(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-23
(54)【発明の名称】オルガノイドの生産のためのバイオリアクター
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20240816BHJP
C12M 1/02 20060101ALI20240816BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240816BHJP
C12M 1/36 20060101ALI20240816BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20240816BHJP
【FI】
C12M3/00
C12M1/02 A
C12M1/34 Z
C12M1/36
C12N5/07
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513803
(86)(22)【出願日】2022-09-01
(85)【翻訳文提出日】2024-04-24
(86)【国際出願番号】 EP2022074315
(87)【国際公開番号】W WO2023031329
(87)【国際公開日】2023-03-09
(32)【優先日】2021-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506308769
【氏名又は名称】ウニフェルジテイト・ユトレヒト・ホールディング・ベスローテン・フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】Universiteit Utrecht Holding B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ケルスティン・スネーベルハー
(72)【発明者】
【氏名】バルト・スペー
(72)【発明者】
【氏名】ヒレス・セバスティアーン・ファン・ティーンデレン
(72)【発明者】
【氏名】シチェン・イェ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029CC01
4B029DB01
4B029FA02
4B029FA15
4B029GB03
4B029GB04
4B065AA90X
4B065BC02
4B065BC03
4B065BC08
4B065BC18
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、たとえばオルガノイドの並行培養を可能にする、オルガノイドを培養するための少なくとも2つのリアクターモジュールから構成されるオルガノイドの生産のためのバイオリアクターに関する。本発明は、さらに、バイオリアクターを使用する細胞培養のための方法に関し、より具体的には、バイオリアクターを使用するオルガノイドの拡張および分化のための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノイドを生産するためのバイオリアクターであって、前記バイオリアクターは、前記オルガノイドの培養のための少なくとも2つのリアクターモジュールから構成され、前記少なくとも2つのリアクターモジュールは、5mL~45mL、好ましくは10mL~30mL、より好ましくは15mL~25mLの容積を有する培養容器から構成され、各リアクターモジュールは、
前記リアクターモジュールへおよび前記リアクターモジュールからガス交換を継続するための少なくとも1つのガス交換ポータルと、
連続的混合を行うための、前記リアクターモジュールの内側にある攪拌要素と、
前記攪拌要素と動作可能に接続するモーターと、
培養容器としての前記バイオリアクターを閉じる蓋またはキャップと、
をさらに備え、
前記バイオリアクターは、リアクターモジュール毎の前記攪拌要素の速度を制御するために各リアクターモジュールの前記モーターと通信するマイクロコントローラを備えるバイオリアクター。
【請求項2】
前記バイオリアクターは、前記少なくとも2つのリアクターモジュールを保持するように配置構成された1つまたは複数のホルダーからさらに構成される請求項1に記載のバイオリアクター。
【請求項3】
前記ホルダーは、最大4個のリアクターモジュールを保持するように配置構成される請求項2に記載のバイオリアクター。
【請求項4】
前記少なくとも2つのリアクターモジュールは、少なくとも4個のリアクターモジュール、好ましくは少なくとも6個のリアクターモジュール、より好ましくは少なくとも8個のリアクターモジュール、さらに好ましくは少なくとも24個のリアクターモジュール、最も好ましくは少なくとも64個のリアクターモジュールである請求項1から3のいずれか一項に記載のバイオリアクター。
【請求項5】
前記攪拌要素は、前記リアクターモジュールの前記培養容器の全長の少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%に対応する長さを有する攪拌棒である請求項1から4のいずれか一項に記載のバイオリアクター。
【請求項6】
前記攪拌要素は、前記攪拌要素の前記長さに沿った複数のフィンまたはフィン構造を備え、前記攪拌要素の前記長さに沿って、前記フィンまたはフィン構造は、1mm~30mm、好ましくは5mm~20mm、より好ましくは10mm~15mmのスペースによって分離される請求項1から5のいずれか一項に記載のバイオリアクター。
【請求項7】
前記複数のフィンまたはフィン構造は、前記攪拌要素の前記長さに沿って少なくとも3個のフィンまたはフィン構造、好ましくは少なくとも5個のフィンまたはフィン構造、より好ましくは少なくとも7個のフィンまたはフィン構造である請求項6に記載のバイオリアクター。
【請求項8】
前記少なくとも2つのリアクターモジュールは、温度、ガス、およびpHセンサーからなる群から選択される1つまたは複数のセンサーからさらに構成される請求項1から7のいずれか一項に記載のバイオリアクター。
【請求項9】
前記バイオリアクターは、制御パネル、LCDディスプレイ、および電源からなる群から選択される1つまたは複数をさらに備える請求項1から8のいずれか一項に記載のバイオリアクター。
【請求項10】
前記細胞培養は、5mL~45mL、好ましくは10mL~30mL、より好ましくは15mL~25mLの細胞培養量で行われる請求項1から9のいずれか一項に記載のバイオリアクターを使用する細胞培養のための方法。
【請求項11】
前記細胞培養は、オルガノイド、免疫細胞、抗体、幹細胞、EB、iPSC、ESC、およびスフェロイドまたは細胞凝集塊の培養からなる群から選択される1つまたは複数である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記オルガノイドは、ヒトオルガノイドである請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記オルガノイドは、肝臓、腸、腎臓、膵臓、肺、脳、脾臓、および心臓オルガノイドからなる群から選択される1つまたは複数のオルガノイド、好ましくは肝臓オルガノイドである請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
オルガノイドの拡張および/または分化のための方法であって、前記方法は、
a)請求項1から9のいずれか一項に記載のバイオリアクターを提供するステップと、
b)前記2つ以上のリアクターモジュールにおける前記オルガノイドの前記生産のための培地および細胞を供給するステップと、
c)前記細胞をオルガノイド培養に適した培養条件下で培養し、前記2つ以上のリアクターモジュールの前記モーターを作動させ、リアクターモジュール1つあたりの回転速度を40rpm~120rpmの間に設定することによって、前記細胞培養物を混合するステップと、
d)前記1つまたは複数のリアクターモジュールから前記オルガノイドを回収するステップと、
を含む方法。
【請求項15】
細胞培養開始時のステップbにおける前記培地および細胞は、5mL~15mL、好ましくは6mL~12mL、より好ましくは7mL~9mLの細胞培養量を有する請求項14に記載の方法。
【請求項16】
オルガノイド培養用の前記細胞の培養は、5mL~45mL、好ましくは10mL~30mL、より好ましくは15mL~25mLの細胞培養量で行われる請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
オルガノイド培養のための前記細胞の培養は、少なくとも10日間、好ましくは少なくとも14日間行われ、少なくとも20倍、より好ましくは少なくとも25倍、最も好ましくは少なくとも30倍の平均細胞拡張をもたらす請求項14から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記2つ以上のリアクターモジュールにおける前記回転速度は、40rpm~120rpm、好ましくは50rpm~80rpm、より好ましくは55rpm~70rpm、最も好ましくは60rpm~65rpmである請求項14から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記回転速度は、前記2つ以上のリアクターモジュールの間で異なる請求項14から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記オルガノイドは、肝臓、腸、腎臓、膵臓、肺、脳、脾臓、および心臓オルガノイドからなる群から選択される1つまたは複数のオルガノイド、好ましくは肝臓オルガノイドである請求項14から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記オルガノイドは、肝臓オルガノイドであり、前記回転速度は、約50rpm~80rpm、好ましくは約55rpm~65rpm、より好ましくは約60rpmである請求項14から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記オルガノイドは、腸オルガノイドであり、前記回転速度は、約80rpm~から120rpm、好ましくは約95rpm~105rpm、より好ましくは約100rpmである請求項14から20のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばオルガノイドの並行培養を可能にする、オルガノイドを培養するための少なくとも2つのリアクターモジュールから構成されるオルガノイドの生産のためのバイオリアクターに関する。本発明は、さらに、バイオリアクターを使用する細胞培養のための方法に関し、より具体的には、バイオリアクターを使用するオルガノイドの拡張および分化のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組織工学および再生医療の研究が進むにつれて、細胞を迅速に大量に生産することが求められており、バイオリアクターはこの要求に応えるための重要要件である。ごく最近の、そしてこれからの技術は、オルガノイドの拡張である。オルガノイドは、in vitroにおいて3Dで生産される、「ミニチュア臓器(miniature organ)」であり、これは細胞の種類や機能に関してその元の臓器に類似しており、様々な臓器および生物種から確立され得る。オルガノイドは、3次元培養において自己組織化することができる、組織幹細胞、胚幹細胞、または人工多能性幹細胞に由来する。細胞培養技術を使用するオルガノイドの生産は、幹細胞を2Dで培養し分化させることから臓器の複雑な3D構造の発達を可能にする3D培養条件へのシフトから始まった。したがって、オルガノイドは、臓器の発生および病気を研究するためのin vitroモデルとして有望視されている。オルガノイドは、また、実験室において、すなわち、患者のin vivo臓器/細胞によく似たin vitroモデルとして、(個別化)治療を研究する、たとえば将来の治療法の有効性または毒性を試験するためにも使用される。
【0003】
オルガノイド形成は、ラミニンを豊富に含む細胞外マトリックスヒドロゲル(主にMatrigelまたはCultrex BME)を使用して、幹細胞または前駆細胞を3D環境で培養し包埋することによって開始される。成長因子を豊富に含む培地とともに、これは、細胞の増殖および3Dオルガノイドへの自己組織化を促進する。ほとんどのオルガノイド培養は、細胞培養プレート内のヒドロゲル液滴中にオルガノイドを播種することによって、3D静置細胞培養(3D static cell culture)を使用して実行される。しかしながら、この標準的な静置オルガノイド培養は、細胞をMatrigelの液滴中に包埋することおよび健全な培養を維持するために細胞培養を毎週継代することなど、大量の材料、労力、および時間を必要とする煩わしいプロセスである。さらに、この静置培養法は、結果として、有毒な廃棄代謝物の局部的蓄積、さらには栄養物および酸素の不均一分布を引き起こし、その結果、個別のオルガノイド間の不均一性が増大し、次善の結果に至る。
【0004】
静置細胞培養に次いで、スピニングバイオリアクター(spinning bioreactor)またはスピナーフラスコが、オルガノイド細胞培養および3Dオルガノイドの形成で望まれているように、大量の細胞を迅速に生産する上で有望である。これらのバイオリアクターは、勾配形成(たとえば、pH、栄養物、代謝物、溶存酸素)の最小化、酸素および栄養物の輸送の増大、細胞沈殿の防止を含む、したがって静置培養システムの本質的な制限を克服する、静置細胞培養に勝るいくつかの利点を提供する。しかしながら、現在のバイオリアクターは、大量の接種(少なくとも50mL~200mL)を必要とし、したがって、多数の細胞も必要とし、小規模な実験への適用には不適当であり高価であり、複数の条件を並行して実施するのに理想的でない。さらに、市販のスピナーフラスコは、そのサイズの面で、また攪拌子を回転させるための磁気攪拌プレートが必要であることから、インキュベーターの広いスペースを必要とする。細胞培養に使用されている標準サイズのインキュベーターでは、これらのバイオリアクターのうち6個~7個しか同時に細胞培養に使用できない。これは、複数の条件の試験、異種間変異の試験、および並行試験を困難にする。
【0005】
上記を考慮すると、当技術分野では、少量の接種量を使用して、オルガノイドの迅速な、効率的な、費用効果の高い生産のためのバイオリアクターが必要とされており、このリアクターは、細胞培養中の勾配形成の改善された最小化、酸素および栄養物の改善された輸送を提供し、その結果、公知の細胞培養システムに比べて細胞およびオルガノイドの生産のより迅速な拡張を行う。それに加えて、当技術分野では、小規模な、費用効果の高い、オルガノイドの生産のための方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、とりわけ、当技術分野における上記の必要性に対処することである。本発明の目的は、とりわけ、付属の請求項において概要が述べられている本発明によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
特に、上記の目的は、目的はとりわけ、第1の態様により、本発明によって、オルガノイドの生産のためのバイオリアクターによって達成され、少なくとも2つのリアクターモジュールは、5mL~45mL、好ましくは10mL~30mL、より好ましくは15mL~25mLの容積を有する培養容器から構成され、バイオリアクターは、前記オルガノイドの培養のための少なくとも2つのリアクターモジュールから構成され、各リアクターモジュールは、
リアクターモジュールへおよびリアクターモジュールからガス交換を継続するための少なくとも1つのガス交換ポータル(gas exchange portal)と、
連続的混合を行うための、リアクターモジュールの内側にある攪拌要素と、
攪拌要素と動作可能に接続するモーターと、
培養容器としてのバイオリアクターを閉じる蓋またはキャップと、
を備え、
バイオリアクターは、リアクターモジュール毎の攪拌要素の速度を制御するために各リアクターモジュールの前記モーターと通信するマイクロコントローラを備える。各リアクターモジュールは、電気エンジンとつながっている攪拌棒と、培養容器としてのバイオリアクターを閉じる蓋またはキャップと、を備える。少なくとも1つのガス交換ポータルは、リアクターモジュール内の細胞培養物の微生物感染を防止するためのフィルター(たとえば0.22μmのフィルター)を備え得る。
【0008】
本発明のバイオリアクターは、最適なオルガノイド生産のために、モジュールの各々において回転を継続的に行う。リアクターモジュールは、培地、培養用の細胞/オルガノイド、および攪拌要素を保持する容器である。各リアクターモジュールは、攪拌要素と、スピニングバイオリアクターのマイクロコントローラによって制御されるモーターと、を備えているので、リアクターモジュール毎に、回転または混合の速度が調整され得る。培地とバイオマスは常に移動し、細胞培養ではガス交換がなされる。スピニングバイオリアクターのリアクターモジュールの各々は、異なる培地を備え、異なる試験条件下、すなわちオルガノイドまたは細胞を培養する単一の実験もしくは生産サイクル内で運転され得る。これは、複数の条件を試験すること、および異種間変異を試験することを可能にする。オルガノイドに適合させたサイズを考慮すると、異なる条件を並行して試験する方が安価であり容易である。したがって、本発明のスピニングバイオリアクターは、細胞の最後に影響を及ぼす物理化学的因子(酸素、pHなど)、培地条件、最適回転速度など、より大きなサイズのバイオリアクターに対するプロトコルを最適化するためのモデルまたは試験バイオリアクターとして使用され得る。栄養物濃度、pH、溶存ガス(O2、CO2)などの、バイオリアクターのリアクターモジュール内の条件は、オルガノイドの増殖および機能性に影響を及ぼす。リアクターモジュールの各々内の攪拌機によって実行される回転または混合は、酸素および栄養物へのすべてのオルガノイドの均一な曝露を円滑にする、リアクター内の循環流をもたらす。ガスは、リアクターモジュールの各々におけるガス交換ポータルを介して受動的に交換される。
【0009】
さらに、本発明のバイオリアクターは、オルガノイドの拡張および分化に適合されている。このバイオリアクターは、5mLの比較的少ない開始容積(たとえば1×104個~1×107個の細胞を含む)を必要とする。これは、結局、少なくとも30mLの開始容積を必要とするスピナーフラスコと比較して培地および細胞接種量を少なくとも80%削減することになり、したがって、より少ない細胞およびより多くの条件を必要とする実験に対してオルガノイドの拡張および分化を容易にする。大容量のバイオリアクターと比較して、プロトコルを最適化するのは安価であり、サイズが小さいので、1つのインキュベーターで複数の条件(約64個のバイオリアクター)を実施することが可能である。さらに、このシステムは、マイクロ制御されており、非常に人間工学的なものとなっている。このサイズの小さい、モジュール式スピニングバイオリアクターは複数のリアクターモジュールからなり、オルガノイドを培養するコストを大幅に削減する。
【0010】
スピニングバイオリアクターは、大量の細胞を迅速に生産することに関して有望である。バイオリアクターは、勾配形成(たとえば、pH、栄養物、代謝物、溶存酸素)の最小化、酸素および栄養物の輸送の増大、細胞沈殿の防止を含む、したがって静置培養システムの本質的な制限を克服するいくつかの利点を提供する。一例として、出願人は、出願人のグループにおいて、市販のスピナーフラスコでヒト肝臓オルガノイドを大量生産するためのプロトコルを確立した。スピナーフラスコでは、オルガノイドは急速に増殖し、静置培養(SC)での6倍の拡張と比較して、2週間後には平均40倍の細胞拡張に達した。本発明のバイオリアクターは、ヒトオルガノイドの迅速な生産に対して効率的である。結果は、スピニングバイオリアクターは上皮表現型を損なうことなく2週間以内に肝臓オルガノイドの30倍~42倍の拡張を達成することができることを示している。一方、静置培養では同じ条件下で10倍~13倍の拡張のみが観察された。さらに、スピニングバイオリアクターでの急速拡張後、オルガノイドは、機能的な肝細胞様細胞に分化され得、分化の効率は静置培養条件よりも高い。
【0011】
好ましい一実施形態によれば、本発明は、バイオリアクターが、少なくとも2つのリアクターモジュールを保持するように配置構成された1つまたは複数のホルダーからなるバイオリアクターに関する。ホルダーは、好ましくは、複数のリアクターモジュールを保持するように配置構成され、より多くのモジュールを追加することによって拡張され得る。複数のリアクターモジュールを保持するためのホルダーを使用することによって、オルガノイド細胞培養物は、ホルダー内に並べて、またはクラスター状に置かれたときに、より容易に視覚的に観察され得る。
【0012】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、バイオリアクターに関するものであり、少なくとも2つのリアクターモジュールは、少なくとも4個のリアクターモジュール、好ましくは少なくとも6個のリアクターモジュール、より好ましくは少なくとも8個のリアクターモジュール、さらに好ましくは少なくとも24個のリアクターモジュール、最も好ましくは少なくとも64個のリアクターモジュールである。
【0013】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、バイオリアクターに関するものであり、攪拌要素は、リアクターモジュールの培養容器の全長の少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%に対応する長さを有する攪拌棒である、攪拌棒は、培養容器の底に接触するべきではない。攪拌要素は、リアクターモジュールの各々の中のモーターに動作可能に接続され、各反応モジュールの攪拌の速度を調節する。攪拌機は、リアクターモジュールの培養容器の全長よりも小さい全長を有し、それによって攪拌要素が培養容器の底に触れないことを確実にする。これは、培地全体が攪拌されるが、攪拌棒がリアクターモジュールの培養容器の底に触れた場合に起こるであろう「細胞の破砕」が起こらないことを確実にする。本発明のバイオリアクターは、バイオリアクターの内側の回転、運動、または攪拌を誘発するためにバイオリアクター内に磁気プレートを必要とせず、設計を単純化し、このバイオリアクターは市販のバイオリアクターに比べて安価になる。
【0014】
さらに別の好ましい実施形態によれば、本発明は、バイオリアクターに関するものであり、攪拌要素は、攪拌要素の長さに沿って複数のフィンまたはフィン構造を備え、攪拌要素の長さに沿って、前記フィンまたはフィン構造が、5mm~30mm、好ましくは8mm~20mm、より好ましくは10mm~15mm、最も好ましくは5mm~15mmのスペースによって分離されている。攪拌要素は、1つまたは複数のフィン(またはウィング)またはフィン構造を備え、リアクターモジュールの内側に流れおよび揚力を発生させ、組織培養物が常に懸濁状態にあるようにする。フィンは、攪拌要素の長さに沿ったフィン構造にも関するものとしてよく、たとえば、1つのフィン構造は、プロペラのような1つのフィン構造を形成する3個~4個のフィンからなる。本実施形態における攪拌要素は、その長さに沿って複数のフィン構造(プロペラのような構造を形成する)を備える。以前のバイオリアクターでは、ときには、バイオリアクター内で細胞の「凝固」が観察されたが、これはオルガノイドの拡張を妨げる。これは、攪拌棒の設計が最適でないことに起因する。出願人は、したがって、本発明のスピニングバイオリアクターにおけるオルガノイドの拡張および分化を最適化するように攪拌棒のレイアウトを設計した。実験は、すべてのウィングが互いに融合され、ウィングの間のスペースで凝固が起こらないような設計が、オルガノイド培養物中で良好な結果をもたらすことを示している。攪拌要素が、攪拌要素の長さに沿って、各ウィングの間の小さな(少なくとも5mm~15mmの)スペースによって区切られた棒の長さに沿った複数のウィングまたはフィン構造(櫛形設計のような)を備える、別の実施形態は、リアクターモジュールの内側で移動するための改善されたスペースを有するオルガノイド培養物のための改善された、より最適な環境を提供し、また凝固の減少ももたらした。攪拌要素の長さに沿ってフィンを分離するスペースは、培養物中のオルガノイドの細胞および構造の破壊を防ぐために5mm未満であるべきである。これらの結果は、攪拌要素の長さに沿って互いから5mmの距離のところにある複数のウィングを有する設計は、結果として、最も均質な懸濁液を形成し、また最良のオルガノイド拡張をもたらすことを示している。
【0015】
好ましい一実施形態によれば、本発明は、バイオリアクターに関するものであり、複数のフィンは、攪拌要素の長さに沿って少なくとも3個のフィンまたはフィン構造、好ましくは少なくとも5個のフィンまたはフィン構造、より好ましくは少なくとも7個のフィンまたはフィン構造である。フィンは、攪拌要素の長さに沿ったフィン構造にも関するものとしてよく、たとえば、1つのフィン構造は、プロペラのような1つのフィン構造を形成する3個~4個のフィンからなる。
【0016】
さらに別の好ましい実施形態によれば、本発明は、バイオリアクターに関するものであり、少なくとも2つのリアクターモジュールは、温度、ガス、およびpHセンサーからなる群から選択される1つまたは複数のセンサーからさらに構成される。モジュールは、pH、温度、およびガスセンサーをさらに備え、リアクターモジュール毎の細胞培養のための情報を提供し、最適条件を調節する。
【0017】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、バイオリアクターに関するものであり、スピニングバイオリアクターは、制御パネル、LCDディスプレイ、および電源からなる群から選択される1つまたは複数をさらに備える。
【0018】
本発明は、第2の態様によれば、上で示されているバイオリアクターを使用する細胞培養のための方法に関し、細胞培養は、5mL~45mL、好ましくは10mL~30mL、より好ましくは15mL~25mLの細胞培養量で行われる。本発明の方法は、小規模なコスト効果の高いオルガノイドの生産方法を提供する。バイオリアクターは、肝臓、腸、腎臓、膵臓、肺、脳、脾臓、および心臓オルガノイドなどの臓器および組織由来の様々なオルガノイド、好ましくはヒトオルガノイド、より好ましくは肝臓オルガノイドに対して応用され得る。また、バイオリアクターは、免疫細胞、MSC、EB、抗体、iPSC、ESC、およびスフェロイドまたは細胞凝集塊などの、攪拌懸濁液下で培養され得、迅速に生産される必要のある、従来の細胞培養にも使用され得る。
【0019】
本発明は、さらなる態様によれば、オルガノイドの拡張および/または分化のための方法に関し、この方法は、
a)本発明によるバイオリアクターを提供するステップと、
b)2つ以上のリアクターモジュールでオルガノイドを生産するための培地および細胞を供給するステップと、
c)細胞をオルガノイド培養に適した培養条件下で培養し、2つ以上のリアクターモジュールのモーターを作動させ、リアクターモジュール1つあたりの回転速度を40rpm~120rpmの間に設定することによって、細胞培養物を混合するステップと、
d)1つまたは複数のリアクターモジュールからオルガノイドを回収するステップと、
を含む。
【0020】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、オルガノイドの拡張および/または分化のための方法に関し、オルガノイド培養用の細胞の培養は、5mL~45mL、好ましくは10mL~30mL、より好ましくは15mL~25mLの細胞培養量で行われる。好ましくは、オルガノイド培養のための細胞の培養は、本発明のバイオリアクターを使用して小規模な費用効果の高い、オルガノイドの生産を行うために小さな総細胞培養量で行われる。
【0021】
さらに別の好ましい実施形態によれば、本発明は、オルガノイドの拡張および/または分化のための方法に関し、細胞培養開始時のステップbにおける培地および細胞は、5mL~15mL、好ましくは6mL~12mL、より好ましくは7mL~9mLの細胞培養量を有する。リアクターおよび攪拌機の設計に起因して、小さな開始容積のみが、本発明の方法によりオルガノイドを成功裏に拡張し分化させるために必要である。
【0022】
好ましい一実施形態によれば、本発明は、オルガノイドの拡張および/または分化のための方法に関し、オルガノイド培養のために細胞を培養することは、少なくとも10日間、好ましくは少なくとも14日間行われ、少なくとも20倍、より好ましくは少なくとも25倍、最も好ましくは少なくとも30倍の平均細胞拡張をもたらす。本発明のバイオリアクターを使用する、本発明の方法は、ヒトオルガノイドの迅速な生産のために効率的である。結果は、本発明のバイオリアクターは上皮表現型を損なうことなく2週間以内に肝臓オルガノイドの30倍~42倍の拡張を達成することができることを示している。一方、静置培養では同じ条件下で10倍~13倍の拡張のみが観察された。さらに、結果は、このバイオリアクターでの急速拡張後、オルガノイドは、機能的な肝細胞様細胞に分化され得、分化の効率は静置培養条件よりも高いことを示している。
【0023】
好ましい一実施形態によれば、本発明は、オルガノイドの拡張および/または分化のための方法に関し、2つ以上のリアクターモジュールにおける回転速度は、40rpm~120rpm、好ましくは50rpm~80rpm、より好ましくは55rpm~70rpm、最も好ましくは60rpm~65rpmである。結果は、本発明のバイオリアクターを使用するオルガノイド生産における細胞数の最も高い倍率変化は、ヒト肝臓オルガノイドの場合にRP60で起こることを示しており、これはバイオリアクター内での肝臓オルガノイド拡張に対して最適な回転数であることを示していた。異なる組織からのオルガノイドは、異なる回転速度最適値を有するが、一般に、本発明のバイオリアクターを使用した場合には40rpm~120rpmの間にある。
【0024】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、オルガノイドの拡張および/または分化のための方法に関し、回転速度は、2つ以上のリアクターモジュール間で異なる。バイオリアクターは、いくつかのリアクターモジュールから構成されるので、これらのモジュールは、各々、攪拌速度などの異なる細胞培養条件の下で運転され得る。
【0025】
さらに別の好ましい実施形態によれば、本発明は、オルガノイドの拡張および分化のための方法に関し、オルガノイドは、肝臓、腸、腎臓、膵臓、肺、脳、脾臓、および心臓オルガノイドからなる群から選択される1つまたは複数であり、好ましくは肝臓オルガノイドである。
【0026】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、オルガノイドの拡張および/または分化のための方法に関し、オルガノイドは、肝臓オルガノイドであり、回転速度は、約50rpm~80rpm、好ましくは約55rpm~65rpm、より好ましくは約60rpmである。実験は、肝臓オルガノイド拡張は60rpmで最も大きかったことを示している。
【0027】
さらに別の好ましい実施形態によれば、本発明は、オルガノイドの拡張のための方法に関し、オルガノイドは、腸オルガノイドであり、回転速度は、約80rpm~120rpm、好ましくは約95rpm~105rpm、より好ましくは約100rpmである。腸オルガノイドについては、拡張率は、100rpmで最も高く、2週間以内に、100rpmで培養された腸オルガノイドは、静置培養(SC)における約40倍の拡張と比較して、140倍の拡張を達成した。これらの結果から、本発明のバイオリアクターにおける腸オルガノイド拡張に最適な速度は約100rpmであることが確認される。
【0028】
本発明は、以下の実施例および図でさらに詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明によるオルガノイド生産のためのリアクターモジュール(1)の概略を示す図であって、リアクターモジュールは、電気エンジン(3)とつながっている攪拌要素(2)と、培養容器としてのリアクターモジュールを閉じる蓋またはキャップ(4)と、を備え、リアクターモジュール(1)は、リアクターモジュール(1)へおよびリアクターモジュール(1)からガス交換を継続するためのポータル(5)をさらに備え、リアクターモジュールは、培地、細胞/有機体培養物を保持し、攪拌要素(2)を保持するために、培養容器(6)として標準的な50mLコニカルチューブから構成され得、攪拌要素(2)、たとえば攪拌棒は、ステンレス鋼から作ることができ、異なる回転速度で動作するように個別バイオリアクターに電力を供給することができる、マイクロコントローラ、たとえばオープンソース電子プロトタイピングプラットフォーム(Arduino)と組み合わせた高トルク低速電気エンジンによって動力を供給され、攪拌要素(2)は、リアクターモジュールの培養容器(6)の底に接触せず、攪拌機は、培養容器(6)の全長よりも小さい全長を有し、それによって攪拌要素はリアクターモジュールの培養容器の底に触れないことを確実にし、これは、すべての培地が攪拌されるが、細胞が「破砕」されないことを確実にし、攪拌要素(2)は、1つまたは複数のフィン(8)(またはウィング)を備え、フィンはリアクターモジュールの内側に流れおよび揚力を発生させ、組織培養物が常に懸濁状態にあるようにし、攪拌要素(2)は、リアクターモジュール(1)の各々の中のモーター(3)に動作可能に接続され、各反応モジュール内の攪拌の速度を調節する、図である。
【
図2】本発明のこの実施形態において最大4つのリアクターモジュール(1)に適合するホルダー(7)を示す図であって、これらリアクターモジュールはすべて別個のバイオリアクターとして機能するものとしてよく、小規模であり、複数のホルダーを使用するモジュール式構造物であることに起因して、たとえば、単一のインキュベーターで少なくとも64個のリアクターモジュール(ホルダー16個を4つ)を運転できるバイオリアクターが提供され得る、図である。
【
図3】フィン(8)の数およびサイズに関して攪拌要素(2)上の複数のバリエーション(R1~R4、それぞれ
図3A~
図3D)を示す図であって、攪拌要素(2)は、1つまたは複数のフィン(8)またはフィン構造(またはウィング)を備え、フィンまたはフィン構造はリアクターモジュールの内側に流れおよび揚力を発生させ、組織培養物が常に懸濁状態にあるようにし、バイオリアクター内でのオルガノイドの培養の問題は、オルガノイドの拡張を妨げる細胞の凝固であり、したがって、本発明のスピニングバイオリアクターにおけるオルガノイドの拡張および分化を最適化するように攪拌棒のレイアウト(2)を設計したが、これは
図3A~
図3Dに示されており、実験は、すべてのウィングが互いに融合され1つのフィン構造(
図3B)を形成し、ウィングの間のスペースで凝固が生じ得ないようなR2設計が、オルガノイド培養物中で良好な結果をもたらすことを示しており、攪拌要素が攪拌要素の長さ方向に沿って、各ウィングまたはフィン構造の間の小さな(少なくとも5mm~15mm)スペースで分離された棒の長さに沿った複数のフィンまたはフィン構造(各フィン構造が攪拌要素の長さ方向に沿って一種のプロペラを形成する櫛形設計のような)を備える他の実施形態(R1およびR4、それぞれ
図3Aおよび
図3D)は、オルガノイド培養物に対してなおいっそう改善された、より最適な環境を提供しており、R4攪拌機は、最も改善された結果をもたらし、リアクター容器の内側で細胞が移動するための改善されたスペースを有し、また凝固が減少した、ことを示す図である。
【
図4A】本発明のバイオリアクターと静置培養(SC)におけるオルガノイド拡張の比較を示し、さらに、異なる攪拌要素R1~R4が本発明のバイオリアクターで試験された、図であって、SCおよび異なる攪拌棒(R1、R2、R3、R4)を用いた本発明のバイオリアクターにおいて拡張されたオルガノイドの形態学的軌跡を示し、明視野顕微鏡写真は、単一細胞播種後の4つの異なる時点(D=日、D4、D7、D10、D14)で撮影されており、管状構造(D10とD14の右側)はD10で観察されており、スケールバー=1,000μmであり、R4は2週間後に最適なオルガノイド拡張をもたらした、ことを示す図である。
【
図4B】本発明のバイオリアクターと静置培養(SC)におけるオルガノイド拡張の比較を示し、さらに、異なる攪拌要素R1~R4は本発明のバイオリアクターで試験された、図であって、静置培養(SC)に関する本発明のバイオリアクター内の細胞増殖の倍率変化を示す図である。
【
図5A】本発明のバイオリアクターにおけるヒト肝臓オルガノイドの拡張および特徴付けを示す図であって、展開培地(EM)内でSC(静置培養)およびRP(本発明のバイオリアクター)において拡張されたオルガノイドの形態を示し、写真は単一細胞播種後2日目、7日目、および14日目に撮影された、図である。
【
図5B】本発明のバイオリアクターにおけるヒト肝臓オルガノイドの拡張および特性を示す図であって、細胞増殖の成長曲線を示し、静置培養および本発明のバイオリアクター内で拡張されたオルガノイドの比較が、0日目(D0)に関する倍率変化で示され、数は異なるオルガノイド供与体を表す、図である。
【
図5C】本発明のバイオリアクターにおけるヒト肝臓オルガノイドの拡張および特性を示す図であって、定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)で特徴付けられたmRNA発現を示す図である。
【
図5D】本発明のバイオリアクターにおけるヒト肝臓オルガノイドの拡張および特性を示す図であって、免疫蛍光(IF)染色によって検出された上皮および増殖マーカー、ECAD、Ki67、DAPI、K19およびPCNAを示す図である。
【
図6A】本発明のバイオリアクターにおいて分化されたヒト肝臓オルガノイドの特徴付けを示す図であって、静的制御(SC)およびバイオリアクター(RP)において分化されたオルガノイドの形態を示し、明視野(BF)写真は分化から8日後に撮影された、図である。
【
図6B】本発明のバイオリアクターにおいて分化されたヒト肝臓オルガノイドの特徴付けを示す図であって、qRT-PCRで特徴付けられたmRNA発現を示す図である。
【
図6C】本発明のバイオリアクターにおいて分化されたヒト肝臓オルガノイドの特徴付けを示す図であって、IF染色によって検出された上皮性、増殖性、および機能性肝細胞マーカーを示す図である。
【
図6D】本発明のバイオリアクターにおいて分化されたヒト肝臓オルガノイドの特徴付けを示す図であって、ローダミン123(Rh123)輸送アッセイの結果を示す図である。
【
図7A】本発明のバイオリアクターにおけるヒト肝臓オルガノイド拡張に対する最適な回転速度を示す図であって、40rpm、60rpm、80rpm、100rpmの4つの回転速度で静置培養および本発明のバイオリアクターで拡張されたオルガノイドの形態を示し、明視野(BF)写真は播種後9日目と14日目に撮影された、図である。
【
図7B】本発明のバイオリアクターにおけるヒト肝臓オルガノイド拡張に対する最適な回転速度を示す図であって、細胞増殖の成長曲線を示し、異なる速度で静置培養およびバイオリアクター内で拡張されたオルガノイドの比較が、0日目(D0)に関する倍率変化で示されている、図である。
【
図8A】本発明のバイオリアクターにおけるヒト腸オルガノイド拡張に対する最適な回転速度を示す図であって、40rpm、60rpm、80rpm、100rpmの4つの回転速度で静置培養および本発明のバイオリアクターで拡張されたオルガノイドの形態を示し、明視野(BF)写真は播種後4日目、7日目、11日目、および14日目に撮影された、図である。
【
図8B】本発明のバイオリアクターにおけるヒト腸オルガノイド拡張に対する最適な回転速度示す図であって、細胞増殖曲線を示し、異なる速度で静置培養およびバイオリアクター内で拡張されたオルガノイドの比較が、0日目(D0)に関する倍率変化で示されている、図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(実施例)
(実施例1)
スピニングバイオリアクター内でのヒト肝臓オルガノイドの迅速な生産および拡張
本発明のバイオリアクター(RP)内でのオルガノイドの拡張を静置培養(SC)と比較するために、出願人は、ヒト肝臓オルガノイド由来の単一細胞をSCおよびRPの両方に播種し、オルガノイド拡張培地(EM)で2週間培養した。バイオリアクターは、10%v/vのMatrigel(商標)を含む5mLのEM培地に50万個の細胞を接種された。単細胞播種に起因して、10mMのY-27632(Rhoキナーゼ阻害剤)が、培養の最初の週に培地に添加された。回転速度は、80rpmに設定された。すべての培養物は、37℃で、95%の空気および5%のCO2の加湿雰囲気中に保たれた。
【0031】
2-3日毎に新しい培地がバイオリアクターに添加された。EMは、1%(v/v)のペニシリン-ストレプトマイシン(アイルランド、ダブリン所在、Gibco)、1%(v/v)のGlutaMax(Gibco)、10mMのHEPES(Gibco)、ビタミンAを含まない2%(v/v)のB27サプリメント(米国カリフォルニア州カールズバッド所在、Invitrogen)、1%(v/v)のN2サプリメント(Invitrogen)、10mMのニコチンアミド(米国ミズーリ州セントルイス所在、Sigma-Aldrich)、1.25mMのN-アセチルシステイン(Sigma-Aldrich)、10%(v/v)のR-spondin-1ならし培地(Rspo1-Fc発現細胞株はCalvin J. Kuoからの譲渡であった)、10μMのフォルスコリン(FSK、Sigma-Aldrich)、5μMのA83-01(トランスフォーミング成長因子b阻害剤、英国ブリストル所在、Tocris Bioscience)、50ng/mLのEGF(米国カリフォルニア州カールズバッド所在、Invitrogen)、25ng/mLのHGF(米国ニュージャージー州ロッキーヒル所在、Peprotech)、0.1μg/mLのFGF10(Peprotech)、および10nMの組み換えヒト(Leu15)-ガストリンI(Sigma-Aldrich)を補ったAdvanced DMEM/F12(アイルランド、ダブリン所在、Gibco)からなるものであった。
【0032】
光学顕微鏡法では、SCとRPの両方で、培養開始の最初の2日以内に単一細胞が成長し、オルガノイドを形成した。14日目に、RPにおけるオルガノイドは、SCにおける約1mmと比較して最大4mmの直径に達した(
図5A)。細胞増殖解析は、8日目および15日目に、RPから細胞懸濁液の少量のアリコートを採取し、オルガノイドをトリプシン処理して単一細胞にし、その後単一細胞を計数することによって行った。出願人の結果は、2週間でRPにおけるオルガノイドがSCにおける約13倍の拡張に比べて平均42倍の拡張を達成していることを示した(
図5B)。
【0033】
SCと比較して、RPにおけるオルガノイドは、幹細胞マーカー(LGR5およびSOX9)の低い発現を示していたが、増殖マーカーKi67の発現レベルは高く、幹細胞表現型は両方の条件で保持されたが、RPでは、幹細胞と増殖性の高い前駆細胞との細胞比率は、前駆細胞表現型に向けてシフトしていることを示している。RPとSCの両方の条件は、機能的肝細胞マーカーであるALBおよびCYP3A4の発現をほとんど示さなかったが(
図5C)、これは、オルガノイドが拡張培地中では未成熟で増殖的な表現型を保持するので、予想された通りであった。
【0034】
免疫蛍光(IF)染色の結果、増殖マーカーKi67およびPCNAの高発現によって示されるように、上皮性(ECAD)および高増殖性表現型が確認された(
図5D)。
【0035】
総合すると、RPバイオリアクターは、生物学的肝臓前駆細胞表現型を損なうことなく肝臓オルガノイドを迅速に拡張するのに適している。
【0036】
さらに、上で説明されているのと似た追加の実験が実行され、様々な攪拌要素が、本発明のバイオリアクターと静置培養(SC)におけるオルガノイド拡張の比較について試験された。4つの異なる攪拌要素R1~R4は、本発明のバイオリアクターにおいて試験され、攪拌棒は、ウィングの設計、ウィングの数、および攪拌要素の各ウィングセクションの間の隙間が異なる(R1~R4攪拌機の間の設計の違いについては
図3を参照)。
図4Aは、SCおよび異なる攪拌棒(R1、R2、R3、R4)を用いた本発明のバイオリアクターにおいて拡張されたオルガノイドの形態学的軌跡を示している。明視野顕微鏡写真は、単一細胞播種後の4つの異なる時点(D=日、D4、D7、D10、D14)で撮影された。0日目~8日目までは、本発明のバイオリアクターで使用されたR1とR4の設計の間に大きな違いは観察されなかった。しかしながら、9日目以降、R4設計を使用する拡張は、他の設計と比較して有意な改善を示した。管状構造(
図4AのD10とD14における右の写真)はD10以降で観察された。予想通り、SCでは、管状形成も有意なオルガノイド拡張も観察されなかった。本発明のバイオリアクターと組み合わせたR4設計は、2週間後に最適なオルガノイド拡張をもたらした。
図4Bは、静置培養(SC)に関する本発明のバイオリアクター内の細胞増殖の倍率変化を示している。
【0037】
(実施例2)
バイオリアクター内でのヒト肝臓オルガノイドの分化
オルガノイド拡張に加えて、肝細胞様細胞(HLC)への幹細胞オルガノイドの機能分化も試験した。肝分化を誘導するため、肝臓オルガノイドは、25ng/mLのBMP-7(米国ニュージャージー州ロッキーヒル所在、Peprotech)をEMに添加して2日間プライミングされ、その後、培地は分化培地(DM)に交換された。DMは、1%(v/v)のペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)、1%(v/v)のGlutaMax(Gibco)、10mMのHEPES(Gibco)、1.25mMのN-アセチルシステイン(米国ミズーリ州セントルイス所在、Sigma-Aldrich)、ビタミンAを含まない2%(v/v)のB27サプリメント(米国カリフォルニア州カールズバッド所在、Invitrogen)、1%(v/v)のN2サプリメント(Invitrogen)、50ng/mLのEGF(Invitrogen)、10nMの組み換えヒト(Leu15)-ガストリンI(Sigma-Aldrich)、25ng/mLのHGF(米国ニュージャージー州ロッキーヒル所在、Peprotech)、100ng/mLのFGF19(Peprotech)、500nMのA83-01(英国ブリストル所在、Tocris Bioscience)、10uMのDAPT(ドイツ、ミュンヘン所在、Selleckchem)、25ng/mLのBMP-7(Peprotech)、30μMのデキサメタゾン(Sigma-Aldrich)を補ったAdvanced DMEM/F12(アイルランド、ダブリン所在、Gibco)からなるものであった。分化培地は2日~3日毎に交換された。分化培地(DM)で8日間培養した後、オルガノイドは、SCおよびRPの両方で厚い折りたたまれた形態を有していた(
図6A)。定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)による遺伝子発現解析(mRNA解析)は、分化後、幹細胞マーカーLGR5および増殖マーカーKi67は発現量が低下し、肝細胞マーカーALBとCYP3A4は発現量が上昇した(
図6B)。管マーカーであるK19とSOX9は維持された。遺伝子(mRNA)発現の結果は、IF染色によって検証され、特に肝細胞特異的タンパク質ALBは、分化したオルガノイドにおいて検出された(
図6C)。
【0038】
さらに、生成されたHLCが機能的であることを確認するために、ローダミン-123輸送アッセイが実施された。ローダミン-123は、多剤耐性遺伝子1(MDR1)によって肝細胞から活発に分泌され得る蛍光化合物である。出願人は、SCおよびRPの両方に対するオルガノイドの内腔の内側の蛍光蓄積を観察した(
図6D)。対照的に、オルガノイドが競合的MDR1阻害剤ベラパミルで前処理されていたときに、ローダミン-123は、細胞の細胞質内に保持され、それによりローダミン-123のMDR1特異的輸送を確認した(
図6D)。
【0039】
要約すると、バイオリアクター内でオルガノイドを最初に迅速に拡張した後、これらは機能的HLCに成功裏に分化させることができた。
【0040】
(実施例3)
バイオリアクター内でのヒト肝臓オルガノイドに対する回転速度の最適化
すべての初期バイオリアクター実験は、80rpmの回転速度で実行されていた。その後の実験でも、出願人は、バイオリアクター(RP)の最適な回転速度を検証し続けた。最初の実験では、1人のドナーの肝臓オルガノイドを用いて、40rpm(RP40)、60rpm(RP60)、80rpm(RP80)、および100rpm(RP100)の4つの回転速度が試験された。
【0041】
播種後9日目および14日目に、それぞれ、代表的な写真が撮影され、細胞数が計数された。明視野写真は、RP60およびRP80が、9日目にはSCと比べて同等か、またはそれ以上であることを示していた。14日目には、RP60は、他のすべての条件と比較して最も良好な拡張を示した(
図7A)。興味深いことに、RP条件下では、いくつかのオルガノイドが管状構造として伸長しているように見え、これはRP条件がより優れた分化および組織形成に有望である可能性が示している。拡張は、細胞計数で確認され、細胞数の倍率変化は、形態と一致しており、RP60で最も高い倍率変化を示した(
図7B)。
【0042】
(実施例4)
バイオリアクター内でのヒト腸オルガノイドに対する回転速度の最適化
さらなる実験が、バイオリアクター(RP)でのヒト腸オルガノイドの拡張に最適な回転速度を決定するため実行された。1人のドナーの腸オルガノイドを用いて、40rpm(RP40)、60rpm(RP60)、80rpm(RP80)、および100rpm(RP100)の4つの回転速度が試験された。異なる速度のバイオリアクター(RP)内でのオルガノイドの拡張を静置培養(SC)と比較するために、ヒト腸オルガノイド由来の単一細胞がSCおよびRPの両方において播種され、ヒト小腸オルガノイド拡張培地で2週間培養された。
【0043】
播種後4日目、7日目、11日目、および14日目に、それぞれ、代表的な写真が撮影され、細胞数が計数された。光学顕微鏡法では、すべての回転速度において、SCとRPの両方で、培養開始の最初の7日以内に単一細胞が成長し、オルガノイドを形成した。しかしながら、14日目に、RP内のオルガノイドは、SCに比べてより大きな直径に達し(
図8A)、最も多くの最も大きなオルガノイドがRP100に現れていた。さらに、RP中のオルガノイドは、SCと比較してわずかに異なる形態を有し、すべての速度でより不規則な形状を伴い、RP条件が、より良好な分化および組織形成に対して有望であり得ること示している。拡張は、細胞計数で確認され、細胞数の倍率変化は、形態と一致しており、RP100で最も高い倍率変化を示した(
図8B)。2週間以内に、RP100内のオルガノイドは、SCにおける約40倍の拡張に比べて140倍の拡張を達成した。これらの結果から、バイオリアクターにおける腸オルガノイド拡張に最適な速度は100rpmであることが確認される。
【符号の説明】
【0044】
1 リアクターモジュール
2 攪拌要素
3 電気エンジン
4 蓋またはキャップ
5 ポータル
6 培養容器
7 ホルダー
8 フィン
【国際調査報告】