(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-27
(54)【発明の名称】治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240820BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240820BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240820BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240820BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240820BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20240820BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20240820BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20240820BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240820BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240820BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240820BHJP
A61P 5/14 20060101ALI20240820BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20240820BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240820BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240820BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20240820BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240820BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240820BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240820BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240820BHJP
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A61P 11/00 20060101ALI20240820BHJP
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A61P 3/04 20060101ALI20240820BHJP
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A61P 7/02 20060101ALI20240820BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240820BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240820BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20240820BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20240820BHJP
C07K 16/46 20060101ALN20240820BHJP
C12N 5/0787 20100101ALN20240820BHJP
C12Q 1/02 20060101ALN20240820BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240820BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P29/00
A61P43/00 105
A61P9/10
A61P9/00
A61P1/02
A61P17/04
A61P17/06
A61P25/00
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A61P5/14
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A61P19/06
A61P3/00
A61P3/04
A61P31/10
A61P7/02
A61P25/28
A61P31/14
A61P31/16
A61K39/395 D
C07K16/18 ZNA
C07K16/46
C12N5/0787
C12Q1/02
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513439
(86)(22)【出願日】2022-08-30
(85)【翻訳文提出日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 US2022075639
(87)【国際公開番号】W WO2023034778
(87)【国際公開日】2023-03-09
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520018277
【氏名又は名称】ニュークリアス・セラピューティクス・ピーティーワイ・リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】511042706
【氏名又は名称】イェール・ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス・エー・キャンベル
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレンティーナ・ドゥブリェヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・イー・ハンセン
(72)【発明者】
【氏名】シャオヨン・チェン
(72)【発明者】
【氏名】ベネデット・ジェー・カファリ
(72)【発明者】
【氏名】アヌパマ・シラリ
(72)【発明者】
【氏名】ジアンビン・ジョウ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA05
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4C085EE01
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
(57)【要約】
本開示は、特に、炎症性疾患及びそれに起因する合併症の状況における細胞透過性抗DNA結合タンパク質の治療的及び予防的適用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における炎症性疾患を治療する方法であって、前記方法が、前記対象に、有効量の細胞透過性抗DNA結合タンパク質を投与することを含み、前記細胞透過性抗DNA結合タンパク質が、培養条件下で好中球細胞外トラップ(NET)形成を阻害する、前記方法。
【請求項2】
対象における好中球細胞外トラップ(NET)形成を阻害する方法であって、前記方法が、前記対象に、有効量の細胞透過性抗DNA結合タンパク質を投与することを含み、前記細胞透過性抗DNA結合タンパク質が、培養条件下でNET形成を阻害する、前記方法。
【請求項3】
前記対象が、炎症性疾患を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞透過性抗DNA結合タンパク質が、自己免疫疾患を有する対象又は動物に由来する自己抗体であり、好ましくは、前記自己抗体が、全身性エリテマトーデスを有する対象又はその動物モデルに由来する、請求項1-3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記自己抗体が、3E10又はそのヒト化形態である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記結合タンパク質が、配列番号1に示されるCDR1、配列番号2に示されるCDR2、配列番号3に示されるCDR3を有するV
H、並びに配列番号4に示されるCDR1、配列番号5に示されるCDR2、及び配列番号6に示されるCDR3を有するV
L、又はそれらのヒト化形態を含む、請求項1-4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記結合タンパク質が、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含むV
H及び配列番号8に示されるV
L、又はそれらのヒト化形態を含む、請求項1-6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒト化形態が、配列番号9若しくは配列番号10に示されるCDR1、配列番号11若しくは配列番号12に示されるCDR2、配列番号13に示されるCDR3を有するV
H、並びに配列番号14若しくは配列番号15に示されるCDR1、配列番号16に示されるCDR2、及び配列番号17に示されるCDR3を有するV
L、又はDNAへの結合に対して、配列番号9若しくは配列番号10に示されるCDR1、配列番号11若しくは配列番号12に示されるCDR2、配列番号13に示されるCDR3を有するV
H、並びに配列番号14若しくは配列番号15に示されるCDR1、配列番号16に示されるCDR2、及び配列番号17に示されるCDR3を有するV
Lを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記ヒト化形態が、配列番号18~21のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むV
H、及び配列番号22~25のうちのいずれか1つに示されるV
L、又はDNAへの結合に対して、配列番号18~21のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号22~25のうちのいずれか1つに示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む、請求項6-8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記結合タンパク質が、核透過性である、請求項1-9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記結合タンパク質が、好中球又は好中球様細胞の核からのDNAの放出を阻害する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記結合タンパク質が、di-scFvである、請求項1-11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記結合タンパク質が、配列番号17、配列番号26、又は配列番号27のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むリンカーを含む、請求項1-12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記結合タンパク質が、無傷の抗体である、請求項1-11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記炎症性疾患が、嚢胞性線維症、虚血、心血管疾患、歯周炎、線維症、掻痒症、皮膚の炎症、乾癬、多発性硬化症、関節リウマチ、変形性関節症、全身性エリテマトーデス、橋本甲状腺炎、重症筋無力症、I型又はII型糖尿病、糖尿病性腎症、喘息、炎症性肝損傷、炎症性糸球体損傷、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触性皮膚炎、刺激性接触性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、シェーグレン症候群、角結膜炎、ブドウ膜炎、血管炎、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、急性又は慢性の特発性炎症性関節炎、筋炎、脱髄性疾患、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、間質性腎炎、慢性活動性肝炎、痛風、代謝性疾患、肥満に関連する炎症、敗血症性関節炎、無菌性関節炎、播種性血管内凝固(DIC)、アルツハイマー病からなる群から選択される、請求項1、2、又は3-14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記炎症性疾患が、肺炎、好中球性喘息、好中球媒介性アナフィラキシー、炎症性肺損傷、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、又はコロナウイルス疾患19(COVID-19)からなる群から選択される、請求項1、2、又は3-14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記炎症性疾患が、血管炎、好ましくは、ANCA関連血管炎である、請求項1、2、又は3-14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記炎症性疾患が、急性呼吸窮迫症候群である、請求項1、2、又は3-14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記対象が、血栓症若しくは塞栓症を有するか、又は血栓症若しくは塞栓症を発症するリスクがある、請求項1、2、又は3-14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記血栓症が、静脈又は動脈血栓症である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記塞栓症が、肺塞栓症である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記炎症性疾患が、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)である、請求項1、2、又は3-14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記炎症性疾患が、ライノウイルス、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、又はコロナウイルスなどのウイルス感染によって引き起こされ、好ましくは、前記ウイルス感染が、コロナウイルスによって引き起こされる、請求項1、2、又は3-14、又は22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記コロナウイルスが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、又は重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
培養条件が、炎症性刺激物質を含む培養培地中で好中球様PLB-985細胞又は好中球を培養することを含む、請求項1-24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記炎症性刺激物質が、NOX依存性NETosisを引き起こす、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記炎症性刺激物質が、ホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)又はリポ多糖(LPS)である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記炎症性刺激物質が、NOX非依存性NETosisを引き起こす、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記炎症性刺激物質が、カルシウムイオノフォアイオノマイシン(IM)である、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
培養条件下でのNET形成の前記阻害が、
1)NETにおける細胞死及び細胞外DNAのレベル、及び/又は
2)前記炎症性刺激物質を伴う培養後の好中球様細胞からのDNA放出の低減のうちの1つ又は両方に基づいて決定される、請求項25-29のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、特に、炎症性疾患及びそれに起因する合併症の状況における細胞透過性抗DNA結合タンパク質の治療的及び予防的適用に関する。
【背景技術】
【0002】
活性化された好中球は、免疫応答並びに炎症性疾患及び自己免疫疾患の病態生理学に寄与する好中球細胞外トラップ(NET)を形成する。ヒストンのクロマチン脱凝縮及びシトルリン化は、NETosisにおいて重要な事象であり、DNA損傷応答は、このプロセスに寄与する。NETは、自然免疫を促進し、急性呼吸窮迫症候群及びCOVID-19などの炎症性疾患、血栓性疾患、自己免疫、嚢胞性線維症、並びに潜在的な悪性腫瘍を含む複数の疾患プロセスに寄与する。NETが媒介する病態生理学の機序は、上皮細胞及び内皮細胞に対する損傷作用から、DNA及び自己抗原放出を介した炎症及び自己免疫応答の促進までの範囲にわたる。NET形成を調節する方法は臨床的に興味深いことであり、NET-DNAの溶解を促進するか、又はNET形成を防止するためのDNaseI又はヒストンシトルリン化の阻害剤の全身投与が報告されている。NETがどのように形成されるかの理解の進歩にもかかわらず、NETosisを標的とする効果的な治療介入はまだ出現していない。
【0003】
したがって、NETosisを阻害し、関連する病理を治療するための新しい組成物及び方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
自己抗体などの核透過性抗DNA結合タンパク質及びDX1などのその誘導体が、NOX依存性及び非依存性DNA放出及びNET形成の両方を阻害することが発見された。自己抗体が、ヒストンH3のシトルリン化を妨げない一方、細胞内でその保持を引き起こすことも特定された。これらの知見は、NETosisを抑制し、したがって、炎症性疾患の発症を治療及び/又は阻害するための戦略において核透過性抗DNA結合タンパク質が好中球生物学の調節因子として使用できるというコンセプトを確立するものである。
【0005】
したがって、一例では、本開示は、対象における炎症性疾患を治療する方法であって、方法が、対象に、有効量の細胞透過性抗DNA結合タンパク質を投与することを含み、細胞透過性抗DNA結合タンパク質が、培養条件下で好中球細胞外トラップ(NET)形成を阻害する、方法を包含する。
【0006】
予防的適用もまた企図される。したがって、別の例では、本開示は、対象における好中球細胞外トラップ(NET)形成を阻害する方法であって、方法が、対象に、有効量の細胞透過性抗DNA結合タンパク質を投与することを含み、細胞透過性抗DNA結合タンパク質が、培養条件下でNET形成を阻害する、方法を包含する。一例では、細胞透過性抗DNA結合タンパク質は、NOX依存性NET形成を阻害する。一例では、細胞透過性抗DNA結合タンパク質は、NOX非依存性NET形成を阻害する。別の例では、細胞透過性抗DNA結合タンパク質は、NOX依存性及びNOX非依存性NET形成の両方を阻害する。別の例では、細胞透過性抗DNA結合タンパク質は、ヒストンのシトルリン化に影響を及ぼさない。
【0007】
一例では、本開示の方法は、炎症性疾患を有する対象に対して実施される。
【0008】
一例では、投与される細胞透過性抗DNA結合タンパク質は、自己免疫疾患を有する対象又は動物に由来する自己抗体であり、好ましくは、自己抗体が、全身性エリテマトーデスを有する対象又はその動物モデルに由来する。一例では、自己抗体は、3E10又はそのヒト化形態である。
【0009】
別の例では、結合タンパク質は、配列番号1に示されるCDR1、配列番号2に示されるCDR2、配列番号3に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号4に示されるCDR1、配列番号5に示されるCDR2、及び配列番号6に示されるCDR3を有するVL、又はそれらのヒト化形態を含む。別の例では、結合タンパク質は、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含むVH及び配列番号8に示されるVL、又はそれらのヒト化形態を含む。一例では、それらのヒト化形態は、配列番号9若しくは配列番号10に示されるCDR1、配列番号11若しくは配列番号12に示されるCDR2、配列番号13に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号14若しくは配列番号15に示されるCDR1、配列番号16に示されるCDR2、及び配列番号17に示されるCDR3を有するVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号9若しくは配列番号10に示されるCDR1、配列番号11若しくは配列番号12に示されるCDR2、配列番号13に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号14若しくは配列番号15に示されるCDR1、配列番号16に示されるCDR2、及び配列番号17に示されるCDR3を有するVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む。別の例では、ヒト化形態は、配列番号18~21のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号22~25のうちのいずれか1つに示されるVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号18~21のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号22~25のうちのいずれか1つに示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む。
【0010】
一例では、結合タンパク質は、
(i)単鎖Fv断片(scFv)、
(ii)二量体scFv(di-scFv)、
(iii)三量体scFv(tri-scFv)、
(iv)抗体の定常領域、Fc、又は重鎖定常ドメインCH2及び/又はCH3に連結された(i)、(ii)、又は(iii)のうちのいずれか1つ、
(v)ダイアボディ、
(vi)トリアボディ、
(vii)テトラボディ、
(viii)Fab、
(ix)F(ab’)2、
(x)Fv、
(xi)抗体の定常領域、Fc、又は重鎖定常ドメインCH2及び/又はCH3に連結された(v)~(x)のうちのいずれか1つ、あるいは、
(viii)無傷の抗体である。
【0011】
別の例では、結合タンパク質は、核透過性である。一例では、核透過性結合タンパク質は、細胞核からのDNAの放出を阻害する。例えば、結合タンパク質は、好中球及び/又は好中球様細胞の核からのDNAの放出を阻害し得る。
【0012】
別の例では、結合タンパク質は、di-scFvである。一例では、di-scFvのVH及びVLは、配列番号17に示される配列を含むリンカーによって分離されている。別の例では、複数のscFvは、リンカーによって分離されている。この例では、リンカーは、配列番号26又は27に示される配列を含み得る。したがって、本開示の結合分子は、配列番号17、配列番号26、又は配列番号27のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むリンカーを含み得る。
【0013】
一例では、結合タンパク質は、無傷の抗体である。
【0014】
一例では、炎症性疾患は、嚢胞性線維症、虚血、心血管疾患、歯周炎、線維症、掻痒症、皮膚の炎症、乾癬、多発性硬化症、関節リウマチ、変形性関節症、全身性エリテマトーデス、橋本甲状腺炎、重症筋無力症、I型又はII型糖尿病、糖尿病性腎症、喘息、炎症性肝損傷、炎症性糸球体損傷、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触性皮膚炎、刺激性接触性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、シェーグレン症候群、角結膜炎、ブドウ膜炎、血管炎、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、急性又は慢性の特発性炎症性関節炎、筋炎、脱髄性疾患、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、間質性腎炎、慢性活動性肝炎、痛風、代謝性疾患、肥満に関連する炎症、敗血症性関節炎、無菌性関節炎、播種性血管内凝固(DIC)、アルツハイマー病からなる群から選択される。
【0015】
別の例では、炎症性疾患は、肺炎、好中球性喘息、好中球媒介性アナフィラキシー、炎症性肺損傷、慢性閉塞性肺疾患(COPD)からなる群から選択される。
【0016】
一例では、対象は、炎症性疾患に続発する敗血症を有する。一例では、対象の炎症は、細菌感染によって引き起こされる。一例では、炎症性障害は、細菌性髄膜炎である。
【0017】
別の例では、炎症性疾患は、関節炎である。一例では、関節炎は、関節リウマチである。一例では、関節炎は、敗血症性関節炎である。
【0018】
一例では、対象は、血栓症若しくは塞栓症を有するか、又は血栓症若しくは塞栓症を発症するリスクがある。別の例では、血栓症は、静脈又は動脈血栓症である。別の例では、塞栓症は、肺塞栓症である。
【0019】
別の例では、炎症性疾患は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)である。別の例では、炎症性疾患は、ライノウイルス、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、又はコロナウイルスなどのウイルス感染によって引き起こされる。一例では、ウイルス感染は、コロナウイルスによって引き起こされる。一例では、コロナウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、又は重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)である。特定の例において、炎症性疾患は、コロナウイルス疾患19(COVID-19)である。
【0020】
一例では、炎症性疾患は、血管炎である。例えば、血管炎は、ANCA関連血管炎であり得る。
【0021】
一例では、本開示の培養条件は、炎症性刺激物質を含む培養培地中で好中球様PLB-985細胞又は好中球を培養することを含む。一例では、炎症性刺激物質は、NOX依存性NETosisを活性化するか(ホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)又はリポ多糖(LPS)など)、又はNOX非依存性NETosisを活性化する(カルシウムイオノフォアイオノマイシン(IM)など)。したがって、一例では、炎症性刺激物質は、PMA又はLPSであり得る。別の例では、炎症性刺激物質は、IMであり得る。
【0022】
一例では、培養条件下でのNET形成の阻害は、以下のうちの1つ又は両方に基づいて決定される:
1)NETにおける細胞死及び細胞外DNAのレベル、及び/又は、
2)炎症性刺激物質を伴う培養後の好中球様細胞又は好中球からのDNA又はNET放出の低減。
【0023】
別の例では、本開示は、対象における炎症性疾患を治療する方法であって、方法が、対象に、有効量の細胞透過性抗DNA結合タンパク質を投与することを含み、細胞透過性抗DNA結合タンパク質が、好中球細胞外トラップ(NET)形成を阻害する、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】DX1は、PLB-985細胞を透過する。対照又は5μMのDX1で1時間処理された細胞を洗浄し、固定し、免疫染色してDX1を検出した。細胞へのDX1による浸透を実証する代表的な画像を示す。暗色染色は、シグナルのアルカリホスファターゼに基づく検出を表す。バー:25μm。
【
図2A】DAPI及びSYTOX(商標)Green染色は、DX1が、PMAで刺激された分化PLB-985細胞によるクロマチンの脱凝縮及びDNAの放出を阻害するという結論を支持する。PMA±10μMのDX1での1時間前処理での刺激後の分化PLB-985細胞におけるクロマチン脱凝縮を、DAPI染色によって可視化した。左側のパネル:PMA刺激後に脱凝縮したDAPI染色を有する対照細胞。右側のパネル:PMA刺激後に凝縮したDAPIシグナルを保持するDX1処理された細胞。バー:25μm。
【
図2B】DAPI及びSYTOX(商標)Green染色は、DX1が、PMAで刺激された分化PLB-985細胞によるクロマチンの脱凝縮及びDNAの放出を阻害するという結論を支持する。PMA刺激後の脱凝縮したDAPI染色を有する分化PLB-985細胞のパーセンテージの定量。PMAで処理された対照細胞は、DX1で前処理された細胞の37.8±3.8%と比較して、PMAでの刺激後、細胞の67.5±2.3%において、脱凝縮したDAPI染色を示した(N=2)。
【
図2C】DAPI及びSYTOX(商標)Green染色は、DX1が、PMAで刺激された分化PLB-985細胞によるクロマチンの脱凝縮及びDNAの放出を阻害するという結論を支持する。PMA±10μMのDX1での1時間前処理での刺激後の分化PLB-985細胞によるDNA放出を、非透過性DNA染色SYTOX(商標)Greenの添加によって可視化した。代表的な画像が示される。バー:25μm。
【
図2D】DAPI及びSYTOX(商標)Green染色は、DX1が、PMAで刺激された分化PLB-985細胞によるクロマチンの脱凝縮及びDNAの放出を阻害するという結論を支持する。PMA±10μMのDX1での1時間前処理で刺激された分化PLB-985細胞を含有するウェル中のSYTOX(商標)Greenシグナルをプレートリーダーによって定量した。DX1での前処理は、SYTOX(商標)Greenシグナルを、対照に対して0.40±0.01に低減させ(
****P<0.0001、N=3)、DX1に媒介されるDNA放出の阻害と一致する。
【
図3】(A及びB)分化PLB-985は、予想どおり、PMA及びPAD4阻害剤に応答する。(A)分化PLB-985細胞は、予想されるNETosis応答と一致して、PMAによって刺激された場合、DNAを放出する。未分化及び好中球様PLB-985細胞の対照又はPMAでの処理後のウェルに付着するDNAの濃度を分光光度法によって決定した。分化したが未分化ではないPLB-985細胞は、PMAでの刺激後に有意に多くの量の放出された/接着したDNAを産生した。(N=3)(B)GSK484は、PMAによる刺激後、分化PLB-985細胞によるDNA放出を阻害する。分化PLB-985細胞を、PMAでの刺激前の1時間、対照又はPAD4阻害剤GSK484(G1、G10、G150:1、10、又は50μMのGSK484)で処理し、続いて、分光光度法によってウェルに付着したDNAの測定を行った。GSK484で処理された細胞は、予想どおり、PMAに応答したDNA放出の用量依存的阻害を示した。(N=2)。
【
図4】DX1は、PMAで刺激された分化PLB-985細胞からのDNAの放出を阻害する。対照緩衝液又はDX1で処理された分化PLB-985細胞を、PMAの添加によって未刺激又は刺激のままにし、続いて、分光光度法によって接着したDNAの測定を行った。対照細胞のPMA刺激は、未刺激対照細胞に対して、放出された/接着したDNAの量を4.50±0.14に増加させた(
****P<0.0001、N=3)。PMAに対する応答は、未刺激対照細胞に対して、DX1で処置された細胞においてDNA含有量1.80±0.11で阻害された(
****P<0.0001、N=3)。
【
図5】(A及びB)DX1は、分化PLB-985細胞におけるヒストンH3のシトルリン化を阻害しない。分化PLB-985細胞を、対照培地又は10μMのDX1を含有する培地で1時間前処理し、続いてPMAで刺激した。細胞内容物を単離し、H3Citのウエスタンブロットによって分析した。代表的なクロップドブロットを(A)に示し、アクチンに対して正規化されたH3Citバンド強度の定量を(B)に示す。PMAの添加は、刺激されていない細胞に対して、H3Cit含有量を0.64±0.06(N=2)に低減させるようであり、NETosisにおけるH3Cit放出を反映している可能性が高い。DX1での前処理は、H3のシトルリン化の任意の明らかな低減をもたらさなかったが、むしろ、刺激されていない細胞に対して、細胞内H3Cit含有量を1.46±0.20に増加させた可能性がある(N=3)。これらのデータは、DX1によるNET放出の阻害と一致する。
【
図6】(A及びB)DX1は、マウス好中球におけるNETosisを刺激しない。(A)マウス好中球を、対照培地又は10μMのDX1を含有する培地で30分間処理し、NET形成を、DAPI及びNETマーカーMPO、H3Cit、及びPAD4の免疫染色によって可視化した。代表的な画像が示される。(B)対照及びDX1で処理された細胞において可視化されたNETのパーセンテージは、それぞれ、3.5%±1.0及び4.0%±1.5(P=0.79、N=4)であった。これらの結果は、DX1がマウス好中球におけるNETosisを刺激しないことを実証する。
【
図7】(A及びB)DX1は、PMAで刺激されたマウス好中球におけるNOX依存性NETosisを阻害する。(A)マウス好中球を、対照培地又は10μMのDX1を含有する培地で30分間処理し、続いて、PMAの添加によるNOX依存性NETosisの刺激を行った。NET形成を、NETマーカーMPO、H3Cit、及びPAD4の免疫染色によって可視化した。代表的な画像が示される。(B)対照及びDX1で処理された細胞において可視化されたNETのパーセンテージは、36.3%±11.1及び8.3%±2.7(
*P=0.05、N=4)であった。これらの結果は、DX1が、PMAで処理されたマウス好中球におけるNOX依存性NETosisを阻害することを実証する。
【
図8】(A及びB)DX1は、カルシウムイオノフォアIMで刺激されたマウス好中球におけるNOX非依存性NETosisを阻害する。(A)マウス好中球を、対照培地又は10μMのDX1を含有する培地で30分間処理し、続いて、カルシウムイオノフォアIMの添加によるNOX非依存性NETosisの刺激を行った。NET形成を、NETマーカーMPO、H3Cit、及びPAD4の免疫染色によって可視化した。代表的な画像が示される。(B)対照及びDX1で処理された細胞において可視化されたNETのパーセンテージは、15.5%±3.1及び2.3%±0.8(
*P<0.01、N=4)であった。これらの結果は、DX1が、IMで処理されたマウス好中球におけるNOX非依存性NETosisを阻害することを実証する。
【
図9】ANCA血管炎の20日間マウスモデルにおけるDX1の影響を試験する実験の図。
【
図10】(A~D)DX1は、ANCA血管炎の20日間マウスモデルにおける腎臓損傷及び免疫浸潤を有意に低減させる。マウスを
図9に示すように処置した。糸球体部分壊死、マクロファージ、好中球、及びCD4+T細胞を、対照及びMPO免疫化マウスにおいて評価し、その後、1用量又は2用量のDX1を用いて、又は用いずに処理した。MPOで免疫化され、DX1で処置されたマウスは、MPOで免疫され、対照で処置されたマウスと比較して、糸球体炎症の徴候の全ての量を有意に低減させた。これらの知見は、DX1が炎症性疾患、この場合はANCA血管炎に関連する損傷をインビボで抑制することを実証する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
配列の一覧
配列番号1-マウス3E10の重鎖CDR1
配列番号2-マウス3E10の重鎖CDR2
配列番号3-マウス3E10の重鎖CDR3
配列番号4-マウス3E10の軽鎖CDR1
配列番号5-マウス3E10の軽鎖CDR2
配列番号6-マウス3E10の軽鎖CDR3
配列番号7-マウス3E10のVH鎖
配列番号8-マウス3E10のVL鎖
配列番号9-ヒト化抗体DX1/DX3、VH_1、及びVH_2の重鎖CDR1
配列番号10-ヒト化抗体VH_3mの重鎖CDR1
配列番号11-ヒト化抗体DX1/DX3、VH_1、及びVH_2の重鎖CDR2
配列番号12-ヒト化抗体VH_3mの重鎖CDR2
配列番号13-ヒト化抗体DX1/DX3、VH_1、VH_2及びVH_3mの重鎖CDR3
配列番号14-ヒト化抗体DX1/DX3、VH_1及びVH_2の軽鎖CDR1
配列番号15-ヒト化抗体VH_3mの軽鎖CDR1
配列番号16-ヒト化抗体DX1/DX3、VH_1、VH_2及びVH_3mの軽鎖CDR2
配列番号17-ヒト化抗体DX1/DX3 VH_1、VH_2及びVH_3mの軽鎖CDR3
配列番号18-ヒト化抗体(DX1/DX3)のVH鎖
配列番号19-ヒト化抗体VH_1のVH鎖
配列番号20-ヒト化抗体VH_2のVH鎖
配列番号21-ヒト化抗体VH_3mのVH鎖
配列番号22-ヒト化抗体(DX1/DX3)のVL鎖
配列番号23-ヒト化抗体VH_1のVL鎖
配列番号24-ヒト化抗体VH_2のVL鎖
配列番号25-ヒト化抗体VH_3mのVL鎖
配列番号26-リンカー配列1
配列番号27-リンカー配列2
配列番号28-ヒンジ配列
配列番号29-シグナル配列
配列番号30-5C6のVH鎖
配列番号31-5C6の重鎖CDR1
配列番号32-5C6の重鎖CDR2
配列番号33-5C6の重鎖CDR3
配列番号34-5C6のVL鎖
配列番号35-5C6の軽鎖CDR1
配列番号36-5C6の軽鎖CDR2
配列番号37-5C6の軽鎖CDR3
配列番号38-DX1配列
配列番号39-DX3配列
配列番号40-3E10の代替重鎖CDR1
【0026】
発明の詳細な説明
一般的な技術及び選択された定義
別途特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者(例えば、分子生物学、生化学、抗体、単鎖断片可変などの抗体断片、及び臨床研究の分野における)によって一般に理解されるものと同じ意味を有するように解釈されることとする。
【0027】
「細胞透過性」という用語は、本開示の文脈において、生きている哺乳動物細胞の細胞質内に輸送され、好ましくは、DNA(例えば、一本鎖及び/又は二本鎖DNA)に結合する抗DNA結合タンパク質を指すために使用される。一例では、細胞透過性結合タンパク質はまた、細胞核を透過する。したがって、本開示の結合タンパク質は、細胞核内に局在し、DNAに結合し得る(すなわち、それらは核透過性である)。そのような結合タンパク質は、細胞内に透過することができるが、細胞質内で隔離されたままである抗体とは区別される。
【0028】
「抗DNA結合タンパク質」という用語は、本開示の文脈において、DNAに結合することができる抗体を指すために使用される。
【0029】
「結合タンパク質」という用語は、本開示の文脈において、特定の抗原と免疫学的に反応するヒト又はヒト化免疫グロブリン分子を指すために使用され、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体の両方を含む。「結合タンパク質」という用語にはまた、抗原結合能力を有する断片(例えば、Pierce Catalogue and Handbook,1994-1995(Pierce Chemical Co.,Rockford,Ill.)、Kuby,J.,Immunology,3rd Ed.,W.H.Freeman & Co.,New York(1998)に論述されるFab’、F(ab’)2、Fab、Fv、及びrIgG)を含む抗体の抗原結合形態が含まれる。この用語はまた、組換え単鎖Fv断片(scFv)、並びにその二価(di-scFv)及び三価(tri-scFV)形態を指すためにも使用される。「抗体」という用語にはまた、ダイアボディ、トリアボディ、及びテトラボディも含まれる。
【0030】
本明細書で使用される結合タンパク質という用語は、二重特異性分子などの抗体を含む結合タンパク質を包含する。例えば、結合タンパク質は、抗体などの上記の免疫グロブリン、及びFvなどの上記参照の断片を含み得る。
【0031】
抗体の「抗原結合断片」は、無傷の抗体の1つ以上の可変領域を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片、ダイアボディ、抗体断片から形成された直鎖状抗体及び単鎖抗体分子が挙げられる。例えば、「抗原結合断片」という用語は、組換え単鎖Fv断片(scFv)、並びにその二価(di-scFv)及び三価(tri-scFV)形態を指すために使用され得る。一例では、結合タンパク質は、抗原結合断片である。そのような断片は、当技術分野で知られている様々な方法を介して産生され得る。
【0032】
「免疫グロブリン」という用語は、免疫グロブリンドメインを含む、抗DNA結合タンパク質などの本開示の結合タンパク質を含むと理解されるであろう。例示的な免疫グロブリンは、抗体である。「免疫グロブリン」という用語によって包含されるさらなるタンパク質としては、ドメイン抗体、ラクダ科抗体、及び軟骨魚類由来の抗体(すなわち、免疫グロブリン新抗原受容体(IgNAR))が含まれる。概して、ラクダ科抗体及びIgNARは、VHを含むが、VLを欠き、多くの場合、重鎖免疫グロブリンと称される。
【0033】
「全長抗体」、「無傷の抗体」、又は「全抗体」という用語は、抗体の抗原結合断片とは対照的に、その実質的に無傷の形態にある抗体を指すために互換的に使用される。特に、全抗体は、重鎖及び軽鎖を有するものを含む。一例では、全抗体は、Fc領域を含む。定常ドメインは、野生型配列の定常ドメイン(例えば、ヒト野生型配列の定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列バリアントであり得る。一例では、抗体は、IgGである。
【0034】
本明細書で使用される場合、「可変領域」は、抗原に特異的に結合し、例えば、CDRのアミノ酸配列、すなわち、CDR1、CDR2、及びCDR3、並びにフレームワーク領域(FR)を含む、本明細書で定義される抗体の軽鎖及び/又は重鎖の部分を指す。例えば、可変領域は、3つのCDRとともに3つ又は4つのFR(例えば、FR1、FR2、FR3、及び任意選択でFR4)を含む。VHとは重鎖の可変領域を指す。VLとは軽鎖の可変領域を指す。
【0035】
本明細書で使用される場合、「相補性決定領域」という用語(同義語CDR、すなわち、CDR1、CDR2、及びCDR3)は、その存在が特異的抗原結合に主要な寄与因子である抗体可変領域のアミノ酸残基を指す。各可変領域は、典型的には、CDR1、CDR2、及びCDR3として特定される3つのCDR領域を有する。一例では、CDR及びFRに割り当てられたアミノ酸位置は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest,National Institutes of Health,Bethesda,Md.,1987 and 1991(本明細書では「Kabat番号付けシステム」又は「Kabat」とも称される)に従って定義される。
【0036】
可変ドメインの補正又は代替の番号付けシステムを含む他の規則としては、IMGT(Lefranc,et al(2003),Dev Comp Immunol 27:55-77)、Chothia(Chothia C,Lesk AM(1987),J Mal Biol 196:901-917、Chothia,et al.(1989),Nature 342:877-883)、及びAHo(Honegger A,Pluckthun A(2001)J Mol Biol 309:657-670)が挙げられる。便宜上、本開示の抗体の例はまた、IMGTに従って標識される場合もある。
【0037】
「フレームワーク領域」(同義語FR)は、CDR残基以外のこれらの可変ドメイン残基である。
【0038】
本明細書で使用される「定常領域」という用語は、可変領域以外の抗体の重鎖又は軽鎖の一部分を指す。重鎖では、定常領域は、概して、複数の定常ドメインと、ヒンジ領域と、を含み、例えば、IgG定常領域は、以下の連結された構成要素、定常重鎖CH1、リンカー、CH2、及びCH3を含む。重鎖では、定常領域は、Fcを含む。軽鎖において、定常領域は、概して、1つの定常ドメイン(CL1)を含む。
【0039】
「結晶化可能な断片」又は「Fc」又は「Fc領域」又は「Fc部分」という用語(本明細書で互換的に使用され得る)は、少なくとも1つの定常ドメインを含み、概して(必ずしもそうではないが)グリコシル化され、1つ以上のFc受容体及び/又は補体カスケードの構成要素に結合可能な抗体の領域を指す。重鎖定常領域は、α、δ、ε、γ、又はμの5つのアイソタイプのうちのいずれかから選択され得る。例示的な重鎖定常領域は、ガンマ1(IgG1)、ガンマ2(IgG2)、及びガンマ3(IgG3)、又はそれらのハイブリッドである。
【0040】
「定常ドメイン」は、同じタイプ、例えば、IgG又はIgM又はIgEの抗体/抗体において配列が非常に類似している抗体内のドメインである。抗体の定常領域は、概して、複数の定常ドメインを含み、例えば、γ、α、又はδ重鎖の定常領域は、2つの定常ドメインを含む。
【0041】
「コンジュゲートされた」という用語は、本開示の文脈において、別の化合物、例えば、治療用化合物又は診断用化合物にコンジュゲートされている本開示の結合タンパク質を指すために使用される。したがって、一例では、本開示の結合タンパク質は「コンジュゲート」されている。コンジュゲーションの性質は、それが培養条件下で好中球細胞外トラップ(NET)形成を阻害する結合タンパク質の能力を維持する限り、特に限定されない。
【0042】
参照ポリペプチド配列に関する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、配列同一性最大パーセントを得るため配列をアラインメントし、必要な場合はギャップを導入した後の、配列同一性の部分として任意の保存的置換を考慮に入れない、参照ポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同一である、候補配列におけるアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するためのアラインメントは、当該技術分野で実施する技術内である様々な方法で、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公的に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して達成され得る。当業者は、比較される配列の完全長にわたる最大のアラインメントを達成するために必要とされる任意のアルゴリズムを含む、配列をアラインメントするために適切なパラメータを決定し得る。
【0043】
本明細書で使用される場合、結合タンパク質及び抗原の相互作用に関して「結合する」という用語は、相互作用が抗原上の特定の構造(例えば、抗原決定基又はエピトープ)の存在に依存することを意味する。例えば、結合タンパク質は、概して、抗原ではなく特定の抗原構造を認識して結合する。例えば、結合タンパク質がエピトープ「A」に結合する場合、標識された「A」及び結合タンパク質を含有する反応において、エピトープ「A」(又は遊離、標識されていない「A」)を含有する分子の存在は、結合タンパク質に結合された標識された「A」の量を低減させる。
【0044】
本明細書で使用される場合、「特異的に結合する」という用語は、結合タンパク質とDNAとの間の結合相互作用が、結合タンパク質によるDNAの検出に依存していることを意味すると解釈されることとする。したがって、結合タンパク質は、他の分子の混合物又は生物中に存在する場合でさえも、DNAに対して優先的な結合又は認識を行う。
【0045】
一例では、結合タンパク質は、代替的な抗原又は細胞とよりも、DNAと、より頻繁に、より迅速に、より長い持続時間で、及び/又はより高い親和性で反応又は会合する。また、この定義を読み取ることにより、例えば、DNAに特異的に結合する結合タンパク質は、第2の抗原に特異的に結合しても、しなくてもよいと理解される。したがって、「特異的結合」は、別の抗原の排他的結合又は検出不可能な結合を必ずしも必要としない。「特異的に結合する」という用語は、本明細書における「選択的に結合する」と互換的に使用され得る。概して、本明細書での結合への言及は、特異的結合を意味し、各用語は、他の用語を明示的に支持するものと理解されるものとする。特異的結合を決定するための方法は、当業者には明らかであろう。例えば、本開示の結合タンパク質を、DNA又は代替抗原と接触させる。次いで、DNA又は代替抗原への結合タンパク質の結合が測定され、代替抗原ではなくDNAと上に記載されるように結合する結合タンパク質は、DNAと特異的に結合するとみなされる。
【0046】
本開示による結合タンパク質及びそれを含む組成物は、炎症性疾患などの様々な適応症を治療するために対象に投与され得る。「対象」、「患者」、又は「個体」などの用語は、本開示において、文脈において互換的に使用され得る用語である。一例では、対象は、哺乳動物である。哺乳動物は、イヌ若しくはネコなどのコンパニオンアニマル、又はウマ若しくはウシなどの家畜動物であり得る。一例では、対象は、ヒトである。例えば、対象は、成人であり得る。別の例では、対象は、子供であり得る。別の例では、対象は、青年であり得る。一例では、対象は、炎症性疾患を有する。例えば、対象は、嚢胞性線維症などの遺伝性疾患、又は多発性硬化症などの根底にある炎症性構成要素を有する神経学的障害を有し得る。
【0047】
一例では、対象は、がんを有しない。一例では、対象は、狼瘡を有しない。
【0048】
一例では、対象は、血栓症若しくは塞栓症を有するか、又は血栓症若しくは塞栓症を発症するリスクがある。この例では、本開示の方法は、血栓症又は塞栓症の治療又は予防を包含し得る。
【0049】
「血栓症」という用語は、血栓又は血餅の形成を指すために本明細書で使用される。一例では、血栓症は、血栓が動脈に発生する「動脈血栓症」である。このような血栓は、心臓又は脳などの主要な器官への血流を妨げる可能性があるため、対象にとって特に危険である。一例では、血栓症は、血栓が静脈に発生する「静脈血栓症」である。
【0050】
「肺塞栓症」という用語は、血流を介して体内の他の場所から移動した物質による肺における動脈の閉塞を指すために本明細書で使用される。
【0051】
本開示に従って治療される対象は、炎症性疾患を示す症状を有し得る。例示的な症状にとしては、疲労、呼吸困難、息切れ、運動不能又は運動能力低下、血液又は粘液の有無にかかわらない咳、息を吸ったり吐いたりするときの痛み、喘鳴、胸の圧迫感、原因不明の体重減少、及び筋骨格系疼痛が挙げられ得る。
【0052】
本明細書で使用される場合、「治療」という用語は、臨床的病理の経過中に治療されている個体又は細胞の自然経過を改変するように設計された臨床的介入を指す。治療の望ましい効果には、疾患進行の速度の減少、疾患状態の改善又は緩和、及び寛解又は予後の改善が含まれる。例えば、疾患に関連する1つ以上の症状が軽減又は排除される場合、個体は、成功裏に「治療」される。一例では、治療は、対象における炎症マーカーの低減によって特徴付けられる。加えて、「治療」という用語には、緩和的治療、すなわち、疾患、病的状態、又は障害の治癒ではなく、症状の緩和のために設計された治療、予防的治療、すなわち、関連する疾患、病的状態、又は障害の発症を最小限に抑えるか、又は部分的に、若しくは完全に阻害するように指向された治療、及び補助的治療、すなわち、関連する疾患、病的状態、又は障害の改善に指向された別の特定の療法を補足するために用いられる治療が含まれる。
【0053】
本明細書で使用される場合、「予防」という用語は、個体における疾患の発生又は再発に関して予防を提供することを含む。個体は、疾患又は疾患再発の素因があるか、又は発症するリスクがある可能性があるが、まだ疾患又は再発と診断されていない。
【0054】
一例では、本開示の方法は、対象における疾患の進行又は疾患の合併症を阻害する。一例では、本開示の方法は、炎症性疾患の進行又は重症度を阻害する。一例では、本開示の方法は、対象におけるNET形成を阻害する。この例では、NET形成は、本明細書に開示の結合タンパク質を投与する前の未治療の対象又は対象におけるNET形成のレベルに対して、低減し得る。
【0055】
「有効量」は、所望の治療、予防、診断、又はその他の有益な結果を達成するために必要な投薬及び期間で少なくとも有効な量を指す。有効量は、1回以上の投与で提供され得る。本開示のいくつかの例では、「有効量」という用語は、以下に記載の疾患又は状態の治療を達成するために必要な量を意味する。有効量は、治療される疾患又は状態に応じて、また、体重、年齢、人種的背景、性別、健康及び/又は身体状態、並びに治療される対象に関する他の要因に応じて変化し得る。典型的には、有効量は、医師による日常的な試験及び実験を介して決定され得る比較的広い範囲(例えば、「投薬量」範囲)内に収まる。有効量は、単回用量で、又は治療期間にわたって1回又は数回繰り返される用量で投与され得る。任意の特定の患者の特定の用量レベルは、用いられる特定の抗体の活性、年齢、体重、全般的な健康、性別、食事、投与時間、投与経路、及び排泄速度、薬物組み合わせ、並びに療法を受けている特定の疾患の重症度を含む様々な因子に依存することが理解される。
【0056】
「治療有効量」は、特定の障害(例えば、炎症性疾患)の測定可能な改善を達成するために必要な最小限の濃度以上である。本明細書における治療有効量はまた、患者の疾患状態、年齢、性別、及び体重、並びに個体において所望の応答を誘発する抗体の能力などの因子に応じて変化し得る。治療有効量はまた、結合タンパク質の任意の毒性又は有害な効果よりも治療的に有益な効果が勝る量である。炎症性疾患の場合、治療有効量の結合タンパク質は、疾患症状、疾患進行を阻害し得(すなわち、ある程度遅くし、いくつかの例では停止させる)、かつ/又は治療されている炎症性疾患に関連する症状のうちの1つ以上をある程度緩和し得る。炎症性疾患の場合、インビボでの有効性は、例えば、生存期間、疾患進行までの時間(TTP)、応答速度(RR)、応答期間、及び/又は生活の質を評価することによって測定され得る。
【0057】
本開示の結合タンパク質は、好中球細胞外トラップ(NET)形成を阻害する。一例では、本明細書に開示の結合タンパク質の好中球細胞外トラップ(NET)形成を阻害する能力は、培養条件下で決定される。「培養条件」という用語は、培養中の増殖する細胞を指すために使用される。一例では、培養条件とは、好中球又はPLB-985、HL-60細胞(例えば、ATCC CCL-240、又はそのサブクローン)、NB4などの好中球様細胞などの細胞培養中の細胞の集団を指す。一例では、培養条件は、細胞の培養増殖集団を指す。一例では、培養条件は、細胞の活発に分裂する集団を指す。そのような細胞は、一例では、指数関数的増殖期にあり得る。一例では、培養条件は、ホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)又はリポ多糖(LPS)などのNET形成の刺激物質とともに細胞を培養することを含む。NET形成の他の例示的な刺激物質としては、A23187(A23)又はイノマイシンなどのカルシウムイオノフォアが挙げられる。一例では、刺激物質は、NOX依存性NET形成を促進する。別の例では、刺激物質は、NOX非依存性NET形成を促進する。一例では、培養条件は、300nMのPMAとともに4.5時間細胞を培養することを含む。別の例では、培養条件は、カルシウムイオノフォア(イオノマイシン、IM、例えば、4μM)とともに細胞を培養することを含む。
【0058】
NET形成はまた、培養条件下で測定され得る。一例では、NET形成を表す特定のマーカーのレベルは、細胞培養培地の試料を採取し、試料中のマーカーのレベルを測定することによって決定され得る。別の例では、特定のマーカーのレベルは、細胞の試料を採取し、細胞溶解物中のマーカーのレベルを測定することによって決定され得る。当業者は、分泌マーカーが、培養培地を試料採取することによって測定され得るが、一方で、表面上又は培養された細胞(複数可)内に発現されるマーカーが、細胞溶解物の試料を評価することによって測定され得ることを理解するであろう。一例では、試料は、細胞が指数関数的増殖期にあるときに採取される。一例では、試料は、培養中、少なくとも2日後に採取される。別の例では、特定のマーカーのレベルは、培養条件下で細胞を視覚的に評価することによって決定され得る。一例では、NET形成のマーカーは、NETにおける細胞死及び細胞外DNAのレベルである。別の例では、NET形成のマーカーは、炎症性刺激物質を伴う培養後の好中球様細胞からのDNA放出である。この例では、NET形成の阻害は、炎症性刺激物質を伴う培養後の好中球様細胞からのDNA放出の低減によって特徴付けられる。NET形成の様々なマーカーは、当該技術分野において既知である。例としては、循環細胞遊離DNA、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)、シトルリン化ヒストン3(H3Cit)、及び好中球エラスターゼ(NE)が挙げられる。一例では、NOX依存性及び/又はNOX非依存性NET形成の両方を阻害する細胞透過性抗DNA結合タンパク質の能力は、ホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)又はイオノマイシン(IM)のいずれかでの好中球刺激後に評価され得る。
【0059】
一例では、本開示の結合タンパク質は、培養条件下で、好中球様細胞からのシトルリン化ヒストンH3(H3Cit)の放出を阻害する。ウエスタンブロットなどの培養条件下でのH3Citのレベルを決定するための様々な方法が利用可能である。一例では、本開示の結合タンパク質は、投与後に対象におけるH3Citの血清レベルを変化させる。この例では、本開示の結合タンパク質を対象に投与し、その後、血清試料を取得し、試料中のH3Citレベルを対象からのH3Citのベースラインレベルと比較して、H3Citレベルが変化したかどうかを決定する。
【0060】
細胞透過性抗DNA結合タンパク質
本開示は、培養条件下で好中球細胞外トラップ(NET)形成を阻害する抗DNA結合タンパク質に関する。「好中球細胞外トラップ(NET)」という用語は、本開示の文脈において、ヒストン及び多数の粒状タンパク質で装飾された細胞外クロマチンを含む組成物を指すために使用される。一例では、NET構成要素は、核及び/又はミトコンドリアDNAの足場の間で混合される。「NET形成」及び「NETosis」は、本開示の文脈において、NETの活性放出に至る細胞事象の順序を説明するために使用される。一例では、このプロセスは、調節された好中球細胞死によって特徴付けられる。
【0061】
一例では、抗DNA結合タンパク質はまた、細胞透過性である。したがって、本開示は、細胞透過性抗DNA結合タンパク質の使用を企図する。一例では、細胞透過性抗DNA結合タンパク質はまた、核透過性である。換言すれば、結合タンパク質は、細胞の細胞質に隔離されたままではなく、細胞の核に入り、DNAに結合することができる。この例では、抗DNA結合タンパク質は、核透過性抗DNA結合タンパク質と称され得る。一例では、核透過性抗DNA結合タンパク質は、細胞核からのDNAの放出を阻害する。例えば、核透過性抗DNA結合タンパク質は、好中球及び/又は好中球様細胞の核からのDNAの放出を阻害し得る。一例では、細胞核からのDNA放出の阻害は、培養条件下で決定される。
【0062】
一例では、結合タンパク質は、自己免疫疾患を有する対象又は動物に由来する自己抗体である。一例では、自己抗体は、全身性エリテマトーデスを有する対象、又はその動物モデルに由来する。本明細書で使用される「由来する(derived)」という用語は、以下で論じられる方法などの組換え技術を使用して産生される本開示の抗体の組換え形態を包含する。例えば、全身性エリテマトーデスを有する対象又はその動物モデル由来の自己抗体をコードする核酸配列を組換え系に提供して、抗体の組換え形態を産生し得る。一例では、自己抗体は、DNAに結合する。一例では、自己抗体は、細胞透過性である。抗DNA自己抗体の例は、当該技術分野で既知である(Hansen et al.(2012)Sci Transl Med.,4:157ral42、Noble et al.(2015)Cancer Research.,75:2285-2291、Noble et al.(2016)Nat Rev Rheumatol.,12:429-34)。一例では、自己抗体は、3E10(すなわち、配列番号7を含むVH及び配列番号8を含むVLを有する抗体)又はそのヒト化形態である。
【0063】
一例では、本開示による抗DNA結合タンパク質は、配列番号1に示されるCDR1、配列番号2に示されるCDR2、配列番号3に示されるCDR3を有する重鎖可変領域(VH)、並びに配列番号4に示されるCDR1、配列番号5に示されるCDR2、及び配列番号6に示されるCDR3を有する軽鎖可変領域(VL)、又はそれらのヒト化形態を含む。したがって、一例では、本開示は、配列番号1に示されるCDR1、配列番号2に示されるCDR2、配列番号3に示されるCDR3を有する重鎖可変領域(VH)、並びに配列番号4に示されるCDR1、配列番号5に示されるCDR2、及び配列番号6に示されるCDR3を有する軽鎖可変領域(VL)、又はそれらのヒト化形態を含む、結合タンパク質を包含する。一例では、当該結合タンパク質は、DNAへの結合に対して、配列番号1に示されるCDR1、配列番号2に示されるCDR2、配列番号3に示されるCDR3を有する重鎖可変領域(VH)、並びに配列番号4に示されるCDR1、配列番号5に示されるCDR2、及び配列番号6に示されるCDR3を有する軽鎖可変領域(VL)、又はそれらのヒト化形態を含む、結合タンパク質と競合する。これらの例では、VHCDR1は、むしろ、配列番号40を含み得る。
【0064】
一例では、結合タンパク質は、DNA修復を阻害する。DNA修復の阻害は、DNAを修復する細胞の能力を測定する前に、細胞をDNA損傷剤及び結合タンパク質と接触させることによってインビトロで評価され得る。一例では、細胞は、がん細胞である。一例では、DNA修復の阻害は、損傷した細胞におけるアポトーシスのレベルに基づいて評価される。
【0065】
抗体又はその断片などの本開示の結合タンパク質は、それらがNET形成を阻害し得るという点で特に有用である。したがって、一例では、本開示は、配列番号1に示されるCDR1、配列番号2に示されるCDR2、配列番号3に示されるCDR3を有する重鎖可変領域(VH)、並びに配列番号4に示されるCDR1、配列番号5に示されるCDR2、及び配列番号6に示されるCDR3を有する軽鎖可変領域(VL)、又はそれらのヒト化形態を含む、抗体又はその断片を包含し、抗体又はその断片は、培養条件下での好中球細胞外トラップ(NET)形成を阻害する。一例では、VHCDR1は、むしろ配列番号40を含み得る。
【0066】
本開示はまた、上記の例のヒト化形態及びCDRバリアントを包含する。したがって、別の例では、抗体又はその断片のヒト化形態は、配列番号9若しくは配列番号10に示されるCDR1、配列番号11若しくは配列番号12に示されるCDR2、配列番号13に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号14若しくは配列番号15に示されるCDR1、配列番号16に示されるCDR2、及び配列番号17に示されるCDR3を有するVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号9若しくは配列番号10に示されるCDR1、配列番号11若しくは配列番号12に示されるCDR2、配列番号13に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号14若しくは配列番号15に示されるCDR1、配列番号16に示されるCDR2、及び配列番号17に示されるCDR3を有するVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む。
【0067】
別の例では、抗体又はその断片のヒト化形態は、配列番号9に示されるCDR1、配列番号11に示されるCDR2、配列番号13に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号14に示されるCDR1、配列番号16に示されるCDR2、及び配列番号17に示されるCDR3を有するVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号9に示されるCDR1、配列番号11に示されるCDR2、配列番号13に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号14に示されるCDR1、配列番号16に示されるCDR2、及び配列番号17に示されるCDR3を有するVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む。別の例では、抗体又はその断片のヒト化形態は、配列番号9に示されるCDR1、配列番号11に示されるCDR2、配列番号13に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号14に示されるCDR1、配列番号16に示されるCDR2、及び配列番号17に示されるCDR3を有するVLを含む。
【0068】
別の例では、抗体又はその断片のヒト化形態は、配列番号10に示されるCDR1、配列番号12に示されるCDR2、配列番号13に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号15に示されるCDR1、配列番号16に示されるCDR2、及び配列番号17に示されるCDR3を有するVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号10に示されるCDR1、配列番号12に示されるCDR2、配列番号13に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号15に示されるCDR1、配列番号16に示されるCDR2、及び配列番号17に示されるCDR3を有するVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む。上記の例では、CDRは、少なくとも1つのアミノ酸置換に対する対象である。別の例では、CDRは、少なくとも2つのアミノ酸置換に対する対象である。別の例では、CDRは、少なくとも3つのアミノ酸置換に対する対象である。一例では、置換(複数可)は、CDR1にある。別の例では、置換(複数可)は、VH CDR1にある。別の例では、置換(複数可)は、VL CDR2にある。別の例では、置換(複数可)は、VH CDR2にある。
【0069】
別の例では、抗体又はその断片は、配列番号6に示されるCDR1、配列番号7に示されるCDR2、及び配列番号8に示されるCDR3を有するVH、又はそのヒト化形態を含む。
【0070】
一例では、抗体又はその断片のヒト化形態は、配列番号18~21のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号22~25のうちのいずれか1つに示されるVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号18~21のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号22~25のうちのいずれか1つに示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む。
【0071】
一例では、抗体又はその断片のヒト化形態は、配列番号18に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号22に示されるVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号18に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号22に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む。一例では、抗体又はその断片のヒト化形態は、配列番号18に示されるアミノ酸配列を含むVH及び配列番号22に示されるVLを含む。
【0072】
一例では、抗体又はその断片のヒト化形態は、配列番号19に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号23に示されるVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号19に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号23に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む。
【0073】
一例では、抗体又はその断片のヒト化形態は、配列番号20に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号24に示されるVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号20に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号24に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む。
【0074】
一例では、抗体又はその断片のヒト化形態は、配列番号21に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号25に示されるVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号21に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号25に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む。
【0075】
好適な抗DNA結合タンパク質の他の例は、当該技術分野で既知である(Zack et al.(1995)J.Immunol.,154:1987-1994、Gu et al.(1998)J.Immunol.,161:6999-7006、Noble et al(2014)Sci Rep.,4:5958、ATCC受託番号PTA2439ハイブリドーマ、WO2019/018426)。一例では、抗体は、抗グアノシン抗体ではない。
【0076】
一例では、抗DNA結合タンパク質は、細胞透過性抗DNA Fvなどの断片であり得る。一例では、Fvは、scFvである。一例では、断片は、抗原結合ドメインを有し、抗原結合ドメインは、DNAに結合するか、又は特異的に結合する。例えば、Fvは、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むVLを有する抗体と同じエピトープに結合し得る。別の例では、Fvは、配列番号18に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号22に示されるアミノ酸配列を含むVLを有する抗体と同じエピトープに結合し得る。別の例では、Fvは、配列番号19に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号23に示されるアミノ酸配列を含むVLを有する抗体と同じエピトープに結合し得る。別の例では、Fvは、配列番号20に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号24に示されるアミノ酸配列を含むVLを有する抗体と同じエピトープに結合し得る。別の例では、Fvは、配列番号21に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号25に示されるアミノ酸配列を含むVLを有する抗体と同じエピトープに結合し得る。一例では、Fvは、scFvである。
【0077】
一例では、Fvは、リンカーを含む。それらの設計のための様々な好適なリンカー及び方法は、以前に記載されている(例えば、米国特許第4,946,778号、WO1994/012520、及び米国特許第4,704,692号)。一例では、Fvは、グリシン-セリン(GS)リンカーを含む。一例では、Fvは、配列番号26に示される配列を含むリンカーを含む。
【0078】
一例では、FvのVH及びVLは、単一のポリペプチド鎖にあり得る。別の例では、Fvは、Fc領域を欠いている。例えば、Fvは、単鎖Fv断片(scFv)、二量体scFv(di-scFv)、三量体scFv(tri-scFv)であり得る。一例では、Fvは、scFvである。一例では、Fvは、di-scFvである。複数のscFvは、リンカーにより分離されていてもよい。一例では、リンカーは、配列番号27に示される配列を含む。
【0079】
したがって、一例では、結合タンパク質は、配列番号18に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号22に示されるVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号18に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号22に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアント、並びに配列番号27に示される配列を含むscFvを分離するリンカーを含むscFvであり得る。
【0080】
別の例では、結合タンパク質は、配列番号19に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号23に示されるVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号19に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号23に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアント、並びに配列番号27に示される配列を含むscFvを分離するリンカーを含むscFvであり得る。
【0081】
別の例では、結合タンパク質は、配列番号20に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号24に示されるVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号20に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号24に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアント、並びに配列番号27に示される配列を含むscFvを分離するリンカーを含むscFvであり得る。
【0082】
別の例では、結合タンパク質は、配列番号21に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号25に示されるVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号21に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号25に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアント、並びに配列番号27に示される配列を含むscFvを分離するリンカーを含むscFvであり得る。
【0083】
したがって、別の例では、結合タンパク質は、配列番号18に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号22に示されるVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号18に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号22に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアント、並びに配列番号27に示される配列を含むscFvを分離するリンカーを含むdi-scFVであり得る。
【0084】
別の例では、結合タンパク質は、配列番号19に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号23に示されるVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号19に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号23に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアント、並びに配列番号27に示される配列を含むscFvを分離するリンカーを含むdi-scFvであり得る。
【0085】
別の例では、結合タンパク質は、配列番号20に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号24に示されるVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号20に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号24に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアント、並びに配列番号27に示される配列を含むscFvを分離するリンカーを含むdi-scFvであり得る。
【0086】
別の例では、結合タンパク質は、配列番号21に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号25に示されるVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号21に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号25に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアント、並びに配列番号27に示される配列を含むscFvを分離するリンカーを含むdi-scFvであり得る。
【0087】
別の例では、結合タンパク質は、配列番号38に示されるアミノ酸配列を含むdi-scFvである。
【0088】
一例では、Fvは、tri-scFvである。
【0089】
別の例では、scFv、di-scFv、又はtri-scFvは、抗体の定常領域、Fc、又は重鎖定常ドメインCH2及び/又はCH3に連結され得る。一例では、scFv、di-scFv、又はtri-scFvは、ヒンジ領域によって、抗体の定常領域、Fc、又は重鎖定常ドメインCH2及び/又はCH3に連結される。一例では、ヒンジ領域は、配列番号28に示される配列を含む。
【0090】
一例では、結合タンパク質は、抗原結合ドメインを有するdi-scFvであり、抗原結合ドメインは、DNAに結合するか、又は特異的に結合する。
【0091】
別の例では、結合タンパク質のVH及びVLは、別個のポリペプチド鎖にある。例えば、結合タンパク質は、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、Fab、F(ab’)2であり得る。別の例では、結合タンパク質は、別個のポリペプチド鎖にVH及びVLを含むFvであり得る。これらの例では、結合タンパク質は、抗体の定常領域、Fc、又は重鎖定常ドメインCH2及び/又はCH3に連結され得る。別の例では、結合タンパク質は、無傷の抗体であり得る。したがって、一例では、本開示は、抗原結合ドメインを有する抗体を包含し、抗原結合ドメインは、DNAに結合するか、又は特異的に結合する。例えば、抗体は、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むVLを含む。別の例では、抗体は、配列番号18に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号22に示されるアミノ酸配列を含むVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号18に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号22に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む。
【0092】
別の例では、抗体は、配列番号19に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号23に示されるアミノ酸配列を含むVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号19に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号23に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む。
【0093】
別の例では、抗体は、配列番号20に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号24に示されるアミノ酸配列を含むVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号20に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号24に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む。
【0094】
別の例では、抗体は、配列番号21に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号25に示されるアミノ酸配列を含むVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号21に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号25に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む。
【0095】
別の例では、抗体は、配列番号1に示されるCDR1、配列番号2に示されるCDR2、配列番号3に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号4に示されるCDR1、配列番号5に示されるCDR2、及び配列番号6に示されるCDR3を有するVL、又はそれらのヒト化形態を含む、無傷の抗体である。一例では、抗体は、キメラ抗体である。一例では、VHCDR1は、むしろ配列番号40を含み得る。
【0096】
別の例では、抗体は、配列番号9若しくは配列番号10に示されるCDR1、配列番号11若しくは配列番号12に示されるCDR2、配列番号13に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号14若しくは配列番号15に示されるCDR1、配列番号16に示されるCDR2、及び配列番号17に示されるCDR3を有するVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号9若しくは配列番号10に示されるCDR1、配列番号11若しくは配列番号12に示されるCDR2、配列番号13に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号14若しくは配列番号15に示されるCDR1、配列番号16に示されるCDR2、及び配列番号17に示されるCDR3を有するVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む、無傷の抗体である。抗体のCH1及びCH2ドメインは、ヒンジ領域によって連結され得る。一例では、ヒンジ領域は、配列番号28に示される配列を含む。
【0097】
別の例では、抗体は、配列番号9に示されるCDR1、配列番号11に示されるCDR2、配列番号13に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号14に示されるCDR1、配列番号16に示されるCDR2、及び配列番号17に示されるCDR3を有するVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号9に示されるCDR1、配列番号11に示されるCDR2、配列番号13に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号14に示されるCDR1、配列番号16に示されるCDR2、及び配列番号17に示されるCDR3を有するVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む、無傷の抗体である。
【0098】
別の例では、抗体は、配列番号10に示されるCDR1、配列番号12に示されるCDR2、配列番号13に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号15に示されるCDR1、配列番号16に示されるCDR2、及び配列番号17に示されるCDR3を有するVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号10に示されるCDR1、配列番号12に示されるCDR2、配列番号13に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号15に示されるCDR1、配列番号16に示されるCDR2、及び配列番号17に示されるCDR3を有するVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む、無傷の抗体である。
【0099】
一例では、抗体は、配列番号18に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号22に示されるVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号18に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号22に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む、無傷の抗体である。
【0100】
一例では、抗体は、配列番号19に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号23に示されるVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号19に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号23に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む、無傷の抗体である。
【0101】
一例では、抗体は、配列番号20に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号24に示されるVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号20に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号24に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む、無傷の抗体である。
【0102】
一例では、抗体は、配列番号21に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号25に示されるVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号21に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号25に示されるVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む、無傷の抗体である。
【0103】
一例では、抗体は、配列番号39に示されるアミノ酸配列を含む無傷の抗体である。
【0104】
当技術分野で知られているように、抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMなどの異なるアイソタイプで生じ得る。一例では、本開示によって包含される抗体は、IgGである。
【0105】
一例では、結合タンパク質は、核酸分解抗体などの「核酸分解結合タンパク質」である。これらの結合タンパク質は、RNA又はDNAなどの核酸の切断をもたらし、かつ触媒し得る。核酸分解結合タンパク質は、DNA又はRNAを認識し、それらと相互作用して、DNA又はRNAとの接触領域で、又はそれの近くでヌクレオチド-ヌクレオチド連結の切断をもたらし得る。したがって、ある特定の例では、本開示の結合タンパク質は、「核酸分解」活性を有し得る。「核酸分解」という用語は、この文脈では、例えば、加水分解によって、核酸間のヌクレオチド-ヌクレオチド連結を切断し得る結合タンパク質を指すために使用される。一例では、結合タンパク質は、配列番号30に示されるアミノ酸配列を有するVH、及び配列番号34に示されるアミノ酸配列を有するVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号30に示されるアミノ酸配列を有するVH、及び配列番号34に示されるアミノ酸配列を有するVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む。一例では、抗体は、配列番号31に示されるCDR1、配列番号32に示されるCDR2、配列番号33に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号35に示されるCDR1、配列番号36に示されるCDR2、及び配列番号37に示されるCDR3を有するVL、又はDNAへの結合に対して、配列番号31に示されるCDR1、配列番号32に示されるCDR2、配列番号33に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号35に示されるCDR1、配列番号36に示されるCDR2、及び配列番号37に示されるCDR3を有するVLを含む抗体と競合するそれらのバリアントを含む。
【0106】
核酸分解抗体の例は、Noble et al.(2014)Sci Rep-Uk.,4:5958に開示されている。
【0107】
別の例では、本開示の結合タンパク質は、DNAの分解を促進することなくDNAに結合し得る。
【0108】
一例では、抗体は、モノクローナルである。モノクローナル抗体は、本開示によって企図される抗体の一例示的な形態である。「モノクローナル抗体」又は「MAb」という用語は、同じ抗原(複数可)に対して、例えば、抗原内の同じエピトープに対して結合することができる均質な抗体集団を指す。この用語は、抗体の供給源又は抗体を作製する方式に関して限定されるようには意図されていない。
【0109】
一例では、本開示によって包含される抗体は、「ヒト化」され得る。一例では、CDRは、ヒト化される。「ヒト化抗体」は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含有する免疫グロブリン分子である。ヒト化抗体には、レシピエントの相補性決定領域(CDR)の残基が、所望の特異性、親和性、及び能力を有するマウス、ラット、又はウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDRの残基で置き換えられている、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)が含まれる。いくつかの場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基によって置き換えられる。ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体にも、持ち込まれたCDR又はフレームワーク配列にも見出されない残基を含んでもよい。概して、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、CDR領域の全て又は実質的に全ては、非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、フレームワーク(FR)領域の全て又は実質的に全ては、ヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである。一例では、ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部分を含むであろう(Jones et al.,Nature 321:522-525(1986)、Riechmann et al.,Nature 332:323-329(1988)、及びPresta,Curr.Op.Struct.Biol.2:593-596(1992))。一例では、本開示の抗体は、対象の脳にペイロードを送達するために用いられる。
【0110】
結合タンパク質は、当該技術分野で既知の様々な方法を使用して、DNAへの結合に対して参照結合タンパク質と競合するそれらの能力によって特定され得る。例えば、本開示の抗DNA結合タンパク質は、確立された手順を使用してビオチンとコンジュゲートされる(Hofmann K,et al.(1982)Biochemistry 21:978-84)。次に、DNAへのビオチン化抗体の結合と競合する能力によって、候補結合タンパク質を評価する。ビオチン化抗体のDNAへの結合は、標識された結合タンパク質上のビオチンに結合するフルオレセイン標識ストレプトアビジンの添加によって評価され得る。次いで、蛍光染色を定量し、結合タンパク質(複数可)の競合効果を、候補競合物の非存在下で得られた蛍光レベルに対するパーセンテージとして表す。他の例では、親和性測定を使用して、候補結合タンパク質の競合効果を決定する。親和性測定値は、抗体反応の標準的な方法論、例えば、イムノアッセイ、表面プラズモン共鳴(SPR)(Rich and Myszka Curr.Opin.Biotechnol 11:54,2000、Englebienne Analyst.123:1599,1998)、等温滴定熱量測定(ITC)、又は当該技術分野で既知の他の動態相互作用アッセイによって決定され得る。一例では、定数は、表面プラズモン共鳴アッセイを使用する、例えば、固定化されたDNAを用いるBIAcore表面プラズモン共鳴(BIAcore,Inc.、Piscataway,NJ)を使用することによって測定される。例示的なSPR方法は、米国特許第No.7,229,619号に記載されている。
【0111】
抗体断片
単鎖Fv(scFv)断片
当業者は、scFvが、単一のポリペプチド鎖内のVH及びVL領域、並びにscFvが抗原結合のための所望の構造を形成することを可能にする(すなわち、単一のポリペプチド鎖のVH及びVLが互いに会合してFvを形成するための)VHとVLとの間のポリペプチドリンカーを含むことを認識するであろう。単鎖可変断片は、完全抗体分子に見出される定常Fc領域を欠くため、免疫原性が低くなり得る。例示的なリンカーは、12個を超えるアミノ酸残基を含み、(Gly4Ser)3は、scFvに対してより好ましいリンカーのうちの1つである。好適なリンカーの別の例は、配列番号26に提供される。
【0112】
本開示はまた、単一のシステイン残基が、VHのFR及びVLのFR、並びにジスルフィド結合によって結合されたシステイン残基に導入されて安定したFvをもたらす、ジスルフィド安定化Fv(又はdiFv又はdsFv)も企図する。
【0113】
別の例では、本開示は、二量体scFv(di-scFV)、すなわち、非共有結合若しくは共有結合によって、例えば、ロイシンジッパードメイン(例えば、Fos又はJunに由来する)によって連結された2つのscFv分子を含むタンパク質、又は三量体scFV(tri-scFv)を包含する。別の例では、2つのscFvは、例えば、米国公開出願第20060263367号に記載のような、scFvの両方が形成され、抗原に結合することを可能にするのに十分な長さのペプチドリンカーによって連結される。例示的なリンカーは、配列番号27に提供される。
【0114】
ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ
いくつかの例では、本開示の抗原結合断片は、WO98/044001及び/又はWO94/007921に記載のものなどの、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、又は高次タンパク質複合体であるか、又はダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、又は高次タンパク質複合体を含む。
【0115】
例えば、ダイアボディは、2つの会合したポリペプチド鎖を含むタンパク質であり、各ポリペプチド鎖は、構造VL-X-VH又はVH-X-VLを含み、Xは、単一ポリペプチド鎖内のVH及びVLが会合する(又はFvを形成する)ことを可能にするには不十分な残基を含むリンカーであるか、又は存在せず、一方のポリペプチド鎖のVHは、他方のポリペプチド鎖のVLに結合して、抗原結合部位を形成する、すなわち、1つ以上の抗原に特異的に結合することができるFv分子を形成する。VL及びVHは、各ポリペプチド鎖において同じであり得るか、又はVL及びVHは、二重特異性ダイアボディを形成するために、各ポリペプチド鎖において異なり得る(すなわち、異なる特異性を有する2つのFvを含む)。
【0116】
他の抗体及び抗体断片
本開示によって包含される抗体の他の例としては、
(i)米国特許第5,731,168号に記載の「鍵及び鍵穴」二重特異性タンパク質、
(ii)例えば、米国特許第4,676,980号に記載のヘテロコンジュゲートタンパク質、
(iii)例えば、米国特許第4,676,980号に記載の化学的クロスリンカーを使用して産生されたヘテロコンジュゲートタンパク質、及び
(iv)Fab3(例えば、EP19930302894に記載のような)が挙げられる。
【0117】
結合タンパク質産生
組換え発現
一例では、結合タンパク質は、組換え型である。
【0118】
抗体又はその断片などの組換え結合タンパク質の場合、それをコードする核酸を発現ベクターにクローニングし得、次いで、これは、E.coli細胞、酵母細胞、昆虫細胞、又はサルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胚性腎臓(HEK)細胞、若しくは他の方法では免疫グロブリン若しくは抗体タンパク質を産生しない骨髄腫細胞などの哺乳動物細胞などの宿主細胞にトランスフェクションされる。
【0119】
好適な分子クローニング技術は、当該技術分野で既知であり、例えば、Ausubel et al.,(editors),Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988、現在までの全ての最新情報を含む)又はSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)に記載されている。幅広い種類のクローニング及びインビトロ増幅の方法が組換え核酸の構築に好適である。組換え抗体を産生する方法もまた当技術分野で既知である。米国特許第4,816,567号又は米国特許第5,530,101号を参照されたい。
【0120】
単離後、核酸は、更なるクローニング(DNAの増幅)のため、又は無細胞系若しくは細胞内で発現させるために、発現構築物又は発現ベクター内のプロモーターと作動可能に連結される。したがって、本開示の別の例は、本開示の結合タンパク質をコードする単離された核酸及び1つ以上の追加のヌクレオチド配列を含む発現構築物を提供する。好適には、発現構築物は、当該技術分野で理解されるように、プラスミド、バクテリオファージ、コスミド、酵母、又は細菌人工染色体の形態であるか、又はプラスミド、バクテリオファージ、コスミド、酵母、又は細菌人工染色体の遺伝的構成要素を含む。発現構築物は、細菌又は他の宿主細胞における単離された核酸の維持及び増殖、組換えDNA技術による操作、及び/又は本開示の結合タンパク質をコードする核酸の発現に好適であり得る。
【0121】
細胞内での発現のための多くのベクターが利用可能である。ベクター構成要素は、概して、シグナル配列(例えば、配列番号29)、結合タンパク質をコードする配列(例えば、本明細書に提供されるアミノ酸配列情報に由来する)、エンハンサー要素、プロモーター、及び転写終結配列のうちの1つ以上が含まれるが、これらに限定されない。例示的なシグナル配列としては、原核生物分泌シグナル(例えば、pelB、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、Ipp、又は熱安定性エンテロトキシンII)、酵母分泌シグナル(例えば、インベルターゼリーダー、α因子リーダー、又は酸性ホスファターゼリーダー)、又は哺乳動物分泌シグナル(例えば、単純ヘルペスgDシグナル)が挙げられる。
【0122】
哺乳動物細胞において活性な例示的なプロモーターとしては、サイトメガロウイルス前初期プロモーター(CMV-IE)、ヒト伸長因子1-αプロモーター(EF1)、小核RNAプロモーター(U1a及びU1b)、α-ミオシン重鎖プロモーター、サルウイルス40プロモーター(SV40)、ラウス肉腫ウイルスプロモーター(RSV)、アデノウイルス主要後期プロモーター、βアクチンプロモーター、CMVエンハンサー/βアクチンプロモーターを含むハイブリッド制御エレメント、若しくは免疫グロブリン若しくは抗体プロモーター又はその活性断片が挙げられる。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7、ATCC CRL 1651)、ヒト胚性腎臓株(293細胞又は懸濁培養下での増殖のためにサブクローニングされた293細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL10)、又はチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)である。
【0123】
例えば、Pichia pastoris、Saccharomyces cerevisiae、及びS.pombeを含む群から選択される酵母細胞などの酵母細胞における発現に好適な代表的なプロモーターには、ADH1プロモーター、GAL1プロモーター、GAL4プロモーター、CUP1プロモーター、PHO5プロモーター、nmtプロモーター、RPR1プロモーター、又はTEF1プロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0124】
発現のために単離された核酸又はそれを含む発現構築物を細胞に導入するための手段は当業者に既知である。所与の細胞のために使用される技術は、既知の成功した技術に依存する。組換えDNAを細胞内に導入するための手段としては、とりわけ、マイクロインジェクション、DEAE-デキストランによって媒介される形質移入、リポフェクタミン(Gibco、MD,USA)及び/又はセルフェクチン(Gibco,MD,USA)の使用によるなど、リポソームによって媒介される形質移入、PEG媒介DNA取込み、エレクトロポレーション、及びDNAコーティングされたタングステン又は金の粒子(Agracetus Inc.、WI,USA)の使用によるなどの微粒子衝撃が挙げられる。
【0125】
結合タンパク質の産生に使用される宿主細胞は、使用される細胞型に応じて様々な培地で培養され得る。Ham’s F10(Sigma)、最小必須培地((MEM)、(Sigma)、RPMl-1640(Sigma)、及びダルベッコ改変イーグル培地((DMEM)、Sigma)などの市販の培地は、哺乳動物細胞の培養に好適である。本明細書で論じられる他の細胞タイプを培養するための培地は、当技術分野で知られている。
【0126】
当業者は、前述の説明から、本開示が、本開示の結合タンパク質をコードする単離された核酸も提供することを理解するであろう。
【0127】
本開示はまた、プロモーターに作動可能に連結された本開示の単離された核酸を含む発現構築物を提供する。一例では、発現構築物は、発現ベクターである。
【0128】
一例では、本開示の発現構築物は、プロモーターに作動可能に連結されたポリペプチド(例えば、VHを含む)をコードする核酸、及びプロモーターに作動可能に連結された別のポリペプチド(例えば、VLを含む)をコードする核酸を含む。
【0129】
本開示はまた、本開示による発現構築物を含む宿主細胞を提供する。
【0130】
本開示はまた、本開示の結合タンパク質を発現する単離された細胞、又は結合タンパク質を発現するように遺伝子改変された組換え細胞を提供する。
【0131】
本開示による抗体を精製するための方法は、当該技術分野で既知であり、及び/又はWO2019/018426などの刊行物に記載されている。
【0132】
組成物
本開示は、対象に投与するための医薬組成物を含む。例示的な組成物は、上記の結合タンパク質のうちの1つ以上を含む。
【0133】
組成物はまた、結合タンパク質の投与のための薬学的に許容される担体又はアジュバントを含有し得る。いくつかの実施形態では、担体は、ヒトにおける使用に対して薬学的に許容される。担体又はアジュバントは、それ自体が、組成物を受ける個体に有害な抗体の産生を誘導してはならず、毒性であってはならない。好適な担体は、タンパク質、ポリペプチド、リポソーム、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマーアミノ酸、アミノ酸コポリマー、及び不活性ウイルス粒子などの、大きく、ゆっくり代謝される巨大分子であり得る。
【0134】
薬学的に許容される塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩及び硫酸塩などの鉱酸塩、又は酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、及び安息香酸塩などの有機酸塩が使用され得る。
【0135】
治療組成物中の薬学的に許容される担体は、更に、水、生理食塩水、グリセロール、及びエタノールなどの液体を含有し得る。更に、湿潤剤又は乳化剤又はpH緩衝物質などの補助物質がそのような組成物中に存在し得る。
【0136】
本明細書に開示される主題の組成物は、組成物の調製及び投与を容易にするための担体を更に含み得る。マイクロカプセル、例えば、マイクロスフィア又はナノスフィア(Manome et al.(1994)Cancer Res 54:5408-5413、Saltzman & Fung(1997)Adv Drug Deliv Rev 26:209-230)、グリコサミノグリカン(米国特許第6,106,866号)、脂肪酸(米国特許第5,994,392号)、脂肪エマルション(米国特許第5,651,991号)、脂質又は脂質誘導体(米国特許第5,786,387号)、コラーゲン(米国特許第5,922,356号)、多糖類又はその誘導体(米国特許第5,688,931号)、ナノ懸濁液(米国特許第5,858,410号)、ポリマーミセル又はコンジュゲート(Goldman et al.(1997)Cancer Res 57:1447-1451及び米国特許第4,551,482号、同第5,714,166号、同第5,510,103号、同第5,490,840号、及び同第5,855,900号)、及びポリソーム(米国特許第5,922,545号)を含むが、これらに限定されない任意の好適な送達ビヒクル又は担体が使用され得る。
【0137】
本発明の組成物は、薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を含み得る。好適な製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、殺菌性抗生物質、及び製剤を対象とするレシピエントの体液と等張にする溶質を含有し得る水性及び非水性の等張滅菌注射溶液、並びに懸濁化剤及び増粘剤を含み得る水性及び非水性の滅菌懸濁液が含まれる。製剤は、単位用量又は複数回用量の容器、例えば、密封されたアンプル及びバイアルで提供され得、使用直前に注射用の、滅菌液体担体、例えば、水の添加のみを必要とする凍結又はフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保管され得る。いくつかの例示的な成分は、0.1~10mg/ml、約2.0mg/mlの範囲のSDS、及び/又は10~100mg/ml、いくつかの実施形態では約30mg/mlの範囲のマンニトール又は別の糖、及び/又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。対象とする製剤の種類を考慮して、当該技術分野で慣用的な任意の他の薬剤が使用され得る。いくつかの例では、担体は、薬学的に許容される。いくつかの例では、担体は、ヒトにおける使用に対して薬学的に許容される。
【0138】
本開示の組成物は、5.5~8.5、好ましくは6~8、及びより好ましくは約7のpHを有し得る。pHは、緩衝液の使用によって維持され得る。組成物は、無菌及び/又はパイロジェンフリーであり得る。組成物は、ヒトに関して等張であり得る。本明細書に開示される主題の組成物は、密閉された容器に供給され得る。
【0139】
組成物は、本明細書に記載される有効量の1つ以上の結合タンパク質を含み得る。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、所望の疾患若しくは状態を治療、改善、若しくは予防するのに、又は検出可能な治療効果を示すのに十分な量を含み得る。例えば、いくつかの例では、組成物は、培養条件下で、又はそれを必要とする対象において、例えば、対照と比較して、好中球細胞外トラップ(NET)形成又はNETosisを低減するための有効量の1つ以上の結合タンパク質を含む。いくつかの例では、組成物は、疾患又は障害の1つ以上の症状を低減又は予防するための有効量で、好中球細胞外トラップ(NET)形成又はNETosisを低減するための有効量の1つ以上の結合タンパク質を含む。
【0140】
本開示の結合タンパク質及びそれを含む組成物は、投与方法に応じて様々な単位剤形で投与され得る。抗体又は断片医薬組成物などの典型的な結合タンパク質の投薬量は、当業者に周知である。そのような投薬量は、典型的には、本来、推奨値であり、特定の治療状況又は患者の忍容性に応じて調整される。これを達成するための適切な量の結合タンパク質は、「治療有効用量」として定義される。この使用に有効な投薬スケジュール及び量、すなわち「投薬レジメン」は、疾患又は状態の段階、疾患又は状態の重症度、患者の健康の一般的な状態、患者の身体状態、年齢、医薬製剤、及び活性剤の濃度などを含む様々な因子に依存する。患者の投薬量レジメンを計算する際に、投与様式も考慮される。投薬量レジメンはまた、薬物動態、すなわち、医薬組成物の吸収速度、生物学的利用能、代謝、クリアランスなども考慮に入れる必要がある。例えば、最新のRemington’s;Egleton,Peptides 18:1431-1439,1997、Langer,Science 249:1527-1533,1990を参照されたい。
【0141】
投与経路には、注射、皮下、筋肉内、関節内、静脈内、動脈内が含まれるが、これらに限定されない。一例では、結合タンパク質は、静脈内投与を介して送達される。別の例では、結合タンパク質は、皮下投与を介して送達される。別の例では、結合タンパク質は、注射を介して送達される。別の例では、結合タンパク質は、注入を介して送達される。別の例では、結合タンパク質は、関節内注射を介して関節空間に送達される。別の例では、結合タンパク質は、関節内注射を介して関節炎性関節に送達される。
【0142】
組成物は、単回用量治療で、又は複数回用量治療で、対象の年齢、体重、及び状態、使用される特定の結合タンパク質製剤、及び投与経路に適切なスケジュール及び期間にわたって投与され得る。
【0143】
治療、診断、又は監視される状態
本開示の方法は、様々な炎症性疾患の治療、予防、画像化、及び診断を包含する。本明細書で使用される場合、「炎症性疾患」という用語は、NET形成又はNETosisに関連する疾患を包含するように解釈される必要がある。一例では、疾患は、NET形成又はNETosisの増加に関連している。例示的な炎症性疾患としては、嚢胞性線維症、虚血、心血管疾患、歯周炎、線維症、掻痒症、皮膚の炎症、乾癬、多発性硬化症、関節リウマチ、変形性関節症、全身性エリテマトーデス、橋本甲状腺炎、重症筋無力症、I型又はII型糖尿病、糖尿病性腎症、喘息、炎症性肝損傷、炎症性糸球体損傷、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触性皮膚炎、刺激性接触性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、シェーグレン症候群、角結膜炎、ブドウ膜炎、血管炎、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、急性又は慢性の特発性炎症性関節炎、筋炎、脱髄性疾患、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、間質性腎炎、慢性活動性肝炎、痛風、代謝性疾患、肥満に関連する炎症、創傷治癒の遅れ、外傷、敗血症、敗血症性関節、敗血症性関節炎、無菌性関節炎が挙げられる。
【0144】
例えば、炎症性障害は、創傷治癒の遅延であり得る。一例では、創傷治癒の遅延は、糖尿病に続発する。代謝性疾患の例としては、糖尿病及び肥満が挙げられる。
【0145】
一例では、炎症性疾患は、自己免疫疾患である。自己免疫疾患の例としては、ループス、関節リウマチ、及びANCA関連血管炎(AAV)が挙げられる。一例では、炎症性疾患は、血管炎である。例えば、炎症性疾患は、ANCA関連血管炎(AAV)であり得る。AAVは、多系統自己免疫性小血管炎の群の包括的な用語である。AAV疾患には、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎を伴う肉芽腫症(GPA、以前は「ウェゲナー肉芽腫症」)、及び多発血管炎を伴う好酸球性肉芽腫症(EGPA、以前は「チャーグ・ストラウス症候群」)が含まれる。一例では、血管炎の治療は、部分壊死の低減によって特徴付けられる。例えば、部分壊死を伴う糸球体のパーセンテージが、治療後に低減する。一例では、血管炎の治療は、糸球体浸潤の低減によって特徴付けられる。一例では、糸球体マクロファージレベルが、治療後に減少する。別の例では、糸球体好中球レベルが、治療後に減少する。
【0146】
別の例では、炎症性疾患は、肺炎、好中球性喘息、好中球媒介性アナフィラキシー、炎症性肺損傷、慢性閉塞性肺疾患(COPD)からなる群から選択される。
【0147】
別の例では、炎症性疾患は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)である。一例では、ARDSは、中等度又は重度である。
【0148】
別の例では、炎症性疾患は、ライノウイルス、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、又はコロナウイルスなどのウイルス感染によって引き起こされる。一例では、ウイルス感染は、コロナウイルスによって引き起こされる。一例では、コロナウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、又は重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)である。
【0149】
特定の例において、炎症性疾患は、コロナウイルス疾患19(COVID-19)である。
【0150】
一例では、炎症性疾患は、移植片対宿主疾患である。一例では、炎症性疾患は、線維症である。例としては、肺及び腎臓の線維症が挙げられる。
【0151】
一例では、炎症性疾患は、糸球体腎炎である。
【0152】
一例では、炎症性疾患は、敗血症である。
【0153】
一例では、炎症性疾患は、敗血症性又は無菌性関節炎である。
【0154】
一例では、炎症性疾患は、びまん性血管内凝固(DIC)である。
【0155】
一例では、炎症性疾患は、血栓症又は静脈塞栓症、播種性血管内凝固、虚血/再灌流傷害、心筋梗塞、又は脳卒中などの血栓炎症性疾患である。
【0156】
一例では、炎症性疾患は、神経変性障害である。例えば、炎症性疾患は、多発性硬化症であり得る。一例では、炎症性疾患は、アルツハイマー病である。
【0157】
治療方法及び予防方法
本開示の結合タンパク質がNET形成を阻害することができることを示す知見を考慮して、様々な治療及び予防用途が想定される。一例では、本開示は、本明細書に記載の結合タンパク質又は組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、治療方法又は予防方法を包含する。一例では、対象は、炎症性疾患を有する。
【0158】
したがって、一例では、本開示は、本明細書に開示の結合タンパク質又は組成物を対象に投与することを含む、対象における炎症性疾患を治療する方法を提供する。
【0159】
一例では、本開示は、対象における炎症性疾患を治療する方法であって、配列番号1に示されるCDR1、配列番号2に示されるCDR2、配列番号3に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号4に示されるCDR1、配列番号5に示されるCDR2、及び配列番号6に示されるCDR3を有するVL、又はそれらのヒト化形態を含む、結合タンパク質を投与することを含む、方法を提供する。一例では、VHCDR1は、むしろ配列番号40を含み得る。例えば、方法は、配列番号9に示されるCDR1、配列番号11に示されるCDR2、配列番号13に示されるCDR3を有するVH、並びに配列番号14に示されるCDR1、配列番号16に示されるCDR2、及び配列番号17に示されるCDR3を有するVLを含む、結合タンパク質を投与することを含み得る。
【0160】
別の例では、本開示は、配列番号18に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号22に示されるアミノ酸配列を含むVLを含む結合タンパク質を投与することを含む、対象における炎症性疾患を治療する方法を提供する。
【0161】
別の例では、本開示は、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含むVH、及び配列番号8に示されるVL、又はそれらのヒト化形態を含む結合タンパク質を投与することを含む、対象における炎症性疾患を治療する方法を提供する。
【0162】
別の例では、治療は、本明細書に開示の核酸分解結合タンパク質を投与することを含む。
【0163】
本開示の予防方法は、対象におけるNET形成を防止するため、又は対象におけるNET形成を低減するために、対象に、本明細書に開示の細胞透過性抗DNA結合タンパク質を投与することを包含する。一例では、対象は、炎症性疾患を有する。別の例では、対象は、炎症性疾患を発症するリスクがある。例えば、対象は、炎症性疾患から寛解しているか、又はNETosisを引き起こすと予想される傷害若しくは感染若しくは曝露をこうむっていてもよい。したがって、一例では、本開示は、対象における好中球細胞外トラップ(NET)形成を防止する方法であって、方法が、対象に、本明細書に開示の結合タンパク質を投与することを含み、結合タンパク質が、培養条件下でのNET形成を阻害する、方法を包含する。別の例では、本開示は、対象における好中球細胞外トラップ(NET)形成を阻害する方法であって、方法が、対象に、細胞透過性抗DNA結合タンパク質を投与することを含み、細胞透過性抗DNA結合タンパク質が、培養条件下でNET形成を阻害する、方法を包含する。
【0164】
一例では、本開示による治療される対象は、血栓症又は塞栓症の増加したリスクを有する。例えば、対象の炎症性障害は、血栓症又は塞栓症のリスクを増加させ得る。別の例では、対象は、血栓症又は塞栓症のリスクを増加させるウイルスに感染している。例えば、対象は、コロナウイルス感染症を有し得る。
【0165】
別の例では、本開示は、対象における炎症性疾患を治療するための医薬品の製造における、本明細書に開示の結合タンパク質又は組成物の使用を提供する。
【0166】
NETによる血栓症又は塞栓症の形成の寄与を考慮して、別の例では、本開示の方法は、本明細書に開示の結合タンパク質を投与することによるこれらの事象の治療又は予防を包含する。一例では、本開示の方法は、対象における血栓症又は塞栓症を治療又は予防する方法であって、方法が、対象に、細胞透過性抗DNA結合タンパク質を投与することを含み、細胞透過性抗DNA抗体が、培養条件下で好中球細胞外トラップ(NET)形成を阻害する、方法を包含する。別の例では、本開示の結合タンパク質は、血栓症又は塞栓症のリスクを低減するために予防的に対象に投与され得る。
【実施例】
【0167】
実施例1-DX1は、PLB-985細胞を透過する
単離されたマウス又はヒト好中球を用いる作業は、それらの短い機能的寿命のために困難であり、顆粒球分化HL-60及びそれらのサブクローンPLB-985ヒト急性骨髄性白血病細胞は、NETosis研究のための単離された好中球に対する信頼できる代替物を提供する。核透過性抗DNA自己抗体3E10及びその誘導体DX1は、標的細胞を透過するためにヌクレオシドトランスポーターENT2の発現を必要とする。HL-60細胞におけるENT2の発現は以前に報告されており、DX1は、培養物中でPLB-985細胞の約100%に浸透することが確認された(
図1)。
【0168】
実施例2-DX1は、好中球様細胞によるNET形成を阻害する
PMAで処理された好中球は、NADPHオキシダーゼ(NOX)媒介の活性酸素種(ROS)の産生によって引き起こされるカスケードを受け、最終的にはNOX依存性NETosisを介したNETの放出をもたらす。分化PLB-985/HL-60細胞は、好中球の活性を反映し、DNAを脱凝縮し、NETを放出することによってPMA刺激に応答し、それらのクロマチン脱凝縮は、DAPI染色によって可視化され得る。分化PLB-985細胞を、対照培地又は10μMのDX1を含有する培地で1時間処理し、続いて、PMAを添加し、その後、DAPI染色によってクロマチン状態を可視化した。クロマチン脱凝縮を示唆する拡散したDAPI染色は、対照細胞の67.5±1.6%、及びDX1で前処理された細胞の37.8±2.7%(N=2)で観察された(
図2A、B)。
【0169】
SYTOX(商標)Greenは、NETosisで放出されるDNAの可視化を促進する非透過性蛍光DNA染色である。対照又は10μMのDX1で処理し、PMAで刺激された分化PLB-985細胞をSYTOX(商標)Greenに曝露し、蛍光顕微鏡下で蛍光を可視化し、プレートリーダーによって定量した。DX1は、得られたSYTOX(商標)Greenシグナルを有意に低減し、蛍光は、対照に対して、0.40±0.01に低減した(P<0.0001、N=3)(
図2C、2D)。この結果は、DX1によって媒介されるDNA放出の阻害と一致する。
【0170】
図2C、2DのDAPI及びSYTOX(商標)Green染色研究の結果は、分化PLB-985細胞によるクロマチン脱凝縮及びDNA放出のDX1媒介阻害と一致する。この効果を更に探査するために、DNA-タンパク質放出を、PMA刺激後の分化PLB-985細胞によって、細胞培養におけるNET-DNAの単離及び定量のための前述のプロトコルを使用して、分光光度法によるウェルに付着したDNA-タンパク質複合体を再懸濁及び定量することによって、測定した。このアッセイは、NETにおいて放出されたDNA-タンパク質複合体がウェルに少なくとも部分的に付着する一方で、無傷の細胞が、大部分が懸濁液中に留まるという概念に基づく。この区別は、細胞培養上清の吸引による付着性NET-DNAからの無傷の細胞の分離、続いて、付着性DNA-タンパク質複合体の再懸濁及び分光光度法による定量を可能にする。
【0171】
このアッセイにおいて、未分化及び分化PLB-985細胞のPMAに対する応答の違いを確認するために、対照研究を実施した。未分化及び分化PLB-985細胞を、対照又は300nMのPMAで処理し、続いて、分光光度法によってウェルに付着した予想されるNET-DNAを定量した。対照及びPMA刺激された未分化PLB-985細胞は、PMAに対する未分化細胞による応答の予想される非存在と一致して、それぞれ、0.73±0.03及び0.93±0.12ng/μL(P=0.12、N=3)の同様のDNA濃度をもたらした。対照的に、対照及びPMA刺激された分化PLB-985細胞は、PMAに応答するDNAの予想される放出と一致する、0.83±0.03及び4.40±0.27ng/μL(P=0.002、N=3)のDNA濃度をもたらした(
図3A)。これらの知見は、分化PLB-985細胞が、報告された分光光度法によって測定可能なPMAに対する応答を伴う顆粒球様挙動を示したという結論を支持する。更に、PMAで処理された未分化PLB-985細胞によるDNA放出に明らかな増加がないため、測定されたDNA濃度に対して非特異的PMA毒性による大きな寄与はないといえる。
【0172】
次に、PMAによって刺激された分化PLB-985細胞によるDNA放出に対する既知のNETosis阻害剤の効果を検出するためのこのアッセイの能力を検証した。ヒストンシトルリン化を触媒するペプチジルアルギニンデイミナーゼ4(PAD4)の活性は、顆粒球NETosisにとって重要であり、小分子選択的PAD4阻害剤GSK484は、以前に、NET放出を阻害することが示されている。分化PLB-985細胞を、0~50μMのGSK484で1時間処理した後、PMAで刺激し、続いて、分光光度法によって接着DNAを定量した。GSK484は、分化PLB-985細胞におけるNETosisの抑制と一致して、用量依存的に細胞外DNAを低減させた(
図3B)。
【0173】
未分化及び分化PLB-985細胞のPMAに対する応答の違い、並びに既知のPAD4阻害剤GSK484によって媒介されるPMAに対する応答の観察された阻害は、分化PLB-985細胞におけるNETosisに対するDX1の効果を評価する際のDNA分光光度測定アッセイの使用を支持した。分化PLB-985細胞を、対照緩衝液又は10μMのDX1を含有する培地で1時間処理し、続いてPMAの添加による刺激を行い、その後、上述の分光光度法によってDNA放出を定量した。結果は、対照培地で処理された未刺激細胞で得られたDNA含有量に対して表された。PMA刺激は、相対DNA含有量を4.50±0.14(P<0.0001、N=3)に増加させたが、DX1は、DNA放出の増加を1.80±0.11(P<0.0001、N=3)に抑制した(
図4)。これらの結果は、DX1によるNETosisの阻害、並びに上記のDAPI及びSYTOX(商標)Greenアッセイの知見と一致する。
【0174】
実施例3-DX1は、好中球様細胞においてH3のシトルリン化を低減しない
PAD4によるヒストンシトルリン化は、選択的PAD4阻害剤GSK484の標的となるNETosisにおける重要なステップである。対照又は10μMのDX1で1時間処理された分化PLB-985細胞を、PMAによって刺激し、細胞内容物を単離し、アクチンに対する正規化でウエスタンブロットによってH3Cit含有量について分析した。PMAでの対照細胞の刺激は、未刺激細胞に対してH3Cit含有量が0.64±0.06に低減することと関連しており、NET形成の過程におけるH3Citの放出と一致していた。対照的に、DX1で処理された細胞は、未刺激細胞に対してH3Cit含有量が1.46±0.20までの明らかな増加を示し(
図5A、5B)、DX1によるNET放出の阻害によるH3Citの細胞内への保持を示している可能性がある。これらのデータは、DX1がH3のシトルリン化を妨害せず、むしろNET及びそれらに関連するH3Cit内容物の放出を阻害することを示す。
【0175】
実施例4-DX1は、マウス好中球においてNETosisを引き起こさない
チオグリコレート処置されたマウスから得られ、20ウェルプレート上に直接播種された好中球を、対照培地又は10μMのDX1を含有する培地で30分間処理し、次いで、4時間観察し、その後、細胞を固定し、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)、H3Cit、及びペプチジルアルギニンデイミナーゼ4(PAD4)を含むNETのマーカーについて免疫染色した。100個の細胞当たりの放出されたNETのパーセンテージを、共焦点顕微鏡上での可視化によって決定し、ImageJ(NIH)によって分析した。対照又はDX1で処理された未刺激好中球では、NETはほとんど観察されなかった(それぞれ、3.5%±1.0及び4.0%±1.5、P=0.79、N=4)(
図6A、6B)。
【0176】
実施例5-DX1は、マウス好中球におけるNOX依存性NETosisを阻害する
チオグリコレート処置されたマウスから得られ、20ウェルプレート上に直接播種された好中球を、対照培地又は10μMのDX1を含有する培地で30分間処理し、次いで、NOX依存性NETosisを誘導するためにPMAで4時間刺激し、その後、細胞を固定し、MPO、H3Cit、及びPAD4を含むNETのマーカーについて免疫染色した。100個の細胞当たりの放出されたNETのパーセンテージを、共焦点蛍光顕微鏡上での可視化によって決定し、ImageJ(NIH)によって分析した。PMA刺激は、対照好中球の36.3%±11.1においてNETをもたらしたが、DX1処理された好中球のわずか8.3%±2.7であった(P=0.05、N=4)(
図7A、7B)。これらの結果は、マウス好中球において、PMAによって媒介されるNOX依存性NETosisの阻害を実証する。
【0177】
実施例6-DX1は、マウス好中球におけるNOX依存性NETosisを阻害する
チオグリコレート処置されたマウスから得られ、20ウェルプレート上に直接播種された好中球を、対照培地又は10μMのDX1を含有する培地で30分間処理し、次いで、NOX非依存性NETosisを誘導するためにカルシウムイオノフォア(イオノマイシン、IM)で4時間刺激し、その後、細胞を固定し、MPO、H3Cit、及びPAD4を含むNETのマーカーについて免疫染色した。100個の細胞当たりの放出されたNETのパーセンテージを、共焦点蛍光顕微鏡上での可視化によって決定し、ImageJ(NIH)によって分析した。IM刺激は、対照好中球の15.5%±3.1においてNETをもたらしたが、DX1処理された好中球においてはわずか2.3%±0.8であった(P<0.01、N=4)(
図8A、8B)。これらの結果は、マウス好中球において、IMによって媒介されるNOX非依存性NETosisの阻害を実証する。
【0178】
実施例7-DX1は、ANCA関連血管炎における糸球体炎症及び病理を有意に低減する
上記のように、NETは、特に、炎症性疾患の状況において、複数の疾患プロセスの病態生理学に寄与する。DX1などの細胞透過性抗DNA結合タンパク質が、好中球及び好中球様細胞を透過し、NET形成を抑制し得ることを示す上記データを考慮して、これらの知見の機能的意味は、血管炎の動物モデルにおいて確認された(
図9に要約される)。
図10A~10Dに示されるように、DX1は、DX1を摂取したMPO免疫化マウスにおいて、糸球体炎症及び病理を顕著に低減させた。DX1は、炎症及び病理を、Ova対照に対応するレベルまで低減させた。これらのデータは、特に、炎症性疾患の治療の状況において、NET形成を阻害するためにDX1などの抗DNA結合タンパク質を投与する可能性の更なる証拠を提供する。
【0179】
NETosisに関与するMPO酵素もまた、抗MPO自己抗体を発症する患者の疾患の原因であるため、DX1などの細胞透過性抗DNA結合タンパク質の使用は、ANCA血管炎の状況において特に興味深い。したがって、この疾患において、DX1などの細胞透過性抗DNA結合タンパク質は、疾患進行の管理が含まれる予防及び治療に使用され得る。
【0180】
要約
上記のデータは、DX1などの細胞透過性抗DNA結合タンパク質が好中球及び好中球様細胞を透過し、NET形成を阻害し得ることを示している。
【0181】
NETは、外傷、自己免疫、遺伝性疾患、及びがんを含む複数の疾患プロセスの病態生理学に寄与するため、本知見は、これらの結合タンパク質に新しい次元を追加する。実際、NET形成を調節する方法は、すでに臨床的に興味深いことであり、NET-DNAの溶解を促進するか、又はNET形成を防止するためのDNaseI又はヒストンシトルリン化の阻害剤の全身投与が報告されている(Park et al.(2016)Sci Transl Med.,8:361ra138、Perdomo et al.(2019)Nat Comm.,10:1322)。
【0182】
したがって、本知見は、NET形成(NETosis)の抑制が必要とされる非悪性状態の治療及び予防の両方において、DX1などの細胞透過性抗DNA結合タンパク質の可能性を実証する。
【0183】
NETはまた、がん及び転移に寄与する。したがって、本知見は、がん及び/又は転移性疾患の治療及び/又は予防において、これらの分子に新しい次元を追加する。
【0184】
方法
試薬及びPLB-985細胞
3E10誘導体DX1(PAT-DX1、Patrys Ltd、Melbourne,Australia)(配列(配列番号38)を有するdi-scFv)を生成し、前述のように精製した(Rattray et al.(2018)Biochem Biophys Res Commun.496:858-864、Colburn and Green(2006)Clin Chim Acta.370:9-16)。GSK484(#SML1658)は、MilliporeSigma(St.Louis,MO)から得た。PLB-985細胞は、HL-60ヒト急性骨髄性白血病細胞のサブクローンであり、Leibniz Institute DSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH(Braunschweig,Germany)との物質移転契約によって得られ、受領の1ヶ月以内に使用された。細胞を、37℃、5%のCO2で、RPMI+10%のFBS中で増殖させ、1.3%のDMSOを増殖培地に6日間添加することによって、顆粒球様細胞に分化させた。別段の指定されない限り、他の全ての材料及び試薬は、Thermo Fisher Scientific(Waltham,MA,USA)から入手した。
【0185】
細胞透過アッセイ
Shi-fixカバースリップ(Shikhar Biotech、Khumaltar,Lalitpur,Nepal)上の培養されたPLB-985細胞を、対照培地又は5μMのDX1を含む培地で1時間処理し、次いで、洗浄し、100%冷却エタノールで固定した。細胞内のDX1の存在を、Pierce(商標)組換えタンパク質L(1:1000)(#21189、Thermo Fisher Scientific)、タンパク質Lポリクローナル抗体(1:1000)(#PA1-72066、Thermo Fisher Scientific)、及びヤギ抗トリIgY(H+L)アルカリホスファターゼ二次抗体(1:1000)(#PA1-28799、Thermo Fisher Scientific)とのインキュベーションによって評価した。アルカリホスファターゼ媒介シグナルの発生は、明視野顕微鏡下で可視化された(EVOS FL、Thermo Fisher Scientific)。
【0186】
分化PLB-985細胞におけるクロマチン脱凝縮の可視化
分化PLB-985細胞を、5×104細胞/ウェルで、12ウェルプレート中のShi-fixカバースリップ上に播種した。細胞を、対照培地又は10μMのDX1を含有する培地で1時間処理し、その後、2時間、300nMのPMAの添加によって細胞を刺激した。細胞をエタノールで固定し、続いてDAPIを添加し、蛍光顕微鏡(EVOS FL、Thermo Fisher Scientific)によってクロマチン脱凝縮を可視化した。PMA刺激に対する予想される応答を示した細胞のパーセンテージを、処置条件ごとに少なくとも150個の細胞において、全細胞及び可視化されたDAPIシグナルの脱凝縮を伴う細胞の数を計数することによって測定した。
【0187】
SYTOX(商標)Green染色による細胞外DNAの可視化及び定量
分化PLB-985細胞を、黒色壁の96ウェルプレート中で5×104細胞/ウェルで培養し、対照緩衝液又は10μMのDX1とともに1時間インキュベーションした。次いで、2時間、300nMのPMAの添加によって細胞を刺激した。細胞外DNAの検出を容易にするために、SYTOX(商標)Green(5μM)を添加した。SYTOX(商標)Greenの蛍光を、蛍光顕微鏡(EVOS FL、Thermo Fisher Scientific)によって可視化し、蛍光強度をプレートリーダーによって、485nm及び527nmの励起及び発光波長で測定した。
【0188】
分光光度法によるPMAでの刺激後の分化PLB-985細胞によって放出されたDNAの定量
分化PLB-985細胞を、12ウェルプレート中に8×105細胞/ウェルで播種し、対照緩衝液又は10μMのDX1を含有する緩衝液とともに1時間インキュベーションした。次いで、4時間、300nMのPMAの添加によって細胞を刺激した(刺激時間は、DAPI及びSYTOX(商標)Green染色並びにウエスタンブロット実験と比較して4時間に延長され、DNA-タンパク質複合体のウェルへの付着のためのより多くの時間を可能にした)。上清を吸引し、ウェルをPBSで一度穏やかに洗浄した。ウェルに付着した残留内容物をPBSに抽出し、DNA含有量を、製造業者の指示に従ってNanodrop Lite(Thermo Fisher Scientific)を使用して分光光度法によって決定した。
【0189】
H3Citウエスタンブロット
12ウェルプレート中の8×105細胞/ウェルの分化PLB-985細胞を、対照緩衝液又は10μMのDX1を含有する緩衝液とともに1時間インキュベーションし、次いで、2時間、300nMのPMAの添加によって刺激した。細胞を遠心分離によって単離し、RIPA緩衝液中に溶解し、抗H3Cit一次(#AB5103、abcam、Cambridge,MA,USA)及びヤギ抗ウサギHRPコンジュゲート二次抗体を1:5000で(#AB205718、abcam)使用して、ウエスタンブロットによってH3Cit含有量を決定した。アクチン担持対照に対して正規化されたH3Citバンド強度は、ImageJ(NIH、Bethesda,MD)によって決定された。
【0190】
マウス好中球及びNETosisの可視化
全てのマウス実験は、Monash Universityの動物倫理委員会によって承認されたプロトコルに従って実施された。好中球を、10週齢の4%のチオグリコレートで刺激された雄のC57BL/6マウスの腹腔から回収した(N=8)。20ウェルプレート中に2×105細胞/ウェルで播種した好中球を、30分間静置し、次いで、対照培地又は10μMのDX1を含有する培地で30分間処理した。NETosisを、4時間、PMA(40μg/mL)又はIM(4μM、Stem Cell Technologies、VIC,Australia)の添加によって刺激した。細胞を、一晩、過ヨウ素酸リジンパラホルムアルデヒド(PLP)中で固定し、ミエロペルオキシダーゼ(MPO、#AF3667 R&D Systems、MN,USA)、H3Cit、及びPAD4(#AB128086、abcam)を含むNETのマーカーに対して免疫染色し、DAPI ProLong(商標)Gold(Molecular Probes、Thermo Fisher Scientific)に入れ、NETを、Nikon Ti-E倒立顕微鏡(Nikon Isntruments Inc、Melville,NY,USA)を備えた共焦点蛍光顕微鏡によって可視化した。405、488、及び561、並びに647nmレーザーを使用して、DAPI、Alexa488、Alexa594、並びにAlexa647を特異的に励起した。各処理条件において形成されたNETのパーセンテージを、ImageJ(NIH)を使用して決定した。
【0191】
統計学
統計分析を、GraphPad Prism、バージョン9.2で実施した。P値は、2つの群を比較した場合、両側スチューデントのt検定、及び複数の群の場合、テューキーの多重比較検定を伴う一元配置ANOVAによって決定された。P≦0.05を有意とみなした。図中の誤差バーは、平均値の標準誤差(SEM)を表す。反復の数は、図に示される。
【0192】
マウス好中球及びNETosisの可視化
好中球を、前述のように、4%のチオグリコレートで刺激されたマウス(N=8)の腹腔から回収した(24)。20ウェルプレート中に2×105細胞/ウェルで播種した好中球を、30分間静置し、次いで、対照培地又は10μMのDX1を含有する培地で30分間処理した。NETosisを、4時間、PMA(40μg/mL)又はイオノマイシン(IM)(4μM、Stem Cell Technologies、VIC,Australia)の添加によって刺激した。細胞を、一晩、過ヨウ素酸リジンパラホルムアルデヒド(PLP)中で固定し、ミエロペルオキシダーゼ(MPO、#AF3667 R&D Systems、MN,USA)、H3Cit、及びPAD4(#AB128086、Abcam)を含むNETのマーカーに対して免疫染色し、DAPI Prolong Gold(Molecular Probes)に入れ、NETを、共焦点顕微鏡(Nikon Ti-E倒立顕微鏡、405、488、及び561nm 647nmのレーザーを使用して、DAPI、Alexa488、Alexa594、及びAlexa647を特異的に励起した)によって可視化した。各処理条件において形成されたNETのパーセンテージを、ImageJ(NIH)を使用して決定した。
【0193】
ANCA関連血管炎のマウスモデル
図9に示されるように、マウスを0及び7日目にMPO+FCAで免疫化し、続いて、16日目に抗GBM及び/又はDX1を投与した。2用量のDX1を摂取したマウスは、18日目に第2の用量を摂取した。マウスを、20日目に評価のために処分した。
【0194】
マウスを以下の4つの群に分けた:Ova対照(n=4)、MPO免疫化 DX1での処置なし(n=8)、MPO免疫化及び25mg/kgで1用量のDX1(n=8)、並びにMPO免疫化、25mg/kgで2用量のDX1。
【0195】
当業者であれば、広範に説明される本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく、多くの変形及び/又は修正が特定の実施形態に示される本開示に行われ得ることを理解するであろう。したがって、本実施形態は、全ての点で例示的であり、限定的ではないとみなされるべきである。
【0196】
本出願は、2021年8月30日に出願された米国仮特許出願第63/238,657号及び2022年3月29日に出願された第63/324,784号の優先権を主張し、その開示は、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0197】
上で論じられた全ての出版物は、その全体が本明細書に組み込まれる。本明細書に含まれている文書、行為、材料、デバイス、物品などのいかなる論述も、単に本開示の文脈を提供する目的のものである。これらの事項のいずれか又は全ては、本出願の各請求項の優先日前に存在していた本開示に関連する分野における先行技術の基礎の一部分を形成するか、又は共通の一般的知識であったことを認めるものとして解釈されるべきではない。
【配列表】
【国際調査報告】