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特表2024-531386ヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地及び培養方法
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  • 特表-ヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地及び培養方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】ヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地及び培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/02 20060101AFI20240822BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20240822BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C12N5/02
C12N5/09
C12Q1/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510330
(86)(22)【出願日】2021-08-31
(85)【翻訳文提出日】2024-04-18
(86)【国際出願番号】 CN2021115503
(87)【国際公開番号】W WO2023019638
(87)【国際公開日】2023-02-23
(31)【優先権主張番号】202110959221.1
(32)【優先日】2021-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522178669
【氏名又は名称】合肥中科普瑞昇生物医▲薬▼科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110003845
【氏名又は名称】弁理士法人籾井特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 青松
(72)【発明者】
【氏名】赫 玉影
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 程
(72)【発明者】
【氏名】黄 涛
(72)【発明者】
【氏名】任 涛
(72)【発明者】
【氏名】王 文超
(72)【発明者】
【氏名】王 黎
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ20
4B063QR77
4B063QS24
4B065AA93X
4B065BB12
4B065BB19
4B065BC01
4B065CA60
(57)【要約】
ヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地及び培養方法が提供される。ヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地は、グルタミン添加剤、非必須アミノ酸、ヒトインターロイキン-6、ヒトインターロイキン-7、ヒトインターロイキン-3、組換えヒトFLT3リガンド、組換えヒトマクロファージコロニー刺激因子、及びヒト幹細胞因子を含む。上記培養培地及び培養方法を使用することにより、急性骨髄性白血病細胞をより高い増幅効率で、より長いin-vitro培養時間にて培養することができる。また、この培養培地を使用することによりin vitroで培養されたヒト初代急性骨髄性白血病細胞、並びに薬物の治癒効果評価及びスクリーニングのためのその使用も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタミン添加剤、非必須アミノ酸、ヒトインターロイキン-6、ヒトインターロイキン-7、ヒトインターロイキン-3、組換えヒトFLT3リガンド、組換えヒトマクロファージコロニー刺激因子、及びヒト幹細胞因子を含むことを特徴とする、ヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地。
【請求項2】
前記ヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地は、以下の条件:
(1)前記培養培地中の前記グルタミン添加剤の量が0.5mM~4mMであること、
(2)前記非必須アミノ酸がグリシン、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、及びセリンからなる群から選択される1つ以上であり、かつ前記培養培地中の前記非必須アミノ酸の量が12.5μM~200μMであること、
(3)前記培養培地中のヒトインターロイキン-6の量が1.89ng/mL~17ng/mLであること、
(4)前記培養培地中のヒトインターロイキン-7の量が1.89ng/mL~51ng/mLであること、
(5)前記培養培地中のヒトインターロイキン-3の量が1.89ng/mL~153ng/mLであること、
(6)前記培養培地中の前記組換えヒトFLT3リガンドの量が3ng/mL~81ng/mLであること、
(7)前記培養培地中の前記組換えヒトマクロファージコロニー刺激因子の量が1ng/mL~81ng/mLであること、
(8)前記培養培地中の前記ヒト幹細胞因子の量が1ng/mL~81ng/mLであること、
のいずれか1つ以上又は全てを満たすことを特徴とする、請求項1に記載のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地。
【請求項3】
単球無血清培地及びRPMI-1640からなる群から選択される初発培地と、ウシ胎児血清と、ストレプトマイシン/ペニシリン、アムホテリシンB、及びプリモシンからなる群から選択される1つ以上の抗生物質とを含む基礎培地を更に含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地。
【請求項4】
ヒト初代急性骨髄性白血病細胞を培養する方法であって、前記ヒト初代急性骨髄性白血病細胞を、請求項1~3のいずれか一項に記載のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地を使用して培養することを特徴とする、方法。
【請求項5】
ヒト初代急性骨髄性白血病用の薬物をスクリーニング又は効力評価する方法であって、
(1)前記ヒト初代急性骨髄性白血病細胞を、請求項4に記載のヒト初代急性骨髄性白血病細胞を培養する方法により培養する工程と、
(2)試験対象の薬物を選択し、その薬物を様々な濃度勾配へと希釈する工程と、
(3)希釈した前記薬物を工程(1)において培養して得られた前記細胞に加え、細胞生存率を検出する工程と、
を含むことを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養技術の分野、特にヒト初代急性骨髄性白血病(AML)細胞をin vitroで培養する初代細胞培養培地、この培養培地を使用してヒト初代急性骨髄性白血病細胞を培養する方法、並びに薬物の効力評価及びスクリーニングにおけるそれらの適用に関する。
【背景技術】
【0002】
急性骨髄性白血病(AML)は、造血系における骨髄芽球のクローン性悪性増殖性血液疾患である。AMLは、生物学的かつ予後的に異なるサブタイプを有する進行性の高度に異質遺伝型の疾患(highly allogenic disease)である。毎年100000人当たり1人~5人がAMLに罹り、全ての新規白血病症例の30%~40%を占める。AMLは、致死性が最も高い白血球疾患であり、予後及び生存率(5年で26%未満)が最悪であり、これは1970年代以来改善されていない(非特許文献1)。
【0003】
AML幹細胞は耐性を獲得し、再発した白血病サブクローンを媒介するため、AML幹細胞は、現在まで白血病研究の主な焦点となっている。研究作業には、典型的にはAML幹細胞の培養が必要とされる。AML幹細胞の培養は、AML幹細胞の集団内の異種性と、多くの患者が、分化しやすくin vitroでその自己複製能力を失いやすい成長の悪い細胞を有するという事実とにより困難を伴う。さらに、初代AML患者の試料を入手することが困難である場合があり、形質転換細胞系統とは異なり、これらはin vitroで無限に拡大増殖することができない。in vivoの異種移植モデルは、ヒトAML細胞の拡大増殖を可能にするが、多数の細胞(マウス当たり10個を超える細胞)を必要とし、AML細胞の維持を支持しない。一方、骨髄(BM)由来の間葉系間質細胞(MSC)又は間質細胞系統との共培養は、AML幹細胞の保存には役立つことができるが、フィーダー細胞の培養はハイスループット薬物スクリーニング又は適応試験には適していない。
【0004】
したがって、この分野において、間質細胞との共培養を行わずにヒト初代急性骨髄性白血病細胞を長期的に迅速に拡大増殖させる培養培地及び培養方法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hanyang Lin, et al.著の「急性骨髄性白血病及び慢性骨髄性白血病の幹細胞/前駆細胞に対する薬物の効果を測定するフィーダーフリーかつ無血清のin vitroアッセイ(Feeder-free and serum-free in vitro assay for measuring the effect of drugs on acute and chronic myeloid leukemia stem/progenitor cells)」, Experimental Hematology 2020; 90: 52-64
【発明の概要】
【0006】
上記の技術的課題を解決するのに、本発明は、ヒト初代急性骨髄性白血病細胞をin vitroで迅速に拡大増殖させる培養培地及び培養方法を提供する。
【0007】
本発明の一態様は、ヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地であって、グルタミン添加剤、非必須アミノ酸(複数の場合もある)、ヒトインターロイキン-6(ヒトIL-6)、ヒトインターロイキン-7(ヒトIL-7)、ヒトインターロイキン-3(ヒトIL-3)、組換えヒトFLT3リガンド(ヒトFLT3L)、組換えヒトマクロファージコロニー刺激因子(ヒトM-CSF)、及びヒト幹細胞因子(ヒトSCF)を含む、培養培地を提供することである。
【0008】
本発明の好ましい態様において、ヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地は、以下の条件:
(1)培養培地中のグルタミン添加剤の量が好ましくは0.5mM~4mMであること、
(2)非必須アミノ酸がグリシン、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、及びセリンからなる群から選択される1つ以上であり、かつ培養培地中の非必須アミノ酸の量が好ましくは12.5μM~200μMであること、
(3)培養培地中のヒトIL-6の量が好ましくは1.89ng/mL~17ng/mLであること、
(4)培養培地中のヒトIL-7の量が好ましくは1.89ng/mL~51ng/mLであること、
(5)培養培地中のヒトIL-3の量が好ましくは1.89ng/mL~153ng/mLであること、
(6)培養培地中のヒトFLT3Lの量が好ましくは3ng/mL~81ng/mLであること、
(7)培養培地中のヒトM-CSFの量が好ましくは1ng/mL~81ng/mLであること、
(8)培養培地中のヒトSCFの量が好ましくは1ng/mL~81ng/mLであること、
のいずれか1つ以上又は全てを満たす。
【0009】
別の好ましい実施の形態において、本発明のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地は、単球無血清培地及びRPMI-1640からなる群から選択される初発培地と、5%~10%(容量/容量)のウシ胎児血清と、ストレプトマイシン/ペニシリン、アムホテリシンB、及びプリモシンからなる群から選択される1つ以上の抗生物質とを含む基礎培地を更に含む。詳細には、ストレプトマイシン/ペニシリンを使用する場合、ストレプトマイシンの濃度範囲は25μg/mL~400μg/mL、好ましくは50μg/mL~200μg/mLであり、ペニシリンの濃度範囲は25U/mL~400U/mL、好ましくは50U/mL~200U/mLであり、アムホテリシンBを使用する場合、濃度範囲は0.25μg/mL~4μg/mL、好ましくは0.5μg/mL~2μg/mLであり、プリモシンを使用する場合、濃度範囲は25μg/mL~400μg/mL、好ましくは50μg/mL~200μg/mLである。
【0010】
一方、本発明はまた、本発明のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地を使用してヒト初代急性骨髄性白血病細胞をin vitroで培養する工程を含む、ヒト初代急性骨髄性白血病細胞をin vitroで培養する方法を提供する。
【0011】
好ましい実施の形態において、本発明のヒト初代急性骨髄性白血病細胞をin vitroで培養する方法は、以下の工程を含む:
【0012】
1.ヒト初代急性骨髄性白血病細胞を分離及び処理する工程
(1)急性骨髄性白血病を患う患者からの骨髄試料を1200rpm~1600rpmで2分間~6分間遠心分離する。
(2)遠心分離後に、上層の血漿層を捨て、血球沈殿物に血球沈殿物の量の2倍~3倍の量で1×PBSを加えて希釈し、これらを入念に混合し、上記の希釈された血球沈殿物に6mL~8mLのヒト末梢血リンパ球分離培地を加え、得られたものを380g~420gの速度、1~2の加速度、0の減速度、20℃~28℃の温度、及び25分間~35分間の遠心分離時間で遠心分離する。
(3)遠心分離して遠心分離チューブ内に層を形成した後、リンパ球層を3mL~6mLの1×PBS中に吸引し、これらをよく混合して細胞を洗浄し、次いで1200rpm~1600rpmの速度で2分間~6分間遠心分離する。
(4)上清を捨て、赤血球溶解バッファーを加えて細胞ペレットを再懸濁し、15分間~20分間溶解し、1200rpm~1600rpmで2分間~6分間遠心分離する。
(5)遠心分離後に上清を捨て、後で使用するために基礎培地を加える。
【0013】
2.本発明のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地を使用して細胞を培養する工程
上記工程1において得られたヒト初代急性骨髄性白血病細胞を、本発明のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地中に再懸濁し、細胞を計数し、細胞を1cm当たり1×10個~4×10個の細胞の密度で培養皿に接種し、細胞が成長して培養皿の90%を覆ったときに細胞を継代する。
【0014】
更に別の態様において、本発明の培養方法により得られた細胞を、再生医療、急性骨髄性白血病細胞に関する基礎医学研究、薬物応答のスクリーニング、及び急性骨髄性白血病用の新薬の開発に使用することができる。したがって、本発明はまた、ヒト初代急性骨髄性白血病用の薬物をスクリーニング又は効力評価する方法であって、
(1)ヒト初代急性骨髄性白血病細胞を、本発明のヒト初代急性骨髄性白血病細胞を培養する方法により培養する工程と、
(2)試験対象の薬物を選択し、その薬物を様々な濃度勾配へと希釈する工程と、
(3)希釈した薬物を工程(1)において培養して得られた細胞に加え、細胞生存率を検出する工程と、
を含む、方法を提供する。
【0015】
本発明の技術的解決策は、以下の技術的効果を達成することができる:
(1)ヒト初代急性骨髄性白血病細胞を培養する成功率が向上し、80%以上の成功率となる。
(2)in vitroで培養されたヒト初代急性骨髄性白血病細胞は、患者の病理学的特徴を確実に維持する。
(3)ヒト初代急性骨髄性白血病細胞は高い効率で拡大増殖され、10個のレベルの細胞数の開始から約1週間以内に10個の規模のヒト初代急性骨髄性白血病細胞の拡大増殖に成功し、拡大増殖されたヒト初代急性骨髄性白血病細胞は連続継代能力を有する。
(5)培養培地がWntアゴニスト、R-スポンジンファミリータンパク質、BMP阻害剤、FGF10等の高価な因子を必要としないため、培養コストを抑えることができる。
(6)本技術は、ヒト初代急性骨髄性白血病細胞を大量にかつ高い均一性をもって培養し、提供することができ、これは新しい候補化合物のハイスループットスクリーニング及び患者についてのin vitroでのハイスループット薬物感受性機能的試験に適している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】様々な組合せの添加された因子がヒト初代急性骨髄性白血病細胞の増殖に対して及ぼす効果を示すグラフである。
図2-1】様々な濃度のそれぞれの添加された因子がヒト初代急性骨髄性白血病細胞の増殖に対して及ぼす効果を示すグラフである。
図2-2】様々な濃度のそれぞれの添加された因子がヒト初代急性骨髄性白血病細胞の増殖に対して及ぼす効果を示すグラフである。
図3】本発明のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地を使用して培養したヒト初代急性骨髄性白血病細胞の顕微鏡下で撮影した写真である。
図4】本発明のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地を使用して培養したヒト初代急性骨髄性白血病細胞のフローサイトメトリーによる特定の結果を示す画像である。
図5】本発明のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地を使用してin vitroで培養したヒト初代急性骨髄性白血病細胞の細胞成長曲線である。
図6】本発明のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地及び従来技術の培養培地を使用したヒト初代急性骨髄性白血病細胞の培養の比較グラフである。
図7】様々な薬物についての、本発明のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地を使用して培養したヒト初代急性骨髄性白血病細胞の様々な継代物の用量-応答曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明をよりよく理解するために、本発明を実施例及び図面と組み合わせて以下に更に説明する。以下の実施例は本発明の例示を目的とするものであるにすぎず、定義を目的とするものではない。
【0018】
実施例1.ヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地中のそれぞれの添加された因子がヒト初代急性骨髄性白血病細胞の増殖に対して及ぼす効果
(1)ヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地の調製
最初に、基礎培地を調製した。基礎培地の配合は、単球無血清培地(BIから購入、05-080-1A)+10%(容量/容量)のウシ胎児血清(ExCell Bioから購入、FND500)+100μg/mLのプリモシン(InvivoGenから購入、0.2%(容量/容量)、市販製品の濃度は50mg/mLである)であった。
【0019】
基礎培地に様々な種類の成長因子(表1を参照)を加えて、様々な添加された成分を含むヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地を調製した。
【0020】
(2)ヒト初代急性骨髄性白血病細胞の分離及び処理
1 試料の選択
骨髄試料は専門医療機関の専門医療スタッフによってAML患者から取得され、全ての患者がインフォームドコンセントフォームに署名している。3mL~10mLの骨髄試料をEDTA-K2抗凝固剤チューブ(製造業者:Jiangsu Rongye)内に保存し、4℃~8℃で冷蔵輸送した。
【0021】
2 材料の調製
表面の滅菌後、15mLの滅菌遠心分離チューブ、ピペッター、10mLのピペット、及び滅菌ピペットチップを超清浄なワークベンチに入れ、30分間紫外線照射に曝した。1×PBSを30分前に4℃の冷蔵庫から取り出した。
【0022】
3 試料の分離
3.1 超清浄なワークベンチ内で、骨髄試料を上下にピペッティングすることにより混合し、15mLの遠心分離チューブに移し、室温にて1500rpmで4分間遠心分離した。
【0023】
3.2 6mLのヒト末梢血リンパ球分離培地(Solarbioから購入、P8610)を新しい15mLの遠心分離チューブに加え、骨髄試料の遠心分離後、上層の血漿層を捨て、血球沈殿物の量の2倍~3倍の量の1×PBSを血球沈殿物に加えて希釈し、入念に混合し、液体表面を澄明に保つように注意を払いながら、希釈した血液を遠心分離チューブの壁に沿って分離培地層の表面にゆっくりと載せ、骨髄試料混合物の遠心分離チューブを静かに遠心分離機に入れ、400gで30分間遠心分離した(加速度:2、減速度:0、温度:25℃)。
【0024】
3.3 遠心分離後、遠心分離チューブ内の細胞は頂部から底部へと4層(PBS層、リング形状の乳白色のリンパ球層、分離培地層、及び赤血球層)に分離し、リンパ球層を、5mLの1×PBSが予め添加された15mLの遠心分離チューブ内に円を描くようにピペットで移し、得られたものを優しく混合して細胞を洗浄し、室温にて1500rpmで5分間遠心分離した。
【0025】
3.4 上清を捨て、得られたものを観察して血球が存在するかどうかを判定し、血球が存在する場合は、8mLの赤血球溶解バッファー(Sigmaから購入、R7757-100ML)を加えた後に、これをよく混合し、プロセス中に1回逆混合して4℃で20分間溶解し、得られたものを室温にて1500rpmで4分間遠心分離した。
【0026】
3.5 上清を捨て、得られたものに2mLの基礎培地を加えて、後で使用するために細胞を再懸濁した。
【0027】
4 細胞の計数及び処理
4.1 生細胞計数:12μLの再懸濁した細胞懸濁液を12μLのトリパンブルー色素(Sangon Biotech (Shanghai) Co., Ltd.)と完全に混合した後に、20μLの混合物を細胞計数プレート(Countstar、仕様:1箱当たり50個)に加え、生存大型細胞(10μmを超える細胞サイズ)のパーセンテージを、セルカウンター(Countstar、IC1000)を使用して計算した(生存大型細胞(10μmを超える細胞サイズ)のパーセンテージ=生細胞の数/細胞の総数×100%)。
【0028】
(3)ヒト初代急性骨髄性白血病細胞の培養
表1における様々な組成の培養培地を1ウェル当たり100μLの量で96ウェルプレートに加えた。上記の工程(2)に従って、2例のヒト初代急性骨髄性白血病骨髄試料(安徽医科大学第一附属医院(First Affiliated Hospital of Anhui Medical University)からのA17007、A25104と付番されたもの)から分離されたヒト初代急性骨髄性白血病細胞を1ウェル当たり1×10個の細胞の密度で96ウェル培養プレートに接種し、37℃及び5%のCOで培養した。5日間~8日間の培養後、細胞は70%~85%まで成長し、10μLのCell Counting Kit-8(CCK-8、MCEから購入)を各ウェルに加え、37℃及び5%のCOで2時間~4時間インキュベートした。各ウェル内の物質を混合し、多機能マイクロプレートリーダー(マルチモード検出プラットフォーム、American Molecular Instruments (Shanghai) Co., Ltd.)を使用してプレートを450nmで読み取った。添加物を一切加えていない基礎培地をコントロールとして使用した。実験結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
表中、「+」は、基礎培地と比較して、添加剤を加えた培養培地が、ヒト初代急性骨髄性白血病骨髄試料から分離された2例のヒト初代急性骨髄性白血病細胞の増殖を促進し得ることを示し、「-」は、添加剤を加えた培養培地が、ヒト初代急性骨髄性白血病骨髄試料から分離された少なくとも1例のヒト初代急性骨髄性白血病細胞の増殖を促進し得ることを示し、「○」は、添加剤を加えた培地が、ヒト初代急性骨髄性白血病骨髄試料から分離された少なくとも2例のヒト初代急性骨髄性白血病細胞の増殖に顕著な効果を有しないことを示す。
【0031】
上記の結果に基づき、ヒトIL-7、ヒトIFN-α、ヒトM-CSF、ヒトSCF、ヒトIL-6、グルタミン添加剤、ヒトFLT3L、ヒトIL-3、及び非必須アミノ酸等の因子を実施例2における更なる培養実験のために選択した。
【0032】
実施例2.ヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地中の様々な組合せの添加された因子がヒト初代急性骨髄性白血病細胞の増殖に対して及ぼす効果
様々な組合せの添加された因子を含むヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地を表2における成分に従って調製して、添加された因子の様々な組合せがヒト初代急性骨髄性白血病細胞に対して及ぼす増殖促進効果を調査した。
【0033】
【表2】
【0034】
ヒト初代急性骨髄性白血病細胞を、実施例1の工程(2)-3のプロセスに従って、ヒト初代急性骨髄性白血病骨髄試料(A17151、A17152、A20090、A20101、A21004、A20141と付番されたもの)から取得した。取得した細胞懸濁液を11個の部分に等分した後に、これらを1500rpmで4分間遠心分離した。遠心分離後、細胞をそれぞれ200μLのBM又は番号1~番号10の培養培地で再懸濁し、1ウェル当たり2×10個の細胞の生細胞密度(1ウェル当たり20000個の細胞)で48ウェルプレートに接種した。48ウェルプレート内の各ウェルに、対応する培養培地を1mLの容量まで補充し、得られたものを完全に混合した。表面の消毒後、プレートを37℃、5%のCOのインキュベーター(Thermo Fisherから購入)内に入れて培養した。
【0035】
48ウェルプレート内の細胞は85%超まで成長し、これらを15mLの遠心分離チューブに移した後に、これを1500rpmで5分間遠心分離した。500μLの単球無血清培地を遠心分離チューブに加えて、細胞ペレットを再懸濁した。12μLの再懸濁した細胞懸濁液を12μLのトリパンブルー色素(Sangon Biotech (Shanghai) Co., Ltd.)と完全に混合した後に、20μLの混合物を細胞計数プレート(Countstar、仕様:1箱当たり50個)に加えた。生存大型細胞(10μmを超える細胞サイズ)のパーセンテージを、セルカウンター(Countstar、IC1000)を使用して計算した(生存大型細胞(10μmを超える細胞サイズ)のパーセンテージ=生細胞の数/細胞の総数×100%)。骨髄試料A17151、A17152、A20090、A20101、A21004、及びA20141のヒト初代急性骨髄性白血病細胞から得られた結果を図1に示す。
【0036】
図1における結果によれば、基礎培地と比較して、番号1~番号10の培養培地を使用すると、程度の差こそあれヒト初代急性骨髄性白血病細胞の増殖が促進され得ることが分かる。番号2の培養培地の配合はヒトIFN-αを含まず、これにより、驚くべきことにより良好な増殖効果がもたらされる。これらの結果は、グルタミン添加剤、ヒトSCF、ヒトIL-6、ヒトIL-3、ヒトFLT3L、非必須アミノ酸、ヒトIL-7、及びヒトM-CSF等の因子がヒト初代急性骨髄性白血病細胞の増殖を大幅に促進し得ることを示している。
【0037】
実施例3.様々な濃度の添加された因子がヒト初代急性骨髄性白血病細胞に対して及ぼす増殖効果
ヒト初代急性骨髄性白血病細胞を、実施例1の工程(2)-3のプロセスに従って、ヒト初代急性骨髄性白血病骨髄試料(A23065、A17112と付番されたもの)から得た。これらの細胞を、後で使用するために基礎培地(単球無血清培地+10%(容量/容量)のウシ胎児血清+100μg/mLのプリモシン)で再懸濁した。
【0038】
次に、基礎培地(実施例2の番号2の配合に従って調製)に、実施例2において決定された細胞培養増殖促進効果を有する因子を加えて組合せ基礎培地を得た後に、以下の8種類の培養培地の配合を実験用に調製した:
配合1:グルタミン添加剤を含まない組合せ基礎培地、
配合2:ヒトSCFを含まない組合せ基礎培地、
配合3:ヒトIL-6を含まない組合せ基礎培地、
配合4:ヒトIL-3を含まない組合せ基礎培地、
配合5:ヒトFLT3Lを含まない組合せ基礎培地、
配合6:非必須アミノ酸を含まない組合せ基礎培地、
配合7:ヒトIL-7を含まない組合せ基礎培地、
配合8:ヒトM-CSFを含まない組合せ基礎培地。
【0039】
4×10個の細胞を含む20μlの細胞懸濁液を各ウェルに加え、懸濁液を上記の配合1~配合8の1mLの培地でそれぞれ希釈した。
【0040】
配合1の培養培地を使用する場合、調製されたグルタミン添加剤を、初代細胞を接種した48ウェルプレートに1ウェル当たり1mLでそれぞれ加え、グルタミン添加剤の最終濃度は、それぞれ0.5mM、1mM、2mM、4mM、8mMであり、配合1の培養培地を使用してブランクコントロール(BC)のウェルを用意した。
【0041】
配合2の培養培地を使用する場合、調製されたヒトSCFを、初代細胞を接種した48ウェルプレートに1ウェル当たり1mLでそれぞれ加え、ヒトSCFの最終濃度は、それぞれ1ng/mL、3ng/mL、9ng/mL、27ng/mL、81ng/mLであり、配合2の培養培地を使用してブランクコントロール(BC)のウェルを用意した。
【0042】
配合3の培養培地を使用する場合、調製されたヒトIL-6を、初代細胞を接種した48ウェルプレートに1ウェル当たり1mLでそれぞれ加え、ヒトIL-6の最終濃度は、それぞれ1.89ng/mL、5.67ng/mL、17ng/mL、51ng/mL、153ng/mLであり、配合3の培養培地を使用してブランクコントロール(BC)のウェルを用意した。
【0043】
配合4の培養培地を使用する場合、調製されたヒトIL-3を、初代細胞を接種した48ウェルプレートに1ウェル当たり1mLでそれぞれ加え、ヒトIL-3の最終濃度は、それぞれ1.89ng/mL、5.67ng/mL、17ng/mL、51ng/mL、153ng/mLであり、配合4の培養培地を使用してブランクコントロール(BC)のウェルを用意した。
【0044】
配合5の培養培地を使用する場合、調製されたヒトFLT3Lを、初代細胞を接種した48ウェルプレートに1ウェル当たり1mLでそれぞれ加え、ヒトFLT3Lの最終濃度は、それぞれ1ng/mL、3ng/mL、9ng/mL、27ng/mL、81ng/mLであり、配合5の培養培地を使用してブランクコントロール(BC)のウェルを用意した。
【0045】
配合6の培養培地を使用する場合、調製された非必須アミノ酸を、初代細胞を接種した48ウェルプレートに1ウェル当たり1mLでそれぞれ加え、非必須アミノ酸の最終濃度は、それぞれ12.5μM、25μM、50μM、100μM、200μMであり、配合6の培養培地を使用してブランクコントロール(BC)のウェルを用意した。
【0046】
配合7の培養培地を使用する場合、調製されたIL-7を、初代細胞を接種した48ウェルプレートに1ウェル当たり1mLでそれぞれ加え、IL-7の最終濃度は、それぞれ1.89ng/mL、5.67ng/mL、17ng/mL、51ng/mL、153ng/mLであり、配合7の培養培地を使用してブランクコントロール(BC)のウェルを用意した。
【0047】
配合8の培養培地を使用する場合、調製されたヒトM-CSFを、初代細胞を接種した48ウェルプレートに1ウェル当たり1mLでそれぞれ加え、ヒトM-CSFの最終濃度は、それぞれ1ng/mL、3ng/mL、9ng/mL、27ng/mL、81ng/mLであり、配合8の培養培地を使用してブランクコントロール(BC)のウェルを用意した。
【0048】
細胞が48ウェルの約85%まで拡大増殖されたときに、ブランクコントロール(BC)のウェル内の細胞の数を参照することにより増殖倍数を計算し、これらの結果をそれぞれ図2A図2Hに示した。図2A図2Hにおいて、比率は、ブランクコントロールの対応するウェルにおいて培養した初代継代物の細胞の数に対する、各培養培地を使用することにより培養した初代継代物の細胞の数の比である。この比が1より大きければ、様々な濃度の因子又は低分子化合物を含む調製された培養培地の増殖促進効果がブランクコントロールのウェル内の培養培地の増殖促進効果よりも好ましいことを示し、この比が1未満であれば、様々な濃度の因子又は低分子化合物を含む調製された培養培地の増殖促進効果がブランクコントロールのウェル内の培養培地の増殖促進効果よりも低いことを示す。
【0049】
図2A図2Hにおける結果によれば、グルタミン添加剤、ヒトSCF、ヒトIL-6、ヒトIL-3、ヒトFLT3L、非必須アミノ酸、ヒトIL-7、及びヒトM-CSFは、初代ヒト急性骨髄性白血病細胞に対して顕著な増殖促進効果を有する。本実施例の結果によれば、グルタミン添加剤の量は、好ましくは0.5mM~4mMであり、細胞増殖効果は0.5mMの濃度で加えた場合に最も顕著であり、ヒトSCFの量は、好ましくは1ng/ml~81ng/mlであり、細胞増殖効果は9ng/mlの濃度で加えた場合に最も顕著であり、ヒトIL-6の量は、好ましくは1.89ng/ml~17ng/mlであり、細胞増殖効果は5.67ng/mLの濃度で加えた場合に最も顕著であり、ヒトIL-3の量は、好ましくは1.89ng/ml~153ng/mlであり、細胞増殖効果は51ng/mLの濃度で加えた場合に最も顕著であり、ヒトFLT3Lの量は、好ましくは3ng/ml~81ng/mlであり、細胞増殖効果は27ng/mLの濃度で加えた場合に最も顕著であり、非必須アミノ酸の量は、好ましくは12.5μM~200μMであり、細胞増殖効果は50μMの濃度で加えた場合に最も顕著であり、ヒトIL-7の量は、好ましくは1.89ng/ml~51ng/mlであり、細胞増殖効果は17ng/mLの濃度で加えた場合に最も顕著であり、ヒトM-CSFの量は、好ましくは1ng/ml~81ng/mlであり、細胞増殖効果は27ng/mLの濃度で加えた場合に最も顕著である。
【0050】
実施例4.ヒト初代急性骨髄性白血病細胞の培養及び特定
(1)ヒト初代急性骨髄性白血病細胞の培養
ヒト初代急性骨髄性白血病細胞を、実施例1の工程(2)-3のプロセスに従って、ヒト初代急性骨髄性白血病骨髄試料(A17030と付番されたもの)から取得し、本発明のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地(組成は、実施例3において決定された最適な成分及び濃度の組合せであり、すなわち、基礎培地、0.5mMのグルタミン添加剤、9ng/mLのヒトSCF、5.67ng/mLのヒトIL-6、51ng/mLのヒトIL-3、27ng/mLのヒトFLT3L、50μMの非必須アミノ酸、17ng/mLのヒトIL-7、及び27ng/mLのヒトM-CSFを含む)を使用して培養した。得られたヒト初代急性骨髄性白血病細胞を、1ウェル当たり3×10個の細胞の生細胞密度で6ウェルプレートに接種した。このプレートに5mLの本発明のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地を加え、得られたものをよく混合した。表面の消毒後、プレートを37℃、5%のCOのインキュベーター(Thermo Fisherから購入)内に入れて培養した。
【0051】
培養したヒト初代急性骨髄性白血病細胞を顕微鏡(EVOS M500、Invitrogen)下で観察した。図3は、10倍の対物レンズ下で撮影された1日間、4日間、及び7日間の培養物の写真を示している。細胞計数によれば、培養7日後には生細胞の数が3.58倍に増加した。
【0052】
(2)ヒト初代急性骨髄性白血病細胞のフローサイトメトリーによる特定
ヒト初代急性骨髄性白血病細胞を、実施例1の工程(2)-3のプロセスに従って、ヒト初代急性骨髄性白血病骨髄試料(A17014と付番されたもの)から取得し、本発明のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地を使用して培養した。詳細には、得られたヒト初代急性骨髄性白血病細胞を、1ウェル当たり1×10個の細胞の生細胞密度で12ウェルプレートに接種した。このプレートに3mLの本発明の培養培地を加え、得られたものをよく混合した。表面の消毒後、プレートを37℃、5%のCOのインキュベーター(Thermo Fisherから購入)内に入れて培養した。
【0053】
培養前及び7日間の培養後のヒト初代急性骨髄性白血病細胞をそれぞれ15mLの遠心分離チューブに移し、室温にて1500rpmで5分間遠心分離した。上清を捨て、細胞ペレットを2mLの1×PBSで希釈し、1.5mLの遠心分離チューブにおいて2個の部分に等分した後に(一方の部分を、白血球マーカー(APCマウス抗ヒトCD45(BDから購入、560973))及び骨髄系マーカー(BB515マウス抗ヒトCD33(BDから購入、564588))によって二重標識される実験群に使用し、もう一方の部分をコントロール群として使用した)、これらを室温にて1500rpmで5分間遠心分離した。上清を捨て、40μLの0.5%のBSA(1×PBS中で調製)を遠心分離チューブに加えた。次いで、上記の抗体を暗所で細胞に1:40にて加え、よく混合した。コントロール群には抗体を加えなかった。細胞を氷上で1時間~2時間インキュベートした。インキュベートした後、各チューブに1mLの1×PBSを加えて再懸濁及び洗浄し、室温にて1500rpmで5分間遠心分離した。上清を捨て、300μLの1×PBSを加えて細胞ペレットを再懸濁し、フローサイトメトリー(BeckmanのEVOS M500)を使用して、ヒト初代急性骨髄性白血病細胞における培養前及び7日間の培養後の骨髄系マーカーの発現をそれぞれ分析した。
【0054】
図4は、本発明のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地を使用して培養したヒト初代急性骨髄性白血病細胞のフローサイトメトリーによる特定の結果である。図4から、本発明の培地中で培養したヒト初代急性骨髄性白血病細胞の7日間の連続培養後に、骨髄性白血病細胞の割合が16%増加したことを確認することができる。
【0055】
実施例5.ヒト初代急性骨髄性白血病細胞の初代培養期間及び細胞数の統計並びに集団倍加(PD)値の計算
実施例1の工程(2)-3のプロセスに従って、ヒト初代急性骨髄性白血病細胞を、8例のヒト初代急性骨髄性白血病細胞骨髄試料(A23123、A15094、A23133、A23123-2、A23023、A14003、A23124、A09169と付番されたもの)から取得した。取得されたヒト初代急性骨髄性白血病細胞を、1ウェル当たり1×10個の細胞の生細胞密度で12ウェルプレートに接種し、本発明の培地を使用して培養した。5日間~9日間の細胞培養後、細胞を継代し、計数し、継代の時間までの培養日数を培養サイクルと見なした。この実験条件下で、拡大増殖した細胞を様々な継代において拡大増殖させた。各継代後に、細胞を計数し、対応する培養サイクルを記録した。PD値を、集団倍加(PD)=3.32×log10(消化後の細胞の総数/接種された細胞の初期数)の式に従って計算した。この式については、Chapman et al., Stem Cell Research & Therapy 2014, 5: 60を参照のこと。
【0056】
図5は、Graphpad Prismソフトウェアによって描かれた、本発明のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地を使用して培養した8例の初代細胞の成長曲線を示している。横軸は細胞培養日数を表し、縦軸は累積細胞増殖の倍数、すなわち培養サイクルにおける細胞拡大増殖の倍数を表す。この値が大きいほど、或る特定のサイクル内でより高い倍数の細胞が拡大増殖される、すなわちより多くの細胞が拡大増殖される。傾きは細胞の拡大増殖の速度を表す。図5から、本発明の培養培地中で培養したヒト初代急性骨髄性白血病細胞を少なくとも45日間連続的に培養し拡大増殖させた場合、細胞拡大増殖速度は基本的に変化せず、細胞は依然として拡大増殖し続ける能力を有していたことを確認することができる。
【0057】
実施例6.従来技術の培養培地との培養効果の比較
(1)コントロール培養培地の調製
従来技術のコントロール培養培地(Silvia Ravera et al., Scientific Reports, (2020) 10:16519)を、1640培養培地(Corningから購入、10-040-CVR)+10ng/mLのIL-15(Sino Biologicalから購入)+10ng/mLのIL-4(Sino Biologicalから購入)+10%のFBS(excellbioから購入、FND500)の配合で調製した(以下、「コントロール培養培地」と呼称する)。
【0058】
(2)初代ヒト急性骨髄性白血病細胞の取得及び培養
ヒト初代急性骨髄性白血病細胞を、実施例1の工程(2)-3のプロセスに従って、ヒト初代急性骨髄性白血病骨髄試料(A10093)から取得し、1ウェル当たり1×10個の細胞の生細胞密度で12ウェルプレートに接種し、本発明の培養培地及びコントロール培養培地中でそれぞれ培養した。
【0059】
培養7日目に12ウェルプレートを取り出した。細胞培養物を15mLの遠心分離チューブに移し、室温にて1500rpmで5分間遠心分離し、細胞ペレットを1mLの培養培地中に再懸濁した。12μLの再懸濁した細胞懸濁液を12μLのトリパンブルー色素(Sangon Biotech (Shanghai) Co., Ltd.)とよく混合し、20μLの混合物を細胞計数プレート(Countstar、仕様:1箱当たり50個)に加えた。細胞の総数をセルカウンター(Countstar、IC1000)を用いて計数した。計数結果を図6に示す。
【0060】
図6における結果によれば、コントロール培養培地と比較して、本発明のヒト初代急性骨髄性白血病用の培養培地が、ヒト初代急性骨髄性白血病細胞の拡大増殖を大幅に促進することができ、その効果がコントロール培養培地の効果よりも優れていることが分かる。
【0061】
実施例7.本発明の培養培地を使用して拡大増殖させたヒト初代急性骨髄性白血病細胞を使用した薬物スクリーニング及び効力評価
1.細胞の培養及びプレーティング
実施例1と同様のプロセスに従って、ヒト初代急性骨髄性白血病細胞(A23170と付番されたもの)を分離して一世代として使用し、本発明のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地を使用して、細胞が85%まで拡大増殖されるまで培養した後に、これらを継代した。実施例1における工程に従って、細胞を継代し、計数した。細胞を1mL当たり1×10個の細胞の生細胞密度でローディングスロット(Corningから購入)に入れ、入念に混合した。次いで、これらを、1ウェル当たり50μLの容量及び1ウェル当たり5000個の細胞の細胞数で384ウェルの不透明な白色細胞培養プレート(Corningから購入)に入れた。本発明のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地をプレートの端から加えることによりプレートを密封し、プレート上に試料名、投薬時間、及びCellTiter-Glo(Promega)の試験時間を印した。プレートの表面を75%のアルコール(LIRCON)で消毒し、プレートを37℃、5%のCOのインキュベーター内で培養し、24時間後に投薬した。培養物の初代継代物、2代継代物、3代継代物、4代継代物、及び5代継代物の細胞をそれぞれ薬物スクリーニング用に取得し、連続継代用の本発明の培養培地を使用して培養した初代細胞の薬物感受性を試験した。
【0062】
2.候補薬の調製
以下の表に従って、6種の薬物(シタラビン、ドキソルビシン、ボルテゾミブ、パノビノスタット、アザシチジン、及びホモハリントニン、全てMCEから購入)を6つの濃度勾配で調製し、これらを1ウェル当たり30μLの容量で384ウェルプレート(Thermo Fisher)に加え、使用のために貯蔵した。
【0063】
【表3】
【0064】
3.ハイスループット投薬
調製した薬物プレートを取り出し、室温に保った。プレートを遠心分離機(Beckman)において室温にて1000rpmで1分間遠心分離し、その後取り出した。ハイスループット自動ワークステーション(JANUS、Perkin Elmer)をハイスループット投薬に使用した。培養したヒト初代急性骨髄性白血病細胞を含む384ウェルプレートの各ウェルに、対応する濃度の0.1μLの候補薬を加えた。投薬後、384ウェルプレートの表面を消毒し、インキュベーターに移した。72時間後に細胞生存率を測定した。
【0065】
4.細胞生存率の測定
CellTiter-Glo発光試薬(Promega)を4℃の冷蔵庫から取り出し、10mLの試薬をローディングスロットに加えた。試験する384ウェルプレートをインキュベーターから取り出し、10μLのCellTiter-Glo発光試薬を各ウェルに加えた。10分間放置した後、多機能マイクロプレートリーダー(Envision、Perkin Elmer)を使用することによって試験を行った。
【0066】
5.データ処理
細胞阻害率(%)=100%-薬物投入したウェルの化学発光値/コントロールウェルの化学発光値×100%の式に従って、様々な薬物で処理された細胞の細胞阻害率を計算し、細胞に対する薬物の半数阻害率(IC50)を、graphpad prismソフトウェアによって計算した。これらの結果を図7A図7Fに示す。
【0067】
図7A図7Fから、本発明のヒト初代急性骨髄性白血病細胞用の培養培地から培養したヒト初代急性骨髄性白血病細胞を薬物スクリーニングに使用した場合、様々な継代物の培養細胞に対する同じ薬物の阻害効果が実質的に同じままである(阻害曲線は実質的に一致している)ことを確認することができる。同じ患者からの細胞は、人体における最大血中濃度で様々な薬物に対して様々な感受性を有する。この結果によれば、ヒト初代急性骨髄性白血病を患う患者における臨床使用でのこの薬物の有効性を判断することができる。同時に、これらの結果は、本発明の培養方法に従って得られた様々な継代物の腫瘍細胞の薬物に対する感受性が安定していることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、ヒト初代急性骨髄性白血病細胞をin vitroで培養する初代細胞培養培地及び培養方法を提供し、培養細胞を薬物の効力評価及びスクリーニングに使用することができる。したがって、本発明は産業上の利用に適している。
【0069】
本発明を本明細書において詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。当業者は、本発明の原理に従って変更を加えることができる。したがって、本発明の原理に従ってなされたいかなる変更も本発明の保護範囲内に含まれることが理解されるべきである。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】