(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】感染症の重症度を予測する方法、ならびにその方法の実施および感染症の治療の観察に使用するバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20240822BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20240822BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240822BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z
C12Q1/6851 Z ZNA
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510464
(86)(22)【出願日】2021-12-30
(85)【翻訳文提出日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 CZ2021050159
(87)【国際公開番号】W WO2023020638
(87)【国際公開日】2023-02-23
(32)【優先日】2021-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CZ
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524063752
【氏名又は名称】ジェネスペクター エス.アール.オー.
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】ケモッホ スタニスラフ
(72)【発明者】
【氏名】ピエロワ レンカ
(72)【発明者】
【氏名】ハルトマノヴァ ハナ
(72)【発明者】
【氏名】ポルドカ ミハル
(72)【発明者】
【氏名】ラディナ マーティン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ53
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
RT-qPCR法を用いて感染症の重症度を予測する方法、ならびにその方法の実施および感染症の治療の観察に使用するバイオマーカーであって、方法は鼻咽頭ぬぐい液検体で実施し、血清アミロイドA、好ましくはSAA1のmRNAの量を決定し、血清アミロイドAのmRNAの量を、構成的発現遺伝子、好ましくはUBCのmRNAの量に対して正規化する。検体中のSAA1 mRNA量について決定した正規化値に基づいて、ウイルス、細菌、または真菌由来である可能性のある感染症の経過の重症度を予測し、所定の疾患の治療の有効性をさらに観察する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RT-qPCR法を用いて感染症の重症度を予測する方法であって、鼻咽頭ぬぐい液検体で実施し、血清アミロイドAのmRNAの量を決定する
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記血清アミロイドAがSAA1である
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記血清アミロイドAのmRNAの量が構成的発現遺伝子のmRNAの量に対して正規化されている
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記構成的発現遺伝子がUBCである
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
感染症の重症度の予測に使用するバイオマーカーとしての、鼻咽頭ぬぐい液中の血清アミロイドAのmRNAのレベル。
【請求項6】
感染症の治療の観察に使用するバイオマーカーとしての、鼻咽頭ぬぐい液中の血清アミロイドAのmRNAのレベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子生物学的方法、特に定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)を用いた核酸分析、微生物、特にウイルス、細菌、および真菌に関連する検査、ならびに生物学的材料の試験に関する。
【背景技術】
【0002】
定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)は、選択したDNAセグメントの増幅効率を観察することによって、検査材料中の選択した核酸セグメントのコピー数を推定するために使用する検査方法であり、例えば、核酸研究、遺伝子解析および診断、遺伝情報の配列決定、または感染症の診断などに広く使用されている。PCRの原理は、検体に含まれるDNAを熱変性させた後、解離したDNA鎖に特異的プライマーを結合させ、ポリメラーゼ酵素を用いて新しい鎖を合成するというものである。これらの工程をサイクルで繰り返すと、検体中のDNA量は1サイクルごとに2倍になる。逆転写定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)では、特定のRNAを、反応混合物中に存在する逆転写酵素で相補的なDNAに転写した後に増幅させて検出することができる。近年、優れた高感受性と特異性を備えたRT-qPCRが、特にRNAウイルスに起因する感染症の診断法として応用されている。
【0003】
SARS-CoV-2ウイルス感染とCovid-19疾患の世界的大流行に際して、国や民間の検査機関の分析能力が著しく向上し、RT-qPCRが、非侵襲的な鼻咽頭ぬぐい液を主な検体源とする一般的な診断法となった。RT-qPCR法では、診断する患者体内のウイルスRNA分子の存在と数(ウイルス量)を非常に正確に決定することが可能である。このパラメーターはCt値(サイクル閾値)で表される。しかし、Ct値には診断価値しかない。Covid-19の特性により、Ct値では将来の臨床経過の決定や予測ができない。ウイルス量が少ない(Ct値が高い)患者で、後に疾患が重篤な経過をたどることもあれば、逆にウイルス量が多い(Ct値が低い)患者で、呼吸器疾患の臨床症状がない、または発現しないことも多い。
【0004】
SARS-CoV-2感染の経過を確実に予測することはまだできない。また、疾患の長期的な経過(いわゆるCOVID後症候群)への移行についても、信頼できる予測バイオマーカーは知られていない。疾患が重篤な経過をたどる重大な臨床的危険因子は、高齢、一部の慢性疾患、中年男性、肥満、糖尿病、および高血圧である。しかし、他の宿主因子、特に遺伝的に決定され、SARS-CoV-2感染に対する体の自然免疫および獲得免疫応答をもたらす因子も重要である可能性が高い。感染症では、すなわちCovid-19でも、全身症状を引き起こす重要な発症機序はサイトカインストームである。この状態では、炎症性サイトカインの放出が徐々に制御不能となり、急性期タンパク質の活性化と免疫系の異常な動員により、肺障害、急性肝障害、および腎不全が生じる。サイトカインストームの発生を早期に検出することで、これを調節し、重篤な臨床状態の発生を予防する余地が生まれる。
【0005】
一般に、理想的な予測バイオマーカーは、一次診断材料に豊富に存在し、測定が容易で、被験者の臨床状態に応じて濃度が急速かつ顕著に変化する分子から選択される。
【0006】
血清中の炎症マーカー、具体的にはC反応性タンパク質(CRP)、血清アミロイドA(SAA)、プロカルシトニン(PCT)、およびインターロイキン-6のレベルを観察することにより、Covid-19疾患の重症度を予測する方法が、非特許文献1から知られている。これらのいわゆる急性期タンパク質は、ほぼ肝細胞でのみ合成される。これらの産生は、感染症または炎症状態の際に、さまざまな炎症性サイトカイン、特にインターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-1β(IL-1β)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターフェロン-γ(IFN-γ)、形質転換増殖因子(TGF-β)、場合によってはインターロイキン-8(IL-8)、ならびにサイトカイン産生を制御する多数の転写因子(NFκB、C/EBP、YY1、AP-2、SAF、およびSp1)によって刺激される。同様の方法は非特許文献2にも記載がある。しかし、記載されている方法では、特に、組織の破壊を伴う侵襲的な検体採取が必要である、個々の指標のレベル分析が複雑である、こうした値の相互関係の評価が複雑であるなどいくつかの欠点がある。したがって、こうした方法は診断での大量使用には適さない。
【0007】
非特許文献3は、サイトカインとインターフェロンのシグナル伝達経路に関連する物質の広範な複合体を対象とした、Covid-19陽性患者の鼻咽頭ぬぐい液の細胞学的分析について記載している。この文献では、軽度および中等度の経過をたどる患者で、シグナル伝達物質のこの組み合わせの発現増加が認められたのに対し、重篤な経過をたどる患者はCovid-19陰性の対照群に匹敵する低い値を示したことから、疾患の重篤な経過を予測する可能性についても記載されている。この方法の欠点は、先の例と同様に、複雑な相互関係を持つ指標の包括的な組み合わせの特性を明らかにし、決定する必要があること、およびそれに伴う分析の複雑さであり、そのためこの方法は診断用途には適さない。さらに、指標の濃度が疾患の経過に非線形的に依存するため、適用した治療の有効性を、この方法を疾患の寛解という文脈での観察に使用することはできない。
【0008】
前段落で検討した文献には、特に、Covid-19陽性患者の検体におけるSAAの測定が記載されており、ある検体では、SAA1およびSAA2の産生が、SARS-CoV-2ウイルスに直接感染した細胞では低下し、ウイルスに感染していない隣接細胞では増加していることが観察された。この矛盾に加え、発現ライブラリーで入手可能な情報によれば、SAA遺伝子ファミリーのいずれかの発現とそれに関連するメッセンジャーRNA(mRNA)の存在が鼻咽頭粘膜でまだ観察されていないという事実から、血清アミロイドAはCovid-19疾患の重症度を予測する好適な指標ではないというのが、当技術分野の専門家の結論である。mRNAのSAAは、具体的には、例えば非特許文献4に記載されているように、乳房組織、胃腸内膜、膵臓、前立腺、肺、皮膚、および脳でのみ認められている。
【0009】
例えば、血流の外にあり、生理的に鼻咽頭に最も近いブタの唾液で、SAAタンパク質の存在が認められている(非特許文献5)。上述したように、SAAタンパク質自体は広く研究されている免疫応答の構成要素であり、そのレベルをSAAのmRNAレベルと相関させることはできない。
【0010】
本発明の目的は、一次診断用臨床材料(鼻咽頭ぬぐい液)において、Covid-19および他の感染症の重症度を予測する方法であって、別の臨床検体(例えば、血液や気管支肺胞洗浄液)を並行して、または後から侵襲的に採取する必要がなく、分析設計が単純で、1つの特異的な指標の決定に基づいており、その指標の増加を症状の発現前に観察することができ、その値が疾患の重症度に正比例し、さらに治療の経過を観察できる方法を提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Chen et al.,Am.J.Transl.Res.2020,12(8),4569-4575
【非特許文献2】Pieri M.,et al.,Int.Immunopharmacol.2021,95,10751
【非特許文献3】Ziegler et al.,Cell 2021
【非特許文献4】Urieli-Shoval S.et al.,J.Histochem.Cytochem.,1998,46(12),1377-1384
【非特許文献5】Soler L.et al.,Res.Vet.Sci.,2012,93,1266-1270
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、鼻咽頭ぬぐい液から得た検体中の、RT-qPCR法による血清アミロイドA、好ましくはSAA1のmRNA量の決定に基づいており、したがって、先行技術の欠点がすべて取り除かれる。鼻咽頭ぬぐい液中のSAA1 mRNAレベルの観察は、理想的な予測バイオマーカーの基準をすべて満たしている。実験から、SAA1 mRNAは生理的条件下で鼻咽頭ぬぐい液中に存在し、そのレベルがRT-qPCRによって容易に測定可能であることが示されている。SAA1 mRNAレベルは感染直後に上昇し、炎症の程度に応じて3桁(>1000)変化する。
【0013】
SAA1は、以下のSEQ ID NO:1のヌクレオチド配列によって特徴付けられるSAA1遺伝子によってコードされるアポリポタンパク質である:AGGCTCAGTATAAATAGCAGCCACCGCTCCCTGGCAGGCAGGGACCCGCAGCTCAGCTACAGCACAGATCAGGTGAGGAGCACACCAAGGAGTGATTTTTAAAACTTACTCTGTTTTCTCTTTCCCAACAAGATTATCATTTCCTTTAAAAAAAATAGTTATCCTGGGGCATACAGCCATACCATTCTGAAGGTGTCTTATCTCCTCTGATCTAGAGAGCACCATGAAGCTTCTCACGGGCCTGGTTTTCTGCTCCTTGGTCCTGGGTGTCAGCAGCCGAAGCTTCTTTTCGTTCCTTGGCGAGGCTTTTGATGGGGCTCGGGACATGTGGAGAGCCTACTCTGACATGAGAGAAGCCAATTACATCGGCTCAGACAAATACTTCCATGCTCGGGGGAACTATGATGCTGCCAAAAGGGGACCTGGGGGTGCCTGGGCTGCAGAAGTGATCAGCGATGCCAGAGAGAATATCCAGAGATTCTTTGGCCATGGTGCGGAGGACTCGCTGGCTGATCAGGCTGCCAATGAATGGGGCAGGAGTGGCAAAGACCCCAATCACTTCCGACCTGCTGGCCTGCCTGAGAAATACTGAGCTTCCTCTTCACTCTGCTCTCAGGAGATCTGGCTGTGAGGCCCTCAGGGCAGGGATACAAAGCGGGGAGAGGGTACACAATGGGTATCTAATAAATACTTAAGAGGTGGAATTTGTGGAAAAAAAAAAAAAAA。位置:(GRCh/hg19)chr11:18287772-18291523。このタンパク質は主に肝臓で合成され、感染症、外傷、自己免疫疾患、またはがんによる炎症性刺激に応答して血流中に放出される。SAA1 mRNAは、脂肪組織、血管壁、腸、肺、および脾臓などの他の組織でもごく少量見つかっている。
【0014】
鼻咽頭ぬぐい液のRT-qPCR分析は、非侵襲的で、迅速で、実施しやすく、自動化が容易な標準手法である。この手法は、SARS-CoV-2感染およびCovid-19疾患の診断だけでなく、検体中のウイルス特異的または微生物特異的核酸の存在の決定および定量化による他の感染症の診断にも一般的に使用されている。この方法の感度では、1つの検体で2つ以上の標的核酸の存在を検査することが可能であるため、ある個人が所定のウイルス性疾患または他の感染症に対して陽性かどうかの情報を得るだけでなく、並行してSAA1 mRNAを決定し、それにより疾患がどの程度重症化するかを予測することも可能である。血清アミロイドAは炎症期の普遍的な指標であるため、ウイルス学的分析の結果が陰性でSAA1 mRNAの値が上昇している場合、細菌性または真菌性であり得る別の重篤な感染症が進行中であるという兆候を得ることも可能である。
【0015】
好ましくは磁性ナノ粒子を用いて精製したmRNA溶液は、サイクルを繰り返す各工程に理想的な温度条件を維持する装置内で、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、個々のプライマー、およびプローブの存在下、ワンステップRT-qPCR反応によって分析する。各工程の終了時に、毎回混合物の蛍光性を測定する。サイクルは通常、計40~45回繰り返し、プログラムの最後に、鼻咽頭ぬぐい液中の核酸分子の元の数に対応する個々のチャネルのCt値を読み取る。
【0016】
SAA1 mRNA分析の結果を定量化し、同時に鼻咽頭ぬぐいで採取した量および検体組成の違いによる結果の偏りを避けるため、選択した構成的発現遺伝子のmRNA量を並行して決定し、SAA1 mRNA量をそれに関連付けて正規化する。構成的発現遺伝子とは、細胞の基本的な生理機能を担う遺伝子であり、そのため細胞の状態や種類にかかわらず一定量発現している。したがって、選択した構成的発現遺伝子の分子数は、採取した材料中に存在する細胞数を表す。このような遺伝子の例に、ユビキチンCタンパク質をコードする遺伝子、UBCがある。正規化は、鼻咽頭ぬぐい液検体中のUBC mRNAのRT-qPCR分析によって得たCt値を、同じ検体中のSAA1 mRNAのRT-qPCR分析によって得たCt値から減じることによって行う。
【発明の効果】
【0017】
実験データによると、SAA1 mRNAは、感染による炎症が進行していない患者を含むすべての患者の鼻咽頭ぬぐい液検体中に存在し、そのレベルは炎症が進行している場合に上昇し、経過の重症度に正比例する。入院が必要となる重篤な症状の場合、SAA1 mRNAレベルの上昇は発症の数日前でも観察可能である。このことも、この指標の予測機能を裏付けている。
【0018】
統計的に有意な数の鼻咽頭ぬぐい液検体について、実験により以下のことが判明した。1)正規化したSAA1 mRNAレベルがゼロよりも低ければ、感染症に伴う炎症が進行中でないことを示す。2)正規化したSAA1 mRNAレベルがゼロよりも高ければ、感染症に伴う炎症が進行中または発症することを示し、値が1よりも低ければ、通常、炎症および対応する疾患の経過が軽度であり、値が2.5よりも高ければ、将来的に入院が必要となる重篤な経過を伴う炎症を発症する可能性が高い(95%)ことを示す。
【0019】
本発明による方法は、所定の感染症の治療に使用される療法の有効性を観察するのにも好適である。適切な治療の適用後、予測された重篤な症状の発現前でも、すでに上昇していたSAA1 mRNAのレベルが結果的に低下することが認められている。例えばCovid-19では、SARS-CoV-2感染とそれに伴う炎症が治癒した後も、鼻炎や咳などの呼吸器疾患の症状が数週間持続することがあるため、この方法は単に症状を観察するよりもかなり正確である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】患者を以下のグループに分け、構成的に発現するUBC遺伝子に対して正規化したSAA1 mRNAレベルのグラフである。グループ1:健常者および無症状のSARS-CoV-2陽性者、グループ2:感染症の経過が軽度から中等度で入院の必要のない患者、グループ3:感染症の経過が重度で入院した患者、グループ4:感染症の経過が致死的で集中治療室に入院した患者。グラフは平均値(点)、中央値(線)、および95%CI(信頼区間)(四角形)を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0021】
実施例1には、SAA1遺伝子のmRNAの存在を決定するために使用したプライマーおよびプローブのヌクレオチド配列、ならびにUBC遺伝子(ユビキチンCタンパク質をコードする構成的発現遺伝子)のmRNAの存在を決定するために使用したプライマーおよびプローブの配列を記載する。
SAA1遺伝子のmRNAの存在を決定するために使用したプライマーおよびプローブ:
SAA1_上側(SEQ ID NO:2)5‘TCGGGGGAACTATGATGCT‘3、位置:(GRCh/hg19)chr11:18290818-18290836
SAA1_下側(SEQ ID NO:3)5’GCACCATGGCCAAAGAATC‘3、位置:(GRCh/hg19)chr11:18291287-18291305
SAA1_プローブ(SEQ ID NO:4)5’HEX ATCAGCGATGCCAGAGAGAATATCCA BHQ1‘3、位置:(GRCh/hg19)chr11:18291261-18291284
UBC遺伝子のmRNAの存在を決定するために使用したプライマーおよびプローブ:
UBC_上側(SEQ ID NO:5)5’GATCGCTGTGATCGTCACTTG‘3、位置:(GRCh/hg19)chr12:125399133-125399153
UBC_下側(SEQ ID NO:6)5’GTTTTCCAGCAAAGATCAGCCT‘3、位置:(GRCh/hg19)chr12:125398173-125398194
UBC_プローブ(SEQ ID NO:7)5’Cy5 TCGTGAAGACTCTGACTGGTAAGACC BHQ2‘3、位置:(GRCh/hg19)chr12:125398282-125398307
【実施例2】
【0022】
実施例2には、並行して決定した構成的に発現するUBC遺伝子のmRNA量に対して正規化した鼻咽頭ぬぐい液検体中のSAA1 mRNA量を決定するRT-qPCRアッセイの実施について記述する。
【0023】
mRNAの単離は、カオトロピック塩が高濃度に存在する溶液中で行うことで、ヒドロキシシランで被覆した磁性粒子との非共有結合が生じる。磁性粒子に結合したmRNAは、エタノールまたはイソプロパノールを含有する溶液で洗浄し、アルコールまたはカオトロピック塩を含有しない溶液中に放出される。得られたmRNAは、ワンステップRT-qPCR反応に直接使用する。この反応は、MMLV逆転写酵素、dNTP、マグネシウム塩、BSA、ホットスタートポリメラーゼ、1.6μMの個々のプライマー、および実施例1に記載した0.2μMのプローブの存在下で行う。逆転写は50℃で10分間行い、その直後に95℃で10分間変性させ、MMLV逆転写酵素を不活性化し、ホットスタートポリメラーゼを活性化する。この後、95℃で10秒間の変性、および58℃で30秒間のアニーリングと伸長という条件下でポリメラーゼ連鎖反応を行う。工程の最後に毎回HEXおよびCy5チャネルの蛍光性を測定する。このサイクルを計45回繰り返す。プログラムの最後に、個々のシグナルのCt値を読み取る。1検体内で、HEXチャネル(SAA1)とCy5チャネル(UBC)でCt値を得る。これらの値は、鼻咽頭ぬぐい液中の個々のタンパク質の発現に対応する。正規化したSAA1 mRNA値は、SAA1 mRNAのCt値からUBC mRNAのCt値を減じて得られる。
【実施例3】
【0024】
実施例3は、SAA1 mRNAをマーカーとして使用し、SARS-CoV-2陽性患者における感染症経過の重症度予測を実施したものである。
【0025】
初期の呼吸器疾患の症状を示す患者の鼻咽頭ぬぐい液から採取した検体を、実施例2に記載の手順に従って、SARS-CoV-2ウイルスRNAおよびSAA1 mRNAの存在についてRT-qPCRで検査した。SARS-CoV-2 RNAについて得られたCt値は20.46であり、得られた正規化したSAA1 mRNA値は3.48であった。7日後、患者はまず病院の感染症病棟に入院し、翌日、麻酔科および蘇生病棟に移された。
【実施例4】
【0026】
実施例4は、SAA1 mRNAをマーカーとして使用し、SARS-CoV-2陽性患者における疾患治療の有効性確認を実施したものである。
【0027】
初期の呼吸器疾患の症状を示す患者の鼻咽頭ぬぐい液から採取した検体を、実施例2に記載の手順に従って、SARS-CoV-2ウイルスRNAおよびSAA1 mRNAの存在についてRT-qPCRで検査した。SARS-CoV-2 RNAについて得られたCt値は21.79であり、得られた正規化したSAA1 mRNA値は2.1であった。この所見に基づき、続いてSARS-CoV-2ウイルスに対する治療用量の中和抗体を被験者に注射し、3日後、実施例2に記載の手順に従って、SARS-CoV-2ウイルスRNAおよびSAA1 mRNAの存在についてRT-qPCR検査を繰り返した。SARS-CoV-2 RNAについて得られたCt値は29.00であり、得られた正規化したSAA1 mRNA値は-2.21、すなわちゼロ未満であった。さらに4日後、一連のアッセイをもう一度繰り返したところ、得られたSARS-CoV-2 RNAのCt値は39.64であり、SAA1 mRNAの正規化値は-1.5、すなわちゼロ未満であった。経過観察中、患者はCovid-19の重篤な症状を発現しなかった。しかし、鼻炎および咳といった呼吸器疾患の症状は、経過観察期間中およびその後数週間持続した。
【実施例5】
【0028】
実施例5は、SAA1 mRNAをマーカーとして使用し、SARS-CoV-2陰性患者における原因不明の感染症経過の重症度予測を実施したものである。
【0029】
初期の呼吸器疾患の症状を示す患者の鼻咽頭ぬぐい液から採取した検体を、実施例2に記載の手順に従って、SARS-CoV-2ウイルスRNAおよびSAA1 mRNAの存在についてRT-qPCRで検査した。SARS-CoV-2 RNAの存在は確認されず、得られた正規化したSAA1 mRNA値は3.58であった。悪寒、疲労、および咽喉炎といった感染症に相当する臨床症状に基づいて患者を検査した結果、細菌性急性扁桃炎の重症例と診断された。
【実施例6】
【0030】
実施例6は、SAA1 mRNAをマーカーとして使用し、SARS-CoV-2陰性患者における原因不明の感染症経過の重症度予測を実施したものである。
【0031】
初期の呼吸器疾患の症状を示す患者の鼻咽頭ぬぐい液から採取した検体を、実施例2に記載の手順に従って、SARS-CoV-2ウイルスRNAおよびSAA1 mRNAの存在についてRT-qPCRで検査した。SARS-CoV-2 RNAの存在は確認されず、得られた正規化したSAA1 mRNA値は4.23であった。下痢、嘔吐、および発熱といった感染症に相当する臨床症状に基づいて患者を検査した結果、酵母カンジダ・アルビカンスによる真菌症、すなわち真菌性疾患と診断された。
【産業上の利用可能性】
【0032】
感染症の重症度を予測する方法、ならびにその方法の実施および感染症の治療の観察に使用するバイオマーカーは、臨床検体の検査分析に基づく感染症の診断において産業への応用が可能である。
【配列表】
【国際調査報告】