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特表2024-531073非常に高い含有量のセルロースと混合されたポリヒドロキシアルカノエート樹脂を含む、パッケージを作製するための材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】非常に高い含有量のセルロースと混合されたポリヒドロキシアルカノエート樹脂を含む、パッケージを作製するための材料
(51)【国際特許分類】
   B65D 1/00 20060101AFI20240822BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20240822BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20240822BHJP
   B29C 49/04 20060101ALI20240822BHJP
   B65D 85/804 20060101ALI20240822BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20240822BHJP
【FI】
B65D1/00 110
C08L1/02 ZBP
C08L67/04
B29C49/04
B65D85/804 200
C08L101/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504236
(86)(22)【出願日】2022-08-08
(85)【翻訳文提出日】2024-01-23
(86)【国際出願番号】 EP2022072172
(87)【国際公開番号】W WO2023016951
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】21190740.7
(32)【優先日】2021-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】ハウスマン, ミカエル カールハインツ
(72)【発明者】
【氏名】ゼボウジ, リーズ
【テーマコード(参考)】
3E033
4F208
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
3E033AA01
3E033BA13
3E033BB01
3E033FA03
3E033GA02
4F208AA24
4F208AB19
4F208AB25
4F208AG07
4F208AH55
4F208LA01
4F208LA09
4F208LB01
4J002AB011
4J002CF182
4J002FA041
4J002FD011
4J002GG01
4J200AA06
4J200AA17
4J200AA28
4J200BA12
4J200BA15
4J200BA16
4J200BA38
4J200DA17
4J200EA04
4J200EA22
(57)【要約】
本発明は、主として、ポリマー化合物で作られた中空容器であって、上記ポリマー化合物が、
(i)ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)樹脂と、
(ii)15μm~150μmの範囲内、好ましくは20μm~120μmの範囲内に含まれる長さを有し、且つ少なくとも1.0g/cm3、好ましくは少なくとも1.5g/cm3の密度を有する広葉樹セルロース繊維であって、上記繊維が全化合物重量の50重量%超の量で存在する、広葉樹セルロース繊維と、を含むことを特徴とする、中空容器に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー化合物で作製された中空容器であって、前記ポリマー化合物が、
(i)ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)樹脂と、
(ii)15μm~150μmの範囲内、好ましくは20μm~120μmの範囲内に含まれる長さを有し、且つ少なくとも1.0g/cm3、好ましくは少なくとも1.5g/cm3の密度を有する広葉樹セルロース繊維であって、前記繊維が全化合物重量の50重量%超の量で存在する、広葉樹セルロース繊維と、
を含むことを特徴とする、中空容器。
【請求項2】
押出ブロー成形又は圧縮成形された、請求項1に記載の中空容器。
【請求項3】
前記ポリヒドロキシアルカノエート樹脂が、ポリ3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)、ポリ-3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート(PHBV)、ポリ-3-ヒドロキシブチレート(PHB)、ポリ-3-ヒドロキシバレレート(PHV)、又はポリ-3-ヒドロキシヘキサノエート(PHHx)、及びこれらの誘導体、又はこれらの組み合わせのリスト内で選択される、請求項1又は2に記載の中空容器。
【請求項4】
食用液体を収容するためのボトルであって、該ボトルが、押出成形されたパリソンをブロー成形することで作製され、前記パリソンは、長手方向又は横手方向のうちの少なくとも一方に延伸されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の中空容器。
【請求項5】
飲料調製マシンにおいて飲料を調製するための飲料前駆体原材料を収容するためのカプセルであって、該カプセルが、圧縮成形によって形成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の中空容器。
【請求項6】
前記広葉樹繊維が、トネリコ(トネリコ属(Genus Fraxinus))、ブナ(ブナ属(Genus Fagus))、シナノキ(シナノキ属(Genus Tilia))、カバ(カバノキ属(Genus Betula))、ブラックチェリー(サクラ属(Genus Prunus))、クログルミ/バタグルミ(クルミ属(Genus Juglans))、ハコヤナギ(ハコヤナギ属(Genus Populus))、ニレ(ニレ属(Genus Ulmus))、エノキ(エノキ属(Genus Celtis))、ヒッコリー(ペカン属(Genus Carya))、ヒイラギ(モチノキ属(Genus Ilex)、ハリエンジュ(ハリエンジュ属(Genus Robinia);サイカチ属(Genus Gleditsia))、モクレン(モクレン属(Genus Magnolia))、カエデ(カエデ属(Genus Acer))、オーク(コナラ属(Genus Quercus))、ポプラ(ハコヤナギ属)、レッドアルダー(ハンノキ属(Genus Alnus))、キリ(キリ属(Genus Paulownia))、サッサフラス(サッサフラス属(Genus Sassafras))、モミジバフウ(フウ属(Genus Liquidambar))、プラタナス(スズカケノキ属(Genus Platanus))、チュペロ(ヌマミズキ属(Genus Nyssa))、ヤナギ(ヤナギ属(Genus Salix))、ユリノキ(ユリノキ属(Genus Liriodendron))、ユーカリノキ、の樹木又はこれらの組み合わせから供給される、請求項1~5のいずれか一項に記載の中空容器。
【請求項7】
中空容器の押出ブロー成形又は圧縮成形のためのポリマー化合物であって、前記ポリマー化合物が、
(i)ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)樹脂と、
(ii)15μm~150μmの範囲内、好ましくは20μm~120μmの範囲内に含まれる長さを有し、且つ少なくとも1.0g/cm3、好ましくは少なくとも1.5g/cm3の密度を有する広葉樹セルロース繊維であって、前記繊維が全化合物重量の50重量%超の量で存在する、広葉樹セルロース繊維と、
を含むことを特徴とする、ポリマー化合物。
【請求項8】
前記ポリヒドロキシアルカノエート樹脂が、ポリ3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)、ポリ-3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート(PHBV)、ポリ-3-ヒドロキシブチレート(PHB)、ポリ-3-ヒドロキシバレレート(PHV)、又はポリ-3-ヒドロキシヘキサノエート(PHHx)、及びこれらの誘導体、又はこれらの組み合わせのリスト内で選択される、請求項6に記載のポリマー化合物。
【請求項9】
前記広葉樹繊維が、トネリコ(トネリコ属)、ブナ(ブナ属)、シナノキ(シナノキ属)、カバ(カバノキ属)、ブラックチェリー(サクラ属)、クログルミ/バタグルミ(クルミ属)、ハコヤナギ(ハコヤナギ属)、ニレ(ニレ属)、エノキ(エノキ属)、ヒッコリー(ペカン属)、ヒイラギ(モチノキ属)、ハリエンジュ(ハリエンジュ属;サイカチ属)、モクレン(モクレン属)、カエデ(カエデ属)、オーク(コナラ属)、ポプラ(ハコヤナギ属)、レッドアルダー(ハンノキ属)、キリ(キリ属)、サッサフラス(サッサフラス属)、モミジバフウ(フウ属)、プラタナス(スズカケノキ属)、チュペロ(ヌマミズキ属)、ヤナギ(ヤナギ属)、ユリノキ(ユリノキ属)、ユーカリノキ、の樹木又はこれらの組み合わせから供給される、請求項7又は8に記載のポリマー化合物。
【請求項10】
順に、
(i)請求項7~9のいずれか一項に記載の溶融化合物からパリソンを押出するステップと、
(ii)前記パリソンをブロー金型の近傍に配置するステップであって、前記金型が開位置にある、ステップと、
(iii)前記パリソンの周囲の前記ブロー金型を閉じ、前記パリソンが膨張してキャビティ内面に合致するように前記パリソン内に流体を吹き込むステップと、
(iv)前記金型を開いて、ボトル状に形成された延伸したパリソンを取り出すステップと、
を含むことを特徴とする、請求項7~9のいずれか一項に記載のポリマー化合物の押出ブロー成形によって食用液体用のボトルを形成する方法。
【請求項11】
順に、
(i)請求項7~9のいずれか一項に記載の溶融化合物の液体又は半液体の液滴を形成するステップと、
(ii)前記溶融化合物の液滴を、互いに対して移動可能な少なくとも2つのキャビティを備える金型内に配置するステップであって、前記金型が開位置にある、ステップと、
(iii)前記金型を閉じて前記溶融化合物に圧力を加えて、カプセルを形成するステップと、
(iv)前記金型を開いて、形成されたカプセルを取り出すステップと、
を含む、圧縮成形によって飲料カプセルを形成する方法。
【請求項12】
食用液体の収容に好適なボトルの押出ブロー成形法による製造のための、請求項7~9のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項13】
飲料調製マシンでの使用に好適なカプセルの圧縮成形プロセスによる製造のための、請求項7~9のいずれか一項に記載の化合物の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い生分解性と、増強された機械的特性とのために、非常に高い含有量のセルロースと混合されたポリヒドロキシアルカノエート樹脂を含む、パッケージを作製するための材料に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック包装は、経済活動及び人々の日常生活においてしばしば使用されている。プラスチック包装は、可撓性及び軽量性など、複数の利点を有する。軽量化は、例えば、輸送時の燃料の節約及びCO削減に寄与する。プラスチック包装のバリア特性は、保存期限の延長にプラスの効果があることから、食品廃棄物を減らすのに役立つ。バリア特性はまた、食品の安全性を確保するのに役立つ。
【0003】
しかしながら、欧州委員会によって最近公表された、循環型経済におけるプラスチックに関する欧州戦略によれば、欧州では毎年約2580万トンのプラスチック廃棄物が発生しており、かかる廃棄物のうちリサイクルのために回収されるのは30%未満であり、毎年150000~500000トンものプラスチック廃棄物が海洋に侵入している。
【0004】
プラスチック廃棄物の削減を確保するために、産業及び商業において多大な努力がなされている。例えば、スーパーマーケットや商店は、ビニール袋を紙袋に置き換える傾向がある。しかしながら、紙が水分、グリース、及び食用製品中に存在する多くの他の原材料に対して敏感な材料であるという事実から、食品包装においてプラスチックを紙で置き換えることは容易な課題ではない。また、紙が、酸素、水分又は液体に対してバリア性がないことは、ほとんどの食品製品又は飲料製品について賞味期限延長のための要件を充足しない。更に、包装材料の変更は、消費者の安全を損なわないことが必要である。包装は、食品を保護する役割を果たす必要があるだけでなく、製造プロセス中に機械によって取り扱われるのに十分に丈夫なものである必要もあり、かつ食品製品が効果的に提示され得るようなものである必要もある。
【0005】
再生不能なプラスチックの代わりに再生資源に由来し、例えばポリオレフィンなどの古典的なポリマーと同様の特性を提供することができる新しいポリマーが見出された。
【0006】
ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)は、細菌によって天然に産生される生物由来ポリマーの一種であり、食品包装に興味深い特徴を提供する。以下の説明における慣例により、かつ本明細書の記載及び解釈を簡略化するために、ポリヒドロキシアルカノエートを総じて「PHA」と称するが、各種のポリヒドロキシアルカノエートの中にはPHA以外の種類のものも含まれる。
【0007】
更に、PHAは何らかの形で生分解性の材料であるため、食品製品を包装するための環境に優しい材料となる。
【0008】
しかしながら、その分解は限られており、国際的な生分解性基準を満たすための所定時間内での生分解性に関する要件を満たすことができない場合がある。
【0009】
加えて、PHAの結晶化速度は遅いため、射出成形プロセスによってパッケージに加工するときには長いサイクル時間が必要とされることは、生産チェーン全体に影響を与える。
【0010】
更に、従来の射出成形技術によって射出成形した場合、PHAは、冷却時に、合成ポリオレフィンと比較して相対的に大きな収縮を有する。射出成形品が、冷却後に機能又は使用に悪影響を及ぼす予想外の様式で収縮しない保証はなく、当該射出成形品の最終寸法を高度に予測する必要があることから、この収縮は、射出成形金型の設計及び製造を困難にする。
【0011】
PHAのこれらの欠点に対し、核形成を促進するため又はPHA系複合材料のコストを削減するための不活性充填剤(例えば、CaCOH)の使用などの、いくつかの解決策が開発されている。しかしながら、上記の添加剤は、PHA材料の分解性を改善しない。
【0012】
不活性充填剤に関する上記の問題を解決するために、Moving Beans Ltd.のPCT国際公開第2021/64422号(A1)において、発明者らは、射出時に竹及びもみ殻のセルロース繊維製の充填剤をPHA樹脂に添加する、PHA樹脂からの飲料カプセルの射出成形を提案している。セルロース充填剤は、樹脂のホッパーとは別のホッパーから射出機に導入され、射出プレス機の充填スクリューの使用により上記樹脂に混合される。このPCT公報では、セルロース繊維は生分解性であることから、無機充填剤の良好な代替物であると主張されている。
【0013】
更に、セルロース繊維は、繊維とプラスチック樹脂との混合物から作製された製造品の内部で、細菌が生分解を開始及び進行させるための優先的な開始部位(preferential initiation sites)を作り出す。繊維が多いほど、生分解プロセスの効率は高くなる。
【0014】
また、欧州特許第1693416号は、ケナフ繊維を使用して、物品の射出成形又はフィルムの製造に使用される生分解性ポリマーとの混合物を作製することを開示している。当該発明に関連して使用されるケナフ繊維は、最大で20mmの長さを有する長繊維である。
【0015】
しかしながら、本発明者らは、上記の先行技術文献がいくつかの重要な欠点を含むことを認識した。
【0016】
第1に、PHA樹脂が射出機に供給されるホッパーとは別の射出機の供給ホッパーからセルロース系材料を添加すると、射出機自体によって発生する熱による火災の危険性が生じる。
【0017】
第2に、そして重要なことに、本発明者らは、PHA樹脂とセルロース系繊維とによって構成される材料のマトリックス内には非常に高い剪断応力が生じ、その結果、セルロース繊維の全体量が特定の限界を超えることができないことを発見した。基本的に、包装材料中の繊維が多いほど上記材料の粘度は高くなり、粘度が高いほど最終的なパッケージへと加工することが困難になる。材料を加工できるようにするために、射出機の温度を上昇させることが必要であるが、溶融材料の原材料を金型キャビティ内に押し込むスクリューの関与も必要である。しかしながら、射出成形機の温度を上昇させることで粘度の低下が生じ、このような粘度低下は繊維及びポリマーに損傷をもたらすことから当然望ましくない。更に、スクリューの関与が増大すると、材料に適用される剪断応力が増大し、その結果、より多くの熱が発生し、繊維の機械的及び熱的劣化が生じる。そして言及が最後になったものの重要なこととして、材料は、繊維が多いほど非ニュートン性(ずり減粘)が大きくなる。すなわち、適用される剪断応力は、製造品のごく縁部に局在し、製造品の中心は剪断応力を受けないことを意味する。したがって、製造されるパッケージの壁部近くに強い剪断応力が局在することで、加工中に局所的に大きな温度上昇にさらされる可能性があり、したがって、材料に局所的な損傷が生じる一方で、同じ製造品の他の領域は材料に実質的な損傷を受けずに残る。その結果、製造された包装用品の全体的な品質及び機械的抵抗が実質的に低下し、この低下も当然望ましくない。
【0018】
第3に、安定化されていない樹脂又は化合物から製造された射出成形品は冷却中(射出成形品が射出プレスから取り出された後)に収縮を受けるという事実により、国際公開第’422号に開示されている発明に従って作製された射出成形品は冷却後に収縮を受ける。この収縮は、最終的な包装用品の寸法に影響を与えるため、望ましくない。
【0019】
上記を考慮すると、様々な容積の高度に生分解性のパッケージを作製するための製造技術に適したパッケージ作製材料であって、上記のような先行技術において既に利用可能な解決策の主な欠点を解決するパッケージ作製材料が必要とされている。
【0020】
[発明の概要]
上記の目的は、添付の特許請求の範囲に記載された中空容器、特にポリマー化合物で作製された中空容器であって、上記ポリマー化合物が、
(i)ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)樹脂と、
(ii)15μm~150μmの範囲内、好ましくは20μm~120μmの範囲内に含まれる長さを有し、且つ少なくとも1.0g/cm3、好ましくは少なくとも1.5g/cm3の密度を有する広葉樹セルロース繊維であって、上記繊維が全化合物重量の50重量%超の量で存在する、広葉樹セルロース繊維と、
を含むことを特徴とする、中空容器によって達成される。
【0021】
本発明者らは、本発明に関連して使用される繊維の長さが、当該繊維を用いて形成される化合物を本発明に適用可能な製造技術、特に押出ブロー成形又は圧縮成形で加工可能なものとすることを確保するために重要であることを見出した。繊維が長すぎる(すなわち、150μm以上)場合、長い繊維が製造装置内の化合物の流路を遮断することから、化合物は加工可能にならない。
【0022】
本発明は更に、中空容器の押出ブロー成形又は圧縮成形のためのポリマー化合物であって、上記ポリマー化合物が、
(i)ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)樹脂と、
(ii)15μm~150μmの範囲内、好ましくは20μm~120μmの範囲内に含まれる長さを有し、且つ少なくとも1.0g/cm3、好ましくは少なくとも1.5g/cm3の密度を有する広葉樹セルロース繊維であって、上記繊維が全化合物重量の50重量%超の量で存在する、広葉樹セルロース繊維と、
を含む、ポリマー化合物に関する。
【0023】
別の態様では、本発明は、上記のようなポリマー化合物の押出ブロー成形によって食用液体用のボトルを形成するための方法であって、順に、
(i)本発明による溶融化合物からパリソンを押出するステップと、
(ii)上記パリソンをブロー金型の近傍に配置するステップであって、上記金型が開位置にある、ステップと、
(iii)上記パリソン周囲の上記ブロー金型を閉じ、上記パリソンが膨張してキャビティ内面に合致するように上記パリソン内に流体を吹き込むステップと、
(iv)上記金型を開いて、ボトル状に形成された延伸したパリソンを取り出すステップと、
を含む、方法に関する。
【0024】
更に別の態様では、本発明は、圧縮成形によって飲料カプセルを形成するための方法であって、順に、
(i)本発明による溶融化合物の液体又は半液体の液滴を形成するステップと、
(ii)上記溶融化合物の液滴を、互いに対して移動可能な少なくとも2つのキャビティを備える金型内に配置するステップであって、上記金型が開位置にある、ステップと、
(iii)上記金型を閉じて上記溶融化合物に圧力を加えて、カプセルを形成するステップと、
(iv)金型を開いて、形成されたカプセルを取り出すステップと、
を含む、方法に関する。
【0025】
無水マレイン酸との化学反応により修飾されたPHAは従来技術から公知であり、PHAとセルロース繊維との間のグラフト化性能を改善することが過去に見出されていることに留意されたい。したがって、無水マレイン酸で修飾されたPHAは、絶対に必要というわけではないが、有利には、本発明の範囲内の好ましい選択肢である。
【0026】
最後に重要なこととして、本発明は、食用液体を収容するのに適したボトルの押出ブロー成形プロセスによる製造のための、又は飲料調製マシンでの使用に好適なカプセルの圧縮成形プロセスによる製造のための、本明細書に記載の化合物の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、主として、添付の特許請求の範囲に記載された中空容器、特にポリマー化合物で作製された中空容器であって、上記ポリマー化合物が、
(i)ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)樹脂と、
(ii)15μm~150μmの範囲内、好ましくは20μm~120μmの範囲内に含まれる長さを有し、且つ少なくとも1.0g/cm3、好ましくは少なくとも1.5g/cm3の密度を有する広葉樹セルロース繊維であって、上記繊維が全化合物重量の50重量%超の量で存在する、広葉樹セルロース繊維と、
を含むことを特徴とする、中空容器に関する。
【0028】
「中空容器」とは、三次元形状を有し、ヒト又は動物が摂取するための食用製品の包装に使用される、任意の品物を意味する。これは、製品を内部に包装する容器レセプタクルだけでなく、例えばレセプタクルクロージャなどの、レセプタクルを完成させるのに有用な任意の三次元容器要素も含む。
【0029】
「広葉樹セルロース繊維」とは、落葉樹(「広葉樹」)から得られ、1.5ミリメートル未満、好ましくは0.5mm未満の長さを有する繊維を意味する。本発明に関連する使用に好適な広葉樹セルロース繊維は、次の樹木から供給される(括弧内にラテン名を示す):トネリコ(トネリコ属(Genus Fraxinus))、ブナ(ブナ属(Genus Fagus))、シナノキ(シナノキ属(Genus Tilia))、カバ(カバノキ属(Genus Betula))、ブラックチェリー(サクラ属(Genus Prunus))、クログルミ/バタグルミ(クルミ属(Genus Juglans))、ハコヤナギ(ハコヤナギ属(Genus Populus))、ニレ(ニレ属(Genus Ulmus))、エノキ(エノキ属(Genus Celtis))、ヒッコリー(ペカン属(Genus Carya))、ヒイラギ(モチノキ属(Genus Ilex)、ハリエンジュ(ハリエンジュ属(Genus Robinia);
サイカ属(Genus Gleditsia))、モクレン(モクレン属(Genus Magnolia))、カエデ(カエデ属(Genus Acer))、オーク(コナラ属(Genus Quercus))、ポプラ(ハコヤナギ属)、レッドアルダー(ハンノキ属(Genus Alnus))、キリ(キリ属(Genus Paulownia))、サッサフラス(サッサフラス属(Genus Sassafras))、モミジバフウ(フウ属(Genus Liquidambar))、プラタナス(スズカケノキ属(Genus Platanus))、チュペロ(ヌマミズキ属(Genus Nyssa))、ヤナギ(ヤナギ属(Genus Salix))、ユリノキ(ユリノキ属(Genus Liriodendron))、ユーカリノキ、又はこれらの組み合わせ。
【0030】
繊維は相溶化されておらず、すなわち、別の原材料との相溶性を増強するための化学的処理をなされていない。
【0031】
本発明の原理によれば、今や、様々な容積の中空容器(特に大容積容器)を得ることが可能であり、上記容器は、ポリヒドロキシアルカノエートとセルロース繊維との単層化合物から作製され、低収縮性及び改善された生分解特性を有する。このような容器は、PHAとセルロース繊維との化合物を圧縮成形又は押出ブロー成形プロセスにおいて使用することによって可能になる。該プロセスは、繊維の剪断及び分解の発生が少ないことから、化合物は、従来の射出成形プロセスにおいてPHAとセルロース繊維とを混合することによって製造された品物よりも多量のセルロース繊維を含有することができる。更に、高密度を有する繊維が化合物配合物中に存在することにより、冷却時に収縮することなく、したがって均一かつ再現可能な寸法安定性を有するパッケージを製造することが可能になる。
【0032】
更に、本発明によるPHAと繊維との化合物は、すぐに使用できる(ready-to-use)顆粒又はペレットを製造するために作製され、当該顆粒又はペレットは、押出ブロー成形又は圧縮成形による中空容器の製造のための機械中へと直接加工(processed directly into machines)することができる。このようなすぐに使用できる化合物をペレット又は顆粒の形態で用いると、粉末状態の繊維を、開放ホッパーにおいてPHA樹脂とは別に添加する必要がなくなる。一般に、粉末は高い比表面積を有し、すなわち、該粉末は高い反応性を有しており、かかる粉末を他の原材料と混合してスクリューミキサーに入れると、熱又は摩擦を受けたときに爆発又は発火しやすい。本発明の場合、セルロース粉末が存在しないので(セルロースは、容器の製造時には予め樹脂と混合されている)、容器製造プロセスは安全面に十分対応している。
【0033】
更に、本発明では、化合物を構成する繊維の密度は、冷却時に製造品の収縮が起こらないような密度である。このような繊維はまた、食品の分野で安全なもの(food safe)であり、そのため包装用品は食用製品の収容に適している。
【0034】
好ましくは、本発明によるポリマー化合物、及び当該化合物から作製されたパッケージは、家庭で堆肥化可能である。家庭で堆肥化可能とは、上記化合物及び上記パッケージが、家庭での堆肥化性能についての基準:EN 13432、AS 5810、NF T 51800、prEN17427に従って、周囲温度(25±5℃)で12ヶ月間にわたって少なくとも90%の生分解、及び周囲温度(25±5℃)で6ヶ月後に90%の崩壊を達成しなければならないことを意味する。
【0035】
上記の基準に記載される生態毒性及び化学分析レベルにも適合しなければならない。
【0036】
したがって、本発明の非常に好ましい実施形態では、化合物及び得られた包装のポリヒドロキシアルカノエート画分は、ポリ3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)である。
【0037】
PHBHは、ポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)に類似したポリエステルであり、様々な異なる条件において優れた生分解性を有する。例えば、PHBHは周囲温度で堆肥化可能であり(家庭で堆肥化可能)、土壌及び海水中で生分解性でもある。ポリエチレン(PE)又はポリプロピレン(PP)のようなポリオレフィンの代替樹脂として、PHBHは様々な用途に使用できる。最も適切な用途は、使用後に再収集及び分類することが困難な、農業用マルチフィルム、食品包装、ゴミ袋、漁網などである。更に、PHBHは微生物に曝露すると経時的に二酸化炭素と水とに分解することから、PHBHは、発展途上国におけるプラスチック廃棄物の問題の解決に関与し得る。
【0038】
PHBHは、植物油を炭素源として用いる微生物発酵によって生産される。PHBHは、一般的に使用される装置で様々なプラスチック製品へと加工できる。使用後、PHBHは微生物の存在下で二酸化炭素と水とに生分解する。換言すれば、PHBHはカーボンニュートラルシステムを生成する。更に、海水中でのPHBHの生分解性は、世界的に大きな問題となっている海洋マイクロプラスチック汚染の問題に対する重要な解決策を提供する。
【0039】
PHBHは、好気性条件、嫌気性条件、水中条件及び堆肥化条件下で優れた生分解性を有し、環境に優しいプラスチックであることが証明されている。
【0040】
好気性条件下で、ISO14855規格に従って試験した場合、PHBHはセルロースよりも高いレベルの生分解性を示す。PHBHは、生分解を介して、堆肥及びメタンガスなどの再利用可能な資源に変換される。
【0041】
PHBHには、軟質タイプの151Cと、硬質タイプのX131Aとの2つのグレードがあり、様々な用途に使用可能である。PHBHは、他の生分解性ポリマーと比較して、より良好なガスバリア特性及び水分バリア特性を有する。
【0042】
本発明による中空容器は、好ましくは、食用液体を収容するためのボトルであり、上記ボトルは、押出されたパリソンをブロー成形することで作製され、上記パリソンは、長手方向又は横手方向のうちの少なくとも一方に延伸されている。
【0043】
あるいは、上記中空容器は、飲料調製マシンで飲料を調製するための、飲料前駆体原材料を収容するためのカプセル(又はポッド若しくはパッド)であってもよく、上記カプセルは圧縮成形によって形成される。
【0044】
本発明は更に、中空容器の押出ブロー成形又は圧縮成形のためのポリマー化合物であって、上記ポリマー化合物が、
(i)ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)樹脂と、
(ii)15μm~150μmの範囲内、好ましくは20μm~120μmの範囲内に含まれる長さを有し、且つ少なくとも1.0g/cm3、好ましくは少なくとも1.5g/cm3の密度を有する広葉樹セルロース繊維であって、上記繊維が全化合物重量の50重量%超の量で存在する、広葉樹セルロース繊維と、
を含む、ポリマー化合物に関する。
【0045】
本発明に関連して、中空容器の製造に使用される化合物を作製するために使用できるポリヒドロキシアルカノエート(PHA)樹脂は、ポリ3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)、ポリ-3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート(PHBV)、ポリ-3-ヒドロキシブチレート(PHB)、ポリ-3-ヒドロキシバレレート(PHV)、又はポリ-3-ヒドロキシヘキサノエート(PHHx)、及びこれらの誘導体、又はこれらの組み合わせのリスト内で選択される。
【0046】
本発明の1つの可能な実施形態では、上記のリストから選択されるPHA樹脂は、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリプロピレングリコール(PG)、ポリビニルアルコール(PVA)、デンプン、又はこれらの組み合わせのリスト内で選択される、ある量の少なくとも第2のポリマーによって完成され得る。
【0047】
化合物はまた、好ましくは少なくとも1種の可塑剤も含む。ポリヒドロキシアルカノエート加工で一般的に使用される任意の可塑化剤を使用できるが、レシチン、マンニトール、ポリエステル、セバカート、シトレート、脂肪酸、脂肪族アルコール、アジピン酸、コハク酸、又はグルカル酸の脂肪酸エステル、ラクテート、アルキルジエステル、シトレート、アルキルメチルエステル、ジベンゾエート、プロピレンカーボネート、200~10,000g/molの数平均分子を有するカプロラクトンジオール、400~10,000g/molの数平均分子を有するポリエチレングリコール、例えば大豆油などの植物油のエステル、長鎖アルキル酸、アジペート、グリセロール、イソソルビド誘導体など、界面活性剤、テルペンD-リモネン(LIM)、トリ(エチレングリコール)ビス(2-エチルヘキサノエート)(TEGB)、トリブチリン、トリエタノールアミン(TEA)、トリエチルシトレート(TEC)、トリラウリン、尿素、水、ワックス、脂肪族ジカルボン酸(例えばシュウ酸、コハク酸、セバシン酸、又はアジピン酸など)、又はこれらの混合物のリスト内から選択できるものが好ましい。
【0048】
更に、本発明による容器を製造するために使用される化合物は、有利には、少なくとも1つの核形成剤を含み得る。PHAの加工に従来から使用されている任意の核形成剤を使用できるが、好ましくは、選択される核形成剤は、硫黄、ポリビニルピロリドン(PVP)、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、人工甘味料、例えばサッカリン、オロチン酸、ステアレート、ソルビトール、マンニトール、ポリエステルワックス、キチン、シクロデキストリン錯体、シクロヘキシルホスホン酸/亜鉛ステアレート、二塩基酸、無機金属塩、有機金属塩、有機ホスホン酸ベースの系、デンプン、2:1/2:1結晶化学構造を有する化合物、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0049】
本発明に関連する使用に好適な化合物はまた、無水物、カルボジイミド、カルボン酸塩、エポキシド、イソシアネート、少なくとも1種の無機充填剤、少なくとも1種の鉱油、過酸化物、又はこれらの組み合わせのリスト内で好ましくは選択される鎖延長剤を更に含んでもよい。
【実施例
【0050】
実施例1:
【表1】
【0051】
化合物を上記の原材料リストにより調製し、次いで、ミネラルウォーターを入れるためのボトルに加工する。ボトルは、押出されたパリソンをブロー成形することによって、概して最新(state-of-the-art)の押出成形プロセスに従って作製され、上記パリソンは長手方向又は横手方向の両方に延伸される。このようにして得られたボトルは、1リットルのミネラルウォーターを収容するのに適している。
【0052】
実施例2:
【表2】
【0053】
化合物は、上記の原材料リストにより調製され、次いで、ボトルに蓋をする/ボトルを閉じるためのクロージャに加工される。クロージャは、公知の技術に従って圧縮成形によって製造される(製造環境は、慣行の枠組み内で化合物の特性に適合させることができる)。
【0054】
本明細書で述べる現在の好ましい実施形態に対する様々な変更及び修正が、当業者には明らかとなる点を理解されたい。このような変更及び修正は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、並びに本発明の付随する利点を減らすことなく、なされてもよい。したがって、このような変更及び修正は、添付の特許請求の範囲によって包含されることが意図されている。

【国際調査報告】