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特表2024-530730熱変色性フィルムおよび熱変色性フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-23
(54)【発明の名称】熱変色性フィルムおよび熱変色性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 9/00 20060101AFI20240816BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C09K9/00 E
G02B5/22
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024512950
(86)(22)【出願日】2022-08-23
(85)【翻訳文提出日】2024-02-27
(86)【国際出願番号】 KR2022012572
(87)【国際公開番号】W WO2023027475
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】10-2021-0111011
(32)【優先日】2021-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0111012
(32)【優先日】2021-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514132475
【氏名又は名称】コリア インスティチュート オブ インダストリアル テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム グァンソク
(72)【発明者】
【氏名】キム ジョンピル
(72)【発明者】
【氏名】キム ミョンフン
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148CA05
2H148CA12
2H148CA17
(57)【要約】
本発明は、二酸化バナジウムの相転移温度を減少させてドーピング(doping)工程なしで二酸化バナジウムを使用することができ、経済的および環境的利点がある熱変色性フィルムおよび未処理の酸化バナジウムを含む溶液を基材上に塗布し、塗布層を形成する形成段階;および超短パルス光(intense pulsed light,IPL)を用いたアニーリングを通じて未処理の酸化バナジウムを二酸化バナジウムに相変化させて熱変色層を製造する製造段階;を含む熱変色性フィルムの製造方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱収縮性を有する基材;および
前記基材上に形成され、基材の熱収縮によって相転移温度が変化する熱変色層を含む、熱変色性フィルム。
【請求項2】
前記熱変色層は、基材の熱収縮時に相転移温度が低くなる、請求項1に記載の熱変色性フィルム。
【請求項3】
前記基材は、曲面を有し、かつ熱収縮時に曲面の曲率が緩やかに変形される、請求項1に記載の熱変色性フィルム。
【請求項4】
前記基材は、形状記憶高分子(Shape Memory Polymer,SMP)を含む、請求項1に記載の熱変色性フィルム。
【請求項5】
前記形状記憶高分子のガラス転移温度は、30℃以上である、請求項4に記載の熱変色性フィルム。
【請求項6】
前記形状記憶高分子は、ウレタン系形状記憶高分子である、請求項4に記載の熱変色性フィルム。
【請求項7】
記熱変色層は、酸化バナジウムを含む、請求項1に記載の熱変色性フィルム。
【請求項8】
前記基材の厚さは、50~200μmの範囲内である、請求項1に記載の熱変色性フィルム。
【請求項9】
積層体は、400~800nm領域で透過度の最大値が50%以上である、請求項1に記載の熱変色性フィルム。
【請求項10】
積層体は、臨界温度以上の任意の温度で2000~3000nm領域で透過度の最小値が70%以下である、請求項1に記載の熱変色性フィルム。
【請求項11】
積層体は、下記一般式1の条件を満足させる、請求項1に記載の熱変色性フィルム:
[一般式1]
△IR=BPmin-Opmin≧10%
前記一般式1において、BPminは、臨界温度以下の任意の温度で2000~3000nmで透過度の最小値を示し、OPminは、臨界温度以上の任意の温度で2000~3000nmで透過度の最小値を示す。
【請求項12】
未処理の酸化バナジウム(VOx)を含む溶液を基材上に塗布し、塗布層を形成する形成段階;および
超短パルス光(intense pulsed light,IPL)を用いたアニーリングを通じて未処理の酸化バナジウム(VOx)を二酸化バナジウム(VO)に相変化させて熱変色層を製造する製造段階;を含む、熱変色性フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記未処理の酸化バナジウム(VOx)は、五酸化バナジウム(V)である、請求項12に記載の熱変色性フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記アニーリングは、真空または大気雰囲気で行う、請求項12に記載の熱変色性フィルムの製造方法。
【請求項15】
真空雰囲気で、超短パルス光の出力電圧は、1500~1900Vの範囲内である、請求項14に記載の熱変色性フィルムの製造方法。
【請求項16】
大気雰囲気で、超短パルス光の出力電圧は、1700~2000Vの範囲内である、請求項14に記載の熱変色性フィルムの製造方法。
【請求項17】
アニーリングは、一定のパルス間隔およびパルス幅を持って繰り返し光照射する、請求項14に記載の熱変色性フィルムの製造方法。
【請求項18】
真空雰囲気で、前記パルス幅は、1~4msの範囲内である、請求項16に記載の熱変色性フィルムの製造方法。
【請求項19】
真空雰囲気で、前記パルス間隔は、0.2~1Hzの範囲内である、請求項16に記載の熱変色性フィルムの製造方法。
【請求項20】
真空雰囲気で、反復回数は、20~200回の範囲内である、請求項16に記載の熱変色性フィルムの製造方法。
【請求項21】
大気雰囲気で、前記パルス幅は、0.1~1ms以下である、請求項16に記載の熱変色性フィルムの製造方法。
【請求項22】
大気雰囲気で、前記パルス間隔は、1.0~3.0Hzの範囲内である、請求項16に記載の熱変色性フィルムの製造方法。
【請求項23】
大気雰囲気で、反復回数は、200回~400回の範囲内である、請求項16に記載の熱変色性フィルムの製造方法。
【請求項24】
前記基材は、ガラス、石英または高分子フィルムである、請求項12に記載の熱変色性フィルムの製造方法。
【請求項25】
高分子フィルムは、ガラス転移温度が70℃以上の高分子を含む、請求項24に記載の熱変色性フィルムの製造方法。
【請求項26】
塗布層の厚さは、10~300nm以下である、請求項12に記載の熱変色性フィルムの製造方法。
【請求項27】
未処理の酸化バナジウム(VO)の平均粒径は、1~40nm以下である、請求項12に記載の熱変色性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱変色性フィルムおよび熱変色性フィルムの製造方法に関し、詳細には、相転移温度が変化する熱変色層を含む熱変色性フィルムおよびIPLアニーリングを用いた熱変色性フィルムの製造方法に関する。
【0002】
本発明は、下記課題支援によって行われた。
課題固有番号:2021-GJ-RD-0074
部署名:韓国科学技術情報通信部
研究管理専門機関:韓国研究財団
研究事業名:研究開発特区育成R&D事業
研究課題名:大面積インラインスプレーコーティングを用いた可逆型熱遮断機能性窓戸システム開発
寄与率:1/2
主管機関:株式会社ソンイルイノテック
研究期間:2021.06.01~2022.03.31
【背景技術】
【0003】
従来の石炭、石油または原子力エネルギー源の短所が浮び上がるに伴い、最近、新しい代替エネルギー源の開発の必要性が高まっている。しかしながら、これに劣らず、エネルギー消費を調節することも重要である。実際に、一般家庭のエネルギー消費量中の60%以上は、冷・暖房費に使用される。特に一般住宅および建物において窓から消費されるエネルギーは、24%に達する。したがって、窓から消費されるエネルギーを減らすために、窓のサイズを調節する方法から高断熱の窓ガラスを設置する方法まで様々な努力が行われている。
【0004】
例えば、熱変色性(thermochromism)を有する熱変色層をガラスにコーティングして、赤外線透過率の制御を通したエネルギー流入を調節する熱変色性ガラス(thermochromic glass)が研究されている。
【0005】
熱変色性は、任意の遷移金属(transition metal)の酸化物または硫化物の色が遷移温度(または臨界温度)で可逆的に変わる現象であり、このような熱変色性材料をガラスにコーティングすると、特定温度以上では、可視光線は入るが、近赤外線および赤外線が遮断され、室内温度が上昇しない熱変色性ガラスを製造することができる。この特性を用いることによって、夏季の高温では、近赤外光を遮蔽して室内の温度上昇を抑制し、冬季の低温では、外部からの光エネルギーをもたらすことができる。このような熱変色性ガラスを建物の窓戸に使用すると、大きなエネルギー節約効果を期待することができる。
【0006】
熱変色性効果を示す材料としては、様々な遷移金属の酸化物または硫化物があるが、その中でも遷移温度(相転移温度)が68℃の二酸化バナジウム(VO)の使用に関する研究が主に行われている。
【0007】
なお、二酸化バナジウムは、相転移温度が高い方であり、特に窓戸のような分野においてそのまま使用が難しく、相転移温度を下げるための努力がなされている。最近、タングステンなどのドーピングを通じて相転移温度を制御しているが、このようなドーピング方法は、複雑な工程および工程後の残余物処理などで環境問題が発生し、ヒステリシス特性が深化し、これを代替するための方法が必要である。
【0008】
他方で、二酸化バナジウム(VO)は、五酸化バナジウム(V)の相変化を誘導して製造することができ、従来、五酸化バナジウム(V)を含む溶液を基材に塗布した後、高温の熱処理工程を行って相変化を誘導した。しかしながら、このような熱処理工程は、光学的特性を低下させても、熱拡散を防止するために拡散防止層をやむを得ず使用する問題や、高分子など熱に敏感な基材に適用しにくい問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、熱収縮性を有する基材を用いた応力変化により熱変色層の相転移温度を変化させることができ、様々な分野に適用可能であり、従来複雑なドーピング工程および後処理工程を行わないので、経済的および環境的利点がある熱変色性フィルムおよび拡散防止層なしで酸化バナジウムの相変化誘導が可能であり、また、高分子基材のように熱に敏感な材質で基材を構成する場合にも、熱変色性フィルムの製造が可能な熱変色性フィルムの製造方法を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、熱収縮性を有する基材;および前記基材上に形成され、基材の熱収縮によって相転移温度が変化する熱変色層を含む、熱変色性フィルムを提供する。
【0011】
また、本発明は、未処理の酸化バナジウム(VOx)を含む溶液を基材上に塗布し、塗布層を形成する形成段階;および超短パルス光(intense pulsed light,IPL)を用いたアニーリングを通じて未処理の酸化バナジウムを二酸化バナジウムに相変化させて熱変色層を製造する製造段階;を含む、熱変色性フィルムの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明による熱変色性フィルムは、複雑なドーピング工程および後処理工程なしで、熱収縮性を有する基材を用いて熱変色層の相転移温度を変化させることができ、経済的および環境的利点を有する。
【0013】
また、本発明による製造方法は、IPLアニーリングを用いることにより、光学的特性を低下させる拡散防止層なしで酸化バナジウムの相変化誘導が可能であり、また、高分子基材のように熱に敏感な材質で基材を構成する場合にも、熱変色性フィルムの製造が可能であるという長所を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明による熱変色性フィルムの構造を示す図である。
図2図2は、本発明による基材の熱収縮時の応力方向を示す図である。
図3図3は、基材の熱収縮時の収縮方向と応力方向を容易に説明するための図である。
図4図4は、実施例1により製造された熱変色性フィルムの透過率を測定したグラフである。
図5図5は、実施例2により製造された熱変色性フィルムの熱変色性を示すグラフである。
図6図6は、実施例2の対照群で製造された熱変色性フィルムの熱変色性を示すグラフである。
図7図7は、実施例2の対照群で製造された熱変色性フィルムの熱変色性を示すグラフである。
図8図8は、実施例3により製造された熱変色性フィルムの熱変色性を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本明細書において使用される用語について簡略に説明し、本発明について具体的に説明する。
【0016】
本発明において使用される用語は、本発明における機能を考慮してできるだけ現在広く使用される一般的な用語を選択したが、これは、当該分野に従事する技術者の意図または判例、新しい技術の出現などにより変わることができる。また、特定の場合は、出願人が任意に選定した用語もあり、この場合、該当する発明の説明部分で詳細にその意味を記載する。したがって、本発明において使用される用語は、単に用語の名称でない、当該用語が有する意味と本発明の全般にわたった内容に基づいて定義しなければならない。
【0017】
以下では、添付の図面を参照して本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができるように本発明の実施例を詳細に説明する。しかしながら、本発明は、様々な異なる形態で具現することができ、ここで説明する実施例に限定されない。また、図面において本発明を明確に説明するために説明と関係ない部分は省略し、明細書全体を通じて類似の部分に対しては、類似の参照符号を付けた。
【0018】
以下、添付の図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明による熱変色性フィルムの構造を示す図であり、図2は、本発明による基材の熱収縮時の応力方向を示す図であり、図3は、基材の熱収縮時の収縮方向と応力方向を容易に説明するための図である。
【0020】
本発明の熱変色性フィルムは、基材100および熱変色性フィルム200を含む。
【0021】
具体的には、本発明の熱変色性フィルムは、熱収縮性を有する基材100;および前記基材上に形成され、基材100の熱収縮によって相転移温度が変化する熱変色層200を含む熱変色性フィルムに関する。
【0022】
前記基材100は、熱が加えられると、収縮する特性が具現され、前記収縮する力が熱変色層の応力として作用して熱変色層の相転移温度が変化することができる。例えば、前記熱変色層200は、基材100の熱収縮時に端部から中心部に応力が発生し得る(図2参照)。例えば、前記基材100の熱収縮率は、2%程度であってもよく、この際、熱変色層200に応力が約2GPa程度発生し得る。
【0023】
本発明は、基材100の応力変化により熱変色層200の相転移温度の変化を誘導して、究極的に、熱変色層200の熱変色性を制御することができる。
【0024】
1つの例示において、前記熱変色層200は、基材100の熱収縮時に相転移温度が低くなることがある。相転移温度の変化率は、熱収縮による応力の大きさにより変わり、例えば、基材100の熱収縮率が2%であり、これによる応力が2GPaであるとき、相転移温度は、約10℃程度減少することができる。
【0025】
一具体例において、前記基材100は、曲面を有し、かつ熱収縮時に曲面の曲率が緩やかに変形することができる。図3を参照すると、前記曲面の端部は、熱収縮時にB方向に移動し、曲面の曲率が緩やかに変形することができる。また、曲面の曲率が緩やかに変形するにつれて、基材100上に形成された熱変色層200には、A方向に応力(または圧縮応力ともいう)が加えられ得る。
【0026】
1つの例示において、前記基材100は、形状記憶高分子(Shape Memory Polymer,SMP)を含んでもよい。形状記憶高分子とは、元の姿に戻ろうとする性質を有する高分子であり、特定の条件で整えられた形態を記憶させた後、さらにその条件を付けると、模型が変わった後にも本来の形態に戻る高分子物質を意味する。本発明において形状記憶高分子は、熱収縮性があり、この際、形状記憶高分子の特定条件は、熱を加えることであってもよい。
【0027】
前記形状記憶高分子のガラス転移温度は、30℃以上、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上または100℃以上でありうる。ガラス転移温度が前記範囲を満たす限り、その種類は、特に制限されず、所望の物性具現を考慮して適切に選択することができる。例えば、前記形状記憶高分子は、ウレタン系形状記憶高分子でありうる。ウレタン系形状記憶高分子は、低いガラス伝導によって、低い温度でも形状記憶特性を示すことができる長所があり、取り扱いおよび加工性に優れている。
【0028】
一具体例において、前記熱変色層は、酸化バナジウムを含んでもよい。例えば、前記酸化バナジウムは、二酸化バナジウムであってもよく、具体的には、前記熱変色層200は、二酸化バナジウムクラスターを含んでもよい。前記で用語「二酸化バナジウムクラスター」は、二酸化バナジウム粒子を含む溶液内有機溶媒が除去され、焼結過程を経て二酸化バナジウム粒子間癒着が発生して形成された凝集体を意味する。二酸化バナジウム(クラスター)は、相転移によって熱変色性を有するので、本発明は、究極的に基材100の応力の大きさを通じて熱変色層200の相転移温度を制御することができ、熱変色性の調節が可能である。
【0029】
前記基材100の厚さは、50~200μmの範囲内であってもよいが、特に制限されるものではなく、基材の厚さの調節を通じて熱変色層に加えられる応力の大きさの制御が可能である。
【0030】
前記熱変色性フィルムは、400~800nm領域で透過度の最大値が50%以上でありうる。前記積層体は、400~800nm領域で透過度の最大値(Pmax)が50%以上、55%以上、60%以上または65%以上であり、臨界温度以上の任意の温度で2000~3000nm領域で透過度の最小値(OPmin)が70%以下、60%以下、具体的には、55%以下、50%以下、または40%以下でありうる。Pmax値が50%以上の場合、可視光透過度が高いため、透明な視野を確保することができ、OPmin値が65%以下の場合、赤外線遮断効果に優れている。
【0031】
前記熱変色性フィルムは、下記一般式1の条件を満足させることができる。
[一般式1]
△IR=BPmin-Opmin≧10%
【0032】
前記一般式1において、BPminは、臨界温度以下の任意の温度で2000~3000nmで透過度の最小値を示し、OPminは、臨界温度以上の任意の温度で2000~3000nmで透過度の最小値を示す。ここで、臨界温度以下の温度は、例えば、20~30℃、具体的には、25℃であってもよく、臨界温度以上の温度は、例えば、60~90℃、具体的には、80℃であってもよい。△IR値(%)が10%以上、具体的には、20%以上、25%以上、30%以上または35%以上の場合、赤外線遮断/透過に関する効果に優れている。
【0033】
本出願は、また、前述した熱変色性フィルムの製造方法に関する。前記方法は、例えば、熱収縮性を有する基材上に熱変色性前駆体溶液を塗布する段階;および熱変色性前駆体溶液を光焼結し、熱変色層を形成する段階;を含む。
【0034】
1つの例示において、前記熱変色性前駆体溶液は、酸化バナジウムを含んでもよい。
【0035】
本出願は、IPLアニーリングを用いたさらに他の熱変色性フィルムの製造方法に関する。
【0036】
前記製造方法は、未処理の酸化バナジウム(VOx)を含む溶液を基材上に塗布し、塗布層を形成する形成段階;および超短パルス光(intense pulsed light,IPL)を用いたアニーリングを通じて未処理の酸化バナジウムを二酸化バナジウムに相変化させて熱変色層を製造する製造段階;を含む。本明細書において未処理の酸化バナジウムとは、相変化が起こらない酸化バナジウムを示す限定的な意味に使用することができる。前記未処理の酸化バナジウムは、溶液内粒子またはイオン形態で存在することができ、溶媒は、酸化バナジウムを溶解させる様々な公知の物質を制限なしに使用することができる。また、前記塗布は、スピンコーティング、スロットダイコーティング、スプレーコーティングなど様々な方法を使用することができる。
【0037】
本発明による方法は、従来高温の熱処理の代わりにIPLを用いることにより、高分子基材のように熱に敏感な材質で基材を構成する場合にも、熱変色性フィルムの製造が可能である。
【0038】
例えば、前記未処理の酸化バナジウム(VOx)は、五酸化バナジウム(V)でありうる。
【0039】
なお、IPLを用いた酸化バナジウムの相変化誘導および熱に敏感な高分子基材の変形を防止するために、アニーリングの具体的な条件、例えば、アニーリング雰囲気、光の種類、印加される電圧(出力電圧)、パルス幅、パルス数(光の反復照射回数)、パルス間隔(振動数)を最適化して設定することが重要である。
【0040】
1つの例示において、前記アニーリングは、真空または大気雰囲気で行われ得る。詳細には、前記真空雰囲気は、1~20Torrの真空雰囲気でありうる。
【0041】
本出願による製造方法において、酸化バナジウムの相変化誘導が可能となるように、前記アニーリングは、真空または大気雰囲気によって後述するパルス幅、パルス間隔、反復回数などIPLの様々な条件を最適化しなければならず、前記アニーリングは、真空雰囲気と大気雰囲気によって最適化した条件の数値が異なっていてもよい。
【0042】
例えば、真空雰囲気で、前記超短パルス光の出力電圧は、1500~1900Vの範囲内でありうる。出力電圧が増加するほど相変化が効果的に起こるが、高分子フィルムの物理的変形が発生することがあり、物理的変形が起こらない適正電圧は、1500~1750Vの範囲内でありうる。
【0043】
他の例として、大気雰囲気で、前記超短パルス光の出力電圧は、1700~2000Vの範囲内でありうる。出力電圧が増加するほど相変化が効果的に起こるが、高分子フィルムの物理的変形が発生することがあり、物理的変形が起こらない適正電圧は、1750~1900Vの範囲内でありうる。
【0044】
また、前記アニーリングは、一定のパルス間隔およびパルス幅を持って繰り返し光照射することができる。酸化バナジウムの相変化誘導が可能となるように、前記パルス間隔、パルス幅および反復回数は、真空雰囲気と大気雰囲気によって後述する最適化された数値範囲に調節しなければならない。
【0045】
具体的には、真空雰囲気で、前記パルス幅は、1~4msの範囲内でありうる。また、真空雰囲気で、前記パルス間隔は、0.2~1Hzの範囲内でありうる。パルス間隔が減少するほど秒当たり印加される平均電力(average power)の増加により工程時間が減少することができる。前記平均電力は、出力電圧、パルス幅、パルス間隔によって決定される。ただし、パルス間隔が0.2Hz未満では、累積した熱エネルギーが床に放出されて相変化が起こらないことがあり、1Hz超過の場合、床温度が急激に上昇し、高分子フィルムの物理的変形が発生することがある。
【0046】
1つの例示において、真空雰囲気で、アニーリング(または光照射)の反復回数は、20~200回の範囲内でありうる。前記反復回数が増加するほど製造される熱変色層の可視光透過率および赤外線透過率が向上するが、一定回数を超える場合、基材の変形が発生して減少する。例えば、200回まで赤外線透過率が向上し、250回以上で可視光透過率および赤外線透過率が低下する。したがって、反復回数は、20~200回、50回~200回、100~200回または約200回が適切である。
【0047】
他の例示において、大気雰囲気で、前記パルス幅は、0.1~1msの範囲内であってもよく、例えば、0.2~1ms、0.3~1ms、0.4~1msまたは0.5~1msの範囲内でありうる。また、大気雰囲気で、前記パルス間隔は、1.0~3.0Hzの範囲内であってもよく、例えば、1.1~3.0Hz、1.2~3.0Hz、1.0~2.5Hz、1.1~2.5Hz、1.2~2.5Hz、1.0~2.0Hz、1.1~2.0Hzまたは1.2~2.0Hzの範囲内でありうる。パルス間隔が減少するほど秒当たり印加される平均電力(average power)の増加により工程時間が減少することができる。前記平均電力は、出力電圧、パルス幅、パルス間隔によって決定される。ただし、パルス間隔が1.0Hz未満では、累積した熱エネルギーが床に放出されて相変化が起こらないことがあり、3.0Hz超過の場合、床温度が急激に上昇し、高分子フィルムの物理的変形が発生することがある。
【0048】
1つの例示において、大気雰囲気で、アニーリング(または光照射)の反復回数は、200~400回の範囲内でありうる。前記反復回数が増加するほど製造される熱変色層の可視光透過率および赤外線透過率が向上するが、一定回数を超える場合、基材の変形が発生して減少する。例えば、400回まで赤外線透過率が向上し、450回以上で可視光透過率および赤外線透過率が低下する。したがって、反復回数は、200~400回、200回~350回、200~300回または約250回が適切である。
【0049】
一具体例において、前記基材の種類は、ガラス、石英または高分子フィルムから選択することができる。特に、フレキシブル装置の活用度を考慮して、基材は、高分子フィルムを選択することができ、このような高分子フィルムの種類は、特に制限されないが、ポリオレフィンフィルム(例えば、シクロオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリエステルフィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、ポリ塩化ビニル、またはセルロース系フィルム(例えば、トリアセチルセルロース)を使用することができる。
【0050】
具体的には、高分子フィルムは、ガラス転移温度が70℃以上、80℃以上、90℃以上、100℃以上、110℃以上または120℃以上の高分子を含んでもよい。ガラス転移温度が前記範囲を満たす限り、その種類は、特に制限されず、所望の物性具現を考慮して適切に選択することができる。例えば、前記高分子フィルムがポリエチレンナフタレートフィルムである場合、優れた熱抵抗性を具現することができる。
【0051】
また、高分子フィルムは、例えば、1軸以上に延伸され、120℃で1時間露出時に収縮率が3%未満であるものを使用することができる。延伸された高分子フィルムを使用する場合、優れた機械的強度を有することができ、高温で収縮を防止することができる。このような条件を満足させる高分子フィルムは、公知の材料の中から任意に選択して使用することができる。
【0052】
なお、大気雰囲気でアニーリングを行う場合、酸化バナジウムの相変化誘導が可能となるように塗布層の厚さおよび未処理の酸化バナジウム(VO)の平均粒径も、以下の数値の範囲内に制御しなければならない。
【0053】
1つの例示において、前記塗布層の厚さは、10~300nm以下であってもよく、未処理の酸化バナジウム(VO)の平均粒径は、1~40nm以下であってもよい。本明細書において平均粒径は、特に別途規定しない限り、D50粒度分析により測定した平均粒径でありうる。
【0054】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、明細書に記載された実施例と図面に図示された構成は、本発明の最も好ましい一実施例に過ぎず、本発明の技術的思想を全部代弁するものではないので、本出願時点においてこれらを代替できる様々な均等物と変形例がありえることを理解しなければならない。
【0055】
実施例1
ウレタン系形状記憶高分子(SMP)を含む基材上に二酸化バナジウムを含む溶液をスピンコーター(ACE-200、東亜貿易、韓国)を用いて10×10mmサイズでガラスに1000rpm、30秒コーティングし、乾燥させて、熱変色性フィルムを製造した。
【0056】
分光光度計(JASCO V-770,JASCO,米国)を用いて2500nmで25℃から80℃に温度を増加させてからさらに減少させたとき、実施例で製造された熱変色性フィルムの透過率を測定し、その結果を図4に示した。対照群として形状記憶高分子の代わりにガラスを用いた。
【0057】
二酸化バナジウムは、相転移によって熱変色性が具現されることにより、図4の透過率が変化する温度を二酸化バナジウムの相転移温度と見ることができる。したがって、SMP基材を用いた場合、圧縮応力の印加によって二酸化バナジウムの相転移温度が6.4℃減少したことを確認することができる。
【0058】
実施例2
五酸化バナジウムを含む溶液をスピンコーター(ACE-200、東亜貿易、韓国)を用いて10×10mmサイズでガラスに1000rpm、30秒間コーティングした。
【0059】
そして、1Torrの真空雰囲気で1900V、2ms、0.5Hz、100回IPL処理して熱変色性フィルムを製造した。
【0060】
図5は、実施例2により製造された熱変色性フィルムの熱変色性を示すグラフであり、図6および図7は、実施例2の対照群で製造された熱変色性フィルムの熱変色性を示すグラフである。
【0061】
具体的には、図6は、実施例2のIPL処理の代わりに、常温乾燥して製造された熱変色性フィルムの熱変色性を示すグラフであり、図7は、実施例2のIPL処理の代わりに、1Torrの真空雰囲気で500℃1時間熱処理して製造された熱変色性フィルムの熱変色性を示すグラフである。
【0062】
図面を参照すると、常温乾燥した熱変色性フィルムは、酸化バナジウムの相変化が起こらないので、熱変色性が具現されず(図6参照)、熱処理した熱変色性フィルムは、酸化バナジウムの相変化が起こり、熱変色性が具現され(図7参照)、真空雰囲気で本発明によるIPL処理で製造された熱変色性フィルムも相変化が起こり、熱処理した熱変色性フィルムと同じ効果を示したことを確認することができた(図5参照)。
【0063】
実施例3
平均粒径が40nm以下の五酸化バナジウムを含む溶液をスピンコーター(ACE-200、東亜貿易、韓国)を用いて10×10mmサイズでガラスに1000rpm、30秒間コーティングし、コーティング層の厚さは、300nmであった。
【0064】
そして、大気雰囲気で1750V、0.5ms、1.2Hz、300回IPL処理して、熱変色性フィルムを製造した。
【0065】
図8は、実施例3により製造された熱変色性フィルムの熱変色性を示すグラフである。
【0066】
図6図7および図8から大気雰囲気で本発明によるIPL処理で製造された熱変色性フィルムも相変化が起こり、熱処理した熱変色性フィルムと同じ効果を示したことを確認することができた。
【符号の説明】
【0067】
100 基材
200 熱変色層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】