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特表2024-531223生体内注入後にマクロファージにより貪食及び/又は代謝分解されない状態で腎臓を通じて小便に排出されるナノ構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】生体内注入後にマクロファージにより貪食及び/又は代謝分解されない状態で腎臓を通じて小便に排出されるナノ構造物
(51)【国際特許分類】
   A61K 49/12 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
A61K49/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508589
(86)(22)【出願日】2022-03-07
(85)【翻訳文提出日】2024-04-05
(86)【国際出願番号】 KR2022003154
(87)【国際公開番号】W WO2023017936
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】10-2021-0104405
(32)【優先日】2021-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524053328
【氏名又は名称】インベンティラ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シン テ ヒョン
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085HH07
4C085KB80
4C085LL01
4C085LL03
4C085LL07
4C085LL17
(57)【要約】
本発明は、生体内注入後、マクロファージにより貪食及び/又は代謝分解されない状態で、腎臓を通じて小便に排出されるナノ構造物、及びこの薬学組成物としての用途に関する。
本発明による生体内注入用ナノ構造物は、(i) 平均分子量が10,000Da以下のデキストラン分子1個乃至3個を架橋剤で架橋して形成された球形コアと、(ii) 球形コア表面の架橋剤由来親水性基に、2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルとを備え、(iii) 電荷が-20mV~0mVとなるように、球形コアデキストランと鉄の質量割合が100:2~100:10であり、且つ、架橋剤置換割合がデキストラン作用基数の10%乃至50%に調節され、架橋剤のうち、20%乃至50%は、一末端が架橋に参加せず、(iv) 球形コア表面の架橋剤由来親水性基のうち、外部に露出した作用基の20%乃至80%だけが鉄イオンと結合し、残りは、鉄イオンと結合せず、水環境に露出できるように設計されたことを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内注入後、マクロファージによって貪食及び/又は代謝分解されない状態で、腎臓を通じて小便に排出されるナノ構造物であって、
(i) 平均分子量が10,000Da以下のデキストラン分子1個乃至3個を架橋剤で架橋して形成された球形コアと、
(ii) 球形コア表面の架橋剤由来親水性基に、2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルとを備え、
(iii) 電荷が-20mV~0mVとなるように、球形コアデキストランと鉄の質量割合が100:2~100:10であり、且つ、架橋剤置換割合がデキストラン作用基数の10%乃至50%に調節され、架橋剤のうち、20%乃至50%は、一末端が架橋に参加せず、
(iv) 球形コア表面の架橋剤由来親水性基のうち、外部に露出した作用基の20%乃至80%だけが鉄イオンと結合し、残りは、鉄イオンと結合せず、水環境に露出したことを特徴とする生体内注入用ナノ構造物。
【請求項2】
デキストラン球形コア表面の架橋剤由来親水性基と配位結合した2価乃至3価鉄イオンにより、(a) 生理的pHの緩衝溶液及び血漿で凝集(aggregation)又は鉄溶脱(leaching)することなく、安定であり、かつ/または
(b) T1 MRI造影剤機能を発揮することを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項3】
生体内注入用ナノ構造物が現わすT1 MRI信号強度は、生体内注入用ナノ構造物の濃度に比例し、これにより、磁気共鳴画像(MRI)の信号から、ナノ構造物の濃度を数値化又は定量化し、かつ/またはナノ構造物の生体内時間による分布程度を画像化又は数値化することを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項4】
磁気共鳴画像(MRI)で明るい信号を現わすT1 MRI造影剤の機能を発揮するように設計され、
(i) 生体内注入後、MRIを通じてナノ構造物の位置を追跡し、かつ/または
(ii) 生体内注入後、吸収、分布、代謝及び/又は排出される経路、及び/又はその経路に位置した様々な解剖学的構造及び/又は機能情報を提供することを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項5】
磁気共鳴画像(MRI)で明るい信号を現わすT1 MRI造影剤の機能を発揮するように設計され、
生体内注入後、マクロファージによる貪食可否、代謝分解可否、血液循環可否、リンパ循環可否、毛細血管による細胞の伝達可否、組織内蓄積可否、腎臓を通じて小便に排出可否、生体内注入後血管循環系に吸収可否、血管壁を通じた漏出可否、及び小便を通じて収集して再使用可能可否のうち、少なくとも1つを確認して、所望する薬動学及び薬力学的特性を発揮するフィット型生体適合性ナノ構造物を提供することを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項6】
磁気共鳴画像(MRI)で明るい信号を現わすT1 MRI造影剤の機能を発揮するように設計され、
動物実験から、生体内注入用ナノ構造物又はこれを含有する薬学組成物の適用部位及び/又は投与経路による生体内挙動の分析が可能であり、かつ/または同ナノ構造物又は薬学組成物が目標した生体内挙動を有するように、均一な品質で製造されたか否かに対する品質管理が可能であることを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項7】
様々に蓄積された生体情報データを活用して、ナノ構造物を通じて伝達しようとする薬物の生理機序、患者、疾患及び/又は投与経路フィット型ナノ構造物に精度高く設計することを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項8】
腎臓濾過サイズ限界よりも小さい流体力学的径及び分子量を有し、コロイド安定性を発揮するように、生体内デキストラン球形コア内デキストラン分子の平均分子量は、10,000Da以下であり、デキストラン分子が架橋されて形成された球形のコアの分子量は、35,000Da以下であり、ナノ構造物の水和径は、10nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項9】
デキストラン球形コアの表面に露出した親水性基の水和をにより、体液内の分散安定性が向上したことを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項10】
鉄イオンが結合する架橋剤由来親水性作用基は、架橋剤の末端作用基又はこの改質された作用基であることを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項11】
デキストラン球形コア表面の架橋剤由来作用基のうち、一部又は全部は、カルボン酸又はカルボキシレート基であることを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項12】
血漿で凝集又は鉄溶脱することなく、安定であり、生体内注入後体内で代謝又は分解されず、小便を通じて収集して再使用可能であることを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項13】
脳心血管系を血液循環することを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項14】
生体内注入後、血液循環系に吸収されて、血管壁を通じた漏出なく、腎臓を通じて小便に排出されることを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項15】
リンパ管、関節腔又は脊髄腔に注入するとき、血液循環系に吸収されて、腎臓を通じて小便に排出されることを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項16】
静脈に注入するとき、肝で除去されず、血液循環後、腎臓を通じて小便に排出される血液循環用ナノ構造物であることを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項17】
生体内注入後、組織又は臓器に蓄積されず、腎臓掃除を通じて排泄されることを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項18】
デキストランの分子量、デキストラン主鎖の長さ、架橋時の架橋剤の種類、合成反応時投与する架橋剤の量と投与速度、及び追加化学作用基改質のうち、少なくとも1つを調節することで、ナノ構造物の全体サイズ及び全体電荷調節により、所望する血液循環時間及び腎臓排泄薬動学が付与されたことを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項19】
球形コア表面の架橋剤由来親水性基に2価乃至3価鉄イオンが配位結合されたシェルは、別の化学物質でコートされていなく、その自体で露出して、水分子の接近を容易とし、水分子水素原子核のスピンの弛緩を加速化することにおいてより有利であることを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項20】
磁気共鳴画像(MRI)撮影時、造影剤として作用して、生体内微小血管、尿管、肝、脾臓、リンパ管、関節腔、脊髄腔、及び/又は、解剖学的構造を視覚化することを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項21】
生体内注入後、マクロファージによって貪食及び/又は代謝分解されない状態で、腎臓を通じて小便に排出される生体内注入用ナノ構造物を含有する薬学組成物であって、
前記生体内注入用ナノ構造物は、請求項1乃至請求項20のいずれか一項に記載の生体内注入用ナノ構造物であり、
(i) 平均分子量が10,000Da以下のデキストラン分子1個乃至3個を架橋剤で架橋して形成された球形コアと、
(ii) 球形コア表面の架橋剤由来親水性基に、2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルとを備え、
(iii) 電荷が-20mV~0mVとなるように、球形コアデキストランと鉄の質量割合が100:2~100:10であり、且つ、架橋剤置換割合がデキストラン作用基数の10%乃至50%に調節され、架橋剤のうち、20%乃至50%は、一末端が架橋に参加せず、
(iv) 球形コア表面の架橋剤由来親水性基のうち、外部に露出した作用基の20%乃至80%だけが鉄イオンと結合し、残りは、鉄イオンと結合せず、水環境に露出したことを特徴とする薬学組成物。
【請求項22】
生体内注入用ナノ構造物は、鉄浸出なく、マクロファージにより貪食されず、腎臓を通じて小便に排出されて、関節疾患の原因である関節への鉄分蓄積を生じないことを特徴とする請求項21に記載の薬学組成物。
【請求項23】
血管構造と形態の画像化、血流と血液動力学的情報分析、及び/又は心血管系、脳血管系、リンパ系、筋骨格系及び/又は脳脊髄神経系画像化を実現するために、前記生体内注入用ナノ構造物が、MRI造影剤として使用されることを特徴とする請求項21に記載の薬学組成物。
【請求項24】
生体内注入用ナノ構造物は、周辺組織との対照効果を発揮し、体液内に分布された濃度によって、磁気共鳴画像(MRI)で現れる体液の信号サイズが変わり、時系列的に組織内分布可否を確認できることを特徴とする請求項21に記載の薬学組成物。
【請求項25】
ヨード化したX線造影剤と併用使用しても、T1造影効果を発揮することを特徴とする請求項21に記載の薬学組成物。
【請求項26】
生体内注入用ナノ構造物をMRI造影剤として含有し、MR血管造影術、MR関節造影術、MR脳槽撮影術、MR脊髄造影術、MRリンパ管造影術、MR胆膵管撮影術、又は、脳、腹部MRI造影術に使用されることを特徴とする請求項21に記載の薬学組成物。
【請求項27】
MRI造影剤、及び/又は薬物伝達体、又は組織内、血液内、又はリンパ内情報収集用吸着剤として使用されることを特徴とする請求項21に記載の薬学組成物。
【請求項28】
デキストランの平均分子量を調節して、濃度及び粘度が調節された静脈注射剤又はリンパ管注射剤として使用されることを特徴とする請求項21に記載の薬学組成物。
【請求項29】
デキストラン水溶液を準備する第1のステップと、
常温でアルカリ性水溶液とエポキシドを滴下する第2のステップと、
常温で2以上の多価アミン類を滴下して、末端アミン基を有したデキストラン架橋体に基づくナノ粒子を生成させる第3のステップと、
生成物を沈殿させる第4のステップと、
生成物を水に再分散させる第5のステップと、
選択的に、末端アミン基を有したデキストラン架橋体に基づくナノ粒子を、透析して回収する第6のステップと、
多価アミン類により架橋結合され、これにより末端アミン基を有するデキストラン架橋体に基づくナノ粒子に、有機酸無水物を投与して、末端アミン基の一部又は全部をカルボン酸基及び/又はカルボン酸塩基に置換する第7のステップと、
選択的に、カルボン酸及び/又はカルボン酸塩作用基を有したデキストラン架橋体に基づくナノ粒子溶液を精製して、水分散可能なデキストラン架橋体に基づくナノ粒子を準備する第8のステップと、
前ステップで用意された水分散可能なデキストラン架橋体に基づくナノ粒子に、鉄前駆体水溶液を添加して、2価乃至3価鉄イオンで構成されたシェルを形成させる第9のステップと、
選択的に、前ステップで形成されたナノ構造物を限外ろ過して、精製又は濃縮する第10のステップとを含む製造方法により準備し、
修得された生体内注入用ナノ構造物は、水に分散したコロイド形態で、特別な追加加工なくても、滅菌及び非発熱性を満たして得られたその自体で、注射剤として使用可能であり、かつ/または濃縮程度によって、別の賦形剤がなくても、等張性を有するようにすることを特徴とする請求項21に記載の薬学組成物。
【請求項30】
前記生体内注入用ナノ構造物は、MRI造影剤薬物として、標的抗原結合部位を含む薬物伝達体に連結されることを特徴とする請求項21に記載の薬学組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内注入後、マクロファージにより貪食及び/又は代謝分解されない状態で、腎臓を通じて小便に排出されるナノ構造物、及びこの薬学組成物としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ粒子を生体内に注入して使用する場合、必須的に保障されるべき特性は、生体適合性(biocompatibility又はbioinertness)である。すなわち、人体に注入するとき、アレルギーなどの免疫拒絶反応があってはいけず、毒性があってはいけない。
【0003】
ナノ粒子の主成分が金属であり、その金属性分が体内に毒性を起こす場合は、一部金属原子が酸化されて陽イオンに転換され、生体内細胞膜が損傷する場合が殆どである。銀の場合が代表的であるが、Ag(0)状態は、生体内で影響を及ぼしていないが、体内電解質成分により容易に腐食(etching)されると、銀陽イオン(Ag+)と超過酸化物が生成されて、細胞膜を破壊することがある。
【0004】
金属酸化物(metal oxides)、量子ドット(quantum dots)、貴金属(noble metals)などの無機ナノ粒子は、有機ナノ粒子と差別化された独特な光学的、磁気的、電気的特性を表わす。このような物理化学的性質を活用すると、生命現象を分子水準で精密に観測、調節、制御するなど、医学的に有用な機能を具現することができる。しかし、このような可能性にもかかわらず、生体内に注入された無機ナノ粒子は、免疫システムにより、侵入者として認識されて、マクロファージにより貪食及び臓器に蓄積されて、排出が容易でない。無機ナノ粒子の成分が量子ドットなど、重金属である場合、排出されることなく、体内で分解されると、毒性を起こす。ナノ粒子が体内疾病診断用造影剤として用いられるためには、安全で、且つ、使用後、人体で代謝分解されず、排出が可能な形態に製造する技術が必要である。
【0005】
磁気共鳴画像(MRI、Magnetic Resonance Imaging)は、磁場内で水の水素原子核のスピン(nuclear spin)が弛緩される現象を用いて、身体の解剖学的、生理学的、生化学的情報を画像として得る方法であって、現在生きている人間や動物の身体器官を非侵襲的であり、リアルタイムで画像化することが可能な画像診断装備の1つである。
【0006】
生命科学や医学分野において、MRIを多様で精密に活用するために、外部から物質を注入して、画像対照度を増加する方法を使用しており、このような物質を造影剤といい、超常磁性又は常磁性の物質を用いて、MRIで観られるべき部分の信号の対比を与えて、明確に区別できるようにする。MRI画像上で組織間のコントラスト(contrast)は、組織内水の水素原子核のスピンが外部エネルギーにより浮上してから、再度、平衡状態に戻る弛緩作用(relaxation)が組織別に異なるため発生する現象であるが、造影剤は、このような弛緩作用に影響して、組織間弛緩度の差を起こし、MRIシグナルの変化を誘発して、組織間の対照をより鮮明にする役割を果たす。
【0007】
造影剤を用いた増強した対照は、特定の生体器官と組織の画像信号を、周辺に比べて高めるか下げて、より鮮明に画像化する。MRI画像を必要とする身体部位の画像信号を、周囲よりも相対的に高くする造影剤を陽性(positive)造影剤(T1造影剤)とし、これと反対に、周囲よりも相対的に低くする造影剤を陰性(negative)造影剤(T2造影剤)と言う。より詳細には、MRI造影剤は、常磁性物質の高スピン(high spin)を用いたT1造影剤と、強磁性又は超常磁性物質周囲の磁気的不均一性(magnetic inhomogeneity)を用いたT2造影剤とに分けられる。
【0008】
T1造影剤は、縦弛緩に関する造影剤である。このような縦弛緩は、スピン(spin)のZ軸方向の磁化成分(Mz)が、X軸から加えられたRFエネルギー衝撃吸収以後、X-Y平面のY軸に整列(align)した後、エネルギーを外部に放出し、元の値に戻る過程であり、この現象を「T1弛緩(T1 relaxation)」と称する。Mzが最初値の63%に戻るまでの時間を、「T1弛緩時間(T1 relaxation time)」といい、T1弛緩が短いほど、MRIのシグナルは大きく、MRI画像で明るく現れる。
【0009】
T2造影剤は、横弛緩に関する造影剤である。スピンのZ軸方向の磁化成分Mzが、X軸から加えられたRFエネルギー衝撃吸収以後、X-Y平面のY軸に整列(align)した後、自らエネルギーが減衰するか、周辺スピンにエネルギーを放出して、元の値に戻ろうとするが、この時、X-Y平面上でスピン(spin)の成分Mxyが指数関数的に減衰する現象を「T2弛緩(T2 relaxation)」と称する。Mxyが37%に減衰するまでの時間を「T2弛緩時間(T2 relaxation time)」といい、Mxyが時間によって減少する時間の関数で、X-Y平面のY軸に設置された受信コイルを通じて測定したことを、自由誘導減衰信号(free induction decay、FID)と言う。T2弛緩時間が短い組織は、MRI上に暗く現れる。
【0010】
現在まで商業化されたMRI造影剤は、常磁性(paramagnetic)化合物が陽性造影剤として、超常磁性(superparamagnetic)ナノ粒子が陰性造影剤として用いられている。現在、T2造影剤として、SPIO(Superparamagnetic iron oxide)など、酸化鉄ナノ粒子が用いられるが、T2造影は、陰造影であって、周囲に比べて所望する部位が暗くなる造影法であって、対比効果が大きくなく、ブルーミング効果(blooming effect)で、実際よりも大きい面積が造影される不都合がある。一方、T1造影剤は、陽造影(positive contrast)となって、所望する部位の画像を明るく見るというメリットを有するが、多くのスピンを有した物質(high spin material)が使われる。そこで、通常、4fオービタルのホールスピンが7個であるガドリニウム複合体(complex)が使われている。
【0011】
ガドリニウムに基づく造影剤(gadolinium-based contrast agent、GBCA)は、既に、1980年代に商用化された後で、大きな技術的進展がない実情である。最近、ガラスガドリニウムの毒性による比可逆的皮膚及び臓器の硬化反応を見せる副作用(身元性全身線維症)が報告されており、また、MRI造影剤を注入した患者の脳組織にガドリニウムが永久的に沈着されることが報告されており、ガドリニウム造影剤に対する危険性が顕在化している。また、慢性腎不全患者において、各種の血管疾患の有病率及び死亡率は高いものの、GBCAは、身元性全身線維症の危険のため、使用が禁止されており、このことから、安全に使用可能なMRI造影剤の開発が至急な状態である。
【0012】
一方、超常磁性物質として酸化鉄を用いており、粒径によって2つに区分する。粒径が50nm以上の場合をSPIOといい、その以下のサイズを有するものをUSPIO(ultrasmall superparamagnetic iron oxide)と言う。粒子のサイズが小さいUSPIOは、血管において、マクロファージの貪食作用からやや敏感であって、長時間滞在する特性を用いて、血管の異常有無を確認することができる。注入量もSPIOに比べて少なく、急速注入が可能であるというメリットがある。既存に臨床で使用されたFeridexとResovistがSPIOの代表例である。これらの造影剤はいずれも、共沈法(co-precipitation)という方法により合成されたが、結晶性が良くないため、磁気的特性が高くなく、サイズが不均一であるという限界があった。
【0013】
1990年後半からナノ粒子合成法で新たに開発された熱分解法を用いて、5~20nmサイズの均一な酸化鉄ナノ粒子合成法が開発されており、共沈法で開発されたナノ粒子に比べて、優れたT2造影効果を有しているという事実が報告されている。しかし、信号干渉がひどいT2強調画像よりもT1強調画像が正確度が高く、臨床でも選好されるため、ガドリニウム系列の造影剤を代替するためには、同級又はそれ以上のT1造影効果を有するナノ粒子が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、低いT1造影効果、臓器蓄積、毒性のような磁気共鳴画像(MRI)造影剤として、酸化鉄ナノ粒子の問題点を解決することである。
【0015】
このために、本発明は、体内正常組織内の蓄積なく、体外に完全排出される薬動学を発揮する生体内注入用ナノ構造物を提供することである。
【0016】
また、本発明は、生体内注入後にマクロファージにより貪食されず、代謝分解されない状態で、腎臓濾過を通じて小便に排出される生体内注入用ナノ構造物を提供することである。
【0017】
さらには、本発明は、生体内注入後に血管循環系に吸収され、吸収された後には、血管外にもれなく、腎臓濾過を通じて小便で収集して、再使用も可能な生体内注入用ナノ構造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の様態は、生体内注入後、マクロファージによって貪食(phagocytosis)及び/又は代謝分解されない状態で、腎臓を通じて小便に排出されるナノ構造物であって、(i) 平均分子量が10,000Da以下のデキストラン分子1個乃至3個を架橋剤で架橋して形成された球形コアと、(ii) 球形コア表面の架橋剤由来親水性基に、2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルとを備え、(iii) 電荷が-20mV~0mVとなるように、球形コアデキストランと鉄の質量割合が100:2~100:10であり、且つ、架橋剤置換割合がデキストラン作用基数の10%乃至50%に調節され、架橋剤のうち、20%乃至50%は、一末端が架橋に参加せず、(iv) 球形コア表面の架橋剤由来親水性基のうち、外部に露出した作用基の20%乃至80%だけが鉄イオンと結合し、残りは、鉄イオンと結合せず、水環境に露出したことを特徴とする生体内注入用ナノ構造物を提供する。
【0019】
本発明の第2の様態は、生体内注入後、マクロファージによって貪食及び/又は代謝分解されない状態で、腎臓を通じて小便に排出される生体内注入用ナノ構造物を含有する薬学組成物であって、前記生体内注入用ナノ構造物は、第1の様態の生体内注入用ナノ構造物であり、(i) 平均分子量が10,000Da以下のデキストラン分子1個乃至3個を架橋剤で架橋して形成された球形コアと、(ii) 球形コア表面の架橋剤由来親水性基に、2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルとを備え、(iii) 電荷が-20mV~0mVとなるように、球形コアデキストランと鉄の質量割合が100:2~100:10であり、且つ、架橋剤置換割合がデキストラン作用基数の10%乃至50%に調節され、架橋剤のうち、20%乃至50%は、一末端が架橋に参加せず、(iv) 球形コア表面の架橋剤由来親水性基のうち、外部に露出した作用基の20%乃至80%だけが鉄イオンと結合し、残りは、鉄イオンと結合せず、水環境に露出したことを特徴とする薬学組成物を提供する。
【0020】
以下、本発明を説明する。
本発明による生体内注入用ナノ構造物は、投薬(administration)又は注射(injection)され、生体内に適用可能な投与法により制限されない。
【0021】
本発明により、生体内注入後にマクロファージによって貪食及び/又は代謝分解されない状態で、腎臓を通じて小便に排出される生体内注入用ナノ構造物は、(i) 平均分子量が10,000Da以下のデキストラン分子1個乃至3個を架橋剤で架橋して形成された球形コアと、(ii) 球形コア表面の架橋剤由来親水性基に2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルを備え、(iii) 電荷が-20mV~0mVとなるように、球形コアデキストランと鉄の質量割合が100:2~100:10であり、且つ、架橋剤置換割合がデキストラン作用基数の10%乃至50%に調節されたことであり、架橋剤のうち、20%乃至50%は、一末端が架橋に参加せず、(iv) 球形コア表面の架橋剤由来親水性基のうち、外部に露出した作用基の20%乃至80%だけが鉄イオンと結合し、残りは、鉄イオンと結合せず、水環境(aqueous environment)に露出するように設計されたことが特徴である。
【0022】
このような形態で精度高く設計及び合成された本発明の生体内注入用ナノ構造物は、生理的pHの緩衝溶液と血漿で凝集(aggregation)、又は、鉄溶脱(leaching)なく安定であり、腎臓濾過サイズ限界より小さいコンパクトな流体力学的直径と優れたコロイド安定性を発揮することができる。
【0023】
鉄イオンと配位結合する親水性作用基の非制限的な例としては、ヒドロキシ、カルボン酸、カルボン酸塩、アミンなどがある。
【0024】
本発明者は、架橋剤により、デキストランを分子内/分子間架橋した後、デキストランに基づく球形コア表面に露出している架橋剤由来親水性基に2価乃至3価鉄イオンが配位結合された場合、T1造影効果を発揮できることに対して、架橋剤を通じて架橋されないデキストラン自体の親水性基に2価乃至3価鉄イオンが配位結合された場合は、T1造影効果を発揮することができないということを見つけた。
【0025】
これに基づいて、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、T1造影効果を発揮できるように、デキストランに基づく球形コア表面に露出している架橋剤由来親水性基がリガンドとして2価乃至3価鉄イオンと配位結合を通じて、2価乃至3価鉄イオンからなるシェルを形成したことである(図1)。ここで、末端に露出した架橋剤1つ乃至3つが、1つの鉄イオンと配位結合することができる。
【0026】
架橋剤由来親水性作用基は、架橋剤の末端作用基自体又はこの改質/置換された作用基である。例えば、2価乃至3価鉄イオンは、デキストラン球形コア表面の架橋剤由来カルボン酸又はカルボン酸塩基と配位結合することができる。
【0027】
本発明者は、本発明による生体内注入用ナノ構造物(実施例1)が、滲透圧と粘度など、静脈注射剤剤形として備えるべき適正物理化学的特性を具現できることを確認し(図2)、動物実験を通じて静脈注射後、T1 MRI造影剤役割を発揮して、血管壁を通じた漏出なく、マクロファージにより貪食又は代謝分解されない状態で、腎臓を通じて小便に排出され、小便で収集して、再利用可能であるということを確認した(図4図8)。
【0028】
また、本発明による生体内注入用ナノ構造物(実施例2)は、関節腔あるいは脊髄腔に投与された場合も、体内で代謝又は分解されず、T1 MRI造影剤役割を発揮して、血液循環系(細静脈)に吸収されて、血管壁を通じた漏出なく、腎臓濾過により小便に排出されることを見つけた(図10図16)。
【0029】
本発明は、これに基づくことである。
【0030】
本発明の生体内注入用ナノ構造物は、MRIで明るい信号を現わすT1 MRI造影剤の機能を持つように設計され、生体内に注入後、MRIによりナノ構造物の位置を追跡することができるので、本発明は、これを用いて、生体内注入後、マクロファージによる貪食可否、代謝分解可否、血液循環可否、リンパ循環可否、毛細血管を通じた細胞の伝達可否、組織内蓄積可否、腎臓を通じて小便に排出可否、生体内注入後、血管循環系に吸収可否、血管壁を通じた漏出可否、小便を通じて収集して、再使用可能可否を、動物実験から確認することで、所望する薬動学及び薬力学的特性を発揮するフィット型生体適合性ナノ構造物を提供することを特徴とする。
【0031】
また、本発明の生体内注入用ナノ構造物が現わすT1 MRI信号強度が、ナノ構造物の濃度に比例するように設計することができるので、MRI画像の信号からナノ構造物の濃度を数値化又は定量化することが可能である(実施例6及び図3)。そこで、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、生体内注入されたナノ物質がいずれの経路で吸収、分布、代謝、排出されるかを始めとして、その経路に位置した様々な解剖学的構造、機能など、多様な情報を提供することができる造影剤役割も果たすように設計されるので、動物実験から、生体内注入用ナノ構造物又はこれを含有する薬学組成物の適用部位及び/又は、投与経路による生体内挙動の分析と、同ナノ構造物又は薬学組成物が目標した生体内挙動を有するように、均一な品質で製造されたか否かに対する品質管理も可能であり、様々に蓄積された生体情報データを活用して、患者(状態及び/又は病歴)、疾患、投与経路、及び/又は、本発明のナノ構造物により、伝達しようとする薬物の生理機序フィット型生体内注入用ナノ構造物を精度高く設計することができる。
【0032】
[生体内注入用ナノ構造物の製造方法]
本発明の生体内注入用ナノ構造物は、非制限的な一例として、下記ステップを含む製造方法により提供される。
【0033】
デキストラン水溶液を準備する第1のステップと、常温でアルカリ性水溶液とエポキシド(epoxide)を滴下する第2のステップと、常温で2以上の多価アミン類を滴下して、末端アミン基を有したデキストラン架橋体に基づくナノ粒子を生成させる第3のステップと、生成物を沈殿させる第4のステップと、生成物を物に再分散させる第5のステップと、選択的に(optionally)、末端アミン基(terminal amine group)を有したデキストラン架橋体に基づくナノ粒子を透析(dialysis)して回収する第6のステップと、多価アミン類により架橋結合され、これにより、末端アミン基(terminal amine group)を有するデキストラン架橋体に基づくナノ粒子に、有機酸無水物(organic acid anhydride)を投与して、末端アミン基の一部又は全部をカルボン酸基(carboxylic acid groups)及び/又はカルボン酸塩基(carboxylate groups)に置換する第7のステップと、選択的に(optionally)、カルボン酸及び/又はカルボン酸塩作用基を有したデキストラン架橋体に基づくナノ粒子溶液を精製して、水分散可能なデキストラン架橋体に基づくナノ粒子を準備する第8のステップと、前ステップで準備された水分散可能なデキストラン架橋体に基づくナノ粒子に、鉄前駆体(iron chloride)水溶液を添加して、2価乃至3価鉄イオンからなるシェルを形成させる第9のステップと、選択的に(optionally)、前ステップで形成されたナノ構造物を、限外ろ過(ultrafiltration)して精製又は濃縮する第10のステップ。
【0034】
前記のような製造方法により合成された本発明の生体内注入用ナノ構造物は、実施例3のように分析された。
【0035】
デキストラン分子の膨潤などによる意図しない水和サイズの増加を防止するために、本発明は、デキストラン単量体を水溶液上で分子内及び/又は分子間架橋させたことである。ここで、架橋剤によりデキストラン架橋において、分子内及び/又は分子間架橋を通じて、1つ乃至3つのデキストラン分子が球形コアを形成するということを見つけた。前記球形コアは、デキストラン分子内グルコースビルブロックの-OH作用基において、架橋剤で分子内及び/又は分子間架橋して形成されたデキストラン架橋体に基づくナノ粒子である。
【0036】
デキストラン架橋体に基づくナノ粒子は、この合成条件及び/又は精製を通じて、架橋対象であるデキストラン分子の数を、同一又は異にして制御することができる。
【0037】
例えば、本発明は、第2のステップ及び第3のステップにより、高価の触媒なく、デキストラン又はこの誘導体水溶液に、(i) グルコースビルブロックの-OH作用基部位を改質するエポキシド(epoxide)、及び(ii) 架橋剤を添加して常温で反応させることで、デキストランのグルコースビルブロックの-OH作用基において架橋剤で架橋して、デキストラン架橋体に基づくナノ粒子を製造することができる。
【0038】
第2のステップにおいて、エポキシド(epoxide)は、グルコースビルブロックの-OH作用基部位を改質して、架橋剤と反応するようにすると、その種類に制限がなく、望ましくは、ハロアルキルオキシラン(halo alkyl oxirane)であり、例えば、エピクロロヒドリン(Epichlorohydrin)である。
【0039】
第3のステップにおいて、多価アミン類は、グルコースビルブロックの-OH作用基部位を改質させたエポキシド由来作用基と共有結合できると、任意の架橋剤に代替可能であり、これも、本発明の範疇に属する。
【0040】
第2のステップ及び第3のステップは、グルコースビルブロックの-OH作用基にいて、架橋剤を通じて架橋反応させるとき、別の高価な触媒が不要であるため、経済的である。
【0041】
第4のステップは、比誘電率(dielectric constantが15~50の間の有機溶媒を多量添加して行う。
【0042】
本発明の生体内注入用ナノ構造物は、常温(room temperature)、常圧(atmospheric pressure)、水溶液相(aqueous phase)で合成が可能であり、合成後、別の親水化過程が不要であるので、摂氏200度以上の高温、非活性気体(inert atmosphere)、有機溶媒相(organic phase)で合成され、親水化過程を伴う既存の酸化鉄に基づくナノ粒子T1 MRI造影剤と合成法的に異なる。
【0043】
既存の酸化鉄に基づくイナノ粒子T1 MRI造影剤は、有機溶媒で合成されて、通常、その表面に疎水性分子が付着しており、生体内適用のためには、親水化過程が必須的である。通常、親水化過程は、疎水性分子を親水性分子に交替するか、疎水性分子に親水性分子を付け加えて、2重レイヤに作るなどの方法が伴われるが、この過程において、ナノ物質の水和サイズは、ナノ物質コアのサイズに比べて飛躍的に増加することと知られている。不幸にも、生体内に注入されたナノ物質の挙動は、コアサイズではなく、水和サイズに従うことになる。これとは異なり、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、腎臓濾過サイズ限界よりも小さい水和サイズ及び分子量を有し、コロイド安定性を発揮するようにするため、有機溶媒ではなく、水溶液状態で合成され、別の親水化過程を要しない。
【0044】
このように、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、界面活性剤なく、室温で水溶液で合成され、リガンド交換ステップがないため、このような水適合性(water compatibility)は、生物学的使用に有利である。
【0045】
合わせて、前記製造方法より得られた生体内注入用ナノ構造物は、水で分散したコロイド(colloid)形態で、濃縮程度によって、別の賦形剤(excipient)がなくても、等張性(isotonic)を有するようにすることができ、例えば、第10のステップを通じて、特別な更なる加工がなくても、非発熱性(non-pyrogenic)と滅菌(sterility)を満たして得られたその自体で、注射剤(injectable solution)薬学組成物として使用可能である。
【0046】
[架橋デキストランに基づく球形コア]
デキストラン(dextran)は、ブドウ糖の縮合から由来した多糖類であって、下記構造式のように、複雑な分枝型グルカンである。主に、C-1→C-6のグリコシド結合を有している微生物起源の分枝されたポリ-α-d-グルコシドである。
【0047】
【化1】
【0048】
重合体の主鎖は、グルコース単量体の間に、α(1→6)グリコシド結合で構成されており、分枝される部分は、α(1→3)グリコシド結合で連結されている。
【0049】
デキストランは、ワインの微生物生成物で発見されたが、大量生産は、細菌を使用した工程が開発された後に可能となった。デキストランは、現在、ラクトバチルス属の特定の乳酸菌により、スクロースから生成される。
【0050】
デキストランは、FDAにおいて、生体適合性物質として承認したものである。
【0051】
本明細書において、デキストランは、この多様な誘導体も含む。デキストラン誘導体の非制限的な例としては、カルボキシメチルデキストラン(carboxymethyl dextran、CM dextran)、デキストランサルフェート(dextran sulphate)、ジエチルアミノエチルデキストラン(diethylaminoethyl dextran、DEAE-dextran)などがある。
【0052】
様々な特定サイズのデキストランに対する要求が産業的応用分野で増加している。例えば、サイズが70,000~100,000Da範囲であるデキストランは、プラズマ(plasma)代替物として用いられる。また、40,000Daのデキストランは、血液の粘度を減少させ、赤血球性凝集を抑制して、血流を改善させる。約10,000Daのより小さなデキストランサルフェートは、鉄輸送因子又は抗凝固剤として用いられる。
【0053】
本発明の生体内注入用ナノ構造物において球形コアは、複雑な分枝型デキストランが架橋剤により、分子内及び/又は分子間架橋結合されたもので、水溶液上で分子内/分子間架橋結合を通じて、二量体乃至三量体を形成することができ、デキストラン分子の膨潤などによる意図しない水和サイズの増加を防止することができる。本発明の生体内注入用ナノ構造物において、合成条件を調節して、複雑な分枝型デキストラン分子1つだけを、架橋剤で分子内架橋結合するように調節して形成された球形コアも、本発明の範疇に属する。
【0054】
本発明により、複雑な分枝型デキストラン系単量体を水溶液上でグルコースビルブロックの-OH作用基において、架橋剤で分子内及び/又は分子間架橋させて、コンパクトに粒子化させたデキストラン架橋体に基づくナノ粒子は、所望する水和サイズ及び水膨潤度を有するように制御することが容易であり、体液内移動性を予測可能に調節することができる。例えば、本発明のデキストラン架橋体に基づくナノ粒子において、架橋剤置換割合は、デキストラン作用基数の2%乃至50%に調節可能であり、架橋剤のうち、2%乃至98%は、一末端が架橋に参加せず、末端が外部に露出するように調節することができるので、デキストラン架橋体に基づくナノ粒子の水膨潤度及び水和サイズを、精度高く制御することができる。
【0055】
腎臓排泄のために、使用するデキストランの平均分子量は、10,000Da又はその以下、デキストラン分子が架橋されて形成された球形のコアの分子量は、35,000Da以下であるのが望ましい。
【0056】
特に、デキストランに基づくナノ構造物のような高分子水溶液は、濃度が高くなることによって、粘度を有することになる。高分子物質の分子量と粘度に関する式、Mark-Houwink Sakurada(MHS)equationによると、高分子物質の粘度は、分子量と正比例関係であることが知られている。注射剤の粘度があまりにも高いと、血管閉塞、注入時の高い圧力による血管損傷など、危険性が伴わられる。本発明による生体内注入用ナノ構造物を、静脈注入の用途として活用しようとする場合、平均分子量10,000Da以下のデキストラン、望ましくは、約5,000Da以下のデキストラン分子を使用し、デキストラン分子が架橋されて形成された球形のコアの分子量が略15,000Da以下のものを使用すると、静脈注射に適切な粘度を具現することをを見つけた(実施例5)。
【0057】
また、実施例1~5及び図2から分かるように、デキストラン分子の平均分子量を小さく調節するほど、本発明のナノ構造物を高濃度に準備することができるので、希釈程度を調節して、剤形の粘度が精度高く調節可能であり、注入しようとする投与量に対する注入体積を減少させることができる。
【0058】
平均分子量が10,000Da以下のデキストラン分子を、水溶液上において架橋剤で架橋させると、1つ乃至3つのデキストラン分子が分子内及び/又は分子間架橋により、球形コアを形成するので、使用するデキストラン分子の平均分子量が10,000Da以下である本発明のナノ構造物から、デキストラン分子が架橋されて形成された球形のコアの分子量が35,000Da以下で、且つ、腎臓排出のために水和径が10nm以下、望ましくは、5nm以下のナノ構造物を具現することができる。
【0059】
本発明により、架橋剤により架橋反応及び/又は架橋反応後、露出した架橋剤の一末端を追加改質したデキストランに基づく球形コアは、表面に露出している親水性基が鉄イオンと配位結合するリガンドを提供する。
【0060】
ここで、親水性作用基は、架橋反応に参加しないデキストランの作用基、架橋反応に参加しない架橋剤の一末端作用基、及び/又は、架橋反応後に露出した架橋剤の一末端を追加改質させた作用基から由来する。
【0061】
鉄イオンと配位結合する親水性作用基の非制限的な例としては、ヒドロキシ、カルボン酸、カルボン酸塩、アミンなどがある。
【0062】
本発明の生体内注入用ナノ構造物の表面に露出した親水性作用基がアミンである場合、高いpHによる毒性が発生することができ、これは、アミン基の一部又は全部を、カルボキシル基、メチル基、エチル基などに置換して解決することができる。
【0063】
本発明の生体内注入用ナノ構造物がT1 MRI造影剤役割を果たすため、2価乃至3価鉄イオンからなるシェル部分が、架橋されたデキストランに基づく球形コア表面の全部を覆わなければならないので、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、注射液及び/又は体液内に分散させるために、デキストランに連結された架橋剤の一方末端親水性基のうちの一部は、鉄イオンと結合せず、水環境に露出できるように設計されたことを特徴とする(図1)。
【0064】
デキストランに基づく球形コアの末端ヒドロキシ、及び、例えば、非配位カルボン酸塩作用基は、本発明の生体内注入用ナノ構造物に水溶性を提供する。そこで、デキストランに基づく球形コアの表面に露出した親水性基の水和により、体液内の分散安定性を向上することができる。これにより、ナノ構造物の分散安定性を確保できるようにして、本発明の生体内注入用ナノ構造物が、体液で沈殿や凝り固まることなく、安定に分散して、本来の機能を発揮することを可能にする。
【0065】
そこで、本発明は、架橋された球形コア内のデキストランのサイズと電荷を多様に調節することで、所望する血液循環時間と腎臓排泄プロファイルに合わせて、生体内注入用ナノ構造物の全体サイズと電荷を制御することができる。さらには、架橋剤由来親水性基のうち、外部に露出した陰電荷作用基と陽電荷鉄イオンの結合割合を、20%乃至80%範囲内で調節することで、本発明による生体内注入用ナノ構造物の電荷が-20mV~0mVとなるように調整する。
【0066】
一方、架橋されたデキストランに基づく球形コアの表面に露出した架橋剤由来作用基又は親水性作用基の非制限的な例として、アミン基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、及び/又は、チオール基などがある。アミン(amine)、チオール(thiol)、カルボキシル(carboxyl)、ヒドロキシル(hydrodxyl)のような反応性作用基は、表面改質だけでなく、特定細胞の受容体(receptor)と特異的に結合するリガンド(ligand)、抗体又はこの断片、抗原性ペプチド、核酸(DNA、RNA、又はこの断片など)のようなバイオ医薬品、又は様々な種類の低分子薬物との化学的結合を容易にする。
【0067】
[球形コア表面の架橋剤由来親水性基に2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェル]
球形コア表面の架橋剤由来親水性基に2価乃至3価鉄イオンが配位結合されている本発明の生体内注入用ナノ構造物は、生理的pHの緩衝溶液と血漿、リンパなど、様々な体液において、鉄溶脱なく、安定である。
【0068】
本発明の生体内注入用ナノ構造物は、平均分子量が10,000Da以下のデキストラン分子1個乃至3個を架橋剤で架橋して形成された球形コアと、球形コア表面の架橋剤由来親水性基に2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルとを備えたもので(図1)、デキストランに基づく球形コア表面に露出している架橋剤由来親水性基がリガンドとして2価乃至3価鉄イオンと配位結合により、2価乃至3価鉄イオンからなる非連続的なシェルを形成するので、非連続的なシェルのカバー範囲及び/又は厚さに応じて、MRI画像で明るい信号を現わすT1 MRI造影剤の機能を有するように、又は、必要に応じて、T2 MRI造影剤に設計することができる。
【0069】
Spin-spin relaxivity coefficient(r)とspin-lattice relaxivity coefficient(r)の割合(r/rratio)は、造影剤がT1 MRI造影剤として適しているか、あるいは、T2MRI造影剤として適しているかを判断する尺度に該当し、通常のT1 MRI造影剤は、約1~2のr/r ratioを有し、T2 MRI造影剤は、望ましくは、5以上のr/r ratioを有する。
【0070】
本発明の一実施形態により、球形コア表面の架橋剤由来親水性基に、2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルを備えた生体内注入用ナノ構造物を合成した後、rとrをそれぞれ測定した結果、T1 MRI造影剤として使用できることを確認した(実施例6、図3)。そこで、球形コア表面の架橋剤由来親水性基に2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルを備えた本発明の生体内注入用ナノ構造物は、MRI画像で明るい信号を現わすT1 MRI造影剤の機能を持つように設計される。
【0071】
また、2価乃至3価鉄イオンで構成された非連続的なシェルは、別の化学物質でコートされていなく、その自体で露出して、水分子の接近を容易にし、水分子陽性子の弛緩を加速化するなど、T1 MRI造影効果を発揮することにおいて、更に有利である。
【0072】
例えば、本発明による生体内注入用ナノ構造物は、臨床ガドリニウムT1 MRI造影剤(GBCA)に匹敵する実質的に小さい磁化(magnetization)を有し、理想的な低いr/r割合で、最適のT1 MRI造影効果を有するように設計及び合成することができる(実施例6、図3)。
【0073】
そこで、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、T1 MRI造影剤の特性により、生体内微小血管、尿管、リンパ管、肝、脾臓、関節腔、脊髄腔、及び/又は各種の臓器の解剖学的構造を視覚化する画像を提供することができる。MRIを通じて、体内組織蓄積及び/又は血管壁を通じた漏出可否を確認することもできる。
【0074】
本発明により、球形コア表面の架橋剤由来親水性基に2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルを備えた生体内注入用ナノ構造物のT1 MRI血管造影術性能分析結果によると(実施例7)、静脈投入後、マウスの頚動脈、心臓、大動脈、下待静脈などで、T1 MRI造影増強が観られた(図4の(a))。注入前に比して注入後に血管系が明るく現れ、既存のガドリニウム造影剤に比べて、さらに小さい血管まで観られるなど、優秀性が確認された(図4の(c))。また、first-passにおいて、脳心血管系で測定されたコントラスト対雑音比(contrast-to-noise ratio、CNR)は、4.87で、ガドリニウム造影剤(Dotarem)に比して、200%向上した値を現わしており、Steady-stateにおいて、脳心血管系で測定されたCNRは、Dotaremに比して、250%向上したことが確認され、本発明により、球形コア表面の架橋剤由来親水性基に2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルを備えた生体内注入用ナノ構造物の造影効果が、Dotaremに比してさらに強く、長時間持続することを確認した(図4の(b))。そこで、本発明により球形コア表面の架橋剤由来親水性基に2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルを備えた生体内注入用ナノ構造物は、現在、臨床GBCAに比べて、非常に強力で長く持続する造影効果を見せる脳心血管系特化造影剤への使用も可能である。
【0075】
通常、既存の造影剤は、対比効果が短い時間内に消えるため、撮影可能な時間(temporal scanning window)に制約があったが、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、対比効果が長く持続するので、時間の制約が少なくて、必要に応じて、スキャニング時間を増やして、MRIの空間解像度を向上することができる。また、臨床現場でMRI撮影途中で患者が動く場合、画像歪みが発生して、再撮影が必要な場合が頻繁であるが、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、対比効果が長く持続して、このような再撮影に効果的である。さらに、臨床現場の諸状況により、造影剤投薬後、MRI撮影を即時開始しない場合、対比効果が消えて、検査が不可な場合が頻繁であるが、対比効果が長く持続して、このような場合にも効果的である。
【0076】
そこで、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、MRIを通じて、生体内で臨床的に重要な微小血管を高い空間解像度で視覚化する機会を提供することができる(図4、実施例7)。また、磁気共鳴画像(MRI)を通じて、体内組織蓄積及び/又は血管外漏出(extravasation)の可否を確認することができる。
【0077】
さらには、本発明により、T1 MRI造影剤の機能を発揮する生体内注入用ナノ構造物が生体内注入後、腎臓濾過を通じて小便に殆ど排出されることを、MRI撮影を通じて確認することができること(図6及び図7)と、関節腔内注入後、小便で収集することができるの(図12)から、体内投与、分布、及び除去経路において、本発明による生体内注入用ナノ構造物は、生体内注入後、血漿を含む体内体液だけでなく、小便でも、球形コア表面の親水性基に配位結合された2価乃至3価鉄イオンが浸出なく、安定であることが分かる。
【0078】
一方、ガドリニウムとマンガンは、自然状態で人体に存在しない元素で、造影剤などに用いられると、人体に残って、永久沈着や皮膚硬化症のような副作用が生じる。
【0079】
これに対して、鉄は、人間の血液に豊かに存在し、人体赤血球内に酸素と結合する重要分子であるヘモグロビンの中心原子であり、鉄分が不足する場合、鉄欠乏性貧血が生じるなど、人体を構成する主要元素の1つであるので、本発明により、2価乃至3価鉄イオンで構成されたシェルを備えた生体内注入用ナノ構造物は、ガドリニウム系又はマンガン系材料よりも生体適合性が高い。
【0080】
関節内に注射された超常磁性酸化鉄ナノ粒子(SPIO)は、実質的に長期間排泄なく、関節にとどまることと報告された。
【0081】
しかし、本発明により、球形コア表面の架橋剤由来親水性基に2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルを備えた生体内注入用ナノ構造物は、関節内注射において、関節組織に有害な影響を与えず、体内に完全に吸収されて、腎臓除去経路を通じて安全に体から排泄される(図12)。すなわち、本発明により、2価乃至3価鉄イオンで構成されたシェルを備えた生体内注入用ナノ構造物は、関節内に注入された後、浸出なく関節腔に蓄積されず、完全に血液循環系に吸収され、完全な腎臓除去が可能な最初の成功事例である。そこで、本発明により、2価乃至3価鉄イオンで構成されたシェルを備えた生体内注入用ナノ構造物は、関節部位に注入されても、マクロファージにより貪食されず、血液循環系に吸収され、組織内で鉄の浸出なく、腎臓を通じて小便に排出されるので、関節疾患の原因である鉄分蓄積副作用の可能性が極めて低い。これらの特徴は、本発明により、球形コア表面の架橋剤由来親水性基に2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルを備えた生体内注入用ナノ構造物が生体内注入後、副作用及び/又は毒性なく、広い投与量の範囲内でMRI造影剤、薬物伝達体、又は、組織内又は血液内情報収集用吸着剤として使用できるだけでなく、MR関節造影術のためのT1 MRI造影剤として、驚くべき潜在能力を有していることを示唆する。
【0082】
さらには、本発明により、2価乃至3価鉄イオンで構成されたシェルを備えた生体内注入用ナノ構造物の様々な用途に関して、大韓民国特許出願第10-2022-0028150号の全ての内容が、本発明及び本明細書に統合される。
【0083】
[生体内注入用ナノ構造物の全体サイズ及び表面電荷設計]
生体内注入後、マクロファージによる貪食可否、代謝分解可否、血液循環可否、リンパ循環可否、毛細血管を通じた細胞実質(parenchyma)への伝達可否、組織内蓄積可否、腎臓濾過を通じて小便に排出可否、生体内注入後の血管循環系に吸収可否、血管壁を通じた漏出可否、小便を通じて収集して、再使用可能の可否は、本発明による生体内注入用ナノ構造物のサイズ調節を通じて具現可能である。
【0084】
有無機ナノ粒子が体内に循環すると、組織構造が緻密な正常組織よりも構造が粗い癌細胞や疾病細胞に選択的に多く蓄積される可能性が高いというEPR(enhanced permeation and retention)効果発揮の可否も、本発明による生体内注入用ナノ構造物のサイズ調節を通じて具現可能である。
【0085】
そこで、所望する薬動学及び薬力学的特性を発揮するフィット型生体内注入用生体適合性ナノ構造物は、ナノ構造物のサイズ調節と関連のある、球形コアのデキストラン単量体の分子量、デキストラン主鎖の長さ、架橋時の架橋剤の種類、合成反応時に投与する架橋剤の量と投与速度及び/又は更なる化学作用基改質を通じて、様々に設計することができる。
【0086】
一方、生体内注入用ナノ構造物の表面電荷は、静脈注射ナノ物質の薬動学と挙動を大きく左右する。例えば、血清タンパク質が電荷を介して、ナノ物質に非特異的に結合(すなわち、オプソニン化、opsonization)すると、ナノ物質-タンパク質複合体が形成されて、単核貪食細胞系(mononuclear phagocyte system、MPS)に貪食及び臓器への蓄積が促進される。本来、ナノ物質が腎臓濾過可能なサイズを有しても、このようにタンパク質と結合することになると、サイズが増加して、腎臓濾過排出が不可となる。このような意図しない臓器蓄積を避け、腎臓濾過排出されるこナノ粒子を生産するためには、ナノ粒子にオプソニン化を効果的に防止することができる電荷を付与することが必須的である。
【0087】
そこで、本発明による生体内注入用ナノ構造物は、血清タンパク質の非特異的吸着ができないようにするため、表面電荷を-20mV~0mVに調節して、血液循環時間と腎臓掃除可否を調節することができる。正電荷のナノ構造体は、負電荷を呈する生体内の多くの細胞に非特異的な静電気結合をすることができるので、望ましくない。
【0088】
所望する表面電荷は、球形コアデキストランと鉄の質量割合が100:2~100:10であり、且つ、架橋剤置換割合が、デキストラン作用基数の10%~50%に調節、架橋剤のうち、20%~50%は、一末端が架橋に参加せず、末端が外部に露出するように調節、及び/又は架橋剤由来親水性基のうち、外部に露出した作用基の20%~80%だけが鉄イオンと結合するように、その割合調節により設計することができる。
【0089】
[生体内注入用ナノ構造物のサイズ及び分散安定性(colloidal stability)]
本発明の生体内注入用ナノ構造物は、デキストラン球形コアの表面に露出した親水性基(hydrophilic functional groups)の水和により、体液(biological fluids)内の分散安定性を向上することができる。
【0090】
本明細書において、体液は、細胞内液又は細胞外液である。細胞外液には、血液、リンパ、細胞を取り囲んでいる間質液(interstitial fluid)がある。
【0091】
流体力学的径が1~30nmのナノ粒子は、食細胞から脱出して、血管を通じて移動することができる。通常、ナノ粒子のサイズが9~10nm以下となることで、腎臓を介して、自然排出が可能である。
【0092】
そこで、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、全体径が10nm以下、望ましくは、8nm~1nm、さらに望ましくは、8nm~1.5nmであり、均一なサイズ分布を有するように設計することができる。直径が前記値を超えると、体内で均一な分布と排出を表わしにくい。
【0093】
一方、ナノ粒子のサイズによって、摂取される臓器とそれによる人体内分布が変わる。ここで、肝のクッパー細胞により、50nm以上のナノ粒子は、体内で早く肝に蓄積され、いくら小さいコアのナノ粒子であっても、分散性を有さないと、容易に固めるので、網状内皮系による貪食が多い。
【0094】
本発明の生体内注入用ナノ構造物の全体サイズに影響するデキストランに基づくコアは、架橋剤によりデキストラン架橋において、分子内及び/又は分子間架橋により形成された1~3つのデキストラン分子架橋体であり、これにより、水膨潤が抑制されるので、コアは、均一なサイズ分布を有する。また、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、デキストランに基づく球形コア表面に露出している親水性基の一部が、リガンドとして2価乃至3価鉄イオンと配位結合を通じて、2価乃至3価鉄イオンからなる非連続的なシェルを形成し、デキストランに連結された架橋剤の一末端親水性基がシェルの非連続的な露出面を通じて水環境に露出しているので、体外及び体内でナノ粒子間の固め現象がなく、貯蔵安定性に優れる。これにより、血液内に早く分布し、サイズが均一で、均一な造影効果を示す。また、1時間以上、最大は2時間以上まで画像観察が可能であり、均一なサイズ(10nm以下)に水和径維持が可能であるため、肝内網状内皮系による貪食を減らし、これにより、血流での滞在時間が増加することに対して、人体に蓄積されず、肝で代謝分解なく、腎臓を通じて排出されて、従来のガドリニウムに基づく造影剤が有する問題点を解決することができる。
【0095】
本発明の生体内注入用ナノ構造物は、体内で分解されず、且つ、水和による体液内分散安定性を維持するので、血管から腎臓に濾過され、注射後1時間内に膀胱に集まるように設計可能であり、小便に体から大部分排泄される。そこで、再活用が可能であるだけでなく、吸着などにより、投与部位である組織内又は血液内の情報収集も可能である。
【0096】
[造影剤]
本発明の生体内注入用ナノ構造物は、MRI造影剤として、MR血管造影術(MR angiography)、MR関節造影術(MR arthrography)、MR脳槽撮影術(MR cisternography)、MR脊髄造影術(MR myelography)、MRリンパ管造影術(MR lymphangiography)、MR胆膵管撮影術(MR cholangiopancreatography)、又は、脳、腹部MRI造影術などに使用する。
【0097】
動物実験から、陽性造影剤に使用可能なことを確認した本発明の生体内注入用ナノ構造物は、投与された組織水分子の陽性子弛緩時間を減らすことで、磁気共鳴画像の信号を極大化して、生体組織の構造と機能を更に高いコントラスト(contrast)で観られるようにする一種の薬物である。本発明の生体内注入用ナノ構造物は、生体条件(physiological conditions: pH 7.4, 37℃)において、また、現在、MRI機器の磁場強さのうち、最も一般的な3.0Teslaで、T1弛緩速度(relaxation rate、R1=1/T1)は、5sec-1である。
【0098】
造影剤の弛緩速度は、造影剤の濃度に直接影響を受け、特定の濃度区間までは、信号が比例して増加するが、その以後には、むしろ信号が落ちることになる。このような理由として、現在まで、その他の造影剤は、最適の濃度に合うように、臨床現場で別の希釈調剤が求められた。一方、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、別の希釈なく、高い信号を現わし、生体組織の観察と診断が容易であるように、最適の濃度で製作することができる。
【0099】
また、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、周辺組織との対照効果を発揮するだけでなく(図10)、体液内に分布された濃度によって、MRIで現れる体液の信号サイズが変わり、時系列的に組織内分布可否を確認することができる。
【0100】
本発明によるナノ構造物が生体内注入用造影剤薬物として使用される場合、標的抗原結合部位を含む断片、抗体、アプタマー(aptamer)、人工抗体(repebody)などのような薬物伝達体に連結して使用する。この場合、表面に標的抗原がある細胞又は標的抗原含有体内部位にターゲットされて、該当部位を画像化/数値化及びT1 MRI信号強度で、該当部位で標的抗原分布/濃度を数値化することができるだけでなく、腫瘍抗原特異的抗体使用において、高い腫瘍吸収率や元気な組織からの速い除去率のような向上した効能を有することができる。
【0101】
さらには、MR関節造影術、MR脳槽撮影術、又はMR脊髄造影術にいて、造影剤を注入するための注射器針の最適位置は、蛍光透視X線(fluoroscopy)を用いて決まる。少量のヨード化したX線造影剤の注入パターンを蛍光透視X線でモニタリングして、針が正確な位置にあることを確認した後、MRI造影剤を注入する。そこで、例えば、関節腔内でMRI造影剤は、必然的にヨード化したX線造影剤と混合される。GBCAのT1 MRI造影効果がヨード造影剤により低くなるという報告がある。本発明の生体内注入用ナノ構造物は、ヨード化したX線造影剤と混合した後にも、T1造影効果を発揮するので、臨床MR関節造影術、MR脳槽撮影術、又は、MR脊髄造影術において、効果的である。
【0102】
一方、本発明により、球形コア表面の架橋剤由来親水性基に2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルを備えた生体内注入用ナノ構造物は、関節内注射において、適切な軟調職対比を提供して、関節の複雑な解剖学的構造を明確に視覚化し(図10)、既存のガドリニウム造影剤に比べて、かなり大きく、長く持続されるT1 MRI造影効果を示す。
【0103】
[血液循環後、腎臓を通じて小便に排出]
通常、ナノ粒子のサイズが9~10nm以下となることで、腎臓を介して、自然排出が可能である。
【0104】
本発明により、架橋デキストランに基づく球形コア表面の架橋剤由来親水性基に、2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルを備えた生体内注入用ナノ構造物の重要な特徴は、凝集(aggregation)及び鉄溶脱(leaching)なく、優れたなコロイド安定性を発揮することで、腎臓濾過サイズの限界よりも小さいコンパクトな流体力学的径を維持して、生体内排泄能力に優れるということである。血管で不要に長期間循環し、たびたび臓器に蓄積される既存のナノ粒子造影剤とは異なり、本発明による生体内注入用ナノ構造物は、平均流体力学的サイズを5nm以下に精度高く調節、及び体内で凝集なく、コロイド安定性を発揮するので、体内で腎臓を介して変形なく、完全に排泄することができる。
【0105】
本発明による生体内注入用ナノ構造物を静脈注射後に得たネズミのMRI画像を見ると、膀胱で明るい対比が現れた(図6)。膀胱の造影増強は、本発明による生体内注入用ナノ構造物が血管に注入された後、腎臓により濾過、及び尿を通じて変形なく、排泄されたことを見せる。
【0106】
また、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、生体内注入後、血液循環係に吸収されて、血管壁を通じた漏出(extravasation)なく、腎臓を通じて小便に排出される。
【0107】
そこで、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、変形なく、腎臓を通じて排泄することができるので、注入された組織内の情報収集が可能であり、MRI造影剤として用いられて、心血管系、脳血管系、リンパ系、筋骨格系、及び/又は脳脊髄神経系画像化及び/又は数値化を実現することができる。
【0108】
[マクロファージによる貪食]
薬物ナノ剤形は、薬物を疾病部位に選択的に伝達するか、より多い量の薬物を疾病部位に伝達できる可能性を有している。しかし、不幸にも、人工ナノキャリア、リポソーム、及び高分子ナノ粒子など、殆どの薬物ナノ剤形は、疾病部位に到達する前に、体内免疫体系の1つである網状内皮系(reticuloendothelial system、RES)により貪食されて、血液循環係で早く除去されるなど、限界がある。
【0109】
本発明により、架橋デキストランに基づく球形コア表面の架橋剤由来親水性基に2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルを備えた生体内注入用ナノ構造物は、マクロファージにより貪食されず、血管内オプソニンタンパク質によって結合されないように、様々な調節因子で調節することができる構造的特徴を有している。そこで、所望する血液循環及び腎臓除去プログラムファイルを提供することができる。
【0110】
網状内皮系は、マクロファージ係、単核貪食細胞系(mononuclear phagocyte system、MPS)ともいう。人体の多くの部分で特定物質を吸収する細胞である。この細胞は、人体防御メカニズムの一部をなす。
【0111】
網状内皮細胞は、骨髄にある前駆細胞から作られる。前駆細胞は、血流に放出される食細胞である単球に発達され、一部単球は、循環系に残るが、殆どは、体組織に入って、マクロファージ(macrophage)というずっと大きい食細胞となる。マクロファージの多数は、動かない細胞で組織内に残って、異物を濾して破壊させる。しかし、一部は離れて、循環系や細胞間空間内で漂う。
【0112】
組織内のマクロファージは、その細胞が位置した箇所によって、形状と名称が異なる。網状細胞は、脾臓、骨髄にあることに対して、組織球は、皮下組織で多く見出される。神経小膠細胞(microglia)は、神経組織に、肺胞マクロファージ(alveolar macrophage)は、肺の肺胞に、クーパー細胞は、肝で現れる。1つの網状内皮細胞は、微生物や細胞、さらには、小さな骨片や縫合物質のような異物彫刻も食べつくすことができる。また、数個の運動性マクロファージが融合して、大きな異物を取り囲む1つの食細胞に変化することもできる。食細胞作用により、マクロファージは、人体内に入り込んだ有害な粒子に対する最初の防御線を形成する。
【0113】
本発明により、T1 MRI造影剤の機能を発揮する生体内注入用ナノ構造物が、生体内注入後、腎臓濾過を通じて小便に大部分排出されることを、MRIを通じて確認することができること(図6及び図7)と、生体内注入後、大便ではなく、小便で大部分収集されること(図8)と、関節腔内注入後、小便で収集することができること(図12)から、本発明による生体内注入用ナノ構造物は、体内投与、分布、及び除去経路において、マクロファージにより貪食(phagocytosis)されず、代謝分解されないことが分かる。
【0114】
本発明の生体内注入用ナノ構造物は、生体内注入後、体内投与、分布、及び除去経路において、マクロファージにより貪食(phagocytosis)されないので、細網内皮系器官のマクロファージ食細胞作用により、肝、脾臓、骨髄、リンパ節などに吸収されない。
【0115】
また、本発明により、T1 MRI造影剤の機能を発揮する生体内注入用ナノ構造物が、静脈投与又は関節腔あるいは脊髄腔に投与された場合、肝、脾臓、骨髄、リンパ節などに分布されないとは、MRI画像を通じて確認することができ、また、小便で全て変形なく収集できることから確認することができる。
【0116】
このように、本発明により、架橋デキストランに基づく球形コア表面の架橋剤由来親水性基に2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルを備えた生体内注入用ナノ構造物は、マクロファージにより貪食されないように設計することができるので、生体内注入後、吸収、分布及び/又は排出される経路上で、代謝分解もなく、完全な状態で小便に排出可能であり、小便で収集されて、再使用又は再利用も可能である。
【0117】
また、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、マクロファージにより貪食されないように設計されると共に、MRI画像で明るい信号を現わすT1 MRI造影剤の機能を持つように設計することができるので、生体内に注入後、MRI画像を通じて、ナノ構造物の位置を追跡して、生体内注入後、マクロファージによる貪食可否、代謝分解可否、血液循環可否、リンパ循環可否、毛細血管を通じた細胞実質(parenchyma)への伝達可否、組織内蓄積可否、腎臓を通じて小便に排出可否、生体内注入後血管循環系に吸収可否、血管壁を通じた漏出可否、小便を通じて収集して再使用可能可否を確認することができる。
【0118】
[生体内挙動_毛細血管透過性]
本発明の生体内注入用ナノ構造物は、静脈内に投与された場合、血管壁を通じた漏出なく、血液循環後、腎臓濾過を通じて小便に排出されるように設計するか(実施例1)、血管以外の他組織、例えば、関節腔、脊髄腔に注入後、血管循環系に吸収されて、血管壁を通じた漏出なく、血液循環後、腎臓濾過を通じて小便に排出されるように設計する(実施例2)。
【0119】
一般に、薬物の分布(drug distribution)とは、ある薬物が可逆的に血流を離れて、細胞外液と組織に入る過程である。静脈に投与した薬物は、投与直後、血管(血漿)で迅速に消えて、組織(間質液)に入ることになるが、ここに関与する要因には、心臓拍出量、局所血流、毛細血管透過性、組織容積など、内在的要因と、薬物のサイズ、相対的な親脂性、薬物と血漿/組織タンパク質の結合など、薬物の物理化学的特性がある。このような側面において、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、静脈内投与に際して、血管壁を通じた漏出又は間質液に入る過程なく、血液循環後、腎臓を通じて小便に排出されることから、毛細血管透過性なく、設計することができる(実施例1)。
【0120】
毛細血管構造は、内皮細胞間隙間接合部(slit junction)により露出した基底膜分画ということで、非常に多様である。肝臓及び脾臓(spleen)で基底膜の大部分が巨大な不連続的な毛細血管により露出しているので、巨大血漿タンパクが通過することができる。脳の毛細血管構造は、連続性であり、隙間接合部がない。隙間なく並列された細胞が血液-脳障壁(BBB)を構成する密着結合(tight junction)を形成する。薬物が脳に入るために、中枢神経系(CNS)の毛細血管内皮細胞を通過するか、能動的に輸送されなければならない。
【0121】
薬物の化学的性状が細胞膜通過能力に強力に影響する。脂溶性薬物は、地質膜に溶解されるので、全ての細胞表面を通過することができる。それに対して、親水性薬物は、容易に細胞膜を通過しないので、隙間継手(slit junction)を通じて通過しなければならない。
【0122】
本発明の生体内注入用ナノ構造物は、デキストランに連結された架橋剤の一方末端親水性基(one end of cross-linker having hydrophilic functional group)がシェルの非連続的な露出面を通じて、水環境に露出するように形成されたことであるので、親水性薬物に該当して、細胞膜だけでなく、毛細血管の内皮細胞間隙間接合部(slit junction)を通過しないように、すなわち、毛細血管非透過性に設計することができる。
【0123】
[生体内注入後、血液循環係に吸収及び再使用]
循環系は、体内の各器官に栄養と酸素、エネルギーなどを供給し、生命活動で生じる二酸化炭素、老廃物などを呼吸系統や泌尿系統に伝達して、体外に排出するようにする血液やリンパのような体液のフローを担当する系統である。
【0124】
血液の循環は、心臓の運動により行われる。循環中の血液は、酸素の運搬、栄養分の供給、代謝過程で生じた老廃物の除去、体温の維持、ホルモンの運搬のような役割をする。
【0125】
多量のイオン、栄養分、有機老廃物、溶解された気体、水などが毛細血管を通じて透過され、殆ど、毛細血管に再吸収される。毛細血管を離れた体液と毛細血管に戻る体液は、殆どど同量であり、一部だけがリンパ管を通じて吸収される。ここで、リンパ管に流入され、血液循環に戻る。
【0126】
多細胞生物では、細胞が形態的、機能的に分化して、一般に同じ種類の細胞が集まって、一定の機能を営むように配列されている。このような有機的な細胞集団を、組織(tissue)という。
【0127】
動物の組織は、形態と機能によって、上皮組織、結合組織、軟骨組織、骨組織、血液とリンパ、筋組織、神経組織に分けられる。
【0128】
上皮組織は、体表面、消化器と呼吸器の管腔、腹膜腔と心膜腔の体腔などの表面を1層から多層の細胞で隙間なく覆っている。互いに隣接する細胞は、密着して、細胞間質が殆ど無い。上皮組織は、陥入して、分泌細胞群(腺組織)をなし、視覚、聴覚、平衡感覚の感覚上皮と毛、爪のように特殊な性質を有した上皮もある。
【0129】
筋組織は、収縮運動をする筋細胞からなる。筋細胞は、全体として、細長い繊維状の外形を取るので、筋繊維という。
【0130】
神経組織は、神経細胞(ニューロン)と神經膠細胞(グリア細胞)からなり、生体情報の有線的伝達をする。高等動物では、脳と脊髄を中枢神経系、ここから分けられたものを末梢神経系という。中枢神経系は、神経組織に血管と結合組織が加わったものである。末梢神経系も、神経細胞と繊維、及び繊維を取り囲んだシュワン細胞(グリア細胞に該当)が主成分である。
【0131】
結合組織、軟骨組織、骨組織、血液とリンパの4つの組織を、支持組織といい、支持組織には、細胞間質が豊かであり、骨、軟骨、結合組織は、体と器官の形状を維持する作用をする。細胞間質は、繊維と基質からなり、細胞は、その内に散在する。血液とリンパを支持組織に入れることは、血漿とリンパ漿を基質、フィブリンを繊維に見なすことができるからである。
【0132】
リンパ管(lymphatic vessel)は、主に皮膚や粘膜下層で液体と物質を血管系に輸送する一方方向が閉塞した透明な管である。リンパ管は、リンパを組織からリンパ節に運んだ後、リンパ節から再度血管に運ぶ小さい管である。リンパ管は、毛細血管よりも透過性が高いため、抗原と細胞を含む巨大分子を、毛細血管よりも容易に吸収する。一方、リンパ節(lymph node)は、リンパ管に従って全身に分布し、リンパ管とリンパ通路が連結される部分である。
【0133】
リンパは、薄い黄色を呈する液体であり、血液よりもタンパク質成分は少なく、脂肪成分は多く、リンパ球と白血球が多い。リンパは、リンパ管を介して全身を循環しながら、各細胞の栄養分を供給し、老廃物を受け入れる。リンパ球は、免疫反応を表わし、人体に浸透した細菌、ウイルスなどに対して防御する役割をする。
【0134】
血液は、動脈を通じて全身を循環した後、静脈に出るようになるが、この時、一部の体液が細胞の間に残るようになる間質液(血漿が組織内の毛細血管で濾過して排出された組織や細胞の間を満たしている細胞外液)が生じる。この間質液がリンパ毛細血管に出るようになると、これをリンパと呼ぶ。リンパは、非常に遅い速度でリンパ管に入って流れ、最後に再度血流に入る。リンパは、毛細血管壁から流れ出て、身体の組織細胞を入浴させることで、組織内の老廃物を除去する。
【0135】
体液リンパは、リンパ管を介して全身を循環しながら、各細胞の栄養分を供給し、細胞外に流れ出る二酸化炭素(CO2)と、損傷した細胞、癌細胞、細菌のような廃棄物を運ぶ。このような過程を終えると、リンパは、大経静脈と鎖骨下静脈接合部で再度血液内に入ることになる。このように、リンパがリンパ節を通じて流出される過程で、リンパ節内のリンパ球が異物と反応してこれを除去し、他の異物を破壊する役割を果たす。そのため、急性炎症のように、リンパ節が外部から侵入した異物を濾すとき、リンパ節が膨らむことにになる。
【0136】
そこで、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、身体末端部位に注入して、リンパ管に吸収されるか、又は、リンパ管内に直接注入するように設計することができ、この場合、リンパ管に流入して、リンパ節でリンパ球及びマクロファージにより除去されず、血液循環系に吸収される。
【0137】
本発明により、架橋デキストランに基づく球形コア表面の架橋剤由来親水性基に2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルを備えた生体内注入用ナノ構造物は、体内注入された後、組織内に蓄積されず、完全に血液循環系に吸収され、腎臓濾過を通じて小便で収集可能に設計することができる(図6~8、図10~14)。
【0138】
そこで、このように設計された本発明の生体内注入用ナノ構造物は、生体内注入後、吸収、分布及び/又は排出される経路上で、代謝分解もなく、完全な状態で小便で収集可能であるので、再使用又は再利用も可能である。また、吸着などにより、投与部位である組織内、リンパ系、又は血液内情報収集も可能である。
【0139】
[免疫反応_毒性]
前述のように、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、身体末端部位に注入するとき、リンパ管に吸収されるか、リンパ管に直接注入され、リンパがリンパ節を介して流出される過程で、リンパ節内のリンパ球により除去されないため、リンパ節が膨らむような急性炎症なく、血液循環系に吸収されることができる。
【0140】
一方、血液内には、赤血球と白血球があり、このうち、白血球が免疫細胞である。白血球は、中性球、好酸球、好塩球、単球(monocyte)、血小板、リンパ球(lymphocyte)のように複数の細胞からなり、リンパ球は、B-リンパ球、T-リンパ球と、自然殺害(natural killer、NK)細胞がある。単球は、血管を通じて組織に移動して、先天性免疫で非常に重要な役割を果たすマクロファージに分化される。これらの白血球は、免疫反応に関与する。
【0141】
先天性免疫(innate immunity)は、体内に侵入する抗原に対して、種類によらず、非特異的に反応し、特別な記憶作用は無い。
【0142】
抗原は、マクロファージ内で分解された後、主組織適合性複合体(MHC、major histocompatibility complex)分子と結合することになり、結合された片は、細胞表面につくことになる。このような抗原提示という過程により、先天性免疫(1次免疫)と適応免疫(2次免疫)は連結され、先天性免疫が2次免疫につながる。
【0143】
要するに、前述したように、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、生体内注入後、体内投与、分布及び除去経路で、マクロファージにより貪食(phagocytosis)されないように設計することができるので、先天性免疫及び/又は適応免疫(adapted immunity)に関する免疫反応を誘導する抗原として作用せず、これにより、炎症、アレルギー、過敏症(hypersensitivity)、異常症(abnormality)、症候群(syndrome)などの疾病を誘発しない。
【0144】
動物実験から、本発明により架橋剤で架橋され、表面に露出している架橋剤由来親水性基がリガンドとして2価乃至3価鉄イオンと配位結合を通じて、2価乃至3価鉄イオンシェルが形成されているデキストランに基づく球形コアは、体内で分解されず、高容量でも体重減少を誘導しなく(図15)、血液化学の全てのテスト項目で正常範囲を示し(図16)、組織病理結果でも、病理学的異常所見や病変が観られなかった(図16)。すなわち、本発明のナノ構造物は、毒性がないように、また、優れた生体内適合性を発揮するように、十分に設計することができる。
【0145】
[静脈投与_血液循環用ナノ構造物]
本発明の生体内注入用ナノ構造物は、脳心血管系を血液循環する。また、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、静脈に注入するとき、肝で除去されないので、血液循環後、腎臓を通じて小便に排出される血液循環用ナノ構造物として使用する。そこで、血液循環しながら、血液内情報収集が可能であり、頚動脈、心臓、大動脈、下待静脈、脳血管のうち、少なくとも1つの血液循環しながら造影剤の役割を果たすことができ、各組織/器官別血管構造と形態の画像化、血流と血液動力学的な情報分析も可能である。
【0146】
本発明による生体内注入用ナノ構造物は、静脈注射後、T1 MRI造影剤の役割を発揮して、血管壁を通じた漏出なく、マクロファージにより貪食されず、代謝分解されない状態で、腎臓を通じて小便に排出されるように設計する(図4~8)。本発明による生体内注入用ナノ構造物の一具体例は、動物実験において、血液循環後、血管から腎臓で濾過され、注射後1時間内に膀胱に集まり、小便に体から排泄された。
【0147】
また、本発明による生体内注入用ナノ構造物は、滲透圧と粘度など、静脈注射剤剤形として備えるべき適正物理化学的特性を具現することができる(実施例1、図2)。デキストラン単量体の平均分子量を小さく調節するほど、本発明のナノ構造物を高濃度で準備するので、希釈程度を調節して、静脈投与剤形の粘度が精度高く調節可能である(実施例1~5、及び図2)。
【0148】
本発明による生体内注入用ナノ構造物は、対照効果が相対的に長く維持されて、MRI撮影時、スキャン時間を長くして、MRIの空間解像度を向上させるように設計するので、生体内全身の血管系をより高い解像度で画像化することができる。そこで、本発明による生体内注入用ナノ構造物は、MRIを通じて生体内で臨床的に非常に重要であるが、既存の造影剤で観察しにくい微小血管を画像化することができる特徴がある。例えば、実施例1のナノ構造物INV-001を用いて、0.078mm×0.078mm×0.078mmの空間解像度でラット脳のイメージングを行った結果、約0.078mm厚さの微細脳血管も鮮明に観察することができた(図4の(c))。現在、臨床現場で最も広く使われる3テスラ(Tesla)MRI機器の空間解像度が約1mmであることに鑑みると、本ナノ構造物INV-001で具現した0.078mmの解像度は、約13倍向上したことである。
【0149】
[関節腔(joint cavity)及び脊髄腔(intrathecal space)投与]
本発明の生体内注入用ナノ構造物は、注入された部位に蓄積されず、体内で吸収され、吸収されたナノ構造物は、腎臓掃除を通じて排泄されることが特徴である。
【0150】
例えば、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、関節腔(articular cavity)又は脊髄腔(intrathecal space)に注入するとき、血液循環系に吸収されて、腎臓を通じて小便に排出されるように設計される。
【0151】
実施例2のナノ構造物INV-002は、デキストラン架橋体に鉄分が結合された略5nmの水和径を有する粒子である。実施例2のナノ構造物INV-002の水平均分子量は、~32kDaで、血清アルブミンの約半分であり、流体力学的径は、~5nmであるので、実施例2のナノ構造物INV-002のサイズが静脈排出(venous drainage)に必要なサイズ基準を満たし、関節内注射(intra-articular injection)の使用に最適であることを示す。
【0152】
関節(articulation)とは、2つ以上の骨間の接合部位、すなわち、骨と骨の間が互いに当接して連結されている部位をいい、人体の活動を可能にする重要な部位である。関節の骨と骨の間には、関節軟骨(articular cartilage)という硝子軟骨の薄い層がある。軟骨袋状の構造の潤滑膜(synovial membrane)と潤滑液という粘っこい液体を分泌する潤滑膜細胞(synoviocyte)からなる潤滑組織がある。潤滑液は、タンパク質、塩類、ヒアルロン酸などを含んでおり、関節表面に栄養を供給し、関節部位を滑らかにする。更に、潤滑液には、白血球とリンパ球が存在する。
【0153】
白血球(leukocyte)は、数百万個で、血液と組織で異物を食うか、抗体を形成することで、感染に抵抗して、身体を保護する役割を果たす。リンパ球(lymphocyte)は、B細胞とT細胞の2つに分けられ、2つのいずれも、体で異物(抗原)を識別して、これに結合する。これらの2種類のリンパ球は、組織と器官で活動する。
【0154】
血管は、関節包の線維層と潤滑膜が会う部分までに入っているため、関節軟骨には、栄養供給が直接的に行われない。
【0155】
関節腔(joint cavity)は、動く間、滑液関節(synovial joints)の関節軟骨(articular cartilage)間の摩擦を減少させる粘性液体である滑液(synovial fluids)で満たされている。滑液は、ヒアルロン酸、タンパク質及び酵素を含む様々な分子を含むことと知られている。滑液にある物質は、人体の循環系に連結されたリンパ管や静脈血管に排出して、除去することができる。
【0156】
排出(drainage)に対する正確なサイズ制限に対する明確な理解はないが、滑膜(synovium)は、一般的にアルブミン(分子量: 約66.5kDa)及びIgG(分子量: 約150kDa)のような比較的小さな物質に透過性があることと知られている。そこで、均質な分布、効果的なMR関節造影術及び造影剤の排泄のために、さらに小サイズの造影剤(<~7nm)が望ましく、本発明のナノ構造物は、これらの条件を同時に満たすように設計される。
【0157】
脊髄腔内注射(intrathecal injection)は、脊柱管(spinal canal、脊髄管;vertebral canal、脊椎管)及び蜘蛛膜下腔(subarachnoid space)内に注射針を通じて薬物を注入する方法である。脊柱管は、それぞれの脊椎骨に位置した脊椎骨孔が連続的に連なって、1つの管を形成している。脊柱官内には、脊髄と髄膜、血管、末梢神経の一部が位置し、これらを保護する。また、脊椎腔内注射は、蜘蛛膜下腔に注入されるので、支柱膜と軟膜の間の脳脊髄液(cerebrospinal fluid、CSF)に薬物が到達される。
【0158】
本発明のナノ構造物は、また、脊髄腔内注射を通じて、脊柱官/蜘蛛膜下腔内の均質した分布、効果的なMR脳槽撮影術(MR cisternography)、又は、MR脊髄造影術(MR myelography)、及び造影剤の排泄が可能となるように設計する(実施例13、図14)。
【0159】
[リンパ管投与_リンパ循環用ナノ構造物]
本発明の生体内注入用ナノ構造物は、身体末端部位に注入して、リンパ管に吸収されるか、リンパ管注入時、リンパ循環するように設計する。
【0160】
リンパ系は、免疫体系の必須的な部分であり、感染と癌に対抗して戦う特殊白血球を生成し処理する胸腺、骨髄、脾臓、扁桃、虫垂、小腸内ファイア板などの器官が含まれる。リンパ系は、(i) 薄い壁からなるリンパ管、(ii) リンパ節、(iii) 2つの集合管から構成される。
【0161】
リンパ管は、全身に分布し、毛細血管(動脈と静脈を連結する最も小さい血管)よりも大きく、最も小さい静脈よりも小さい。多くのリンパ管には、凝り固まるリンパが続けて一方向に(心臓方向に)流れるようにするため、静脈のように弁膜がある。全身の組織において、リンパという体液を排出し、リンパ管は、リンパを組織からリンパ節に運搬した後、2つの集合管を通じて、体液を静脈系に戻る。
【0162】
リンパは、毛細血管のとても薄い壁を通じて、細胞間の空間に拡散した体液から始める。体液の殆どは、毛細血管に再吸収され、残りは、リンパ管内に排出されて、最終的に静脈に戻る。リンパは、また、(i) 体液が組織に影響を提供するタンパク質、無機質、栄養素、その他の物質、(ii) 組織体液に入り込んだ損傷した細胞、癌細胞、異物(細菌とウイルス)を始めとして、多くの他の物質を含む。
【0163】
リンパ節は、リンパのための集合センターとして機能する小さな豆状の器官である。全てのリンパは、戦略的に位置したリンパ節を通じて過ぎて、損傷細胞、癌細胞、異物を濾す。また、リンパ節には、損傷した細胞、癌細胞、感染性微生物、異物を捕食して破壊するように特化された白血球(リンパ球及びマクロファージ)も存在する。そこで、リンパ系の重要な機能は、損傷した細胞を体から除去し、感染と癌の拡散を防止することである。一部のリンパ節は、皮下、特に、首、腋の下、鼠蹊部に群集する。他のリンパ節は、身体内部、例えば、腹部内に深くある。
【0164】
リンパ節は、集合管内に排出し、集合管は、鎖骨の下に位置した2つの鎖骨下静脈内に内容物を排出する。この静脈は会って、上大静脈、すなわち、上体から全血液を心臓内に排出する大静脈をなす。
【0165】
本発明の生体内注入用ナノ構造物は、身体末端部位に注入して、リンパ管に吸収されるか、リンパ管に直接注入するように設計し、この場合、身体末端部位に注入時、又はリンパ管に直接注入時、リンパ管に流入されて、リンパ節において、リンパ球及びマクロファージにより除去されず、血液循環系に吸収される。
【0166】
さらには、本発明の生体内注入用ナノ構造物がMRI造影剤役割を果たす場合、リンパ管内に吸収/注入されると、リンパ循環経路でリンパ管閉塞、リンパ浮腫、腫脹性リンパ節、リンパ節炎、リンパ腫、他の器官の腫瘍が腫瘍近傍のリンパ節に移動など、リンパ管異常有無をMRIイメージングする。
【0167】
[代謝による薬物除去(Drug clearance Through Metabolism)]
本発明によるナノ構造物は、生体内注入用であるので、一種の薬物である。
一旦、薬物が体内に入ると、除去過程が始まる。薬物除去主要経路は、(1) 肝臓代謝、(2)胆汁排泄、(3) 尿中排泄である。
【0168】
除去には、生体変換(biotransformation、薬物代謝)と排泄(excretion)を含む。 排泄(excretion)は、体内で原薬物(intact drug)を除去することである。
【0169】
肝及び脾臓のような器官に残っているナノ粒子の割合が高いと、排泄性能が満たさないということを意味する。
【0170】
本発明の生体内注入用ナノ構造物は、体内投与後、正常組織内に蓄積することなく、小便を通じて100%収集されることから、(1) 肝臓代謝、(2) 胆汁排泄されず、(3) 尿中排泄経路だけを用いて、体内で除去されることが分かる。
【0171】
そこで、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、体内注入された使用量対比80%以上、望ましくは、90%以上、更に望ましくは、95%以上尿中排泄を通じて収集することができる。
【0172】
[その他の薬動学的物性]
血漿タンパクとの可逆的な結合は、非拡散性形態で薬物を捕獲して、血管区画(compartment)外に輸送を遅らせる。アルブミンは、主要な薬物結合部位であり、薬物の貯蔵庫として作用する。血中に流離された(free)薬物の濃度が薬物除去(clearance)により減少すると、アルブミンに結合された薬物は、アルブミンから解離される。そこで、血漿中、総薬物の一定分画として、遊離薬物濃度を維持させる。
【0173】
しかし、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、電荷が-20mV~0mVに調節されて、アルブミンのような血漿タンパク質と結合しない。これは、本発明の生体内注入用ナノ構造物が血管から腎臓で濾過され、注射後1時間以内に膀胱に集まり、小便に体から排泄されることから類推することができる。
【0174】
多くの薬物は、組織に蓄積されて、間質液と血液よりも組織でより高い薬物濃度を現わす。薬物は、脂質、タンパク質又は核酸との結合により蓄積される。薬物は、能動的に組織に輸送されることもできる。組織貯蔵庫は、薬物の主要資源として作用し、作用を延ばすか、局所的な薬物毒性を起こすこともある。
【0175】
しかし、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、体内投与後、正常組織内に蓄積なく、小便を通じて、100%収集されることから、脂質、タンパク質、又は核酸と結合しないことを類推することができる。
【0176】
本発明の生体内注入用ナノ構造物は、蓄積や有害な影響なく、血管、関節腔、脊髄腔を含む体内で完全に除去され、腎臓除去経路を通じて、身体から安全に除去される。そこで、本発明の生体内注入用ナノ構造物は、血管だけでなく、体内(関節腔、脊髄腔)注入された後、腎臓除去可能な薬動学の成功的な試演を通じて、ナノ物質の生体内適用可能性を拡大することができる。
【0177】
本発明により、架橋デキストランに基づく球形コア表面の架橋剤由来親水性基に、2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルを備えた生体内注入用ナノ構造物は、デキストランの分子量、デキストラン主鎖の長さ、架橋時の架橋剤の種類、合成反応時投与する架橋剤の量と投与速度、及び更なる化学作用基改質のうち、少なくとも1つを調節することで、ナノ構造物の全体サイズ及び全体電荷調節を通じて、所望する血液循環時間及び腎臓排泄薬動学を付与することができる。
【0178】
図5には、本発明の一具体例による静脈内注入用ナノ構造物(実施例1)の薬動学分析データが示されている。本発明による生体内注入用ナノ構造物は、血管循環系に吸収された後、速い半減期を示し消失する。
【発明の効果】
【0179】
本発明は、生体内注入後、体内で代謝又は分解されず、血液循環系に吸収されて、血管壁を通じた漏出なく、腎臓濾過を通じて小便で収集して再使用可能に設計した生体内注入用ナノ構造物を提供することができ、これを再使用可能な造影剤及び/又は薬物伝達体、又は吸着剤として使用することができる。
【0180】
本発明の生体内注入用ナノ構造物は、ガドリニウムに基づく造影剤と同様なT1 MRI造影効果を発揮し、血液内に早く分布し、1時間以上血管画像が可能であり、最大0.078mm×0.078mm×0.078mmの高解像度撮影が可能であり、造影後、腎臓を通じて排泄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0181】
図1図1は、静脈内注入用ナノ構造物の模式図である。
図2図2は、静脈内注入用ナノ構造物(コード名INV-001)と、関節腔内注入用ナノ構造物(コード名INV-002)の最大濃縮時の濃度及び粘度比較結果である。
図3図3は、ナノ構造物のT1 MRI造影効果に対するデータである。 (a-d) 静脈内注入用ナノ構造物INV-001のT1 MRI造影効果測定比較実験データである。T1 MRI造影効果測定のためのサンプル写真(a)、測定されたT1 MRI信号(b)、測定されたr(c)、及びr値(d)。(e)静脈内注入用ナノ構造物INV-001と関節腔内注入用ナノ構造物INV-002のr/rratio比較。(f、g) 実施例2のINV-002溶液を含むファントム(phantom)のT1強調画像(f)、及びT2強調画像である(g)。
図4図4は、静脈内注入用ナノ構造物INV-001の動物血管造影効力評価データである。(a)INV-001静脈投与後撮影したT1 MRI画像である。(b)血管系で測定したコントラスト対雑音比(CNR)の時系列グラフである。(c)ラットにINV-001静脈投与後、0.078mm×0.078mm×0.078mm空間解像度で撮影した3次元MRI画像でラット脳をそれぞれ、矢状面(sagittal)、冠状面(coronal)、横断面(transverse)方向から眺めたイメージである。
図5図5は、静脈内注入用ナノ構造物INV-001の薬動学分析データである。(a)INV-001を静脈注入後、時間による血液内の鉄含量分析結果である。(b)INV-001の薬動学パラメータである。
図6図6は、ネズミ静脈にINV-001を注入した後、それぞれ異なる時間撮影したT1 MRI画像データである。
図7図7は、静脈注入されたINV-001の体内分布及び腎臓排出定量分析データである。(a)INV-001注入後、全身及び膀胱部分のCNR変化を示している。(b)全身CNR変化対比膀胱部分CNR変化を示している。
図8図8は、INV-001投与群と食塩水投与対照群の小便/大便中の鉄含量比較データである。(a)小便中鉄含量、及び(b)大便中鉄含量の比較である。
図9図9は、INV-002がヨード化したX線造影剤と混合したときのT1 MRI造影効果を示すすデータである。
図10図10は、ラッド関節腔にINV-002を注入して撮影したラット磁気共鳴画像関節造影術効力データである。(a、b) 関節腔内組織構造模式図である。(c、d)INV-002注入実験群と食塩水注入対照群のラット関節MRI画像である。INV-002注入前後、(e) T1 MRI信号強度比較、及び(f)関節内組織のCNR比較を示している。
図11図11は、磁気共鳴画像関節造影術において、INV-002とDotaremの効力を比較したデータである。ラット関節腔内(a)INV-002と、(b) Dotarem注入後、それぞれ異なる時間撮影したT1 MRI画像、及び(c)関節腔内信号対雑音比(signal-to-noise ratio、SNR)の時系列グラフである。
図12図12は、ラット関節腔内INV-002注入後に採取した小便と、食塩水注入後に採取した小便内の(a)鉄量比較、及び(b)小便サンプル色の比較データである。
図13図13は、組織免疫化学染色法(Perls Prussian blue)を用いたラット関節腔内微量鉄分析データである。(a)INV-002が注入されたラット関節腔組織と、(b) 食塩水注入ラット関節腔組織の顕微鏡写真である。
図14図14は、ラット脊髄腔内INV-002注入後に撮影したT1 MRI画像の時系列データである。
図15図15は、ラット関節腔内INV-002注入後、14日間測定した体重パターンデータである。
図16図16は、ラット関節腔内INV-002注入後に分析した血液化学及び組織病理データである。ラット関節腔内INV-002注入した実験群及び食塩水注入対照群の(a)血液化学分析結果、(b)INV-002注入実験群、及び(c)食塩水注入対照群の組織病理写真である。
【発明を実施するための形態】
【0182】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明の技術的特徴を明確に例示するためのものであり、本発明の保護範囲を限定することではない。
【0183】
実施例1: 静脈内注入用ナノ構造物の合成
180μmolのデキストラン(平均分子量5,000Da)を9mLの蒸溜水溶解させ、75mmolのエピクロロヒドリン、及び75mmolのNaOHを添加した。その後、380mmolジエチレントリアミンを添加し、常温(room temperature、RT)で24時間、撹拌した。常温で24時間のスクシニル化反応後、デキストランコアを5kD分子量カットオフ(MWCO)フィルタで、透析により精製した。過量の塩化鉄6水和物溶液をデキストランコア溶液に添加した。1M NaOHを用いて、pHを8に調整して、常温で1時間反応後、透析で精製して、図1におけるナノ構造物(コード名:INV-001)を合成した。
【0184】
実施例2: 関節腔内注入用ナノ構造物の合成
180μmolのデキストラン(平均分子量10,000Da)を9mLの蒸溜水に溶解させ、75mmolのエピクロロヒドリン及び75mmolのNaOHを添加した。その後、380mmolエチレンジアミンを添加し、常温(room temperature、RT)で24時間、撹拌した。常温で24時間のスクシニル化反応後、デキストランコアを、15kD分子量カットオフ(MWCO)フィルタで、透析により精製した。過量の塩化鉄6水和物溶液を、デキストランコア溶液に添加した。1M NaOHを用いて、pHを8に調整して、常温で1時間反応後、透析で精製して、ナノ構造物(コード名: INV-002)を合成した。
【0185】
実施例3: ナノ構造物の分析
前記実施例1と実施例2で合成されたナノ構造物は、目視で観察すると、その性状は、黄色乃至黄褐色の透明な溶液であり、鉄の含量とデキストランの含量はそれぞれ、誘導結合プラズマ(ICP)とフェノール-硫酸法(phenol-sulfuric acid method)で分析した結果、その割合が質量基準約3:100で分析された。架橋剤由来作用基の数は、架橋反応以後、フタルアルデヒド定量(o-phthalaldehyde assay)と元素分析(elemental analysis)から確認したところ、架橋剤置換割合がデキストラン作用基数の10%乃至50%であり、このうち、20%乃至50%は、架橋に参加せず、末端が外部に露出していると分析された。鉄イオンを結合させた後、フタルアルデヒド定量を再実施した場合にも、架橋剤由来作用基が検出されることから鑑みるとて、架橋剤由来作用基の一部は、鉄イオンと結合され、残りの一部は、非結合形態で露出することを確認した。合成されたナノ構造物は、動的光散乱法(dynamic light scattering)により分析した結果、水和径(hydrodynamic diameter)は、腎臓濾過制限サイズ(renal filtration cutoff)である8nm以内で均一なサイズ分布を示すことが確認され、電荷は、-20mV~0mVと確認された。サイズ排除クロマトグラフィ法(Gel permeation chromatography)により測定した平均分子量は、INV-001の場合、約10~15kD、INV-002の場合、約30~35kDaと、それぞれのナノ構造物が平均分子量約5,000Da、10,000Daのデキストランで合成されたことから鑑みると、デキストラン分子2つ乃至3つが架橋されたことと分析された。
【0186】
比較例1: 3nm酸化鉄合成
3nm酸化鉄粒子は、以前報告書により合成された。簡単に、10mmolのオレエイト鉄着物(iron-oleate complex)、60mmolのオレイルアルコール、及び294mmolのジフェニルエーテルを250mLの丸い床フラスコに添加した。混合物を10℃/minの一定の昇温速度で200℃まで加熱した後、室温で冷却させた。合成されたナノ粒子は、過量のアセトンで沈殿された後、テトラヒドロフランに再分散された。4mLの酸化鉄ナノ粒子-テトラヒドロフラン溶液(10mg/mL)をエタノールのうち、400mgのPEG-ホスフェートと混合し、70℃で8時間、加熱した。最終生成物は、20kDa MWCOを使用する動的透析装置で精製された。
【0187】
実施例4: ナノ構造物の濃縮比較
実施例1のINV-001と実施例2のINV-002を3kDa分子量カットオフ(MWCO)の遠心分離フィルタ(Amicon Ultra-0.5 Centrifugal Filter、Millipore)に入れ、fixed angle rotor遠心分離機を用いて、25℃で1時間、14,000Xgの重力加速度を加えて濃縮した。濃縮されたサンプルの鉄濃度を誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma、ICP)を用いて定量した結果、図2に示しているように、INV-001は、約2.6mg/ml、INV-002は、約1.6mg/mlと分析されて、INV-001は、INV-002に比して、約160%の高濃度に製造が可能であると分析された。
【0188】
実施例5: ナノ構造物の粘度測定比較
実施例4で最大濃縮したINV-002と同一の濃度を有するように、INV-001を希釈調剤した後、INV-001とINV-002を試験管に入れて、試験管を40度の恒温槽に約30分間放置した後、取り出して、振動型粘度計(SV-10、AND)のガラスサンプルコップに位置させた。サンプルの温度が時間によって徐々に落ち、約37.5℃となったときの粘度を測定した。 図2に示しているように、INV-001の粘度は、INV-002に比して、約25%更に低いことと分析された。
【0189】
実施例1~4及び図2から分かるように、平均分子量がさらに小さいデキストラン分子を使用するほど、本発明のナノ構造物を高濃度で準備可能であるので、希釈程度を調節して、剤形の粘度が精度高く調節可能である。
【0190】
実施例6 : ナノ構造物のT1 MRI造影効果測定比較
前述したナノ構造物がT1 MRI造影剤において適した造影効果を有するかを分析するために、spin-spin relaxivity coefficient(r)と、spin-lattice relaxivity coefficient(r)をそれぞれ測定し、その割合(r/r ratio)を計算した。r/rratioは、造影剤がT1 MRI造影剤として適しているか、あるいは、T2 MRI造影剤として適しているかを判断する尺度に該当し、通常のT1 MRI造影剤は、約1~2のr/rratioを有し、T2 MRI造影剤は、望ましくは、5以上のr/rratioを有する。
【0191】
図3に示しているように、実施例1のINV-001の9.4 Tesla MRIファントム撮影を通じた造影効果分析結果によると、r は、2.62mM-1s-1、rは、2.73mM-1s-1であると確認された。最終的に計算されたINV-001のr/rratioは、1.06であり、INV-002も、r/rratioが1.3であって、INV-001とINV-002がいずれも、T1 MRI造影剤として適した造影効果を有することと分析された。
【0192】
また、図3の(a)、(b)から分かるように、濃度が高いINV-001サンプルは、さらに明るい信号を示す。
【0193】
一方、図3の(f)は、実施例2のINV-002溶液を含むファントム(phantom)のT1強調画像である。図3の(f)から分かるように、濃度が高いサンプルは、さらに明るい信号を示す。対照的に、さらに高い濃度でも、T2強調画像では、有意な差が見出されなかった(図3の(g))。
【0194】
すなわち、本発明の生体内注入用ナノ構造物のT1 MRI信号強度は、造影剤の濃度依存性である。すなわち、濃度が高いほど、T1 MRI信号強度が強い。
【0195】
実施例7: 静脈内注入用ナノ構造物INV-001の動物血管造影効力評価
動物用MRI装備で三次元造影増強T1 MRI強調画像技法で、血管造影術を進行した。7週齢以上の雄Balb/cマウスに、実施例1のINV-001を単回静脈投与した後、コントラスト対雑音比(CNR)を評価し、既存のガドリニウム造影剤(Dotarem)と比較した。また、造影効果の持続時間を確認し、既存のガドリニウム造影剤と比較した。
【0196】
図4の(a)に示しているように、実施例1のINV-001注入後、T1 MRI血管造影術を施した結果、注入前に比して脳心血管系が明るく現れ、マウスの頚動脈、心臓、大動脈、下待静脈などを鮮明に観ることができた。
【0197】
図4の(b)に示しているように、first-pass時、脳心血管系で測定されたCNRは、4.87で、ガドリニウム造影剤に比して、200%向上した値を示した。Steady-state時、脳心血管系で測定されたCNRは、Dotaremに比して、250%向上したことが確認され、INV-001の造影効果がガドリニウム造影剤に比して、より強くて、長時間持続することを確認した。
【0198】
実施例1のINV-001が有する強くて長く持続する造影効果を活用すると、高解像度MRI画像撮影が可能であることを確認した。図4の(c)に示しているように、ラット脳血管を0.078mm×0.078mm×0.078mmの空間解像度で撮影して、0.078mmの微細脳血管を鮮明に観ることができた。
【0199】
実施例8: 静脈内注入用ナノ構造物INV-001の吸収
7週齢以上の雄Sprague-Dawley ratに、実施例1のINV-001を単回静脈投与後、血液内の吸収を評価した。INV-001投与前、投与後1分、15分、30分、60分、120分、24時間の時点に血液を採血し、遠心分離機により血漿を分離した後、血漿内鉄濃度を、ICPを用いて定量した。
【0200】
図5(a)に示しているように、吸収試験分析結果、時間による血漿内鉄の量は、未静脈にINV-001注入後、1分以内で血漿内鉄濃度が上がり、時間が経過するほど、下がった。INV-001注入後、24時間経過後には、血漿内の鉄濃度が注入前水準に回復した。図5の(b)のようにINV-001に対するAUClastは、253.8±31.66ng・hr/mL、Cmaxは、67.81±12.48ng/mL、Tmaxは、0.01667±0.00hrで、INV-001は、体内で吸収された後、速い半減期を示し、消失することと分析された。
【0201】
実施例9 : 静脈内注入用ナノ構造物INV-001の排出
実施例8の結果のように、静脈注入されたINV-001は、早く吸収されることと分析されたところ、吸収されたINV-001の分布及び排出を評価するために、60分間、MRI連続イメージングを施した。その結果、図6に示しているように、注入後20分から、膀胱でINV-001の信号が観察され、時間が経過することにつれ、その信号がますます強く現れ、注入後60分目には、大部分の信号が膀胱で現れた。全体MRI信号のうち、膀胱で現れる信号の割合を分析した結果、図7に示しているように、実施例1のINV-001は、注入60分内の注入量に比して、約91%が膀胱に移動することを確認した。
【0202】
より一層正確な排出分析のために、前記MRI分析に続いて、排尿、排便の鉄含量分析を施した。7週齢以上の雄Sprague-Dawley ratに、実施例1のINV-001を単回静脈投与した後、投与直後から投与後12時間まで、投与後12時間から投与後24時間までの時点に尿と便を採集した。排尿、排便の鉄含量方法はそれぞれ、非母数、母数統計方法を用いて、統計的有意味性を算出した。
【0203】
その結果、図8の(a)に示しているように、INV-001を注入した実験群から採集した排尿中鉄含量と、何も注入しない対照群の排尿中鉄含量の間には、統計的に有意味な差が現れ(p-value=0.01996)、INV-001が尿に排出されることを確認した。それに対して、排便の場合、図8の(b)に示しているように、INV-001を注入した実験群と、何も注入しない対照群の鉄含量において、統計的有意性が確認されなかった。
【0204】
以上の結果を総合すると、実施例1のINV-001は、投与後、尿を通じて排出されることと分析された。
【0205】
実施例10 : 関節腔内注入用ナノ構造物INV-002のT1 MRI造影効果
実施例2のINV-002を磁気共鳴画像関節造影術(MR arthrography)用T1 MRI造影剤に使用可能であるかを確認するために、ヨード化したX線造影剤(iodinated X-ray contrast agent)と混合した後にも、T1 MRI造影効果が維持されるかをテストした。
【0206】
本テストのためにINV-002をヨード化したX線造影剤と混合する理由は、以下の通りである。実際の臨床現場で磁気共鳴画像関節造影術を施行するとき、関節腔内正確な位置に造影剤を注射するために、蛍光透視X線(x-ray fluoroscopy)を活用する。注射器針が関節腔内に正確に位置したかを確認するために、少量のヨード化したX線造影剤を注入し、造影剤が関節腔内に広がるパターンを、蛍光透視X線で観察する。注射器針の意図した位置にあることを確認した場合、MRI造影剤を注入する。このため、関節腔内でMRI造影剤は、必然的にヨード化したX線造影剤と混合する。一部のMRI造影剤の場合、ヨード化したX線造影剤と混合する場合、T1 MRI造影効果が低くなる例が知られている。
【0207】
テストのために、実施例2のINV-002と代表的なヨード化したX線造影剤の1つであるイオパミドール(Iopamidol)の混合物を調剤した。図9に示しているように、INV-002-イオパミドール混合物は、一般に、同一濃度のINV-002よりも強いT1 MRI造影効果を示した。例えば、INV-002とイオパミドールを1:1で混合した場合、同一濃度のINV-002に比して、約2倍強いT1 MRI造影効果を示した。以上の結果から、実施例2のINV-002がヨード化X線造影剤と混合する場合にも、強いT1 MRI造影効果が維持されて、磁気共鳴画像関節造影術に効果的に活用されることが確認された。
【0208】
実施例11 : 関節腔内注入用ナノ構造物INV-002を活用した自分共鳴画像関節造影術
7週齢以上の雄Sprague-Dawley ratを、酸素とイソフルラン混合気体を用いて、麻酔させた後、実施例2のINV-002を膝関節に注入した後、fast-spin echoシーケンスを活用して、T1強調MRI画像を撮影した。
【0209】
図10の(a)~(d)に示しているように、INV-002を注入した動物の膝関節腔は、注入しない対照群膝関節腔に比べて、MRI画像でかなり明るく現れる。このような信号強度の変化は、図10(e)、(f)に示しているように、定量的数値でも確認可能である。例えば、関節滑液のT1信号強度は、4,900(注射前)から、21,000(注射後)に向上する。次に、半月状軟骨、カプセル、十字型、骨、及び脂肪領域を含む関節腔内の複数組織のCNRを分析した。ここで、CNRは、滑液と各解剖学の平均信号強度差を、背景信号強度の標準偏差で除した値である。INV-002注入後、半月状軟骨、カプセル、十字型、骨、及び脂肪領域のCNRは、注入前に比してそれぞれ、10、8.5、18、14、12及び4倍増加した。
【0210】
図11に示しているように、INV-002の造影効果は、ガドリニウム造影剤(Dotarem)に比べて、さらに強いだけでなく、より長時間持続された。造影効果の定量的分析のために、関節腔内の2箇所(オレンジ色矢印)のSNRを測定して、その平均値を時間によって表示した。 INV-002とDotaremは、注射後、0.25時間に最も高いSNRを示しており、ここでINV-002のSNRは、Dotaremに比して、2倍も高いことと分析された。DotaremのSNRは、0.5時間以内に注入する前の水準に減少することに対して、INV-002は、注入後6時間まで、有意味なSNRが維持され、注入後9時間からは、造影増強が観られなかった。
【0211】
このような結果から、実施例2のINV-002が関節内造影増強効果を示し、関節内解剖学的構造物の確認において、役に立つことを示し、Dotaremに比して造影効果が長く持続されて、高解像度撮影、繰返し撮影、撮影失敗時再撮影などの有用な機会を提供することができると分析された。
【0212】
実施例12: 関節腔内注入用ナノ構造物INV-002の排出
実施例11の結果のように、INV-002をラット膝関節腔内に注入した後、9時間から造影増強が観られないことに鑑みて、INV-002は、9時間内に吸収されて、関節腔外に排出されることと判断された。より正確な排出経路分析のために、7週齢以上のSprague-Dawley rat膝関節腔内にINV-002を注入後、小便を収集した。0~24、24~48、48~72時間に収集された小便内鉄分含量は、ICPを用いて分析した。対照群は、食塩水を注入した後、同一の時点と方法で、小便を採集及び鉄分含量を分析した。
【0213】
その結果、図12の(a)に示しているように、INV-002注入雄及び雌ネズミで採集した小便内鉄含量が、食塩水注入対照群よりも統計的に有意に相違することが確認された。特に、小便内の総鉄の量は、約0.018mgで注入した鉄の量と誤差範囲内で同一であると分析されて、関節腔内注入されたINV-002は、注入後24時間内に大部分が小便排泄を通じて体内から排泄できることを示す。図12の(b)に示しているように、INV-002注入後採集した小便サンプルの色は、INV-002の色により、食塩水注入対照群に比べて、さらに暗い茶色を示すことと分析された。
【0214】
関節腔内に注入されたINV-002が完全に排出されたかを確認するため、微量の鉄粉も検出することができる組織免疫化学染色法(Perl's Prussian blue iron staining)を使用し、顕微鏡分析を進行した。INV-002注入実験動物の関節組織を採取し、10%中性緩衝ホルマリンに固定した後、Perls Prussian blue iron stainingを進行した後、デジタル顕微鏡で観察した。その結果、図13に示しているように、INV-002を注入した群と食塩水を注入した対照群のいずれも、鉄蓄積が無いことを確認した。
【0215】
以上の結果から関節腔内に注入されたINV-002は、関節腔内に蓄積されることなく、尿に排出されることと分析された。
【0216】
実施例13 : 脊髄腔内注入されたナノ構造物INV-002の造影効果及び排出
実施例11の結果のように、関節腔内に注入されたINV-002が関節腔外に排出されることを確認したことに続いて、INV-002が脊髄腔に注入されたときも、造影効果を表わすか、そして、排出されるかを確認するために、実験した。7週齢以上のSprague-Dawley ratを酸素とイソフルラン混合気体を用いて、麻酔させた後、実施例2のINV-002を脊髄腔に注入した後、fast-spin echoシーケンスを活用して、T1強調画像を撮影した。
【0217】
図14に示しているように、INV-002を注入した動物の脊髄腔は、T1 MRI画像で明るい信号と観られた。注入前に比べて、注入直後、脊髄腔が明るくなり、注入後30分と60分に最大で明るくなった。注入後90分には、明るさが減少して、注入後120分には、注入前と同様な水準に減少した。
【0218】
以上から、脊髄腔内注入されたナノ構造物INV-002が、脊髄腔外に排出されることと分析された。
【0219】
実施例14 : 関節腔内注入用ナノ構造物INV-002の単回投与安全性試験
INV-002の関節腔内局所毒性を評価するために、INV-002をSprague-Dawley ratとBeagle Dogの関節内に単回投与し、2週観察した。局所毒性試験に使用されたINV-002の濃度は、実施例3の濃縮可能な最高濃度である1.6Fe mg/mLであり、臨床試験用において使用予定の医薬品の濃度である0.14Fe mg/mLに比して、約11倍高濃度であり、試験動物関節内に投与可能な最大体積(ratは、0.1mL、Beagle dogは、1mL)を投与してテストした。この場合、Ratに注入された量は、0.16Fe mg/head、Beagle dogの場合、1.6 Fe mg/headであった。
【0220】
その結果、異常症上は観られず、図15に示しているように、INV-002注入群と何も注入しない対照群の間に体重パターンにも差が観られなかった。そこで、NOAEL(No Observed Adverse Effect Level、無毒声量)がそれぞれ、0.160Fe mg/head、1.60Fe mg/headであって、臨床適用予定容量のそれぞれ23倍、6倍と分析されて、優れた安全性を示した。
【0221】
実施例15: 関節腔内注入用ナノ構造物INV-002の単回投与血液化学及び組織病理試験
実施例2のINV-002が循環系に吸収されて、腎臓除去経路を通じて排泄されることとなったので、肝機能(alanine transaminase、ALT; aspartate transaminase、AST;alkaline phosphatase、ALP; gamma-glutamyltransferase、GGT)、及び腎臓機能(blood urea nitrogen、BUN; creatinine、CR)を評価するために、血液化学検査を行った。血液化学分析のために、腹部大動脈で採血し、遠心分離を通じて血清を分離した。ALT、AST、ALP、GGT、BUN、CR数値は、生化学自動分析機を用いて分析した。
【0222】
組織病理試験のために、各臓器を10%中性緩衝ホルマリンに固定した後、製造メーカーで提供したプロトコルにより、ヘマトキシリン及びエオジン染色のために処理した。組織切片は、1分間エオジンで対照染色した後、デジタル顕微鏡で分析した。
【0223】
その結果、図16に示しているように、血液化学の全てのテスト項目で正常範囲を示しており、組織病理結果でも、病理学的異常所見や病変が観られず、INV-002が優れた生体内適合性を有することと分析された。
【0224】
細胞構造の異常変化(崩壊、歪み、又は拡張)が観られなかった。
【0225】
いずれの器官も出血、炎症、又は壊死を見せておらず、これは、INV-002の無毒性を現わす。血液化学分析結果、INV-002を注射したネズミで、正常な腎臓及び肝機能を確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
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図9
図10
図11
図12
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図14
図15
図16
【手続補正書】
【提出日】2024-04-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内注入後、マクロファージによって貪食及び/又は代謝分解されない状態で、腎臓を通じて小便に排出されるナノ構造物であって、
(i) 平均分子量が10,000Da以下のデキストラン分子1個乃至3個を架橋剤で架橋して形成された球形コアと、
(ii) 球形コア表面の架橋剤由来親水性基に、2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルとを備え、
(iii) 電荷が-20mV~0mVとなるように、架橋剤置換割合がデキストラン作用基数の10%乃至50%に調節され、架橋剤のうち、20%乃至50%は、一末端が架橋に参加せず、
(iv) 球形コア表面の架橋剤由来親水性基のうち、外部に露出した作用基の20%乃至80%だけが鉄イオンと結合し、残りは、鉄イオンと結合せず、水環境に露出したことを特徴とする生体内注入用ナノ構造物。
【請求項2】
デキストラン球形コア表面の架橋剤由来親水性基と配位結合した2価乃至3価鉄イオンにより、(a) 生理的pHの緩衝溶液及び血漿で凝集(aggregation)又は鉄溶脱(leaching)することなく、安定であり、かつ/または
(b) T1 MRI造影剤機能を発揮することを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項3】
生体内注入用ナノ構造物が現わすT1 MRI信号強度は、生体内注入用ナノ構造物の濃度に比例し、これにより、磁気共鳴画像(MRI)の信号から、ナノ構造物の濃度を数値化又は定量化し、かつ/またはナノ構造物の生体内時間による分布程度を画像化又は数値化することを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項4】
磁気共鳴画像(MRI)で明るい信号を現わすT1 MRI造影剤の機能を発揮するように設計され、
(i) 生体内注入後、MRIを通じてナノ構造物の位置を追跡し、かつ/または
(ii) 生体内注入後、吸収、分布、代謝及び/又は排出される経路、及び/又はその経路に位置した様々な解剖学的構造及び/又は機能情報を提供することを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項5】
腎臓濾過サイズ限界よりも小さい流体力学的径及び分子量を有し、コロイド安定性を発揮するように、生体内デキストラン球形コア内デキストラン分子の平均分子量は、10,000Da以下であり、デキストラン分子が架橋されて形成された球形のコアの分子量は、35,000Da以下であり、ナノ構造物の水和径は、10nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項6】
鉄イオンが結合する架橋剤由来親水性作用基は、架橋剤の末端作用基又はこの改質された作用基であることを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項7】
デキストラン球形コア表面の架橋剤由来作用基のうち、一部又は全部は、カルボン酸又はカルボキシレート基であることを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項8】
脳心血管系を血液循環することを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項9】
生体内注入後、血液循環系に吸収されて、血管壁を通じた漏出なく、腎臓を通じて小便に排出されることを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項10】
リンパ管、関節腔又は脊髄腔に注入するとき、血液循環系に吸収されて、腎臓を通じて小便に排出されることを特徴とする請求項1に記載の生体内注入用ナノ構造物。
【請求項11】
生体内注入後、マクロファージによって貪食及び/又は代謝分解されない状態で、腎臓を通じて小便に排出される生体内注入用ナノ構造物を含有する薬学組成物であって、
前記生体内注入用ナノ構造物は、請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の生体内注入用ナノ構造物であり、
(i) 平均分子量が10,000Da以下のデキストラン分子1個乃至3個を架橋剤で架橋して形成された球形コアと、
(ii) 球形コア表面の架橋剤由来親水性基に、2価乃至3価鉄イオンが配位結合された非連続的なシェルとを備え、
(iii) 電荷が-20mV~0mVとなるように、架橋剤置換割合がデキストラン作用基数の10%乃至50%に調節され、架橋剤のうち、20%乃至50%は、一末端が架橋に参加せず、
(iv) 球形コア表面の架橋剤由来親水性基のうち、外部に露出した作用基の20%乃至80%だけが鉄イオンと結合し、残りは、鉄イオンと結合せず、水環境に露出したことを特徴とする薬学組成物。
【請求項12】
生体内注入用ナノ構造物は、鉄浸出なく、マクロファージにより貪食されず、腎臓を通じて小便に排出されて、関節疾患の原因である関節への鉄分蓄積を生じないことを特徴とする請求項11に記載の薬学組成物。
【請求項13】
血管構造と形態の画像化、血流と血液動力学的情報分析、及び/又は心血管系、脳血管系、リンパ系、筋骨格系及び/又は脳脊髄神経系画像化を実現するために、前記生体内注入用ナノ構造物が、MRI造影剤として使用されることを特徴とする請求項11に記載の薬学組成物。
【請求項14】
生体内注入用ナノ構造物をMRI造影剤として含有し、MR血管造影術、MR関節造影術、MR脳槽撮影術、MR脊髄造影術、MRリンパ管造影術、MR胆膵管撮影術、又は、脳、腹部MRI造影術に使用されることを特徴とする請求項11に記載の薬学組成物。
【請求項15】
デキストラン水溶液を準備する第1のステップと、
常温でアルカリ性水溶液とエポキシドを滴下する第2のステップと、
常温で2以上の多価アミン類を滴下して、末端アミン基を有したデキストラン架橋体に基づくナノ粒子を生成させる第3のステップと、
生成物を沈殿させる第4のステップと、
生成物を水に再分散させる第5のステップと、
選択的に、末端アミン基を有したデキストラン架橋体に基づくナノ粒子を、透析して回収する第6のステップと、
多価アミン類により架橋結合され、これにより末端アミン基を有するデキストラン架橋体に基づくナノ粒子に、有機酸無水物を投与して、末端アミン基の一部又は全部をカルボン酸基及び/又はカルボン酸塩基に置換する第7のステップと、
選択的に、カルボン酸及び/又はカルボン酸塩作用基を有したデキストラン架橋体に基づくナノ粒子溶液を精製して、水分散可能なデキストラン架橋体に基づくナノ粒子を準備する第8のステップと、
前ステップで用意された水分散可能なデキストラン架橋体に基づくナノ粒子に、鉄前駆体水溶液を添加して、2価乃至3価鉄イオンで構成されたシェルを形成させる第9のステップと、
選択的に、前ステップで形成されたナノ構造物を限外ろ過して、精製又は濃縮する第10のステップとを含む製造方法により準備し、
修得された生体内注入用ナノ構造物は、水に分散したコロイド形態で、特別な追加加工なくても、滅菌及び非発熱性を満たして得られたその自体で、注射剤として使用可能であり、かつ/または濃縮程度によって、別の賦形剤がなくても、等張性を有するようにすることを特徴とする請求項11に記載の薬学組成物。
【国際調査報告】