(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】自動車用の電気的な駆動システム
(51)【国際特許分類】
F16H 3/44 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
F16H3/44 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024509121
(86)(22)【出願日】2022-08-02
(85)【翻訳文提出日】2024-04-05
(86)【国際出願番号】 EP2022071745
(87)【国際公開番号】W WO2023020835
(87)【国際公開日】2023-02-23
(31)【優先権主張番号】102021004237.9
(32)【優先日】2021-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】メルセデス・ベンツ グループ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Mercedes-Benz Group AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 120,70372 Stuttgart,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】シルダー,トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ヘアター,トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ツァイビッヒ,ヨナタン
(72)【発明者】
【氏名】ガンスローザー,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ギット,カーステン
(72)【発明者】
【氏名】リードル,クラウス
【テーマコード(参考)】
3J528
【Fターム(参考)】
3J528EA25
3J528EA27
3J528EB63
3J528FB12
3J528FB14
3J528FC13
3J528FC23
3J528GA08
(57)【要約】
本発明は、自動車用の電気的な駆動システム(1)に関し、第1のロータ(6)を有する第1の電気機械(3)と、差動入力軸(14)並びに第1の差動出力軸(15)及び第2の差動出力軸(16)を有する差動伝動装置(9)であって、2つの差動出力軸(15、16)は、第1のロータ(6)と同軸に配置されている、差動伝動装置(9)と、第1の差動出力軸(15)に相対回動不能に連結されている第1の側軸(17)と、第2の差動出力軸(16)に相対回動不能に連結されているか又は連結可能である第2の側軸(18)と、を有する。本発明による電気的な駆動システムは、第1のロータ(6)と同軸に配置されている第2のロータ(8)を有する第2の電気機械(4)と、第1のシフト部材(SE1)であって、第1のシフト部材(SE1)によって第1のロータ(6)は第1の側軸(17)に相対回動不能に連結可能である、第1のシフト部材(SE1)と、第2のシフト部材(SE2)であって、第2のシフト部材(SE2)によって第2のロータ(8)は第2の側軸(18)に相対回動不能に連結可能である、第2のシフト部材(SE2)と、が設けられており、第1のロータ(6)は、差動入力軸(14)に相対回動不能に連結されているか又は連結可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用の電気的な駆動システム(1)であって、
第1のロータ(6)を有する第1の電気機械(3)と、
差動入力軸(14)並びに第1の差動出力軸(15)及び第2の差動出力軸(16)を有する差動伝動装置(9)であって、2つの前記差動出力軸(15、16)は、前記第1のロータ(6)と同軸に配置されている、差動伝動装置(9)と、
前記第1の差動出力軸(15)に相対回動不能に連結されている第1の側軸(17)と、前記第2の差動出力軸(16)に相対回動不能に連結されているか又は連結可能である第2の側軸(18)と、を有する、電気的な駆動システム(1)において、
前記差動入力軸(14)に相対回動不能に連結されているか又は連結可能である前記第1のロータ(6)と同軸に配置されている第2のロータ(8)を有する第2の電気機械(4)と、
第1のシフト部材(SE1)であって、前記第1のシフト部材(SE1)によって前記第1のロータ(6)は前記第1の側軸(17)に相対回動不能に連結可能である、第1のシフト部材(SE1)と、
第2のシフト部材(SE2)であって、前記第2のシフト部材(SE2)によって前記第2のロータ(8)は前記第2の側軸(18)に相対回動不能に連結可能である、第2のシフト部材(SE2)と、
が設けられていることを特徴とする、電気的な駆動システム(1)。
【請求項2】
前記差動伝動装置(9)は、遊星差動装置として形成されていることを特徴とする、請求項1記載の電気的な駆動システム(1)。
【請求項3】
前記差動入力軸(14)は、内歯車(12)に相対回動不能に接続されており、前記第1の差動出力軸(15)は、二重遊星キャリア(13)に相対回動不能に接続されており、前記第2の差動出力軸(16)は、太陽歯車(11)に相対回動不能に接続されていることを特徴とする、請求項2記載の電気的な駆動システム(1)。
【請求項4】
第3のシフト部材(SE3)が設けられており、前記第3のシフト部材(SE3)によって前記第1のロータ(6)は前記差動入力軸(14)に相対回動不能に連結可能であることを特徴とする、請求項1、2又は3記載の電気的な駆動システム(1)。
【請求項5】
軸方向(a)に見て、前記第1の電気機械(3)、前記第1のシフト部材(SE1)、前記差動伝動装置(9)、前記第2のシフト部材(SE2)及び前記第2の電気機械(4)の順に順次配置されていることを特徴とする、請求項1、2又は3記載の電気的な駆動システム(1)。
【請求項6】
前記第1のロータ(6)は、前記差動入力軸(14)に永続的に相対回動不能に連結されており、第5のシフト部材(SE5)が設けられており、前記第5のシフト部材(SE5)を介して、前記第2の差動入力軸(16)は、前記第2の側軸(18)に相対回動不能に連結可能であることを特徴とする、請求項1、2又は3記載の電気的な駆動システム(1)。
【請求項7】
前記第1のシフト部材(SE1)、前記第2のシフト部材(SE2)及び前記第5のシフト部材(SE5)は、前記第1のシフト部材(SE1)、前記第2のシフト部材(SE2)及び前記第5のシフト部材(SE5)が単一のアクチュエータ(10)を介して操作可能であるように連結されていることを特徴とする、請求項6記載の電気的な駆動システム(1)。
【請求項8】
前記アクチュエータ(10)の第1の位置では、前記第1のシフト部材(SE1)及び前記第2のシフト部材(SE2)は閉じられており、前記第5のシフト部材(SE5)は開かれており、前記アクチュエータ(10)の第2の位置では、前記第1のシフト部材(SE1)及び前記第2のシフト部材(SE2)は開かれており、前記第5のシフト部材(SE5)は閉じられていることを特徴とする、請求項7記載の電気的な駆動システム(1)。
【請求項9】
軸方向(a)に見て、前記第1の電気機械(3)、前記差動伝動装置(9)、前記第1のシフト部材(SE1)及び前記第2の電気機械(4)の順で順次配置されていることを特徴とする、請求項6、7又は8記載の電気的な駆動システム(1)。
【請求項10】
前記第1のロータ(6)、前記第2のロータ(8)、前記差動伝動装置(9)及び2つの前記側軸(17、18)は、一緒に相互に同軸に配置されていることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項記載の電気的な駆動システム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前段部に詳細に規定されているような、電気機械及び差動伝動装置並びに変速段を備えた自動車用の電気的な駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、3軸式の遊星差動装置を介して、駆動される車両の車輪を駆動させる2つの差動出力軸又は側軸を駆動させる電気機械を備えた、その種の電気的な駆動装置が記載されている。電気機械のロータ及び遊星差動装置は、ここでは、側軸と同軸に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許出願公開第102007021359号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、請求項1の前段部に記載されているような、軸方向において小型の構造を実現し、またそれと同時に非常にフレキシブルに切り替え可能且つ非常に効率的に動作することができる、改善された電気的な駆動システムを提供することである。
【0005】
本発明によれば、この課題は、請求項1における特徴、ここでは特に請求項1の特徴部における特徴を備えた、電気的な駆動システムによって解決される。有利な実施形態及び発展形態は、請求項1に従属する従属請求項より明らかになる。
【0006】
本発明による自動車用の電気的な駆動システムは、冒頭で述べたような従来技術における構造と同様に、第1のロータを有する第1の電気機械と、差動入力軸並びに第1の差動出力軸及び第2の差動出力軸を有する差動伝動装置と、を含む。ここで差動出力軸は、第1のロータと同軸に配置されている。電気的な駆動システムは、更に、第1の差動出力軸に相対回動不能に連結されている第1の側軸と、第2の差動出力軸に相対回動不能に連結されているか又は連結可能である第2の側軸と、を含む。
【0007】
本発明の文脈における相対回動不能な接続とは、回転可能に支承されている2つの部材間の接続であると解され、その際、それら2つの部材は相互に同軸に配置されており、且つ相対回動不能な接続によって、それら2つの部材が同じ角速度でもって回転するように相互に接続されている。
【0008】
本発明によれば、更に、第1のロータと同軸に配置されている第2のロータを有する第2の電気機械が設けられている。この場合、第1のロータは、差動入力軸に相対回動不能に連結されているか又は連結可能である。更に、第1のシフト部材は、第1の側軸への第1のロータの相対回動不能な連結を可能にする。更に、第2のシフト部材が設けられており、この第2のシフト部材は、第2のロータと第2の側軸との相対回動不能な連結を実現する。
【0009】
電気的な駆動システムの本発明によるこの構造は、非常に小型であるにも関わらず、非常にフレキシブルな構造を実現し、この構造においては、第1のシフト部材及び第2のシフト部材を介して、側軸、ひいては側軸を介して接続されている自動車の車輪を、2つの電気機械のうちの一方によって、直接的且つ相互に独立して、選択的に駆動させることができる。更に、本発明による電気的な駆動システムの構造は、差動入力軸に相対回動不能に連結されているか又は連結可能である、第1の電気機械のロータを介して、第1の電気機械のみを介して両方の側軸を駆動させることができる。これによって、電気機械を用いる差動モード又はトルクベクタリングを用いる片輪駆動を選択的に切り替えることができる、非常に効率的な構造が得られる。通常の差動モードでは、第2の電気機械を差動装置から切り離すことができるので、一緒に牽引する必要はなく、それによって効率の上昇が実現される。
【0010】
ここで、差動伝動装置自体は、ほぼ任意の様式で形成することができる。典型的な構造としては、例えば、差動ケージを備えたかさ歯車伝動装置の形態の差動伝動装置が考えられる。特に電気機械の回転軸の軸方向において、相応に小型の構造を達成するために、複数のシフト部材、又は2つのシフト部材のうちの少なくとも一方は、差動ケージと軸方向において重畳するように形成することができ、つまり、少なくとも1つのシフト部材も差動ケージの少なくとも一部も含む、軸方向に垂直な共通の平面に少なくとも部分的に存在するように形成することができる。相応に、この構造は勿論、他の半径方向の平面に位置していなければならないので、それによって各部材は相互に干渉しない。
【0011】
しかしながら、本発明による電気的な駆動システムの極めて好適な発展形態によれば、差動伝動装置が3軸式の遊星差動装置として形成されていることが望ましい。太陽歯車、内歯車及び遊星キャリアを備えているか、又はそれに代替的に、第1の太陽歯車、第2の太陽歯車及び遊星キャリアを備えた、その種の3軸式の遊星差動装置を、差動伝動装置として利用することができる。この場合、差動入力軸は、3軸式の遊星差動装置の第1の軸、例えば内歯車に相対回動不能に接続することができる。この場合、第1の差動出力軸は、3軸式の遊星差動装置の第2の軸、例えば遊星キャリアに相対回動不能に接続することができる。またこの場合、第2の差動出力軸は、3軸式の遊星差動装置の第3の軸、例えば太陽歯車に相対回動不能に接続することができる。遊星差動装置を備えたその種の構造は、例えば前述の好適な相互接続において、軸方向において非常に小型の構造を可能にするので、総じて、かさ歯車差動装置を備える場合よりも小型の駆動システムが実現される。
【0012】
特に好適には、差動伝動装置は、丁度1つの太陽歯車、丁度1つの遊星キャリア、及び丁度1つの内歯車を有する。
【0013】
本発明による電気的な駆動システムの別の非常に有利な実施形態では、更に、第3のシフト部材が設けられており、この第3のシフト部材を介して、第1のロータが差動入力軸に相対回動不能に連結可能である。つまり、その種の第3のシフト部材を介して、第1の電気機械と差動伝動装置との間の接続は切り替え可能になるので、特に電気機械の内の1つを介する片輪駆動のケースでは、差動伝動装置を一緒に牽引する必要がないので、これによって構造は非常にエネルギ効率が良いものになる。
【0014】
ここで、軸方向に見て、第1の電気機械、第1のシフト部材、差動伝動装置、第2のシフト部材及び第2の電気機械を、記載の順序で順次配置することができる。これは、構造をほぼ対称的なものにし、特に差動伝動装置として遊星差動装置を使用する場合だけでなく、軸方向において非常に小型にする。
【0015】
差動伝動装置への第1のロータの切り替え可能な接続の代替形態として、本発明による電気的な駆動システムの極めて好適な発展形態によれば、第1のロータが差動入力軸に永続的に相対回動不能に連結されており、また第5のシフト部材が設けられており、この第5のシフト部材を介して、第2の差動出力軸が、第2の側軸に相対回動不能に連結可能である。従って、この接続は、第2の差動出力軸若しくは第2の側軸の領域及び第2電気機械の接続の領域に移動される。つまり、この構造によって、ここでは第1の電気機械を介する差動モードのための第5のシフト部材のみを用いるシフト過程が必要になることから、第1の電気機械の第1のロータを差動入力軸に永続的に相対回動不能に接続することによって、第1の電気機械を用いる動作のための構造を非常に効率的なものすることができ、また駆動制御に関する構造を簡略化することができる。そうでない場合には、第2の電気機械が完全に切り離されるように、又は片輪駆動のケースでは、単純且つ効率的に連結できるように構造を切り替えることができ、その一方で、第1の電気機械は、このケースでは、差動伝動装置を介して、他の側軸に永続的に連結されている。
【0016】
更に、個々のシフト部材を相互に独立して切り替える際に、1つの電気機械、ここでは第1の電気機械を用いる差動ロックによる動作も、2つの電気機械を用いる差動ロックによる動作も、相応に使用することが実現される。
【0017】
本発明による電気的な駆動システムの非常に有利な発展形態に従い、第1のシフト部材、第2のシフト部材及び第5のシフト部材が、単一のアクチュエータを介して操作可能であるように、それら第1のシフト部材、第2のシフト部材及び第5のシフト部材が連結されている場合、駆動制御に関して特に効率的である。単一のアクチュエータを介するその種の操作は、固有のアクチュエータを介して各シフト部材を操作する場合に比べて遥かに効率的である。一方では、ただ1つのアクチュエータが必要とされ、他方では、別のアクチュエータが省略されることによって、構造空間及び重量が節約されるだけでなく、個々のアクチュエータへと案内しなければならない配線、また小型の伝動装置内に提供される構造空間において常に相応に複雑な構造で設計されなければならない配線も省略される。従って、連結された3つのシフト部材を操作するための単一のアクチュエータは著しい利点となる。
【0018】
前述の3つのシフト部材の連結は、とりわけ、アクチュエータの第1の位置では、第1のシフト部材及び第2のシフト部材が閉じられており、その一方で、第5のシフト部材が開かれているように行うことができる。アクチュエータの第2の位置では、第1のシフト部材及び第2のシフト部材は開かれることになり、その一方で、第5のシフト部材は閉じられている。この構造でもって、アクチュエータを介して、第1の電気機械を用いるモードと、片輪駆動とを効率的に切り替えることができる。
【0019】
永続的に相対回動不能に接続されている差動入力軸及び第1のロータを備えた、この第2の実施形態変形例の非常に有利な発展形態によれば、更に非常に好適な構成に従い、軸方向に見て、第1の電気機械、差動伝動装置、第1のシフト部材及び第2の電気機械が、記載の順序で順次配置されている。これは相応に小型に実現することができ、また特に遊星差動装置を使用する場合には、電気的な駆動システムの軸方向において非常に短い構造を可能にする。この場合、有利な実施形態によれば、第1のロータ、第2のロータ、差動伝動装置及び2つの側軸はすべて、相互に同軸に配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明による電気的な駆動システムの第1の可能な構造を示す。
【
図2】本発明による電気的な駆動システムの第2の可能な構造を示す。
【
図3】
図2に示した電気的な駆動システムの可能な状態を説明するためのシフトテーブルを示す。
【
図4】
図2による電気的な駆動システムの代替的な構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1には、ここには図示していない自動車を駆動させるために用いられる電気的な駆動システム1が示されている。自動車の車輪への駆動出力は、参照番号2が付された矢印によってシンボリックに表されており、従ってこの矢印はいわば、自動車1の駆動される車輪2を実質的に表している。電気的な駆動システム1は、第1の電気機械3並びに第2の電気機械4を有している。第1の電気機械3の第1のステータ5は、電気的な駆動システム1のハウジングに相対回動不能に接続されている。
【0022】
第1の電気機械3の第1のロータ6は、第2の電気機械4の第2のロータ8と同軸に配置されている。第2の電気機械4は第2のステータ7を有し、この第2のステータ7も同様に、電気的な駆動システム1のハウジングに相対回動不能に接続されている。従って、2つの電気機械3、4は、共通の回転軸について同軸に配置されており、この共通の回転軸は、ここでは、この図に示したものの下側の境界部によって形成される。従って、この図においては、回転対称の構造の上側半分のみが示されている。電気機械3、4のロータ6、8の共通の回転軸は、ここでは、電気的な駆動システム1の軸方向aを規定する。
【0023】
軸方向aに見て、2つの電気機械3、4の間には、差動伝動装置9が存在する。差動伝動装置9は、有利には、ロータ6、8の共通の回転軸と同軸に配置されている。この差動伝動装置9は、例えば、差動ケージを備えた、かさ歯車伝動装置として形成されていてもよい。しかしながら、軸方向aに沿った構造を可能な限り小型に実現できるようにするために、差動伝動装置9は、ここでは遊星差動装置として実現されている。この遊星差動装置は、太陽歯車11、内歯車12、並びに二重遊星キャリア13を含む。ここでは、差動入力軸14が内歯車12に接続されている。二重遊星キャリア13自体は、第1の差動出力軸15に相対回動不能に接続されており、その一方で、太陽歯車11は、第2の差動出力軸16に接続されている。第1の差動出力軸15は自体は、側軸17に相対回動不能に接続されており、この側軸17は、例えば直接的に、又は場合によってはここでは図示していない別の変速段も介して、駆動される車輪2との接続を確立する。同様のことが、
図1の右側に示した駆動される車輪と、第2の差動出力軸16との間の接続を確立する側軸18にも該当する。
【0024】
差動伝動装置9、若しくはここではその二重遊星キャリア13に対して軸方向に隣接して、第1の電気機械3に対向する側には、第1のシフト部材SE1、並びにこの第1のシフト部材SE1に対して軸方向に隣接して第3のシフト部材SE3が存在する。第1のシフト部材SE1を介して、第1のロータ6は、側軸17及び第1の差動出力軸15に相対回動不能に連結可能である。この場合、第1の電気機械3は、ここでは左側に示されている、駆動される車輪2を直接的に駆動させる。これに代替的に、前述のシフト部材SE3を介して、第1のロータ6は、差動入力軸14に接続することができ、ひいては差動伝動装置9の内歯車12に接続することができ、それによって、2つの側軸17、18が差動伝動装置9を介して駆動される。
【0025】
軸方向aに見て、差動伝動装置9に関して実質的に鏡面対称的に、差動伝動装置9と第2の電気機械4との間には、差動伝動装置9から見て、この差動伝動装置9に対して軸方向に隣接して、第2のシフト部材SE2が存在し、またこの第2のシフト部材SE2に対して軸方向に隣接して第4のシフト部材SE4が存在する。第2のシフト部材SE2は、第1の電気機械3に関する第1のシフト部材SE1と同様に、第2の電気機械4若しくはそのロータ8の、右側の側軸18若しくは第2の差動出力軸16への接続を実現するので、
図1の右側に示した、駆動される車輪2を、第2の電気機械4のみを介して駆動させることができる。これに代替的に、第4のシフト部材SE4が係合されている場合、第1の電気機械3により駆動される代わりに、またはそれに加えて、第2の電気機械4を介して差動入力軸14も駆動させることができるので、それによって、2つの側軸17、18は、差動出力軸15、16を介して、また差動伝動装置9を用いて相応に駆動される。
【0026】
この構造は、2つの電気機械3、4の内の一方又は他方のいずれかを介する、トルクベクタリングモードにおける片輪駆動としての駆動も、例えば電気機械3、4の内の一方による差動伝動装置9を介する駆動も行うことができるか、又は特にブーストモードに対しては2つの電気機械3、4を介する駆動も行うことができる、非常に高いフレキシビリティを実現する。更に、2つの電気機械3、4を切り離すこともできるので、それら2つの電気機械3、4が必要とされないケースでは、2つの電気機械3、4を一緒に牽引する必要がないので、このことは、本発明による電気的な駆動システム1のエネルギ効率を非常に高くする。
【0027】
電気的な駆動システム1の代替的な構造は
図2に図示したものから見て取れる。ここでは、軸方向aに見て、後段において更に詳細に説明する全てのシフト部材が、
図1に図示したものと同様に形成されている、遊星差動装置の形態の差動伝動装置9と、第2の電気機械4との間に位置している。この場合、第1の電気機械3の第1のロータ6は、永続的に相対回動不能に、差動入力軸14に接続されている。第1の差動出力軸15と、この第1の差動出力軸15に相対回動不能に連結されている左側の側軸17とは、
図1による実施形態のケースと同様に、ここでもまた二重遊星キャリア13に相対回動不能に接続されている。第1の電気機械3と、軸方向aにおいて、この第1の電気機械3に対して直接的に隣接して配置されている差動伝動装置9には、軸方向aにおいては第1のシフト部材SE1が続いている。
【0028】
第1のシフト部材SE1は、ここではロックシフト部材として形成されており、また二重遊星キャリア13を第2の差動伝動装置出力軸16に接続することができ、従って差動伝動装置9の太陽歯車11に接続することができる。二重遊星キャリア13及び太陽歯車11が一緒に回転するこのロック状態では、第1の電気機械3が、第1の差動出力軸15、ひいては左側の側軸17に相対回動不能に接続されている。
【0029】
第1のシフト部材SE1は、ここで一般的に言えば、ロックシフト部材として形成されている。
図2の構造では、差動伝動装置9は、例えば、かさ歯車差動装置として形成することもでき、その場合、第1のシフト部材SE1は、差動伝動装置をロックし、それによって、遊星差動装置のロックについて上述したことと同じ効果を達成できるように形成されている。
【0030】
有利には、左側の側軸17若しくは右側の側軸18と車輪2との間のトルクの流れにおいて、それぞれ1つの変速段20、21、即ち、第1の変速段20及び第2の変速段21が配置されている。有利には、これらの変速段20、21は、
図1の構造の対応する箇所においても同様に使用することができる。以下に挙げる変速段20、21の有利な特徴及び構成は、
図1の構造にも適用可能である。有利には、変速段20、21は、単純な遊星歯車機構として形成されており、それぞれの単純な遊星歯車機構のそれぞれ1つの太陽歯車は、それぞれの側軸17、18に相対回動不能に接続されており、それぞれの単純な遊星歯車機構のそれぞれ1つの内歯車は、ハウジングに相対回動不能に接続されており、それぞれの単純な遊星歯車機構のそれぞれ1つの遊星キャリアは、それぞれ1つの車輪に連結されている。
【0031】
変速段20、21と車輪との間には、詳細には示していない車輪側軸が設けられているので、変速段20、21は有利には2つの電気機械3、4に直接的に隣接して配置されており、例えば車輪2の近傍には配置されていない。特に有利には、変速段及び差動伝動装置9は、共通のハウジング内に配置されている。
【0032】
軸方向aにおいて、この第1のシフト部材SE1に隣接して、第5のシフト部材SE5が続いている。この第5のシフト部材SE5は、第2の差動出力軸16を右側の側軸18に相対回動不能に連結させることができるか、又はここに示した実施例において示されているように、それら2つの部材を相互に切り離すこともできる。これら2つのシフト部材SE1及びSE5には、やはり軸方向aに見て、第2のシフト部材SE2が続いており、この第2のシフト部材SE2もまた、第2の電気機械4若しくは第2のロータ8を右側の側軸18に接続するために設計されている。この第2のシフト部材SE2は、開かれたフリーホイールとしても実現することができ、これは、第5のシフト部材SE5が係合された際に、即ち第2の差動出力軸16及び右側の側軸18が連結された際に相応に開き、従って、第2の電気機械4を切り離す。第5のシフト部材SE5が開かれると、第2の電気機械4と、フリーホイールとして構成された第2のシフト部材SE2とを介した右側の側軸18の駆動が実現されることになる。
【0033】
この構造は、軸方向aにおいて小型に構成された構造では、多数の異なる状態を可能にする。
図3に図示されているシフトテーブルには、それらの状態が相応に視覚化されている。
図2に図示したようなシフト部材SE1、SE2及びSE5は、シフトテーブルにおいて×印が示されている場合は閉じられており、シフトテーブルの相応のフィールドが空白の場合は開かれている。
【0034】
図2の構造では、有利には軸方向aに見て、第1の変速段20、第1の電気機械3、差動伝動装置9、第1のシフト部材SE1、第2の電気機械4及び第2の変速段21が、記載の順序で順次配置されている。
【0035】
これに対して、有利には、
図1の構造では、軸方向aに見て、第1の変速段20(
図1には図示していない)、第1の電気機械3、第1のシフト部材SE1、差動伝動装置9、第2のシフト部材SE2、第2の電気機械4及び第2の変速段21(
図1には同様に図示していない)が、記載の順序で順次配置されている。
【0036】
図2の実施形態では、2つの電気機械3、4が、軸流機械として形成されている。軸流機械によって、軸方向において特に小型の構造が実現され、更には、総じて非常に性能が高い電気的な駆動システム1が表される。電気機械3、4を軸流機械として構成することは、同じ利点を伴って、
図1及び
図4の構成においても実現される。
【0037】
第1の状態は、ただ1つの電気機械、ここでは第1の電気機械3を用いる効率モードである。このケースでは、第5のシフト部材SE5は閉じられているので、第2の差動出力軸16は右側の側軸18に連結されており、その一方で、他の2つのシフト部材SE1及びSE2は開かれている。第1の電気機械3は、差動伝動装置9を介して、第1の差動出力軸15も、第2の差動出力軸16も駆動させ、その一方で、第2の電気機械4は、開かれた第2のシフト部材SE2によって切り離されている。これによって、第2の電気機械4が停止したまま、第1の電気機械3が駆動する効率モードが実現される。
【0038】
2つのシフト部材SE1、SE2が閉じられ、それと同時に第5のシフト部材SE5が開かれることによって、差動伝動装置9として用いられる遊星伝動装置がロックされるので、第1のロータ6が左側の側軸17に相対回動不能に接続されており、その一方で、第2のシフト部材SE2を介して、右側の側軸18が第2の電気機械4の第2のロータ8に直接的に相対回動不能に連結されている。これによって、駆動される車輪2それぞれが、電気機械3若しくは4のそれぞれ1つを介して駆動させることができる、トルクベクタリングモードでの片輪駆動が実現される。この片輪駆動では、左側の側軸17と右側の側軸18との間の連結は存在しない。
【0039】
その他に、
図2による電気的な駆動システム1の実施形態では、差動ロックモードが電気機械3、4の内の一方を用いても、両方を用いても実現される。1つの電気機械、つまりここでは第1の電気機械3を用いる差動ロックモードでは、一方では、差動伝動装置9として利用される遊星差動装置のロックが必要となるので、第1のシフト部材SE1が閉じられている。第5のシフト部材SE5は、第2の差動出力軸を右側の側軸18に接続し、その一方で、第2のシフト部材SE2は開かれており、それによって、第2の電気機械4は相応に切り離されている。この場合、第1の電気機械3は、差動ロックモードにおいて、駆動される両車輪2を駆動させる。
【0040】
第2のシフト部材SE2を付加的に閉じることで、第2の電気機械4も更に加えることができるので、両電気機械を併用した差動ロックモードも実現され、相応により高い出力が実現される。
【0041】
図2による代替的な構造でもって、別の動作様式、即ち差動伝動装置9を介したトルクベクタリングが実現される。この別の動作様式では、第5のシフト部材SE5及び第2のシフト部材SE2はそれぞれ閉じられており、この場合、第1のシフト部材SE1は開かれている。この場合、第2のロータ8は、右側の側軸18に相対回動不能に接続されており、また第2の差動出力軸16にも相対回動不能に接続されている。従って、第2のロータ8を介して、第2の電気機械4の第2トルクの一部が右側の側軸18に導入され、その際、第2の電気機械4の第2のトルクの別の一部が差動伝動装置9に導入される。それと同時に、この動作様式では、第1の電気機械3が、第1のトルクを差動伝動装置9に供給する。この動作様式では、供給されるトルクの大きさ、即ち第1のトルク及び第2のトルクの大きさを介して、どの程度のトルク量が最終的に2つの側軸17、18に到達するかを決定することができる。この際、それら2つのトルク量は異なっていてもよい。
【0042】
この動作様式では、3つのシフト部材SE1、SE2及びSE5を相互に独立して駆動制御することが必要になる。このことは、アクチュエータ部材、また個々のシフト部材SE1、SE2及びSE5のためのアクチュエータへの配線に関して相応にコストを要する。ここで、コストを低減するために、また最も重要な2つの状態、即ち電気機械を用いる効率モードと片輪駆動をそれにもかかわらず保証するために、3つのシフト部材SE1、SE2及びSE5を連結させることもでき、また単一のアクチュエータ10を介して駆動制御することもできる。それ以外の点では
図2に対応する
図4では、このアクチュエータ10が示されている。このアクチュエータ10は、非常に簡単且つ効率的な駆動制御を実現する。このことは、とりわけ、第1のシフト部材SE1及び第2のシフト部材SE2のいずれかが開かれており、その一方で、第5のシフト部材SE5が相応に閉じられているように実現することができるので、その結果、
図3に示すように、電気機械、ここでは第1の電気機械3を用いる効率モードが使用される。効率モード用のアクチュエータ10のこのシフト位置は、ここでは第2の位置と称する。ここでは第1の位置と称する、その別のシフト位置では、アクチュエータ10が、3つのシフト部材SE1、SE2、SE5を相応に切り替えることができるので、第1のシフト部材SE1及び第2のシフト部材SE2は相応に閉じられており、また第5のシフト部材SE5は開かれたままとなる。ここでもまた
図3のシフトテーブルから明らかになるように、片輪駆動のための切り替えが存在し、トルクベクタリングモードでは、駆動される車輪5のそれぞれが、電気機械3、4のそれぞれを介して、相互に独立して駆動させることができる。
【0043】
1つのアクチュエータ10を介した3つのシフト部材SE1、SE2及びSE5のこの効率的な組み合わせでは、差動ロックモードの他の可能性が相応に省略されることになり、この場合、これはソフトウェア側でトルクベクトリングモードにおいて同様に使用可能であるので、機械的な差動ロックモードの省略は実質的な制限にはならない。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用の電気的な駆動システム(1)であって、
第1のロータ(6)を有する第1の電気機械(3)と、
差動入力軸(14)並びに第1の差動出力軸(15)及び第2の差動出力軸(16)を有する差動伝動装置(9)であって、2つの前記差動出力軸(15、16)は、前記第1のロータ(6)と同軸に配置されている、差動伝動装置(9)と、
前記第1の差動出力軸(15)に相対回動不能に連結されている第1の側軸(17)と、前記第2の差動出力軸(16)に相対回動不能に連結されているか又は連結可能である第2の側軸(18)と、を有する、電気的な駆動システム(1)において、
前記差動入力軸(14)に相対回動不能に連結されているか又は連結可能である前記第1のロータ(6)と同軸に配置されている第2のロータ(8)を有する第2の電気機械(4)と、
第1のシフト部材(SE1)であって、前記第1のシフト部材(SE1)によって前記第1のロータ(6)は前記第1の側軸(17)に相対回動不能に連結可能である、第1のシフト部材(SE1)と、
第2のシフト部材(SE2)であって、前記第2のシフト部材(SE2)によって前記第2のロータ(8)は前記第2の側軸(18)に相対回動不能に連結可能である、第2のシフト部材(SE2)
とが設けられ
、
前記差動伝動装置(9)は、遊星差動装置として形成され、
前記差動入力軸(14)は、内歯車(12)に相対回動不能に接続されており、前記第1の差動出力軸(15)は、二重遊星キャリア(13)に相対回動不能に接続されており、前記第2の差動出力軸(16)は、太陽歯車(11)に相対回動不能に接続されていることを特徴とする、電気的な駆動システム(1)。
【請求項2】
第3のシフト部材(SE3)が設けられており、前記第3のシフト部材(SE3)によって前記第1のロータ(6)は前記差動入力軸(14)に相対回動不能に連結可能であることを特徴とする、請求項
1記載の電気的な駆動システム(1)。
【請求項3】
軸方向(a)に見て、前記第1の電気機械(3)、前記第1のシフト部材(SE1)、前記差動伝動装置(9)、前記第2のシフト部材(SE2)及び前記第2の電気機械(4)の順に順次配置されていることを特徴とする、請求項
1記載の電気的な駆動システム(1)。
【請求項4】
前記第1のロータ(6)は、前記差動入力軸(14)に永続的に相対回動不能に連結されており、第5のシフト部材(SE5)が設けられており、前記第5のシフト部材(SE5)を介して、前記第2の差動入力軸(16)は、前記第2の側軸(18)に相対回動不能に連結可能であることを特徴とする、請求項
1記載の電気的な駆動システム(1)。
【請求項5】
前記第1のシフト部材(SE1)、前記第2のシフト部材(SE2)及び前記第5のシフト部材(SE5)は、前記第1のシフト部材(SE1)、前記第2のシフト部材(SE2)及び前記第5のシフト部材(SE5)が単一のアクチュエータ(10)を介して操作可能であるように連結されていることを特徴とする、請求項
4記載の電気的な駆動システム(1)。
【請求項6】
前記アクチュエータ(10)の第1の位置では、前記第1のシフト部材(SE1)及び前記第2のシフト部材(SE2)は閉じられており、前記第5のシフト部材(SE5)は開かれており、前記アクチュエータ(10)の第2の位置では、前記第1のシフト部材(SE1)及び前記第2のシフト部材(SE2)は開かれており、前記第5のシフト部材(SE5)は閉じられていることを特徴とする、請求項
5記載の電気的な駆動システム(1)。
【請求項7】
軸方向(a)に見て、前記第1の電気機械(3)、前記差動伝動装置(9)、前記第1のシフト部材(SE1)及び前記第2の電気機械(4)の順で順次配置されていることを特徴とする、請求項
4、
5又は
6記載の電気的な駆動システム(1)。
【請求項8】
前記第1のロータ(6)、前記第2のロータ(8)、前記差動伝動装置(9)及び2つの前記側軸(17、18)は、一緒に相互に同軸に配置されていることを特徴とする、請求項1から
6のいずれか一項記載の電気的な駆動システム(1)。
【国際調査報告】