性を確保するために十分小さくなるように選択されるべきであることが理解される。
【0077】
PVDFは特に熱成形プロセスに適しているため、下層のマイクロウェルは(マイクロ)熱成形によって形成することができる。
【0078】
本発明者らは、ウェルからなる他の開放型移植可能細胞デバイスを知らない。その理由は、このようなデバイスの構造には、どのように細胞をデバイスに装填するのかが単純でないなど、いくつかの障害があるからであろう。一つの方法は、デバイスを組み立てる前に下部層に細胞を播種することであるが、デバイスはエンドユーザーに組み立てられた状態で出荷されることが望ましいため、いくつかの非現実的な問題がある。さらに、細胞の近くでポリマー層を溶着すると、細胞の生存率が著しく損なわれる。これらの問題を克服するために、本発明者らは、播種後にデバイスの組み立てを必要としない、つまりデバイスが完全に組み立てられた状態で播種される、デバイスへの播種方法を開発した。したがって、第4の態様では、本発明は、第1の態様で定義される、または第3の態様に従う方法によって得られるかもしくは入手可能な開放型移植可能細胞送達デバイスに細胞を播種する方法に関する。該方法は、細胞用容器をチューブの第1端と連結し、内部空間が容器と開放的に連通するように、開放型移植可能細胞送達デバイスの開口部を通してチューブの第2端を内部空間に挿入するステップと、残りのすべての開口部が密閉されるように開放型移植可能細胞送達デバイスの外側をクランプするステップと、適した培地中に懸濁した細胞または細胞クラスターを容器に充填するステップと、余分な培地を孔を通して排出しながら、細胞を容器からチューブを通して開放型移植可能細胞送達デバイスの内部空間に流すステップと、を備える。
【0079】
上層と下層の間の開口部を、一つの開口部を除いて閉鎖することで、細胞懸濁液をデバイス内の重力流で排出できることがわかった。これを可能にするために、細胞懸濁液を容器に取り、チューブを通してゆっくりと排出し、チューブのもう一方の端をデバイス内部(上部フィルムと下部フィルムの間)の単一の開口部から挿入する。液体がデバイスの孔を通って排出されるため、細胞懸濁液は単に重力に任せて流れ、液体が排出される間に細胞がデバイスのマイクロウェルに沈着する。この方法は、播種中に細胞が失われるのを効果的に防ぐ。重力によらず、ポンプやシリンジを使用して細胞懸濁液をデバイス内に挿入することもできる。
【0080】
したがって、一実施形態では、細胞を、重力によってチューブを通して開放型移植可能細胞送達デバイスの内部空間に流す。
【0081】
マイクロウェルサイズ、孔径、細胞クラスターまたはオルガノイド径、スペーサーサイズまたはウェル距離について本明細書に記載の好ましい数値は、膵島細胞クラスターで得られたデータに基づいていることを理解されたい。このデータは異なる細胞型のクラスターまたはオルガノイドに外挿することができるが、理想的な値は異なる可能性がある。当業者は、マイクロウェルサイズ、孔径、細胞クラスターまたはオルガノイド径、スペーサーサイズまたはウェル距離について、特定の細胞またはオルガノイドの種類に理想的なパラメータを得るために、本明細書、特に以下の実施例2に記載された方法を異なる細胞タイプに適合させることができることを認識している。
【実施例】
【0082】
実施例1
材料および方法
ポリマーフィルム組み立て
Li,M.ら、“Controlling microstructure of poly(vinylidene-fluoride) (PVDF) thin films for microelectronics”Journal of Materials Chemistry C,2013.1(46):p.7695-7702.に記載されているように、PVDF(医療グレードのKynar 720、Solvay)の薄膜を溶媒キャストした。15%(w/w)のポリマー溶液をジメチルホルムアミド(DMF,Sigma-Aldrich)で調製した。加湿制御ボックス内に設置した自動フィルムキャスター(Elcometer K4340M12)にガラス板を取り付け、温度100℃、湿度10%で予め調整した。その後、PVDF-DMF溶液をガラスプレート上に流した。ギャップ距離250μmの万能アプリケーター(Elcometer K0003530M005)を5mm/sの一定速度でポリマー溶液の上に走らせ、ポリマー溶液をガラスプレートの表面に広げた。その後、窒素気流下で一晩乾燥させ、厚さ15μmのポリマーフィルムを得た。ポリマーフィルムを脱塩水中で一晩インキュベートして残留溶媒を除去し、風乾した。PVDFフィルムは、周波数25kHzのUV短パルスレーザーによるレーザー微細加工で多孔質にした。マイクロウェル下部フィルムに使用したポリマーフィルムは、孔径25μm、ピッチ50μmの孔をパターニングし、蓋に使用したポリマーフィルムは、孔径40μm、ピッチ100μmの孔をパターニングした。
【0083】
また、薄膜は、Polyvation BV社製のPolyActiveから作製された。正確な組成は4000PEOT30PBT70であり、分子量4000のポリ(エチレンオキシド)と、30wt%のポリ(エチレンオキシドテレフタレート)(PEOT)と70wt%のポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT)からなる。PolyActiveはクロロホルムと1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-イソプロパノールの65:35(w/w)混合溶媒に15wt%の濃度で溶解した。キャスティング時に室温を使用し、エタノールで溶媒浸出した意外はPVDFと同様にフィルムキャスターに入れた。ポリマーフィルムは、孔径15μm、ピッチ50μmの孔でパターニングした。
【0084】
マイクロウェルフィルムの作製
マイクロウェルを保持する薄膜は、微細熱成形によって作製した。PVDFフィルムを金型(Veld laser Innovations BV)とバッキング材として機能する厚さ560μmのポリエチレンフィルムの間に押し込んだ。構築物を油圧プレス(Atlas manual hydraulic press,Specac)に入れ、85℃で2分間インキュベートした。その後、マウスサイズのインプラントでは30kN、ラットサイズのインプラントでは35kNまで加圧した。10分間のインキュベーション後、サンプルを油圧プレスから取り出し、離型を容易にするためにエタノールに5分間浸した。
【0085】
PolyActiveフィルムでも同様の構築物を作製し、油圧プレスに入れ、85℃で5分間インキュベートした。その後、マウスサイズでは25kN、ラットサイズのインプラントでは30kNまで圧力を上げ、サンプルをプレス内で37℃まで冷却させた。サンプルを油圧プレスから取り出し、離型を容易にするためにエタノールに5分間浸漬した。
【0086】
支持リング
合計2gのPVDFペレットをステンレス製金型(厚さ200μm、10×10cmのプレート、ネガΦ9cmの円板)に装填し、油圧プレスにかけた。サンプルを180℃で1分間予熱した。圧力を上昇させ、20kNで1分間維持した。その後、サンプルを油圧プレスから取り出し、室温で5分間冷却した後、離型し、厚さ200μmのΦ9cmの円板を得た。次に、支持リングをカッティングプロッタ(Silhouette Cameo 4)で所望の形状に切断した。
【0087】
超音波(US)溶着による組み立て
特注のUS溶着ガイドを用いて、開放型インプラントの組み立てを制御した(
図7)。まず、ステンレス製ホルダーに支持リングを入れ、多孔質微細熱成形した下部フィルムと多孔質蓋で覆った。テフロン(登録商標)製カバープレートに雲状のパターンを作製し、US溶着ガイド上に配置し、マウスサイズとラットサイズのインプラントにそれぞれ4点または7点のシールを形成した。PVDF層は、40kHzの手動Branson LPX US溶着ステーションによって75%の振幅で1秒間アニールした。
【0088】
ラット膵島単離
動物実験は、マーストリヒト大学の動物実験倫理委員会およびオランダの動物実験中央委員会により、申請番号AVD1070020186965で承認された。ラット膵島は10週齢の雄Lewis系ラットより単離した。ラット膵臓を0.25mg/mL liberase(Roche)で灌流し、37℃で16分間消化するまで氷上に保った。10mMの4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、1%のペニシリン/ストレプトマイシン(P/S、1000U/mL)、2.5mMのCaCl2-2H2O、4.2mMのNaHCO3、1mMのMgCl2-6H2O、および10%のウシ胎児血清(FBS)を添加したクエンチ液(ハンクス平衡塩溶液(HBSS))で消化を停止した。組織をホモジナイズし、濾過し、クエンチ液で洗浄した。膵島をフィコール勾配(Ficoll-Paque Plus、GE Healthcare)で精製し、10℃でブレーキをかけずに遠心した。膵島をクエンチ液と培地(10%FBS、1%P/S、10mMのHEPES、1mMのピルビン酸ナトリウム添加RPMI1640培地(11mMグルコース))で洗浄した。膵島は単離直後と翌日に手で摘出した。膵島の純度と量は、単離の24時間後にジチゾン染色(Sigma-Aldrich)で測定した。膵島の量は、従来のRicordi法に基づいて膵島等価物(IEQ、直径150μmの膵島に対する膵島体積)で報告した。
【0089】
ヒト膵島
オランダ政府から臨床目的のヒト膵島を分離する許可を得ている。ライデン大学医療センター(LUMC、ライデン、オランダ)のヒト膵島分離研究所から、純度80%のヒトランゲルハンス膵島20500個を入手した。オランダの法律に従い、臨床膵島移植に適さないと判断されたヒト膵島をこれらの実験に使用した。
【0090】
膵島播種
浮遊コントロール膵島(ラット膵島150IEQ/cm
2または500IEQ/cm
2、ヒト膵島150IEQ/cm
2または600IEQ/cm
2)を、500uLの培地中24ウェルプレートの12mmのMillicell細胞培養インサート(MERCK、12μmの孔径)内に播種した。インプラント構築に使用したポイントシールの間の空間は、将来の生体内研究において血管内殖を容易にすることを意図したものであるが、細胞播種中にインプラントが膵島を失いやすくなる可能性がある。インプラントの外縁をきつくクランプし、膵島を装填した培地がマイクロウェル構造の孔を通してのみ排出されるようにすることで、膵島の損失を防ぐ播種ツールを設計した(
図8)。ルアーロックシリンジに膵島(200IEQ/mL)を充填し、3.5Frの先端が鈍いフィーディングチューブ(Argyle(商標)PVCフィーディングチューブ、Cardinal Health社、アイルランド、ダブリン)に接続し、開放型インプラント内で空にした。マウスサイズの開放型細胞送達デバイスに300IEQを播種し、5mLの培地中、非接着6ウェルプレートに入れた。ラットサイズのインプラントには3000IEQを装填し、10mLの培地中、非接着性の55mmシャーレに入れた。
【0091】
生死判定アッセイ
哺乳類細胞用の生/死・生存/細胞毒性キット(ThermoFisher Scientific)を、製造者の説明書に従って使用し、培養1日目と7日目に自由浮遊状態のコントロールラット膵島と開放インプラント内に播種した膵島の生存率を調べた。画像はNikon Eclipse Ti倒立顕微鏡を用いて撮影し、FIJIソフトウェア(https://fiji.sc/)を用いて解析した。生死画像は、Spaepenらの研究に基づいて定量化され、生死染色された領域の大きさに基づいて細胞生存率を決定した。最後に、細胞生存率を式1に従って計算した。
【数1】
【0092】
グルコース刺激インスリン分泌(GSIS)試験
クレブス緩衝液ストック溶液(25mMのHEPES、115mMのNaCl、24mMのNaHCO3、5mMのKCl、1mMのMgCl2・6H2O、2.5mMのCaCl・2H2O、滅菌水中0.2%ウシ血清アルブミン)にグルコースを添加し、高グルコース溶液(16.7mM)または低グルコース溶液(1.67mM)を形成した。1日目と7日目にすべてのサンプルから培地を除去した。サンプルを洗浄し、37℃の低グルコース溶液中で1時間インキュベートし、残存するインスリンをすべて洗い流した。その後、全サンプルを新鮮な低グルコース溶液中でさらに1時間インキュベートし、続いて高グルコース溶液中で1時間インキュベートした。サンプルを低グルコース溶液で3回洗浄し、低グルコース溶液で1時間インキュベートした。各インキュベーション工程の後、インスリンELISAアッセイを行うまで、グルコース溶液のアリコートを-30℃で保存した。次に、すべてのサンプルのクレブス緩衝液を酸性エタノール(70%エタノール中1.5%HCl)に交換し、5分間インキュベートした。その後、サンプルをエッペンドルフチューブに移し、ELISA測定まで-30℃で保存した。ラットインスリン用ELISAキット(Mercodia,Uppsala,Sweden)を使用し、メーカーの説明書に従ってGSIS後のインスリン濃度を測定した。サンプルの光学濃度は、分光光度計プレートリーダー(CLARIOStar Plus、BMG Labtech)を用いて450nmで読み取った。サンプルは必要に応じてクレブス緩衝液で希釈した。最後に、膵島の刺激指数(SI)を、高グルコースインキュベーションステップ中のインスリン分泌量を最初の低グルコース培養ステップ中のインスリン分泌量で割ることにより算出した。SI≧2を示す膵島を機能的とみなした。
【0093】
スケールアップ
動物用インプラントの寸法は、マウス、ラット、ミニブタサイズのオープンインプラントについて、それぞれ300、3000、13000マイクロウェルで計算した。マウスサイズのインプラント(円形インプラント)にはアスペクト比1を用い、その他のインプラント(楕円形インプラント)には1.5を用いた。ヒトサイズのインプラントはすべて、アイソレーション・インデックス・ナンバー(IIN)を1.5として計算した。200,000IEQ、450,000IEQ、700,000IEQのヒトサイズインプラントの3つの具体的なケースが、ヨーロッパ中のいくつかの臨床センターにおける、体重70kgの患者に対するヒト膵島の平均最小移植IEQ量に基づいて評価された。
【0094】
統計学
すべての結果は平均値±標準偏差(SD)で示した。統計解析はGraphpad PRISM 8を用いて行った。P値<0.05を統計的に有意とみなした。群間比較は、分散の等質性の仮定(ブラウン・フォーサイス検定)と正規性の仮定(シャピロ・ウィルク検定)を評価した後、テューキー事後検定による一元配置分散分析(ANOVA)を用いて行った。正規性の仮定が妥当でない場合は、クラスカル・ウォリス検定とダン検定の組み合わせを用いた。2群間の直接比較は、分散の等質性と正規性の仮定を評価した後、対応のないt検定によって行った。分散が等しいという仮定に反する場合は、t検定にウェルチの補正を用いた。マン・ホイットニー検定は、分散の等質性の仮定と正規性の仮定の両方に違反する場合に実施した。
【0095】
結果
マイクロウェル薄膜
PVDFフィルムを自動フィルムキャスターで成形し、厚さ15~20μmのポリマーフィルムを得た(
図1A~C)。次に、レーザー微細加工により、等しい大きさの孔からなる所定のパターンを形成した(
図1D)。マイクロウェル下部フィルムに使用したポリマーフィルムは、孔径24±1μm、ピッチ50μmの孔でパターン化し、蓋に使用したポリマーフィルムは、孔径40±1μm、ピッチ100μmの孔でパターン化した(
図1G)。レーザー微細加工後のポリマーフィルムは黒ずんでいたが、エネルギー分散型X線分析では、ポリマーの焼却を示す炭素レベルの増加は認められなかった(
図9)。レーザー微細加工された孔は、微細熱成形中に異方的に引き伸ばされた。ウェルの下部と上部に位置する孔は丸みを帯びた形状を示し、孔径はそれぞれ48±2μmと27±2μmであった(
図1H)。ウェルの側面に位置する孔は、ウェルの深さに沿った楕円形であり、平均小径42±6μm、大径89±14μmであった。平均ウェル直径390±12μm、ウェル深さ260±6μmのマイクロウェル構造を作製するために、微細熱成形を適用した(
図1I)。マイクロウェル断面の分析から、すべてのPVDFマイクロウェルが55個の孔を保持していると推定された。一般に、微細熱成形後のPVDFフィルムでは、PolyActiveフィルムに比べて細孔径が大きかった(
図1G、H、補足
図10)。PolyActiveフィルムのマイクロウェル上部に位置する細孔はポアソン効果(負荷方向に対して垂直方向の材料の収縮)を示し、3:1の比率で引き伸ばされた細孔が形成された(
図10E)が、PVDFフィルムの細孔は丸いままであった(
図1E)。
インプラント組み立て
【0096】
すべてのPVDFインプラントは、厚さ200μmの支持リング、マイクロウェル型フィルム、多孔性蓋を超音波溶着によって特定の箇所で焼き焼き鈍すことによって組み立てた(
図2A、
図7)。各溶着は、150μmの空芯を含む直径0.5mmの円形シールをもたらした。マウスサイズのインプラントは、各溶着スポット間の距離を14mmに固定し、4カ所でシールした。マウスサイズのインプラントは、外径24mm、300マイクロウェルを保持する直径8mmのマイクロウェル・インプリント領域、および幅4mmの支持リングを保持した(
図2B)。溶着スポットの強度を機械的引張試験で評価し、ポリマー薄膜と比較した(
図2C~F)。破壊応力、ピーク応力、ヤング率、破壊歪みにおいて、溶着シールと薄膜の間に統計的な差は見られなかった。
【0097】
マウスサイズの開放型の細胞送達デバイスにおけるラット膵島の生存率および機能性
マウスサイズの開放型の細胞送達デバイスにラット膵島を充填し、その後細胞の生存率を評価した。マウスとラットの膵島は似ているが、分離収率はラットの方がかなり高い(マウスは100~150個、ラットは300~800個)。各ラットについて平均757個の膵島が単離され、これは1534のIEQに相当し、膵島単離数(IIN、平均IEQ数/膵島)は2.02であった。単離された膵島の純度は85%以上であった。次に、細胞播種ツールとカテーテルを用いて、300IEQをマウスサイズの開放型細胞送達デバイス内に播種した(
図8)。マウスサイズのインプラント内に播種されたラット膵島は、マイクロウェル上に均等に分布した。いくつかのウェルは空のままであったが、二重に充填されたウェルはほとんど観察されなかった。細胞生存率を1日目と7日目に測定した(
図3A~I)。注目すべきことに、自由浮遊しているコントロールの膵島は7日間にわたって凝集したが、インプラントに播種した膵島は分離したままであった。凝集した膵島は、膵島の中心から凝集体の境界までの距離として決定される最大拡散距離93±19μmを示した。自由浮遊コントロール群内のラット膵島は、7日目のコントロール群(85±6%)と比較して、1日目の生存率が有意に高かった(92±10%)(
図3J)。インプラントに播種した膵島の生存率(86±10%)は、7日目のコントロールサンプルと同様であった。
【0098】
次に、ラットの膵島をGSISテストに供し、マイクロウェルインプラントへの埋め込みが膵島機能に影響を及ぼすかどうかを評価した。コントロールとインプラントのサンプルはともに、正常な膵島機能を示す特徴的な低-高-低パターンを示した(
図3K)。コントロールの膵島は、インプラント内で培養した膵島(0.31±0.14ngインスリン/IEQ)と比較して、1日目の高グルコースインキュベーションステップ中に高いインスリン分泌を示した(0.78±0.18ngインスリン/IEQ)。この効果は培養7日後には消失し、コントロールの膵島(0.52±0.15ngインスリン/IEQ)はインプラントの膵島(0.28±0.14ngインスリン/IEQ)と比較して同程度のインスリン分泌レベルを示した。さらに、7日間培養後のSIは、自由浮遊状態のコントロール膵島(4.0±2.3)と開放型細胞送達デバイスに播種した膵島(5.3±0.6)で同程度であった(
図3L)。両群、両時点の膵島は、SI≧2の閾値を超えたので、機能的とみなされた。
【0099】
スケールアップ
架空のドナーおよびレシピエントのデータ(実在する世界の臨床膵島移植に基づく)を用いて、必要とされるウェルの数を算出した。この数は、形状やアスペクト比などのインプラントの特徴に応じて、インプラントの表面上に分配され、最終的に、小径×大径で示されるインプラント寸法の計算につながった。インプラントの寸法はすべて、マイクロウェル領域のみを含み、支持リングを含まない。マウス、ラット、ミニブタサイズのインプラントは、それぞれ300IEQを保持する直径0.8cmの円形マイクロウェル領域、または3000IEQを保持する1.8×3.5cmの楕円形マイクロウェル領域、および13,000IEQを保持する3.7×7.4cmの楕円形マイクロウェル領域を必要とするように設計された(IIN=1、ウェル距離=35μm、インプラント量=1、IEQ/ウェル=1)。ヒトサイズのインプラントは、ヨーロッパ中の臨床センターが体重70kgの患者に対して利用している平均的な最小移植IEQ用量に基づいて設計された(
図4B)。インプラントの寸法は、各ケースでインプラントの量とIEQ/ウェルを変えながら、最低用量(200,000IEQ)、平均用量(450,000IEQ)、最高用量(700,000IEQ)を保持するインプラントについて計算した(IIN=1.5、アスペクト比=0.5、ウェル距離=35μm)。単一ヒトサイズのインプラント(黒色)の寸法は、11.8×23.6cmから22.1×44.1cmの間であった。モデルでは、すべての膵島を2つのインプラントに分散させることで、インプラントの寸法を小さく保ち(灰色図形)、8.3×16.7cmから11.0×22.1cmの間のインプラント寸法となり、2IEQ/ウェル(白図形)を播種することでさらに小型化され、5.9×11.8cmから11.0×22.1cmの間のインプラントサイズとなった。
【0100】
ラットサイズのデバイスにおけるラット膵島の生存率および機能性
ラットサイズの開放型の細胞送達デバイスを最終インプラント寸法2.6×4.4cmで製造した(
図7F)。インプラントは、溶着ガイドの拡大版に従ってUS溶着され(
図7D)、滅菌され、拡大播種ツールでクランプされ、その後ラット膵島が播種された(
図8C-E)。自由浮遊状態のコントロールには300IEQを500IEQ/cm
2で播種し、インプラントには3000IEQを600IEQ/cm
2で播種した。コントロールのサンプルは、7日間の生体外培養で大きな凝集体(直径1200±300μm)を形成し、壊死コアを生じた(
図5A~C)。インプラント内に播種された膵島は互いに分離したままであり、直径100μm以下の小膵島のウェルケースにのみ複数の膵島を示した(
図5D~F)。デバイス群はコントロール群に比べて有意に高い生存率を示した(それぞれ87±7%vs63±9%)(
図5G)。コントロールの膵島は、7日目の高グルコースインキュベーションステップで、デバイスで培養した膵島(0.40±0.12ngインスリン/IEQ)に比べて高いインスリン分泌を示した(1.40±0.52ngインスリン/IEQ)。さらに、コントロールの膵島は、最初の低グルコースインキュベーション中に高いインスリン分泌を示した(0.56±0.20ngインスリン/IEQvs0.19±0.04ngインスリン/IEQ)。7日間培養後のSIは、自由浮遊状態のコントロール膵島(2.6±0.9)と開放型細胞送達デバイスに播種した膵島(2.1±0.7)で同程度であった(
図3L)。両群、両時点の膵島は、SI≧2の閾値を超えたので、機能的とみなされた。
【0101】
ラットサイズのデバイスにおけるヒト膵島の生存率および機能性
ラット膵島で行ったのと同様の方法で、ヒト膵島をラットサイズの開放型細胞送達デバイスに播種した。コントロールには90IEQ(150IEQ/cm
2)または360IEQ(600IEQ/cm
2)を、デバイスには3000IEQ(600IEQ/cm
2)を播種した。コントロールサンプルは凝集を示さなかったが、7日間の培養期間中に培養インサートに付着した(
図6A~F)。デバイス内に播種したヒト膵島は表面に付着しているようであり、マイクロウェルには、時に1個を超える膵島が入る(
図6G~I)。1日目(91.1±4.7%vs90.7±3.9%vs90.0±4.2%)でも7日目(93.6±2.1%vs91.6±3.1%vs91.7±4.4%)でも、低細胞密度コントロールと高細胞密度コントロールとデバイスとの間で生存率に統計的な差はなかった(
図6J)。インスリン分泌レベルは、培養1日目ではコントロールとデバイスで同程度であったが、高グルコースインキュベーションステップ中に分泌されたインスリンは、培養7日後ではコントロール(16.3±1.8ngインスリン/IEQおよび13.0±2.2ngインスリン/IEQ)に比べてデバイス(24.4±3.7ngインスリン/IEQ)で高かった(
図6K)。全群の膵島は機能的であった(SI≧2)。しかしながら、デバイスで培養した膵島は、1日目にコントロールと比較して高い刺激指数を示した(SIは1.7±0.4vs1.7±0.4vs4.2±1.1)(
図6I)。この効果は7日目にはさらに明確になった(SIは3.0±1.1vs2.8±0.3vs13.7±3.4)。
【0102】
考察
実施例で述べたように、最初のステップは、臨床的に承認されたPVDFからマウスサイズのデバイスを製造することであった。成形されたPVDF薄膜は、他の文献と同様に、相分離の結果として平滑な面と粗い面を示した(
図1A、B)。その後、フィルムをレーザーで微細加工し、微細熱成形することで、フィルムとその内部の細孔を効果的に伸ばしたマイクロウェル構造に成形した。本来、膵島は直径50~400μmの球状形態を保っている。ウェルの側面に位置する細孔は異方的に延伸され、水平方向の孔径は50μmの閾値を超えないようにし、それによって比較的大きな垂直方向の孔径による膵島の損失を防いだ。全体として、ほとんどの孔径は30~50μm程度であり、これにより再灌流が促進された。PolyActiveフィルムの微細熱成形によって、PVDFインプラントと同様のマイクロウェル構造が得られた。PolyActiveフィルムはPVDFフィルムと比較して、より小さな孔径でレーザー穿孔されたが(
図1G)、これは両材料の機械的特性の違いによるものである。特に注目すべきはPolyActiveの破壊歪みで、PVDFの60倍以上である。一般に、PVDFインプラントの孔径はPolyActiveインプラントに比べて大きかった。熱成形したPVDFフィルムの上部の孔は丸みを帯びたままであったが、PolyActiveフィルムの孔は楕円形で、長径:短径の比は3:1であり、先行研究と同様であった。
【0103】
第2のステップは、微細熱成形下部フィルム、多孔性上部フィルム、および支持リングを超音波溶着によって接着し、開放型膵島送達デバイスを組み立てることであった(
図2A、B)。支持リングは、マイクロウェル構造に機械的保護を与え、インプラントの折りたたみを防ぎ、取り扱いを改善した。引張試験では、ポリマー薄膜の機械的特性と、薄膜と支持リングの間の超音波溶着した接合に差は見られなかった(
図2C~F)。
【0104】
合計300IEQおよび3000IEQを、播種ツールを用いて、マウスサイズおよびラットサイズの開放型細胞送達デバイスにそれぞれ播種した。E低密度培養が膵島にとって有益であるとしても、多大な労力とコストがかかり、実用性が低いことが大きな制約となる。結果として、ヒト膵島は、比較的高い密度(500~1000IEQ/ml)で培養されることが多い。さらに、最終的なインプラントの寸法を小さくするために、インプラント内では高い細胞密度が要求される。細胞密度の影響を調べるために、ラット膵島コントロールは、合計で、マウスサイズのインプラントでは100IEQ(150IEQ/cm2)、ラットサイズのインプラントでは300IEQ(500IEQ/cm2)の浮遊膵島から構成された。自由浮遊ヒト膵島コントロールは、100IEQ(150IEQ/cm2)または360IEQ(600IEQ/cm2)の異なる播種密度で2群に分けられた。マウスサイズのインプラントには300IEQを播種し、ラットサイズのインプラントには3000IEQを播種した。
【0105】
膵島の分離プロセスは膵島の血管系を破壊し、栄養と酸素を得るために周囲からの拡散に膵島を依存させる。最も重要なことは、最も近い毛細血管からの細胞の最大距離が200μmを超えることはほとんどなく、通常は100μm以下であることである。単離された膵島は、低酸素症、膵島マトリックスの破壊、サイトカインやエンドトキシンへの暴露の結果としてアポトーシスを起こすことが以前に報告されている。さらに、中心壊死は培養中の細胞死に寄与し、膵島の密度、凝集の量、膵島の大きさ、培養中のアポトーシスの程度に依存する。
【0106】
150IEQ/cm
2で播種した齧歯動物コントロール膵島は、培養期間中に凝集が見られ、最大拡散距離が100μm以下の不規則な形状の凝集体が形成され、細胞生存率は維持された(
図3A~F、J)。しかしながら、500IEQ/cm
2で播種した齧歯動物コントロール膵島では、最大拡散距離が500μmを超える大きな凝集体の形成が見られた(
図5A~C)。酸素が不足すると壊死性コアが形成され、最終的には細胞死となる。このことは、500IEQ/cm
2の実験でコントロールに観察された細胞生存率の低下を説明する(
図5A~G)。同様の結果が文献で報告されており、600IEQ/cm
2で培養した齧歯動物膵島は、150IEQ/cm
2で培養した膵島と比較して、培養24時間後にはすでに細胞生存率が低下していた。死んだ細胞の残骸が免疫系を誘発し、より重篤な免疫反応を引き起こし、インプラント失敗のリスクが高まる。3000IEQのコントロールサンプルは、膵島の凝集により細胞の機能性と生存率が低下し、膵島単離のために動物を不必要に苦しめることになると予想されたため、採用しなかった。膵島の凝集とそれに続く壊死コアの形成を防ぐために、開放型細胞送達デバイスにマイクロウェルを使用することによって、膵島に独立した微小環境を提供した。マイクロウェルは膵島を互いに効果的に分離し、培養7日後の細胞生存率はそれぞれのコントロールと同等(マウス-インプラント)かそれ以上(ラット-インプラント)であった(
図3D~J、
図5D~G)。ヒト膵島は7日間の培養期間中凝集せず、細胞培養インサートの表面に接着しているようであった(
図6A~F)。マイクロウェルインプラントに播種したヒト膵島(
図6G~I)は、コントロール群と同等の細胞生存率(>90%)を示した(
図6J)。コントロール群ではヒト膵島が細胞培養インプラントに接着していたため、膵島の凝集や融合は見られず、これは、それらの細胞生存率が維持されていたが、齧歯類の膵島の生存性が失われていたことをよく説明するものである(
図6A-J)。さらに、齧歯類の膵島の平均直径(100~150μm)はヒトの膵島(50~100μm)よりかなり大きく、中心壊死を起こしやすい。
【0107】
齧歯類の膵島は培養中少なくとも1週間はグルコース感受性を維持すると報告されているが、齧歯類の膵島機能の変化は数日後にも起こることが知られている。齧歯類膵島のインスリン分泌データは、コントロールとマウスサイズのインプラントについて、培養7日後に同様の低-高-低のインスリン分泌プロファイルと刺激指数(SI≧2)を示し、適切な膵島機能を示している(
図3K、L)。生死染色で示されるように低酸素症に関連した壊死がないことを考えると、コントロール群とデバイス群の膵島が同様の挙動を示すことは驚くべきことではない。しかしながら、500IEQ/cm
2で播種したコントロールラットの膵島は、低酸素に関連した壊死を示し、デバイスで培養した膵島と比較して有意に高いインスリン放出プロファイルを示した(
図5H、I)。ラットサイズのデバイス内の膵島からのインスリン放出レベルが比較的低いことは、コントロールサンプルと比較してデバイスサンプルが10倍以上のIEQを保持していることから、β細胞におけるインスリン放出の自己分泌フィードバックループによって説明できる。したがって、高いインスリンレベルにさらされた膵島は、インスリンの分泌が少なくなると考えられる。一方、コントロール群のインスリン分泌レベルが相対的に高いのは、膵島が壊死して細胞内インスリンが放出され、GSIS試験中に放出されたインスリンレベルが上昇したためと考えられる(
図5H)。ヒト膵島は、コントロールとインプラントの両方で、同様の低-高-低のインスリン放出プロファイルを示した。デバイスで培養した膵島は、培養7日後、高グルコース条件下でより多くのインスリンを分泌し、その結果、刺激指数が高くなり、コントロールより機能性が向上した(
図6K、L)。
【0108】
膵島の本来の環境である膵臓は、当然ながら最適な移植部位と考えられている。しかし、酵素の漏出による組織炎症(膵炎)のリスクが高く、またβ細胞に対する自己免疫攻撃を引き起こす可能性のある局所リンパ節を刺激する可能性があるため、臨床ではほとんど使用されていない。インプラントのマクロカプセル化設計は、サイズの制約から移植部位の選択に制限があり、腹膜腔と皮下腔が移植部位の候補となる。腹膜間腔は、アクセスが容易で多数の膵島を収容できる可能性があるため、興味深い移植部位である。それにもかかわらず、血行再建が制限され、グルコース応答性が遅れ、慢性的な低酸素ストレスの可能性があるため、魅力的な部位とはいえない。皮下腔は、最小限の侵襲性、再現性、経時的なデバイスのモニターや必要に応じたデバイスの回収が容易であることから、しばしば考慮される。しかしながら、低酸素症や不十分な血行再建は皮下デバイスに関連する一般的な問題であり、そのため前血行再建や、酸素発生デバイス、増殖因子、間葉系幹細胞の共移植などの血管新生誘導手段が必要となる。
【0109】
そこで、広背筋の筋膜の下にポケットを作り、膵島送達インプラントの筋膜上移植という新しい移植部位を提案する。この新しい移植部位は、移植のための広い表面積、移植された膵島への高い血液供給、比較的非侵襲的な手術を提供するはずである。特に、広背筋は頭部、頸部、乳房などの再建手術によく使われる。広背筋は比較的一定の解剖学的構造を持ち、表面積が広く(場合によっては25x40cmにもなる)、100cm2を超える組織移植に使われる。さらにこの筋肉は、問題が発生しても比較的容易な剥離で除去することができ、ドナー部位の罹患率が低いことでも知られている。筋の除去は肩関節の安定性、可動域、筋力の低下を伴うが、これらの欠点はその後6~12ヵ月以内に解消する。
【0110】
マウスサイズ(300IEQ保持)のデバイスの設計を、ラットサイズ(3000IEQ保持)、ミニブタサイズ(13,000IEQ保持)、そして数種類のヒトサイズのデバイスへと外挿した(
図4)。埋め込みやすい楕円形を選択した。その後、マイクロウェルで満たされた楕円形の1.8×3.5cmの領域を含む、外寸2.7×4.4cmの楕円形ラットサイズデバイスが作製された(
図7F)。ヨーロッパの各センターにおける臨床膵島移植用の膵島のリリース基準に基づき、200,000、450,000または700,000IEQのいずれかを保持する3つの異なるサイズのヒトインプラントがシミュレートされた。現在、平面インプラントは1層のみで作られているため、ヒトサイズのデバイス寸法は最大22×44cmとなり、臨床使用には大きすぎる可能性がある。そこで、2つのデバイス(あるいは両面マイクロウェルデバイス)にわたる膵島の分布および/または2IEQ/マイクロウェルでの播種をシミュレートすることによって、デバイスの寸法を小さくすることを目指した。それにもかかわらず、デバイスを多層化し、より高密度の細胞を播種することは、酸素や栄養分をめぐる局所的な競争の激化につながる可能性もあるため、今後の研究で十分に検討する必要がある。
【0111】
マイクロウェルシステムは、膵島だけでなく、他の種類の細胞も簡単に充填することができる。膵島移植技術にとって、ドナー組織の希少性は、最もとまでは言わないまでも、制限要因である。最近、人工多能性幹細胞(IPSC)や胚性幹細胞から膵細胞を生体外で開発することで、膵島移植をより多くの人々に開放しようとする研究がいくつか行われている。同種移植、ドナー由来の膵島の移植に続いて、このインプラントは膵島を支持細胞と共移植するためにも容易に使用できる。可能性のある細胞の種類としては、間葉系間質細胞や内皮細胞などがあり、これらは膵島移植を改善することが以前に示されている。
【0112】
膵島移植の臨床的改善を目的として、肝外膵島送達を容易にする膵島送達デバイスを製造した。臨床的に承認されているPVDFから作られたインプラントは、以前使用されたPolyActiveインプラントと比較して、同様のマイクロウェル構造を示したが、空隙率は改善されていた。インプラントの組み立てには超音波溶着が用いられ、PVDFフィルムと同等の機械的特性を持つシールが得られた。マイクロウェルアレイ膵島送達デバイスで培養したラットおよびヒトの膵島は、7日間の生体外培養後、生存可能で機能的であることが示された。マウスサイズのデバイス設計は、臨床的に適切な寸法のラット、ミニブタ、ヒトサイズのインプラントへと外挿され、スケールアップされた。
【0113】
実施例2
膵臓は当然、膵島移植の最適な移植部位と考えられている。しかしながら、膵臓は、β細胞に対する自己免疫攻撃に対する局所リンパ節のプライミングの可能性や、膵臓の尖圭部分からの酵素漏出による組織炎症(膵炎)の高いリスクのために、臨床ではほとんど考慮されていない。したがって、膵島移植の分野では、膵島の生存と機能性を刺激する別の肝外移植戦略を模索している。
【0114】
移植戦略を成功させるためには、膵島の必要条件を理解することが不可欠である。膵島はもともと膵臓全体に広がっており、膵臓組織の1~2%を占めている。膵島は代謝活性が高く、そのため酸素需要が比較的高く、膵血流の15~20%を必要とする。膵島は膵臓内で40~60mmHgの酸素分圧(pO2)(約5%O2)にさらされているが、血糖値をモニターするために膵島には高密度の毛細血管網があるため、動脈血の酸素濃度(80~100mmHg)近くまで上昇することがある。膵島移植の臨床では、膵臓を酵素的に消化し、細胞外マトリックスを分解して膵島を尖形組織から遊離させる。しかしながら、この酵素カクテルは膵島内の緻密な毛細血管網も破壊する。したがって、単離された膵島は、移植後7~14日間は酸素と栄養の拡散のみに依存している。それにもかかわらず、3ヵ月後でさえ、肝内移植膵島は相対的に低い酸素濃度<10mmHgを示し、肝外移植戦略の必要性を再度強調している。さらに、低酸素状態ではβ細胞のグルコース応答性とインスリン分泌の両方が低下し、臨床効果が低下することが知られている。したがって、膵島移植時に酸素濃度を回復させることは、望ましい臨床結果を得るために極めて重要である。
【0115】
本明細書に記載されたデバイスの多孔性の性質は、移植時に膵島の迅速な再灌流を可能にする。膵島は、裸の細胞を移植する場合には避けられない膵島の凝集を防ぐために、マイクロウェル上に分散される。生理学的には、酸素の拡散限界のため、最も近い毛細血管から細胞の最大距離が100~200μmを超えることはほとんどない。しかしながら、単離された膵島は、低酸素コアを形成する大きな細胞コンストラクトに凝集する傾向がある。低酸素状態が維持されると、これはさらに壊死コアへと発展し、最終的に細胞死と機能低下につながる。その上、これらの死んだ細胞の残骸が免疫系を誘発し、より重篤な免疫反応を引き起こし、移植失敗のリスクが高まる。マイクロウェル形状の個々のサブスペースを提供することによって膵島を分離することは、精巣上体脂肪パッドに移植されると、生体外および生体内で膵島の生存率と機能性を改善することが本明細書で示されている。しかしながら、臨床的に適切な量の膵島を送達できるマイクロウェルデバイスの予測されるデバイス寸法は、移植するのが外科的に困難である。20万IEQで8×16cm、70万IEQで16×32cmの短軸と長軸を持つ2つの楕円形デバイスを移植する必要がある。したがって、デバイスの寸法を小さくするためには、マイクロウェルデバイスの膵島充填密度を高くする必要がある。しかしながら、膵島の充填密度が高すぎると、良好なデバイス寸法が得られるが、酸素と栄養の競合が起こり、移植後間もなく移植片の機能が失われる可能性がある。マイクロウェルインプラントにおける細胞充填密度を最適化するための3つの異なる戦略:1)膵島間の距離を最適化することによるマイクロウェルの密な充填、2)複数の膵島によるマイクロウェルの過充填、3)異なる層のマイクロウェルデバイスの積層(
図11C)を評価した。これら3つの異なる戦略の完全な生体外評価はコストと時間がかかるため、3つの異なる戦略をコンピューターで評価する計算モデルを作成した。
【0116】
方法
マイクロウェルデバイスの作製
マイクロウェル-アレイ膵島送達デバイスの部品を、以前に報告したように製造した(実施例1参照)。マイクロウェルデバイスは3つの異なる部品、(1)マイクロウェル・インプリントの多孔性フィルム、(2)蓋の役割をする平面多孔性フィルム、(3)支持リングから構成された。すなわち、ポリフッ化ビニリデン(PVDFまたはKynar 720、Solvay社製)の厚さ15μmのフィルムを、自動フィルムキャスター(Elcometer社製)を用いて溶媒キャストした。フィルムは、25kHzの周波数でUV短パルスレーザーを用いたレーザー微細加工によって多孔質にした。マイクロウェルフィルムに使用したポリマーフィルムは、25μmと50μmピッチの孔径を有する孔をパターニングし、蓋に使用したポリマーフィルムは、40μmと100μmピッチの孔径を有する孔をパターニングした。マイクロウェルを保持する多孔性フィルムは、油圧プレス(Specac社製)を用いて85℃、30kNで微細熱成形することによって作製し、平面フィルムをマイクロウェル含有フィルムに効果的に再成形した。支持リングは、2gのPVDFペレットを180℃、20kNの油圧プレスで厚さ200μmのディスクに圧縮して作製した。その後、カッティングプロッタ(Silhouette Cameo 4)を用いて200μm厚の円板から支持リングを切り出した。最後に、超音波点溶着システム(手動LPX溶着ステーション、Branson社製)によって、75%の振幅で1秒間、デバイスを組み立てた。単層デバイスは(下から上へ)(1)支持リング、(2)マイクロウェルフィルム、(3)蓋として構成され、11個の溶着スポットからなる再現性のあるパターンが得られるように、特注の溶着ガイドに従って溶着された。2層構造のデバイスも同様に組み立てたが、積層順序は、(1)支持リング下層、(2)マイクロウェルフィルム下層、(3)蓋下層、(4)スペーサーとしての支持リング、(5)支持リング上層、(6)マイクロウェルフィルム上層、(7)蓋上層とした。
【0117】
細胞培養
INS1Eラットインスリノーマβ細胞(継代36~40、Addexbio Technology)は、10%(v/v)ウシ胎児血清(FBS、Sigma)、10mMのHEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、1mMのピルビン酸ナトリウム、5mMのグルコース、23.8mMの重炭酸ナトリウムおよび50mMのβ-メルカプトエタノール(すべてThermo Fisher Scientific)を追加した、L-グルタミン(Sigma Aldrich)を含むRoswell Park Memorial Institute(RPMI)1640培地で培養した。INS1E細胞は、Rivronら[42]によって記述された方法によって偽膵島に凝集させた。つまり、幅200μmまたは400μmの微小柱を持つポリジメチルシロキサン(PDMS)スタンプを6ウェルプレートの底に置いた。加熱した3%UltraPure(商標)アガロース(Thermo Fisher Scientific)溶液をPDMSスタンプの上に注ぎ、冷却固化させた。アガロースディスクを6ウェルプレートから取り出し、PDMSスタンプを取り除いた。次にアガロースディスクを形に合わせてカットし、12ウェルプレートに入れた。各アガロースディスクは、直径400μmのマイクロキャビティ800個か、直径200μmのマイクロキャビティ3200個を保持した。400μmのマイクロキャビティに1000個、750個、500個の細胞、または200μm幅のマイクロキャビティに250個、100個、50個の細胞を播種することによって、3日間にわたって様々な大きさのINS1E偽膵島を凝集させた(
図12A~G)。
【0118】
ヒト膵島はライデン大学医療センター(LUMC、ライデン、オランダ)のヒト膵島分離研究所から提供された。この研究所はオランダ政府から臨床目的のヒト膵島を分離する許可を得ている。オランダの法律に従い、臨床膵島移植に適さないと判断されたヒト膵島がこれらの実験に使用された。合計40,000IEQのヒト膵島が純度95%で得られた。膵島は、10%FBS(Sigma)、10mM HEPES(Thermo Fisher Scientific)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific)、10μg/mLシプロフロキサシン(Sigma)を添加した(Connaught Medical Research Laboratories)CMRL-1066培地(Pan Biotech)で培養した。INS1E細胞、偽膵島およびヒト膵島は、実験開始まで37℃、21%O2または5%CO2で培養した。PLN2X対物レンズを装着したOlympus CKX53顕微鏡を用いて、培養中の明視野画像を撮影した。(偽)膵島を前述のように膵島送達デバイスに播種した(実施例1参照)。要するに、播種ツールを用いてデバイスの外縁をクランプし、播種中の細胞の損失を防止した。ルアーロックシリンジに、先端が鈍い供給チューブに接続された(偽)膵島を充填し、膵島送達デバイスの中に空けた。デバイスは10mLの培地を入れた55mmの非固着シャーレに入れた。
【0119】
低酸素染色およびイメージング
偽膵島をアガロースディスクから回収し、CELLview非固着培養ディッシュ(ガラス底、4コンパートメント、Greiner Bio-One社製)に、0.5mLの培地に150個偽膵島/区画の密度で播種した。サンプルを酸素正常状態(21%O2)または低酸素状態(5%O2)で一晩培養したが、常に5%CO2を添加した。浮遊性ヒト膵島を3つの異なる群に分け、1ml培地中の非接着24ウェルプレートに回収した:小さい(<75μm)、培地(75~150μm)、大きい(>150μm)および混合した直径の膵島。膵島を、その後、正常酸素下または低酸素下で2日間培養した。イメージング当日、(偽)膵島を5μMのInvitrogen(商標)Image-iTTM緑色低酸素色素(Fisher Scientific)で1時間染色した後、培地を8nMのHoechst33342(細胞核のカウンター染色剤、Thermo Fisher Scientific)を添加した培地に交換し、正常酸素下または低酸素下で4時間インキュベートした。低酸素色素は、大気中の酸素濃度が5%O2以下になると蛍光を発し始め、環境中の酸素濃度がさらに低下すると蛍光シグナル強度が増加する。低酸素イメージングは、Lumencor Spectra X光源、Photometrics Prime 95B sCMOSカメラ、MCL NANO Z500-N TI z-ステージを装備した自動倒立Nikon Ti-E顕微鏡で行った。システムには、ピンホールサイズ70μmのCrestOptics X-Light V2スピニングディスクユニットが備え付けられた。画像は、励起波長390nmおよび480nm、DAPIおよびFITC発光フィルター、CFI Plan Fluor DL 10X対物レンズ、2x2カメラビニングの組み合わせで撮影した。画像はFIJIソフトウェア(https://fiji.sc/)を用いて解析した。低酸素染色強度は、膵島と背景の両方を含む(偽)膵島を横切るラインプロファイル上で定量した。偽膵島内の色素の蛍光強度を平均し、バックグラウンドの平均蛍光強度で割って低酸素染色のシグナル対ノイズ比(SNR)を算出した。低酸素閾値は、低酸素状態で培養した最小の(偽)膵島群(<75μm)の平均SNRとして決定した。
【0120】
酸素イメージング
酸素感受性センサー箔(SF-RPSu4、Presens)ガラス底シャーレ(直径12mmのガラス底、35mmシャーレ、VWR社製)の内側に接着し、70%エタノールで洗浄後、細胞培養液で3回洗浄した。INS1E偽膵島を1mLの培地中でシャーレ内に播種した。続いて、低酸素(5%O2)培養中の膵島周囲の局所酸素濃度を、VisiSens酸素イメージング・システム(Presens社製)で画像化した。このシステムは顕微鏡型(Presens社製)で、視野は2.5x1.8mmであった研究に先立ち、(1)空気飽和状態(周囲空気)および(2)1mg/mlの亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、0.5mol/Lの硝酸中の硝酸コバルト(CO(NO3)2)50μL、および100ml水道水を混合することによって実現した無酸素環境で、2点較正の間で酸素イメージングシステムを較正した。専用ソフトウェア(VisiSens ScientifiCalバージョン1.10)を使用して、4時間にわたって5分ごとに画像を撮影した時系列を取得した。その後、このソフトウェアを使用して、偽膵島を横切るラインプロファイル上の酸素濃度を抽出した。抽出されたデータは、30データ点の間隔の移動平均で平均化した。
【0121】
計算モデル
本研究では、酸素の輸送と消費を記述する反応拡散移流偏微分方程式に基づいて計算モデルを開発した。
【数2】
式中、c=c(x,y,t)はスカラー量、Dは拡散係数、uは外部速度場である。式1の各項は、それぞれcの時間発展、対象領域におけるcの拡散、移流される間の挙動、反応と消費のパターンに対応する。この研究では、流体の流れの存在と影響は考慮していないため、cを酸素濃度とみなして式1の簡略形を次のように記述できる。
【数3】
式中、CO
2は酸素の濃度(mol.m
-3)である。式の最終形を得るために、反応項は酸素の消費に関するミカエリス・メンテン類似の式として記述した[43]。
【数4】
式中、R
max,O
2は最大消費速度、C
MM,O
2は酸素濃度に対するミカエリス・メンテン定数、C
crは臨界濃度、δは酸素濃度が臨界濃度を下回るところでの消費をカットするためのヘビサイド関数である。続いて式3は、局所的なグルコース濃度を考慮することで、インスリン産生の代謝需要の影響を含むように書き換えることができる。
【数5】
式中、φはグルコースの影響を調整するための定数であり、C
MM,glucはグルコース濃度に対するミカエリス・メンテン定数である。式2に式4を加えると、本研究で用いた輸送方程式の最終形になる。
【0122】
計算モデルは,偏微分方程式を解くための領域特化型言語であるFreeFEMソフトウェア[44]と有限要素法を用いて導出方程式を解くことによって実装された。数値計算では、方程式の非線形性を処理するためにPicard反復法を用いた。ウェルの形状は、デバイス内のウェルの形状を模倣するために半円形としてモデル化し、ウェルの境界には固定の酸素供給境界条件を適用した(
図11D、E)。表1に、先行研究で報告されている式2と式4の各パラメータと係数の選択値をまとめた。膵島(組織)をウェル内の周囲環境と区別するために可変拡散係数を用い、消費率は膵島にのみ適用した。計算メッシュは、シミュレーションの数値精度を上げるために、膵島/培地界面で精緻化され、その結果、単一膵島では~7,000要素、スタッキングシミュレーションでは~230,000要素となった。シミュレーションは、単一膵島のシミュレーションでは定常状態に達するのに十分な時間をかけて実施した。データの比較を容易にするため、スタッキングシミュレーションにも同じ時間枠を使用した。このモデルは、正常酸素細胞培養(18.5%O
2)または低酸素細胞培養(5%O
2、または移植直後の膵島をシミュレートする40mmHgのpO
2)中のマイクロウェル内の膵島を表す。したがって、このモデルには血管内殖は含まれておらず、膵島は酸素の拡散のみに依存している。さらに、低酸素による細胞死(酸素要求量の減少につながる)は含まれていない。
表1:計算モデルのパラメータの概要(単位、値、参考文献を含む).
【表1】
【0123】
統計学
すべての結果は平均値±標準偏差(SD)で示した。統計解析はGraphpad PRISM 8を用いて行った。P値<0.05を統計的に有意とみなした。群間比較は、分散の等質性の仮定(ブラウン・フォーサイス検定)と正規性の仮定(シャピロ・ウィルク検定)を評価した後、テューキー事後検定による一元配置分散分析(ANOVA)を用いて行った。正規性の仮定が検証されなかった場合は、クラスカル・ウォリス検定とダン検定の組み合わせが用いられた。等分散の仮定が検証されなかった場合は、ダネット事後検定を伴うブラウン・フォーサイスおよびウェルチANOVA検定が実行された。
【0124】
結果
INS1E偽膵島の低酸素イメージング
異なる細胞数のINS1Eβ細胞を3日間にわたって凝集し、凝集体直径は50細胞で53±9.3μm、100細胞で81±9.1μm、250細胞で95±6.5μm、500細胞で168.3±4.4μm、750細胞で163±5.5μm、1000細胞で170±7.8μmとなった(
図12A~G)。同じアガロースチップで培養した細胞クラスター(直径200μmチップでは50、100、250細胞、直径400μmチップでは500、750、1000細胞)の凝集体直径に有意差はなかった。低酸素(5%O
2、
図12H、I)または正常酸素(21%O
2、
図12JK)で24時間培養した後、低酸素の程度を低酸素染色で評価した。低酸素強度は偽膵島の直径に依存し、低酸素下で培養した直径75μm未満の偽膵島の平均SNRは3.0±1.0、75~100μmでは4.4±1.1、100~125μmでは8.0±3.7、125~150μmでは11.0±3.0、150μm超では12.6±1.3であった。100~125μmグループと125~150μmグループ、125~150μmグループと>150μmグループを除いて、すべてのグループが互いに有意に異なっていた。低酸素下で培養した最小の偽膵島から得られたSNRを低酸素閾値として利用した。つまり、この閾値(SNR=3.0)未満のSNRはバックグラウンドとみなされた。正常酸素下で培養した偽膵島もサイズに依存した低酸素強度を示し、平均SNRは直径75μm未満で1.6±0.3、75~100μmで1.8±0.1、100~125μmで2.0±0.6、125~150μmで2.4±1.3、150μm超で3.9±1.1であった。<75μmおよび75~100μmグループは>150μmグループと有意差があった。直径>150μmのグループだけが低酸素の閾値を超えたことから、150μm未満のINS1E偽膵島は正常酸素の細胞培養中に低酸素状態にならないことが示された。
【0125】
ヒト膵島の低酸素イメージング
低酸素(5%O
2、
図13A)または正常酸素(21%O
2、
図13B)下で48時間培養した後、同様の低酸素染色をしたヒト膵島について低酸素の程度を評価し、定量化した(
図13C)。低酸素強度は偽膵島の直径に依存しており、低酸素下で培養した直径75μm未満の膵島の平均SNRは1.6±0.6、75~100μmは1.6±0.3、100~125μmは2.6±1.6、125~150μmは3.2±1.5、150μm超は3.9±1.2であった。2つの最小膵島グループ(<75μmおよび75~100μm)は、2つの最大膵島グループ(125~150μmおよび>150μm)と有意差があった。最小の膵島から得られたSNRを再び低酸素閾値として利用した。正常酸素下で培養したヒト膵島もサイズに依存した低酸素強度を示し、平均SNRは直径<75μmで1.2±0.1、75~100μmで1.2±0.1、100~125μmで1.2±0.1、125~150μmで1.3±0.1、>150μmで1.6±0.6であった。<75μmグループ、75~100μmグループ、100~125μmグループは>150μmグループと有意差があった。直径>150μmのグループだけが低酸素閾値に達したことから、150μm未満のヒト膵島は正常酸素細胞培養中に低酸素状態にならないことが示された。計算酸素消費モデルを用いて、正常酸素培養条件下で直径50μmから250μmの膵島の周囲の局所酸素レベルを評価した(
図13D~I)。直径が150μmを超える膵島だけがそのコアで低酸素状態になり(直径50μm、100μm、150μm、200μmおよび250μmの膵島でそれぞれ16%O
2、12%O
2、7%O
2、3%O
2、2%O
2)、これは酸素濃度が5%O
2未満であることによって示された。
【0126】
低酸素培養中のINS1E偽膵島の局所的酸素イメージング
酸素イメージングシステムを用いて、低酸素培養中のINS1E偽膵島周囲の局所酸素レベルを画像化した。時系列を4時間収集し、その間5分ごとに画像を撮影した。初期には、インキュベーターのドアを開けて偽膵島を培養したため、O2レベルは高かった。その後、バックグラウンドO2レベルは10分以内に5%O2近くまで低下した。膵島はO2を消費するため、局所的なO2レベルが低下することが検出された。培養4時間後、大きさの異なる偽膵島を画像化し、偽膵島の中心を横切る線上で局所O2レベルを定量した。比較的小さな偽膵島(直径75μm)のコアは2.9%のO2に達したが、平均的な大きさの偽膵島(直径125μm)のコアは0.9%、比較的大きな偽膵島(直径175μm)のコアは0.0%のO2に達した。計算酸素消費モデルを用いて、低酸素条件下で異なる大きさの膵島を取り囲む局所酸素濃度を評価した。生体外の実験と同様に、偽膵島の中心を横切る線上で局所O2濃度を定量化した。膵島コア内の酸素濃度は、膵島の直径が50μm、100μm、150μm、200μm、250μmの場合、それぞれ2.7%、0.2%、0.1%、0.1%、0.1%O2に達すると予測された。
【0127】
膵島間の最適な距離
計算酸素消費モデルは、2つの膵島をシミュレートするように調整された。正常酸素培養中、膵島の直径(50μm、100μm、150μm、200μm、250μm)と膵島間の距離(0μm、100μm、200μm、300μm、400μm、500μm)を変えてシミュレーションを行った(
図14)。直径200μmと250μmの膵島のコアは、膵島間の距離に関係なく無酸素状態になった(接触しているときと500μm離れているときは1%O
2未満)。それ以外のケースでは、膵島と膵島の距離が500μmの場合、O
2消費域の重なりは見られなかったので、これらの膵島は互いに影響を及ぼさない2つの独立した膵島とみなされた。膵島を近接して培養した場合、50μmの局所O
2環境はほとんど影響を受けなかった(接触した場合のコア内の予測されたO
2濃度は14%O
2、500μm離れた場合は16%O
2)。直径100μmの膵島では、膵島のコアのO
2濃度は、膵島が500μm離れた場合(12%O
2)に比べ、0μm(6%O
2)、100μm(10%O
2)、200μm(11%O
2)離れた場合に影響を受けたが、どの膵島間の距離でも低酸素状態は予測されなかった。一方、直径150μmの膵島のコアでは、間隔が0μm(2%O
2)、100μm(4%O
2)または200μm(5%O
2)では低酸素状態に達したが、膵島の間隔が300μm(6%O
2)、400μm(6%O
2)または500μm(6%O
2)では低酸素状態にならなかった。
【0128】
インプラントの過剰充填
計算酸素消費モデルを調整し、マイクロウェルに似た領域(幅400μmx高さ250μm)内に2個、3個、4個の膵島が詰まった状態をシミュレートした(
図15A)。比較的小さな膵島(直径50μm)の酸素濃度は、充填密度の増加による影響をほとんど受けなかった(2個の膵島で16%O
2、3個の膵島で15%O
2、4個の膵島/マイクロウェルで14%O
2)。直径100μmの膵島の酸素濃度は、より小さな膵島よりも大きな影響を受け、予測されたコアの酸素レベルは、2個の膵島で12%O
2、3個の膵島で11%O
2、4個の膵島で10%O
2/マイクロウェルであった。直径150μmの膵島のコアは3つの充填密度すべてで低酸素状態になり、コアの酸素濃度は充填密度が高くなるにつれてさらに低下した(2個の膵島で4%O
2、3個の膵島で2%O
2、4個の膵島/マイクロウェルで1%O
2未満)。さらに、膵島周囲の低酸素領域は充填密度が高くなるにつれて増加した。小さな偽膵島(直径60~80μm)、平均的な大きさの偽膵島(直径90μmと120μm)および大きな偽膵島(直径200μmと275μm)の低酸素染色から得られた代表的な画像は、それぞれ1.8、2.2および5.0のSNR値を示した。低酸素症は最大径の膵島グループでのみ検出された(SNR=3.0の低酸素症閾値を超えた)。
【0129】
デバイス層の積層
ヒト膵島を播種できる単層マイクロウェルデバイスを作製した。しかしながら、複数のマイクロウェル層が積層されたデバイスをシミュレートするために、計算モデルを適応した。マイクロウェル層は、直径150μmの膵島を15個並べたもので、それぞれが個別のマイクロウェルであるものによってシミュレートした。デバイス層は、厚さ200μmまたは500μmの追加支持層を使用することで互いに離間され、膵島間の距離は300μmまたは600μmとなった。局所酸素濃度は、コンストラクトの中心を通る垂直線プロファイル上で定量した。単層デバイス(構築物の厚さ250μm)内に播種された膵島は、コアO
2レベル6%に達した(
図16、1段目)。マイクロウェル層間に300μm間隔(650μm厚の構築物を生じる)または600μm間隔(950μm厚の構築物を生じる)を設けた2層デバイス内に播種した膵島は、コアO
2レベル5%に達した(
図16、2段目および3段目)。マイクロウェル層間に300μm間隔(厚さ1150μmの構築物を生じる)または600μm間隔(厚さ1650μmの構築物を生じる)を設けた3層構造のデバイスでは、外側のマイクロウェル層でコアO
2レベルが5%になったが、3層構造の中央層に膵島を装填した場合はコアO
2レベルが4%に低下した(
図16、4段目および5段目)。
【0130】
2層のデバイスの製造
2層のマイクロウェル構築物を、2つの単層デバイスの部品を、追加の支持リングで隔てて互いに重ねることによって製造した。楕円形のデバイスは直径26×44mmで、マイクロウェル総数は6000個であった。この二重マイクロウェル層デバイスの7つの異なる層を、手作業で11カ所にて点溶着し、それぞれ細胞播種に適した3000マイクロウェルを保持する2つの独立したポケットを持つ細胞デバイスを効果的に作製した(
図17B左と中央)。すべての層が手動点溶着システムで一つ一つ接続され、構築物の全7層を接続した(
図17B右)。
【0131】
考察
適切な血管新生は、移植片の最適な生存と機能を確保するために不可欠である。移植された膵島はおよそ14日で再灌流することが知られているように、膵島は、移植後2週間は酸素と栄養分の拡散に大きく依存している[24]。さらに、酸素の競合はインスリン分泌とグルコース反応性の低下をもたらす[26-28,50]。したがって、膵島送達デバイスの設計は、酸素の競合をあまりひどくすることなく、膵島の高い充填密度を可能にすることが肝要である。経験則として、膵島密度はマクロカプセルデバイスの体積分率の5~10%の範囲にすることが推奨されている[51]。しかしながら、これでは膵島が集まって壊死コアを形成する可能性のある大型デバイスになってしまう。そのため、局所的な酸素供給を強化することによって、異なる戦略でマクロカプセル化膵島送達デバイスの膵島充填密度を高めようとする試みがなされている。βairデバイスは、免疫バリアで覆われた平らなアルギン酸スラブ内にカプセル化された膵島を含んでいる。このスラブには酸素透過性の膜を通して酸素が供給され、混合ガスがカプセル化された膵島に到達するようになっている[52,53]。また、溶媒キャストと粒子浸出によって外部酸素を供給するPDMSインプラントについても報告されている[54]。残念ながら、この方法では外部ポートから混合ガスを毎日補充する必要がある。OxySiteデバイスは、加水分解反応性酸素発生生体材料をPDMSディスクに組み込んだ別のアプローチをとっている[55]。このアプローチは、ヒドロゲル担体内にヘモグロブリンを組み込むことでさらに強化され、ヒドロゲルを介した酸素拡散性を向上させ、酸素発生生体材料によって生成される有害な副産物である活性酸素種を中和した[56]。それにもかかわらず、酸素発生バイオマテリアルの長期耐久性については、まだ調査中である。そこで、膵島間の酸素と栄養素の競合を防ぐマイクロウェルアレイデバイスを通して、膵島を別の膵島から離すという別の戦略を選択した。本研究の目的は、開放型マイクロウェルインプラント内の膵島充填密度を微調整することによって、デバイスの寸法を最適化することであった。最初に、膵島の直径が局所酸素濃度に及ぼす影響を評価し、続いて、膵島間距離、複数の膵島によるマイクロウェルの過充填、マイクロウェル層の積層などのマイクロウェル設計パラメータが局所膵島酸素濃度に及ぼす影響を評価した。
【0132】
(偽)膵島の生体外の培養によるモデルの検証
最初のステップは、大きさの異なるINS1E偽膵島とヒト膵島の細胞培養中の低酸素レベルを評価することであった。そこで、INS1E細胞をアガロースチップ中で3日間かけて偽膵島に凝集させ、回収し、その後正常酸素下または低酸素下で培養した。低酸素症の程度は(偽)膵島の直径に依存し、凝集体が大きいほど低酸素症の程度が高い(
図12I)。これは膵島とスフェロイド培養に関する他の研究[21,37,57]と重なる。アガロースチップ中のマイクロウェルキャビティの影響をなくすために、偽膵島を凝集チップから回収し、シャーレ中で各(偽)膵島に平面ベースを与えた。しかしながら、これによって(偽)膵島間の相互作用が可能になり、局所的な酸素濃度に影響を与えた可能性がある。したがって、低酸素状態のSNRにおけるグループ間の標準偏差の差は、培養中の膵島間の酸素競合の結果かもしれない。最小の(偽)膵島群(<75μm)のSNRを各細胞タイプの低酸素閾値とした。興味深いことに、INS1E偽膵島とヒト膵島の大きな凝集体(>150μm)は、正常酸素条件下で培養すると低酸素閾値を超えた。偽膵島とヒト膵島のこの重複は、凝集体の組成によって説明できる。膵島は、α細胞(30%)、β細胞(60%)、γ細胞、δ細胞、ε細胞(合わせて10%)という異なる細胞タイプで構成されている[16]。しかしながら、α細胞とβ細胞の酸素消費率は類似しており、β細胞のみに注目することで、完全な膵島の酸素消費のシミュレーションが可能である[21]。3日間にわたって凝集体サイズを制御するために、異なる細胞密度で偽膵島を形成した。しかしながら、播種密度が比較的低くても、INS1E細胞についても以前に記載されたように、凝集体サイズに有意差はなかった[58]。偽膵島の直径は500~1,000個の細胞凝集体で同程度であり、この細胞密度の違いが、より大きな偽膵島におけるSNRの標準偏差の増加を説明している可能性がある。
【0133】
計算O
2消費モデルを用いて、直径50~250μmの膵島の局所O
2条件をシミュレートした(
図13D~I)。マイクロウェルデバイスは薄く(厚さ5~10μm)、多孔質構造であるため、デバイスがヒト膵島への酸素の拡散に影響することはないと想定された。このことは、酸素透過性の低いPDMSから作られた厚さ10μmの固形マイクロウェルが、酸素透過時間をわずか数秒しか示さず、薄いポリマー膜が酸素透過性にほとんど影響しないことを示示したLeeらの研究からも支持される[59]。5%CO
2下で細胞を生体外で培養すると、海面下で培養した場合の最大酸素濃度は18.6%になることから、コンピューターによる局所酸素濃度を調節するための境界条件は18.6%O
2に設定された[60]。このモデルは、他の計算モデル[26,37,38,41,57]で観察されたように、膵島の直径が大きくなるにつれて低酸素状態が増加することを予測した。低酸素染色の結果に従い、膵島の直径が150μmを超えると低酸素状態に達した。
【0134】
また、低酸素条件下で培養した偽膵島の局所酸素レベルを予測し、偽膵島が生体内に移植された直後の状況をシミュレートするために、このモデルを用いた。偽膵島の低酸素染色から得られた結果を検証するために、局所酸素イメージングを用いた。直径75μm、125μm、175μmの細胞凝集塊を低酸素条件下で酸素センサー箔の上で培養し、経時的に追跡した。異なる大きさの偽膵島を取り囲む局所O2濃度を、凝集体の中心を通るラインプロファイル上で定量し、モデルによって予測された局所O2レベルと比較した。ここでも偽膵島の直径が局所O2レベルに影響し、100μmより大きい凝集体では無酸素状態(<1%O2)になった。局所酸素濃度は、使用する培地の量(したがって拡散距離)に大きく依存するため、コンピューターによる結果と生体外での結果の正確なO2レベルを比較することには慎重であるべきである[37,60,61]。しかし、局所酸素濃度に対する偽膵島の直径の影響は、モデルでもO2イメージングデータでも観察された。
【0135】
膵島間の最適な距離
計算モデルと生体外でのデータとの重なりが大きいことから、このモデルは検証済みとみなされ、膵島間の距離から始めて、膵島間の異なる充填密度をシミュレートするために使用した。正常酸素培養中の膵島の大きさ(直径50~250μm)と膵島間距離(0~500μm)の範囲で、局所O
2濃度を予測した(
図14)。発明者らの知る限り、これは膵島間の空間分布が局所酸素濃度に与える影響を予測する計算モデルを記述した最初の論文である。膵島間距離500μmでは、どの膵島サイズでも酸素環境間の重なりは見られなかったので、これらの膵島は互いに影響し合わない2つの独立した膵島とみなされた。直径が200μm以上の膵島は、膵島間の距離に関係なく無酸素状態になるコアを示した。直径50μmの膵島の局所的なO
2環境は、膵島間距離の影響をほとんど受けなかったが、これはこれらの比較的小さな凝集体の酸素消費量が限られているためである可能性が最も高い。直径100μmの膵島のコアO
2濃度は、膵島の間隔が200μm未満のときに影響を受けたが、どの膵島間距離でも低酸素状態は予測されなかった。一方、直径150μmの膵島のコアでは、間隔が300μm未満では低酸素状態に達した。したがって、300μmの膵島間距離は通常の大きさの膵島に最適であると考えられた。
【0136】
マイクロウェルの過充填
一つのマイクロウェル内に複数の膵島をシミュレートすることで、マイクロウェルの充填密度を高めた場合の評価を行った。50μm膵島の局所酸素濃度は、マイクロウェル内に最大4個の膵島を充填してもほとんど影響を受けなかったが、100μm膵島では局所酸素濃度が中程度に低下した(
図15A)。直径50μmと100μmの偽膵島を閉鎖培養した場合の低酸素染色は、低酸素閾値には達しなかった(
図15B、C)。一方、直径150μmの膵島のコアO
2濃度は、膵島2個/マイクロウェルの播種密度で低酸素状態に達することがシミュレートされた。これは、2つの膵島間の距離が300μm以下であったことから、最適な膵島間距離と関連していると考えられる。低酸素染色により、近接して培養された大きな偽膵島に低酸素が存在することが確認された(
図15D)。総じて、膵島間距離と同様に、マイクロウェルの過充填の程度は膵島の大きさに依存した。Caoらも同様の結果を得、厚さ500μmのアルギン酸カプセルに包まれた直径300μmの膵島は、同様のアルギン酸カプセルに包まれた4個の100μmの膵島に比べて、より深刻な低酸素状態を示したと報告している[38]。
【0137】
積層
デバイス寸法に最も影響力のあるスケールアップ戦略は、複数のマイクロウェル層の積層である。計算モデルを1層、2層、3層をシミュレートするように変更し、各15個の膵島は1層、2層、3層のデバイスに似ている。前述した最適な膵島間距離を考慮し、膵島は層内で互いに300μm離れた。多層化によって膵島の充填密度が高まるため、膵島間の激しいO2競合を防ぐのに層間の距離を大きくする必要があり得るという仮説を立てたことから、層間の距離は300μmから600μmの間で変化させた。興味深いことに、層間の距離ではなく層の量が膵島のコアO2レベルに影響した。三層デバイスの中間層でシミュレートされた膵島は、外側の層に比べてO2レベルが低く、三層デバイスよりも二層デバイスの方が優れていることを示している。同様の結果が、Johnsonらによって、多層アルギン酸スラブの中間層にシミュレートされた膵島について得られている[62]。加えて、アルギン酸スラブでカプセル化された膵島とその環境との間の拡散距離は、局所酸素濃度に重要な役割を果たすことが以前に報告されている[38]。2層のアルギン酸スラブは、拡散距離が両層とも比較的短いため、多層スラブよりも優れた性能を示し、この原稿で論じた2層のデバイスと同様であった。
【0138】
層間距離600μmの3層デバイスの中間層内の膵島は、層間距離300μmの3層デバイスよりも、酸素の最大拡散距離200μm[31,32]を特に考慮すると、拡散距離が大きいことから、より深刻な低酸素状態に達することが予想された。しかしながら、計算モデル実装の方法論で述べたように、すべてのシミュレーションで使用した時間は、1つの膵島が定常状態に達するのに必要な時間に等しくなるように選択した。これによって、様々なシミュレーションの結果を互いに比較することが可能になる。しかしながら、積層モデルは、元来、適切な酸素供給境界条件を周囲の境界に適用した単一のウェルの内部の状況を模倣するためだけに開発されたモデルであるため、現在のところ、ウェル間の酸素輸送を正確に記述することはできない。定常状態に達するまで積層シミュレーションを続けると、拡散した酸素は供給不足のために中間層ですべて消費されてしまう。しかしながら、シミュレーション時間を単一ウェルシミュレーションの定常状態時間と同じに保つことで、ウェルがデバイス内に積み重なった状態を模倣することができた。この仮定を置くことで、シミュレーションの結果、3層デバイスの中間層のように、O2供給境界から遠い層ほどO2レベルが低くなることが確認された。ウェル間空間のモデル記述を改善し、より長いシミュレーション時間を採用することで、2層構成と3層構成との局所的なO2濃度の違いがより顕著になる可能性がある。
【0139】
臨床的に意義のあるデバイス寸法
以前、望ましい膵島投与量とデバイス設計に基づいて、マイクロウェルアレイ細胞送達デバイスのデバイス寸法を計算することができるデバイスサイズ計算機について発表した[オープンデバイス論文参照]。マクロカプセル化膵島送達デバイスの最適な膵島間距離、過充填の程度、層の量を知ることで、臨床的に適切なデバイス寸法の予測を改善することができる。デバイスサイズ計算機における重要なパラメータは、膵島分離指数(または膵島サイズ指数、直径150μmの膵島に対する移植膵島の平均膵島直径の指標として、IEQ/膵島数で計算される)である。CITに使用されるヒト膵島調製物の膵島分離指数は0.5~2であると報告されている[33,63-67]。従って、膵島分離指数を1とし、1.25IEQ/ウェルのわずかな過充填を考慮すると、直径8x16cmの2層デバイス2個に300,000IEQを分散して移植できることになる。最近、600人以上の患者について、後直腸鞘平面の寸法が定量化され、この部位におけるマクロカプセル化細胞送達デバイスの可能なサイズの計算に用いられた。楕円形の細胞送達デバイスは、腹膜前腔に移植する場合、長方形や円形よりも優れており、8.3×16.6cmの楕円形デバイスに相当する108cm2の平均面積のデバイスを保持できることが示された[68]。したがって、腹膜前部位での移植には、8×16cmのデバイス寸法が妥当であると思われる。重要なことは、他の戦略によって膵島間の酸素競合をさらに減少させると、デバイス内の膵島充填密度を増加させることができ、より多くの膵島を充填したり、デバイスの寸法を小さくしたりできる可能性があるということである。三層構造体の中心層内の膵島が経験する低酸素は、OxySiteデバイス内で利用されるような酸素放出性マイクロビーズによって減少し得る[69]。例えば、3層構造(30,000IEQで直径6.5×13cmの2つのデバイス)を作製することによって、デバイスの寸法を小さくしたり、8×16cmの3層構造の2つのデバイスで300,000IEQの代わりに450,000IEQの充填を可能にしたりすることができる。
【0140】
結論
計算モデルによってシミュレートされた膵島周囲の局所酸素濃度の予測値は、INS1E凝集体およびヒト膵島の低酸素染色および酸素濃度イメージングと重複した。膵島周囲の局所酸素濃度は、膵島の直径によって大きく左右された。酸素を得るのにもっぱら拡散に依存している単離された膵島は、膵島の直径が150μmを超えると、正常酸素培養(18.6%O2)中に低酸素状態(<5%O2)になる。その結果、通常の大きさの膵島(直径150μm)は、O2の広範な競合を防ぐために300μm離すべきである。一方、膵島をマイクロウェル上に分散させるマクロカプセル化戦略では、比較的小さな膵島(直径100μm以下)ではマイクロウェルへの過充填が起こりうる。2層構造のデバイスでも、膵島に対するO2の十分な拡散が可能であり、それによって層間のO2の競合を防ぐことができる。一方、3層構造のデバイスでは、O2の競合が増加した。これらのスケールアップ戦略を考慮すると、マイクロウェルデバイス設計のスケールアップバージョンは、腹膜前部位での移植に適したデバイス寸法で、臨床的に意義のある数の膵島を収容できることが示された。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象内に細胞を移植するための開放型移植可能細胞送達デバイスであって、
複数の孔を有する表面領域を有する下部フィルムと、
複数の孔を有する表面領域を有し、前記下部フィルムを実質的に覆って内部空間を形成するように前記下部フィルムの上に配置される上部フィルムと、を備え
前記下部フィルムおよび前記上部フィルムは生体適合性生体材料から形成され、
前記下部フィルムは複数のマイクロウェルを含み、前記マイクロウェルはその開放側で前記上部フィルムの表面領域に面するように配置され、
前記下部フィルムおよび任意に前記上部フィルムの孔径は、前記孔を通して前記開放型移植可能細胞送達デバイス内の血管新生または血管内殖を可能にするようなものである開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項2】
前記上部フィルムおよび前記下部フィルムの表面領域の平面内に配置されるように、前記下部フィルムの表面領域および前記上部フィルムの表面領域の実質的に周りに配置されている支持構造体をさらに含み、前記下部フィルムおよび前記上部フィルムは、前記上部フィルムと前記下部フィルムと前記支持構造体との間に、前記内部空間と周囲との間の接触を可能にする1つ以上の開口部を残すように、1箇所以上で前記支持構造体に取り付けられ、好ましくは前記支持構造体も生体適合性生体材料から形成される請求項1に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項3】
前記生体適合性生体材料が、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリ(エチレンテレフタレート(PET)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリアミド(PA)、ポリエチレン(PE)、ポリイミド(PI)、ポリアクリレート、ポリオレフィン、ポリスルホン(PSF)、テトラフルオロエチレン/ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ePTFE(発砲ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(乳酸)(PLA)またはそれらの組み合わせから選択される請求項
1に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項4】
前記マイクロウェルの直径が200~1000μm、好ましくは250~950μm、より好ましくは300~900μmである請求項
1に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項5】
前記下部フィルムおよび任意に前記上部フィルムの孔径が5~100μm、好ましくは10~80μmより好ましくは15~60μm最も好ましくは20~55μmである請求項
1に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項6】
前記マイクロウェルが細胞を含み、好ましくは前記細胞はオルガノイドまたは細胞クラスターであり、より好ましくは前記細胞または前記細胞クラスターは、内分泌細胞もしくはサイトカイン産生細胞もしくはそれらの群であるか、またはこれらを含み、より好ましくは前記細胞または前記細胞クラスターは、膵島細胞、腎臓細胞、甲状腺細胞、胸腺細胞、精巣細胞、膵臓細胞またはそれらの群から選択されるか、あるいはより好ましくはオルガノイドは、腸管オルガノイド、胃オルガノイド、甲状腺オルガノイド、胸腺オルガノイド、精巣オルガノイド、肝臓オルガノイド、膵臓オルガノイド、上皮オルガノイド、肺オルガノイド、腎臓オルガノイド、ガストルロイド(胚オルガノイド)、芽球様細胞(胚盤胞様オルガノイド)、心臓オルガノイド、網膜オルガノイドまたは膠芽腫オルガノイドから選択される請求項
1に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項7】
前記マイクロウェルの直径が600~1000μm、好ましくは700~900μm、より好ましくは750~850μmであり、任意に前記ウェルが、ヒドロゲルによってカプセル化したオルガノイドまたは細胞クラスターを含む請求項
1に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項8】
前記下部フィルムおよび任意に前記上部フィルムの孔径が5~200μmである請求項7に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項9】
前記上部フィルム、前記下部フィルムおよび/または前記支持構造体のPVDFに注入された、またはコーティングされた薬剤を含む請求項
2に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項10】
互いに積み重ねられ、任意にスペーサーで分離された請求項
1に記載の開放型移植可能細胞送達デバイスを2つ以上積層したものを含む請求項
1に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項11】
疾患の治療、予防または寛解における使用のための請求項1~10のいずれか1項に記載の開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項12】
前記治療が糖尿病、好ましくは1型糖尿病の治療である請求項11に記載の使用のための開放型移植可能細胞送達デバイス。
【請求項13】
開放型移植可能細胞送達デバイスを構築する方法であって、
複数の孔を有する表面領域を有し、複数のマイクロウェルをさらに含む下部フィルムを提供するステップと、
複数の孔を任意に有する表面領域を有する上部フィルムを、前記マイクロウェルの開口部が前記上部フィルムに面するように前記下部フィルム上に位置決めして、前記マイクロウェルと開放的に接触する前記下部フィルムと前記上部フィルムとの間に内部空間を形成するステップと、
任意に、支持構造体を、前記下部フィルムおよび前記上部フィルムの端部と少なくとも部分的に前記支持構造体が重なるように、前記下部フィルムと前記上部フィルムの組立体の実質的に周りに、前記下部フィルムおよび前記上部フィルムと同一平面上に位置決めするステップと、
前記下部フィルムと前記上部フィルムを2箇所以上でスポット溶着して、前記内部空間がアクセス可能な複数の開口部を残すように前記下部フィルムと前記上部フィルムを互いにおよび/または任意に前記支持構造体に取り付けるステップと、を備え、
前記下部フィルムおよび任意に前記上部フィルムの孔径は、前記孔を通して前記開放型移植可能細胞送達デバイス内の血管新生または血管内殖を可能にするようなものである開放型移植可能細胞送達デバイスを構築する方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか1項に記載の開放型移植可能細胞送達デバイスまたは請求項12に記載の方法によって得られるか、もしくは入手可能な開放型移植可能細胞送達デバイスに細胞を播種する方法であって、
細胞用容器をチューブの第1端と連結し、前記内部空間が前記細胞用容器と開放的に連通するように、前記開放型移植可能細胞送達デバイスの開口部を通して前記チューブの第2端を前記内部空間に挿入するステップと、
残りのすべての開口部が密閉されるように、前記開放型移植可能細胞送達デバイスの外側をクランプするステップと、
適した培地中に懸濁した細胞または細胞クラスターを前記細胞用容器に充填するステップと、
余分な培地を孔を通して排出しながら、前記細胞を前記細胞用容器から前記チューブを通して前記開放型移植可能細胞送達デバイスの前記内部空間に流すステップと、を備える細胞を播種する方法。
【請求項15】
前記細胞を、重力によって前記チューブを通して前記開放型移植可能細胞送達デバイスの前記内部空間に流す請求項14に記載の細胞を播種する方法。
【国際調査報告】