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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】ブレードおよびクレープ加工装置
(51)【国際特許分類】
   D21H 27/00 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
D21H27/00 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024509048
(86)(22)【出願日】2022-07-26
(85)【翻訳文提出日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 EP2022070877
(87)【国際公開番号】W WO2023020793
(87)【国際公開日】2023-02-23
(31)【優先権主張番号】21191419.7
(32)【優先日】2021-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506408818
【氏名又は名称】フォイト パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】VOITH PATENT GmbH
【住所又は居所原語表記】St. Poeltener Str. 43, D-89522 Heidenheim, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル クロードン
(72)【発明者】
【氏名】ピエール-イヴ フィルテール
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AJ06
4L055EA15
4L055EA27
4L055FA16
4L055GA29
(57)【要約】
ドライヤシリンダ(3)からの紙ウェブ(1)をクレープ加工するためのブレード(6)であって、前記のブレードは、前面(2)と、紙ウェブによって衝撃を受けるフロントベベル面(10)とを有し、前記の前面と前記のフロントベベル面とは接触縁(8)で接しながら、ドライヤシリンダに接触する。フロントベベル面は、ISO25178によって測定された3D面粗さ、Sa>0.7μmかつ/またはSz>18μmかつ/またはSq>1.0μmを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライヤシリンダ表面(3)からの紙ウェブ(1)をクレープ加工するためのブレード(6)であって、
前記ブレード(6)は、前面(20)とフロントベベル面(10)とを有し、
前記前面(20)と前記フロントベベル面(10)とは、接触縁(8)で接しており、
前記接触縁(8)は、ドライヤシリンダ(3)に接触し、
前記フロントベベル面(10)は、前記ブレード(6)の厚さ方向で前記接触縁(8)から少なくとも150μm延在しており、前記紙ウェブ(1)によって衝撃を受ける、ブレード(6)において、
前記フロントベベル面(10)は、ISO25178によって測定された3D面粗さ、
Sa>0.7μmかつ/または
Sz>18μmかつ/または
Sq>1.0μm
を示すことを特徴とする、ブレード(6)。
【請求項2】
前記フロントベベル面(10)は、ISO25178によって測定された3D面粗さ、
Sa 0.7μm~9μmかつ/または
Sz 18μm~100μmかつ/または
Sq 1.0μm~11μm
を示す、請求項1記載のブレード(6)。
【請求項3】
前記前面(20)と前記フロントベベル面(10)との間のベベル角度βは、60°~110°、好ましくは70°~95°である、請求項1または2記載のブレード(6)。
【請求項4】
前記フロントベベル面(10)の巨視的な形状は、平坦である、または巨視的な地形を、特に波状の地形を有している、請求項1から3までのいずれか1項記載のブレード(6)。
【請求項5】
前記フロントベベル面(10)は、前記ブレード接触縁(8)から少なくとも250μm、好ましくは少なくとも350μm延在しており、特に前記ブレード(6)の上面(40)全体にわたって延在している、請求項1から4までのいずれか1項記載のブレード(6)。
【請求項6】
前記ブレード(6)は、鋼ブレードであって、特に、ビッカース(HV)試験で測定して350HV~600HVの範囲にある硬度を有する鋼を含む、請求項1から5までのいずれか1項記載のブレード(6)。
【請求項7】
前記ブレードは、耐摩耗性材料(25)、特にセラミック系材料(25)の堆積物を含む、請求項6記載のブレード。
【請求項8】
前記セラミック系材料(25)は、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む、請求項7記載のブレード。
【請求項9】
前記セラミック系材料(25)が、金属マトリックス材料中に分布した、少なくとも金属酸化物、金属炭化物または金属窒化物の粒子を含む複合材の形態である、請求項8記載のブレード。
【請求項10】
前記堆積物の硬度は、ビッカース(HV)試験で測定して900~1700HVの範囲にある、請求項7から9までのいずれか1項記載のブレード(6)。
【請求項11】
前記前面(20)の少なくとも一部は、Ra<0.4μmかつRz<4.0μmの粗さを有する、請求項1から10までのいずれか1項記載のブレード(6)。
【請求項12】
前記ブレード(6)は、x方向で600μm~1500μmの厚さを有している、請求項1から11までのいずれか1項記載のブレード(6)。
【請求項13】
ドライヤシリンダ(3)およびブレード(6)を含むクレープ加工装置であって、前記ブレード(6)が、請求項1から12までのいずれか1項記載のブレードである、クレープ加工装置。
【請求項14】
前記ブレード(6)と前記ドライヤシリンダ(3)との間の接触角度αが、5°~35°、好ましくは15°~25°である、請求項13記載のクレープ加工装置。
【請求項15】
ブレード先端接触部(8)における前記ドライヤシリンダ(3)に対する接線と、フロントベベル面(10)との間のポケット角度δが、115°~35°、好ましくは95°~65°、より好ましくは85°~70°である、請求項13または14記載のクレープ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の形式の、ドライヤシリンダからの紙ウェブをクレープ加工するためのブレード、ならびにこのようなブレードを備えたクレープ加工装置に関する。
【0002】
クレーピングブレードを使用してドライヤシリンダからの紙ウェブをクレープ加工することは、紙、特にティシュペーパの製造においてよく知られている。
【0003】
クレープ加工されたとは、ドクタブレードによりロール上の紙のシートを密集させて、これによりクレープを模した効果を生じさせることにより生成される縮れ紙特性と定義される。クレープ加工プロセスでは、ティシュにおいて周期的に折り畳まれる微細構造が形成され、このような微細構造は、柔らかさ、かさ、伸び、および吸収性特性といったティシュの品質を明らかに向上させることができる。
【0004】
まず、連続湿潤ウェブをプレスし、一般にヤンキーと呼ばれるドライヤシリンダの表面に、接着性化学物質を用いて接着する。乾燥プロセス中は、セルロース繊維間の結合が生じる。ヤンキードライヤ周辺の高温蒸気および高温空気で乾燥させた後、ドクタブレードによってウェブを表面から剥ぎ取り、折り畳み構造を形成する。ドクタブレード、より具体的にはクレーピングブレードと呼ばれるブレードの動作は、繊維間結合を切断することによって紙シートの内部構造を破壊することができる。制御された一様の方法でヤンキードライヤから離れた紙シートをクレープ加工することが、従来のティシュ製品の製造を定義するものである。
【0005】
ティシュペーパを製造するための原料としては、様々な種類の繊維を使用することができる。様々な種類の繊維は通常、その供給源(バージンまたはリサイクル)、製造プロセスの種類(化学的、半化学的、機械的、漂白、未漂白)、バイオマスの種類(広葉樹、軟材、非木材)によって分類される。
【0006】
ティシュ製造業者は、様々な機械技術を使用している。軽乾燥クレープ加工(LDC)は、最も一般的な技術である。この場合、湿潤繊維が、ヤンキードライヤ表面に対して約65%の湿分含有量で乾燥させられ、約90~95%の乾燥率でクレーピングドクタブレードに達する。代替的な従来の湿潤クレープ加工技術では、紙は、クレーピングドクタブレードにおけるウェブ乾燥率85%未満でクレープ加工される。スルーエア乾燥(TAD)は、注目すべき別の技術である。この技術は、従来のクレープ加工機械よりも高い資本費用および高いエネルギー消費などの明らかな欠点を有するが、特により高いかさ、柔らかさおよび吸収性を備えたティシュ製品を製造することができる。他の代替技術として、クレープ加工スルーエア乾燥(CTAD)、非クレープ加工スルーエア乾燥(UCTAD)、ダブル再クレープ加工(DRC)、アドバンストティシュモールディングシステム(ATMOS)および新ティシュテクノロジ(NTT)を挙げることができる。すべての技術は、特有の利点と欠点とを有していて、主なティシュ特性に多かれ少なかれ利点をもたらす。
【0007】
ティシュ製品は、フェイシャルティシュ、トイレットペーパ、キッチンタオル、ハンドタオル、ナプキン、およびハンカチを含む幅広い種類および用途を有している。これらの製品のすべてにとって、ドクタブレードの仕様および設定は、柔らかさ、かさおよび吸収性などの必要なティシュ品質を提供するために極めて重要である。
【0008】
かさは、製紙においてよく知られた量であり、所与の重さの紙が占める体積として定義され、密度の逆である。紙の厚さ(すなわち、カリパ)とかさとは、吸収性に大きく関係するので、重要なティシュ特性である。吸収性(吸収速度および容量)は、液体を拭き取る目的を有するタオルおよび他のティシュ製品にとって重要な特性である。水保持容量(WHC)は、g/gで測定され、吸収性を評価するために一般的に使用される1つの指標である。当業者には知られているように、ティシュの紙厚さ、かさおよび吸収性の間の関連性を示すために、以下の等式を用いることができる、すなわち
かさ(cm/g)=1/密度(g/cm)=乾燥時厚さ(μm)/坪量(g/m
WHT(g/g) かさの約60~75%
【0009】
クレーピングドクタブレード自体がティシュ特性に及ぼす影響は、限られた研究および先行技術で考慮されている。それらのうちのいくつかは、ブレードの一般的な形状および特定のブレード設計を提示している。
【0010】
米国特許第4482429号明細書は、約72°以下、好ましくは52°~64°の切断またはクレープ加工角度を有するクレーピングブレードを含む。説明されているように、完成したウェブのかさおよび吸収性は、このような仕様を備えた逆の角度のクレーピングブレードを使用することにより、さらに改善され得る。
【0011】
米国特許第6425983号明細書には、その上面に複数のノッチを備えたクレーピングブレード、すなわち波状のクレーピングブレードが開示されている。説明されているように、ノッチは、クレーピングブレードが、回転可能なシリンダの外表面からのセルロースウェブをクレープ加工する際に、セルロースウェブの厚さが増大するように構成されている。
【0012】
英国特許第2128551号明細書には、異なる実施形態に基づくブレード先端に耐摩耗性材料を有するスクレーパブレードが開示されている。確かに、ヤンキードライヤ表面と接触するようになっているブレード先端に耐摩耗性材料を被覆することは、製品寿命を延長し、かつクレープ加工プロセスをその期間にわたって極めて安定的に保つために有利である。
【0013】
従来技術において欠けているものは、かさをさらに増加させるための代替的なオプションである。したがって、製紙産業において、ティシュを製造する顧客については、ティシュかさおよび吸収性特性をそれ自体で高めることができる革新的なクレーピングブレードを獲得する必要性がある。
【0014】
したがって、本発明の課題は、従来技術の欠点を克服する改良されたブレードを提供することである。
【0015】
本発明の第2の課題は、制御された形式で紙厚(すなわち、カリパ)とティシュかさとに良好な影響を与えることができるクレーピングブレードを提供することである。
【0016】
本発明の第3の課題は、ティシュ吸収性を向上させることができるクレーピングブレードを提供することである。
【0017】
本発明の第4の課題は、製造が比較的簡単で、複数のブレード設計と組み合わせることができる汎用性のある解決手段を提供することである。
【0018】
すべての課題は、請求項1による、ドライヤシリンダからの紙ウェブをクレープ加工するためのブレード、ならびに請求項13によるこのようなブレードを備えたクレープ加工装置により解決された。
【0019】
有利な実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0020】
本出願の文脈において、「ブレード」および「クレーピングブレード」という用語は、特に明記しない限り、同義語として使用される。
【0021】
ドライヤシリンダ表面からの紙ウェブをクレープ加工するためのブレードが導入されており、前記のブレードは、前面と、紙ウェブによって衝撃を受けるフロントベベル面とを有しており、前記の前面と前記のフロントベベル面とは接触縁で接しながら、ドライヤシリンダに接触する。
【0022】
本発明によれば、フロントベベル面は、ISO25178によって測定された3D面粗さ、
Sa>0.7μmかつ/または
Sz>18μmかつ/または
Sq>1.0μm
を示す。
【0023】
このようなブレードの多数の実現形態では、すべての粗さ値が、Sa>0.7μmおよびSq>1.0μmおよびSz>18μmの粗さ値を有する閾値を超過する。
【0024】
しかしながら、本発明の態様によるブレードについては、これらの粗さ測定値のうちの1つまたは2つが、この閾値を下回る可能性が高い。
【0025】
好ましい態様では、Szは18μmよりも大きく、特に25μm以上である。
【0026】
ドライヤシリンダは、ヤンキーシリンダであってもよい。
【0027】
ASM(American Society of Materials)ハンドブック、第5巻、1994年-Surface Engineering(P.136~138)を参照すると、表面の地形(topography)は、表面粗さ、表面うねり、および表面形態の3つの特定の特徴の組み合わせによって定義される。
【0028】
上述したように、従来技術は、うねり(「波状のクレーピングブレード」)および表面形状(例えば、「クレープ加工角度」)などの巨視的な地形の特徴の、紙の特性に対する影響のみに関する。
【0029】
従来技術において、微視的地形を考慮する場合、その目標は、摩耗および摩滅を低減するために粗さを可能な限り減じることである。
【0030】
ブレードは、ドライヤシリンダに向けられている前面と、ドライヤシリンダから離反する方向に面している後面とを有している。前面と後面との間の距離は、ブレードの(x方向)の厚さを規定する。通常、ブレード厚さは、600μm~1500μmである。前面と後面とは、ブレードの幅方向(y方向)の少なくとも一部にわたって、通常、平行である。ブレードの(z方向)の長さは、通常、数メートルにわたって延在しており、意図したドライヤシリンダの横目(CD)寸法に対応する。
【0031】
特に、ブレードの前面は、複数の表面を有することができることに留意すべきである。例えば、主要表面が、回転するドライヤシリンダと接触する場合、いわゆる摺動摩耗表面が形成されることになる。摺動面により良好に適応するために、またドライヤ表面に対するより容易なブレードの係合のために、クリーピングブレード製造中にブレード先端に、ベベル手前部分角度を形成することができる。摺動摩耗面およびベベル手前部分は、前面の一部として考えられる。
【0032】
フロントベベル面は、ブレードの上面の一部である。フロントベベル面は、前面に隣接する表面であって、ブレードの厚さ方向に延在する。クレーピングブレードとして使用される場合、紙ウェブは、通常、例えば、2000m/分という非常に高い速度で、ブレードのこの部分に衝突する。クレーピングブレードの上面は1500μmまで延びていてもよいが、通常、ブレード接触点からの最初の150μmのみが、紙ウェブによって衝撃を受け、紙のかさに大きく影響を与える。
【0033】
経験から、紙ウェブは、x方向で、ブレード接触点から100μm~150μmの平均距離で、フロントベベル面に衝突する。したがって、フロントベベル面は、x方向で、ブレード接触点から少なくとも150μmのところで延在している。150μmのこの領域では、上記の粗さ要件が絶対に必要である。多くの場合、粗さをx方向で150μmより大きく延ばすことが有益である。例えば、ブレード接触点から少なくとも250μmまたは少なくとも350μmの距離には、好ましい粗さが設けられていてもよい。これは、ブレードがある程度摩耗された後でも、所望の粗さを備える十分に大きなフロントベベル面が保証されることを確実にするために有利であり得る。
【0034】
本発明には必須でないが、溶射またはサンドブラスト事象などの標準的な手法によって容易に達成することができるので、多くの用途において、ブレードの接触点から1500μmまで延びるブレードの上面全体に、必要な粗さが設けられる。他方で、ブレードの上面の一部にのみ必要な粗さを形成するためには、レーザー彫刻のようなより洗練された方法を使用することができる。
【0035】
本発明が基礎とする驚くべき考察は、フロントベベル面の表面地形の極めて小さな特徴でさえ、ブレードによるクレープ加工プロセスに、すなわちティシュ構造を形成する特定のメカニズムに、影響を与える可能性があるということである。より具体的には、紙ウェブによって衝撃を受けるクレーピングブレード表面-フロントベベル面-のより高い粗さは、ドライヤシリンダからの紙ウェブの取り外し中の応力を変化させ、その結果、より多くの繊維結合が破壊されるかつ/または歪められることが見出された。これは常に、異なる繊維構造配置につながる。この技術分野における一般的な知見は、ブレードにおけるおよびドライヤにおける摩耗を低減するために、ブレード、特に先端部をできるだけ滑らかにすべきであるというものであったので、この発見は驚くべきことであった。出願人の発見は、このような知見は、シリンダに接触する領域に当てはまるが、フロントベベル面は、むしろ粗く形成されるのが望ましいということである。
【0036】
フロントベベル面の粗さにより繊維構造を破壊/変形させることによってかさを増大させるこの原理は完全に理解できる。しかしながら、本出願人の最初の試験では、測定された粗さとかさ増加との間の相関関係は、あまり顕著ではなかった。出願人による広範囲の実験の後、非常に驚くべき別の発見がなされた。標準的なものとして使用される粗さ測定値は、紙のかさに影響を与える表面粗さを正確に表してはいないのである!
【0037】
多くの場合、本発明の態様によるブレードは、所望の粗さを示すフロントベベル面を備えるように製造され販売される。しかし、新規のブレードが、設置時には特許請求の範囲に記載された粗さ範囲外にあるが、このブレードが摩耗または特別な処理により、所定の運転期間後にこの粗さに達することも可能である。本出願によれば、両種のブレードがカバーされている。
【0038】
当業者には、表面の地形を適切に特徴付けるために通常、3~6個の粗さパラメータが必要とされることが知られている。
【0039】
工業規格は、通常、規格: ISO 4287:幾何学的製品仕様(Geometrical Product Specifications)(GPS)-表面テクスチャ:プロフファイルメソッド(Surface texture: Profile method)-用語、定義および面テクスチャパラメータ-による測定である。
【0040】
この規格は、2次元(2D)または線粗さ測定をサポートしており、以下の値を提供する:
・Ra:粗さプロファイルの算術平均偏差(振幅パラメータ μm)
・Rz:粗さプロファイルの最大高さ(振幅パラメータ μm)
・Rq:粗さプロファイルの二乗平均平方根偏差(振幅パラメータ μm)
・Rc:粗さプロファイル要素の平均高さ(振幅パラメータ μm)
・Rt:粗さプロファイルの全高(振幅パラメータ μm)
【0041】
これらの値の二次元的な特性のために、これらの値は、(「アクティブな粗さ」とも呼ばれる)紙のかさに影響を与える表面構造を適切に特徴付けていない。これについてはより詳しく後述する。
【0042】
出願人は、規格 ISO 25178:幾何学的製品仕様(Geometrical Product Specifications)(GPS)-表面テクスチャ:面積メソッド(Surface texture: Areal method)-面地形測定法のための計測特性による粗さ測定が、より適切であることを見出した。この規格は、3次元(3D)または面粗さ測定をサポートしており、以下の値を提供する。
【0043】
・Sa:算術平均高さ(高さパラメータ μm)
・Sz:最大高さ(高さパラメータ μm)
・Sq:二乗平均平方根高さ(高さパラメータ μm)。
【0044】
これらの測定を実行するために、Rtec Instruments社のユニバーサルプロファイルメータUP-24(非接触、高速3D測定、線および面測定技術)を選択することができる。本願に示されるすべての3D粗さ測定は、このような機器で行われた。2D測定も、この機器で行われた。
【0045】
粗さ値が高い精度で決定されることが重要であるので、UP-24によるような非接触の測定が好ましい。接触測定は、触針が狭い穴を非接触機器と同じ深さまでは穿刺できず、ひいては測定値の正確性が低下する危険性を有する。
【0046】
プロファイルメータ用のパラメータ設定を、以下の表に示す:
【表1】
【0047】
これらの実験により、3D表面値が「アクティブな粗さ」を極めて正確に表すことが示された。Sa>0.7μmかつ/またはSz>18μmかつ/またはSq>1.0μmの粗さの値の場合、かさに大きな影響を与えることが分かった。
【0048】
好ましい実施形態では、粗さ値は、以下の範囲であってもよい:
Sa 0.7μm~9μm、特に2μm~6μm
かつ/または
Sz 18μm~100μm、特に25μm~70μm かつ/または
Sq 1.0μm~11μm、特に2.5μm~7μm。
【0049】
ティシュ製品のかさは、フロントベベル面の粗さが大きくなるにつれて増大させることができるが、ティシュ製品の他の特性が悪化する場合があることが観察された。一例として、製品にピンホールが生じる場合があるか、または目で見えるティシュ表面の審美的外観が損なわれることがある。いくつかのティシュ製品では、これらの特性は重要でない場合がある。しかし、他のティシュ製品に関しては、これらの特性はある程度までしか許容することができない。上記の範囲は、多くの場合、かさの増加と他の特性の悪化との間に良好な妥協をもたらす。
【0050】
上述の粗さ値は、周期的および非周期的な表面構造によってもたらすことができる。周期的な構造は、ティシュペーパに顕著かつ不利な作用を与える可能性があるので、フロントベベル面の粗さによる繊維構造の破壊/変形によってかさを最適化するためには、非周期的な表面構造が通常は好ましい。
【0051】
本発明の1つの利点は、複数のブレード設計と組み合わせることができるという事実である。
【0052】
したがって、フロントベベル面の巨視的な形状は、例えば平坦であってもよく、または巨視的な地形を、特に波状の地形を有することができる。
【0053】
前面とフロントベベル面との間の角度は、ベベル角度βと呼ばれる。ベベル角度は、60°(ネガティブなフロントベベル面)~110°(ポジティブなフロントベベル面)に、好ましくは70°~95°に設定されてもよい。
【0054】
クレーピングブレードの上面は1500μmまで延びていてもよいが、最初の150μmまたは250μmが紙のかさに最も影響を与える。経験から、紙ウェブは、ブレード接触点から、x方向で100μm~150μmの平均距離で、フロントベベル面に衝突する。したがってこの表面は、本発明において考慮すべき重要な点である。Sa>0.7μmかつ/またはSz>18μmかつ/またはSq>1.0μmの粗さの値は、ブレードの上面の最初の150μmまたは250μmにのみ存在していてもよい。なぜならば、これが、通常、技術的に重要なフロントベベル面であるからである。接触縁からより大きな距離、例えば350μmまたは500μmのところでは、紙のかさに悪影響を及ぼすことなく、様々な粗さ値が可能であり得る。
【0055】
殆どの用途では、ブレードは、鋼帯(=鋼ブレード)を含む。
【0056】
この用途に最も適した鋼帯の基準は、DIN EN 10132-4規格により記載されている。鋼の規格化された呼称、化学組成および関連する物理的および機械的特性は、DIN EN 10132-4規格に記載されている。最適な弾性「ばね」特性を達成するために、これらの鋼帯は通常、熱処理される。結果として、これらの高い強度の、硬化および熱処理された高炭素鋼は、通常、ビッカース(HV)試験で測定して350HV~600HVの範囲にある硬度を有する。他の代替的な鋼、例えばステンレス鋼の参照物を使用することができるが、硬度仕様は同様である。
【0057】
このような鋼ブレードは、ブレード先端に耐摩耗性材料を有していてもよい(コーティングおよび研磨されている)。
【0058】
ブレードが、例えばセラミック系材料の溶射コーティングを有することも可能である。機械的応力および摩耗にさらされる可能性の最も高いアクティブな部品であるブレード先端を保護するために、耐摩耗性堆積物を有利に適用することができる。ブレード先端における様々な領域を部分的または全体的に保護するためには、様々な堆積物の実施形態が適切であり得る。結果として、より長い寿命およびより安定した作動条件が達成される。典型的な堆積物の種類、例えば少なくとも1種の金属酸化物、少なくとも1種の金属窒化物または少なくとも1種の金属炭化物で作られているか、またはそれらを含むものが、この用途のために推奨され得る。より具体的には、炭化物を主体とする材料、特に炭化タングステンを主体とする参照物が、本発明の要件を満たすのに良好に適していることが見出された。実際に、殆どの炭化物は極めて硬質であり、耐摩耗性の目的のために推奨される。材料は通常、マトリックス、すなわち金属マトリックスに均質に分布した炭化物粒子から大部分が成る複合材の形態である。金属マトリックスは、硬くかつ脆い強化相を支持するバインダとして機能する。サーメットは、このような複合材料の一般的な名称である。通常、マトリックス相またはバインダ相の体積は、サーメットの総体積の30%未満である。サーメット参照物を供給業者から選択する際の重要な基準の1つは炭化物サイズである。処理パラメータは、明らかに堆積物の最終的な粗さに影響を与えるものであるが、選択された一次炭化物粒子サイズが高いほど、結果として生じる表面粗さが大きいことが確認された。一例として、本発明による製品のいくつかを製造するために使用される場合、平均炭化物サイズは、0.5μm~15μmの範囲にあった。そのようなサーメットを適用するための加工技術は、溶射、より具体的には高速フレーム溶射である。ビッカース(HV)試験でかつ材料断面において測定された、典型的に得られる堆積物の硬度は、900~1700HVの範囲にある。多くの用途では、堆積物の硬度は、ベース鋼基材の硬度の2倍~4倍である。
【0059】
これらすべての種類のブレードに、本発明の1つの態様によるフロントベベル面の3D表面粗さを設けることができる。
【0060】
ヤンキー表面と接触するようになっているブレードの作動表面は、滑らかであることが望ましく、通常、低い粗さレベルを目標として仕上げられる。典型的な粗さ仕様は、Ra<0.4μmおよびRz<4.0μmである。本発明の目的は、フロントベベル面の3D粗さを意図的に増大させることであるが、ヤンキードライヤと接触するようになっている隣接する面が、上記の「滑らかな」仕様範囲内の表面粗さを維持しなければならないことは明らかである。例えば、Ra<0.2μmかつ/またはRz<2.0μmのより滑らかな接触面も一般的である。
【0061】
フロントベベル面の所望の3D粗さは、様々な方法で達成することができる。例えば、表面粗さを増加させることを目的として表面の地形を変更するためには、ほぼすべての製造プロセスを使用することができる可能性がある。表面変質または表面改質の原理が含まれる場合がある。そのような表面処理プロセスは、より多くの材料の添加を伴う(例えば、被覆または堆積された層)または伴わない、機械的(例えば、機械加工、ブラスト)、化学的(エッチング、コーティング)、熱的(熱処理、エネルギービーム、コーティング、堆積)かつ/または電気的(エネルギー放電)効果を含んでいてもよい。
【0062】
例えば、粗さを所望のレベルに高めるために、サンドブラストの形式の後処理を適用することができる。代替的には、溶射コーティングが適用される場合には、そのプロセスを、所望の3D粗さを達成するために適合させることができる。この場合、後処理を省くこともできる。
【0063】
本発明によれば、等方性の特性または粗さ特徴を有する必要はない。しかしながら、選択された後処理法および製造方法がこのような等方性を促進する傾向があることから、ここではこうした結果となることが多い。
【0064】
抄紙機、特にティシュ機械では、本発明によるブレードは、ドライヤシリンダ、特にヤンキーシリンダと組み合わせて、クレープ加工装置の形態で使用される。
【0065】
この場合、ブレードとドライヤシリンダとの間の接触角度αが、5°~35°、好ましくは15°~25°であることが有益であり得る。
【0066】
使用中、ヤンキー表面との接触縁におけるブレード先端には、この角度αを成すライン上で所定の摩耗が生じることを理解されたい。その結果、摺動摩耗面が生じる。ヤンキー表面の損傷を防止するためには、小さい摺動摩耗角度が好ましい。
【0067】
摺動面により良好に適応するために、またヤンキー表面に対するより容易なブレードの係合のために、クリーピングブレード製造中にブレード先端に、ベベル手前部分角度を形成することができる。通常、ベベル手前部分の角度は、意図された接触角度αよりも小さい。好ましい用途では、ベベル手前部分の角度は、15°未満に、例えば、2°、5°、8°または10°に選択することができる。
【0068】
代替的にまたは付加的に、ブレード先端接触部におけるドライヤシリンダに対する接線と、フロントベベル面との間のポケット角度δが、115°~35°、好ましくは95°~65°、より好ましくは85°~70°であるならば、有益であり得る。(ポケット角度は、場合によっては、切断角度またはクレーピング角度とも呼ばれる)。
【0069】
ベベル角βはブレードの設計パラメータであり、一方、ポケット角δは、ベベル角βと接触角αとの結果として生じるものであり、クレープ構造の品質を決定する。角度δは、ブレード先端接触縁におけるヤンキー表面に対する接線と、クレーピングブレードのフロントベベル面、すなわちウェブ衝突面との間で測定される。原理的には、αおよび/またはβに対する任意の減少作用によるδの増加は、厚さを減少させながら柔らかさの改善につながる。
【0070】
以下の図面および例により、本発明をさらに説明する。本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】本発明の一態様によるクレープ加工装置を備えたティシュ機械の一部を示す概略的な側面図である。
図1a】本発明の一態様によるブレードを示す概略図である。
図2図2a~図2dは、微視的クレープから巨視的クレープ形成へのクレープ加工の4段階のうちの1段階を示すクレープ発達原理の概略的な断面図である。
図3】本発明の別の態様によるクレーピングブレードを備えたクレープ加工装置の一部を示す図である。
図4】従来技術の一般的な図である(American Society of Materials Handbook, Vol. 5, 1994 - Surface Engineering,136頁)。
図5】2D粗さ値を示すグラフである。
図6】2D粗さ値を示すグラフである。
図7】3D粗さ値を示すグラフである。
図8a】従来技術のフロントベベル面の走査顕微鏡写真である。
図8b】本発明の一態様によるフロントベベル面の走査顕微鏡写真である。
図9a】従来技術のフロントベベル面の地形を示す図である。
図9b】本発明の一態様によるフロントベベル面の地形を示す図である。
【0072】
ティシュペーパの製造プロセスの開始時、ストックまたは完成紙料、すなわち、パルプ化された木繊維の高度に希釈されたスラリーが、ヘッドボックスによってティシュ機械内に供給され、2つのロールの間の間隙において機械の全幅に沿って均等に分配される。一方のロールにはワイヤ、すなわちスクリーン布が、他方のロールにはフェルト、すなわち厚手の布が設けられている。湿潤ウェブ1は、フェルトに付着して、フェルトに従動して高い走行速度で機械内に入る。脱水は、吸収プレスロール2および大型ヤンキードライヤ3の形態のドライヤシリンダ3に到達する前に行われる。ヤンキードライヤ3のサイズは、約5m(かつ7.3mまで)の直径および約5.5m(かつ7.8mまで)の(機械幅方向CDでの)長さによって規定することができる。ヤンキードライヤの長さは、紙シート1の幅よりも僅かに大きい。シート1とヤンキードライヤ3との間の接着を促進し、シリンダ3の金属表面を保護するために、一連のノズル4によってコーティング薬品が散布されてもよい。乾燥プロセスは、蒸気加熱されたヤンキーシリンダ3によって、かつフード5からの熱風流によって行われる。軽量の繊維シートは、2400m/分までの速度で移動し、クレーピングブレード6のフロントベベル面10に衝突し、ヤンキー3面から剥ぎ取られる。クレーピングブレード6のサイズは、(z方向またはCD方向で測定して7.8mまでの)長さ、(y方向で測定して50~150mmの)幅、および(x方向で測定して0.6~1.5mmの)厚さによって規定することができる。次いで、ティシュペーパ7のクレープ構造が形成される。このプロセスの終了時には、完成したティシュペーパ7が、大型のジャンボリール上に、ヤンキー3よりも低速で巻き取られる。
【0073】
図1aは、本発明の1つの態様による典型的なブレード6を示しており、このブレードは前面20、後面30および上面40を有する。前面20は、ベベル手前部分21の面を除いて、後面30に対して広く平行に延在している。ブレード6は、耐摩耗性コーティング25が施された鋼ブレード6である。この場合、コーティング25は、上面40のすべてと前面20の一部とを被覆する。用途に応じて、ブレード6の他の領域が、耐摩耗性コーティング25によって被覆されてもよく、例えば、上面40の一部のみが、耐摩耗性コーティング25によって被覆されてもよい。
【0074】
コーティング25の1つの目的は、硬度を高めることであってもよい。ベース基材として使用される典型的な鋼は、350HV~600HVのビッカース硬度を有するが、結果として得られるコーティング25の硬度は900HV~1700HVの範囲とすることができる。通常、堆積物25の硬度は、ベース鋼基材の硬度の2倍~4倍である。
【0075】
フロントベベル面10は、ブレードの上面40上にあり、接触縁8からx方向に延在している。フロントベベル面10は、x方向で少なくとも150μm、好ましくは250μm以上延在している。本発明によれば、フロントベベル面10では、粗さが相対的に高く、すなわちSa>0.7μmかつ/またはSz>18μmかつ/またはSq>1.0μmである。
【0076】
ブレード6のその他の部分、すなわちベベル手前部分21または前面20の他の部分は平滑であるのが望ましい。ブレードのこれらの面は、Ra<0.4μmかつRz<4.0μmの粗さを有していてもよい。
【0077】
図2a~図2dは、クレープ加工機構の詳細な考察を示しており、ドクタブレード6の動作によりグループ化されてより大きな巨視的クレープ73となる微視的クレープ71の開発を含む4段階工程を明らかにしている。
【0078】
クレープ加工は、紙ウェブ1の内部の物理的構造を離層させ、繊維結合を強制的に弱めるか、または破壊させ、繊維を強制的にねじれさせ、歪ませるまたは破壊させる。微視的クレープ71を形成し(第1段階)、互いに重ね合わせ(第2段階)、パイル72が十分に高くなったら(第3段階)、巨視的クレープ73が落下して、巨視的にクレープ加工され構造化された最終製品7が形成される(第4段階)。離層プロセスは、折り畳み式のクレープ加工よりも高い保水容量を有する、より厚く、より吸収性が高く、クッション性のあるティシュ製品を製造する傾向にある。クレープ加工は、多くの要因の複雑な相互作用である。クレープ加工プロセスの管理は、高いかさ、吸収性、柔らかさ、および伸びを有するティシュ7を生産するために重要である。
【0079】
図3には、本願においてブレード6の先端部におけるジオメトリ状況を規定するために使用される様々な角度が示されている。ブレード6は、ヤンキーシリンダ3に向けられている前面20と、ヤンキーシリンダ3から離反する方向に面している後面30とを有している。摺動摩耗角αは、ヤンキードライヤ3とクレーピングブレード6との間の接触角である。この角度は、所与の荷重条件のもとで、ブレードホルダ角度とブレード6の弾性変位とに直接関係する。αのための典型的な値は、5°~35°の範囲にあり、通常は約19°である。使用中、ヤンキー3表面との接触縁8におけるブレード先端には、この角度αを成すライン上で所定の摩耗が生じることを理解されたい。その結果、摺動摩耗面9が生じる。摺動面により良好に適応するために、またヤンキー3表面に対するより容易なブレードの係合のために、クリーピングブレード製造中にブレード先端に、ベベル手前部分21角度を形成することができる。このようなベベル手前部分21角度は、例えば5°~10°から選択されてもよい。通常、このベベル手前部分21角度は、摺動摩耗角度αよりも小さい。ヤンキー3表面の損傷を防止するためには、小さい摺動摩耗角度が好ましい。ベベル角度βは、ブレード6の設計パラメータである。βの典型的な値は、60°(ネガティブなフロントベベル面)~110°(ポジティブなフロントベベル面)の範囲にある。結果として生じる角度δは、クリープ加工角またはポケット角とも呼ばれ、クリープ構造の品質にとって重要である。角度δは、ブレード先端接触部8におけるヤンキー3表面に対する接線と、クレーピングブレード6のフロントベベル面10、すなわちウェブ衝突面との間で測定される。
【0080】
原理的には、αおよび/またはβに対する任意の減少作用によるδの増加は、厚さを減少させながら柔らかさの改善につながる。ここで重要なのは、経験から、紙ウェブ1が、x方向で、ブレード接触点8から100μm~150μmの平均距離で、フロントベベル面10に衝突することである。したがって、殆どの場合にブレード接触点8から約250μmまで延びるこの表面が、本発明において考慮すべき重要な点である。最終的に、取出し角θは、リワインダの位置およびウェブ張力の直接的な関数である。標準的なジオメトリは、クレープ加工ポケットに適合し正しいクレープ加工品質を得るために、選択することができる。
【0081】
紙ウェブ1とフロントベベル面10との間の相互作用は、クレープ加工された構造の形成と最終的なティシュ7の特性において重要な役割を果たす。したがって、この面10に焦点を当て、その特性をより良好に規定することが重要である。当業者には、例えば、ASMハンドブックにより、殆どの表面が、表面上にパターンまたはテクスチャを形成する傾向がある規則的間隔および不規則間隔を有しているという技術的な定義が知られている。ASMハンドブックからの一般的な図4に基づき、結果として生じる表面の地形は、3つの特定の特徴、すなわち以下の組み合わせによって規定される:
-表面粗さ11、すなわち、材料の微細構造と表面処理との相互作用により生じる表面上の高頻度の凹凸、
-表面うねり12、すなわち、表面粗さが重ねられている表面の中頻度の凹凸、
-表面形状、すなわち、表面の全体的な形状、例えば、粗さおよびうねりを無視した、平坦さ、丸みづけ等。
【0082】
レイ(lay)13は、表面の別の重要な特徴である。これは、明確な方向性をもった加工パターンである。表面地形測定は、測定が行われる方向により異なるので、レイは、考慮すべき重要事項である。このような理由で、1つの面積として定義された表面の粗さ測定が推奨される。特に、臨界的なフロントベベル面10、すなわち特に紙ウェブの衝突が生じるブレード接触点8に近い特定の領域における地形を特徴付けるためにこれが適用される。
【0083】
例1
以下の例は、フロントベベル面10の「アクティブな粗さ」を適切に特徴付けるために、3D粗さ測定の重要性を強調している。
【0084】
3つの異なるベース基材が選択された:
S1-標準鋼基材
S2-ブレード先端に耐摩耗性材料を備えた鋼基材(コーティングおよび研磨されている)
S3-ブレード先端に複数のノッチを備えた鋼基材(波形ブレード)
【0085】
ブレード6の特定のフロントベベル面10のテクスチャを変化させるために、2種の特別な表面処理が別個にまたは組み合わされて使用された。フロントベベル面10に隣接し、かつ符号8で示された領域においてヤンキードライヤ3と接触する前面20の表面は、粗面化されるべきではないことを述べておくことが重要である。ヤンキードライヤ表面3を損傷(例えば、引っ掻くなど)しないようにするために、使用中に前述の摺動摩耗面9となる可能性のあるこの接触面を、可能な限り平滑に保つことが推奨される。これらの接触面の典型的な粗さ仕様は、Ra<0.4μmおよびRz<4.0μmである。
【0086】
T1-セラミック系材料の溶射コーティング
(噴霧時、表面仕上げなし/研削または研磨なし)
T2-角状アルミナ粒子のサンドブラスト
(サイズ: F180、1つのスプレーノズル、距離50mm、圧力4バール)
【0087】
これらの3つの基材S1~S3および2つの表面処理プロセスT1およびT2に基づいて、A~Oでラベリングされた15個のブレードサンプルシリーズを標準的な方法により製造した(すなわち、基本構造は、従来技術により供給または製造されている)。ブレードサンプルA、B、C、Dは、100%先行技術からの基準として保管したが、その他すべては、本発明の要件を満たすために、1回(サンプルE、N、O)または2回(サンプルF~M)の追加表面処理およびその後の表面処理を行った。後処理されたブレードサンプルE~Oは、結果として生じるフロントベベル面10の粗さが増大するように徐々に処理されることが意図された。ブレードサンプルM、N、およびOは、シリーズのうち最も粗いことが予想されるが、結果として生じた粗さの値は、本発明の上限を設定するための最大値であるとは言い切れない。
【0088】
以下の表は、基準ブレードサンプルおよび本発明によるブレードサンプルを作製するための主要な製造プロセスステップおよびパラメータを示している。複数のプロセスステップが含まれる場合、時系列は常にこの表の上から下に向かう。サンプルE~Oの上面40全体に後処理を施したが、重要なのは、これが、紙ウェブ1がフロントベベル面10に衝突する箇所であるので、フロントベベル面10を、ブレード接触点8から約150μmまたは250μm(0.25mm)に限定できることである。
【0089】
【表2】
【0090】
これら15のサンプルのために、フロントベベル面の粗さ値を、3つの方法、すなわち、2Dの横方向(ISO 4287)、2Dの長手方向(ISO 4287)および3D(ISO 25178)で測定した。結果を以下の表に示す(すべての値はμm)。
【0091】
【表3】
【0092】
図5図7は、よりわかりやすく関係性を表すために、各ブレードサンプル(A~O)についての上記粗さパラメータの推移を示している。図5および図6では、長手方向および横方向の粗さ値が、ほぼ整列していることがわかる。これにより、2つの主方向、すなわち縦目(MD)および横目(CD)における表面テクスチャの均一性が確認される。
【0093】
本発明によれば、これらの方向において等方性の特性または粗さ特徴を有する必要はない。しかしながら、選択された後処理法および製造方法がこのような等方性を促進する傾向があることから、ここではこうした結果となっている。
【0094】
これらのグラフを最後の図7のグラフと比較すると、3D面粗さ測定は、後処理されたブレードサンプルE~Oのより一定の推移によっては乱れが少ない傾向がある。初期目標は、フロントベベル面10の粗さを徐々に増大させることであったことを思い出されたい。いずれの場合にも、3D面粗さ測定により、全体的な表面粗さ特性が明らかにより良好に表されている。このようなことが、関連する3つの粗さパラメータSaおよび/またはSzおよび/またはSqのみが、本発明による粗さ仕様のために考慮される理由である。基準のブレードサンプルA~Dと比較して、本発明によるブレードサンプルの高められた表面粗さは、以下の仕様、すなわちSa>0.7μmかつSz>18μmかつSq>1.0μmを特徴とする。これらの例では、これらの粗さパラメータのうちの3つすべてのパラメータが、サンプルごとに多かれ少なかれ同じ傾向を示しているが、これは必須ではない。また、ある1つのサンプルが、例えば、比較的高いSz値(例えば、30μmまたは40μm)を有しながら、SaおよびSqに関してかなり低い値(例えば、約1.3μm、1μmまたはそれ以下)を有することもある。このサンプルでも、有益なブレードを提供する。
【0095】
本発明の1つの態様による表面構造を視覚的に示すために、図8aおよび図8bは、2つの異なる上面40の表面の電子顕微鏡(SEM)写真を示している。図8aは、従来技術の標準的な鋼基材であるサンプルAの撮影であるのに対し、図8bは、同じベース基材であるが、溶射およびサンドブラストで処理したサンプルNの撮影である。したがって、図9aは、図8aのブレードの地形測定を示しており、図9bは、図8bのブレードの地形測定を示している。
【0096】
【表4】
【0097】
両ブレードの差がはっきりと見て取れる。図8aのサンプルAは、滑らかで光沢のある上面40の表面を有する。レイ13に対応する研削プロセスによって、対角線方向に配向された線が生じる。これらの線および時折生じる小さな点状の乱れを除いて、表面は非常に平滑である。
【0098】
対照的に、図8bのサンプルNは、極めて粗く、ギザギザの表面を示す。光沢のある印象は全くない。この例では、構造は等方性に見え、優勢の方向を示していない。比喩的に言えば、先行技術によるブレードは、砂浜のように見えるのに対し、本発明の一態様によるブレードは、むしろ、高山地域の鳥瞰図のように見える。図8では、フロントベベル面10は、ブレードの上面40全体にわたって延在している。
【0099】
図9aおよび図9bの地形測定は、視覚的印象を強調している。ここでも、x方向は、ブレード6の厚さ方向であり、z方向は、ヤンキー3の表面に対して平行である。地形的高さ-最も深い谷と最も高い山との差-は、サンプルAでは約2μmであるが、サンプルNの値は約60μmである。したがって、サンプルNの高さは、サンプルAの高さよりも約30倍高い。これは、Sa/Sz/Sq値に非常によく対応している。これらの3つの粗さ測定値のそれぞれは、サンプルNは、サンプルAよりも約30倍高い。このことからも、これらの値が、本発明の範囲おけるブレードのフロントベベル面の特徴を示すのに最も適しているという事実が強調される。
【0100】
先行技術のもの(標準参照番号-Sr n°)と比較した本発明によるクリーピングブレードの性能(試作品参照番号-Pr n°)を評価するために、実際の条件でいくつかの比較試験を実施した。これらのクリーピングブレードを、例1に示されたサンプルに従って製造する。
【0101】
試作品参照番号n°または標準参照番号n°は内部製造番号n°に結び付けられており、サンプルラベルとの対応関係が示されることになる。以下の2つの例は、異なる種類のクレープ紙を製造するティシュミルでの試験の結果を提示する。
【0102】
例2
第1の試験を、以下の運転条件および設定で実施した:
-100%バージン繊維から製造された紙ウェブ
-ハンカチ/フェイシャルティシュ等級
-ティシュ坪量 10.5~11g/m
-ティシュ基本厚さ(乾燥時) 42μm
-金属被覆されたヤンキードライヤ表面
-ヤンキードライヤ速度 1650m/分
-コーティング化学量 5.9g/m
-クレーピングブレードサイズ 1.0×120×5850mm(厚さ×幅×長さ)
-ベベル角度β 75°(-15° の負のフロントベベル面)
-摺動角度α 21°
-ポケット角度δ 84°
【0103】
試験の目的は、変換における後続のプロセスステップにおいて利得を得るために、ティシュペーパの厚さ、ひいてはティシュかさを増大することであった。実際に、同じ価格でより少ない製品(より厚く、したがってより多くの空気を含む製品)を販売することは経済的な利益である。当業者に知られているように、繊維コストは、製紙において圧倒的に最も高いコストであり、すべての製造コストのうちの50%に達することがある。したがって、例えば1%または2%の比較的小さい繊維消費の節約であっても、製造の収益性を有意に高めることができる。
【0104】
特にフェイシャルティシュおよびハンカチ製品の場合には、重要な要件として、滑らかな柔らかさは、決して妥協されてはならない。
【0105】
以下の3つのブレードを、上述した関連する製造時間(h)の間、試験した:
サンプルラベルB=Sr 6835(27h) 以下に対する基準
サンプルラベルE=Pr 8614(22h)および
サンプルラベルN=Pr 8661(22h)。
【0106】
顧客によれば、肯定的な結果が得られた。改善は、基準と比較した経時的なティシュペーパの乾燥時厚さの増加に基づいて測定し、以下のようにまとめた。
【0107】
ティシュ基本厚さ
基準ブレード Sr 6835(B) 42μm
新規ブレード Pr 8614(E) +1.5~+2.5%
新規ブレード Pr 8661(N) +3.0~+4.0%
【0108】
興味深いことに、ティシュ表面はより均質に見え、横目(CD)のマーキング、すなわちクリーピングバーが少ないことに気付いた。これは、表面テクスチャの直接的な効果、および繊維をより多くの方向に散乱させるより高い粗さとして説明される。結果として、ティシュ表面での繊維分布はより均一になる。
【0109】
定義に示されているように、かさはティシュペーパの坪量に依存している。これを考慮して、上記の特定のティシュ適用における最大のかさ増加は、本発明による最適化されたクレーピングブレードを使用して10%であることが予想されると述べられた。
【0110】
例3
第2の試験では、かさ増加が主な目標である用途を対象とすることに決定した。以下の運転条件および設定が使用された:
-100%バージン繊維から製造された紙ウェブ
-キッチンタオル/吸収性ティシュ等級
-ティシュ坪量 19~20g/m
-ティシュ基本厚さ(乾燥時) 110μm
-金属被覆されたヤンキードライヤ表面 -ヤンキードライヤ速度 1600m/分
-クレーピングブレードサイズ 1.2×105×3200mm(厚さ×幅×長さ)
-ベベル角度β 90°(角型のフロントベベル面)
-摺動角度α 16°~21°(製造時間がわずか約1時間に制限されていたため、値をこれ以上正確に測定することができない)
-ポケット角度δ 69°~74°
【0111】
試験の目的は、ティシュペーパのかさおよびその吸収性を増大することであった。実際に、これらのティシュ品質の態様は、キッチンタオルの場合に重要である。ティシュの柔らかさは最重要ではなく、一方で縦目(MD)および横目(CD)で測定したティシュペーパの伸びが考慮される。
【0112】
以下の3つのブレードを、上述した限定された製造時間(h)の間、テストした:
サンプルラベルA=基準としての鋼ブレード
サンプルラベルI=Pr 9401(1.2h)および
サンプルラベルK=Pr 9426(1.2h)
【0113】
なお、現行の鋼ブレードは発明者が供給した製品ではないため、基準を有していない。とは言え、これは最も一般的で基本的なクレーピングブレードのタイプであり、当業者によく知られている。主な欠点は、寿命の短さ、クレーピングプロセスの限定的な安定性、およびティシュペーパ品質のばらつきに関するものである。
【0114】
顧客によれば、肯定的な先行結果が得られた。様々なティシュ品質パラメータに基づいて改善および他の関連する結果を測定し、以下のようにまとめた。
【0115】
乾燥時ティシュ基本厚さ:
鋼ブレード基準 110μm
新規ブレードPr 9401(I) +5%
新規ブレード Pr 9426(K) +25%~30%
【0116】
かさ:
鋼ブレード基準 5.7cm/g
新規ブレードPr 9401(I) +5%
新規ブレード Pr 9426(K) +20%~25%
【0117】
クレーピングブレードPr 9426を使用した場合に達成された極めて良好な結果は、明らかに目に見えるように、ティシュ表面が強度の四角形のパターンを有していたものとして扱われた。この態様は、ティシュ表面上に横目(CD)および縦目(MD)の両方でのマーキングを特徴とする。これは、いくつかの用途のためには許容され得るが、ティシュのタイプ、その最終目的および/またはその他の顧客の受諾に応じて、ティシュの品質または審美的観点から許容されない場合がある。これは、特にうねりの深さおよびノッチのサイズが重要である場合、フロントベベル面にノッチが設けられたブレードの大きな欠点である。約1mm離隔されたノッチは、クレープ加工中に表面に衝撃が与えられた場合に紙ウェブの機械的変形またはエンボス加工を想定するのに十分な大きさである。
【0118】
トイレットペーパのような他のティシュ等級も、本発明によるブレードを用いて作製することができる。
【符号の説明】
【0119】
1 紙ウェブ
2 吸収プレスロール
3 ドライヤシリンダ、ヤンキー
4 散布ノズル
5 フード
6 クレーピングブレード
7 巨視的にクレープ加工されたティシュペーパ
8 接触縁
9 摺動摩耗面
10 フロントベベル面
11粗さ
12 うねり
13 レイ
20 前面
21 ベベル手前部分
25 耐摩耗性コーティング
30 後面
40 上面
71 微視的クレープ
72 微視的クレープのパイル
73 巨視的クレープ
図1
図1a
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b
図9a
図9b
【国際調査報告】