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特表2024-530698塩化水素を貯蔵する貯蔵媒体、およびHCl含有ガスから塩化水素HClを分離して貯蔵する方法
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  • 特表-塩化水素を貯蔵する貯蔵媒体、およびHCl含有ガスから塩化水素HClを分離して貯蔵する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-23
(54)【発明の名称】塩化水素を貯蔵する貯蔵媒体、およびHCl含有ガスから塩化水素HClを分離して貯蔵する方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20240816BHJP
   C07C 211/63 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
B01D53/14 210
C07C211/63
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024509359
(86)(22)【出願日】2022-08-11
(85)【翻訳文提出日】2024-04-09
(86)【国際出願番号】 EP2022072594
(87)【国際公開番号】W WO2023020942
(87)【国際公開日】2023-02-23
(31)【優先権主張番号】21192129.1
(32)【優先日】2021-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518294476
【氏名又は名称】フライエ ウニヴェルジテート ベルリン
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100225026
【弁理士】
【氏名又は名称】古後 亜紀
(74)【代理人】
【識別番号】100230248
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 圭二
(72)【発明者】
【氏名】ハセンシュタープ-リーデル・セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】フォシュナッケア・パトリック
【テーマコード(参考)】
4D020
4H006
【Fターム(参考)】
4D020AA10
4D020BA16
4D020BB04
4D020BC03
4H006AA03
4H006AB80
(57)【要約】
【課題】HClの吸蔵能が向上した化合物を提供する。
【解決手段】塩化水素(HCl)を貯蔵する貯蔵媒体は、一般式(I)のイオン性化合物を少なくとも1種含有し、粘度(25℃、1000hPa)が5~50mPas、好ましくは10~20mPasの範囲内である。
[NR ][Cl(HCl)] (I)
(式中、R、RおよびRは、互いに独立して、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチルおよびsec-ブチルからなる群から選択されるアルキル部分であり、好ましくはメチル、エチル、n-プロピルからなる群から選択されるアルキル部分であり、
部分、R部分およびR部分のうちの少なくとも1つは、R部分、R部分およびR部分のうちのそれ以外のいずれとも異なり、
a、bおよびcは、互いに独立して、0、1、2または3であり、
a+b+cの合計は、必ず4でなければならず、
nは1以上、好ましくは1~6、より好ましくは1、2、3、4である。)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化水素(HCl)を貯蔵する貯蔵媒体であって、一般式(I)のイオン性化合物を少なくとも1種含有し、粘度(25℃、1000hPa)が5~50mPas、好ましくは10~20mPasの範囲内である、貯蔵媒体。
[NR ][Cl(HCl)] (I)
(式中、R、RおよびRは、互いに独立して、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチルおよびsec-ブチルからなる群から選択されるアルキル部分であり、好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、n-ブチルからなる群から選択されるアルキル部分であり、
部分、R部分およびR部分のうちの少なくとも1つは、R部分、R部分およびR部分のうちのそれ以外のいずれとも異なり、
a、bおよびcは、互いに独立して、0、1、2または3であり、
a+b+cの合計は、必ず4でなければならず、
nは1以上、好ましくは1~6、より好ましくは1、2、3、4である。)
【請求項2】
請求項1に記載の貯蔵媒体において、一般式(I)のイオン性化合物において、aおよびbが1、2または3であり、cが0、1であることを特徴とする、貯蔵媒体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の貯蔵媒体において、一般式(I)のイオン性化合物が、[NEtMe][Cl(HCl)]、[NEtMe][Cl(HCl)]、[NEtMe][Cl(HCl)]、[NBuEtMe][Cl(HCl)]、[NPrMe][Cl(HCl)]、[NBuMe][Cl(HCl)](式中、nは1~6、好ましくは1~4である。)から選択されることを特徴とする、貯蔵媒体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の貯蔵媒体において、一般式(I)のイオン性化合物が、[NEtMe][Cl(HCl)]、[NEtMe][Cl(HCl)]、[NEtMe][Cl(HCl)](式中、nは1~6、好ましくは1~4である。)から選択されることを特徴とする、貯蔵媒体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の貯蔵媒体において、一般式(I)のイオン性化合物が、イオン性化合物1gあたり0.3g以上のHCl、好ましくはイオン性化合物1gあたり0.4g以上のHCl、より好ましくはイオン性化合物1gあたり0.5g以上のHClを(充填状態にて)含有することを特徴とする、貯蔵媒体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の貯蔵媒体において、導電率(20℃)が20mS/cm以上、好ましくは30mS/cm以上、より好ましくは40mS/cm以上、なおいっそう好ましくは50mS/cm以上であることを特徴とする、貯蔵媒体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の貯蔵媒体において、水素Hの発生が、1V以上、好ましくは0.8V以上、より好ましくは0.5V以上、例えば1~1.5Vの範囲内、好ましくは1~1.2Vの範囲内であることを特徴とする、貯蔵媒体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の貯蔵媒体の、プロセスガスからHClを分離し、かつ/あるいは、プロセスガスからHClを可逆的に吸収して貯蔵するための使用。
【請求項9】
HCl含有ガス、特にはHCl含有プロセスガス、を一般式(II)の少なくとも1種のイオン性化合物に接触させることにより、該HCl含有ガスから塩化水素HClを分離して貯蔵する方法であって、
前記HCl含有ガス由来の塩化水素HClが一般式(II)の前記少なくとも1種のイオン性化合物と結合することで、一般式(I)のイオン性化合物が得られる、方法。
[NR ][Cl] (II)
(式中、R、RおよびRは、互いに独立して、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチルおよびsec-ブチルからなる群から選択されるアルキル部分であり、好ましくはメチル、エチル、n-プロピルからなる群から選択されるアルキル部分であり、
部分、R部分およびR部分のうちの少なくとも1つは、R部分、R部分およびR部分のうちのそれ以外のいずれとも異なり、
a、bおよびcは、互いに独立して、0、1、2または3であり、
a+b+cの合計は、必ず4でなければならない。)
[NR ][Cl(HCl)] (I)
(式中、R、RおよびRは、互いに独立して、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチルおよびsec-ブチルからなる群から選択されるアルキル部分であり、好ましくはメチル、エチル、n-プロピルからなる群から選択されるアルキル部分であり、
部分、R部分およびR部分のうちの少なくとも1つは、R部分、R部分およびR部分のうちのそれ以外のいずれとも異なり、
a、bおよびcは、互いに独立して、0、1、2または3であり、
a+b+cの合計は、必ず4でなければならず、
nは1以上、好ましくは1~6、より好ましくは1、2、3、4である。)
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、一般式(II)のイオン性化合物が、[NEtMe][Cl]、[NEtMe][Cl]、[NEtMe][Cl]、[NBuEtMe][Cl]、[NPrMe][Cl]、[NBuMe][Cl]から選択され、好ましくは[NEtMe][Cl]、[NEtMe][Cl]、[NEtMe][Cl]から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか一項に記載の一般式(I)のイオン性化合物から水素と塩素を放出する方法であって、一般式(I)のイオン性化合物に貯蔵された塩化水素HClが電気分解によって水素Hと中間塩素Clに分解されて、一般式(II)の化合物が得られることを特徴とする、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、電気分解時に得られた中間塩素Clが一般式(II)のイオン性化合物に貯蔵されて、一般式(III)のイオン性化合物が得られることを特徴とする、方法。
[NR ][Cl] (III)
(式中、R、RおよびRは、互いに独立して、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチルおよびsec-ブチルからなる群から選択されるアルキル部分であり、好ましくはメチル、エチル、n-プロピルからなる群から選択されるアルキル部分であり、
部分、R部分およびR部分のうちの少なくとも1つは、R部分、R部分およびR部分のうちのそれ以外のいずれとも異なり、
a、bおよびcは、互いに独立して、0、1、2または3であり、
a+b+cの合計は、必ず4でなければならず、
nは1以上、好ましくは1~7、より好ましくは3、5、7である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化水素を貯蔵する貯蔵媒体、このような貯蔵媒体の、プロセスガスからHClを分離し、かつ/あるいは、プロセスガスからHClを可逆的に吸収して貯蔵するための使用、HCl含有ガスから塩化水素HClを分離して貯蔵する方法、および該貯蔵媒体から水素と塩素を放出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化水素は、塩化物や肥料や染料の製造、電気めっき、さらには、写真や布地やゴムの産業で利用されている。一般的に、塩化水素は、塩素と水素を組み合わせることで製造される。塩化水素の工業的な製造は、テフロン(登録商標)、フレオン、その他のCFC類、クロロ酢酸、PVCなどの塩素化有機化合物やフッ素化有機化合物の生産としばしば結び付けられる。
【0003】
また、塩化水素は、有機塩素化反応の副生成物としても、工業で大量に生成される。
【0004】
副生成物として得られた塩化水素の一部は、気相酸化過程や、塩酸の隔膜電解のような電気化学的過程で、塩素と水素に再分解される。そのような過程は、いずれも極めて大量のエネルギーを消費するものであったり、貴金属触媒を使用するものであったり、電気分解時に膜や隔膜を必要とするものであったりする。
【0005】
したがって、HClを工業プロセスガスから分離する方法として、HClを簡単かつ経済的に分離することのできる方法があれば有利である。
【0006】
塩化物は、塩化水素(HCl)とともに、[Cat][Cl(HCl)n]型のポリ(塩化水素)塩素酸塩(-I)を形成することが一般的に知られている。その例として、対称アンモニウム塩NR(式中、RはMe、Et、Pr、Bu、Penである。)が挙げられる。液体としては、対称テトラペンチルアンモニウム二塩化物が最初に挙げられる。ほかにも、[NMe(C1633)]二塩化物や数種類のイミダゾリウム系二塩化物も知られている。しかしながら、これらの既知の化合物のHCl吸収効率は、満足のいくものでない。なお、対応するポリ塩化物系で見受けられるように、長いアルキル鎖が塩素化反応することによって物質が分解したり化合物の特性が変わったりする可能性がある。
【0007】
上記の化合物によるHClの吸収量は、塩化水素の温度や対応する分圧、ほかにも、イオン性化合物の物性などといった、様々な要因に左右される。例えば、ポリ塩化物について示されているように(国際公開第2019/215037号(特許文献1))、イオン性化合物の粘度、導電率、モル質量などの特性は、カチオンに何を選択するかや、カチオンの置換などの影響を受ける場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2019/215037号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は、HClの吸蔵能が向上した化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、請求項1の構成を備えた、塩化水素を貯蔵する貯蔵媒体、さらには、請求項9の構成を備えた、塩化水素を分離して貯蔵する方法の提供によって解決される。
【0011】
つまり、塩化水素(HCl)を貯蔵する貯蔵媒体であって、一般式(I)のイオン性化合物を少なくとも1種含有し、粘度(25℃、1000hPa)が5~50mPas、好ましくは10~20mPasの範囲内である、貯蔵媒体を提供する。
[NR ][Cl(HCl)] (I)
(式中、R、RおよびRは、互いに独立して、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチルおよびsec-ブチルからなる群から選択されるアルキル部分であり、好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、n-ブチルからなる群から選択されるアルキル部分であり、
部分、R部分およびR部分のうちの少なくとも1つは、R部分、R部分およびR部分のうちのそれ以外のいずれとも異なり、
a、bおよびcは、互いに独立して、0、1、2または3であり、
a+b+cの合計は、必ず4でなければならず、
nは1以上、好ましくは1~6、より好ましくは1、2、3、4である。)
【0012】
粘度については、ウベローデ粘度計を用いてDIN 51 562-2に準拠して動粘度を測定した。密度の測定後、動粘度から絶対粘度を算出した。
【0013】
式(I)のイオン液体化合物により、プロセスガスからのHClの可逆的な吸収および貯蔵が可能になる。そのほか、有利なことに、電気化学的過程で化合物(I)を電気分解すれば、水素Hの放出も可能である。該イオン液体は、塩素Clを貯蔵することも可能であり、これは、ホスゲンの合成などの別の合成用途のCl供給源として使用することができる(Vossnacker et al., Novel Synthetic Pathway for the Production of Phosgene, Science Advances 2021,7, eabj5186)。
【0014】
本発明に係るHClの貯蔵媒体は、非対称に置換されたアンモニウムカチオンとポリ(HCl)塩化物アニオンとから構成されるイオン性化合物、特には、イオン液体を含む。該カチオンは、少なくとも2種類の異なるアルキル部分を有するアンモニウムカチオンである。該アンモニウムカチオンは、2種類、3種類または4種類の異なるアルキル部分、特には、低級アルキル部分を有し得る。
【0015】
本発明に係るイオン液体は、低粘度で、高い導電率、低い分解電圧および低いモル質量を有する。しかも、これらの化合物は、合成が簡単で、極めて安価な化学物質から大量に製造することができる。
【0016】
さらに、前記イオン液体は、低いセル電圧での電気分解によって水素と塩素に分解することができる。つまり、前記イオン液体は、塩素と水素を生成する無水系として使用することが可能である。
【0017】
本発明に係る貯蔵系のイオン液体には複数の利点がある。このIL(イオン液体)は低腐食である。HClを効率的に貯蔵すると同時に、イオン液体がその他の不純物を吸収しないことで浄化に繋げる。電気分解では、一方の電極でしか著しいガス発生が起きないので、形成された生成物の分離を容易に行うことができる。電気分解のセル設計を簡素なものにし得る。セル内の膜や隔膜を不要にし得る。炭素電極が、高価な貴金属に代わる電極材料となり得る。
【0018】
本貯蔵媒体の一実施形態において、一般式(I)のイオン性化合物において、aおよびbが1、2または3であり、cが0、1である。
【0019】
本貯蔵媒体のさらなる実施形態において、一般式(I)のイオン性化合物は、[NEtMe][Cl(HCl)]、[NEtMe][Cl(HCl)]、[NEtMe][Cl(HCl)]、[NBuEtMe][Cl(HCl)]、[NPrMe][Cl(HCl)]、[NBuMe][Cl(HCl)]、[NBuMe][Cl(HCl)](式中、nは1~6、好ましくは1~4である。)から選択される。nは、1から6の範囲、好ましくは1から4の範囲で考えられ得るどのような数字であってもよいと理解されたい。前記液体中において、各[Cl(HCl)(式中、nは1~4である。)種同士は平衡状態にある。
【0020】
本貯蔵媒体の好ましい一実施形態において、一般式(I)のイオン性化合物は、[NEtMe][Cl(HCl)]、[NEtMe][Cl(HCl)]、[NEtMe][Cl(HCl)](式中、nは1~6、好ましくは1~4である。)から選択される。
【0021】
本貯蔵媒体のさらなる他の実施形態において、一般式(I)のイオン性化合物は、イオン性化合物1gあたり0.3g以上のHCl、好ましくはイオン性化合物1gあたり0.4g以上のHCl、より好ましくはイオン性化合物1gあたり0.5g以上のHClを(充填状態にて)含有する。つまり、質量での吸蔵能は、イオン性化合物1gあたり0.3~1gのHCl、好ましくはイオン性化合物1gあたり0.4~0.8gのHCl、より好ましくはイオン性化合物1gあたり0.5~0.7gのHClであり得る。吸蔵能の測定は、次のようにして行った。所定量の塩化物塩をシュレンク管に投入した。この塩化物塩に対し、実施例1、2の説明のようにしてHClを充填した。塩化物塩に貯蔵されたHClの量を秤量して求めた。
【0022】
物質量での吸蔵能は、イオン性化合物1molあたり1.5mol以上、好ましくはイオン性化合物1molあたり2.0mol以上、より好ましくはイオン性化合物1molあたり2.5mol以上であり得る。物質量での吸蔵能の範囲は、イオン性化合物1molあたり1.5~3mol、好ましくはイオン性化合物1molあたり2.0~2.8mol、より好ましくはイオン性化合物1molあたり2.2~2.6molであり得る。
【0023】
さらに、本貯蔵媒体の導電率(20℃)は、20mS/cm以上、好ましくは30mS/cm以上、より好ましくは40mS/cm以上、なおいっそう好ましくは50mS/cm以上である。導電率は、Mettler Toledo(メトラー・トレド)社製の導電率計SevenCompact S230を用いて測定した。
【0024】
本貯蔵媒体の密度は、0.5~1.5kg/L、好ましくは0.8~1.2kg/L、より好ましくは0.9~1.1kg/Lの範囲内であり得る。密度は、所定体積の物質を秤量する体積目盛り付きのシュレンク管を使うことで求める。
【0025】
本貯蔵媒体の一実施形態において、水素Hの発生は、1V以上、好ましくは0.8V以上、より好ましくは0.5V以上、例えば1~1.5Vの範囲内、好ましくは1~1.2Vの範囲内で検出可能である。
【0026】
前述のように、本発明に係る貯蔵媒体は、プロセスガスからHClを分離し、かつ/あるいは、プロセスガスからHClを可逆的に吸収して貯蔵するのに使用され得る。
【0027】
これは、HCl含有ガス、特にはHCl含有プロセスガスから塩化水素HClを分離して貯蔵する方法で行われる。該方法では、前記HCl含有ガスを一般式(II)の少なくとも1種のイオン性化合物に接触させ、該HCl含有ガス由来の塩化水素HClが一般式(II)の該少なくとも1種のイオン性化合物と結合することで、一般式(I)のイオン性化合物が得られる。
[NR ][Cl] (II)
(式中、R、RおよびRは、互いに独立して、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチルおよびsec-ブチルからなる群から選択されるアルキル部分であり、好ましくはメチル、エチル、n-プロピルからなる群から選択されるアルキル部分であり、
部分、R部分およびR部分のうちの少なくとも1つは、R部分、R部分およびR部分のうちのそれ以外のいずれとも異なり、
a、bおよびcは、互いに独立して、0、1、2または3であり、
a+b+cの合計は、必ず4でなければならない。)
[NR ][Cl(HCl)] (I)
(式中、R、RおよびRは、互いに独立して、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチルおよびsec-ブチルからなる群から選択されるアルキル部分であり、好ましくはメチル、エチル、n-プロピルからなる群から選択されるアルキル部分であり、
部分、R部分およびR部分のうちの少なくとも1つは、R部分、R部分およびR部分のうちのそれ以外のいずれとも異なり、
a、bおよびcは、互いに独立して、0、1、2または3であり、
a+b+cの合計は、必ず4でなければならず、
nは1以上、好ましくは1~6、より好ましくは1、2、3、4である。)
【0028】
本方法の一実施形態において、一般式(II)のイオン性化合物は、[NEtMe][Cl]、[NEtMe][Cl]、[NEtMe][Cl]、[NBuEtMe][Cl]、[NPrMe][Cl]、[NBuMe][Cl]から選択され、好ましくは[NEtMe][Cl]、[NEtMe][Cl]、[NEtMe][Cl]から選択される。
【0029】
前述のように、前記貯蔵媒体の一般式(I)のイオン性化合物に貯蔵された塩化水素は、必要に応じて該化合物から放出され得る。
【0030】
一実施形態では、一般式(I)のイオン性化合物に貯蔵された塩化水素HClが、電気分解によって、特には、1V以上、好ましくは0.8V以上、より好ましくは0.5V以上、例えば1~1.5Vの範囲内、好ましくは1~1.2Vの範囲内のセル電圧を印加することによって、水素Hと塩素Clに分解される。
【0031】
水素と塩素が放出されると同時に、一般式(II)の化合物が得られる。式(II)の化合物は、再回収されてHCl貯蔵媒体として再利用され得る。
【0032】
さらなる実施形態では、電気分解時に放出されて得られた塩素Clが(即座に)貯蔵されて、特には、一般式(II)のイオン性化合物に(即座に)貯蔵されて、一般式(III)のイオン性化合物が得られる。
[NR ][Cl] (III)
(式中、R、RおよびRは、互いに独立して、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチルおよびsec-ブチルからなる群から選択されるアルキル部分であり、好ましくはメチル、エチル、n-プロピルからなる群から選択されるアルキル部分であり、
部分、R部分およびR部分のうちの少なくとも1つは、R部分、R部分およびR部分のうちのそれ以外のいずれとも異なり、
a、bおよびcは、互いに独立して、0、1、2または3であり、
a+b+cの合計は、必ず4でなければならず、
nは1以上、好ましくは1~7、より好ましくは3、5、7である。)
【0033】
塩素含有ガス由来の塩素の貯蔵については、例えば特許文献1に記載されている。
【0034】
以下では、本発明について、図面を参照しながら例示を用いて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明に係る貯蔵媒体の化合物によるHClの結合と貯蔵、HClから塩素と水素への変換の様子を示す図である。
図2】本発明に係る貯蔵媒体の化合物によるHClの結合と貯蔵、HClから塩素と水素への変換、その後の塩素の貯蔵、ホスゲンなどの化学生成物への変換の様子を示す図である。
図3】固体状態の[NEtMe][ClHCl]の分子構造を示す図である。
図4】[NEtMe][ClHCl]の電流-電圧図である。
図5】[NEtMe][ClHCl]の電流-時間図である。
図6】[NEtMe][ClHCl]の電気分解後の気相の紫外/可視光スペクトルである。
図7】[NEtMe][ClHCl]の電気分解後のNMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1に、式(II)のイオン性化合物によるHClの貯蔵、その下に、式(I)のイオン性化合物の形成およびその後の電気分解の条件下での水素と塩素の放出の循環を示す。
【0037】
つまり、[NEtMe]Clに2個のHCl分子が吸収されて[NEtMe][Cl(HCl)]が得られる。[NEtMe][Cl(HCl)]に約1~1.2Vの電圧を印加すると、このイオン性化合物に貯蔵された塩化水素HClが水素Hと塩素Clに分解される。
【0038】
電気分解時に放出されて得られた塩素Clは、(即座に)[NEtMe][Cl-Cl-Cl]として貯蔵され、後に放出される。
【0039】
水素と塩素が放出されると同時に、[NEtMe]Clが得られる。これは、再回収されてHCl貯蔵媒体として再利用される。
【0040】
つまり、より広域な図2の状況では、形成されたイオン液体[NEtMe][Cl]がCOと再反応してホスゲンを形成し、これがアミン類とさらに反応してイソシアネート類とHClを生じることで、塩素の循環過程が確立され得る。
【実施例
【0041】
(実施例1)
[NEtMe]Cl(36.2g、239mmol)を、150℃で1時間乾燥することにより、残留水分を取り除いた。この乾燥塩を、真空引きしたフラスコに入れた。該フラスコに対し、系の圧力が950mbarで一定になるまで塩化水素ガス(18.5g、507mmol、2.12当量)の導入を行った。貯蔵媒体1gあたり0.51gのHClを貯蔵する、低粘度で無色の液体が得られる。
【0042】
得られる化合物は、[NEtMe][Cl(HCl)2.16]と表すことができる。これは、塩化物1あたりHClが2.16当量存在することを意味する。前記液体中において、各[Cl(HCl)(式中、nは1~4である。)種同士は平衡状態にある。このことは、同等の[F(HF)系についてNMR分光法により確認されている。最も安定な[Cl(HCl)]種は[ClHCl]アニオンであり、これについては、固定状態の分子構造も取得した。
【0043】
図3に、固体状態の[NEtMe][ClHCl]の分子構造を示す。
【0044】
[NEtMe][Cl(HCl)2.16]の特性を求めると、25℃での導電率が62.6mS/cmであり、粘度が12mPasであり、密度が1.03g/mLであった。
【0045】
[NEtMe][Cl(HCl)2.16]について、電流-電圧(CV)の実験(図4のグラフを参照のこと)および電流-時間の実験(図5のグラフを参照のこと)で特性評価を行った。陰極でのガスの発生を確認するとともに、黄色への変色も確認した。電気分解(3V)を2時間行うと、黄色味が強くなる。
【0046】
紫外/可視光を使った気相の特性評価により、塩素の発生を確認した(図6のグラフを参照のこと)。
【0047】
残ったILの1H NMRスペクトルから、カチオンの信号とClHClの信号を確認した(図7のグラフを参照のこと)。
【0048】
(実施例2)
[NMePr]Cl(1.52g、7.72mmol)を、150℃で1時間乾燥することにより、残留水分を取り除いた。この系に対し、塩化水素(0.757g、20.8mmol、2.69当量)を添加した。貯蔵媒体1gあたり0.50gのHClを貯蔵する、低粘度で無色の液体が得られる。
【0049】
[NRMe][Cl(HCl)]系についての調査をさらに行い、下記のように吸蔵能、密度、絶対粘度および導電率を求めた。充填状態の各系の試料は、[NEtMe]Clについての上記の説明と同様にして準備した。
【0050】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】