(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-23
(54)【発明の名称】全反射顕微鏡法用の生体適合性光学スライド、およびかかるスライドを含む顕微鏡イメージングシステム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20240816BHJP
G02B 21/34 20060101ALI20240816BHJP
G02B 21/06 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
G01N21/64 G
G02B21/34
G02B21/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510673
(86)(22)【出願日】2022-08-24
(85)【翻訳文提出日】2024-04-22
(86)【国際出願番号】 EP2022073565
(87)【国際公開番号】W WO2023025842
(87)【国際公開日】2023-03-02
(32)【優先日】2021-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505351201
【氏名又は名称】セントレ ナシオナル デ ラ ルシェルシェ シエンティフィーク
(71)【出願人】
【識別番号】316011983
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ デクス-マルセイユ
(71)【出願人】
【識別番号】515322183
【氏名又は名称】エコール・サントラル・ドゥ・マルセイユ
【氏名又は名称原語表記】ECOLE CENTRALE DE MARSEILLE
(71)【出願人】
【識別番号】515011944
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ドゥ・モンペリエ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ムトゥ,アニタ
(72)【発明者】
【氏名】リュモ,ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】ルリュ,オードゥ
(72)【発明者】
【氏名】ファヴァール,シリル
【テーマコード(参考)】
2G043
2H052
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043EA01
2G043FA02
2G043HA01
2G043HA09
2G043LA03
2H052AA09
2H052AB06
2H052AC27
2H052AE03
2H052AE05
(57)【要約】
本発明は、全反射顕微鏡イメージングのために生物学的試料を受けることが意図された光学スライド(10)に関する。かかる光学スライドは、ガラス基部基板(11)と、前記基板上に交互に配置された複数の誘電体材料の複数の薄層の積層体(12)と、を備え、前記積層体の自由層は、生体適合性を有する。前記積層体は、全反射顕微鏡イメージングの感度および分解能が改善されるような、前記自由層と前記試料との間の境界面における表面波をサポートするための屈折率特性および層厚特性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全反射顕微鏡イメージングのために生物学的試料(E)を受けることが意図された光学スライド(10)であって、
-光学的に透明な基部基板(11)と、
-複数の誘電体材料の複数の層の積層体(12)と、
を備え、
前記積層体(12)は、前記基部基板(11)上に直接的に配置されており、
前記積層体(12)は、高屈折率の第1誘電体材料の薄層(MD1)と低屈折率の第2誘電体材料の薄層(MD2)との対が交互に連続したものから形成されており、
前記積層体(12)は、全反射モードにおける前記光学スライドの所定の入射角および照射波長において光学共鳴を生成することができる、光学スライド。
【請求項2】
前記第1材料は、1.8~3.5の高屈折率を有し、
前記第2材料は、1.2~1.7の低屈折率を有する、請求項1に記載の光学スライド。
【請求項3】
前記試料と接触した状態となることが意図された前記積層体の層は、1×10
-8~1×10
-2の吸収係数を有する第3生体適合性誘電体材料(MD3)をベースとする、請求項1または2に記載の光学スライド。
【請求項4】
前記第1材料は、Nb
2O
5をベースとし、
前記第2材料は、SiO
2をベースとし、
前記第3材料は、SiO
2またはSiO
xをベースとする、請求項1~3のいずれか一項に記載の光学スライド。
【請求項5】
前記積層体は、10マイクロメートル未満の総厚を有し、より具体的には、0.2~4.0マイクロメートルの総厚を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の光学スライド。
【請求項6】
前記積層体は、典型的には4~20の数の薄層を備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の光学スライド。
【請求項7】
全反射顕微鏡システムであって、
-請求項1~6のいずれか一項に記載の光学スライド(10)と、
-光ビームを放出するように構成された光源(30)と、
-前記光学スライド(10)へ向かう前記光ビームを形成するように構成された顕微鏡レンズ(20)と、
を備え、
前記光学スライドおよび前記顕微鏡レンズは、前記入射角が
-全反射の臨界角以上であり、かつ
-前記顕微鏡レンズの開口数に応じて定められる限界値以下である
ように構成されている、全反射顕微鏡システム。
【請求項8】
前記入射角は、62°~80°である、請求項7に記載の顕微鏡イメージングシステム。
【請求項9】
前記顕微鏡レンズは、典型的には1.45以上の開口数を有する、請求項7または8に記載の顕微鏡イメージングシステム。
【請求項10】
前記顕微鏡レンズは、可変開口数を有する、請求項7~9のいずれか一項に記載の顕微鏡イメージングシステム。
【請求項11】
前記顕微鏡レンズは、可変焦点を有する、請求項7~10のいずれか一項に記載の顕微鏡イメージングシステム。
【請求項12】
全反射顕微鏡イメージングのために生物学的試料(E)を受けることが意図された光学スライド(10)の製造方法であって、
-全反射モードにおける前記光学スライドの所定の入射角および照射波長において光学共鳴を生成することができる誘電体多層積層体(12)が形成されるように、第1誘電体材料と第2誘電体材料とが交互に複数連続した薄層を光学的に透明な基部基板(11)上に堆積させる工程
を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、光学顕微鏡の分野に属する。より詳細には、本発明は、全反射顕微鏡法に適合された、電磁場の増強をサポートするものとしての多層積層体に基づく光学スライドの新規の概念に関する。
【0002】
本発明は、特に、全反射蛍光(Total Internal Reflection Fluorescence、TIRF)顕微鏡法による生物学的試料イメージングの分野に適用されるものであるが、それ以外の適用を排除するものではない。かかるイメージング技術は、特に生物学的細胞(生体細胞)の原形質膜において行われる分子事象の可視化、分析、および定量化に、特に良好に適合される。
【0003】
〔技術的背景〕
より具体的に、本発明の発明者らが直面した全反射蛍光顕微鏡イメージングの分野に存在する課題を、本文書の残りの部分に記載することを試みる。もちろん、本発明は、この特定の用途の文脈に限定されるものではなく、全反射イメージングの原理を用いた任意の顕微鏡方式または技術に関わるものである。
【0004】
全反射蛍光(TIRF)顕微鏡法は、生物学的細胞における動態および膜組織を研究するためのベンチマーク技術となっている。その利点の1つは、試料の選択的励起を行うことができるように、試料とガラス顕微鏡スライドとの間の境界面に位置する試料の極薄部分に励起光を閉じ込めることが可能であることにある。かかる技術によって、ナノメートルスケールでの単一分子の像の実現が可能になる。
【0005】
TIRF技術は、以下の原理に基づいている。顕微鏡スライド(例えば、ガラス基板)上に配置された生物学的試料(生体試料)は、レーザ励起ビームを用いて、当該顕微鏡スライドを介して照射される。当該励起ビームが全反射の臨界角以上の入射角でスライドガラスと試料との間の境界面に当たるとき、エバネッセント波と称される光の電磁成分の1つが、試料の極薄部分において前記境界面へ伝播する。その光強度は、前記境界面までの距離に伴い、指数関数的に減少する。エバネッセント場の浸透深さは、典型的には100nm未満である。得られる蛍光信号―言い換えれば、観察された蛍光分子によって放出された電磁波―は、その後、イメージングのために、光検出器の方へ収集される。
【0006】
そこで、この既知の技術によって、得られる像には複数の良質性がある:まず、それらは、バックグラウンドノイズが低いこと(試料の深層(エバネッセント場の外側)に位置する蛍光団はごくわずかに励起されるだけであるため)、および軸方向分解能が比較的高いことによる利益がある。
【0007】
表面金属化(surface metallisation)に基づくもの等、より複雑な構造を有する顕微鏡スライドは、電磁場を局所的に増強するようにさらに設計される。表面プラズモン共鳴原理に基づくかかる光学スライドによって、顕微鏡イメージングの感度の改善が可能になる。しかしながら、この既知の解決策は、電磁場増強値の点で、また、材料(すなわち、貴金属)の選択において、依然として制限されたものである。その結果、使用できる照射条件、および生体適合性が制限され、最適なものではなくなってしまう。
【0008】
特許文献US2016/0238830に記載された他の既知の技術は、多層導波路に基づいている。その層厚および屈折率は、導波漏れモードに耐えるように選択される。しかしながら、この技術を用いて行われる顕微鏡イメージング実験も、特に感度および分解能の観点から、依然として制限されたものである。
【0009】
このように、安定的かつ再現可能で信号対雑音比が改善された照射条件下において生物学的試料をイメージング(結像)できる、高分解能顕微鏡技術を提供する必要がある。
【0010】
〔発明の開示〕
本発明の特定の一実施形態では、全反射顕微鏡イメージングのために生物学的試料を受けることが意図された光学スライドであって、光学的に透明な基部基板と、複数の誘電体材料の複数の層の積層体と、を備える光学スライドが提案される。前記積層体は、前記基部基板上に直接的に配置されており、かつ高屈折率の第1誘電体材料の薄層と低屈折率の第2誘電体材料の薄層との対が交互に連続したものから形成されており、全反射モードにおける前記光学スライドの所定の入射角および照射波長において光学共鳴を生成することができるようになっている。
【0011】
このように、本発明は、全反射顕微鏡法を実施するための光学スライドの新規の設計に基づく。基部基板と結合された誘電体多層からなるかかる積層体によって、接触層におけるスライドと試料との間の境界面において伝播するエバネッセント電磁場の著しい増強を保証することが可能となる。それゆえ、この種の「誘電共鳴(dielectric resonance)」は、試料と接触した状態にある光学スライドの表面に閉じ込められたエバネッセント波の光強度を、光学共鳴によって増幅するように設計される。このアプローチによって、顕微鏡イメージングの感度、および空間分解能が改善される。加えて、既存のプラズモン共鳴スライドと比較して、この提案されたタイプの光学スライドは、使用がより容易であり得ることは明らかである。当該光学スライドは、より広い範囲のTIR顕微鏡イメージングパラメータに適合するからである。
【0012】
特定の一構成によれば、前記試料と接触した状態となることが意図された前記積層体の層(末端層または接触層と称される)は、1×10-8~1×10-2の吸収係数を有する第3生体適合性誘電体材料をベースとする。この値の範囲において、スライドの最適な働きが可能となる。実際、試料との境界面におけるエバネッセント電磁場の大きさの制御に関して、末端層の吸収係数が鍵となるパラメータであることを、本発明者らは発見した。
【0013】
特定の一実施形態によれば、前記第1誘電体材料は、1.8~3.5の高屈折率を有し、前記第2誘電体材料は、1.2~1.7の低屈折率を有する。当該第3材料は、その部分について、(前記積層体の屈折率が交互となるように、)前記末端層よりも前にある薄層の屈折率に応じて低屈折率または高屈折率を有する。このように、本発明では、誘電体共鳴器を設計するために用いることができる屈折率について、比較的に広い選択が与えられる。
【0014】
より具体的には、それらの薄層は各々、照射波長、入射角、および形成材料の屈折率に応じた厚さを有する。このように、TIR顕微鏡システムによって課されるイメージングパラメータにかかわらずに、光学スライドを容易に設計することが可能である。
【0015】
特定の一実施形態によれば、光学的に透明な基板は、以下の群に属する材料に基づく:ソーダ石灰ガラス、サファイア、石英、フッ化カルシウム。
【0016】
特定の一実施形態によれば、前記第1誘電体材料は、Nb2O5をベースとし、前記第2誘電体材料は、SiO2をベースとし、前記第3誘電体材料は、SiO2またはSiOxをベースとする。
【0017】
一般に、本発明によれば、各薄層の厚さは、1~300ナノメートルであり、より具体的には、75~150ナノメートルである。一方、前記基部基板の厚さは、50~2,000マイクロメートルである。前記積層体は、10マイクロメートル未満の総厚を有し、より具体的には、0.2~4.0マイクロメートルの総厚を有する。前記積層体は、典型的には4~20の数の薄層を備える。
【0018】
本発明の別の一実施形態では、全反射顕微鏡システムが提案される。当該システムは、
-前述した実施形態のいずれか1つに記載の光学スライドと、
-光ビームを放出するように構成された光源と、
-前記光学スライドへ向かう前記光ビームを形成するように構成された顕微鏡レンズと、
を備え、前記顕微鏡レンズおよび当該スライドは、入射角が全反射の臨界角以上となるように構成される。
【0019】
なお、前記入射角は、前記光ビームの軸と前記光学スライドの前記積層体の軸との間の角度に対応することに留意されたい。また、選択された入射角が前述した範囲の上限に近ければ近いほど、システムの軸方向分解能が大きくなることに留意されたい。
【0020】
有利な一構成によれば、前記入射角は、前記顕微鏡レンズの開口数によって定められる限界値以下である。より具体的には、前記入射角は、62°~80°である。
【0021】
本発明の別の一実施形態では、全反射顕微鏡イメージングのために生物学的試料を受けることが意図された光学スライドの製造方法が提案される。当該方法は、
-全反射モードにおける前記光学スライドの所定の入射角および照射波長において光学共鳴を生成することができる誘電体多層積層体が形成されるように、第1誘電体材料と第2誘電体材料とが交互に複数連続した薄層を光学的に透明な基部基板上に堆積させる工程であって、前記試料と接触した状態となることが意図された前記積層体の層は、生体適合性誘電体材料をベースとする工程
を含むような方法である。
【0022】
このように、顕微鏡システムによって課されるイメージングパラメータにかかわらずに構成できる、電磁場の増強を伴う光学スライドを設計することが可能である。
【0023】
〔図のリスト〕
本発明の他の特徴および利点は、例示的かつ非限定的な実施例によって与えられる以下の説明および添付の図面を読むことによって、明らかになるだろう:
-
図1は、本発明の特定の一実施形態による全反射顕微鏡システムの簡略図である;
-
図2は、
図1のイメージングシステムにおいて使用できる、本発明による光学スライドの第1実施例を示す;
-
図3は、
図1のイメージングシステムにおいて使用できる、本発明による光学スライドの第2実施例を示す。
【0024】
〔発明の詳細な説明〕
本文献のすべての図において、同一の要素および工程は、同一の参照番号によって示される。
【0025】
図1は、本発明の特定の一実施形態による全反射顕微鏡システム100を、簡略化して示す。かかるシステムは、光学スライド10と、顕微鏡レンズ20と、光源30と、光検出器40と、を備える。
【0026】
光学スライド10は、全反射構成による顕微鏡イメージングのために生物学的試料Eを受けることが意図された生体適合性スライドである。本発明による光学スライドの構造の一例を、
図2に関連してさらに説明する。
【0027】
顕微鏡レンズ20は、典型的には1.45以上の広開口を有するレンズである。顕微鏡レンズ20は、光ビームを光学スライドの方向に形成し、光学スライドから反射および/または後方散乱されたビームを光軸OAに沿って集めることを可能にし得る、レンズ、または多かれ少なかれ複雑な光学レンズのセットを含む。顕微鏡レンズ20は、可変焦点および(1.45より大きな)可変開口数を有してもよい。
【0028】
光源30は、試料中に含まれる分子を励起できる、所定の波長λ(典型的には、561nmに等しく、より一般的には、350~1,300nmである)のレーザ光ビームを放出するように構成されたレーザ光源である。
【0029】
光検出器40は、CCDカメラまたはCMOSカメラであり、そのスペクトルバンドは、試料から再放出された蛍光による光(蛍光によるこの光の波長は、励起波長λとは異なる)を検出するように適合されている。光検出器40は、受け取った光の強度を、処理ユニット(図示せず)への電気信号に変換する。当該処理ユニットは、全反射モードにおける試料Eの像が得られるように光源30、光検出器40、および顕微鏡レンズ20を制御できるよう、当該光源30、光検出器40、および顕微鏡レンズ20に電気的に接続されている。
【0030】
ここに示す顕微鏡システム100は、例えばスライドまたはダイクロイックミラー50による反射構成において蛍光の観察を実施する、落射蛍光(epifluorescence)の原理に基づく。この特定の構成によって、励起光がとる光路を、反射光および/または後方散乱光がとる光路から分離することが可能になる。
図2に示すような本発明による光学スライドの構造を、以下により詳細に説明することを試みる。
【0031】
光学スライド10は、第1面(自由面Flと称される)と、第1面とは反対側にある第2面(入射面Fiと称される)と、を有し、互いに反対側にあるこれら2つの面の間に延在する積層体軸Zを定めている。自由面Flは、観察対象となる生物学的試料Eを受けることが意図されており、入射面Fiは、照射光の入射面である。Flは、自由境界面を形成している。当該自由境界面において、電磁場の増強が光学スライド10によってサポートされ得る。
【0032】
この特定の実施形態では、光学スライド10および顕微鏡レンズ20は、当該スライドの積層体軸Zが光軸OAと一致するように構成されている。言い換えれば、光学スライド10および顕微鏡レンズ20の互いに対する向きは、光学スライド10と試料Eとの間に形成される光学境界面が、光軸OAに対して垂直となるようにされている。顕微鏡レンズ20は、光ビームの入射角θ(光ビームの軸と積層体軸Zとの間に定められる)が全反射の臨界角以上となるように、典型的には、1.33~1.35の屈折率の生物学的環境に対して、入射角が62°~80°となるように、構成されている。
【0033】
本発明によれば、光学スライド10は、光学的に透明な材料で作られた基部基板11(例えば、屈折率1.5のソーダ石灰ガラスで作られた顕微鏡スライド(または、厚さが較正された他の任意の光学的に透明な支持体))を含む。基部基板11上には、全反射モードにおいて電磁場の増強をサポートするために使用される複数の誘電体薄層の積層体12が配置されている。
図2に示すように、この積層体12は、高屈折率を有する第1誘電体材料の薄層(MD1と称される薄層)と低屈折率を有する第2誘電体材料の薄層(MD2と称される薄層)とが交互に複数連続したものから形成されている。ここに示す実施形態の例では、積層体が全体として平面的な形態をしており、基部基板11の全部または一部を覆う8つの薄層からなっている。
【0034】
さらに、本実施例では、保持される誘電体材料MD1は、Nb2O5をベースとしており、誘電体材料MD2は、SiO2をベースとしている。
【0035】
試料Eと接触した状態となることが意図された薄層(自由層CLと称される)は、生体適合性誘電体材料をベースとし、例えば、ここに示す本実施例のようにNb2O5をベースとし、または典型的にはSiO2をベースとする。この自由層CLの上面は、上述した前記自由面Flに対応している。入射面Fiについては、基部基板11の下面に対応している。
【0036】
薄層MD1および薄層MD2の厚さは、照射波長λ、光ビームの入射角、および形成材料の屈折率に応じて、選択される。薄層の厚さは、一般に1~300ナノメートルである。基部基板11の厚さは、50~2,000マイクロメートルであり、誘電体積層体12の総厚は、一般に10マイクロメートル未満である。誘電体積層体12の総厚は、0.2~4マイクロメートルであることが好ましい。
【0037】
なお、前記積層体の薄層の厚さ、数、および性質は、特にシステムの結像条件(例えば、照射波長λおよび入射角θ)に応じて、ケースバイケースで適合され得ることに留意されたい。
【0038】
例えば、波長561nm、入射角68°、および開口数1.49の場合には、屈折率2.25の薄層と屈折率1.46の薄層とが交互に8つ連続した総厚842nmの積層体が、感度および空間分解能の観点から良好な性能を示す。
【0039】
より一般的には、本発明の範囲から逸脱することなく、4~20の数の薄層が想定され得る。誘電体薄層の数は、目標とする用途、材料の性質、使用される顕微鏡システムによって課される照射条件、および所望の電磁場増強係数に応じて、選択される。
【0040】
顕微鏡システム100が動作中であるとき、自由層CL上に配置された生物学的試料Eは、波長λの光ビームを用いて、光学スライドを介して照射される。より具体的には、光ビームは、全反射結像条件を満たす入射角θにおいて、基部基板11を通過し、次いで、誘電体積層体12を通過し、自由層CLと試料Eとの間の境界面に達する。基部基板11によってつくり出され前記境界面へ伝播するエバネッセント波は、その光強度が誘電体積層体12によって増幅されることが見える。実際、本発明者らは、ガラス基板上に直接的に取り付けられたかかる多層構造の存在が、前記光学スライドの表面(すなわち、自由境界面Fl)におけるエバネッセント電磁場の増強を光学共鳴によって誘発し、それによって、TIRF顕微鏡イメージング性能の著しい増大を、特に感度および空間分解能に関して可能にすることを観察した。
【0041】
試料Eからの蛍光は、続いて、ダイクロイックミラー50を介して光検出器40によって捕捉され、次いで、イメージングのために処理される。
【0042】
さらに、選択された入射角θの値が、前述した範囲の上限(1.49の開口数の場合、80°)に近ければ近いほど、システムの軸方向分解能が大きくなる(エバネッセント場深さが低減する)ことに留意されたい。それゆえ、入射角θの値は、所望の性能およびシステムによって課される制約に応じて、最適化され得る。上述した範囲の下限(62°)は、対象となる試料の屈折率値によって与えられる。上述した範囲の上限(80°)については、顕微鏡観察に用いられる開口数の値に応じて定められる。
【0043】
図3に示すような本発明による光学スライド20の第2実施例を、以下に説明することを試みる。
図2に示すスライド構造とは対照的に、試料Eと接触した状態となることが意図された積層体末端層12´は、特性複素屈折率を有する生体適合性誘電体材料MD3をベースとしており、その虚部の値は、スライド/試料境界面におけるエバネッセント場の光強度を最大化するように選択される。この複素屈折率(n)は、低屈折率を有する実部(積層体における屈折率のコントラストが続くよう、1.2~1.7のn´)と、吸収係数(k)とも称される虚部と、を含み、次式のようになる:n=n´+k×i。典型的には、末端層MD3は、複素屈折率n
SiO2=n
Sio2´+10
-5×iの二酸化ケイ素SiO
2をベースとし、または複素屈折率n
SiOx=1.602+3.2×10
-3×iの酸化ケイ素SiO
x(部分的に酸化されたシリカ)をベースとする。
【0044】
より一般的には、吸収係数の値は、1×10-8~1×10-2であり、原理は、末端層について可能な最小の吸収係数を優先することである。かかるアプローチは、末端層の吸収を利用することによって、エバネッセント場の大きさを制御し、その結果、検出器上に到達する蛍光信号の強度を制御する(その結果、TIRF顕微鏡イメージング性能が改善する)ことを可能にする。
【0045】
光学スライドの製造方法の主要な工程を、本発明の特定の一実施形態に従って以下に説明する。この方法は、多層誘電体積層体(例えば、誘電体積層体12等)が形成されるように、例えば第1誘電体材料の薄層と第2誘電体材料の薄層とが交互に複数連続したものを、顕微鏡スライド等のガラス基板プレート上に堆積させることを実施するものである。
【0046】
なお、このようにして得られた共鳴器が、全反射モードにおける照射波長λおよび入射角θにおいて、(上述した原理に従って)表面光学共鳴モードをサポートできるように、2つの誘電体材料の各々に関する薄層の性質、厚さおよび数があらかじめ決定されることに留意されたい。
【0047】
各薄層の堆積(蒸着)は、以下の技術のうちの1つによって行われる(ただし、網羅するものではない):真空蒸着、真空スパッタリング、ゾル‐ゲル法、スピンコーティング、化学蒸着、プラズマ蒸着。
【0048】
このように、本発明は、電磁場増強を伴う光学スライドを生み出す可能性を提供するものである。当該光学スライドの諸特徴は、顕微鏡システムによって必要とされるイメージングパラメータに応じて、容易に適合され得る。
【0049】
上述したように、厚さ、数、および材料タイプは、特にシステムのイメージングパラメータ、および所望の照明条件または課される照明条件に応じて、ケースバイケースで適合され得る、本発明による積層体の諸特徴である。研究を実施するために用いられるスペクトルバンド内において光学的に透明な材料であって、その屈折率および吸収係数の分散値が既知であり制御される光学的に透明な材料が好ましいだろう。かかる諸特徴は、全反射モードにおける光学スライドの所定の入射角および照射波長において、積層体の自由境界面におけるエバネッセント電磁場を増強する積層体の自由層での光学的吸収を可能にするものである必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】本発明の特定の一実施形態による全反射顕微鏡システムの簡略図である。
【
図2】
図1のイメージングシステムにおいて使用できる、本発明による光学スライドの第1実施例を示す。
【
図3】
図1のイメージングシステムにおいて使用できる、本発明による光学スライドの第2実施例を示す。
【国際調査報告】