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特表2024-530785α-ケトグルタル酸(α-KG)および5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール(5-HMF)を含む、ヘモグロビン介在酸素供給を改善するための組成物
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  • 特表-α-ケトグルタル酸(α-KG)および5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール(5-HMF)を含む、ヘモグロビン介在酸素供給を改善するための組成物 図1A
  • 特表-α-ケトグルタル酸(α-KG)および5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール(5-HMF)を含む、ヘモグロビン介在酸素供給を改善するための組成物 図1B
  • 特表-α-ケトグルタル酸(α-KG)および5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール(5-HMF)を含む、ヘモグロビン介在酸素供給を改善するための組成物 図2A
  • 特表-α-ケトグルタル酸(α-KG)および5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール(5-HMF)を含む、ヘモグロビン介在酸素供給を改善するための組成物 図2B
  • 特表-α-ケトグルタル酸(α-KG)および5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール(5-HMF)を含む、ヘモグロビン介在酸素供給を改善するための組成物 図2C
  • 特表-α-ケトグルタル酸(α-KG)および5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール(5-HMF)を含む、ヘモグロビン介在酸素供給を改善するための組成物 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-23
(54)【発明の名称】α-ケトグルタル酸(α-KG)および5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール(5-HMF)を含む、ヘモグロビン介在酸素供給を改善するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/19 20060101AFI20240816BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240816BHJP
   A61K 31/341 20060101ALI20240816BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240816BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240816BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240816BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
A61K31/19
A23L33/10
A61K31/341
A61P9/00
A61P9/10
A61P11/00
A61P7/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513979
(86)(22)【出願日】2022-08-30
(85)【翻訳文提出日】2024-04-23
(86)【国際出願番号】 EP2022074104
(87)【国際公開番号】W WO2023031212
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】21193855.0
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524076626
【氏名又は名称】シーワイエル・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】CYL GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100221534
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 志穂
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンターシュタイガー,ラインホルト
(72)【発明者】
【氏名】ビュヒャール-ハラー,クリスティアン
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018MD08
4B018MD09
4B018ME14
4B018MF02
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA03
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZA51
4C086ZA59
4C086ZA94
4C086ZC54
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA02
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA13
4C206MA72
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA36
4C206ZA51
4C206ZA59
4C206ZA94
4C206ZC54
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、α-ケトグルタル酸(α-KG)および5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール(5-HFM)を含む、ヘモグロビン介在酸素供給の増加から利益を受ける疾患または状態の処置および/または予防における使用のための医薬組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘモグロビン介在酸素送達の増強から利益を受ける疾患または状態の処置および/または予防における使用のための、α-ケトグルタル酸(α-KG)および5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール(5-HMF)を含む医薬組成物。
【請求項2】
ヘモグロビン介在酸素供給の増強のための栄養補助食品としてのα-KGおよび5-HMFを含む組成物の使用。
【請求項3】
α-KGと5-HMFが、1:1~100:1、好ましくは2:1~50:1の質量比で組成物中に存在する、請求項1または2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
組成物が、5~500mg/kg体重のα-KGおよび5~160mg/kg体重の5-HMFの用量で投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
組成物が、
(a)毎日、単回用量としてまたは2回以上の等しいもしくは異なる用量に分けて;および/または
(b)少なくとも連続5日間;および/または
(c)虚血および/または低酸素状態への曝露の12時間以内前に
投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
疾患または状態が、
(a)下記:
(i)肺における酸素取り込み障害;
(ii)空気血液関門を通過する酸素拡散障害;
(iii)ヘモグロビンの酸素負荷障害;
(iv)ヘモグロビンの酸素運搬能力低下;
(v)血流制限による酸素輸送障害;
(vi)微小血管の酸素飽和度障害;および/または
(vii)酸素供給不足
を特徴とする状態;
(b)低酸素血症または無酸素血症;
(c)低酸素症または無酸素;
(d)好ましくは消化管虚血、心臓虚血、脳虚血、腎虚血、肢虚血、神経虚血、低酸素虚血性脳損傷(低酸素虚血性脳症)および虚血性神経障害より選択される、虚血;
(e)好ましくは炎症性呼吸器疾患、真菌、ウイルスまたは細菌感染に関連する呼吸器疾患、自己免疫性介在性呼吸器疾患、特発性呼吸器疾患、過増殖性呼吸器疾患、癌、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支炎、気腫、肺浮腫、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、気管支肺異形成(BPD)、肺線維症、無気肺、結核、肺炎、肺臓炎、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、咽頭炎、粘膜炎、口内炎、気管支拡張症、ループス肺炎、嚢胞性線維症および呼吸不全より選択される、呼吸器疾患;
(f)好ましくは急性高山病(AMS)、高地脳浮腫(HACE)、高地肺浮腫(HAPE)、ダ・コスタ症候群および慢性高山病(CMS)より選択される、高山病;
(g)好ましくはCOVID遷延症状および/またはCOVID罹患後症候群より選択される、COVIDおよび/またはその1つ以上の遅発性/罹患後合併症;および/または
(h)慢性疲労症候群(CFS)
より選択される、請求項1および3~5のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
低酸素血症が、
(a)換気と灌流の不一致;
(b)酸素拡散障害;
(c)肺胞低換気;
(d)右左シャント;および/または
(e)拡散灌流障害
によって引き起こされる、請求項6に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
虚血が、心停止、ショック、頸動脈閉塞、低血圧、アテローム性動脈硬化、呼吸停止、胸郭出口症候群、低血糖、頻脈、放射線療法、化学療法、敗血症性ショック、心不全、上腸間膜動脈症候群、鎌状赤血球症、サラセミア、誘発性重力加速度、極度の寒さ、グルタミン酸受容体の刺激増加、動静脈奇形、末梢動脈閉塞疾患、組織または臓器に供給する血管の圧迫または破裂、貧血および/または意識喪失によって引き起こされる、請求項6または7に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
呼吸器疾患が、ウイルス感染によって引き起こされる肺での酸素取り込みの低下を特徴とし、ウイルス感染の原因となるウイルスが、好ましくはコロナウイルス、好ましくは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)、またはその変異体である、請求項6~8のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
請求項1または2に記載の組成物と、血液試料を混合することを含む、血液のヘモグロビン介在酸素送達能力を増強するためのインビトロ方法。
【請求項11】
臓器または組織に対する低酸素誘発性損傷を軽減または予防するためのインビトロ方法であって、該方法が、
(a)単離した臓器または組織をインビトロで保存溶液と接触させる工程であって、該保存溶液が請求項1または2に記載の組成物を含む工程;および
(b)臓器または組織をさらに使用するまで、臓器または組織をインビトロで保存溶液と接触させて維持する工程
を含み、好ましくは
(i)保存溶液との臓器または組織の接触が、保存溶液への臓器または組織の完全な浸漬に相当する;および/または
(ii)保存溶液が、赤血球、好ましくは血漿または全血をさらに含む、
方法。
【請求項12】
α-KGおよび5-HMFが、
(i)血液試料または保存溶液1ml当たり0.07~7mgのα-KGおよび0.07~2.24mgの5-HMF;または
(ii)臓器または組織1g当たり0.005~0.5mgのα-KGおよび0.005~0.160mgの5-HMF
の濃度である、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
臓器または組織へのヘモグロビン介在酸素供給を増強するための、請求項1または2に記載の組成物のインビトロでの使用。
【請求項14】
臓器または組織が、移植片であり;
移植片が、好ましくは
(i)腎臓、肝臓、心臓、膵臓、肺、皮膚、皮下組織、筋肉および/または骨;および/または
(ii)遊皮弁手術、好ましくは遊離した皮膚、皮膚-筋肉および/または皮膚-筋肉-骨の皮弁手術
より選択される、請求項11もしくは12に記載の方法または請求項13に記載の使用。
【請求項15】
α-ケトグルタル酸(α-KG)および5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール(5-HMF)を含み、
(a)ミトコンドリアへのヘモグロビン介在酸素供給を増強する;および/または
(b)ミトコンドリアのエネルギー産生(好ましくは、ミトコンドリアのATP合成)を増強する、
医薬組成物であって、上記(a)および(b)の効果の1つ以上から利益を受ける疾患または状態の処置および/または予防における使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-ケトグルタル酸(α-KG)および5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール(5-HMF)を含む、ヘモグロビン介在酸素送達の増強から利益を受ける疾患または状態の処置および/または予防のための医薬組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0002】
この記載は、特許出願、特許、および様々な製造業者からの使用説明書を含む複数の文書を引用する。これらの各文書の開示内容は、本発明の特許性に関連するものではないと考えるが、本出願の開示内容に組み込まれる。特に、これらの文書で参照されるすべての文書もまた、これらの文書の各々が参照により本出願の開示内容に具体的に組み込まれたのと同じ程度まで、本出願の開示内容に含まれる。
【0003】
赤血球は、肺で吸入された重要な酸素を血管を通って体の臓器および組織に輸送することを主な役割とする血液細胞である。赤血球は、それに含まれる赤血色素であるヘモグロビン(Hb)によってその役割を果たす。
【0004】
ヘモグロビンは、アロステリック機構を介して4つの酸素分子に可逆的に結合できる四量体タンパク質である。血液中では、ヘモグロビンは2つのアロステリック構造状態の間でバランスをとって存在する。「T」状態(緊張)では、ヘモグロビンは脱酸素化されている。「R」状態(弛緩)では、ヘモグロビンは酸素化されている。
【0005】
酸素解離曲線(ODC、または「オキシヘモグロビン解離曲線」)は、ヘモグロビン(Hb)の酸素結合曲線とも呼ばれ、Hbの酸素分圧(PO2)と酸素飽和度(SO)の関係をグラフで表したものであり、SO2は、総ヘモグロビン中の酸素飽和Hb(オキシヘモグロビン)の割合に相当する。ODCの典型的なシグモイド曲線の形状は、4つの酸素分子の四量体ヘモグロビン分子への可逆的結合の協同性を反映している。これは、1つの酸素分子の結合がHbの協調的な構造変化を誘発し、いわゆる「緊張状態」から「弛緩状態」に変化させ、ヘモグロビン分子がさらに酸素と結合しやすくなることを意味する。ODCは、ヘモグロビンの特定の酸素飽和度を各酸素分圧(PO2)に割り当てる。PO2が低いと、飽和度が低下する。曲線の中央領域では、PO2の増加は、酸素飽和度のほぼ直線的な増加につながる。特定のPO2では、Hbは飽和する。酸素分圧がさらに増加しても、酸素飽和度のさらなる顕著な増加はない。
【0006】
ODCを説明する最も重要なパラメーターは、P50値(酸素(O2)によるHbの50%飽和が生じる酸素分圧(PO2)、HbのO2親和性の尺度)と、ODCの最大傾斜を表すヒル係数であり、それ故にHbに結合する酸素の協力性の尺度になる(2)。
【0007】
ODC曲線の経過は、多数の要因の影響を受け(3)、HbO2親和性の増大とそれに関連するODCの左方向へのシフト、またはHbO2親和性の低下とそれに関連するODCの右方向へのシフトを引き起こし(4)、一般に、右方向へのシフトは酸素の放出に有利であり、左方向へのシフトは酸素の負荷に有利である。
【0008】
ODCの右方向へのシフトを引き起こす既知の生理学的要因は、例えば、二酸化炭素濃度の増加、低い(酸性)pH、2,3-ジホスホグリセリン酸(2,3-DPG、2,3-ビホスホグリセリン酸(2,3-BPG)としても知られる)濃度の増加、および/または体温の上昇である。これは最終的に、酸素とグルコースが二酸化炭素と有機酸に代謝される、代謝活性組織への酸素供給の改善に貢献する。
【0009】
酸素の不十分な供給に関連する様々な疾患および状態が知られており、これらの疾患または状態は通常、肺における酸素取り込み障害または酸素供給血液の供給障害のいずれかによるものである。(病態)生理学的原因とは別に、高地での低い気圧または空気中の低酸素含有量などの外的要因は、酸素供給不足とそれに関連する健康上の合併症を引き起こし得る。また、効率的な酸素供給は、すべての生理学的機能を維持し、それ故に身体的および精神的パフォーマンスを維持するために不可欠であることが知られている。
【0010】
したがって、ヘモグロビンのアロステリックバランス、すなわちその酸素結合および放出特性に影響を与えることは、そのような様々な疾患または状態の処置および/または予防のための実行可能な手段であり、運動中および仕事中の身体的および/または精神的なパフォーマンスを向上させる手段でもある。
【0011】
ヘモグロビンをより低い酸素親和性の状態にすること、およびそれに伴うODCの右方向へのシフトは、組織が酸素供給不足に陥っている疾患および状態に特に有益であり得ることが示唆された。肺におけるHbの酸素負荷は、酸素親和性の低下によって妨げられるが、末梢組織における酸素放出は全体的に促進されると考えられている。
【0012】
対照的に、R状態を酸素親和性の高い状態に安定化することによってヘモグロビンに影響を与えること、およびそれに伴うODCの左方向へのシフトは、鎌状赤血球貧血の処置に特に有利であると考えられている。この遺伝性疾患の根底にある鎌状赤血球ヘモグロビン(Hb-S)のR状態を安定させることで、重合しやすいT状態に関連する赤血球の凝集と、それに伴う血管閉塞(鎌状化)を抑制できることが示された。
【0013】
一方で、酸素親和性の増大、およびそれに伴うODCの左方向へのシフトを引き起こす物質は、酸素負荷の改善につながるが、酸素の放出がより困難になるため、末梢組織における酸素供給の改善には寄与しないことが過去に議論されてきた。しかしながら、研究により、酸素放出の効率は主にODC曲線によって決定されることが明らかになった。一方ではHbsの酸素親和性を増大させる(すなわち、ODCの左方向へのシフトを引き起こす)が、他方ではシグモイドODC曲線の形状を維持する物質が、全体的な酸素供給の改善に貢献することが示された。
【0014】
例えば、微量栄養素の5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール(5-HMF)は、酸素に対する親和性を高めるHbのアロステリックモジュレーターとして同定された。重度の低酸素症の動物モデルにおいて、5-HMFによって増強されたHbO2親和性が血行動態の不安定性から保護し、微小血管の酸素化を維持できることが検出された(8)。別の研究では、低酸素に曝露されたブタにおいて、5-HMFによって誘導されるHbO2親和性の増強により、動脈血酸素飽和度(SO2)が改善され、低酸素に関連した肺動脈圧の上昇が軽減されることが示された(9)。同様に、5-HMFによって誘導されるHbO2親和性の増大は、低酸素にさらされたヒト被験者および鎌状赤血球貧血患者で検出された(10)。
【0015】
特に、COVID-19およびそれに関連する呼吸器合併症の出現と世界的蔓延以来、ヘモグロビン介在酸素送達の改善から利益を受ける疾患および状態の処置および/または予防のための、新たな代替的な改善された治療薬が常に必要とされている。また、運動中および仕事中の精神的および身体的パフォーマンスを最適化および向上させるための栄養補助食品の需要も高まっている。
【0016】
これらの課題は、特許請求の範囲および以下の明細書および実施例に従って本発明により解決される。
【0017】
第1態様において、本発明は、ヘモグロビン介在酸素送達の増強から利益を受ける疾患または状態の処置および/または予防における使用のための、α-ケトグルタル酸(α-KG)および5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール(5-HMF)を含む医薬組成物に関する。
【0018】
5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール(5-HMF)は、ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)、5-(ヒドロキシメチル)フルフラールまたは5-オキシメチルフルフロールとしても知られており、アルデヒドおよびフラン化合物であり、例えば、糖または炭水化物の熱分解で形成され、果汁または蜂蜜などの多くの食品から検出され得る。
【0019】
α-ケトグルタル酸(α-KG)は、2-オキソグルタル酸または2-オキソペンタン二酸としても知られており、α-C原子に更なるカルボニル基を有するn-ペンタンから誘導されるジカルボン酸である。α-KGは、無色でほぼ無臭の結晶を形成する。α-KGは、アミノ酸であるグルタミンとグルタミン酸の天然に存在する窒素を含まない部分である。α-KGは、細胞内の水性環境に陰イオン(α-ケトグルタル酸)として存在し、クエン酸サイクルを介した細胞でのATP産生中のエネルギー代謝の中間体である。α-KGは、同用量のビタミンCより強力なラジカルスカベンジャー(RONS)であり、代謝における窒素調節剤として作用する。本開示の目的では、用語α-ケトグルタル酸(α-KG)およびα-ケトグルタル酸は、相互交換可能に用いられる。
【0020】
本発明に関連して、驚くべきことに、5-HMFとα-KGの併用が、シグモイドODC曲線形状を維持しながら、ヘモグロビンの酸素親和性の増強をもたらすことが見出された。実施例に示すように、5-HMFとα-KGの組合せについて測定した効果は、個々の物質の効果を超えており、そこから、ヘモグロビンのアロステリック調節に関して5-HMFとα-KGの組合せの相乗効果が結論付けることができる。この相乗効果が本発明の根底にある。
【0021】
5-HMFとα-KGの組合せ自体はすでに知られており、栄養補助食品(Sanopal(登録商標))として市販されている。例えば、本発明者らによる以前の研究において、3500mの模擬高度(FiO2=13.5%)でサイクリングにより運動した健康な被験者における5-HMFとα-KGの組合せの投与は、末梢酸素飽和度(SpO2)の増加を引き起こすことが報告された(12)。別の研究において、肺癌患者に対する術前の経口微量栄養素補給としての5-HMFとα-KGの組合せ投与は、最大酸素取り込み量(VO2max)の向上、および術後(片肺換気による葉切除術)の入院期間の短縮を引き起こすことが報告された。両方の研究において、観察された効果の根底にある考えられる原因は、酸化ストレス、特に酸化ストレスによって引き起こされる組織損傷を軽減する手段としての5-HMFとα-KGの組合せの既知の特性であった。しかしながら、本発明に関連して最初に開示するように、ヘモグロビンの酸素結合特性に対する当該組合せの効果は、全く知られていなかった。
【0022】
本明細書で用いる用語「ヘモグロビン介在酸素送達の増強」は、5-HMFとα-KGの組合せが、ヘモグロビン酸素飽和曲線(ODC)の左方向へのシフトを引き起こし、参照(例えば、参照血液試料)と比較して、当該左方向へのシフトは、組合せの非存在下で測定され得ることを意味する。ODCを測定するための様々な方法は、当業者に日常的に知られている。例えば、本明細書の実験部分で開示されるODCは、Woykeら(Ref:20)に記載のインビトロ方法と用いて決定された。
【0023】
さらに、好ましくは、ODCの左方向へのシフトは、シグモイド曲線の形状が維持されながら生じることを理解すべきである。
【0024】
本明細書で用いる用語「ヘモグロビン介在酸素送達の増強から利益を受ける疾患」は、不十分な酸素供給を特徴とするおよび/または引き起こされる、および/またはヘモグロビン介在酸素送達の向上から利益を受ける緩和または治癒のための、そのような疾患、疾患症状および/または障害のすべてを含む。
【0025】
本明細書で用いる用語「ヘモグロビン介在酸素送達の増強から利益を受ける状態」は、酸素供給の欠如を特徴とするおよび/または引き起こされる、および/または未処置のまま放置すると病気または病理学的変化を引き起こし得る、疾患症状または病理学的変化の検出可能な発生前のこれらの状態または障害のすべてを含む。
【0026】
いかなる場合であっても、疾患または状態が処置および/または予防から「利益を受ける」という用語は、疾患または状態が該処置により軽減されるか、あるいはこのような疾患または状態を発症するリスクが予防によって低減されるかまたは排除されるような意味で解釈される。
【0027】
明細書に開示される治療的/予防的使用は、ヒト(すなわち、個々人/患者)への適用を主に対象とするが、本開示はまた、獣医学分野、すなわち動物、特にウマ、イヌ、家畜(例えばウシ、ブタ、ヤギ、家禽)への適用を含む。
【0028】
本発明による医薬組成物は、医薬的に許容される製剤を有し得ることが理解される。医薬的に許容される製剤は、当該技術分野でよく知られている。例えば、Rowe et al. Handbook of Pharmaceutical Excipients (6th edition), R.C. Rowe, P.J. Sheskey, M.E. Quinn. Pharmaceutical Press, London, 2009の文書参照。
【0029】
本発明による医薬組成物は、さらに添加剤を含み得る。これらは、水、塩、結合剤、溶媒、分散剤、緩衝剤(特に、生理的緩衝剤、例えばリンゲル液またはリン酸緩衝食塩水(PBS))、安定剤、および薬物の製剤に関連して一般的に使用される他の物質を含む、本発明による使用に有利なあらゆる化合物または組成物を含む。医薬組成物はまた、防腐剤および他の添加剤、例えば抗菌物質、抗酸化剤、錯化剤および不活性ガスを含み得る。
【0030】
特に好ましい添加剤は、水、甘味剤(例えば、糖、好ましくはスクロース、グルコースもしくはデキストロース、または砂糖代替品)、塩化マグネシウム、および/または酸性調節剤、例えば、水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムである。微量元素、ビタミン、アミノ酸および/または植物抽出物はまた、添加剤として用いられ得る。さらに特に好ましい添加剤は、例えばビタミンB12(コバラミン)、ビタミンB9(葉酸)および/またはビタミンB6、微量元素の鉄および/またはセレン、およびアミノ酸のメチオニンなどの血液形成に必要とされるかまたは有益であるすべての物質である。
【0031】
好ましい実施態様によれば、本発明による組成物は、活性成分の唯一の組合せとしてα-KGおよび5-HMFを含む(すなわち、他の医薬的に活性な成分を含まない)。しかしながら、別の実施態様によれば、医薬組成物は、更なる活性成分、特にそれぞれの意図された用途に有益および有利となり得るものを含み得る。例としては、抗凝血剤(例えばヘパリン)、血圧降下剤、抗生物質、静ウイルス剤、抗炎症物質(例えばグルココルチコイド)、化学療法剤、免疫抑制剤(例えばシクロスポリンまたはタクロリムス)、タンパク質および/またはペプチド(アンジオテンシンなどのペプチドホルモンを含む)が挙げられる。
【0032】
本発明による医薬組成物の投与は、特定の方法(投与様式/剤形)に限定されず、経口または非経腸、例えば、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所、鼻腔内、気管支内、経口または皮内であってもよく、または他の任意の周知の投与様式であってもよい。投与はさらに、適切な剤形、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、坐剤、注射剤、クリーム剤またはエアゾル剤で行われ得る。適切な投与経路および投与形態および間隔は、処置されるべき疾患または状態に依存して具体的に選択され得る。当業者は、用量の種類が、様々な要因、例えば患者の身長または体重、体表面積、年齢、性別および/または一般的健康状態に依存するだけでなく、投与される特定の薬物、投与の期間および種類、および同時に投与され得る他の医薬にも依存することを認識している。
【0033】
好ましい実施態様において、本発明による組成物、ならびに上記で定義した他の添加剤または他の活性成分(例えばヘパリン)は、保存血(すなわち、全血、血清または血漿)中に含まれ、該保存血と一緒に投与される。
【0034】
好ましい用量、経路および形態、ならびに好ましい投与間隔は、下記で具体的に定義される。
【0035】
第2態様において、本発明は、ヘモグロビン介在酸素供給の増強のための栄養補助食品としてのα-KGおよび5-HMFを含む組成物の使用に関する。
【0036】
用語「栄養補助食品」は、「サプリメント」とも称され、周知であり、ヒトまたは動物の栄養に加えることができる調製物を含む。したがって、当該用語は、動物の餌として使用するための栄養補助食品も明確に含む。
【0037】
本明細書に記載の本発明の第2態様による、栄養補助食品としてのα-KGおよび5-HMFを含む本発明による組成物の使用によれば、もっぱら非医療的(すなわち非治療的)使用が含まれることが理解される。したがって、組成物はまた、本発明の第1態様による医薬組成物に関して記載される、意図された用途に有益であるが、医薬活性成分は除く添加剤をさらに含み得る。
【0038】
すべての身体機能の代謝エネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)を生成するために、細胞が酸素を必要とすることはよく知られている。酸素供給不足の場合、ATP産生が停止し、疲労とそれに伴うパフォーマンス喪失またはパフォーマンス低下につながり得る。身体的および/または感情的/精神的ストレスが増加すると、ATPの必要性が増加し、それに故にATP産生に必要な酸素も必要性が増加する。
【0039】
したがって、本発明者らは、理論に束縛されることを望まないが、本発明の使用による5-HMFとα-KGの栄養素の組合せの提供が、生物におけるヘモグロビン介在酸素供給の増加をもたらし、これは、ATP生産の維持および/または増強に寄与し、したがってエネルギー供給の改善に寄与し得ると考えている。栄養補助食品としてのα-KGおよび5-HMFを含む本発明による組成物の使用は、身体的および/または精神的ストレスによって引き起こされるパフォーマンスの喪失を予防および/または軽減するのに特に有益であると考えられる。したがって、本発明による使用は、身体的および/または精神的パフォーマンスの向上に有用であると考えられる。
【0040】
本発明の第2態様による好ましい実施態様は、例えば、競技もしくはレクリエーションスポーツにおけるスポーツ活動中、または精神的ストレス中、例えば勉強中または仕事中の、身体的および/または精神的パフォーマンスを向上するために、栄養補助食品としての組成物の使用に関する。有酸素パフォーマンスおよび/または持久パフォーマンスを増加されるための使用が特に好ましい。本発明によって明確に企図される考えられる用途は、耐久スポーツ、特に長距離スポーツまたは競技、例えばマラソン、サイクリング、水泳、クロスカントリースキー、および複合スポーツ、例えばデュアスロン、トライアスロン、バイアスロンなどにおける栄養補助食品としての組成物の使用である。動物、特にウマまたはイヌの競技のための栄養補助食品としての組成物の使用も考えられる。
【0041】
本発明の第2態様によるさらに好ましい実施態様は、低酸素症に関連するパフォーマンス低下を軽減、遅延または予防するための組成物の使用に関する。
【0042】
用語「低酸素症」は、「酸素欠乏症」または「低酸素」としても知られており、生体の全身またはその一部に影響を及ぼす酸素の供給不足を指す。動脈低酸素症は、動脈血の酸素分圧の低下として定義され、公知の方法(例えばパルスオキシメトリー)を用いて動脈血の酸素飽和度の低下(「低酸素血症」)によって間接的に測定できる。
【0043】
低酸素状態、すなわち低酸素症に関連するパフォーマンスの低下をもたらす状態は公知の様々な要因によって引き起こされ、または促進され得る。例えば、低酸素状態は、激しいスポーツ活動中、特に呼吸によって取り込まれる酸素の量が身体活動によって引き起こされる酸素要求量の増加をカバーするのに十分でない場合、起こり得る。
【0044】
低酸素状態の他の原因として考えられるのは、例えば、排気ガス(スモッグ)または火災による空気汚染、および肺でのヘモグロビンの酸素負荷が不十分である高地(例えば登山時)での低い気圧による、呼吸に利用できる周囲空気中の低酸素含量である。
【0045】
したがって、本発明の第2態様による特に好ましい実施態様は、
(i)高地における低酸素症に関連するパフォーマンス低下を軽減、遅延または予防するため;および/または
(ii)高地;好ましくは2000m超、より好ましくは2500m超、さらにより好ましくは3000m超の高度における身体的および/または精神的パフォーマンスを向上させるため
の栄養補助食品としての組成物の使用に関する。
【0046】
本明細書に記載の高度は、好ましくは基準線からのメートル(m)単位の高度、または海抜(SL)からのメートル(m)単位の高さを指し得ると理解されたい。
【0047】
本発明の第1または第2態様による好ましい実施態様において、α-KGと5-HMFは、(医薬)組成物中、1:1~100:1、好ましくは2:1~50:1、より好ましくは2.25:1~25:1の質量比である。
【0048】
本明細書で開示される実験において、α-KGと5-HMFは、3:1の質量比で用いられていた。したがって、特に、α-KG対5-HMFが2.5:1~15:1の範囲の質量比が、特に好ましいと理解されるべきであり、2.75:1~10:1の範囲がさらにより好ましく、3:1~5:1の範囲が最も好ましい。しかしながら、α-KGと5-HMFの組合せで観察される相乗効果は、他の質量比でも、同等の(わずかに弱い可能性はある)程度まで達成できると考えられる。
【0049】
本発明の第1または第2態様によるさらに好ましい実施態様において、組成物は、5~500mg/kg体重のα-KGおよび5~160mg/kg体重の5-HMFの用量で、好ましくは25~450mg/kg体重のα-KGおよび8~150mg/kg体重の5-HMFの用量で、より好ましくは30~430mg/kg体重のα-KGおよび10~145mg/kg体重の5-HMFの用量で投与される。
【0050】
本発明の第1または第2態様による別の好ましい実施態様において、組成物は、30~420mg/kg体重のα-KGおよび10~140mg/kg体重の5-HMFの用量で、より好ましくは36~300mg/kg体重のα-KGおよび12~100mg/kg体重の5-HMFの用量で、さらにより好ましくは36~130mg/kg体重のα-KGおよび12~43mg/kg体重の5-HMFの用量で投与される。
【0051】
記載した好ましい用量は、別の方法として、体重70kgに対して血液量が約5000mlであると仮定して、mg/ml血液量として表され得ると理解される。例えば、体重1kg当たり5mgの5-HMFの用量は、別の方法として、血液量1ml当たり0.07mgの5-HMFの用量として表すこともできる。
【0052】
本明細書に開示の実験において、個別の物質または組合せとして、α-KGおよび5-HMFについて3つの異なる用量を試験した。
【0053】
「低用量」は、全血試料1ml当たり0.42mgのα-KGおよび/または0.14mgの5-HMF(体重70kg当たり平均血液量5000mlと仮定して、体重1kg当たり約30mgのα-KGまたは約10mgの5-HMFに相当する)である;「中用量」は、全血試料1ml当たり1.8mgのα-KGおよび/または0.6mgの5-HMF(体重70kg当たり平均血液量5000mlと仮定して、体重1kg当たり約129mgのα-KGまたは約43mgの5-HMFに相当する)である;および「高用量」は、全血試料1ml当たり6mgのα-KGおよび/または2mgの5-HMF(体重70kg当たり平均血液量5000mlと仮定して、体重1kg当たり約429mgのα-KGまたは約143mgの5-HMFに相当する)である。
【0054】
α-KGと5-HMFの組合せの試験した3つの用量すべて、および5-HMF単独について、本明細書に開示の実験は、P50(すなわち、Hbの50%が酸素で飽和される酸素分圧)の有意な低下を示し、このことから、Hb酸素結合親和性の増強が結論付けられる(図1aのP50の低下を参照;また、図3における対応するODCの左方向へのシフトからも明らかである)。
【0055】
実験データはまた、特に低用量および中用量での、α-KGと5-HMFの組合せは、5-HMF単独と比較してHb酸素結合親和性の同等の増加をもたらすが(図1a)、ヒル係数(Hb酸素結合の協同性の尺度として)の低下は小さい(図1b)ことを示す。α-KGの更なる存在は、5-HMF単独より高い程度でHb酸素結合の協同性を維持すると結論付けることができる(図1bで決定されるヒル係数から明らかであり;図3におけるODCのシグモイド曲線形状の維持からも明らかである)。
【0056】
したがって、α-KGと5-HMFの組合せは、有利に、ヘモグロビンの酸素負荷を改善し、標的組織における効率的な酸素放出を可能にすると考えられる。
【0057】
用語「用量」および「投与量」は、本開示の範囲内で相互交換可能に用いられ得ることを理解されたい。
【0058】
本発明の第1または第2態様によるさらに好ましい実施態様において、組成物は、(a)毎日、単回用量としてまたは2回以上の等しいもしくは異なる用量に分けて;および/または(b)少なくとも連続2、3、4、5、6または7日間;および/または(c)虚血および/または低酸素状態への曝露の12時間以内前に、投与される。
【0059】
本発明の第1または第2態様によるさらに好ましい実施態様において、組成物は、非経腸または経口投与される。
【0060】
しかしながら、別の実施態様において、投与の形態、経路、期間および間隔は、個別に適合され得る。
【0061】
本発明の第1態様の好ましい実施態様において、疾患または状態は、
(a)下記:
(i)肺における酸素取り込み障害;
(ii)空気血液関門を通過する酸素拡散障害;
(iii)ヘモグロビンの酸素負荷障害;
(iv)ヘモグロビンの酸素運搬能力低下;
(v)血流制限による酸素輸送障害;
(vi)微小血管の酸素飽和度障害;および/または
(vii)酸素供給不足
を特徴とする状態;
(b)低酸素血症または無酸素血症;
(c)低酸素症または無酸素;
(d)好ましくは消化管虚血、心臓虚血、脳虚血、腎虚血、肢虚血、神経虚血、低酸素虚血性脳損傷(低酸素虚血性脳症)および虚血性神経障害より選択される、虚血;
(e)好ましくは炎症性呼吸器疾患、真菌、ウイルスまたは細菌感染に関連する呼吸器疾患、自己免疫性介在性呼吸器疾患、特発性呼吸器疾患、過増殖性呼吸器疾患、癌、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支炎、気腫、肺浮腫、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、気管支肺異形成(BPD)、肺線維症、無気肺、結核、肺炎、肺臓炎、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、咽頭炎、粘膜炎、口内炎、気管支拡張症、ループス肺炎、嚢胞性線維症および呼吸不全より選択される、呼吸器疾患;
(f)好ましくは急性高山病(AMS)、高地脳浮腫(HACE)、高地肺浮腫(HAPE)、ダ・コスタ症候群および慢性高山病(CMS)より選択される、高山病;
(g)好ましくはCOVID遷延症状および/またはCOVID罹患後症候群より選択される、COVIDおよび/またはその1つ以上の遅発性/罹患後合併症;および/または
(h)慢性疲労症候群(CFS)
より選択される。
【0062】
用語「低酸素血症」は、動脈血での酸素含有量の低下(酸素欠乏)を指す。
【0063】
用語「無酸素血症」は、最も重篤な形態、すなわち血中の酸素飽和度が著しく低下した(生理学的に必要な閾値をはるかに下回る)「低酸素血症」を指す。用語「無酸素」は、酸素の完全な不存在を指す。
【0064】
用語「虚血」は、多くの場合痛みを伴う血流の減少、または組織、身体部分、臓器への血流の完全な喪失を指し、機能不全を引き起こし得る。虚血の最も一般的な原因は、血管の狭小化または閉塞の形態での変化である。これらは、例えば血栓症または塞栓症の場合に生じ得る。狭小化は、アテローム性動脈硬化症および動脈閉塞性疾患(AOD)などでは狭窄と称される。機能的狭窄もまた、レイノー症候群または循環ショックに対する生理学的反応などで生じ得る。虚血は、細胞の代謝を妨げるか、または停止させる。血流の制限または遮断によって引き起こされる虚血は、影響を受ける部位の酸素欠乏を伴う。神経組織への供給不足が長期間になると場合、高い細胞内カルシウム濃度が神経伝達物質のグルタミン酸の制御不能な放出に寄与し、最終的に周囲の組織細胞に損傷を与えるカスケードが起こる。これらのプロセスは、細胞の死(壊死)を引き起こし得て、例えば心筋の一部が十分な血液供給を受けられなくなり、心臓発作を引き起こす虚血性心疾患の場合、梗塞を引き起こし得る。組織損傷を伴う圧迫関連の虚血は、褥瘡を引き起こす。
【0065】
本発明の第1態様の好ましい実施態様において、低酸素血症は、(a)換気と灌流の不一致;(b)酸素拡散障害;(c)肺胞低換気;(d)右左シャント;および/または(e)拡散灌流障害
によって引き起こされる。
【0066】
本発明の第1態様の好ましい実施態様において、虚血は、心停止、ショック、頸動脈閉塞、低血圧、アテローム性動脈硬化、呼吸停止、胸郭出口症候群、低血糖、頻脈、放射線療法、化学療法、敗血症性ショック、心不全、上腸間膜動脈症候群、鎌状赤血球症、サラセミア、誘発性重力加速度、極度の寒さ、グルタミン酸受容体の刺激増加、動静脈奇形、末梢動脈閉塞疾患、組織または臓器に供給する血管の圧迫または破裂、貧血および/または意識喪失によって引き起こされる。
【0067】
本発明の第1態様の好ましい実施態様によれば、呼吸器疾患は、ウイルス感染によって引き起こされる肺での酸素取り込みの低下を特徴とし、ウイルス感染の原因となるウイルスが、好ましくはコロナウイルス、好ましくは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)、またはその変異体である。
【0068】
「慢性疲労症候群(CSF)」は、「筋痛性脳脊髄炎(ME)」または「ME/CFS」としても知られており、異常に急速な身体的および精神的疲労を主な症状とする慢性疾患であり、極端な場合、広範な障害および介護の必要性に至り得る。発症の原因およびメカニズムが未解明であるにもかかわらず、この症候群は、神経系、免疫系および/または内分泌系の調節不全が観察される独立した疾患パターンとして国際的に認識されている。研究は、CFS患者は通常、体細胞のエネルギーバランスにおいて顕著な代謝障害を示し、ミトコンドリアによって提供されるATP合成が制限されていることを示している。その結果、体内で利用可能なエネルギーが慢性的に少なくなりすぎる。このエネルギー不足は、とりわけ、高レベルの一酸化窒素(NO)によるニトロソ化ストレスによって引き起こされる。ミトコンドリア呼吸鎖(ATP合成)の阻害により、筋肉、神経細胞、免疫系、心筋といったエネルギー要求が高い細胞が主に影響を受ける。本発明に関連して決定される本発明による組成物の効果を考慮すると、典型的にはCFS患者に存在するエネルギー不足および関連する疾患症状(特に疲労/倦怠感)を、本発明の第1の態様による医薬組成物の発明的使用によって治療的に和らげることができると考えられる。したがって、特に、末梢組織における酸素供給の増加は、ミトコンドリアのエネルギー産生(すなわちATP合成)に有益な効果をもたらし、したがって、酸素供給の欠如とは別に、ミトコンドリアの機能障害(ミトコンドリアの機能不全および/またはATP合成障害)によっても引き起こされるこれらの疾患に関連する疲労状態を少なくとも部分的に和らげることができると考えられる。
【0069】
用語「Covid遷延症状(long Covid)」は、「COVID罹患後/COVID遷延症状(post-COVID/long-COVID)」または「COVID罹患後/遷延症状(post-/long-COVID)」、「COVID遷延/罹患後症状(long/post-COVID)」、「COVID罹患後症状(post-COVID)」、「COVID罹患後症候群(post-COVID syndrome)」および「ICD-10 GMによるCOVID-19罹患後状態」、英語で「post-acute sequelae of COVID-19(PASC)」、「chronic COVID syndrome(CCS)」、「COVID-19 long-hauler」または「post-acute Covid-19 syndrome」とも称され、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の遅発性または遷延性の健康への影響を指す。原則として急性COVID-19感染は最長4週間続くが、例えば集中治療室での入院治療が必要な場合、数か月続くことがある。しかしながら、長期の症状は、疾患の経過が軽いまたは感染が未検出の場合でも、この期間を超えて持続し得て、または追加的に生じ得る。極めて稀な場合に、COVID蔓延症状が、ウイルスに対するワクチン接種の結果としても生じる(ワクチン後症候群)。これまでのところ、長期的な影響に関する単一で共通の定義はない。観察される症状は、重度の肺損傷、炎症反応、ならびに息切れ、倦怠感(COVID罹患後の疲労感)、意識混濁および神経障害を含む様々な臓器の変化を含む。最も一般的に報告されている症状は、とりわけ、呼吸器疾患、神経障害、精神的健康障害、運動制限、倦怠感、筋力低下を含む。「COVID遷延症状」および「COVID罹患後症状」(相互交換可能に「COVID罹患後症候群」とも称される)は、症状が似ていることがあり、一般的に、症状が存在する期間によってCOVID遷延症状(急性感染後4週間を超えて症状の継続または新たな発症)とCOVID罹患後症候群(症状が12週間を超えて持続または出現)に区別される。
【0070】
したがって、CFSと同様に、本発明の第1態様による医薬組成物およびそれに関連するヘモグロビン介在酸素送達の増強はまた、急性COVID疾患の処置だけでなく、「COVID遷延症状」および/またはいわゆる「COVID罹患後症候群」の処置および/または予防において、特に関連する疲労状態の処置および/または予防において、プラスの治療的および/または予防的効果を有すると予測され得る。
【0071】
本発明に関連して、用語「COVID」(corona virus disease)は、一般的に、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)またはその変異体、好ましくはコロナウイルス疾患-19(COVID-19))の感染によって引き起こされるコロナウイルス疾患を指す。
【0072】
上記の実施態様(g)の特に好ましい実施態様において、COVIDの遷延性/遅発性合併症(例えば、COVID遷延症状および/またはCOVID罹患後症候群)は、以下の症状の1つ以上を特徴とする:
- 好ましくは肺および/または末梢組織の酸素取り込み能力の低下によって引き起こされる、身体的および/または精神的疲労;
- 酸素輸送能力の低下/障害および/またはヘモグロビンの酸素負荷の減少/障害;および/または
- ミトコンドリアのエネルギー産生(ATP合成)の低下/障害。
【0073】
第3態様において、本発明は、本発明の第1または第2態様に関して定義される組成物と、血液試料を混合することを含む、血液のヘモグロビン介在酸素送達能力を増強するためのインビトロ方法に関する。
【0074】
本明細書で用いる用語「血液のヘモグロビン介在酸素送達能力」は、用語「血液のヘモグロビン介在酸素供給能力」と相互交換可能であり、ヘモグロビンへの可逆的な酸素結合に基づいて、組織、臓器および/または細胞に酸素を送達または供給する、血液中に含まれる赤血球の能力を指す。
【0075】
好ましい実施態様において、方法は、
(i)赤血球に含まれるヘモグロビンの酸素放出より酸素負荷を促進する大気条件下で、本発明による組成物と赤血球を含む血液試料、好ましくは全血試料を接触させる工程;および
(ii)血液試料をさらに使用するまで大気条件下で血液試料を維持する工程
を含む。
【0076】
好ましい実施態様において、大気条件は、少なくとも30mmHgの酸素分圧を特徴とする。
【0077】
第4態様において、本発明は、臓器または組織に対する低酸素誘発性損傷を軽減または予防するためのインビトロ方法であって、該方法が、
(a)単離した臓器または組織をインビトロで保存溶液と接触させる工程であって、該保存溶液が本発明の第1または第2態様に関して定義される組成物様を含む工程;および
(b)臓器または組織をさらに使用するまで、臓器または組織をインビトロで保存溶液と接触させて維持する工程
を含み、好ましくは
(i)保存溶液との臓器または組織の接触が、保存溶液への臓器または組織の完全な浸漬に相当する;および/または
(ii)保存溶液が、赤血球、好ましくは血漿または全血をさらに含む、
方法に関する。
【0078】
本発明の第3または第4態様による方法の好ましい実施態様において、α-KGおよび5-HMFは、
(i)血液試料または保存溶液1ml当たり0.07~7mgのα-KGおよび0.07~2.24mgの5-HMF;または
(ii)臓器または組織1g当たり0.005~0.5mgのα-KGおよび0.005~0.160mgの5-HMF、
好ましくは:
(i)血液試料または保存溶液1ml当たり0.35~6.3mgのα-KGおよび0.11~2.1mgの5-HMF;または
(ii)臓器または組織1g当たり0.025~0.45mgのα-KGおよび0.008~0.150mgの5-HMF、
より好ましくは:
(i)血液試料または保存溶液1ml当たり0.42~6mgのα-KGおよび0.14~2.03mgの5-HMF;または
(ii)臓器または組織1g当たり0.03~0.43mgのα-KGおよび0.01~0.145mgの5-HMF
の濃度で適用される。
【0079】
本発明の第3または第4態様による方法の別の好ましい実施態様において、α-KGおよび5-HMFは、
(i)血液試料または保存溶液1ml当たり0.42~5.88mgのα-KGおよび0.14~1.96mgの5-HMF;または
(ii)臓器または組織1g当たり0.03~0.42mgのα-KGおよび0.01~0.14mgの5-HMF、
より好ましくは:
(i)血液試料または保存溶液1ml当たり0.50~4.20mgのα-KGおよび0.17~1.4mgの5-HMF;または
(ii)臓器または組織1g当たり0.04~0.30mgのα-KGおよび0.01~0.10mgの5-HMF、
さらにより好ましくは:
(i)血液試料または保存溶液1ml当たり0.5~1.8mgのα-KGおよび0.2~0.6mgの5-HMF;または
(ii)臓器または組織1g当たり0.04~0.13mgのα-KGおよび0.01~0.04mgの5-HMF
の濃度で適用される。
【0080】
第5態様において、本発明は、臓器または組織へのヘモグロビン介在酸素供給を増強するための、本発明の第1または第2態様に関して定義される組成物のインビトロでの使用に関する。
【0081】
本発明の第5態様による使用の好ましい実施態様において、
(i)臓器または組織は、ヒトまたは動物の体から単離された臓器または組織であり;および/または
(ii)組織は、保存溶液(本発明の第4態様に関して定義される)中に含まれており、該組成物は、臓器または組織が保存溶液へ完全に浸漬するように、臓器または組織と接触する。
【0082】
本発明の第4態様による方法または本発明の第5態様による使用の好ましい実施態様において、臓器または組織は、移植片であり;移植片は、好ましくは
(i)腎臓、肝臓、心臓、膵臓、肺、皮膚、皮下組織、筋肉および/または骨;および/または
(ii)遊離皮弁手術、好ましくは遊離した皮膚、皮膚-筋肉および/または皮膚-筋肉-骨の皮弁手術
より選択される。
【0083】
第6態様において、本発明は、本発明の第3態様による方法を用いて製造される、酸素富化保存血に関する。
【0084】
第7態様において、本発明は、ヘモグロビン介在酸素送達の増強から利益を受ける疾患または状態を処置および/または予防するための方法であって、α-ケトグルタル酸(α-KG)および5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール(5-HMF)を含む医薬組成物が、そのような疾患もしくは状態に罹患しているまたはそれを発症するリスクのある個体、またはそのような疾患または状態に曝露される個体に、医薬的有効量で投与される、方法に関する。
【0085】
本発明の第1の態様に関連して開示される実施態様および好ましい実施態様、特に、処置される疾患または状態に関するもの、本発明の組成物および可能な添加剤の用量および投与に関するものはまた、該当する場合、本発明の第7態様の方法に適用することが理解される。
【0086】
用語「酸素飽和度(SO2)」は、血液中に存在する酸素の比率および血液の最大酸素容量をパーセントで指す。
【0087】
用語「末梢酸素飽和度(SpO2)」は、組織内の酸素飽和度を指し、当業者に知られている様々な測定方法、例えば非侵襲性パルスオキシメトリーを用いて決定できる。
【0088】
用語「吸気酸素分率」(「FiO2」は「吸気酸素の分率」の略である)は、吸入空気中の酸素の割合である。
【0089】
用語「最大酸素取り込み量」(略して「VO2max」)は、運動中に体が1分当たりに使用できる酸素の最大ミリリットル数を示し、一般に1分当たりの酸素のミリリットル(ml O2/分)で示される。VO2maxは、人の持久パフォーマンスを評価するための基準として使用できる。
【0090】
第8態様において、本発明は、α-ケトグルタル酸(α-KG)および5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール(5-HMF)を含み、
(a)ミトコンドリアへのヘモグロビン介在酸素供給を増強する;および/または
(b)ミトコンドリアのエネルギー産生(好ましくは、ミトコンドリアのATP合成)を増強する、
医薬組成物であって、上記(a)および(b)の効果の1つ以上から利益を受ける疾患または状態の処置および/または予防における使用のための医薬組成物に関する。
【0091】
本発明の第8の態様に関して、疾患または状態は、好ましくは、本発明の第1の態様に関連して開示される疾患または状態の1つ以上より選択され得ることが理解されるべきである。また、本発明の第1の態様に関連して開示される好ましい実施態様の各々は、特に、組成物中に存在する物質の混合比、ならびに可能な用量、製剤および投与形態/タイプに関して、該当する場合、本発明の第8の態様による医薬組成物にも適用でき、後者に関連して直接開示されるものとして理解されるべきである。
【0092】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が関係する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾が生じた場合は、定義を含む本特許明細書が優先される。
【0093】
本発明の第1の態様に関連して上記した本発明の定義および実施態様は、可能な場合、本発明の第2、第3、第4および更なる態様にも適用されることが理解される。
【0094】
本明細書、特に特許請求の範囲に記載される実施態様に関して、従属請求項で言及される任意の実施態様は、その従属請求項が従属する任意の請求項(独立または従属)の任意の実施態様と組み合わせ得ることが意図される。3つの選択肢A、BおよびCを特定する独立請求項1、3つの選択肢D、EおよびFを特定する従属請求項2、および請求項1および2に従属し、3つの選択肢G、HおよびIを特定する請求項3の場合、例えば、本明細書は、他に明細書に断らない限り、組合せA、D、G;A、D、H;A、D、I;A、E、G;A、E、H;A、E、I;A、F、G;A、F、H;A、F、I;B、D、G;B、D、H;B、D、I;B、E、G;B、E、H;B、E、I;B、F、G;B、F、H;B、F、I;C、D、G;C、D、H;C、D、I;C、E、G;C、E、H;C、E、I;C、F、G;C、F、H;C、F、Iに対応する実施態様を明確に開示することが理解されるべきである。これは、異なる下位請求項に記載されている異なる選択肢の組合せにも適用される。
【0095】
同様に、選択肢が独立請求項および/または従属請求項に記載されていない場合でも、従属請求項が複数の先行請求項を引用している場合、それらの請求項によってカバーされる主題の任意の組合せは、明示的に開示されているものとみなされる。例えば、独立請求項1、請求項1を引用する従属請求項2、および請求項2と請求項1の両方を引用する従属請求項3の場合、請求項3および1の主題の組合せは、例えば、請求項3、2および1の主題の組合せとして同様に直接かつ明確に開示されている。請求項1~3のいずれかに関連する更なる従属請求項4がある場合、請求項4および1、請求項4、2および1、請求項4、3および1、ならびに請求項4、3、2および1の主題の組合せは、直接かつ明確に開示されている。
【0096】
本発明は、添付の図面を参照して、本発明の好ましい実施態様を説明する目的で、例としてのみ本明細書に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0097】
図1】異なる用量における物質の効果(平均±SD)を示す。a)ベースラインおよび異なる用量での全被験者の平均P50。b)ベースラインおよび異なる用量での全被験者の平均HC値。
図2】P50変化の用量依存性を示す。明るい灰色の線は個々のP50値を示し、黒色の線はすべての被験者のP50値に対応し(平均±SD)、暗い灰色の線は線形回帰関数で、その特徴(P50およびR2値)をグラフに示す。a)5-HMF+α-KGの用量依存性。b)5-HMFの用量依存性。c)α-KGの用量依存性。
図3】5-HMF(黒色)および5-HMF+α-KG(灰色)の平均ODCを示し、全被験者の平均P50および平均HCの交差で表される。
【実施例
【0098】
実施例は、本発明を例示する。
【0099】
実施例1:実施例2~4に示す実験の概要
本試験は、ヘモグロビンの酸素結合曲線に対する活性成分5-HMF、α-KGおよび5-HMFとα-KGの組合せの考えられる影響の検討を扱う。酸素結合曲線を、ヒト全血試料に対して新しいインビトロ方法(Ref. 20:Woyke S, Stroehle M, Brugger H, Strapazzon G, Gatterer H, Mair N, Haller T. High-throughput determination of oxygen dissociation curves in a microplate reader - A novel, quantitative approach. Physiol Rep. 2021 Aug;9(16):e14995. doi: 10.14814/phy2.14995. PMID: 34427400に記載)を用いて決定した。3つの異なる用量(低、中、高)を用いた。Hb-O2親和性における用量依存性の強い増加が、5-HMF単独、および5-HMFとα-KGの組合せ添加で認められた。α-KG単独でもHb-O2親和性が増加したが、その程度は低かった。Hb-O2親和性が増加するにつれて、酸素結合曲線のシグモイド形状は、5-HMF単独より5-HMFとα-KGの組合せによって良好に保存された。本実験で初めて観察されたこの効果は、ヘモグロビンのアロステリック制御に関するα-KGと5-HMFの組み合わせのこれまで知られていなかった相乗作用を示唆しており、これはおそらく、反応性が高いと知られている5-HMFのα-KGを介した安定化によるものであると考えられる。
【0100】
実施例2:材料および方法
静脈血を、18~40歳の20名の健康な被験者(女性10名、男性10名)から採取した。被験者は、非喫煙者、妊娠中または授乳中ではなく、既知のヘモグロビン症がなく、最近の病気、外傷、失血歴または高地(>3000m)への数日間の旅行の履歴がなかった。採血直後に血液ガス分析を実施し(ABL800flex、ラジオメーター)、試料を氷上で保管し、8時間以内に処理した。
【0101】
5-HMFとα-KGは、異なるキャリア溶液(水、グルコース、グルコースとリン酸、酸、水と水酸化ナトリウム、水とリン酸、グルコースと水酸化ナトリウム)中で提供され、対照溶液は、5-HMFまたはα-KGを含まないキャリア溶液単独で構成された。3つの異なる濃度のそれぞれ10μlの5-HMFまたはα-KGおよび5-HMF+α-KGを100μlの全血に添加し、再懸濁によって穏やかに混合した。
【0102】
Shanpal(登録商標)(Cyl、オーストリア)の5-HMFの推奨最大1日用量は720mgである。70kgの人の血液量におけるその総分布が約5000mlであると仮定すると(16)、低用量の5-HMFを0.14mg/ml(700mg/70kg)と定義した。中用量の5-HMF(0.6mg/ml、3,000mg/70kg)は、5-HMFを含む既知の抗鎌状赤血球薬(10)であるAes-103の通常の用量に相当するように選択した。高用量の5-HMF(2mg/ml、10,000mg/70kg)は、動物実験で血清γグロブリンレベルの上昇および相対的な脾臓重量などの有害作用を引き起こすことが示されている5-HMFの用量(143mg/kg)に相当する(17、18)。α-KGは、低用量で0.42mg/ml(2,100mg/70kg)、中用量で1.8mg/ml(9,000mg/70kg)、高用量で6mg/ml(30,000mg/70kg)を用いた。これは、2つの活性成分であるα-KGと5-HMFを組み合わせて使用した場合、それらが3:1(α-KG:5-HMF)の質量比で存在することを意味する。
【0103】
ODC測定
活性成分単独(α-KGまたは5-HMF)またはそれらの組合わ(α-KG:5-HMF)の3つの記載された試験濃度のそれぞれについて、ODC(二重測定として)を、特許出願中であるWoykeら(20)が記載する酸素解離曲線(ODC)のハイスループット決定のためのインビトロ測定法を用いて決定した(Ref.20:Woyke, S., Stroehle, M., Brugger, H., Strapazzon, G., Gatterer, H., Mair, N., & Haller, T. (2021). High-throughput determination of oxygen dissociation curves in a microplate reader - A novel, quantitative approach. Physiological Reports, 9, e14995. https://doi.org/10.14814/phy2.14995);https://www.ascenion.de/en/technoloqv-offers/novel-qas-flow-svstem-for-hiqh-throuqhput-determination-of-oxyqen-dissociation-curves-odc.の「ASCENION GmbH - Novel gas flow system for high throughput determination of oxygen dissociation curves (ODC)」も参照。
【0104】
このリアルタイムのハイスループット分析により、標準的なマイクロプレートリーダーと特別に改良された(ガス灌流された)96ウェルマイクロリットル測定プレートの簡単な適合を用いて、全血試料の正確かつ効率的なODC測定が初めて可能になった。ODC測定中の安定した状態を確保するために、測定装置を、環境的に制御された密閉デバイス(ECボックス)内に設定した。このボックスは温度管理(37℃)されており、加湿器、マイクロプレートリーダーのカバー、チューブおよびバルブからなる実験装置を含む。改良された96ウェルプレート(特別なコーティング処理が、最適な蛍光測定のための赤血球の薄いが付着性の層を確保する)が使用され、蛇行するガスフローチャネルにおいて全ウェルにわたって一定のガス流が可能になった。測定プレートは、ガスバッグ、ガスホース、加湿器、ガスミキサーおよび蠕動ポンプからなるガスシステムに統合されている。
【0105】
血液試料を、いくつかの細胞層からなる膜が形成されるように、特別なスタンピング技術を用いて個々のウェルに配置した。二波長分光法を用いて各ウェルの酸素飽和度を測定し、測定プレートの入口および出口ポートにある市販の酸素センサーの蛍光寿命を用いて酸素分圧を測定した。解離曲線を測定できるように、約20体積%から0体積%までの酸素傾斜を作成した。測定を従来の蛍光プレートリーダーで毎分行い、最大92個の全血試料を約25分以内に分析できた。
【0106】
ODC実験では、40mmHgのPCO2を含む混合ガスを使用し、温度を37℃に一定に保った。
【0107】
データ処理および統計分析:
統計分析はキャリア溶液に関して有意な差が示さなかったため、濃度レベルごとの異なるキャリア溶液の結果を平均して、最終分析を行った。
【0108】
曲線の適合、P50およびヒル係数(HC)の計算ならびにグラフを、Excel(Microsoft 2016)を用いて作成した。統計分析を、IBM SPSS Statistics 25を用いて実施した。対応のないt検定を用いて、物質組成間のベースラインの差を分析した。反復測定設計によるANOVAを用いて、異なる用量および物質組成間のP50およびHCの差を決定した。
【0109】
事後t検定(ボンフェローニ補正)および反復測定設計によるANOVAを、個々の物質または2つの物質の組合せに対して用いて、変化の位置と大きさを特定した。線形回帰分析を用いて、各物質の濃度依存性を決定した。P<0.05を有意とみなした。データを平均値±SDとして表す。
【0110】
実施例3:結果
被験者の平均年齢は、29.6±3.0歳であった。ヘモグロビン濃度(14.5±1.3g/dl)およびヘマトクリット(44.4±4.0%)は、本集団で正常であったが、pHは7.40(7.35±0.04)よりわずかに低く、これは動脈血と比較した静脈血でのより高い二酸化炭素レベル(48.4±7.4mmHg)に対応する。
【0111】
試験の開始時に、P50値は25.1+1.3であり、わずかな性差があり(女性26.0±1.0mmHg対男性24.3±0.9mmHg;P=0.001)、HC値は2.61±0.21であった。
【0112】
反復測定設計によるANOVAは、P50とHCの両方について総物質(P<0.001)、用量(P<0.001)および相互作用(物質×用量、P<0.001)の効果が有意であることを示した(図1)。
【0113】
5-HMFは、用量依存的にP50(P<0.001)(図1および2)およびHC(P<0.001)(図1b)を有意に変化させた。α-KG単独でもP50(P<0.001)およびHC(P=0.012)を変化させたが、数値的には5-HMFと比較して有意に低い程度であった(図1)。
【0114】
5-HMFへのα-KGの添加は、P50およびHC(P<0.001)について、5-HMF単独と比較して、特に、高用量におけるP50(P=0.028)(図1a)および低用量および中用量におけるHC(P<0.001およびP=0.015)(図1b)に対する一般的用量および物質効果を示した。
【0115】
すべての物質および組合せについて、P50の用量依存性は直線的経過をたどった(図2)。
【0116】
全体として、P50とHCの変化は、ODCの形状を特定の方法で変化させる(図3)。低用量および対照溶液では、ODCの典型的なシグモイド形状が明確にわかる。中用量では、シグモイドの特徴は維持されるが、HCがより高いため、5-HMF+α-KGの組合せのODCは、5-HMF単独と比較して、より維持されたシグモイド形状を有する。高用量では、両方のODCは、P50およびHC値が極めて低いため、典型的なシグモイド形状を失った。
【0117】
実施例4:考察
本試験の最も重要な知見は、5-HMFとα-KGの組合せ投与がヒト全血におけるHbO2親和性を増加させたことである。線形用量依存性がすべての物質および組合せについて見られたが、程度は異なる(すなわち、α-KGは最も低い効果を示す)。
【0118】
興味深いことに、HCは、特に低用量および中用量で、物質組合せ間で異なり、これは、P50関連のシフトに加えてODCの形状の変化を示している(図3)。
【0119】
本試験の注目すべき知見は、ヒル係数(HC)に対する5-HMFおよびα-KGの組合せ効果が観察されたことである。HC値の変化は、ヘモグロビンの酸素輸送に重要なODCのシグモイド形状に直接影響を及ぼす(2、19)。ODCの急激な増加はヘモグロビン酸素輸送を促進し(2)、これは、PO2のより小さな変化がSpO2のより大きな変化を誘発するためであり、これは、肺レベルでのO2負荷および組織レベルでのO2不負荷が促進されることを意味する。
【0120】
本明細書に開示されるデータが示すとおり、特に低用量および中用量の、5-HMFとα-KGとの組合せは、5-HMF単独と比較してHbO2親和性を増加させながら、ODCのシグモイド曲線形状を維持することができる(図3)。
【0121】
本実験で初めて観察されたこの効果は、ヘモグロビンのアロステリック制御に関するα-KGと5-HMFの組み合わせのこれまで知られていなかった相乗作用を示唆しており、これはおそらく、反応性が高いと知られている5-HMFのα-KGを介した安定化によるものであると考えられる。
【0122】
結論
5-HMFは、HbO2親和性における用量依存性の強い増加を誘発する。5-HMFとα-KGとの組合せは、5-HMF単独と比較して、より低いP50にてより高いHC値を示し、これにより、酸素結合曲線のシグモイド形状を維持する。
【0123】
実施例5:実験的試験の手順
本発明が基礎となる本発明の組成物の生理学的効果は、とりわけ、プラセボを投与された対応する対照個体と比較した身体的パフォーマンス(筋力および/または持久力)の測定可能な増加において明らかになる。当該技術分野で知られており、これらおよび同様の目的に日常的に使用できる例示的な評価方法は、いかなる限定も意図するものではないが、筋力測定(例えば腕力測定または呼吸筋力測定)、いわゆる1分間座位-立位テスト、特定の時間内に移動したランニング/歩行距離の比較(例えば、いわゆる6分間の歩行試験「6MWT」としても知られる)の形式で)である。また、本明細書に開示されるインビトロ試験方法(実施例1~4を参照)で観察された効果は、動脈血酸素飽和度(定性的および/または定量的)を決定するための他の一般的な直接的および/または間接的測定方法を用いて評価でき、例示的な方法は、特に、パルスオキシメトリー測定、血液ガス分析(例えばスパイロエルゴメトリーを使用する)、心拍数変動分析(HRV分析)、および近赤外分光法(NIRS)を含む。患者/被験者から得た試料中のATPレベルをインビトロで測定および定量するために使用できる、様々な市販の試験アッセイも利用可能である(例えば、Luminescent ATP Detection Assay Kit by abcam(www.abcam.com))。この特許出願の時点で、上記の効果(特にヒトに対する直接的な効果)をさらに実証する様々な臨床研究が計画されているか、または実施されようとしている。
【0124】
本明細書に記載する例および実施態様は、例示のみを目的としており、例および実施態様に対する様々な改変および変更、ならびに本出願に他に記載される特徴の組合せは、当業者には容易に明らかであり、本明細書に記載する発明の開示内容および特許請求の範囲の保護範囲に含まれることが理解される。本明細書で参照されるすべての特許および特許出願は、本出願の開示内容に組み込まれる。
【0125】
本明細書で参照されるすべての特許、特許出願、刊行物および文書は、出典明示によりその全体として本明細書の一部とする。上記の特許、特許出願、刊行物および文書への言及は、前記の特許、特許出願、刊行物および文書のいずれかが関連する先行技術であることを認めるものではなく、また、当該刊行物または文書の内容または日付について認めるものでもない。これらの言及は、関連する開示の検索を示すものではない。文書の日付または内容に関する記載は入手可能な情報に基づいており、その正確性または正しさを認めるものではない。
【0126】
技術の基本的な態様から逸脱することなく、上記の内容に変更を加えることができる。しかしながら、技術は、1つ以上の特定の実施態様を参照してかなり詳細に記載されているが、当業者であれば、本出願で具体的に開示される実施態様に変更を加えることができることを認識するであろう。しかしながら、これらの変更および改良は本発明の範囲内である。
【0127】
例示として本明細書に記載される技術は、本明細書に具体的に開示されていない要素ない場合も好都合に実施できる。例えば、各場合において、用語「を含む」、「からなる」および「本質的にからなる」と「からなる」は、他の2つの用語のうちの1つで置き換えることができる。
【0128】
使用される用語および表現は、限定するものではなく説明的なものであることを意図しており、そのような用語および表現の使用は、示され記載される特徴またはその一部と同等のものを排除するものではなく、特許請求される技術の範囲内で様々な改変が可能である。用語「方法」および「手順」は、本明細書で相互交換可能に用いられる。
【0129】
用語「ある(a)」または「ある(an)」は、文脈から要素の1つまたは要素の2つ以上が記載されていることが明らかでない限り、それが修飾する要素の1つ以上を指し得る(例えば「担体」が1つ以上の担体を意味し得る)。
【0130】
本明細書で用いる用語「およそ」または「約」は、基礎となるパラメーターの10%以内の値(すなわち、プラスまたはマイナス10%)を指し、一連の値の最初に用語「およそ」または「約」の使用は、値の各々を修飾する(すなわち、「約1、2および3」は、約1、約2および約3を指す)。例えば、「およそ100グラム」という重量は、90グラムと110グラムの間の重量を含み得る。値のリストが本明細書に記載されている場合(例えば、約50%、60%、70%、80%、85%または86%)、リストはすべての中間値およびその端数(例えば、54%、85.4%)を含む。
【0131】
したがって、本技術が代表的な実施態様および任意選択の特徴によって具体的に開示されているが、本明細書に開示される概念の改変および変形は、当業者によってなされ得て、このような改変および変形は、この技術の範囲内とみなされることを理解されたい。
【0132】
技術の特定の実施態様は、特許請求の範囲に記載されている。
【0133】
【表1】

【表2】
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3
【国際調査報告】