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特表2024-530734建設組成物用の添加剤としてのコロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料の使用
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  • 特表-建設組成物用の添加剤としてのコロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料の使用 図1
  • 特表-建設組成物用の添加剤としてのコロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料の使用 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-23
(54)【発明の名称】建設組成物用の添加剤としてのコロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料の使用
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20240816BHJP
   C04B 14/10 20060101ALI20240816BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20240816BHJP
   C04B 22/16 20060101ALI20240816BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20240816BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20240816BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/10 B
C04B22/08 A
C04B22/16 A
C04B22/08 Z
C04B14/28
C04B24/26 F
C04B24/26 A
C04B24/26 E
C04B24/26 H
C08L101/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513044
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(85)【翻訳文提出日】2024-02-26
(86)【国際出願番号】 EP2022073758
(87)【国際公開番号】W WO2023025929
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】21193476.5
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503343336
【氏名又は名称】コンストラクション リサーチ アンド テクノロジー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Construction Research & Technology GmbH
【住所又は居所原語表記】Dr.-Albert-Frank-Strasse 32, D-83308 Trostberg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】べアンハート ザクセンハウザー
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン デアス
(72)【発明者】
【氏名】フランチェスカ モラッティ
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドロ ダラ リベラ
【テーマコード(参考)】
4G112
4J002
【Fターム(参考)】
4G112MB01
4G112MB41
4G112MD00
4G112MD01
4G112PA06
4G112PA10
4G112PB02
4G112PB05
4G112PB06
4G112PB13
4G112PB28
4G112PB31
4J002AA001
4J002BG011
4J002BG012
4J002CC071
4J002DM006
4J002FD206
4J002GL00
(57)【要約】
コロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料が、結合材系を含む建設組成物用の添加剤として使用され、結合材系は、セメント系結合材および少なくとも1種の補助セメント系材料を含み、補助セメント系材料は、少なくとも1種の非カオリナイト粘土材料を含む焼成粘土材料を含む。ハイブリッド材料は、少なくとも1つの多価金属カチオンと、アニオン性基および/またはアニオン形成性基およびポリエーテル側鎖を含む少なくとも1種のポリマー分散剤とを含み、少なくとも1種のアニオンが多価金属カチオンと難溶性塩を形成することができ、多価金属カチオンは、次式(1)
に相当する量で存在し、アニオンは、次式(2)
に相当する量で存在し、式中、φは、ポリマーの電荷密度であり、mは、ポリマー分散剤の量であり、zK,iは、多価金属カチオンの価数であり、nK,iは、多価金属カチオンのモル量であり、zA,lは、アニオンの価数であり、nA,lは、アニオンのモル量であり、指数iおよびlは互いに独立して、0より大きい整数であり、iは、種類の異なる多価金属カチオンの数であり、lは、金属カチオンと難溶性塩を形成することができる種類の異なるアニオンの数である。コロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料の使用により、効果的なスランプ保持が可能になる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材系を含む建設組成物用の添加剤としてのコロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料の使用であって、前記結合材系は、セメント系結合材および少なくとも1種の補助セメント系材料を含み、前記補助セメント系材料は、非カオリナイト粘土から得た焼成粘土を少なくとも10重量%含む焼成粘土材料を含み、
前記ハイブリッド材料は、
Fe3+、Fe2+、Zn2+、Mn2+、Cu2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、およびそれらの混合物から選択される少なくとも1つの多価金属カチオンと、
アニオン性基および/またはアニオン形成性基およびポリエーテル側鎖を含む少なくとも1種のポリマー分散剤と、
前記多価金属カチオンとともに難溶性塩、すなわち、20℃および大気圧という標準条件下での水への溶解度が5g/L未満である塩を形成することができ、炭酸塩、シュウ酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、ポリリン酸塩、亜リン酸塩、ホウ酸塩、アルミン酸塩、硫酸塩、およびそれらの混合物から選択される、少なくとも1種のアニオンと、
を含み、
前記多価金属カチオンが、次式(1):
【数1】
に相当する量で存在し、
前記アニオンが、次式(2):
【数2】
に相当する量で存在し、
式中、
φは、前記ポリマー分散剤の電荷密度(単位meq/g固形分)であり、
は、前記ポリマー分散剤の量(単位g固形分)であり、
K,iは、前記多価金属カチオンの価数であり、
K,iは、前記多価金属カチオンの量(単位mmol)であり、
A,lは、前記アニオンの価数であり、
A,lは、前記アニオンの量(単位mmol)であり、
指数iおよびlは互いに独立して、0より大きい整数であり、iは、種類の異なる多価金属カチオンの数であり、lは、前記金属カチオンと難溶性塩を形成することができる種類の異なるアニオンの数である、
使用。
【請求項2】
前記多価金属カチオンおよび前記アニオンが、次式(3):
【数3】
に相当する量で存在する、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記多価金属カチオンが、Fe3+、Fe2+、Zn2+、Mn2+、Cu2+、Ca2+、およびそれらの混合物、特にFe3+、Fe2+、Ca2+、およびそれらの混合物から選択される、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
前記多価金属カチオンと難溶性塩を形成することができる前記アニオンが、ケイ酸塩、リン酸塩、ポリリン酸塩、アルミン酸塩、およびそれらの混合物から選択される、請求項1から3までのいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
前記ポリマー分散剤の前記電荷密度φが、0.5×10-3~5.0meq/g固形分、好ましくは0.7×10-3~2.0meq/g固形分の範囲である、請求項1から4までのいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
前記ポリマー分散剤が、
一般式(Ia)、(Ib)、(Ic)、および/または(Id):
【化1】
[式中、
は、H、C~Cアルキル、CHCOOH、またはCHCO-X-R3A、好ましくはHまたはメチルであり、
Xは、n1=1、2、3、または4であるNH-(Cn12n1)もしくはO-(Cn12n1)であり、ここで、窒素原子または酸素原子はCO基に結合しており、
は、OM、PO、もしくはO-POであるか、または
Xが化学結合であり、RがOMであり、
3Aは、POまたはO-POである]
【化2】
[式中、
は、HまたはC~Cアルキル、好ましくはHまたはメチルであり、
nは0、1、2、3、または4であり、
は、POまたはO-POである]
【化3】
[式中、
は、HまたはC~Cアルキル、好ましくはHであり、
Zは、OまたはNRであり、
は、H、(Cn12n1)-OH、(Cn12n1)-PO、(Cn12n1)-OPO、(C)-PO、または(C)-OPOであり、
n1は、1、2、3、または4である]
【化4】
[式中、
は、HまたはC~Cアルキル、好ましくはHであり、
Qは、NRまたはOであり、
は、H、(Cn12n1)-OH、(Cn12n1)-PO、(Cn12n1)-OPO、(C)-PO、または(C)-OPOであり、
n1は、1、2、3、または4である]
の構造単位(ここで、各Mは独立してHまたはカチオン等価体である)と、
一般式(IIa)、(IIb)、(IIc)、および/または(IId):
【化5】
[式中、
10、R11、およびR12は、互いに独立して、HまたはC~Cアルキル、好ましくは、Hまたはメチルであり、
は、OまたはSであり、
Eは、C~Cアルキレン、シクロヘキシレン、CH-C10、1,2-フェニレン、1,3-フェニレン、または1,4-フェニレンであり、
Gは、O、NH、もしくはCO-NHであるか、または
EとGが合わさって化学結合であり、
Aは、C~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくは、C~Cアルキレンであり、
n2は、0、1、2、3、4、または5であり、
aは、2~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数であり、
13は、H、非分岐状または分岐状のC~Cアルキル基、CO-NH、またはCOCHである]
【化6】
[式中、
16、R17、およびR18は、互いに独立して、HまたはC~Cアルキル、好ましくはHであり、
は、C~Cアルキレン、シクロヘキシレン、CH-C10、1,2-フェニレン、1,3-フェニレン、もしくは1,4-フェニレンであるか、または化学結合であり、
Aは、C~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくは、C~Cアルキレンであり、
n2は、0、1、2、3、4、または5であり、
Lは、C~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくは、C~Cアルキレンであり、
aは、2~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数であり、
dは、1~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数であり、
19は、HまたはC~Cアルキルであり、
20は、HまたはC~Cアルキルである]
【化7】
[式中、
21、R22、およびR23は、独立して、HまたはC~Cアルキル、好ましくはHであり、
Wは、O、NR25、またはNであり、
Vは、W=OまたはNR25の場合、1であり、W=Nの場合、2であり、
Aは、C~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくは、C~Cアルキレンであり、
aは、2~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数であり、
24は、HまたはC~Cアルキルであり、
25は、HまたはC~Cアルキルである]
【化8】
[式中、
は、HまたはC~Cアルキル、好ましくはHであり、
Qは、NR10、N、またはOであり、
Vは、Q=OまたはNR10の場合、1であり、Q=Nの場合、2であり、
10は、HまたはC~Cアルキルであり、
24は、HまたはC~Cアルキルであり、
Aは、C~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくは、C~Cアルキレンであり、
aは、2~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数である]
の構造単位(ここで、各Mは独立してHまたはカチオン等価体である)と、
を含む、請求項1から5までのいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
前記ポリマー分散剤が、
が、Hまたはメチルであり、Xが化学結合であり、RがOMである、式(Ia)、
が、Hまたはメチルであり、QがOであり、RがHである、式(Id)、
10およびR12がHであり、R11がHまたはメチルであり、n2が0、1、または2であり、EがC~Cアルキレンであり、GがOであるか、またはEとGが合わさって化学結合であり、AがCH-CHであり、R13がHである、式(IIa)
の構造単位を含む、請求項1から6までのいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
前記ポリマー分散剤のモル質量が、10,000g/mol~80,000g/molの範囲である、請求項1から7までのいずれか1項記載の使用。
【請求項9】
前記ポリエーテル側鎖のモル質量が、500g/mol~8,000g/molの範囲である、請求項1から8までのいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
前記ポリマー分散剤が、構造単位(III)、(IV)、および(V)を含む重縮合生成物であり、ここで、構造単位(IV)は、構造単位(IVa)および(IVb)から選択される、請求項1から5までのいずれか1項記載の使用。
【化9】
[式中、
Tは、フェニル、ナフチル、または5~10個の環原子を有し、環原子のうちの1つまたは2つの原子がN、O、およびSから選択されるヘテロ原子であるヘテロアリールであり、
n3は、1または2であり、
Bは、N、NH、またはOであるが、ただし、BがNである場合、n3は2であり、BがNHまたはOである場合、n3は1であり、
Aは、C~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくは、C~Cアルキレンであり、
a2は、1~300の整数であり、
26は、H、C~C10アルキル、C~Cシクロアルキル、アリール、または5~10個の環原子を有し、環原子のうちの1つまたは2つの原子がN、O、およびSから選択されるヘテロ原子であるヘテロアリールである]、
【化10】
[式中、
Dは、フェニル、ナフチル、または5~10個の環原子を有し、環原子のうちの1つまたは2つの原子がN、O、およびSから選択されるヘテロ原子であるヘテロアリールであり、
は、N、NH、またはOであるが、ただし、EがNである場合、mは2であり、EがNHまたはOである場合、mは1であり、
Aは、C~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくは、C~Cアルキレンであり、
bは、0~300の整数であり、
Mは、独立してHまたはカチオン等価体である]
【化11】
[式中、
は、フェニルまたはナフチルであり、R、OH、OR、(CO)R、COOM、COOR、SO、およびNOから選択される1つまたは2つのラジカルによって置換されていてもよく、
7Aは、COOM、OCHCOOM、SOM、またはOPOであり、
Mは、Hまたはカチオン等価体であり、
は、C~Cアルキル、フェニル、ナフチル、フェニル-C~Cアルキル、またはC~Cアルキルフェニルである]
【化12】
[式中、
は、H、CH、COOH、または置換もしくは非置換のフェニルもしくはナフチルであり、
は、H、CH、COOH、または置換もしくは非置換のフェニルもしくはナフチルである]
【請求項11】
前記結合材系が、炭酸塩岩粉末、好ましくは炭酸カルシウム含有炭酸塩岩粉末、より好ましくは石灰石粉末を含む、請求項1から10までのいずれか1項記載の使用。
【請求項12】
請求項1から10までのいずれか1項記載のコロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料と、セメント系結合材、および非カオリナイト粘土から得た焼成粘土を少なくとも10重量%含む焼成粘土材料を含む少なくとも1種の補助セメント系材料を含む結合材系とを含む、建設組成物。
【請求項13】
前記結合材系が炭酸塩岩粉末をさらに含む、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
前記焼成粘土材料は、DIN ISO 9277に準拠して測定したときのBET値が、0.1~60m/g、好ましくは1~50m/g、特に1~40m/gの範囲である、請求項12または13記載の組成物。
【請求項15】
前記結合材系は、DIN ISO 9277に準拠して測定したときのBET値が、0.1~40m/g、好ましくは1~30m/gの範囲である、請求項12または13記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系結合材および焼成粘土材料を含む建設組成物用の添加剤としてのコロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料の使用に関する。本発明は、さらに、セメント系結合材、焼成粘土材料、および上記コロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料を含む建設組成物に関する。
【0002】
CO税の上昇と、クリンカー製造が環境に及ぼす影響とに起因して、市販セメント中のクリンカー削減はセメント企業にとって重要な要因を担っている。高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、メタカオリン、天然ポゾラン、焼成オイルシェールなどのような、クリンカーの部分代用品として適したSCM(補助セメント系材料)では、今後増加するセメント需要をまかなえない。焼成粘土は、入手しやすく、COへの影響が低く、潜在水硬性作用があるため、セメントに使用されるSCMとして適していることが証明されている。本手法の略称であるLC2およびLC3は世界的に知られている。LC2は石灰石焼成粘土(Limestone-Calcined Clay)の略であり、この系はコンクリート/モルタル製造においてSCM充填材のように機能する。LC3は、石灰石焼成粘土セメント(Limestone-Calcined-Clay-Cement)の略であり、焼成粘土はセメント成分の一部である。LC3は、例えば、米国特許第5,626,665号明細書、カナダ国特許出願公開第2968007号明細書、および米国特許出願公開第2019/0144334号明細書に開示されている。
【0003】
ポルトランドセメントの部分代替として焼成粘土材料を使用することにより、従来のポルトランドセメントと同等のコンクリート強度を達成しつつ、CO排出量を削減することが可能になる。焼成粘土中に存在するアルミノケイ酸塩は、アルカリ性水性環境において、限られた溶解度しか有しておらず、加えて、極めてゆっくりとしか溶解しない。速度論的なターンオーバーが非常に遅いため、最大値に達するのに数日あるいは数週間も必要になることが予想される。焼成粘土は、長期経過後にのみ、LC3コンクリートの全体的な物理的性能および/または耐久性に寄与する。通常のポルトランドセメントとは異なり、焼成粘土は、混合後の最初の数時間以内の初期強度発現には顕著に寄与することがない。
【0004】
これまで焼成粘土はポゾランとして使用されてきたが、従来のポゾランブレンドでは、焼成すると、代替による経済面での利益がわずかである。焼成粘土と石灰石との組み合わせによるセメントの代替は、はるかに高レベルの代替を可能にすることが判明した。焼成粘土と石灰石との組み合わせは、クリンカー含有量を約50%に低下させるとともに、同様の機械的特性を有し、耐久性の幾つかの側面を向上させる高レベルの代替を可能にする。このブレンドでクリンカーを石灰石に代替することにより、コストと環境の両面への影響が緩和される。Cement and Concrete Research, Volume 114, December 2018, 49-56を参照のこと。
【0005】
作業性改善のために、水硬性結合材および/または鉱物結合材の水性スラリーに分散剤を添加することが知られている。この種の添加剤は、既存粒子および水和により新たに形成された粒子を分散させることにより凝集を防止し、これにより、作業性(流動性、ポンプ輸送性、粘性、自己圧縮性、吹付け性、仕上がり性)を改善することが可能である。過剰な水の割合を減少させて所定の加工粘稠性にする、かつ/または加工特性を改善して所定の水/結合材比にするために、減水剤または可塑剤と総称される添加剤が使用される。高レベルの減水が可能なものは、高範囲減水剤または高性能減水剤として知られている。カルボキシル含有モノマーおよびポリエチレングリコール含有オレフィンモノマーを主成分とするポリカルボキシレートエーテル型の高性能減水剤(PCE)が一般的に使用されている。
【0006】
比較的多量に添加した場合にのみ同じ初期可塑化を達成するが、経時的に一定のスランプフロー流動が生じる粘稠剤またはスランプ維持添加剤(以下、スランプ保持剤と称する)は、比較的少量の添加で調製したてのコンクリートの可塑化を生じさせる減水剤とは区別すべきである。減水剤の添加とは対照的に、スランプ保持剤の添加は、コンクリートの混合後、良好な加工特性を、例えば最大90分間に延長することを可能にするが、減水剤では、通常わずか30分後に加工特性が大幅に低下する。
【0007】
焼成粘土は混合セメントの水需要を大幅に増加させることが、R. Li et al., Cement and Concrete Research 141 (2021) 106334により判明した。さらに、OPC(普通ポルトランドセメント)を最適に流動化するPCEはまた、焼成粘土混合セメントで最適な性能を発揮するが、はるかに多くの投入量が必要である。
【0008】
国際公開第2014/013077号、国際公開第2014/131778号、国際公開第2015/110393号、および国際公開第2016/207429号は、水硬性硬化組成物の添加剤として使用するための、アニオン性基および/またはアニオン形成性基およびポリエーテル側鎖を含むポリマー分散剤を主成分とするコロイド分散した水性調製物を開示している。
【0009】
セメント混和材に焼成粘土を使用すると、種々の欠点が生じる。BNS(ポリベータナフタレンスルホン酸塩)およびPCEなどの一般に使用される高性能減水剤は、特に焼成粘土の比表面積および/または多孔性が高い場合、効果がないか、少なくともはるかに多くの投入量が必要である。さらに、スランプ保持が短時間であるため、長期的に作業性を維持するには、多くの場合、硬化遅延剤を使用する必要がある。焼成粘土を含有する混和材の動粘度は極めて高い場合が多く、これは粘着性コンクリート混合物に関連している。当該混合物は、通常、現場での取り扱いが困難である。さらに、焼成粘土を含有するコンクリート混和材の初期強度発現は、クリンカー含有量の低減および硬化遅延剤の使用に起因して低いことが判明した。
【0010】
先行技術の方法および組成物は、CO生成の低減および水硬性結合材の作業性(スランプ保持および初期強度発現など)の要件を満たす建設組成物を提供するには不十分であることが判明している。
【0011】
したがって、本発明の根底にある課題は、効果的なスランプ保持をもたらす、焼成粘土材料を含む結合材系を含む建設組成物用の添加剤を提供することである。更なる課題は、コンクリートまたはモルタルの強度、特に初期強度を顕著に損なうことなく、効果的なスランプ保持をもたらす当該建設組成物用の添加剤を提供することである。更なる課題は、当該建設組成物から調製されるモルタルおよびセメントの作業性に関してバランスのとれた特性を当該建設組成物にもたらすのに適した、当該建設組成物用の添加剤を提供することである。
【0012】
驚くべきことに、本明細書で提供される使用および組成物によって、上記の課題が解決されることが判明した。
【0013】
したがって、本発明は、結合材系を含む建設組成物用の添加剤としてのコロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料の使用であって、結合材系は、セメント系結合材および少なくとも1種の補助セメント系材料を含み、補助セメント系材料は、非カオリナイト粘土から得た焼成粘土を少なくとも10重量%含む焼成粘土材料を含み、
ハイブリッド材料は、
Fe3+、Fe2+、Zn2+、Mn2+、Cu2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、およびそれらの混合物、好ましくはFe3+、Fe2+、Zn2+、Mn2+、Cu2+、Ca2+、およびそれらの混合物、特にFe3+、Fe2+、Ca2+、およびそれらの混合物から選択される少なくとも1つの多価金属カチオンと、
アニオン性基および/またはアニオン形成性基およびポリエーテル側鎖を含む少なくとも1種のポリマー分散剤と、
多価金属カチオンと難溶性塩を形成することができる少なくとも1種のアニオンであって、当該アニオンが、炭酸塩、シュウ酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、ポリリン酸塩、亜リン酸塩、ホウ酸塩、アルミン酸塩、硫酸塩、およびそれらの混合物、好ましくはケイ酸塩、リン酸塩、ポリリン酸塩、アルミン酸塩、およびそれらの混合物から選択される、アニオンと、
を含み、
多価金属カチオンは、次式(1):
【数1】
に相当する量で存在し、
アニオンは、次式(2):
【数2】
に相当する量で存在し、
式中、
φは、ポリマー分散剤の電荷密度(単位meq/g固形分)であり、
は、ポリマー分散剤の量(単位g固形分)であり、
K,iは、多価金属カチオンの価数であり、
K,iは、多価金属カチオンの量(単位mmol)であり、
A,lは、アニオンの価数であり、
A,lは、アニオンの量(単位mmol)であり、
指数iおよびlは互いに独立して、0より大きい整数であり、iは、種類の異なる多価金属カチオンの数であり、lは、金属カチオンと難溶性塩を形成することができる種類の異なるアニオンの数である、
使用に関する。
【0014】
式(1)の数式項の分子は、多価金属カチオンの価数に多価金属カチオンのモル量を乗算し、全ての多価金属カチオンを合計したものである。モル量と価数の積が当量であることは知られているため、分子は当量単位(すなわち、モル量がmmolで表される場合、ミリ当量)を有する。分母は、ポリマー分散剤の電荷密度(単位meq/g)にポリマー分散剤の量(単位g)を乗算したものである。ゆえに、分母は、単位meqを有する。したがって、式(1)の数式項は、無次元数である。同様の理由で、式(2)の数式項は、無次元数である。
【0015】
アニオン性基は、ポリマー分散剤に存在する脱プロトン化された酸性基である。アニオン形成性基は、ポリマー分散剤に存在する酸性基である。同時にアニオン性かつアニオン形成性である基、例えば部分的に脱プロトン化された多塩基酸残基は、ポリマー分散剤中に存在するアニオン性基およびアニオン形成性基のモル量の合計を出す場合、アニオン性基にのみ算入する。
【0016】
「種類の異なる多価金属カチオン」という用語は、元素の異なる多価金属カチオンを指す。さらに、「種類の異なる多価金属カチオン」という用語は、電荷数が異なる同一元素の金属カチオンも指す。
【0017】
一実施形態では、多価金属カチオンおよびアニオンは、次式(3):
【数3】
に相当する量で存在する。
【0018】
式(3)の数式項の分子と分母はいずれも、形式上、単位meqを有する。ゆえに、式(3)の数式項は、無次元数である。
【0019】
式(1)に従う比は、好ましくは0.1~12、より好ましくは0.15~10、最も好ましくは0.15~5.0、例えば0.15~2.0の範囲である。
【0020】
式(2)に従う比は、好ましくは0.01~0.5、より好ましくは0.01~0.4、さらにより好ましくは0.015~0.4、最も好ましくは0.02~0.4の範囲である。
【0021】
式(3)に従う比は、好ましくは0.5~70、より好ましくは0.8~30、例えば1.0~15、最も好ましくは1.0~5.0の範囲である。
【0022】
式(1)の各範囲は、式(2)および式(3)の各範囲と組み合わせることができる。
【0023】
好ましくは、少なくとも1つの多価金属カチオンは、Fe3+、Fe2+、Zn2+、Mn2+、Cu2+、Ca2+、好ましくはFe3+、Fe2+、Ca2+から選択される。一実施形態では、Ca2+は、ΣK,i×nK,iの値の少なくとも10%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも90%に寄与する。特に好ましい実施形態では、多価金属カチオンは、Ca2+である。
【0024】
多価金属カチオン塩の対アニオン(多価金属カチオンと難溶性塩を形成することができるアニオンではない)は、塩が易水溶性であり、20℃および大気圧という標準条件下での溶解度が、好ましくは10g/l超、より好ましくは100g/l超、極めてとりわけ200g/l超であるように選択されることが好ましい。ここでの溶解度の数値は、20℃、大気圧下での脱イオン水中の純物質である塩の溶液平衡(MX=Mn+Xn、式中、Mn:本発明の金属カチオン;Xn:アニオン)と関連し、プロトン化平衡(pH)および錯体形成平衡の影響は考慮されない。アニオンは、好ましくは硫酸塩、または一価の対アニオン、好ましくは硝酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、硫酸水素塩、ハロゲン化物、擬ハロゲン化物、メタンスルホン酸塩、および/またはアミドスルホン酸塩である。擬ハロゲン化物としては、シアン化物、アジ化物、シアン酸塩、チオシアン酸塩、および雷酸塩が挙げられる。複塩もまた、金属塩として使用することができる。複塩は、2つ以上の異なるカチオンをもつ塩である。一例は、アルミニウム塩として適したミョウバン(KAl(SO・12HO)である。前述の対アニオンをもつ金属カチオン塩は、易水溶性であり、それゆえ比較的高濃度の金属塩水溶液を(反応物として)確立できるので特に適している。
【0025】
更なる実施形態では、多価金属カチオンと難溶性塩を形成することができる少なくとも1種のアニオンは、炭酸塩、シュウ酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、ポリリン酸塩、亜リン酸塩、ホウ酸塩、アルミン酸塩、および硫酸塩、好ましくは、ケイ酸塩、リン酸塩、ポリリン酸塩、およびアルミン酸塩、特にアルミン酸塩、およびケイ酸塩、リン酸塩、またはポリリン酸塩の少なくとも1種とアルミン酸塩との混合物から選択される。一実施形態では、アルミン酸塩は、ΣA,l×nA,lの値の少なくとも10%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも90%に寄与する。
【0026】
「難溶性塩」という表現は、20℃および大気圧という標準条件下での水への溶解度が5g/L未満、好ましくは1g/L未満である塩を意味する。
【0027】
指定したアニオンには、ポリマーのホウ酸アニオン、ケイ酸アニオン、およびシュウ酸アニオン、ならびにポリリン酸アニオンも含まれる。「ポリマーアニオン」という用語は、酸素原子のほかに、ホウ素、炭素、ケイ素、およびリンからなる群からの少なくとも2個の原子を含むアニオンを指す。特に有利には、それらは、2~20個の原子数、とりわけより好ましくは2~14個の原子数、最も好ましくは2~5個の原子数を有するオリゴマーである。原子数は、ケイ酸塩の場合、より好ましくはケイ素原子が2~14個の範囲であり、ポリリン酸塩の場合、より好ましくはリン原子が2~5個の範囲である。
【0028】
好ましいケイ酸塩は、SiOとアルカリ金属酸化物との比を定義する係数が、1:1~4:1、より好ましくは1:1~3:1の範囲である水ガラス、例えばNaSiOである。
【0029】
多価金属カチオンと難溶性塩を形成することができる、アニオン塩の対カチオンは、好ましくは、一価のカチオンもしくはプロトン、好ましくはアルカリ金属カチオンおよび/またはアンモニウムイオンである。アンモニウムイオンは、有機アンモニウムイオン、例えば1~4個のアルキルラジカルを有するアルキルアンモニウムイオンも含み得る。有機ラジカルは、芳香族型であるかまたは芳香族ラジカルを含み得る。アンモニウムイオンは、アルカノールアンモニウムイオンであってもよい。
【0030】
ポリマー分散剤において、アニオン性基は、ポリマー分散剤に存在する脱プロトン化された酸性基である。アニオン形成性基は、ポリマー分散剤に存在する酸性基である。同時にアニオン性かつアニオン形成性である基、例えば部分的に脱プロトン化された多塩基酸残基は、ポリマー分散剤中に存在するアニオン性基およびアニオン形成性基のモル量の合計を出す場合、アニオン性基にのみ算入する。アニオン性基およびアニオン形成性基は、好ましくは、カルボキシル基、カルボキシレート基、またはリン酸基、リン酸水素基、もしくはリン酸二水素基である。
【0031】
無機ハイブリッド材料は、概して、9~12、好ましくは9.5~11.5、より好ましくは10.5~11.5の範囲のpHを有する。必要な場合、塩基、例えばNaOH、KOH、有機アミン、ポリアミン、またはアンモニアでpHを調整する。
【0032】
一実施形態では、ポリマー分散剤は、
一般式(Ia)、(Ib)、(Ic)および/または(Id):
【化1】
[式中、
は、H、C~Cアルキル、CHCOOH、またはCHCO-X-R3A、好ましくはHまたはメチルであり、
Xは、n1=1、2、3、または4であるNH-(Cn12n1)もしくはO-(Cn12n1)であり、ここで、窒素原子または酸素原子はCO基に結合しており、
は、OM、PO、またはO-PO、好ましくはOMもしくはO-POであるか、または
Xが化学結合であり、RがOMであり、
3Aは、POまたはO-PO、好ましくはO-POである]
【化2】
[式中、
は、HまたはC~Cアルキル、好ましくはHまたはメチルであり、
nは、0、1、2、3、または4、好ましくは0または1であり、
は、POまたはO-POである]
【化3】
[式中、
は、HまたはC~Cアルキル、好ましくはHであり、
Zは、OまたはNR、好ましくはOであり、
は、H、(Cn12n1)-OH、(Cn12n1)-PO、(Cn12n1)-OPO、(C)-PO、または(C)-OPOであり、
n1は、1、2、3、または4、好ましくは1、2、または3である]
【化4】
[式中、
は、HまたはC~Cアルキル、好ましくはHであり、
Qは、NRまたはO、好ましくはOであり、
は、H、(Cn12n1)-OH、(Cn12n1)-PO、(Cn12n1)-OPO、(C)-PO、または(C)-OPOであり、
n1は、1、2、3、または4、好ましくは1、2、または3である]
であり、上記の式の各Mは独立してHまたはカチオン等価体である、構造単位(I)を含むポリマーである。
【0033】
ポリマー分散剤の好ましい実施形態は、アニオン性基またはアニオン形成性基として、Rが、HまたはCHであり、Xが化学結合であり、RがOMである式(Ia)の少なくとも1つの構造単位、および/またはRが、HまたはCHである式(Ib)の少なくとも1つの構造単位、および/またはRが、HまたはCHであり、ZがOである式(Ic)の少なくとも1つの構造単位、および/またはRがHであり、QがOである式(Id)の少なくとも1つの構造単位を含む。
【0034】
ポリマー分散剤の別の好ましい実施形態は、アニオン性基またはアニオン形成性基として、Rが、HまたはCHであり、XRはOMであるか、またはXがO(C2n)(式中、n=1、2、3または4、より具体的には2)、RがO-POである式(Ia)の少なくとも1つの構造単位を含む。
【0035】
特に有利には、式Iaの構造単位は、メタクリル酸またはアクリル酸単位、すなわち、Rは、Hまたはメチルであり、Xは化学結合であり、RはOMであり、Mは、Hまたはカチオン等価体であり、式Icの構造単位は、無水マレイン酸単位、すなわち、RはHであり、ZはOであり、式Idの構造単位は、マレイン酸またはマレイン酸モノエステル単位、すなわち、RはHであり、QはOであり、RはHである。
【0036】
より好ましいポリマー分散剤は、一般式(Ia)および/または(Id)の構造単位を含む。
【0037】
モノマー(I)がリン酸エステルまたはホスホン酸エステルである場合、モノマーはまた、対応するジエステルおよびトリエステル、さらには二リン酸のモノエステルも含み得る。こうしたエステルは一般的に、有機アルコールとリン酸、ポリリン酸、酸化リン、ハロゲン化リン、もしくはオキシハロゲン化リン、および/または対応するホスホン酸化合物とのエステル化時に、モノエステルのほかに、種々の割合で、例えばジエステル5~30mol%およびトリエステル1~15mol%ならびに二リン酸のモノエステル2~20mol%を発生させる。
【0038】
一般式(Ia)、(Ib)、(Ic)、および(Id)は、個々のポリマー分子内だけでなく異なるポリマー分子間でも、同一であっても異なっていてもよい。
【0039】
ポリマーは、(さらに)、一般式(IIa)、(IIb)、(IIc)、および/または(IId):
【化5】
[式中、
10、R11、およびR12は、互いに独立して、HまたはC~Cアルキル、好ましくは、Hまたはメチルであり、
は、OまたはS、好ましくはOであり、
Eが、C~Cアルキレン、シクロヘキシレン、CH-C10、1,2-フェニレン、1,3-フェニレン、または1,4-フェニレン、好ましくは、C~CアルキレンまたはC~Cアルキレン、特にCアルキレンであり、
Gが、O、NH、もしくはCO-NH、好ましくはOであるか、または
EとGが合わさって化学結合であり、
Aは、C~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくは、C~CアルキレンまたはC~Cアルキレン、特にCアルキレンであり、
n2は、0、1、2、3、4、または5、好ましくは0、1、または2であり、
aは、2~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数であり、
13は、H、C~Cアルキル、CO-NH、またはCOCHである]
【化6】
[式中、
16、R17、およびR18は、互いに独立して、HまたはC~Cアルキル、好ましくはHであり、
は、C~Cアルキレン、シクロヘキシレン、CH-C10、1,2-フェニレン、1,3-フェニレン、もしくは1,4-フェニレンであるか、または化学結合であり、
Aは、C~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくは、C~Cアルキレン、特にCアルキレンであり、
n2は、0、1、2、3、4、または5であり、
Lは、C~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくは、C~Cアルキレンであり、
aは、2~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数であり、
dは、1~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数であり、
19は、HまたはC~Cアルキルであり、
20は、HまたはC~Cアルキルである]
【化7】
[式中、
21、R22、およびR23は、独立して、HまたはC~Cアルキル、好ましくはHであり、
Wは、O、NR25、またはNであり、
Vは、W=OまたはNR25の場合、1であり、W=Nの場合、2であり、
Aは、C~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくは、C~Cアルキレン、特にCアルキレンであり、
aは、2~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数であり、
24は、HまたはC~Cアルキルであり、
25は、HまたはC~Cアルキルである]
【化8】
[式中、
は、HまたはC~Cアルキル、好ましくはHであり、
Qは、NR10、N、またはOであり、
Vは、Q=OまたはNR10の場合、1であり、Q=Nの場合、2であり、
10は、HまたはC~Cアルキルであり、
24は、HまたはC~Cアルキルであり、
Aは、C~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくは、C~Cアルキレン、特にCアルキレンであり、
aは、2~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数である]
であり、上記の式の各Mは独立してHまたはカチオン等価体である、構造単位(II)を含む。
【0040】
特に有利には、式(IIa)の構造単位は、アルコキシル化イソプレニル単位、アルコキシル化ヒドロキシブチルビニルエーテル単位、アルコキシル化(メタ)アリルアルコール単位、またはビニル化メチルポリアルキレングリコール単位であり、それぞれの場合において好ましくは算術平均4~340個のオキシアルキレン基を有する。
【0041】
構造単位(IIa)を有するポリマー分散剤が好ましい。R10およびR12がHであり、R11がHまたはメチルであり、n2が0、1、または2であり、EがC~Cアルキレンであり、GがOであるか、またはEとGが合わさって化学結合であり、AがCH-CHであり、R13がHである構造単位(IIa)を有するポリマー分散剤がより好ましい。
【0042】
一般式(IIa)、(IIb)、(IIc)、および(IId)は、個々のポリマー分子内だけでなく異なるポリマー分子間でも、同一であっても異なっていてもよい。基Aを含む構造単位は全て、個々のポリエーテル側鎖内でも異なるポリエーテル側鎖間でも、同一であっても異なっていてもよい。
【0043】
式(I)および(II)の構造単位のほかに、ポリマー分散剤は、ラジカル重合可能なモノマー、例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、(C~C)-アルキル(メタ)アクリレート、スチレン、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、酢酸ビニル、アクロレイン、N-ビニルホルムアミド、ビニルピロリドン、(メタ)アリルアルコール、イソプレノール、1-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、アミノプロピルビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルモノビニルエーテル、(メタ)アクロレイン、クロトンアルデヒド、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピルなどから誘導される更なる構造単位も含み得る。
【0044】
構造単位(I)および(II)を含むポリマー分散剤は、従来の方法、例えばラジカル重合によって調製される。これは、例えば、欧州特許出願公開第0894811号明細書、欧州特許出願公開第1851256号明細書、欧州特許出願公開第2463314号明細書、欧州特許出願公開第0753488号明細書に記載されている。
【0045】
ポリマー分散剤は、構造単位(III)、(IV)、および(V):
【化9】
[式中、
Tは、フェニル、ナフチル、または5~10個の環原子を有し、環原子のうちの1つまたは2つの原子がN、O、およびSから選択されるヘテロ原子であるヘテロアリールであり、
n3は、1または2であり、
Bは、N、NH、またはOであるが、ただし、BがNである場合、n3は2であり、BがNHまたはOである場合、n3は1であり、
Aは、C~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくは、C~Cアルキレン、特にCアルキレンであり、
a2は、1~300の整数であり、
26は、H、C~C10アルキル、C~Cシクロアルキル、アリール、または5~10個の環原子を有し、環原子のうちの1つまたは2つの原子がN、O、およびSから選択されるヘテロ原子であるヘテロアリールである]
構造単位(IV)は、構造単位(IVa)および(IVb):
【化10】
[式中、
Dは、フェニル、ナフチル、または5~10個の環原子を有し、環原子のうちの1つまたは2つの原子がN、O、およびSから選択されるヘテロ原子であるヘテロアリールであり、
は、N、NH、またはOであるが、ただし、EがNである場合、mは2であり、EがNHまたはOである場合、mは1であり、
Aは、C~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくは、C~Cアルキレン、特にCアルキレンであり、
bは、0~300の整数であり、
Mは、独立してHまたはカチオン等価体である]
【化11】
[式中、
は、フェニルまたはナフチルであり、場合によりR、OH、OR、(CO)R、COOM、COOR、SO、およびNOから選択される1つまたは2つのラジカルによって置換されており、
7Aは、COOM、OCHCOOM、SOM、またはOPOであり、
Mは、Hまたはカチオン等価体であり、
は、C~Cアルキル、フェニル、ナフチル、フェニル-C~Cアルキル、またはC~Cアルキルフェニルである]
から選択される構造単位を含む重縮合生成物である。
【0046】
重縮合生成物において、一般式(III)および(IV)の構造単位TおよびDは、フェニル、2-ヒドロキシフェニル、3-ヒドロキシフェニル、4-ヒドロキシフェニル、2-メトキシフェニル、3-メトキシフェニル、4-メトキシフェニル、ナフチル、2-ヒドロキシナフチル、4-ヒドロキシナフチル、2-メトキシナフチル、4-メトキシナフチル、フェノキシ酢酸、サリチル酸、好ましくはフェニルから誘導されることが好ましく、その場合、TおよびDは互いに独立して選択されてよく、またそれぞれが指定したラジカルの混合物から誘導されてもよい。基BおよびEは、互いに独立して、好ましくはOである。構造単位Aは全て、個々のポリエーテル側鎖内だけでなく異なるポリエーテル側鎖間でも、同一であっても異なっていてもよい。特に好ましい一実施形態では、AはCである。
【0047】
一般式(III)において、aは、3~200、とりわけ5~150の整数であることが好ましく、一般式(IV)において、bは、1~300、とりわけ1~50、より好ましくは1~10の整数であることが好ましい。さらに、一般式(III)または(IV)のラジカルは、場合に応じて互いに独立して同じ鎖長を有してもよく、その場合、aおよびbはそれぞれ数字で表される。一般的に、鎖長の異なる混合物が存在することが有用であり、その結果、重縮合生成物中の構造単位のラジカルは、aに対して、および独立してbに対して異なる数値を有する。
【0048】
本発明の重縮合生成物は、多くの場合、5000g/mol~200000g/mol、好ましくは10000~100000g/mol、より好ましくは15000~55000g/molの重量平均分子量(実験の部に記載したようにSECによって決定)を有する。
【0049】
構造単位(III):(IV)のモル比は、通常、4:1~1:15、好ましくは2:1~1:10である。ポリマーの負電荷が比較的高いと、コロイド分散した水性調製物の安定性に好影響を及ぼすことから、重縮合生成物中の構造単位(IV)の割合が比較的高い方が有利である。構造単位(IVa):(IVb)のモル比は、両方が存在する場合、通常、1:10~10:1、好ましくは1:3~3:1である。
【0050】
重縮合生成物は、以下の式:
【化12】
[式中、
は、H、CH、COOH、または置換もしくは非置換のフェニルもしくはナフチルであり、
は、H、CH、COOH、または置換もしくは非置換のフェニルもしくはナフチルである]
で表される更なる構造単位(V)を含む。
【0051】
好ましくは、RおよびRはHであるか、またはラジカルRおよびRの一方がHであり、他方がCHである。
【0052】
構造単位(V)のRおよびRは、通常、同一であるか、または異なっており、H、COOH、および/またはメチルである。特に極めて有利なのはHである。
【0053】
好ましくは、(III):(IV)の重量比は、2:98~40:60、好ましくは5:95~30:70、より好ましくは10:90~20:80の範囲である。通常、重縮合物中の構造単位[(III)+(IV)]:(V)のモル比は、1.0:0.7~1.0:1.3、好ましくは1.0:0.8~1.0:1.2、より好ましくは1.0:0.9~1.0:1.1である。
【0054】
ケト基を有するモノマーは、アルデヒドまたはケトンが好ましい。式(V)のモノマーの例は、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、グリオキシル酸、および/またはベンズアルデヒドである。ホルムアルデヒドが好ましい。
【0055】
重縮合物は、通常、構造単位(III)、(IV)、および(V)の基礎となる化合物を互いに反応させることを含むプロセスによって調製される。重縮合物の調製は、例えば、国際公開第2006/042709号および国際公開第2010/026155号に記載されている。
【0056】
本発明のポリマー分散剤はまた、塩の形態、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、有機アンモニウム塩、アンモニウム塩、および/またはカルシウム塩、好ましくはナトリウム塩および/またはカルシウム塩として存在してもよい。
【0057】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC;詳細は以下に示す)によって決定される、ポリマー分散剤の平均分子量Mは、好ましくは、5000~200000g/mol、より好ましくは10000~80000g/mol、極めて好ましくは15000~55000g/molである。
【0058】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC;詳細は以下に示す)によって決定される、ポリマー分散剤のポリエーテル側鎖の平均分子量Mは、好ましくは、500~8000g/mol、より好ましくは1000~5000g/molである。
【0059】
ポリマー分散剤の電荷密度φは、好ましくは0.5~5.0meq/g固形分の範囲、より好ましくは0.7~2.0meq/g固形分の範囲である。電荷密度は、例えば、J. Plank and B. Sachsenhauser, Cem. Concr. Res. 2009, 39, 1-5に記載されるようなポリカチオンを用いた滴定によって決定することができる。さらに、当業者は、ポリマー分散剤を合成するためのモノマーの初期秤量から簡単な計算でこの値を決定することができる。
【0060】
コロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料(以下、ハイブリッド材料)は、好ましくは3重量%~50重量%の固形分、より好ましくは15重量%~45重量%の固形分を含有する。ここでの固形分は、ポリマーのほかに、多価金属カチオン塩、またアニオンが多価金属カチオンと難溶性の塩を形成するアニオン塩を含む。
【0061】
ハイブリッド材料は、一般的に成分を混合することにより調製され、成分は、好ましくは水溶液の形態である。この場合、最初にポリマー分散剤と多価金属カチオンとを混合した後、多価金属カチオンと難溶性の塩を形成することができるアニオンを添加することが好ましい。別の実施形態によれば、多価金属カチオンと難溶性の塩を形成することができるアニオンとポリマー分散剤とを最初に混合した後、多価金属カチオンを添加する。pHを調整するために、塩基を添加することができる。pHは概して、塩基性範囲、好ましくは9~12、より好ましくは9.5~11.5、特に10.5~11.5の範囲である。概して、5~80℃、有用には10~40℃の範囲の温度、より具体的には室温(約20~30℃)で成分を混合する。
【0062】
ハイブリッド材料の調製は、連続式でもバッチ式でも行うことができる。成分の混合は、一般的に機械的撹拌機構を装備した反応器内で行われる。撹拌機構の撹拌速度は、10rpm~2000rpmであり得る。代わりの選択肢は、ローターステーターミキサーを使用して溶液を混合することであり、このミキサーは、撹拌速度が1000~30000rpmの範囲であり得る。さらに、異なる混合形状を使用すること、例えば、連続式プロセスにおいてY字形ミキサーを使用して溶液を混合することも可能である。
【0063】
必要であれば、本方法の更なる工程でハイブリッド材料の乾燥を引き続いて行ってもよい。乾燥は、ロール乾燥、噴霧乾燥、流動床プロセスでの乾燥、高温でのバルク乾燥、またはその他の従来の乾燥方法によって行うことができる。乾燥温度の好ましい範囲は、50~230℃である。
【0064】
ハイブリッド材料の調製は、参照により本明細書に援用される国際公開第2014013077号、国際公開第2014131778号、国際公開第2015110393号、および国際公開第2016207429号に詳細に開示されている。
【0065】
このように、ハイブリッド材料は、乾燥工程後に、溶液、エマルジョン、もしくは分散液の形態である水性生成物、または固体形態、例えば粉末の形態をとることができる。その場合、固体形態であるハイブリッド材料の含水量は、好ましくは10重量%未満、より好ましくは5重量%未満である。水の一部、好ましくは最大10重量%を有機溶媒に置き換えることも可能である。エタノール、(イソ)プロパノール、および1-ブタノール(その異性体を含む)などのアルコールが有利である。同様にアセトンを使用することもできる。有機溶媒の使用により、本発明の塩の溶解度、ひいては結晶化挙動に影響を与えることが可能である。
【0066】
ハイブリッド材料は、動的光散乱法により測定したときの平均粒度分布値が、10nm~1000μm、好ましくは10nm~10μmである(実施例のセクションを参照)。
【0067】
本発明は、さらに、
a)上記に定義したコロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料と、
b)以下:
b1)セメント系結合材、
b2)焼成粘土材料を含む少なくとも1種の補助セメント系材料、および
b3)場合により、少なくとも1種の炭酸塩岩粉末、好ましくは炭酸カルシウム含有炭酸塩岩粉末、より好ましくは石灰石を含む結合材系と
を含む、建設組成物に関する。
【0068】
結合材系b)では、種々のセメント系結合材b1)、例えばポルトランドセメント、アルミン酸カルシウムセメント、およびスルホアルミン酸塩セメントを使用することができる。一実施形態では、セメント系結合材は、ポルトランドセメントとアルミン酸塩セメントとの混合物、またはポルトランドセメントとスルホアルミン酸塩セメントとの混合物、またはポルトランドセメントと、アルミン酸塩セメントと、スルホアルミン酸塩セメントとの混合物を含む。
【0069】
概して、ケイ酸カルシウム鉱物相およびアルミン酸カルシウム鉱物相は、セメント系結合材b1)のうちの少なくとも90重量%を構成する。さらに、ケイ酸カルシウム鉱物相は、好ましくはセメント系結合材b1)のうちの少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも65重量%、最も好ましくは65~75重量%を構成する。
【0070】
便宜上、本明細書では、鉱物相はそれらのセメント記号によって示す。主要化合物は、酸化物の種類によりセメント記号で表される。すなわち、CはCaO、MはMgO、SはSiO、AはAl、$はSO、FはFe、およびHはHOである。
【0071】
好適には、ケイ酸カルシウム鉱物相は、C3S(エーライト)およびC2S(ビーライト)から選択される。ケイ酸カルシウム鉱物相は、主に最終強度特性を付与する。
【0072】
好適には、アルミン酸カルシウム鉱物相は、C3A、C4AF、およびC12A7、特にC3AおよびC4AFから選択される。
【0073】
一実施形態では、セメント系結合材b1)は、ポルトランドセメント、特に普通ポルトランドセメント(OPC)である。「ポルトランドセメント」という用語は、ポルトランドクリンカーを含有する任意のセメント化合物、特に規格EN 197-1、5.2項の意味の範囲内でのCEM Iを意味する。好ましいセメントは、DIN EN 197-1に準拠した普通ポルトランドセメント(OPC)である。ポルトランドセメントを構成する相は、主に、エーライト(C3S)、ビーライト(C2S)、アルミン酸カルシウム(C3A)、鉄アルミン酸カルシウム(C4AF)、およびその他の副相である。市販のOPCは、硫酸カルシウムを(7重量%未満)含有するか、または硫酸カルシウムを本質的に含まない(1重量%未満)かのいずれかであってもよい。
【0074】
建設組成物は、アルミン酸カルシウム鉱物相からのAl(OH) として算出される、セメント系結合材100gあたり合計0.05~0.2molの有効なアルミン酸塩を含有することができる。
【0075】
更なる実施形態では、セメント系結合材b1)は、少なくとも3800cm/g、好ましくは少なくとも4500cm/g、最も好ましくは少なくとも5000cm/gのブレーン表面積を有する。ブレーン表面積は、粉砕微細度を求めるパラメーターとして使用される。粉砕が微細であるほど、反応性を高めることが可能である。ブレーン表面積は、DIN EN 196-6に準拠して決定することができる。
【0076】
好ましくは、建設組成物は、結合材系b)の量に対して20~80重量%、好ましくは35~65重量%の量でセメント系結合材b1)を含む。
【0077】
概して、建設組成物中のセメント系結合材b1)の量は、建設組成物の固形分含有量に対して5~20重量%、好ましくは10~18重量%の範囲である。
【0078】
建設組成物は、補助セメント系材料b2)として少なくとも1種の焼成粘土材料を含む。好ましくは、焼成粘土材料は、200μm未満、好ましくは150μm未満、より好ましくは70μm未満、または50μm未満のDv90を有する。
【0079】
Dv90(体積基準)は、粒度分布の90パーセンタイルに相当する。これは、90%の粒子がDv90以下のサイズを有し、10%がDv90より大きいサイズを有することを意味する。一般的には、Dv90および同種類の他の値は、粒子または粒の集合の粒度分布プロファイル(体積分布)の特徴を示し、200μm未満の粒度についてはレーザー粒度分析によって、または200μm超の粒度についてはふるい分けによって決定することができる。しかしながら、個々の粒子に凝集傾向がある場合、電子顕微鏡によって粒度を決定する必要がある。
【0080】
焼成粘土材料は、フィロケイ酸塩、すなわち、層状ケイ酸塩を含有する粘土の熱処理により得られる。フィロケイ酸塩は、2八面体および/もしくは3八面体シートまたはそれらの混合物、ならびに層電荷0(例えば、カオリナイト)から負の層電荷1(例えば、マイカ)までのもの、またはそれらの混合物を含む1:1および/または2:1の層状(天然)粘土またはそれらの混合物を含む。粘土の熱処理は、水の放出を伴う脱ヒドロキシル化により粘土鉱物を変換する。例えば、カオリナイトを熱処理して、メタカオリン(AlSi)を得ることができる。得られる焼成粘土材料は、天然由来のポゾランである。焼成粘土を調製するための天然堆積物由来の粘土は、組成および結晶構造が広範囲に多様であってよい。本発明の目的では、焼成粘土は、ポゾラン反応性を付与する粘土の熱処理により調製される任意の材料である。組成、結晶構造、微細度、および処理条件、例えば、適用される熱の温度および時間を大幅に変更できるため、結果として焼成粘土の反応性も大幅に異なり得る。
【0081】
本発明の目的では、焼成粘土材料は、少なくとも1種の非カオリナイト粘土材料を含む粘土材料の焼成により得られる材料である。純粋なメタカオリンは、好ましい補助セメント系材料であるが、純粋なカオリナイトの堆積物は希少であり、純粋なメタカオリンはそれゆえ高価である。粗カオリンは鉱石の品質が大幅に異なり、カオリナイト以外に、他の粘土鉱物または粘土様鉱物を含む。建設組成物では、少なくとも1種の非カオリナイト粘土材料を含む粘土材料から得た焼成粘土材料を用いてもよい。本発明の焼成粘土材料は、非カオリナイト粘土材料に加え、カオリナイト粘土材料を含む粘土材料から、または非カオリナイト粘土材料のみを含む粘土材料から得ることができるものと理解される。そのため、カオリナイトよりもはるかに広範に入手可能な粘土を使用できる可能性が開かれる。
【0082】
カオリナイト粘土材料には、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、またはハロイサイトなどのカオリン族の構成要素が含まれる。
【0083】
焼成粘土材料を製造するために、それ自体またはカオリナイト粘土材料と合わせて使用できる最も適切な非カオリナイト粘土材料は、
- スメクタイト族、例えば、モンモリロナイト、ノントロナイトのような2八面体スメクタイト、またはサポナイトのような3八面体スメクタイト;
- マイカ族、例えば、イライト、パラゴナイト、エフェサイト、マーガライト、またはクリントナイト;
- クロライト族、例えば、クリノクロアまたはシャモサイト;
- パイロフィライト・タルク族、例えば、タルクまたはパイロフィライトおよびバーミキュライト
に属している。
【0084】
一実施形態では、非カオリナイト粘土材料は、スメクタイト族に属する少なくとも1種の粘土および/またはイライト粘土を含む。
【0085】
焼成粘土材料は、微量を超える少なくとも1種の非カオリナイト粘土材料を含む粘土材料に由来する。これは、中等級または低等級のカオリン粘土または非カオリン粘土であり得る。焼成粘土材料は、非カオリナイト粘土から得た焼成粘土を少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも20重量%、最も好ましくは少なくとも30重量%含む。
【0086】
天然粘土組成の一例は、40~45%のイライト粘土、25~30%のカオリナイト粘土、および25~30%のスメクタイト族粘土で構成される。カオリナイトを含まない他の天然粘土、例えば85~90%のスメクタイト族粘土および10~15%のイライト粘土で構成される組成も存在する。
【0087】
焼成により、粘土の構造が結晶から非晶質へと変化する。粘土の結晶形態に変化が起こる程度は、粘土が受ける熱の量に依存し得る。ムライトなどの結晶性高温アルミノケイ酸塩相の形成を防止しつつ、粘土を脱ヒドロキシル化して結晶学的非晶質材料にするのに十分な温度で粘土を熱処理することが好ましい。非晶質相(または不明確な結晶相)は、容易に活性化される反応性の高い相である。比較的多量の非晶質アルミン酸カルシウム相は、モルタルおよびコンクリートの後期強度発現(例えば28日後)に好影響を与える。好ましい実施形態では、焼成粘土は、定量的XRD分析(リートベルト)によって測定したときの非晶質含有量が10~100重量%、好ましくは20~70重量%の範囲内である。
【0088】
焼成粘土を含む補助セメント系材料のポゾラン反応性を、混合セメントの熱量分析によって測定することができる。Development of a New Rapid, Relevant and Reliable (R3) Testing Method to Evaluate the Pozzolanic Reactivity of Calcined Clays, Rilem Bookseries 2015, DOI:10.1007/978-94-017-9939-3_67を参照のこと。セメントモデルペーストは、11.11gの補助セメント系材料(SCM)、33.33gのポルトランダイト、60gの脱イオン水、0.24gの水酸化カリウム、1.20gの硫酸カリウム、および5.56gの方解石を混合することにより調製する。7日間にわたり発熱量を記録する。累積熱量(「熱量」)は、熱量測定試験の開始後1.2時間から計測される。総発熱量(「Hrescaled」)を、以下:
rescaled=熱量/(m×0.0997)
[式中、熱量は、累積熱量(単位ジュール)であり、mは、セメントモデルペーストの質量(単位グラム)である]
に従ってJ/(gSCM)で記録する。
【0089】
有用な焼成粘土材料は、ポゾラン反応性試験において100~600J/g、特に150~400J/gの総発熱量を示す。
【0090】
一実施形態では、焼成粘土材料は、400~1,000℃、好ましくは500~900℃、より好ましくは600~850℃の温度で粘土を熱処理することにより得られる材料である。
【0091】
一実施形態では、焼成粘土材料は、DIN ISO 9277に準拠して測定したときのBET値が、0.1~60m/g、好ましくは1~50m/g、特に1~40m/gの範囲である。
【0092】
焼成粘土は概して、結合材系b)の量に対して5~80重量%、好ましくは5~50重量%の量で含まれる。
【0093】
建設組成物は、焼成粘土材料以外に、アルカリ活性化可能な結合材などの結合材系b)の量に対して最大25重量%の補助セメント系材料を含有してもよい。
【0094】
「アルカリ活性化可能な結合材」という用語は、水性アルカリ環境においてセメント状に硬化する材料を意味することを意図する。この用語は、「潜在水硬性結合材」または「ポゾラン結合材」と通称される材料を包含する。「潜在水硬性結合材」は、好ましくは、モル比(CaO+MgO):SiOが0.8~2.5、特に1.0~2.0である結合材である。一般論として、上述の潜在水硬性結合材は、産業スラグおよび/または合成スラグ、特に高炉スラグ、電熱リンスラグ、製鋼スラグ、およびそれらの混合物から選択することができる。「ポゾラン結合材」は概して、非晶質シリカ、好ましくは沈降シリカ、フュームドシリカおよびマイクロシリカ、すりガラス、アルミノケイ酸塩、フライアッシュ、好ましくは褐炭フライアッシュおよび無煙炭フライアッシュ、天然ポゾラン、例えば凝灰岩、トラスおよび火山灰など、焼成頁岩、もみ殻灰、天然および合成のゼオライト、ならびにそれらの混合物から選択することができる。
【0095】
スラグは、産業スラグ、すなわち、産業プロセスからの廃棄物、またはその他の合成スラグのいずれかであり得る。産業スラグは常に一定の量および品質で入手できるとは限らないため、合成スラグが有利であり得る。
【0096】
高炉スラグ(BFS)は、ガラス炉プロセスの廃棄物である。他の材料は、高炉水砕スラグ(GBFS)および高炉スラグ微粉末(GGBFS)であり、GGBFSは、高炉水砕スラグを微粉砕したものである。高炉スラグ微粉末は、供給源および処理方法に応じて、粉砕微細度および粒度分布にばらつきがあり、ここでの粉砕微細度は反応性に影響を及ぼす。ブレーン値は粉砕微細度のパラメーターとして使用され、通常は200~1000mkg-1、好ましくは300~500mkg-1のオーダーを有する。粉砕が微細であるほど、反応性は高まる。
【0097】
「高炉スラグ」という表現は、言及されている全レベルの処理、粉砕、および品質から得られる材料(すなわち、BFS、GBFS、およびGGBFS)を含むことが意図される。高炉スラグは概して、30~45重量%のCaO、約4~17重量%のMgO、約30~45重量%のSiO、および約5~15重量%のAl、通常は約40重量%のCaO、約10重量%のMgO、約35重量%のSiO、および約12重量%のAlを含む。
【0098】
電熱リンスラグは、電熱式でのリン製造の廃棄物である。これは高炉スラグよりも反応性が低く、約45~50重量%のCaO、約0.5~3重量%のMgO、約38~43重量%のSiO、約2~5重量%のAl、および約0.2~3重量%のFeのほかに、フッ化物およびリン酸塩も含む。製鋼スラグは、種々の製鋼プロセスの廃棄物であり、組成が極めて多様である。
【0099】
非晶質シリカは、好ましくは、X線非晶質シリカ、すなわち、粉末回折法により結晶性が認められないシリカである。本発明の非晶質シリカ中のSiO含有量は、有利には少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%である。沈降シリカは、水ガラスを出発物質とする沈降プロセスにより産業規模で得られる。一部の製造プロセスからの沈降シリカは、シリカゲルとも呼ばれる。
【0100】
フュームドシリカは、クロロシラン、例えば四塩化ケイ素を水素/酸素炎中で反応させることにより生成される。フュームドシリカは、比表面積が50~600m-1である粒径5~50nmの非晶質SiO粉末である。
【0101】
マイクロシリカは、シリコン製造またはケイ素鉄製造の副生成物であり、同様に、大部分が非晶質SiO粉末からなる。粒子は、0.1μmのオーダーの直径を有する。比表面積は、15~30m-1のオーダーのものである。
【0102】
フライアッシュは、とりわけ、発電所での石炭の燃焼中に生成される。C種フライアッシュ(褐炭フライアッシュ)は、国際公開第08/012438号によれば、約10重量%のCaOを含み、一方、F種フライアッシュ(無煙炭フライアッシュ)は、8重量%未満、好ましくは4重量%未満、通常は約2重量%のCaOを含む。
【0103】
建設組成物は、無機顔料を含んでもよい。好適な無機顔料としては、酸化鉄、二酸化チタン、コバルト-クロム-アルミニウム-スピネル、および酸化クロム(III)、例えばクロムグリーンが挙げられる。好ましくは、無機顔料は、結合材系b)の総量の5重量%超を占めず、好ましくは3重量%以下である。
【0104】
好ましい実施形態では、建設組成物は、少なくとも1種の炭酸塩岩粉末b3)を含む。好適な炭酸塩岩粉末b3)には、粉砕または沈降した炭酸塩岩粉末が含まれる。好ましくは、炭酸塩岩粉末b3)は、D50により特性評価されるレーザー散乱粒度分析によって測定したときの重量による粒度分布が、100nm~200μm、好ましくは1μm~20μmの範囲である。
【0105】
好適な炭酸塩岩粉末としては、粉砕または沈降した石灰石、ドロマイト石灰岩、方解石、アラゴナイト、トラバーチン、大理石、炭酸塩-ケイ酸塩片岩、片岩の不純大理石、バテライト、ドロマイト、ならびにアルカリ土類金属の炭酸塩、例えば炭酸マグネシウムおよび炭酸バリウムが挙げられる。建設解体廃棄物(CDW)から得られる微粉砕された再生骨材も想定される。炭酸塩岩粉末b3)は、好ましくは炭酸カルシウム含有炭酸塩岩粉末、より好ましくは石灰石である。炭酸塩岩粉末は、微粉砕した炭酸塩岩からなり、豊富に利用できる。炭酸塩粉末は、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、特に少なくとも90重量%の炭酸カルシウム、特に石灰石を含む。
【0106】
炭酸塩岩粉末b3)の量は、存在する場合、結合材系b)の量に対して、概ね6~35重量%、好ましくは15~30重量%である。
【0107】
一実施形態では、焼成粘土材料は、炭酸塩岩粉末が本質的に存在しない状態で粘土を熱処理することにより得られる材料である。焼成後、焼成粘土材料を炭酸塩岩粉末およびセメント系結合材と混合して、本発明の結合材系を得る。粘土材料を炭酸塩岩粉末とは別に熱処理することにより、粘土鉱物と炭酸塩岩粉末との間に化学反応が起こらない。
【0108】
別の実施形態では、粘土鉱物と炭酸塩物質との間に化学反応が起こらないように、セメント系結合材と混合する前に粘土材料と炭酸塩岩粉末との混合物を熱処理する。この事例は、炭酸塩岩が粘土基材の原料中に天然で存在する場合、および/またはプロセスの必要性に応じて意図的に添加できる場合に行われる可能性がある。粘土材料と炭酸塩岩粉末との間の化学反応が確実に起こらないようにする方法は、混合物を800℃未満、好ましくは700℃未満の温度で焼成することによるものである。
【0109】
一実施形態では、結合材系は、DIN ISO 9277に準拠して測定したときのBET値が、0.1~40m/g、好ましくは1~30m/gの範囲である。
【0110】
セメント系結合材b1)、特に市販形態のポルトランドセメントは、通常、少量の硫酸塩源を含有する。建設組成物は、セメント系結合材b1)中に存在する硫酸塩に加えて、結合材系b)の量に対して、最大15重量%、好ましくは最大5重量%の外部硫酸塩源b4)を含有してもよい。建設組成物は、結合材系b)の量に対して、最大20重量%、好ましくは最大10重量%の、セメント系結合材b1)および外部硫酸塩源b4)からの硫酸塩総量を含んでもよい。
【0111】
概して、外部硫酸塩源は、好ましくは、硫酸カルシウム二水和物、硬石膏、α-およびβ-半水和物、すなわち、α-半水石膏およびβ-半水石膏、またはそれらの混合物から選択される硫酸カルシウム源であり得る。好ましくは、硫酸カルシウム源は、α-半水石膏および/またはβ-半水石膏である。他の硫酸塩源は、硫酸カリウムまたは硫酸ナトリウムなどのアルカリ金属硫酸塩である。好ましくは、硫酸塩源b4)は、硫酸カルシウム源である。
【0112】
建設組成物は、例えば、シリカ、石英、砂、粉砕した大理石、ガラス球、花崗岩、玄武岩、砂岩、長石、片麻岩、沖積砂、任意の他の耐久性骨材、およびそれらの混合物であり得る充填材料を含み得る。概して、充填材料は結合材としては機能しない。すなわち、化学硬化反応には関与しない。
【0113】
本発明はまた、混合直後の状態、すなわち、水を含む、本発明に従う建設組成物に関する。好ましくは、水と結合材系b)との比は、0.2~0.9の範囲、好ましくは0.25~0.7の範囲である。
【0114】
建設組成物を乾燥混合物として提供し、現場で水を加えて、混合直後の建設組成物を得ることができる。あるいは、既調合した組成物または混合直後の組成物として建設組成物を提供してもよい。
【0115】
混合直後の水性建設組成物は、セメント系結合材、焼成粘土材料を含む少なくとも1種の補助セメント系材料、および場合により炭酸塩岩粉末を含有する粉末成分と、コロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料を含有する液体水性成分とを混合することにより得ることができる。
【0116】
別の実施形態では、コロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料を、事前にセメント系結合材に添加する。この目的のために、コロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料を本質的に乾燥生成物としてセメント系結合材に添加するか、または粉末状に調整されたセメント系結合材が得られる条件下で添加する。例えば、コロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料の水性調製物を、セメントクリンカーを粉砕する際の粉砕助剤として使用する。この手順により、水需要の高さ、レオロジー不足、および得られる建設組成物の初期強度発現の低さという欠点を克服して、即時使用可能な高性能化セメント系結合材系の製造が可能になる。
【0117】
混合直後の建設組成物は、例えば、コンクリート、モルタル、またはグラウトであり得る。
【0118】
「モルタル」または「グラウト」という用語は、細骨材、すなわち、直径が150μm~5mmである骨材(例えば、砂)、および場合により、極細骨材が添加されたセメントペーストを意味する。グラウトは、空隙または間隙を充填するのに十分な低粘度の混合物である。モルタル粘度は、モルタル自体の重量だけでなく、モルタルの上に配置される石材の重量も十分に支持する程度に高い。「コンクリート」という用語は、粗骨材、すなわち、直径が5mm超である骨材が添加されたモルタルを意味する。
【0119】
本発明に従う建設組成物は、建築物の製造のような用途、特に、コンクリート、例えば、現場コンクリート、コンクリート装飾部品、コンクリート製造部品(MCP)、プレキャストコンクリート部品、コンクリート商品、キャストコンクリート石、コンクリートレンガ、現場打ちコンクリート、既調合コンクリート、空気内包コンクリート、吹付けコンクリート/モルタル、コンクリート修復システム、3Dプリントコンクリート/モルタル、工業用セメントフローリング、1成分および2成分封止スラリー、地面または岩盤の改良および土壌調整のためのスラリー、スクリード、充填組成物およびセルフレベリング組成物、例えば、ジョイント充填材またはセルフレベリング下葺材、高性能コンクリート(HPC)および超高性能コンクリート(UHPC)、密封施工コンクリートスラブ、建築用コンクリート、タイル接着剤、下塗材、セメント系プラスター、接着剤、シーラント、セメント系被覆および塗料系(特にトンネル、排水管、スクリード用)、モルタル、例えば、乾燥モルタル、剥落防止材、流動性またはセルフレベリングモルタル、排水モルタルおよびコンクリートまたは修復モルタル、グラウト、例えば、ジョイントグラウト、無収縮グラウト、タイルグラウト、注入グラウト、ウインドミルグラウト(風力タービングラウト)、アンカーグラウト、流動性またはセルフレベリンググラウト、ETICS(外断熱複合システム)、EIFSグラウト(外断熱仕上げシステム)、膨潤破砕剤、防水膜、またはセメント系フォームに有用である。
【0120】
添付の図面およびそれに続く実施例によって、本発明をさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0121】
図1】従来の高性能減水剤を用いた種々のモルタルに関する、DIN EN 12350-5に準拠したフローテーブル試験の結果を示す図である。
図2】本発明に従うコロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料を用いた種々のモルタルに関する、DIN EN 12350-5に準拠したフローテーブル試験の結果を示す図である。
【実施例
【0122】
分析方法
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
以下に示すSEC溶離液にポリマー溶液を溶解して、0.5重量%のポリマー濃度を得た。続いて、この溶液を孔径0.45μmのナイロン膜を備えるシリンジフィルターに通して濾過し、濾液を得た。この濾液の注入量は100μLであった。UV検出器(SPD-10A - SHIMADZU)およびRI検出器(RID-10A - SHIMADZU)を装備した、モデルLC-10AD VP - CTO-10A VP搭載のShimadzu製SEC機器で平均分子量を測定した。
カラム:OH-Pak SB-G
Shodex OHpak-SB 804 HQ
Shodex OHpak-803 HQ
Shodex OHpak-802.5 HQ
溶離液:0.05Mギ酸アンモニウム/MeOH混合水溶液(体積比91/9)
流量:0.65ml/分
温度:60℃
注入量:100μL
検出:RIおよびUV(230nm)
【0123】
ポリマーの分子量を、PSS Polymer Standards Service GmbH製のポリエチレングリコール標準液を使用した外部検量によって測定した。まず、PSS Polymer Standards Service GmbH社製のポリエチレングリコール標準液に関する測定を行った。ポリエチレングリコール標準液の質量は、682000g/mol、164000g/mol、114000g/mol、57100g/mol、40000g/mol、26100g/mol、22100g/mol、12300g/mol、6240g/mol、3120g/mol、2010g/mol、970g/mol、430g/mol、194g/mol、および106g/molであった。標準の分子量分布曲線は、供給業者による光散乱法で決定した。
【0124】
動的光散乱法
Malvern Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments GmbH, Rigipsstr. 19, 71083 Herrenberg)を使用して粒度分布を決定した。測定および評価に利用したソフトウェアは、機器に付属するMalvernソフトウェアパッケージであった。測定原理は動的光散乱法、より具体的には非破壊的後方散乱法に依拠した。測定した粒度分布は、櫛型ポリマー、すなわち、減水剤と、本発明のカチオンおよび本発明のアニオンからなる無機コアとで構成される集合体の流体力学直径Dhに相当した。
【0125】
測定結果は、粒度に対する強度分布であった。この分布から、ソフトウェアにより平均粒度を決定した。使用したアルゴリズムをMalvernソフトウェアに保存した。1~10日後にサンプルを測定した。この測定には、減水剤と本発明のカチオンおよび本発明のアニオンとで構成される集合体の0.1重量%溶液を使用した。使用した溶媒は、Milli-Q水、すなわち、18.2mΩ cmの抵抗を有する超純水であった。使い捨てプラスチックキュベットにサンプルを送出し、温度25℃で測定にかけた。1回の測定あたり10ラン、サンプルあたり2回の測定を実施した。データ品質が十分に高いもの、すなわち、機器ソフトウェアの基準に一致した結果のみを評価した。
【0126】
ポゾラン反応性試験
セメントモデルペーストを、11.11gの補助セメント系材料(SCM)、33.33gのポルトランダイト(実験室等級、5重量%未満のCaCO)、60gの脱イオン水、0.24gの水酸化カリウム(実験室等級)、1.20gの硫酸カリウム(実験室等級)、および5.56gの方解石(実験室等級、d50が5~15μm)を混合することにより調製する。全ての原材料を40℃で一晩予熱した後、混合した。
【0127】
熱量計を40℃に設定した後、熱流チャネルを検量した。次に、密閉した参照フラスコ(サンプルの熱容量に合わせて約9.4gの脱イオン水を収容)を熱量計に入れ、システムが安定するまで放置した(約2日間)。各チャネルのベースライン熱流量(初期ベースラインと最終ベースラインの両方)を180分間測定した。約15g(m)の混合直後のセメントモデルペーストを、混合直後に加熱したサンプルフラスコに導入した。
【0128】
7日間にわたり発熱量を記録する。累積熱量(「熱量」)は、熱量測定試験の開始後1.2時間から計測される。総発熱量(「Hrescaled」)を、以下
rescaled=熱量/(m×0.0997)
[式中、熱量は、累積熱量(単位ジュール)であり、mは、セメントモデルペーストの質量(単位グラム)であり、0.0997は、ペーストサンプル中の補助セメント系材料の重量分率である]
に従ってJ/(gSCM)で記録する。
【0129】
モルタルのスランプ保持
この手順は、DIN EN 12350-2に類似しており、従来のAbramsコーンの代わりに、ミニスランプコーン(高さ:15cm、底部幅:10cm、頂部幅:5cm)を使用するという改変を加えた。2Lの混合直後の水性建設組成物をミニスランプコーンに充填した。混合直後に、コーンを完全に満たした。その後、平面にコーンを置いて持ち上げ、モルタル混合物のスランプを測定した。比較を可能にするために、高性能減水剤の投入量を調整することにより、全混合物のスランプを11cmに調整した。
【0130】
モルタルの初期強度発現
調整したモルタル混合物をそれぞれ、モルタル鋼プリズム(16/4/4cm)に充填し、温度20℃および相対湿度98%で24時間放置した後、硬化したモルタルプリズムを得た。硬化したモルタルプリズムを離型させ、DIN EN 196-1に準拠して圧縮強度を測定した。
【0131】
コンクリートの圧縮強度
同量の水および総量380kg/mの結合材b)を含有する種々のコンクリート混合物を調製した。
【0132】
Pemat ZK 50コンクリートミキサーでコンクリートを4分間混合した。2分後、残りの水の20%に高性能減水剤を添加した。必要な投入量は、凡例に%bwob(固形分含有量に対する、活性物質を主成分とする結合材系の重量比)として表記する。
【0133】
DIN EN 12390-3に準拠して、コンクリートの混合から24時間後および28日後の圧縮強度を測定した。
【0134】
コンクリート流動性およびコンクリートスランプ保持
DIN EN 12350-5に準拠したフローテーブル試験を用いて、コンクリート混合後の異なる時点での流動性を測定した。
【0135】
ポリマー分散剤の合成
ポリマー分散剤P1は、モノマーのアクリル酸、マレイン酸、およびビニルオキシブチルポリエチレングリコール2000g/molを主成分とした。マレイン酸に対するアクリル酸のモル比は5.3であった。Mw=34000g/mol(SECにより測定)。固形分含有量は50重量%であった。この種類のポリマーの合成は、国際公開第2010/066470号に記載されている。
【0136】
ポリマー分散剤P2は、2つのポリマー:P2a(58重量%)およびP2b(42重量%)のブレンドであった。P2aはポリマー分散剤P1であった。P2bは、モノマーのアクリル酸およびイソプレニルオキシポリエチレングリコール1100g/molを主成分とした。Mw=25000g/mol(SECにより測定)。固形分含有量は50重量%であった。
【0137】
ポリマー分散剤P3は、構成単位であるフェノールポリエチレングリコール1500g/molとフェノキシエタノールホスフェートとの縮合物であった。分子量は、19000g/molであった。合成については、独国特許出願公開第102004050395号明細書に記載されている。固形分含有量は50%であった。
【0138】
ポリマー分散剤P4は、モノマーのアクリル酸およびビニルオキシブチルポリエチレングリコール3000g/molを主成分とした。Mw=62000g/mol(SECにより測定)。固形分含有量は50重量%であった。
【0139】
ポリマー分散剤P5は、モノマーのアクリル酸およびビニルオキシブチルポリエチレングリコール3000g/molを主成分とした。Mw=43000g/mol(SECにより測定)。固形分含有量は46重量%であった。
【0140】
ポリマー分散剤P6は、2つのポリマー:P6a(83重量%)およびP6b(17重量%)のブレンドであった。P6aはポリマー分散剤P1であった。P6bは、モノマーのアクリル酸、マレイン酸、およびビニルオキシブチルポリエチレングリコール5800g/molを主成分とした。マレイン酸に対するアクリル酸のモル比は10.3であった。Mw=32000g/mol(SECにより測定)。固形分含有量は45重量%であった。この種類のポリマーの合成は、国際公開第2010/066470号に記載されている。
【0141】
ポリマー分散剤P7は、2つのポリマー:P7a(86重量%)およびP7b(14重量%)のブレンドであった。P7aはポリマー分散剤P1であった。P7bは、モノマーのアクリル酸、マレイン酸、およびイソプレニルオキシポリエチレングリコール1100g/molを主成分とした。Mw=43000g/mol(SECにより測定)。固形分含有量は56重量%であった。
【0142】
焼成粘土の組成
コンクリート試験に使用した2種類の焼成粘土のXRD組成を表1に示す。量は焼成粘土の重量%で表す。
【0143】
【表1】
【0144】
1.ハイブリッド材料の調製
上記に記載のポリマー分散剤の水溶液を、目標pHに達するまで撹拌しながらアルミン酸ナトリウム(NaAlO)、硝酸カルシウム(Ca(NO)、および水酸化ナトリウムと混合した。混合は、1Lガラスビーカー中にて、温度を20℃に調整し、マグネチックスターラーを用いて300rpmで実施した。
【0145】
最初にポリマー分散剤の溶液を水で希釈した。続いて、アルミン酸ナトリウムを添加し、撹拌しながら溶解した。次に、硝酸カルシウムを撹拌しながら添加した。続いて、目標pHに達するまでアルカリ剤を添加した。量を表2および表3に示す。量は全て活性含有量を基準とする。
【0146】
本発明のハイブリッド材料は、貯蔵安定性があることが実証された。具体的には、表2および表3のサンプルを40℃、20℃、および4℃で6か月間保存した。本発明のハイブリッド材料、ならびに比較添加剤A20およびA21は、相分離に対して安定であり、スランプ保持剤としての活性を保持したことが実証された。逆に、比較添加剤A18およびA19は不安定であり、保管後24時間以内に沈殿物を形成することが判明した。
【0147】
【表2】
【0148】
【表3】
【0149】
2.OPCおよびLC3を主成分とするモルタルの圧縮強度
表4は、1.350gの砂(DIN EN 196-1に準拠した標準砂)を含有し、水結合材比が0.50である、DIN EN 196-1に準拠した2種類のモルタルを示す。具体的には、LC3系と比較した、普通ポルトランドセメント(Aalborg Portland、OPC、CEM I 52.5N)に関する初期圧縮強度の差を調べる。LC3系は、OPC(上記)、16~18重量%の焼成粘土、および16~18重量%の石灰石を含有し、28日時点で52.5クラスの強度を達成する。
【0150】
【表4】
【0151】
焼成粘土を含有するLC3系では初期強度が著しく減衰することが明らかである。
【0152】
3.本発明の添加剤の有無によるモルタルのスランプ、流動性、および圧縮強度
表5は、スランプ、流動性、および圧縮強度に対する、高性能減水剤および凝結遅延剤を主成分とする従来の添加剤(略称T1)の影響を、本発明に従う添加剤と比較したものを示す。結果は、先の実験(実施例の項目2)のOPCおよび結合材系を使用したモルタルで実施されたものである。砂は、粒度が0~4mmのケイ砂であった(採取地:ポー川;Sabbie di Parma Srlから入手可能)。水結合材系比は、3つの例全てにおいて0.44であった。
【0153】
従来の添加剤T1として、ポリマーP2b(側鎖分子量1000g/mol、電荷密度1.70mmol/g(乾燥)、固形分含有量20重量%)とグルコン酸ナトリウム(固形分含有量5重量%)との混合物を使用した。P2b/グルコン酸ナトリウムの重量比は4/1であった。添加剤T1の総固形分含有量は25重量%であった。
【0154】
全試験において、固形分含有量に対するコロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料の量を基準として1重量%の量で標準消泡剤を添加することにより、混合物の空気連行を制御した。EN 1015-7に準拠して測定した空気の割合は、3~4体積%の範囲であった。
【0155】
【表5】
【0156】
表からわかるように、本発明のハイブリッド材料は、30分後および60分後のスランプおよび流動性の保持を著しく向上させる。さらに、初期圧縮強度は、OPCを使用した場合に得られるものと同等である。A20のスランプ保持は、ポリマー分散剤P1(すなわち、コロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料A20に含有されるポリマー分散剤)よりも向上しておらず、式(2)が決定的に重要であることを実証している。
【0157】
4.本発明の添加剤の有無によるコンクリートのスランプ、流動性、および圧縮強度
本試験では、非晶質含有量および物理吸着BET(XRDリートベルト分析、BET測定、およびレーザー粒度測定によって得た結果)が異なる2種類の焼成粘土、すなわち、LiamentおよびArginotec(表1を参照)を使用した。石灰石源としては、SH Minerals製のMS12石灰石粉末(粉砕石灰石;D50:5.5μm)を使用した。焼成粘土を含有する混合物には、2種類の硫酸カルシウム源(石膏および硬石膏)が含まれていた。
【0158】
さらに、2種類の高性能減水添加剤を試験に使用した。
【0159】
上記に記載の添加剤A2、すなわち、本発明に従うコロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料を使用した。さらに、モノマーのアクリル酸、アクリル酸ヒドロキシプロピル、およびイソプレニルオキシポリエチレングリコール1000g/molおよび5800g/molを主成分とするポリマーである従来の高性能減水剤S1を使用した。アクリル酸ヒドロキシプロピルに対するアクリル酸のモル比は2.1であった。Mw=38000g/mol(SECにより測定)。固形分含有量は51重量%であった。
【0160】
組成を表6に示し、結果を図1および図2、ならびに表7に示す。
【0161】
【表6】
【0162】
図1は、試験した全調合設計において、従来の高性能減水剤S1(w/b=0.41)の使用時には、スランプおよび流動性が経時的に著しく減衰することを示している。
【0163】
図2は、本発明に従うコロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料(A1、w/b=0.41)の使用時に、スランプが維持されることを示している。コロイド状ポリマー無機ハイブリッド材料を用いて調製されたコンクリートは、使用された硫酸カルシウム源(石膏または硬石膏)および焼成粘土に関係なく、同様のスランプ保持性を示す。したがって、本発明のハイブリッド材料の作業性維持に対する頑強度は、種々の焼成粘土を含有するコンクリートに混合した場合に、従来の高性能減水剤よりもはるかに優れている。
【0164】
【表7】
【0165】
表7は、焼成粘土を含有する混合物の初期強度発現(24時間)が、普通ポルトランドセメントを主成分とする参照混合物1および2と比較して極めて低いことを示している。しかしながら、試験された本発明のハイブリッド材料を含有するLC3混合物は全て、従来の高性能減水剤を含有する混合物と比較して、24時間強度および28日強度が高かったことが判明した。したがって、本発明のハイブリッド材料は、LC3を主成分とするコンクリート混合物における初期および後期の強度発現に好影響を与える。
【0166】
5.本発明の添加剤の有無によるコンクリートの圧縮強度
従来の高性能減水剤T1および本発明のハイブリッド材料A2を用いて追加のコンクリート試験を実施した。表8に、実験用の調合設計を示す。
【0167】
【表8】
【0168】
結果を表9に示す。全実験において、初期の空気連行は1.5%であった。
【0169】
【表9】
【0170】
本発明のハイブリッド材料は、LC3系と比較して初期強度が著しく向上することは明らかである。
図1
図2
【国際調査報告】