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特表2024-530937IgGアフィニティー精製のためのキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-27
(54)【発明の名称】IgGアフィニティー精製のためのキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20240820BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20240820BHJP
   C07K 14/195 20060101ALI20240820BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240820BHJP
   C07K 1/16 20060101ALI20240820BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240820BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K16/00
C07K14/195
C12P21/02 C
C07K1/16
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506973
(86)(22)【出願日】2022-08-05
(85)【翻訳文提出日】2024-02-05
(86)【国際出願番号】 EP2022072045
(87)【国際公開番号】W WO2023012321
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】63/230,305
(32)【優先日】2021-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】21194146.3
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】アイゼンハウアー,ロミナ
(72)【発明者】
【氏名】クローナー,フランク
(72)【発明者】
【氏名】パテル,ジガル
(72)【発明者】
【氏名】シュレムル,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】シュトラウス,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】トイバー,ジモーネ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
2G045BA20
2G045BB03
2G045DA36
2G045DA37
2G045FB06
4B064AG01
4B064AG26
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA13
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045BA50
4H045BA53
4H045CA11
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA50
4H045FA10
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、SlyDのタンパク質断片を含むキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドであって、そのIFドメインがアフィニティーペプチドFc-III-4C又はそのFc-III-XCバリアントで置き換えられているキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド、並びにIgGアフィニティー精製のための関連する使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SlyDのタンパク質断片を含む、キメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドであって、そのIFドメインが、アフィニティーペプチドFc-III-4C(CDCAWHLGELVWCTC、配列番号1)又はそのFc-III-XCバリアント(XDCAWHLGELVWCTX、配列番号3)で置き換えられており、Xが欠損しているか、又はC、D、P、E及びKの群から独立して選択され、XがC、Q、P及びEの群から独立して選択される、キメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド。
【請求項2】
前記SlyDが、例えばサーマス・サーモフィルス等のサーマス種に由来する、請求項1に記載のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド。
【請求項3】
配列
MKVGQDKVVTIRYTLQVEGEVLDQGELSYLHGHRLIPGLEEALEGREEGEAFQAHVPAEKAYCDCAWHLGELVWCTCGKDLDFQVEVVKVREATPEELLHGHA(配列番号5)
を含む、請求項1又は2に記載のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド。
【請求項4】
C末端アミノ酸タグ、例えばHisタグ等を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド。
【請求項5】
前記ポリペプチドが、ヒト、ウサギ、マウス、ラット、ブタ、ヤギ、ウマ、及びウシからなる群から選択されるIgG種に対して高い親和性で結合を示す、請求項1~4のいずれか一項に記載のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド。
【請求項6】
好ましくは互いに頭尾融合した、請求項1~5のいずれか一項に記載のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドが2つ融合したものを含む、二価バインダー分子。
【請求項7】
ビーズ及び/又はカラムマトリックス等の固体マトリックス材料等の固体担体にカップリングされた、請求項1~5のいずれか一項に記載のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド、又は請求項6に記載の二価バインダー分子。
【請求項8】
前記カップリングが、セファロースマトリックスに含まれるNHSエステルとの前記SlyDのリジン側鎖を介する、請求項7に記載のカップリングされたリガンド又はバインダー分子。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドを製造するための方法であって、大腸菌等の適切な宿主細胞における前記リガンドポリペプチドの組換え発現を含むか、又は前記リガンドポリペプチドの化学合成を含む、方法。
【請求項10】
前記キメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドを、ビーズ及び/又はカラムマトリックス等の固体マトリックス材料等の固体担体にカップリングする工程を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
免疫グロブリンを精製するための方法であって、請求項1~5のいずれか一項に記載のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド又は請求項6に記載の二価バインダー分子がカップリングされた固体担体を前記免疫グロブリンと接触させることと、前記キメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド又は前記二価バインダー分子から前記免疫グロブリンを適切に溶出することと、を含む、方法。
【請求項12】
高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記免疫グロブリンの前記溶出条件が、固体担体材料にカップリングされたプロテインAを含む固体担体材料と比較して穏やかである、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記固体担体材料の化学再生工程であって、固体担体材料にカップリングされたプロテインAを含む固体担体材料と比較して、より厳しい条件を使用する化学再生工程を含む、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
免疫グロブリンの精製、又は所定の標的分子に対するペプチドバインダーのスクリーニング及び選択のための、請求項1~5のいずれか一項に記載のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド又は請求項6に記載の二価バインダー分子の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SlyDのタンパク質断片を含むキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドであって、そのIFドメインがアフィニティーペプチドFc-III-4C又はそのFc-III-XCバリアントで置き換えられているキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド、並びにIgGアフィニティー精製のための関連する使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
治療及び診断のツールとしてのモノクローナル抗体の成功と併せて、十分かつ経済的なIgG精製手順の開発が、学術的及び工業的使用の両方のためにより必要になった。異なるタイプの相互作用及び分離技術に加えて、アフィニティー戦略は、これまでのところ最も一般的かつ効率的な方法論であった。
【0003】
抗体の実施の高まりは、特に工業規模の生産のために、適切なmAb精製戦略の開発を必要としている。他の生物工学製品と比較して、部分的に高用量の投与及び広い適用分野のために、数百キログラムのモノクローナル抗体のバルク原薬を毎年合成しなければならない。
【0004】
天然のIgG-Fc結合剤である連鎖球菌(Streptococcal)プロテインAは、製造規模でのアフィニティーリガンドの中で依然としてゴールドスタンダードである。アガロースビーズ等の適切なマトリックスにカップリングされて、これらのアフィニティー樹脂は、精製鎖の第1の工程となり、血清、腹水液又は細胞上清等の粗タンパク質混合物から抗体を単離し、したがって、さらなる下流プロセスをより経済的にする。
【0005】
モノクローナル抗体の下流精製に最も一般的に使用されるプロセスは、今日では第1の工程を含み、ここでは、細胞及び細胞残屑を除去し、クロマトグラフィーに適した清澄化された上清を得るために、産生細胞培養物が例えば濾過によって採取される。その後、細胞培養上清中に存在するmAbを、フィルタにかけた流体をプロテインAクロマトグラフィーカラムに適用することによって単一の捕捉工程で回収する。プロセス及び生成物関連不純物は、典型的にはカチオン又はアニオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー又は混合モードクロマトグラフィーを組み込む1つ又は2つのポリッシュ工程によって除去される。
【0006】
さらに、プロテインAクロマトグラフィー(例えば、低pHインキュベーション)後のウイルス不活化及びウイルス濾過工程等のウイルス汚染を迂回するためのいくつかの工程がこのプロセスに含まれる。次いで、精製された生成物を、限外濾過又はダイアフィルトレーションによって最終製剤緩衝液に移す。
【0007】
国際公開第2004/076485号A1には、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって抗体を精製する方法が記載されている。
【0008】
プロテインAクロマトグラフィーは、プロセスに関連する不純物の除去に非常に効果的であり、高い生産収率及び操作の容易さ等の他の顕著な特徴を示すが、上記の一般的な要求に関していくつかの欠点がある:第1に、細菌起源の生成物としてのプロテインAは、カラムマトリックスから漏出することによって最終生成物を汚染し、免疫毒素として作用する可能性がある。第2に、コストが比較的高い:一方では樹脂製造のために、プロテインAは大腸菌(E.coli)から組換え形態で得られ、他方ではカラム再生のために、プロテインAは一般的な洗浄剤及び消毒剤、例えばグアニジン塩酸塩又は尿素に耐性がなく、コストだけでなく使い捨ての課題にもなる。もう1つの重大な懸念原因は、低pH値での抗体溶出条件によって引き起こされる凝集体形成であり、これはその生物学的活性の喪失をもたらし得る(Arora,I.,Chromatographic Methods for the Purification of Monoclonal Antibodies and their Alternatives:A Review.International Journal of Emerging Technology and Advanced Engineering,2013.3(10):p.475-481)。
【0009】
従来のIgG精製プロセスにおける主な欠点の1つは、酸性pH値(pH2.5~3.5)での溶出である。プロテインA等の天然IgG結合タンパク質のそれらの標的に対する高いアフィニティーは、一方では精製プロセスの高い特異性及び選択性をもたらすが、他方では抗体とリガンドとの間の強い相互作用を破壊するために厳しい条件を必要とする。低pHは、mAbの分解を促進し得、カラムリガンドの漏出に起因する最終生成物の汚染をもたらし得る。
【0010】
プロテインAに基づく精製のこれらの欠点を克服するために、特に結合特性並びにpH感受性の観点から、代替的なAb結合分子の改善に多大な努力が払われた。異なる種からのIgGに対する高いアフィニティーのために主にAb単離に使用されるプロテインAの他に、プロテインG、Z及びL等の細菌起源の他のタンパク質が研究されている(Choe,W.,T.A.Durgannavar,and S.J.Chung,Fc-Binding Ligands of Immunoglobulin G:An Overview of High Affinity Proteins and Peptides.Materials(Basel),2016.9(12))。
【0011】
プロテインA及びG樹脂を使用するアフィニティークロマトグラフィー技術は、非常によく証明された技術であり、多くの確立されたプラットフォームプロセスに含まれるため、製造規模でのmAb捕捉のために依然として最も広く使用されている方法である。
【0012】
SlyD(溶解Dに感受性;slyD遺伝子の産物)は、メタロシャペロンであり、2つの機能単位:FK506結合タンパク質(FKBP)ドメイン中のペプチジル-プロリルシス/トランスイソメラーゼ(PPIase)活性及び45アミノ酸の「フラップ内挿入」(IF)ドメイン中のシャペロン機能を表す2つのドメインからなる(Low,C.,et al.,Crystal structure determination and functional characterization of the metallochaperone SlyD from Thermus thermophilus.J Mol Biol,2010.398(3):p.375-90)。TtSlyDは、好熱性生物サーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)に由来するその起源に起因する優れた熱安定性及びタンパク質分解安定性等の優れた生物物理学的特性により、広範囲の用途のための強力なツールとなる。TtSlyD足場の大きな利点は、FKBPコア領域の物理化学的挙動及び三次構造に影響を及ぼすことなくIFドメインを容易に交換できることである。さらに、その単純な構造及びその高い溶解性は、大腸菌等の細菌細胞における組換え産生を可能にする。しかしながら、TtSlyD足場を用いた治療適用は、免疫学的応答を誘発するその細菌起源のために、その元の組成物では実現可能ではない。
【0013】
国際公開第2003/000878号A2は、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌における異種タンパク質又はポリペプチドのクローニング及び発現に関する。特に、本発明は、FkpA、SlyD及びトリガー因子からなる群から選択されるFKBP型ペプチジルプロリルイソメラーゼを含む発現ツール、組換えタンパク質発現の方法、このようにして得られた組換えポリペプチド、並びにこのようなポリペプチドの使用に関する。
【0014】
国際公開第2014/071978号A1は、フラップドメイン内挿入型(IFドメイン)の代わりに挿入された1つ以上のポリペプチドを提示するFKBPファミリーからの1つ以上の断片を含む足場によって提示されるポリペプチドドメインを操作するためのキメラポリペプチドタンパク質足場、並びに所定の標的分子、具体的には、MKVGQDKVVTIRYTLQVEGEVLDQGELSYLHGHRLIPGLEEALEGREEGEAFQAHVPAEKAY-X-GKDLDFQVEVVKVREATPEELLHGHA(配列番号2)の配列のポリペプチド(式中、Xは、サーマス・サーモフィルスSlyDキメラポリペプチドによって提示される可変配列を含むアミノ酸配列)の配列のポリペプチドに対する結合活性を示す拘束ペプチド代用物のスクリーニング及び選択のための方法における使用に関する。
【0015】
本発明の目的は、リガンドと標的分析物との間で迅速な複合体形成を示し、比較的穏やかな条件下で解離を可能にする捕捉システムを含む改善されたIgG精製手順を提供することであり、この方法はまた、従来技術のさらなる欠点を回避する。他の目的及び利点は、本発明の本明細書を検討する際に当業者に明らかになるであろう。
【発明の概要】
【0016】
本発明の第1の態様では、上記目的は、SlyDのタンパク質断片を含む、キメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドであって、そのIFドメインが、アフィニティーペプチドFc-III-4C(CDCAWHLGELVWCTC、配列番号1)又はそのFc-III-XCバリアント(XDCAWHLGELVWCTX、配列番号3)で置き換えられており、Xが欠損しているか、又はC、D、P、E及びKの群から独立して選択され、XがC、Q、P及びEの群から独立して選択される、キメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドによって解決される。好ましくは、本発明によるキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドは、例えばサーマス・サーモフィルス等のサーマス(Thermus)種由来のSlyDを含む。
【0017】
本発明の第2の態様では、上記目的は、好ましくは互いに頭尾融合された、本発明によるキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドが2つ融合したものを含む、二価バインダー分子によって解決される。
【0018】
本発明の第3の態様では、上記の目的は、ビーズ及び/又はカラムマトリックス等の固体マトリックス材料等の固体担体にカップリングされた本発明によるキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド又は本発明による二価バインダー分子によって解決される。
【0019】
本発明の第4の態様では、上記目的は、本発明によるキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドを製造するための方法であって、大腸菌等の適切な宿主細胞における当該リガンドポリペプチドの組換え発現を含むか、又は当該リガンドポリペプチドの化学合成を含む、方法によって解決される。
【0020】
本発明の第5の態様では、上記目的は、免疫グロブリンを精製するための方法であって、本発明によるキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド又は本発明による二価バインダー分子がカップリングされた固体担体を当該免疫グロブリンと接触させること、及び当該キメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド又は二価バインダー分子から当該免疫グロブリンを適切に溶出することを含み、当該方法が、好ましくは高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)を含む、方法によって解決される。
【0021】
本発明の第6の態様では、免疫グロブリンの精製、又は所定の標的分子に対するペプチドバインダーのスクリーニング及び選択のための、本発明のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド又は本発明の二価バインダー分子の使用によって、上記の目的が解決される。
【0022】
本発明の主な態様では、IgG精製に適用可能な新しいタイプの結合剤及びそれぞれの免疫アフィニティークロマトグラフィーカラム材料が開発された。特に好ましい態様では、新規材料は、高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)による免疫グロブリンアフィニティー精製に適している。本発明は、プロテインAの効果的で、扱いやすい、費用効率の高い代替物を提供する。
【0023】
本発明は、SlyDのタンパク質断片を含むキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドであって、そのIFドメインがアフィニティーペプチドFc-III-4C(CDCAWHLGELVWCTC、配列番号1)で置き換えられているキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドを提供する。
【0024】
含まれるFc結合リガンドは、Gong et al.in 2016(Gong,Y.,et al.,Development of the Double Cyclic Peptide Ligand for Antibody Purification and Protein Detection.Bioconjug Chem,2016.27(7):p.1569-73)によって記載された、Fc-III-4Cと呼ばれる既存のIgG-Fcアフィニティーペプチドに基づいていた。サーマス・サーモフィルスシャペロンSlyDのFKBPドメインにペプチドをグラフトすることにより、驚くべきことに、TtSlyD-Fc-III-4Cと呼ばれる非常に安定で生産が容易なアフィニティーリガンドが得られた。さらに、このTtSlyD-Fc-III-4CキメラをNHS活性化セファロース樹脂上に共有結合により固定定化することによってクロマトグラフィーカラムを作製し、試験に成功した。
IgG-Fc部分に結合したSpAのドメインBの結晶構造は、
1981年に解明され、免疫グロブリンのCH2及びCH3ドメインとの相互作用部位を明らかにした。サブユニットBは、2つのアルファ-ヘリックスを含有し、11残基が結合プロセスに関与する。Fc断片上のそれぞれの結合部位は、プロテインG及び新生児Fc受容体等の他の天然結合タンパク質のための接触点でもあり、その物理化学的特性のためにタンパク質-タンパク質相互作用のための好ましい点であると思われる。この特異的相互作用部位は、2000年にDeLanoらによって標的とされた(DeLano,WI.,et al.,Convergent solutions to binding at a protein-protein interface.Science,2000.287(5456):P.1279-83)。環状ペプチドライブラリーをファージディスプレイによってスクリーニングすることによって、彼らは、天然のバインダーと競合することが見出されたIgG-Fc領域のコンセンサス部位に結合する13残基の配列(DCAWHLGELVWCT、配列番号4)を特定した。次いで、X線結晶構造分析により、選択されたFc-IIIペプチドのアルファ-ヘアピン配座が明らかになった。既知の結合モチーフとは完全に異なる構造及びその4倍小さいサイズにもかかわらず、Fc-III及びプロテインAは、Fc部分の表面上に多くの分子間相互作用点を共有し、Fc-IIIペプチドの結合アフィニティーはわずか約2倍弱かった。
【0025】
2006年、Dias及び同僚らは、ペプチドの配座の自由度を制限することによってヘアピン配座を更に安定化させようと試みた(Dias,R.L.,et al.,Protein ligand design:from phage display to synthetic protein epitope mimetics in human antibody Fc-binding peptidomimetics.J Am Chem Soc 2006.128(8):p.2726-32)。彼らは、元のFc-IIIに基づいて2つの主鎖環状ペプチド模倣物を作製した。得られたFcBP-1及びFcBP-2ペプチドを、ヘヤピン誘導性D-Pro-L-Pro鋳型にAla3-Trp11又はAsp1-Thr13をグラフトすることによって生成した。FcBP-2は、Fc-IIIと比較して、Fcドメインに対して80倍高いアフィニティーを示した。これは、骨格環化及び追加のジスルフィド架橋による制約に起因した。対照的に、重要なジスルフィド架橋を欠くFcBP-1は、Fcドメインと弱くしか相互作用しなかった。2012年、ペプチドを二重環状構造で安定化させようとする試みが、Gong及び同僚らによって更に行われた(Gong,Y.,et al.,Development of the Double Cyclic Peptide Ligand for Antibody Purification and Protein Detection.Bioconjug Chem,2016.27(7):p.1569-73)。
【0026】
さらに、TtSlyD-FcIII-4C足場の発現及び精製を単純化するために、分子の誘導体を設計し、化学合成ペプチドをハイスループットマイクロアレイにおけるIgG(mAb)に対する結合について試験した。出現するループ構造のストークにジスルフィド架橋を形成する両方のシステイン残基を交換するか、又は完全に除去した。
【0027】
D-Pro-L-Pro骨格の合成が困難であるため、2つのプロリンは、第2のジスルフィド連結を形成することを意図して、N末端及びC末端において2つのシステイン残基によって置き換えられた。Fc-III-4C(CDCAWHLGELVWCTC、配列番号1)と呼ばれる新たに生成したペプチドを表面プラズモン共鳴(SPR)によって分析し、元のFc-IIIと比較して、ヒトIgGに対して30倍高い結合アフィニティーを示した。さらに、異なる種由来の様々なIgGに対して強い相互作用を示した。抗体精製のためのリガンドとしてのその可能性は、固定化されたアフィニティーペプチドを担持するアガロースビーズでウサギ血清からIgGを選択的に捕捉することによって確認された。
【0028】
Fc-III-4Cペプチドビーズは、市販のプロテインAビーズよりも更に高い結合容量及び再利用性を示した。IgG-Fcドメインとの複合体におけるFc-IIIペプチドの結晶構造は、拘束ペプチドループが天然Fcバインダーと同じ結合部位を標的とすることを示す。これは、一般的に使用されるFc結合タンパク質の界面に見られる類似のアミノ酸と相互作用する。
【0029】
さらに、Fc-III-4C結合ペプチド-IgG-Fc複合体の複合体安定性を、Fc-III-4Cループ挿入を体系的に操作することによって変化させた。複合体形成において重要な役割を果たすと思われるアミノ酸の一つはTrp11であり、それぞれの残基は12個の他のアミノ酸と交換され、異なる化学的特性を示した。得られた変異体を発現させ、精製し、SPR分析によって試験した。得られた知見を採用し、本TtSlyD足場プラットフォームで試験した。それらは、SlyDのタンパク質断片を含む本発明によるキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドをもたらし、そのIFドメインは、そのアフィニティーペプチドFc-III-XC(XDCAWHLGELVWCTX、配列番号3)(式中、Xは、欠損しているか、又はC、D、P、E及びKの群から独立して選択され、Xは、C、Q、P及びEの群から独立して選択される)で置き換えられる。
【0030】
ペプチドベースのリガンドは、有望な新しいクラスのバインダーとなり、異なる研究グループが開発に成功した。プロテインAの代わりにそれらを使用することを見込むと、それらはより低コストで製造することができ、天然の結合剤と比較して非免疫原性である。バインダーのこの群の中で、特に環状ペプチドは、アフィニティーリガンドとしての使用のためのいくつかの有望な特徴を有する。それらの直鎖対応物と比較して、それらはより高い酵素安定性及び立体配座剛性を示し、それらの標的に対するより高い特異性及び/又はアフィニティー並びに結合におけるエントロピー的利点をもたらす。それにもかかわらず、ペプチドの化学合成は依然として必要であり、合成中の凝集は低収率をもたらし得る。
【0031】
本発明によるキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドのために、任意の適切なSlyD足場タンパク質を使用することができ、好ましくは細菌種、例えば大腸菌由来のSlyD、並びにペスト菌(Yersinia pestis)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)及びコレラ菌(Vibrio cholerae)由来のSlyDオルソログに由来する。さらに好ましいのは、サーマス種由来のSlyD、例えばサーマス・サーモフィルスである。
【0032】
MKVGQDKVVTIRYTLQVEGEVLDQGELSYLHGHRLIPGLEEALEGREEGEAFQAHVPAEKAYCDCAWHLGELVWCTCGKDLDFQVEVVKVREATPEELLHGHA(配列番号5)を含む、本発明によるキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドがより好ましい。
【0033】
本発明によるキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドのIFドメインが、以下:
DCAWHLGELVWCTX、配列番号6
CDCAWHLGELVWCTX、配列番号7
DDCAWHLGELVWCTX、配列番号8
PDCAWHLGELVWCTX、配列番号9
EDCAWHLGELVWCTX、配列番号10、及び
KDCAWHLGELVWCTX、配列番号11
(式中、Xは、独立して、C、Q、P、及びEの群から選択される)
からなる群から選択される、及び/又は
DCAWHLGELVWCTC配列番号12
DCAWHLGELVWCTQ、配列番号13
DCAWHLGELVWCTP、配列番号14、及び
DCAWHLGELVWCTE、配列番号15
(式中、Xは、欠損しているか、又はC、D、P、E及びKの群から独立して選択される)
からなる群から選択されるアフィニティーペプチドFc-III-XCによって置き換えられている、本発明によるキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドが更に好ましい。
【0034】
そのIFドメインが、配列EDCAWHLGELVWCTE、配列番号16(TtSlyD-Fc-III-2C_Hit No.4)を有するアフィニティーペプチドFc-III-XCによって置き換えられている、本発明によるキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドが更に好ましい。
【0035】
例えばタグ等のC末端アミノ酸タグを更に含む、本発明によるキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドが更に好ましい。ポリヒスチジン残基からなるアフィニティータグを有するタンパク質は、マトリックス上に固定化された金属イオン(Ni2+)と8x-ヒスチジン側鎖との間の相互作用のために有利に捕捉される(実施例を参照)。
【0036】
本発明によるキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドは、例えばヒト、ウサギ(実施例を参照)、マウス、ラット、ブタ、ヤギ、ウマ及びウシのIgGからなる群から選択される広範なIgG種に対して高いアフィニティーで結合を示すというプロテインA/Gを超える利点を更に有する。
【0037】
タンパク質リガンド多量体化は、アビディティー効果により、更に高いアルカリ安定性及びアフィニティーカラムマトリックスの結合容量の改善をもたらし得る。したがって、TtSlyD-Fc-III-4Cと、同じFc-III-4Cペプチドループを示す第2の足場タンパク質との頭尾連結によって、29kDaの分子量を有する二価バインダーが生成された。この二重バインダーは、SPR相互作用アッセイにおいて、単一の足場と比較して、IgGのFc部分に対して更に高いアフィニティーを示した(KD=5nM、37℃でのrbIgG及び25℃でのヒトIgGに対して)。したがって、本発明の別の好ましい態様は、好ましくは互いに頭尾融合された、本発明によるキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドが2つ融合したものを含む、二価バインダー分子に関する。
【0038】
本発明の更に別の態様は、例えば固体担体、例えばビーズ、例えばアガロースビーズ及び/又はカラムマトリックス、好ましくはセファロース樹脂等のNHS活性化マトリックスにカップリングされた、本発明によるキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド又は本発明による二価バインダー分子に関する。好ましくは、当該カップリングが、セファロースマトリックスに含まれるNHSエステルを有するSlyDのリジン側鎖を介する、本発明によるカップリングされたリガンド又はバインダー分子である。
【0039】
本発明の更に別の態様は、本発明によるキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド又は本発明による二価バインダー分子とカップリングした、ビーズ、例えばアガロースビーズ及び/又はカラムマトリックス、好ましくはセファロース樹脂等のNHS活性化マトリックス等の上記の固体担体材料に関する。材料は、本明細書に記載のように、漏出が少なく、再利用性が高い等の改善された特性を有する。本発明の更に別の態様は、本発明による固体担体材料を含む免疫アフィニティークロマトグラフィーカラムに関し、これは好ましくは、本明細書に開示されるIgG精製にも適用可能である。
【0040】
本発明の更に別の態様は、本発明によるキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドを製造するための方法であって、大腸菌等の適切な宿主細胞における当該リガンドポリペプチドの組換え発現を含むか、又は当該リガンドポリペプチドの化学合成を含む、方法に関する。それぞれの方法は当技術分野で公知であり、本明細書にも開示されている。キメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドを、固体担体、例えばビーズ及び/又はカラムマトリックス等の固体マトリックス材料、特に上述のマトリックスにカップリングする工程を更に含む、本発明による方法が好ましい。マトリックスを、適切なカラムに充填することができる。
【0041】
本発明の更に別の態様は、免疫グロブリンを単離又は精製するための方法であって、本発明によるキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド又は本発明による二価バインダー分子がカップリングされた固体担体を当該免疫グロブリンと接触させること、及び当該キメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド又は二価バインダー分子から当該免疫グロブリンを適切に溶出することを含む、方法に関する。本発明による方法は、高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)を含むことが好ましい。例示的な方法は、本実施例及びアフィニティークロマトグラフィーの文献、例えばElliott L.Rodriguez,et al.(Affinity chromatography:A review of trends and developments over the past 50 years,Journal of Chromatography B,Volume 1157,2020,https://doi.org/10.1016/j.jchromb.2020.122332、又はHuse,Klaus&Boehme,Hans-Joachim&Scholz,Gerhard.(2002).Purification of antibodies by affinity chromatography.Journal of biochemical and biophysical methods.51.217-31.10.1016/S0165-022X(02)00017-9)に開示されている。本方法は、本明細書に開示されるマトリックス材料を再使用して実施することができ、工業規模の生産に合わせて調整することができる。
【0042】
当該免疫グロブリンの溶出条件が、固体担体にカップリングされたプロテインAを含む固体担体材料と比較して穏やかである、本発明による方法が好ましい。特にバリアントの場合、抗体捕捉に関して好ましい速い会合速度、及び速い解離速度は、比較的穏やかなpH条件下での抗体脱離を可能にする。プロテインAでは、低pH、例えば約3.3のpH値を有する酢酸が溶出の標準的な手順として使用されている(Guelich,S.,M.Uhlen,and S.Hober,Protein engineering of an IgG-binding domain allows milder elution conditions during affinity chromatography.J Biotechnol,2000.76(2-3):p.233-44)。低pHは、mAbの分解を促進し得、カラムリガンドの漏出に起因する最終生成物の汚染をもたらし得る。本発明の好ましいpH溶出範囲は、3.4~4.5である。
【0043】
本発明による方法はまた、前記固体担体材料の化学再生工程であって、プロテインAがカップリングされた固体担体材料と比較して、より厳しい条件を使用する化学再生工程を含むことが好ましい。再生の成功は、リガンドを脱離させることなく、又はその活性を制限することなく、結合した分析物を除去することを含む。抗体へのプロテインA/G結合は比較的強く、再生には、例えばグリシン緩衝液、pH2.7での洗浄が必要である。本発明の好ましいpH再生範囲は、2.5~2.0である。
【0044】
本発明の更に別の態様は、免疫グロブリンの精製、又は所定の標的分子に対するペプチドバインダーのスクリーニング及び選択のための、本発明のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド又は本発明の二価バインダー分子の使用に関する。
【0045】
化学的に合成されたいわゆるFc-III-4Cペプチドは、その標的を正確に補完する結合能力のあるヘアピン配座に有利になるように2つのジスルフィド架橋によって拘束される。研究は、2000年にDe-Lano及び同僚らによって最初に記載され(DeLano,W.L.,et al.,Convergent solutions to binding at a protein-protein interface.Science,2000.287(5456):p.1279-83)、2016年にGong et al.(Gong,Y.,et al.,Development of the Double Cyclic Peptide Ligand for Antibody Purification and Protein Detection.Bioconjug Chem,2016.27(7):p.1569-73)によって配座安定性及び結合アフィニティー(ヒトIgGに対してKD=2.45nM)に関して更に最適化された、ファージディスプレイによって同定された環状13merペプチドに基づいた。
【0046】
拘束ペプチド合成に必要な2つのジスルフィド架橋と比較して、足場バインダーは、大腸菌での安価な組換え生産を高収率で促進する機能的な架橋を1つだけ必要とする。プロテインAと比較して、アフィニティーカラムではより厳しい化学再生条件が可能であり、プロテインAと比較して抗体のより穏やかな溶出条件が可能である。
【0047】
本発明において、IgG精製に適用可能な新しいタイプの免疫アフィニティークロマトグラフィーカラムの実現可能性及び効率が初めて実証された。Ig-FcアフィニティーペプチドFc-III-4CをTtSlyD足場タンパク質にグラフトすることは、ペプチドの特異性及びアフィニティーを保持しながら、実行可能であることが示された。
【0048】
プロテインA/Gに対する単一Fc-III-4Cアフィニティーペプチドの利点は、多くのIgG種(ヒト、ウサギ、マウス、ラット、ブタ、ヤギ、ウマ、ウシ)に対して高いアフィニティーを示し、mAb精製のためのアフィニティーリガンドとして、アガロースビーズ上に固定化されたFc-III-4Cが、標準的なプロテインAビーズと比較して、再利用性の延長を示すことである。さらに、NHS-セファロースにカップリングされたTtSlyD-Fc-III-4C足場タンパク質は、タンパク質の変性及びリフォールディングを繰り返すことによって証明される優れた化学的堅牢性を有し、アルカリ処理に対する耐性が高い。
【0049】
TtSlyD-Fc-III-4Cを含むアフィニティークロマトグラフィーカラムは、アルカリ感受性プロテインAマトリックスの経済的かつ効率的な代替物である。さらに、タンパク質足場は、提示されたペプチドループの高い立体構造安定性及びプロテアーゼ耐性の向上をもたらし、その結果、リガンド漏出が少なく、最終生成物の汚染が少ない。
【0050】
さらに、足場タンパク質は、大腸菌での組換え発現によって大量に迅速かつ費用効果的に生成することができる。全ての発現タンパク質バリアントについて、約600mgのバイオマス及び100mLの細菌細胞培養物あたり5mg超の最終タンパク質収量が得られた。
【0051】
さらに、主に非特異的な分子間ジスルフィド架橋形成によって駆動されるタンパク質の誤った折り畳み及びオリゴマー化は、大きな問題である。ペプチドループを拘束している2つの末端システイン残基を除去することにより、合成を改善できることが示された。単一のジスルフィド連結、TtSlyD-Fc-III-XCのみを示すバリアントは、4つのシステインを有する野生型足場と比較して凝集しにくい傾向があった。
【0052】
さらに、酸性溶出条件の問題を克服するために、TtSlyD-Fc-IIIリガンドの結合部位を更に操作することができた。ホットスポット残基ロイシン7は、所望の会合/解離特性を得るために修飾され得る。
【0053】
本発明と関連して、ペプチドのFc結合部分は、以下の特徴を示すタンパク質バリアントを選択的にスクリーニングすることを意図して、以下に記載されるようにQC-PCRによって更に変更された:比較的穏やかなpH条件下での抗体脱離を可能にする、抗体捕捉及び迅速な解離速度に関して有利な高速会合速度。生成されたTtSlyD-Fc-III-4CバリアントのIgGに対する結合アフィニティーを決定するために、表面プラズモン共鳴を使用した。そのために、足場をBiacoreチップ上に固定化し、以下に記載されるようにフローセル中のIgGと相互作用させた。分析物(IgG)を5つの異なる濃度で適用し、各濃度を1サイクルで監視し、各ラン後にチップ表面を再生した。各サイクル後に分析物を完全に除去するための最良の条件を確認するために、速度論的測定の前にヒトIgGによる再生スカウティングを行った。この実験で得られた結果に関して、Fc-III-4CペプチドをTtSlyDドメインにグラフトしても、IgG-Fcに対するアフィニティーに悪影響を及ぼさないと結論付けることができる。さらに、位置11のトリプトファン残基を交換することによって、より速い会合速度又は解離速度等の変化した速度論的特性を示すタンパク質バリアントを検出することはできなかった。そのための可能な説明は、結合エネルギーに対するトリプトファンの寄与が最初に予想されたよりも低いことであり得る。将来の研究では、別のアミノ酸に焦点を移すことができ、結合エネルギーに対するより顕著な寄与を示す。例えば、Fc-III-4Cペプチドの7位のロイシンは、タンパク質-ペプチド界面における典型的なホットスポットを表す。さらに、以下の実験では、それぞれの残基を交換することによって、結合強度がかなり影響され得ることが示されている。
【0054】
Fc-III-4Cペプチドループ中に存在する4つのシステイン残基は、環状構造を形成し、結合剤の剛性及びアフィニティーを規定する。しかしながら、システインは、タンパク質の発現及び精製に関して大きな問題である。Dias et al.は、Fc-IIIペプチド中のジスルフィド連結を除去することにより、結合アフィニティーの完全な喪失が起こることを既に実証している(Dias,R.L.,et al.,Protein ligand design:from phage display to synthetic protein epitope mimetics in human antibody Fc-binding peptidomimetics.J Am Chem Soc,2006.128(8):p.2726-32)。本発明では、アフィニティーペプチドの構造安定性はTtSlyD骨格によって保存され、余分なジスルフィド連結は必要ない場合がある。以下の実験では、これらの連結がループ安定性及びIgG-Fcに対するタンパク質のアフィニティーに必須であるかどうかを調べるために、システインを代替アミノ酸で置き換えた。
【0055】
本発明との関連において、IgG精製に適用可能な新しいタイプの免疫アフィニティークロマトグラフィーカラムの実現可能性及び効率が初めて実証された。Ig-FcアフィニティーペプチドFc-III-4Cを TtSlyD足場タンパク質にグラフトすることは、ペプチドの特異性及びアフィニティーを少なくとも保持しながら、実行可能であることが示された。
【0056】
プロテインA/Gに対する単一Fc-III-4Cアフィニティーペプチドの利点は、多くのIgG種(ヒト、ウサギ、マウス、ラット、ブタ、ヤギ、ウマ、ウシ)に対して高いアフィニティーを示し、mAb精製のためのアフィニティーリガンドとして、アガロースビーズ上に固定化されたFc-III-4Cが、標準的なプロテインAビーズと比較して、再利用性の延長を示すことである。さらに、NHS-セファロースにカップリングされたTtSlyD-Fc-III-4C足場タンパク質は、タンパク質の変性及びリフォールディングを繰り返すことによって証明される優れた化学的堅牢性を有し、アルカリ処理に対する耐性が高い。したがって、TtSlyD-Fc-III-4Cを含むアフィニティークロマトグラフィーカラムは、アルカリ感受性プロテインAマトリックスの経済的かつ効率的な代替物である。さらに、タンパク質足場は、提示されたペプチドループの高い立体構造安定性及びプロテアーゼ耐性の向上をもたらし、その結果、リガンド漏出が少なく、最終生成物の汚染が少ない。
【0057】
さらに、足場タンパク質は、大腸菌での組換え発現によって大量に迅速かつ費用効果的に生成することができる。全ての発現タンパク質バリアントについて、約600mgのバイオマス及び100mLの細菌細胞培養物あたり約5mgの最終タンパク質収量が得られた。生成された量は、この論文で行われたスクリーニング実験には十分であったが、例えば培養温度又は誘導物質の量を低下させることによって、潜在的な大規模生産のための収率及び溶解度に関して更に最適化することができた(Marisch,K.,et al.,Evaluation of three industrial Escherichia coli strains in fed-batch cultivations during high-level SOD protein production.Microb Cell Fact,2013.12:p.58)。さらに、主に非特異的な分子間ジスルフィド架橋形成によって駆動されるタンパク質の誤った折り畳み及びオリゴマー化は、大きな問題である。ペプチドループを拘束している2つの末端システイン残基を除去することにより、合成を改善できることが示された。単一のジスルフィド連結、TtSlyD-Fc-III-XCのみを示すバリアントは、4つのシステインを有する野生型足場と比較して凝集しにくい傾向があった。
【0058】
タンパク質リガンド多量体化は、アビディティー効果により、更に高いアルカリ安定性及びアフィニティーカラムマトリックスの結合容量の改善をもたらし得る。したがって、TtSlyD-Fc-III-4Cと、同じFc-III-4Cペプチドループを示す第2の足場タンパク質との頭尾連結によって、29kDaの分子量を有する二価バインダーが生成された。この二重バインダーは、SPR相互作用アッセイにおいて、単一の足場と比較して、IgGのFc部分に対して更に高いアフィニティーを示した(KD=5nM、37℃でのrbIgG及び25℃でのヒトIgGに対して)。しかしながら、この二重バインダーの製造及び精製は、タンパク質の凝集及び共役に関してより複雑である。
【0059】
さらに、酸性溶出条件の問題を克服するために、TtSlyD-Fc-IIIリガンドの結合部位を更に操作することができた。ホットスポット残基ロイシン7は更に、所望の会合/解離特性を得るために修飾され得る。
本発明は、添付の図面を参照して以下の実施例において更に説明されるが、それに限定されるわけではない。本発明の目的のために、本明細書に引用される全ての参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1図1は、本発明における一般的なワークフローを示す。
図2図2は、本発明の結合剤のマトリックスへのカップリングプロセスの一例を示す図である。使用されるカラムは、6原子スペーサーアームを介してセファロースHPに付着したNHSエステルから構成される。活性化エステルは、第一級アミノ基を含有するリガンドと迅速に反応し、非常に安定なアミド連結をもたらす。AB=アガロースビーズ
【実施例
【0061】
一般的な概要として、本発明に関連して、原核生物のTtSlyD-Fc-III-4 C発現コンストラクトを設計し、TtSlyD-Fc-III-4 C足場分子及びクロマトグラフィーカラムを生成した。次いで、IgG精製実験を行った。その後、Fc-III-4 C結合部位の成熟化を行い、ループ隣接システインを置き換えた後、操作されたタンパク質バリアントの速度論的スクリーニングを行った。適切なバリアントを選択した。
【0062】
大腸菌発現コンストラクトの分子クローニング
TtSlyD-Fc-III-4C足場アフィニティーペプチドキメラのクローニングを2段階反応で行った。まず、制限エンドヌクレアーゼEcoRI-HF(登録商標)及びHindIII-HF(登録商標)を用いて、TtSlyDタンパク質骨格及び8×-ヒスチジンタグをコードする遺伝子を原核生物発現ベクターに挿入した。続いて、適切なアフィニティーペプチドをコードする配列を、BsiWI-HF(登録商標)及びBamHI-HF(登録商標)を介してTtSlyD足場のそれぞれの挿入部位に組み込んだ。分子グラフト化及びTtSlyD-Fc-III-XC発発現コンストラクトの生成のために、TtSlyD配列の適切な部位に所望の変異を含む二本鎖線状DNA断片(いわゆるDNAストリング)を設計し、原核生物発現ベクターpQE80-Kanに直接クローニングした。
【0063】
本発明で使用される発現ベクターpQE80-Kan-TtSlyD-Fc-III-4C及びpQE80-Kan-TtSlyD-Fc-III-XCは、pQE80-Kanベクターに由来し、以下の特徴を含む:KanR:カナマイシンに対する抗生物質耐性;ColE1:複製起点;lacIq:lacリプレッサー;PT5:T5プロモーター(大腸菌ファージT5由来);MCS:制限部位(すなわちEcoRI 及びHindIII.について)を有するマルチクローニングサイト。
【0064】
本発明で使用される発現系は、誘導性T5-lac系に依存する[65]。ラクトースの非存在下では、発現ベクターにコードされたlacリプレッサータンパク質lacIQは、細菌RNAポリメラーゼ(RNAP)がlacオペロンのプロモーターに結合するのを阻止する。laqIQに結合して不活性化するアロラクトースの構造的な非代謝性類似体であるイソプロピル-ベータ-D-チオガラクトシド(IPTG)は、RNAPがT5プロモーターの下流の配列を転写することを可能にする(PT5)。次いで、生成された転写物を組換えタンパク質に翻訳することができる。
【0065】
Quick Change PCR(QC-PCR)
QuikChange(商標)部位特異的突然変異誘発キット(Agilent)の説明書に従って、発現コンストラクトpQE80-Kan-TtSlyDFc-III-4Cに対して、Quick changeポリメラーゼ連鎖反応(QCPCR、Braman et al.(Braman,G.P.C.G.A.,Site-directed mutagenesis using double-stranded plasmid DNA templates.Methods Mol Biol,1996.57:p.31-44)によって記載される)を介して、Trp11の交換を行った。したがって、各交換のための2つの変異誘発性プライマーを、標的プラスミド部位に相補的に設計した。フォワード及びリバースプライマーの両方が、所望の突然変異を含有し、プラスミドの反対鎖上の同じ位置にアニールする。QC-PCRの間、非鎖置換クローンPfu DNAポリメラーゼ(Agilent)を用いて変異原性プライマーを伸長し、ニックの入った環状鎖を得た。制限酵素DpnI(NEB)を最終的なPCR反応混合物に添加することによって、そのメチル化部位によって認識される非変異の親DNA鋳型を消化した。ニックを入れたdsDNAを大腸菌細胞に形質転換し、複製中にニックを修復した。プライマーは、上記のAgilentキットの説明書に従って、25~45塩基長(順方向プライマーについては37塩基、逆方向プライマーについては41塩基)及び約78℃の融解温度(Tm)で設計した。所望の突然変異は、両側に約10~15塩基の正しい配列を有するプライマーの中央になければならなかった。全てのプライマーをMetabion、Planegg-Steinkirchenによって合成した。
【0066】
QC-PCR反応混合物を氷上で0.2mL反応管中で合わせた。クローニングしたPfu DNAポリメラーゼを、PCR増幅を開始する直前に添加した。熱サイクリング条件は、DNA鋳型の長さ及び所望の突然変異のタイプに調整した。4.8kbプラスミドでの単一アミノ酸交換のために、10分の伸長時間及び16 PCRサイクルを選択した。鋳型DANNを含まない陰性対照を各反応について調製した。温度サイクル後、親プラスミドDNAを消化するために、2μLのDpnIを各増幅反応に直接添加した。試料を37℃で1時間インキュベートし、続いて80℃で20分間の制限酵素の熱不活性化工程を行った。その後、PCR試料を1%(w/v)アガロースゲルで分析した。
【0067】
所望のバンドを切り出し、プラスミドDNAを精製し、記載のようにNEB(登録商標)Expressコンピテント大腸菌(高効率)細胞に形質転換した。各コンストラクトの単一コロニーを1つ選び、DNAを単離した。挿入された突然変異を検証するために、配列分析を行った。
【0068】
小規模タンパク質試験発現
様々なTtSlyD-Fc-III-4Cタンパク質の小規模試験発現実験を実施して、産生されたタンパク質の量及び様々なバリアントの溶解度を評価した。発現(NEB(登録商標)Expressコンピテント大腸菌(高効率)、BL21誘導体)を、96ウェルディープウェルブロック(DWB)で実施した。一晩のスターター培養物を、グリセロールストックからの1.2mL LB培地(50μg/mLカナマイシン)を接種することによって調製した。プレートをオービタルシェーカー上で37℃、750rpmで16時間インキュベートした。翌日、発現培養物(1.2mLの新鮮なスーパーブロス(SB)培地)に50μLの前培養物を接種した。指数増殖期(OD600約1~1.2)に達したら、IPTGを最終濃度0.5mMまで添加することによって発現を誘導した。37℃で5時間培養した後、遠心分離(4000rcf、20分)によって細胞を採取した。接種前及び細胞採取前に、その後のSDS-PAGE分析のための試料をそれぞれ採取した(誘導前、PreI及び誘導後、PostI)。細菌培養物の光学密度を決定、試料体積を調整した。細胞懸濁液を遠心分離し(8000rcf、3分)、細胞を32.5μLの10mM Tris pH8.0、4%SDS、2% 2-メルカプトエタノールに再懸濁して、SDS-PAGEに適用可能な粗細胞抽出物を得た。
【0069】
機械的細胞破壊
細胞ペレットを800μLのビーズ懸濁緩衝液に再懸濁し、150mgの0.1mm~0.2mmのガラスビーズを充填した2mLチューブに移した。この溶液をAntifoam 204(Sigma-Aldrich)の1:1000希釈液50μLと混合し、以下のプログラムに従ってBead Ruptor 24(Omni International)を用いて細胞を機械的に破壊した。不溶性画分から可溶性画分を分離するために、100μLの細菌溶解物を2mLチューブに移し、遠心分離した(8000rcf、3分)。不溶性画分を、SDS-PAGEに適用する前に100μLビーズ懸濁緩衝液に再懸濁した。タンパク質発現レベル及び溶解度をSDS-PAGEによって評価した。
【0070】
中間スケールタンパク質発現
その後のタンパク質精製のために十分な量のバイオマスを得るために、異なるTtSlyD 足場バリアントの中規模発現培養物を調製した。それぞれの変異体の5mL一晩培養物(グリセロールストックから接種)を使用して、50μg/mLのカナマイシンを含有するSB培地の250 mL培養物に接種した。培養物を振盪インキュベーター中37℃及び250rpmで1~1.2のOD600に達するまでインキュベートした。IPTGを0.5mMの最終濃度まで添加することによって発現を誘導した。更に5時間培養した後、遠心分離(6000rcf、20分)により細胞を採取した。最終細胞懸濁液の2mLの試料を採取し、細胞を機械的に破壊して、その後のSDS-PAGE分析用の試料を得た。
【0071】
化学細胞破壊
細胞ペレットを、細胞1mg当たり2mLのB-PER II(商標)細菌タンパク質抽出試薬(Thermo Fisher Scientific)を添加することによって溶解した。タンパク質分解を防止し、望ましくないDNAによって引き起こされる溶解物の粘度を低下させるために、プロテアーゼ阻害剤フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF、3μL 0.1M/mL B-PER II(商標)、Thermo Fisher Scientific)及びDNaseI(Roche、B-PER II(商標)1mLあたり1つのスパチュラ先端、Roche)を添加した。懸濁液を湿った氷上で30分間インキュベートし、20mM Tris、150mM NaCl、pH7.5(緩衝液A)で20mLの最終容量まで満たした。溶解物を5000rcfで15分間遠心分離して、不溶性画分から可溶性画分を分離した。不溶性画分を20mLの緩衝液Aに再懸濁した後、SDS-PAGE用の試料を採取した。可溶性タンパク質を含有する上清をNi2+アフィニティー及びサイズ排除クロマトグラフィーによって更に精製した。
【0072】
タンパク質精製
固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)
足場タンパク質は、Porath et al.in 1975(Porath,J.,et al.,Metal chelate affinity chromatography,a new approach to protein fractionation.Nature,1975.258(5536):p.598-9)によって初めて製剤化された、IMACによって最初に精製された。細胞溶解及び遠心分離後、可溶性タンパク質画分を含有する上清を滅菌濾過(0.2μm)、ニッケル装入ニトロ三酢酸(Ni-NTA)重力流動カラム(Qiagen Superflow Ni-NTAアガロース樹脂を充填したPierce Gravity Flow Column及びフィルタユニット;カラム体積(CV)約1mL)に直接適用した。ポリヒスチジン残基からなるアフィニティータグを有するタンパク質は、マトリックス上に固定化された金属イオン(Ni2+)と8x-ヒスチジン側鎖との間の相互作用のために捕捉される。精製に用いた緩衝液及び溶液は以下の通りである。
【0073】
重力流動精製に使用される緩衝液及び溶液。全ての緩衝液及び溶液を滅菌濾過(0.2μm)し、使用前に脱気した。HCl又はNaOHのいずれかでpHを調整した。
【0074】
緩衝液/溶液組成
緩衝液A(試料緩衝液)20mM Tris、150mM NaCl、pH7.5
緩衝液B1(洗浄緩衝液)20mM Tris、150mM NaCl、10mMイミダゾール、pH7.5
緩衝液B2(洗浄緩衝液)20mM Tris、150mM NaCl、50mMイミダゾール、pH7.5
緩衝液C(溶出緩衝液)20mM Tris、150mM NaCl、250mMイミダゾール、pH7.5
緩衝液D(再生緩衝液)20mM Tris、150mM NaCl、500mMイミダゾール、pH7.5
ストリッピング液 50mM EDTA、1%SDS、pH7.5
再充填溶液 100mM NiSO
保存溶液 20%エタノール
【0075】
使用前に、カラムをフィルタにかけ、脱気したddHOですすいだ。20CVの緩衝液Aを用いて平衡化を行い、続いて溶解物上清を適用した。20CVの緩衝液B1及び20CVの緩衝液B2でカラムを洗浄することによって、非特異的タンパク質及び未結合タンパク質を除去した。タンパク質を1mL画分中の11CV緩衝液Cで溶出した。10CVの緩衝液Dでリンスすることによってカラムを再生した。試料添加後のカラムフロースルーの1mL試料(フロースルー、FT)、緩衝液B1(ウォッシュアウト、WI)及び緩衝液B2(ウォッシュアウトII、WII)をそれぞれ回収した。3回の精製サイクルの後、カラムをストリッピングし、以下のように再充填した:最初に、20CVのddHOを添加し、続いてキレート剤エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含有する5CVのストリッピング溶液を添加して、ニッケルイオンを除去した。その後、20CVのddHOの後、3CVの100mM NiSOを続けてカラムを再充填した。20CVのddHOを適用し、続いて20CVの保存溶液を適用することによって、保存用のカラムを調製した。
【0076】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
Ni-NTAクロマトグラフィーの後、タンパク質溶液をサイズ排除クロマトグラフィーによって更に精製した。この技術は、分子サイズに応じた分離を可能にし、標的タンパク質のオリゴマー及び凝集体並びに低分子成分を除去するためにこの研究に適用された。システム出力はクロマトグラムに示され、保持体積又は保持時間(注入後にタンパク質が溶出するのに必要な体積/時間)にわたる吸光度単位(AU)として示される吸光度の強度を表示する。シグナル強度は、溶出した分析物の濃度に比例する。最適な分離の場合、クロマトグラム上の複数のピーク又はシフトは、分離された試料の異なる成分に対応し、既知の組成のタンパク質標準と比較することによって分子サイズに直接割り当てることができる。UNICORN 6.3制御ソフトウェアの「ピーク積分」機能を使用して、ピーク面積、保持時間及びピーク幅を含むいくつかの曲線特性を識別及び測定した。必要なベースラインを自動的に計算した。
【0077】
適用前に、タンパク質試料を最終体積約5mLまで濃縮し、AEKTA(商標)Avantクロマトグラフィーシステムを使用して、キャピラリーループ(5mL)を介してGE Healthcare HiLoad 60/600 Superdex 75 pgカラム7に手動でロードした。使用前に、保存溶液を1.5CVのddHOで除去した。カラムを平衡化し、1mL/分の流速で96ウェルDWB中の2mL画分中の1.5CVランニング緩衝液でタンパク質を溶出した。ランを室温(RT)で操作し、280nmの波長でモニターした。その後、カラムをddHO及び保存溶液で再平衡化した。タンパク質の純度をSDS-PAGEによって確認し、分子量(MW)をGE Healthcareによって提供された検量線に基づいて決定した。所望のピーク画分をプールし、濃縮した。適切な体積のアリコートを液体窒素中で急速凍結し、-80℃で保存した。
【0078】
サイズ排除クロマトグラフィーに使用される緩衝液及び溶液。全ての緩衝液及び溶液を滅菌濾過(0.2μm)し、使用前に脱気した。HClを用いてpHを調整した。
【0079】
緩衝液/溶液組成
ランニング緩衝液 20mM Tris、150mM NaCl、pH7.5
保存溶液 20%エタノール
【0080】
緩衝液交換及びタンパク質濃度
SECの前に、溶出緩衝液中に存在する残留イミダゾールを除去するために、Ni-NTA重力流動カラムから溶出したタンパク質試料を緩衝液交換し、濃縮した。緩衝液交換を透析によって実現した。タンパク質溶液を、3500Daの分子量カットオフ(MWCO)を有するSpectra/Por(登録商標)3透析膜(Spectrum Laboratories)に移し、連続撹拌下、5Lランニング緩衝液中、4℃で一晩インキュベートした。透析したタンパク質をVivaspin(登録商標)6遠心濃縮カラム、5000Da MWCO(Sartorius)に適用し、遠心分離して約5mLの最終容量を得た。SECを実施した後、タンパク質プールをVivaspin(登録商標)20遠心濃縮カラム、5000Da MWCO(Sartorius)によって濃縮した。
【0081】
免疫アフィニティークロマトグラフィーカラムの作製
本発明の範囲内で、抗体精製のための新規な免疫アフィニティーカラムを開発した。前述のTtSlyD-Fc-III-4C足場アフィニティーペプチドキメラは、IgGの捕捉分子/リガンドとして機能し、クロマトグラフィーカラムマトリックスに永続的にカップリングされた。
【0082】
免疫アフィニティークロマトグラフィーのために、簡潔には、所望の抗体(例えば細胞培養上清)を含有する粗溶液をカラムに適用する。抗体は、カラムマトリックスに含まれるアフィニティーリガンドによって捕捉され、集中洗浄により夾雑物を除去し、適切な緩衝液を加えて免疫グロブリンを溶出させる。
【0083】
Fc特異的リガンドの固定化を、HiTrap NHS活性化HPカラム(1 mL、GE Healthcare)に含まれるN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)活性化高架橋アガロースビーズに第一級アミノ基を共有結合によりカップリングさせることによって行った。カップリング手順は、製造業者のプロトコルに従って実施した。必要な緩衝液を以下に示す。リガンドを標準カップリング緩衝液に溶解し、1mLに濃縮し、0.5~10mg/mLの最終濃度にした。カラムを氷冷1mM HClで洗浄して、製造業者の保存緩衝液中に存在するイソプロパノールを除去した。1mLのリガンド溶液を手動で注入し、カラムを25℃で30分間インキュベートした。その後、カラムをクロマトグ
ラフィーシステム(AEKTA(商標)Avant,GE Healthcare)に接続し、リガンド溶液を3CVの標準的なカップリング緩衝液で洗い流し、カラムのフローを回収した。リガンドにカップリングしなかった過剰の活性基を不活性化し、非特異的に結合したリガンドを洗い流すために、6CVの緩衝液A、6CVの緩衝液B及び別の6CVの緩衝液Aを注入した。ウォッシュアウトを回収し、カラムを室温で30分間インキュベートした。その後、6CVの緩衝液B、6CVの緩衝液A及び6CVの緩衝液Bを注入し、ウォッシュアウトを同様に回収した。最後に、10CVの結合緩衝液を適用することによってpHを調整した。カラムをすぐに使用しない場合は、5CVの保存緩衝液ですすぎ、8℃で保存した。
【0084】
免疫アフィニティークロマトグラフィーカラムの生成に使用される緩衝液。a全ての緩衝液を滅菌濾過し(0.2μm)、使用前に脱気した。HCl又はNaOHのいずれかでpHを調整した。
【0085】
緩衝液組成
標準カップリング緩衝液 0.2M NaHCO、0.5M NaCl、pH8.3
緩衝液A 0.5Mエタノールアミン-HCl、0.5M NaCl、pH8.3
緩衝液B 0.1M NaOAc、0.5M NaCl、pH4
保存緩衝液 0.05 M NaHPO、0.1%NaN、pH7
結合緩衝液 20mM Tris、150mM NaCl、pH7.5。結合緩衝液は、SECランニング緩衝液に対応する。精製された足場タンパク質を、長期保存のためにこの緩衝液に溶解した。
【0086】
カラムマトリックスの最大カップリング容量を評価するために、1.5~3mg/mLのリガンド濃度の増加を適用した。過剰なリガンドを含有するフロースルーをSDS-PAGEによって分析し、カップリング効率を以下のように評価した:PD-10脱塩カラム(GE Healthcare)を25mLの0.1M NaH2PO4、150mM NaCl、pH7(平衡緩衝液8)で平衡化し、続いて0.5mLのウォッシュアウトを添加した。最初に2mLを添加して塩及び他の低分子量成分を除去し、続いて1.5mLを添加して所望の高分子量タンパク質を溶出することによって、平衡緩衝液を用いて二段階手順で溶出を行った。溶出画分の吸光度を、NanoDrop(商標)OneCマイクロボリュームUV-Vis分光光度計(Thermo Fisher Scientific)を用いて測定した。カップリング効率を算出した。図2を参照されたい。
【0087】
カラムパラメータの評価
クロマトグラフィーTtSlyD-Fc-III-4C 免疫アフィニティーカラムを生成し、アフィニティー、化学的安定性及び再利用性等の所望のパラメータを、Sigma-Aldrichによって供給される市販の高純度ウサギ免疫グロブリンG(rbIg
G)を使用して評価した。AEKTA(商標)Avantクロマトグラフィーシステムを用いて試験ランを行った。rbIgGを適用する前に、アフィニティーカラムを20CVの平衡化緩衝液で平衡化した。rbIgGを最終濃度1mg/mLに希釈した。1mLシリンジを用いて1mLの試料を手動で注入し、カラムを8℃で30分間インキュベートしてリガンドに結合させた。未結合抗体を、10CVの洗浄緩衝液を加えることによって除去した。IgGを、96ウェルDWB中の0.2mL画分中で5CVに対して溶出緩衝液で溶出した。溶出液を中和するために、ウェルあたり40μLの1Mアルギニン溶液を添加した。カラムの定置洗浄(CIP)手順を、最初に10CVの再生緩衝液で洗浄し、続いて15CVの100mM NaOHですすぐことによって行った。カラムを直ちに再使用しない場合、これを保存緩衝液中で平衡化し、8℃で保存した。
【0088】
rbIgG精製に用いた緩衝液及び溶液は以下の通りである。全ての緩衝液及び溶液を滅菌濾過(0.2μm)し、使用前に脱気した。HCl又はNaOHのいずれかでpHを調整した。
【0089】
緩衝液/溶液-組成物
平衡緩衝液50mM Tris-HCl、0.05%Tween(登録商標)20、pH7.8
洗浄緩衝液 50mM Tris-HCl、pH6.0
溶出緩衝液 NHAc-AcOH、pH3.4
再生緩衝液 NHAc-AcOH、pH2.2
CIP溶液 100mM NaOH
保存緩衝液 0.05M NaHPO、0.1%NaN、pH7
ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)
【0090】
タンパク質画分を還元条件又は非還元条件の両方でSDS-PAGEで分析した。試料を適切な量のNuPAGE(登録商標)LDS試料緩衝液(4×)(Thermo Fisher Scientific)及びNuPAGE(登録商標)還元剤(10×)(Thermo Fisher Scientific)(還元ゲル用)又は水(非還元ゲル用)と混合して、50μLの総体積を得て、サーモサイクラー中95℃で10分間インキュベートした。ゲルのランを、5μLのNovex(商標)Sharpの予備染色されたタンパク質ラダー(Thermo Fisher Scientific)と共に、NuPAGE(登録商標)Bis-Tris 4-12%ゲル(Thermo Fisher Scientific)で15μL/10μg試料/レーンを用いて実施して、タンパク質バンドの分子量を推定した。200Vの定電圧で電気泳動を行った。ゲルを、Instant Blue(商標)タンパク質染色剤(Expedeon)で染色し、ddHO中で一晩脱染色した。画像をChemiDoc MP(商標)装置(Bio-Rad)で撮影した。
【0091】
タンパク質濃度の分光光度測定
SEC後の精製タンパク質の濃度を、NanoDrop(商標)OneCマイクロボリュームUV-Vis分光光度計(Thermo Fisher Scientific)を使用して分光光度的に決定した。適切な希釈緩衝液をブランクとした。測定は、280nmで1.0Aの吸光度を生じる0.1%(1mg/mL)タンパク質溶液(経路長は1cm)に基づく一般的な参照設定で行った。タンパク質濃度は、280nmでの特定のタンパク質吸光度をその後考慮して、Beer-Lambertの法則に従って計算した。対応する吸光度単位(AU)は、Vector NTI(Thermo Fisher Scientific)ソフトウェアによって計算した。
【0092】
表面プラズモン共鳴(SPR)
生成されたTtSlyD-Fc-III-4C変異体のアフィニティー及び結合速度論を、Biacoreバイオセンサーシステムを使用してSPRによって評価した。Biacoreシステムは、センサーチップの金表面に固定化されたリガンドと、溶液中に遊離してリガンド上を通過する分析物(Healthcare,G.,Biacore(商標)Assay Handbook 29-0194-00 Edition AA)との間の分子間相互作用のリアルタイムモニタリングを可能にする。結合パートナーの相互作用は、共鳴単位(RU)で測定され、時間に対するプロット(センサーグラム)として示されるSPRシグナル(応答)をもたらす。
【0093】
手順に関して、完結には、分析物はチップ上に注入され、固定化リガンドと相互作用する。チップ表面での分子の濃度の変化は、応答単位(RU)として監視される屈折率の変化をもたらす。分析物の解離は、継続的な緩衝液フローによって引き起こされ、その後、完全な除去(チップ再生)及び新しい分析サイクルの開始が続く。得られたSPRデータを数学的モデルに当てはめて、会合速度定数ka(M-1s-1)及び解離速度定数kd(s-1)等の速度論的パラメータを導出した。
【0094】
相互作用速度論を、経時的に異なる分析物濃度を監視することによって調査する。会合(ka)及び解離速度定数(kd)等の速度論的パラメータは、数学的モデルに関連して評価される。適用された1つのモデルは、1つのリガンド分子が1つの分析物分子と相互作用する1:1の相互作用を仮定する、「「ラングミュア相互作用モデル」(O’Shannessy,D.J.,et al.,Determination of rate and equilibrium binding constants for macromolecular interactions using surface plasmon resonance:use of nonlinear least squares analysis methods.Anal Biochem,1993.212(2):p.457-68)あった。「2価分析物結合」の速度論的モデルは、1つの分析物分子が1つ又は2つのリガンド分子に結合することができる二価分析物を想定している。本発明内で行われた速度論的分析実験は、マルチサイクル速度論として行われ、単一サイクルで各分析物濃度を試験し、各サイクル後にチップ表面を再生した。再生の成功は、リガンドを脱離させることなく、又はその活性を制限することなく、結合した分析物を除去することを意味する。したがって、速度論的測定の前に再生スカウティングを行った。
【0095】
再生スカウティング
再生スカウティングを、Biacore 3000システム及びGE Healthcareによって提供されるCM5チップを使用して行った。チップは、金表面に共有結合により付着させたカルボキシメチル化デキストランを示す。約3000RUのリガンド密度を達成することを試みて、アミンカップリングを介してリガンドをチップ表面に固定化した。分析物(ヒトIgG、300nM)を試料緩衝液で希釈した。以下のプロトコルに従って再生を試験した。最初のサイクルでは、300nMヒトIgGを注入した。結合した抗体を、システム緩衝液及び10 mMグリシンpH2の2回の1分間パルスの添加によって置き換えた。このサイクルを6回繰り返した後、10mMグリシン、pH1.75及びpH1.5をそれぞれ使用して更に2サイクル行った。
再生スカウティング用運転プログラム
【表1】
【0096】
速度論的スクリーニング
C1チップを備えたBiacore 3000及びBiacore 8Kシステム(GE Healthcare)を使用して速度論的測定を行った。チップアセンブリは、デキストランねじ山がないことを除いて、C5チップと同様である。足場をアミンカップリングによって固定化した、すなわちタンパク質をチップ表面に存在するカルボキシメチル基に共有結合により連結させた。チップ表面上の残りの遊離結合部位を飽和させるために(コンディショニング)、測定前にチップ表面を270nMの分析物でフラッシュし、グリシン緩衝液(pH1.75)で再生した。簡潔には、足場タンパク質を、アミンカップリングを介してBiacore C1チップ上に固定化した。IgGを異なる濃度で注入し、各サイクル後にチップを再生した。
【0097】
リガンドの固定化
所望のリガンドを試料緩衝液で5μg/μLの最終濃度に希釈した。チップ表面を洗浄緩衝液の2回の1分間の注入でパージし、最後にシステム緩衝液でプライミングした。反応性基を、40μLのNHS/EDC(50%ミックス)を20μL/分の流速で適用することによって活性化した。リガンド溶液を50μL/分の流速で注入して、その後の性能に適したRU応答を達成した。(高い分析物濃度での立体的混み合い効果を回避するために、約100のRU値を超えなかった)。過剰のNHS活性化エステルを、20μL/分の流速で100μLの1Mエタノールアミン塩酸塩(EA-HCl)溶液(pH8.5)にチップ曝露することによってクエンチした。
【0098】
速度論的スクリーニング
分析物を試料緩衝液で段階的に希釈して、所望の濃度を達成した。表示濃度のIgG(ヒトIgG又はウサギIgG、Sigma-Aldrich)を、それぞれ60μL/分又は40 μL/分及び25℃又は37℃でチップ上に注入した。各分析サイクルの終わりに、10mMグリシンpH 1.75の2回の1分間パルスでチップ表面を再生した。
【0099】
結果
本発明において、ペプチドグラフトは、Fc-III-4Cペプチドと共にTtSlyDタンパク質のFKBPドメインをコードするDNAベクターコンストラクトを作製することによって実現された。適切な配列を原核生物発現ベクターpQE80-Kanに挿入し、大腸菌でのDNA増幅及び発現を可能にした。IgGアフィニティーカラムは、組換え生産したTtSlyD-Fc-III-4Cを市販のNHS-セファロースマトリックスにカップリングさせることによって作製した。原理証明精製実験は、高純度IgG溶液を用いて行った。カラムマトリックスの化学的安定性及び再利用性を、極端なアルカリ条件への曝露及びカラムランの複数回の繰り返しによって更に評価した。より穏やかな溶出条件を促進するという目的に関して、Fc結合部分の成熟を、Quick change PCR(QC-PCR)によって実現した。ペプチドとIgGのFc部分との相互作用において重要な役割を果たすトリプトファン11を、異なる生化学的特性を示す12個のアミノ酸で置換した。異なるバリアントの発現レベル及び溶解度を96ウェル形式で事前に試験した。
【0100】
選択された変異体をミッドスケールフォーマット(250mL)で発現させ、TtSlyD-FcIII-4C足場を固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)及びサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって精製した。潜在的なカラムリガンドの発現及び精製を単純化するために、架橋形成システインを欠く化学合成Fc-III-4Cペプチドライブラリーを作製し、HT-NimbleGenマイクロアレイにおける高アフィニティーバリアントについてスクリーニングした。10個の最良の結合剤を同定し、TtSlyD骨格にグラフトし、発現及び精製した。生成されたタンパク質バリアントとIgGとの相互作用を、表面プラズモン共鳴(SPR)技術を用いた速度論的スクリーニングによって評価した。
【0101】
Fc-III-4Cペプチドのサーマス・サーモフィルスSlyDタンパク質のFKBPドメインへのグラフトを分子クローニングによって実現した。配列分析により、最終的なpQE80Kan-TtSlyD-Fc-III-4C発現コンストラクトの正しい配列が明らかになった。
【0102】
元の変更されていないFc-III-4Cインサートを担持するTtSlyD足場を250mLスケールで発現させ、続いて固定化金属イオンアフィニティー(IMAC)及び分取サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって精製した。原理証明実験では、IgG-FPLC精製のためのアフィニティーリガンドとしてのその可能性を評価するために、タンパク質をカラムマトリクスにカップリングさせた。
【0103】
リガンド-マトリックスの組み合わせは、HiTrap NHS活性化HPカラム(1mL、GEヘルスケア)に含まれるNHS活性化高架橋アガロースビーズに、足場タンパク質中に存在する第一級アミン基を共有結合によりにカップリングさせることによって行った。一次アミン基は、リジン残基及びタンパク質のN末端に見られる。リジン残基は、一般に露出位置を有するため、共役点として素因を有する。TtSlyD FKBPドメインは、NHSエステル基と潜在的に反応することができる5つのリジン残基を有する。93%のカップリング効率が達成された。
【0104】
ランダムアミンカップリングを介してIgG-Fcアフィニティー足場をカラムに取り付けると、不均一なマトリックス組成物が得られる。アフィニティーペプチドループは、必ずしも分析物溶液に対向していない。したがって、最終カラムの結合容量は影響を受けるか、又は損なわれる可能性さえある。可能な対抗策は、足場タンパク質のC末端部分に単一のシステイン残基を導入し、続いてチオール含有固体マトリックスにカップリングさせることによるチオール指向性固定化であろう(Ljungquist,C.,et al.,Thiol-directed immobilization of recombinant IgG-binding receptors.Eur J Biochem,1989.186(3):p.557-61)。さらに、リガンド密度の潜在的な影響を考慮しなければならない。
【0105】
原理証明実験では、生成されたNHS-セファロース-TtSlyD-Fc-III-4Cカラムの1つを、そのIgG結合容量に関して試験した。NHS-セファロース-TtSlyD-Fc-III-4CカラムによるウサギIgG精製は、リガンドの漏出を示さなかった。結果は、Gong et al.(Gong,Y.,et al.,Development of the Double Cyclic Peptide Ligand for Antibody Purification and Protein Detection.Bioconjug Chem,2016.27(7):p.1569-73)に記載されているような知見に従っており、これは、選択されたpHで、プロテインAビーズに匹敵するFc-III-4Cアガロースビーズに対するウサギIgGの濃縮効率を示しており、市販のアフィニティーマトリックスと比較して、足場-アフィニティーキメラの競合的IgG結合能力の実証に成功した。
【0106】
リガンドの化学的安定性及びカラムマトリックスの再利用性を更に評価するために、精製プロセスを自動化し、数サイクルを連続して実行するためにプロトコルの範囲を縮小した。溶出された抗体の収率は、タンパク質濃度及びモニターされたピーク面積の分光光度測定によって確認されたように、全てのランについてほぼ同じであった。30サイクル後でも、有意なピークシフト又は広がりのない再現性のあるクロマトグラムを記録することができた。
【0107】
Fc-III-4C結合部位を操作することによるIgG溶出条件の改善を試験するために、以下の特徴を示すタンパク質バリアントを選択的にスクリーニングすることを意図して、Fc結合部分をQC-PCRによって変更した:比較的穏やかなpH条件下での抗体脱離を可能にする、抗体捕捉の点で有利な速い会合速度及び速い解離速度。
【0108】
Fc-III-4CとIgG-Fc部分との間の結合及び最も強い相互作用分子の主要な駆動因子の一つであるトリプトファンを、12アミノ酸のグリシン、セリン、アラニン、アルギニン、リジン、グルタミン酸、リジン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン又はヒスチジンと交換した。ヒスチジン残基の導入は、結合強度を低下させる点でアフィニティーリガンドの操作に既に適用され成功している(Watanabe,H.,et al.,Optimizing pH response of affinity between protein G and IgG Fc:how electrostatic modulations affect protein-protein interactions.J Biol Chem,2009.284(18):p.12373-83)。これにより、比較的穏やかな酸性条件下での抗体の解離が、リガンドと抗体との間の静電反発によって促進される。配列分析により、全ての所望の突然変異の挿入が成功したことが確認された。
【0109】
さらなる精製の試みのために、全てのタンパク質バリアントの発現を上記のように250mLフォーマットで行った。細胞を採取した後、細胞ペレットを化学的に破壊し、遠心分離し、滅菌濾過し、可溶性画分をNi-NTA重力流動カラムに適用した。足場タンパク質中に存在するポリヒスチジンタグのニッケルカラムへの結合を250mMイミダゾールの固定濃度で溶解することによって、所望のタンパク質を溶出した。単量体画分をプールし、さらなる分析に使用した。最初に負荷されたタンパク質の量に対する得られたタンパク質モノマーの割合は、12%(WからAへの突然変異)~97%(野生型)の範囲であった。結果は、11位のトリプトファンが単量体タンパク質の安定性にとって重要であることを示している。Fc結合部位を交互にする目的は、その後のIgG精製プロセスのために穏やかなpH条件下でタンパク質溶出を可能にするために、高い十分なアフィニティーを特徴とし、同時に速い会合/解離を示すタンパク質バリアントを生成することであった。それにもかかわらず、試験した全てのバリアントは、同じ範囲のアフィニティー及び会合/解離速度を明らかにした。
【0110】
追加の実験では、これらの連結がループ安定性及びIgG-Fcに対するタンパク質のアフィニティーに必須であるかどうかを調べるために、システインを代替アミノ酸で置き換えた。
【0111】
Fc-III(DCAWHLGELVWCT、配列番号17)及びFc-III-4C(CDCAWHLGELVWCTC、配列番号1)ペプチドのシステイン残基をランダム化し、得られた環状ペプチドライブラリーを、ハイスループットNimbleGenマイクロアレイにおいてmAbに対する結合(bindind)について試験した。Fc-IIIペプチドについては、1つのみの高アフィニティーバリアント、すなわち野生型ペプチドを同定することができた。
【0112】
Fc-III-4Cについては、野生型ペプチドのIgG-Fcアフィニティーを超える299個のバリアントを同定した。しかしながら、これら全ての高アフィニティーバリアントの中で、両方の内部システインが無傷のままである配列のみが見出された。内部システインを欠くバリアントは全て低強度バリアントに属し、内部システインが絶対的に必須であることを示した。対照的に、末端ジスルフィド架橋は、IgGに対するペプチドのアフィニティーを維持するために必要ではなく、場合によっては結合強度を改善することさえできる。
【0113】
aa交換が変化した強度及び結合アフィニティーをもたらしたいくつかの位置を同定することができた。最も注目すべき位置は、Fc-III-4C中の7位のロイシン残基であった。グルタミンによるそれぞれの置き換えは、アフィニティーを有意に改善した。10個の高アフィニティーバリアントをTtSlyD FKBPドメインに移植し、精製プロファイル及びIgG-Fcアフィニティーに関して更に調査した。外部システインを欠くバリアントはFc-III-XCと呼ばれる。抗CD44抗体に対して最も高いアフィニティーを示す最初の50個のバリアントのみを分析した。3’末端において、酸性アミノ酸アスパラギン酸及びグルタミン酸並びに極性アミノ酸アスパラギンに対する明確な傾向が認められる。しかしながら、ペプチドのC末端における最も豊富なシステイン置換はプロリンである。プロリンは、配座の自由度が低く、したがってループ構造を安定化し、より高いアフィニティーをもたらす可能性がある。5’-置換はむしろランダムに起こり、明白な傾向はない。ほとんどの場合、システインは単純に欠失されるか、又は上記と同じアミノ酸によって交換される。配列決定データは、全ての所望のコンストラクトについて正しい配列を明らかにした。
【0114】
予想されるように、TtSlyD-Fc-III-XC変異体は、4つのシステイン残基を示すバリアントと比較して凝集しにくい。システイン欠損タンパク質バリアントの分子相互作用及びアフィニティーを、ウサギIgG及びヒトIgGの両方について、異なる温度(25℃及び37℃)で試験した。
【0115】
8nM~43nMの範囲のKD 値が、hIgGとの相互作用分析において得られた。rbIgGの場合、KD 値は15~52nMの範囲であった。Gong et.al.によると、化学的に合成されたFc-III-4CペプチドのKD値は、ヒトIgGでは2.45nMであり、ウサギIgGでは5.67nMであり、天然のプロテインAバインダーよりも高いFcアフィニティーを示した。TtSlyD-Fc-III-2C_Hit No.4は、FPLCによるIgG精製の最も有望な候補として同定された。これは、速い会合速度(t/2diss=36分)及び比較的高い結合アフィニティー(K=1.09×10 1/M)を示す(25℃でのhIgGの測定)。マトリックス、例えばセファロース樹脂へのアフィニティータンパク質の共有結合による付着は、クロマトグラフィーリガンドとしてのその完全な可能性を明らかにするであろう。
図1
図2
【配列表】
2024530937000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-02-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SlyDのタンパク質断片を含む、キメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドであって、そのIFドメインが、アフィニティーペプチドFc-III-4C(CDCAWHLGELVWCTC、配列番号1)又はそのFc-III-XCバリアント(X1DCAWHLGELVWCTX2、配列番号3)で置き換えられており、X1が欠損しているか、又はC、D、P、E及びKの群から独立して選択され、X2がC、Q、P及びEの群から独立して選択される、キメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド。
【請求項2】
前記SlyDが、例えばサーマス・サーモフィルス等のサーマス種に由来する、請求項1に記載のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド。
【請求項3】
配列
MKVGQDKVVTIRYTLQVEGEVLDQGELSYLHGHRLIPGLEEALEGREEGEAFQAHVPAEKAYCDCAWHLGELVWCTCGKDLDFQVEVVKVREATPEELLHGHA(配列番号5)
を含む、請求項1に記載のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド。
【請求項4】
C末端アミノ酸タグ、例えばHis8タグ等を更に含む、請求項1に記載のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド。
【請求項5】
前記ポリペプチドが、ヒト、ウサギ、マウス、ラット、ブタ、ヤギ、ウマ、及びウシからなる群から選択されるIgG種に対して高い親和性で結合を示す、請求項1に記載のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド。
【請求項6】
好ましくは互いに頭尾融合した、請求項1に記載のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドが2つ融合したものを含む、二価バインダー分子。
【請求項7】
ビーズ及び/又はカラムマトリックス等の固体マトリックス材料等の固体担体にカップリングされた、請求項1に記載のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド、又は請求項6に記載の二価バインダー分子。
【請求項8】
前記カップリングが、セファロースマトリックスに含まれるNHSエステルとの前記SlyDのリジン側鎖を介する、請求項7に記載のカップリングされたリガンド又はバインダー分子。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドを製造するための方法であって、大腸菌等の適切な宿主細胞における前記リガンドポリペプチドの組換え発現を含むか、又は前記リガンドポリペプチドの化学合成を含む、方法。
【請求項10】
前記キメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチドを、ビーズ及び/又はカラムマトリックス等の固体マトリックス材料等の固体担体にカップリングする工程を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
免疫グロブリンを精製するための方法であって、請求項1~5のいずれか一項に記載のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド又は請求項6に記載の二価バインダー分子がカップリングされた固体担体を前記免疫グロブリンと接触させることと、前記キメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド又は前記二価バインダー分子から前記免疫グロブリンを適切に溶出することと、を含む、方法。
【請求項12】
高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記免疫グロブリンの前記溶出条件が、固体担体材料にカップリングされたプロテインAを含む固体担体材料と比較して穏やかである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記固体担体材料の化学再生工程であって、固体担体材料にカップリングされたプロテインAを含む固体担体材料と比較して、より厳しい条件を使用する化学再生工程を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
免疫グロブリンの精製、又は所定の標的分子に対するペプチドバインダーのスクリーニング及び選択のための、請求項1~5のいずれか一項に記載のキメラIgG-Fc結合リガンドポリペプチド又は請求項6に記載の二価バインダー分子の使用。
【国際調査報告】