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特表2024-531160イオン鎖の操作に基づく量子コンピュータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】イオン鎖の操作に基づく量子コンピュータ
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/40 20220101AFI20240822BHJP
【FI】
G06N10/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508057
(86)(22)【出願日】2022-08-19
(85)【翻訳文提出日】2024-03-26
(86)【国際出願番号】 US2022075213
(87)【国際公開番号】W WO2023172337
(87)【国際公開日】2023-09-14
(31)【優先権主張番号】63/260,441
(32)【優先日】2021-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/890,864
(32)【優先日】2022-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520132894
【氏名又は名称】イオンキュー インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】507189666
【氏名又は名称】デューク ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】キム ジュンサン
(72)【発明者】
【氏名】ミズラヒ ジョナサン アルバート
(72)【発明者】
【氏名】アミニ ジェイソン マディディ
(72)【発明者】
【氏名】ライト ケネス
(72)【発明者】
【氏名】ピセンティ ニール
(72)【発明者】
【氏名】ウイス ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】リー ミン
(72)【発明者】
【氏名】ゴールドマン マイケル ルーリー
(72)【発明者】
【氏名】セージ ジェレミー マシュー
(72)【発明者】
【氏名】フデック カイ マコト
(72)【発明者】
【氏名】ナム ユンソン
(72)【発明者】
【氏名】グルゼシアク ニコデム
(72)【発明者】
【氏名】ブルーメル レインホールド
(57)【要約】
量子情報処理(QIP)システムのための単一のイオントラップにおける複数のイオン鎖の使用について説明する。各鎖は、その鎖内の量子ゲートを実装し動作させるためのレーザビームのそれ自体のセットを有することができ、したがって、各鎖は、単一の量子コンピューティングレジスタ又はコアに対応することがある。動作は、互いに独立して処理することができるので、これらの鎖の全てにわたって並列に実行することができる。異なる鎖間で量子ゲートを実装し動作させるために、隣接する鎖はマージされて、単一のより長い鎖になり、より長い鎖内の任意のイオン間で量子ゲートを実行することができる。次いで、組み合わされた鎖は、必要に応じて別のシャトリングイベントによって再び分離することができる。隣接する鎖を占有しないイオン間の量子ゲートを実装し動作させるために、スワップゲートは、介在する鎖のシーケンスを介して使用することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子演算を実行するように構成された量子情報処理(QIP)システムであって、
イオントラップと、
コントローラであって、
前記イオントラップ内での複数のイオン鎖の形成を制御し、
前記イオントラップに印加される信号を生成して、前記イオントラップ内のゾーン間で複数のイオン鎖をシャトリングさせ、前記複数のイオン鎖のうちの2つ以上をマージすることによって、少なくとも1つのより長いイオン鎖を形成するように
構成されたコントローラと、
を備える、QIPシステム。
【請求項2】
前記複数のイオン鎖のそれぞれは、1つ以上のキュービット及び1つ以上の冷却剤イオンを含む、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項3】
前記複数のイオン鎖のうちの1つの中の冷却剤イオンの数は、前記複数のイオン鎖のうちの別の1つの中の冷却剤イオンの数とは異なる、請求項2に記載のQIPシステム。
【請求項4】
前記1つ以上のキュービットは、前記1つ以上の冷却剤イオンとは異なるイオン種のものである、請求項2に記載のQIPシステム。
【請求項5】
前記1つ以上のキュービットは、イッテルビウムイオンである、請求項2に記載のQIPシステム。
【請求項6】
前記1つ以上のキュービットは、バリウムイオンである、請求項2に記載のQIPシステム。
【請求項7】
前記信号は、前記イオントラップに印加される電圧波形である、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項8】
前記複数のイオン鎖のそれぞれは、イオンの線状鎖である、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項9】
前記複数のイオン鎖のうちの2つ以上をマージすることは、2つのイオン線状鎖の端部を互いに隣接させることを含む、請求項8に記載のQIPシステム。
【請求項10】
前記複数のイオン鎖のうちの2つ以上をマージすることは、3つ以上のイオン線状鎖の端部を互いに隣接させることを含む、請求項8に記載のQIPシステム。
【請求項11】
前記複数のイオン鎖のうちの2つ以上をマージすることは、一対のイオン線状鎖の端部を互いに隣接させること、及び別の一対のイオン線状鎖の端部を互いに隣接させることを含む、請求項8に記載のQIPシステム。
【請求項12】
前記複数のイオン鎖のうちの1つの中のイオンの数は、前記複数のイオン鎖のうちの別の1つの中のイオンの数とは異なる、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項13】
前記イオントラップ内での前記複数のイオン鎖の形成を制御するように構成された前記コントローラは、前記イオントラップ内で形成されるイオン鎖の数を動的に変更するようにさらに構成される、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項13】
前記イオントラップ内のゾーン間で前記複数のイオン鎖をシャトリングさせるように構成された前記コントローラは、前記複数のイオン鎖のうちの1つ以上を現在のゾーンから隣接するゾーンに移動させるようにさらに構成される、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項14】
マージされる前記複数のイオン鎖のうちの2つ以上は、1つの特定のゾーン又は複数の特定のゾーンでマージされる、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項15】
前記イオントラップ内の前記ゾーンのうちの1つ以上のためのゲートレーザビームを生成するように構成されたレーザシステムをさらに備える、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項16】
前記ゾーンのうちの1つのためのゲートレーザビームの数は、前記ゾーンのうちの別の1つのためのゲートレーザビームの数とは異なる、請求項15に記載のQIPシステム。
【請求項17】
前記ゾーンのうちの前記1つ以上のためのゲートレーザビームの数は、少なくとも4つのゲートレーザビームである、請求項15に記載のQIPシステム。
【請求項18】
前記複数のイオン鎖のうちの2つ以上において量子ゲートを並列に実装するために使用されるゲートレーザビームをもたらすアルゴリズムを実行するように構成されたアルゴリズムコンポーネントをさらに備える、請求項15に記載のQIPシステム。
【請求項19】
前記少なくとも1つのより長いイオン鎖において複数の量子ゲートを並列に実装するために使用されるゲートレーザビームをもたらすアルゴリズムを実行するように構成されたアルゴリズムコンポーネントをさらに備える、請求項15に記載のQIPシステム。
【請求項20】
前記イオントラップ内の前記ゾーン間で前記複数のイオン鎖をシャトリングさせることは、前記複数のイオン鎖のうちの1つを前記少なくとも1つのより長いイオン鎖から移動させて、前記複数のイオン鎖のうちの別の1つとマージさせて、異なるより長いイオン鎖を形成することを含む、請求項1に記載のQIPシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権)
本出願は、2021年8月19日に出願され、「Multi-Core Quantum Computer Based on Manipulation of Ion Chains」と題する米国仮出願第63/260,441号、及び2022年8月18日に出願され、「Quantum Computer Based on Manipulation of Ion Chains」と題する米国非仮出願第17/890,864号の優先権及びその利益を主張するものであり、これらの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示の態様は、概して、量子情報処理(QIP)システムの実装、動作、及び/又は使用で用いるためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
トラップされた原子は、量子情報処理又は量子コンピューティングの主要な実施態様の1つである。原子ベースのキュービットは、量子コンピュータ及びシミュレータにおける量子メモリ、量子ゲートとして使用され得、量子通信ネットワークのためのノードとして機能し得る。トラップされた原子イオンに基づくキュービットは、稀有な属性の組み合わせを享受する。例えば、トラップされた原子イオンに基づくキュービットは、非常に優れたコヒーレンス特性を有し、ほぼ100%の効率で準備及び測定でき、光場又はマイクロ波場等の適切な外部制御場とのクーロン相互作用を変調することにより容易に相互に絡み合う。これらの属性により、原子ベースのキュービットは、量子計算又は量子シミュレーション等の拡張量子演算にとって魅力的になる。
【0004】
したがって、量子コンピュータ又は量子シミュレータとして使用される様々なQIPシステムの設計、製造、実装、制御、機能、及び/又は使用を改良する新たな技術を開発することが重要であり、特に、原子ベースのキュービットに基づく演算を処理するQIPシステムにとって重要である。
【発明の概要】
【0005】
以下は、このような態様の基本的な理解を提供するために1つ以上の態様の簡略化された概要を提示する。この概要は、想定される全ての態様の広範な概説ではなく、全ての態様の主要又は重要な要素を特定することも、いずれか又は全ての態様の範囲を画定することも意図していない。その唯一の目的は、後に提示されるより詳細な説明の前段階として、簡略化された形態で1つ以上の態様のいくつかの概念を提示することである。
【0006】
本開示は、複数のイオン鎖が単一のイオントラップ内で使用される量子コンピュータアーキテクチャの様々な態様を説明する。各鎖は、その鎖内の量子ゲートを実装し動作させるためのレーザビームのそれ自体のセットを有することができ、したがって、各鎖は、単一の量子コンピューティング「コア」に対応することがある。動作は、互いに独立して処理することができるので、これらの鎖の全てにわたって並列に実行することができる。異なる鎖間で量子ゲートを実装し動作させるために、隣接する鎖はマージされて、単一のより長い鎖になり、より長い鎖内の任意のイオン間で量子ゲートを実行することができる。この別々の鎖のマージは、例えば、イオントラップに印加される電圧波形を変更することによって達成してもよく、このプロセスはシャトリング(shuttling)と呼ばれる。次いで、組み合わされた鎖は、必要に応じて別のシャトリングイベントによって再び分離することができる。隣接する鎖を占有しないイオン間の量子ゲートを実装し動作させるために、スワップゲートは、介在する鎖のシーケンスを介して使用することができる。あるいは、イオントラップは、鎖の順序を再配列することを可能にするように構成されてもよい。いずれのオプションでも、イオン鎖の異なる構成間を移動することによって、全ての鎖内の全てのイオンにわたる任意の量子計算又は演算が可能になる。
【0007】
前述の目的及び関連する目的を達成するために、1つ以上の態様は、本明細書で以下に完全に記載され、特許請求の範囲において特に指摘される特徴を含む。以下の説明及び付属の図面は、1つ以上の態様の特定の例示的な特徴を詳細に示す。しかしながら、これらの特徴は、様々な態様の原理が利用され得る様々な方法のほんの一部を示すものであり、この説明は、そのような全ての態様及びそれらの等価物を含むことを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
開示される態様は、添付の図面と併せて以下で説明するが、図面は開示される態様を例示するために提供され、限定するものではなく、図面において、同様の符号は、同様の要素を表す。
【0009】
図1A】本開示の態様による原子イオン、線形結晶又は線状鎖の図を示す。
図1B】本開示の態様によるイオントラップ上に形成されたイオン鎖の上面図を示す。
図1C】本開示の態様によるイオントラップ上に形成された複数のイオンチェーンの上面図を示す。
図2】本開示の態様による量子情報処理(QIP)システムの一例を示す。
図3】本開示の態様によるコンピュータデバイスの一例を示す。
図4】本開示の態様による複数のイオン鎖を有する量子コンピュータアーキテクチャの一例を示す。
図5】本開示の態様による、図4の量子コンピュータアーキテクチャを使用する並列ゲート実装の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付の図面又は図に関連して以下に記載される詳細な説明は、様々な構成又は実施態様の説明として意図されており、本明細書に記載される概念が実施され得る唯一の構成又は実施態様を表すことを意図するものではない。詳細な説明は、様々な概念の完全な理解を提供する目的のための具体的な詳細を含む。しかしながら、これらの概念が、これらの具体的な詳細を伴わず、又はこれらの具体的な詳細の変形を伴って実施され得ることは、当業者には明らかであろう。一部の場合、周知のコンポーネントがブロック図の形式で示されているが、いくつかのブロックは1つ以上の周知のコンポーネントを表す場合がある。
【0011】
トラップされた原子イオンに基づくキュービットを使用する量子コンピュータまたはQIPシステムでは、量子コンピューティングに使用されるアプローチは、イオン鎖内のイオン間のゲートを駆動することである。これは、イオン鎖の振動運動モードを使用することによって達成される。量子コンピューティングに利用可能なキュービットの数は、鎖内のイオンの数を単に増加させることによって増やすことができる。しかしながら、イオンが鎖に加えられると、イオン鎖の質量中心(COM)軸方向モード周波数が低下する。その周波数が低下すると、COMモードの加熱速度が上昇し、ゲート忠実度が低下し、それによって量子コンピュータの性能が低下する。この問題は、イオンを鎖内に閉じ込めるために使用されるイオントラップの固有加熱速度を低下させることによって、またイオントラップの閉じ込めを増加させることによってイオン鎖のモード周波数を増加させることによって軽減することができる。しかしながら、これらの技術を用いても、最終的には、ゲート忠実度を低下させることなく、単鎖で使用することができるイオンの数に限界がある。
【0012】
解決策は、マルチ鎖アプローチであり得ることであって、複数の独立した鎖は、異なる鎖間でゲートを実行するための機構と共に使用される。これは、いくつかの異なる方法で達成することができる。1つの方法は、フォトニック相互接続を使用するもので、この場合、2つのイオン鎖は、放出された光子を介して遠隔で絡み合う。このアプローチは、長期にわたる大規模なスケーリングにとって有望であるが、かなりの技術的なオーバーヘッド及び課題を伴う。別の方法は、全てのイオンを独立して格納し、イオントラップ上の動的電圧波形を使用して(シャトリング)、任意の対のイオンをともに移動させ、量子ゲートを実装して、動作させるものである。このアプローチは、必要とされるシャトリングシーケンスが多いために、かなり技術的に複雑である。
【0013】
本開示では、量子コンピュータが単一のイオントラップに格納された複数のイオン鎖を使用する異なるアプローチを提案する。各鎖は、その鎖内の量子ゲートを実装し動作させるためのレーザビームのそれ自体のセットを有することができ、したがって、各鎖は、単一の量子コンピューティング「コア」に対応することがある。動作は、互いに独立して処理することができるので、これらの鎖の全てにわたって並列に実行することができる。異なる鎖間で量子ゲートを実装し動作させるために、隣接する鎖はマージされて、単一のより長い鎖になり、より長い鎖内の任意のイオン間で量子ゲートを実行することができる。別々の鎖のこのマージは、例えば、イオントラップに印加される電圧波形を変更することによって達成することができ、これは、シャトリングと呼ばれるプロセスである。次いで、組み合わされた鎖は、必要に応じて別のシャトリングイベントによって再び分離することができる。隣接する鎖を占有しないイオン間の量子ゲートを実装し動作させるために、スワップゲートは、介在する鎖のシーケンスを介して使用することができる。あるいは、イオントラップは、鎖の順序を再配列することを可能にするように構成されてもよい。いずれのオプションでも、イオン鎖の異なる構成間を移動することによって、全ての鎖内の全てのイオンにわたる任意の量子計算又は演算が可能になる。
【0014】
上記の問題に対する解決策は、図1A図5に関連してより詳細に説明され、図1A図3は、QIPシステム又は量子コンピュータ、より具体的には、原子ベースのQIPシステム又は量子コンピュータのバックグラウンドを提供する。
【0015】
図1Aは、トラップ(図示せず;トラップは、図2に示すように真空チャンバ内にあり得る)を使用して線形結晶又は線状鎖110にトラップされた複数の原子イオン又はイオン106(例えば、イオン106a、106b、…、106c、及び106d)を有するダイアグラム100を示す。トラップは、イオントラップと呼ばれることもある(例えば、図1Bおよび1Cを参照)。イオントラップは、半導体基板、誘電体基板、又はガラスダイもしくはウェーハ(ガラス基板とも呼ばれる)上に構築又は製造することができる。イオン106は、イオン化及び鎖110への閉じ込めのために、原子種としてトラップに提供され得る。イオン106の一部又は全部は、QIPシステムにおけるキュービットとして動作するように構成され得る。
【0016】
図1に示す例では、トラップは、ほぼ静止状態になるようにレーザ冷却された鎖110内に複数のイオンをトラップする、又は閉じ込めるための電極(図示せず)を含む。トラップされるイオンの数は、設定可能であり、イオンをより多く、又はより少なくトラップすることもできる。イオンは、例えば、イッテルビウムイオン(例えば、171Ybイオン)であってもよい。イオンは、171Ybの共鳴に調整されたレーザ(光)放射で照射され、イオンの蛍光は、カメラ又は何らかの他のタイプの検出デバイス(例えば、光電子増倍管又はPMT)に結像される。この例では、イオンは、互いに数ミクロン(μm)離れている場合があるが、分離は、構造上の構成に基づいて異なる場合がある。イオンの分離は、外部閉じ込め力とクーロン反発力との間のバランスによって決定され、均一である必要はない。さらに、イッテルビウムイオンに加えて、バリウムイオン、中性原子、リュードベリ原子、又は他のタイプの原子ベースのキュービット技術を使用してもよい。さらに、同じ種のイオン、異なる種のイオン、及び/又は異なる同位体のイオンを使用してもよい。トラップは、線形RFポールトラップであってもよいが、光学的閉じ込めを含む他のタイプの閉じ込めデバイスを使用してもよい。したがって、閉じ込めデバイスは、異なる技術に基づいていてもよく、イオン、中性原子、又はリュードベリ原子を保持してもよく、例えば、イオントラップは、そのような閉じ込めデバイスの一例である。イオントラップは、例えば、表面トラップであってもよい。
【0017】
図1Bは、イオントラップ160上のイオン鎖110の上面図を示すダイアグラム150を示す。ダイアグラム150は、単に例示を目的としており、縮尺通りに描かれることを意図していない。また、ダイアグラム150には、イオン鎖110の閉じ込めの態様を含むイオントラップ160の動作の態様を制御するために、イオントラップ160に印加される信号又は電圧波形170も図示されている。信号170が印加されるイオントラップ160内の電極は、図示されていない。電極の構成および設計は、イオントラップ160に印加される信号170の構成とともに、単一のイオン鎖がイオントラップ160上に形成され得るようなもの、又は複数の独立したイオン鎖がイオントラップ160上に形成され得るようなものであってもよい。後者の場合は、図1Cのダイアグラム180に示されており、2つの別個の独立したイオン鎖(例えば、イオン鎖110aおよびイオン鎖110b)がイオントラップ160上に形成されている。この例では2つのイオン鎖が図示されているが、形成されるイオン鎖の数は、2つより多くてもよい。
【0018】
図2は、QIPシステム200の例を示すブロック図を示す。QIPシステム200は、量子コンピューティングシステム、量子コンピュータ、コンピュータデバイス、トラップイオンシステム等と呼ばれることもある。QIPシステム200は、ハイブリッドコンピューティングシステムの一部であってもよく、ハイブリッドコンピューティングシステムでは、QIPシステム200は、量子計算及び演算を実行するために使用され、ハイブリッドコンピューティングシステムは、古典的計算及び演算を実行するための古典的コンピュータも含む。量子及び古典的計算及び演算は、このようなハイブリッドシステムで相互作用することもある。
【0019】
図2に示されているのは、QIPシステム200の様々な制御動作を実行するように構成された汎用コントローラ205である。これらの制御動作は、オペレータによって実行されてもよく、自動化されてもよく、又は両方の組み合わせであってもよい。制御動作の少なくとも一部についての命令は、汎用コントローラ205内のメモリ(図示せず)に記憶されてもよく、通信インターフェース(図示せず)を介して経時的に更新されてもよい。汎用コントローラ205は、QIPシステム200とは別個に示されているが、汎用コントローラ205は、QIPシステム200と統合されても、又はQIPシステム200の一部であってもよい。汎用コントローラ205は、QIPシステム200に関連する様々な較正、検査、及び自動化動作を実行するように構成された自動化及び較正コントローラ280を含んでもよい。これらの較正、検査、及び自動化動作は、例えば、アルゴリズムコンポーネント210の全部もしくは一部、光学及びトラップコントローラ220の全部もしくは一部、及び/又はチャンバ250の全部もしくは一部を含んでもよい。
【0020】
QIPシステム200は、上述のアルゴリズムコンポーネント210を含んでもよく、アルゴリズムコンポーネント210は、量子アルゴリズム、量子アプリケーション、又は量子演算を実行又は実装するために、QIPシステム200の他の部分と共に動作してもよい。アルゴリズムコンポーネント210は、単一キュービット演算及び/又はマルチキュービット演算(例えば、2キュービット演算)の組み合わせのスタック又はシーケンスも、拡張量子計算も実行又は実装するために使用してもよい。アルゴリズムコンポーネント210は、また、そのような性能又は実装を機能させるソフトウェアツール(例えば、コンパイラ)を含んでもよい。このように、アルゴリズムコンポーネント210は、量子アルゴリズム、量子アプリケーション、又は量子演算の実行又は実装を可能にするために、QIPシステム200の様々なコンポーネント(例えば、光学及びトラップコントローラ220)に命令を直接的又は間接的に提供してもよい。アルゴリズムコンポーネント210は、量子アルゴリズム、量子アプリケーション、又は量子演算の実行又は実装から得られる情報を受信してもよく、その情報を処理しても、及び/又はさらなる処理のためにその情報をQIPシステム200の別のコンポーネントもしくは別のデバイス(例えば、QIPシステム200に接続された外部デバイス)に転送してもよい。
【0021】
QIPシステム200は、上述の光学及びトラップコントローラ220を含んでもよく、光学及びトラップコントローラ220は、トラップ270を制御するための信号の生成を含む、チャンバ250内のトラップ270の様々な態様を制御する。光学及びトラップコントローラ220は、トラップ内の原子又はイオンと相互作用する光レーザ又はビームを提供するために使用されるレーザ、光学システム、及び光学コンポーネントの動作も制御することができる。複数のコンポーネントを含む光学システムは、光学アセンブリと呼ばれることもある。光ビームは、イオンのセットアップ、イオンによる量子アルゴリズム、量子アプリケーション、又は量子演算の実行又は実装、及びイオンからの結果の読み取りに使用される。レーザ、光学システム、及び光学コンポーネントの動作の制御は、電動マウント又はホルダを使用した位置決めを制御することを含む、動作パラメータ及び/又は構成を動的に変更することを含んでもよい。イオンを閉じ込める又はトラップするために使用される場合、トラップ270は、イオントラップと呼ばれることもある。しかしながら、トラップ270は、中性原子、リュードベリ原子、及び他のタイプの原子ベースのキュービットをトラップするために使用してもよい。レーザ、光学システム、及び光学コンポーネントは、光学及びトラップコントローラ220、イメージングシステム230、レーザシステム235、及び/又はチャンバ250に少なくとも部分的に配置されてもよい。レーザシステム235は、トラップ内の原子又はイオンと相互作用するために使用される1つ以上のレーザを含んでもよい。
【0022】
QIPシステム200は、イメージングシステム230を含んでもよい。イメージングシステム230は、イオンがトラップ270に提供されている間、及び/又はイオンがトラップ270に提供された後(例えば、結果を読み取るため)に、イオンをモニタリングするための高解像度イメージャ(例えば、CCDカメラ)又は他のタイプの検出デバイス(例えば、PMT)を含んでもよい。一態様では、イメージングシステム230は、光学及びトラップコントローラ220とは別個に実装されてもよいが、画像処理アルゴリズムを使用してイオンを検出、特定、及び標識するために蛍光を使用する場合は、光学及びトラップコントローラ220と調和させる必要があり得る。
【0023】
上記のコンポーネントに加えて、QIPシステム200は、トラップ270を有するチャンバ250に原子種(例えば、中性原子のプルーム又はフラックス)を提供するソース260を含んでもよい。原子イオンが量子演算の基礎である場合、そのトラップ270は、一旦イオン化された(例えば、光イオン化された)原子種を閉じ込める。トラップ270は、QIPシステム200のプロセッサ又は処理部分と呼ばれることがあるものの一部であってもよい。すなわち、トラップ270は、量子演算又はシミュレーションを実行又は実装するのに使用される原子ベースのキュービットを保持するため、QIPシステム200の処理動作のコアにあるとみなしてもよい。ソース260の少なくとも一部は、チャンバ250とは別個に実装されてもよい。
【0024】
図2に記載されているQIPシステム200の様々なコンポーネントは、理解を容易にするために高レベルで記載されていることを理解されたい。このようなコンポーネントは、1つ以上のサブコンポーネントを含んでもよく、その詳細は、本開示の特定の態様をよりよく理解するために必要に応じて以下に提供され得る。
【0025】
本開示の態様は、光学及びトラップコントローラ220によって制御されるトラップ270を使用して少なくとも部分的に実装されてもよい。
【0026】
ここで図3を参照すると、コンピュータシステム又はデバイス300の一例が示されている。コンピュータデバイス300は、例えば、単一のコンピューティングデバイス、複数のコンピューティングデバイス、又は分散コンピューティングシステムを表してもよい。コンピュータデバイス300は、量子コンピュータ(例えば、QIPシステム)として、古典的コンピュータとして構成されても、あるいはハイブリッド機能もしくは動作と呼ばれることもある、量子コンピューティング機能と古典的コンピューティング機能の組み合わせを実行するように構成されてもよい。例えば、コンピュータデバイス300は、量子アルゴリズム、古典的コンピュータのデータ処理演算、又はその両方の組み合わせを使用して情報を処理するために使用してもよい。場合によっては、あるセットの演算(例えば、量子アルゴリズム)からの結果は、別のセットの演算(例えば、古典的コンピュータデータ処理)と共有される。量子計算及びシミュレーションを実行可能なQIPシステムとして実装されたコンピュータデバイス300の一般的な例は、例えば、図2に示すQIPシステム200である。
【0027】
コンピュータデバイス300は、本明細書に記載される特徴のうちの1つ以上に関連する処理機能を実行するためのプロセッサ310を含んでもよい。プロセッサ310は、単一のプロセッサ、複数のプロセッサのセット、又は1つ以上のマルチコアプロセッサを含んでもよい。さらに、プロセッサ310は、統合処理システム及び/又は分散処理システムとして実装されてもよい。1つ以上の中央処理装置(CPU)310a、1つ以上のグラフィックス処理装置(GPU)310b、1つ以上の量子処理装置(QPU)310c、1つ以上の知能処理装置(IPU)310d(例えば、人工知能もしくはAIプロセッサ)、あるいはそれらの一部又は全部のタイプのプロセッサの組み合わせを含んでもよい。一態様では、プロセッサ310は、コンピュータデバイス300の汎用プロセッサを指す場合があり、それは、また、より特定の機能(例えば、コンピュータデバイス300の動作を制御する機能を含む)を実行するために追加のプロセッサ310も含んでもよい。量子演算は、QPU310cによって実行されてもよい。QPU310cの一部又は全部は、原子ベースのキュービットを使用してもよいが、異なるQPUが異なるキュービット技術に基づくことも可能である。QPU310cがイオンをキュービットとして使用する場合、QPU310cは、本明細書に記載されるような複数のイオン鎖をサポートするイオントラップを含んでもよい。
【0028】
コンピュータデバイス300は、動作を実行するためにプロセッサ310によって実行可能な命令を記憶するためのメモリ320を含んでもよい。メモリ320は、またプロセッサ310による処理のためのデータ及び/又はプロセッサ310による処理から得られたデータを記憶してもよい。一実施態様では、例えば、メモリ320は、1つ以上の機能又は動作を実行するためのコード又は命令を記憶するコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に対応してもよい。プロセッサ310と同様に、メモリ320は、コンピュータデバイス300の一般的なメモリを指す場合があり、これは、また、より特定の機能のための命令及び/又はデータを記憶する追加のメモリ320も含んでもよい。
【0029】
プロセッサ310及びメモリ320は、異なる動作に関連して使用されてもよく、これらの動作には、計算、算出、シミュレーション、制御、較正、システム管理、及び本明細書に記載される任意の方法又はプロセスを含むコンピュータデバイス300の他の動作を含むが、これらに限定されないことを理解されたい。
【0030】
さらに、コンピュータデバイス300は、ハードウェア、ソフトウェア、及びサービスを利用する1つ以上の当事者との通信の確立及び維持を提供する通信コンポーネント330を含んでもよい。通信コンポーネント330は、またコンピュータデバイス300上のコンポーネント間の通信、及びコンピュータデバイス300と、通信ネットワークを介して配置されたデバイス及び/又はコンピュータデバイス300と連続的に又はローカルに接続されたデバイス等の外部デバイスとの間の通信を伝送するために使用されてもよい。例えば、通信コンポーネント330は、1つ以上のバスを含んでもよく、外部デバイスとインターフェースで接続するために動作可能な送信機及び受信機にそれぞれ関連付けられた送信チェーンコンポーネント及び受信チェーンコンポーネントをさらに含んでもよい。通信コンポーネント330は、コンピュータデバイス300の動作又は機能に関する更新情報を受信するために使用されてもよい。
【0031】
加えて、コンピュータデバイス300は、データストア340を含んでもよく、データストア340は、ハードウェア及び/又はソフトウェアの任意の適切な組み合わせであってもよく、コンピュータデバイス300の動作及び/又は本明細書に記載される任意の方法もしくはプロセスに関連して利用される情報、データベース、及びプログラムの大容量記憶を提供する。例えば、データストア340は、オペレーティングシステム360(例えば、古典的OS、又は量子OS、又はその両方)のためのデータリポジトリであってもよい。一実施態様では、データストア340は、メモリ320を含んでもよい。一実施態様では、プロセッサ310は、オペレーティングシステム360及び/又はアプリケーションもしくはプログラムを実行してもよく、メモリ320又はデータストア340は、それらを記憶してもよい。
【0032】
コンピュータデバイス300は、またコンピュータデバイス300のユーザから入力を受信するように構成され、ユーザに提示するため、又は異なるシステムに(直接的又は間接的に)提供するための出力を生成するようにさらに構成されたユーザインターフェースコンポーネント350を含んでもよい。ユーザインターフェースコンポーネント350は、1つ以上の入力デバイスを含んでもよく、入力デバイスには、キーボード、数字パッド、マウス、タッチセンサディスプレイ、デジタイザ、ナビゲーションキー、ファンクションキー、マイクロフォン、音声認識コンポーネント、ユーザから入力を受信することができる任意の他の機構、又はそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。さらに、ユーザインターフェースコンポーネント350は、1つ以上の出力デバイスを含んでもよく、出力デバイスには、ディスプレイ、スピーカ、触覚フィードバック機構、プリンタ、ユーザに出力を提示することができる任意の他の機構、又はそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。一実施態様では、ユーザインターフェースコンポーネント350は、オペレーティングシステム360の動作に対応するメッセージを送信及び/又は受信してもよい。コンピュータデバイス300がクラウドベースのインフラストラクチャソリューションの一部として実装される場合、ユーザインターフェースコンポーネント350は、クラウドベースのインフラストラクチャソリューションのユーザがコンピュータデバイス300とリモートで対話できるようにするために使用されてもよい。
【0033】
図1A図3に記載されたシステムに関連して、本開示は、量子コンピュータ又はQIPシステムが単一のイオントラップに格納された複数のイオン鎖を使用するアプローチを説明し、各イオン鎖は、そのイオン鎖内の量子ゲートを実装し動作させるためのレーザビームのそれ自体のセットを有することができ、したがって、各イオン鎖は、単一の量子コンピューティングコアに対応することがある。したがって、イオン鎖及びコアという用語は、関連して互換的に使用されることがある。
【0034】
上述のように、単一のイオントラップは、2つ以上のイオン鎖へのイオンの閉じ込めをサポートするように構成及び動作されてもよい(例えば、図1C参照)。これによって、イオン鎖のそれぞれが独立して量子処理レジスタ又はコアとして扱われることが可能になり、これらのイオン鎖の2つ以上に対して同時に個別で並列量子演算が実行できるようになる。イオン鎖間の量子演算を実装し、動作させるために、隣接するイオン鎖は、マージされて、又は組み合わされて、単一のより長いイオン鎖になってもよい。次いで、例えば、もともと別々のイオン鎖にあったイオン間を含む、より大きな鎖のイオンのいずれかの間で量子ゲートを実行することが可能である。このマージは、イオン鎖が物理的に互いに近接又は隣接(adjoining)するように移動されるように、イオントラップ上の電圧波形を変更すること(シャトリング)によって達成され得る。しかしながら、アルゴリズム又は量子計算中のイオン鎖のシャトリングは、シャトリングがイオン鎖を加熱する傾向があるという点で複雑さをもたらす。したがって、キュービット(例えば、演算に使用される鎖内のイオン)を乱すことなく、イオン鎖を再冷却するための機構を提供しなければならない。これは、共同冷却(sympathetic cooling)を介して行われ、共同冷却では、鎖内のいくつかのイオンがキュービットとして使用される代わりに冷却イオンとして使用される。冷却プロセスはキュービットを乱してはならないので、冷却剤イオン(coolant ions)は、キュービットのイオン種とは異なるイオン種、又はキュービット状態から分離された状態の同じイオン種のいずれかでなければならない。
【0035】
図4は、単一のイオントラップ上に形成された複数のイオン鎖を使用するときのシャトリング及び再冷却プロセスをサポートする量子コンピュータアーキテクチャの一例を示すダイアグラム400を示す。この例では、コアと呼ばれ、単一のイオントラップ上に形成され得る4つのイオン鎖のセット(例えば、各鎖内で可能な量子ゲートを有する、図1Aの鎖110)が示されている。この例における各イオン鎖又はコアは、21個のイオンを有する鎖からなり、そのうちの16個のイオンは、量子計算及び演算(例えば、量子ゲート形成)のためのキュービット(白丸として示される)として使用され、5個のイオンは、共同冷却剤又は冷却剤イオン(黒丸として示される)として使用される。したがって、ダイアグラム400は、64個のキュービット(例えば、4コア×21キュービット/コア=64キュービット)を有する量子コンピュータを示す。任意の所与の時点で、イオン鎖の2つは、マージされて、又は組み合わされて、より長い42個のイオンを含む鎖になってもよい。このより長いイオン鎖において、量子ゲートは、当初は異なるイオン鎖にあったイオン間を含む任意のイオン間で実行してもよい。シャトリングを使用してイオントラップ内でイオン鎖を移動させることによって、4つのコアのセットは、ダイアグラム400に示すように、異なるゾーン及びイオン構成の間でシャトリングされることができる。この例では、5つの異なるゾーン(例えば、ゾーン1、ゾーン2、ゾーン3、ゾーン4、及びゾーン5)及び3つの異なるイオン構成(ダイアグラムの上部のイオン構成1、ダイアグラムの中部のイオン構成2、及びダイアグラムの下部のイオン構成3)がある。ゾーンは、コアが異なる時間に配置され得るイオントラップ上のエリア又は領域を表す。この例では、ゾーン1は、最も左の領域で、単一のコアを配置し得る。ゾーン2は、ゾーン1の右側にあり、これも単一のコアをサポートする。ゾーン3は、中央ゾーンであり、動作のためにマージされた2つのコアの存在をサポートする。ゾーン4及び5は、ゾーン3の右側にあり、それぞれが単一のコアをサポートする。
【0036】
構成1では、コア1は、ゾーン1にあり、コア2は、ゾーン2にあり、コア3及び4は、マージされて、ゾーン3にあり、ゾーン4及び5には、コアはない。
【0037】
構成2では、コアは、1つのゾーンにだけ右に移動又はシャトリングされ、ゾーン1には、コアがなく、コア1は、ゾーン2にあり、コア2及び3はマージされて、ゾーン3にあり、コア4は、今やゾーン4にあり、ゾーン5には、コアがない。
【0038】
構成2では、コアは、1つのゾーンだけ再び右に移動又はシャトリングされ、ゾーン1及び2にはコアがなく、コア1及び2はマージされて、ゾーン3にあり、コア3は、今やゾーン4にあり、コア4は、今やゾーン5にある。
【0039】
上述の例において提供されるゾーンの数及びコアの数は、そのように限定される必要はないことを理解されたい。すなわち、ダイアグラム400に示されているものよりもゾーンが多いことも少ないことも、あるいはコアが多いことも少ないこともあり得る。さらに、コアのシャトリングは、1つの方向(例えば、右)だけに発生する必要はなく、どのコアがマージされる必要があるかに応じて、両方向(例えば、右及び/又は左)に発生してもよい。したがって、イオン構成1からイオン構成2に、次いでイオン構成3に移行することが可能であり得るが、イオン構成3からイオン構成2に、次いでイオン構成1に移行することも可能であり得る。
【0040】
アルゴリズム又は量子演算(例えば、量子計算、量子シミュレーション)を実行する過程で、任意の演算を可能にするために、上述の異なるイオン構成間で移行してもよい。例えば、隣接するイオン鎖は、量子ゲートが、異なるイオン鎖からのイオン(例えば、共同冷却剤とは対照的なキュービット)間で実装及び動作されることを可能にするようにマージされ得るが、スワップゲートは、非隣接イオン鎖のために必要とされ得る。したがって、コア1及び2、コア2及び3、並びにコア3及び4等の隣接コアは、両方のコアからのイオンに基づいて量子ゲートを実装及び動作させるためにマージされ得るが、コア1及び3、コア1及び4、並びにコア2及び4等の非隣接コアにおけるイオン間の量子ゲートを実装及び動作させるために、スワップゲートが必要とされ得る。
【0041】
ダイアグラム400に示すアーキテクチャに基づくスワップゲートの使用の例を次に説明する。コア2内のイオン(例えば、イオンA)とコア4内のイオン(例えば、イオンB)との間に量子ゲートを形成する必要があり得、コア2及び4は、非隣接コアである。そのような場合、量子ゲートは、以下のステップで形成又は実装されてもよい。(1)イオン構成2が実装されるまで、コアをそれぞれのゾーンにシャトリング又は移動させる。この構成では、コア1はゾーン2にあり、コア2及び3はゾーン3にあり、コア4はゾーン4にある。(2)コア2内のイオンAと、同じくゾーン3内にある隣接するコア3内のイオン(例えば、イオンC)との間で量子ゲートを実施する。これは、コア2及び3が単一のより長い鎖にマージされるため、可能である。(3)コアを構成1から構成2にシャトリング又は移動させる。この構成では、コア1はゾーン1にあり、コア2はゾーン2にあり、コア3及び4は今やゾーン3にある。(4)コア3内のイオンCとコア4内のイオンBとの間で量子ゲートを実施する。この場合も、これは、コア3及び4が単一のより長い鎖にマージされるため、可能である。このステップの組み合わせは、コア2内のイオンAとコア4内のイオンBとの間の量子ゲートの実装及び動作を、コア2内のイオンAとコア3内のイオンCとの間の中間スワップゲートとともに、本質的に実行する。
【0042】
イオン構成1において、代替的な構成は、左の2つのイオン鎖又はコア(例えば、コア1及び2)を組み合わせて、ゾーン3のイオン鎖のようなより長いイオン鎖を作成してもよい。同様に、イオン構成3についても、代替的な構成は、右の2つのイオン鎖又はコア(例えば、コア3及び4)を組み合わせて、ゾーン3内のイオン鎖のようなより長いイオン鎖を作成してもよい。
【0043】
本明細書で説明される複数のイオン鎖のための提案されるアーキテクチャの少なくとも以下の特徴は、完全に構成可能であることに留意されたい。(1)イオン鎖又はコアの数は、構成可能であり、動的に調整されてもよく、すなわち、イオントラップの動作中の異なる時間に増加又は減少させてもよい。(2)各コア内の共同冷却剤の数は、設定可能であり、全てのコアについて同じである必要はない。(3)あるゾーン内のコア内の量子ゲートの実装及び動作に関連してそのゾーン内で使用されるゲートレーザビームの数(例えば、図5参照)は、構成可能であってもよく、全てのゾーンについて同じである必要はない。さらに、異なるイオン鎖中のイオンの数が同じである必要はない場合があり得る。
【0044】
図4のダイアグラム400は、共通軸に沿って移動又はシャトリングする複数のイオン鎖又はコアを示す。これに関して、イオン鎖又はコアのうちの1つ以上を1つの方向に移動させてもよく、その後、イオン鎖又はコアのうちの1つ以上を異なる方向に移動させてもよい。しかしながら、異なるイオン鎖又はコアが、同時に、共通軸に沿って反対方向に移動することを可能にするように、システムを構成することも可能であり得る。
【0045】
本明細書で説明される量子コンピュータアーキテクチャの利点の1つは、複数のイオン鎖上で動作を並列に実行できることである。並列動作を実行する能力は、少なくとも部分的に、イオン鎖に適用され得るシステムに組み込まれたゲートレーザビームの数に基づく。一例として、あらゆるゾーンにおいて逆伝搬可動レーザビームが提供される場合、全てのイオン鎖に(又は、必要な数のイオン鎖に)量子ゲートを並列に実装し動作させることが可能である。この量子ゲート並列性の例を図5のダイアグラム500に示す。
【0046】
例示目的のために、ダイアグラム500は、図4のダイアグラム400に示されるものと同じイオン構成を示す。各ゾーンに関連して、ゾーン内のイオン鎖内の任意のイオン対を標的とするように方向付けることができる4つのゲートレーザビームが示されている。例えば、1つのゾーン内に2対の逆伝搬ゲートレーザが存在してもよく、第一の対のゲートレーザビームはイオン対内の第一のイオンを標的とし、第二の対のゲートレーザビームはイオン対内の第二のイオンを標的とする。これらのゲートレーザビームは、例えば、量子ゲート(例えば、1キュービットゲート又は2キュービットゲート)を実装し、動作させるために使用されてもよい。したがって、各ゾーンにおいて、又は少なくともいくつかのゾーンにおいて、少なくとも4つのゲートレーザビームのセットを可能にすることによって、複数のゾーンにおいて同時に並列動作を実行することが可能である。
【0047】
5つ以上のゲートレーザビームがゾーン内に提供され得るように、システムが構成される場合、ゾーン内のイオン鎖内で並列動作が可能である。例えば、ゾーン内のイオン鎖の各イオン及び全てのイオンに対して別々の対の逆伝搬レーザビームをサポートし、最大平行度を可能にする構成を有することも可能である。あるいは、最大平行度ではないが、単一ゾーン内の5つ以上のゲートレーザビームもサポートしてもよい。
【0048】
別の例では、2つのコアがマージされるダイアグラム500のゾーン3に関して、システムがゾーン3のための4つのゲートレーザビームのみをサポートするように構成される場合があり得る。この構成では、一度に1つのゲートのみしか実行できないので、ゾーン3の長い鎖内の並列処理は許容されない。
【0049】
さらに、ダイアグラム500のゾーン3に関して、ゲートレーザビームの最小走査範囲は、それらがゾーン3内の全てのイオンに当たることができるようなものでなければならない。ゾーン3におけるゲートレーザビームの走査範囲は、他の隣接するゾーンにおけるイオンに対処するのに十分大きい場合がある。その場合、ゾーン3へのシャトリングを伴わずに、ゾーン3内のイオンと隣接するゾーン内のイオンとの間の量子ゲートを実装及び実行することが可能であり得る。
【0050】
代替の用語では、ダイアグラム400及び500に示されるイオン鎖のそれぞれを異なる名前で呼ぶことが可能である。例えば、量子演算が、長いイオン鎖に対してのみ、例えば、2つの他のイオン鎖のマージャからゾーン3に形成される長いイオン鎖に対してのみ実行される場合、イオン鎖は、概して、「量子レジスタ」又は単に「レジスタ」と呼ばれることがあり、用語「コア」は、代わりに、量子演算が実施されるユニット又は長いイオン鎖を指すために使用されてもよい。このシナリオでは、「コア」を実現するために、2つのレジスタ又はイオン鎖が組み合わされる。システムは、レジスタが両側で移動し、異なるコアに参加することを可能にするように構成されてもよく、これは、量子通信がコア間で行われる方法である。その精神において、ダイアグラム400及び500に戻って参照すると、ゾーン3の左及びゾーン3の右の2つのレジスタ又はイオン鎖は、他のコアを形成するように組み合わせられ得る。この技術は、コアがマルチコアアーキテクチャ内の異なるレジスタから動的に形成されるので、「動的量子コア」と呼ばれることがある。3つ以上のレジスタを組み合わせて、さらに大きなコアを作成することができ、それらのレジスタを、本明細書に記載されるような線状鎖(linear chain)よりも複雑なトポロジーで移動させることができるシナリオを考慮することも可能である。
【0051】
本開示の上記の説明は、当業者が本開示を実施又は使用できるようにするために提供される。本開示の様々な変更は、当業者には容易に明らかであり、本明細書に定義される共通の原理は、本開示の範囲から逸脱することなく、他の変形に適用されてもよい。さらに、記載された態様の要素は、単数形で記載又は特許請求される場合があるが、単数形への限定が明示的に示されていない限り、複数形が企図される。さらに、別段の記載がない限り、いずれかの態様の全部又は一部は、いずれかの他の態様の全部又は一部と共に利用されてもよい。したがって、本開示は、本明細書に記載された例及び設計に限定されるものではなく、本明細書に開示された原理及び新規な特徴と一致する最も広い範囲が与えられるべきである。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】