(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-27
(54)【発明の名称】がんの処置のための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240820BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20240820BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240820BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240820BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240820BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240820BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240820BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20240820BHJP
C07K 16/24 20060101ALI20240820BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240820BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240820BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20240820BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61K45/06
A61P35/00
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61K48/00
A61P43/00 105
A61K31/7088
A61K39/395 U
C12N15/113 Z
C07K16/24
C07K16/28
C12Q1/02
G01N33/574 Z
G01N33/53 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024507089
(86)(22)【出願日】2022-08-05
(85)【翻訳文提出日】2024-04-02
(86)【国際出願番号】 EP2022072123
(87)【国際公開番号】W WO2023012343
(87)【国際公開日】2023-02-09
(32)【優先日】2021-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】516032920
【氏名又は名称】アンスティテュ・レジオナル・デュ・カンセール・ドゥ・モンペリエ
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT REGIONAL DU CANCER DE MONTPELLIER
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】515011944
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ドゥ・モンペリエ
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】リナレス,レティシア
(72)【発明者】
【氏名】ファーミン,ネリー
(72)【発明者】
【氏名】マントー,ガブリエル
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QR48
4B063QR77
4B063QS33
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4C084ZB211
4C084ZB212
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4C085BB17
4C085EE01
4C085EE03
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4C086EA16
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4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZC41
4C086ZC75
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、必要がある対象においてクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを治療及び/又は予防するための方法で使用するための、インターロイキン-6(IL-6)阻害薬、IL-6受容体阻害薬、IL-6/IL-6受容体複合体阻害薬、gp130阻害薬及びSTAT3阻害薬より選択されるIL-6シグナル伝達阻害薬、又はIL-6シグナル伝達阻害薬などを含む医薬組成物に関し、対象は、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患していると事前に分類されている。本発明者らは、例えば脂肪肉腫などのクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんは、筋芽細胞上でも同様に作用するIL-6タンパク質を分泌してセリン合成を活性化すると示されていることが観察される。これらの驚くべき、そして予期せぬ観察に続いて、本発明者らは、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患していると事前に分類された対象においてがん細胞死を誘発することが可能である処置の方法を設定する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要がある対象においてがんを治療及び/又は予防するための方法で使用するための、インターロイキン-6(IL-6)阻害薬、IL-6受容体阻害薬、IL-6/IL-6受容体複合体阻害薬、gp130阻害薬及びSTAT3阻害薬より選択されるIL-6シグナル伝達阻害薬であって、前記対象が、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患していると事前に分類されている、IL-6シグナル伝達阻害薬。
【請求項2】
前記がん細胞が更に、セリン及びグリシンを欠乏させられる、請求項1に記載の使用のためのIL-6シグナル伝達阻害薬。
【請求項3】
クロマチンへのMDM2の動員を呈する前記がんが、骨がん、脳がん、卵巣がん、乳がん、肺がん、大腸がん、骨肉腫、皮膚がん、悪性血液疾患、膵臓がん、前立腺がん及び脂肪肉腫を含む群より選択され、特にクロマチンへのMDM2の動員を呈する前記がんが脂肪肉腫である、請求項1又は2に記載の使用のためのIL-6シグナル伝達阻害薬。
【請求項4】
前記IL-6阻害薬が、抗IL-6抗体又はIL-6に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のためのIL-6シグナル伝達阻害薬。
【請求項5】
前記IL-6受容体阻害薬が、抗IL-6受容体抗体又はIL-6受容体に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のためのIL-6シグナル伝達阻害薬。
【請求項6】
前記IL-6/IL-6受容体複合体阻害薬が、抗IL-6/IL-6受容体複合体抗体又はIL-6/IL-6受容体複合体に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のためのIL-6シグナル伝達阻害薬。
【請求項7】
前記gp130阻害薬が、抗gp130抗体、バゼドキシフェン及びgp130に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドより選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のためのIL-6シグナル伝達阻害薬。
【請求項8】
前記抗IL-6抗体が、モノクローナル抗IL-6抗体であり、特に前記抗IL-6抗体が、シルクマブ、シルツキシマブ、オロキズマブ及びクラザキズマブより選択される、請求項4に記載の使用のためのIL-6シグナル伝達阻害薬。
【請求項9】
前記抗IL-6受容体抗体が、トシリズマブ、サリルマブ及びTZLS-501より選択される、請求項5に記載の使用のためのIL-6シグナル伝達阻害薬。
【請求項10】
前記抗IL-6/IL-6受容体複合体抗体がTZLS-501である、請求項6に記載の使用のためのIL-6シグナル伝達阻害薬。
【請求項11】
前記対象が、MDM2阻害薬で更に処置される、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のためのIL-6シグナル伝達阻害薬。
【請求項12】
必要がある対象においてがんを治療及び/又は予防するための方法で使用するための、(i)IL-6阻害薬、IL-6受容体阻害薬、IL-6/IL-6受容体複合体、gp130阻害薬及びSTAT3阻害薬より選択されるIL-6シグナル伝達阻害薬と、(ii)薬学的に許容し得る担体とを含む、医薬組成物であって、前記対象が、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患していると事前に分類されている、医薬組成物。
【請求項13】
前記がん細胞が更に、セリン及びグリシンを欠乏させられている、請求項12に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項14】
前記対象がヒトである、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のためのIL-6シグナル伝達阻害薬、請求項12又は13に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項15】
対象がクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患しているかどうかを決定する、インビトロでの方法であって、前記対象がIL-6シグナル伝達阻害薬を含む療法を意図しており、前記方法が、
-MDM2が、前記対象から取得した生物学的試料のがん細胞核に局在しているかどうかを決定することを含み、
-MDM2が前記生物学的試料の前記がん細胞核に局在する場合には、前記対象がクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんによって罹患していることを示す、インビトロでの方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、がん処置の分野に関する。特に、がんを処置するための治療ツールに関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、制御不能に分裂し、かつ正常な体組織を浸潤及び破壊し得る異常細胞の発達を特徴とする疾患群を指す。がんは、世界における死因の第2位である。様々ながん疾患を処置するため、多数の療法が開発されている。しかし、時にはがん細胞が抗がん療法の効力に打ち勝つことがある。したがって、特にがんの機構を調査してかつこれを標的とし、より効果的で新規の療法を提供することが重要である。
【0003】
いくつかのがんは、マウス二重微小染色体2(mouse double minute 2)腫瘍性タンパク質の破壊によって引き起こされる。MDM2は、いくつかの種類のヒトのがんでは頻繁に過剰発現する腫瘍抑制因子p53経路の重要な構成要素として認識されている(Biderman et al., 2012, Wade et al., 2013)。近年、MDM2はまた、p53とは独立して、アミノ酸代謝、より具体的にはセリン及びグリシン代謝の関与を示唆する転写プログラムを調節するためにクロマチンに動員されることが実証されている(Riscal et al. Mol Cell. 2016 Jun 16;62(6):890-902)。MDM2は、p53とは独立して動作し、セリン/グリシン代謝を制御し、がん増殖を維持する。セリン/グリシン代謝は、同化要求に寄与することによって、並びに酸化還元状態(Locasale JW.Nat Rev Cancer.2013 Aug;13(8):572-83)及びヌクレオチド合成(Cisse et al.,Sci Transl Med.2020 Jun 10;12(547))を制御することによって、がん細胞の増殖を支援する。今日では、MDM2p53依存相互作用の抑制因子を使用することによるがん療法がp53の負の調節因子としてMDM2機能に特に干渉することが主に調査されている。ただし、これらの処置は完全に有効というわけではない。
【0004】
脂肪肉腫(liposarcoma、LPS)などのクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんは、治療又は予防にとって依然として非常に重要である複雑な種類のがんである。
【0005】
国際公開公報第2019106126号は、クロマチンへのMDM2の動員又はp53の抑制因子及びMDM2相互作用に対する耐性を呈する脂肪肉腫に罹患している対象を診断するための方法、並びに脂肪肉腫を処置するための方法に関する。セリン合成経路及び取込みは、がん細胞の増殖を維持させることが観察されている(Cisse et al., Sci Transl Med.2020 Jun 10;12(547))。
【0006】
したがって、新規医薬組成物並びにクロマチンへのMDM2の動員を呈するがん、特に脂肪肉腫を治療及び/又は予防するための方法を設定する必要性が依然として存在する。クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞、特に脂肪肉腫がん細胞に対して、公知の方法よりもがん細胞死を誘発するより強い能力を示す新規処置方法を提供する必要性が存在する。
【0007】
対象が、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患しているかどうかを決定する方法を与える必要性が存在する。
【0008】
本開示は、これらの必要性のすべて又は一部を充足する目的を有する。
【発明の概要】
【0009】
一実施形態によれば、本開示は、必要がある対象においてクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを治療及び/又は予防するための方法で使用するための、インターロイキン-6(IL-6)阻害薬、IL-6受容体阻害薬、IL-6/IL-6受容体複合体阻害薬、gp130阻害薬及びSTAT3阻害薬より選択されるIL-6シグナル伝達阻害薬に関する。
【0010】
本開示は、必要がある対象においてクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを治療及び/又は予防するための方法で使用するための、インターロイキン-6(IL-6)阻害薬、IL-6受容体阻害薬、IL-6/IL-6受容体複合体阻害薬、gp130阻害薬及びSTAT3阻害薬より選択されるIL-6シグナル伝達阻害薬に関し、対象は、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患していると事前に分類されている。
【0011】
本開示は、必要がある対象においてクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを治療及び/又は予防するための薬物を調製するための、インターロイキン-6(IL-6)阻害薬、IL-6受容体阻害薬、IL-6/IL-6受容体複合体阻害薬、gp130阻害薬及びSTAT3阻害薬より選択されるIL-6シグナル伝達阻害薬の使用に関する。
【0012】
本開示は、必要がある対象においてクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを治療及び/又は予防するための薬物を調製するための、インターロイキン-6(IL-6)阻害薬、IL-6受容体阻害薬、IL-6/IL-6受容体複合体阻害薬、gp130阻害薬及びSTAT3阻害薬より選択されるIL-6シグナル伝達阻害薬の使用に関し、対象は、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患していると事前に分類されている。
【0013】
本開示は、必要がある対象においてクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを治療及び/又は予防するための方法に関係し、当該方法は、当該対象に、インターロイキン-6(IL-6)阻害薬、IL-6受容体阻害薬、IL-6/IL-6受容体複合体阻害薬、gp130阻害薬及びSTAT3阻害薬より選択されるIL-6シグナル伝達阻害薬を投与する工程を含む。
【0014】
本開示は、必要がある対象においてがんを治療及び/又は予防するための方法に関係し、対象は、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患していると事前に分類され、当該方法は、当該対象に、インターロイキン-6(IL-6)阻害薬、IL-6受容体阻害薬、IL-6/IL-6受容体複合体阻害薬、gp130阻害薬及びSTAT3阻害薬より選択されるIL-6シグナル伝達阻害薬を投与する工程を含む。
【0015】
本開示はまた、必要がある対象においてがんを治療及び/又は予防するための方法に関し、当該方法は、
a)当該対象から事前に取得した生物学的試料にてクロマチンへのMDM2の動員を検出することによって、当該治療及び/又は当該予防が投与されていることに対する当該対象の適格性を決定する工程と、
b)クロマチンへのMDM2の動員が工程a)で検出されたときに、当該対象に、インターロイキン-6(IL-6)阻害薬、IL-6受容体阻害薬、IL-6/IL-6受容体複合体阻害薬、gp130阻害薬及びSTAT3阻害薬より選択されるIL-6シグナル伝達阻害薬を投与する工程と、を含む。
【0016】
本開示は、必要がある対象においてがんを治療及び/又は予防するための方法に関係し、当該方法は、
a)当該対象から事前に取得した生物学的試料にてクロマチンへのMDM2の動員を検出することによって、当該治療及び/又は当該予防が投与されていることに対する当該対象の適格性を決定する工程と、
b)当該対象が工程a)でクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患していると分類されるときに、当該対象に、インターロイキン-6(IL-6)阻害薬、IL-6受容体阻害薬、IL-6/IL-6受容体複合体阻害薬、gp130阻害薬及びSTAT3阻害薬より選択されるIL-6シグナル伝達阻害薬を投与する工程と、を含む。
【0017】
本明細書の実施例に示されるように、例えば脂肪肉腫などのクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんは、筋芽細胞上でも同様に作用するIL-6タンパク質を分泌してセリン合成を活性化すると示されている。続いて、セリンはがん細胞によって使用され、がん細胞の増殖を維持することもまた示されている。この完全に新しい観察は、がん細胞がセリン/グリシン枯渇培地で培養されたときであっても行われた。これらの驚くべき、そして予期せぬ観察に続いて、本発明者らは、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患していると事前に分類された対象においてがん細胞死を誘発することが可能である処置の方法を設定する。特に、本開示の処置の方法は、それらのいくつかの実施形態では、がん細胞の劇的なセリン除去に関与し得る。実施例では、本明細書に開示された方法は、特に脂肪肉腫といったクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを処置するための公知の方法と比較して、活性の改善を示すことを更に示す。
【0018】
いくつかの他の実施形態では、本明細書に開示されるように、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞は更に、セリン及びグリシンを欠乏させられる。これは、がん対象が外因性セリン及びグリシンを欠乏させられることを包含している。
【0019】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるように、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんは、骨がん、脳がん、卵巣がん、乳がん、肺がん、大腸がん、骨肉腫、皮膚がん、悪性血液疾患、膵臓がん、前立腺がん及び脂肪肉腫を含む群より選択され得る。
【0020】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるように、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんは、脂肪肉腫であり得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるように、IL-6阻害薬は、抗IL-6抗体又はIL-6に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドであり得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるように、IL-6受容体阻害薬は、抗IL-6受容体抗体又はIL-6受容体に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドであり得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるように、IL-6/IL-6受容体複合体阻害薬は、抗IL-6/IL-6受容体複合体抗体又はIL-6/IL-6受容体複合体に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドであり得る。
【0024】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるように、gp130阻害薬は、抗gp130抗体、バゼドキシフェン及びgp130に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドであり得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、STAT3阻害薬は、C188-9又はStatticであり得る。
【0026】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるように、IL-6/IL-6受容体複合体阻害薬又はgp130阻害薬は、IL-6/IL-6受容体複合体阻害薬又はgp130阻害薬のアンチモルフ形態を包含し得る。
【0027】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるように、抗IL-6抗体は、モノクローナル抗IL-6抗体であり得る。
【0028】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるように、抗IL-6抗体は、シルクマブ、シルツキシマブ、オロキズマブ又はクラザキズマブから選択され得る。
【0029】
いくつかの実施形態では、抗IL-6受容体抗体は、トシリズマブ、サリルマブ及びTZLS-501から選択され得る。
【0030】
いくつかの実施形態では、抗IL-6/IL-6受容体複合体抗体は、TZLS-501であり得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、必要がある対象は、本明細書に開示されるように、MDM2阻害薬で更に処置され得る。
【0032】
別の実施形態によれば、本開示はまた、必要がある対象においてクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを治療及び/又は予防するための方法で使用するための、(i)IL-6阻害薬、IL-6受容体阻害薬、IL-6/IL-6受容体複合体、gp130阻害薬及びSTAT3阻害薬より選択されるIL-6シグナル伝達阻害薬と、(ii)薬学的に許容し得る担体とを含む、医薬組成物に関する。
【0033】
別の実施形態によれば、本開示はまた、必要がある対象においてがんを治療及び/又は予防するための方法で使用するための、(i)IL-6阻害薬、IL-6受容体阻害薬、IL-6/IL-6受容体複合体、gp130阻害薬及びSTAT3阻害薬より選択されるIL-6シグナル伝達阻害薬と、(ii)薬学的に許容し得る担体とを含む、医薬組成物に関し、対象は、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患していると事前に分類されている。
【0034】
別の実施形態によれば、本開示はまた、必要がある対象においてクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを治療及び/又は予防するための方法で使用するための、(i)IL-6阻害薬、IL-6受容体阻害薬、IL-6/IL-6受容体複合体、gp130阻害薬及びSTAT3阻害薬より選択されるIL-6シグナル伝達阻害薬と、(ii)薬学的に許容し得る担体とを含む、医薬組成物に関し、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞は、セリン及びグリシンを欠乏させられる。
【0035】
別の実施形態によれば、本開示はまた、必要がある対象においてがんを治療及び/又は予防するための方法で使用するための、(i)IL-6阻害薬、IL-6受容体阻害薬、IL-6/IL-6受容体複合体、gp130阻害薬及びSTAT3阻害薬より選択されるIL-6シグナル伝達阻害薬と、(ii)薬学的に許容し得る担体とを含む、医薬組成物に関し、対象は、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患していると事前に分類されており、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞は、セリン及びグリシンを欠乏させられる。
【0036】
別の実施形態によれば、本開示はまた、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを有する対象を処置する方法に関し、少なくとも、
(a)がん細胞からセリン及びグリシンを欠乏させる工程と、
(b)対象に、IL-6阻害薬、IL-6受容体阻害薬、IL-6/IL-6受容体複合体阻害薬、gp130阻害薬及びSTAT3阻害薬より選択されるIL-6シグナル伝達阻害薬の治療有効量を投与する工程と、を含む。
【0037】
別の実施形態によれば、本開示はまた、対象がクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患しているかどうかを決定する、インビトロでの方法に関し、当該対象がIL-6シグナル伝達阻害薬を含む療法を意図しており、該方法は、
-MDM2が、対象から取得した生物学的試料のがん細胞核に局在しているかどうかを決定することを含み、
-MDM2が生物学的試料のがん細胞核に局在する場合には、対象がクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんによって罹患していることを示す。
【0038】
いくつかの実施形態では、対象はヒトであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞株がIL-6を分泌することを示す。
図1Aは、ヒト脂肪肉腫、乳がん、メラノーマ及びクロマチンへのMDM2の動員を呈する膵臓細胞株が、培地にて測定可能なIL-6を分泌することを示す。試験された異なるがん細胞株の上清中のIL-6濃度を、イムノアッセイによって測定した(Peprotech製のTMB Elisaキット)。横軸:試験細胞株(左から右)CFPAC;MDAMB468;SKMEL5;IB115;IB111;JURKAT;MCF7;ZR751;H1299;LNCAP;HPAC;MIAPACA。縦軸:試験細胞株によって分泌されたIL-6の濃度(pg/mL)。
図1Bは、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞株(C-MDM2(+))が、平均して4000pg/mLを超えるIL-6を分泌するが、クロマチンへのMDM2の動員なしのがん細胞株(C-MDM2(-))が、平均して100pg/mL未満のILー6を分泌することを示す。IL-6発現は、がん細胞でのMDM2の局在に応じて変化する。横軸:(左から右):C-MDM2(+)(クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞株);C-MDM2(-)(クロマチンへのMDM2の動員なしのがん細胞株)。縦軸:試験細胞株によって分泌されたIL-6の濃度(pg/mL)。
【
図2】IL-6発現がMDM2発現量に依存しないことを示す。
図2Aは、IL-6を高発現し、MDM2を過剰発現するがん細胞株を示す。横軸:がん細胞株におけるIL-6mRNA発現(任意単位)。縦軸:がん細胞株におけるMDM2mRNA発現量。
図2Bは、MDM2を過剰発現し、必ずしもIL-6を発現しないがん細胞株を示す。横軸:がん細胞株におけるIL-6mRNA発現(任意単位)。縦軸:がん細胞株におけるMDM2mRNA発現量。
【
図3】IL-6依存細胞の増殖が、脂肪肉腫細胞株のIL-6に富む上清によって促進されることを示す。組換えIL-6(対照)又は2つの異なる細胞株(MCF7乳がん細胞又はIB115脂肪肉腫細胞)からの上清の存在下で、IL-6依存細胞株XG-6を3日間培養した。横軸(左から右):XG-6細胞培養条件:(a)組換えIL-6(陽性対照)2ng/mLの存在下でのRPMI培地(2mL)におけるXG-6、(b)RPMI培地 2mLのみ(陰性対照)のXG-6、(c)MCF7乳がん細胞の前培養からの上清RPMI培地(2mL)におけるXG-6及び(d)IB115脂肪肉腫細胞の前培養からの上清RPMI培地(2mL)におけるXG-6。縦軸:XG-6細胞の量(AU)。
【
図4】セリン合成に関与する遺伝子(PHGDH、PSAT及びPSPH)の転写が、ヒトIB115脂肪肉腫細胞と共培養したマウスC2C12筋芽細胞でヒトIL-6によって増強されることを示す。単独で培養された、又はヒトIL-6発現を不活性化(shIL-6)するためにshRNAを形質導入した、若しくはshRNAを形質導入していない脂肪肉腫IB115細胞とともに共培養したC2C12筋芽細胞において,RT-qPCRによって分析された標的遺伝子。すべての実験は、DMEM培地 2mL中の50000個のC2C12細胞と100000個のIB115細胞を用いて行われる。横軸:(左から右)(a)筋芽細胞単独のPHGDH(Myo)、(a1)IB115脂肪肉腫細胞と共培養した筋芽細胞のPHGDH(LPS)、(a2)IB115脂肪肉腫細胞-shIL-6細胞と共培養した筋芽細胞のPHGDH、(b)筋芽細胞単独のPSAT、(b1)IB115脂肪肉腫-shIL-6細胞と共培養した筋芽細胞のPSAT、(b2)IB115脂肪肉腫-shIL-6細胞と共培養された筋芽細胞のPSAT、及び(c)筋細胞単独のPSPH、(c1)IB115脂肪肉腫細胞と共培養した筋細胞のPSPH、(c2)IB115脂肪肉腫-shIL-6細胞と共培養した筋細胞のPSPH。縦軸:標的遺伝子PHGDH、PSAT及びPSPHのmRNA量(AU)の相対量(平均+/SD;n=3独立実験)。ノンパラメトリックなマン・ホイットニーのU検定を使用、*p値<0.005、**p値<0.001。
【
図5】抗IL-6抗体を用いたインビトロ処置が、ヒトIB115脂肪肉腫細胞と共培養されたマウスC2C12筋芽細胞におけるセリン合成通路のIL-6依存的増強を減少させることを示す。すべての実験は、DMEM培地 2mL中の50000個のC2C12細胞と100000個のIB115細胞を用いて行われる。単独で培養された、又は抗IL-6抗体(2μM)で処置された、若しくは処置されていないIB115脂肪肉腫細胞とともに共培養したC2C12筋芽細胞においてRT-qPCRによって分析された標的遺伝子。横軸:(左から右)(a)筋芽細胞単独のPHGDH(Myo)、(a1)IB115脂肪肉腫細胞と共培養し、抗IL-6抗体(2μM)で処置された筋芽細胞のPHGDH(LPS)、(a2)IB115脂肪肉腫細胞と共培養し、抗IL-6抗体(2μM)で処置された筋芽細胞のPHGDH、(b)筋芽細胞単独のPSAT、(b1)IB115脂肪肉腫-shIL-6細胞と共培養した筋芽細胞のPSAT、(b2)IB115脂肪肉腫-shIL-6細胞と共培養された筋芽細胞のPSAT、及び(c)筋芽細胞単独のPSPH、(c1)IB115脂肪肉腫細胞と共培養した筋芽細胞のPSPH、(c2)IB115脂肪肉腫細胞と共培養し、抗IL-6抗体(2μM)で処置された筋芽細胞のPSPH。縦軸:各条件での標的遺伝子PHGDH、PSAT及びPSPHのmRNA量(AU)の相対量(平均+/SD;n=3独立実験)。
【
図6】IL-6刺激C2C12筋芽細胞は、セリンを有する脂肪肉腫細胞を提供し、かつセリン欠乏培地でその増殖を維持することを示す。60000個のIB115-GFP脂肪肉腫細胞を、単独で培養、又は5%血清を含むセリン/グリシン欠乏DMEM培地 2mL中で20000個のRFP-C2C12筋芽細胞と共培養した。細胞を、抗IL-6抗体(1μM)を用いて1週間に2回、9日間にわたって処置した。横軸(左から右):(a)5%血清を含むセリン/グリシン欠乏DMEM培地中のIB115脂肪肉腫細胞、(b)5%血清を含むセリン/グリシン欠乏DMEM培地中のC2C12筋芽細胞と共培養したIB115脂肪肉腫細胞、(c)C2C12筋芽細胞と共培養し、5%血清を含むセリン/グリシン欠乏DMEM培地中の抗IL-6抗体(1μM)を用いて処置したIB115脂肪肉腫細胞。縦軸:9日目の培養物中の生存細胞の割合。
【
図7】セリン/グリシン欠乏及び抗IL-6抗体を用いた処置が、ヌードマウスに移植されたヒト脂肪肉腫腫瘍において、相乗的な抗腫瘍効果を有することを示す。マウスの処置条件:(a)アミノ酸食(対照)5g/日の平均値、(b)試験食(セリン/グリシンなし)5g/日の平均値、(c)アミノ酸食(5g/日)100μg/kgの用量の抗IL-6抗体の腹腔内投与(i.p.)、(d)試験食(セリン/グリシンなし)(5g/日)100μg/kgの用量の抗IL-6抗体のi.p.注射。横軸:マウスの処置日数。縦軸:立方ミリメートル(mm
3)の腫瘍サイズ(n=10独立実験)。
【
図8】C-MDM2分解が、クロマチンへのMDM2の動員なしのがん細胞(C-MDM2(-))よりもクロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞(C-MDM2(+))の細胞死の誘発ではより有効であることを示す。クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞又は呈さないがん細胞を、SP141の濃度を漸増させながら72時間にわたって処理した。縦軸:異なるがん細胞株でのSP141のIC
50(μM)の測定値平均横軸(左から右):C-MDM2(+)(クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞-WSKMEL5、IB115、IB111);C-MDM2(-)(クロマチンへのMDM2の動員なしのがん細胞-MCDF7、ZR751、HPAC)。
【
図9】IL-6分泌とMDM2の発現量との間に相関がないことを示す。横軸:がん細胞株によるMDM2の相対的タンパク質発現(log2)(https://sites.broadinstitute.org/ccle)。縦軸:がん細胞株によって分泌されたIL-6の濃度(pg/mL)。
【
図10】がん細胞のMDM2の局在と発現量との間に相関がないことを示す。MDM2タンパク質発現を、クロマチン結合MDM2(C-MDM2(+))又は細胞質MDM2(C-MDM2(-))を有する細胞株(https://sites.broadinstitute.org/ccle)間で比較した。横軸:(左から右):C-MDM2(+)(クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞株);C-MDM2(-)(クロマチンへのMDM2の動員なしのがん細胞株)縦軸:試験細胞株によって分泌されたIL-6の濃度(pg/mL)。
【
図11】STAT3阻害薬(C188-9又はStattic)又はgp130阻害薬(バゼドキシフェン)を用いたインビトロ処置が、ヒトIB115脂肪肉腫細胞と共培養されたマウスC2C12筋芽細胞におけるセリン合成通路のIL-6依存的増強を減少させることを示す。すべての実験は、DMEM培地 2mL中の50000個のC2C12細胞と100000個のIB115細胞を用いて行われた。単独で培養された、又はバゼドキシフェン(100nM)、C188-9(10nM)又はStattic(10nM)で処理された、若しくは処理されていないIB115脂肪肉腫細胞とともに共培養したC2C12筋芽細胞においてRT-qPCRによって分析された標的遺伝子。 PHGDHの横軸(左から右)(a)筋芽細胞単独のPHGDH(Myo)、(a1)IB115脂肪肉腫細胞と共培養した筋芽細胞のPHGDH(Myo+LPS)、(a2)IB115脂肪肉腫細胞と共培養し、バゼドキシフェン(100nM)で処置された筋芽細胞のPHGDH、(a3)C188-9(10nM)で処置されたIB115脂肪肉腫細胞と共培養された筋芽細胞のPHGDH、(a4)Stattic(10nM)で処置されたIB115脂肪肉腫細胞と共培養された筋芽細胞のPHGDH。 PSAT1の横軸(左から右):(b)筋芽細胞単独のPSAT1(Myo)、(b1)IB115脂肪肉腫細胞と共培養した筋芽細胞のPSAT1(Myo+LPS)、(b2)IB115脂肪肉腫細胞と共培養し、バゼドキシフェン(100nM)で処置された筋芽細胞のPSAT1、(b3)C188-9(10nM)で処置されたIB115脂肪肉腫細胞と共培養された筋芽細胞のPSAT1、(b4)Stattic(10nM)で処置されたIB115脂肪肉腫細胞と共培養された筋芽細胞のPSAT1。 PSPHの横軸(左から右)(c)筋芽細胞単独のPSPH(Myo)、(c1)IB115脂肪肉腫細胞と共培養した筋芽細胞のPSPH(Myo+LPS)、(c2)IB115脂肪肉腫細胞と共培養し、バゼドキシフェン(100nM)で処置された筋芽細胞のPSPH、(c3)C188-9(10nM)で処置されたIB115脂肪肉腫細胞と共培養された筋芽細胞のPSPH、(a4)Stattic(10nM)で処置されたIB115脂肪肉腫細胞と共培養された筋芽細胞のPSPH。 縦軸:前述の各条件での標的遺伝子PHGDH、PSAT及びPSPHのmRNA量(AU)の相対量(平均+/SD;n=3独立実験)。
【0040】
詳細な説明
定義
本明細書で使用される用語は、一般には、当技術分野における通常の意味を有する。ある特定の用語が以下、又は本開示の他の箇所にて述べられているが、本明細書で開示された主題の生成物及び方法を説明する場合に更なる指針を提供する。
【0041】
以下の定義を本開示の文脈で適用する。
【0042】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」といった単数形は、文脈が明確にそれ以外の場合を指示しない限り、複数の指示対象を含む。
【0043】
本明細書で使用される場合、「投与する」又は「投与される」は、経口投与、坐薬としての投与、局所接触投与、非経口投与、腹腔内投与、筋肉内投与、病巣内投与、髄腔内投与、鼻腔内投与、皮下投与若しくは経粘膜(例えば、頬側、舌下、口蓋、歯肉、経鼻、膣内、直腸若しくは経皮)投与、又は例えばミニ浸透圧ポンプといった徐放装置の非経口投与を含む対象への埋め込みなど、任意の経路での投与を意味する。非経口投与としては、静脈内、筋肉内、細動脈内、皮内、皮下、腹腔内、脳室内及び頭蓋内が挙げられる。
【0044】
「約」又は「およそ」といった用語は、当業者によって決定される特定の値について許容し得る誤差範囲内を意味する。これは、例えば測定系の限界など、値がどのように測定又は決定されるのかに部分的に依存している。例えば、「約」は、当技術分野における実践につき、1以内又は2以上の標準偏差を意味し得る。あるいは、「約」は、所与の値の最大10%の範囲を意味し得る。あるいは、特に生物学系又は過程に関しては、用語はある値の1桁以内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内を意味し得る。特定の値が本願及び特許請求の範囲で説明される場合、特段明記しない限り、特定の値の許容し得る誤差範囲内を意味する「約」といった用語が想定されるべきである。
【0045】
本明細書で使用される場合、「抗体」は、例としてIgA、IgD、IgE、IgG及びIgM、これらの組合せを含むがこれらに限定されない免疫グロブリン又は免疫グロブリン様分子、並びに例えば、ヒト、ヤギ、ウサギ及びマウスなどの哺乳動物及びサメ免疫グロブリンなどの非哺乳動物種のうちの任意の脊椎動物において免疫応答中に産生された、同様の分子を指す。「抗体」といった用語は、天然に存在する抗体及び天然に存在しない抗体の両方を含む。特に、「抗体」としては、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体、並びにこれらの一価及び二価のフラグメント又は一部分が挙げられる。更には、「抗体」としては、キメラ抗体、完全合成抗体、一本鎖抗体及びこれらのフラグメント又は一部分が挙げられる。抗体は、ヒト又は非ヒト抗体であり得る。非ヒト抗体は、ヒトの免疫原性を低下させるために、組換え方法によってヒト化され得る。
【0046】
本明細書で使用される場合、抗体の「抗原結合部分」、「抗体部分」及び「部分」といった用語は、抗原(例えば、IL-6、IL-6R、STAT3又はgp130)に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上のフラグメントを指す。抗体の抗原結合機能は、完全長抗体のフラグメントによって実施され得ることが示されている。結合部分としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fabc、Fv、一本鎖及び一本鎖抗体が挙げられる。抗体の「抗原結合部分」といった用語内に包含されている結合部分の例としては、(i)Fabフラグメント、すなわちVL、VH、CL及びCH1ドメインからなる一価のフラグメント、(ii)F(ab’)フラグメント、すなわちヒンジ領域でジスルフィド橋によって結合された2つのFabフラグメントを含む二価のフラグメント、(iii)VH及びCH1ドメインからなるFdフラグメント、(iv)抗体の単一の腕のVL及びVHドメインからなるFvフラグメント、(v)VHドメインからなるdAbフラグメント並びに(vi)単離された相補性決定領域(complementarity determining region、CDR)が挙げられる。
【0047】
本明細書で使用される場合、「相補性決定領域」又は「CDR」といった用語は、特定の抗原を認識して結合する、抗体の2つの可変鎖(重鎖及び軽鎖)の一部を指す。CDRは、可変鎖のうち最も可変である部分であり、抗体にその特異性を提供する。可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)のそれぞれに3つのCDRが存在し、そのため、抗体分子毎に合計6個のCDRが存在する。CDRは、抗原のエピトープへの結合を主に担う。それぞれの鎖のCDRは、典型的には、N末端から開始して順に番号付けされたCDR1、CDR2及びCDR3と称され、また、特定のCDRが配置される鎖によって典型的には識別される。
【0048】
本明細書で使用される場合、「抗体重鎖」といった用語は、天然に存在する立体配置ですべての抗体分子に存在する2種類のポリペプチド鎖のうちの大きいものを指す。
【0049】
本明細書で使用される場合、「抗体軽鎖」といった用語は、天然に存在する立体配置ですべての抗体分子に存在する2種類のポリペプチド鎖のうちの小さいものを指し、κ及びλ軽鎖は、2つの主な抗体軽鎖アイソタイプを指す。
【0050】
本明細書で使用される場合、「ブロッキング」抗体といった用語は、リガンドとその受容体との間の相互作用を防ぐのに好適である抗体を指す。典型的には、ブロッキング抗体は、当該リガンドに対して、当該受容体に対して、又は当該リガンド及び当該受容体によって形成された複合体に対して向けられる。当該リガンド、当該受容体又は当該リガンド/受容体複合体から選択された抗原とブロッキング抗体との結合は、当該受容体への当該リガンドの結合を妨げ、特に当該受容体への当該リガンドの結合を妨げる。本開示による「ブロッキング」抗体は、シグナル伝達を誘導するために当該受容体を活性化しない。特に、ブロッキング抗IL-6シグナル伝達抗体は、(i)IL-6に結合し、IL-6とIL-6受容体との間の相互作用を遮断する抗体、(ii)IL-6受容体に結合し、IL-6とIL-6受容体との間の相互作用を遮断する抗体、(iii)IL-6/IL-6受容体複合体に結合し、IL-6/IL-6受容体複合体とgp130との間の相互作用を遮断する抗体、(iv)gp130に結合し、IL-6、IL-6受容体若しくはIL-6/IL-6受容体複合体とgp130との間の相互作用を遮断する抗体、又は(v)STAT3に結合し、そのリン酸化を遮断する抗体、を指す。
【0051】
本明細書に記載の本開示の態様及び実施形態は、態様及び実施形態「を含むこと」、「を有すること」及び「からなること」を含むことが理解される。「有する(have)」及び「含む(comprise)」といった単語、又は「有する(has)」、「有する(having)」、「含む(comprise)」若しくは「含む(comprising)」などの変形は、記載された要素(物質の組成物又は方法の工程など)を含むが、任意の他の要素を排除するものではないことを意味すると理解されるであろう。「からなる」といった用語は、記載された要素を含むが、任意の更なる要素を除外することを意味する。「本質的になる」といった用語は、記載された要素と、他の要素が記載された要素の特性に物質的に影響を及ぼすことがない他の要素を含むことができることを意味する。「含む(comprising)」といった用語又はその同等物を使用した本開示の異なる実施形態、又はこの用語が「からなる」又は「本質的になる」と置き換えられる実施形態を網羅することが理解される。
【0052】
本明細書で使用される場合、「日数」といった用語は、24時間の期間、すなわち午前0:00から午後12:00まで、経過する時間からなる。
【0053】
本明細書で使用される場合、「食事」といった用語は、増殖、修復及び生命プロセスを維持し、エネルギーを供給するために生物の体内で使用される、セリン及びグリシンを含む又は含まないアミノ酸、炭水化物及び/又は脂肪を含有する食料を指す。食物はまた、例えば、ミネラル、ビタミン及び調味料といった補助物質又は添加剤を含有することができる(Merriam-Webster’s Collegiate Dictionary, 10th Edition, 1993)。
【0054】
遺伝子又は核酸の発現といった文脈で使用されるときの「発現」といった用語は、遺伝子中に含有される情報の遺伝子産物への変換を指す。遺伝子産物は、遺伝子の直接転写産物(例えば、mRNA、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、構造RNA又は任意の他の種類のRNA)又はmRNAの翻訳によって産生されるタンパク質であり得る。遺伝子産物としてはまた、キャッピング、ポリアデニル化、メチル化及び編集などのプロセスによって修飾されるメッセンジャーRNA、並びに例えばメチル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化、SUMO化、ADP-リボシル化、ミリスチル化及びグリコシル化によって修飾されるタンパク質(例えば、IL-6、IL-6受容体、STAT3又はgp130)が挙げられる。
【0055】
「発現阻害薬」は、遺伝子の発現を阻害する生物学的効果を有する天然化合物又は合成化合物を指す。
【0056】
本明細書で使用される場合、「フレームワーク領域」(以下、FR)は、CDR残基以外の可変ドメイン残基である。それぞれの可変ドメインは、典型的には、FR1、FR2、FR3及びFR4として識別される4つのFRを有する。CDRがKabatに従って定義される場合、軽鎖FR残基は、残基1~23(LCFRI)、35~49(LCFR2)、57~88(LCFR3)及び98~107(LCFR4)周辺に位置し、重鎖FR残基は、重鎖残基の残基1~30(HCFRI)、36~49(HCFR2)、66~94(HCFR3)及び103~113(HCFR4)周辺に位置する。
【0057】
本明細書で使用される場合、「遺伝子」といった用語は、ポリペプチド又は前駆体ポリペプチドの産生、特にIL-6、IL-R、STAT3及びgp130の産生に必要である部分長又は完全長コード配列を含む核酸(例えば、DNA又はRNA)配列を指す。
【0058】
本明細書で使用される場合、「グリシン」といった用語は、アミノ酸を指す。アミノ酸であるグリシンは、タンパク質の生合成で使用され得る(CAS登録番号(登録商標)は56-40-6)。グリシンは、アミノ酸であるセリンから体内で生合成されることから、ヒトの食事には必須ではない。
【0059】
「短いヘアピンRNA」又は「shRNA」は、RNA干渉によって遺伝子発現を停止させるために使用され得る密なヘアピンターンを作製する短いRNA配列を含む。本開示のshRNAは、化学合成され得るか、DNAプラスミドの転写カセットから転写され得る。shRNAの非限定的な例としては、一本鎖分子から組み立てられた二本鎖ポリヌクレオチド分子が挙げられる。ここでは、センス領域及びアンチセンス領域は、核酸ベース又は非核酸ベースのリンカによって結合されており、ヘアピン二次構造を有する二本鎖ポリヌクレオチド分子は、自己相補的センス領域及びアンチセンス領域を有する。好ましい実施形態では、shRNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖は、約1~約25個のヌクレオチド、約2~20個のヌクレオチド、約4~約15個のヌクレオチド、約5~約12個のヌクレオチド又は1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個以上のヌクレオチドを含むループ構造によって結合される。更なるshRNA配列としては、PCT公開番号第2006/074108号及び国際公開公報第2009/076321号に説明されているものといった非対称shRNA前駆体ポリヌクレオチドが挙げられるが、これに限定されない。好適なshRNA配列は、siRNA配列を設計、合成及び修飾するための当技術分野で公知の任意の手段を使用して識別、合成及び修飾され得る。ある特定の実施形態では、shRNAは、目的の1つ以上のIL-6シグナル伝達経路遺伝子を発現停止し、好ましくはIL-6、IL-6R、STAT3又はgp130の発現を停止する。例えば、shRNA-IL-6の配列は、5’-GACACTATTTTAATTATTTTTAA-3’であり得る。
【0060】
「低分子干渉RNA」又は「siRNA」は、約15~60、約15~50又は約15~40(二本鎖)ヌクレオチド長の干渉RNAを含む。siRNAの例としては、2つの別個の鎖分子から組み立てられた二本鎖ポリヌクレオチド分子であって、1つの鎖がセンス鎖であり、他方の鎖が相補的アンチセンス鎖である二本鎖ポリヌクレオチド分子、一本鎖分子から組み立てられた二本鎖ポリヌクレオチド分子であって、センス領域とアンチセンス領域が核酸ベース又は非核酸ベースのリンカによって結合される二本鎖ポリヌクレオチド分子、自己相補的センス領域及びアンチセンス領域を有するヘアピン二次構造を有する二本鎖ポリヌクレオチド分子、並びに2つ以上のループ構造と、自己相補的センス領域及びアンチセンス領域を有するステムと、を有する環状一本鎖ポリヌクレオチド分子であって、環状ポリヌクレオチドがインビボ又はインビトロでプロセシングされて活性二本鎖siRNA分子を生成する、環状一本鎖ポリヌクレオチド分子が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で使用される場合、「siRNA」といった用語は、RNA-RNA二本鎖及びDNA-RNAハイブリッド(例えば、PCT公開番号国際公開公報第2004/078941号)を含む。siRNAは、化学合成され得る。siRNAはまた、大腸菌(E.coli)リボヌクレアーゼIII又はDicerでより長いdsRNA(例えば、約25ヌクレオチド長よりも大きなdsRNA)を切断することによって生成され得る。好ましくは、dsRNAは、少なくとも50ヌクレオチド長から約100、約200、約300、約400又は約500ヌクレオチド長である。dsRNAは、全遺伝子転写物又は部分的遺伝子転写物をコードすることができる。ある特定の例では、siRNAは、プラスミド(例えば、ヘアピンループを有する二本鎖に自動的に折り畳まれる配列として転写される)によってコードされ得る。
【0061】
「インターロイキン-6(IL-6)シグナル伝達阻害薬」といった用語は、IL-6シグナル伝達経路を選択的に遮断又は不活性化する化合物又は薬剤を指す。本明細書で使用される場合、「選択的に遮断又は不活性化する」といった用語は、IL-6、IL-6受容体、IL-6/IL-6R複合体、STAT3及び/又はgp130に優先的に結合し、遮断又は不活性化する化合物を指す。特に、IL-6とそのIL-6受容体、gp130を有するIL-6、gp130を有するIL-6受容体、gp130を有するIL-6/IL-6受容体複合体との相互作用を遮断する化合物、又はSTAT3のリン酸化を遮断する化合物。典型的には、IL-6シグナル伝達阻害薬は、ポリペプチド、アプタマー、抗体又はその一部分、アンチセンスオリゴヌクレオチド、すなわち、siRNA又はshRNA、又はリボザイムを包含し得るが、これらに限定されない。こうした種類の阻害薬は、本明細書で更に説明される。
【0062】
「IL-6/IL-6R複合体」又は「IL-6/IL-6受容体複合体」といった用語は、IL-6の可溶性型及び膜結合型IL-6受容体αによって形成された複合体を指す。本開示のいくつかの実施形態では、「IL-6/IL-6R複合体」は、(i)対象のがん細胞によって分泌されたIL-6の可溶性型、及び(ii)同一の対象の筋芽細胞の膜結合型IL-6受容体αによって形成された複合体を指す。
【0063】
「MDM2」といった用語は、当技術分野における一般的な意味を有し、マウス二重微小染色体2腫瘍性タンパク質を指す。「MDM2」といった用語はまた、UniProtKB受入番号Q00987を有するE3ユビキチンタンパク質リガーゼを指す。
【0064】
「MDM2阻害薬」といった用語は、MDM2のクロマチン機能を選択的に遮断又は不活性化する化合物を指す。本明細書で使用される場合、「MDM2のクロマチン機能を選択的に遮断又は不活性化する」といった用語は、他のユビキチンタンパク質リガーゼ又は関連する酵素又は関連する輸送体よりも高い親和性及び効力をそれぞれ有するクロマチン上でのMDM2に優先的に結合し、これらの効果又は機能を遮断又は不活性化する化合物を指す。MDM2のクロマチン機能を遮断又は不活性化する化合物はまた、PHGDH、PSAT、PSPHに関連する酵素を遮断又は不活性化し得、又は部分的又は完全阻害薬として、タンパク質のSLC1ファミリーの他のメンバーが企図される。典型的には、MDM2阻害薬は、有機小分子、ポリペプチド、アプタマー、抗体、細胞内抗体、オリゴヌクレオチド又はリボザイムである。MDM2阻害薬は、(Qin et ah, 2016;米国特許第8329723号)に示されているように、当技術分野では周知である。MDM2阻害薬は、SP141、6-メトキシ-1-ナフタレン-2-イル-9H-P-カルボリン、SP141ナノ粒子(SP141NP)、SP141負荷IgG Fc結合マレイミジル-ポリ(エチレングリコール)-コ-ポリ(e-カプロラクトン)(Mal-PEG-PCL)ナノ粒子(SP141FcNP)、6-メトキシ-1-キノリン-4-イル-9H-P-カルボリン、6-メトキシ-1-ナフタレン-1-イル-9H-P-カルボリン、6-メトキシ-1-フェナントレン-9-イル-9H-b-カルボリン、7-メトキシ-1-フェナントレン-9-イル-9H-P-カルボリン、miR-509-5p、shRNA及びQin et ah,2016、米国特許第8329723号に説明される化合物からなる選択され得る。
【0065】
本明細書で使用される場合、「薬学的」又は「薬学的に許容し得る」は、必要に応じて、哺乳動物、特にヒトに投与されるときに、有害なアレルギー反応又は他の有害反応を生成しない分子実体及び組成物を指す。薬学的に許容し得る担体又は賦形剤は、任意の種類の非毒性の固体、半固体又は液体の充填物、希釈剤、封入材料又は製剤補助剤を指す。薬学的に許容し得る担体の例としては、滅菌水、スクロース若しくはサッカロースなどの糖類、デンプン、ソルビトールなどの糖アルコール、PVP若しくはPEGなどのポリマー、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、保存料、染色剤又は香料が言及され得る。
【0066】
「PHGDH」といった用語は、UniProtKB受入番号043175を有するホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼを指す。これは、3-ホスホグリセリン酸(3PG)の3-ホスホノオキシピルビン酸(3P-Pyr)への酸化を触媒するセリン生合成経路の第1段階である。
【0067】
本明細書で使用される場合、疾患又は障害に関する「予防する(prevent)」又は「予防する(preventing)」といった用語は、例えば、がん疾患を有すると疑われる、又はがん疾患を発症するリスクがある個体においてがん疾患の予防処置に関する。予防としては、がん疾患の発症若しくは進行を予防若しくは遅延させること、及び/又はがん疾患の1つ以上の症状を所望の若しくはサブ病理学的レベルに維持することが挙げられ得るが、これらに限定されない。「予防する」といった用語は、事象が発生する可能性又は見込みを100%排除することを必要としていない。むしろ、事象が発生する見込みが、本明細書に記載されるような組成物又は方法の存在下で低下することを示す。より詳細には、「予防する(prevent)」又は「予防する(preventing)」は、患者におけるがん疾患又は症状の発生リスクの減少を指す。上記のように、予防は完全であり得る。すなわち、治療がない場合に起こる可能性があるというよりも症状がほとんど観察されない、又は重症度が低いことが観察されるように、検出可能な症状又は疾患がない、又は部分的にそれが存在する。
【0068】
「PSAT」といった用語は、UniProtKB受入番号Q9Y617を有するホスホセリンアミノトランスフェラーゼを指す。これは、3-ホスホノオキシピルビン酸(3P-Pyr)を3-ホスホセリン(3P-Ser)の変換を触媒する。
【0069】
「PSPH」といった用語は、UniProtKB受入番号P78330を有するホスホセリンホスファターゼを指す。3-ホスホセリン(3P-Ser)のセリンの変換といったセリンの生合成における最終工程を触媒する。
【0070】
本明細書で使用される場合、「セリン」といった用語は、アミノ酸を指す。アミノ酸であるセリンは、タンパク質の生合成で使用され得る(CAS登録番号(登録商標)は56-45-1)。セリンは、正常な生理学的状況下でヒトの体で合成されることができ、これを非必須アミノ酸とする。これは、グリシン(登録番号56-40-6)及びシステインを含む複数のアミノ酸に対する前駆体である。本開示内では、変化に対して使用される「有意には」といった用語は、観察された変化が顕著であること、及び/又はこれが統計学的意味を有することを意味すると意図している。
【0071】
本明細書で使用される場合、「対象」といった用語は、哺乳動物を指す。哺乳動物としては、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ及びウマ)、霊長類(例えば、ヒト及びサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ並びにげっ歯類(例えば、マウス及びラット)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、対象はヒトを指す。本明細書で使用される場合、「必要がある対象」は、がん疾患又は本開示による方法によって処置され得る状態に罹患している、又はその傾向がある生体を指す。典型的には、本開示による必要がある対象は、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん、特に脂肪肉腫に苦しむ、又は苦しみやすい任意の対象、好ましくはヒトを指す。典型的には、本開示による対象は、脂肪肉腫に苦しむ、又は苦しみやすい任意の対象、好ましくはヒトを指す。いくつかの実施形態では、「対象」といった用語は、脂肪肉腫、卵巣がん、神経膠芽腫、乳がん、メラノーマ、大腸がん、腎臓がん、骨がん、脳がん、皮膚がん、悪性血液疾患、AML(急性骨髄性白血病)、膵臓がん、前立腺がん及び肺がんを含む、クロマチンへのMDM2の動員を呈する種類のがん、又は進行性メラノーマ及び肺がんを含む、増悪したセリン及びグリシン代謝を呈するがんに苦しむ、若しくはこれに苦しみやすい任意の対象を指す。
【0072】
本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬の「治療有効量」とは、任意の医学的処置に適用可能である合理的なリスク/ベネフィット比でがんを処置するためのIL-6シグナル伝達阻害薬の十分な量を意味する。治療上有効である具体的な量は、通常の医療従事者によって容易に決定されることができ、考慮される病理学的プロセスの種類及び段階、対象の病歴及び年齢並びに他の治療薬の投与などの要因に応じて変化し得る。任意の特定の対象向けの具体的な治療有効用量レベルは、処置されている障害及び障害の重症度、利用される具体的な阻害薬の活性、利用される特定の組成物、年齢、体重、全身の健康状態、対象の性別及び食事、利用される具体的な阻害薬の投与時間、投与経路及び排泄速度、処置の持続時間、利用される具体的な阻害薬と組み合わせて、又は同時に使用される薬物、並びに医学分野で周知の同様の要因を含む様々な要因に応じて変化する。例えば、所望の治療効果を達成し、かつ所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増大させるのに必要とされる用量よりも低レベルで阻害薬の用量を開始することは、当技術分野の技術の十分に範囲内である。ただし、製品の1日の投与量は、1日につき成人あたり0.01mg~1,000mgの広範な範囲にわたって変動し得る。典型的には、組成物は、処置される対象に対する投与量の症候性調節のため、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬 0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250又は500mgを含有する。薬物は、典型的には、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬 約0.0002mg~約500mg、好ましくは本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬 約0.01mg~約100mgを含有する。IL-6シグナル伝達阻害薬の有効量は、通常、1日あたりの投与量レベルが、体重の約0.0002mg/kg~約500mg/kg、特に約0.01mg/kg~約100mg/kg、特に約0.1mg/kg~50mg/kgで供給される。
【0073】
本開示の「処置する(treat)」又は「処置」又は「療法」といった用語は、本明細書に記載されるようながん障害、状態の症状を治癒する、治す、緩和する、軽減する、変化させる、治療する、回復する、改善する若しくは影響を及ぼす目的で、又はがん障害の症状、合併症の発症を予防若しくは遅延させる目的で、それ以外ではがん障害の更なる発症を停止若しくは阻害する目的で、任意で本開示によるがん細胞のセリン/グリシン欠乏と組み合わせた状態で、IL-6シグナル伝達阻害薬又は本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬を含む医薬組成物の必要がある対象での投与又は消費を指す。より詳細には、「処置する(treating)」又は「処置」は、対象のがん状態で有益な、又は所望の結果を得るための任意のアプローチを含む。処置は、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを有する、又は最終的にクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを得る対象に投与され得る。有益な、又は所望の臨床結果としては、1種以上のがん症状又は状態の緩和又は回復、がん疾患又はがん状態の程度の減少又は低下、安定させること、すなわち、がん疾患又はがん症状の状態が悪化しないこと、がん疾患又はがん症状の拡散の予防、がん疾患又はがん症状進行の遅延又は遅発、がん疾患状態の回復又は寛解、がん疾患の再発の減少、並びに部分的又は全体的に、かつ検出可能か検出不可能かのいずれかでの軽快が挙げられ得るが、これらに限定されない。言い換えると、本明細書で使用される場合、「処置」は、がん疾患又は症状のいくらかの治癒、回復又は低減を含む。症状又は疾患の「低減」は、疾患若しくは症状の重症度若しくは頻度の減少、又は疾患若しくは症状の排除を意味する。
【0074】
本開示に記載の供給源、成分及び成分の一覧は、これらのすべての組合せ及び混合物もまた本開示の範囲内で企図されるように説明されると理解される。
【0075】
本開示で与えられるそれぞれの最大数値限界は、それよりも低いそれぞれの数値限界が明示的に記載されているかのように、こうした低い数値限界を包含すると理解される。説明全体を通して与えられるそれぞれの最小数値限界は、それよりも高い数値限界が明示的に本明細書に記載されているかのように、こうした高い数値限界を包含する。本開示全体を通して与えられるそれぞれの数値範囲は、より広い数値範囲内に含まれたそれよりも狭い数値範囲がすべて明示的に本明細書に記載されているかのように、こうした狭い数値範囲を包含する。
【0076】
本明細書で使用される様々な成分を含む構成成分の商品名を称する場合がある。本開示は、いかなる特定の商品名の下で物質を限定することを意図していない。商品名によって本明細書で示されるものと同等の物質(例えば、異なる名称又は参照番号の下で異なる供給源から得られるもの)は、本開示で置換され、使用され得る。
【0077】
IL-6シグナル伝達経路:IL-6及びIL-6R、gp130及びSTAT3とのその相互作用
IL-6は、IL-11、IL-27 p28/IL-30、ILー31、白血病阻害因子(Leukemia inhibitory factor、LIF)、オンコスタチンM(Oncostatin M、OSM)、カルジオトロフィン様サイトカイン(Cardiotrophin-like cytokine、CLC)、毛様体神経栄養因子(Ciliary neurotrophic factor、CNTF)、カルジオトロフィン-1(Cardiotrophin-1、CT-1)及びニューロポエチンも含むILー6サイトカインファミリーの初代メンバーである。IL-6は、アップ-アップ-ダウン-ダウントポロジーで配置された4本の長いαらせん鎖を含有する。IL-6は、多数の異なる細胞型によって産生され、急性期応答、炎症、造血、肝臓再生、代謝制御、骨代謝及び特にがん進行の調節にとって重要な役割を果たす。
【0078】
IL-6シグナル伝達は、gp130との会合をトリガーするIL-6特異受容体α(IL-6Rα又はIL-6R)の膜結合型へのIL-6と、様々な遺伝子の転写を活性化する、IL-6からSTAT3へのシグナルを伝達する膜貫通受容体タンパク質との相互作用によって生じる。IL-6/IL-6R複合体とのgp130の会合は、gp130二量体化及びIL-6、IL-6R及びgp130からなるシグナル伝達複合体の形成を促進させる。シグナル伝達複合体は、IL-6の2つの複製、IL-6Rαの2つの複製及びgp130の2つの複製を含有する。特に、IL-6は、部位I、II及びIIIとして公知の3つの保存されたエピトープによってgp130受容体に結合する。IL-6は最初に、部位IによってILー6Rαと複合体を形成しなければならない。部位IIは、IL-6とIL-6Rαとの二元複合体によって形成された複合体エピトープであり、サイトカイン結合領域CHR及びgp130のD2D3と相互作用する。続いて、部位IIIは、gp130免疫グロブリン様活性化ドメイン(D1又はIGD)と相互作用してシグナル伝達複合体を形成する(Boulanger et al., (2003) Science, 300:2101)。IL-6の部位I結合エピトープは、Aらせん体及びDらせん体に局在し、IL-6Rαと相互作用する。シグナル伝達複合体における残り4つの固有のタンパク質-タンパク質界面は、部位II及びIIIといった2つの複合体部位に分離されることができる。シグナル伝達複合体の形成によって、Jak-STAT経路、Ras-MAPK経路、p38及びJNK MAPK経路、PI-3-K-Akt経路並びにMEK-ERK5経路を含む複数の細胞内シグナル伝達経路の活性化がもたらされる(
図12)。
【0079】
特に、Jak-STAT経路の活性化の機構は、成長因子受容体チロシンキナーゼ、ヤヌスキナーゼ及び/又はSrcファミリーキナーゼによって媒介される重要なチロシン残基のリン酸化によるSTAT3の活性化を含む。これらのキナーゼとしては、EGFR、JAKs、Abl、KDR、c-Met、Src及びHer2が挙げられるがこれらに限定されない[1]。チロシンリン酸化時には、STAT3はホモ二量体を形成して核に移動し、標的遺伝子のプロモータ中の特異DNA応答エレメントに結合し、遺伝子発現を誘導する(Zhuang,Shougang(2013).Cellular Signalling.25(9):1924-1931)。
.
【0080】
いくつかの実施形態によれば、IL-6は、シグナル伝達糖タンパク質gp130の少なくとも1つのサブユニット及びIL-6受容体(「IL-6R」)からなる受容体複合体によって細胞応答を促進する。IL-6Rはまた、可溶性型(「sIL-6R」)で存在し得る。IL-6はIL-6Rに結合してIL-6/IL-6R複合体を得る。次いでこれがシグナル伝達受容体gp130を二量体化する。
【0081】
IL-6シグナル伝達経路は、軟骨細胞、内皮細胞、線維芽細胞、単球、マクロファージ、筋細胞、骨芽細胞、平滑筋細胞、滑膜細胞及びT細胞で著しく(ただし排他的ではない形で)発現される。
【0082】
本発明者らは驚くべきことに、筋細胞におけるIL-6の生物学的効果がセリン合成を誘導し得ることを見出した。特に、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん、例えば脂肪肉腫に罹患している対象の筋細胞がセリンを合成することが見出された。したがって、IL-6は、脂肪肉腫細胞などのクロマチンへのMDM2の動員を呈するIL-6発現がん細胞によって産生される。次いで、IL-6タンパク質は、筋細胞の表面でIL-6受容体及びgp130に結合し、筋細胞でJak/STAT3経路を介してIL-6シグナル伝達経路を開始し、これによって上で説明され、
図12に示されるセリン合成が可能となる。
【0083】
IL-6シグナル伝達阻害薬
本開示の一態様は、セリン産生細胞、特に筋芽細胞でIL-6の生物学的効果を遮断するIL-6シグナル伝達阻害薬に関する。
【0084】
本開示の「IL-6シグナル伝達阻害薬」は、(i)ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(phosphoglycerate dehydrogenase、PHGDH)、ホスホヒドロキシスレオニンアミノトランスフェラーゼ(phosphohydroxythreonine aminotransferase、PSAT)及びホスホセリンホスファターゼ(phosphoserine phosphatase、PSPH)を含む、セリン代謝に関与する遺伝子の発現を阻害するという結果を伴い、IL-6受容体へのIL-6動員を選択的に遮断する化合物など、IL-6とIL-6受容体との相互作用を遮断する化合物、(ii)IL-6とgp130との相互作用を遮断する化合物、(iii)IL-6とgp130との相互作用を遮断する化合物、(iv)IL-6/IL-6R複合体とgp130との相互作用を遮断する化合物、及び(v)IL-6受容体の活性化後にSTAT3のリン酸化を遮断する化合物を含む群より選択される化合物を包含する。
【0085】
いくつかの実施形態では、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、IL-6阻害薬、IL-6受容体阻害薬、IL-6/IL-6R複合体阻害薬、STAT3阻害薬及びgp130阻害薬を含む群より選択され得る。本開示の「IL-6シグナル伝達阻害薬」としては、アプタマー、抗体及びその一部分、ヒト型又はヒト化型抗体、改変抗体、抗体の機能的同等物、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、リボザイム又はIL-6、IL-6R、IL-6/IL-6R複合体、STAT3及び/若しくはgp130のいずれかと結合可能であり、かつそれらの相互作用を遮断可能である他のタンパク質及び分子が上げられる。
【0086】
抗体
いくつかの好ましい実施形態では、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、IL-6、IL-6受容体、STAT3及び/又はgp130に対して向けられる抗体又はその抗原結合部分であり得る。
【0087】
本明細書に記載の抗体又はその一部分のいくつかの実施形態では、抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多価抗体又はキメラ抗体であり得る。
【0088】
抗体は、従来の方法論に従って調製される。
【0089】
本明細書で明記された抗体はまた、モノクローナル抗体を包含する。モノクローナル抗体は、Kohler及びMilstein(Nature, 256:495, 1975)の方法を使用して生成され得る。本開示で有用なモノクローナル抗体を調製するため、マウス又は他の適切な宿主動物を、IL-6、IL-6受容体、IL-6/IL-6R複合体、STAT3及び/又はgp130の抗原型で、好適な間隔(例えば、週2回、週1回、月2回又は月1回)にて免疫化する。マウスは、屠殺する1週間以内に抗原の最終「ブースト」を投与され得る。免疫化中に免疫アジュバントを使用することは、多くの場合望ましい。好適な免疫アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント、ミョウバン、リビアジュバント、Hunter’s Titermax、QS21又はQuil Aなどのサポニンアジュバント、又はCpG含有免疫賦活性オリゴヌクレオチドが挙げられる。他の好適なアジュバントは、当該分野で周知である。動物は、皮下、腹腔内、筋肉内、静脈内、鼻腔内投与又は他の経路で免疫化され得る。所与の動物は、複数の経路による複数形態の抗原で免疫化され得る。
【0090】
簡潔に言えば、抗原は、IL-6、IL-6受容体、IL-6/IL-6R複合体、STAT3及び/又はgp130における目的の抗原領域に対応する合成ペプチドとして提供され得る。免疫化レジメンに従い、リンパ球を膵臓、リンパ節又は動物の他の器官から単離し、ポリエチレングリコールなどの薬剤を使用して好適な骨髄腫細胞株と融合させてハイブリドーマを形成する。融合後、説明されるように、標準方法を使用する融合パートナーではなくハイブリドーマの増殖を許容する培地に細胞を配置した(Coding Monoclonal Antibodies:Principles and Practice:Production and Application of Monoclonal Antibodies in Cell Biology, Biochemistry and Immunology, 3rd edition, Academic Press, New York, 1996)。ハイブリドーマの培養後、所望の特異性の抗体、すなわち抗原に選択的に結合する抗体の存在について細胞上清を分析する。好適な解析技術としては、ELISA、フローサイトメトリ、免疫沈降法及びウェスタンブロッティングが挙げられる。他のスクリーニング技術は、当該分野で周知である。好ましい技術は、未変性ELISA、フローサイトメトリ及び免疫沈降法など、立体構造的に未変化の天然に折り畳まれた抗原への抗体の結合を確認するものである。
【0091】
重要なことには、当技術分野で周知であるように、抗体分子のごく小さな一部分であるパラトープは、そのエピトープへの抗体の結合に関与している(一般には、Clark, W. R. (1986) The Experimental Foundations of Modem Immunology Wiley & Sons, Inc., New York; Roitt, I. (1991) Essential Immunology, 7th Ed., Blackwell Scientific Publications, Oxfordを参照されたい)。Fc’及びFC領域は例えば、補体カスケードのエフェクタであるが、これは抗原結合に関与しない。pFc’領域が酵素的に切断された抗体又はF(ab’)2フラグメントと称されるpFc’領域なしに産生された抗体は、インタクト抗体の両方の抗原結合部位を保持する。同様に、Fc領域が酵素的に切断された抗体又はFabフラグメントと称されるpFc’領域なしに産生された抗体は、インタクト抗体分子の抗原結合部位のうちの1つを保持する。更に進行すると、Fabフラグメントは、共有結合抗体軽鎖及びFdと表示される抗体重鎖の一部分からなる。Fdフラグメントは、抗体特異性の主要な決定因子であり(単一のFdフラグメントは、抗体特異性を変性することなく最大10個の異なる軽鎖と会合し得る)、Fdフラグメントは単離時にエピトープ結合能力を保持している。
【0092】
抗体の抗原結合部分内では、当技術分野で周知であるように、抗原のエピトープと直接相互作用する相補性決定領域(CDR)と、パラトープの三次構造を維持するフレームワーク領域(FR)が存在する(一般には、Clark,1986;Roitt,1991を参照されたい)。IgG免疫グロブリンの重鎖Fdフラグメントと軽鎖の両方では、3つの相補性決定領域(CDR1~CDRS)によってそれぞれ分離される4つのフレームワーク領域(FR1~FR4)が存在する。CDR、特にCDRS領域、より詳細には重鎖CDRSは、抗体特異性を主に担う。
【0093】
哺乳動物抗体の非CDR領域が本来の抗体のエピトープ特異性を維持しつつ、同種又は異種特異的抗体の類似領域で置換され得るということは、現在当技術分野で十分に確証されている。これは、機能的抗体を産生するため、非ヒトCDRがヒトFR及び/又はFc/pFc’領域に共有結合されている「ヒト化」抗体の開発及び使用において最も明確に示されている。
【0094】
本明細書で明記されたモノクローナル抗体はまた、ヒト化抗抗体、特にヒト化抗IL-6抗体又は抗IL-6受容体抗体又は抗gp130抗体又はSTAT3抗体を包含する。「ヒト化」型非ヒト(例えば、マウス)抗体は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ抗体である。大部分は、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域からの残基が、マウス、ラット、ウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)又は所望の特異性、親和性及び能力を有する非ヒト霊長類の超可変領域からの残基によって置き換えられるヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置き換えられる。更には、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体では見られない残基を含み得る。これらの修飾は、抗体の性能を更に向上させるために行われる。一般には、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、超可変ループのすべて又は実質的にすべては非ヒト免疫グロブリンの可変ドメインに対応し、FR領域のすべて又は実質的にすべてはヒト免疫グロブリン配列の可変ドメインである。ヒト化抗体はまた、任意で、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分、典型的にはヒト免疫グロブリンの少なくとも一部分を含む。更なる詳細については、Jones et al, Nature 321:522-525 (1986); Riechmann et al., Nature 332:323-329 (1988); and Presta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992)を参照されたい。
【0095】
本明細書で明記されたモノクローナル抗体はまた、ヒト抗体、特にヒト抗IL-6抗体、ヒト抗IL-6受容体抗体、ヒト抗STAT3抗体及び/又はヒト抗gp130抗体を更に包含する。「ヒト抗体」は、ヒトによって産生された抗体のアミノ酸配列に対応する、及び/又は本明細書に開示されるようにヒト抗体を作製するための技術のうちのいずれかを使用して作製されたアミノ酸配列を有するものである。こうしたヒト抗体の定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を除外する。ヒト抗体は、当技術分野で公知の様々な技術を使用して産生され得る。いくつかの実施形態では、ヒト抗体は、ヒト抗体を表すファージライブラリより選択される(Vaughan et al. Nature Biotechnology 14:309-314 (1996):Sheets et al. Proc. Natl. Acad. Sci. 95:6157-6162(1998)); Hoogenboom及びWinter, J. MoI. Biol, 227:381 (1991); Marks et al., J.MoI.Biol, 222:581 (1991))。ヒト抗体はまた、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を、例えば、内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的又は完全に不活性化されたマウスといった遺伝子導入動物に導入することによって作製され得る。検証時に、ヒト抗体産生が観察される。これは、遺伝子再配列、構築及び抗体レパートリーを含む、すべての点でヒトに見られるものに非常に類似している。このアプローチは、例えば米国特許第5,545,807号、同5,545,806号、同5,569,825号、同5,625,126号、同5,633,425号、同5,661,016号及び以下の化学出版物:Marks et al.,Bio/Technology 10:779-783(1992);Lonberg et al.,Nature 368:856-859(1994);Fishwild et al.,Nature Biotechnology 14:845-51(1996);Neuberger,Nature Biotechnology 14:826(1996)に説明されている。あるいは、ヒト抗体は、標的抗原に対する抗体を産生するヒトBリンパ球の不死化によって調製され得る(こうしたBリンパ球は、個体から回収され、インビトロで免疫化され得る)。例えば、Boerner et al., J.Immunol, 147 (l):86-95 (1991)及び米国特許第5,750,373号を参照されたい。ヒト化抗体は、CDRドメインをコードする核酸配列を得て、当技術分野で公知の技術に従ってヒト化抗体を構築することによって産生され得る。従来の組換えDNAに基づいてヒト化抗体を産生するための方法及び遺伝子導入技術は、当技術分野で周知である(例えば、Riechmann L. et al. 1988; Neuberger M S. et al. 1985を参照されたい)。抗体は、例えば、CDR移植(PCT公開WO91/09967号、米国特許第5,225,539号、同5,530,101号及び同5,585,089号)、ベニアリング又はリサーフェシング(欧州特許第592,106号、同519,596号、Padlan E A (1991); Studnicka G M et al. (1994); Roguska M A. et al. (1994))並びにシェインシャフリング(米国特許第5,565,332号)を含む当技術分野で公知の様々な技術を使用してヒト化され得る。こうした抗体を調製するための一般的な組換えDNA技術もまた知られている(欧州特許第125,023号及び国際公開公報第96/02576号を参照されたい)。
【0096】
したがって、当業者には明らかであるように、本開示はまた、F(ab’)、2Fab、Fv及びFdフラグメント、Fc及び/又はFR及び/又はCDR1及び/又はCDR2及び/又は軽鎖CDR3領域が、相同ヒト又は非ヒト配列によって置き換えられるキメラ抗体、FR及び/又はCDR1及び/又はCDR2及び/又は軽鎖CDR3領域が、相同ヒト又は非ヒト配列によって置き換えられるキメラF(ab’)2フラグメント抗体、FR及び/又はCDR1及び/又はCDR2及び/又は軽鎖CDR3領域が、相同ヒト又は非ヒト配列によって置き換えられるキメラFabフラグメント抗体、並びにFR及び/又はCDR1及び/又はCDR2領域が、相同ヒト又は非ヒト配列によって置き換えられるキメラFdフラグメント抗体を提供する。本開示はまた、いわゆる一本鎖抗体も含む。
【0097】
様々な抗体分子及びフラグメントは、IgA、分泌性IgA、IgE、IgG及びIgMを含むがこれらに限定されない、一般的に知られている免疫グロブリンクラスのうちのいずれかに由来し得る。IgGサブクラスも当技術分野で周知であり、ヒトIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含むがこれらに限定されない。
【0098】
別の実施形態では、本開示による抗体は、単一ドメイン抗体である。「単一ドメイン抗体」(sbAb)又は「VHH」といった用語は、軽鎖を天然に欠いているラクダ科哺乳動物で見られ得る種類の抗体の単一重鎖可変ドメインを指す。こうしたVHHはまた、「ナノボディ(登録商標)」と呼ばれる。「VHH」といった用語は、3つの相補性決定領域(CDR):CDR1、CDR2及びCDR3を有する単一重鎖を指す。本開示によるVHHは、日常的な実験を使用し、当業者によって容易に調製され得る。VHH又はsdAbsは、pHEN2などのファージディスプレイベクターに、免疫化動物から取得した血液、リンパ節又は膵臓cDNAからのVドメインレパートリーをPCRクローニングすることで通常は生成される。例えば、「Hamers特許」は、任意の所望の標的に対してVHHを生成するための方法及び技術を説明する(例えば、米国特許第5,800,988号、米国特許第5,874,541号及び米国特許第6,015,695号を参照されたい)。「Hamers特許」は、より詳細には、大腸菌(例えば、米国特許第6,765,087号を参照されたい)などの細菌宿主及びカビ(例えば、アスペルギルス又はトリコデルマ)又は酵母(例えば、サッカロマイセス、クリベロマイセス、ハンゼヌラ又はピキア)などの下等真核生物宿主でVHHの産生を説明する(例えば、米国特許第6,838,254号を参照されたい)。
【0099】
いくつかの実施形態では、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬はアプタマーであり得る。アプタマーは、分子認識に関して抗体に対する代替物を表す分子に対する特異的結合親和性を有する核酸分子である。アプタマーは、高い親和性及び特異性を有する標的分子の実質的にいずれかのクラスを認識する能力を有するオリゴヌクレオチド配列である。こうしたリガンドは、Tuerk C. and Gold L., 1990で説明されるように、ランダム配列ライブラリの試験管内選択法(Systematic Evolution of Ligands by Exponential enrichment、SELEX)によって単離され得る。ランダム配列ライブラリは、DNAのコンビナトリアル化学合成によって得ることが可能である。このライブラリでは、それぞれのメンバーは、最終的に化学修飾された固有の配列の線状オリゴマーである。このクラスの分子の可能な修飾の使用及び利点は、Jayasena S. D., 1999に概説されている。ペプチドアプタマーは、2つのハイブリッド法によってコンビナトリアルライブラリより選択される、大腸菌チオレドキシンAなどのプラットフォームタンパク質によって表示されている立体配置的に拘束された抗体可変領域からなる(Hamdi et al., 2011)。次いで、上記のIL-6、IL-6受容体、IL-6/IL-6R複合体、STAT3及び/又はgp130に対するアプタマーを産生した後、当業者は、IL-6シグナル伝達経路を阻害するものを容易に選択することができる。
【0100】
いくつかの実施形態では、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、二環式ペプチドであり得る。
【0101】
二環式ポリペプチドは、3つのシステイン残基及び6つのランダムアミノ酸の2つの領域(Cys-(X)6-Cys-(X)6-Cys)を含有するペプチドであり、式中、Cysはシステインであり、Xは、20個のタンパク質原性アミノ酸のうちのいずれかであり、ファージ上に提示され、システイン側鎖を小分子足場(トリス-(ブロモメチル)ベンゼン(tris-(bromomethyl)benzene、TBMB))に共有結合することによって環化される。二環式ポリペプチドは、国際公開公報第2009/098450号及びHeinis et al., Nat Chem Biol 5, 502-507(2009)に説明される従来の方法論に従って調製され得る。
【0102】
いくつかの実施形態では、二環式ポリペプチドは、目的の標的抗原、特にIL-6シグナル伝達経路抗原、より詳細にはIL-6、IL-6R、STAT3タンパク質、IL-6/IL-6R複合体又はgp130を標的とする。
【0103】
いくつかの実施形態では、本開示に説明される二環式ポリペプチドは、IL-6、IL-6R、IL-6/IL-6R複合体、STAT3又はgp130の高親和性結合剤として特定の有用性を有する。
【0104】
いくつかの実施形態では、IL-6シグナル伝達阻害薬は、ブロッキング抗IL-6抗体、ブロッキング抗IL-6受容体抗体、ブロッキング抗IL-6/IL-6R複合体抗体、STAT3阻害薬及び/又は抗gp130化合物であり得る。
【0105】
いくつかの好ましい実施形態では、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、ブロッキング抗IL-6抗体、好ましくはブロッキングモノクローナル抗IL-6抗体であり得る。
【0106】
化合物がブロッキング抗IL-6抗体であるかどうかを決定するための試験及びアッセイ法は、Wijdenes et al., Mol Immunol. 1991に説明されるものなどの当業者によって周知である。これらのブロッキング抗IL-6抗体のいくつかは、Xu et al., British Journal of Clinical Pharmacology, 72:270-281, Rossi et al., Br J Cancer. 2010 Oct 12; 103(8):1154-62, WHO Drug Information Vol. 24, No. 2, 2010, Proposed INN: List 103,又はMease et al., Arthritis & Rheumatology, 68:2163-2173によって示されている。
【0107】
いくつかの実施形態では、ブロッキング抗IL-6抗体は、シルクマブ、シルツキシマブ、オロキズマブ及びクラザキズマブより選択される。
【0108】
いくつかの実施形態では、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、ブロッキング抗IL-6受容体抗体、好ましくはブロッキングモノクローナル抗IL-6受容体抗体であり得る。
【0109】
化合物がブロッキング抗IL-6受容体抗体であるかどうかを決定するための試験及びアッセイ法は、当業者によって周知である。ブロッキング抗IL-6受容体抗体のいくつかは、Nishimoto et al., Ann Rheum Dis. 2009 Oct; 68(10):1580-4又はGenovese et al., RMD Open. 2019 Aug 1;5(2):e000887によって示されている。
【0110】
いくつかの実施形態では、ブロッキング抗IL-6受容体抗体は、トシリズマブ、サリルマブ及びTZLS-501を含む群より選択される。
【0111】
いくつかの好ましい実施形態では、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、ブロッキング抗IL-6/IL-6R複合体抗体、好ましくはブロッキングモノクローナル抗IL-6/IL-6R複合体抗体であり得る。
【0112】
ブロッキング抗IL-6/IL-6R複合体抗体のいくつかは、例えば米国特許10759862号に示されている。
【0113】
いくつかの実施形態では、ブロッキング抗IL-6/IL-6R複合体抗体はTZLS-501であり得る。
アンチセンスオリゴヌクレオチド
【0114】
いくつかの実施形態では、本発明のIL-6シグナル伝達阻害薬は、IL-6発現阻害薬、IL-6受容体発現阻害薬、STAT3発現阻害薬及び/又はgp130発現阻害薬であり得る。
【0115】
いくつかの実施形態では、本開示による方法で使用するための発現阻害薬は、アンチセンスオリゴヌクレオチドであり得る。
【0116】
いくつかの実施形態では、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、特にIL-6、IL-6受容体、STAT3又はgp130をコードする遺伝子又はmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドであり得る。
【0117】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、遺伝子、特にIL-6、IL-6受容体、STAT3又はgp130の発現をコードする遺伝子の発現を阻害する生物学的効果を有する。siRNA及びshRNAなどのアンチセンスRNA分子及びアンチセンスDNA分子を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドは、結合することでmRNAの翻訳を直接遮断し、それによってタンパク質の翻訳を防止又はmRNAの分解を増大させ、タンパク質のレベル、ひいては細胞内の活性を減少させるように作用する。例えば、少なくとも約15塩基の、並びにIL-6、IL-6受容体、STAT3及び/又はgp130をコードするmRNA転写配列の固有の領域に相補的であるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、従来のリン酸ジエステル技術によって合成され、例えば静脈内注射又は注入によって投与され得る。その配列が知られている遺伝子の遺伝子発現を特異的に緩和するためのアンチセンス技術を使用するための方法は、当技術分野で周知である(例えば、米国特許第6,566,135号、同6,566,131号、同6,365,354号、同6,410,323号、同6,107,091号、同6,046,321号及び同5,981,732号を参照されたい)。
【0118】
更には、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、シングルガイドRNA(sgRNA)であり得る。カスタムsgRNAは、CRISPR/Cas9系で使用される。CRISPR/Cas9は、柔軟な遺伝子編集ツールであり、多様な方法でゲノムを操作することを可能とする。例えば、CRISPR/Cas9は、遺伝子をノックアウトして突然変異をノックインし、遺伝子活性を過剰発現又は阻害し、個々の遺伝子及び遺伝子領域に特異的なエピジェネティック調節因子を動員するための足場を提供するために首尾良く使用されている。カスタムシングルガイドRNA(sgRNA)は、標的配列(crRNA配列)及びCas9ヌクレアーゼ動員配列(tracrRNA)を含有する。crRNAは、標的遺伝子、特にIL-6遺伝子、IL-6R遺伝子、STAT3遺伝子又はgp130遺伝子における領域に相同である20ヌクレオチド配列であり、Cas9ヌクレアーゼ活性を指示する(例えば、Gilbert et al., Cell. 2013 Jul 18;154(2):442-51, Platt et al., Cell. 2014 Oct 9;159(2):440-55を参照されたい)。
いくつかの実施形態では、本開示によるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、siRNA、shRNA又はsgRNAであり得る。
いくつかの好ましい実施形態では、本開示によるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、shRNAである。
【0119】
図3に示されるように、短い阻害RNA(siRNA)及び短いヘアピンRNA(shRNA)はまた、本開示におけるIL-6シグナル伝達発現阻害薬として機能し得る。本開示のsiRNA及びshRNAは、内因性(細胞)対応物の遺伝子の発現を下方調節又は停止(防止)する二本鎖RNA又は修飾RNA分子である。遺伝子発現は、本明細書に記載されるように、対象又は細胞と小さな二本鎖RNA(dsRNA)、又は小さな二本鎖RNAの産生を引き起こすベクター若しくは構築物とを接触させることによって低下させることができ、その結果、IL-6、IL-6受容体、STAT3及び/又はgp130発現は特異的に阻害される(すなわち、RNA干渉又はRNAi)。適切なdsRNA又はdsRNAコードベクターを選択するための方法は、その配列が知られている遺伝子についての当技術分野で周知である(例えば、Tuschl, T. et al. (1999); Elbashir, S. M. et al. (2001); Hannon, GJ. (2002); McManus, MT. et al. (2002); Brummelkamp, TR. et al. (2002)、米国特許第6,573,099号及び同6,506,559号、並びに国際公開公報第01/36646号、同99/32619号及び同01/68836号を参照されたい)。
【0120】
いくつかの実施形態では、本開示によるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的遺伝子、特にIL-6、IL-6R遺伝子、STAT3遺伝子及びgp130遺伝子又はそれらの一部分と少なくとも約80%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%同一性を有する配列を有する完全長核酸を含むか、これからなる。
【0121】
IL-6遺伝子は、NCBI遺伝子ID3569で示される配列を有する核酸を指す。
【0122】
IL-6R遺伝子は、NCBI遺伝子ID3570で示される配列を有する核酸を指す。
【0123】
Gp130遺伝子は、NCBI遺伝子ID16195で示される配列を有する核酸を指す。
【0124】
STAT3遺伝子は、NCBI遺伝子ID6774で示される配列を有する核酸を指す。
【0125】
ある特定の他の実施形態では、本開示によるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的配列、特にIL-6、IL-6R、STAT3及びgp130、又はそれらの一部分と同一である配列のうち、少なくとも約15の隣接ヌクレオチド、特に少なくとも約15、16、17、18又は19の隣接ヌクレオチドを含むか、これらからなる。
【0126】
好ましい実施形態では、本開示によるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、IL-6発現、IL-6R、gp130発現又はSTAT3発現を呈しする標的特異アンチセンスオリゴヌクレオチドを媒介することが可能である。
【0127】
いくつかの実施形態では、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、IL-6に対する、特にIL-6遺伝子に対するshRNAであり得る。
【0128】
いくつかの実施形態では、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、IL-6受容体に対する、特にIL-6R遺伝子に対するshRNAであり得る。
【0129】
いくつかの実施形態では、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、gp13に対する、特にgp130遺伝子に対するshRNAであり得る。
【0130】
いくつかの実施形態では、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、STAT3に対する、特にSTAT3遺伝子に対するshRNAであり得る。
【0131】
リボザイムはまた、本開示のIL-6シグナル伝達発現阻害薬として機能し得る。リボザイムはまた、遺伝子、特にIL-6、IL-6受容体、STAT3又はgp130の発現をコードする遺伝子の発現を阻害する生物学的効果を有する。リボザイムは、RNAの特異的切断を触媒することが可能である酵素RNA分子である。リボザイム作用の機構は、相補的標的RNAへのリボザイム分子の配列特異的ハイブリダイゼーション、その後のヌクレオチド鎖切断に関与する。mRNA配列のヌクレオチド鎖切断を特異的かつ効果的に触媒する遺伝子操作されたヘアピン又はハンマーヘッド型モチーフリボザイム分子は、これよって本開示の範囲内で有用である。任意の潜在的なRNA標的内の特異的なリボザイム切断部位は、典型的には、GUA、GUU及びGUCといった配列を含むリボザイム切断部位について標的分子を走査することによって最初に識別される。識別されると、オリゴヌクレオチド配列を好適のものではない状態とし得る二次構造などの予測された構造的特徴について、切断部位を含有する標的遺伝子の領域に対応する約15~20のリボヌクレオチドの短いRNA配列を評価することができる。候補となる標的の適合性はまた、例えばリボヌクレアーゼ保護アッセイ法を使用し、相補的オリゴヌクレオチドを用いたハイブリダイゼーションへの接近しやすさを試験することによって評価され得る。
【0132】
IL-6シグナル伝達発現阻害薬として有用なアンチセンスオリゴヌクレオチド及びリボザイムは、公知の方法によって調製され得る。これらは、例えば固相ホスホロアミダイト化学合成などによる化学合成のための技術を含む。あるいは、アンチセンスRNA分子は、RNA分子をコードするDNA配列のインビトロ又はインビボ転写によって生成され得る。こうしたDNA配列は、T7又はSP6ポリメラーゼプロモータなどの好適なRNAポリメラーゼプロモータを組み込む多種多様なベクターに組み込まれ得る。本開示のオリゴヌクレオチドに対する様々な修飾は、細胞内安定性及び半減期を増大させる手段として導入され得る。可能な修飾としては、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドの隣接配列の分子の5’及び/又は3’末端への付加、又はオリゴヌクレオチド骨格内部でのホスホジエステラーゼ結合以外のホスホロチオアート又は2’-0-メチルの使用が挙げられるが、これらに限定されない。
【0133】
本開示のアンチセンスオリゴヌクレオチド及びリボザイムは、インビボで単独又はベクターとともに状態で送達され得る。最も広義では、「ベクター」は、細胞、好ましくはIL-6、IL-6受容体、STAT3又はgp130を発現するがん細胞へのアンチセンスオリゴヌクレオチド又はリボザイム核酸の移動を促進可能である任意の媒介物である。好ましくは、ベクターは、核酸を、ベクターの不在をもたらす分解の程度に比例して分解を低下させる細胞に輸送する。一般には、本開示で有用なベクターとしては、プラスミド、ファージミド、ウイルス、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はリボザイム核酸配列の挿入又は組込みによって操作されるウイルス源又は細菌源に由来する他の媒介物が挙げられるが、これらに限定されない。ウイルスベクターは好ましい種類のベクターであり、以下のウイルス:モロニーマウス白血病ウイルス、ハーベイマウス肉腫ウイルス、マウス乳腺腫瘍ウイルス及びラウス肉腫ウイルスなどのレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、SV-40型ウイルス、ポリオーマウイルス、エプスタイン-バールウイルス、パピローマウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス及びレトロウイルスなどのRNAウイルス由来の核酸配列が挙げられるが、これらに限定されない。当技術分野では命名されていないが知られている他のベクターを容易に利用することができる。
【0134】
好ましいウイルスベクターは、必須ではない遺伝子が目的の遺伝子と置き換えられた非細胞傷害性の真核生物ウイルス、すなわち、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルスに基づき得る。
【0135】
他の好ましいベクターは、プラスミドベクターであり得る。プラスミドベクターは、当技術分野において広範に説明され、当業者に周知である。例えば、SANBROOK et al, "Molecular Cloning: A Laboratory Manual", Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989を参照されたい。
【0136】
化学化合物
いくつかの実施形態では、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、化学化合物であり得る。
【0137】
いくつかの実施形態では、本開示の化学化合物は、IL-6発現、IL-6R発現、STAT発現、STAT活性化、STAT3のリン酸化及び/又はgp130発現を阻害する化合物を含む。
【0138】
いくつかの特定の実施形態では、本開示の化学化合物は、ブロッキング抗gp130化合物、STAT3のリン酸化を阻害する化合物、STAT3の活性化を阻害する化合物又はSTAT3の発現を阻害する化合物であり得る。
【0139】
これらのブロッキング抗gp130化合物のいくつかは、例えば、Wu et al., Mol Cancer Ther. 2016 Nov; 15(11):2609-2619に示される。
いくつかの実施形態では、本開示のgp130阻害薬はバゼドキシフェンであり得る。
いくつかの実施形態では、STAT3阻害薬は、SH5-07、APTSTAT3-9R、C188-9、BP-1-102、ニクロサミド(BAY2353)、STAT3-IN-1、WP1066、クリプトタンシノン、Stattic、レスベラトロール(SRT501)、S31-201、HO-3867、ナパブカシン(BBI608)、ブレビリンA、アーテスネート(WR-256283)、ボスチニブ(SKI-606)、TPCA-1、SC-43、ギンコール酸C17:1、オクロマイシノン(STA-21)、コリベリン、ククルビタシンIIb、GYY4137、スクテラリン、ケンペロール-3-O-ルチノシド、ククルビタシンI、SH-4-54、ニフロキサジド及びピモジドから選択され得る。
【0140】
いくつかの実施形態では、STAT3阻害薬は、C188-9、Stattic又はこれらの組合せであり得る。
【0141】
本明細書で使用される場合、「バゼドキシフェン」は、当技術分野における一般的な意味を有し、分子式C30H34N2O3・C2H4O2及びCAS番号198481-33-3を有する、式:1-[[4-[2-(ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)エトキシ]フェニル]メチル]-2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1H-インドール-5-オールモノアクリタート(塩)を有するgp130阻害薬からなる。
【0142】
本明細書で使用される場合、「C188-9」は、高い親和性でSTAT3に結合するSTAT3の強力な阻害薬である。C188-9は、CAS番号432001-19-9を参照することにより定義される。
【0143】
本明細書で使用される場合、「Stattic」は、STAT3活性化を阻害する小分子である。Statticは、CAS番号19983-44-9を参照することにより定義される。
【0144】
本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん、特に脂肪肉腫の予防及び/又は治療に有効であり得る。本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、別の治療薬、特にセリン/グリシン欠乏食と組み合わせて使用され得る。
【0145】
単独で、又は他の治療薬と組み合わせて、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、治療有効量で使用される。治療有効量は、処置されるがん疾患の性質及び状態、年齢、性別、患者の体重、他の疾患の同時存在、食事、他の処置の同時存在などの複数の要因に応じて変動し得る。これらの要因及び当技術分野で周知の要因に応じた本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬の適切な治療有効量の決定は、当業者によるものである。
【0146】
本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬とセリン/グリシン欠乏食との組合せは、相乗効果をもたらす。本明細書に開示されたIL-6シグナル伝達阻害薬及びセリン/グリシン欠乏食などの2つの薬剤の相乗効果は、組合せのすべての効果が個々の効果の合計よりも大きい状況に対応する。
【0147】
いくつかの実施形態によれば、特にセリン/グリシン欠乏食と組み合わせて使用されるときには、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、1日あたりの投与量が体重の約0.0002mg/kg~約500mg/kgで対象に投与され得る。
【0148】
いくつかの実施形態によれば、特にセリン/グリシン欠乏食と組み合わせて使用されるときには、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、1日あたりの投与量が体重の約0.0002mg/kg~約300mg/kgで対象に投与され得る。
【0149】
いくつかの実施形態によれば、特にセリン/グリシン欠乏食と組み合わせて使用されるときには、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、1日あたりの投与量が体重の約0.001mg/kg~約200mg/kgで対象に投与され得る。
【0150】
いくつかの実施形態によれば、特にセリン/グリシン欠乏食と組み合わせて使用されるときには、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、1日あたりの投与量が体重の約0.01mg/kg~約100mg/kgで対象に投与され得る。
【0151】
いくつかの実施形態によれば、特にセリン/グリシン欠乏食と組み合わせて使用されるときには、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、1日あたりの投与量が体重の約0.1mg/kg~約50mg/kgで対象に投与され得る。
【0152】
特に、IL-6シグナル伝達阻害薬は、1日あたりの投与量が体重の約0.001、約0.005、約0.01、約0.05、約0.1、約0.5、約1.0、約1.5、約2.0、約2.5、約3.0、約3.5、約4.0、約4.5、約5.0、約5.5、約6.0、約6.5、約7.0、約7.5、約8.0、約8.5、約9.0、約9.5、約10.0、約10.5、約11.0、約11.5、約12.0、約12.5、約13.0、約13.5、約14.0、約14.5、約15.0、約15.5、約16.0、約16.5、約17.0、約17.5、約18.0、約18.5、約19.0、約19.5、約20.0、約20.5、約21.0、約21.5、約22.0、約22.5、約23.0、約23.5、約24.0、約24.5、約25.0、約25.5、約26.0、約26.5、約27.0、約27.5、約28.0、約28.5、約29.0、約29.5、約30.0、約30.5、約31.0、約31.5、約32.0、約32.5、約33.0、約33.5、約34.0、約34.5、約35.0、約35.5、約36.0、約36.5、約37.0、約37.5、約38.0、約38.5、約39.0、約39.5、約40.0、約40.5、約41.0、約41.5、約42.0、約42.5、約43.0、約43.5、約44.0、約44.5、約45.0、約45.5、約46.0、約46.5、約47.0、約47.5、約48.0、約48.5、約49.0、約49.5、約50.0mg/kgで投与され得る。
【0153】
例示的には、成人男性70キログラムについては、1日あたりの用量が約0.014mg(ミリグラム)~約35g(グラム)の範囲でIL-6シグナル伝達阻害薬を投与され得、又は約0.7mg~約7gの用量、又は好ましくは約7mg~約3.5gの用量が最も好ましい。
【0154】
当業者は、投与経路、処置される患者の体重、年齢、性別に応じた、並びに考慮される可能な既存の条件及び投与される可能な更なる処置に応じたIL-6シグナル伝達阻害薬の投与量の調節方法を知っていることが意図されている。
【0155】
例えば、対象における固形腫瘍がん細胞を処置するときには、所与の用量の有効性は、以下のように評価され得る。本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬の投与後の様々な時点では、必要がある対象から固形又は液体生検が取り出され、例えば適切な抗ホスホチロシン抗体を用いた免疫染色を行うことによって、IL-6シグナル伝達活性化について試験する。目標は、腫瘍がん細胞におけるIL-6シグナル伝達活性化の本質的に完全な持続阻害を有していることである。IL-6シグナル伝達活性化の阻害が完全ではない場合、用量は増大され得るか、投与頻度が増加され得る。本開示によるIL-6シグナル伝達阻害薬及びこれを含む組成物に関連する特定の機能及び実施形態のすべて又は一部分もまた、本開示の意図された使用及び方法に適用される。
【0156】
セリン/グリシン供給源の除去及び食事
本明細書に記載されるような方法は、2つの処置を含み、1つはIL-6シグナル伝達経路阻害薬の独立型投与であり、もう1つは、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞のセリン及びグリシン欠乏と組み合わせられたIL-6シグナル伝達経路阻害薬の投与である。
【0157】
本明細書で既に言及されたように、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬は、がんを治療及び予防するための方法で、特にがん細胞のセリン/グリシン欠乏と組み合わせて実施される。
【0158】
本明細書で使用される場合、セリン/グリシンを欠乏させられたがん細胞は、がん細胞の環境が対象における腫瘍の正常な発達を可能とするために必要とされるセリン及び/又はグリシンの十分な供給を提供できないことを意味する。
【0159】
本開示のいくつかの実施形態では、本開示の2つの処置の組合せは、がん細胞の劇的な又は低減されたセリン欠乏に関与する。
【0160】
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、セリン及びグリシンを欠乏させられた、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞で実施され得る。
【0161】
がん細胞のセリン及びグリシン欠乏は、がん細胞内でのセリン又はグリシン分子の侵入を回避又は制限する、当業者に公知の任意の方法を含み得る。いくつかの実施形態では、対象のがん細胞のセリン及びグリシン欠乏は、対象におけるセリンのいずれかの供給源及び/若しくはグリシンのいずれかの供給源の除去若しくは低減、対象へのセリン/グリシン欠乏食の投与、又は対象のがん細胞におけるセリン及びグリシン受容体の発現の阻害を含み得る。
【0162】
いくつかの実施形態では、必要がある対象のがん細胞は、セリン及びグリシンを欠乏させられ得る。いくつかの実施形態では、必要がある対象は、セリン/グリシン欠乏食を供給され得る。いくつかの実施形態では、対象は、処置のある期間にわたって固有のセリン/グリシン欠乏食を供給され得る。
【0163】
本開示のセリン/グリシン欠乏食は、化学的に合成され得る。
【0164】
本開示のセリン/グリシン欠乏食は、多種多様な構成成分を含み得る。セリン/グリシン欠乏食中に組み込まれ得る構成成分の非限定的な例は、遊離アミノ酸、炭水化物、脂肪酸、水、粗脂肪、粗繊維、NFE、灰分、ミネラル、ビタミン、微量元素、電解質又は調味料から選択され得る。
【0165】
いくつかの実施形態では、本開示のセリン/グリシン欠乏食は、炭水化物、水、ビタミン、微量元素及び電解質を含み得る。
【0166】
本開示のセリン/グリシン欠乏食に含まれる炭水化物は、多糖類と糖との混合物を包含する。炭水化物は、デンプン(任意の種類、トウモロコシ、コムギ、オオムギなど)ビートパルプ(少量の糖を含有する)及びオオバコ種子を含む、当業者によって知られている様々な炭水化物供給源のうちのいずれかの形態の下で供給され得る。
【0167】
本開示のセリン/グリシン欠乏食に含まれるビタミンは、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK又はこれらの混合物を包含し得る。ビタミンBは、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3(PP)、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB8、ビタミンB9、ビタミンB12又はこれらの混合物を包含する。
【0168】
例示的には、ビタミンの供給源は、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB8、ビタミンB9、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE及びビタミンB3を含むCERNEVIT組成物であり得る。
【0169】
本開示のセリン/グリシン欠乏食に含まれる微量元素は、ヒ素、ホウ素、塩素、クロム、コバルト、銅、鉄、フッ素、ヨウ素、リチウム、マグネシウム、モリブデン、ニッケル、セレン、ケイ素、硫黄、バナジウム、亜鉛又はこれらの混合物を包含し得る。
【0170】
例示的には、微量元素の供給源は、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛、フッ素、ヨウ素、セレン、クロム及びモリブデンを含むNUTRYELT組成物であり得る。
【0171】
本開示のセリン/グリシン欠乏食に含まれる電解質は、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、塩素、リン、これらの塩又はこれらの混合物を包含し得る。
【0172】
例示的には、本開示のセリン/グリシン欠乏食中に存在し得る電解質は、NaCl及び/又はKClであり得る。
【0173】
いくつかの実施形態では、本開示のセリン/グリシン欠乏食は、セリン/グリシン欠乏食の安定性、均一性及び/又は他の特性を改善させる酸化防止剤、キレート剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、中和剤などの追加の構成成分を更に含み得る。
【0174】
いくつかの好ましい実施形態では、本開示によるセリン/グリシン欠乏食は、1日間~15日間の期間、より好ましくは少なくとも5日間~最大10日間の期間で対象に投与され得る。
【0175】
いくつかの実施形態では、1日間~15日間の期間は、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間及び14日間を包含する。
【0176】
したがって、本開示によるセリン/グリシン欠乏食は、水以外の任意の更なる栄養補給なしに最大10日間の期間で投与され得る。
【0177】
いくつかの実施形態によれば、単独で、又は本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬と組み合わせて使用されるときには、本開示によるセリン/グリシン欠乏食は、1日あたりの投与量が体重の約20mL/kg~約50mL/kgで対象に投与され得る。
【0178】
いくつかの実施形態によれば、単独で、又は本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬と組み合わせて使用されるときには、本開示によるセリン/グリシン欠乏食は、1日あたりの投与量が体重の約25mL/kg~約45mL/kgで対象に投与され得る。
【0179】
いくつかの実施形態によれば、単独で、又は本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬と組み合わせて使用されるときには、本開示によるセリン/グリシン欠乏食は、1日あたりの投与量が体重の約30mL/kgで対象に投与され得る。
【0180】
特に、本開示によるセリン/グリシン欠乏食は、1日あたりの投与量が体重の約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30、約31、約32、約33、約34、約35、約36、約37、約38、約39、約40、約41、約42、約43、約44、約45、約46、約47、約48、約49、約50.0mL/kgで投与され得る。
【0181】
例示的には、成人男性70キログラムについては、1日あたりの用量が約1.4L(リットル)~約3.5Lの範囲で本開示のセリン/グリシン欠乏食を投与され得、又は約1.75L~約3.15Lの用量、又は好ましくは約2.1L(2100mL)の用量が最も好ましい。
【0182】
当業者は、投与経路、処置される患者の体重、年齢、性別に応じた、並びに可能性がある考慮すべき既存の症状及び考えられる投与される追加処置となり得るものに応じたセリン/グリシン欠乏食の投与量の調節方法を知っていることが意図されている。
【0183】
いくつかの実施形態では、本開示のセリン/グリシン欠乏食は、注入、皮下、皮内、筋肉内若しくは腹腔内注射、吸入又は経口投与、特に注入によって投与され得る。
【0184】
いくつかの実施形態では、本開示のセリン/グリシン欠乏食は、静脈内持続注射又は反復非持続注射については注入によって投与され得る。
【0185】
ある特定の実施形態では、本開示のセリン/グリシン欠乏食は、1日1回又は1日2回で対象に投与され得る。
【0186】
いくつかの実施形態では、本開示のセリン/グリシン欠乏食の投与は、毎月、毎月又はそれ以上繰り返され得る。
【0187】
いくつかの実施形態では、対象のがん細胞は、セリン及び/又はグリシンの供給源の供給が限定され得る。
【0188】
特に、セリン/グリシン欠乏食は、処置の所与の期間に対象に投与される食事中のセリン及び/又はグリシンの取込みを制限するために、対象の毎日の摂食レジメンに適応し得る、当業者によって決定される摂食レジメンであり得る。
【0189】
いくつかの実施形態では、セリン/グリシン欠乏食を受けさせる必要がある対象は、対象の良好な健康状態を維持するのに十分な量のグリシン及び/又はセリンを含む通常の食事よりも少ない量のセリン及び/又はグリシンを含む食事を受け得る。
【0190】
特に、対象の良好な健康状態を維持するためのセリン及び/又はグリシンの十分な量は、対象においてセリン及び/又はグリシンの1日あたりの量が約500~約2000mgで投与され得ることを意味する。
【0191】
いくつかの実施形態では、セリン/グリシン欠乏食を受けさせる必要がある対象は、約1500mg/日以下、約1000mg/日以下、約500mg/日以下の量のセリン及び/又はグリシンを受け得る。
【0192】
いくつかの実施形態では、セリン/グリシン欠乏食を受けさせる必要がある対象は、約500mg/日以下、約400mg/日以下、約300mg/日以下、約200mg/日以下、約100mg/日以下、又は50mg/日以下の量のセリン及び/又はグリシンを受け得る。
【0193】
当業者は、投与経路、処置される患者の体重、年齢、性別に応じた、並びに可能性がある考慮すべき既存の症状及び考えられる投与される追加処置に応じた食事中のセリン及び/又はグリシン供給源の投与量によるセリン/グリシンの量の調節方法を知っていることが意図される。
【0194】
本開示によるセリン/グリシン欠乏食に関する特定の特徴及び実施形態のすべて又は一部は、本開示の意図された使用及び方法にも適用される。
【0195】
クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん
腫瘍性タンパク質MDM2は、腫瘍抑制因子p53の主要な負の調節因子として主に知られている。ただし、近年の研究では、MDM2はp53非依存的発がん活性を有し得ることが示されている(Cisse et al., Sci. Transl. 2020)。本開示の文脈では、MDM2が細胞核中に局在する、特に標的化されたがん細胞株である。
【0196】
本開示の文脈では、「クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん」は、MDM2が細胞核中に局在することを意味する。
【0197】
いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんは、細胞においてMDM2過剰発現を呈するがんと同等ではないことが明記されている。クロマチンへのMDM2の動員を呈するIAがんは、(i)MDM2の過剰発現を呈するがん及び(ii)MDM2過剰発現を呈さないがんの両方を包含する。クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんは、がん細胞が細胞質でMDM2過剰発現を呈し、細胞MDM2の少なくとも一部が細胞核中に局在するがんであり得る。クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんは、MDM2ががん細胞で過剰発現されず、細胞MDM2の少なくとも一部が細胞核中に局在するがんであり得る。
【0198】
したがって、いくつかの実施形態では、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんは、細胞質でMDM2過剰発現を呈するがんではない可能性がある。
【0199】
本開示の実施例では、高レベルのIL-6を発現するがん細胞株がMDM2の過剰発現を呈することが示されている。対照的に、MDM2の過剰発現を呈するがん細胞株が、必ずしもIL-6を発現しないことが示されている。したがって、いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞株は高レベルのIL-6を発現すると考えられている。
【0200】
クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんは、例えば、国際公開公報第2019106126号又はCisse et al. (2020, Sci Trans Med, Vol. 12;547)に開示された診断方法を用いた診断であり得る。
【0201】
いくつかの実施形態では、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんは、がん細胞試料又はがん組織試料中のタンパク質、特にMDM2の局在を観察することを可能とする任意の方法を用いて、対象において診断され得る。
【0202】
対象においてクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんの決定はまた、対象が罹患しているがんの種類に従って対象を分類する手段であり得る。特に、対象は、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患しているものとして、又はクロマチンへのMDM2の動員を呈さないがんに罹患しているものとして分類され得る。
【0203】
例えば、がん細胞試料又はがん組織試料にてタンパク質、特にMDM2の局在を決定することを可能にする方法は、免疫蛍光法、特に顕微鏡法又はサイトメトリー、又は免疫組織化学によって行われ得る。
【0204】
いくつかの特定の実施形態では、必要がある対象でクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを決定するための方法は、a)当該対象から取得したがん細胞試料を提供すること、b)特に免疫蛍光法又は免疫組織化学によって、がん細胞でのMDM2の局在を決定すること、及びc)対象が、MDM2が核(及びしたがってクロマチン上に)局在するときに、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを有すると結論付けること、又は対象が、MDM2が核中で局在せず、特にMDM2ががん細胞の細胞質で局在するときに、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを有さないと結論付けること、を含み得る。
【0205】
例示的には、対象のがん細胞でのMDM2の局在は免疫組織化学によって決定され得る。がん細胞又は組織は、対象の腫瘍から採取される。がん細胞は、固体支持体上に置かれる。次いで、抗MDM2抗体は、がん細胞調製物に加えられる。続いて、これに検出系(抗体に結合された酵素、基質中の酵素の存在によって、着色(ペルオキシダーゼ)又は蛍光(ローダミン)反応)に結合された二次抗体を加え、肉眼、又は顕微鏡法及び分光光度法技術によって可視されるシグナルを生じする。続いて、シグナル色の観察を通じて、MDM2が核(及びしたがってクロマチン上に)又は細胞質中に局在するかどうかが決定され得る。
【0206】
いくつかの他の実施形態では、必要がある対象におけるクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを診断するための方法は、
i)生物学的試料中の核結合MDM2量、特にクロマチン結合MDM2量を決定する工程と、
ii)工程ii)で決定された核結合MDM2細胞の割合が試料中にて約1%を超えるがん細胞を示すときに、がんがクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患しているということを結論付ける工程と、を含み得る。
【0207】
いくつかの特定の実施形態では、必要がある対象におけるクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを診断するための方法は、
i)生物学的試料中のがん細胞中の核結合MDM2量を決定する工程と、
ii)工程ii)で決定された核結合MDM2細胞の割合が試料中にて約1%を超えるがん細胞を示すときに、がんがクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患しているということを結論付ける工程と、を含み得る。
【0208】
対象の生物学的試料のがん細胞における核結合MDM2量、特にクロマチン結合MDM2量を評価することは、当業者によって容易に決定され得る。
【0209】
対象の生物学的試料における核結合MDM2量は、クロマチンを単離している細胞分画上での免疫ブロットによって患者由来の腫瘍試料でも決定され得る。
【0210】
いくつかの実施形態では、生物学的試料は組織試料であり得る。
【0211】
特に、液体試料は、全血、血漿又は血清であり得る。対象の液体試料を採取するための技術は、当業者に周知である。
【0212】
特に、組織試料は、対象のがん組織試料であり得る。対象の組織試料を採取するための技術は、当業者に周知である。例えば、組織試料の採取は、生検によって実現され得る。
【0213】
本明細書に記載の診断方法は、対象がクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患しているかどうかを決定するためのバイオマーカ試験として実施され得る。
【0214】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の診断方法は臨床情報を提供する。例示的には、本明細書に記載されるような診断方法によって、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患している対象から提供された生検試料に関する情報を完成させることが可能となる。
【0215】
例示的には、本明細書に記載の診断方法によって、がんに罹患している対象におけるクロマチンへのMDM2の存在を決定することが可能となり、クロマチンへのMDM2の検出によって、医療従事者ががんに罹患している対象への本開示のIL-6阻害薬投与を決定することが可能となり得る。医療従事者は、更に本開示によるセリン/グリシン欠乏食とともに本開示によるIL-6阻害薬を当該対象に投与することによって、対象の処置を適応させ得る。
【0216】
本開示によれば、必要がある対象のがん細胞におけるクロマチンへのMDM2の動員は、がん発症後の一定期間後にのみ起こり得るか、対照的には、がんの発症直後に起こり得る。特に、クロマチンへのMDM2動員は、がんの発症時のみならず、がんに対する少なくとも第1の処置の当該対象への投与後を含む、がんの異なる段階の間にも起こり得る。
【0217】
本開示内でのクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんは、骨がん、脳がん、卵巣がん、乳がん、肺がん、大腸がん、骨肉腫、皮膚がん、悪性血液疾患、膵臓がん、前立腺がん及び脂肪肉腫を含む群より選択され得る。
【0218】
いくつかの実施形態では、本開示内で考慮されるクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんは、脂肪肉腫であり得る。
【0219】
「脂肪肉腫」又は「LPS」といった用語は、当技術分野での一般的な意味を有し、世界保健機関分類ICD10 C49.9で改訂されるような間葉起源の軟組織肉腫を指す。「脂肪肉腫」といった用語はまた、高分化型及び脱分化型脂肪肉腫(WD-LPS及びDD-LPS)を指す。「脂肪肉腫」といった用語はまた、悪性間葉新生物、1種の軟組織肉腫、成長が遅いものから高悪性度かつ転移性の範囲で変動する重症度の脂肪腫性腫瘍の一群を指す。脂肪肉腫は、ほとんどの場合には下肢又は後腹膜に位置するが、上肢、頸部、腹膜腔、精索、乳房、外陰部及び腋窩にも生じ得る。「脂肪肉腫」といった用語はまた、脱分化型脂肪肉腫及び高分化型脂肪肉腫に関する。
【0220】
いくつかの実施形態では、「脂肪肉腫」といった用語は、クロマチンへのMDM2の動員を呈する脂肪肉腫を指す。
【0221】
本開示による、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに関する特定の特徴及び実施形態のすべて又は一部は、本開示の意図された使用及び方法にも適用される。
医薬組成物
【0222】
更なる態様では、本開示は、医薬組成物の形態である、本明細書に記載されるようなIL-6シグナル伝達阻害薬の投与に関する。それ以外の場合には、本開示はまた、本明細書に記載されるようなIL-6シグナル伝達阻害薬を含む医薬組成物に関する。
【0223】
典型的には、IL-6シグナル伝達阻害薬は、薬学的に又は生理学的に許容し得る賦形剤又は担体と、任意で生分解性ポリマーなどの徐放性マトリックスと組み合わせられ、治療用組成物を形成し得る。
【0224】
本明細書に提供される医薬組成物は、治療有効量で、すなわち、その意図された目的を達成するのに有効な量で、活性薬剤、すなわちIL-6シグナル伝達阻害薬を含む。上に表記されるように、特定の用途のための実際の有効量は、とりわけ、処置されている状態及び患者の年齢、体重、性別、他の潜在的な増悪状態の存在又は食事などの当技術分野で周知である様々な他の要因によって変化する。本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬の治療有効量の決定は、当業者の能力の範囲内である。
【0225】
本明細書に記載の医薬組成物は、薬学的に許容し得る賦形剤又は担体とともに本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬を使用することによって、当業者に公知の技術に従って調製され得る。
【0226】
これらの医薬組成物は、1種以上の薬学的に許容し得る賦形剤又は担体を含み得る。例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st Edition, David B. Troy, ed., Lippicott Williams & Wilkins (2005)には、好適な担体及び賦形剤、並びにこれらの製剤が説明される。薬学的に許容し得る担体は、生物学的又はその他の点において望ましくない材料を意味する。すなわち、材料は、望ましくない生物学的効果を引き起こしたり材料が含有される医薬組成物の他の構成成分と有害な様式で相互作用したりすることなく対象に投与される。
【0227】
医薬組成物は、固体、半固体、液体、顆粒、吸入又はエアロゾル吸入など、当業者によって適切であると見なされる任意の形態であり得る。
【0228】
液体形態は、経口又は全身投与に適切な形態であり得る。
【0229】
経口投与に好適である医薬組成物は、カプセル、錠剤、ピル、粉末、顆粒、水又は非水液体の溶液又は懸濁液、泡又は泡立てられた食物、液体の油中水型エマルジョン又は液体の水中油型エマルジョンであり得る。
【0230】
例えば、カプセル又は錠剤形態での経口投与については、本明細書で言及される活性薬剤は、エタノール、グリセロール、水及び同様のものなどの薬学的に許容し得る不活性担体と組み合わせられ得る。香料、保存料、着色料及び/又は分散剤もまた存在し得る。
【0231】
非経口投与に好適な医薬組成物は、酸化防止剤、緩衝剤、意図されるレシピエントの血液と溶液とを等張にする静菌性溶質、並びに懸濁剤及び増粘剤を含み得る水性又は非水性滅菌懸濁液を含有し得る、注射用の滅菌水溶液又は非水溶液を含み得る。これらの組成物は、従来の周知の滅菌技術によって滅菌され得る。
【0232】
非経口組成物は、滅菌水又は非経口的に許容し得る油などの媒介物中に化合物の溶液又は懸濁液を含み得る。あるいは、溶液は凍結乾燥され得る。凍結乾燥された非経口医薬組成物は、投与直前に好適な溶媒を用いて再構成され得る。
【0233】
医薬組成物は、例えば、密封されたアンプル又はバイアルといった単回投与用又は複数投与用容器に提供され得、使用直前に、例えば、注射用の水といった滅菌液体担体の添加のみを必要とする凍結乾燥状態で貯蔵され得る。即時注射溶液及び懸濁液は、粉末、顆粒、凍結乾燥し滅菌した圧縮物から調製され得る。
【0234】
非経口投与の場合には、組成物はまた、必要とする患者の体重、年齢、性別及び健康状態を考慮した所望の投与量に従って好適に混合され得る別個の容器に有効成分を提供し得る。
【0235】
すべての場合では、医薬組成物は、製造及び貯蔵状態の下で安定していなければならず、細菌及び真菌などの微生物による汚染作用から保存されなければならない。
【0236】
本開示による医薬組成物に関する特定の特徴及び実施形態のすべて又は一部は、本開示の意図された使用及び方法にも適用される。
【0237】
処置用途&処置の方法
本開示の別の態様では、本開示によるIL-6シグナル伝達阻害薬又はこれを含む医薬組成物は、必要がある対象においてがん、特に脂肪肉腫を治療及び/又は予防するための方法で用いるためのものであり得、対象は、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患していると事前に分類されている。
【0238】
いくつかの実施形態では、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞は更に、セリン及びグリシンを欠乏させられている。
【0239】
いくつかの実施形態では、本開示は、必要がある対象においてがん、特に脂肪肉腫の予防及び/又は治療用の薬物を製造するための、本開示によるIL-6シグナル伝達阻害薬の使用に関し、対象は、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患していると事前に分類されている。
【0240】
いくつかの他の実施形態では、本開示によるIL-6シグナル伝達阻害薬又はこれを含む医薬組成物は、対象におけるクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんの相乗的な予防及び/又は治療で用いるためのものであり得、対象のクロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞は、セリン及びグリシンを欠乏させられている。
【0241】
いくつかの他の実施形態では、本開示によるIL-6シグナル伝達阻害薬又はこれを含む医薬組成物は、対象におけるがんの相乗的な予防及び/又は治療で用いるためのものであり得、対象は、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患していると事前に分類され、対象のクロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞は、セリン及びグリシンを欠乏させられている。
【0242】
他の実施形態では、本開示によるIL-6シグナル伝達阻害薬又はこれを含む医薬組成物は、必要がある対象において脂肪肉腫を治療及び/又は予防するための方法で用いるためのものであり得、対象は、クロマチンへのMDM2の動員を呈する脂肪肉腫に罹患していると事前に分類されている。
【0243】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるような製造された薬物及びセリン/グリシン欠乏食は、がん疾患、特にクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんの相乗的な予防及び/又は相乗的な治療で用いるためのものであり得る。上に示されているように、「相乗作用」又は「治療相乗作用」は、所与の特徴又は用量での2つの状態の組合せが、同一の特徴又は用量を考慮した単独での2つの状態の最良のものよりも有効であるときに使用される。
【0244】
セリン/グリシン欠乏食との相乗効果によって、本開示のIL-6シグナル伝達阻害薬又はこれを含む医薬組成物が通常処方された有効量又は活性薬剤としての治療有効量を下回る量で存在する場合には、対象における処置の効果もまた有効であると予想される。
【0245】
いくつかの実施形態では、本開示は、必要がある対象においてクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを治療及び/又は予防するための方法で使用するための、インターロイキン-6(IL-6)シグナル伝達阻害薬、又はIL-6シグナル伝達阻害薬などを含む医薬組成物に関し、対象は、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患していると事前に分類され、任意で、対象のクロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞は、セリン及びグリシンを欠乏させられている。
【0246】
更なる態様では、本開示はまた、必要がある対象においてがんを治療及び/又は予防する方法に関し、当該方法は、
(a)対象がクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患しているかどうかを決定する工程と、
(b)治療有効量のIL-6シグナル伝達阻害薬を対象に投与する工程と、を少なくとも含む。
【0247】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるような方法はまた、クロマチンへのMDM2の動員を呈する対象のがん細胞からセリン及びグリシンを取り除く工程を含む。
【0248】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるような方法はまた、MDM2阻害薬を投与する工程を含む。
【0249】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるような方法で実装されるIL-6シグナル伝達阻害薬は、抗IL-6阻害薬、抗IL-6受容体阻害薬、抗IL-6/IL-6R複合体阻害薬、STAT3阻害薬又はgp130阻害薬から選択され得る。
【0250】
いくつかの実施形態では、本開示はまた、必要がある対象においてがんを治療及び/又は予防する方法に関し、当該方法は、
(a)対象がクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患しているかどうかを決定する工程と、
(b)任意で、対象のがん細胞からセリン及びグリシンを取り除く工程と、
(c)本明細書に記載されるようなIL-6シグナル伝達阻害薬を含む、治療有効量の医薬組成物を対象に投与し、それによってがんを治療する工程と、を少なくとも含む。
【0251】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるような、対象におけるクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを治療及び/又は予防する方法はまた、セリン/グリシン欠乏食を対象に投与する工程を含む。
【0252】
いくつかの実施形態では、本開示はまた、必要がある対象においてクロマチンへのMDM2の動員を呈するがん疾患を相乗的に予防及び/又は治療する方法に関し、当該方法は、相乗的に治療有効である量の少なくとも1つのIL-6シグナル伝達阻害薬を対象に投与することと、対象のクロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞からセリン及びグリシンを取り除き、それによって当該対象におけるがん疾患を処置することと、を含む。本開示の方法は、がん疾患の予防、又は軽減などの治療を観察することを含む。
【0253】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法のIL-6シグナル伝達阻害薬及びセリン/グリシン欠乏食は、必要がある対象に、同時に、別々に又は順次投与され得る。
【0254】
いくつかの特定の実施形態では、本明細書に記載の方法のIL-6シグナル伝達阻害薬、セリン/グリシン欠乏食及びMDM2阻害薬は、必要がある対象に、同時に、別々に又は順次投与され得る。
【0255】
いくつかの他の実施形態では、セリン/グリシン欠乏食は最初に投与され、続いて本明細書に記載されるようなIL-6シグナル伝達阻害薬又はIL-6シグナル伝達阻害薬を含む医薬組成物が対象に投与され得る。
【0256】
特に、セリン/グリシン欠乏食は、本明細書に記載されるようなIL-6シグナル伝達阻害薬又は医薬組成物投与前の約1~約15日間の間に必要がある対象に最初に投与され得る。特に、セリン/グリシン欠乏食は、本明細書に記載されるようなIL-6シグナル伝達阻害薬又は医薬組成物投与前の1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間又は15日間の間に必要がある対象に最初に投与され得る。
【0257】
いくつかの他の実施形態では、本明細書に記載されるようなIL-6シグナル伝達阻害薬又はこれを含む医薬組成物は、必要がある対象に最初に投与され、続いてセリン/グリシン欠乏食が投与され得る。
【0258】
特に、本明細書に記載されるようなIL-6シグナル伝達阻害薬又はこれを含む組成物は、本明細書に記載されるようなIL-6シグナル伝達阻害薬又は医薬組成物投与前の約1~約15日間の間に必要がある対象に最初に投与され得る。特に、IL-6シグナル伝達阻害薬又はその医薬組成物は、本明細書に記載されるようなセリン/グリシン欠乏食の投与前の1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間又は15日間の間に必要がある対象に最初に投与され得る。
【0259】
いくつかの他の実施形態では、必要がある対象に、本明細書に記載されるようなIL-6シグナル伝達阻害薬又はIL-6シグナル伝達阻害薬を含む医薬組成物及び本明細書に開示されるようなセリン/グリシン欠乏食が同時に投与され得る。
【0260】
特に、本明細書に記載されるようなIL-6シグナル伝達阻害薬又はこれを含む医薬組成物及び本明細書に開示されるようなセリン/グリシン欠乏食は、必要がある対象に約1~約15日間の間、直後、又はクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患していると決定された直後1日若しくは2日後に同時に投与され得る。
【0261】
スクリーニング方法
本開示はまた、対象がクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患しているかどうかを決定する、インビトロでの方法に関し、当該対象がIL-6シグナル伝達阻害薬を含む療法を意図しており、該方法は、
-MDM2が、対象から取得した生物学的試料のがん細胞核に局在しているかどうかを決定することを含み、
-MDM2が生物学的試料のがん細胞核に局在する場合には、対象がクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんによって罹患していることを示す。
【0262】
本開示の文脈では、がん細胞における核結合MDM2量の「変化」は、核におけるMDM2量が、対照がん細胞の核におけるMDM2量よりも高いことを意味する。より詳細には、がん細胞における核結合MDM2量の「変化」は、核結合MDM2が、核結合MDM2細胞の約1%を超えることを示すことを意味する。がん細胞における核結合MDM2量の「変化」はまた、MDM2の局在が細胞核でのものであることを単純に意味し得る。対照的には、対照がん細胞におけるMDM2の局在は、当該対照がん細胞の細胞質中に存在する。
【0263】
いくつかの実施形態では、生物学的試料は、全血試料、血漿又は血清であり得る。
【0264】
「全血」といった用語は、遠心分離にかけられておらず、そのため血液中に存在する細胞のすべて、特に赤血球を含有する血液を指す。
【0265】
以下の実施例は、限定ではなく例示目的のために提供される。
【実施例】
【0266】
実施例1:材料及び方法
がん細胞株及び培養条件
がん細胞株培養試薬をGibco(Invitrogen)から購入した。すべてのがん細胞株を、37℃、加湿した5%CO2インキュベータにて、10%ウシ胎児血清(#8301、Eurobio)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(10000U/mL、Gibco)を補充したDMEM Glutamax(Gibco)培地中で培養した。RPMI(Gibco)培地の懸濁液中で培養されたJurkat細胞株を除く。
【0267】
Cellosaurus XG-6細胞株(IL6依存)を、37℃、加湿した5%CO2インキュベータにて、10%ウシ胎児血清(#8301、Eurobio)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(10000U/mL、Gibco)を補充したRPMI(Gibco)培地中で培養した。
【0268】
不死化マウス筋芽細胞(C2C12細胞株)を、37℃、加湿した5%CO2インキュベータにて、10%ウシ胎児血清(#8301、Eurobio)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(10000U/mL、Gibco)を補充したDMEM Glutamax(Gibco)培地中で培養した。
【0269】
3日間の培養後、がん細胞株及びマウス筋芽細胞の上清を採取し、3000rpmで10分間にわたり遠心力を印加することによって細胞片を除去した。上清を凍結し、-20℃で貯蔵した。
【0270】
クロマチンへのMDM2の動員を呈する異なるがん細胞株(C-MDM2(+))又はクロマチンへのMDM2の動員を呈さない異なるがん細胞株(C-MDM2(-))を表1に公開する。
【表1】
【0271】
アミノ酸飢餓実験のために、細胞をセリン及びグリシンを欠失しているDMEM(Biological Industries)で培養した。生理学様培地並びにセリン及びグリシンを含まない生理学様培地を得るために、グルコース 500μM(Sigma-D9434)、L-グルタミン 550μM(増殖因子キット、ATCC)、L-グリシン 300μM(Sigma-G8898)及びL-セリン 150μM(Sigma-S4500)で培地を補充した。これらを培地に添加する前に、アミノ酸及び糖粉末を、滅菌MilliQ水でそれぞれ再懸濁し、濾過した(0.45μm)。
【0272】
がん細胞株増殖条件(DMEM、脂肪肉腫上清を含む、セリン/グリシンなどを含まないDMEM)
50000個のXG-6細胞(IL-6依存細胞株)を4つのプラスチック皿に同数で播種し、37℃/5%CO2で3日間、RPMI(Gibco)培地 2mLの懸濁液中で培養された。4つの皿の条件は以下の通りであった:
-組換えIL-6 2ng/mL(Wijdenes et al., Mol Immunol, 28(1991), p. 1183に例示されている方法を用いて得た)の存在下でRPMI 2mLで培養したXG-6細胞
-RPMI 2mLで培養したXG-6細胞、
-事前に得たようにMCF7細胞株上清 2mLで培養したXG-6細胞、
-事前に得たようにIB115細胞株上清 2mLで培養したXG-6細胞。
【0273】
IL-6濃度
異なるがん細胞株の上清のIL-6濃度を、製造業者の説明書に従ってイムノアッセイ(マウスIL-6標準TMB ELISA開発キットカタログ番号:900-T50)によって測定した。
【0274】
クロマチンへのMDM2動員の決定
免疫蛍光分析
がん細胞を、PFA 4%を用いて15分間固定し、0.1% PBS Tritonを用いてRTで15分間透過処理し、RTで1時間、0.3% PBS-BSAで遮断した後、MDM2(MABE340 Millipore)に対する抗マウスモノクローナル抗体を用いて4℃で一晩インキュベートした。Alexa 488結合抗マウスIgG抗体(Thermo Fisher)を使用し、室温で45分間、免疫検出を行った。カバーガラスを、Mowiol(Biovalley)及びDAPI(Sigma)に取り付けた後、Zeissアポトームで分析した。
【0275】
クロマチン分画アッセイ法
Riscalら(2016)によって既に説明されたように、細胞内分画アッセイ法を主に実施した。簡潔には、90%コンフルエントに達するまでDMEM中で成長したがん細胞株(表1にて提示)を、皿 150mmに播種した。次いで細胞をPBSを用いて洗浄して破片とし、溶解バッファ1(10mM Hepes、10mM KCl、1.5mM MgCl2、0.34M スクロース、10%グリセロール、完全にEDTAフリーのプロテアーゼ阻害薬及び1mM DTT)で溶解し、次いで4℃、3500rpmで迅速に遠心分離させた。細胞可溶性タンパク質を含有する上清を貯蔵し、次いで核可溶性タンパク質を含有する画分(S画分)とともにプールした。核可溶性タンパク質を、溶解バッファ2(3mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、0.2mM EGTA(エグタズ酸)及びプロテアーゼ阻害薬)を用いて、4℃、30分間にわたるインキュベート時にペレットをボルテックスすることで回収した。バッファ2を用いて2回洗浄した後、イムノブロッティング用のLaemmli緩衝液を添加することで、ペレットからクロマチン関連タンパク質を回収した(C画分)。
【0276】
RNA抽出及びRT-qPCR
既に説明されたように、TRIzol試薬(Invitrogen)を使用し、総mRNAを筋芽細胞(C2C12細胞)から単離した(Riscal et al. Mol Cell. 2016 Jun 16;62(6):890-902)。その後、製造業者のプロトコールに従い、SuperScript III逆転写酵素(Invitrogen)を使用してcDNAへのmRNA 1μgの逆転写を行った。目的のオリゴヌクレオチドに加えてSYBR Greenミックス(Ozyme)及び以下の増幅プロトコール:95℃で4秒間、60℃で10秒間及び72℃で15秒間の45サイクルを使用し、LightCycler 480 SW 1.5装置(Roche)上でのリアルタイム定量PCRによって、産生cDNAの定量を達成した。少なくとも2つの異なるハウスキーピング遺伝子(TBP、Tubuline、RPL13a、Gus B、β-ミクログロブリン)上で正規化されたCt値及び2
-ΔCt法を使用し、相対遺伝子発現(mRNAコピー数)の分析を実現した。PCRに使用されたプライマーの配列を表2に列挙する。
【表2】
【0277】
IC50測定
SP141、IL-6、IL-6阻害薬及び/又はセリン/グリシン欠乏食処置後の細胞生存(IC50)を、スルホローダミンBアッセイ法(Sulforhodamine B、SRBアッセイ法)を使用して決定した。各条件についてトリプリケートを得るように(5000個の細胞/ウェル)、完全DMEM培地中で細胞を96ウェルプレート(Sarsted)に播種した。24時間後、示された化合物の段階希釈を細胞に添加した。次いで48時間後、10%トリクロロ酢酸溶液を加えることによって細胞を固定し、1%酢酸中0.4%SRB溶液で染色した。固定SRBを、10mM トリス-HCl溶液に最終的に溶解し、PHERAstar FSXプレートリーダを使用し、560nmの吸光度を読み取った。
【0278】
標的遺伝子の発現(PHGDH、PSAT1及びPSPH)並びに分析
shRNAアッセイ法
MDM2直接標的遺伝子PHGDH、PSAT1及びPSPHのmRNAの相対量を、単独で培養、又はヒトIL-6(shIL-6)のshRNA媒介欠乏のために処置された、又は処置されなかったIB115細胞と共培養されたC2C12筋芽細胞のRT qPCRによって決定した。データを、対照shRNAを用いて処理されたIB115細胞から調製された対応する対照試料に正規化した(平均SD、n=3独立実験)。ノンパラメトリックなマン・ホイットニーのU検定を使用し、統計学的有意性を評価した。
【0279】
抗IL-6アッセイ法
MDM2直接標的遺伝子PHGDH、PSAT1及びPSPHのmRNAの相対量を、単独で培養、又はブロッキング抗IL-6抗体(Wijdenes et al., Mol Immunol, 28 (1991), p. 1183)、すなわち、バゼドキシフェンなどのIL-6受容体阻害薬、又はC188-9及びStatticなどのSTAT3阻害薬を用いて処置された、又は処置されていないIB115細胞と共培養されたC2C12細胞のRT qPCRによって決定した(平均+/-SD、n=3独立実験)。ノンパラメトリックなマン・ホイットニーのU検定を使用し、統計学的有意性を評価した。
【0280】
脂肪肉腫細胞のイメージング及び計数
GFP-IB115脂肪肉腫細胞(60000個の細胞/ウェル)を単独で培養、又は6ウェルプレートで5%血清を有するセリン/グリシン欠乏DMEM培地にてRFP-C2C12筋芽細胞(20000個の細胞/ウェル)と共培養した。細胞を、1μM 抗IL-6抗体を用いて1週間に2回、処理した。培養は9日間続いた。3つの培養アッセイ法は以下の通りである:
-5%血清を含むセリン/グリシン欠乏DMEM培地で培養されたGFP-IB115脂肪肉腫細胞(陰性対照)、
-5%血清を含むセリン/グリシン欠乏DMEM培地でRFP-C2C12筋芽細胞と共培養されたGFP-IB115脂肪肉腫細胞、
-5%血清+抗IL-6抗体を含むセリン/グリシン欠乏DMEM培地でRFP-C2C12筋芽細胞と共培養されたGFP-IB115脂肪肉腫細胞。
【0281】
各ウェルの画像を取得することによって、マルチチャネルイメージング細胞サイトメータ(Celigo(登録商標))を使用し、細胞増殖を毎日監視した。次いで、解析ソフトウェアを使用して画像を処理し、それらの蛍光に基づいてIB115-GFP細胞を計数した。
【0282】
マウスセリン欠乏及び抗IL-6抗体を用いた処置
8週齢のCD1 Foxn 1nuマウス(Charles River)においておよそ40mm3のヒト腫瘍フラグメントを皮下に挿入することによって、Institut du Cancer de Montpellier(ICM)の外科部門及び病理部門と協力し、マウス脂肪肉腫PDXモデルを確立した。
【0283】
40匹のマウスに、対照食(アミノ酸食と呼ばれ、TD99366 Harlan ENVIGO)又は試験食(Harlan Envigo、TD130775:セリン及びグリシンを欠乏している食事)を3週間給餌した。食事は、等しいカロリー値(3.9kCal/g)、等量の総アミノ酸(179.6g/kg)を有し、マウス用の食料形態である。総食物摂取量を全実験群で同一であるように制御した。地域の動物愛護倫理委員会(nCEEA-LR-12067)に従い、病原体を含まない隔離施設にマウスを収容した。3週間にわたり週に2回、抗IL-6抗体を用量100μg/kgで腹腔内i.p.注射で投与した。以下のように、実験を群あたり10匹のマウスで行った:
-アミノ酸食(対照)5g/日で10匹のマウスを給餌し、
-試験食(W/Oセリン)5g/日で10匹のマウスを給餌し、
-アミノ酸食 5g/日で10匹のマウスを給餌し、週に2回、用量100μg/kgでi.p.で注射し、
-試験食 5g/日で10匹のマウスを給餌し、週に2回、用量100μg/kgでi.p.で注射した。
【0284】
手動キャリパを使用し、同じ人間によって3日毎に異種移植腫瘍の体積測定を行った(体積=長さ×幅2/2)。最初の動物が倫理的エンドポイントに達したとき、すべての動物を安楽死させた(体積=1500cm3又は潰瘍形成)。
【0285】
実施例2:インビトロでの結果
クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞は、測定可能IL-6を分泌する
IL-6を分泌するがん細胞のMDM2局在の重要性を調査するため、クロマチンへのMDM2の動員を呈する、又は呈さない12のがん細胞株におけるIL-6分泌量を分析した。
【0286】
したがって、CFPAC(膵臓の腺がん)、MDAMB468(乳がん)、SKMEL5(メラノーマ)、IB115(脂肪肉腫)及びIB111(脂肪肉腫)であるクロマチンへのMDM2の動員を呈する5つのがん細胞株(C-MDM2(+))、並びにJURKAT(白血病)、MCF7(乳がん)、ZR751(細胞腫)、H1299(肺がん)、LNCAP(前立腺がん)、HPAC(膵臓の腺がん)及びMIAPACA(膵臓がん)であるクロマチンへのMDM2の動員を呈さない7つのがん細胞株(C-MDM2(-))を試験した(表1を参照)。
【0287】
これら12のがん細胞株すべては、MDM2を過剰発現する(https://sites.broadinstitute.org/ccle)。
【0288】
図1Aに示されるように、CFPAC、MDAMB468、SKMEL5、IB115及びIB111は、約1600pg/mL、約4650pg/mL、約1300pg/mL、約5000pg/mLの高レベルのIL-6及び7000nM IL-6をそれぞれ分泌する。対照的に、JURKAT、MCF7、ZR751、H1299、LNCAP、HPAC及びMIAPACA細胞は、非常に定量のIL-6を分泌するか、又はIL-6を分泌しない。更に、
図1B及び
図9に示されるように、IL-6分泌は、MDM2発現量とは関係なく、核中のMDM2の局在に大きく依存する。
【0289】
そのため、脂肪肉腫などのクロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞株は高レベルのIL-6を分泌し、一方で核に局在するMDM2なしのがん細胞株は、IL-6を分泌しないか、少なくとも非有意な低量を分泌する。
【0290】
続いて、がん細胞株によるILー6の分泌が、MDM2の細胞内局在と効果的に関連するかどうかを評価した。
【0291】
図2Aに示されるように、2~8の範囲の高レベルのIL-6を分泌するすべてのがん細胞株が、1~6の範囲のMDM2の過剰発現も有していることが観察された。対照的に
図2Bでは、4~8の範囲でMDM2を過剰発現するすべてのがん細胞株は、-13~6の範囲のIL-6を必ずしも発現しないことが観察された。
【0292】
したがって、IL-6を発現するがん細胞は、MDM2の過剰発現を有するが、MDM2を過剰発現するがん細胞は、必ずしもIL-6を発現しない。
【0293】
これらの結果は、がん細胞におけるMDM2の単なる過剰発現は、IL-6の高い分泌と相関していない。したがって、クロマチンへのMDM2の局在は重要であり、IL-6の分泌を可能にする細胞経路を活性化させることが確認された。
【0294】
更には、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞株は、細胞においてMDM2の過剰発現を必ずしも有さないことが観察された(
図10に示される)。
【0295】
IL-6によるIL-6依存性がん細胞増殖の促進
次いで、がんの増殖におけるIL-6の役割を調査するため、IL-6組換え体(それぞれ、陽性対照及び陰性対照)の存在下又は不在での、かつMCFY7培地又はIB115培地の存在下でのIL-6依存細胞株(XG-6)の増殖を試験した。
図3に示されるように、XG-6細胞(IL-6依存細胞株)は、組換えIL-6(+IL6)の存在下で150000AUを超えて増殖するが、組換えIL-6なしでは(-IL6)増殖は観察されない。
【0296】
MCF7培地上清の存在下では、XG-6細胞は約100000AUまで増殖し、IB115培地上清の存在下では、XG-6細胞は約150000AUを超えて増殖することが更に観察された。
【0297】
したがって、これらのデータは、IL-6依存細胞の増殖がIL-6によって、より具体的には、脂肪肉腫細胞株(IB115)などのクロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞(C-MDM2(+))によって分泌されたIL-6によって促進される。
【0298】
ヒトIL-6による筋芽細胞によるセリン合成の関与
図4、
図5及び
図11に示されるように、筋細胞単独でのPHGDHの相対的mRNA量は約1AUであるが、IB115脂肪肉腫細胞上清(LPS)で培養した筋細胞の相対的mRNA量は、筋細胞単独アッセイ法よりも有意に高い(約4.4AU-
図4又は約4AU-
図5)。対照的に、LPSと培養され、shIL-6(約1.75AU-
図4)又は抗IL-6抗体アッセイ法(約2.5AU-
図5)で処理した筋細胞のPHGDHの相対的mRNA量は、LPSアッセイ法で培養された筋細胞よりも有意に低い。同様に、LPSと共培養した筋細胞で、IL-6阻害薬(BZA)(約0.6AU-
図11)又はSTAT3阻害薬(C188-9については約0.5AU-
図11)を使用することによって、阻害薬なしでLPSで培養した筋細胞(1.6AU-
図11)と比較してPHGDH相対的mRNA量が低下する。
【0299】
PSAT1遺伝子に関しては、筋細胞単独でのPSATの相対的mRNA量は約1AUであるが、LPSで培養した筋細胞の相対的mRNA量は、筋細胞単独アッセイ法よりも有意に高い(約1.75AU-
図4又は約3.25AU-
図5)。対照的に、LPSと培養され、shIL-6アッセイ法(約1AU-
図4)又は抗IL-6抗体アッセイ法(約2.5AU-
図5)で処理した筋細胞のPSATの相対的mRNA量は、LPSで培養された筋細胞よりも有意に低い。同様に、LPSと共培養した筋細胞で、IL-6R阻害薬(BZA)(約1.3AU-
図11)又はSTAT3阻害薬(C188-9については約1.3AU又はStatticについては1.5AU-
図11)を使用することによって、阻害薬なしでLPSで培養した筋細胞(約2AU-
図11)と比較してPSAT1相対的mRNA量が低下する。
【0300】
PSPH遺伝子に関しては、筋細胞単独でのPSPHの相対的mRNA量は約1AUであるが、LPSで培養した筋細胞の相対的mRNA量は、筋細胞単独アッセイ法よりも有意に高い(約2.5AU-
図4又は約3AU-
図5)。対照的に、LPSと培養され、shIL-6(約1AU)又は抗IL-6抗体(約1.75AU-
図5)で処理した筋細胞のPSPHの相対的mRNA量は、阻害薬なしでLPSで培養された筋細胞よりも有意に低い。同様に、LPSと共培養した筋芽細胞で、IL-6R阻害薬(BZA)(約1.8AU-
図11)又はSTAT3阻害薬(C188-9については約1.5又はStatticについては1.75AU-
図11)を使用することによって、阻害薬なしでLPSで培養した筋細胞(約3.1AU)と比較してPSPH相対的mRNA量が低下する。
【0301】
したがって、これらのデータは、ヒト脂肪肉腫細胞と共培養したマウス筋芽細胞(C2C12細胞)においては、セリン合成にとって重要な酵素PHGDH、PSAT及びPSPHの遺伝子転写がヒトIL-6によって増強されるという考えを支持している。したがって、筋芽細胞は、脂肪肉腫細胞などのクロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞によって分泌されたIL-6の存在下でセリンを分泌する。
【0302】
IL-6刺激筋芽細胞は、セリンを有する脂肪肉腫細胞を提供し、それらの増殖を維持する
図6では、セリン/グリシン欠乏培地で培養されたLPS細胞の増殖は、生存細胞100%から9日後には40%に減少することが観察され得る。セリン/グリシン欠乏培地で筋芽細胞と共培養されたLPS細胞の増殖は、生存細胞40%から9日後には75%に増加する。更には、セリン/グリシン欠乏培地にて抗IL-6抗体の存在下で筋芽細胞と共培養されたLPS細胞の増殖は、生存細胞75%から9日後には40%に減少する。
【0303】
したがって、セリンが不在の脂肪肉腫細胞はその増殖を維持し、同じ条件では、セリン分泌筋芽細胞と共培養については、脂肪肉腫細胞はその増殖を維持する。それ以外では、セリン、特に筋芽細胞によって分泌されたセリンによって、脂肪肉腫細胞は、培地に外部セリン/グリシンなしであっても増殖する。実際には、培地の抗IL-6抗体の添加によって脂肪肉腫細胞を維持することができないことに留意しなければならない。
【0304】
MDM2阻害薬であるSP141は、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞の増殖を阻害する
クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞でのMDM2の機能を更に描写するため、MDM2阻害薬、すなわちSP141を用いての処理時に、クロマチン結合MDM2を有する(C-MDM2+)又は有さない(C-MDM2(-))複数のがん細胞株の細胞生存率を試験した。
図8に示されるように、低濃度のSP141での処理後24時間もたたないうちに、がん細胞C-MDM2(+)の細胞生存率の重要な損失が観察された。
【0305】
実施例3:インビボでの結果
セリン/グリシン欠乏及び抗IL-6抗体を用いた処置がヒト脂肪肉腫において、相乗的な抗腫瘍効果を有することを示す
図7では、24日目のマウスにおける腫瘍サイズが、対照条件(1200mm
3)と抗IL-6抗体(aIL-6)アッセイ法(600mm
3)との間で劇的に低下したことを観察することができる。更には、腫瘍サイズはまた、W/Oセリンなしの条件下でも減少し(640mm
3)、対照アッセイ法と比較して、抗IL-6抗体(aIL-6)とW/Oセリン処置とを組み合わせた状態では更に減少した(260mm
3)。
【0306】
したがって、これらのデータは、独立型として抗IL-6抗体を用いる処置は、クロマチンでMDM2を発現するPDXヒト腫瘍の増殖阻害には有効であり、こうした抗IL-6処置は、セリン/グリシン欠乏食と好ましくは組み合わせられるという事実を指示している。
【0307】
実施例4:結論
クロマチン結合MDM2ががん細胞ではセリン合成の重要な調節因子である(Riscal et al., 2016)ことが既に知られているが、セリン代謝に関与する遺伝子の発現を制御する分子機構は不明のままである。そのため、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに対する有効な処置を提供することは、依然として困難である。
【0308】
実施例に示されるように、本発明者らは、細胞におけるMDM2の総量(及び/又はその遺伝子増幅)とクロマチンへのその局在の有無との間に関連性が存在しないことを実証している。ただし、MDM2がクロマチンに局在する(C-MDM2(+))ときにはもっぱら、セリンについての需要が増大しながら細胞代謝が劇的に修飾される。したがって、クロマチンへのMDM2の動員は、適応腫瘍代謝では重要な要因である。
【0309】
C-MDM2によって制御される代謝変化の中には、IL-6合成の腫瘍内刺激がある。このIL-6は、筋細胞のセリンの過剰産生を遠隔で引き起こす。したがって、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん細胞によるIL-6の産生阻害は、IL-6シグナル伝達の阻害薬によって、筋芽細胞のセリン経路、ひいては産生の下方制御を引き起こす(
図4、
図5及び
図11)。
【0310】
そのため本開示は、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがんに罹患していると分類され、インターロイキン-6(IL-6)シグナル伝達阻害薬で処置された対象において、クロマチンへのMDM2の動員を呈するがん、特に脂肪肉腫を治療及び/又は予防するための方法を提供する。本開示は更に、がん細胞が任意のセリン源及び任意のグリシン源を欠乏させる処置を組み合わせたIL-6シグナル伝達阻害薬を用いた処置が、処置の有効性を増大させることを実証している(
図7)。
【0311】
特に、本開示は驚くべきことに、IL-6合成が存在する筋芽細胞がセリンを分泌することを示した。この発見を基に、本発明者らはこの治験を確認するために異なる条件を試験し、驚くべきことに、こうしたセリン/グリシン欠乏と抗IL-6抗体の注射とを組み合わせることでヒト腫瘍サイズをより良好に低下させ、それゆえクロマチンへのMDM2の動員を呈するがんを処置することが可能となることを見出した。
【0312】
【配列表】
【国際調査報告】