(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-27
(54)【発明の名称】コロナウイルススパイク受容体結合ドメイン(RBD)のN末端ドメイン(NTD)を標的にする抗ウイルス薬
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4178 20060101AFI20240820BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240820BHJP
A61K 31/445 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
A61K31/4178
A61P31/14
A61K31/445
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505316
(86)(22)【出願日】2022-08-11
(85)【翻訳文提出日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 US2022074840
(87)【国際公開番号】W WO2023039330
(87)【国際公開日】2023-03-16
(32)【優先日】2021-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】500553730
【氏名又は名称】サウスウエスト リサーチ インスティテュート
【住所又は居所原語表記】6220 CULEBRA ROAD SAN ANT ONIO,TEXAS 78238 USA
(71)【出願人】
【識別番号】524037052
【氏名又は名称】ザ ガバメント オブ ザ ユナイテッド ステイツ,アズ リプレゼンティッド バイ ザ セクレタリー オブ ジ アーミー
(71)【出願人】
【識別番号】510244570
【氏名又は名称】ザ ヘンリー エム.ジャクソン ファンデーション フォー ザ アドバンスメント オブ ミリタリー メディシン,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ボフマン,ジョナサン エー.
(72)【発明者】
【氏名】グティエレス,ナディーン エム.
(72)【発明者】
【氏名】マクドナー,ジョセフ エー.
(72)【発明者】
【氏名】キャンベル,ロバート フランシス
(72)【発明者】
【氏名】ジョイス,マイケル ゴードン
(72)【発明者】
【氏名】パンチャル,レカー
(72)【発明者】
【氏名】サンカラ,ラジェシュワー
(72)【発明者】
【氏名】デュプランティエ,アレン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC21
4C086BC39
4C086GA03
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB33
(57)【要約】
【課題】コロナウイルススパイク受容体結合ドメイン(RBD)のN末端ドメイン(NTD)を標的にする抗ウイルス薬の提供。
【解決手段】SARS-COV-1、SARS-CoV-2(Covid-19)及びMERS-CoV並びにそれぞれの変異体の治療を、それを必要とする哺乳動物対象において行うための方法であって、特定のベンゾイミダゾール化合物(化1)又はその薬学的に許容される塩を、任意選択で薬学的に許容されるキャリアにおいて、前記対象に投与することを含む方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SARS-COV-1、SARS-CoV-2(Covid-19)及びMERS-CoV並びにそれぞれの変異体の治療を、それを必要とする哺乳動物対象において行うための方法であって、有効量の以下のベンゾイミダゾール化合物:
【化1】
式中、Xは、-CH
2-又はC=Oとすることができる、及び、Rは、-OCH
3又は-NHCH
3とすることができる;
又はその薬学的に許容される塩を、任意選択で薬学的に許容されるキャリアにおいて、前記対象に投与することを含む方法。
【請求項2】
前記ベンゾイミダゾール化合物は、メチル3-(((3-(5-(1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)チオフェン-3-イル)ベンジル)アミノ)メチル)ベンゾアートを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ベンゾイミダゾール化合物は、3-(((3-(5-(1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)チオフェン-3-イル)ベンジル)アミノ)メチル)-N-メチルベンズアミドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ベンゾイミダゾール化合物は、メチル3-((3-(5-(1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)チオフェン-3-イル)ベンザミド)メチル)ベンゾアートを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
SARS-COV-1、SARS-CoV-2(Covid-19)及びMERS-CoV並びにそれぞれの変異体の治療を、それを必要とする哺乳動物対象において行うための方法であって、有効量の以下のピペリジン化合物:
【化2】
式中、R
1又はR
2は、ヒドロキシとすることができる、及び、他方は、H、メトキシ(-OCH
3)又はエトキシ(-OCH
2CH
3)である並びにR
3及びR
4は、独立して、H、F、Cl、CF
3又は-OCH
3である;
又はその薬学的に許容される塩を、任意選択で薬学的に許容されるキャリアにおいて、前記対象に投与することを含む方法。
【請求項6】
前記ピペリジン化合物は、1-(3-エトキシ-4-ヒドロキシベンジル)-N-(3’-フルオロ-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミドを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ピペリジン化合物は、1-(3-エトキシ-4-ヒドロキシベンジル)-N-(3’-(トリフルオロメチル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミドを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記ピペリジン化合物は、1-(3-エトキシ-4-ヒドロキシベンジル)-N-(3’-メトキシ-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミドを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記ピペリジン化合物は、N-(3’-クロロ-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)-1-(4-ヒドロキシベンジル)ピペリジン-4-カルボキサミドを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記ピペリジン化合物は、N-(3’-クロロ-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)-1-(3-ヒドロキシ-4-メトキシベンジル)ピペリジン-4-カルボキサミドを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記ピペリジン化合物は、N-(3’-クロロ-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)-1-(3-エトキシ-4-ヒドロキシベンジル)ピペリジン-4-カルボキサミドを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
前記ピペリジン化合物は、N-(4’-クロロ-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)-1-(3-エトキシ-4-ヒドロキシベンジル)ピペリジン-4-カルボキサミドを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
SARS-COV-1、SARS-CoV-2(Covid-19)及びMERS-CoV並びにそれぞれの変異体の治療を、それを必要とする哺乳動物対象において行うための方法であって、有効量の3-[4-[3-(3,4,5-トリメトキシベンゾイル)オキシプロピル]-1,4-ジアゼパン-1-イル]プロピル3,4,5-トリメトキシベンゾアート又はその薬学的に許容される塩を、任意選択で薬学的に許容されるキャリアにおいて、前記対象に投与することを含む方法。
【請求項14】
SARS-COV-1、SARS-CoV-2(Covid-19)及びMERS-CoV並びにそれぞれの変異体の治療を、それを必要とする哺乳動物対象において行うための方法であって、有効量のN-(2,2,2-トリフルオロエチル)-9-(4-(4-(4’-(トリフルオロメチル)-[1,1’-ビフェニル]-2-カルボキシアミド)ピペリジン-1-イル)ブチル)-9H-フルオレン-9-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩を、任意選択で薬学的に許容されるキャリアにおいて、前記対象に投与することを含む方法。
【請求項15】
SARS-COV-1、SARS-CoV-2(Covid-19)及びMERS-CoV並びにそれぞれの変異体の治療を、それを必要とする哺乳動物対象において行うための抗ウイルス薬であって、メチル3-(((3-(5-(1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)チオフェン-3-イル)ベンジル)アミノ)メチル)ベンゾアートを含む抗ウイルス薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府による資金提供を受けた研究又は開発に関する陳述
本発明は、米国陸軍医療研究開発指揮部(United States Army Medical Research and Development Command)によって認められたW81XWH-18-2-0040の下で政府の支援によりなされたものである。政府は、本発明においてある一定の権利を有する。
【0002】
分野
本発明は、スパイク受容体結合ドメイン(RBD)のN末端ドメイン(NTD)を標的にする抗ウイルス薬及びコロナウイルスで苦しむ対象を治療するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
コロナウイルス病は、世界的な大流行を招いた。コロナウイルス病-19(COVID-19)は、報告によれば、2019年末以降にWuhan(Hubei province、China)において最初に確認され、国際ウイルス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses)(ITVC)は、SARS-CoVに対する類似性により、コロナウイルス病-19をSARS-CoV-2と名づけた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
概要
SARS-COV-1、SARS-CoV-2(Covid-19)及びMERS-CoV並びにそれぞれの変異体の治療を、それを必要とする哺乳動物対象において行うための方法であって、有効量の以下のベンゾイミダゾール化合物:
【化1】
式中、Xは、-CH
2-又はC=Oとすることができる、及び。Rは、-OCH
3又は-NHCH
3とすることができる;
又はその薬学的に許容される塩を、任意選択で薬学的に許容されるキャリアにおいて、対象に投与することを含む方法。
【0005】
SARS-COV-1、SARS-CoV-2(Covid-19)及びMERS-CoV並びにそれぞれの変異体の治療を、それを必要とする哺乳動物対象において行うための方法であって、有効量の以下のピペリジン化合物:
【化2】
式中、R
1又はR
2は、ヒドロキシとすることができる、及び、他方は、H、メトキシ(-OCH
3)又はエトキシ(-OCH
2CH
3)である並びにR
3及びR
4は、独立して、H、F、Cl、CF
3又は-OCH
3である;
又はその薬学的に許容される塩を、任意選択で薬学的に許容されるキャリアにおいて、対象に投与することを含む方法。
【0006】
SARS-COV-1、SARS-CoV-2(Covid-19)及びMERS-CoV並びにそれぞれの変異体の治療を、それを必要とする哺乳動物対象において行うための方法であって、有効量の3-[4-[3-(3,4,5-トリメトキシベンゾイル)オキシプロピル]-1,4-ジアゼパン-1-イル]プロピル3,4,5-トリメトキシベンゾアート又はその薬学的に許容される塩を、任意選択で薬学的に許容されるキャリアにおいて、対象に投与することを含む方法。
【0007】
SARS-COV-1、SARS-CoV-2(Covid-19)及びMERS-CoV並びにそれぞれの変異体の治療を、それを必要とする哺乳動物対象において行うための方法であって、有効量のN-(2,2,2-トリフルオロエチル)-9-(4-(4-(4’-(トリフルオロメチル)-[1,1’-ビフェニル]-2-カルボキシアミド)ピペリジン-1-イル)ブチル)-9H-フルオレン-9-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩を、任意選択で薬学的に許容されるキャリアにおいて、対象に投与することを含む方法。
【0008】
SARS-COV-1、SARS-CoV-2(Covid-19)及びMERS-CoV並びにそれぞれの変異体の治療を、それを必要とする哺乳動物対象において行うための抗ウイルス薬であって、メチル3-(((3-(5-(1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)チオフェン-3-イル)ベンジル)アミノ)メチル)ベンゾアートを含む抗ウイルス薬。
【0009】
図面の簡単な説明
特許書類又は出願書類は、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含有する。カラー図面を有するこの特許公報又は特許出願公報の写しは、申請及び必要な料金の支払いに応じて特許庁によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、SARS-CoV-2スパイク糖タンパク質RBD-NTD-SD1キメラモデルを示す図である。RBD-NTD-SD1モデルは、高解像度のRBD構造にSARS-CoV-2 S三量体(PDB ID:6VSB)のB鎖を重ね合わせ、B鎖からSD1を、C鎖からNTDを抜き出すことによって作製した。ドメイン同士の相対的な位置により、インシリコ阻害剤探索のための標的にすることができるかもしれないくぼみを確定することができる。
【
図2A】
図2Aは、結合阻害剤を探索するために使用されるRBD-NTD-SD1モデルを、リボン図で、2つのビュー、(左)スパイク糖タンパク質を上から見下ろすビュー及び(右)180°回転させた、スパイク糖タンパク質の内部のビューで示す図である。
【
図2B】
図2Bは、表面図によるRBD-NTD-SD1モデル及びインシリコ探索から特定した4つの化合物を示す図である。
【
図2C】
図2Cは、4つの化合物に対する推定される結合部位の拡大ビューを提供する図であり、密に接触する残基をスティック表示で示し、ラベルをつけた。
【
図3】
図3は、化合物1、メチル3-(((3-(5-(1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)チオフェン-3-イル)ベンジル)アミノ)メチル)ベンゾアートについての用量反応曲線を示す図である。
【
図4】
図4は、化合物2、3-(((3-(5-(1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)チオフェン-3-イル)ベンジル)アミノ)メチル)-N-メチルベンズアミドについての用量反応曲線を示す図である。
【
図5】
図5は、化合物3、メチル3-((3-(5-(1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)チオフェン-3-イル)ベンザミド)メチル)ベンゾアートについての用量反応曲線を示す図である。
【
図6】
図6は、化合物4、1-(3-エトキシ-4-ヒドロキシベンジル)-N-(3’-フルオロ-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミドについての用量反応曲線を示す図である。
【
図7】
図7は、化合物5、1-(3-エトキシ-4-ヒドロキシベンジル)-N-(3’-(トリフルオロメチル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミドについての用量反応曲線を示す図である。
【
図8】
図8は、化合物6、1-(3-エトキシ-4-ヒドロキシベンジル)-N-(3’-メトキシ-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミドについての用量反応曲線を示す図である。
【
図9】
図9は、化合物7、N-(3’-クロロ-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)-1-(4-ヒドロキシベンジル)ピペリジン-4-カルボキサミドについての用量反応曲線を示す図である。
【
図10】
図10は、化合物8、N-(3’-クロロ-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)-1-(3-ヒドロキシ-4-メトキシベンジル)ピペリジン-4-カルボキサミドについての用量反応曲線を示す図である。
【
図11】
図11は、化合物9、N-(3’-クロロ-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)-1-(3-エトキシ-4-ヒドロキシベンジル)ピペリジン-4-カルボキサミドについて用量反応曲線を示す図である。
【
図12】
図12は、化合物10、N-(4’-クロロ-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)-1-(3-エトキシ-4-ヒドロキシベンジル)ピペリジン-4-カルボキサミドについての用量反応曲線を示す図である。
【
図13】
図13は、化合物11、ジラゼプについての用量反応曲線を示す図である。
【
図14】
図14は、N-(2,2,2-トリフルオロエチル)-9-(4-(4-(4’-(トリフルオロメチル)-[1,1’-ビフェニル]-2-カルボキシアミド)ピペリジン-1-イル)ブチル)-9H-フルオレン-9-カルボキサミドについての用量反応曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
スパイク受容体結合ドメイン(RBD)のN末端ドメイン(NTD)を標的にする、SARS-COV-1、SARS-CoV-2(Covid-19)及びMERS-CoV並びにそれぞれの変異体で苦しむ対象を治療するための組成物及び方法が、提供される。本明細書において対象、個人、宿主又は患者を指す時は、同じ意味で用いられ、診断、治療、療法が所望される任意の哺乳動物対象、特にヒトを指す。治療は、哺乳動物における疾患の任意の治療であってもよく、疾患が生じるのを予防すること、疾患を阻害すること、その発症を抑えること又は疾患を軽減すること若しくは疾患の後退を引き起こすことを含む。
【0012】
インビトロスクリーニングプロトコール
最初に、抗ウイルス活性について本明細書において特定された医薬のスクリーニングを行った。詳細には、小分子の一次スクリーニングを、2つ独立した反復試験のプレートにおいて10μMの単一の最終濃度で化合物をテストすることによって実行した。両方の反復実験プレートにおいて>50%の感染阻害及び細胞数における<20%の減少を示した化合物は、ヒットとみなされた。特定したヒットの効力及び選択指数を決定するために、化合物を、30~0.01μMの範囲の濃度の3倍段階希釈による8点用量反応及び4回の反復試験においてテストした。N-ヒドロキシシチジン(NHC)、既知の抗SARS-CoV-2活性を有する抗ウイルス剤を、基準阻害剤として使用した。
【0013】
毒性株によるすべての感染は、CDC及び米国陸軍安全規程(US Army safety regulations)に従ってBSL-3実験室において実行した。SARS-CoV-2の小分子阻害剤を特定するために、VeroE6細胞(ATCC CRL-1586)を、384ウェルイメージングプレート(Aurora Microplates、ABE2-31101A)中に4000細胞/ウェルの密度で播種した。翌日、細胞を、2時間化合物により前処理し、次いで、0.01の感染多重度(MOI)でSARS-CoV-2(USA-WA1/2020)に感染させた。感染の32時間後に、細胞を、10%ホルマリン中で固定した。ウイルス抗原を検出するために、蛍光免疫染色を実行し、ホルマリン固定細胞を、リン酸緩衝食塩水(PBS)により3回洗浄し、次いで、50μlの組み合わせた細胞透過処理及び遮断バッファー(PBS中3%BSA、0.1%Triton X-100)と共に室温(RT)でインキューベートした。1時間後、遮断バッファーを、PBS中で1:1000に希釈した50μl一次抗体溶液(SARS-CoV/SARS-CoV-2 Nucleocapsid Rabbit Mab、Sino Biological、Cat 40143-R001)と交換し、RTで1時間結合させた。50μl PBSによる2回の洗浄後、細胞を、Alexa 488抗ウサギIgG(Invitrogen A11031)の1:500希釈液により30分間染色した。30分後、細胞を、PBSにより3回洗浄した。最終ステップにおいて、PBSを、ウェル当たり50μlの1:10000 Hoechst核染料(Invitrogen H3570)及び細胞質染色剤である5mg/ml HCS Cellmask Deep Red(Invitrogen H32721)、すべてPBSにより希釈、と交換した。
【0014】
ウイルス感染を定量化するために、イメージを、10×空気対物レンズ(air objective)を使用してPerkin Elmer Operaクアッド励起共焦点顕微鏡(quad-excitation confocal microscope)(モデル5025)を使用し、取得した。核、ウイルス核タンパク質及び細胞質は、それぞれ405、488及び640nmチャネルを使用して検出した。ウイルス陽性細胞は、細胞質マスク(cytoplasmic mask)によって示される境界内の488励起シグナルの存在によって特定した。強度カットオフは、非感染対照ウェルにおけるバックグラウンド蛍光の強度によって決定し、個別の実験ごとに補正した。アッセイの頑健性は、プレートごとのZ’値を(Ji-Hu Zhang J,Thomas D.Y.Chung and Kevin R.Oldenburg,A Simple Statistical Parameter for Use in Evaluation and Validation of High Throughput Screening Assays,J.of Biomolecular Screening,4:67,1999)以下の式を使用して計算することによって決定した:
(Z’=(1-(3×シグナルmax(中立(neutral)/感染のみの対照)のSTDEV+3×STDEVシグナルmin(阻害剤/感染なしの対照))/ABS(平均シグナルmax-シグナルminの平均))。
【0015】
Z’>0.5を有するプレートは、データ解析を検討した。化合物の存在下におけるウイルス感染阻害及び細胞毒性のパーセントを決定するために、Acapellaにより生成した細胞データを、Spotfireにインポートする(視覚的解析統計ソフトウェア、Perkin Elmer Inc.、MA)。感染対照(感染及びDMSO処理)ウェルと比べてSARS-CoV-2感染の50%を超える阻害を見せた化合物及び感染対照と比べて細胞数を20%超低下させなかった化合物は、「ヒット」とみなした。ヒット化合物は、次いで、用量反応アッセイのために選択した。
【0016】
化合物の効力(EC50、EC90)、細胞毒性(CC50)及び選択指数(SI)を決定するために、用量反応曲線解析は、GeneDataソフトウェアを使用し、曲線あてはめ手法にLevenberg-Marquardtアルゴリズム(LMA)を適用して実行した。あてはめ手法は、R2>0.8である場合に許容されるとみなされる。
【0017】
SARS-CoV-2を標的にする抗ウイルス能力
多様なコロナウイルスは、ヒトに感染し、重大な病気及び疾患を引き起こし、SARS-CoV-2といった人畜共通感染症の最近の出現によって大きく取り上げられた。コロナウイルスは、ビリオン表面に位置する典型的なスパイク糖タンパク質分子を有する。SARS-CoV-2スパイク糖タンパク質は、準安定な三量体を形成する3つのインターカレーティング単量体(intercalating monomer)から構成されるI型融合糖タンパク質である。それぞれのスパイク単量体は、フューリン酵素活性によってS1及びS2に切断される。S1領域は、N末端ドメイン(NTD)及び受容体結合ドメイン(RBD)を含有する。ヒト感染及びウイルス細胞侵入のプロセスは、ヒトアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体へのRBDの結合によって開始される。これは、次いで、準安定なスパイクが融合前形態から変化できるようにし、ウイルス細胞融合及び細胞侵入をできるようにする融合ペプチドの「放出」及び構造の再配置を可能にする。SARS-CoV-2 RBDは、「アップ型」立体構造(RBD ACE2結合部位が到達できる)及び「ダウン型」立体構造(ACE2結合部位が到達できない)と称される、スパイクに関する2つの主な立体構造をとる。コロナウイルススパイク糖タンパク質は、SARS-CoV-2にとって不可欠である。
【0018】
3つのスパイク糖タンパク質単量体のインターカレーション性(intercalated nature)は、1つの鎖からのRBDが別の鎖からのNTDと並んでいることを意味する。このドメインの構成は、到達できない「ダウン型」の位置から十分に到達できる「アップ型」立体構造へのRBD受容体部位の可動性及びちょうつがい式の動き(hinging)を可能にすると考えられた。スパイクRBDの抗ウイルスターゲティングは、2つの理論的根拠、(i)ACE2結合部位の遮断並びに(ii)「アップ型」立体構造へのRBDの変化の邪魔及び従ってACE2結合部位の到達性の妨害に関係した。RBD上のACE2結合部位は、疎水性パッチを含有するが、ACE2結合と同時に可動性476~486ループのわずかな立体構造の変化もまたある。この部位は、ACE2-RBD相互作用を妨げる[PMID:32917884]及び抗ウイルス活性を有する[PMID:33310780]ペプチドベースの阻害剤によって標的にされてきた(22~44などのACE2タンパク質由来の残基の短いストレッチを利用する)。SARS-CoV-2スパイク構造についてのより最近の解析は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のロック状態の構造において(PDB ID:6ZB4)[PMID:32958580]、主にRBDに関係するが、本質的にスパイクのその「閉じた」立体構造を安定化させる「遊離脂肪酸結合ポケット」を特定した。
【0019】
1.95オングストロームの高解像度のRBD構造が、可動性476~486ループ領域を含め、RBD(残基332~526)、側鎖ロータマーの完全なマッピングを可能にしたことが本明細書において決定された。この分子を、次いで、三量体スパイクにドッキングした(PDB ID:6VSB)。
図1を参照されたい。RBD並びに近位の隣接するNTD及びSD1の互いの位置を、重ね合わせた分子から抽出し、RBD-NTD-SD1モデルを作製した。このモデルは、EMモデル由来の高解像度のRBD構造(残基321~526、水分子及びグリカンを含む)並びにNTD-SD1構造(残基27~294、321~331、527~591)から構成された。このハイブリッドモデルは、RBD残基355、396、428、462、464及びNTD残基197、201、231、331に隣接する化合物の特定を可能にした。
【0020】
SARS-CoV-2スパイク糖タンパク質RBD-NTD-SD-1モデル及び推定される小分子結合部位を示す
図2A、2B及び2Cを参照されたい。これらの結合ポケットは、RBD及びNTDの両方の不連続領域から構築される。WR415028は、本明細書における化合物4、1-(3-エトキシ-4-ヒドロキシベンジル)-N-(3’-フルオロ-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミドである。WR300740は、ジラゼプ又は3-(4-{3-[(3,4,5-トリメトキシフェニル)カルボニルオキシ]プロピル}-1,4-ジアゼパン-1-イル)プロピル3,4,5-トリメトキシベンゾアートを指す。ロミタピドメシル酸塩は、N-(2,2,2-トリフルオロエチル)-9-[4-[4-[[[4’-(トリフルオロメチル)[1,1’-ビフェニル]-2-イル]カルボニル]アミノ]-1-ピペリジニル]ブチル]-9H-フルオレン-9-カルボキサミドメタンスルホナートを指す。イマチニブは、4-[(4-メチルピペラジン-1-イル)メチル]-N-(4-メチル-3-{[4-(ピリジン-3-イル)ピリミジン-2-イル]アミノ}フェニル)ベンズアミドを指す。
【0021】
したがって、本発明は、哺乳動物対象における、SARS-COV-1、SARS-CoV-2(Covid-19)及びMERS-CoV並びにそれぞれの変異体を標的にする抗ウイルス薬並びにSARS-COV-1、SARS-CoV-2(Covid-19)及びMERS-CoV並びにそれぞれの変異体で苦しむ対象を治療するための方法に関する。方法は、本明細書において特定された化合物又はその薬学的に許容される塩を、任意選択で薬学的に許容されるキャリアにおいて、対象に投与することを含む。薬学的に許容されるキャリアは、溶液又は懸濁液などの、経口投与に適した剤形を含んでいてもよい。剤形は、錠剤、カプセル又はゲルキャップ(gel cap)などの固形剤であってもよい。薬学的に許容されるキャリアは、静脈内送達に適した製剤を含んでいてもよい。
【0022】
投与は、対象のウイルス量(PCRを介して評価することができる)における低下、対象のウイルス感染症状(例えば熱、酸素飽和度の減少、息切れ、呼吸困難、疲労、筋肉痛、体の痛み、胸痛若しくは胸部圧迫感、頭痛、味覚消失、嗅覚消失、咽頭痛、うっ血、吐き気、嘔吐、下痢、混乱、咳又は発疹)の一つ以上及び/又は臨床状態における改善を提供すると考えられる。臨床状態は、WHO Ordinal Scale for Clinical Improvementを利用して評価されてもよい。
【0023】
第1の実施形態において、SARS-COV-1、SARS-CoV-2(Covid-19)及びMERS-CoV並びにそれぞれの変異体のスパイク受容体結合ドメイン(RBD)のN末端ドメイン(NTD)を標的にする抗ウイルス薬は、下記の式Iにおいて特定されるベンズイミダゾール又はその薬学的に許容される塩を含む。
【化3】
【0024】
上記において、Xは、-CH2-又はC=Oとすることができる及びRは、-OCH3又は-NHCH3とすることができる;
【0025】
好ましくは、本明細書における式Iにおける抗ウイルス薬は、以下を含む。
1.化合物1:以下の一般的な構造を有するメチル3-(((3-(5-(1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)チオフェン-3-イル)ベンジル)アミノ)メチル)ベンゾアート:
【化4】
2.化合物2:以下の一般的な構造を有する3-(((3-(5-(1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)チオフェン-3-イル)ベンジル)アミノ)メチル)-N-メチルベンズアミド:
【化5】
3.化合物3:以下の一般的な構造を有するメチル3-((3-(5-(1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)チオフェン-3-イル)ベンザミド)メチル)ベンゾアート:
【化6】
【0026】
下記の表1は、SARS-CoV-2株に対する上述の化合物についての効力(EC
50、EC
90)、細胞毒性(CC
50)及びSI(選択指数=CC
50/EC
50)に関するデータを提供する。EC
50は、最大の反応の半分を提供する用量を指す。EC
90は、最大の反応の90%を提供する用量を指す。CC
50は、50%の細胞生存率の低下に必要とされる濃度である。化合物1~3についての用量反応曲線を、それぞれ
図3~5に提供する。
【0027】
【0028】
第2の実施形態において、SARS-COV-1、SARS-CoV-2(Covid-19)及びMERS-CoV並びにそれぞれの変異体のスパイク受容体結合ドメイン(RBD)のN末端ドメイン(NTD)を標的にする抗ウイルス薬は、下記の式2において特定されるピペリジン又はその薬学的に許容される塩を含む。
【化7】
【0029】
上記において、R1又はR2は、ヒドロキシとすることができる及び他方は、H、メトキシ(-OCH3)又はエトキシ(-OCH2CH3)である並びにR3及びR4は、独立して、H、F、Cl、CF3又は-OCH3である。
【0030】
好ましくは、本明細書における式2における抗ウイルス薬は、以下を含む。
4.化合物4:以下の一般的な構造を有する1-(3-エトキシ-4-ヒドロキシベンジル)-N-(3’-フルオロ-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミド:
【化8】
5.化合物5:以下の一般的な構造を有する1-(3-エトキシ-4-ヒドロキシベンジル)-N-(3’-(トリフルオロメチル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミド:
【化9】
6.化合物6:以下の一般的な構造を有する1-(3-エトキシ-4-ヒドロキシベンジル)-N-(3’-メトキシ-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)ピペリジン-4-カルボキサミド:
【化10】
7.化合物7:以下の一般的な構造を有するN-(3’-クロロ-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)-1-(4-ヒドロキシベンジル)ピペリジン-4-カルボキサミド:
【化11】
8.化合物8:以下の一般的な構造を有するN-(3’-クロロ-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)-1-(3-ヒドロキシ-4-メトキシベンジル)ピペリジン-4-カルボキサミド:
【化12】
9.化合物9:以下の一般的な構造を有するN-(3’-クロロ-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)-1-(3-エトキシ-4-ヒドロキシベンジル)ピペリジン-4-カルボキサミド:
【化13】
10.化合物10:以下の一般的な構造を有するN-(4’-クロロ-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)-1-(3-エトキシ-4-ヒドロキシベンジル)ピペリジン-4-カルボキサミド:
【化14】
【0031】
下記の表2は、SARS-CoV-2株に対する上述の化合物についての効力(EC
50、EC
90)、細胞毒性(CC
50)及びSI(選択指数=CC
50/EC
50)に関するデータを提供する。化合物4~10についての用量反応曲線を、それぞれ
図6~12に提供する。
【0032】
【0033】
第3の実施形態において、SARS-COV-1、SARS-CoV-2(Covid-19)及びMERS-CoV並びにそれぞれの変異体のスパイク受容体結合ドメイン(RBD)のN末端ドメイン(NTD)を標的にする抗ウイルス薬は、式3、ジラゼプ、別名3-[4-[3-(3,4,5-トリメトキシベンゾイル)オキシプロピル]-1,4-ジアゼパン-1-イル]プロピル3,4,5-トリメトキシベンゾアート又はその薬学的に許容される塩を、任意選択で薬学的に許容されるキャリアにおいて含む。ジラゼプは、以下の一般的な構造を有する。
【化15】
【0034】
ジラゼプは、SARS-CoV-2株に対して3.89uM+/-2.1のEC
50値、19.8uMのEC
90値、>30.0uMのCC
50値及び>7.7のSIを示した。用量反応曲線を、
図13に表す。
【0035】
第4の実施形態において、SARS-COV-1、SARS-CoV-2(Covid-19)及びMERS-CoV並びにそれぞれの変異体のスパイク受容体結合ドメイン(RBD)のN末端ドメイン(NTD)を標的にする抗ウイルス薬は、以下の一般的な構造を有するN-(2,2,2-トリフルオロエチル)-9-(4-(4-(4’-(トリフルオロメチル)-[1,1’-ビフェニル]-2-カルボキシアミド)ピペリジン-1-イル)ブチル)-9H-フルオレン-9-カルボキサミドを含む。
【化16】
【0036】
N-(2,2,2-トリフルオロエチル)-9-(4-(4-(4’-(トリフルオロメチル)-[1,1’-ビフェニル]-2-カルボキシアミド)ピペリジン-1-イル)ブチル)-9H-フルオレン-9-カルボキサミドは、SARS-CoV-2株に対して1.61のEC50値、2.83uMのEC90値、9.56uMのCC50値及び>5.92のSIを示した。用量反応曲線を、
図14に提供する。
【0037】
当業者は、本発明が、本明細書において記載され、考えられる特定の好ましい実施形態以外の種々の形態で表されてもよいことを認識する。
【国際調査報告】