(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-23
(54)【発明の名称】再生可能なジェット燃料組成物
(51)【国際特許分類】
C10L 1/04 20060101AFI20240816BHJP
C10G 3/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C10L1/04
C10G3/00 Z
C10G3/00 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515684
(86)(22)【出願日】2022-09-12
(85)【翻訳文提出日】2024-04-12
(86)【国際出願番号】 EP2022075311
(87)【国際公開番号】W WO2023036988
(87)【国際公開日】2023-03-16
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510063177
【氏名又は名称】トタルエナジーズ ワンテック
(74)【代理人】
【識別番号】100107375
【氏名又は名称】武田 明広
(72)【発明者】
【氏名】ピカール,フロレン
(72)【発明者】
【氏名】シャバン,フランス
(72)【発明者】
【氏名】ゲーレ,クリストフ
【テーマコード(参考)】
4H129
【Fターム(参考)】
4H129AA01
4H129BA03
4H129BA10
4H129BA12
4H129BB06
4H129BB07
4H129BB10
4H129BC41
4H129BC43
4H129NA24
4H129NA50
(57)【要約】
本発明は、エステルと脂肪酸の水素化処理、又は、フィッシャー・トロプシュ法から得られる少なくとも1種のパラフィン系塩基を65~95質量%含み、また、90質量%のパラフィン、及び、少なくとも1種のC6~C16又はC8~C16芳香族塩基を5~35質量%含む、再生可能原料から得られるジェット燃料組成物に関する。前記芳香族塩基は、少なくとも1種のC2バイオアルコールを燃料に変換する方法に供することによって生成されるバイオ燃料のC6~C16又はC8~C16フラクションに相当することを特徴とする。また、前記芳香族塩基は、少なくとも60質量%の芳香族化合物を含み、前記芳香族化合物が、少なくともC2~C5のn-アルキル(nは1~3の整数)で置換された少なくとも50質量%のベンゼンを含むことを特徴とする。最終的なジェット燃料組成物は、9.5質量%未満のC6~C16シクロアルカンを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.エステルと脂肪酸の水素化処理から、又は、フィッシャー・トロプシュ法から得られ、少なくとも90質量%のパラフィンを含む、65~95質量%、好ましくは70~95質量%の、少なくとも1種のパラフィン系塩基と、
b.少なくとも1種のC2バイオアルコールを燃料に変換する方法に供することによって生成されるバイオ燃料のC6~C16又はC8~C16フラクションに対応することを特徴とし、また、少なくともn個、nは1~3の整数、のC2~C5アルキルで置換されたベンゼンを少なくとも50質量%含む、少なくとも60質量%の芳香族化合物を含有することを特徴とする、5~35質量%、好ましくは5~30質量%の、少なくとも1種のC6~C16又はC8~C16芳香族塩基と、を含み、
9.5質量%未満のC6~C16シクロアルカンを含む、再生可能原料から得られるジェット燃料組成物。
【請求項2】
少なくとも1種の芳香族塩基が、少なくとも1種のC2バイオアルコールを燃料に変換する方法に供することによって生成されるC4+バイオ燃料、特にC4~C20又はC6~C20バイオ燃料のC6~C16又はC8~C16フラクションに対応する、請求項1に記載のジェット燃料組成物。
【請求項3】
70~80質量%の少なくとも1種のパラフィン系塩基a)、好ましくは80~85質量%の少なくとも1種のパラフィン系塩基a)、優先的には85~92質量%の少なくとも1種のパラフィン系塩基a)、更に好ましくは92~95質量%の少なくとも1種のパラフィン系塩基a)を含む、請求項1又は2に記載のジェット燃料組成物。
【請求項4】
20~30質量%の少なくとも1種の芳香族塩基b)、好ましくは15~20質量%の少なくとも1種の芳香族塩基b)、優先的には8~15質量%の少なくとも1種の芳香族塩基b)、更に好ましくは5~8質量%の少なくとも1種の芳香族塩基b)を含む、請求項1~3のいずれかに記載のジェット燃料組成物。
【請求項5】
芳香族塩基b)が、少なくとも70質量%の芳香族化合物、好ましくは少なくとも80質量%の芳香族化合物、優先的には少なくとも90質量%の芳香族化合物を含む、請求項1~4のいずれかに記載のジェット燃料組成物。
【請求項6】
少なくとも1種のパラフィン系塩基a)が、植物油、動物性脂肪、優先的には非食用の高飽和油、廃油、植物油又は動物油又は遊離脂肪酸を含む油の精製副産物、トール油、及び、細菌、酵母、藻類、原核生物又は真核生物によって生成される油から選択される1種以上の油から生成されることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載のジェット燃料組成物。
【請求項7】
少なくとも以下のステップを含む、再生可能原料から得られるジェット燃料組成物を製造する方法。
a)エステルと脂肪酸の水素化処理、又は、フィッシャー・トロプシュ法から、少なくとも90質量%のパラフィンを含む少なくとも1種のパラフィン系塩基を生成するステップ、
b)少なくとも以下のステップを含む、少なくとも1種のC6~C16又はC8~C16芳香族塩基を生成するステップ、
i)バイオエタノール単独、又は、他のC1~C6バイオアルコールとの混合物を、燃料に変換する方法に供することにより、バイオ燃料を生成するステップ、
ii)ステップi)で得られた前記バイオ燃料の分別により、少なくともn個、nは1~3の整数、のC2~C5アルキルで置換されたベンゼンを少なくとも50質量%含む芳香族化合物を少なくとも60質量%含有する、前記C6~C16又はC8~C16芳香族塩基を回収するステップ、
c)ステップa)で生成された少なくとも1種のパラフィン系塩基65~95質量%、好ましくは70~95質量%と、ステップb)で生成された少なくとも1種の芳香族塩基5~35質量%、好ましくは5~30質量%とを混合して、9.5質量%未満のC6~C16シクロアルカンを含むジェット燃料組成物を得るステップ。
【請求項8】
ステップb)i)が、C4+バイオ燃料、特にC4~C20又はC6~C20バイオ燃料を製造するステップであることを特徴とする、請求項7に記載の再生可能原料から得られるジェット燃料組成物を製造する方法。
【請求項9】
少なくとも1種のパラフィン系塩基a)が、植物油、動物性脂肪、好ましくは非食用の高飽和油、廃油、植物油又は動物油又は遊離脂肪酸を含む油の精製副産物、トール油、及び、細菌、酵母、藻類、原核生物又は真核生物によって生成される油から選択される1種以上の油から生成されることを特徴とする、請求項7又は8に記載の再生可能原料から得られるジェット燃料組成物を製造する方法。
【請求項10】
ステップc)の混合が、ステップa)で生成された少なくとも1種のパラフィン系塩基70~80質量%と、ステップb)で生成された少なくとも1種の芳香族塩基20~30質量%とを混合すること、好ましくはステップa)で生成された少なくとも1種のパラフィン系塩基80~85質量%と、ステップb)で生成された少なくとも1種の芳香族塩基20~15質量%とを混合すること、優先的にはステップa)で生成された少なくとも1種のパラフィン系塩基85~92質量%と、ステップb)で生成された少なくとも1種の芳香族塩基15~8質量%とを混合すること、更に好ましくはステップa)で生成された少なくとも1種のパラフィン系塩基92~95質量%と、ステップb)で生成された少なくとも1種の芳香族塩基5~8質量%とを混合することを含むことを特徴とする、請求項7~9のいずれかに記載の再生可能原料から得られるジェット燃料組成物を製造する方法。
【請求項11】
ステップa)、b)及びc)が、別個の方法で実施されることを特徴とする、請求項7~10のいずれか一項に記載のジェット燃料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェット燃料の分野、特に、再生可能な原料に由来するジェット燃料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のジェット燃料タイプの燃料は、原油から製造され、通常6~18個の炭素原子を有する炭化水素の複雑な混合物が含まれている。これらの炭化水素には、直鎖アルカン、分岐アルカン、シクロアルカン、及び、芳香族炭化水素が含まれる。石油由来の原料と製造方法のため、従来のジェット燃料タイプの燃料(ジェットとも呼ばれる)には、通常、最大25質量%の芳香族炭化水素、より一般的には、10~25質量%の芳香族炭化水素が含まれている。芳香族炭化水素のかなりの割合(通常は、少なくとも5%程度)は、多環式(つまり、2つ以上の芳香環を含む)であり、一般にナフタレン型である。このような化合物は、健康に有害であり(例えば、発がん性)、燃焼特性が劣っている。
【0003】
環境、経済、エネルギーの制約により、特に航空分野では、エネルギー資源の多様化と新しい燃料の開発が促進されている。
【0004】
生物由来の再生可能燃料は、従来の化石燃料の代替品である。従来のジェット燃料は、規格D7566-21で規定されているように、再生可能原料から得られるパラフィンベースと混合でき、従って、代替航空燃料の生産が可能となる。化石ジェット燃料に組み込むことができる再生可能原料由来の航空燃料のベースは、次の通りである。
・フィッシャー・トロプシュ法、エステルと脂肪酸の水素化処理[HEFA-SPK]、又は、アルコール・トゥ・ジェット法(アルコールから灯油への変換)[ATJ-SPK]によって製造される合成パラフィン系灯油[SPK]
・発酵糖類を水素化処理して製造した合成イソパラフィン[SIP-HFS]
・非石油系軽質芳香族化合物をアルキル化して得られる合成芳香族灯油[SPK/A]
・脂肪酸エステルや脂肪酸を水熱変換して得られる合成灯油
・エステル系炭化水素と水素化処理された脂肪酸から得られる合成パラフィン系灯油[SPK]
【0005】
現在、これらの再生可能な航空燃料ベースは、その組成が化石ジェット燃料とは大きく異なるため、ほとんど単独で使用することができず、特に燃料が接触する要素の材料との適合性の問題が生じる。この点、入手可能な再生可能航空燃料ベースの大部分には、芳香族化合物が含まれていないため、材料(特に特定のシール)との適合性の問題が発生する可能性がある。
【0006】
実際、ジェット燃料中の芳香族化合物の最小含有量は、規格ASTM-D1655-21によって、8体積%に固定されている。更に、ジェットA1の規格ASTMD1655-21aによれば、芳香族化合物の含有量は、ジェット燃料中の最大25体積%に制限されている。芳香族含有量が多すぎる場合や、多芳香族タイプの芳香族化合物を組み込んだ場合、燃焼特性に欠陥が生じる可能性がある。
【0007】
米国特許第10,731,085号には、パラフィン及び芳香族化合物を含むディーゼル又はジェットのための再生可能燃料の製造が記載されている。この組成物は、生物原料の水素処理とそれに続く分別によって得られる。この組成物は、10~40質量%のC8~C30シクロアルカンを含む。この組成物は、化石原料から得られるジェット燃料と混合して使用することができる。
【0008】
米国特許出願公開第2009/0253947号には、パラフィンが豊富な成分と環状化合物が豊富な成分(いずれも再生可能な原料から生成される)から、燃料混合物を製造する方法、特に、統合生産方法が記載されている。
【0009】
欧州特許第3292187号には、石油由来の灯油とバイオ灯油を含む混合物に使用される芳香族化合物が記載されている。
【0010】
フランス特許第3041360号には、灯油(合成パラフィン系灯油(SPK-HEFA又はSPK-FT)又は合成イソパラフィン(SIP))と、1種以上の芳香族化合物(単独又は混合物)との混合物が記載されている。記載されている芳香族化合物は、置換ベンゼン、及び/又は、テトラリン(C10H12)、及び/又は、デカリン(C10H16)である。n個(nは1~6の整数)のメチルで置換されたベンゼンの割合は、組成物の総体積に対して2~15体積%である。
【0011】
米国特許出願公開第2009/0000185号には、主にイソパラフィン及びn-パラフィンを含む非石油由来の第1成分と、主にシクロアルカン及び芳香族から選択される炭化水素を含む第2成分とを含む灯油が記載されている。
【0012】
これらの組成物はいずれも、既存のシステムとの良好な適合性を確保しながら、燃焼の質、特に発煙点を改善するために、最終的なジェット燃料組成物中の芳香族化合物の割合と種類を最適化することを可能にはしない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第10731085号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0253947号公報
【特許文献3】欧州特許第3292187号公報
【特許文献4】フランス特許第3041360号公報
【特許文献5】米国特許出願公開第2009/0000185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、再生可能原料のみから得られる新規燃料、特に、主にパラフィン系塩基との混合物中に芳香族塩基を組み込むことによって、芳香族化合物の割合と、主に単芳香族化合物の割合が最適化されたジェット燃料が、真に必要とされている。
【0015】
本発明は、芳香族化合物の割合、及び、前記芳香族化合物の性質が最適化された組成物を提供することを目的とする。実際、芳香族の割合を最適化することで、特に、化石燃料の場合のように過剰な芳香族を導入することなく、芳香族の仕様を達成するために配合を調整することが可能になる。更に、最適化により、芳香族の性質を制御し、主に単芳香族を組み込むことが可能になり、燃焼特性を改善することが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的のため、本発明は、a)エステルと脂肪酸の水素化処理から、又は、フィッシャー・トロプシュ法から得られ、少なくとも90質量%のパラフィンを含む、65~95質量%、好ましくは70~95質量%の、少なくとも1種のパラフィン系塩基と、b)少なくとも1種のC2バイオアルコールを燃料に変換する方法に供することによって生成されるバイオ燃料のC6~C16又はC8~C16フラクションに対応することを特徴とし、また、少なくともn個、nは1~3の整数、のC2~C5アルキルで置換されたベンゼンを少なくとも50質量%含む、少なくとも60質量%の芳香族化合物を含有することを特徴とする、5~35質量%、好ましくは5~30質量%の、少なくとも1種のC6~C16又はC8~C16芳香族塩基と、を含み、9.5質量%未満のC6~C16シクロアルカンを含む、再生可能原料から得られるジェット燃料組成物に関する。
【0017】
有利には、芳香族塩基が、少なくとも1種のC2バイオアルコールを燃料に変換する方法に供することによって生成されるC4+バイオ燃料、特にC4~C20又はC6~C20バイオ燃料のC6~C16又はC8~C16フラクションに対応することができる。
【0018】
一実施形態では、少なくとも1種の芳香族塩基b)は、少なくとも1種のC2バイオアルコールを燃料に変換する方法に供することによって生成されるC6~C20バイオ燃料のC8~C16フラクションに相当するC8~C16芳香族塩基とすることができる。
【0019】
65~95質量%、及び、70~95質量%というパラフィン系塩基の割合は、それぞれ約68~96体積%、及び、約73~96体積%に相当することに留意すべきである。5~35質量%、及び、5~30質量%という芳香族塩基の割合は、それぞれ約4~32体積%、及び、約4~27体積%に相当する。
【0020】
有利には、このジェット燃料組成物は、少なくとも1種のパラフィン系塩基a)を、70~80質量%、好ましくは80~85質量%、優先的には85~92質量%、更に好ましくは92~95質量%を含む。
【0021】
有利には、このジェット燃料組成物は、少なくとも1種の芳香族塩基b)を、20~30質量%、好ましくは15~20質量%、優先的には8~15質量%、更に好ましくは5~8質量%含む。
【0022】
有利には、少なくとも1種の芳香族塩基b)は、少なくとも70質量%の芳香族化合物、好ましくは少なくとも80質量%の芳香族化合物、優先的には少なくとも90質量%の芳香族化合物を含む。特に、これらの芳香族化合物は、主に(即ち、50質量%以上が)単芳香族化合物である。
【0023】
有利には、少なくとも1種のパラフィン系塩基a)が、植物油、動物性脂肪、優先的には非食用の高飽和油、廃油、植物油又は動物油又は遊離脂肪酸を含む油の精製副産物、トール油、及び、細菌、酵母、藻類、原核生物又は真核生物によって生成される油から選択される1種以上の油から生成される。
【0024】
本発明はまた、少なくとも以下のステップを含む、再生可能原料から得られるジェット燃料組成物を製造する方法に関する。
a)エステルと脂肪酸の水素化処理、又は、フィッシャー・トロプシュ法から、少なくとも90質量%のパラフィンを含む少なくとも1種のパラフィン系塩基を生成するステップ、
b)少なくとも以下のステップを含む、少なくとも1種のC6~C16又はC8~C16芳香族塩基を生成するステップ、
i)バイオエタノール単独、又は、他のC1~C6バイオアルコールとの混合物を、燃料に変換する方法に供することにより、バイオ燃料を生成するステップ、
ii)ステップi)で得られた前記バイオ燃料の分別により、少なくともn個(nは1~3の整数)のC2~C5アルキルで置換されたベンゼンを少なくとも50質量%含む芳香族化合物を少なくとも60質量%含有する、前記C6~C16又はC8~C16芳香族塩基を回収するステップ、
c)ステップa)で生成された少なくとも1種のパラフィン系塩基65~95質量%、好ましくは70~95質量%と、ステップb)で生成された少なくとも1種の芳香族塩基5~35質量%、好ましくは5~30質量%とを混合して、9.5質量%未満のC6~C16シクロアルカンを含むジェット燃料組成物を得るステップ。
【0025】
一実施形態では、ステップb)i)は、バイオエタノール単独、又は、他のC1~C6バイオアルコールとの混合物を、燃料に変換する方法に供することにより、C4+バイオ燃料、特にC4~C20又はC6~C20バイオ燃料を製造するステップである。
【0026】
有利には、ステップa)から得られる少なくとも1種のパラフィン系塩基は、植物油、動物性脂肪、好ましくは非食用の高飽和油、廃油、植物油又は動物油又は遊離脂肪酸を含む油の精製副産物、トール油、及び、細菌、酵母、藻類、原核生物又は真核生物によって生成される油から選択される1種以上の油から生成される。
【0027】
有利には、ステップc)は、ステップa)で生成された少なくとも1種のパラフィン系塩基70~80質量%と、ステップb)で生成された少なくとも1種の芳香族塩基20~30質量%とを混合することを含む。
【0028】
或いは、ステップc)は、ステップa)で生成された少なくとも1種のパラフィン系塩基80~85質量%と、ステップb)で生成された少なくとも1種の芳香族塩基20~15質量%とを混合することを含む。
【0029】
或いは、ステップc)は、ステップa)で生成された少なくとも1種のパラフィン系塩基85~92質量%と、ステップb)で生成された少なくとも1種の芳香族塩基15~8質量%とを混合することを含む。
【0030】
或いは、ステップc)は、ステップa)で生成された少なくとも1種のパラフィン系塩基92~95質量%と、ステップb)で生成された少なくとも1種の芳香族塩基5~8質量%とを混合することを含む。
【0031】
ステップa)、b)及びc)は、別個の方法で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、実施例1による混合物中の炭化水素の分布。
【
図2】
図2は、150~230℃のカットの芳香族含有量の関数としての発煙点の変化曲線。
【発明を実施するための形態】
【0033】
ここで使用される「コンプライジング」及び「コンプライジズ」という用語は、「インクルーディング」、「インクルーズ」、又は、「コンテインズ」、「コンテイニング」と同義であり、包括的であり、限定的ではなく、不特定の追加の特性、要素、又は、方法ステップを排除するものではない。
【0034】
重量%及び質量%という表現は、同等の意味を有し、ある製品を含む組成物100gに対するその製品の質量の割合を指す。
【0035】
炭素原子数の分布は、実際の沸点の分布とガスクロマトグラフィーによって求められる。本明細書で使用される、所定の炭素原子数におけるパラフィン及びイソパラフィンの総量は、芳香族カットについては規格NF EN ISO 22854によって、また、パラフィン系塩基と芳香族カットの混合物についてはガスクロマトグラフィー(GC×GC)によって求められる。
【0036】
芳香族化合物とナフテンの割合は、逆相ガスクロマトグラフィー(Gc×GC逆相)によって測定できる。芳香族化合物の割合は、ASTM D1319-20Aに従って求めることができる。
【0037】
ここで示される沸点は、別段の記載がない限り大気圧で測定される。初留点は、最初の蒸気泡が形成される温度値として定義される。蒸留性状における終点は、蒸留中に到達できる最高温度である。この温度では、それ以上蒸気を凝縮器に輸送することはできない。初留点及び終点の決定には、当技術分野で知られている技術が使用され、蒸留温度範囲に応じて適用されるいくつかの方法が適用可能である。ここでは、規格ASTM D86-20bを使用することができる。
【0038】
ジェット燃料タイプの炭化水素の凝固点は、規格ASTM D2386-19/D7153-15e1/D5972-16/IP435(2016)に従って測定できる。
【0039】
ジェット燃料タイプの炭化水素の密度は、規格ASTM D4052-18又はIP365に従って測定できる。
【0040】
〔本発明によるパラフィン系塩基〕
パラフィン系塩基とは、規格ASTM D7566:21に準拠し、少なくとも90質量%、より多くの場合、少なくとも95質量%のパラフィン系化合物を含む、非石油由来の原料から製造されたパラフィン系合成燃料を意味する。
【0041】
これらのパラフィン系化合物は、典型的には、イソパラフィン、n-パラフィン、及び、シクロパラフィンを含み、有利には、イソパラフィンが大部分(50質量%以上)で存在する。
【0042】
前記パラフィン系合成燃料は、有利には、エステルと脂肪酸の水素化処理から得られ(SPK-HEFA)、又は、フィッシャー・トロプシュ法から得られる(SPK-FT)、合成パラフィン系ケロシン(SPK)である。
【0043】
従って、本発明のパラフィン系合成燃料は、非化石由来の化合物のみから得られる再生可能な燃料である。
【0044】
再生可能なパラフィン系合成燃料SPK-HEFAは、天然由来の油から、脂肪酸エステル及び遊離脂肪酸の水素化及び脱酸素の方法によって製造することができ、また、水素化分解、又は、水素化異性化、又は、異性化、又は、それらの組み合わせを含む、その後の処理によって製造することができ、また、他の従来の精製方法を含めることができる。換言すれば、再生可能なパラフィン系合成燃料SPK-HEFAは、天然由来の油のエステルと脂肪酸の水素化処理によって製造される。
【0045】
天然由来の油は、鉱物油を含まないバイオマス由来の油として定義される。本明細書において、「天然由来の油」とは、油、脂肪、及び、それらの混合物を区別なく指す。
【0046】
前記天然由来の油は、植物油、動物性脂肪、好ましくは非食用の高飽和油、廃油、遊離脂肪酸を含む植物油又は動物油の精製副産物、トール油、及び、細菌、酵母、藻類、原核生物、及び、真核生物によって生成される油から選択される1種又は複数の油を含むことができる。
【0047】
適切な植物油は、例えばパーム油、パーム核油、大豆油、菜種油(菜種油又はキャノーラ油)、ヒマワリ油、亜麻仁油、ふすま油、米油、トウモロコシ油、オリーブ油、ヒマシ油、ゴマ油、松油 、落花生油、マスタード油、カリナータ油、麻油、ココナッツ油、ババス油、綿実油、リノラ油、ジャトロファ油である。
【0048】
動物性脂肪には、スエット、ラード、グリース(黄色グリース及び茶色グリース)、魚油/脂肪、脂肪、乳脂肪が含まれる。
【0049】
植物油又は動物油の精製副産物は、中和、又は、真空、蒸気蒸留によって原料油脂から除去される遊離脂肪酸を含む副産物である。代表的な例は、PFAD(パーム脂肪酸留出物)である。
【0050】
廃油には、廃食用油(廃食品油)や、排水油脂、側溝油、例えば浄水場からの下水油等の廃水から回収された油や、食品産業からの廃グリースが含まれる。
【0051】
未加工トール油、蒸留トール油(DTO)、及び、トール油脂肪酸(TOFA)を含むトール油(好ましくはDTO及びTOFA)も、本発明で使用することができる。
【0052】
トール油(タロールとも呼ばれる)は、製紙産業に有用な木材パルプを最初に単離することを可能にするクラフト木材変換法の液体副産物である。トール油は、主に針葉樹をクラフト法で使用する場合に得られる。木材チップを水溶液中で硫化ナトリウムで処理した後、単離されたトール油はアルカリ性である。後者は次に硫酸で酸性化されて粗トール油が生成される。
【0053】
本発明で使用される天然由来の油は、細菌、酵母、藻類、原核生物、又は、真核生物などの天然微生物、又は、遺伝子組み換え微生物のいずれかである微生物によって生成される油も含む。特に、そのような油は、周知の機械的又は化学的抽出方法によって回収することができる。
【0054】
再生可能なパラフィン系合成燃料SPK-FTは、フィッシャー・トロプシュ法から得られ、固体バイオマスから生産できる。BtL(バイオマスから液体へ)とも呼ばれるバイオマスの熱化学変換(ガス化及びフィッシャー・トロプシュ合成)には、次のステップが含まれる:バイオマスの調整(調製、粉砕、焙焼)、バイオマスのガス化(合成ガスの取得)、合成ガスの精製、ガスを合成バイオ燃料に変換するためのフィッシャー・トロプシュ合成。
【0055】
前述の方法のうち、いずれの方法が使用される場合でも、ジェット燃料の低温特性(特に結晶の消失点(ジェット燃料A1の場合、-47℃以下でなければならない))への適合を阻害する可能性がある最も重いパラフィンを除去するために、パラフィン系合成燃料を、本発明の組成物に組み込む前に蒸留工程に供することができる。特に、ジェット燃料A1の揮発性特性と引火点の要件に適合させるために、最も軽い化合物を蒸留によって分離することもできる。
【0056】
前述の方法のうち、いずれの方法が使用される場合でも、再生可能なパラフィン系合成燃料は、次の特性を一つ以上有し得る。
・パラフィン含有量が90質量%以上、
・シクロパラフィン含有量が10質量%未満、
・凝固点が-30℃未満、好ましくは-40℃未満、例えば-47℃未満、
・15℃での密度が730~780kg/m3、
・蒸留温度範囲が145℃~315℃、
・イソパラフィン含有量が70質量%以上。
【0057】
〔本発明による芳香族塩基〕
C6~C16又はC8~C16芳香族塩基は、以下のステップに従って製造することができる。
ステップi) 少なくとも1種の再生可能原料から得られるバイオエタノールを、アルコールを燃料に変換する方法に供することによって、バイオ燃料を生成し、
ステップii) ステップi)で得られた前記バイオ燃料から、前記C6~C16又はC8~C16芳香族塩基を回収する。
【0058】
一実施形態では、芳香族塩基はC8~C16芳香族塩基である。
【0059】
ステップi)で生成されるバイオ燃料は、典型的にはC4+バイオ燃料、特にC4~C20又はC6~C20バイオ燃料である。
【0060】
C6~C16又はC8~C16芳香族塩基は、以下のステップに従って製造することができる。
ステップi) 少なくとも1種の再生可能原料から得られるバイオエタノールを、アルコールを燃料に変換する方法に供することによって、C4+(特にC4~C20又はC6~C20)バイオ燃料を生成し、
ステップii) ステップi)で得られた前記バイオ燃料から、前記C6~C16又はC8~C16芳香族塩基を回収する。
【0061】
〔ステップi) バイオ燃料の製造〕
ステップi)によるバイオ燃料の製造は、バイオエタノール単独、又は、他のC1~C6バイオアルコールとの混合物を、触媒法で変換することによって得ることができる。触媒法は、アルミノケイ酸塩床(好ましくはゼオライトタイプの)上で実施することができる。
【0062】
バイオエタノールは、少なくとも1種の植物由来の原料の微生物、酵母、及び/又は、細菌の発酵作用によるエタノール発酵を使用して生成することができる。
【0063】
バイオ燃料、特にC4+バイオ燃料(例えばC4~C20又はC6~C20)を得る1つの方法は、例えば、欧州特許第2940103号、又は、欧州特許第3307853号に記載されている。
【0064】
〔ステップii) C6~C16又はC8~C16芳香族塩基の回収〕
ステップi)で得られたバイオ燃料、特にC4+バイオ燃料(例えばC4~C20又はC6~C20)は、航空燃料の揮発性特性を満たすために分別されて、C6~C16又はC8~C16フラクションが回収される。
【0065】
本発明によるC6~C16又はC8~C16芳香族塩基は、次の特性を一つ以上有し得る。
・C8~C16芳香族化合物(特に単芳香族化合物)(少なくともn個(nは1~3の整数)のC2~C5アルキルで置換されたベンゼンを少なくとも50質量%含む)が少なくとも60質量%、
・ナフテン類が8~15質量%、
・イソパラフィンが5~15質量%、
・n-パラフィンが5質量%未満、
・規格ASTM D1298-12b(2017)に従って測定された密度が855~870kg/m3。
【0066】
少なくとも60質量%の割合で存在する前記芳香族化合物が、少なくともn個のC2~C5アルキルで置換されたベンゼンを含むことに留意すべきである。従って、これらの芳香族化合物は、少なくともn個のC2~C5アルキルで置換されたベンゼン分子と、場合により少なくともn個のC2~C5アルキルおよびm個(mは1~3の整数)のメチルで置換されたベンゼン分子との混合物を含むことができる。
【0067】
特に、本発明によるパラフィン系及び芳香族塩基の生成は、異なる再生可能資源を使用して、特に、別個の方法によって実施することができる。
【0068】
〔本発明による混合物〕
有利には、本発明によるジェット燃料組成物は、2021年7月の規格ASTM D7566:2021(実質的にDefStan 91-091 Issue 12に対応する)、又は、DefStan 91-091 Issue 11(規格ASTM D7566:21に言及している)において定義されるJet A又はJet A1要件に従うことができる。特に、本発明によるジェット燃料組成物中のパラフィン系塩基a)と芳香族塩基b)の割合は、本発明によるジェット燃料組成物がこれらの要件を満たすように選択することができる。
【0069】
有利な実施形態では、少なくとも1種のパラフィン系塩基a)と、少なくとも1種の芳香族塩基b)は、再生可能原料(特に、独特の再生可能原料)の別々の処理(個別の方法)に由来する。
【0070】
好ましい実施形態では、本発明によるジェット燃料組成物は、再生可能な原料に由来するパラフィン系塩基a)及び、芳香族塩基b)からなる。特に、本発明によるジェット燃料組成物は、石油由来の成分を含まない。
【0071】
以下の実施例は、本発明を説明するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0072】
本発明による混合物を調製する。この混合物は、本発明によるパラフィン系塩基a)に適合するHEFAを90質量%、及び、C8~C16芳香族塩基b)を10質量%含有する。
【0073】
本発明によるジェット燃料組成物が規格ASTM D7566:21の要件に適合するように、他の添加剤を組成物に添加することができる。
【0074】
芳香族塩基b)を添加すると、
図1に示すように、C8~C12含有量が増加した組成物を得ることが可能になる。
【0075】
化石ジェット燃料と比較して、本発明による組成物は、多環芳香族炭化水素含有量が少ない。従って、芳香族炭化水素の総量に対する単芳香族炭化水素の量は、化石ジェット燃料よりも本発明による組成物の方が多い。従って、この組成物は、燃料の多芳香族炭化水素含有量を低減し、単芳香族炭化水素の割合を増加させるのに有用である。発煙点の向上と煤の排出量の減少による燃焼の改善という点で有利である。
【実施例2】
【0076】
〔発煙点への影響〕
化石由来の様々な原油から得られる灯油カット(150~230℃)を分析して、芳香族化合物の含有量と発煙点を測定した。
【0077】
発煙点は、規格ASTM D1322-19に従って測定した。
【0078】
芳香族化合物の含有量は、規格ASTM D1319-20Aに従って測定した。
【0079】
図2は、これらの灯油カットの芳香族含有量の関数として発煙点の変化を示している。
【0080】
本発明によるC1~C4ジェット燃料組成物を、表1に示す割合で調製した。これらの組成物は、SPK-HEFA(密度760.9kg/m3)と、芳香族塩基A1(C1組成物)又は芳香族塩基A2(C2~C4組成物)との混合物である。
【0081】
芳香族塩基A1は、バイオ燃料の140+℃カットに対応する。芳香族塩基A2は、バイオ燃料の135+℃カットに対応する。これらの塩基には、主にカットポイント150℃以上の化合物が含まれている。
【0082】
芳香族塩基A1及びA2の特性を、表2~4に示す。密度は、規格ASTM D1298-12b(2017)に従って測定した。
【0083】
C1~C4組成物の発煙点を測定した。結果を表1に示す。
【0084】
【0085】
【0086】
表3-規格NF EN ISO 22854に準拠した分析による塩基A1の組成
【表3】
【0087】
表4-規格NF EN ISO 22854に準拠した分析による塩基A2の組成
【表4】
【0088】
表5は、組成物C1及びC2の全芳香族含有量を示す。
【表5】
【0089】
図2に示すように、12又は13体積%の芳香族化合物の総割合を有する化石由来のジェット燃料は、27~28mmの発煙点を有するが、本発明によるジェット燃料は、32~33mmの発煙点を有する。この化石ジェット燃料の値との差は、標準の再現性よりも大きく、本発明による燃料組成物の発煙点の改善を示している。
【0090】
更に、表1に示すように、化石ジェット燃料と比較して、芳香族ベースの量が4.4体積%であると、発煙点に対する影響が観察される。
【実施例3】
【0091】
〔密度と粘度への影響〕
実施例2のC2~C4混合物について、-20℃及び-40℃での動粘度を、ASTM D445-21に従って測定した。
【0092】
動粘度の値を表6に示す。これを混合則に従って計算された値と比較する。この表において、Rは、-20℃での測定の再現性を表している(標準では-40℃での粘度の再現性が得られないため、-20℃と-40℃での粘度についても同じ再現性を使用した)。
【0093】
【0094】
組成物が4体積%を超える芳香族塩基を含むという条件において、芳香族塩基A2が高密度であるにもかかわらず、この芳香族塩基を用いて生成された本発明によるジェット燃料組成物は、-20℃及び-40℃において動粘度の低下が観察された。
【国際調査報告】