(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-27
(54)【発明の名称】熱間圧延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240820BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20240820BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240820BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/00 302A
C22C38/58
C21D9/46 S
C21D9/46 Z
C21D8/02 A
C21D8/02 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513396
(86)(22)【出願日】2021-08-31
(85)【翻訳文提出日】2024-04-26
(86)【国際出願番号】 IB2021057945
(87)【国際公開番号】W WO2023031647
(87)【国際公開日】2023-03-09
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デ・クニフ,ドリアン
(72)【発明者】
【氏名】ワーテルスコート,トム
(72)【発明者】
【氏名】ローレンツ,ウルリーケ
(72)【発明者】
【氏名】デュプレ,ローデ
(72)【発明者】
【氏名】ブラッケ,リーベン
【テーマコード(参考)】
4K032
4K037
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA17
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA32
4K032AA35
4K032AA36
4K032BA01
4K032CA03
4K032CA05
4K032CC04
4K032CD02
4K032CD03
4K032CE01
4K032CE02
4K032CF01
4K032CF02
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA09
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA14
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA31
4K037EA32
4K037EB05
4K037EB07
4K037EB08
4K037EB09
4K037EB11
4K037EB12
4K037EC01
4K037EC02
4K037FA03
4K037FA05
4K037FC04
4K037FC07
4K037FD02
4K037FD03
4K037FD04
4K037FE01
4K037FE02
4K037FE03
4K037FF01
4K037FF02
(57)【要約】
以下の元素、0.02%≦炭素≦0.2%、3%≦マンガン≦9%、0.2%≦ケイ素≦1.2%、0.9%≦アルミニウム≦2.5%、0%≦リン≦0.03%、0%≦硫黄≦0.03%、0%≦窒素≦0.025%、0%≦モリブデン≦0.6%、0%≦チタン≦0.1%、0.0001%≦ホウ素≦0.01%、0%≦クロム≦0.5%、0%≦ニオブ≦0.1%、0%≦バナジウム≦0.15%、0%≦ニッケル≦1%、0%≦銅≦1%、0%≦カルシウム≦0.005%、0%≦マグネシウム≦0.0010%を含み、残部の組成が、鉄及び加工によって生じる不可避的不純物から構成される組成を有し、当該鋼板のミクロ組織が、面積分率で、少なくとも60%の焼戻しマルテンサイト、15%~40%の残留オーステナイト、0%~10%のポリゴナルフェライト、0%~5%のベイナイト、0~15%のフレッシュマルテンサイト及び0%~5%の、ニオブ、チタン、バナジウム又は鉄の炭化物を含む、熱間圧延鋼板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延鋼板であって、重量パーセントで表される以下の元素:
0.02%≦炭素≦0.2%
3%≦マンガン≦9%
0.2%≦ケイ素≦1.2%
0.9%≦アルミニウム≦2.5%
0%≦リン≦0.03%
0%≦硫黄≦0.03%
0%≦窒素≦0.025%
を含み、並びに以下の任意選択の元素のうちの1つ以上
0%≦モリブデン≦0.6%
0%≦チタン≦0.1%
0.0001%≦ホウ素≦0.01%
0%≦クロム≦0.5%
0%≦ニオブ≦0.1%
0%≦バナジウム≦0.15%
0%≦ニッケル≦1%
0%≦銅≦1%
0%≦カルシウム≦0.005%
0%≦マグネシウム≦0.0010%
を含有することができ、
残部の組成が、鉄及び加工によって生じる不可避的不純物から構成される組成を有し、当該鋼板のミクロ組織が、面積分率で、少なくとも60%の焼戻しマルテンサイト、15%~40%の残留オーステナイト、0%~10%のポリゴナルフェライト、0%~5%のベイナイト、0~15%のフレッシュマルテンサイト及び0%~5%の、ニオブ、チタン、バナジウム又は鉄の炭化物を含む、熱間圧延鋼板。
【請求項2】
組成が0.3%~1%のケイ素を含む、請求項1に記載の熱間圧延鋼板。
【請求項3】
組成が0.03%~0.18%の炭素を含む、請求項1又は2に記載の熱間圧延鋼板。
【請求項4】
組成が3.5%~8.5%のマンガンを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼板。
【請求項5】
組成が1%~2.3%のアルミニウムを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼板。
【請求項6】
マルテンサイトの量が70%~80%である、請求項1から5のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼板。
【請求項7】
残留オーステナイトの量が18%~35%である、請求項1から6のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼板。
【請求項8】
750MPa以上の引張強度及び15%以上の全伸びを有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼板。
【請求項9】
焼戻しマルテンサイトの形状比が4~12である、請求項1から8のいずれか一項に記載の熱間圧延鋼板。
【請求項10】
熱間圧延鋼板の製造方法であって、以下の連続するステップ、
-請求項1から5のいずれか一項に記載の鋼組成物を提供するステップ;
-前記半製品をAc3+50℃~1300℃の温度に再加熱するステップ;
-前記半製品を、熱間圧延仕上げ温度が少なくともAc3であるオーステナイト範囲で圧延して、熱間圧延鋼を得るステップ;
-熱間圧延鋼が、任意選択的に、20℃~800℃の巻取り温度範囲で巻取られるステップ、
-次いで、前記熱間圧延鋼を、熱間圧延仕上げ温度からMs~20℃の温度範囲まで、1℃/秒~50℃/秒の冷却速度で冷却するステップ;
-次いで、前記熱間圧延鋼を、Ms-~20℃の温度範囲からAc3~Ac3+150℃の温度TA1まで、少なくとも1℃/秒の加熱速度HR1で加熱して、5~6000秒間保持するステップ;
-次いで、前記熱間圧延鋼を、TA1から冷却を開始して、Ms-10℃~15℃の冷却停止温度T1まで、0.1℃/秒~150℃/秒の冷却速度CR1で冷却するステップ;
-次いで、前記熱間圧延鋼を、T1から550℃~Ac3の温度TA2まで少なくとも1℃/秒の加熱速度HR2で加熱し、5~6000秒間保持するステップ;
-次いで、前記熱間圧延鋼を、TA2から冷却を開始して、Ms-10℃~15℃の冷却停止温度T2まで、0.1℃/秒~150℃/秒の冷却速度CR2で冷却するステップ;
-その後、熱間圧延鋼を、0.1℃/秒~150℃/秒の冷却速度CR3で室温まで冷却して、熱間圧延鋼板を得るステップ、
を含む方法。
【請求項11】
TA2温度が600℃~Ac3-40℃である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
T1温度がMs-20℃~20℃である、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項13】
産業機械又は環境に優しい製品又は耐久消費財の部品の製造のための、請求項1から9のいずれか一項に記載の鋼板又は請求項10から12の方法に従って製造された鋼板の使用。
【請求項14】
請求項13に従って得られた部品を備える産業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造用鋼としての使用又は産業機械、耐久消費財、環境に優しい製品の製造及び極低温用途に適した熱間圧延鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費の向上及び環境への影響の低減を目的として、高強度鋼を適用して設備や構造物の軽量化を図ることが盛んに行われている。しかしながら、鋼の強度を高めると、一般に靱性が低下する。そのため、高強度鋼の開発においては、靱性を損なうことなく高強度化することが重要な課題である。
【0003】
材料の強度を高めることによって利用される材料の量を減らすために、懸命な研究開発の努力がなされている。逆に、鋼の強度を高めると靱性が低下するため、したがって高強度かつ良好な靱性を併せ持つ材料の開発が必要とされている。
【0004】
高強度かつ良好な靱性の鋼の分野における以前の研究及び開発は、高強度鋼を製造するためのいくつかの方法をもたらしており、そのうちのいくつかは、本発明の最終的な評価のために本明細書に列挙されている。
【0005】
欧州特許第2392681号明細書は、質量%で、0.02~0.08%のC、1.0%以下のSi、0.50~1.85%のMn、0.03%以下のP、0.005%以下のS、0.1%以下のAl、0.03~0.10%のNb、0.001~0.05%のTi、0.0005%以下のB、任意選択的に、0.010%以下のCa、0.02%以下のREM、0.003%以下のMg、0.5%以下のV、1.0%以下のMo、1.0%以下のCr、4.0%以下のNi、2.0%以下のCu、からなる群から選択される1種又は2種以上、その他の不可避的不純物及び残部Feを含む組成を有する厚肉高強度熱間圧延鋼板を開示している。この鋼板は、フェライト粒子中の固溶C含有量が10ppm以上であり、表層硬度がビッカース硬度で230HV以下であるベイナイト系フェライト相又はベイナイト相で形成される組織を有しているが、欧州特許第2392681号明細書の鋼は700MPa以上の引張強度に到達できない。
【0006】
欧州特許第2971211号明細書は、全組成物の約9~約20重量%の範囲のマンガン、全組成物の約0.5~約2.0重量%の範囲の炭素及び残部の鉄、並びに任意選択的に、全組成物の0.5~30重量%の範囲のクロム;全組成物の0.5~20重量%の範囲のニッケル若しくはコバルト;全組成物の0.2~15重量%の範囲のアルミニウム;全組成物の0.01~10重量%の範囲のモリブデン、ニオブ、銅、チタン若しくはバナジウム;全組成物の0.1~10重量%の範囲のケイ素;全組成物の0.001~3.0重量%の範囲の窒素;全組成物の0.001~0.1重量%の範囲のホウ素;又は全組成物の0.2~6重量%の範囲のジルコニウム若しくはハフニウムからなる組成を有する高マンガン鋼部品を製造する方法であって;組成物を少なくとも約1000℃に加熱する工程;組成物を約2℃/秒~約60℃/秒の速度で冷却する工程、続いて組成物を約700℃~約1000℃の範囲の温度で熱間圧延する工程;組成物をゆっくりと冷却するか、又は等温保持する工程;並びに組成物を700℃~約1000℃の範囲の温度から0℃~約500℃の範囲の温度まで、少なくとも約10℃/秒の速度で焼入れするか、加速冷却するか、又は空冷する工程を含む方法を開示している。しかし、欧州特許第2971211号明細書は、-40℃で測定した場合に60J/cm2以上の衝撃靱性に達することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第2392681号明細書
【特許文献2】欧州特許第2971211号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、以下を同時に有する熱間圧延鋼を利用可能にすることによって、これらの問題を解決することである:
-降伏強度650MPa以上、
-引張強度750MPa以上、好ましくは800MPa以上、
-全伸び15%以上、より好ましくは18%超の、
-衝撃靱性、-40℃で測定した場合に70J/cm2以上、より好ましくは-40℃で測定した場合に90J/cm2。
【課題を解決するための手段】
【0009】
好ましい実施形態では、本発明による鋼板はまた、0.5以上の降伏強度対引張強度比を示し得る。
【0010】
本発明の別の目的はまた、従来の工業過程に適合しながら、製造パラメータの変更に対して頑強である、これらの鋼の製造方法を利用可能にすることである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の熱間圧延鋼板は、その耐食性を改善するために、任意選択的に亜鉛又は亜鉛合金で被覆されてもよい。
【0012】
炭素は、鋼中に0.02%~0.2%存在する。炭素は、オーステナイトの室温での安定化を補助することによって鋼の強度を高めるために必要な元素である。しかし、0.02%未満の炭素含有量では、本発明の鋼に引張強度を付与することができない。一方、0.2%を超える炭素含有量では、鋼は不十分な溶接性を示し、それは衝撃靱性に有害であり、耐久消費財又は環境に優しい製品の構造部品への適用を制限する。本発明の好ましい含有量は、0.03%~0.18%、より好ましくは0.04%~0.15%に維持されればよい。
【0013】
本発明の鋼のマンガン含有量は3%~9%である。
【0014】
この元素はガンマ生成であり、したがって、残留オーステナイト分率を制御すること、並びに残留オーステナイトをマンガンで富化して、鋼に焼入れ性及び衝撃靱性を付与することにおいて重要な役割を果たす。鋼に強度及び靱性を与えるために、マンガンの量が少なくとも3重量%であることが見出されている。しかし、マンガン含有量が9%を超えると、オーステナイトを過度に安定化し、本発明の鋼がTRIP効果を欠くなどの悪影響が生じる。さらに、9%を超えるマンガン含有量は、過剰な中心偏析をもたらし、したがって成形性を低下させ、本鋼の溶接性も低下させる。本発明の好ましい含有量は、3.5%~8.5%、より好ましくは4%~8%に維持されればよい。
【0015】
本発明の鋼のケイ素含有量は0.2%~1.2%である。ケイ素は、本発明の鋼の固溶体強化剤である。さらに、ケイ素は、セメンタイトの析出を遅らせ、セメンタイトの形成も制限するが、多くの場合、セメンタイトの形成を完全に排除することはできない。SiはCをオーステナイトの固溶体中に保つので、Ms温度は室温未満に低下する。したがって、Siは室温において残留オーステナイトの形成を助ける。しかしながら、Siの含有量が1.2%を超えると、本発明の鋼に悪影響を及ぼす表面欠陥などの問題が生じる。したがって、1.2%を上限として濃度を制御する。本発明の好ましい含有量は、0.3%~1%、より好ましくは0.4%~0.8%に維持されればよい。
【0016】
アルミニウムは必須元素であり、鋼中に0.9%~2.5%存在する。アルミニウムはアルファ生成元素であり、変態区間(inter-critical)温度範囲を増加させ、それによって本発明の鋼に強度及び靱性を提供するためには、最低0.9%のアルミニウムが必要である。アルミニウムはまた、本発明の鋼を清浄化するために鋼の溶融状態から酸素を除去するために使用され、また酸素が気相を形成するのを防止する。しかし、アルミニウムが2.5%を超える場合はいつでも、ブレークアウトなどのスラブ上の表面欠陥のために鋳造を行うことが困難である。したがって、アルミニウムの存在の好ましい範囲は、1%~2.3%であり、より好ましくは1%~2%である。
【0017】
本発明の鋼のリン含有量は0%~0.03%である。リンは、特に結晶粒界に偏析する、又はマンガンと共偏析する傾向があるため、熱間延性及び靱性を低下させる。これらの理由から、その含有量は0.02%に制限され、好ましくは0.015%未満である。
【0018】
硫黄は必須元素ではないが、不純物として鋼中に含まれていてもよく、本発明の観点から、硫黄の含有量は可能な限り少ないことが好ましいが、製造コストの観点から0.03%以下である。さらに、より高い硫黄が鋼中に存在する場合、特に本発明の鋼に有害なマンガンと結合して硫化物を形成するため、0.01%未満が好ましい。
【0019】
材料の経年劣化を回避し、鋼の機械的特性に有害な凝固中の窒化物の析出を最小限に抑えるために、窒素は0.025%に制限される。したがって、窒素の好ましい上限は0.02%であり、より好ましくは0.005%である。
【0020】
モリブデンは、本発明の鋼の0%~0.6%を構成する任意選択の元素である。モリブデンは焼入れ性を高め、それにより、本発明の鋼がより厚いゲージに対して目標とする特性を達成することを可能にし、チタン及びホウ素と組み合わせて使用すると、本発明の鋼の靱性を改善する。焼入れ性を高めるのに有益であるためには、最低0.1%のモリブデンが必要である。しかしながら、モリブデンの添加は合金元素の添加コストを過度に増加させるので、経済的理由からその含有量は0.6%に制限される。モリブデンの好ましい限度は0%~0.4%であり、より好ましくは0%~0.3%である。
【0021】
チタンは任意選択の元素であり、本発明の鋼の0%~0.1%で存在する。チタンは、炭化物を形成し、第1の焼鈍し中に粒径を制御することにより、本発明の鋼に強度を付与する。しかし、チタンが0.1%を超えて存在するときはいつでも、チタンは本発明の鋼に過剰な強度及び硬度を付与し、目標限界を超えて靱性を低下させる。チタンの好ましい限界は0%~0.09%であり、より好ましい限界は0%~0.08%である。
【0022】
ホウ素は本発明の鋼に対して任意選択の元素であり、0.0001%~0.01%で存在し得る。ホウ素は、チタン及びモリブデンと共に添加されると、本発明の鋼に靱性を付与する。
【0023】
クロムは、本発明の任意選択の元素である。本発明の鋼中に存在し得るクロム含有量は0%~0.5%である。クロムは鋼に焼入れ性を与える元素であるが、0.5%を超えるクロムの含有量はマンガンとの中心共偏析をもたらす。
【0024】
ニオブは、本発明の任意選択の元素である。ニオブ含有量は、0%~0.1%で本発明の鋼中に存在してもよく、炭化物又は炭窒化物を形成して、析出強化によって本発明の鋼に強度を付与するために本発明の鋼中に添加される。ニオブはまた、第1の焼鈍し中に粒径を制御する。好ましい限界は0%~0.05%である。
【0025】
バナジウムは、本発明の鋼の0%~0.15%で存在し得る任意選択の元素である。バナジウムは、炭化物、窒化物又は炭窒化物を形成することによって鋼の強度を高めるのに有効であり、経済的理由により上限は0.15%であり、バナジウムが0.15%を超えて存在しても、本発明の鋼には大きな利益をもたらさない。
【0026】
ニッケルは、本発明の鋼の強度を高め、靱性を向上させるために、任意選択の元素として0%~1%の量で添加されてもよい。このような効果を得るためには、最低0.01%が好ましい。しかしながら、ニッケルの含有量は、経済的実行可能性のために1%に制限される。
【0027】
本発明の鋼の強度を高め、耐食性を向上させるために、任意選択の元素として銅を0%~1%添加してもよい。このような効果を得るためには、最低0.01%が好ましい。しかし、その含有量が1%を超えると、熱間圧延工程中の銅赤熱脆性などの問題を引き起こす可能性がある。
【0028】
本発明の鋼中のカルシウム含有量は0.005%未満である。本発明の鋼には、特に介在物(inclusion)処理の際に、任意選択元素としてカルシウムを0.0001~0.005%の好ましい量で添加し、それによって、硫黄の有害な影響を抑制する。
【0029】
マグネシウムなどの他の元素は、以下の重量比、マグネシウム≦0.0010%で添加することができる。示された最大含有量レベルまで、これらの元素は、凝固中に結晶粒を微細化することを可能にする。
【0030】
鋼の組成の残部は、鉄及び加工から生じる必然的不純物からなる。
【0031】
鋼のミクロ組織は、全ミクロ組織の面積分率でいくつかの構成要素を含む。
【0032】
焼戻しマルテンサイトは、本発明の鋼中に少なくとも60%の割合で存在し、焼戻しマルテンサイトは、本発明の鋼のマトリックス相である。本発明の鋼の焼戻しマルテンサイトは、好ましくは4~12、より好ましくは5~11のアスペクト比を有する。アスペクト比は、単一粒子内の最長寸法と最短寸法との比である。焼戻しマルテンサイトは、第1の焼鈍し後の冷却中に形成されるマルテンサイトから形成される。次いで、このようなマルテンサイトは、焼鈍し工程中に焼戻しされる。本発明の鋼の焼戻しマルテンサイトは、延性及び強度を付与する。焼戻しマルテンサイトの含有量は、全ミクロ組織の面積分率で65%~84%、より好ましくは70%~80%であることが好ましい。
【0033】
フレッシュマルテンサイトもまた、本発明の鋼中に任意選択的に存在することができる。フレッシュマルテンサイトは、残った不安定な残留オーステナイトから焼鈍し後の冷却中に形成され得る。フレッシュマルテンサイトは0%~15%、好ましくは0~10%で存在することができるが、フレッシュマルテンサイトが存在しないことがさらに良好である。
【0034】
残留オーステナイトは、本発明の鋼の必須のミクロ組織成分であり、15%~40%存在する。本発明の残留オーステナイトは、本発明の鋼に靱性を付与する。本発明の残留オーステナイトは、マンガン及び炭素の富化によって室温で安定化することができる。残留オーステナイト内の炭素のパーセンテージは、好ましくは0.8重量%より高く、1.1重量%より低い。残留オーステナイト中のマンガンの割合は、好ましくは5重量%超、より好ましくは5.5重量%超であることが有利である。オーステナイトの存在の好ましい限界は、18%~35%、より好ましくは18%~30%であり、オーステナイト中の好ましい炭素含有限界は、0.9重量%~1.1重量%、より好ましくは0.95重量%~1.05重量%である。
【0035】
ポリゴナルフェライトは、本発明の鋼の面積分率でミクロ組織の0%~10%を構成する。本発明において、ポリゴナルフェライトは、本発明の鋼に高い強度及び伸びを付与する。ポリゴナルフェライトは、本発明の鋼における焼鈍し後の均熱及び冷却中に形成され得る。しかし、本発明の鋼中にポリゴナルフェライト含有量が10%を超えて存在するときはいつでも、強度は達成されない。
【0036】
ベイナイトは、本発明の鋼中に0%~5%で存在し得る。5%まで、ベイナイトは、本発明の鋼の目標特性に影響を及ぼさない。
【0037】
上述のミクロ組織に加えて、熱間圧延鋼のミクロ組織が、パーライト及びセメンタイトなどのミクロ組織成分を含むことはない。合金元素、例えば、ニオブ、チタン、バナジウム及び鉄の炭化物は、0%~5%の累計量で本発明の鋼中に存在し得る。これらの炭化物は、析出強化によって本発明の鋼の強度を高めることができるが、炭化物の存在が5%以上であるときはいつでも、それらの析出は部分的に炭素量を消費し、これは残留オーステナイトの安定化に有害であり、存在する鋼は十分な靱性を有さない可能性がある。
【0038】
本発明による熱間圧延鋼は、任意の適切な方法によって製造することができる。好ましい方法は、本発明による化学組成を有する鋼の半完成鋳造物を提供することからなる。鋳造は、インゴットにするか、又は厚いスラブ、薄いスラブ若しくは薄いストリップの形態で連続的に、すなわちスラブの場合の約220mm~350mmから、薄いストリップの場合の数十ミリメートルまで下がった範囲の厚さで行うことができる。
【0039】
例えば、上記化学組成を有するスラブは、連続鋳造により製造される。連続鋳造工程によって提供されるスラブは、連続鋳造後に高温で直接使用することができ、又は最初に室温まで冷却し、次いで熱間圧延のために再加熱することができる。
【0040】
スラブは、Ac3+50℃~1300℃の温度に再加熱される。スラブの温度が少なくともAc3+50℃未満である場合、過剰な負荷が圧延機に課される。したがって、スラブの温度は、オーステナイト域で熱間圧延を完全に完了することができるように十分に高い。1300℃を超える温度での再加熱は、生産性の損失を引き起こし、また工業的に高価であり、一部の偏析部分が溶融し、スラブの破損又はスラブの割れにつながる可能性があるため、回避しなければならない。したがって、好ましい再加熱温度は、Ac3+100℃~1280℃である。
【0041】
本発明の熱間圧延仕上げ温度は、少なくともAc3であり、好ましくはAc3~Ac3+100℃、より好ましくは840℃~1000℃、さらにより好ましくは850℃~990℃である。
【0042】
次いで、熱間圧延鋼は、熱間圧延仕上げ温度からMs~20℃の温度範囲まで1℃/秒~50℃/秒の冷却速度で冷却されて、熱間圧延鋼ストリップが得られる。好ましい実施形態では、この冷却ステップの冷却速度は、1℃/秒~45℃/秒、より好ましくは25℃/秒~40℃/秒である。
【0043】
熱間圧延ストリップは、任意選択的に巻取られてもよく、巻取り温度は20℃~800℃の間である。熱間圧延鋼は、Ms~20℃の温度範囲から、第1の焼鈍し温度TA1であるAc3~Ac3+150℃、好ましくはAc3~Ac3+120℃、より好ましくはAc3~Ac3+100℃まで加熱され、このような加熱は少なくとも1℃/秒の加熱速度HR1で行われる。熱間圧延鋼ストリップをTA1で5秒間~6000秒間保持して、100%オーステナイトへの変態を確実にする。
【0044】
次に、熱間圧延鋼は、TA1から冷却を開始して、0.1℃/秒~150℃/秒の冷却速度CR1でMs-10℃~15℃の範囲の冷却停止温度T1まで冷却される。好ましい実施形態では、このような冷却のための冷却速度CR1は、0.1℃/秒~120℃/秒である。好ましいT1温度は、Ms-50℃~20℃である。均熱後の冷却のための冷却速度は、オーステナイトのマルテンサイトへの変態を得るために十分に高くなければならない。第1の焼鈍し後の冷却速度は、T1で熱間圧延ストリップ中に少なくとも80%のマルテンサイトを確保するように選択される。
【0045】
熱間圧延鋼は、温度T1から、第2の焼鈍し温度TA2である550℃~Ac3、好ましくは600℃~Ac3-40℃まで加熱され、そのような加熱は、少なくとも1℃/秒の加熱速度HR2で行われる。
【0046】
熱間圧延鋼をTA2で5秒間~6000秒間保持して、ミクロ組織の変態を確実にして、10%~25%のオーステナイトを形成する。
【0047】
次に、熱間圧延鋼は、TA2から冷却を開始して、0.1℃/秒~150℃/秒の冷却速度CR2でMs-10℃~15℃の範囲内の冷却停止温度T2まで冷却される。好ましい実施形態では、このような冷却のための冷却速度CR2は、0.1℃/秒~120℃/秒である。好ましいT2温度は、Ms-20℃~20℃である。均熱後の冷却速度は、焼鈍し後の冷却中に残留オーステナイトを安定化するのに十分な量の炭素が利用できるように、オーステナイトのベイナイトへの変態を回避するために十分に高くなければならない。この冷却中、フレッシュマルテンサイトは、いくつかの残留不安定オーステナイトから形成され得る。
【0048】
その後、熱間圧延鋼を0.1℃/秒~150℃/秒の冷却速度CR3で室温まで冷却し、熱間圧延鋼板を得る。このようにして得られた熱間圧延鋼板は、好ましくは2mm~100mm、より好ましくは2mm~80mm、さらにより好ましくは2mm~50mmの厚さを有する。
【実施例】
【0049】
本明細書に提示される以下の試験、実施例、図的例示及び表は、本質的に非限定的であり、例示のみを目的として考慮されなければならず、本発明の有利な特徴を示すものである。
【0050】
異なる組成の鋼で作られた鋼板を表1にまとめ、これらの鋼板は、それぞれ表2に規定された工程パラメータに従って製造される。その後、表3は試験中に得られた鋼板のミクロ組織をまとめ、表4は得られた特性の評価結果をまとめている。Ac3及びMs温度は、Thermo-Calc(R)などのソフトウェアを使用して行われる熱力学的計算によって決定される。
【0051】
【0052】
【0053】
表3
表3は、本発明の鋼及び参照試験の両方のミクロ組織組成を決定するために、SEM、EPMA、EBSD、XRD、又は任意の他の顕微鏡などの異なる顕微鏡で規格に従って行われた試験の結果をまとめたものである。炭化物の面積分率は、2% Nitalエッチング溶液中で10秒間エッチングした後の研磨試料について測定し、SEMによって観察する。ポリゴナルフェライト及び焼戻しマルテンサイトはEBSDを使用して測定し、この電子後方散乱回折(EBSD)は、サブミクロン分解能で結晶方位を測定するためのSEMベースの技術である。電子ビームを、走査型電子顕微鏡(SEM)において70°傾斜させた試料に集束させる。一群の平面についてブラッグ条件を満たす電子は、チャネル化され、菊池バンドを誘導する。電子は蛍光体スクリーンに当たり、光を生成し、これはカメラによって検出されデジタル化される。結果として得られるEBSパターンが解析され、インデックス化される。この工程は、解析された各点について実現される。所与の鋼試料について、1000倍の倍率に対応する少なくとも4つの画像のEBSD解析により、ポリゴナルフェライト及び焼戻しマルテンサイト微細成分、それらの位置及び面積百分率を特定することができる。残留オーステナイト面積分率は、表3に示すXRDを使用して測定される。
【0054】
結果は、面積分率で本明細書に明記される。
【0055】
【0056】
I4試料は1%の炭化ニオブを含み、R1試料は2%の炭化鉄を含む。試料は、いかなるフレッシュマルテンサイト又はベイナイト成分も含有していなかった。
【0057】
表4
表4は、本発明の鋼及び参照鋼の両方の機械的特性を例示する。引張強度、降伏強度及び全伸びを決定するために、NBN EN ISO 6892-1規格に従って、引張試料タイプA25を用いて引張試験を行う。靱性は、ISO 148-1に従って行われるシャルピー試験によって試験される。本発明の鋼及び参照鋼に対して行われる全ての測定は、長手方向(LD)に取られた鋼板に対して行われる。規格に従って行われた様々な機械的試験の結果をまとめている。
【0058】
【表4】
I=本発明による;R=参照;下線付き値:本発明によらない。
【国際調査報告】