(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-23
(54)【発明の名称】イヌの肘矯正のための器具および方法
(51)【国際特許分類】
A61D 1/00 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
A61D1/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510428
(86)(22)【出願日】2022-09-07
(85)【翻訳文提出日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 EP2022074820
(87)【国際公開番号】W WO2023036803
(87)【国際公開日】2023-03-16
(32)【優先日】2021-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518374468
【氏名又は名称】キュオン アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Kyon AG
【住所又は居所原語表記】Hardturmstrasse 103, 8005 Zuerich, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】プファイル インゴ
(72)【発明者】
【氏名】ブレシナ ステフェン
(57)【要約】
本発明は、イヌおよび他の動物の前肢における足のずれを矯正するための、器具および方法に関連する。足の再整列は、肘の内側コンパートメントを上腕骨の末端と正しく整列させることを意図する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
尺骨の内側(ナイソク、medial)コンパートメントの角度を、前記尺骨のねじれを調整することにより、調整するためのプレートであって、
前記プレートは:
第1の部分および第2の部分;
前記第1の部分は、第1の側面と、前記第1の側面から間隔をあけ、かつ前記第1の側面に対して実質的に平行な、第2の側面とを含み;
前記第2の部分は、第3の側面と、前記第3の側面から間隔をあけ、かつ前記第3の側面に対して実質的に平行な、第4の側面とを含む;
第1および第2の部分が前記プレートの長軸に整列する(aligned)ように、第1の部分を第2の部分に連結する、ブリッジ;
前記第1の部分の第1の表面と前記第2の部分の第3の表面との間の、角度;
および
前記プレートを骨に取り付けるために、前記第1の部分内の前記第1の側面から前記第3の側面まで、および前記第2の部分の前記第2の側面から前記第4の側面まで、前記プレート内に形成される、複数のネジ穴;
を備える、
プレート。
【請求項2】
請求項1に記載されたプレートであって、
前記プレートは、前記尺骨をその遠位端の近くで切断後、前記尺骨に取り付けるのに適合する
プレート。
【請求項3】
請求項2に記載されたプレートであって、
前記第1の部分は、前記切断された尺骨の近位部分に取り付けるのに適合し、および前記第2の部分は、前記切断された尺骨の遠位部分に取り付けるのに適合する
プレート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載されたプレートであって、
前記第1の部分の前記第1の表面と前記第2の部分の前記第3の表面との間の前記角度は、前肢が伸展位置に保持され、手首(wrist)が過伸展するときに、足(paw)のねじれを測定することにより決定された整列誤差(error in alignment)に基づいて選択される
プレート。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載されたプレートであって、
前記第1の部分の前記第1の表面と前記第2の部分の前記第3の表面との間の前記角度は、約5度~約60度の間である
プレート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載されたプレートであって、
前記プレートは、前記尺骨の外側(ガイソク、lateral)-尾側(ビソク、caudal)側面に取り付けるのに適合する
プレート。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載されたプレートであって、
前記プレートは、肘の関節炎疾患の、具体的には、例えば鈎状突起分離症(fragmented coronoid process)(FCP)または内側コンパートメント症候群(medial compartment disease)(MCD)によって引き起こされる形成異常の、治療に適合する
プレート。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載されたプレートであって、
前記プレートは、イヌの尺骨の前記内側コンパートメントの前記角度を調整するのに適合する
プレート。
【請求項9】
足のずれ(misalignment)を矯正することにより、内側コンパートメントのずれを矯正するための方法であって、
前記方法は、以下の各ステップ:
尺骨をその遠位端の近くで切断するステップ;
および
プレートを前記尺骨に切り口で取り付けるステップ;
を含み、
前記プレートは、第1の部分と、前記第1の部分に対して角度がある第2の部分とを有する、
方法。
【請求項10】
請求項9に記載された方法であって、
前記プレートは、請求項1~8のいずれか一項において規定されたとおりである
方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載された、前記足のずれを矯正することにより、内側コンパートメントのずれを矯正するための方法であって、
前記方法は、以下の各ステップ:
前記足を過伸展させることにより、前記足のずれの角度を決定するステップ;
中手骨の中心線と、内側および外側上顆により規定される関節の機械的軸との間の、差を測定するステップ;
および
前記尺骨に取り付けるプレートを、それぞれ第1および第2の部分の間の異なる角度を有する複数のプレートから、選択するステップ;
をさらに含む、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イヌおよび他の動物の前肢における足(paw)のずれ(misalignment)を矯正するための、器具および方法に関連する。足の再整列(realignment)は、肘の内側(ナイソク、medial)コンパートメントを上腕骨の末端と正しく整列させる(align)ことを意図する。
【背景技術】
【0002】
肘関節の関節炎は、イヌにおける前肢の跛行の最も一般的な原因である。肘の関節炎疾患の大部分は、形成異常の形態と考えられている。形成異常の一般的な原因には、鈎状突起分離症(fragmented coronoid process)(FCP)および内側コンパートメント症候群(medial compartment disease)(MCD)を含む。イヌにおける肘の形成異常の最も一般的な形態であるFCPにおいては、尺骨の骨および/または軟骨の断片が折れる。断片は、動いて関節にさらなる損傷を引き起こしうる。さらに折れた骨は、上腕骨および尺骨の当接面間の関係を変化させる。この関係の変化によって、特に負荷がかかったときに、関節に影響する力のずれが生じる。ずれた力は、軟骨の損傷および/または骨へのさらなる損傷を引き起こしうる。
【0003】
FCPの治療には、あらゆる骨断片の除去が必要である。しかしながら、関節が別の方法で損傷している場合は、これでは不十分でありうる。関節が激しく損傷している、または骨がずれている場合、関節がさらに損傷し、跛行が続く可能性がある。
【0004】
肘関節の問題を矯正するための1つの方法は、関節の全部または一部を置き換えることである。しかしながら、肘関節置換術(elbow replacement)には、広範囲かつ複雑な手術が必要である。様々な人工肘関節が存在するにもかかわらず、日常的な使用における安全性および有効性が証明されたものはない。
【0005】
スライド上腕骨骨切り術(sliding humeral osteotomy)(SHO)は、カリフォルニア大学デービス校整形外科研究所(Orthopedic Research Laboratory)のSchultz博士によって提案された。この手順は、上腕骨を再整列し、軟骨損傷の領域から力を移動させる。この手順において、上腕骨は肘の上で切断される。プレートは、上腕骨の一部を再配置するために使用される。
【0006】
Pfeil博士(ドレスデン(Dresden)、ドイツ)によって開発され、WO 2010/121233に記載されている、近位尺骨外転(PAUL)骨切り術(proximal abducting ulnar osteotomy)は、遠位前肢を外向きに(外側(ガイソク、lateral)に)移動させ、および肘を通しての負荷をより外側の位置に再調整し、従って尺骨の表面および大腿骨の内側顆上に位置する負荷が減少し、負荷を関節の外側に移動させる。
【0007】
尺骨の双斜(bi-oblique)近位骨切り術が存在し、これは肘関節の内側と外側との間の力の配分を、均衡させるのに有効である。この方法は、生後約6か月から12か月までのイヌにおいて有用である。
【0008】
遠位尺骨骨切り術は、双斜方法と同じ結果を達成するために行われうるが、しかしはるかに若いイヌ(生後4~6か月)にしか適用できない。
【0009】
遠位尺骨外転骨切り術(DAUL)(distal abducting ulnar osteotomy)は、肘を通しての負荷をより外側の位置に再調整し、従って尺骨の表面および大腿骨の内側顆上に位置する負荷が減少し、負荷を関節の外側に移動させる。
【発明の概要】
【0010】
[発明の開示]
本発明は、哺乳類、具体的にはイヌの足を、尺骨のねじれを調整することによって、矢状面に再整列するための方法および装置を提供する。尺骨のねじれは、好ましくは骨の遠位端の近くで、尺骨を2つの部分に切断することによって、矯正される。尺骨のねじれを調整するために、尺骨に取り付けるためのプレートが提供される。プレートは、近位部分および遠位部分を有する。一方の部分は真っ直ぐであり、もう一方の部分はプレートの長軸まわりに角度がついている。異なるプレートでは、このねじれ角が異なる角度を有しうる。足を矢状面と整列させるための尺骨の正しいねじれを達成するために、所望のねじれ角を有するプレートが選択される。プレートのねじれは、左側または右側の用途のために、時計回りまたは反時計回りのいずれかである。プレートは、好ましくは尺骨の外側-尾側(ビソク、caudal)側面に取り付けるのに適合する。切断は遠位端の方で行うのが最も簡単であるが、しかし関節を侵害することなくプレートが骨の上に乗るための十分な空間があれば、遠位端から近位端の間のどこでも行われうる。
【0011】
本発明の第1の態様は、イヌまたは他の哺乳類の肘の上腕骨および尺骨を、FCPなどの肘関節の損傷から変化した尺骨の頭部の形状を矯正するために、再整列するための手順に関連する。尺骨は、手首(wrist)関節の上で切断される。尺骨の下部のねじれは調整されるため、足の外向きの角度は5~10度の間の正常な方向へ調整される。多くの場合、肘関節の損傷により、足の外向きの角度は60度を超えるまでに達する。足が正しい位置まで回転すれば、尺骨のねじれはこの位置に特別のプレートおよびネジインプラントを用いて固定され、尺骨の2つの部分を新しい角度で共に固定する。
【0012】
本発明の別の態様によれば、前肢が伸展位置に保持され、手首が過伸展するときに、足のねじれが測定される。この位置での足の外向きのねじれ角の測定が、整列誤差(error in alignment)の決定に使用される。
【0013】
尺骨の下部のねじれ角における必要な変化は、足の外向き方向の増加によって測定された、ずれに基づいて決定される。遠位尺骨に切断がなされたら、足は外向きに0~10度ねじれた正常な位置まで回転される。
【0014】
本発明の別の態様によれば、尺骨が切断された部分を再連結するためのプレートが、提供される。プレートは、互いに対してねじれた2つの平らな部分を有する。プレートの平らな部分は、尺骨の上部に取り付けるのに適合する。プレートの別の平らな部分は、尺骨の下部に取り付けるのに適合する。プレートの上下の平らな部分は、プレートの長軸まわりにねじれている。プレートは、固定手段、典型的には骨ネジによって、尺骨の各部に取り付けるのに適合する。本発明の別の態様によれば、ねじれ角の様々な角度を有し、右側および左側用であるプレートが、提供される。使用されるプレートは、切り口の上下の尺骨の外側面にプレートを固定するために必要なねじれ角の所望の調整に依存する。
【0015】
本発明の器具および方法は、具体的には獣医学において、より具体的にはイヌの治療において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】正常なイヌの前肢骨格および矢状面の図。肘関節の機械的軸は、上腕骨外側上顆から外側に、および上腕骨内側上顆から内側に、突出する線で示される。矢状面は、この軸に対して垂直である。この場合、足の軸は矢状面と並ぶ。
【
図2】イヌの前肢骨格および矢状面の図。この図において、足の軸は矢状面と合致せず、角度βだけ外旋している。
【
図3】ネジを受けるための穴を有する、プレートの透視図。プレートの下面は、ネジ穴の各側の点でのみ骨と接触している。プレートの遠位区分と近位区分との間には、プレートに角度のあるねじれが存在する。プレートは、尺骨の骨切り術の遠位部と近位部とを連結し、2つの骨区分間にねじれを誘導するために使用される。
【
図4】尺骨の遠位部を回転させた方向に固定するために使用される、プレートの側面図。
【
図5】プレートの端面図。様々なねじれ角を有する各種のプレートが用意される。プレートはまた、右側および左側用に鏡像で作製される必要がある。角度αは、最小で5度、最大で50度になる可能性がある。
【
図6】プレートを遠位端の方で適用した状態の、尺骨の図。プレートは、尺骨の尾側-外側側面に設置される。遠位構成要素は、今度は尺骨のねじれを矯正するために内旋される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[好ましい実施形態の詳細な説明]
図1は、肘関節に関係する骨、すなわち上腕骨1、橈骨2、および尺骨3の正常な状態を示す。関節の機械的軸52は、上腕骨の内側上顆1″を通り上腕骨の外側上顆1′を通るベクトルとして見られることが多い。矢状面50は、肘関節の中心の高さでこの軸に対して垂直である。足は、手根骨群、一組の長手方向に伸びる中手骨4、および指骨からなるが、足が伸展しているときの正常な肘においては、矢状面と並ぶ(51)か、または5~10度だけ外側方向にわずかに回転している。
【0018】
関節に負荷がかかるとき、すなわちイヌが立っているとき、上腕骨は橈骨2および尺骨3の頭部にわたって均等に支持される。しかしながら、肘の形成異常がある場合、骨は均等に相互作用せず、足の軸51は、
図2に示されるように、正常な5~10度よりもはるかに大きな角度βだけ外旋している。
【0019】
図3、4、および5は、尺骨のねじれを再調整することによって足のずれを矯正する際に使用するための、プレート100を図示する。プレート100は、近位部分100′と遠位部分100″とを有し、細長い。それは骨に取り付けるための他のタイプのプレートと同様である。それは任意の材料でありうるが、好ましくは金属である。表面は、骨のイングロース(in-growth)またはオングロース(on-growth)を可能にするように形成または処理されうる。プレート100は、近位部分100′中に、第1の側面101と、第1の側面101の反対側の第2の側面103とを有し、および遠位部分100″中に、第1の側面102と、第1の側面102の反対側の第2の側面104とを有する。第1の側面101および102は、好ましくは平らである。第2の側面103および104は、骨への接触を制限するために、好ましくは非平面状表面を有する。より好ましくは、第2の側面103および104は、ネジ穴120の周囲でのみ骨と接触するように形成される。他の側面106、107、108、および109もまた、平面状であってもよく、または他の様々な形状を有していてもよい。骨プレートで知られているように、側面106、107、108、および109は、ネジ穴120の周囲で湾曲してもよい。プレート100は、プレートを骨に取り付けるための骨ネジを受けるための複数のネジ穴120を有する。好ましくは、ネジ穴120は、ネジの頭部がプレートの第1の側面101および102の下に位置するように凹んでいる。もちろん、他のタイプのネジ穴も使用されうる。止めネジおよび非止めネジを含む任意のタイプの骨ネジが、プレート100を尺骨に取り付けるために使用されうる。異なる穴には異なるタイプのネジが使用されうる。
図3および4のプレート100は、6つのネジ穴120を有するものが図示されている。しかしながら、任意の数、例えば4、6、または8つのネジ穴が、使用されうる。
【0020】
図5には、プレートの遠位部分100″が、プレートの近位部分100′に対して角度αだけ傾けられた様子が図示される。プレートの2つの部分100′および100″は、角度付き部分105によって接合される。角度付き部分105は、第1の表面101に対して実質的に垂直でありうる。角度付き部分105はまた、第2の表面104に対しても実質的に垂直でありうる。角度付き部分105では、第1の表面101と102との間に三角形の段がある。第2の表面103と104との間にも、同様の形状の段がある。プレートの近位部分100′において、第2の側面103は、第1の側面101に対して実質的に平行である。プレートの遠位部分100″において、第2の側面104は、第1の側面102に対して実質的に平行である。
【0021】
足のずれを矯正し、尺骨のねじれをさらに矯正するために、角度βの測定がゴニオメーターを使用してなされる。実験および臨床データは、測定された角度βに対して、プレートのねじれ角αがどの程度必要であるかについての指針を与える。
【0022】
図6に図示されるように、尺骨3は、位置20で近位部分3′と遠位部分3″とに切断される。好ましくは、切り口は、尺骨3を横切りかつ尺骨3に対して垂直に真っ直ぐである。しかしながら、他のタイプの切り口も使用されうる。好ましくは、切り口は尺骨の遠位端近くではない。切り口は、プレートが関節と干渉しないように、橈骨2の遠位端から十分離れなければならない。プレート100は、通常の方式で尺骨の部分3′および3″に取り付けられる。ネジ130は、穴120内に配置される。プレートは、ネジを用いて取り付ける前に、所望の位置を維持するために、骨の部分にクランプされうる。プレートは、尺骨の外側-尾側側面上の、尺骨の平坦領域に取り付けられる。
【0023】
本発明の少なくとも1の実施形態を開示してきたが、様々な適合、修正、追加、および改善が、当業者であれば容易に明らかになるであろう。そのような適合、修正、追加、および改善は、本明細書に添付された複数の請求項によってのみ限定される、本発明の一部とみなされる。
【国際調査報告】