(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】組織リプログラミングのためのエピジェネティックモジュレーター
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240822BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240822BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20240822BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20240822BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240822BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240822BHJP
A61K 31/706 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
A61K45/00
C12N15/09 110
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/55
C12N15/62 Z
A61P3/10
A61K31/706
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508385
(86)(22)【出願日】2022-08-11
(85)【翻訳文提出日】2024-03-19
(86)【国際出願番号】 US2022074811
(87)【国際公開番号】W WO2023019193
(87)【国際公開日】2023-02-16
(32)【優先日】2021-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520477485
【氏名又は名称】ザ・トラスティーズ・オブ・インディアナ・ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】セーン,チャンダン・ケイ
(72)【発明者】
【氏名】クマール,マニシェカール
(72)【発明者】
【氏名】シン,カナイヤ
(72)【発明者】
【氏名】ロイ,サシュワティ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA05
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZC201
4C084ZC202
4C084ZC351
4C084ZC352
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZC35
(57)【要約】
本明細書では、細胞の糖尿病誘発性エピジェネティック障害を低減して、糖尿病の処置の効果を増強するための組成物、ならびにin vitro方法およびin vivo方法が開示されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピジェネティックモジュレーターを細胞に導入するステップを含む、細胞の糖尿病誘発性エピジェネティック障害を低減する方法。
【請求項2】
糖尿病誘発性エピジェネティック障害の低減が、慢性創傷、高血糖および糖尿病性神経障害から選択される状態を処置するために使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
糖尿病の対象が、糖尿病を処置するための治療薬と併用してエピジェネティックモジュレーターを投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
エピジェネティックモジュレーターがメチルトランスフェラーゼの阻害剤である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
エピジェネティックモジュレーターが5-アザシチジンである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
エピジェネティックモジュレーターが、標的遺伝子上のエピジェニックマーカーのモジュレーションの特異的遺伝子を標的とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
エピジェネティックモジュレーターが、ゲノム領域の標的脱メチル化のdCas9-TET1CD系を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
標的遺伝子のプロモーターが遺伝子ターゲティングガイドRNAの使用を介して脱メチル化され、dCas9-TET1CD融合ペプチドをコードするポリヌクレオチドが糖尿病患者の組織にコトランスフェクトされる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
遺伝子ターゲティングガイドRNAおよびdCas9-TET1CD融合ペプチドをコードするポリヌクレオチドが、慢性創傷に隣接する組織にコトランスフェクトされる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記組織がナノトランスフェクションを介してトランスフェクトされる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
in vivoで標的皮膚組織をリプログラミングしてインスリンを産生するステップを含む、糖尿病に罹患している対象における血糖値を正常化する改良方法であって、
該方法が、
標的皮膚組織の細胞をエピジェネティックモジュレーター組成物と接触させるステップと;
標的皮膚組織の細胞を、リプログラミング組成物成分の細胞取り込みを増強する条件下でリプログラミング組成物と接触させるステップ
を含み、
リプログラミング組成物が、
配列番号2と少なくとも95%の配列同一性を有するペプチドをコードする第1の核酸配列と;
配列番号4と少なくとも95%の配列同一性を有するペプチドをコードする第2の核酸配列と;
配列番号6と少なくとも95%の配列同一性を有するペプチドをコードする第3の核酸配列と;
標的皮膚細胞への配列番号8と少なくとも95%の配列同一性を有するペプチドをコードする第4の核酸配列
を含む、
上記方法。
【請求項12】
エピジェネティックモジュレーター組成物が5-アザシチジンを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
リプログラミング組成物が組織ナノトランスフェクションを介して皮膚の皮膚細胞に導入され、エピジェネティックモジュレーター組成物がナノトランスフェクション部位で皮内注射される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
組織再構築および創傷修復に関与する細胞内の遺伝子の脱メチル化を標的とする脱メチル化カクテルを投与するステップを含む、糖尿病患者の創傷修復を増強する方法。
【請求項15】
細胞がケラチノサイトである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
標的遺伝子がTP53であり、任意選択で、TP53のプロモーターが、dCas9-TET1CD系をTP53特異的ガイドRNAとともに使用する脱メチル化の標的とされる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
脱メチル化カクテルが、組織ナノトランスフェクションを介して細胞に導入される、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年8月11日に出願した米国仮特許出願第63/231,780号に対する優先権を主張するものであり、その開示は本明細書に明確に組み込まれる。
【0002】
電子的に提出された資料の参照による組み込み
本明細書と同時に提出され、以下のとおり特定されるコンピュータ可読ヌクレオチド/アミノ酸配列リストは、参照によりその全体が組み込まれる:2022年8月8日に作成された「83677-35806.xml」という名称の17キロバイトのxmlファイル。
【背景技術】
【0003】
米国では、人口の2%が慢性創傷を患っている。慢性創傷は正常な治癒過程は経ず、1か月を過ぎても開いたままである。医療費負担の急増、急速に進む高齢化人口、糖尿病および肥満の罹患率の急上昇により、慢性創傷の治療負担は急速に増大している。慢性創傷に罹患している患者の創傷組織の分子分析は、臨床的に関連のある治療標的を同定するための効果的なアプローチである。
【0004】
DNAメチル化は、細胞増殖、細胞遊走、および細胞分化を制御することが知られている。心臓および腎臓の研究では、虚血が遺伝子メチル化の強力な誘導因子であり得ることが示されており、また虚血が慢性創傷閉鎖の根底にある一般的な複雑化要因であることは広く知られているが、創傷治癒における遺伝子メチル化の全体的な重要性はまだ課題とされている。
【0005】
糖尿病状態は、治療的組織リプログラミングの障害となること、また創傷治癒を妨げることが知られている。初めて本明細書で開示されているように、本出願人は、糖尿病状態によって誘発されるエピジェネティックな変化が、治療的組織リプログラミングを低下させ、患者の創傷治癒を妨げる役割を担っているという証拠を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
糖尿病の状態下では、遺伝子経路のエピジェネティックなサイレンシングによって、治療的組織リプログラミングを達成するのに必要な分子メカニズムが弱化する。本明細書の開示のように、糖尿病状態は治療的な組織リプログラミングの障害となり、本出願人はこれがエピジェネティックな干渉によって引き起こされることを実証した。本発明の一実施形態によれば、糖尿病誘発性エピジェネティック障害を管理するアプローチが、慢性創傷に罹患している対象の治療成果を改善するための新規アプローチとして提供される。この原則は、2型糖尿病患者を含む糖尿病に罹患している対象のすべての組織系にわたるあらゆる形態の組織リプログラミングに適用される。このような糖尿病のエピジェネティック障害を管理するアプローチには、薬物、遺伝子導入、遺伝子編集、および他の方策が含まれ得る。
【0007】
一実施形態によれば、糖尿病に罹患している対象における血糖値を正常化する方法であって、細胞の糖尿病誘発性エピジェネティック障害が、例えば皮膚組織細胞を含む前記細胞に1つまたは複数のエピジェネティックモジュレーターを導入することによって低減される方法が提供される。一実施形態では、エピジェネティックモジュレーターは、例えば5-アザシチジンを含む、メチルトランスフェラーゼの阻害剤である。
【0008】
一実施形態では、エピジェネティックモジュレーターは、標的遺伝子上のエピジェニックマーカーをモジュレーションするための特異的遺伝子を標的とする。より詳しくは、一実施形態では、エピジェネティックモジュレーターは、ゲノム領域を標的脱メチル化するためのdCas9-TET1CD系を含む。この実施形態では、標的遺伝子のプロモーターは、ガイドRNAおよびdCas9-TET1CD融合ペプチドをコードするポリヌクレオチドが、血糖値の正常化を必要とする対象の組織にコトランスフェクトされた後、遺伝子ターゲティングガイドRNAおよびdCas9-TET1CD融合ペプチドをコードするポリヌクレオチドの使用により脱メチル化され得る。
【0009】
一実施形態では、2型糖尿病を含む糖尿病に罹患している対象における血糖値を正常化する方法は、前記標的皮膚組織の細胞を、エピジェネティックモジュレーター組成物と接触させ、リプログラミング組成物成分の細胞取り込みを増強する条件下でリプログラミング組成物と接触させることにより、in vivoで標的皮膚組織をリプログラミングしてインスリンを産生するステップを含む。一実施形態では、ここで、リプログラミング組成物は、
配列番号2と少なくとも95%の配列同一性を有するペプチドをコードする第1の核酸配列;
配列番号4と少なくとも95%の配列同一性を有するペプチドをコードする第2の核酸配列;
配列番号6と少なくとも95%の配列同一性を有するペプチドをコードする第3の核酸配列;および任意選択で、
前記標的皮膚細胞への配列番号8と少なくとも95%の配列同一性を有するペプチドをコードする第4の核酸配列
を含む。
【0010】
一実施形態では、糖尿病の対象は、2型糖尿病を含む糖尿病を処置するための治療薬と併用してエピジェネティックモジュレーターが投与される。例えば、糖尿病を処置するための治療薬は、2型糖尿病を処置するための経口で利用可能な公知の10種類の薬理学的薬剤:1)スルホニル尿素、2)メグリチニド、3)メトホルミン(ビグアニド)、4)チアゾリジンジオン(TZD)、5)アルファグルコシダーゼ阻害剤、6)ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-4)阻害剤、7)胆汁酸封鎖剤、8)ドーパミンアゴニスト、9)ナトリウム-グルコース輸送タンパク質2(SGLT2)阻害剤、および10)経口グルカゴン類似薬ペプチド1(GLP-1)受容体アゴニストのいずれかから選択することができる。一実施形態では、治療薬は、本明細書に記載のリプログラミング組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】25匹のストレプトゾトシン誘発性糖尿病C57BL/6オスマウスから収集されたデータを示す。対照、n=9、TNT
PMGF、n=16。開始のマウス週齢:8~10週齢。PDX-1、MafA、GLP-1RおよびFGF21ベースの「PMGF」カクテルは、組織ナノトランスフェクション(TNT)技術を介して局所的にこれらのマウスに送達された。
【
図2】一元配置分散分析、TNT
Shamと比較したTukeyの検定を示す図である。
【
図3】9匹のストレプトゾトシン誘発性糖尿病C57BL/6オスマウスから得たデータを示すグラフである。TNT
PMGF介入の2週間後、これらのマウスはトランスフェクション処置に応答しなかった(平均血糖値は約400mg/dL、4週目)。TNT
PMGF介入の失敗におけるエピジェネティック因子の役割を調べるため、エピジェネティックモジュレーター(この場合は薬物5-アザシチジン)がTNT部位に適用された。薬物を(4週目に)週3回、隔日(1日目、3日目、および5日目)に皮内注射した(10mg/Kg体重)。これらのマウスにエピジェネティックモジュレーターを注射すると、応答しなかったすべてのマウスにおいて血糖値が有意に低下し(平均血糖値は約275mg/dL、5週目、p<0.001対4週目)、それによりレスポンダーに変化した。その後5-アザシチジン注射(7週目)することにより、血糖値を正常血糖範囲に維持することができた(約170mg/dL、8週目;p<0.001、および169mg/dL、9週目;p<0.001対4週目)。
【
図4A】CRISPR-Cas9とペプチドリピートベースの増幅を使用したケラチノサイトにおける標的脱メチル化を示す図である。
図4Aに、実験で使用したベクター成分の表示を示す。ペプチドリピートに融合されたdCas9は、抗体(scFv)融合TET1CDの複数のコピーをリクルートすることができる。したがって、TET1CDの複数のコピーは、標的をより効率的に脱メチル化することができる。ケラチノサイトターゲティングは、KRT14プロモーター駆動によるガイドRNAの発現により達成された。マウスTP53プロモーター遺伝子座を脱メチル化イベントに使用した。sgRNAの標的の位置(1~3)をポインターにより示す。
図4Bは、マウスの双茎創傷(bipedicle wound)におけるTNTプロセスの概略図を提供する。プラス電極を皮内に挿入し、マイナス電極をカーゴ溶液と接触させる。次いで、パルス電場(250V、10msパルス、10パルス)を電極間に印加し、露出した細胞膜をナノポレートし、カーゴを直接サイトゾルに注入する。
図4Cは、遺伝子編集カクテルのケラチノサイト特異的送達のフロー検証を示す。70.9±3.1%のKRT14+細胞もまたGFPを発現していた(n=3匹の動物から得た6つの異なる皮膚部位)。
【
図4B】CRISPR-Cas9とペプチドリピートベースの増幅を使用したケラチノサイトにおける標的脱メチル化を示す図である。
図4Aに、実験で使用したベクター成分の表示を示す。ペプチドリピートに融合されたdCas9は、抗体(scFv)融合TET1CDの複数のコピーをリクルートすることができる。したがって、TET1CDの複数のコピーは、標的をより効率的に脱メチル化することができる。ケラチノサイトターゲティングは、KRT14プロモーター駆動によるガイドRNAの発現により達成された。マウスTP53プロモーター遺伝子座を脱メチル化イベントに使用した。sgRNAの標的の位置(1~3)をポインターにより示す。
図4Bは、マウスの双茎創傷(bipedicle wound)におけるTNTプロセスの概略図を提供する。プラス電極を皮内に挿入し、マイナス電極をカーゴ溶液と接触させる。次いで、パルス電場(250V、10msパルス、10パルス)を電極間に印加し、露出した細胞膜をナノポレートし、カーゴを直接サイトゾルに注入する。
図4Cは、遺伝子編集カクテルのケラチノサイト特異的送達のフロー検証を示す。70.9±3.1%のKRT14+細胞もまたGFPを発現していた(n=3匹の動物から得た6つの異なる皮膚部位)。
【
図4C】CRISPR-Cas9とペプチドリピートベースの増幅を使用したケラチノサイトにおける標的脱メチル化を示す図である。
図4Aに、実験で使用したベクター成分の表示を示す。ペプチドリピートに融合されたdCas9は、抗体(scFv)融合TET1CDの複数のコピーをリクルートすることができる。したがって、TET1CDの複数のコピーは、標的をより効率的に脱メチル化することができる。ケラチノサイトターゲティングは、KRT14プロモーター駆動によるガイドRNAの発現により達成された。マウスTP53プロモーター遺伝子座を脱メチル化イベントに使用した。sgRNAの標的の位置(1~3)をポインターにより示す。
図4Bは、マウスの双茎創傷(bipedicle wound)におけるTNTプロセスの概略図を提供する。プラス電極を皮内に挿入し、マイナス電極をカーゴ溶液と接触させる。次いで、パルス電場(250V、10msパルス、10パルス)を電極間に印加し、露出した細胞膜をナノポレートし、カーゴを直接サイトゾルに注入する。
図4Cは、遺伝子編集カクテルのケラチノサイト特異的送達のフロー検証を示す。70.9±3.1%のKRT14+細胞もまたGFPを発現していた(n=3匹の動物から得た6つの異なる皮膚部位)。
【
図5】
図5Aは、組織ナノトランスフェクション技術(TNT)を介してC57BL/6マウスの背側皮膚に創出した虚血性双茎創傷へのTET1 CDおよび標的sgRNAの局所送達のタイムラインを示す概略図である。
図5Bは、KRT14プロモーター駆動のgRNA標的の存在下または非存在下でTET1CDおよびペプチドリピートがナノトランスフェクトされたマウスの双茎虚血性創傷において、創傷後の異なる日に創傷閉鎖をデジタル面積測定法によりモニターした図である(左)。データは創傷面積のパーセンテージとして示した(右)。n=8、
*P<0.05(スチューデントのt検定)。
図5Cは、KRT14プロモーター駆動のgRNA標的の存在下または非存在下でTET1CDおよびペプチドリピートがナノトランスフェクトされたマウスの双茎虚血性創傷において、創傷上皮化を、創傷後の異なる日にヘマトキシリンおよびエオシン染色によりモニターした図である(左)。データは、上皮化されていない創傷の長さとして示した(右)。n=8、
*P<0.05(スチューデントのt検定)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
本発明の説明および特許請求の範囲において、以下の用語は、以下で説明する定義に従って使用される。
【0013】
本明細書で使用される場合の「約」という用語は、記載した値または記載した値の範囲より10パーセント大きいまたは小さいことを意味するが、いかなる値またはいかなる値の範囲もこの広義の定義にのみ限定することを意図するものではない。「約」という用語が先行する各値または値の範囲は、記載した絶対値または値の範囲の実施形態を包含することも意図される。
【0014】
本明細書で使用される場合、「精製された」という用語および同様の用語は、天然環境または自然環境において分子または化合物に通常付随する汚染物質を実質的に含まない形態で分子または化合物を単離することに関する。本明細書で使用される場合、「精製された」という用語は、絶対的な純度を必要としない。むしろ、これは相対的な定義として意図される。「精製されたポリペプチド」という用語は、本明細書では、限定するものではないが、核酸分子、脂質および炭水化物を含む他の化合物から分離されたポリペプチドを説明するために使用される。
【0015】
「単離された」という用語は、言及した物質がその元の環境(例えば、それが天然に存在する場合は自然環境)から取り除かれていることを必要とする。例えば、生存している動物に存在する天然起源のポリヌクレオチドは単離されないが、自然系に共存する物質の一部または全部から単離される同様のポリヌクレオチドは、単離される。
【0016】
組織ナノトランスフェクション(TNT)は、核酸配列およびタンパク質をナノスケールで細胞のサイトゾルに送達することができるエレクトロポレーションに基づく技術である。より詳しくは、TNTは、配列されたナノチャネルを介して非常に強く集束された電場を使用し、並置する組織細胞メンバーに有益なナノポレーションを行い、電気泳動的にカーゴ(例えば、核酸またはタンパク質)を細胞内に送り込む。
【0017】
本明細書で使用される場合、「調節エレメント」または「制御配列」は、エンハンサー、プロモーター、5’および3’非翻訳領域を含む機能性遺伝子の非翻訳領域であり、これらは宿主細胞タンパク質と相互作用して転写および翻訳を行う。このようなエレメントは、それらの強度および特異性が変わり得る。「真核生物の制御配列」は、エンハンサー、プロモーター、5’および3’非翻訳領域を含む機能性遺伝子の非翻訳領域であり、これらは真核細胞の宿主細胞タンパク質と相互作用し、哺乳類細胞を含む真核細胞内で転写と翻訳を行う。
【0018】
本明細書で使用される場合、「プロモーター」とは、遺伝子の転写開始部位に関して比較的固定された位置にある場合に機能するDNAの1つまたは複数の配列である。「プロモーター」は、RNAポリメラーゼと転写因子の基本的相互作用に必要なコアエレメントを含み、また上流エレメントおよび応答エレメントを含み得る。
【0019】
本明細書で使用される場合、「エンハンサー」は、転写開始部位からの距離に関係なく機能するDNA配列であり、転写ユニットに対して5’または3’のいずれかに存在し得る。さらに、エンハンサーは、イントロン内に、およびコード配列それ自体の内に存在し得る。これは、通常、10~300bpの長さであり、シスで機能する。エンハンサーは、近くのプロモーターからの転写を増加させるように機能する。エンハンサーはまた、プロモーターと同様に、転写の制御を媒介する応答エレメントも含むことが多い。エンハンサーは、多くの場合、発現の制御を決定する。
【0020】
本明細書で使用される場合の「同一性」という用語は、2つ以上の配列間の類似性に関する。同一性は、同一残基の数を残基の総数で割り、その積に100を乗じてパーセンテージを得ることによって測定される。したがって、全く同じ配列の2つのコピーは100%の同一性を有するが、互いにアミノ酸の欠失、付加、または置換を有する2つの配列は低い同一性の程度を有する。当業者には、いくつかのコンピュータプログラム、例えば、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool、Altschulら(1993)J.Mol.Biol.215:403~410頁)などのアルゴリズムを使用するものが配列同一性を決定するために利用可能であることは理解されよう。
【0021】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、標準的な薬学的担体、例えば、リン酸緩衝生理食塩水、水、油/水または水/油エマルションなどのエマルション、および各種のタイプの湿潤剤のいずれかを含む。この用語はまた、ヒトを含む動物における使用に関し、米国連邦政府の規制機関によって承認された薬剤、または米国薬局方に列挙された薬剤を包含する。
【0022】
本明細書で使用される場合、「処置する」という用語は、特定の障害もしくは状態の予防、または特定の障害もしくは状態に関連する症状の緩和、および/または前記症状の予防もしくは除去を含む。
【0023】
本明細書で使用される場合、薬物の「有効」量または「治療有効量」とは、無毒性であるが、所望の効果を提供するのに十分な薬物を意味する。「有効」である量は、個々の年齢および全身状態、投与の方法などに応じて、対象ごとに、または対象内においてでさえ経時的に変わる。したがって、正確な「有効量」を明示することは常に可能ではない。しかし、個々の場合における適切な「有効」量は、日常的な実験を使用して、当業者により決定され得る。
【0024】
本明細書で使用される場合、さらなる指定のない「患者」という用語は、任意の温血脊椎動物(例えば、限定するものではないが、家畜、ウマ、ネコ、イヌおよび他のペットを含む)ならびに医師の監視の有無にかかわらず治療を受けているヒトを包含することを意図する。
【0025】
「担体」という用語は、化合物または組成物と組み合わせた場合に、化合物または組成物の調製、保存、投与、送達、有効性、選択性、またはその意図した用途もしくは目的のための化合物もしくは組成物の任意の他の特徴を補助または促進する化合物、組成物、物質、または構造を意味する。例えば、担体は、有効成分の分解を最小限に抑えるように、また対象におけるいかなる有害な副作用も最小限にするように選択することができる。
【0026】
「阻害する」という用語は、活性、応答、状態、疾患、または他の生物学的パラメータの低減を意味する。これは、限定するものではないが、活性、応答、状態、または疾患の完全な除去を含み得る。これはまた、例えば、本来のレベルまたは対照のレベルと比較して、活性、応答、状態、または疾患の10%低減も含み得る。したがって、低減は、本来のレベルまたは対照のレベルと比較して、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100%、またはその間の任意の低減量であり得る。
【0027】
「ベクター」または「構築物」という用語は、ベクター配列が連結されている別の核酸を細胞内に輸送することが可能な核酸配列を指す。「発現ベクター」という用語は、細胞による発現に適した形態(例えば、転写調節エレメントに連結された形態)で遺伝子構築物を含有する任意のベクター(例えば、プラスミド、コスミド、またはファージ染色体)を含む。プラスミドはベクターの一般的に使用される形態であるので、「プラスミド」および「ベクター」は交換可能に使用される。さらに、本発明は、同等の機能を果たす他のベクターを含むことを意図する。
【0028】
「~に作動可能に連結された」という用語は、核酸と別の核酸配列との機能的関係を意味する。プロモーター、エンハンサー、転写終止部位および翻訳終止部位、ならびに他のシグナル配列は、他の配列に作動可能に連結され得る核酸配列の例である。例えば、転写調節エレメントへのDNAの作動可能な結合とは、DNAを特異的に認識し、結合し、転写するRNAポリメラーゼによって、そのようなDNAの転写がプロモーターから開始されるようなDNAとプロモーターとの間の物理的および機能的関係を意味する。
【0029】
実施形態
体細胞リプログラミング(SCR)は、DNAのメチル化から、ヒストンの修飾まで、ヌクレオソームのリモデリングまでの、クロマチン構造の大規模な再構成を包含する。これらは体細胞で他の系統からの望ましくない遺伝子発現を防ぐための抑制機構として使用されるので、リプログラミングの際に「エピジェネティック障害」としてそれ自体に存在する。エピジェネティック阻害剤(修飾因子)の使用は、エピゲノムのリプログラミングで重要であることを示している。例えば、リプログラミングの際にDNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)阻害剤5-アザ-シチジン(5-AZA)でDNAメチル化を阻害することにより、中間体iPSCを完全にリプログラミングすることができる。HDAC阻害剤であるバルプロ酸(VPA)およびトリコスタチンA(TSA)を使用するヒストン脱アセチル化の阻害もまた、SCR効率を改善する。実際、TSA単独による処置(リプログラミング因子の導入なし)は、ESC特異的遺伝子をアップレギュレートするのに十分である。LSD1の阻害剤であるパルネート(Parnate、トラニルシプロミン)の使用もまた、マウス線維芽細胞のリプログラミング効率を上昇させる。最後に、G9aメチルトランスフェラーゼ化学阻害剤BIX-01294を使用したヒストンH3K9低メチル化の誘導は、神経前駆細胞およびMEFのiPSCへのリプログラミングを増強する。PMID:21621281。
【0030】
したがって、特定の遺伝子領域におけるエピジェネティック修飾は、関連する遺伝子の活性化につながり、これらの修飾因子の介入は、それらのエピジェネティックメモリーをリセットすることによって、リプログラムされていない細胞/部分的にリプログラムされた細胞のリプログラミング効率を高める。初めて本明細書で開示されているように、糖尿病状態は、治療的組織リプログラミングに対してエピジェネティック障害をもたらす。この障害を克服することにより、例えば、以下のものを含む、糖尿病状態における効率的なリプログラミングがもたらされる:
1.慢性糖尿病性創傷の迅速治癒のための血管新生リプログラミング、
2.高血糖を改善するためのインスリン産生リプログラミング、
3.糖尿病性神経障害などを克服するための神経細胞リプログラミング。
【0031】
本明細書で開示されているように、細胞の糖尿病誘発性エピジェネティック障害を低減するための組成物および方法が提供される。この方法は、糖尿病患者に関連する合併症に関与する遺伝子のメチル化を改変、低減または除去するステップを含む。より詳しくは、この方法は、エピジェネティックモジュレーターを前記細胞に導入するステップを含む。一実施形態では、この方法は、糖尿病患者の細胞にエピジェネティックモジュレーターを投与して、慢性創傷、高血糖または糖尿病性神経障害を処置するステップを含む。一実施形態では、エピジェネティックモジュレーターの投与は、状態を処置するために使用される単一の治療薬である。他の実施形態では、エピジェネティックモジュレーターの投与は、別の公知の治療方策と併用され、エピジェネティックモジュレーターの投与は、糖尿病誘発性エピジェネティック障害を低減し、従来の糖尿病処置の有効性を増強する。一実施形態では、エピジェネティックモジュレーターは、例えば5-アザシチジンを含む、メチルトランスフェラーゼの阻害剤である。
【0032】
一実施形態では、特異的遺伝子は、dCas9-TET1CD系の使用を介して脱メチル化の標的にされる(例えば、Choudhuryら、Oncotarget Jul 19,2016;7(29):46545~46556頁を参照、その開示は本明細書に組み込まれる)。この構築物は、Cas9二重変異体(dCas9)のC末端に融合されたテン-イレブン転座ジオキシゲナーゼ1(TET1CD)の触媒ドメインから構成される。Cas9二重変異体は、アミノ酸D10A位とH840A位に変化を有し、ヌクレアーゼ活性およびニッカーゼ活性の両方を完全に不活性化し、一方、TET1ドメインは、転写アップレギュレーションにつながる脱メチル化のプロセスを促進する。特異的sgRNAを使用することによって、dCas9-TET1CDはプロモーター領域を標的とすることができ、ほぼすべての目的の遺伝子の発現に対してエピジェネティック制御することができる。この系を使用することで、糖尿病誘発性エピジェネティック修飾によって発現が負の影響を受けた遺伝子を標的とすることができる。
【0033】
本開示のエピジェネティックモジュレーターポリヌクレオチドは遺伝子銃、そのような送達に適した微粒子もしくはナノ粒子、またはそのような送達に適したリポソームもしくは他の膜結合小胞、DNAもしくはウイルスベースのベクターの注入、または三次元ナノチャネルエレクトロポレーション、組織ナノトランスフェクション(TNT)デバイス、もしくは深部局所組織ナノエレクトロインジェクションデバイスを使用するエレクトロポレーションによるトランスフェクションを含む、任意の標準的技術を使用して標的組織に送達され得る。一部の実施形態では、ウイルスベクターを使用することができる。しかし、他の実施形態では、ポリヌクレオチドはウイルスによっては送達されない。
【0034】
エレクトロポレーションは、細胞膜の透過性を増加させるために細胞に電場を印加して、カーゴ(例えばリプログラミング因子)を細胞に導入できる技術である。エレクトロポレーションは、外来DNAを細胞に導入するための一般的な技術である。このようなデバイスに関するさらなる詳細は、公開された国際出願第WO2021/016074号に記載されており、その開示は参照により明確に組み込まれる。
【0035】
組織ナノトランスフェクションは、配列されたナノチャネルを介して非常に強く集束された電場を印加することにより、カーゴ(例えば、リプログラミング因子)を細胞内に直接サイトゾル送達することができ、これにより、並置する組織細胞メンバーに有益なナノポレーションが行われ、電気泳動的にカーゴが細胞内に送り込まれる。
【0036】
一実施形態によれば、組織ナノトランスフェクションは、慢性創傷に隣接する組織または慢性創傷近傍の組織にエピジェネティックモジュレーターを送達し、標的遺伝子のメチル化を改変、低減、または除去するのに使用される。標的遺伝子は、標的遺伝子の発現を増強し、治療的組織リプログラミングに対する障害を除去または低減し、糖尿病患者の創傷治癒を促進する脱メチル化のために選択される。一実施形態では、慢性創傷に関連する組織は、TET1CD-dCas9融合タンパク質をコードする核酸でトランスフェクトされる。一実施形態では、TET1CD-dCas9をコードする核酸および配列特異的sgRNAが慢性創傷関連組織にコトランスフェクトされ、創傷治癒が促進される。一実施形態によれば、コードされたTET1CD-dCas9融合タンパク質は、Notch1、P53、ADAM17、Etv2、Foxc2、Fli1、Pdx1、MafA、Glp1rおよびFgf21からなる群から選択される1つまたは複数の遺伝子を標的とする。
【0037】
本発明の組成物は、医薬担体をさらに含んでもよい。医薬担体は、当業者に公知である。これらは、最も典型的には、滅菌水、生理食塩水、生理学的pHの緩衝液などの溶液を含む、ヒトへの薬物投与のための標準的な担体である。組成物は、筋肉内投与または皮下投与され得る。他の化合物は、当業者によって使用される標準的な手順に従って投与される。
【0038】
TNTは、実験室でのいかなる手順も必要とすることなく、免疫監視下でin vivoでの組織機能の直接変換をもたらす局所的遺伝子送達の方法を提供する。プラスミドとともにTNTを使用することにより、遺伝子の過剰発現を時間的および空間的に制御することができる。TNTによる空間制御は、他の組織のトランスフェクションを伴わずに、皮膚組織の一部などの標的領域をトランスフェクションすることを可能にする。
【0039】
一実施形態によれば、糖尿病に罹患している対象の血糖値を正常化する改良方法が提供される。この方法は、
標的皮膚組織の細胞をエピジェネティックモジュレーター組成物と接触させ;
前記標的皮膚組織の細胞を、リプログラミング組成物成分の細胞取り込みを増強する条件下でリプログラミング組成物と接触させる
ことによって、in vivoで前記標的皮膚組織をリプログラミングしてインスリンを産生するステップを含み、ここで、リプログラミング組成物が、
配列番号2と少なくとも95%の配列同一性を有するペプチドをコードする第1の核酸配列と;
配列番号4と少なくとも95%の配列同一性を有するペプチドをコードする第2の核酸配列と;
配列番号6と少なくとも95%の配列同一性を有するペプチドをコードする第3の核酸配列と;
前記標的皮膚細胞への配列番号8と少なくとも95%の配列同一性を有するペプチドをコードする第4の核酸配列
を含む。
【0040】
一実施形態では、エピジェネティックモジュレーター組成物は、5-アザシチジンを含む。別の実施形態では、エピジェネティックモジュレーター組成物は、脱メチル化の特異的ゲノム領域を標的とする1つまたは複数のdCas9-TET1CD構築物を含む。一実施形態では、リプログラミング組成物は、組織ナノトランスフェクションを介して皮膚の皮膚細胞に導入され、エピジェネティックモジュレーター組成物は、ナノトランスフェクション部位に皮内注射される。一実施形態では、リプログラミング組成物およびエピジェネティックモジュレーター組成物は、両方とも、組織ナノトランスフェクションを介して皮膚の皮膚細胞に導入される。
【0041】
一実施形態では、糖尿病患者の創傷修復を増強するための方法が提供される。この方法は、組織再構築および創傷修復に関与する細胞の遺伝子の脱メチル化を標的とする脱メチル化カクテルを投与するステップを含む。一実施形態では、脱メチル化カクテルは、ケラチノサイトへの送達を標的とする。一実施形態では、脱メチル化カクテルは、脱メチル化の特異的ゲノム領域を標的とする1つまたは複数のdCas9-TET1CD構築物を含む。一実施形態では、ケラチノサイトのTP53遺伝子は脱メチル化の標的とされ、任意選択で、TP53のプロモーターは、dCas9-TET1CD系をTP53特異的ガイドRNAとともに使用する脱メチル化の標的とされる。一実施形態では、本明細書に開示のいずれかの脱メチル化カクテルは、組織ナノトランスフェクションを介して前記細胞に導入される。
【0042】
実施形態1によれば、細胞の糖尿病誘発性エピジェネティック障害を低減する方法であって、エピジェネティックモジュレーターを前記細胞に導入するステップを含む方法が提供される。
【0043】
実施形態2によれば、糖尿病誘発性エピジェネティック障害の低減が、慢性創傷、高血糖および糖尿病性神経障害から選択される状態を処置するために使用される、実施形態1の方法が提供される。
【0044】
実施形態3によれば、糖尿病の対象が、糖尿病を処置するための治療薬と併用してエピジェネティックモジュレーターを投与される、実施形態1または2の方法が提供される。
実施形態4によれば、エピジェネティックモジュレーターがメチルトランスフェラーゼの阻害剤である、実施形態1~3のいずれか1つの方法が提供される。
【0045】
実施形態5によれば、エピジェネティックモジュレーターが5-アザシチジンである、実施形態1~4のいずれか1つの方法が提供される。
実施形態6によれば、エピジェネティックモジュレーターが、標的遺伝子上のエピジェニックマーカーのモジュレーションの特異的遺伝子を標的とする、実施形態1~5のいずれか1つの方法が提供される。
【0046】
実施形態7によれば、エピジェネティックモジュレーターが、ゲノム領域の標的脱メチル化のdCas9-TET1CD系を含む、実施形態1~6のいずれか1つの方法が提供される。
【0047】
実施形態8によれば、標的遺伝子のプロモーターが遺伝子ターゲティングガイドRNAの使用を介して脱メチル化され、dCas9-TET1CD融合ペプチドをコードするポリヌクレオチドが糖尿病患者の組織にコトランスフェクトされる、実施形態1~7のいずれか1つの方法が提供される。
【0048】
実施形態9によれば、遺伝子ターゲティングガイドRNAおよびdCas9-TET1CD融合ペプチドをコードするポリヌクレオチドが、慢性創傷に隣接する組織にコトランスフェクトされる、実施形態1~8のいずれか1つの方法が提供される。
【0049】
実施形態10によれば、前記組織がナノトランスフェクションを介してトランスフェクトされる、実施形態1~9のいずれか1つの方法が提供される。
実施形態11によれば、in vivoで標的皮膚組織をリプログラミングしてインスリンを産生するステップを含む、糖尿病に罹患している対象における血糖値を正常化する改良方法であって、前記方法が、
前記標的皮膚組織の細胞をエピジェネティックモジュレーター組成物と接触させるステップと;
前記標的皮膚組織の細胞を、リプログラミング組成物成分の細胞取り込みを増強する条件下でリプログラミング組成物と接触させるステップ
を含み、
リプログラミング組成物が、
配列番号2と少なくとも95%の配列同一性を有するペプチドをコードする第1の核酸配列と;
配列番号4と少なくとも95%の配列同一性を有するペプチドをコードする第2の核酸配列と;
配列番号6と少なくとも95%の配列同一性を有するペプチドをコードする第3の核酸配列と;
前記標的皮膚細胞への配列番号8と少なくとも95%の配列同一性を有するペプチドをコードする第4の核酸配列
を含む方法が提供される。
【0050】
実施形態12によれば、エピジェネティックモジュレーター組成物が5-アザシチジンを含む、請求項11に記載の方法が提供される。
実施形態13によれば、リプログラミング組成物が組織ナノトランスフェクションを介して皮膚の皮膚細胞に導入され、エピジェネティックモジュレーター組成物がナノトランスフェクション部位で皮内注射される、実施形態11~12のいずれか1つの方法が提供される。
【0051】
実施形態14によれば、糖尿病患者の創傷修復を増強する方法であって、組織再構築および創傷修復に関与する細胞内の遺伝子の脱メチル化を標的とする脱メチル化カクテルを前記糖尿病患者に投与するステップを含む方法が提供される。
【0052】
実施形態15によれば、細胞がケラチノサイトである、請求項14に記載の方法が提供される。
実施形態16によれば、標的遺伝子がTP53であり、任意選択で、TP53のプロモーターが、dCas9-TET1CD系をTP53特異的ガイドRNAとともに使用する脱メチル化の標的とされる、実施形態14~15のいずれか1つの方法が提供される。
【0053】
実施形態17によれば、脱メチル化カクテルが、組織ナノトランスフェクションを介して前記細胞に導入される、実施形態14~16のいずれか1つの方法が提供される。
【実施例】
【0054】
実施例1
エピジェネティックモジュレーター(5-アザシチジン)は、TNT介入型PMGF療法に対する糖尿病誘発性エピジェネティック障害を克服する。
【0055】
ストレプトゾトシン(STZ)誘発性糖尿病マウスの血糖値の低下に関する、膵臓十二指腸ホメオボックス1(PDX-1)、転写因子MafA、グルカゴン様ペプチド1受容体(GLP-1R)および線維芽細胞増殖因子21(FGF21)をコードする核酸配列を含むトランスフェクションカクテル(「PMGF」カクテル)の使用は、すでにPCT/US2021/039083で報告されており、その開示は本明細書に組み込まれる。
【0056】
図1は、25匹のストレプトゾトシン誘発性糖尿病C57BL/6オスマウスから収集したデータを示す。対照、n=9、TNT
PMGF、n=16。開始のマウス週齢:8~10週齢。PDX-1、MafA、GLP-1RおよびFGF21ベースの「PMGF」カクテルは、組織ナノトランスフェクション(TNT)技術を介してこれらのマウスに局所的に送達された。
【0057】
しかし、
図1の群の25匹のTNT
PMGFマウスからのデータを亜群分析したところ、レスポンダー(n=6)およびノンレスポンダー(n=10)が判明する。すべてのオスのストレプトゾトシン誘発性糖尿病C57BL/6マウス、開始のマウス週齢は8~10週齢。「レスポンダー」という用語は、血糖値が週のいかなる時点でも200mg/dL未満であると測定されたマウスを特定するが、「ノンレスポンダー」は高い血糖値を保持していた。(
図2を参照:一元配置分散分析、TNT
shamと比較したTukeyの検定)。
【0058】
エピジェネティックモジュレーター(5-アザシチジン)は、糖尿病誘発性エピジェネティック障害を克服し、治療成果の改善をもたらす。
図3は、9匹のストレプトゾトシン誘発性糖尿病C57BL/6オスマウスからのデータを示すグラフである。TNT
PMGF介入の2週間後、これらのマウスはトランスフェクション処置に応答しなかった(平均血糖値は約400mg/dL、4週目)。TNT
PMGF介入の失敗におけるエピジェネティック因子の役割を調べるため、エピジェネティックモジュレーター(この場合は薬物5-アザシチジン)がTNT部位に適用された。薬物を(4週目に)週3回、隔日(1日目、3日目、および5日目)に皮内注射した(10mg/Kg体重)。これらのマウスにエピジェネティックモジュレーターを注射すると、応答しなかったすべてのマウスにおいて血糖値が有意に低下し(平均血糖値は約275mg/dL、5週目、p<0.001対4週目)、それによってレスポンダーに変化した。その後5-アザシチジン注射(7週目)することにより、血糖値は正常血糖範囲に維持することができた(約170mg/dL、8週目;p<0.001、および169mg/dL、9週目;p<0.001対4週目)。
【0059】
実施例2
特異的遺伝子プロモーターの標的脱メチル化
マウス虚血性創傷におけるTP53のTNT介入型標的DNA脱メチル化に関しては、不活性Cas9ヌクレアーゼ(dCas9)をTET1(TET1 CD)のC末端の触媒ドメインと融合させた系を使用した(PMID:27571369)。この構築物は、Cas9二重変異体(dCas9)のC末端に融合されたテン-イレブン転座ジオキシゲナーゼ1の触媒ドメイン(TET1CD)から構成される。Cas9二重変異体は、アミノ酸D10A位とH840A位に変化を有し、ヌクレアーゼ活性およびニッカーゼ活性の両方を完全に不活性化する。一方、TET1ドメインは、転写アップレギュレーションにつながる脱メチル化のプロセスを促進する。特異的sgRNAを使用することによって、dCas9-TET1CDはプロモーター領域を標的とすることができ、ほぼすべての目的の遺伝子の発現に対してエピジェネティック制御することができる。標的脱メチル化の効率を上げるため、本発明者らは、リンカー長を22アミノ酸に変更した、既述のdCas9-SUperNova Tagging(SunTag)を採用した(PMID:25307933、27571369、29524149)。CRISPR-Cas9とペプチドリピートベースの増幅を使用したケラチノサイトにおける標的脱メチル化から得たデータを示した
図4A~
図4Cを参照されたい。
【0060】
実験において使用したベクター成分の表示を
図4Aに示す。ペプチドリピートに融合したdCas9は、抗体(scFv)融合TET1CDの複数のコピーをリクルートすることができる。したがって、TET1CDの複数のコピーは、より効率的に標的を脱メチル化することができる。ケラチノサイトターゲティングは、KRT14プロモーター駆動によるガイドRNAの発現により達成された。マウスTP53プロモーター遺伝子座の脱メチル化イベントに使用した。sgRNAの標的の位置(1~3)をポインターにより示す。
図4Bは、マウスの双茎創傷におけるTNTプロセスの概略図を提供する。プラス電極を皮内に挿入し、マイナス電極をカーゴ溶液と接触させる。次いで、パルス電場(250V、10msパルス、10パルス)を電極間に印加し、露出した細胞膜をナノポレートし、カーゴを直接サイトゾルに注入する。
図4Cは、遺伝子編集カクテルのケラチノサイト特異的送達のフロー検証を示す。70.9±3.1%のKRT14+細胞もまたGFPを発現していた(n=3匹の動物から得た6つの異なる皮膚部位)。
【0061】
本発明者らは、TP53ガイドRNA(gRNA)の発現ベクターを使用して、マウス虚血性双茎創傷のケラチノサイト(KRT14+)区画におけるTP53遺伝子のプロモーター領域を脱メチル化にこの系を適用した。本発明者らは、最近本発明者らが報告した組織TNTアプローチ(PCT/US2020/042510を参照、その開示は本明細書に組み込まれる)を使用したが、これは、並置する組織細胞膜に有益なナノポレーションを行い、電気泳動的に脱メチル化カクテルを駆動する、配列されたナノチャネル(PMID:28785092、32422219)を介して非常に強く集束された電場を印加することにより、脱メチル化カクテルの直接的なサイトゾル送達を可能にする(
図5A、5B)。まず、ケラチノサイトへのガイドRNAの標的送達は、フローサイトメトリーを使用して検証した(
図5C)。続いて、TP53プロモーターの脱メチル化は、dCas9-TET1 CD複合体とケラチノサイト特異的ガイドRNAをトランスフェクトしたマウス虚血性創傷で確認された(
図5C)。このようなTP53プロモーターの脱メチル化により、マウス虚血性創傷の創傷閉鎖を促進することができた。
【配列表】
【国際調査報告】