(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】抗IL-13抗体製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240822BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240822BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240822BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20240822BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240822BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20240822BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20240822BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240822BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240822BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240822BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240822BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20240822BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240822BHJP
C07K 16/24 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
A61K39/395 U
A61K39/395 N
A61K47/22
A61K47/26
A61P17/04
A61P37/08
A61P11/06
A61P11/02
A61P43/00 105
A61P11/00
A61P17/00
A61P1/04
A61P7/00
A61P35/00
C07K16/24 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024509074
(86)(22)【出願日】2022-08-16
(85)【翻訳文提出日】2024-03-15
(86)【国際出願番号】 US2022074992
(87)【国際公開番号】W WO2023023497
(87)【国際公開日】2023-02-23
(32)【優先日】2021-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504333972
【氏名又は名称】メディミューン,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】サマダニ,ラミン
(72)【発明者】
【氏名】チョウダリー,スレシュクマール バナラム
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB11
4C076CC03
4C076CC10
4C076CC14
4C076CC15
4C076CC16
4C076CC18
4C076CC26
4C076CC27
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4C085GG01
4H045AA10
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4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントを含む医薬組成物に関し、ここで医薬組成物はヒスチジンバッファー、正電荷を持つ添加物(例えばリシンまたはアルギニン)および界面活性剤を含む。このような医薬組成物は、アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎、線維症、慢性閉塞性肺疾患、強皮症、炎症性腸疾患またはホジキンリンパ腫などのIL-13関連疾患の治療に用いることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメント、15-25mMのヒスチジンバッファー、100-200mMの正電荷を持つ添加物(例えばリシンまたはアルギニン)、0.01%のポリソルベート80を含み、pH5.5±0.1であり、抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントが、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、ここで
(i)重鎖可変領域が
配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、
配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域2(HCDR2)、および
配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域3(HCDR3)を含み、かつ
(ii)軽鎖可変領域が
配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、
配列番号5のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域2(LCDR2)、および
配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)を含む、
医薬組成物。
【請求項2】
抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントが130mg/mLから170mg/mlの間の濃度で含まれる、請求項1または2のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項3】
抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントが150mg/mL±10%の濃度で含まれる、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ヒスチジンバッファーが20mM±10%の量含まれる、請求項1-3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
正電荷を持つ添加物がリシンである、請求項1-4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
正電荷を持つ添加物が150mM±10%の量含まれる、請求項1-5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
抗IL-13抗体がヒトIL-13モノクローナル抗体であるか、またはそのIL-13結合フラグメントである、請求項1-6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
抗IL-13抗体が1gG4抗体であるか、またはそのIL-13結合フラグメントである、請求項1-7のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
IL-13結合フラグメントが、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fd、Fv、単鎖Fv(scFv)、またはジスルフィド結合で繋がれたFv(sdFv)から選択される、請求項1-8のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項10】
抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントが
(i)配列番号8の重鎖可変領域配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列および/または
(ii)配列番号10の軽鎖可変領域配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列
を含む、請求項1-9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントが、配列番号8の重鎖可変領域配列および配列番号10の軽鎖可変領域配列を含む、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントが
(i)配列番号11の重鎖配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列および/または
(ii)配列番号12の軽鎖配列と少なくとも少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列
を含む、請求項1-11のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項13】
抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントが、配列番号11の重鎖配列および配列番号12の軽鎖配列を含む、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
抗IL-13抗体がトラロキヌマブである、請求項1-13のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項15】
請求項1-14のいずれかに記載の医薬組成物を含む、注射器。
【請求項16】
請求項1-14のいずれかに記載の医薬組成物を2mL含む、請求項15に記載の注射器。
【請求項17】
医薬組成物が300mgの抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントを含む、請求項15または16のいずれかに記載の注射器。
【請求項18】
IL-13関連疾患の治療のための方法において用いるための、請求項1-14のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項19】
IL-13関連疾患が、アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎、線維症、慢性閉塞性肺疾患、強皮症、炎症性腸疾患およびホジキンリンパ腫から選択される、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
IL-13関連疾患がアトピー性皮膚炎である、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
IL-13関連疾患の治療のための方法であって、請求項1-14のいずれかに記載の医薬組成物を、治療上有効な量、治療を必要とする患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項22】
IL-13関連疾患が、アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎、線維症、慢性閉塞性肺疾患、強皮症、炎症性腸疾患およびホジキンリンパ腫から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
IL-13関連疾患がアトピー性皮膚炎である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
治療のための方法が、投与量300mgの抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントを1回の2mL注射として投与することを含む、請求項18-20のいずれかに記載の医薬組成物、または請求項21-23のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントを含む医薬組成物に関し、ここで医薬組成物はヒスチジンバッファー、正電荷を持つ添加物(例えばリシンまたはアルギニン)および界面活性剤を含む。このような医薬組成物は、アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎、線維症、慢性閉塞性肺疾患、強皮症、炎症性腸疾患またはホジキンリンパ腫などのIL-13関連疾患を治療するために用いることができる。
【背景技術】
【0002】
IL-13は114アミノ酸のサイトカインで、未修飾の分子量はおよそ12kDaである。IL-13はIL-4と最も密接に関係し、アミノ酸レベルで30%の配列相同性を共有する。ヒトIL-13遺伝子は染色体5p31に位置し、IL-4遺伝子と隣接している。当初はTh2 CD4陽性リンパ球由来のサイトカインとして特定されたが、IL-13はTh1 CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、NK細胞、および肥満細胞、好塩基球、好酸球、マクロファージ、単球および気道平滑筋細胞などの非T細胞の集団によっても生産される。IL-13は数多くの疾患、特に炎症反応によって引き起こされる疾患と結び付けられてきた。例えば、リコンビナントIL-13を未処置かつ未感作のげっ歯類の気道に投与することで、気道炎症、粘液産生および気道過敏を含む喘息表現型の多くの態様を引き起こすことが示された(Wills-Karp, M. et al., Science, 1998. 282(5397), 2258-2261; Grunig, G. et al., Science, 1998. 282(5397), 2261-2263; Venkayya, R., et al., Am J Respir Cell Mol Biol, 2002. 26(2), 202-208; Morse, B. et al., Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol, 2002. 282(1), L44-49)。IL-13を肺で特異的に過剰発現させた遺伝子組み換えマウスにおいても同様の表現型が見られた。このモデルにおいて、IL-13へのさらなる慢性的な曝露は線維症ももたらした(Zhu, Z. et al., J Clin Invest, 1999. 103(6), 779-788)。
【0003】
IL-13の遺伝的多型もまた、多くがアレルギー性疾患に結び付けられている。特に、130番目のアルギニン残基がグルタミンで置換されるIL-13遺伝子のバリアント(Q130R)は、気管支喘息、アトピー性皮膚炎および血中IgE濃度上昇と関連付けられてきた(Heinzmann, A. et al., Hum Mol Genet, 2000. 9(4), 549-559; Howard, T. D. et al., Am J Hum Genet, 2002. 70(1), 230-236; Kauppi, P. et al., Genomics, 2001. 77(1-2), 35-42; Graves, P. E. et al., J Allergy Clin Immunol, 2000. 105(3), 506-513)。この特定のIL-13バリアントは、20アミノ酸残基のシグナル配列をアミノ酸残基数から除くいくつかのグループによっては、Q110Rバリアントとも称される。
【0004】
病変皮膚および非病変皮膚におけるIL-13およびIL-4の発現上昇はアトピー性皮膚炎(AD)の重要な特徴であり、両方のサイトカインがADの発病に寄与することを示唆している(Nomura, I., Goleva, E., Howell, M.D., Hamid, Q.A., Ong, P.Y., Hall, C.F. et al. Cytokine milieu of atopic dermatitis, as compared to psoriasis, skin prevents induction of innate immune response genes. J Immunol. 2003; 171: 3262-3269; Tazawa, T., Sugiura, H., Sugiura, Y., and Uehara, M. Relative importance of IL-4 and IL-13 in lesional skin of atopic dermatitis. Arch Dermatol Res. 2004; 295: 459-464)。さらに、ADの重症度はIL-13の増加、および関連するケモカインのmRNAおよび血中濃度の上昇に関連し、一方でIL-13濃度の低下は治療反応性および臨床アウトカムの改善に相関する。
【0005】
IL-13の生産はアレルギー性喘息にも関係付けられており(van der Pouw Kraan, T. C. et al., Genes Immun, 1999. 1(1), 61-65)、IL-13の濃度上昇は、アレルギー性鼻炎(花粉症)、アレルギー性皮膚炎(湿疹)および慢性副鼻腔炎のヒト被験者においても測定された。
【0006】
喘息以外にも、IL-13はその他の線維性疾患に関連付けられている。IL-4の1000倍にも及ぶIL-13の濃度上昇が、全身性強皮症の患者の血清および肺線維症の他の形態の患者の気管支肺胞洗浄液(BAL)試料において測定された(Hasegawa, M. et al., J Rheumatol, 1997. 24(2), 328-332; Hancock, A. et al., Am J Respir Cell Mol Biol, 1998. 18(1), 60-65)。
【0007】
マウスの肺におけるIL-13の過剰発現が肺気腫、粘液産生の増加および炎症を引き起こすことが証明されており、これはヒト慢性閉塞性肺疾患(COPD)の態様を反映している(Zheng, T. et al., J Clin Invest, 2000. 106(9), 1081-1093)。
【0008】
IL-13は炎症性腸疾患の発病においても役割を持つ可能性があると提唱されており(Heller, F. et al., Immunity, 2002. 17 (5), 629-38)、正常コントロールと比較したとき、ホジキン病患者の血清においてIL-13の濃度上昇が検出されている(Fiumara, P. et al., Blood, 2001. 98(9), 2877-2878)。
【0009】
IL-13阻害剤は腫瘍の再発または転移の予防において治療上有用であるとも考えられている(Terabe, M. et al., Nat Immunol, 2000. 1(6), 515-520)。IL-13の阻害は動物モデルにおいて抗ウイルスワクチンを強めることも示されており、またHIVおよびその他の感染症の治療においても有益である可能性がある(Ahlers, J. D. et al., Proc Natl Acad Sci US A, 2002. 99(20), 13020-13025)。
【0010】
抗体志向のIL-13阻害アプローチが説明されてきた。例えば、WO2005/007699は、IL-13活性の中和を示す数種類のヒト抗IL-13抗体分子を説明しており、これらはIL-13関連疾患の治療に潜在的に有用であると主張されている。WO2007/036745は抗IL-13抗体を含む医薬組成物および同組成物のIL-13関連疾患を治療するための用途を説明している。
【0011】
トラロキヌマブ(CAT-354およびBAK502G9としても知られる)は、治療用の完全ヒト抗体であり、Q130Rバリアントを含むIL-13に結合してこれを中和する(Popovic et al. J. Mol. Biol. (2017) 429(2): 208-219; May, R.D., Monk, P.D., Cohen, E.S., Manuel, D., Dempsey, F., Davis, N.H. et al. Preclinical development of CAT-354, an IL-13 neutralizing antibody, for the treatment of severe uncontrolled asthma. Br J Pharmacol. 2012; 166: 177-193)。
【0012】
トラロキヌマブは以前、204人の成人を対象としたフェーズ2b臨床試験で、ADの治療について試験された。この試験において患者は、12週間、2週ごとに45mg、150mg、または300mgのトラロキヌマブまたは偽薬を皮下投与され、同時に局所グルココルチコイドを投与された。そして、偽薬と比較して、トラロキヌマブがEASI(Eczema Area Severity Index)スコアをベースラインから改善し、それに伴ってSCORAD(Scoring atopic dermatitis)、DLQI(Dermatology Life Quality Index)、および掻痒NRS(pruritus numeric rating scale)スコアも改善することが発見された(Wollenberg J. Allergy Clin. Immunol. (2019) 143(1):135-141)。
【0013】
当業界において、抗IL-13抗体を含むさらなる改善された医薬組成物、特に高濃度の抗IL-13抗体を含む医薬組成物への要望は未だ存在する。このような医薬組成物を開発するための大きな課題の1つは、高濃度、例えば150mg/mLにおけるトラロキヌマブなどの抗IL-13抗体の、高い粘度である。本発明は、このような考慮を踏まえて発案された。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントを含む医薬組成物に関し、この医薬組成物は、抗IL-13抗体を含む既知の医薬組成物と比較して低い粘度および低い可視光への感受性を有することが、発明者によって示された。
【0015】
本明細書で開示される医薬組成物は、抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメント、ヒスチジンバッファー、正電荷を持つ添加物、および界面活性剤を含み、pH5.2-5.7である。
【0016】
1つの態様において、本発明は、抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメント、20mM±40%のヒスチジンバッファー、150mM±40%の正電荷を持つ添加物(例えばリシンまたはアルギニン)、0.01%の界面活性剤(例えばポリソルベート80、pH5.5±0.1)を含む医薬組成物を提供する。
【0017】
好ましい実施形態において、前記医薬組成物は、抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメント、15-25mMのヒスチジンバッファー、100-200mMのリシンまたはアルギニン、0.01%のポリソルベート、pH5.5±0.1を含む。より好ましくは、ヒスチジンバッファーは20mM±10%の量含まれ、かつリシンまたはアルギニンは150mM±10%の量含まれる。好ましい実施形態において、正電荷を持つ添加物はリシンである。
【0018】
好ましい実施形態において、抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントは、130mg/mLから170mg/mLの間の濃度で含まれる。より好ましくは、抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントは、150mg/mL±10%の濃度で含まれる。
【0019】
好ましい実施形態において、抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントは重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、ここで
(i)重鎖可変領域が
配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、
配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域2(HCDR2)、および
配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域3(HCDR3)を含み、そして
(ii)軽鎖可変領域が
配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、
配列番号5のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域2(LCDR2)、および
配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)を含む。
【0020】
好ましくは、抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントは、配列番号8の重鎖可変領域配列および配列番号10の軽鎖可変領域配列を含む。より好ましくは、抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントは配列番号11の重鎖配列および配列番号12の軽鎖配列を含む。最も好ましくは、抗IL-13抗体はトラロキヌマブである。
【0021】
別の態様において、本発明は、IL-13関連疾患の治療のための方法において用いるための、本明細書で開示される態様および実施形態のいずれかに記載の医薬組成物を提供する。
【0022】
さらなる態様において、本発明は、IL-13関連疾患の治療のための方法であって、本明細書で開示される態様および実施形態のいずれかに記載される医薬組成物を、治療上有効な量、治療を必要とする患者に投与するステップを含む方法を提供する。
【0023】
さらなる別の態様において、本発明は、本明細書で開示される態様および実施形態のいずれかに記載される医薬組成物の、IL-13関連疾患の治療のための医薬の製造のための使用を提供する。
【0024】
これらのいずれの態様においても、IL-13関連疾患は例えばアトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎、線維症、慢性閉塞性肺疾患、強皮症、炎症性腸疾患またはホジキンリンパ腫などであってもよい。好ましい実施形態において、IL-13関連疾患はアトピー性皮膚炎である。
【0025】
本発明は、説明される態様および説明される好ましい特徴の組み合わせも含む。ただし、そのような組み合わせが明確に許されないまたは明確に避けられる場合を除く。
【0026】
本発明の原理を説明する実施形態および実験が、ここで、添付された図面を参照しながら論じられる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】従来技術の製剤(製剤A)と比較して試験された5つのトラロキヌマブ製剤の粘度を示す。製剤Aは150mg/mLのトラロキヌマブおよび50mMの酢酸/酢酸ナトリウム、85mMの塩化ナトリウム、および0.01%(w/v)のポリソルベート80を含み、pH5.5である。試験した製剤は(i)150mMのプロリンおよび100mMのスクロース、(ii)150mMのグルタミン酸、(iii)150mMの塩化ナトリウム、(iv)150mMのアルギニンまたは(v)150mMのリシンを含む。粘度はある温度範囲にわたって計測した。
【
図2】製剤Aの粘度と比較した、トラロキヌマブおよび20mMのヒスチジンバッファー、150mMのリシンおよび0.01%(w/v)のポリソルベート80を含み、pH5.5である製剤(製剤B)の粘度を示す。両製剤において、130-170mg/mLの間のトラロキヌマブ濃度を用いた。粘度は(A)18℃または(B)23℃で計測した。
【
図3】5-30℃の間の様々な温度における、製剤A(50mMの酢酸/酢酸ナトリウム、85mMの塩化ナトリウム、および0.01%(w/v)のポリソルベート、pH5.5)と比較した製剤B(20mMのヒスチジンバッファー、150mMのリシンおよび0.01%(w/v)のポリソルベート80、pH5.5)の粘度を示す。トラロキヌマブは170mg/mLの濃度で用いた。
【
図4】(A)様々なInstron(登録商標)レートにおける、製剤Aまたは製剤Bをプレフィルド・シリンジから排出するのに必要な力(動平衡応力)および(B)様々な注射時間における動平衡応力を示す。トラロキヌマブは168mg/mLの濃度で用いた。
【
図5】(A)粘度に対する大容量ボーラス注射器(LVBI)の注入時間を示す。製剤Aおよび製剤Bに対応する点線をラベルする。(b)製剤Aについて、および(c)製剤Bについて、様々なトラロキヌマブ濃度における注入時間および粘度も示す。
【
図6】1mLのプレフィルド・シリンジ中における、製剤Aと比較した製剤Bの安定性を示す。トラロキヌマブは濃度168mg/mLで用いた。安定性は(a)5℃および(b)25℃において比較した。純度は様々な時点においてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で計測した。
【
図7】5℃で3日後の、ポリソルベート80(PS80)を含まない製剤Aにおける、リシンまたはアルギニンを追加することによる、(a)肉眼で見えない粒子(サブビジブル粒子)または(b)肉眼で見える粒子(ビジブル粒子)の量に対する効果を示す。
【
図8】製剤Aと比較した、製剤Bの光曝露に対する感受性を示す。凝集物はサイズ排除クロマトグラフィーによって計測した。170mg/mLのトラロキヌマブ濃度を用いた。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の態様および実施形態が、ここで、添付された図面を参照しながら論じられる。さらなる態様および実施形態が、当業者には明らかであろう。本明細書に記載された全ての資料は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0029】
本発明は抗IL-13抗体およびそのIL-13結合フラグメントを含む医薬組成物に関し、ここで医薬組成物はヒスチジンバッファーおよびリシンを含む。本発明はIL-13関連疾患を治療するためのこれら医薬組成物の使用にも関する。
【0030】
抗IL-13抗体およびそのIL-13結合フラグメント
本明細書で用いられる“抗体”という用語は、ジスルフィド結合で相互に接続された2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖の4つのポリペプチド鎖を含む免疫グロブリン分子、およびその重合体(例えばIgM)を含む。典型的な抗体において、各重鎖は重鎖可変領域(本明細書ではHCVRまたはVHと省略される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、CH1、CH2およびCH3の3つのドメインを含む。各軽鎖は軽鎖可変領域(本明細書ではLVCRまたはVLと省略される)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は1つのドメイン(CL1)を含む。VH領域およびVL領域はさらに、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域に細分され、ここにはフレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が散在する。各VHおよびVLは3つのCDRおよび4つのFRから構成され、N末端からC末端へ、以下の順:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4に並んでいる。場合により、抗IL-13抗体(またはそのIL-13結合フラグメントまたはその誘導体)のFRはヒトの生殖細胞系列配列と同一であってもよく、または自然にあるいは人工的に修飾されてもよい。
【0031】
抗体の重鎖定常領域は、IgG、IgM、IgD、IgA、およびIgEなど、いずれのタイプの定常領域由来であってもよい。一般的には、抗体はIgG(例えばアイソタイプIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)である。好ましくは、本明細書で例示されるように、抗体はIgG4である。
【0032】
抗体はマウス抗体、ヒト抗体、霊長類抗体、ヒト化抗体あるいはキメラ抗体であってもよい。抗体はポリクローナルまたはモノクローナルであってもよい。治療適用においては、モノクローナルかつヒト(またはヒト化)抗体が好ましい。特に好ましい実施形態においては、抗体はヒトまたはヒト化かつモノクローナルである。
【0033】
抗体はマルチスペシフィック(例えばバイスペシフィック)抗体であってもよい。マルチスペシフィック抗体、または抗体の抗原結合フラグメントは、典型的には少なくとも2つの異なる可変ドメインを持ち、ここで各可変ドメインは別々の抗原または同じ抗原の異なるエピトープに特異的に結合することができる。マルチスペシフィック抗体の任意の形式を、当業界で利用可能な慣習的手法を用いて、本明細書で説明されるような抗体または抗体の結合フラグメントの文脈における使用のため適応させてもよい。例えば、免疫グロブリンの一方の腕がIL-13に特異的であり、かつ他方の腕が第二の治療標的に特異的であるか、または治療的な部分に接合する、バイスペシフィック抗体を使用する方法。
【0034】
抗IL-13抗体のIL-13結合フラグメントは、いかなる自然発生の、酵素的に得られる、合成の、または遺伝的に合成されるポリペプチドであってもよい。このようなフラグメントは、例えば、タンパク分解、または抗体の可変領域および場合により定常領域をコードするDNAの操作および発現を含む遺伝子組み換え合成手法などの、任意の適切な標準的手法を用いて、完全長の抗体分子から得てもよい。このようなDNAは既知かつ/または例えば商業的な供給元、DNAライブラリ(例えばファージ抗体ライブラリを含む)などから容易に利用可能であり、また合成可能である。DNAは、化学的にまたは分子生物学の手法を用いて配列決定されてもよく、修飾されてもよい。例えば、1つ以上の可変および/または定常ドメインを適切な構造に整えたり、またはコドンを導入したり、システイン残基を生成したり、修飾したり、アミノ酸を挿入または欠失させたりしてもよい。
【0035】
IL-13結合フラグメントの非制限的な例は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fd、Fv、単鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合で繋がれたFv、dAbフラグメント、およびその他の合成分子、例えばドメイン特異的抗体(domain-specific antibody)、単一ドメイン抗体(single domain antibody)、ドメイン欠失抗体(domain-deleted antibody)、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ(minibody)、ナノボディ(例えば一価のナノボディ、二価のナノボディなど)、スモールモジュラー免疫医薬(SMIPs)、およびサメIgNARの可変ドメインなどを含む。
【0036】
抗IL-13抗体のIL-13結合部位は、典型的には少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインはいかなるサイズまたはいかなるアミノ酸組成であってもよく、一般的には、1つ以上のフレームワーク配列に隣接した位置あるいはフレームの中に、少なくとも1つのCDRを含む。VLドメインと連結したVHドメインを持つ抗原結合フラグメントにおいて、VHドメインおよびVLドメインはお互いに対して任意の適切な配置をとってよい。例えば、可変領域は二量体であってもよく、そしてVH-VH、VH-VLまたはVL-VL二量体を含み得る。代替として、抗体の抗原結合フラグメントは単量体のVHまたはVLドメインを含んでもよい。
【0037】
抗IL-13抗体、またはそのIL-13結合フラグメントは、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域2(HCDR2)、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域3(HCDR3)、配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、配列番号5のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域2(LCDR2)、配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)、を含んでもよい。
【0038】
抗IL-13抗体、またはそのIL-13結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含んでもよく、ここで(i)重鎖可変領域は、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域2(HCDR2)、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域3(HCDR3)を含み、また(ii)軽鎖可変領域は、配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、配列番号5のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域2(LCDR2)、配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)を含む。
【0039】
加えて、抗IL-13抗体、またはそのIL-13結合フラグメントは、(i)配列番号8の重鎖可変領域配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一なアミノ酸配列;および/または(ii)配列番号10の軽鎖可変領域配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一なアミノ酸配列を含んでもよい。抗IL-13抗体、またはそのIL-13結合フラグメントは、配列番号8の重鎖可変領域配列および配列番号10の軽鎖可変領域配列を含んでもよい。
【0040】
IL-13抗体、またはそのIL-13結合フラグメントは、(i)配列番号11の重鎖配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一なアミノ酸配列;および/または(ii)配列番号12の軽鎖配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一なアミノ酸配列を含んでもよい。場合により、IL-13抗体、またはそのIL-13結合フラグメントは、配列番号11の重鎖と配列番号12の軽鎖配列を含む。
【0041】
本明細書に記載の方法において用いることができるこのような抗体の一つは、抗IL-13抗体トラロキヌマブ(“International Nonproprietary Names for Pharmaceutical Substances (INN)”リスト102 (WHO Drug Information (2009) 23(4): pp 348)に記載)である。トラロキヌマブは、ヒトIL-13に特異的に結合してこれを中和する完全ヒトIgG4-ラムダ抗体である。
【表1】
【0042】
抗体およびそのフラグメントを特定、単離および試験(例えば結合試験および中和試験)するための方法は、当業界においてよく知られている。様々な抗IL-13抗体およびフラグメントの特定および特徴付けを開示し、そしてそのための適切な方法を提供する、WO2005/007699を参照のこと。
【0043】
抗体濃度
抗IL-13抗体は、医薬組成物中に任意の適切な量含まれてもよい。例えば、抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントは、1-300mg/mLの濃度で含まれる。好ましくは、抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントは、100-200mg/mLの濃度で含まれる。より好ましくは、IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントは、130-170mg/mLの濃度で含まれる。最も好ましくは、抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントは、150mg/mL±10%、例えば150mg/mLの濃度で含まれる。
【0044】
ヒスチジンバッファー
本発明の医薬組成物はヒスチジンバッファーを含む。ヒスチジンバッファーの例は、ヒスチジン/ヒスチジン塩酸塩、塩化ヒスチジン(histidine chloride)、ヒスチジン酢酸塩、ヒスチジンリン酸塩、ヒスチジン硫酸塩、およびヒスチジンコハク酸塩を含む。好ましい実施形態においては、ヒスチジンバッファーはヒスチジン/ヒスチジン塩酸塩である。好ましくは、ヒスチジンバッファーは20mM±40%(すなわち12-32mM)、20mM±30%(すなわち14-26mM)の濃度で含まれ、または、最も好ましくは20mM±10%(すなわち18-22mM)の濃度で含まれる。ある好ましい実施形態において、ヒスチジンバッファーは15-25mM、例えば20mMなどの濃度で含まれる。
【0045】
正電荷を持つ添加物
本発明の医薬組成物は正電荷を持つ添加物を含む。正電荷を持つ添加物の例は、リシン、アルギニン、塩化ナトリウム(NaCl)、グルタミン酸およびプロリンを含む。好ましくは、正電荷を持つ添加物はリシンまたはアルギニンである。最も好ましくは、正電荷を持つ添加物はリシンである。好ましくは、正電荷を持つ添加物は150mM±40%(すなわち90-210mM)、150mM±30%(すなわち105-195mM)、150mM±20%(120-180mM)の濃度で含まれ、または、最も好ましくは150mM±10%(すなわち135-165mM)の濃度で含まれる。ある好ましい実施形態において、正電荷を持つ添加物は100-200mM、例えば150mMなどの濃度で含まれる。
【0046】
界面活性剤
本発明の医薬組成物は界面活性剤、例えば非イオン性界面活性剤を含む。界面活性剤の例はポリソルベート、例えばポリソルベート20およびポリソルベート80を含む。好ましくは、界面活性剤はポリソルベート80である。好ましくは、医薬組成物は0.001%-0.1%(w/w)の界面活性剤を含み、より好ましくは0.005-0.05%(w/w)の界面活性剤を含み、そして最も好ましくは0.01%(w/w)の界面活性剤を含む。
【0047】
pH
好ましくは、本発明の医薬組成物はpH5.2-5.7を持つ。より好ましくは、pHは5.5±0.1である。
【0048】
医薬組成物および配合
IL-13抗体トラロキヌマブを含む例示的な医薬組成物が、例えばWO2007/036745およびWO2018/158332において開示される。
【0049】
本明細書で開示される特定の成分に加えて、本発明の医薬組成物は任意の薬理学的に許容できる添加物を含んでもよい。
【0050】
“薬理学的に許容できる添加物”への言及は、医薬組成物において慣例的に用いられる任意の添加物への言及を含むと理解される。このような添加物は典型的に1つ以上の界面活性剤、無機塩または有機塩、安定化剤、希釈剤、可溶化剤、還元剤、抗酸化剤、キレート剤、保存剤などを含む。
【0051】
IL-13関連疾患の治療
一般的に、“治療する”、“治療すること”、“治療”などの用語は、一時的にあるいは永続的に、症状を緩和(軽減、最小化または解消)すること、または症状の原因を軽減、最小化または解消することを意味する。
【0052】
好ましくは、治療の対象となるIL-13関連疾患はアトピー性皮膚炎、喘息(例えばアレルギー性喘息)、アレルギー性鼻炎、線維症、慢性閉塞性肺疾患、強皮症、炎症性腸疾患またはホジキンリンパ腫である。好ましい実施形態において、IL-13関連疾患はアトピー性皮膚炎、例えば軽症から重症のアトピー性皮膚炎(AD)である。
【0053】
投与
本明細書に記載の方法において、抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントは、任意の適切な方法によって投与されてもよい。典型的には、投与は非経口的であり、例えば皮内投与、筋肉内投与、静脈内投与および皮下投与である。皮下投与が特に好ましい(例えば実施例に記載されるように)。したがって、IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントの各投与量が、皮下投与されてもよい。
【0054】
投与は好ましくは“治療上有効な量”行われ、これは病気に関連する1つ以上のパラメーターの改善または改善状態の維持、患者関連アウトカム、または低疾患活動性の達成を示すのに十分であることを意味する。
【0055】
投与は任意の利便性の高い経路、例えば点滴またはボーラス注射などによって行われてもよく、上皮層または皮膚粘膜層(例えば口腔粘膜、直腸粘膜および腸粘膜など)からの吸収によって行われてもよい。
【0056】
皮下投与または静脈内投与は標準的な針およびシリンジ(例えばプレフィルド・シリンジを含む)によって行われてもよい。本明細書に記載の方法は病院における使用に制限されないことが想定される。したがって、針を伴わないデバイスを用いた皮下注射も好ましい。このような投与デバイスは再利用可能であってもよく、または使い捨てであってもよい。再利用可能なペン型投与デバイスおよび自動注射デバイスは当業界で数多く知られており、また、本発明で用いてもよい。例はAUTOPEN(商標)(Owen Mumford, Inc., Woodstock, UK)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems, Bergdorf, Switzerland)、HUMALOG MIX 75/25(商標)ペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN 70/30(商標)ペン(Eli Lilly and Co., Indianapolis, IN)、NOVOPEN(商標)1、11および111 (Nova Nordisk, Copenhagen, Denmark)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Nova Nordisk, Copenhagen, Denmark)、BD(商標)ペン(Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)、およびOPTICLIK(商標)(Sanofi-Aventis, Frankfurt, Germany)を含む。例示的な本発明で用いてもよい皮下投与のための使い捨てペン型投与デバイスは、SOLOSTAR(商標)ペン(Sanofi-Aventis)、FLEXPEN(商標) (Nova Nordisk)、およびKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、SURECLICK(商標)自動注射器(Amgen, Thousand Oaks, CA)、PENLET(商標) (Haselmeier, Stuttgart, Germany)、EPIPEN(Dey, L.P.)、およびHUMIRA(商標)ペン(Abbott Labs, Abbott Park IL)を含む。
【0057】
本明細書で提供されるのは、標準的な針およびシリンジ(例えばプレフィルド・シリンジ)または針を伴わない投与デバイス(例えばペン型投与デバイスおよび自動注射投与デバイス)などの注射器であって、本明細書に記載の抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントを含む医薬組成物を含む注射器である。ある実施形態において、注射器は本明細書で説明される抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントを含む医薬組成物2mLを含む。好ましい実施形態において、注射器は、本明細書で説明される抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントを300mg含む医薬組成物2mLを含む。
【0058】
抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントの各投与量が、必ずしも1回の投与ステップ(例えば1回の注射)で投与されるわけではない。実際、抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントの(例えば医薬組成物中の)濃度に応じて、1回、2回、3回もしくはそれ以上の投与ステップ(例えば1回、2回、3回またはそれ以上の注射)が、患者に対して要求量のIL-13結合タンパク質すなわち抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメント(例えば投与量300mg)を供給するために要求される可能性がある。したがって、ある実施形態においては、IL-13結合タンパク質(例えば抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメント)の各投与量が、1回または2回の注射(例えば皮下注射)によって投与される。典型的には、皮下注射はおよそ1.5mLまたはそれ未満の容量、0.2から1.5mLなど、例えばおよそ1mLの容量で行われる。しかしながら、ある実施形態においては、抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントの各投与量が、2mL注射として投与される。例えば、ある実施形態においては、投与量300mgの抗IL-13抗体またはそのIL-13結合フラグメントが、1回の2mL注射として投与される。
【0059】
粘度
本発明の医薬組成物は低い粘度を持つ。好ましくは、本発明の医薬組成物の粘度は、18℃または23℃において15センチポアズ(cP)未満である。ある実施形態において、本発明の医薬組成物の粘度は、23℃において10センチポアズ(cP)未満である。
【0060】
その他の定義
請求項を含む、本明細書全体を通して、文脈上他に要求されない限り、“含む”という言葉および “含み”、“含まれる”などの活用形は、記載された整数またはステップまたは整数の群またはステップの群を含むことを示し、その他の整数またはステップまたは整数の群またはステップの群を除外することは示さないと理解される。
【0061】
留意すべきこととして、本明細書および添付された請求項で用いられる単数形“a(不定冠詞)”、“an(不定冠詞)”および“the(定冠詞)”は、文脈上明確に他に述べられない限り、複数の指示物を含む。
【0062】
本明細書において、範囲は、“おおよその”ある特定の値から、および/または“おおよその”他の特定の値までの形で表される。このような範囲が表されたとき、別の実施形態は、当該特定の値から、および/または当該他の特定の値までを含む。同様に、先行詞“おおよその”の使用によって、値が概算値として表されるとき、当該特定の値は別の実施形態を形成すると理解される。数値に関する“おおよその”という用語は任意であり、そして例えば±10%を意味する。
【0063】
本明細書で用いられる“配列同一性”または“同一性”という用語は、類似性または関連性を評価する配列の特性を示す。本開示で用いられる“配列同一性”または“同一性”という用語は、対象の配列と本開示のタンパク質またはポリペプチドの配列との(相同性)アラインメントの後の、これら2つの配列のうちより長いほうの残基の数に対するペア間で同一な残基の割合を意味する。配列の同一性は、同一なアミノ酸残基の数を総残基数で割り、その商に100をかけることで計算される。
【0064】
当業者は、例えばBLAST(Altschul et al., Nucleic Acids Res, 1997)、BLAST2(Altschul et al., J Mol Biol, 1990)、FASTA(Pearson and Lipman (1988)の方法を使用)、TBLASTNプログラム(Altschul et al. (1990))、GAP(Wisconsin GCG package, Accelerys Inc, San Diego USA)、およびSmith-Waterman(Smith and Waterman, J Mol Biol, 1981)などの、標準的なパラメーターを用いて配列の同一性を決定するための利用可能なコンピュータプログラムを、認知しているだろう。配列同一性の割合は、本明細書で、例えばBLASTP(Altschul et al., Nucleic Acids Res, 1997)プログラムのバージョン2.2.5(2022年11月16日リリース)を用いて決定することができる。この実施形態においては、相同性の割合は、タンパク質配列または当該ポリペプチド配列を含むポリペプチド配列全体のアラインメント(マトリックス:BLOSUM 62、ギャップコスト:11.1、カットオフ値:10-3)に基づき、好ましくは野生型のタンパク質スキャフォールド(protein scaffold)をペア間の比較のリファレンスとして用いる。相同性の割合は、BLASTPプログラムの出力結果として示される“positive”(相同なアミノ酸)の数を、アラインメントのためプログラムによって選択されたアミノ酸の総数で割った割合として計算される。配列の同一性は、一般的にはGAP(Wisconsin GCG package, Accelerys Inc, San Diego USA)というアルゴリズムを参照して定義される。GAPはNeedlmanおよびWunschのアルゴリズムを用いて、一致の数を最大化しギャップの数を最小化するように2つの配列の全長を整列させる。ここでギャップとは、アミノ酸を挿入あるいは欠失することで生じる、アラインメントにおける空白のことである。一般的に、ギャップ生成ペナルティを12とし、ギャップ拡張ペナルティを4とする初期パラメーターが用いられる。
【0065】
特に、抗IL-13抗体または抗IL-13抗体のフラグメントのアミノ酸配列のアミノ酸残基が別の抗体の配列と異なるかどうかを決定するため、当業者は当業界でよく知られる手段および方法、例えば手動のアラインメント、または、基本的なローカルアラインメント研究ツールの1つであるBLAST 2.0、またはClustalW、または配列アラインメントを生成するのに適したその他任意の適切なプログラムなどの、コンピュータプログラムを用いたアラインメントを用いることができる。
【0066】
前記の説明、または請求項、または添付された図面によって開示される、開示された機能を果たすための手段の、または開示された結果を得るための方法またはプロセスの、特定の形式または用語において表現される特徴は、必要に応じて、別々に、またはそのような特徴の任意の組み合わせにおいて、本発明の多様な形態を実現するために利用されてもよい。
【0067】
ここまで本発明は前記の例示的な実施形態と共に説明されたが、本開示を受けたとき、当業者には多くの同等な改変およびバリエーションが明らかであろう。したがって、前記に開示された本発明の例示的な実施形態は、実例であって、限定ではないと理解される。本発明の技術的思想および本発明の範囲から外れることなく、説明された実施形態に対する様々な変更を加えてもよい。
【0068】
あらゆる疑義を避けるため、本明細書で提供される全ての理論的説明は、読者の理解を深めることを目的として提供される。発明者は、これら理論的説明のいずれによって制限されることも望まない。
【0069】
本明細書で用いられるあらゆる表題は、構成を整えることのみを目的とし、説明の対象事項の限定としては解釈されない。
【0070】
本明細書に記載される全ての出版物は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0071】
実施例1:低粘度製剤の開発
トラロキヌマブは50mMの酢酸/酢酸ナトリウム、85mMの塩化ナトリウム、および0.01%(w/v)のポリソルベート80、pH5.5で配合されてもよい(製剤A)。このような製剤は、例えばWO2007/036745で開示された。
【0072】
粘度を測るため、製剤Aに対して、5種類のトラロキヌマブ製剤を試験した。試験した製剤は(i)150mMプロリンおよび100mMスクロース、(ii)150mMグルタミン酸、(iii)150mM塩化ナトリウム、(iv)150mMアルギニンまたは(v)150mMリシンを含む。粘度はある温度範囲で計測した。
【0073】
図1は、ある温度範囲における、新たな製剤に対する製剤Aの粘度を示す。リシンおよびアルギニンなどの正電荷を持つ添加物を加えることで、製剤の粘度が大きく低下した。塩化ナトリウムを加えることによっても、粘度は製剤Aと比較して低下した。グルタミン酸を含む製剤は製剤Aと同様の粘度を示し、また、プロリンおよびスクロースを加えることで、製剤Aと比較して粘度が増加した。
【0074】
さらなる解析のために選択された低粘度の製剤は、トラロキヌマブおよび20mMのヒスチジン/ヒスチジン塩酸塩、150mMのリシンおよび0.01%(w/v)のポリソルベートを含み、pH5.5であった(製剤B)。製剤Aにおけるトラロキヌマブを使用するための目標濃度は150mg/mLであるため、130-170mg/mLの間のトラロキヌマブ濃度において製剤Bの粘度を製剤Aと比較した。粘度は18℃および23℃の両方において計測した。製剤Bは、計測した両方の温度において、製剤Aと比較して、規定の濃度(150mg/mL±10%)の1番下から1番上までにおける粘度の違いが、より小さいことが示された(
図2Aおよび
図B)。
【0075】
トラロキヌマブ濃度170mg/mLの製剤AおよびBの粘度を、5-30℃の間の様々な温度においても計測した。製剤Bは製剤Aよりも温度による粘度変化に対する感受性が低いことが示され、そしてこの性質は5℃において最も顕著に示された(
図3)。
【0076】
実施例2:薬物投与のための高い粘度の課題
2mLのプレフィルド・シリンジ(PFS)から粘度の高い製品を投与するための大きな射出力によって、患者の忍容性に関する懸念および自動注射器開発のための技術的課題がもたらされる。粘度の高い製剤については、大容量ボーラス注射器(LVBI)における注入時間域も広い。
【0077】
一定のシリンジおよび針において、制御できるパラメーターは流速および溶液の粘度の2つだけであり、これらは力に比例する:
【数1】
【0078】
製剤Aまたは製剤Bを2mLのプレフィルド・シリンジから排出するために要求される力を、様々なInstronレートにおいて計測した(
図4)。この実験においては、トラロキヌマブ濃度168mg/mLを用いた。結果から、製剤Aと比較して、製剤Bではより短い時間域で、より小さい力を用いて注射を行うことが可能であることが示される(
図4B)。これは結果として、より快適な注射をもたらす。
【0079】
粘度低下がLVBIの投与時間に与える効果も検討した。
図5Aに示されるように、粘度の低下により注入時間が短縮される。したがって、粘度の低下は患者の便宜およびコンプライアンスの向上をもたらし得る。製剤AおよびBの様々な濃度における粘度および投与時間が、
図5Bおよび
図5Cに示される。投与時間は製剤Aと比較して製剤Bでより短い。
【0080】
実施例3:低粘度製剤の安定性
製剤Bのさらなる優位性、例えば安定性なども検討した。
【0081】
5℃および25℃の両方において、1mLのPFS中の製剤Bの安定性を製剤Aと比較した。この実験ではトラロキヌマブ濃度168mg/mLを用いた。様々な時点でサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて純度を計測した。
【0082】
4か月後、製剤Bの安定性は、製剤Aの安定性と同等(5℃)または製剤Aの安定性より優れていた(25℃)(
図6Aおよび
図6B)。
【0083】
5℃において3日後の、ポリソルベートを含まない製剤A中のサブビジブル粒子あるいはビジブル粒子の量を計測し、また、リシンまたはアルギニンをこの製剤に追加することによる効果も検討した。結果から、配合前のバルクにおいて、リシンまたはアルギニンのいずれかの追加によってサブビジブル粒子およびビジブル粒子の両方が実質的に減少することが示された(
図7Aおよび
図7B)。
【0084】
光曝露に対する製剤Bの感受性も、製剤Aと比較した。この実験で、製剤は170mg/mLのトラロキヌマブを含んでいた。結果から、製剤Bは実質的に製剤Aより光曝露への感受性が低いことが示された(
図8)。
【0085】
結論
実施例によって、低粘度のトラロキヌマブ製剤(製剤B)の開発が証明され、ここで、製剤Bは様々な選択肢のデバイスにおける薬物投与に対して著しく有益な影響を持ち、また安定性および製造におけるさらなる優位性を持つばかりでなく、光曝露に対する低い感受性も持つ。
【0086】
本発明および本発明の関する技術水準を十分に説明し、かつ十分に開示するため、前記に多くの出版物が引用される。これらの参考文献に対する全ての引用が以下に提供される。これらの参考文献それぞれの全体が、本明細書に組み込まれる。
【0087】
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【配列表】
【国際調査報告】