(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】腸収縮障害、特に十二指腸収縮増幅障害の治療または予防のための、低温殺菌したアッカーマンシア・ムシニフィラを含む組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/741 20150101AFI20240822BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240822BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20240822BHJP
A61K 36/06 20060101ALI20240822BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240822BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240822BHJP
A61K 36/82 20060101ALI20240822BHJP
A61K 36/47 20060101ALI20240822BHJP
A61K 36/63 20060101ALI20240822BHJP
A61K 36/752 20060101ALI20240822BHJP
A61K 36/45 20060101ALI20240822BHJP
A61K 36/61 20060101ALI20240822BHJP
A61K 36/258 20060101ALI20240822BHJP
A61K 8/9728 20170101ALI20240822BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20240822BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240822BHJP
【FI】
A61K35/741
A61P1/00
A61K35/74 A
A61K36/06
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K36/82
A61K36/47
A61K36/63
A61K36/752
A61K36/45
A61K36/61
A61K36/258
A61K8/9728
A23L33/135
A23L33/105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024509524
(86)(22)【出願日】2022-08-02
(85)【翻訳文提出日】2024-04-08
(86)【国際出願番号】 EP2022071707
(87)【国際公開番号】W WO2023020831
(87)【国際公開日】2023-02-23
(32)【優先日】2021-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523163794
【氏名又は名称】ザ アッケルマンシア カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】カニ,パトリース
(72)【発明者】
【氏名】ブロシェ,アマンディーヌ
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C084
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD01
4B018MD23
4B018MD48
4B018MD52
4B018MD59
4B018MD64
4B018MD85
4B018ME11
4B018MF01
4B018MF03
4C083AA031
4C083AA032
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4C084NA05
4C084ZC751
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4C087CA09
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA66
4C088AB16
4C088AB44
4C088AB45
4C088AB46
4C088AB57
4C088AB62
4C088AB64
4C088BA08
4C088NA05
4C088ZA66
4C088ZC75
(57)【要約】
腸収縮障害、特に十二指腸収縮振幅障害の治療または予防のための、低温殺菌したアッカーマンシア・ムシニフィラを含む組成物が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸収縮障害の予防または治療に使用する、低温殺菌したアッカーマンシアを含む組成物。
【請求項2】
前記低温殺菌したアッカーマンシアがアッカーマンシア・ムシニフィラである、請求項1に記載の腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物。
【請求項3】
腸収縮障害に罹患している患者において、十二指腸振幅が制御、調整、または低減される、請求項1または2に記載の腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物。
【請求項4】
腸収縮障害に罹患している患者において、空腸のグルコース吸収が制御、調整、または低減される、請求項1乃至3のうちのいずれか一項に記載の腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物。
【請求項5】
腸収縮障害に罹患している糖尿病患者または肥満症患者において、空腸のグルコース吸収が制御または低減される、請求項1乃至4のうちのいずれか一項に記載の腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物。
【請求項6】
前記低温殺菌したアッカーマンシアが2乃至10日間、好ましくは3乃至7日間、さらに好ましくは4乃至6日間投与される、請求項1乃至5のうちのいずれか一項に記載の腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物。
【請求項7】
前記低温殺菌したアッカーマンシアが、1日当たり1.10
4細胞乃至1.10
12細胞、より好ましくは1日当たり1.10
5細胞乃至1.10
11細胞、さらに好ましくは1日当たり1.10
6細胞乃至5.10
10細胞の量で投与される、請求項1乃至6のうちのいずれか一項に記載の腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物。
【請求項8】
前記低温殺菌したアッカーマンシアが、1日当たり1.10
8乃至5.10
10細胞の量で投与される、請求項1乃至7のうちのいずれか一項に記載の腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物。
【請求項9】
プロバイオティクス、細菌、酵母、微生物、プレバイオティクス、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の成分をさらに含む、請求項1乃至8のうちのいずれか一項に記載の腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物。
【請求項10】
前記組成物が、ミネラルもしくはビタミンまたはそれらの組み合わせをさらに含む、請求項1乃至9のうちのいずれか一項に記載の腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物。
【請求項11】
前記組成物が、薬学的に許容される担体または食品グレードの担体をさらに含む、請求項1乃至10のうちのいずれか一項に記載の腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物。
【請求項12】
前記組成物が経口投与される、請求項1乃至11のうちのいずれか一項に記載の腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物。
【請求項13】
前記組成物が、化粧品組成物、栄養組成物、食品、栄養補助食品、医療用食品、または医薬品である、請求項1乃至12のうちのいずれか一項に記載の腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物。
【請求項14】
組成物が、チャノキ、アロニア・メラノカルパ、アムラ、オリーブノキ、ベルガモット、オオミツルコケモモ、カムカム、紅オタネニンジン、ツルコケモモ、オオミツルコケモモからなる群から選択される植物抽出物をさらに含む、請求項1に記載の腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物。
【請求項15】
腸収縮障害を低減するための、請求項1乃至14のうちのいずれか一項に記載の組成物の非医療的使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収縮障害、特に十二指腸収縮振幅の治療または予防のための、低温殺菌したアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
腸の収縮障害が増加している。例えば、糖尿病は一般的に腸の収縮亢進に関連付けられている。これは高血糖およびインスリン抵抗性を助長する可能性がある。
ソース:
【0003】
Knauf, C., Abot, A, Wemelle, E. & Cani, P. D. Targeting the Enteric Nervous System to Treat Metabolic Disorder? ‘Enterosynes’ as Therapeutic Gut Factors. Neuroendocrinology (2019) doi: 10.1159/000500602.
Fournel, A. et al. Apelin targets gut contraction to control glucose metabolism via the brain. Gut 66, 258-269 (2017).
Abot, A. et al. Galanin enhances systemic glucose metabolism through enteric Nitric Oxide Synthase-expressed neurons. Mol Metab 10, 100-108 (2018).
【0004】
一方、低温殺菌したアッカーマンシアは、腸のバリア機能に良い影響を与えることが報告されている。
【0005】
UCLおよびワーゲニンゲン大学に対する特許文献1は、肥満症および糖尿病の治療のための低温殺菌したアッカーマンシアの使用を開示している。しかしながら、腸収縮障害の治療への使用については開示されていない。
【0006】
ワーゲニンゲン大学に対する特許文献2は、糖尿病、肥満症、または過敏性腸症候群(IBS)、およびバリア機能の低下に関連する他の疾患からなる群から選択される疾患の予防および治療のうちの少なくともいずれか一方に使用するためのアッカーマンシア・グリカニフィルス(glycaniphilus)を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2017/042347号
【特許文献2】国際公開第2017/178496号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、腸収縮障害、特に十二指腸収縮振幅障害の治療または予防のための、低温殺菌したアッカーマンシアを含む組成物の使用は開示されていない。
【0009】
したがって、アッカーマンシア関連の特許公開のほとんどは、腸内のマイクロバイオームの構成および腸のバリア機能のみを取り上げており、腸のバイオメカニクスおよび腸の収縮、ならびにその伸張および運動性については触れていない。
【0010】
したがって、腸収縮障害を治療するための組成物、特に十二指腸の腸の収縮の振幅を低減するための組成物を提供する緊急の必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の簡単な説明
【0012】
本発明者らは、低温殺菌したアッカーマンシアを含む組成物が、腸のバイオメカニクス、収縮、および伸張を調整し、これにより、腸収縮障害、特に十二指腸収縮振幅障害の治療または予防をすることに有効である可能性があることを驚くべきことに見出した。
【0013】
実際、低温殺菌したアッカーマンシア・ムシニフィラを経口投与すると、十二指腸収縮の振幅は大幅に低減したが、十二指腸収縮の頻度はほとんど変化しなかった。さらに、低温殺菌したアッカーマンシア・ムシニフィラの経口投与により、空腸でのグルコース吸収が大幅に低減した。
【0014】
したがって、本発明の第一の態様は、腸収縮障害の予防または治療に使用するための、低温殺菌したアッカーマンシアを含む組成物である。
【0015】
別の態様は、低温殺菌したアッカーマンシアがアッカーマンシア・ムシニフィラである、腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物である。
【0016】
別の態様は、アッカーマンシア、特にアッカーマンシア・ムシニフィラが低温殺菌されていない、腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物である。
【0017】
別の態様は、腸収縮障害に罹患している患者において、十二指腸振幅が制御、調整、または低減される、腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物である。
【0018】
別の態様は、腸収縮障害に罹患している患者において、空腸のグルコース吸収が制御、調整、または低減される、腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物である。
【0019】
別の態様は、腸収縮障害に罹患している糖尿病患者または肥満症患者において、空腸のグルコース吸収が制御または低減される、腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物である。
【0020】
別の態様は、低温殺菌したアッカーマンシアを2乃至10日間、好ましくは3乃至7日間、さらに好ましくは4乃至6日間投与する、腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物である。
【0021】
別の態様では、組成物は1週間以上、2週間以上、あるいは恒久的にまで投与される。
【0022】
別の態様は、低温殺菌したアッカーマンシアが、1日当たり1.104細胞乃至1.1012細胞、より好ましくは1日当たり1.105細胞乃至1.1011細胞、さらに好ましくは1日当たり1.106細胞乃至5.1010細胞の量で投与される、腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物である。
【0023】
別の態様は、低温殺菌したアッカーマンシアが、1日当たり1.108乃至5.1010細胞の量で投与される、前記請求項のうちのいずれか一項に記載の腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物である。
【0024】
別の態様は、プロバイオティクス、細菌、酵母、微生物、プレバイオティクス、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の成分をさらに含む、腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物である。
【0025】
別の態様は、組成物が、ミネラルもしくはビタミンまたはそれらの組み合わせをさらに含む、腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物である。
【0026】
別の態様は、組成物が、薬学的に許容される担体または食品グレードの担体をさらに含む、腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物である。
【0027】
別の態様は、組成物が経口投与される、前記請求項のうちのいずれか一項に記載の腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物である。
【0028】
別の態様は、組成物が、化粧品組成物、栄養組成物、食品、食事補完物、医療用食品、または医薬品である、腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物である。
【0029】
別の態様は、組成物が、チャノキ、アロニア・メラノカルパ、アムラ、オリーブノキ、ベルガモット、オオミツルコケモモ、カムカム、紅オタネニンジン、ツルコケモモ、オオミツルコケモモからなる群から選択される植物抽出物をさらに含む、腸収縮障害の予防または治療に使用するための組成物である。
【0030】
もう一つの態様は、腸収縮障害を制御、調整、または低減するための、低温殺菌したアッカーマンシアを含む組成物の非医学的使用である。
定義
【0031】
「治療」とは、疾患、障害または病態のうちの少なくとも1つの副作用または症状を軽減、制御、調整または緩和することをいう。したがって、この用語は、治療的処置および予防的処置の両者を指す。
【0032】
「予防」とは、ある病気や症状が起こらないようにする、あるいはそのリスクを低減するという意味での予防を意味する。
【0033】
「有効量」または「治療上有効な量」とは、対象に相当な悪影響または有害な副作用を引き起こすことなく、代謝異常の発症を遅延または予防し、代謝異常の1つ以上の症状の進行、さらなる悪化、または悪化を減速または停止すること;代謝異常の症状の改善をもたらすこと;代謝異常の重症度または発生率を低減すること;代謝異常を治癒させること;または、処置される被験体の腸内のアッカーマンシア・ムシニフィラの正常な量および割合のうちの少なくともいずれか一方を回復させること、を目的とする薬剤のレベルまたは量を指す。
【0034】
「アッカーマンシア・ムシニフィラ」は、Derrien (Derrien et al., 2004. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 54:1469-1476)によって同定されたムチン分解細菌を指す。細胞は楕円形で運動性はなく、グラム陰性に染色される。アッカーマンシア・ムシニフィラは、アッカーマンシア属菌またはアッカーマンシア様細菌と呼ばれることもある。アッカーマンシア・ムシニフィラは、ウェルコミクロビウム門に属する。DNA-DNAハイブリダイゼーションによって実験的に決定されたヌクレオチドの類似性が約70%の株は、同じ種とみなすことができると一般的に認められている。これは、平均ヌクレオチド同一性(ANI)が約95%に相当する。
【0035】
「低温殺菌したアッカーマンシア・ムシニフィラ」とは、加熱処理したアッカーマンシア・ムシニフィラを指す。一実施形態では、低温殺菌したアッカーマンシア・ムシニフィラとは、50℃乃至100℃の温度で少なくとも10分間加熱したアッカーマンシア・ムシニフィラを指す。
【0036】
「TFU」または「総蛍光単位」とは、染色後の蛍光輝度によって測定される細胞数を意味する。
【0037】
好ましい実施形態では、TFUはフローサイトメトリーによって測定される。例えば、最初のステップでは、バイオマスバッチのアリコートをPBSで再水和し、製造業者のプロトコールに従ってSyto 9およびヨウ化プロピジウムで染色する(LIVE/DEAD(登録商標) BacLight TM Bacterial Viability Kit、Thermofisher)。TFUは、続いてAttune NxTフローサイトメーターで染色したサンプルを分析することで得ることができる。
【0038】
「プロバイオティクス」とは、有効量を投与した場合に、被験体の健康または幸福に有益な効果をもたらす生きた微生物を指す。一実施形態では、これらの健康上の利点は、消化管におけるヒトまたは動物の微生物叢の均衡の改善、または正常な微生物叢の回復に関連付けられる。
【0039】
「プレバイオティック」とは、例えば、ヒトでは消化されないが、腸内微生物による代謝を通じて腸内細菌叢の組成および活性のうちの少なくともいずれか一方を調整し、宿主に有益な生理作用をもたらす物質を指す。
【0040】
「被験体」とは、動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトまたは動物を指す。
【0041】
「腸収縮障害」とは、健康なヒトに比べて腸の機能が損なわれている被験体の状況を指す。腸収縮障害には、腸の伸縮の振幅や頻度の変調が含まれる。好ましい実施形態では、腸収縮は十二指腸の収縮の振幅に関係する。
発明の詳細な説明
【0042】
本出願人は、低温殺菌したアッカーマンシア・ムシニフィラを含む組成物を投与した後の腸収縮障害に対する有益な効果を示している。
【0043】
一実施形態では、本発明の低温殺菌したアッカーマンシア・ムシニフィラは生存不能細胞である。本明細書で使用する「生存不能細胞」とは、増殖できない細胞を意味する。アッカーマンシア・ムシニフィラの細胞を可視化したり数えたりする例は、Derrienら(2008. Appl. Environ. Microbiol. 74:1646-8)、Derrienら(2011. Frontiers Microbiol.2:166-175)またはReunanenら(2015. Appl. Environ. Microbiol. 81(11):3655-62)によって提供されている。
【0044】
本発明の組成物はまた、薬学的に許容される賦形剤または食品グレードの担体、例えば、溶媒、分散媒体、コーティング剤、等張化剤および吸収遅延剤などを含んでもよい。ヒトに投与する場合に、製剤はFDAの生物学的規格部門が要求する一般的な安全性および純度の基準を満たす必要がある。
【0045】
本発明はまた、有効量の低温殺菌したアッカーマンシア・ムシニフィラを含む医薬品、医療用食品、食品、または栄養補助食品に関する。
【0046】
本発明の別の目的は、それを必要とする被験体の腸内において、アッカーマンシア・ムシニフィラの正常な割合を回復させる方法であって、前記方法は、被験体に有効量のアッカーマンシア・ムシニフィラを投与することを含む方法である。
【0047】
本発明の一実施形態において、本発明による組成物は、少なくとも週に1回、好ましくは少なくとも週に2回、より好ましくは少なくとも週に3回、さらに好ましくは少なくとも週に4回投与される。別の実施形態では、本発明による組成物は少なくとも1日1回、好ましくは少なくとも1日2回投与される。
【0048】
一実施形態では、本発明による組成物は、1週間、好ましくは2、3、4、5、6、7もしくは8週間またはそれ以上、あるいは恒久的にさえ投与される。
【0049】
本発明の一実施形態では、投与されるアッカーマンシア・ムシニフィラの1日投与量は、1.102乃至約1.1015TFU/日、好ましくは約1.104乃至約1.1012TFU/日、より好ましくは約1.105乃至約1.1011TFU/日、さらに好ましくは約1.106乃至約1.1010TFU/日である。
【0050】
本発明の別の実施形態では、低温殺菌したアッカーマンシア・ムシニフィラの1日投与量は、1.106乃至約1.1012細胞/日、好ましくは約1.108乃至約1.1010細胞/日、より好ましくは約1.109乃至約5.1010細胞/日である。
【0051】
本発明はまた、腸収縮障害を軽減するための低温殺菌したアッカーマンシア・ムシニフィラの化粧品としての使用に関する。
【0052】
したがって、本発明の別の目的は、有効量の低温殺菌したアッカーマンシア・ムシニフィラを含む組成物の非医学的使用、および腸収縮障害の低減のためのその使用である。
【0053】
本発明の別の目的は、腸収縮障害を制御、調整、治療、または低減するための方法であって、該方法は、治療を制限する副作用を引き起こすことなく、好ましくは治療上有効な用量で、低温殺菌したアッカーマンシアを、それを必要とする被験体に投与することを含む。
【0054】
本発明の別の目的は、十二指腸振幅を制御、調整、治療、または低減するための方法であって、該方法は、治療を制限する副作用を引き起こすことなく、好ましくは治療上有効な用量で、低温殺菌したアッカーマンシアを、それを必要とする被験体に投与することを含む。
【0055】
本発明の別の目的は、十二指腸振幅を制御、調整、治療、または低減するための方法であって、該方法は、低温殺菌したアッカーマンシアを、それを必要とする被験体に投与することを含み、十二指腸の頻度は、実質的に変化せず、好ましくは、治療を制限する副作用を引き起こすことなく、治療上有効な用量である。
【0056】
本発明の別の目的は、腸グルコース吸収または空腸グルコース吸収を制御、調整、治療、または低減するための方法であって、該方法は、治療を制限する副作用を引き起こすことなく、好ましくは治療上有効な用量で、低温殺菌したアッカーマンシアを、それを必要とする被験体に投与することを含む。
【0057】
一実施形態では、組成物、医薬組成物、化粧品組成物、または医薬品は、例えば細菌性プロバイオティック菌株または種などの追加のプロバイオティック菌株または種をさらに含む。別の実施形態では、さらなる菌株は低温殺菌されている。これらのプロバイオティクスには、細菌、または真菌の菌株や種、好ましくは酵母の菌株や種が含まれる。一実施形態では、追加のプロバイオティック菌株または種は、被験体の腸内、好ましくはヒトの腸内、より好ましくは健康なヒト被験者の腸内に天然に存在するものから選択される。
【0058】
本発明において使用することができる細菌プロバイオティック菌株または種の例としては、ラクトバチルス、ラクチカゼイバチルス、ラクトコッカス、ビフィドバクテリウム属、ベイロネラ、デセムジア(Desemzia)、クリステンセネラ、アロバキュラム(Allobaculum)、コプロコッカス、コリンセラ属、シトロバクター、トゥリシバクター(Turicibacter)、ステレラ(Sutterella)、サブドリグラヌルム(Subdoligranulum)、連鎖球菌、スポロバクター(Sporobacter)、スポラセチゲニウム(Sporacetigenium)、ルミノコッカス、ロゼブリア、プロテウス属、プロピオニバクテリウム属、ロイコノストック属、ワイセラ、ペディオコッカス、連鎖球菌、プレボテラ属、パラバクテロイデス属(Parabacteroides)、パピリバクター属(Papillibacter)、オシロスピラ属、メリソコッカス属、ドレア属(Dorea)、ジアリスタ属、クロストリジウム属、セデセア属、カテニバクテリウム属、ブチリビブリオ属、ブティアウクセラ属、ブレイディア属(Bulleidia)、ビロフィラ属、バクテロイデス属、アナエロボラックス、アネロスティペス属(Anaerostipes)、アナエロフィルム、腸内細菌科、ファーミキューテス門、アトポビウム属、アリスティペス、アシネトバクター属、スラッキー(Slackie)、シゲラ、シュワネラ、セラチア、マヘラ(Mahella)、ラクノスピラ、莢膜桿菌、イディオマリナ(Idiomarina)、フソバクテリウム、フィーカリバクテリウム属、真正細菌、腸球菌、エンテロバクター、エガセラ属、ジソスモバクター(Dysosmobacter)、アナエロバクチリクム(Anaerobutyricum)またはアナエロバクテリウム(Anaerobacterium)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
好ましいプロバイオティック株は、アッカーマンシア・グリカニフィラ(glycaniphila)、E. halii、ラクトバチルス、ラクチカゼイバチルス、ラクトコッカス、ビフィドバクテリウム属、クリステンセネラ、クロストリジウム、アナエロスティペス(Anaerostipes)、フィーカリバクテリウム属、真正細菌、腸球菌、エンテロバクター、エガセラ属、ジソスモバクター(Dysosmobacter)、アナエロバクチリクム(Anaerobutyricum)またはアナエロバクテリウム(Anaerobacterium)である。
【0060】
本発明において使用することができる原核生物の菌株または種の例としては、古細菌、ファーミキューテス門、ベルコミクロビウム門、クリステンセネラ属、バクテロイデス門(例えば、アリスティペス属、バクテロイデス-オバータス、バクテロイデス-スプランクニクス(Bacteroides splanchnicus)、バクテロイデス-ステルコリス(Bacteroides stercoris)、パラバクテロイデス門、プレボテラ・ルミニコラ、ポルフィロモンダケアエ(Porphyromondaceae)、および関連属など)、プロテオバクテリア門、ベータプロテオバクテリア(例えば、アクアバクテリウム(Aquabacterium)およびバークホルデリア属)、ガンマプロテオバクテリア(例えば、キサントモナス科)、放線菌門(例えば、放線菌科およびアトポビウム属など)、フソバクテリウム門、メタノバクテリウム綱、スピロヘータ、フィブロバクター門、デフェリバクター科、デイノコッカス、テルムス、藍藻類、メタノブレビバクター属、 ペプトストレプトコッカス属、ルミノコッカス属、コプロコッカス、サブドリグラヌルム(Subdoligranulum)、ドレア属(Dorea)、ブレイディア(Bulleidia)、アナエロフスティス、ゲメラ属、ロゼブリア、ジアリスタ属、アナエロトランカス(Anaerotruncus)、ブドウ球菌、単球菌、プロピオニバクテリウム属、腸内細菌科、フィーカリバクテリウム属、バクテロイデス、パラバクテロイデス属(Parabacteroides)、プレボテラ属、真正細菌、桿菌(例えば、ラクトバチルス-サリヴァリゥスおよび関連種、アエロコッカス属、グラヌリカテラ属(Granulicatella)、ストレプトコッカス・ボビスおよび関連属、およびストレプトコッカス・インターメディウスおよび関連属など)、クロストリディウム属(例えば、アナエロブチリカム・ハリイ(Anaerobutyricum hallii)、ユーバクテリウム-リモスム、アナエロブチリカム・ソーンゲニ(Anaerobutyricum soehngenii)および関連属など)、およびブチリビブリオ属が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
本発明において使用され得る真菌プロバイオティック菌株または種、好ましくは酵母プロバイオティック菌株または種の例としては、子嚢菌、接合菌および不完全菌類、好ましくはアスペルギルス、トルロプシス、ザイゴサッカロミセス属、ハンゼヌラ、カンジダ、サッカロミセス、クラヴィスポラ(Clavispora)、ブレタノマイセス属、ピキア、アミロミセス、ザイゴサッカロミセス属、エンドミセス属、ハイフォピキア(Hyphopichia)、ザイゴサッカロミセス属、クリベロマイセス、ケカビ、クモノスカビ、ヤロウイア属、エンドマイセス属、デバリオマイセス属、および/またはアオカビ属の群から選択されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
本発明の一実施形態において、組成物、医薬組成物、化粧品組成物、または医薬品に含まれる唯一の微生物株または種、好ましくは細菌株、または種は、アッカーマンシア・ムシニフィラである。
【0063】
本発明の一実施形態では、組成物、医薬組成物、化粧品組成物、または医薬品は、低温殺菌したアッカーマンシア・ムシニフィラを含む。
【0064】
本発明の一実施形態において、組成物、医薬組成物、化粧品組成物、または医薬品は、プレバイオティクスをさらに含む。
【0065】
本発明において使用することができるプロバイオティクスの例としては、ポリフェノール、イヌリンおよびイヌリン型フルクタン、フラクトオリゴ糖、β-グルカン、キシロース、アラビノース、アラビノキシラン、リボース、ガラクトース、ラムノース、セロビオース、果糖、ラクトース、サリシン、ショ糖、グルコース、エスクリン、ツイン80、トレハロース、マルトース、マンノース、メリビオース、粘液またはムチン、ラフィノース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ポリフェノール、アミノ酸、アルコール、発酵性炭水化物、およびそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
プレバイオティクスの他の例としては、水溶性セルロース誘導体、水不溶性セルロース誘導体、未加工オートミール、メタムシル、ふすま、およびそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
水溶性セルロース誘導体の例としては、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カチオン性ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびカルボキシメチルセルロースなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
本発明の組成物は、経口投与、直腸内投与、食道胃十二指腸内視鏡検査による投与、結腸内視鏡検査による投与、経鼻胃管または経口胃管を使用した投与により投与することができる。
【0069】
組成物は、錠剤、丸薬、カプセル剤、ソフトゼラチンカプセル剤、糖衣錠、または散剤、発泡錠、または他の固形物として経口投与することができる。
【0070】
組成物は、液体、飲用液、またはリポソームとして経口投与することができる。
【0071】
一実施形態において、本発明の組成物は、意図される投与経路に関して選択される賦形剤、希釈剤および/または担体をさらに含む。賦形剤、希釈剤および/または担体の例としては、水、リン酸緩衝食塩水、嫌気性リン酸緩衝食塩水、重炭酸ナトリウム、ジュース、牛乳、ヨーグルト、乳児用調製粉乳、乳製品、着色料、例えば二酸化チタン(E171)、二酸化鉄(E172)、ブリリアントブラックBN(E151)など;香味料; 増粘剤、例えばモノステアリン酸グリセロールなど;甘味料;コーティング剤、例えば、精製菜種油、大豆油、落花生油、大豆レシチンまたは魚ゼラチンなど;希釈剤、例えばラクトース、一水和ラクトースまたはデンプンなど;結合剤、例えば、ポビドン、アルファ化デンプン、ガム、ショ糖、ポリエチレングリコール(PEG)4000またはPEG6000など;崩壊剤、例えば、微結晶セルロースまたはデンプングリコール酸ナトリウムタイプAなどのデンプングリコール酸ナトリウムなど;潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウムなど;流動剤、例えばコロイド状無水シリカなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0072】
本発明の一実施態様において、本発明の組成物は医薬組成物である。
【0073】
別の実施形態では、本発明の組成物は、食品添加物、飲料添加物、栄養補助食品、栄養製品、医療用食品、または栄養補助食品組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【
図1A】
図1Aおよび
図1Bは、対照群(vehicle)または低温殺菌したアッカーマンシア(pAkk)を12週間経口投与した後の十二指腸収縮を、(
図1A)結腸機械的収縮頻度の生体外測定、および(
図1B)結腸機械的収縮振幅の生体外測定で、**p≦0.01対HFD群(vehicle)で例示したものである。関連付けられるp値はt検定を使用して求めた。
【
図1B】
図1Aおよび
図1Bは、対照群(vehicle)または低温殺菌したアッカーマンシア(pAkk)を12週間経口投与した後の十二指腸収縮を、(
図1A)結腸機械的収縮頻度の生体外測定、および(
図1B)結腸機械的収縮振幅の生体外測定で、**p≦0.01対HFD群(vehicle)で例示したものである。関連付けられるp値はt検定を使用して求めた。
【
図2】
図2は、対照群(vehicle)またはpAkkを12週間経口投与した後の、腸のグルコース吸収を、空腸の外翻した嚢における生体外グルコース吸収で、*p≦0.05対HFD群(vehicle)で例示したものである。関連付けられるp値はt検定を使用して求めた。
【
図3A】
図3Aおよび
図3Bは、6時間絶食させたマウスに対照群(vehicle)またはpAkkを経口投与した後の血糖恒常性を、血糖値(
図3A)および投与11週目のインスリン血症(mU/L)×血糖値(mmol/L)122,5として計算されるHOMA指数(
図3B)で、*p≦0.05対HFD群(vehicle)で例示したものである。p値はt検定を使用して求めた。
【
図3B】
図3Aおよび
図3Bは、6時間絶食させたマウスに対照群(vehicle)またはpAkkを経口投与した後の血糖恒常性を、血糖値(
図3A)および投与11週目のインスリン血症(mU/L)×血糖値(mmol/L)122,5として計算されるHOMA指数(
図3B)で、*p≦0.05対HFD群(vehicle)で例示したものである。p値はt検定を使用して求めた。
【発明を実施するための形態】
【0075】
図面の詳細な説明
【0076】
図1Aおよび
図1B、
図2、ならびに
図3Aおよび
図3Bは、高脂肪食飼育マウス(以下、「HFD」と略記)において、十二指腸の収縮、空腸レベルでのグルコース吸収に対する、低温殺菌したアッカーマンシア・ムシニフィラ(図中では「pAkk」と略記)の投与の生体内の効果を示している。
【0077】
9週齢の雄C57BL/6Jマウス(フランス、ラルブレルに所在するCharles River Laboratory)は、到着後少なくとも5日間の馴化期間を置いた。実験期間中にわたって、動物は換気された強化ケージ(48x37.5x21cm3)に収容された。動物のケージは毎週1回交換した。マウスは5匹1群に分け、通常の光サイクル(午後7時消灯)、22±2℃、相対湿度50±10%で飼育した。飼育パラメータは毎日記録された。馴化期には、標準飼料(RM1(E)801492,SDS)および水道水を自由摂取させた。実験外段階(12週間)では、高脂肪食45%(研究食#12451)(HFD群)および水道水を自由摂取させた。マウスに毎日180μLの群(vehicle)、または180μLの低温殺菌したアッカーマンシア・ムシニフィラ溶液(1.18*109細菌細胞/日/マウス)を経口投与し、12週間のHFD投与を行った。
【0078】
十二指腸の収縮:投与終了後、十二指腸切片を切除し、洗浄し、酸素添加クレブス-リンゲル溶液中において37℃で、30分間インキュベートし、等張性トランスデューサ(イタリアのコメーリオに所在するHugo Basile社製MLT7006等張性トランスデューサ)に取り付け、37℃に維持された同じ培地の浴槽に浸した。レバーにかかる荷重は1g(10mN)であった。
【0079】
等張性収縮は、トランスデューサの変位に従ってLabchartソフトウェア(AD Instruments)で記録された。腸管切片を取り付けた後に、収縮を15分間記録した。基礎収縮は、収縮の振幅および頻度の平均値で示した。
【0080】
十二指腸および空腸のグルコース吸収:2時間の絶食後、十二指腸および空腸を摘出し、洗浄し、外翻し、グルコースを含まないクレブス-リンゲル液で満たした。外翻した十二指腸嚢を、10g/Lのグルコースを含むクレブス-リンゲル中で37℃、2分間インキュベートした。各十二指腸嚢の培地は、その後のグルコース定量試験のために続いて採取され、直ちに凍結された。グルコースはGlucose GOD FS 10’キット(フランスに所在するDiaSys社)を使用して測定した。
【0081】
糖尿病は一般に、高血糖およびインスリン抵抗性を助長する腸の過収縮に関連付けられる。
【0082】
驚くべきことに、HFDマウスにpAkkを毎日経口投与すると、HFD群(vehicle)と比較して、十二指腸の振幅の過剰収縮を有意に減少させることができた(
図1)。
【0083】
しかしながら、十二指腸の収縮頻度には有意な効果は認められなかった。この十二指腸振幅収縮の影響は、HFD群と比較したpAkk群に対する空腸グルコース吸収の有意な減少(
図2)、空腹時血糖およびインスリン抵抗性(HOMA指数)の減少(
図3)の両者に関連付けられる。
図面の英語表現の翻訳
【0084】
【国際調査報告】