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特表2024-531012フェライト粒子及びフェライト粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】フェライト粒子及びフェライト粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
C01G49/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023545201
(86)(22)【出願日】2022-07-29
(85)【翻訳文提出日】2023-07-26
(86)【国際出願番号】 CN2022108810
(87)【国際公開番号】W WO2024020979
(87)【国際公開日】2024-02-01
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シャオエイ
(72)【発明者】
【氏名】田淵 穣
(72)【発明者】
【氏名】矢木 直人
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
(72)【発明者】
【氏名】スン シャオ
(72)【発明者】
【氏名】チョウ ウエイ
(72)【発明者】
【氏名】グオ ジェン
【テーマコード(参考)】
4G002
【Fターム(参考)】
4G002AA06
4G002AA07
4G002AB01
4G002AE05
(57)【要約】
本発明は、モリブデンを含むフェライト粒子に関する。また、本発明は、モリブデン化合物の存在下で、金属化合物及び鉄化合物を焼成することを含む、前記フェライト粒子の製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンを含むフェライト粒子。
【請求項2】
スピネル構造を有する、請求項1に記載のフェライト粒子。
【請求項3】
前記スピネル構造が、AFe(式中、Aは、Ni、Mn、Cu、Zn、Mg、Ca、Coから選択される1又は複数の元素である)で表される、請求項2に記載のフェライト粒子。
【請求項4】
前記フェライト粒子におけるモリブデン含有量は、前記フェライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フェライト粒子100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)で0.1~30質量%である、請求項1又は2に記載のフェライト粒子。
【請求項5】
前記フェライト粒子の表層におけるモリブデン含有量は、前記フェライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フェライト粒子の表層100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)で2.0~95.0質量%である、請求項1又は2に記載のフェライト粒子。
【請求項6】
前記モリブデンが前記フェライト粒子の表層に偏在する、請求項1又は2に記載のフェライト粒子。
【請求項7】
前記フェライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フェライト粒子100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)に対する、前記フェライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フェライト粒子の表層100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)である、モリブデンの表層偏在比(Mo/Mo)が1.0~80である、請求項1又は2に記載のフェライト粒子。
【請求項8】
前記フェライト粒子の一次粒子の平均粒子径が0.1~100μmである、請求項1又は2に記載のフェライト粒子。
【請求項9】
BET法で測定される比表面積が0.1~2.5m/gである、請求項1又は2に記載のフェライト粒子。
【請求項10】
請求項1に記載のフェライト粒子の製造方法であって、モリブデン化合物の存在下で、金属化合物及び鉄化合物を焼成することを含む、フェライト粒子の製造方法。
【請求項11】
前記モリブデン化合物の存在下で、前記金属化合物及び前記鉄化合物に、更に亜鉛化合物を加えて焼成することを含む、請求項10に記載のフェライト粒子の製造方法。
【請求項12】
前記モリブデン化合物が、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である、請求項10又は11に記載のフェライト粒子の製造方法。
【請求項13】
前記焼成する焼成温度が800~1500℃である、請求項10又は11に記載のフェライト粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト粒子及びフェライト粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライトは、酸化鉄(Fe)を主成分とする複酸化物であり、主に磁性材料として様々な分野で利用されている。近年、自動車など車両の電装化による車内電磁波環境の過密化に伴い、ノイズ抑制シートの需要が拡大している。現状ではカーナビゲーションや車載カメラ向けのノイズ抑制シートが中心であるが、今後ミリ波レーダーに向けての需要が期待できる。また、通信分野では、5G化に伴い、スマートフォン用のノイズ抑制シートにおいて高シールド性能の要求が高まっている。
【0003】
特許文献1には、六方晶フェライト前駆体を含む水溶液を300℃以上に加熱し、かつ20MPa以上に加圧することにより前記前駆体を六方晶フェライトに転換することで、一般式AFe1219で表されるフェライトを得る、六方晶フェライト粉末の製造方法が開示されている。また、上記一般式におけるAは、二価金属原子であり、二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンとなり得る金属原子であって、バリウム、ストロンチウム、カルシウム等のアルカリ土類金属原子や鉛等が含まれることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、ガラス形成成分および六方晶フェライト形成成分を含む原料混合物を溶融し、得られた溶融物を急冷し固形物を得ること、得られた固形物を加熱処理することにより六方晶フェライト磁性粒子およびガラス成分を析出させる六方晶フェライト磁性粉末の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-222517号公報
【特許文献2】特開2020-100561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のフェライト粒子とその製造方法についての知見は限られており、未だ検討の余地がある。また、従来のフェライト粒子の製造方法では、湿式プロセスやゾルゲル反応を用いるのが通常であり、湿式プロセスやゾルゲル反応では粒径制御が難しいことから、用途に応じた所定の粒径或いは所定の粒径分布を有するフェライト粒子を得るのが困難である。
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、優れた特性を有するフェライト粒子、及び該フェライト粒子を容易に製造することができるフェライト粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、モリブデン化合物をフラックスとして使用することで、乾式混合によってフェライト粒子を容易に製造可能であること、モリブデンを含むフェライト粒子を容易に製造可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0009】
[1]モリブデンを含むフェライト粒子。
【0010】
[2]スピネル構造を有する、上記[1]に記載のフェライト粒子。
【0011】
[3]前記スピネル構造が、AFe(式中、Aは、Ni、Mn、Cu、Zn、Mg、Ca、Coから選択される1又は複数の元素である)で表される、上記[2]に記載のフェライト粒子。
【0012】
[4]前記フェライト粒子におけるモリブデン含有量は、前記フェライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フェライト粒子100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)で0.1~30質量%である、上記[1]又は[2]に記載のフェライト粒子。
【0013】
[5]前記フェライト粒子の表層におけるモリブデン含有量は、前記フェライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フェライト粒子の表層100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)で2.0~95.0質量%である、上記[1]又は[2]に記載のフェライト粒子。
【0014】
[6]前記モリブデンが前記フェライト粒子の表層に偏在する、上記[1]又は[2]に記載のフェライト粒子。
【0015】
[7]前記フェライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フェライト粒子100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)に対する、前記フェライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フェライト粒子の表層100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)である、モリブデンの表層偏在比(Mo/Mo)が1.0~80.0である、上記[1]又は[2]に記載のフェライト粒子。
【0016】
[8]前記フェライト粒子の一次粒子の平均粒子径が0.1~100μmである、上記[1]又は[2]に記載のフェライト粒子。
【0017】
[9]BET法で測定される比表面積が0.1~2.5m/gである、上記[1]又は[2]に記載のフェライト粒子。
【0018】
[10]上記[1]に記載のフェライト粒子の製造方法であって、モリブデン化合物の存在下で、金属化合物及び鉄化合物を焼成することを含む、フェライト粒子の製造方法。
【0019】
[11]前記モリブデン化合物の存在下で、前記金属化合物及び前記鉄化合物に、更に亜鉛化合物を加えて焼成することを含む、上記[10]に記載のフェライト粒子の製造方法。
【0020】
[12]前記モリブデン化合物が、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である、上記[10]又は[11]に記載のフェライト粒子の製造方法。
【0021】
[13]前記焼成する焼成温度が800~1500℃である、上記[10]又は[11]に記載のフェライト粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、優れた特性を有するフェライト粒子、及び該フェライト粒子を容易に製造することができるフェライト粒子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例1で得られたフェライト粒子のSEM画像である。
図2】実施例2で得られたフェライト粒子のSEM画像である。
図3】実施例3で得られたフェライト粒子のSEM画像である。
図4】実施例4で得られたフェライト粒子のSEM画像である。
図5】実施例5で得られたフェライト粒子のSEM画像である。
図6】実施例6で得られたフェライト粒子のSEM画像である。
図7】実施例7で得られたフェライト粒子のSEM画像である。
図8】実施例8で得られたフェライト粒子のSEM画像である。
図9】実施例9で得られたフェライト粒子のSEM画像である。
図10】実施例10で得られたフェライト粒子のSEM画像である。
図11】実施例11で得られたフェライト粒子のSEM画像である。
図12】比較例1で得られたフェライト粒子のSEM画像である。
図13】実施例1~10及び比較例1で得られたフェライト粒子のX線回折(XRD)パターンである。
図14】実施例11で得られたフェライト粒子のX線回折(XRD)パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
≪フェライト粒子≫
実施形態のフェライト粒子は、モリブデンを含むものである。実施形態のフェライト粒子は、モリブデンを含んでおり、モリブデンに由来する磁性等の優れた特性を有する。
また、実施形態のフェライト粒子は、粒子形状が制御されているという優れた特性を有することができる。
また、実施形態のフェライト粒子は、凝集の程度が少ない又は凝集が無いという優れた特性を有することができる。
【0026】
実施形態のフェライト粒子は、後述する製造方法において使用されるモリブデン化合物に由来したモリブデンを含むことができる。また、後述する製造方法においてモリブデン化合物を使用することで、製造されるフェライト粒子の粒子形状の制御が可能である。
【0027】
実施形態のフェライト粒子に含まれるモリブデンとしては、その存在状態や量は特に制限されず、モリブデン金属の他、酸化モリブデンや一部が還元されたモリブデン化合物等としてフェライト粒子に含まれてよい。モリブデンは、MoOとしてフェライト粒子に含まれると考えられるが、MoO以外にもMoOやMoO等としてフェライト粒子に含まれてもよい。
【0028】
モリブデンの含有形態は、特に制限されず、フェライト粒子の表面に付着する形態で含まれていても、フェライト粒子の結晶構造の一部に置換された形態で含まれていても、アモルファスの状態で含まれていてもよいし、これらの組み合わせであってもよい。
【0029】
このように実施形態のフェライト粒子は、モリブデンを含むことができ、特に後述する製造方法において使用されるモリブデン化合物に由来したモリブデンを含むことができるので、従来のフェライト粒子と比較して磁性性能の向上が期待できる。
【0030】
本明細書において、フェライト粒子の粒子形状を制御することとは、製造されたフェライト粒子の粒子形状が無定形では無いことを意味する。本明細書において、粒子形状の制御されたフェライト粒子とは、粒子形状が無定形では無いフェライト粒子を意味する。
実施形態のフェライト粒子は、多角形状を有するものであってもよい。実施形態のフェライト粒子は結晶形状が制御され、多角形状の自形を有することができる。結晶形状が制御されたフェライト粒子は、後述する製造方法により製造可能である。
【0031】
フェライト粒子の集合体(粉体)は、多角形状以外の形状のフェライト粒子を、如何なる状態で含んでいても構わない多角形状のフェライト粒子の含有割合は、フェライト粒子の集合体(粉体)の総量に対し、重量基準又は個数基準で80%以上が好ましく、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上である。フェライト粒子の形態は、走査型電子顕微鏡(SEM)により確認することができる。
【0032】
実施形態のフェライト粒子は、後述する製造方法において、モリブデン化合物の使用量や種類、焼成温度等を制御することにより、得られるフェライト粒子の粒子サイズやモリブデン含有量を制御できる。
【0033】
実施形態のフェライト粒子の一次粒子の平均粒子径は、0.1~100μmであってもよく、0.1~50μmであってもよく、1.0~40μmであってもよく、1.5~30μmであってもよい。
【0034】
フェライト粒子の一次粒子の平均粒子径とは、フェライト粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、二次元画像上の最小単位の粒子(すなわち、一次粒子)について、ランダムに選ばれた50個の一次粒子の輪郭線上の2点間の距離のうち、最大の長さを測定した平均値を採用する。
【0035】
実施形態のフェライト粒子の、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50は、0.5~50μmであってもよく、1~40μmであってもよく、1.5~35μmであってもよい。
【0036】
フェライト粒子の、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50は、レーザー回折式粒度分布計を用いて乾式で測定された粒子径分布において、体積積算%の割合が50%となる粒子径として求めることができる。
【0037】
実施形態のフェライト粒子の、BET法により求められる比表面積は、0.1~2.5m/gであってもよく、0.15~2.5m/gであってもよく、0.1~2.0m/gであってもよく、0.2~2.0m/gであってもよい。
【0038】
上記の比表面積は、比表面積計(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、BELSORP-mini)にて測定し、BET法(Brunauer-Emmett-Teller法)による窒素ガスの吸着量から測定された試料1g当たりの表面積を、比表面積(m/g)として算出する。
【0039】
実施形態のフェライト粒子は、フェライトを含むものである。フェライト粒子は、スピネル構造やガーネット構造など、種々の結晶構造をとり得るが、本実施形態ではスピネル構造を有することが好ましい。スピネル構造は、例えば、AFe(式中、Aは、Ni、Mn、Cu、Zn、Mg、Ca、Coから選択される1又は複数の元素である)で表される。典型的には、スピネル構造は、AFe(式中、Aは、Ni、Mn、Cu、Zn、Mg、Ca、Coから選択される1種又は2種の元素である)で表される。
【0040】
実施形態のフェライト粒子は、前記フェライト粒子100質量%に対して、AFeを65~99.95質量%含むことが好ましく、70~99.5質量%含むことがより好ましく、90~99質量%含むことがさらに好ましい。
【0041】
フェライト粒子は、ニッケルを含有していてもよい。フェライト粒子に含まれるニッケル含有量は、XRF分析により測定できる。実施形態のフェライト粒子におけるニッケル含有量は、前記フェライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フェライト粒子100質量%に対するNiO換算での含有率(Ni)で、5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、15~30質量%であることがさらに好ましい。
【0042】
フェライト粒子に含まれる鉄含有量は、XRF分析により測定できる。実施形態のフェライト粒子における鉄含有量は、前記フェライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フェライト粒子100質量%に対するFe換算での含有率(Fe)で、35~80質量%であることが好ましく、40~75質量%であることがより好ましく、45~70質量%であることがさらに好ましい。
【0043】
フェライト粒子に含まれるモリブデン含有量は、XRF分析により測定できる。実施形態のフェライト粒子におけるモリブデン含有量は、前記フェライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フェライト粒子100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)で、0.1質量%以上であることが好ましく、0.1~30質量%であることが好ましく、0.5~25質量%であることがより好ましく、0.75~20質量%であることがより好ましい。
【0044】
実施形態のフェライト粒子における、上記で例示した含有率(Ni)、含有率(Fe)及び含有率(Mo)の各上限値及び下限値の値は、自由に組み合わせることができる。また、含有率(Ni)、含有率(Fe)及び含有率(Mo)の数値同士も、自由に組み合わせることができる。
【0045】
実施形態のフェライト粒子の一例として、スピネル構造がNiFeで表される場合、前記フェライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フェライト粒子100質量%に対する、
含有率(Ni)が15~45質量%であり、含有率(Fe)が35~75質量%であり、及び含有率(Mo)が0.1~30質量%であるフェライト粒子であってよく、
含有率(Ni)が17.5~40質量%であり、含有率(Fe)が40~70質量%であり、及び含有率(Mo)が0.5~25質量%であるフェライト粒子であってよく、
含有率(Ni)が20~35質量%であり、含有率(Fe)が45~65質量%であり、及び含有率(Mo)が0.75~20質量%であるフェライト粒子であってよい。
【0046】
フェライト粒子は、更に亜鉛を含有していてもよい。フェライト粒子に含まれる亜鉛含有量は、XRF分析により測定できる。実施形態のフェライト粒子における亜鉛含有量は、前記フェライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フェライト粒子100質量%に対するZnO換算での含有率(Zn)で、0.5~25質量%であることが好ましく、0.75~20質量%であることがより好ましく、0.1~15質量%であることがさらに好ましい。
【0047】
実施形態のフェライト粒子における、上記で例示した含有率(Ni)、含有率(Fe)、含有率(Zn)及び含有率(Mo)の各上限値及び下限値の値は、自由に組み合わせることができる。また、含有率(Ni)、含有率(Fe)、含有率(Zn)及び含有率(Mo)の数値同士も、自由に組み合わせることができる。
【0048】
実施形態のフェライト粒子の一例として、スピネル構造がNiFeで表される場合、前記フェライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フェライト粒子100質量%に対する、
含有率(Ni)が10~40質量%であり、含有率(Fe)が45~60質量%であり、含有率(Zn)が0.5~20質量%であり、及び含有率(Mo)が0~5質量%であるフェライト粒子であってよく、
含有率(Ni)が12.5~35質量%であり、含有率(Fe)が47.5~57.5質量%であり、含有率(Zn)が0.75~17.5質量%であり、及び含有率(Mo)が0.1~3質量%であるフェライト粒子であってよく、
含有率(Ni)が15~30質量%であり、含有率(Fe)が50~55質量%であり、含有率(Zn)が1.0~15質量%であり、及び含有率(Mo)が0.5~2.5質量%であるフェライト粒子であってよい。
【0049】
また、フェライト粒子は、ニッケルに代えてマンガンを含有していてもよい。フェライト粒子に含まれるマンガン含有量は、XRF分析により測定できる。実施形態のフェライト粒子におけるマンガン含有量は、前記フェライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フェライト粒子100質量%に対するMnO換算での含有率(Mn)で、10~60質量%であることが好ましく、20~50質量%であることがより好ましく、30~40質量%であることがさらに好ましい。
【0050】
実施形態のフェライト粒子における、上記で例示した含有率(Mn)、含有率(Fe)及び含有率(Mo)の各上限値及び下限値の値は、自由に組み合わせることができる。また、含有率(Mn)、含有率(Fe)及び含有率(Mo)の数値同士も、自由に組み合わせることができる。
【0051】
実施形態のフェライト粒子の一例として、スピネル構造がMnFeで表される場合、前記フェライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フェライト粒子100質量%に対する、
含有率(Mn)が10~60質量%であり、含有率(Fe)が30~80質量%であり、及び含有率(Mo)が0質量%であるフェライト粒子であってよく、
含有率(Mn)が20~50質量%であり、含有率(Fe)が40~75質量%であり、及び含有率(Mo)が0質量%であるフェライト粒子であってよく、
含有率(Mn)が30~40質量%であり、含有率(Fe)が50~70質量%であり、及び含有率(Mo)が0質量%であるフェライト粒子であってよい。
【0052】
上記の、XRF分析には、蛍光X線分析装置(例えば、株式会社リガク製、PrimusIV)を用いることができる。
【0053】
NiO換算での含有率(Ni)とは、フェライト粒子をXRF分析することによって求められるニッケル含有量を、NiO換算の検量線を用いて換算したNiO量から求めた値を云う。
【0054】
Fe換算での含有率(Fe)とは、フェライト粒子をXRF分析することによって求められる鉄含有量を、Fe換算の検量線を用いて換算したFe量から求めた値を云う。
【0055】
MoO換算での含有率(Mo)とは、フェライト粒子をXRF分析することによって求められるモリブデン含有量を、MoO換算の検量線を用いて換算したMoO量から求めた値を云う。
【0056】
ZnO換算での含有率(Zn)とは、フェライト粒子をXRF分析することによって求められる亜鉛含有量を、ZnO換算の検量線を用いて換算したZnO量から求めた値を云う。
【0057】
MnO換算での含有率(Mn)とは、フェライト粒子をXRF分析することによって求められるマンガン含有量を、MnO換算の検量線を用いて換算したMnO量から求めた値を云う。
【0058】
フェライト粒子の表層に含まれるニッケル含有量は、XPS(X線光電子分光)表面分析により測定できる。実施形態のフェライト粒子の表層におけるニッケル含有量は、前記フェライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フェライト粒子の表層100質量%に対するNiO換算での含有率(Ni)で、0~65質量%であることが好ましく、0~60質量%であることがより好ましく、0~55質量%であることがさらに好ましい。
【0059】
フェライト粒子の表層に含まれる鉄含有量は、XPS(X線光電子分光)表面分析により測定できる。実施形態のフェライト粒子の表層における鉄含有量は、前記フェライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フェライト粒子の表層100質量%に対するFe換算での含有率(Fe)で、5~65質量%であることが好ましく、10~60質量%であることがより好ましく、12.5~57.5質量%であることがさらに好ましい。
【0060】
フェライト粒子の表層に含まれるモリブデン含有量は、XPS(X線光電子分光)表面分析により測定できる。実施形態のフェライト粒子の表層におけるモリブデン含有量は、前記フェライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フェライト粒子の表層100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)で、1質量%以上であることが好ましく、2.0~95質量%であることが好ましく、2.5~90質量%であることがより好ましく、3.0~87.5質量%であることがさらに好ましい。
【0061】
実施形態のフェライト粒子における、上記で例示した含有率(Ni)、含有率(Fe)及び含有率(Mo)の各上限値及び下限値の値は、自由に組み合わせることができる。また、含有率(Ni)、含有率(Fe)及び含有率(Mo)の数値同士も、自由に組み合わせることができる。
【0062】
実施形態のフェライト粒子の一例として、スピネル構造がNiFeで表される場合、前記フェライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フェライト粒子の表層100質量%に対する、
含有率(Ni)が0~60質量%であり、含有率(Fe)が5~65質量%であり、及び含有率(Mo)が2.5~90質量%であるフェライト粒子であってよく、
含有率(Ni)が3~57.5質量%であり、含有率(Fe)が10~60質量%であり、及び含有率(Mo)が5~87.5質量%であるフェライト粒子であってよく、
含有率(Ni)が5~55質量%であり、含有率(Fe)が12.5~55質量%であり、及び含有率(Mo)が7.5~85質量%であるフェライト粒子であってよい。
【0063】
フェライト粒子は、上述のように、更に亜鉛を含有していてもよい。フェライト粒子に含まれる亜鉛含有量は、XPS(X線光電子分光)表面分析により測定できる。実施形態のフェライト粒子の表層における亜鉛含有量は、前記フェライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フェライト粒子の表層100質量%に対するZnO換算での含有率(Zn)で、0.1~10質量%であることが好ましく、0.25~8質量%であることがより好ましく、0.5~6質量%であることがさらに好ましい。
【0064】
実施形態のフェライト粒子における、上記で例示した含有率(Ni)、含有率(Fe)、含有率(Zn)及び含有率(Mo)の各上限値及び下限値の値は、自由に組み合わせることができる。また、含有率(Ni)、含有率(Fe)、含有率(Zn)及び含有率(Mo)の数値同士も、自由に組み合わせることができる。
【0065】
実施形態のフェライト粒子の一例として、スピネル構造がNiFeで表される場合、前記フェライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フェライト粒子の表層100質量%に対する、
含有率(Ni)が0.5~25質量%であり、含有率(Fe)が20~70質量%であり、含有率(Zn)が0.1~10質量%であり、及び含有率(Mo)が20~75質量%であるフェライト粒子であってよく、
含有率(Ni)が1.0~20質量%であり、含有率(Fe)が25~65質量%であり、含有率(Zn)が0.25~8質量%であり、及び含有率(Mo)が25~70質量%であるフェライト粒子であってよく、
含有率(Ni)が1.5~10質量%であり、含有率(Fe)が30~60質量%であり、含有率(Zn)が0.5~6質量%であり、及び含有率(Mo)が30~65質量%であるフェライト粒子であってよい。
【0066】
また、フェライト粒子がニッケルに代えてマンガンを含有している場合、フェライト粒子に含まれるマンガン含有量は、XPS(X線光電子分光)表面分析により測定できる。実施形態のフェライト粒子の表層における含有量は、前記フェライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フェライト粒子の表層100質量%に対するMnO換算での含有率(Mn)で、10~80質量%であることが好ましく、20~70質量%であることがより好ましく、30~60質量%であることがさらに好ましい。
【0067】
実施形態のフェライト粒子における、上記で例示した含有率(Mn)、含有率(Fe)及び含有率(Mo)の各上限値及び下限値の値は、自由に組み合わせることができる。また、含有率(Mn)、含有率(Fe)及び含有率(Mo)の数値同士も、自由に組み合わせることができる。
【0068】
実施形態のフェライト粒子の一例として、スピネル構造がMnFeで表される場合、前記フェライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フェライト粒子の表層100質量%に対する、
含有率(Mn)が10~80量%であり、含有率(Fe)が5~75質量%であり、及び含有率(Mo)が10~95質量%であるフェライト粒子であってよく、
含有率(Mn)が20~70質量%であり、含有率(Fe)が7.5~65質量%であり、及び含有率(Mo)が12.5~90質量%であるフェライト粒子であってよく、
含有率(Mn)が30~60質量%であり、含有率(Fe)が10~60質量%であり、及び含有率(Mo)が15~87.5質量%であるフェライト粒子であってよい。
【0069】
上記の、XPS分析には、走査型X線光電子分光分析装置(例えば、アルバック・ファイ社製QUANTERA SXM)を用いることができる。
【0070】
上記の含有率(Ni)は、フェライト粒子をX線光電子分光法(XPS:XrayPhotoelectron Spectroscopy)により、XPS表面分析することによって、各元素について存在比(atom%)を取得し、ニッケル含有量を酸化物換算することにより、フェライト粒子の表層100質量%に対するNiOの含有率として求めた値を云う。
【0071】
上記の含有率(Fe)は、フェライト粒子をX線光電子分光法(XPS:XrayPhotoelectron Spectroscopy)により、XPS表面分析することによって、各元素について存在比(atom%)を取得し、鉄含有量を酸化物換算することにより、フェライト粒子の表層100質量%に対するFeの含有率として求めた値を云う。
【0072】
上記の含有率(Mo)は、フェライト粒子をX線光電子分光法(XPS:XrayPhotoelectron Spectroscopy)により、XPS表面分析することによって、各元素について存在比(atom%)を取得し、モリブデン含有量を酸化物換算することにより、フェライト粒子の表層100質量%に対するMoOの含有率として求めた値を云う。
【0073】
上記の含有率(Mn)は、フェライト粒子をX線光電子分光法(XPS:XrayPhotoelectron Spectroscopy)により、XPS表面分析することによって、各元素について存在比(atom%)を取得し、マンガン含有量を酸化物換算することにより、フェライト粒子の表層100質量%に対するMnOの含有率として求めた値を云う。
【0074】
実施形態のフェライト粒子において、前記モリブデンは、前記フェライト粒子の表層に偏在していることが好ましい。
【0075】
ここで、本明細書において「表層」とは、実施形態のフェライト粒子の表面から10nm以内のことをいう。この距離は、実施例において計測に用いたXPSの検出深さに対応する。
【0076】
ここで「表層に偏在」するとは、前記表層における単位体積あたりのモリブデン又はモリブデン化合物の質量が、前記表層以外における単位体積あたりのモリブデン又はモリブデン化合物の質量よりも多い状態をいう。
【0077】
本実施形態のフェライト粒子において、モリブデンが前記フェライト粒子の表層に偏在していることは、後述する実施例において示すように、前記フェライト粒子をXPS表面分析することによって求められる前記フェライト粒子の表層100質量%に対するMoO換算でのモリブデンの含有率(Mo)が、前記フェライト粒子をXRF(蛍光X線)分析することによって求められる前記フェライト粒子100質量%に対するMoO換算でのモリブデンの含有率(Mo)よりも多いことで確認することができる。
【0078】
実施形態のフェライト粒子において、モリブデンが前記フェライト粒子の表層に偏在していることの指標として、実施形態のフェライト粒子は、前記フェライト粒子100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)に対する、前記フェライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フェライト粒子の表層100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)である、モリブデンの表層偏在比(Mo/Mo)が1.0~80であることが好ましく、3.0~60であることがより好ましく、5.0~50であることがさらに好ましい。
【0079】
モリブデン又はモリブデン化合物をフェライト粒子の表層に偏在させることで、表層だけでなく表層以外(内層)にも均一にモリブデン又はモリブデン化合物を存在させる場合に比べて、触媒活性等の優れた特性を効率的に付与することができる。
【0080】
実施形態のフェライト粒子は、フェライト粒子の集合体として提供可能であり、例えば、上記のニッケル含有量、鉄含有量、及びモリブデン含有量の値は、前記集合体を試料として求められた値を採用することができる。同様に、上記のニッケル含有量、鉄含有量、亜鉛含有量及びモリブデン含有量の値は、前記集合体を試料として求められた値を採用することができる。更に、上記のマンガン含有量、鉄含有量及びモリブデン含有量の値は、前記集合体を試料として求められた値を採用することができる。
【0081】
本実施形態のフェライト粒子は、モリブデンの他に、さらに、リチウム、カリウム、又はナトリウムを含んでいてもよい。
【0082】
<フェライト粒子の製造方法>
実施形態のフェライト粒子の製造方法は、モリブデン化合物の存在下で、金属化合物及び鉄化合物を焼成することを含む。より具体的には、本実施形態の製造方法は、前記フェライト粒子の製造方法であって、上記金属化合物と、鉄化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することを含むものであってよい。
【0083】
モリブデン化合物の存在下で、上記金属化合物、及び鉄化合物を焼成することにより、モリブデン化合物を使用しない場合と比べて、フェライト粒子の生成反応効率を向上可能である。そのため、不純物の含有量が低減された高品質のフェライト粒子を効率よく製造可能であり、更には、凝集の程度の低いフェライト粒子を容易に製造可能である。
【0084】
上記金属化合物としては、Ni、Mn、Cu、Zn、Mg、Ca、Coから選択されるいずれかの元素を含む金属化合物を用いることができる。例えば、ニッケル化合物、マンガン化合物又は銅化合物、亜鉛化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、コバルト化合物等が挙げられる。
【0085】
また、前記モリブデン化合物の存在下で、上記金属化合物及び鉄化合物に、更に亜鉛化合物を加えて焼成することにより、一定割合の常磁性体を添加することでAサイトの磁性を適度に減らし、A-Bサイトの相互作用由来の磁性を高めることができる。
【0086】
なお、モリブデン酸ニッケルのように、モリブデンとニッケルとを含有する化合物を用いる場合も、モリブデン化合物及びニッケル化合物を用いる場合とみなす。
【0087】
実施形態のフェライト粒子の製造方法によれば、上記で説明した実施形態のフェライト粒子を容易に製造可能である。
【0088】
フェライト粒子の好ましい製造方法は、Ni、Mn、Cu、Zn、Mg、Ca、Coから選択されるいずれかの元素を含む金属化合物と、鉄化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物とする工程(混合工程)と、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含む。以下、上記金属化合物の一例としてニッケル化合物を用いた場合を例に挙げて説明する。
【0089】
[混合工程]
混合工程は、ニッケル化合物と、鉄化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物とする工程である。以下、混合物の内容について説明する。
【0090】
(ニッケル化合物)
前記ニッケル化合物の種類は特に制限されない。例えば、前記ニッケル化合物として、水酸化ニッケル、酸化ニッケル、炭酸ニッケル、モリブデン酸ニッケル、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、酢酸ニッケル等が挙げられ、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、炭酸ニッケルが好ましく、反応性の観点と有害ガスが発生しない観点から酸化ニッケルまたは水酸化ニッケルがより好ましい。
【0091】
焼成後のフェライト粒子の形状は、原料のニッケル化合物の形状が殆ど反映されていないため、ニッケル化合物としては、例えば、球状、無定形、アスペクトの高い構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなども好適に用いることができる。
【0092】
(鉄化合物)
鉄化合物の種類は特に制限されず、公知のものが使用されうる。これらの具体例としては、いわゆるウスタイトと呼ばれる酸化鉄(II)(FeO)、黒色系の酸化鉄(II,III)(Fe)、及び、赤色系ないし茶褐色系の酸化鉄(III)(Fe)が挙げられる。酸化鉄(III)としては、α-Fe、β-Fe、γ-Fe、及びε-Feが挙げられる。オキシ水酸化鉄としては、α-オキシ水酸化鉄、β-オキシ水酸化鉄、γ-オキシ水酸化鉄、δ-オキシ水酸化鉄、等が挙げられる。水酸化鉄としては、水酸化鉄(II)(Fe(OH))及び水酸化鉄(III)(Fe(OH))が挙げられる。酸化鉄として、酸化鉄(III)(Fe)が好ましい。
【0093】
鉄化合物の形状は、特に制限されないが、例えば球状、棒状又は板状などを好適に用いることができる。
【0094】
(モリブデン化合物)
前記モリブデン化合物としては、酸化モリブデン、モリブデン酸、硫化モリブデン、ケイ化モリブデン、モリブデン酸塩化合物等が挙げられ、酸化モリブデン又はモリブデン酸塩化合物が好ましい。
【0095】
前記酸化モリブデンとしては、二酸化モリブデン(MoO)、三酸化モリブデン(MoO)等が挙げられ、三酸化モリブデンが好ましい。
【0096】
前記モリブデン酸塩化合物は、MoO 2-、Mo 2-、Mo10 2-、Mo13 2-、Mo16 2-、Mo19 2-、Mo24 6-、Mo26 4-等のモリブデンオキソアニオンの塩化合物であれば限定されない。モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩であってもよく、アルカリ土類金属塩であってもよく、アンモニウム塩であってもよい。
【0097】
前記モリブデン酸塩化合物としては、モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩が好ましく、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムであることがより好ましく、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムであることがさらに好ましく、モリブデン酸ナトリウムであることが特に好ましい。
【0098】
本実施形態のフェライト粒子の製造方法において、前記モリブデン酸塩化合物は、水和物であってもよい。
【0099】
モリブデン化合物は、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム、及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であること好ましく、三酸化モリブデン、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることがより好ましく、三酸化モリブデン及び/又はモリブデン酸ナトリウムであることがさらに好ましい。
【0100】
(亜鉛化合物)
前記混合工程において、ニッケル化合物と、鉄化合物と、モリブデン化合物とを混合し、更に亜鉛化合物を加えて混合物としてもよい。
前記亜鉛化合物の種類は特に制限されない。例えば、前記亜鉛化合物として、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられ、反応性の観点と有害ガスが発生しない観点から水酸化亜鉛又は酸化亜鉛が好ましい。
【0101】
(マンガン化合物)
前記混合工程において、ニッケル化合物に代えてマンガン化合物を用い、マンガン化合物と、鉄化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物としてもよい。
前記マンガン化合物の種類は特に制限されない。例えば、前記マンガン化合物として、炭酸マンガン、酸化マンガン、酢酸マンガン、塩化マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン、又はこれらの水和物等が挙げられ、反応性の観点と刺激性ガスが発生しない観点から炭酸マンガン又は酸化マンガンが好ましい。
【0102】
実施形態のフェライト粒子の製造方法は、モリブデン化合物と、ナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物との存在下で、ニッケル化合物及び鉄化合物を焼成する工程を含んでもよい。
【0103】
実施形態のフェライト粒子の製造方法は、焼成工程に先立ち、ニッケル化合物、鉄化合物、モリブデン化合物、並びにナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物を混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
【0104】
実施形態の製造方法において、ナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物を用いることで、製造されるフェライト粒子の粒子径の調整が容易であり、凝集の程度の少ない又は凝集のないフェライト粒子を製造可能である。
【0105】
ここで、少なくとも一部のモリブデン化合物及びナトリウム化合物に代えて、モリブデン酸ナトリウムのような、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物を使用することもできる。同様に、少なくとも一部のモリブデン化合物及びカリウム化合物に代えて、モリブデン酸カリウムのような、モリブデンとカリウムとを含有する化合物を使用することもできる。
そのため、ニッケル化合物と、鉄化合物と、モリブデンとカリウム及び/又はナトリウムとを含む化合物と、を混合して混合物とする工程も、ニッケル化合物と、鉄化合物と、モリブデン化合物と、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物と、を混合して混合物とする工程とみなす。
【0106】
また、フラックス剤として好適な、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物は、例えば、より安価かつ入手が容易な、モリブデン化合物及びナトリウム化合物を原料として焼成の過程で生じさせることができる。ここでは、モリブデン化合物及びナトリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物をフラックス剤として用いる場合、の両者を合わせて、モリブデン化合物及びナトリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、即ち、モリブデン化合物及びナトリウム化合物の存在下とみなす。
【0107】
フラックス剤として好適な、モリブデンとカリウムとを含有する化合物は、例えば、より安価かつ入手が容易な、モリブデン化合物及びカリウム化合物を原料として焼成の過程で生じさせることができる。ここでは、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、モリブデンとカリウムとを含有する化合物をフラックス剤として用いる場合、の両者を合わせて、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、即ち、モリブデン化合物及びカリウム化合物の存在下とみなす。
【0108】
なお、上述のモリブデン化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0109】
また、モリブデン酸ナトリウム(NaMo3n+1、n=1~3)は、ナトリウムを含むため、後述するナトリウム化合物としての機能も有しうる。
【0110】
また、モリブデン酸カリウム(KMo3n+1、n=1~3)は、カリウムを含むため、後述するカリウム化合物としての機能も有しうる。
【0111】
(ナトリウム化合物)
ナトリウム化合物としては、特に制限されないが、炭酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、金属ナトリウム等が挙げられる。これらのうち、工業的に容易入手と取扱いし易さの観点から炭酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化ナトリウム、硫酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0112】
なお、上述のナトリウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0113】
また、上記と同様に、モリブデン酸ナトリウムは、モリブデンを含むため、上述のモリブデン化合物としての機能も有しうる。
【0114】
(カリウム化合物)
カリウム化合物としては、特に制限されないが、塩化カリウム、亜塩素酸カリウム、塩素酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酢酸カリウム、酸化カリウム、臭化カリウム、臭素酸カリウム、水酸化カリウム、珪酸カリウム、燐酸カリウム、燐酸水素カリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸カリウム等が挙げられる。この際、前記カリウム化合物は、モリブデン化合物の場合と同様に、異性体を含む。これらのうち、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酸化カリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、モリブデン酸カリウムを用いることが好ましく、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、モリブデン酸カリウムを用いることがより好ましい。
【0115】
なお、上述のカリウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0116】
また、上記と同様に、モリブデン酸カリウムは、モリブデンを含むため、上述のモリブデン化合物としての機能も有しうる。
【0117】
実施形態のフェライト粒子の製造方法における、好ましい原料の組み合わせとして、フェライト粒子におけるスピネル構造がNiFeで表される場合、酸化ニッケルと、酸化鉄(III)と、三酸化モリブデンと、を用いることが挙げられる。
同様に実施形態のフェライト粒子の製造方法における、好ましい原料の組み合わせとして、酸化ニッケルと、酸化鉄(III)と、モリブデン酸ナトリウム又はその水和物と、を用いることが挙げられる。
同様に実施形態のフェライト粒子の製造方法における、好ましい原料の組み合わせとして、酸化ニッケルと、酸化鉄(III)と、三酸化モリブデンと、モリブデン酸ナトリウム又はその水和物と、を用いることが挙げられる。
同様に実施形態のフェライト粒子の製造方法における、好ましい原料の組み合わせとして、酸化ニッケルと、酸化鉄(III)と、酸化亜鉛と、三酸化モリブデンと、モリブデン酸ナトリウム又はその水和物と、を用いることが挙げられる。
【0118】
また、実施形態のフェライト粒子の製造方法における、好ましい原料の組み合わせとして、フェライト粒子におけるスピネル構造がMnFeで表される場合、炭酸マンガン又はその水和物と、オキシ水酸化鉄と、モリブデン酸ナトリウム又はその水和物と、を用いることが挙げられる。
【0119】
モリブデン化合物及びナトリウム化合物の存在下、又はモリブデン化合物及びカリウム化合物の存在下で、ニッケル化合物及び鉄化合物を焼成することにより、製造されるフェライト粒子の粒子径の調整が容易であり、凝集の程度の少ない又は凝集のないフェライト粒子を製造可能である。その理由は明らかではないが、以下の理由が考えられる。例えば、KMoO及びNaMoOは安定な化合物であって焼成工程にて揮発し難いため、揮発過程での急激な反応を伴いにくく、フェライト粒子の成長を制御しやすい。また、溶融したKMoO及びNaMoOが溶媒のような機能を発揮し、例えば反応時間を長くすることで、粒子径の値を大きくできると考えられる。また、溶融したKMoO及びNaMoOが溶媒のような機能を発揮するため、フェライト粒子が分散されて凝集が生じ難いことが考えられる。
【0120】
本実施形態のフェライト粒子の製造方法において、モリブデン化合物はフラックス剤として用いられる。本明細書中では、以下、フラックス剤としてモリブデン化合物を用いたこの製造方法を単に「フラックス法」ということがある。なお、かかる焼成により、ニッケル化合物と、鉄化合物と、モリブデン化合物とが高温で反応し、モリブデン酸鉄およびモリブデン酸ニッケルを形成した後、このモリブデン酸鉄およびモリブデン酸ニッケルが、さらに、より高温でニッケルと鉄の複酸化物と酸化モリブデンに分解する際に、モリブデン化合物がフェライト粒子内に取り込まれるものと考えられる。酸化モリブデンは昇華して、系外に取り除かれるとともに、この過程で、モリブデン化合物とニッケルと鉄の複酸化物が反応することにより、モリブデン化合物がフェライト粒子の表層に形成されるものと考えられる。
フェライト粒子に含まれるモリブデン化合物の生成機構について、より詳しくは、フェライト粒子の表層に、モリブデンとニッケル原子および鉄原子の反応によるMo-O-Niおよび、Mo-O-Feの形成が起こり、高温焼成することでMoが脱離するとともに、フェライト粒子の表層に、酸化モリブデン、又はMo-O-Ni-O-Fe結合を有する化合物等が形成するものと考えられる。
【0121】
フェライト粒子に取り込まれない酸化モリブデンは、昇華させることにより回収して、再利用することもできる。こうすることで、フェライト粒子の表面に付着する酸化モリブデン量を低減でき、フェライト粒子本来の性質を最大限に付与することができる。
【0122】
一方、モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩は、焼成温度域でも気化することなく、焼成後に洗浄で、容易に回収できるため、モリブデン化合物が焼成炉外へ放出される量も低減され、生産コストとしても大幅に低減することができる。
【0123】
上記フラックス法において、例えばモリブデン化合物とナトリウム化合物とを併用すると、まず、モリブデン化合物とナトリウム化合物が反応してモリブデン酸ナトリウムが形成されると考えられる。同時に、モリブデン化合物が鉄化合物と反応してモリブデン酸鉄を形成すると考えられる。そして、例えば、液相のモリブデン酸ナトリウムの存在下でモリブデン酸ニッケル、モリブデン酸鉄が分解し、結晶成長させることで、上述のフラックスの蒸発(MoOの昇華)を抑制しつつ、凝集の程度の低い又は凝集の無いフェライト粒子を容易に得ることができると考えられる。
【0124】
(他の金属化合物)
他の金属化合物は所望により焼成時に使用されうる。実施形態のフェライト粒子の製造方法は、焼成工程に先立ち、ニッケル化合物、鉄化合物及びモリブデン化合物と、ナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物と、他の金属化合物と、を混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
【0125】
他の金属化合物としては、特に制限されないが、第II族の金属化合物、第III族の金属化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0126】
前記第II族の金属化合物としては、カルシウム化合物、ストロンチウム化合物、バリウム化合物等が挙げられる。
【0127】
前記第III族の金属化合物としては、スカンジウム化合物、イットリウム化合物、ランタン化合物、セリウム化合物等が挙げられる。
【0128】
なお上述の他の金属化合物は、金属元素の酸化物、水酸化物、炭酸化物、塩化物を意味する。例えば、イットリウム化合物であれば、酸化イットリウム(Y)、水酸化イットリウム、炭酸化イットリウムが挙げられる。これらのうち、他の金属化合物は金属元素の酸化物であることが好ましい。なお、これらの他の金属化合物は異性体を含む。
【0129】
これらのうち、第3周期元素の金属化合物、第4周期元素の金属化合物、第5周期元素の金属化合物、第6周期元素の金属化合物であることが好ましく、第4周期元素の金属化合物、第5周期元素の金属化合物であることがより好ましく、第5周期元素の金属化合物であることがさらに好ましい。具体的には、カルシウム化合物、イットリウム化合物、ランタン化合物、を用いることが好ましく、カルシウム化合物、イットリウム化合物を用いることがより好ましく、イットリウム化合物を用いることが特に好ましい。
【0130】
他の金属化合物は、混合工程で使用される上記金属化合物の総量に対して、例えば、0~1.2質量%(例えば、0~1モル%)の割合で使用することが好ましい。
【0131】
本実施形態のフェライト粒子の製造方法において、使用するニッケル化合物、鉄化合物、及びモリブデン化合物の配合量は、特に限定されるものではないが、原料中、例えば前記混合物中において、モリブデン化合物の質量に対する、ニッケル化合物および鉄化合物の合計質量の比が、0.1~40であってもよく、0.2~20であってもよく、0.4~10であってもよい。
【0132】
本実施形態のフェライト粒子の製造方法において、亜鉛化合物を更に配合する場合、使用するニッケル化合物、鉄化合物、亜鉛化合物及びモリブデン化合物の配合量は、特に限定されるものではないが、原料中、例えば前記混合物中において、モリブデン化合物の質量に対する、ニッケル化合物、鉄化合物及び亜鉛化合物の合計質量の比が、0.1~40であってもよく、0.2~20であってもよく、0.4~10であってもよい。
【0133】
本実施形態のフェライト粒子の製造方法において、使用するマンガン化合物、鉄化合物、及びモリブデン化合物の配合量は、特に限定されるものではないが、原料中、例えば前記混合物中において、モリブデン化合物の質量に対する、マンガン化合物および鉄化合物の合計質量の比が、0.1~40であってもよく、0.2~20であってもよく、0.4~10であってもよい。
【0134】
本実施形態のフェライト粒子の製造方法において、原料中の、例えば前記混合物中の鉄に対するニッケルのモル比(Ni/Fe)は、0.2~0.6であってもよく、0.25~0.5であってよい。
【0135】
[焼成工程]
焼成工程は、前記混合物を焼成する工程である。本実施形態の製造方法では、上述のように、モリブデン化合物の存在下で、ニッケル化合物及び鉄化合物を焼成することを含む。或いは、上記混合工程において亜鉛化合物を含む混合物を得た場合、モリブデン化合物の存在下で、ニッケル化合物及び鉄化合物に、更に亜鉛化合物を加えて焼成することを含むものであってよい。
また、上記混合工程において、ニッケル化合物及びマンガン化合物と、銅化合物および/またはコバルト化合物とを含む混合物を得た場合、モリブデン化合物の存在下で、ニッケル化合物、マンガン化合物及び鉄化合物と、銅化合物および/またはコバルト化合物を焼成することを含むものであってもよい。
また、上記混合工程においてニッケル化合物に代えてマンガン化合物を用いてもよい。マンガン化合物と、銅化合物および/またはコバルト化合物とを含む混合物を得た場合、モリブデン化合物の存在下で、マンガン化合物及び鉄化合物と、銅化合物および/またはコバルト化合物とを焼成することを含むものであってもよい。
実施形態に係る前記フェライト粒子は、前記混合物を焼成することで得られる。上記した通り、この製造方法はフラックス法と呼ばれる。
【0136】
フラックス法は、溶液法に分類される。フラックス法とは、より詳細には、結晶-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すことを利用した結晶成長の方法である。フラックス法のメカニズムとしては、以下の通りであると推測される。すなわち、溶質およびフラックスの混合物を加熱していくと、溶質およびフラックスは液相となる。この際、フラックスは融剤であるため、換言すれば、溶質-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すため、溶質は、その融点よりも低い温度で溶融し、液相を構成することとなる。この状態で、フラックスを蒸発させると、フラックスの濃度は低下し、換言すれば、フラックスによる前記溶質の融点低下効果が低減し、フラックスの蒸発が駆動力となって溶質の結晶成長が起こる(フラックス蒸発法)。なお、溶質およびフラックスは液相を冷却することによっても溶質の結晶成長を起こすことができる(徐冷法)。
【0137】
フラックス法は、融点よりもはるかに低い温度で結晶成長をさせることができる、結晶構造を精密に制御できる、自形をもつ結晶体を形成できる等のメリットを有する。
【0138】
フラックスとしてモリブデン化合物を用いたフラックス法によるフェライト粒子の製造では、そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、例えば、以下のようなメカニズムによるものと推測される。すなわち、モリブデン化合物の存在下でニッケル化合物および鉄化合物を焼成すると、まず、モリブデン酸ニッケルおよびモリブデン酸鉄が形成される。この際、当該モリブデン酸ニッケルおよびモリブデン酸鉄は、上述の説明からも理解されるように、酸化ニッケルおよび酸化鉄、またはその複酸化物であるニッケルフェライトの融点よりも低温でニッケルフェライト結晶を成長させる。そして、例えば、フラックスを蒸発させることで、モリブデン酸ニッケルおよびモリブデン酸鉄が分解し、結晶成長することでフェライト粒子を得ることができる。すなわち、モリブデン化合物がフラックスとして機能し、モリブデン酸ニッケルおよびモリブデン酸鉄という中間体を経由してニッケルフェライト粒子が製造されるのである。
【0139】
上記フラックス法により、モリブデンを含み、前記モリブデンがフェライト粒子の表層に偏在しているフェライト粒子を製造することができる。
【0140】
焼成の方法は、特に限定はなく、公知慣用の方法で行うことができる。焼成温度が800℃を超えると、ニッケル化合物と、鉄化合物と、モリブデン化合物とが反応して、モリブデン酸ニッケルおよびモリブデン酸鉄を形成すると考えられる。さらに、焼成温度が950℃以上になると、モリブデン酸ニッケルおよびモリブデン酸鉄が分解し、ニッケルフェライト粒子を形成すると考えられる。また、ニッケルフェライト粒子では、モリブデン酸ニッケルおよびモリブデン酸鉄が分解することで、ニッケルフェライトと酸化モリブデンになる際に、モリブデン化合物がニッケルフェライト粒子内に取り込まれるものと考えられる。
【0141】
また、焼成する時の、ニッケル化合物と、鉄化合物と、モリブデン化合物の状態は特に限定されず、モリブデン化合物が、ニッケル化合物と、鉄化合物とに作用できる同一の空間に存在すれば良い。具体的には、モリブデン化合物の粉体と、ニッケル化合物の粉体と、鉄化合物の粉体とを混ぜ合わせる簡便な混合、粉砕機等を用いた機械的な混合、乳鉢等を用いた混合であっても良く、乾式状態、湿式状態での混合であっても良い。
【0142】
また、亜鉛化合物を含む混合物を焼成する時の、ニッケル化合物と、鉄化合物と、亜鉛化合物と、モリブデン化合物の状態は特に限定されず、モリブデン化合物が、ニッケル化合物と、鉄化合物と、亜鉛化合物に作用できる同一の空間に存在すれば良い。具体的には、モリブデン化合物の粉体と、ニッケル化合物の粉体と、鉄化合物の粉体と、亜鉛化合物の粉体を混ぜ合わせる簡便な混合、粉砕機等を用いた機械的な混合、乳鉢等を用いた混合であっても良く、乾式状態、湿式状態での混合であっても良い。
【0143】
焼成温度の条件に特に限定は無く、目的とするフェライト粒子の粒子サイズ、フェライト粒子におけるモリブデン化合物の形成、フェライト粒子の形状等を考慮して、適宜、決定される。焼成温度は、モリブデン酸ニッケルおよびモリブデン酸鉄の分解温度に近い950℃以上であってもよく、1000℃以上であってもよく、1050℃以上であってもよく、1100℃以上であってもよい。
【0144】
焼成温度が高いほど、粒子形状が制御され、且つ粒子サイズの大きな、フェライト粒子が得られやすい傾向にある。このようなフェライト粒子を効率よく製造するとの観点からは、上記焼成温度は、950℃以上が好ましく、1000℃以上がより好ましく、1050℃以上がさらに好ましく、1100℃以上が特に好ましい。
【0145】
一般的に、焼成後に得られるフェライト粒子の形状を制御、或いは磁性を向上させようとすると1200℃超、好ましくは1500℃超の高温焼成を行う必要があるが、焼成炉への負担やエネルギーコストの点から、産業上利用する為には大きな課題がある。
【0146】
本発明の一実施形態によれば、例えば、ニッケル化合物と、鉄化合物とを焼成する最高焼成温度が1500℃以下の条件であっても、フェライト粒子の形成を低コストで効率的に行うことができ、エネルギーコストの削減及び環境負荷低減に資する。
【0147】
また、実施形態のフェライト粒子の製造方法によれば、焼成温度が1500℃以下という酸化鉄の融点よりも低い温度であっても、前駆体の形状にかかわりなく、自形をもつフェライト粒子を形成することができる。また、かかる観点からは、上記焼成温度は、1500℃以下が好ましく、1400℃以下がより好ましく、1300℃以下がさらに好ましく、1200℃以下が特に好ましい。
【0148】
焼成工程における、ニッケル化合物と、鉄化合物とを焼成する焼成温度の数値範囲は、一例として、800~1500℃であってもよく、900~1500℃であってもよく、950~1400℃、1000~1300℃であってもよく、1000~1200℃であってもよい。
【0149】
昇温速度は、製造効率の観点から、20~600℃/hであってもよく、40~500℃/hであってもよく、80~400℃/hであってもよい。
【0150】
焼成の時間については、所定の焼成温度への昇温時間を15分~10時間の範囲で行うことが好ましい。焼成温度における保持時間は、5分以上とすることができ、5分~1000時間の範囲で行うことが好ましく、1~30時間の範囲で行うことがより好ましい。フェライト粒子の形成を効率的に行うには、2時間以上の焼成温度保持時間であることがさらに好ましく、2~24時間の焼成温度保持時間であることが特に好ましい。
【0151】
一例として、焼成温度が800~1500℃、且つ2~24時間の焼成温度保持時間の条件を選択することで、モリブデンを含む実施形態のフェライト粒子が容易に得られる。
【0152】
焼成の雰囲気としては、本発明の効果が得られるのであれば特に限定されないが、例えば、空気や酸素といった含酸素雰囲気や、窒素やアルゴン、又は二酸化炭素といった不活性雰囲気が好ましく、コストの面を考慮した場合は空気雰囲気がより好ましい。
【0153】
焼成するための装置としても必ずしも限定されず、いわゆる焼成炉を用いることができる。焼成炉は昇華した酸化モリブデンと反応しない材質で構成されていることが好ましく、さらに酸化モリブデンを効率的に利用するように、密閉性の高い焼成炉を用いることが好ましい。
【0154】
[冷却工程]
フェライト粒子の製造方法は、冷却工程を含んでいてもよい。当該冷却工程は、焼成工程において結晶成長したフェライト粒子を冷却する工程である。
【0155】
冷却速度は、特に制限されないが、1~1000℃/時間であることが好ましく、5~500℃/時間であることがより好ましく、50~100℃/時間であることがさらに好ましい。冷却速度が1℃/時間以上であると、製造時間が短縮されうることから好ましい。一方、冷却速度が1000℃/時間以下であると、焼成容器がヒートショックで割れることが少なく、長く使用できることから好ましい。
【0156】
冷却方法は特に制限されず、自然放冷であっても、冷却装置を使用してもよい。
【0157】
[モリブデン除去工程]
本実施形態のフェライト粒子の製造方法は、焼成工程後、必要に応じてモリブデンの少なくとも一部を除去するモリブデン除去工程をさらに含んでいてもよい。
【0158】
方法としては、洗浄および高温処理が挙げられる。これらは組み合わせて行うことができる。
【0159】
なお、上述のように、焼成時においてモリブデンは昇華を伴うことから、焼成時間、焼成温度等を制御することで、フェライト粒子の表層に存在するモリブデン含有量を制御することができ、またフェライト粒子の表層以外(内層)に存在するモリブデン含有量やその存在状態を制御することができる。
【0160】
モリブデンは、フェライト粒子の表面に付着しうる。上記昇華以外の手段として、当該モリブデンは水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液などで洗浄することにより除去することができる。
【0161】
この際、使用する水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液の濃度、使用量、及び洗浄部位、洗浄時間等を適宜変更することで、フェライト粒子におけるモリブデン含有量を制御することができる。
【0162】
また、高温処理の方法としては、モリブデン化合物の昇華点または沸点以上に昇温する方法が挙げられる。
【0163】
[粉砕工程]
焼成工程を経て得られる焼成物は、フェライト粒子が凝集して、検討される用途における好適な粒子径の範囲を満たさない場合がある。そのため、フェライト粒子は、必要に応じて、好適な粒子径の範囲を満たすように粉砕してもよい。
焼成物の粉砕の方法は特に限定されず、ボールミル、ジョークラッシャー、ジェットミル、ディスクミル、スペクトロミル、グラインダー、ミキサーミル等の従来公知の粉砕方法を適用できる。
【0164】
[分級工程]
焼成工程により得られたフェライト粒子を含む焼成物は、粒子サイズの範囲の調整のために、適宜、分級処理されてもよい。「分級処理」とは、粒子の大きさによって粒子をグループ分けする操作をいう。
【0165】
分級は湿式、乾式のいずれでも良いが、生産性の観点からは、乾式の分級が好ましい。
乾式の分級には、篩による分級のほか、遠心力と流体抗力の差によって分級する風力分級などがあるが、分級精度の観点からは、風力分級が好ましく、コアンダ効果を利用した気流分級機、旋回気流式分級機、強制渦遠心式分級機、半自由渦遠心式分級機などの分級機を用いて行うことができる。
【0166】
上記した粉砕工程や分級工程は、必要な段階において行うことができる。これら粉砕や分級の有無やそれらの条件選定により、例えば、得られるフェライト粒子の平均粒径を調整することができる。
【0167】
実施形態のフェライト粒子、或いは実施形態の製造方法で得られるフェライト粒子は、凝集の程度が少ない或いは凝集していないものであるので、本来の性質を発揮しやすく、それ自体の取扱性により優れており、また被分散媒体に分散させて用いる場合において、より分散性に優れる観点から、好ましい。
【0168】
なお、上記の実施形態のフェライト粒子の製造方法によれば、凝集の程度が少ない又は凝集のないフェライト粒子を容易に製造可能であるので、上記の粉砕工程や分級工程は行わなくとも、目的の優れた性質を有するフェライト粒子を、生産性高く製造することができるという優れた利点を有する。
【0169】
以上に説明した実施形態のフェライト粒子の製造方法によれば、モリブデンを含有し、形状の制御された高品質のフェライト粒子を、容易に且つ高効率に製造可能である。
【実施例
【0170】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0171】
<フェライト粒子の製造>
[実施例1]
酸化ニッケル(関東化学社製)5.63gと、酸化鉄(III)(関東化学社製)12.45gと、三酸化モリブデン(日本無機化学工業社製)3.6gと、5mmφジルコニアビーズ100gとを80mlジルコニアポットに仕込み、遊星ボールミル(フリッチュ社製、P-5)を用いて200rpmで60分間混合・粉砕し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて1100℃で10時間焼成を行なった。なお、昇温は5℃/分で行った。降温後、坩堝を取り出し、黒色粉末を得た。
得られた黒色粉末をビーカーに移し、0.5%アンモニア水200gを加え、撹拌して3時間洗浄して残存する三酸化モリブデンを溶解させた。次いで5C濾紙を用いて吸引濾過にて濾別し、得られた粒子を120℃で乾燥させ、17.1gの白色粉末を得た。得られた粒子はNiFe2であった。
【0172】
[実施例2]
三酸化モリブデンの仕込み量を1.8gとしたこと以外は、実施例1と同様にして黒色粉末を得た。
【0173】
[実施例3]
酸化ニッケル(関東化学社製)3.19gと、酸化鉄(III)(関東化学製試薬)6.81gと、モリブデン酸ナトリウム二水和物(関東化学製試薬)13.94gと、三酸化モリブデン(日本無機化学工業社製)8.23gと、5mmφジルコニアビーズ100gとを100mlポリプロピレン瓶に仕込み、ペイントシェイカー(東洋精機製作所製)を用いて120分間混合・粉砕し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて1300℃で10時間焼成を行なった。なお、昇温は5℃/分で行った。降温後、坩堝を取り出し、黒色粉末を得た。
得られた前記黒色粉末をビーカーに移し、イオン交換水200gを加え、撹拌して3時間洗浄して残存するモリブデン酸ナトリウムを溶解させた。次いで5C濾紙を用いて吸引濾過にて濾別し、得られた粒子を120℃で乾燥させ、9.2gの黒色粉末を得た。得られた粒子はNiFeであった。
【0174】
[実施例4]
焼成温度を1500℃、昇温速度を2℃/分としたこと以外は、実施例3と同様にして黒色粉末を得た。
【0175】
[実施例5]
焼成温度を900℃、昇温速度を2℃/分としたこと以外は、実施例3と同様にして黒色粉末を得た。
【0176】
[実施例6]
焼成温度を1100℃としたこと以外は、実施例3と同様にして黒色粉末を得た。
【0177】
[実施例7]
酸化ニッケルの仕込み量を3.02gとし、且つ、酸化ニッケル、酸化鉄(III)、モリブデン酸ナトリウム二水和物、三酸化モリブデンに更に酸化亜鉛0.17gを加えたこと以外は、実施例6と同様にして黒色粉末を得た((NiO+ZnO)に対するZnOのモル比:0.05)。得られた粒子はNiZnFeが主成分の粒子であった。
【0178】
[実施例8]
酸化ニッケルの仕込み量を2.86g、酸化亜鉛の仕込み量を0.35gとしたこと以外は、実施例7と同様にして黒色粉末を得た((NiO+ZnO)に対するZnOのモル比:0.1)。
【0179】
[実施例9]
酸化ニッケルの仕込み量を2.23g、酸化亜鉛の仕込み量を1.04gとしたこと以外は、実施例7と同様にして黒色粉末を得た((NiO+ZnO)に対するZnOのモル比:0.3)
【0180】
[実施例10]
酸化ニッケルの仕込み量を1.59g、酸化亜鉛の仕込み量を1.73gとしたこと以外は、実施例7と同様にして黒色粉末を得た((NiO+ZnO)に対するZnOのモル比:0.5)
【0181】
[実施例11]
炭酸マンガン・n水和物(関東化学社製)6.65gと、オキシ水酸化鉄(関東化学社製)8.89gと、モリブデン酸ナトリウム二水和物(関東化学社製)15.5gと、5mmφジルコニアビーズ100gと、イオン交換水20gとを100mlポリプロピレン瓶に仕込み、ペイントシェイカーを用いて120分間湿式で混合・粉砕し、混合物を得た。得られた混合物を120度で乾燥させ、混合物を坩堝に入れ、雰囲気式電気炉にてチッ素雰囲気にて800℃で10時間焼成を行なった。なお、昇温は5℃/分で行った。降温後、坩堝を取り出し、黒色粉末を得た。
得られた黒色粉末をビーカーに移し、イオン交換水200gを加え、撹拌して3時間洗浄して残存するモリブデン酸ナトリウムを溶解させた。次いで5C濾紙を用いて吸引濾過にて濾別し、得られた粒子を120℃で乾燥させ、黒色粉末を得た。得られた粒子はMnFeが主成分の粒子であった。
【0182】
[比較例1]
酸化ニッケル(関東化学社製)5.63gと、酸化鉄(III)(関東化学社製)12.45gと、5mmφジルコニアビーズ100gとを80mlジルコニアポットに仕込み、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、P-5)を用いて200rpmで60分間混合・粉砕し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて1100℃で10時間焼成を行なった。なお、昇温は5℃/分で行った。降温後、坩堝を取り出し、17.5gの黒色粉末を得た。得られた粒子は未反応物を少量含むNiFeであった。
【0183】
<評価>
実施例1~11及び比較例1で得られた粉末を試料粉末として、下記の評価を行った。
【0184】
[結晶構造解析:XRD(X線回折)法]
試料粉末を0.5mm深さの測定試料用ホルダーに充填し、それを広角X線回折(XRD)装置(リガク社製、UltimaIV)にセットし、Cu/Kα線、40kV/40mA、スキャンスピード2°/min、走査範囲10~70°の条件で測定を行った。
【0185】
[フェライト粒子の比表面積測定]
フェライト粒子の比表面積は、比表面積計(マイクロトラック・ベル社製、BELSORP-mini)にて測定し、BET法による窒素ガスの吸着量から測定された試料1g当たりの表面積を、比表面積(m/g)として算出した。
【0186】
[一次粒子径]
フェライト粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、二次元画像上の最小単位の粒子(すなわち、一次粒子)について、ランダムに選ばれた50個の一次粒子の輪郭線上の2点間の距離のうち、最大の長さを測定した平均値を、フェライト粒子の一次粒子径とした。
【0187】
[粒度分布測定]
レーザー回折式乾式粒度分布計(日本レーザー社製、HELOS(H3355)&RODOS)を用いて、分散圧3bar、引圧90mbarの条件で、乾式で試料粉末の粒子径分布を測定した。体積積算%の分布曲線が50%の横軸と交差する点の粒子径をD50として求めた。
【0188】
[XRF(蛍光X線)分析]
蛍光X線分析装置(リガク社製、PrimusIV)を用い、試料粉末約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて、次の条件でXRF(蛍光X線)分析を行った。
測定条件
EZスキャンモード
測定元素:F~U
測定時間:標準
測定径:10mm
残分(バランス成分):なし
【0189】
XRF分析により得られたフェライト粒子のニッケル含有量、鉄含有量、亜鉛含有量及びモリブデン含有量を酸化物換算することにより、フェライト粒子100質量%に対するNiO含有率(Ni)、フェライト粒子100質量%に対するFe含有率(Fe)、フェライト粒子100質量%に対するZnO含有率(Zn)、及びフェライト粒子100質量%に対するMoO含有率(Mo)の結果を取得した。
【0190】
また、XRF分析により得られたフェライト粒子のマンガン含有量、鉄含有量、及びモリブデン含有量を酸化物換算することにより、フェライト粒子100質量%に対するMnO含有率(Mn)、フェライト粒子100質量%に対するFe含有率(Fe)、及びフェライト粒子100質量%に対するMoO含有率(Mo)の結果を取得した。
【0191】
[XPS表面分析]
試料粉末に対する表面元素分析は、X線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ社製、QUANTERA SXM)を用い、X線源に単色化Al-Kαを使用し、X線光電子分光法(XPS:XrayPhotoelectron Spectroscopy)の測定を行った。1000μm四方のエリア測定で、n=3測定の平均値を各元素についてatom%で取得した。
【0192】
XPS分析により得られたフェライト粒子の表層のニッケル含有量、表層の鉄含有量及び表層のモリブデン含有量を酸化物換算することにより、フェライト粒子の表層100質量%に対するNiO含有率(Ni)(質量%)、フェライト粒子の表層100質量%に対するFe含有率(Fe)(質量%)及びフェライト粒子の表層100質量%に対するMoO含有率(Mo)(質量%)を求めた。
【0193】
また、XPS分析により得られたフェライト粒子の表層のマンガン含有量、表層の鉄含有量及び表層のモリブデン含有量を酸化物換算することにより、フェライト粒子の表層100質量%に対するMnO含有率(Mn)(質量%)、フェライト粒子の表層100質量%に対するFe含有率(Fe)(質量%)及びフェライト粒子の表層100質量%に対するMoO含有率(Mo)(質量%)を求めた。
【0194】
[磁性分析]
振動試料型磁力計(理研電子社製、BHV-50)を用い、面積30mm、厚さ2.5mm、質量およそ0.15gの試験片について磁界強度7.96×10A/m、測定サイクル5minで測定を行った。
【0195】
<結果>
上記の評価により得られた各値を表1に示す。なお、「N.D.」はnot detectedの略であり、不検出であることを表す。
【0196】
【表1】
【0197】
走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影して得られた、上記の実施例および比較例の粉末のSEMの画像を図1~12に示す。
実施例1~10の各例の粉末においては、美しい多角形状の粒子が多数確認され、製造過程において粒子の結晶形状が制御されていた(図1図10)。また、実施例11の粉末においても、美しい多角形状の粒子が多数確認され、製造過程において粒子の結晶形状が制御されていた(図11)。
一方、比較例1の粉末においては、特定の形状が観察されない無定形の粒子が観察された(図12)。
【0198】
実施例1~10及び比較例1についてのXRD分析の結果を図13に示す。フェライト(NiFe)に由来する各ピーク(無印のピーク)が、各実施例及び比較例の試料において認められた。
また、実施例11についてのXRD分析の結果を図14に示す。フェライト(MnFe)に由来する各ピーク(無印のピーク)が、本実施例の試料において認められた。
【0199】
上記のSEM観察およびXRD解析の結果から、実施例及び比較例で得られた粉末は、フェライトを含むフェライト粒子であることが確認された。
【0200】
実施例1~11の試料粉末においては、不純物に由来するピークはほとんど確認されなかった(図13図14、表1中の不純物の検出「-」)。
一方で、比較例1の試料粉末においては、酸化ニッケルや酸化鉄等の不純物、すなわち未反応の原料に由来するピーク(図13中の丸印「●」のピーク)の検出が顕著であった(表1中の不純物の検出「+」)。このことから、比較例1の試料粉末では、フェライトの生成反応が完結しておらず、未反応物が残留していることが推察された。
【0201】
このことから、モリブデン化合物の存在下でニッケル化合物及び鉄化合物を焼成した各実施例では、900℃~1500℃という比較的低い焼成温度であっても、フェライトの生成反応が良好に進行し、上記不純物の含有量が低減され、形状の制御された高品質のフェライト粒子を、高効率に製造可能であることが示された。
【0202】
また、各フェライト粒子のSEM観察像から、粒子の凝集の程度を以下の基準にて評価した。
++:粒子同士の凝集が認められる。
+:若干の粒子同士の凝集が認められる。
-:粒子同士の目立った凝集が認められない。
【0203】
比較例1のフェライト粒子では、粒子同士の目立った凝集融着が認められるのに対し(凝集の程度+)、実施例1~11のフェライト粒子では目立った凝集が認められなかった(凝集の程度-)。
このことから、モリブデン化合物の存在下でニッケル化合物とマンガン化合物のうちのいずれか及び鉄化合物を焼成した各実施例では、凝集の程度の低い、又は凝集のないフェライト粒子を、容易に製造可能であることが示された。
【0204】
また各実施例(例えば、実施例3、5、6同士を参照)において、焼成温度が高いほど、粒子サイズの大きなフェライト粒子が得られる傾向にあった。
このように、焼成温度を制御することで、フェライト粒子の粒子サイズを制御でき、所望の粒子サイズを有するフェライト粒子を製造可能であることが分かった。
【0205】
上記のNiO含有率(Ni)、Fe含有率(Fe)、ZnO含有率(Zn)、MoO含有率(Mo)、NiO含有率(Ni)、Fe含有率(Fe)、ZnO含有率(Zn)、及びMoO含有率(Mo)の値を表1に示す。
また、上記のMnO含有率(Mn)、Fe含有率(Fe)、MoO含有率(Mo)、MnO含有率(Mn)、Fe含有率(Fe)、及びMoO含有率(Mo)の値を表1に示す。
【0206】
MoO含有率(Mo)の結果より、モリブデンを含むフェライト粒子が得られたことが確認された。
【0207】
MoO含有率(Mo)の結果より、実施例1~11のフェライト粒子は表層にモリブデンを含み、磁気特性など、モリブデンによる種々の作用が発揮されると期待できる。
【0208】
また、MoO含有率(Mo)に対する、MoO含有率(Mo)の表層偏在比(Mo/Mo)の算出結果を表1に示す。
【0209】
表層偏在比(Mo/Mo)の結果より、実施例1~11のフェライト粒子では、XPS表面分析により求められるフェライト粒子の表層のモリブデン含有量が、XRF分析により求められるモリブデン含有量よりも多い。このことから、モリブデンがフェライト粒子の表層に偏在していることが確認され、モリブデンによる種々の作用が、効果的に発揮されると期待できる。
【0210】
なお、原料にMoOを使用した実施例1,2で得られたフェライト粒子は、原料の(Ni化合物+Fe化合物)/Mo化合物の比が大きくなると、XRF分析により求められるモリブデン含有量が減少する傾向が見られた。また、原料にNaMoOを併用した実施例3~6では、原料の(Ni化合物+Fe化合物)/(Mo化合物)の比が1/2で一定であるときに、焼成温度の変化に伴って、XRF分析により求められるモリブデン含有量、及びXPS表面分析により求められるフェライト粒子の表層のモリブデン含有量が変化した。
【0211】
このように、使用するモリブデン化合物の量や種類、或いは焼成温度を制御することで、フェライト粒子に含有されるモリブデン量を制御でき、所望量のモリブデンを含有するフェライト粒子を製造可能である。
【0212】
また、原料にNaMoOを併用し、更にZnOを用いた実施例7~10では、原料の(Ni化合物+Fe化合物+Zn化合物)/(Mo化合物)の比が1/2で一定であるときに、Ni/Feの変化に伴って、XRF分析により求められるモリブデン含有量、及びXPS表面分析により求められるフェライト粒子の表層のモリブデン含有量が変化した。
【0213】
また、代表して実施例2,10,11で測定された保磁力の値を表1に示す。実施例2,10,11のフェライト粒子では、保磁力が1.4×10A/m以下であり、原料にMoOを使用していない比較例1と比べて、保磁力が1/2~1/4程度と低くなっており、ソフトフェライト(軟磁性材料)として好適なものが得られることが分かった。
一方、比較例1のフェライト粒子では、保磁力が2.5×10A/mであり、実施例2,10,11と比較して高い値となり、ソフトフェライトとして不適であることが分かった。
【0214】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項の範囲によってのみ限定される。
図1
図2
図3
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図14
【手続補正書】
【提出日】2023-07-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンを含み、スピネル構造を有するフェライト粒子であって、
前記フェライト粒子におけるモリブデン含有量は、前記フェライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フェライト粒子100質量%に対するMoO 換算での含有率(Mo )で0.1~30質量%である、フェライト粒子。
【請求項2】
前記スピネル構造が、AFe(式中、Aは、Ni、Mn、Cu、Zn、Mg、Ca、Coから選択される1又は複数の元素である)で表される、請求項に記載のフェライト粒子。
【請求項3】
前記フェライト粒子の表層におけるモリブデン含有量は、前記フェライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フェライト粒子の表層100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)で2.0~95.0質量%である、請求項1又は2に記載のフェライト粒子。
【請求項4】
前記フェライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フェライト粒子100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)に対する、前記フェライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フェライト粒子の表層100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)である、モリブデンの表層偏在比(Mo/Mo)が1.0~80である、請求項1又は2に記載のフェライト粒子。
【請求項5】
前記フェライト粒子の一次粒子の平均粒子径が0.1~100μmである、請求項1又は2に記載のフェライト粒子。
【請求項6】
BET法で測定される比表面積が0.1~2.5m/gである、請求項1又は2に記載のフェライト粒子。
【請求項7】
請求項1に記載のフェライト粒子の製造方法であって、モリブデン化合物の存在下で、金属化合物及び鉄化合物を焼成することを含み、
原料中、モリブデン化合物の質量に対する、ニッケル化合物および鉄化合物の合計質量の比が、0.4~10である、フェライト粒子の製造方法。
【請求項8】
前記モリブデン化合物の存在下で、前記金属化合物及び前記鉄化合物に、更に亜鉛化合物を加えて焼成することを含む、請求項に記載のフェライト粒子の製造方法。
【請求項9】
前記モリブデン化合物が、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である、請求項又はに記載のフェライト粒子の製造方法。
【請求項10】
前記焼成する焼成温度が800~1500℃である、請求項又はに記載のフェライト粒子の製造方法。
【国際調査報告】