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特表2024-531393階層構造を有するオムニフォビック材料を作製する方法及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】階層構造を有するオムニフォビック材料を作製する方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61L 33/04 20060101AFI20240822BHJP
   A61L 33/00 20060101ALI20240822BHJP
   A61L 33/06 20060101ALI20240822BHJP
   A61L 29/06 20060101ALI20240822BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20240822BHJP
   A61L 29/12 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
A61L33/04
A61L33/00 200
A61L33/06 300
A61L29/06
A61L29/08
A61L29/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510349
(86)(22)【出願日】2022-08-18
(85)【翻訳文提出日】2024-04-19
(86)【国際出願番号】 CA2022051259
(87)【国際公開番号】W WO2023019364
(87)【国際公開日】2023-02-23
(31)【優先権主張番号】63/260,372
(32)【優先日】2021-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508155077
【氏名又は名称】マクマスター・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】MCMASTER UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】1280 MAIN STREET WEST,HAMILTON,ONTARIO L8S 4L8,CANADA
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディダール、トヒド
(72)【発明者】
【氏名】ソレイマニ、レイラ
(72)【発明者】
【氏名】カーン、シャドマン
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC08
4C081BA05
4C081BA14
4C081BB01
4C081BB05
4C081CA271
4C081CE09
4C081DA03
4C081DB07
4C081DC03
4C081DC04
4C081DC05
4C081EA02
4C081EA06
4C081EA15
(57)【要約】
本開示は、表面で物理的及び化学的に改変されて、オムニフォビック性を提供するナノスケール及びマイクロスケール構造の両方を有する階層的に構造化された材料を作製する、オムニフォビック材料を作製する方法に関する。汚染物質をはじく可撓性チューブ状構造としての使用を含め、前記材料の使用も本明細書に開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
階層構造を有する表面を有する材料を製作する方法であって、
a)マイクロスケールのしわ及びナノスケールのフィーチャを含む鋳型上に成形可能なポリマーを堆積させること、
b)前記成形可能なポリマーを前記鋳型上で硬化させて硬化ポリマーを与えること、及び
c)前記硬化ポリマーを前記鋳型から取り出して、硬化ポリマーの少なくとも階層構造を有する表面を露出させること、
を含む、方法。
【請求項2】
d)前記硬化ポリマーの少なくとも前記表面を酸化により活性化すること、
e)前記活性化された前記表面の少なくとも一部を潤滑剤繋ぎ止め分子でコーティングして、前記硬化ポリマーの前記活性化された前記表面の少なくとも一部の上に少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層を得ること、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記表面の前記潤滑剤繋ぎ止め分子でのコーティングが、前記表面上への前記潤滑剤繋ぎ止め分子の化学蒸着を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記潤滑剤繋ぎ止め分子が、フルオロシラン、フルオロカーボン、フルオロポリマー、オルガノシラン、ポリシロキサン、又はそれらの混合物を含む、請求項2又は請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリシロキサンが、式IIの1種又は複数種の化合物を使用して形成される、請求項4に記載の方法
【化1】


(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して、加水分解性基であり;RはC1~30アルキルである)。
【請求項6】
前記潤滑剤繋ぎ止め分子層が、フルオロシラン層であり、式Iの1種又は複数種の化合物を使用して形成される、請求項2~請求項5のうちいずれか1項に記載の方法:
【化2】


(式中、Xは単結合であるか、又はC1~6アルキレンであり;nは0~12の整数であり;R、R及びRは、それぞれ独立して、加水分解性基である)。
【請求項7】
前記フルオロシランが、トリクロロ(1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチル)シラン(TPFS)又は類似の組成のフルオロシランを含む、請求項4~請求項6のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記コーティング後に、前記少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層上に潤滑層を堆積させることをさらに含む、請求項2~請求項7のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記潤滑層が、炭化水素液体、フッ素化有機液体、又はペルフルオロ化有機液体を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記潤滑層が、パーフルオロパーヒドロフェナントレン(PFPP)を含む、請求項8又は請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記硬化ポリマーの少なくとも前記表面の活性化が、プラズマ処理を含む、請求項2~請求項10のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記鋳型が、マイクロスケールのしわ及びナノスケールのフィーチャの階層構造を有する表面、少なくとも1つのナノ粒子層、及び少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層を含む、請求項1~請求項11のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記堆積後に、前記堆積した成形可能なポリマーを有する前記鋳型を減圧(vacuum)に供することをさらに含む、請求項1~請求項12のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記成形可能なポリマーが、エラストマーポリマー、未硬化エラストマーポリマー、又は熱可塑性ポリマーである、請求項1~請求項13のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記硬化ポリマーが、硬化エラストマーポリマー又は硬化熱可塑性ポリマーである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記エラストマーポリマーがシリコーンエラストマーを含む、請求項14又は請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記エラストマーポリマーがポリジメチルシロキサン(PDMS)である、請求項14~請求項16のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記材料が可撓性である、請求項1~請求項17のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記材料が透明である、請求項1~請求項18のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記材料が、生物的物体(biospecies)を含む液体に対して撥き性を示す、請求項1~請求項19のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記材料が、細菌及びバイオフィルム形成に対して撥き性を示す、請求項1~請求項20のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記材料が、生体液に対して撥き性を示す、請求項1~請求項21のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記材料が、血液に対して撥き性を示す、請求項1~請求項22のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記材料が、凝固を弱める、請求項1~請求項23のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記材料が熱収縮性ではないか、前記成形可能なポリマーが熱収縮性ではないか、又は、前記硬化ポリマーが熱収縮性ではない、請求項1~請求項24のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
請求項1~請求項25のうちいずれか1項に記載の方法を使用して調製された階層構造を有する表面を含む、材料。
【請求項27】
請求項26に記載の材料を含む、デバイス又は物品。
【請求項28】
前記材料が、前記デバイス若しくは物品の表面上にあるか、又は前記材料が、前記デバイス若しくは物品の表面を形成する、請求項27に記載のデバイス。
【請求項29】
階層構造を有する低接着性表面を含むデバイスであって、前記表面が請求項26に記載の材料を含む、デバイス。
【請求項30】
デバイス又は物品上への生体物質の接着、吸着、表面媒介性血餅形成、又は凝固を防止、低減、又は遅延させる方法であって、前記デバイス又は物品を請求項26に記載の材料で表面処理して、前記デバイス又は物品上に低接着表面を得ることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、材料工学の分野に関する。特に、本開示は、階層構造を有するオムニフォビック材料を作製する方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年8月18日に出願された同時係属中の米国仮特許出願番号第63/260,372号からの優先権の利益を主張し、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
細菌、血液、細胞及びタンパク質の付着によって引き起こされる表面のファウリングは、生物医学空間において依然として問題である。ファウリングは、感染及び凝固によって誘導される血栓症を引き起こす可能性があり、そのような血栓症は、血栓塞栓性合併症及びデバイスの故障につながり得る。バイオセンサ内では、全血及び血漿などの複雑な流体中に存在する生物学的実体の非特異的吸着は、バックグラウンドノイズを増加させ、それによって検出感度を低下させる。より大きな規模では、臨床環境内の表面上の病原体の存在は、予後不良及び高い治療上のコストを伴う院内感染につながることが多い。
【0004】
表面と潤滑剤との間の分子間相互作用による表面上への潤滑剤層の固定(locking)を介して、オムニフォビックな潤滑剤注入(lubicant-infused)表面が開発されている。そのような表面は、バイオメディカルデバイス及びバイオセンシングプラットフォームの両方における細菌及び血液に対するそれらの抗ファウリング性のために関心を集めている。1つのよく研究されたアプローチは、フッ素基間の相互作用による生体適合性パーフルオロカーボン潤滑剤の固定化のためにフッ素系シランで表面を官能化することを含む。[1]有望ではあるが、これらの潤滑剤層は、様々な生物医学デバイス内で見られるような動的な流体流の下での低い安定性という問題があり、経時的に撥き性が失われる。潤滑剤が注入された表面を広範な抗バイオファウリング目的に効果的に使用するためには、潤滑剤の保持を増加させることが望ましい。この目的のために、表面テクスチャ形成は、潤滑剤層がより大きな安定性及び流動下での保持を達成することができる手段であると分かった。[2、3]米国特許第9121307B2号は、潤滑流体を定位置に固定(locking)するために利用することができる粗面化(例えば、多孔質)された表面を含む、滑りやすい液体注入多孔質表面(SLIPS)を記載している。微細加工された表面に潤滑剤が注入(infuse)されると、その表面を構成する構造は、毛細管ウィッキングによって表面にわたる潤滑剤の拡散を媒介する。[4]処理された表面と適合する潤滑剤との間の分子間相互作用と相まって、これらの毛管力は、潤滑剤層を定位置に保持する。しかしながら、より激しい流体の流れにさらされると、表面が受けるせん断応力は、潤滑剤層を固定するのを助ける毛管力に抗して作用し、その劣化をもたらす可能性がある。[2]ナノスケールの改変による微細構造への階層の導入は、この障害を克服するが、これは、ナノスケールの構造物(entities)の存在が、毛管力を実質的に増加させるためである。
【0005】
改善された生物学的撥き性及び強力な潤滑剤保持を示すと予想される潤滑剤注入(lubricant-infused)階層化表面の製作を単純化するために、最近の戦略は、階層的な、マイクロ及びナノ構造表面を形成するためにスケーラブルな化学処理を使用して熱収縮性ポリスチレンを首尾よく改変した。[5]国際公開第2020/243833A1は、その表面で物理的及び化学的に改変されて、オムニフォビック性を提供するナノスケール及びマイクロスケール構造の両方を有する階層的に構造化された材料を作製するオムニフォビック材料を記載している。ポリスチレン基材を、最初にナノ粒子及びフルオロシランからなる剛性層でコーティングした。その後の熱収縮は、ナノ粒子コーティングとその下のポリマーとの間の剛性の差に起因して、ナノスケールのフィーチャを有するマイクロスケールのしわの形成をもたらした。[5、6]有望な技術であるが、得られた表面は、それらの光散乱ナノ粒子コーティングのために光学的な透明性を欠き、収縮後のポリマー基材に内在する剛性のために制限された可撓性を示す。ウェアラブルデバイスの場合には、透明性は、当該デバイスが眼に装着されたときに視覚の邪魔となることを回避し、皮膚装着デバイスを見えにくくする。透明性はまた、そのようなデバイスへの光検知コンポーネントの組み込みを可能にし、それらの機能を実質的に高める。同時に、これらの表面の限られた可撓性は、チューブ状医療デバイス及びウェアラブルセンサなどの非平面形状因子を必要とする用途へのそれらの組み込みを制限する。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、階層構造を有する表面を有する材料を製作する方法であって、
a)マイクロスケールのしわ及びナノスケールのフィーチャを含む鋳型を得ること、
b)前記鋳型上にエラストマーポリマーを堆積させること、
c)前記鋳型上でエラストマーポリマーを硬化させること、
d)前記鋳型からエラストマーポリマーを取り出して、階層構造を有する表面を露出させること、
e)前記表面の酸化によってエラストマーポリマーを活性化すること、
f)前記表面を潤滑剤繋ぎ止め分子でコーティングして、少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層を作製すること、
を含む、方法を提供する。
【0007】
本開示は、階層構造を有する表面を有する材料を製作する方法であって、
a)マイクロスケールのしわ及びナノスケールのフィーチャを含む鋳型を準備すること、
b)前記鋳型上にエラストマーポリマーを堆積させること、
c)前記鋳型上でエラストマーポリマーを硬化させて硬化エラストマーポリマーを与えること、
d)硬化エラストマーポリマーを前記鋳型から取り出して、硬化エラストマーポリマーの階層構造を有する表面を露出させること、
e)硬化エラストマーポリマーの前記表面を酸化によって活性化すること、
f)活性化された前記表面の少なくとも一部を潤滑剤繋ぎ止め(lubricant-tethering)分子でコーティングして、エラストマーポリマーの活性化された前記表面の少なくとも一部の上に少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層を得ること、
を含む、方法を提供する。
【0008】
本開示は、階層構造を有する表面を有する材料を製作する方法であって、
a)マイクロスケールのしわ及びナノスケールのフィーチャを含む鋳型上に成形可能なポリマーを堆積させること、
b)成形可能なポリマーを前記鋳型上で硬化させて硬化ポリマーを与えること、及び
c)硬化ポリマーを前記鋳型から取り出して、硬化ポリマーの少なくとも階層構造を有する表面を露出させること、
を含む、方法を提供する。
【0009】
いくつかの実施形態では、前記方法は、
d)硬化ポリマーの少なくとも前記表面を酸化により活性化すること、
e)活性化された前記表面の少なくとも一部を潤滑剤繋ぎ止め分子でコーティングして、硬化ポリマーの活性化された前記表面の少なくとも一部の上に少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層を得ること、
をさらに含む。
【0010】
本開示は、階層構造を有する表面を有する材料を製作する方法であって、
a)マイクロスケールのしわ及びナノスケールのフィーチャを含む鋳型上に成形可能なポリマーを堆積させること、
b)成形可能なポリマーを前記鋳型上で硬化させて硬化ポリマーを与えること、
c)硬化ポリマーを前記鋳型から取り出して、硬化ポリマーの少なくとも階層構造を有する表面を露出させること、
d)硬化ポリマーの少なくとも前記表面を酸化により活性化すること、
e)活性化された前記表面の少なくとも一部を潤滑剤繋ぎ止め分子でコーティングして、硬化ポリマーの活性化された前記表面の少なくとも一部の上に少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層を得ること、
を含む、方法を提供する。
【0011】
本開示は、階層構造を有する表面を有する材料を製作する方法であって、
a)マイクロスケールのしわ及びナノスケールのフィーチャを含む鋳型上にエラストマーポリマーを堆積させること、
b)前記鋳型上でエラストマーポリマーを硬化させて硬化エラストマーポリマーを与えること、
c)硬化エラストマーポリマーを前記鋳型から取り出して、硬化エラストマーポリマーの階層構造を有する表面を露出させること、
d)硬化エラストマーポリマーの前記表面を酸化によって活性化すること、
e)活性化された前記表面の少なくとも一部を潤滑剤繋ぎ止め分子でコーティングして、エラストマーポリマーの活性化された前記表面の少なくとも一部の上に少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層を得ること、
を含む、方法を提供する。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記方法は、前記コーティング後に少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層上に潤滑層を堆積させることをさらに含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記方法は、堆積前に前記鋳型を固着防止剤で処理することをさらに含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、成形可能なポリマーは、予備硬化エラストマーポリマー又は熱可塑性ポリマーである。したがって、いくつかの実施形態では、硬化ポリマーは、硬化エラストマーポリマー又は硬化熱可塑性ポリマーである。
【0015】
いくつかの実施形態では、前記方法は、堆積後に、堆積した成形可能なポリマーを有する前記鋳型を減圧(vacuum)に供することをさらに含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、硬化ポリマーの少なくとも前記表面の活性化は、プラズマ処理を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、潤滑剤繋ぎ止め分子による表面のコーティングは、前記表面上への潤滑剤繋ぎ止め分子の化学蒸着を含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、エラストマーポリマーは、シリコーンエラストマーを含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、エラストマーポリマーは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)である。
【0020】
いくつかの実施形態では、潤滑剤繋ぎ止め分子は、フルオロシラン、フルオロカーボン、フルオロポリマー、オルガノシラン、ポリシロキサン、又はそれらの混合物を含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、潤滑剤繋ぎ止め分子層は、フルオロシラン層又は単層であり、式Iの1種又は複数種の化合物を使用して形成される:
【化1】


(式中、Xは単結合であるか、又はC1~6アルキレンであり;nは0~12の整数であり;R、R及びRは、それぞれ独立して、加水分解性基である)。
【0022】
いくつかの実施形態では、フルオロシランは、トリクロロ(1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチル)シラン(TPFS)又は類似の組成のフルオロシランを含む。いくつかの実施形態では、フルオロシランは、トリクロロ(1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチル)シラン(TPFS)、1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチルトリエトキシシラン(PFOTS)、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルトリクロロシラン(PFDTS)、又はそれらの混合物を含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、ポリシロキサンは、式IIの化合物を1種又は複数種使用して形成される:
【化2】

(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して、加水分解性基であり;RはC1~30アルキルであり、任意に(optionally)、RはC10~30アルキル又はC20~30アルキルである)。
【0024】
いくつかの実施形態では、鋳型は、マイクロスケールのしわ及びナノスケールのフィーチャの階層構造を有する表面を含む。いくつかの実施形態では、鋳型の階層構造は、熱収縮を含むプロセスを使用して形成される。いくつかの実施形態では、鋳型は、少なくとも1つのナノ粒子層及び少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層を含む。いくつかの実施形態では、鋳型は、国際公開第2020/243833A1に記載されているプロセスを使用して調製することができる。
【0025】
潤滑層の成分は、潤滑剤繋ぎ止め分子層と相溶する(compatible)ように選択されるべきであることが理解され得る。いくつかの実施形態では、潤滑層は、炭化水素液体、フッ素化有機液体、又はペルフルオロ化有機液体を含む。
【0026】
いくつかの実施形態では、潤滑層は、パーフルオロパーヒドロフェナントレン(PFPP)を含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、前記材料は、可撓性である。
【0028】
いくつかの実施形態では、前記材料は、透明である。
【0029】
いくつかの実施形態では、前記材料は、生物的物体(biospecies)を含む液体に対して撥き性を示す。
【0030】
いくつかの実施形態では、前記材料は、細菌及びバイオフィルム形成に対して撥き性を示す。
【0031】
いくつかの実施形態では、前記材料は、生体液(biological fluids)に対して撥き性を示す。
【0032】
いくつかの実施形態では、前記材料は、血液に対して撥き性を示す。
【0033】
いくつかの実施形態では、前記材料は、凝固を弱める(attenuate)。
【0034】
いくつかの実施形態では、前記材料は、熱収縮性ではない。いくつかの実施形態では、硬化ポリマーは、熱収縮性ではない。
【0035】
本開示はまた、本明細書に開示される方法を使用して調製された階層構造を有する表面を含む材料を提供する。
【0036】
本開示はまた、本明細書に開示される材料を含むデバイス又は物品を提供する。
【0037】
いくつかの実施形態では、前記材料は、デバイス又は物品の表面上にある。いくつかの実施形態では、前記材料は、デバイス又は物品の2つ以上の表面上に存在する。
【0038】
本開示はまた、階層構造を有する低接着表面、少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層、及び潤滑層、を含み、生体物質が表面から撥かれる、デバイスと接触している生体物質の接着、吸着、表面媒介性血餅形成、又は凝固を防止、低減、又は遅延するためのデバイスを提供する。本開示はまた、階層構造を有する低接着性表面を含むデバイスであって、前記表面が、エラストマーポリマー、少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層、及び潤滑層を含み、前記表面が、本開示の材料を含み、前記表面が、生体物質に対して撥き性である、デバイスを提供する。本開示はまた、デバイスと接触している生体物質の接着、吸着、表面媒介性血餅形成又は凝固を防止、低減、又は遅延するのに使用するための本開示のデバイスを提供する。
【0039】
本開示はまた、デバイスと接触している生体物質のデバイス上への接着、吸着、表面媒介性血餅形成、又は凝固を防止、低減、又は遅延する方法であって、本明細書に開示されるデバイスを準備すること、及び生体物質を低接着表面に接触させること、を含む、方法を提供する。本開示はまた、本開示の材料でデバイス又は物品を表面処理して、デバイス又は物品上に低接着表面を得ることを含む、デバイス又は物品上への生体物質の接着、吸着、表面媒介性血餅形成、又は凝固を防止、低減、又は遅延する方法を提供する。いくつかの実施形態では、前記表面処理は、本開示の材料でデバイスをコーティングすることを含む。いくつかの実施形態では、前記表面処理は、本開示の材料でデバイスの1つの表面又は複数の表面を形成することを含む。
【0040】
本開示の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明及び具体的な例は、本開示の実施形態を示しているが、単なる例示として与えられているだけであって、特許請求の範囲はこれらの実施形態によって限定されるべきではなく、明細書全体として整合する最も広い解釈が与えられるべきであることを理解されたい。
【0041】
次に、添付の図面を参照して、本開示の特定の実施形態をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、本開示の例示的な実施形態における開発された階層的に構造化されたPDMS表面の概要を示す。(a)階層的に構造化されたPDMS基材を調製するために使用されるパターン転写プロトコルの概略図;(b)それぞれ1μm及び100nmスケールのバーを有する、階層的に構造化されたPDMS基材の走査型電子顕微鏡画像;(c)階層的に構造化された基材の高度な(i)透明性及び(ii)可撓性を示す光学画像;(d)潤滑剤の注入のための製作後の表面改変の概略図。
【0043】
図2図2は、本開示の例示的な実施形態における流し込み(casting)(スケールバーは1μmを表す)によって効果的に転写された構造的フィーチャを示し、(a)階層的に構造化されたポリスチレン鋳型と(b)開発された階層的に構造化されたPDMS表面との並列比較を示す。
【0044】
図3図3は、本開示の例示的な実施形態におけるDAPI(a-b)、FITC(c-d)及びTRITC(e-f)チャネルで評価されたバックグラウンド蛍光を示す:比較画像は、しわ付きポリスチレン鋳型(a、c、e)対階層的に構造化されたPDMS(b、d、f)を示し;スケールバーは50μmを表す。
【0045】
図4図4は、本開示の例示的な実施形態における、PFPP潤滑剤注入(lubricant-infused)あり及びなしの平面的対照サンプルと比しての、階層的に構造化されたPDMS表面及び階層的に構造化されたTPFS表面の特性解析を示す:(a)水及びヘキサデカンとの4つの基材条件の接触角(グラフの下の表は、4つの試験された基材上の水の転落角(sliding angle)を報告する)-滑り不能は、転落角>90°として示す;(b)重量で測定した4つの基材条件の潤滑剤保持(*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001に対応するアスタリスクで有意性を示し;すべての報告値は、少なくとも3つのサンプルの平均であり、付随するエラーバーは標準偏差を表す)。
【0046】
図5図5は、本開示の例示的な実施形態における平面的TPFS条件及び階層的に構造化されたTPFS条件でMRSAを使用したコロニー形成単位アッセイからの結果を示す-データ点は、対数スケールで示され、エラーバーは、平均からの標準誤差を表す(各測定値は、少なくとも3つのデータ点からなり;**P<0.01に対応するアスタリスクで有意性を示す)。
【0047】
図6図6は、本開示の例示的な実施形態における静的試験条件下での細菌付着、撥血性及び抗血栓形成性(antithrombogenic properties)試験を示す図である:(a)(i)MRSA及び(ii)緑膿菌(P. aeruginosa)を使用して4つのクラスの表面について実行されたコロニー形成単位アッセイ(対数スケールで示され、エラーバーは、平均からの標準誤差を表し;各測定値は、少なくとも3つのデータ点からなる);(b)平面的に構造化されたPDMS及び階層的に構造化されたPDMS上のヒト全血の接触角;(c)代表的な光学画像と並べた、平面平均値に対して正規化された6つの基質条件での血液しみアッセイ;(d)6つの基質条件のトロンビン生成値をアッセイの期間にわたってグラフ化したもの-付随する表は、4つの性能指標についての各条件の性能を定量的にまとめている(*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001に対応するアスタリスクで有意性を示し;(b)~(d)について、すべての報告値は、少なくとも3つのサンプルの平均であり、付随するエラーバーは、平均からの標準偏差を表す)。
【0048】
図7図7は、本開示の例示的な実施形態におけるチューブの動的流動環境における細菌撥き性を示す:(a)平たい階層的に構造化された基材のチューブ状形態への変換及びその後の潤滑剤注入(lubricant-infused)を示す概略図;(b)48時間の細菌流後のチューブ状サンプルの蛍光画像(スケールバーは50μmを表す);(c)収集された画像の定量化を可能にするために平面的PDMSに対して正規化された蛍光の相対面積-細胞クラスターの誤認を防止するために細胞の数の代わりに蛍光の面積を使用した;(d)3つの試験条件の蛍光、走査型電子顕微鏡及び光学画像(走査型電子顕微鏡画像のスケールバーは、10μMを表し、蛍光画像のスケールバーは、50μMを表す));(e)平面条件に対して正規化された全血灌流チューブの相対蛍光(エラーバーは、標準偏差を表し、*P<0.05及び***P<0.001に対応するアスタリスクで有意性を示す)。
【0049】
図8図8は、本開示の例示的な実施形態におけるFITC-フィブリノーゲンをスパイクしたヒト血液血漿の24時間の灌流後に得られた結果を示す:(a)平面的TPFS-PFPP及び(b)階層的に構造化されたTPFS-PFPPを使用して試験を行った(スケールバーは50μmを表す);(c)平面的TPFS-PFPP条件に対して正規化された相対蛍光強度(エラーバーは、標準偏差を表し、***P<0.001に対応するアスタリスクで有意性を示す)。
【発明を実施するための形態】
【0050】
I.定義
別段の指示がない限り、このセクション及び他のセクションに記載された定義及び実施形態は、それら定義及び実施形態が適していると当業者が理解する、本明細書に記載された本開示のすべての実施形態及び態様に適用可能であることが意図される。本明細書で使用される用語用法は、特定の態様のみを説明するためだけのものに過ぎず、限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0051】
本開示の範囲を理解する上で、本明細書で使用される用語「含む(comprising)」及びその派生型は、記載された特徴、要素、構成要素、群、整数、及び/又はステップの存在を特定するが、他の記載されていない特徴、要素、構成要素、群、整数、及び/又はステップの存在を排除しないオープンエンドの用語であることを意図している。上記は、用語「含む(including)」、「有する(having)」及びそれらの派生型など、同様の意味を有する単語にも適用される。本明細書で使用される用語「からなる(consisting)」及びその派生型は、記載された特徴、要素、構成要素、群、整数、及び/又はステップの存在を特定するが、他の記載されていない特徴、要素、構成要素、群、整数、及び/又はステップの存在を除外するクローズドな用語であることを意図している。本明細書で使用される用語「から本質的になる(consisting essentially of)」は、記載された特徴、要素、構成要素、群、整数、及び/又はステップ、並びに特徴、要素、構成要素、群、整数、及び/又はステップの基本的かつ新規な特徴(1つでも複数でもよい)に実質的に影響を及ぼさないものの存在を指定することを意図している。
【0052】
本明細書で使用される「実質的に(substantially)」、「約(about)」、及び「およそ(approximately)」などの程度についての用語は、最終結果が大きく変化しないように、修飾された用語からの妥当なずれ(deviation)量を意味する。これらの程度についての用語は、ずれが、前記用語が修飾する単語の意味を否定しない場合、修飾された用語からの少なくとも±5%のずれを含むと解釈されるべきである。加えて、本明細書で与えられるすべての範囲は、明示的に述べられているか否かにかかわらず、範囲の端点及び範囲の途中にある任意の点も含む。
【0053】
本開示で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈が明らかにそうでないことを指示していない限り、複数の対象物も含む。
【0054】
「追加の」又は「第2の」成分を含む実施形態では、本明細書で使用される第2の成分は、他の成分又は第1の成分と化学的に異なる。「第3の」成分は、他の成分、第1の成分、及び第2の成分とは異なり、さらに列記された又は「追加の」成分も同様に異なる。
【0055】
本明細書で使用される用語「及び/又は」は、列挙された項目が個別に又は組み合わせて存在するか、又は使用されることを意味する。事実上、この用語は、列挙された項目の「少なくとも1つ」又は「1つ又は複数」が使用又は存在することを意味する。
【0056】
略語「例えば」(e.g.)は、ラテン語exempli gratiaに由来し、非限定的な例を示すために本明細書で使用される。したがって、略語「例えば(e.g.)」は、用語「例えば(for example)」と同義である。「又は」という単語は、文脈が明らかにそうでないことを示していない限り、「及び」を含むことを意図している。
【0057】
本明細書で使用される用語「しわ形成」は、材料にしわを形成するための任意のプロセスを指す。
【0058】
本明細書で使用される用語「しわ」は、材料の表面上のマイクロスケール及び/又はナノスケールのひだを指す。
【0059】
本明細書で使用される用語「階層的」は、材料の表面上にマイクロスケール及びナノスケールの両方の構造的フィーチャを有する材料を指す。
【0060】
材料に関して本明細書で使用される用語「オムニフォビックな」は、疎水性(水及び他の極性液体に対する低い濡れ性)並びに疎油性(低表面張力かつ非極性な液体に対する低い濡れ性)の両方の特性を示す材料を指す。高い接触角を有するそのようなオムニフォビック材料は、汚染物質が典型的には連なって(bead up)表面から転がり落ちるので、しばしば「自己洗浄」材料として認識される。
【0061】
本明細書で使用される用語「アルキル」は、それが単独で用いられようと、別の基の一部として用いられようと、直鎖又は分岐鎖の飽和アルキル基、すなわちその末端のうちの1つに置換基を含有する飽和炭素鎖を意味する。参照されるアルキル基において可能な炭素原子の数は、数字の接頭辞「Cn1~n2」によって示される。例えば、用語C1~4アルキルは、1個、2個、3個又は4個の炭素原子を有するアルキル基を意味する。
【0062】
本明細書で使用される用語「アルキレン」は、それが単独で用いられようと、別の基の一部として用いられようと、直鎖又は分岐鎖の飽和アルキレン基、すなわちその末端のうちの2つに置換基を含有する飽和炭素鎖を意味する。参照されるアルキレン基において可能な炭素原子の数は、数字の接頭辞「Cn1~n2」によって示される。例えば、用語C1~6アルキレンは、1個、2個、3個、4個、5個又は6個の炭素原子を有するアルキレン基を意味する。
【0063】
本明細書で使用される用語「ハロ」は、ハロゲン原子を指し、F、Cl、Br及びIを含む。
【0064】
本明細書で使用される用語「ヒドロキシル」は、官能基OHを指す。
【0065】
本明細書で使用される用語「好適な」は、特定の化合物又は条件の選択が、実行される特定の合成操作、及び変換される1つ又は複数の分子が何であるかに依存するが、選択は十分に当業者の技能の範囲内であることを意味する。本明細書に記載されるすべてのプロセス/方法ステップは、示される生成物を提供するのに十分な程度まで反応が進行する条件下で行われるものとする。当業者は、例えば、反応溶媒、反応時間、反応温度、反応圧力、反応物比、及び反応を無水又は不活性雰囲気下で実行するべきか否かを含むすべての反応条件は、所望の生成物の収率を最適化するために変更することができることを理解するであろうし、そのようにすることは当業者の技能の範囲内である。
【0066】
本明細書において含まれると定義された任意の成分、例えば任意の特定の化合物又は方法ステップ、は、本明細書において暗黙的規定されるか、明示的に規定されるかにかかわらず、但し書き又はネガティブな限定によって明示的に除外されてもよいことが理解されよう。
【0067】
II.本開示の方法及び組成物
【0068】
本開示には、表面階層と最大化された潤滑剤保持との組み合わせによって抗バイオファウリング性を示す材料を作製する方法が記載される。任意に(optionally)、前記材料は、可撓性及び/又は透明である。製作プロセスは、安価で商業的にスケーラブルであり、そしてまた、臨床環境における材料の潜在的な用途を最大化する生体適合性試薬を使用する。本明細書では、階層化表面を有するポリスチレン鋳型などの鋳型上に存在するしわ付き構造を、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのエラストマーポリマー上に転写する戦略が開示される。PDMSは、最小限の蛍光を示す透明で可撓性の生体適合性エラストマーである。その後のフルオロシラン処理及び潤滑剤注入(lubricant-infused)は、撥き特性を高めるために導入される。これらの潤滑剤注入(lubricant-infused)され、階層的に構造化された材料を細菌及び血液で試験して、該材料による、バイオフィルム形成並びに血液しみ(blood staining)及び凝固の両方の抑制をそれぞれ評価した。次いで、前記材料をチューブ状形態に変更して、臨床的に意味のある(clinically relevant)流れ条件内でそれらの抗バイオファウリング性を評価し、流体システムにおけるそれらの適用可能性を確実にした。
【0069】
したがって、本明細書では、階層構造を有する表面を有する材料を製作する方法であって、
a)マイクロスケールのしわ及びナノスケールのフィーチャを含む鋳型を準備すること、
b)前記鋳型上にエラストマーポリマーを堆積させること、
c)前記鋳型上でエラストマーポリマーを硬化させて硬化エラストマーポリマーを与えること、
d)硬化エラストマーポリマーを前記鋳型から取り出し、硬化エラストマーポリマーの階層構造を有する表面を露出させること、
e)エラストマーポリマーの前記表面を酸化によって活性化すること、
f)活性化された前記表面の少なくとも一部を潤滑剤繋ぎ止め分子でコーティングして、エラストマーポリマーの活性化された前記表面上に少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層を得ること、
を含む、方法が提供される。
【0070】
また、本明細書では、階層構造を有する表面を有する材料を製作する方法であって、
a)マイクロスケールのしわ及びナノスケールのフィーチャを含む鋳型上にエラストマーポリマーを堆積させること、
b)前記鋳型上でエラストマーポリマーを硬化させて硬化エラストマーポリマーを与えること、
c)硬化エラストマーポリマーを前記鋳型から取り出し、硬化エラストマーポリマーの階層構造を有する表面を露出させること、
d)エラストマーポリマーの前記表面を酸化によって活性化すること、
e)活性化された前記表面の少なくとも一部を潤滑剤繋ぎ止め分子でコーティングして、エラストマーポリマーの活性化された前記表面上に少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層を得ること、
を含む、方法が提供される。
【0071】
また、本明細書では、階層構造を有する表面を有する材料を製作する方法であって、
a)マイクロスケールのしわ及びナノスケールのフィーチャを含む鋳型上に成形可能なポリマーを堆積させること、
b)成形可能なポリマーを前記鋳型上で硬化させて硬化ポリマーを与えること、
c)硬化ポリマーを前記鋳型から取り出して、硬化ポリマーの少なくとも階層構造を有する表面を露出させること、
d)硬化ポリマーの少なくとも前記表面を酸化により活性化すること、及び
e)活性化された前記表面の少なくとも一部を潤滑剤繋ぎ止め分子でコーティングして、硬化ポリマーの活性化された前記表面上に少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層を得ること、
を含む、方法が提供される。
【0072】
また、本明細書では、階層構造を有する表面を有する材料を製作する方法であって、
a)マイクロスケールのしわ及びナノスケールのフィーチャを含む鋳型を得ること、
b)前記鋳型上にエラストマーポリマーを堆積させること、
c)前記鋳型上でエラストマーポリマーを硬化させること、
d)前記鋳型からエラストマーポリマーを取り出して、階層構造を有する表面を露出させること、
e)前記表面の酸化によってエラストマーポリマーを活性化すること、
f)前記表面を潤滑剤繋ぎ止め分子でコーティングして、少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層を作製すること、
を含む、方法が提供される。
【0073】
本開示は、階層構造を有する表面を有する材料を製作する方法であって、
a)マイクロスケールのしわ及びナノスケールのフィーチャを含む鋳型上に成形可能なポリマーを堆積させること、
b)成形可能なポリマーを前記鋳型上で硬化させて硬化ポリマーを与えること、及び
c)硬化ポリマーを前記鋳型から取り出して、硬化ポリマーの少なくとも階層構造を有する表面を露出させること、
を含む、方法を提供する。
【0074】
いくつかの実施形態では、前記方法は、
d)硬化ポリマーの少なくとも前記表面を酸化により活性化すること、
e)活性化された前記表面の少なくとも一部を潤滑剤繋ぎ止め分子でコーティングして、硬化ポリマーの活性化された前記表面の少なくとも一部の上に少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層を得ること、
をさらに含む。
【0075】
いくつかの実施形態では、成形可能なポリマーは、エラストマーポリマー、未硬化エラストマーポリマー、又は熱可塑性ポリマーである。したがって、いくつかの実施形態では、硬化ポリマーは、硬化エラストマーポリマー又は硬化熱可塑性ポリマーである。
【0076】
いくつかの実施形態では、堆積される成形可能なポリマーは、硬化のために硬化剤を使用するエラストマーポリマー、又は未硬化エラストマーポリマーである。いくつかの実施形態では、そのようなエラストマーポリマーは、ポリマーベース、ポリマー樹脂、ベース樹脂、又はプレポリマーとして公知である。いくつかの実施形態では、未硬化エラストマーポリマーを堆積させることは、硬化剤をエラストマーポリマーと共に堆積させることを含む。いくつかの実施形態では、硬化剤を堆積させることは、未硬化エラストマーポリマー及び硬化剤を含む混合物の堆積として行われる。
【0077】
いくつかの実施形態では、前記方法は、前記コーティング後に少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層上に潤滑層を堆積させることをさらに含む。
【0078】
いくつかの実施形態では、前記方法は、前記堆積前に、鋳型を固着防止剤で処理することをさらに含む。いくつかの実施形態では、固着防止剤は、フルオロシラン、フルオロカーボン、フルオロポリマー、オルガノシラン、ポリシロキサン、又はそれらの混合物を含む。いくつかの実施形態では、固着防止剤は、潤滑性繋ぎ止め分子である。
【0079】
いくつかの実施形態では、前記方法は、前記堆積後に、堆積したポリマーを有する鋳型を減圧(vacuum)に供することをさらに含む。いくつかの実施形態では、気泡が存在する場合にそれら気泡を成形可能なポリマーから除去するために必要に応じて減圧(vacuum)が使用される。いくつかの実施形態では、遠心分離など、鋳型が成形可能なポリマーで適切に満たされることを確実にする他の方法が使用される。
【0080】
いくつかの実施形態では、エラストマーポリマーは、シリコーンエラストマーを含む。いくつかの実施形態では、シリコーンエラストマーの硬化は、白金触媒硬化、縮合硬化、過酸化物硬化、又はオキシム硬化系によるものである。いくつかの実施形態では、シリコーンエラストマーの硬化は、加熱によるものである。いくつかの実施形態では、シリコーンエラストマーは、EcoFlex(商標)などの市販のシリコーンゴムである。
【0081】
いくつかの実施形態では、エラストマーポリマーの硬化は、エラストマーポリマーを硬化させるための公知の手順に従って実行される。いくつかの実施形態では、硬化は、エラストマーポリマーが鋳型上に堆積されるときにエラストマーポリマーと共に含まれる硬化剤の存在下で実行される。いくつかの実施形態では、硬化は加熱しながら、例えば、約50℃~約200℃、約75℃~約175℃、約100℃~約160℃又は約150℃の温度で、約1分~約1時間、約5分~約20分又は約10分加熱しながら実行される。
【0082】
いくつかの実施形態では、エラストマーポリマーは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)である。いくつかの実施形態では、PDMSは、加熱することによって、例えば約150℃で約10分間加熱することによって硬化される。いくつかの実施形態では、エラストマーポリマーは、Sylgard(商標)などの市販のポリシロキサンを含む。
【0083】
そのような実施形態では、鋳型からポリマーへの階層構造の転写は、ホットエンボス加工法によって実行される。
【0084】
いくつかの実施形態では、硬化ポリマーの少なくとも前記表面の活性化は、硬化ポリマーの中又は上にヒドロキシル基を導入することを含む。いくつかの実施形態では、活性化は、プラズマ処理を含む。いくつかの実施形態では、活性化は、酸素プラズマ処理を含む。いくつかの実施形態では、プラズマ処理は、約30秒~約2分、又は約1分の時間である。
【0085】
いくつかの実施形態では、活性化は、硬化ポリマーの前記表面より多く活性化することを含み、任意に(optionally)、硬化ポリマーの全体を活性化することを含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、活性化された前記表面の少なくとも一部の潤滑剤繋ぎ止め分子によるコーティングは、化学蒸着(CVD)を含む。いくつかの実施形態では、CVDに続いて熱処理が行われ、これは例えば、約50℃~約150℃で約30分~約36時間の加熱、又は約60℃で一晩~約120℃で約1時間の加熱である。いくつかの実施形態では、コーティングは、活性化された前記表面の全体のコーティングである。
【0087】
いくつかの実施形態では、潤滑剤繋ぎ止め分子は、フルオロシラン、フルオロカーボン、フルオロポリマー、オルガノシラン、ポリシロキサン、又はそれらの混合物を含む。
【0088】
いくつかの実施形態では、潤滑剤繋ぎ止め分子層は、フルオロシラン層であり、式Iの1種又は複数種の化合物を使用して形成される:
【化3】


(式中、Xは単結合であるか、又はC1~6アルキレンであり;nは0~12の整数であり;R、R及びRは、それぞれ独立して、加水分解性基である)。
【0089】
いくつかの実施形態では、ポリシロキサンは、式IIの1種又は複数種の化合物を使用して形成される:
【化4】


(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して、加水分解性基であり;RはC1~30アルキルであり、任意に(optionally)、RはC10~30アルキル又はC20~30アルキルである)。
【0090】
層とは、単層及び多層を含むことが理解され得る。
【0091】
加水分解性基R、R、R、R、R及びRは、独立して、任意の好適な加水分解性基であり、当業者はその選択を行うことができる。いくつかの実施形態では、R、R、R、R、R及びRは、独立して、ハロ又はO-C1~4アルキルである。いくつかの実施形態では、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、ハロである。いくつかの実施形態では、R、R、R、R、R及びRは、すべて独立して、-O-C1~4アルキルである。いくつかの実施形態では、R、R、R、R、R及びRは、すべてOEtである。いくつかの実施形態では、R、R、R、R、R及びRは、すべてClである。いくつかの実施形態では、Xは、C1~6アルキレンである。いくつかの実施形態では、Xは、C1~4アルキレンである。いくつかの実施形態では、Xは、-CHCH-である。いくつかの実施形態では、nは、3~12の整数である。いくつかの実施形態では、nは、3~8の整数である。いくつかの実施形態では、nは、4~6の整数である。いくつかの実施形態では、nは5である。いくつかの実施形態では、R、R及びRは、すべてClであり、Xは-CHCH-であり、nは5である。いくつかの実施形態では、R、R及びRは、すべてOEtであり、Xは-CHCH-であり、nは5である。
【0092】
いくつかの実施形態では、R、R及びRは、すべてClである。いくつかの実施形態では、R、R及びRは、すべてOEtである。
【0093】
いくつかの実施形態では、フルオロシラン層又は単層は、これらに限定されないが、トリクロロ(1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチル)シラン、1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチルトリエトキシシラン、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルトリエトキシシラン、1H,1H,2H,2H-パーフルオロドデシルトリクロロシラン、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルトリメトキシシラン、トリメトキシ(3,3,3トリフルオロプロピル)シラン、(ペンタフルオロフェニル)トリエトキシシラン、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン及びヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシルトリクロロシラン、並びにそれらの混合物などの任意のフルオロカーボン含有シランを使用して形成される。
【0094】
いくつかの実施形態では、フルオロシランは、トリクロロ(1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチル)シラン(TPFS)及び/又は同様の組成のフルオロシランを含む。いくつかの実施形態では、フルオロシランは、市販されている。
【0095】
いくつかの実施形態では、鋳型は、マイクロスケールのしわ及びナノスケールのフィーチャの階層構造を有する表面を含む。いくつかの実施形態では、鋳型の階層構造は、熱収縮を含むプロセスを使用して形成される。いくつかの実施形態では、鋳型は、少なくとも1つのナノ粒子層及び少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層を含む。いくつかの実施形態では、鋳型は、国際公開第2020/243833A1に記載されているプロセスを使用して調製される。いくつかの実施形態では、オムニフォビック分子層は、前記材料の表面エネルギーを低下させ、オムニフォビック性を向上させる。いくつかの実施形態では、オムニフォビック分子層は、フルオロシランを含む。
【0096】
潤滑層の成分は、潤滑剤繋ぎ止め分子層と相溶する(compatible)ように選択されるべきであることが理解され得る。いくつかの実施形態では、潤滑層は、炭化水素液体、フッ素化有機液体、又はペルフルオロ化有機液体を含む。いくつかの実施形態では、潤滑層は、パーフルオロデカリン、シリコーン油、ポリ(3.3.3-トリフルオロプロパルメチルシロキサン)(poly(3.3.3-trifluoropropulmethylsiloxane))、又はそれらの混合物を含む。
【0097】
いくつかの実施形態では、潤滑層は、パーフルオロパーヒドロフェナントレン(PFPP)を含む。
【0098】
本明細書に記載の方法を使用して調製された階層構造を有する表面を含む材料も本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、前記材料は、疎水性及び疎油性の両方の特性を示す。いくつかの実施形態では、前記材料は、オムニフォビック性を示す。いくつかの実施形態では、前記材料は、160°を超える水接触角、100°を超えるヘキサデカン接触角、及び5°を下回る水転落角(water sliding angle)を示す。
【0099】
いくつかの実施形態では、前記材料は、可撓性である。いくつかの実施形態では、エラストマーポリマー又は熱可塑性ポリマーなどの前記成形可能なポリマーは、本明細書に記載の方法の完了後に当該ポリマーに内在する可撓性を保持する。いくつかの実施形態では、前記材料は、平坦な可撓性フィルムである。いくつかの実施形態では、前記材料は、約0.3mm~約0.8mm、又は約0.5mmの厚さを有する。前記材料は、可撓性であることができるため、前記材料は曲げて、折り畳んで、又は圧延して異なる形状を形成できることが理解されよう。いくつかの実施形態では、前記材料は、チューブ状に整形される。
【0100】
いくつかの実施形態では、前記材料は、透明である。いくつかの実施形態では、エラストマーポリマー又は熱可塑性ポリマーなどの前記成形可能なポリマーは、本明細書に記載の方法の完了後に透明性を保持する。
【0101】
いくつかの実施形態では、前記材料は、抗バイオファウリング性を示す。いくつかの実施形態では、前記材料は、静的条件及び動的環境(すなわち、流動流体条件)の両方で抗バイオファウリング性を示す。
【0102】
いくつかの実施形態では、前記材料は、生物的物体(biospecies)を含む液体に対して撥き性を示す。いくつかの実施形態では、生物的物体には、細菌、真菌、ウイルス若しくは疾患細胞などの微生物、寄生細胞、癌細胞、外来細胞、幹細胞、及び感染細胞が含まれる。いくつかの実施形態では、生物的物体は、細胞オルガネラ、細胞断片、タンパク質、核酸小胞、ナノ粒子、バイオフィルム、及びバイオフィルム成分などの生物的物体成分も含んでいた。
【0103】
いくつかの実施形態では、前記材料は、細菌及びバイオフィルム形成に対して撥き性を示す。いくつかの実施形態では、前記表面は、細菌及びバイオフィルム形成に対して撥き性を示す。いくつかの実施形態では、細菌は、グラム陰性細菌又はグラム陽性細菌のうちの1つ又は複数から選択される。いくつかの実施形態では、細菌は、大腸菌(Escherichia coli)、ストレプトコッカス属菌(Streptococcus species)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、クロストリジウム属菌(Clostridium species)、及び髄膜炎菌(meningococcus)のうちの1つ又は複数から選択される。いくつかの実施形態では、細菌は、大腸菌(Escherichia coli)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、緑膿菌(Pseudomonas aerugenosa)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、クレブシエラ・アエロゲネス(Klebsiella aerogenes)、赤痢菌(Shigella sonnei)、ブレブンジモナス・ディミヌタ(Brevundimonas diminuta)、ハフニア・アルベイ(Hafnia alvei)、エルシニア・ルッケリ(Yersinia ruckeri)、アクチノバチルス・アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)、アクロバクター・キシロソキシダンス(Achromobacter xylosoxidans)、モラクセラ・オスロエンシス(Moraxella osloensis)、アシネトバクター・ルオフィイ(Acinetobacter lwoffii)、及びセラチア・フォンチコラ(Serratia fonticola)のうちの1つ又は複数から選択されるグラム陰性菌である。いくつかの実施形態では、細菌は、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、枯草菌(Bacillus subtilis)、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、マイコプラズマ・カプリコルム(Mycoplasma capricolum)、ストレプトマイセス・ヴィオラケオルベル(Streptomyces violaceoruber)、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheria)、及びノカルディア・ファルシニカ(Nocardia farcinica)のうちの1つ又は複数から選択されるグラム陽性細菌である。いくつかの実施形態では、細菌は緑膿菌又は黄色ブドウ球菌である。いくつかの実施形態では、細菌付着は、約96%低下する。例えば、細菌付着の減少は、細菌の蛍光アッセイ又は細菌のコロニー形成単位を測定するアッセイを使用して測定することができる。
【0104】
いくつかの実施形態では、前記材料は、撥水性を示す。いくつかの実施形態では、前記材料は、生体液に対して撥き性を示す。いくつかの実施形態では、生体液は、全血、血漿、血清、汗、糞便、尿、唾液、涙、膣液、前立腺液、歯肉液、羊水、眼内液、脳脊髄液、精液、痰、腹水、膿、鼻咽頭液、創傷滲出液、房水、硝子体液、胆汁、耳垢(cerumen)、内リンパ、外リンパ、胃液、粘液、腹膜液、胸水、皮脂(sebum)、嘔吐物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0105】
いくつかの実施形態では、前記材料は、凝固を弱める(attenuate)。いくつかの実施形態では、血液接着は、約95%低下する。いくつかの実施形態では、前記材料は、抗血栓形成性(antithrombogenic properties)を示す。
【0106】
いくつかの実施形態では、血液付着は、材料を血液中で約20分間インキュベートし、次いで材料を脱イオン水に入れて、前記材料を水中で約30分間振盪することによって、表面に付着した血液を水中に混合させた後、前記材料を水から除去し、水の吸光度値を取得して、各表面上に存在する血液(ヘモグロビン)の量の変化を決定することによって決定される。
【0107】
いくつかの実施形態では、前記材料は、熱収縮性ではない。いくつかの実施形態では、エラストマーポリマーは、熱収縮性ではない。いくつかの実施形態では、硬化エラストマーポリマーは、熱収縮性ではない。
【0108】
本明細書に記載の材料を含むデバイス又は物品も本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、前記材料は、表面上にコーティングされているなど、デバイス又は物品の表面上にある。いくつかの実施形態では、前記材料は、デバイス又は物品の表面を形成する。
【0109】
いくつかの実施形態では、デバイス又は物品は、任意のヘルスケア及びラボラトリーデバイス、個人用保護機器、並びに医療デバイスから選択される。いくつかの実施形態では、デバイス又は物品は、カニューレ、コネクタ、カテーテル、カテーテル、クランプ、皮膚フック、カフ、レトラクタ、シャント、針、キャピラリーチューブ、気管内チューブ、人工呼吸器、人工呼吸器チューブ類、薬物送達ビヒクル、シリンジ、顕微鏡スライド、プレート、フィルム、実験室作業表面、ウェル、ウェルプレート、ペトリ皿、タイル、ジャー、フラスコ、ビーカー、バイアル、試験管、チューブ類コネクタ、カラム、容器、キュベット、ボトル、ドラム、バット、タンク、歯科用工具、歯科用インプラント、バイオセンサ、バイオ電極、内視鏡、メッシュ、創傷ドレッシング、血管グラフト、及びそれらの組み合わせから選択される。いくつかの実施形態では、デバイスは、尿道カテーテル又は静脈内カテーテルなどのカテーテルである。
【0110】
いくつかの実施形態では、デバイスはバイオセンサであり、これは光学バイオセンサを含むが、これに限定されない。いくつかの実施形態では、光学バイオセンサは、蛍光ベースのバイオセンサを含む。
【0111】
いくつかの実施形態では、デバイスは、ウェアラブルなデバイス又は物品である。いくつかの実施形態では、ウェアラブルデバイスは、光検知コンポーネントを備えるウェアラブルバイオセンサを含むが、これに限定されない。いくつかの実施形態では、ウェアラブルデバイスは眼に装着される、例えばコンタクトレンズベースのセンサである、又は皮膚装着型デバイス、例えばワイヤレスヘルスモニタリングセンサ、である。
【0112】
また、本明細書では、階層構造を有する低接着表面、少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層、及び潤滑層、を含み、生体物質が表面からはじかれる、デバイスと接触している生体物質の接着、吸着、表面媒介性血餅形成、又は凝固を防止、低減、又は遅延するためのデバイスも提供される。本開示はまた、階層構造を有する低接着性表面を含むデバイスであって、表面が、エラストマーポリマー、少なくとも1つの潤滑剤繋ぎ止め分子層、及び潤滑層を含み、前記表面が、本開示の材料を含み、前記表面が、生体物質に対して撥き性である、デバイスを提供する。本開示はまた、デバイスと接触している生体物質の接着、吸着、表面媒介性血餅形成又は凝固を防止、低減、又は遅延するのに使用するための本開示のデバイスを提供する。
【0113】
また、本明細書では、デバイスと接触している生体物質のデバイス上への接着、吸着、表面媒介性血餅形成、又は凝固を防止、低減、又は遅延する方法であって、本明細書に記載のデバイスを準備すること、及び生体物質を低接着表面に接触させること、を含む、方法も提供される。本開示はまた、本開示の材料でデバイス又は物品を表面処理して、デバイス又は物品上に低接着表面を得ることを含む、デバイス又は物品上への生体物質の接着、吸着、表面媒介性血餅形成、又は凝固を防止、低減、又は遅延する方法を提供する。いくつかの実施形態では、前記表面処理は、本開示の材料でデバイスをコーティングすることを含む。いくつかの実施形態では、表面処理は、本開示の材料でデバイスの1つの表面又は複数の表面を形成することを含む。
【実施例
【0114】
以下の非限定的な実施例は、本開示を例示するものである。
【0115】
実施例1.階層構造のパターン転写及び特性解析
材料及び方法
【0116】
試薬。ポリジメチルシロキサン(SYLGARD 184)は、Dow Corning(ミッドランド、ミシガン州)から購入した。トリクロロ(1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチル)シラン、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン、及びパーフルオロパーヒドロフェナントレンは、両方ともMillipore Sigma(オークビル、オンタリオ州)から購入した。
【0117】
表面製作。PDMSは、ベース樹脂:硬化剤の重量比10:1で調製した。混合物を10分間撹拌し、20分間減圧(vacuum)下に置いて気泡を除去した。次いで、スパチュラを使用してPDMSを階層的に構造化されたポリスチレン鋳型にわたって広げて、およそ0.5mmの厚さのコーティングを作製した。PDMSが鋳型上の階層構造を満たすことを確実化するために、PDMSコーティングされた鋳型を減圧(vacuum)下に25分間置いた。その後、150℃で10分間加熱すると、PDMS層が硬化した。スパチュラを使用して、階層的に構造化された鋳型からPDMS層を慎重に分離した。表面上のヒドロキシル基をTPFS付着のために誘導するために、PDMS基材を25℃で1分間酸素プラズマ処理した。プラズマ処理された基材を200μLのTPFSと一緒に-0.08MPaの減圧(vacuum)下で3時間置くことにより、基材上へのシランの化学蒸着がもたらされた。60℃での一晩の熱処理は、TPFSの安定な自己組織化単層の発生(development)を確実化した。PFPPをその使用直前に基材上にピペットで移し、傾けることによって過剰な潤滑剤を除去した。
【0118】
接触角及び転落角の測定。すべての測定値は、少なくとも3つのデータ点からなっていた。液滴形状解析装置(DSA30、Kru(uはウムラウト付き)ss Scientific、ハンブルグ、ドイツ)を接触角測定に使用した。自動シリンジを使用して脱イオン水を分注し、ヘキサデカン及び血液はピペットを使用して手動で分注した。すべての測定値は、2μLの液滴体積を用いて取得した。測定値は、画像処理ソフトウェア(Kru(uはウムラウト付き)ss ADVANCE)の自動化されたベースライン構成を使用して取得した。転落角は、5μLの液滴体積でデジタル角度レベル(ROK、エクセター、英国)を使用して測定した。
【0119】
走査型電子顕微鏡法。これらの表面のマイクロスケール及びナノスケールのフィーチャのために、電子顕微鏡の使用は、トポグラフィのより良い概念化を可能にした。サンプルを上記のように調製し、サイズに合わせて切断した(約0.5cm×0.5cm)。初期検査のために、カーボンテープ及びニッケルペーストを使用して各サンプルを装着し、次いで、スパッタコーター(Polaron model E1500、Polaron Equipment Ltd.、ワトフォード、ハートフォードシャー州)を使用して5nmの白金でコーティングした。血液試験後に画像取得したサンプルについては、エタノールを使用してゆっくり脱水する前にオスミウム染色を実行した。100%エタノールに浸漬したら、臨界点乾燥機を使用してこれらの生体サンプルを乾燥させた。次いで、上記のようにして、装着及びコーティングを完了した。JEOL JSM-7000Fを使用して、トップダウンの視点からサンプルを画像化した。
【0120】
潤滑剤保持試験。生検パンチを使用してサンプルを切断し、直径6mmのディスクを形成し、秤量した。10μLのPFPPを各サンプルの表面上にピペットで移し、2分間インキュベートした。過剰な潤滑剤を表面を傾けることで除去し、サンプルを秤量した。潤滑剤インキュベーション前後の重量の差は、潤滑剤保持の尺度を提供した。
【0121】
結果
【0122】
熱収縮性ポリマー上の階層的なしわ付き表面の調製は、以前に報告されている。[5、6]簡潔には、シリカナノ粒子を、紫外線オゾン(UVO)処理された収縮前のポリスチレン基材上に堆積させた。(3-アミノプロピル)トリエトキシシランを、UVO処理された基材上のヒドロキシル基とナノ粒子との間の架橋剤として使用した。続いて、ナノ粒子でコーティングされた基材をフルオロシランで処理し、熱収縮させた。得られた基材は、その上にPDMSが流し込まれる(casted)鋳型として機能した。これらの鋳型をトリクロロ(1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチル)シラン(TPFS)で前処理することにより、流し込まれた(casted)ポリマーが容易に取り出せることを確実にした(図1a)。PDMSの薄層をこれらの階層的鋳型上にコーティングし、減圧(vacuum)に供して鋳型のミクロフィーチャ/ナノフィーチャ間に閉じ込められたエアポケットを除去し、したがって転写されるパターンの解像度を最大化した。熱硬化後、固化したPDMS層をポリスチレン鋳型から取り外して、PDMS上の鋳型の構造的フィーチャのネガプリントを明らかにした(図2)。走査型電子顕微鏡(SEM)画像は、PDMS基材上へのマイクロスケール構造及びナノスケールフィーチャの両方の転写を確認した(図1b)。これらの基材はまた、図1cに示すように、求められる高度の透明性及び可撓性を示した。
【0123】
検知用途のためのこれらの階層的に構造化されたPDMS基材の適合性を理解するために、それらのバックグラウンド蛍光を3つの蛍光チャネルにわたって評価し、比較のためにしわ付きポリスチレン鋳型を使用した(図3)。前記PDMS基材は、すべてのチャネルにわたって有意に低い蛍光を示し、それらのポリスチレン対応物と比べて、蛍光ベースの検知プラットフォームへの向上した適合性を示した。次いで、階層的に構造化されたPDMS基材を酸素プラズマ活性化し、TPFSで処理してフルオロカーボン自己集合単層の形成を誘導した(図1d)。そのような単層は、高い立体効果及び低い充填密度を示し、改善された表面撥き性をもたらす。水(表面張力=71.99mN/m)及びヘキサデカン(表面張力=27.05mN/m)を使用して、階層的に構造化された表面及び階層的に構造化されたTPFS表面の撥き性を、接触角(CA)及び転落角(SA)の測定によって評価した(図4a)。平面及び平面的TPFS試料を対照として使用した。平面的PDMSは、112.8±1.1°のCAを有し、疎水性を示したが、階層的に構造化されたPDMSは、153.4±3.6°のCAで超疎水性挙動を実証した。理論によって制限されることを望むものではないが、この増加は、水と表面との間の接触が表面上の微細構造間の溝内の空気を閉じ込め、CAの増加を誘発するキャシーバクスター湿潤状態の形成に起因する可能性がある。TPFS処理後、平面的PDMSは、114.9±2.1°のCAでわずかに改善された性能を示したが、階層的に構造化されたTPFS表面は、166.7±4.6°のCAを示した。階層的に構造化された表面及び階層的に構造化されたTPFS表面の超疎水性は、平面及び平面的TPFSの両方についての>90°である転落角と比較して、<5°という転落角によってさらに支持された。オムニフォビック性の改善におけるTPFS処理の役割は、ヘキサデカンCAを介して強調されたが、ヘキサデカンCAは、平面的PDMSでは28.1±2.1°から76.3±1.8°に、階層的に構造化されたPDMSでは43.5±0.7°から100.0±6.3°に増加した。
【0124】
階層構造が潤滑剤とどのように相互作用するかを評価するために、平面的(対照)PDMS基材と階層的に構造化されたPDMS基材との間の潤滑剤保持の違い、並びにそれらのTPFS処理された対応物を調べた(図4b)。臨床用途に一般的に使用される生体適合性潤滑剤であるパーフルオロパーヒドロフェナントレン(PFPP)との短いインキュベーションの前後にサンプルを秤量した。平面的TPFSは、平面的PDMSと比べて潤滑剤保持のほぼ2倍の増加を示した。理論によって制限されることを望むものではないが、この増加は、PFPP及び処理された表面の両方に存在するフッ素基間の強い分子間相互作用に起因し得る。テクスチャ加工は、TPFS無しにおいて保持の2倍の増加をもたらした(P<0.05)。これは、PFPPと表面との間の相互作用が形成され得る階層的に構造化された表面のより大きな表面積のおかげであり得る。さらに、マイクロスケール構造間の溝は、ポケット内に潤滑剤をより大量に溜めることができるポケットを提供する。しわ処理とTPFS処理とを組み合わせることにより、平面的PDMSと比べて潤滑剤保持の4倍の増加が達成された(P<0.001)。それが有する強力なオムニフォビック性と効率的な潤滑剤保持との組み合わせを考慮して、次に、TPFS-PFPP改変を有する階層的に構造化された表面が細菌及び血液に対する抗バイオファウリング性を示すかどうかを調べた。
【0125】
実施例2.階層的に構造化されたPDMS表面の細菌撥き性
材料及び方法
【0126】
試薬。ポリジメチルシロキサン(SYLGARD 184)は、Dow Corning(ミッドランド、ミシガン州)から購入した。トリクロロ(1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチル)シラン、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン、及びパーフルオロパーヒドロフェナントレンは、両方ともMillipore Sigma(オークビル、オンタリオ州)から購入した。MOPS培地は、TekNova(Hollister、カリフォルニア州、米国)から購入した。TrypLE Express及びFITC色素は、Thermo Fisher Scientific(バーリントン、オンタリオ州、カナダ)から購入した。
【0127】
バイオフィルム培養及び実験設定。サンプルの表面積の一貫性を確実にするために、6mm生検パンチを使用して基材をサイズに合わせて切断した。700μLの2%溶融アガロース(Bioshop、バーリントン、オンタリオ州)を48ウェルプレート(Corning、米国)のウェルに添加した。サンプルを各ウェルに分注したアガロースに静かに挿入した。これにより、試験中に各基材の未処理の側面及び底面へはアクセス不能であることを確実とした。次いで、ウェルを一晩乾燥させてアガロース嵌め込み体を固化させた。緑膿菌PA01及び黄色ブドウ球菌USA300 JE2(MRSA)を凍結からLB寒天上にストリーキングし、37℃で一晩増殖させた。これから、一晩培養物を、緑膿菌については0.4%グルコース及び0.5%カザミノ酸(TekNova、米国)を補充したMOPS最小培地、又はMRSAについては0.4%グルコース及び3%NaClを補充したトリプシンソイブロスに1/100希釈した。予め調製したアッセイプレートの各ウェルを、200μlの希釈細菌懸濁液又は細菌細胞が存在しない対照培地で満たした。次いで、アッセイプレートを、緑膿菌については72時間、MRSAについては24時間、振盪せずに37℃でインキュベートして、バイオフィルムを基材上に形成させた。インキュベーション後、基材を含有するアガロース嵌め込み体を、滅菌鉗子を使用して各ウェルから穏やかに取り出し、滅菌ペトリ皿内に置いた。鉗子を使用して周囲のアガロースを切断することによって各アガロース嵌め込み体から基材を遊離させ、次いで、無菌水に3回穏やかに沈めてプランクトン様細菌を除去した。その後、表面を清浄なペトリ皿に入れ、37℃で30分間乾燥させた後、下流のアッセイのために新しい48ウェルプレートに移した。
【0128】
コロニー形成単位(CFU)アッセイ。各表面に付着したコロニー形成単位を定量するために、表面全体を覆うように48ウェルプレートの各ウェルに200μLの組換えトリプシン溶液(TrypLE Express、Gibco)を添加した。次いで、サンプルプレートを振盪しながら37℃で30分間インキュベートして、バイオフィルム及び付着した細菌細胞を表面から分散させた。コロニー形成単位を、各ウェルからの段階希釈物をLB寒天ペトリ皿上にプレーティングすることによって定量した。
【0129】
結果
【0130】
表面が細菌とどのように相互作用するかを理解するために、平面、平面的TPFS-PFPP、階層的に構造化、及び階層的に構造化されたTPFS-PFPPという4つのクラスのPDMS表面について、細菌付着及びその後のバイオフィルム形成を調べた。平面的TPFS及び階層的に構造化されたTPFSをいくつかの予備試験に含めたが、それらの非フッ素化対応物と同様に行った(図5)。グラム陽性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)及びグラム陰性緑膿菌を使用して試験を行ったが、これは、臨床環境にこれらの病原体が習慣的に存在するためである。
【0131】
試験条件間の細菌付着の差を検出するために、サンプルをコロニー形成単位(CFU)アッセイに供した。細菌培養培地中で一晩インキュベートし、滅菌脱イオン水で洗浄した後、サンプルを新鮮な細菌増殖培地に移し、撹拌して付着した細菌及びバイオフィルムを放出させた。次いで、細菌培地を連続希釈し、寒天プレート上にプレーティングすることによってCFUを決定した。寒天プレート上の得られたコロニー形成を使用して、表面から増殖培地に放出された細菌の数を定量した。MRSAと共にインキュベートされた平面、平面的TPFS-PFPP及び階層的に構造化されたサンプルは、8.6×10~3.3×10CFU/mLの範囲の平均細菌存在を示し、3つの条件の間で有意ではない差があった(図6a、i)。平面的TPFS-PFPPは、サンプル間で大きな変動性を示し、その表面上の潤滑剤層の不安定性を強調している。対照的に、階層的に構造化されたTPFS-PFPP表面は、低いサンプル間変動を示し、1×10CFU/mLに近い有意に低い細菌の存在を示した-これは、平面条件と比してほぼ1logの減少であり、細菌付着の86%の減少(P<0.01)に対応する。緑膿菌では、平面、平面的TPFS-PFPP及び階層的に構造化されたPDMSは、およそ1×10CFU/mLで同様の程度の細菌の存在を示した(図6a、ii)。しかしながら、階層的に構造化されたTPFS-PFPPは、平面条件と比べてほぼ2logの減少となる1×10CFU/mLへの減少を示し、これは細菌付着の98.5%の減少に対応した(P<0.001)。また、平面的TPFS-PFPP条件と比べて99.6%の減少を示した(P<0.01)。MRSAと比較して緑膿菌に対する優れた性能は、その棒状構造に起因し、立体障害の結果として階層的に構造化されたマイクロスケール間の捕捉を困難にし;対照的に、黄色ブドウ球菌の球形は、開発した表面上のマイクロスケール構造間でのある程度の捕捉を可能にする。これらの試験は、階層的に構造化されたTPFS-PFPP表面のオムニフォビック性が、本明細書で試験した他の階層的に構造化された表面及び平面的な表面と比較して優れた細菌撥き性に反映されることを示している。
【0132】
実施例3.階層的に構造化されたPDMS表面の撥血性及び抗凝固特性
【0133】
材料及び方法
【0134】
試薬。ポリジメチルシロキサン(SYLGARD 184)は、Dow Corning(ミッドランド、ミシガン州)から購入した。トリクロロ(1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチル)シラン、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン、及びパーフルオロパーヒドロフェナントレンは、両方ともMillipore Sigma(オークビル、オンタリオ州)から購入した。N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-エタンスルホン酸(HEPES)及び塩化カルシウムは、Bioshop Canada(バーリントン、オンタリオ州)から購入した。トロンビンのための(thrombin-directed)蛍光基質であるZ-Gly-Gly-Arg-AMCは、Bachem(ブベンドルフ、スイス)から購入した。プールしたクエン酸化血漿を、先に記載されたように健常ドナーから収集した。[7]健常志願者からの静脈血を、クエン酸ナトリウムを含有するチューブ中に、資格を有するフレボトミストによって採取した。すべての手順は、マクマスター大学研究倫理委員会によって承認された。血液サンプルは、マクマスター研究倫理委員会によって承認された手順に従って、同意者からクエン酸化BD収集チューブ(ハミルトン、オンタリオ州)に収集した。
【0135】
血液しみ(blood staining)アッセイ。血液しみを試験するために、サンプルをクエン酸化ヒト全血に30秒間浸漬し、次いで、700μLの脱イオン水を充填したウェルに移した。水に浸漬したすべての試験サンプルを含有するウェルプレート(Corning、カントン、ニューヨーク州)を、インキュベーティングミニシェーカー(VWR、ミシサガ、オンタリオ州)上に30分間置いて、サンプルに付着したあらゆる血液を放出させた。サンプルを含有する各ウェルから200μLを、プレートリーダー(Synergy Neo2、BioTek、ウィヌースキ、バーモント州)を使用した光学密度測定のために新しいウェルプレートに移した。ブランクウェルは、200μLの脱イオン水を含有していた。
【0136】
トロンビン生成アッセイ。基質の抗血栓形成性(antithrombogenic properties)を調べるために、蛍光発生トロンビン生成アッセイを実行した。サンプルを6mm生検パンチを使用してサイズに合わせて切断し、Elkem Silbione接着剤(Factor II、レイクサイド、アリゾナ州)を使用して黒色平底96ウェルプレート(Evergreen Scientific、バーノン、カリフォルニア州、米国)の底部に固定した。空のウェルを対照として使用した。80μLのクエン酸化血漿を各ウェルに添加し、続いて20μLの20mM HEPES緩衝液(pH7.4)を添加した。次いで、プレートを37℃で10~15分間インキュベートした。蛍光発生基質終濃度20mMのZ-Gly-Gly-Arg-AMC(zGGR)及び25mM CaCl2のHEPESを含む緩衝液を使用して蛍光発生溶液を作製した。インキュベーション後に凝固を開始するために、100μLの蛍光発生溶液を各ウェルに添加した。プレートをSPECTRAmax蛍光プレートリーダー(Molecular Devices)に直ちに装填して、励起波長360nm及び発光波長460nmを使用して90分間1分間隔で基質加水分解を監視した。収集したデータを、Technocloneソフトウェア-Technothrombin TGAプロトコル(ウィーン、オーストリア)を使用して分析した。トロンビン生成までの遅延時間(分)、ピークトロンビン濃度(nM)、ピークトロンビン濃度までの時間(分)及び曲線下面積又は総トロンビン生成量(Endogenous thrombin potential)(ETP)(nM.分)をソフトウェアを使用して計算し、報告した。
【0137】
結果
【0138】
撥血性の予備評価として、ヒト全血のCA(表面張力=約55mN/m)を平面的表面及び階層的に構造化された表面の両方で測定した(図6b)。平面的PDMSは、95.8±4.7°のCAを示したが、階層的に構造化されたPDMSは、143.2±3.1°のCAを示し、したがって、これは有意に改善された撥き性を実証した(P<0.0001)。その後の血液試験では、平面、平面的TPFS、平面的TPFS-PFPP、階層的に構造化、階層的に構造化されたTPFS、及び階層的に構造化されたTPFS-PFPPという6つの条件の性能を評価した。血液とのより大きな接触を誘発する環境での付着を調べるために、基質を抗凝固処理したヒト全血に浸漬する血液しみアッセイ(図6c)にサンプルを供した。血液に沈めた後、続いて表面を水を含有するウェル中に加え、撹拌して、付着した血液があればそれを放出させた。表面から放出された溶液の吸光度を分光光度法を使用して測定した。階層的に構造化されたPDMSは、平面的PDMSよりも30%悪く機能したが、平面的TPFS及び階層的に構造化されたTPFSは、それらの未処理の対応物と比較してわずかに悪い性能を示し、それぞれ吸光度が10%及び7%増加した。表面のしわ及びTPFS処理の両方が疎水性を高めることを考えると、血液接着のこれら3つの増加はすべて、これらの表面と血液タンパク質との間の疎水性相互作用に起因する可能性がある。潤滑剤の導入により、平面的TPFS-PFPPは、平面的PDMSと比べて性能の統計的に有意ではない改善を示した。しかしながら、階層的に構造化されたTPFS-PFPPは、平面的PDMS及び未処理の階層的に構造化されたPDMSと比べてそれぞれ95%及び96%の改善を示した(P<0.01、P<0.0001)。これらの観察された撥血液特性に基づいて、階層的に構造化されたTPFS-PFPP表面が、血液接触期間の増加及び凝固の誘導を伴う環境において抗ファウリング性を有するかどうかをさらに調べた。
【0139】
観察された撥血性が、低下した血栓形成性につながるかどうかを決定するために、トロンビン生成アッセイを行った(図6d)。遅れ時間、ピークトロンビン、ピークトロンビンまでの時間及び総トロンビン生成量(Endogenous thrombin potential)(ETP)を評価し、4つのパラメータはすべて、試験した条件の間で性能の同様の傾向を示した。平面的TPFS及び平面的TPFS-PFPPは、未処理の平面的PDMSと比べて4つすべての測定にわたってわずかな改善を示した。階層的に構造化及び階層的に構造化されたTPFSは、それらの平面的な対応物よりもわずかにより良く機能した。これらの表面はすべて、バックグラウンド条件と比べて有意なトロンビン生成を依然として誘導した。一方、階層的に構造化されたTPFS-PFPP表面は、バックグラウンドレベルの又はバックグラウンドレベルに近い強い抗血栓形成性を示した。この条件は、表1に詳述されているように、他のすべての条件よりも著しく優れていた。階層的に構造化されたTPFS-PFPP表面の抗血栓形成性は、臨床デバイス内でのそれらの適用を支持し、したがって、動的環境におけるそのような特性を調べるその後の試験の必要性を証明した。
表1.トロンビン生成アッセイにおける他のすべての試験条件に対する階層的に構造化されたTPFS-PFPPを比較する分散分析によって得られたP値の概要。有意性は、すべての条件について少なくとも1つの試験パラメータにおいて確立され、ほとんどの条件は、すべてのパラメータにわたって有意性を示す。NSは、統計的有意性が無いことを表すが、階層的に構造化されたTPFS-PFPP条件に対する性能の改善が依然として観察された。
【表1】
【0140】
実施例4.動的条件における階層的に構造化されたPDMS撥き性
材料及び方法
【0141】
試薬。ポリジメチルシロキサン(SYLGARD 184)は、Dow Corning(ミッドランド、ミシガン州)から購入した。トリクロロ(1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチル)シラン、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン、及びパーフルオロパーヒドロフェナントレンは、両方ともMillipore Sigma(オークビル、オンタリオ州)から購入した。リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)は、Bioshop Canada(バーリントン、オンタリオ州)から購入した。FITC結合ヒトフィブリノーゲン、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-エタンスルホン酸(HEPES)及び塩化カルシウムは、Bioshop Canada(バーリントン、オンタリオ州)から購入した。FITC色素は、Thermo Fisher Scientific(バーリントン、オンタリオ州、カナダ)から購入した。トロンビンのための(thrombin-directed)蛍光基質であるZ-Gly-Gly-Arg-AMCは、Bachem(ブベンドルフ、スイス)から購入した。プールしたクエン酸化血漿を、前述のように健常ドナーから収集した。[7]健常志願者からの静脈血を、クエン酸ナトリウムを含有するチューブに、資格を有するフレボトミストによって採取した。すべての手順は、マクマスター大学研究倫理委員会によって承認された。マクマスター研究倫理委員会によって承認された手順に従って、同意者から血液サンプルをクエン酸化BD収集チューブ(ハミルトン、オンタリオ州)に収集した。緑色蛍光タンパク質(GFP)を有するpUA66-GadBでトランスフェクトした大腸菌K-12 MG1655は、マクマスター大学(ハミルトン、オンタリオ州)のBrown研究所によって寛大にも提供された。
【0142】
チューブ状試験デバイスの製作。試験表面を、構造上の足場を提供する1mLのシリンジバレル(BD、ミシサガ、オンタリオ州)へと巻いた。試験表面の幅は、バレルの円周に等しいものであり、均一な試験界面を生み出した。エポキシ接着剤(Gorilla Glue、シャロンビル、オハイオ州)を使用して第2のシリンジバレルに取り付けた結果、試験デバイスの各端部にルアーロックがされた。雌のバーブ付きルアーコネクタ(内径0.89mmのQuosina(登録商標)、ロンコンコマ、ニューヨーク州)を各端部に追加して、シリコーンチューブ類への取り付けを可能にした。得られたデバイスは、3.78mmの内径を有していた。
【0143】
細菌流量アッセイ。大腸菌灌流実験のために、緑色蛍光タンパク質発現pUA66-GadB(PBSで希釈された10CFU/mL)を有する6mLの大腸菌K12MG1655からなる灌流培地を調製し、エアロゾル化汚染を防止するために火炎の存在下で混合した。4チャネル蠕動ポンプ(Ismatec Reglo、Cole Parmer(登録商標)、モントリオール、ケベック州)を滅菌チューブ類(内径0.89mm、Tygon、ペンシルベニア州、米国)に接続し、チューブ状試験デバイスを閉ループを形成するようにした。ループを70%エタノールですすぎ、次いでPBSで3ml/分の流速ですすいだ。続いて、6mLのGFP-大腸菌をそれぞれ含有する4本の収集チューブ(Corning、カントン、ニューヨーク州)を抜き取り、蠕動ポンピングリザーバに装填した。ポンピングを1mL/分の流速で開始した。細菌培地を48時間灌流した。灌流後、試験表面をシステムから穏やかに取り出し、静止型滅菌PBS洗浄リザーバでリンスした。リンス後、蛍光顕微鏡(Eclipse Ti2シリーズ、Nikon(登録商標)、メルビル、ニューヨーク州)を使用して表面の画像取得した。
【0144】
FITC-フィブリノーゲン調製。10mgのピーク1フィブリノーゲンをFITC色素(Invitrogen、Thermo Fisher Scientific)と共に溶解し、反応系を室温の暗所で1時間インキュベートした。反応産物をSephadex G-25ビーズが充填されたPD-10カラムに通し、インキュベーション後に1mL画分群を収集した。280nm及び494nmで分光光度計を使用して吸光度を読み取り、タンパク質濃度を決定した。
【0145】
血液血漿灌流アッセイ。等しい部のヒト乏血小板血漿及びHEPES-FITC-フィブリノーゲン溶液(終濃度175ug/mL)を含有する灌流培地を室温で調製し、ピペッティングによって30秒間穏やかに混合した。同時に、4チャネル蠕動ポンプ(Ismatec Reglo、Cole Parmer(登録商標)、モントリオール、ケベック州)を接続し、滅菌チューブ類をHEPES緩衝液によって高流量(3mL/分)でリンスした。続いて、6mLの血漿HEPES-FITC-フィブリノーゲン溶液をそれぞれ含有する4本の収集チューブを抜き取り、蠕動ポンピングリザーバに装填した。チューブ状試験デバイスを接続した後、この閉ループを前記溶液でプライミングした。次いで、ポンピングを1mL/分の流速で24時間開始した。灌流後、試験表面をシステムから穏やかに取り出し、静止型HEPES洗浄リザーバでリンスした。リンス後、蛍光顕微鏡を使用して表面の画像取得した。
【0146】
全血灌流アッセイ。等しい部のクエン酸化ヒト全血及びHEPES-FITC-フィブリノーゲン溶液(終濃度175ug/ml)を含有する灌流培地を、血漿灌流試験に使用したプロトコルと同一のプロトコルに従って調製した。8チャネルシリンジポンプ(New Era Pump Systems(登録商標)、ファーミングデール、ニューヨーク州)を接続し、滅菌チューブ類をHEPES緩衝液と共に3mL/分の流速で用いた。次いで、それぞれ5mLの全血HEPES-FITC-フィブリノーゲンを含有する4本の収集チューブを抜き取り、1M塩化カルシウム溶液(12.5mM終濃度)をスパイクして凝固活性を回復させた。内容物を30秒間混合し、直ちに5mLの針付きシリンジ(BD、ミシサガ、オンタリオ州)に移し、これをシリンジポンプに装填した。次いで、チューブ状試験デバイスを取り付け、全血HEPES-FITC-フィブリノーゲン溶液でシステムをプライミングした。ポンピングは、1mL/分の流速で開始したが、灌流時間は、チューブ状閉塞点に等しい-およそ25分に短縮した。この時点で、デバイスは、通常閉塞し、さらなる灌流を防止する。灌流後、表面を取り出し、HEPES洗浄リザーバでリンスし、蛍光顕微鏡及びデジタルカラーカメラの両方を使用して画像取得した。
【0147】
結果
【0148】
階層的に構造化されたTPFS-PFPP表面は、静的条件で優れた抗バイオファウリング性を示したが、様々な生物医学デバイス及び検知プラットフォーム内の動的環境は、考慮する必要がある非常に異なる物理的及び機械的条件を呈する。したがって、開発した表面を流動下で試験して、そのような用途での実行可能性を確実にした。基材の高い可撓性は、平坦な表面からチューブ状デバイスへの基材の変更を可能にした(図7a)。そのような条件で、平面基材、平面的TPFS-PFPP基材及び階層的に構造化されたTPFS-PFPP基材を試験した。
【0149】
細菌撥き性を試験するために、緑色蛍光タンパク質を構成的に発現する大腸菌K12をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で10CFU/mLの濃度に希釈し、チューブ状デバイスに48時間流した。灌流後、チューブを切開し、洗浄し、蛍光顕微鏡を使用して画像取得した(図7b)。平面の場合のチューブは、表面全体にわたって蛍光スポットが均一にカバーしていることによって示されるように、有意な細菌付着を示した。平面的TPFS-PFPPチューブは、非潤滑剤チューブと比べて有意な改善を示したが、階層的に構造化されたTPFS-PFPP表面は、両方の平面条件よりも有意に優れており、非常に最小限の細菌付着を示した。細菌付着の程度を、蛍光細菌で覆われた面積に基づいて定量した(図7c)。平面的TPFS-PFPPは、平面的PDMSと比べて細菌付着の92.5%の減少を示したが、階層的に構造化されたTPFS-PFPPは、平面的PDMSと比べて96.5%の減少を示した(P<0.0001、P<0.0001)。階層的に構造化されたTPFS-PFPPは、平面的TPFS-PFPPと比較して53%の減少を示し(P<0.05)、細菌付着の防止についての、PDMSチューブに対する階層構造の効果を示した。
【0150】
流動下での血液付着及び凝固も調べた。クエン酸化ヒト血液血漿を最初に試験して、凝固の可能性を最小限に抑えながら長い灌流時間を可能にした。蛍光をモニタリングすることによって接着性フィブリンネットワークを視覚化することができるように、FITC-フィブリノーゲンを血漿に添加した。混合物を、平面的TPFS-PFPPチューブ及び階層的に構造化されたTPFS-PFPPチューブを通して、拍動流を使用して24時間灌流し、その後、サンプルを切開し、簡潔に洗浄し、画像取得した(図8)。平面的TPFS-PFPP表面は、表面を重度にコーティングする豊富なフィブリンネットワークを示した。対照的に、階層的に構造化されたTPFS-PFPPは、蛍光標識フィブリンの85%の減少(P<0.001)によって示されるように、長時間の灌流時間にもかかわらず、最小限のフィブリン付着を示した。
【0151】
臨床条件をより良く再現するために、次いで、FITC-フィブリノーゲンを添加したクエン酸化ヒト全血を使用して流動試験を行った。平面チューブ、平面的TPFS-PFPPチューブ、及び階層的に構造化されたTPFS-PFPPチューブを通して血液を灌流した。灌流の直前に塩化カルシウムを血液に添加して凝固を誘導した。チューブが閉塞するまで流れを続け、その時点で光学的及び蛍光的にサンプルの画像取得した(図7d)。平面的PDMSチューブは、広範な血液しみを実証し、高密度の蛍光フィブリンネットワークが表面全体にわたって観察された。平面的TPFS-PFPPは、より少ないしみを示したが、同様の豊富なフィブリンネットワークを示し、血漿試験で観察されたものを模倣した。ここでも、階層的に構造化されたTPFS-PFPPチューブは、平面条件のいずれと比較しても蛍光の95.8%の減少によって証明されるように、非常に最小限の血液しみを示し、フィブリンネットワークを示さなかった(図7e、P<0.001、P<0.001)。次いで、これらのサンプルをSEMによって画像取得して、表面上に形成された血餅を視覚化した。平面的PDMS表面は、広範な凝固を明らかにし、赤血球及びフィブリンネットワークが表面全体を装飾していた(図8d)。平面的TPFS-PFPPは、基材上へのフィブリンのいくらかの付着を示したが、潤滑化されていない対応物で観察されたものよりも少なかった。階層的に構造化されたTPFS-PFPP基材は、凝固又は細胞付着の兆候を示さず、流動下でのその撥き特性及び抗血栓形成性を確認した。階層構造の外観の変化は、SEMサンプル調製に使用したオスミウムコーティングによるものであることが確認された。まとめると、動的条件下でのバイオファウリングの防止における階層的に構造化されたTPFS-PFPPチューブの有効性は、バイオメディカルスペース内に存在するギャップ-特に、現在広範なバイオファウリングに悩まされている静脈内カテーテル及び尿道カテーテルなどのインビボデバイス内に存在するギャップに対処するその能力を確認する。
【0152】
結論
【0153】
パターン転写プロトコルを使用して、生物医学的空間の隙間にその光透過性及び高度の可撓性を介して対処する安価な抗バイオファウリング基材が開発された。これらの基材上での階層構造化と潤滑剤注入(lubricant-infusion)との組み合わせは、生物学的実体に対する有意な撥きをもたらす。関連する制御条件によって実証されるように、階層構造化は、撥き性に関して2つの目的:キャシーバクスター湿潤状態の誘導による撥液性及び増加したTPFS媒介潤滑剤保持によるオムニフォビック性、に役立つ。
【0154】
静的条件及び動的条件の両方で細菌及び血液に対するバイオファウリングを防止するその有効性により、この表面は、様々な生物医学プラットフォーム内で該表面を適用可能にする特性を示す。例えば、生物学的実体の非特異的付着に悩まされているチップベースバイオセンサ及びウェアラブルバイオセンサ並びにバイオフィルム形成及び血栓症を起こしやすい生物医学的デバイスは、開発された基材から恩恵を受けることになる。感染及び血液関連合併症の両方を促進する傾向があることを考慮すると、特に尿道カテーテル及び静脈内カテーテルは、特に長時間の灌流時間が性能の低下をもたらさなかった流動下でのその優れた性能を考慮すると、開発された基材の有望な用途を示す。最終的に、この潤滑剤注入(lubricant-infused)された階層的に構造化された基材の、既存の生物医学デバイス及びセンサへの組み込みは、性能及び結果として生じる臨床転帰を改善するのを助けるであろう。
【0155】
本開示を実施例を参照して説明してきたが、特許請求の範囲は、実施例に記載された実施形態によって限定されるべきではなく、明細書全体と整合する最も広い解釈が与えられるべきであることを理解されたい。
【0156】
すべての刊行物、特許及び特許出願は、各々の刊行物、特許又は特許出願がその全体が参照により取り込まれることが具体的かつ個別に示されているのと同程度に、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本開示における用語が、参照により本明細書に取り込まれる文書において異なる形で定義されている場合、本明細書で提供される定義が、その用語の定義として機能するものとする。

参考文献
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図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】