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特表2024-531446癌免疫療法の増強のためのIL-10発現細胞
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】癌免疫療法の増強のためのIL-10発現細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20240822BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240822BHJP
   C12N 15/24 20060101ALI20240822BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20240822BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240822BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240822BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240822BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240822BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240822BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20240822BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240822BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20240822BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240822BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240822BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
C12N15/24
A61K35/15
A61K35/17
A61P35/00
A61K48/00
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K38/20
A61K39/395 D
A61K39/395 N
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510734
(86)(22)【出願日】2022-08-23
(85)【翻訳文提出日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 EP2022073462
(87)【国際公開番号】W WO2023025788
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】21192853.6
(32)【優先日】2021-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512008613
【氏名又は名称】エコール ポリテクニーク フェデラル デ ローザンヌ (イーピーエフエル)
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】グオ ユーガン
(72)【発明者】
【氏名】タン リー
(72)【発明者】
【氏名】チャオ ヤン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA13
4C084AA19
4C084BA41
4C084BA44
4C084CA53
4C084DA12
4C084MA02
4C084MA17
4C084MA23
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZC75
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG02
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA04
4C087CA12
4C087MA02
4C087MA17
4C087MA23
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、概して抗癌療法の分野に関し、特に癌、特に固形腫瘍を治療するための養子T細胞移植療法の使用に関する。より具体的には、本発明は、1種以上の組換え構築物を含む免疫細胞であって、少なくとも1種の組換え構築物がインターロイキン-10、その断片又は多様体をコードする、免疫細胞に関する。
【選択図】図1(1)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターロイキン-10、その断片又は多様体を発現する免疫細胞であって、前記免疫細胞は1種以上の組換え構築物を含み、少なくとも1種の組換え構築物はインターロイキン-10、その断片又は多様体をコードする、免疫細胞。
【請求項2】
第2の組換え構築物は、キメラ抗原受容体(CAR)、T細胞受容体(TCR)又はいずれかの他の合成の腫瘍標的化モチーフをコードする請求項1に記載の免疫細胞。
【請求項3】
前記免疫細胞は、T細胞、キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞、T細胞受容体(TCR)-トランスジェニックT細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、NK細胞、NK-T細胞、CAR-NK細胞、CAR-NKT細胞、TCR-トランスジェニックNK細胞、TCR-トランスジェニックNK-T細胞、樹状細胞、マクロファージ、CAR-マクロファージ又はいずれかの合成の腫瘍特異的免疫細胞である請求項1又は請求項2に記載の免疫細胞。
【請求項4】
インターロイキン-10、その断片又は多様体をコードする前記構築物は、配列番号1の配列、又はその断片若しくは多様体を含むか又はコードする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【請求項5】
インターロイキン-10、その断片又は多様体をコードする前記組換え構築物は、CAR、TCR、又はいずれかの他の合成の腫瘍標的化モチーフをコードする前記第2の組換え構築物に連結されている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【請求項6】
インターロイキン-10、その断片又は多様体をコードする前記組換え構築物は、自己切断ペプチド(例えばペプチド2A)をコードする配列を介して、CAR、TCR又はいずれかの他の合成の腫瘍標的化モチーフをコードする前記第2の組換え構築物に連結されている請求項5に記載の免疫細胞。
【請求項7】
前記CARをコードする前記第2の組換え構築物は、抗体に由来する単鎖フラグメント多様体(scFv)の細胞外抗原認識ドメインを含む請求項5又は請求項6に記載の免疫細胞。
【請求項8】
前記CARをコードする前記第2の組換え構築物は、膜貫通領域のポリペプチドをコードする核酸を含む請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【請求項9】
前記CARをコードする前記第2の組換え構築物は、CD3ζの細胞内T細胞活性化ドメインのポリペプチドをコードする核酸を含む請求項5から請求項8のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【請求項10】
前記CARをコードする前記第2の組換え構築物は、4-1BB若しくはCD28又は4-1BB及びCD28細胞内領域の組み合わせを含む請求項5から請求項9のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【請求項11】
i)抗体由来の前記単鎖フラグメント多様体(scFv)の細胞外抗原認識ドメインは、c-MET、CD7、CD19、CD20、CD22、CD38、CD123、CD133、CD171、CD70、BCMA、CEA、EGFR-VIII、EpCAM、EphA2、FAP、GD2、GPC3、HER2、IL-13Ra2、メソテリン、MUC1、PSCA、PSMA、ROR1、VEGFR2、クローディン18.2を含む群から選択される抗原を認識するか、又は
ii)前記TCRは、gp100、NY-ESO-1、MAGE-A3及びTRP-1、若しくはこれらの1つ以上の組み合わせを含む群から選択される抗原を認識する
請求項5から請求項10のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【請求項12】
前記インターロイキン-10、その断片又は多様体は、好ましくは腫瘍微小環境において、前記免疫細胞によって分泌されるか又は膜結合される請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【請求項13】
インターロイキン-10、その断片又は多様体をコードする前記構築物は、Fc、HSA、又は抗体融合タンパク質をコードする配列内に、又はその配列の外に含まれる請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【請求項14】
癌の予防及び/又は治療に使用するための請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の免疫細胞であって、前記癌は固体癌又は液体癌である免疫細胞。
【請求項15】
前記固形癌は、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、子宮癌、頭頚部癌、神経膠芽腫、肝細胞癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、腎臓癌、前立腺癌、胃癌、気管支癌、膵臓癌、膀胱癌、肝臓癌、脳腫瘍及び皮膚癌、特に黒色腫、又はこれらの1つ以上の組み合わせを含む群から選択される請求項14に記載の免疫細胞。
【請求項16】
前記免疫細胞は自己由来、同種異系、又は異種性である請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【請求項17】
前記抗体由来の単鎖フラグメント多様体(scFv)の前記細胞外抗原認識ドメインは、HER2、TRP-1、EGFRvIII、及びCD19を含む群から選択される抗原を認識する請求項7又は請求項11に記載の免疫細胞。
【請求項18】
HER2を認識する前記scFvのアミノ酸配列は配列番号2、その断片又は多様体で示される請求項17に記載の免疫細胞。
【請求項19】
TRP-1を認識する前記scFvのアミノ酸配列は配列番号3、その断片又は多様体で示される請求項17に記載の免疫細胞。
【請求項20】
EGFRvIIIを認識する前記scFvのアミノ酸配列は配列番号4、その断片又は多様体で示される請求項17に記載の免疫細胞。
【請求項21】
CD19を認識する前記scFvのアミノ酸配列は配列番号5、その断片又は多様体で示される請求項17に記載の免疫細胞。
【請求項22】
CD8膜貫通ドメイン及びヒンジのポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号6、その断片又は多様体で示される請求項8から請求項21のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【請求項23】
前記CD3ζの細胞内T細胞活性化ドメインのポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号7、その断片又は多様体で示される請求項9から請求項22のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【請求項24】
治療有効量のi)請求項1から請求項23のいずれか1項に記載の免疫細胞、ii)請求項1から請求項23のいずれか1項に記載の1種以上の組換え構築物をコードする核酸、及び/又はiii)請求項1から請求項23のいずれか1項に記載の1種以上の組換え構築物をコードする核酸配列を含むプラスミド若しくはベクターと、少なくとも1種の薬学的に許容できる担体及び/又は希釈剤とを含む医薬組成物。
【請求項25】
少なくとも1種の追加の治療剤又は療法をさらに含む請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記少なくとも1種の追加の治療剤又は療法は、癌、好ましくは固形癌を治療するのに有用な抗癌剤若しくは抗癌療法、及び/又は抗炎症剤である請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記抗癌療法は、放射線療法、化学療法、免疫チェックポイント阻害剤、免疫療法及びホルモン療法、又はこれらの1つ以上の組み合わせを含む群から選択される請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、及びCTLA-4阻害剤、又はこれらの1つ以上の組み合わせを含む群から選択される請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
対象における癌の治療及び/又は予防の方法であって、請求項24から請求項28のいずれか1項に記載の医薬組成物を投与する工程を含む、方法。
【請求項30】
対象における癌の治療及び/又は予防の方法であって、(i)免疫細胞、好ましくは天然T細胞を前記対象から取り出して単離するか、又は免疫細胞、好ましくは天然T細胞を準備する工程と、(ii)前記T細胞を、インターロイキン-10、その断片又は多様体をコードする少なくとも1種の組換え構築物、及びキメラ抗原受容体(CAR)、T細胞受容体(TCR)又はいずれかの他の合成の腫瘍標的化モチーフ若しくは抗原をコードする第2の組換え構築物を用いて遺伝子操作する工程と、(iii)操作されたT細胞のより大きい集団へとエキソビボで増殖させる工程と、(iv)患者又は対象に再導入する工程とを含む、方法。
【請求項31】
対象における抗腫瘍活性を増強する方法であって、(i)免疫細胞、好ましくは天然T細胞を前記対象から取り出して単離するか、又は免疫細胞、好ましくは天然T細胞を準備する工程と、(ii)前記T細胞を、インターロイキン-10、その断片又は多様体をコードする少なくとも1種の組換え構築物、及びキメラ抗原受容体(CAR)、T細胞受容体(TCR)又はいずれかの他の合成の腫瘍標的化モチーフ若しくは抗原をコードする第2の組換え構築物を用いて遺伝子操作する工程と、(iii)操作されたT細胞のより大きい集団へとエキソビボで増殖させる工程と、(iv)患者又は対象に再導入する工程とを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して抗癌療法の分野に関し、特に癌、特に固形腫瘍を治療するための養子T細胞移植療法の使用に関する。より具体的には、本発明は、1種以上の組換え構築物を含む免疫細胞であって、少なくとも1種の組換え構築物がインターロイキン-10、その断片又は多様体をコードする、免疫細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
キメラ抗原受容体(CAR)T細胞及びT細胞受容体(TCR)トランスジェニック(遺伝子導入)T細胞(両方とも「養子T細胞移植」療法と呼ばれる)は、遺伝子操作されたT細胞に基づく養子移植免疫療法である。例えば、CAR T細胞は、臨床において、特に血液悪性腫瘍において有望な結果を示すが、固形腫瘍における進歩は限られている(Lim,W.A.及びJune,C.H. The Principles of Engineering Immune Cells to Treat Cancer. Cell 168、724-740(2017))。
【0003】
腫瘍微小環境(TME)におけるCAR T細胞は、T細胞「疲弊」として定義されるエフェクター機能及び増殖能の喪失を示すことが報告されており、T細胞「疲弊」は、固形腫瘍における持続的な抗原刺激及び他の代謝ストレスによって生じ得る(Schietinger,A.ら、Tumor-Specific T Cell Dysfunction Is a Dynamic Antigen-Driven Differentiation Program Initiated Early during Tumorigenesis. Immunity 45、389-401(2016);Vodnala,S.K.ら、T cell stemness and dysfunction in tumors are triggered by a common mechanism. Science 363、(2019))。
【0004】
疲弊したT細胞はミトコンドリア呼吸の抑制を呈し、このような代謝適合性(代謝フィットネス)の不良はT細胞疲弊を強化し、それらの抗腫瘍免疫応答を損なう可能性があることが報告されている。養子移植されたCAR T細胞の増殖期の間の代謝介入は、インビボ分化を調節し、抗腫瘍応答を改善することが示されている(Alizadeh,D.ら、IL15 Enhances CAR T Cell Antitumor Activity by Reducing mTORC1 Activity and Preserving Their Stem Cell Memory Phenotype. Cancer Immunol.Res. 7、759-772(2019))。
【0005】
しかしながら、このタイプの介入は最適以下の抗腫瘍効果しかもたらさなかった。これは、適用されたサイトカインが構成的に供給されないか、又はT細胞を疲弊から完全に救出する代謝リプログラミング能力が限られているかのいずれかによって引き起こされる可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Lim,W.A.及びJune,C.H. The Principles of Engineering Immune Cells to Treat Cancer. Cell 168、724-740(2017)
【非特許文献2】Schietinger,A.ら、Tumor-Specific T Cell Dysfunction Is a Dynamic Antigen-Driven Differentiation Program Initiated Early during Tumorigenesis. Immunity 45、389-401(2016)
【非特許文献3】Vodnala,S.K.ら、T cell stemness and dysfunction in tumors are triggered by a common mechanism. Science 363、(2019)
【非特許文献4】Alizadeh,D.ら、IL15 Enhances CAR T Cell Antitumor Activity by Reducing mTORC1 Activity and Preserving Their Stem Cell Memory Phenotype. Cancer Immunol.Res. 7、759-772(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、TME内の免疫細胞の代謝適合性、増殖、及び生存を支持する操作プロセス、並びに増強された抗腫瘍活性を有する有効な免疫細胞の開発が、依然として緊急に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、インターロイキン-10、その断片又は多様体を発現する免疫細胞であって、前記免疫細胞は1種以上の組換え構築物を含み、少なくとも1種の組換え構築物がインターロイキン-10、その断片又は多様体をコードする、免疫細胞を提供する。
【0009】
本発明の1種以上の組換え構築物をコードする核酸配列をコードする核酸配列がさらに提供される。
【0010】
本発明の核酸配列を含むプラスミド又はベクターがさらに提供される。
【0011】
i)本発明の免疫細胞、ii)本発明の核酸、及び/又はiii)本発明のプラスミド若しくはベクターと、少なくとも1種の薬学的に許容できる担体又は希釈剤とを含む医薬組成物がさらに提供される。
【0012】
癌の治療及び/又は予防の方法であって、本発明の医薬組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む方法も提供される。
【0013】
対象における癌の治療及び/又は予防の方法であって、(i)免疫細胞、好ましくは天然T細胞を前記対象から取り出して単離するか、又は免疫細胞、好ましくは天然T細胞を準備する工程と、(ii)前記T細胞を、インターロイキン-10、その断片又は多様体をコードする少なくとも1種の組換え構築物、及びキメラ抗原受容体(CAR)、T細胞受容体(TCR)又はいずれかの他の合成の腫瘍標的化モチーフ若しくは抗原をコードする第2の組換え構築物を用いて遺伝子操作する工程と、(iii)操作されたT細胞のより大きい集団へとエキソビボで増殖させる工程と、(iv)前記患者又は対象に再導入する工程とを含む方法も提供される。
【0014】
対象における抗腫瘍活性を増強する方法であって、(i)免疫細胞、好ましくは天然T細胞を前記対象から取り出して単離するか、又は免疫細胞、好ましくは天然T細胞を準備する工程と、(ii)前記T細胞を、インターロイキン-10、その断片又は多様体をコードする少なくとも1種の組換え構築物、及びキメラ抗原受容体(CAR)、T細胞受容体(TCR)又はいずれかの他の合成の腫瘍標的化モチーフ若しくは抗原をコードする第2の組換え構築物を用いて遺伝子操作する工程と、(iii)操作されたT細胞のより大きい集団へとエキソビボで増殖させる工程と、(iv)前記患者又は対象に再導入する工程とを含む方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1(1)】IL-10を共発現するHER2特異的CAR T細胞(IL-10 HER2 CAR T)は、抗原刺激時にCAR T細胞のOXPHOSを増強し、CAR T細胞増殖を促進する。(a)HER2指向性第2世代CAR(HER2 CAR)、及び2Aエレメントの後にマウスIL-10を発現するように改変されたHER2指向性第2世代CAR(HER2 CAR-IL-10)の概略図。
図1(2)】IL-10を共発現するHER2特異的CAR T細胞(IL-10 HER2 CAR T)は、抗原刺激時にCAR T細胞のOXPHOSを増強し、CAR T細胞増殖を促進する。(b)HER2 CAR又はHER2 CAR-IL-10構築物による形質導入がレトロウイルスベクターによって行われた。CARの発現レベルがフローサイトメトリによって分析された。ヒストグラム中の数字は、HER2 CAR陽性染色細胞のパーセンテージを表す。同様の結果が10回の独立した実験から得られた。
図1(3)】IL-10を共発現するHER2特異的CAR T細胞(IL-10 HER2 CAR T)は、抗原刺激時にCAR T細胞のOXPHOSを増強し、CAR T細胞増殖を促進する。(c)CAR T細胞がマイトマイシンC処理MC38-HER2(HER2発現MC38結腸癌細胞)と3日間共培養された。培養上清が、IL-10の濃度について酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって調べられた。(d、e)CAR T細胞が、細胞トラッカーCFSEで標識され、エフェクター:標的(E:T)比1:1で、示された期間、マイトマイシンC処理MC38-HER2細胞と共培養された。(d)異なる日の生存HER2 CAR T又はIL-10 HER2 CAR Tの絶対数。(e)リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、アイソタイプ対照抗体、又は抗IL-10 mAbの存在下でのHER2 CAR T又はIL-10 HER2CAR T細胞分裂のパーセンテージ。データは平均±SEMを表す。少なくとも3回の独立した実験から同様の結果が得られた。
図1(4)】IL-10を共発現するHER2特異的CAR T細胞(IL-10 HER2 CAR T)は、抗原刺激時にCAR T細胞のOXPHOSを増強し、CAR T細胞増殖を促進する。(f)5:1のE:T比でMC38-HER2を用いて24時間刺激されたCAR T細胞の代表的な酸素消費速度(OCR)トレース。(g)(f)のように処理された細胞の代表的な細胞外酸性化速度(ECAR)トレース。少なくとも3回の独立した実験から同様の結果が得られた。
図1(5)】IL-10を共発現するHER2特異的CAR T細胞(IL-10 HER2 CAR T)は、抗原刺激時にCAR T細胞のOXPHOSを増強し、CAR T細胞増殖を促進する。(h)(f)からの基礎OCRの統計分析。(i)(g)からの基礎ECARの統計分析。データは平均±SEMを表す。少なくとも3回の独立した実験から同様の結果が得られた。
図1(6)】IL-10を共発現するHER2特異的CAR T細胞(IL-10 HER2 CAR T)は、抗原刺激時にCAR T細胞のOXPHOSを増強し、CAR T細胞増殖を促進する。(j)(f)及び(g)からのOCR/ECARの比。データは平均±SEMを表す。少なくとも3回の独立した実験から同様の結果が得られた。
図2】IL-10 HER2 CAR T細胞は、ピルビン酸依存的にCAR T細胞の抗腫瘍活性を増強する。(a)標的としてMC38-HER2細胞を使用する細胞傷害性アッセイ。標的細胞は、示されたE/T比でHER2 CAR T細胞又はIL-10 HER2 CAR T細胞と混合された。(b、c、d)非形質導入対照T細胞(Ctrl T)、0及び145ng/mLのマウス組換えIL-10(mIL-10)の存在下におけるHER2 CAR T、又はIL-10 HER2 CAR T細胞とMC38-HER2細胞との、0.5:1のE:T比における48時間の共培養物。(b)MC38-HER2腫瘍細胞死滅パーセンテージ、(c)生存CAR T細胞数がフローサイトメトリによって分析された。(d)共培養又は休止期における多機能性CAR T細胞の比率が、細胞内サイトカイン染色によって評価された。
図3】IL-10 HER2 CAR T療法は、確立されたマウスMC38-HER2結腸腺癌を根絶する。C57BL/6マウスがMC38-HER2細胞(3×10)を皮下接種され、それぞれ6日目に静脈内(i.v.)で、HER2 CAR T細胞(3×10)、若しくはIL-10 HER2 CAR T細胞(3×10)の養子細胞移植を受け、又はHER2 CAR T細胞(3×10)の養子細胞移植を受けたことに続いてmIL-10(1μg)のi.v.投与を受けた。各処置群の平均腫瘍増殖曲線(a)及び生存曲線(b)が示されている。群中のマウスの総数のうち長期生存マウスの数が示されている。(c)IL-10 HER2 CAR T単独療法の処置群からの生存マウスが、初代接種後90日目にMC38-HER2(1×10)細胞を皮下再負荷(チャレンジ)された。ナイーブWTマウス(n=5)が、対照として、同じ数の腫瘍細胞を接種された。再負荷に対する生存曲線及び長期生存マウスの数が示されている。データは平均±SEMを表す。
図4(1)】TRP-1 IL-10 CAR T療法は、マウスB16F10黒色腫モデルにおいて生存を延長する。(a)TRP-1指向性第2世代CAR(TRP-1 CAR)、及び2Aエレメントの後にマウスIL-10を発現するように改変されたTRP-1指向性第2世代CAR(IL-10 TRP-1 CAR)の概略図。(b)TRP-1 CAR又はIL-10 TRP-1 CAR構築物による形質導入がレトロウイルスベクターによって行われた。CARの発現レベルがフローサイトメトリによって分析された。ヒストグラム中の数字は、c-Mycタグ陽性染色細胞のパーセンテージを表す。同様の結果が10回の独立した実験から得られた。
図4(2)】TRP-1 IL-10 CAR T療法は、マウスB16F10黒色腫モデルにおいて生存を延長する。(c、d)0及び145ng/mLのマウス組換えIL-10(mIL-10)の存在下におけるTRP-1 CAR T、又はIL-10 TRP-1 CAR T細胞とB16F10細胞との、0.5:1のE:T比における48時間の共培養物。(c)B16F10腫瘍細胞死滅パーセンテージがフローサイトメトリによって分析された。(d)生存CAR T細胞数がフローサイトメトリによって分析された。データは平均±SEMを表す。
図4(3)】TRP-1 IL-10 CAR T療法は、マウスB16F10黒色腫モデルにおいて生存を延長する。(e、f)C57BL/6マウスがB16F10黒色腫細胞(3×10)を皮下接種され、それぞれ6日目にi.v.で、TRP-1 CAR T細胞(3×10)、IL-10 TRP-1 CAR T細胞(3×10)の養子細胞移植を受けた。各処置群の平均腫瘍増殖曲線(e)及び各処置群の生存曲線(f)が示されている。データは平均±SEMを表す。
図5(1)】IL-10 EGFRvIII CAR T細胞を用いた処置による、予め確立されたマウス4T1-Luc-EGFRvIII転移性乳癌モデルの完全退縮。(a)EGFRvIII指向性第2世代CAR(EGFRvIII CAR)、及び2Aエレメントの後にマウスIL-10を発現するように改変されたEGFRvIII指向性第2世代CAR(IL-10 EGFRvIII CAR)の概略図。(b)CARの発現レベルがフローサイトメトリによって分析された。ヒストグラム中の数字は、c-Mycタグ陽性染色細胞のパーセンテージを表す。同様の結果が10回の独立した実験から得られた。
図5(2)】IL-10 EGFRvIII CAR T細胞を用いた処置による、予め確立されたマウス4T1-Luc-EGFRvIII転移性乳癌モデルの完全退縮。(c)CAR T細胞が、マイトマイシンC処理4T1-Luc-EGFRvIIIと3日間共培養された。培養上清が、IL-10の濃度についてELISAによって調べられた。(d、e)Ctrl T、0及び145ng/mLのmIL-10の存在下におけるEGFRvIII CAR T、又はIL-10 EGFRvIII CAR T細胞と、4T1-Luc-EGFRvIII細胞との、0.5:1のE:T比における48時間共培養物。(d)4T1-Luc-EGFRvIII腫瘍細胞死滅パーセンテージがフローサイトメトリによって分析された。(e)生存CAR T細胞数がフローサイトメトリによって分析された。データは平均±SEMを表す。
図5(3)】IL-10 EGFRvIII CAR T細胞を用いた処置による、予め確立されたマウス4T1-Luc-EGFRvIII転移性乳癌モデルの完全退縮。(f~h)BALB/cマウスが4T1-Luc-EGFRvIII細胞(5×10)をi.v.注射され、それぞれ6日目にi.v.で、EGFRvIII CAR T細胞(3×10)、若しくはIL-10 EGFRvIII CAR T細胞(3×10)の養子細胞移植を受け、又はEGFRvIII CAR T細胞(3×10)を受けたことに続いてmIL-10(1μg)のi.v.投与を受けた。(f)異なる時間点でのマウス群の個々の平均放射輝度(p/s/cm2/sr)。(g)各処置群の生存曲線及び群中のマウスの総数のうち長期生存マウスの数が示されている。(h)フローサイトメトリによって定量された15日目の血液中のCAR T細胞の数。データは平均±SEMを表す。
図6】IL-10 Pmel TCR T療法は、マウスB16F10黒色腫モデルにおいて生存を延長する。(a)IL-10構築物による形質導入がレトロウイルスベクターによって行われた。IL-10の発現レベルがELISAによって分析された。(b~f)C57BL/6マウスがB16F10黒色腫細胞(3×10)を皮下接種され、それぞれ6日目にi.v.でPmel T細胞(10×10)又はIL-10 Pmel T細胞(10×10)の養子細胞移植を受けた。(b~d)PBS対照群(b)、Pmel T細胞療法(c)及びIL-10 Pmel T細胞療法(d)の個々の腫瘍増殖曲線。(e、f)各処置群の平均腫瘍増殖曲線(e)及び生存曲線(f)が示されている。データは平均±SEMを表す。
図7(1)】IL-10 CD19ヒトCAR Tのインビトロ特性評価。(a)CD19指向性第2世代CAR(CD19 CAR)、及びヒトIL-10を発現するように改変されたCD19指向性第2世代CAR(IL-10 CD19 CAR)の概略図。(b)CARの発現レベルがフローサイトメトリによって分析された。同様の結果が10回の独立した実験から得られた。
図7(2)】IL-10 CD19ヒトCAR Tのインビトロ特性評価。(c)分泌されたIL-10の濃度がELISAによって検出された。(d)Ctrl T、CD19 CAR T、又はIL-10 CD19 CAR T細胞と標的腫瘍細胞との1:32のE:T比における共培養物における腫瘍細胞死滅パーセンテージがLDHアッセイによって分析された。(e)平均腫瘍増殖曲線。NSGマウスがPANC1-CD19ヒト類上皮癌細胞(2×10)を接種され(s.c.)、8日目にi.v.で、CD19 hCAR T細胞(1×10)又はIL-10 CD19 hCAR T細胞(1×10)の養子細胞移植を受けた(n=9/群)。データは平均±SEMを表す。
図8】IL-10発現は、CAR-T細胞のミトコンドリア適合性(fitness)を維持する。C57BL/6マウスがMC38-HER2腫瘍細胞(1×10、s.c.)を接種され、5日目に照射により致死量以下のリンパ球を枯渇させられ、6日目にi.v.で、IL-10 HER2 CAR-T細胞(3×10)、又はi.v.投与されたIL-10(1μg)の存在下若しくは不存在下でのHER2 CAR-T細胞(3×10)の養子移植を受けた(n=5/群)。14日目に、マウスが殺され、示された組織が処理された。CAR-T細胞が、フローサイトメトリによるミトコンドリア表現型分析に供されるか、又は電子顕微鏡分析のために選別された。CAR-T細胞のミトコンドリア質量(mass)及び膜電位が、それぞれMitoTracker Green(MG)及びMitoTracker Deep Red(MDR)で染色することによって調べられた。a. 機能不全ミトコンドリアを有するHER2 CAR-T細胞の頻度。b. 示された処置群に由来する腫瘍浸潤性HER2 CAR-T細胞におけるMDR/MGの比率。c. 示された処置群に由来する選別された腫瘍組織内HER2 CAR-T細胞の代表的な電子顕微鏡画像。d~f. (c)に示される選別された腫瘍組織内HER2 CAR-T細胞における、1細胞あたりのミトコンドリア数の定量(d)、ミトコンドリアあたりのクリステ数(e)、及びミトコンドリア領域あたりの総クリステ長さ(f)。すべてのデータは平均±s.e.m.を表し、対応のないスチューデント(Student)のt検定(d、e、f)又はチューキー(Tukey)の多重比較検定を用いた一元配置ANOVA(a、b)によって分析される。
図9図5に記載されるIL-10 HER2 CAR-T細胞又はIL-10 TRP-1 CAR-T細胞の処置後の生存マウスが、初代腫瘍接種後90日目に、それぞれMC38-HER2(1×10)及びB16F10(1×10)細胞をs.c.再負荷された。ナイーブWTマウス(n=5/群)が、対照として、同じ数の腫瘍細胞を接種された。a. 実験タイムライン。b、c. MC38-HER2腫瘍モデル(b)及びB16F10腫瘍モデル(c)における第2の腫瘍負荷を拒絶する長期生存マウスの生存曲線及び数が示されている。
図10】IL-10 CAR-T細胞で処置されたマウスは、幹細胞様の記憶を誘導した。C57BL/6マウスがMC38-HER2細胞(1×10、s.c.)を接種され、5日目に照射により致死量以下のリンパ球を枯渇させられ、6日目にi.v.で、IL-10 HER2 CAR-T細胞(3×10)、又はi.v.投与されたIL-10(1μg)の存在下若しくは不存在下でのHER2 CAR-T細胞(3×10)の養子移植を受けた(n=5/群)。18日目に、フローサイトメトリによる脾臓及び末梢血中のCAR-T細胞の表現型分析のためにマウスは殺された。a、b. 脾臓中の総CAR-T細胞のうちのCD62LCD44の平均頻度(a)及びCD62LCD44 CAR-T細胞のうちのSca-1CD122の平均頻度(b)。c. 脾臓におけるCAR-T細胞中のSca-1発現の代表的なフローサイトメトリプロット及び平均MFI。d. 脾臓及び血液(e)中のCAR-T細胞の表現型を示す代表的なフローサイトメトリプロット。脾臓(d)及び血液(e)における総CAR-T細胞のうちIL-7RαKLRG-1の頻度。すべてのデータは平均±s.e.m.を表し、チューキーの多重比較検定を用いた一元配置ANOVAによって分析される(a~e)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書に記載される方法及び材料と類似又は等価な方法及び材料を本発明の実施又は試験で使用することができるが、好適な方法及び材料が以下に記載されている。本明細書中で言及されるすべての公開公報、特許出願、特許、及び他の参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる。本明細書で論じられる公開公報及び出願は、本願の出願日前のそれらの開示についてのみ提供される。本明細書中の記載には、本発明が、先行発明であるという理由からそのような刊行物に先行する権利がないということを認めるものと解釈されるものは何もない。加えて、それらの材料、方法及び例は、説明のためだけのものであり、限定することは意図されていない。
【0017】
矛盾する場合、定義を含めて本明細書が優先することになる。特段の記載がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明の主題が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書で使用する場合、本発明の理解を容易にするために、以下の定義が与えられる。
【0018】
用語「comprise/comprising(…を含む)」は、include/including(…を含む)の意味で一般に使用され、つまり1種以上の特徴又は構成要素の存在を許容する。用語「comprise」及び「comprising」は、より限定的なものである「consist(からなる)」及び「consisting(からなる)」、並びに「consist/consisting essentially of(本質的に…からなる)」もそれぞれ包含する。
【0019】
本明細書及び請求項で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈と明らかに矛盾する場合を除いて複数の指示対象を含む。
【0020】
本明細書で使用される場合、「少なくとも1つ(1種)」とは、「1つ(1種)以上」、「2つ(2種)以上」、「3つ(3種)以上」等を意味する。例えば、少なくとも1つ(1種)は、1種以上の構築物を意味し、1種の構築物、2種の構築物、3種の構築物等を指す。
【0021】
本明細書で使用する場合、用語「対象」/「必要とする対象」、又は「患者」/「必要とする患者」は当該技術分野で十分に認識されており、本明細書中では、イヌ、ネコ、ラット、マウス、サル、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ラクダ、最も好ましくはヒトを含む哺乳動物を指すために互換的に使用される。ある場合には、上記対象は、処置の必要がある対象若しくは疾患又は障害を抱える対象である。しかしながら、他の態様では、上記対象は、健康な対象であることができる。この用語は、特定の年齢も性別も表さない。従って、雄であろうと雌であろうと、成人及び新生の対象が包含されることが意図されている。好ましくは、対象はヒト、最も好ましくは、癌に罹患するリスクのあるヒトである。
【0022】
本発明によれば、癌は固形又は液体の癌である。1つの態様では、癌は固形癌である。好ましくは、固形癌は、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、子宮癌、頭頸部癌、神経膠芽腫、肝細胞癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、腎臓癌、前立腺癌、胃癌、気管支癌、膵臓癌、膀胱癌、肝臓癌、脳腫瘍及び皮膚癌、特に黒色腫、又はこれらの1つ以上の組み合わせを含む非限定的な群から選択される。
【0023】
用語「核酸」、「ポリヌクレオチド」及び「オリゴヌクレオチド」は、互換的に使用され、任意の種類のデオキシリボヌクレオチド(例えばDNA、cDNA、...)若しくはリボヌクレオチド(例えばRNA、mRNA、...)のポリマー、又はデオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドとの組み合わせ(例えばDNA/RNA)のポリマーで、直鎖状又は環状の立体構造の、一本鎖又は二本鎖の形態のものを指す。これらの用語は、ポリマーの長さに関して限定的に解釈されるものではなく、天然ヌクレオチドの公知の類似体、並びに塩基、糖及び/又はリン酸部分が修飾されたヌクレオチド(例えば、ホスホロチオエート骨格)を包含することができる。一般的に、特定のヌクレオチドの類似体は、同じ塩基対形成の特異性を持つ。すなわち、Aの類似体はTと塩基対形成する。
【0024】
用語「ベクター」は、本明細書で使用される場合、ウイルスベクター、又はプラスミド若しくは他のビヒクル等の核酸(DNA若しくはRNA)分子を指し、これらは本発明の1種以上の異種核酸配列を含有し、好ましくは、異なる宿主細胞間での移動(導入)及び/又は増幅目的のために設計される。
【0025】
用語「発現ベクター」、「遺伝子導入ベクター」及び「遺伝子療法ベクター」は、本発明の1種以上の核酸を、好ましくはプロモーターの制御下で細胞内に組み込んで発現させるのに有効な任意のベクターを指す。クローニングベクター又は発現ベクターは、プロモーターに加えて、例えば、調節エレメント(要素)や転写後調節エレメント等の追加エレメントを含んでいてもよい。
【0026】
本明細書で使用される場合、インターロイキン-10(IL-10)は、IL-10ファミリーサイトカインのメンバーを指す。IL-10は、制御されない炎症応答によって引き起こされる組織損傷を低減するので、概して免疫抑制性であると考えられる。「IL-10、その断片又は多様体」は、好ましくは天然ヒトIL-10、並びにMummら、2011、Cancer Cell、20、781-796;Guoら、2012,Protein Expr.Purif.、83、152-156(2012);Zhengら、1997、J.Immunol.、158、4507-13;Qiaoら、2019、Cancer Cell 35、901-915;Guoら、2021、Nat Immunol 22、746-756に記載されるようなIL-10の断片及び多様体の配列を含む配列を含み、上記の文献の内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。1つの態様では、上記IL-10配列は配列番号1で示されるヒトIL-10アミノ酸配列である。
【0027】
用語「多様体」(バリアント)は、IL-10に関する場合、IL-10の、好ましくは本発明のヒトIL-10配列の1種以上の生物学的に活性な誘導体を意味する。一般に、「多様体」という用語は、天然配列を有し、天然分子と比較して1つ以上の付加、置換(一般に、本質的に保存的)及び/又は欠失を有するが、その修飾がその生物学的活性を破壊せず、参照分子と「実質的に相同」である範囲にある分子を指す(Gorbyら、Sci.Signal. 13、eabc0653、2020;Saxtonら、Science 371、eabc8433、2021)。一般に、このような多様体の配列は、参照配列に対して高度の配列相同性又は同一性、例えば、2つの配列がアラインメントされる場合、25%超、一般に50%超~70%、さらにより具体的には80%又は85%以上、例えば少なくとも90%又は95%以上の配列相同性又は配列同一性を有する。Spencer,Juliet Vらは、IL-10のスプライシング形態が、hIL-10に対してわずか27%の配列同一性しか有さないにもかかわらず、生物学的活性又は特性を保持することを報告した(Spencer,Juliet Vら、「Stimulation of B lymphocytes by cmvIL-10 but not LAcmvIL-10」、Virology 第374巻、1(2008):164-9. doi:10.1016/j.virol.2007.11.031。この文献の内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0028】
本明細書で使用される場合、本発明のIL-10、好ましくはヒトIL-10の「断片」は、それぞれのポリペプチド配列又は核酸配列よりも短いヌクレオチド長を含有する配列を指す。好ましくは、この配列又は断片は、それぞれのポリペプチド配列又は核酸配列よりも90%短い、好ましくは60%短い、特に30%短いヌクレオチド長を含有する。
【0029】
CAR操作T細胞を用いて腫瘍を治療するための新規かつ効率的なアプローチの開発に焦点を当てているうちに、本発明者らは、驚くべきことに、CAR Tを発現する代謝操作IL-10が、CAR T細胞の運命(fate)を疲弊から離れて記憶様状態へと向け直し、処置されたマウスの大部分において、確立された固形腫瘍の根絶及び持続的な治癒をもたらすことを示した。これらの有望な結果は、IL-10を発現するCAR T又はいずれかの他の操作された免疫細胞が臨床における養子細胞療法の有効性を増強する大きい可能性を証明した。
【0030】
本発明は、1つの態様では、インターロイキン-10、その断片又は多様体を発現する免疫細胞又は免疫細胞の集団を提供する。1つの態様では、この免疫細胞は単離された免疫細胞である。
【0031】
本明細書で使用される場合、用語「免疫細胞」は、組換え(操作されたもの)であろうとなかろうと、リンパ球、好中球、及び単球/マクロファージとして分類される任意のタイプの免疫細胞を含む。好ましい態様において、免疫細胞は、T細胞、キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞、T細胞受容体(TCR)-トランスジェニックT細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、NK細胞、NK-T細胞、CAR-NK細胞、CAR-NKT細胞、TCR-トランスジェニックNK細胞、TCR-トランスジェニックNK-T細胞、樹状細胞、マクロファージ、CAR-マクロファージ又はいずれかの合成の腫瘍特異的免疫細胞を含む非限定的な群から選択される。免疫細胞の免疫細胞集団は、
・自己由来、すなわち患者自身の免疫細胞を使用するか、
・同種異系、すなわちドナー血液、臍帯血若しくは多能性幹細胞(遺伝子操作されてもよいiPSC等)から得られるか、又は
・異種性
であることができる。
【0032】
後者2つの場合において、アロ拒絶反応を減少させる戦略も考慮されるべきであるが、その戦略は当業者にとって自明である。
【0033】
好ましくは、上記免疫細胞は、1種以上の組換え構築物を含み、少なくとも1種の組換え構築物がインターロイキン-10、その断片又は多様体をコードする。
【0034】
1つの態様では、インターロイキン-10、その断片若しくは多様体をコードする構築物は、配列番号1のアミノ酸配列、若しくはその断片若しくは多様体を含むか又はコードする。
【0035】
1つの態様では、インターロイキン-10、その断片又は多様体をコードする組換え構築物は、CAR、TCR、又はいずれかの他の合成の腫瘍標的化モチーフをコードする第2の組換え構築物に連結されている。
【0036】
同じく好ましくは、第2の組換え構築物は、キメラ抗原受容体(CAR)、T細胞受容体(TCR)又はいずれかの他の合成の腫瘍標的化モチーフをコードする。合成の腫瘍標的化モチーフの非限定的な例は、例えば、Liu R、Li X、Xiao W、Lam KSの表2及び表3に列挙される腫瘍標的化ペプチド(コンビナトリアルライブラリーからの腫瘍標的化ペプチド[Adv Drug Deliv Rev. 2018年3月9日において公開された補正]を含み、これらの表は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0037】
当業者は、腫瘍標的化モチーフ、例えば腫瘍標的化ペプチド等は、例えばファージディスプレイライブラリーから、インビトロ(in vitro)、インビボ(in vivo)又はエキソビボ(ex vivo)の選択アプローチから選択されるスクリーニングアプローチを介して検出することができるということを知っている(例えばLiu R、Li X、Xiao W、Lam KSの図1を参照)。癌関連タンパク質、特定の癌細胞株、患者組織、及び腫瘍異種移植マウスモデルが、スクリーニングプローブとして使用することができる。
【0038】
好ましくは、上記連結は、自己切断ペプチドをコードする配列を介する(例えば、ペプチド2A(例えば、Takahashi,K.及びYamanaka,S. Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors. Cell 126、663-676を参照。この文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、又は配列内リボソーム進入部位(IRES)配列)。例えば、自己切断ペプチドが切断されると、IL-10、その断片又は多様体は、好ましくは腫瘍微小環境において、免疫細胞によって、又は免疫細胞上で分泌されるか又は膜結合される。
【0039】
1つの態様では、組換え構築物は、単鎖フラグメント多様体(single-chain Fragment variant、scFv)の細胞外抗原認識ドメイン、膜貫通領域、細胞内T細胞活性化ドメイン及び/又は細胞内領域のポリペプチドをコードするCARをコードする核酸を含む。
【0040】
単鎖フラグメント多様体(scFv)の細胞外抗原認識ドメインは、好ましくは、抗体又はリガンド又は受容体に由来する。いくつかの例では、細胞外ドメインはヒンジ部分を含む。種々のヒンジ、例えばCD8ヒンジを本発明に従って用いることができる。
【0041】
通常、抗体に由来する単鎖フラグメント多様体(scFv)の細胞外抗原認識ドメインは、c-MET、TRP-1、CD19、CD20、BCMA、CD133、CD171、CD70、CEA、EGFR、EGFR-vIII、EpCAM、EphA2、FAP、GD2、GPC3、HER2、HER3、IL-13Ra2、メソテリン、MUC1、クローディン18.2、PSCA、PSMA、ROR1、及びVEGFR2又はこれらの1つ以上の組み合わせを含む非限定的な群から選択される抗原を認識する。好ましい態様において、本発明のCARにおける細胞外抗原認識ドメインは、例えばヒンジに連結された、HER2を認識するCD8若しくはCD28膜貫通ドメインscFv(配列番号2)、TRP-1を認識するCD8若しくはCD28膜貫通ドメインscFv(配列番号3)、EGFR-vIIIを認識するCD8若しくはCD28膜貫通ドメインscFv(配列番号4)又はCD19を認識するCD8若しくはCD28膜貫通ドメインscFv(配列番号5)である。
【0042】
膜貫通領域及びヒンジは、通常、CARの細胞外ドメインに融合される。膜貫通領域及びヒンジは、同様に、CARの細胞内ドメインに融合することもできる。場合によっては、膜貫通ドメインは、そのようなドメインが同じ又は異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインに結合することを回避して受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑えるために、選択することができ、又はアミノ酸置換によって修飾することができる。膜貫通ドメインは、天然源又は合成源のいずれに由来してもよい。供給源が天然である場合、ドメインは、任意の膜結合タンパク質又は膜貫通タンパク質に由来してもよい。本発明において特に有用な膜貫通領域は、CD28、CD28T、OX-40、4-1BB/CD137、CD2、CD7、CD27、CD30、CD40、プログラム死-1(programmed death-1、PD-1)、誘導性T細胞共刺激因子(inducible T cell costimulator、ICOS)、リンパ球機能関連抗原-1(lymphocyte function-associated antigen-1、LFA-1、CDl-la/CD18)、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD247、CD276(B7-H3)、LIGHT、(TNFSF14)、NKG2C、Igα(CD79a)、DAP-10、Fcγ受容体、MHCクラス1分子、TNF受容体タンパク質、免疫グロブリンタンパク質、サイトカイン受容体、インテグリン、シグナル伝達リンパ球活性化分子(Signaling Lymphocytic Activation Molecules)(SLAMタンパク質)、活性化NK細胞受容体、BTLA、Tollリガンド受容体、ICAM-1、B7-H3、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、LIGHT、HVEM(LIGHTR)、KIRDS2、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、NKp44、NKp30、NKp46、CD19、CD4、CD8α、CD8β、IL-2Rβ、IL-2Rγ、IL-7Rα、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CDl ld、ITGAE、CD103、ITGAL、CDl la、LFA-1、ITGAM、CDl lb、ITGAX、CDl lc、ITGBl、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、NKG2D、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRT AM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、CD69、SLAMF6(NTB-A、Lyl08)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、CD19a、CD83と特異的に結合するリガンド、又はこれらのいずれかの組み合わせに由来してもよい(これらを含んでもよく、又はこれらに対応してもよい)。
CD19a。
【0043】
任意選択で、短いリンカーが、CARの細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインのいずれか又はいくつかの間の連結を形成してもよい。
好ましい態様では、本発明のCARにおける膜貫通ドメイン及びヒンジは、CD8膜貫通ドメイン及びヒンジである。1つの態様では、CD8膜貫通ドメイン及びヒンジは、配列番号6、その断片又は多様体のアミノ酸配列の膜貫通部分及びヒンジを含む。
【0044】
細胞内T細胞活性化ドメインは、抗原結合分子がその標的に結合するとT細胞を活性化することができる。細胞内ドメインは、典型的には、本明細書に記載される1種以上の共刺激分子をさらに含むことが理解されるであろう。
【0045】
さらなる態様では、T細胞活性化ドメインは、配列番号7、その断片又は多様体のアミノ酸配列のCD3、好ましくはCD3ゼータ、より好ましくはCD3ゼータ(CD3ζ)を含む。
【0046】
本明細書で使用される「共刺激分子」は、増殖、活性化、分化等を含むがこれらに限定されないT細胞応答を媒介するシグナルを提供する分子を指す。共刺激分子は、本明細書に記載される活性化分子によって提供される一次シグナルに加えてシグナルを提供することができる。
【0047】
本発明の操作されたT細胞の細胞内(細胞質)領域は、免疫細胞の正常なエフェクター機能の少なくとも1つの活性化を提供することができる。T細胞のエフェクター機能は、例えば、細胞溶解活性又はヘルパー活性を指してもよい。
【0048】
適切な細胞内領域としては、限定されないが、CD28、CD28T、OX-40、4-1BB/CD137、CD2、CD7、CD27、CD30、CD40、プログラム死-1(PD-1)、誘導性T細胞共刺激因子(ICOS)、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1、CDl-la/CD18)、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD247、CD276(B7-H3)、LIGHT、(TNFSF14)、NKG2C、Igα(CD79a)、DAP-10、Fcγ受容体、MHCクラス1分子、TNF受容体タンパク質、免疫グロブリンタンパク質、サイトカイン受容体、インテグリン、シグナル伝達リンパ球活性化分子(SLAMタンパク質)、活性化NK細胞受容体、BTLA、Tollリガンド受容体、ICAM-1、B7-H3、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、LIGHT、HVEM(LIGHTR)、KIRDS2、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、NKp44、NKp30、NKp46、CD19、CD4、CD8α、CD8β、IL-2Rβ、IL-2Rγ、IL-7Rα、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CDl ld、ITGAE、CD103、ITGAL、CDl la、LFA-1、ITGAM、CDl lb、ITGAX、CDl lc、ITGBl、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、NKG2D、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRT AM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、CD69、SLAMF6(NTB-A、Lyl08)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、CD19a、CD83と特異的に結合するリガンド、又はこれらのいずれかの組み合わせに由来する(又は対応する)シグナル伝達ドメインが挙げられる(すなわち、これらを含む)ことが理解されるであろう。
【0049】
組み合わせの例は、4-1BB及びCD28細胞内領域を含む。
【0050】
好ましい態様では、CARの細胞内ドメインは4-1BB細胞内領域を含む。
【0051】
本発明に係る例示的なCAR構築物は、図1a、図4a、及び図7aに示されるとおりである。
【0052】
第2の組換え構築物がトランスジェニックTCRをコードする場合、このTCRは、好ましくは、gp100、NY-ESO-1、MAGE-A3及びTRP-1、又はこれらの1つ以上の組み合わせを含む非限定的な群から選択される抗原を認識する。
【0053】
1つの態様では、インターロイキン-10、その断片又は多様体をコードする構築物は、Fc、ヒト血清アルブミン(HSA)、又は抗体融合タンパク質をコードする配列内に含まれる。
【0054】
本発明の一態様では、本明細書に記載される免疫細胞又は免疫細胞の集団は、癌の予防及び/又は治療に使用するためのものである。癌は、固体癌又は液体癌のいずれかであることができる。
【0055】
好ましくは、癌は、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、子宮癌、頭頸部癌、神経膠芽腫、肝細胞癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、腎臓癌、前立腺癌、胃癌、気管支癌、膵臓癌、膀胱癌、肝臓癌、脳腫瘍、リンパ腫及び皮膚癌、特に黒色腫、又はこれらの1つ以上の組み合わせを含む非限定的な群から選択される固形癌である。より好ましくは、固形癌は、リンパ腫、乳癌、胃癌及び黒色腫を含む群から選択される。
【0056】
本発明はさらに、本明細書中に開示される配列番号を含む、本明細書中に記載される1種以上の組換え構築物をコードする核酸配列を提供する。
【0057】
本発明はさらに、本明細書中に開示される配列番号を含む、本明細書中に記載される1種以上の組換え構築物をコードする核酸配列を含むプラスミド又はベクターを提供する。
【0058】
当該技術分野で公知の任意のベクターが、本発明に適切である可能性がある。いくつかの態様では、ベクターはウイルスベクターである。いくつかの態様では、ベクターは、レトロウイルスベクター(pMSGV等)、DNAベクター、マウス白血病ウイルスベクター、SFGベクター、RNAベクター、アデノウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、エプスタイン・バーウイルスベクター、パポーバウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、アデノウイルス随伴ベクター(AAV)、レンチウイルスベクター(pGAR等)、又はこれらのいずれかの組み合わせである。
【0059】
本発明は、組成物及び医薬組成物も企図する。
本発明の一態様では、本発明の医薬組成物は、治療有効量のi)本明細書に記載される免疫細胞若しくは免疫細胞の集団、ii)本明細書に記載される核酸、及び/又はiii)本明細書に記載されるプラスミド若しくはベクターと、少なくとも1種の薬学的に許容できる担体及び/又は希釈剤とを含む。
【0060】
本明細書で使用される用語「治療有効量」は、健全な医学的判断の範囲内で、治療するべき症状及び/又は状態を有意に良い方向に変更するのに十分な高さでありながら、重篤な副作用を回避するのに十分な低さである(合理的なリスク/効果比である)、免疫細胞、核酸、プラスミド又はベクターの量を意味する。
【0061】
本明細書に記載される免疫細胞、核酸、プラスミド又はベクターの治療有効量は、患者又は対象の種類、種、年齢、体重、性別及び医学的状態;治療すべき状態又は疾患(例えば、癌)の重症度;投与経路;患者又は対象の腎機能及び肝機能を含む様々な因子に従って選択される。当業者は、例えば癌等の疾患の進行を予防、対抗又は阻止するために必要な当該免疫細胞、核酸、プラスミド又はベクターの有効量を容易に決定し、処方することができる。
【0062】
「薬学的に許容できる担体又は希釈剤」は、一般的に安全で、非毒性で、望ましい医薬組成物を調製するのに有用な担体又は希釈剤を意味し、ヒトの医薬用途に許容できる担体又は希釈剤が含まれる。
【0063】
本発明の免疫細胞又は免疫細胞の集団は、単独で、又は医薬組成物として投与されてもよい。本発明の医薬組成物は、本明細書に記載される免疫細胞又は細胞集団、例えばT細胞を、1種以上の薬学的又は生理学的に許容できる担体又は希釈剤と組み合わせて含んでもよい。このような組成物は、緩衝液、例えば中性緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等;炭水化物、例えばグルコース、マンノース、スクロース又はデキストラン、マンニトール;タンパク質;ポリペプチド又はアミノ酸、例えばグリシン;抗酸化剤;キレート剤、例えばEDTA又はグルタチオン;アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム);及び保存剤を含んでもよい。本発明の組成物は、好ましくは静脈内投与用に製剤化される。
【0064】
当該医薬組成物(溶液、懸濁液等)は、以下のうちの1種以上を含んでもよい:滅菌希釈剤、例えば注射用水、食塩水、好ましくは生理食塩水、リンゲル液、等張塩化ナトリウム、不揮発性油、例えば溶媒又は懸濁媒体として機能しうる合成のモノグリセリド又はジグリセリド、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の溶媒;抗菌剤、例えばベンジルアルコール又はメチルパラベン;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えばエチレンジアミンテトラ酢酸;緩衝剤、例えば、酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩、及び張度の調整のための薬剤、例えば塩化ナトリウム又はデキストロース。非経口調製物は、ガラス製又はプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジ又は複数回用量バイアルに封入することができる。注射用医薬組成物は、好ましくは無菌である。
【0065】
本発明の医薬組成物は、少なくとも1種の追加の治療剤又は療法をさらに含むことができる。様々な他の追加の治療剤が、本明細書に記載される組成物と併せて使用されてもよい。
1つの態様では、上記少なくとも1種の追加の治療剤又は療法は、癌、好ましくは固形癌を治療するのに有用な抗癌剤又は抗癌療法である。好ましくは、この1種以上の抗癌療法は、放射線療法、化学療法、免疫チェックポイント阻害剤、免疫療法及びホルモン療法、又はこれらの1つ以上の組み合わせを含む群から選択されるであろう。
【0066】
好ましくは、免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、及びCTLA-4阻害剤、又はこれらの1つ以上の組み合わせを含む群から選択される。
【0067】
例えば、潜在的に有用な追加の治療剤には、ニボルマブ(Opdivo(オプジーボ)(登録商標))、ペムブロリズマブ(Keytruda(キイトルーダ)(登録商標))、ペムブロリズマブ、ピディリズマブ、及びアテゾリズマブ等のPD-1阻害剤が含まれる。
【0068】
例えば、潜在的に有用な追加の治療剤には、アテゾリズマブ、アベルマブ、AMP-224、MEDI-0680、RG-7446、GX-P2、デュルバルマブ、KY-1003、KD-033、MSB-0010718C、TSR-042、ALN-PDL、STI-A1014、CX-072、及びBMS-936559等のPD-L1阻害剤が含まれる。
【0069】
CTLA-4阻害剤の非限定的な例としては、イピリムマブ(Yervoy(ヤーボイ))(BMS-734016、MDX-010、MDX-101としても知られる)及びトレメリムマブ(以前はチシリムマブ、CP-675,206)が挙げられる。
【0070】
本発明の化学療法は、DNAを損傷し、かつ/又は細胞が増殖するのを妨げる薬剤、例えば遺伝子毒素、に関することができる。
【0071】
遺伝子毒素は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、DNAカッター、DNAバインダ、トポイソメラーゼ毒及び紡錘体毒を含む群から選択することができる。アルキル化剤の例は、ロムスチン、カルムスチン、ストレプトゾシン、メクロレタミン、メルファラン、ウラシルナイトロジェンマスタード、クロラムブシル、シクロスファミド、イホスファミド、シスプラチン、カルボプラチン、マイトマイシン、チオテパ、ダカルバジン、プロカルバジン、ヘキサメチルメラミン、トリエチレンメラミン、ブスルファン、ピポブロマン、ミトタン及び他のプラチン誘導体である。
【0072】
DNAカッターの例はブレオマイシンである。
【0073】
トポイソメラーゼ毒は、トポテカン、イリノテカン、カンプトテシンナトリウム塩、ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、テニポシド、アドリアマイシン及びエトポシドを含む群から選択することができる。
【0074】
DNAバインダの例は、ダクチノマイシン及びミトラマイシンであるが、紡錘体毒は、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ナベルビン、パクリタキセル及びドセタキセルを含む群から選択することができる。
【0075】
本発明の化学療法は、以下の化合物から選択される代謝拮抗物質に関することができる:メトトレキサート、トリメトレキサート、ペントスタチン、シタラビン、ara-CMP、フルダラビンリン酸塩、ヒドロキシ尿素、フルオロウラシル、フロクスウリジン、クロロデオキシアデノシン、ゲムシタビン、チオグアニン及び6-メルカプトプリン。
【0076】
放射線療法は、腫瘍を縮小させ、癌細胞を死滅させるための高エネルギー放射線の使用を指す。放射線療法の例としては、限定されないが、外部放射線療法及び内部放射線療法(密封小線源療法とも呼ばれる)が挙げられる。
【0077】
外部放射線療法は最も一般的であり、典型的には、直接又は間接の電離放射線のビームを腫瘍又は癌の部位に向けることを含む。放射線ビーム、光子、コバルト又は微粒子療法は、腫瘍又は癌の部位に集中されるが、正常な健康な組織の曝露を回避することはほとんど不可能である。外部放射線療法のためのエネルギー源は、直接又は間接の電離放射線(例えば、x線、γ線及び粒子線又はこれらの組み合わせ)を含む群から選択される。
【0078】
内部放射線療法は、体内、腫瘍部位又はその近傍に放射線放出源、例えば、ビーズ、ワイヤー、ペレット、カプセル等を埋め込むことを含む。内部放射線療法のためのエネルギー源は、ヨウ素(ヨウ素125又はヨウ素131)、ストロンチウム89、リン、パラジウム、セシウム、インジウム、リン酸塩、又はコバルトの放射性同位体、及びこれらの組み合わせを含む放射性同位体の群から選択される。そのような埋め込み物は、治療後に除去するか、又は体内に不活性のままにすることができる。内部放射線療法の種類には、間質密封小線源療法及び腔内密封小線源療法(高線量率、低線量率、パルス線量率)が含まれるが、これらに限定されない。
【0079】
現在あまり一般的でない形態の内部放射線療法は、放射性物質に結合した腫瘍特異的抗体が患者又は対象に投与される放射性免疫療法による等の放射性同位体の生物学的担体を含む。抗体は腫瘍抗原に結合し、これにより放射線の線量を関連組織に効果的に投与する。
【0080】
放射線療法を施す方法は当業者に周知である。
【0081】
様々な他の追加の治療剤が、本明細書に記載される組成物と併せて使用されてもよい。
【0082】
本発明と組み合わせて使用するのに適した追加の治療剤としては、イブルチニブ(Imbruvica(イムブルビカ)(登録商標))、オファツムマブ(Arzerra(アーゼラ)(登録商標))、リツキシマブ(Rituxan(リツキサン)(登録商標))、ベバシズマブ(Avastin(アバスチン)(登録商標))、トラスツズマブ(Herceptin(ハーセプチン)(登録商標))、トラスツズマブエムタンシン(KADCYLA(カドサイラ)(登録商標))、イマチニブ(Gleevec(グリベック)(登録商標))、セツキシマブ(Erbitux(アービタックス)(登録商標))、パニツムマブ(Vectibix(ベクティビックス)(登録商標))、カツマキソマブ、イブリツモマブ、オファツムマブ、トシツモマブ、ブレンツキシマブ、アレムツズマブ、ゲムツズマブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、バンデタニブ、アファチニブ、ラパチニブ、ネラチニブ、アキシチニブ、マシチニブ、パゾパニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、トセラニブ、レスタウルチニブ、アキシチニブ、セジラニブ、レンバチニブ、ニンテダニブ、パゾパニブ、レゴラフェニブ、セマキサニブ(semaxanib)、ソラフェニブ、スニチニブ、チボザニブ、トセラニブ、バンデタニブ、エヌトレクチニブ、カボザンチニブ、イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、ポナチニブ、ラドチニブ(radotinib)、ボスチニブ、レスタウルチニブ、ルキソリチニブ、パクリチニブ、コビメチニブ、セルメチニブ、トラメチニブ、ビニメチニブ、アレクチニブ、セリチニブ、クリゾチニブ、アフリベルセプト、アディポチド(adipotide)、デニロイキンジフチトクス、mTOR阻害剤、例えばエベロリムス及びテムシロリムス、ヘッジホッグ阻害剤、例えばソニデギブ及びビスモデギブ、CDK阻害剤、例えばCDK阻害剤(パルボシクリブ)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
さらなる態様では、追加の治療剤は抗炎症剤であってもよい。抗炎症剤又は抗炎症薬としては、ステロイド及びグルココルチコイド(ベタメタゾン、ブデソニド、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン酢酸エステル、ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、トリアムシノロンを含む)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)、例えばアスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、メトトレキサート、スルファサラジン、レフルノミド、抗TNF薬、シクロホスファミド及びミコフェノール酸が挙げられるが、これらに限定されない。例示的なNSAIDとしては、イブプロフェン、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、Cox-2阻害剤、及びシアリレートが挙げられる。例示的な鎮痛剤としては、アセトアミノフェン、オキシコドン、トラマドール又はプロポキシフェン塩酸塩が挙げられる。例示的なグルココルチコイドとしては、コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、又はプレドニゾンが挙げられる。例示的な生体応答修飾物質としては、細胞表面マーカー(例えば、CD4、CD5等)に対する分子、サイトカイン阻害剤、例えば、TNFアンタゴニスト(例えば、エタネルセプト(ENBREL(エンブレル)(登録商標))、アダリムマブ(HUMIRA(ヒュミラ)(登録商標))及びインフリキシマブ(REMICADE(レミケード)(登録商標)))、ケモカイン阻害剤及び接着分子阻害剤が挙げられる。生体応答修飾物質には、モノクローナル抗体及び分子の組換え形態が含まれる。例示的なDMARDとしては、アザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリン、メトトレキサート、ペニシラミン、レフルノミド、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキン、金製剤(経口(オーラノフィン)及び筋肉内)及びミノサイクリンが挙げられる。
【0084】
本発明は、癌の治療及び/又は予防の方法をさらに企図する。
【0085】
用語「治療」又は「治療する」は、
(i)疾患を阻害すること、すなわち臨床症状の進行を停止すること、及び/又は
(ii)疾患を軽減すること、すなわち臨床症状の退行を引き起こすこと
を目的として、本開示の組成物、医薬組成物、治療剤、化合物等を対象に投与することを意味する。
【0086】
本明細書で使用される場合、用語「予防」又は「予防する」は、疾患を予防すること、すなわち疾患の臨床症状を発症させないことを目的として、本開示の組成物、医薬組成物、治療剤、化合物等を対象に投与することを意味する。
【0087】
本発明の文脈では、疾患は、癌、好ましくは本明細書に開示される固形腫瘍である。
【0088】
1つの態様では、患者又は対象における癌の治療及び/又は予防の方法は、(i)免疫細胞、好ましくは天然(native)T細胞を前記患者又は対象から取り出して単離する工程と、(ii)前記T細胞を、インターロイキン-10、その断片又は多様体をコードする1種の組換え構築物、及びキメラ抗原受容体(CAR)、T細胞受容体(TCR)又はいずれかの他の合成の腫瘍標的化モチーフ若しくは抗原をコードする第2の組換え構築物を用いて遺伝子操作する工程と、(iii)操作されたT細胞のより大きい集団へとエキソビボで増殖させる工程と、(iv)前記操作されたT細胞を前記患者又は対象に再導入する工程とを含む。操作されたT細胞が患者又は対象に再導入された後、それらは、本明細書に記載される腫瘍標的化モチーフ又は抗原を発現する細胞に対する免疫応答を媒介する。この免疫応答には、T細胞によるIL-10、その断片又は多様体、及び他のサイトカインの分泌、腫瘍標的化モチーフ又は抗原を認識するT細胞のクローン増殖、並びに標的陽性細胞のT細胞媒介性特異的死滅が含まれる。
【0089】
1つの態様では、当該癌の治療及び/又は予防の方法は、(i)免疫細胞、好ましくは天然T細胞を患者若しくは対象から取り出して単離するか、又は免疫細胞、好ましくは天然T細胞を準備する工程と、(ii)前記T細胞を、インターロイキン-10、その断片又は多様体をコードする少なくとも1種の組換え構築物、及びキメラ抗原受容体(CAR)、T細胞受容体(TCR)又はいずれかの他の合成の腫瘍標的化モチーフ若しくは抗原をコードする第2の組換え構築物を用いて遺伝子操作する工程と、(iii)操作されたT細胞のより大きい集団へとエキソビボで増殖させる工程と、(iv)前記患者又は対象に再導入する工程とを含む。
【0090】
1つの態様では、当該対象における癌の治療及び/又は予防の方法は、本発明の医薬組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む。
【0091】
1つの態様では、上記の治療及び/又は予防の方法は、少なくとも1種の追加の治療剤又は療法、好ましくは抗癌剤又は抗癌療法、より好ましくは治療有効量又は治療有効用量の抗癌剤又は抗癌療法を投与することをさらに含むことができる。上記1種以上の抗癌剤又は抗癌療法は、上記のとおり、放射線療法、化学療法、免疫チェックポイント阻害剤、免疫療法及びホルモン療法、又はこれらの1つ以上の組み合わせを含む非限定的な群から選択される。
【0092】
種々の公知の技術を、本発明に係るポリヌクレオチド、ポリペプチド、ベクター、抗原結合分子、免疫細胞、組成物等の作製に利用することができる。
【0093】
本明細書に記載される免疫細胞のインビトロ操作又は遺伝子改変の前に、細胞は、対象から得て単離されてもよい。いくつかの態様では、免疫細胞はT細胞を含む。T細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位由来の組織、腹水、胸水、脾臓組織、及び腫瘍を含む、いくつかの供給源から得ることができる。特定の態様では、T細胞は、FICOLL(商標)分離等の当業者に公知の任意の数の技法を使用して、対象から収集された血液の単位から得ることができる。細胞は、好ましくは、アフェレーシスによって個体の循環血液から得ることができる。アフェレーシス産物は、典型的には、T細胞を含むリンパ球、単球、顆粒球、B細胞、他の有核白血球、赤血球、及び血小板を含有する。特定の実施形態では、アフェレーシスによって収集された細胞は、血漿画分を除去するために洗浄され、その後の処理のために適切な緩衝液又は培地に入れられてもよい。この細胞はPBSで洗浄されてもよい。理解されるように、洗浄工程が使用されてもよい。洗浄後、細胞は、種々の生体適合性緩衝液、又は緩衝液を含む若しくは含まない他の食塩水に再懸濁されてもよい。特定の態様では、アフェレーシス試料の望ましくない成分が除去されてもよい。
【0094】
特定の態様では、T細胞は、赤血球を溶解し、例えばPERCOLL(商標)勾配による遠心分離を使用して、単球を枯渇させることによってPBMCから単離される。CD28、CD4、CD8、CD45RA、及びCD45ROT細胞等のT細胞の特定の亜集団は、当該技術分野で公知の正の又は負の選択技術によってさらに単離することができる。例えば、負の選択によるT細胞集団の濃縮(富化)は、負に選択される細胞に特有の表面マーカーに対する抗体の組み合わせを用いて達成することができる。本発明で使用するための1つの方法は、負の磁気免疫付着(negative magnetic immunoadherence)、又は負に選択される細胞上に存在する細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体のカクテルを使用するフローサイトメトリによる細胞選別及び/又は選択である。例えば、負の選択によってCD4細胞を濃縮するためには、モノクローナル抗体カクテルは、典型的には、CD14、CD20、CD11B、CD16、HLA-DR、及びCD8に対する抗体を含む。フローサイトメトリ及び細胞選別も、本発明に使用するための目的の細胞集団を単離するために使用されてもよい。
【0095】
PBMCは、本明細書に記載される方法を使用して、免疫細胞(CAR又はTCR等)による遺伝子改変に直接使用されてもよい。特定の態様では、PBMCを単離した後、Tリンパ球をさらに単離することができ、細胞傷害性Tリンパ球及びヘルパーTリンパ球の両方を、遺伝子改変及び/若しくは増殖の前又は後のいずれかに、ナイーブ、メモリー、及びエフェクターT細胞の亜集団に選別することができる。
【0096】
いくつかの態様では、CD8細胞は、ナイーブ細胞、セントラルメモリー細胞、及びエフェクター細胞のそれぞれに関連する細胞表面抗原を特定することによって、これらのタイプのCD8細胞にさらに選別される。
【0097】
本明細書に記載される免疫細胞は、公知の方法を用いて単離後に遺伝子改変することができ、又は当該免疫細胞は、遺伝子改変される前に、インビトロで、活性化及び増殖することができるし(例えば、TIL細胞)、又は前駆細胞の場合、分化させることができる。別の実施形態では、T細胞等の免疫細胞は、本明細書に記載されるキメラ抗原受容体により遺伝子改変され(例えば、CARをコードする1種以上のヌクレオチド配列を含むウイルスベクターで形質導入され)、次いで、インビトロで活性化され、かつ/又は増殖させられる。T細胞を活性化し増殖させる方法は当該技術分野で公知であり、例えば、米国特許第6,905,874号明細書;米国特許第6,867,041号明細書;米国特許第6,797,514号明細書;及びPCT国際公開第2012/079000号パンフレットに記載されており、これらの内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。一般に、このような方法は、PBMC又は単離されたT細胞を、適切なサイトカイン、例えばIL-2を有する培養培地中で、一般に、ビーズ又は他の表面に付着した、刺激分子及び共刺激分子、例えば抗CD3抗体及び抗CD28抗体と接触させること含む。他の態様において、T細胞は、米国特許第6,040,177号明細書;米国特許第5,827,642号明細書;及び国際公開第2012129514号パンフレットに記載されるもの等の方法を使用して、フィーダー細胞並びに適切な抗体及びサイトカインを用いて増殖のために活性化及び刺激されてもよく、上記の文献の内容の全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0098】
本発明の構築物及び操作された免疫細胞を作製するための特定の方法は、例えば、PCT出願PCT/US2015/14520号に記載されており、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0099】
PBMCは、NK細胞又はNKT細胞等の他の細胞傷害性リンパ球をさらに含むことができることが理解されよう。本明細書に開示される本発明の組換え構築物を担持する発現ベクターは、ヒトドナーT細胞、NK細胞又はNKT細胞の集団に導入することができる。この発現ベクターを担持する首尾よく形質導入されたT細胞は、フローサイトメトリを用いて選別して、CD3陽性T細胞を単離し、次いで、抗CD3抗体及びIL-2又は本明細書の他の箇所に記載されるような当該技術分野で公知の他の方法を用いた細胞活性化に加えて、これらのCAR発現T細胞の数を増加させるためにさらに増殖させることができる。標準的な手順は、ヒト対象に使用するための保存及び/又は調製のためのCARを発現するT細胞の凍結保存のために使用される。1つの態様では、T細胞のインビトロ形質導入、培養及び/又は増殖は、ウシ胎児血清及びウシ胎仔血清等の非ヒト動物由来産物の不存在下で行われる。
【0100】
本発明のポリヌクレオチドのクローニングのために、当該ベクターは、宿主細胞(自己由来、同種異系又は異種性)に導入されて、ベクター自体の複製が可能にされ、これによりその中に含有されるポリヌクレオチドのコピーが増幅されてもよい。本発明のクローニングベクターは、概して、複製起点、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、及び選択マーカーを含むがこれらに限定されない配列成分を含有してもよい。これらのエレメントは、当業者によって適宜選択されてもよい。例えば、複製起点は、宿主細胞におけるベクターの自律複製を促進するように選択されてもよい。
【0101】
用語「自己由来」は、後に再導入される個体と同じ個体に由来する任意の物質を指す。
用語「同種異系」は、ある個体に由来し、次いで、同じ種の別の個体に導入される任意の物質を指し、例えば、同種異系T細胞移植が挙げられる。
【0102】
特定の態様では、本開示は、本明細書で提供されるベクターを含有する単離された宿主細胞を提供する。当該ベクターを含む宿主細胞は、ベクターに含まれるポリヌクレオチドの発現又はクローニングに有用であってもよい。適切な宿主細胞としては、腫瘍溶解性ウイルス、原核細胞、真菌細胞、酵母細胞、又は哺乳動物細胞等の高等真核細胞を挙げることができるが、これらに限定されない。この目的に適した原核細胞としては、真正細菌、例えばグラム陰性又はグラム陽性生物、例えば腸内細菌科、例えばエシェリキア(大腸菌類、Escherichia)、例えば、大腸菌(E. coli)、エンテロバクター(Enterobacter)、エルウィニア(Erwinia)、クレブシエラ(Klebsiella)、プロテウス(Proteus)、サルモネラ(Salmonella)、例えば、サルモネラ・ティフィムリウム(ネズミチフス菌、Salmonella typhimurium)、セラチア(セラチア菌、Serratia)、例えば、セラチア・マルセセンス(霊菌、Serratia marcescans)、及び赤痢菌(Shigella)、並びにバチルス(桿菌)、例えばB.スブチリス(枯草菌、B.subtilis)及びB.リケニフォルミス(B.licheniformis)、シュードモナス属(Pseudomonas)、例えばP.エルギノーサ(緑膿菌、P.aeruginosa)、及びストレプトマイセス(Streptomyces)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0103】
ベクターは、DEAE-デキストラン媒介送達、リン酸カルシウム沈殿法、カチオン性脂質媒介送達、リポソーム媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、微粒子銃、受容体媒介遺伝子送達、ポリリジン、ヒストン、キトサン、及びペプチドによって媒介される送達を含むがこれらに限定されない、当該技術分野において公知の任意の適切な方法を使用して宿主細胞に導入することができる。目的のベクターの発現のための細胞のトランスフェクション及び形質転換のための標準的な方法は、当該技術分野において周知である。
【0104】
対象における抗腫瘍活性を増強する方法であって、(i)免疫細胞、好ましくは天然T細胞を前記対象から取り出して単離するか、又は免疫細胞、好ましくは天然T細胞を準備する工程と、(ii)前記T細胞を、インターロイキン-10、その断片又は多様体をコードする少なくとも1種の組換え構築物、及びキメラ抗原受容体(CAR)、T細胞受容体(TCR)又はいずれかの他の合成の腫瘍標的化モチーフ若しくは抗原をコードする第2の組換え構築物を用いて遺伝子操作する工程と、(iii)操作されたT細胞のより大きい集団へとエキソビボで増殖させる工程と、(iv)前記患者又は対象に再導入する工程とを含む方法も企図される。
【0105】
本発明に係る1つ以上の方法を実施するためのキットも企図される。
【0106】
1つ以上の容器中に本発明の組成物又は医薬組成物を含むキットがさらに企図される。組成物は、液体形態であってもよいし、又は凍結されてもよい。組成物に適した容器は、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、及び試験管を含む。容器は、ガラス又はプラスチックを含む様々な材料から形成することができる。当該キットは、処方についての情報又は指示、薬物の量、組成等を含んでもよい説明書をさらに含んでもよい。
【0107】
当業者は、本明細書に記載される発明が、癌を治療するためのIL-10発現免疫細胞(CAR T又はTCR T等)移植療法の使用に限定されないということを理解するであろう。IL-10発現CAR T細胞は、抗腫瘍免疫を増強するIL-10の腫瘍標的送達のための1つの例示的戦略と考えることができるので、他の戦略、例えば幹細胞(Liu,L.ら、Mechanoresponsive stem cells to target cancer metastases through biophysical cues. Sci.Transl.Med. 9、eaan2966(2017))、血液血小板(Wang,C.ら、In situ activation of platelets with checkpoint inhibitors for post-surgical cancer immunotherapy. Nat.Biomed.Eng. 1、(2017))、腫瘍溶解性ウイルス(Rivadeneira,D.B.ら、Oncolytic Viruses Engineered to Enforce Leptin Expression Reprogram Tumor-Infiltrating T Cell Metabolism and Promote Tumor Clearance. Immunity 51、548-560.e4(2019))、mRNA(癌ワクチン、例えばSahin,U.ら、Personalized RNA mutanome vaccines mobilize poly-specific therapeutic immunity against cancer. Nature 547、222-226(2017)参照)又はナノテクノロジー(Tang,L.ら、Enhancing T cell therapy through TCR-signaling-responsive nanoparticle drug delivery. Nat.Biotechnol. 36、707-716(2018))によるIL-10の腫瘍標的送達も、本明細書に記載される抗腫瘍免疫を増強するために包含されるということを予想することができる。
【0108】
本明細書に記載される発明は、具体的に記載されるもの以外の変形及び修正を受けてもよい。本発明は、その精神又は本質的特徴から逸脱しない範囲で、すべてのそのような変形及び修正を含むことを理解されたい。本発明は、個々に又は集合的に、本明細書において言及され又は示される工程、特徴、組成物及び化合物のすべて、並びに上記工程若しくは特徴の任意の及びすべての組み合わせ又は任意の2つ以上をも含む。それゆえ、本開示は、すべての態様において、例示されたものであり限定的ではないとみなされるべきであり、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって示され、均等物の意味及び範囲内に入るすべての変更は、その中に包含されることが意図される。様々な参考文献が本明細書にわたって引用され、その各々は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。上記の説明は、以下の実施例を参照してより完全に理解されるであろう。
【実施例
【0109】
HER2を標的とするIL-10 CAR T細胞
本発明者らはまず、異所性IL-10発現を有するCAR Tが代謝適合性を調節し、それらの抗腫瘍活性を改善するか否かを調べた。HER2 CAR及びIL-10遺伝子断片を2A自己切断ペプチドを用いて融合させてレトロウイルスベクターpMSGVにすることにより、IL-10 HER2 CAR構築物を作製した(図1a)。IL-10 HER2 CAR TにおけるHER2 CARの細胞表面発現は、従来のHER2 CAR T細胞におけるものとほぼ同等であった(図1b)。IL-10 HER2 CARによって産生されたIL-10レベルをELISAによって測定した(図1c)。IL-10は、抗原刺激時にCD8 T細胞の増殖を増強することが公知であるので(Guo,Y.ら、Metabolic reprogramming of terminally exhausted CD8+ T cells by IL-10 enhances anti-tumor immunity. Nat.Immunol. 22、746-756(2021))、本発明者らは、抗原刺激を受けたときのCAR T細胞の絶対数及び細胞分裂数を調べた。マイトマイシン処理したMC38-HER2マウス結腸癌細胞と共培養した場合、IL-10 HER2 CAR T細胞の数及び細胞分裂は、HER2 CAR T細胞の数及び細胞分裂と比較して有意に高かった(図1d、e)。IL-10 HER2 CAR T細胞の増強された分裂は、抗IL-10抗体によって完全に減弱され(図1e)、これは、IL-10がIL-10 HER2 CAR T細胞の増殖の改善に必須であることを示した。MC38-HER2細胞の共培養系において、IL-10 HER2 CAR T細胞の基礎酸素消費速度(OCR)は上昇したが、細胞外酸性化速度(ECAR)は、HER2 CAR T細胞と比較して変化しないままであった(図1f~i)。他方、IL-10 HER2 CAR T細胞は、mIL-10の存在下でHER2 CAR Tと同等の基礎OCRを示した。mIL-10の存在下でのHER2 CAR T及びIL-10 HER2 CAR Tの両方のOCR対EACRの比は顕著に増加し(図1j)、これは、IL-10シグナル伝達がCAR T細胞の酸化的リン酸化(OXPHOS)を能動的に促進することを示唆した。代謝リプログラミングの結果として、IL-10 HER2 CAR Tの腫瘍溶解能は大幅に増強され(図2a)、一方、CAR T細胞の抗原特異的増殖能力、殺傷効率及び多機能性は、インビボシナリオを模倣した共培養環境(E:T比0.5:1で48時間)では、IL-10 HER2 CAR Tの群において大幅に増強された(図2b~d)。
これらのデータは、本発明のIL-10 CAR TがOXPHOSを増加させることによってCAR T細胞代謝をリプログラミングして細胞増殖を促進することができるということを裏付け、これは、本発明のIL-10 CAR Tが代謝介入を通してTMEにおける腫瘍浸潤性CAR T細胞の増殖も促進できるであろうということを示す。
【0110】
様々な試薬によるCD8 T細胞におけるOXPHOSの増強又は解糖代謝の阻害は、TMEにおけるCD8 T細胞増殖、記憶発達、及び抗腫瘍機能を促進した(Sukumar,M.ら、Inhibiting glycolytic metabolism enhances CD8+ T cell memory and antitumor function. J.Clin.Invest. 123、4479-4488(2013))。IL-10 HER2 CAR T細胞の観察した代謝調節機能に基づいて、本発明者らは次に、固形腫瘍に対する有効性を増強するためにCAR T細胞のインビボ代謝介入が達成されることが可能か否かを調べた。
【0111】
MC38-HER2腫瘍が予め確立された治療設定において、リンパ球枯渇前処理(4Gy)を伴うIL-10 HER2 CAR T細胞(3×10)単独療法の養子移植は、処置マウスの80%において完全な腫瘍退縮及び持続的な治癒を一貫して誘導した(図3a~b)。対照的に、HER2 CAR T単独療法は、腫瘍増殖阻害に対して最小限の効果しか有さなかった。mIL-10の静脈内投与を伴うHER2 CAR Tの養子移植は、腫瘍増殖を一過性に制御しただけで、腫瘍退縮を誘導することができなかった。さらには、IL-10 HER2 CAR T細胞で処置したすべての長期生存マウスは、治療の停止の2ヶ月後にMC38-HER2細胞の再負荷を拒絶し、抗腫瘍免疫記憶の誘導を示した(図3c)。
【0112】
TRP-1を標的とするIL-10 CAR T細胞
IL-10 CAR T細胞療法の堅牢性を試験するために、次に、本発明者らは、免疫原性が低く、攻撃性が高いマウスB16F10黒色腫モデルも制御できるか否かを評価した。次に、TRP-1を標的とするIL-10 CAR T細胞を生成し、フローサイトメトリによってCARの発現を確認した(図4a、b)。IL-10 TRP-1 CAR T細胞のインビトロ細胞増殖及び抗腫瘍活性は、従来のTRP-1 CAR T細胞のものよりも優れていた(図4c、d)。B16F10マウス黒色腫を有するマウスを、CAR T細胞移植前に照射(4Gy)によってリンパ球枯渇させた。IL-10 TRP-1 CAR Tは、大部分の腫瘍保有マウスにおいて顕著な腫瘍退縮及び最終的に消失をもたらしたが、TRP-1 CAR Tは、持続的な治療効果を伴わない一過性の腫瘍増殖阻害のみを示した(図4e)。加えて、IL-10 TRP-1 CAR T療法で処置したマウスの60%が長期生存を示した(図4f)。
【0113】
EGFRvIIIを標的とするIL-10 CAR T細胞
次に、本発明者らは、介入のIL-10 CAR Tを、高度に攻撃的で転移性の4T1-Luc-EGFRvIII(EGFRvIII及びルシフェラーゼ(Luc)で安定にトランスフェクトされた)マウス乳癌モデルにさらに拡張した。本発明者らは、EGFRvIIIを標的とするIL-10 CAR T細胞を調製した。CARの発現及びIL-10産生を、それぞれフローサイトメトリ及びELISAによって確認した(図5a~c)。IL-10 EGFRvIII CAR T細胞のインビトロ細胞増殖及び抗腫瘍活性は、EGFRvIII CAR T細胞のものと比較して有意に改善された(図5d、e)。BALB/cマウスに4T1-Luc-EGFRvIII腫瘍細胞(5×10)をi.v.注射して肺転移を発症させた。マウスへのmIL-10投与あり又はなしでのEGFRvIII CAR T細胞(3×10)の移植は、一過性の腫瘍阻害をもたらした(図5f)。注目すべきことに、IL-10 EGFRvIII CAR T細胞は腫瘍を完全に根絶し、処置マウスの100%において持続的な治癒をもたらした(図5g)。強力な抗腫瘍効力と一致して、IL-10 EGFRvIII CAR T細胞は、循環中に著しく高い密度のCAR T細胞を誘導した(図5h)。
【0114】
これらの結果は、IL-10 HER2 CAR Tが、改善されたインビボ増殖、増強された機能性を示し、最終的にIL-10発現CAR T細胞の優れた有効性に寄与することを示した。
【0115】
IL-10 TCR T(Pmel)細胞
IL-10発現T細胞戦略を、高度に攻撃的なB16F10マウス黒色腫腫瘍モデルに対する腫瘍特異的T細胞受容体(TCR)トランスジェニックT細胞(TCR T)にさらに拡張するために、本発明者らは、IL-10発現Pmel T細胞(IL-10 Pmel T)をこれまでの記載と同様に調製し、IL-10産生の発現をELISAによって確認した(図6a)。B16F10マウス黒色腫を有するマウスは、PBS対照、Pmel T又はIL-10 Pmel T細胞の養子移植を受けた。IL-10P mel T細胞は、ほとんどの腫瘍保有マウスにおいて顕著な腫瘍退縮をもたらしたが、Pmel T細胞は、わずかな腫瘍増殖阻害しか示さなかった(図6b~e)。加えて、IL-10発現Pmel T細胞で処置したマウスは、Pmel T細胞で処置したマウスと比較して改善された生存を示した(図6f)。同様に、このIL-10発現TCR T細胞戦略も、固形腫瘍に対するTILの養子移植療法の有効性の増強のために使用できよう。
【0116】
CD19を標的とするヒトIL-10 CAR T細胞
最後に、このIL-10発現CAR T戦略をヒトCAR Tに拡張した。CD19 CAR及びヒトIL-10遺伝子断片を2A自己切断ペプチドを用いて融合させてレンチウイルスベクターにすることにより、IL-10 CD19 CAR構築物を作製した(図7a)。IL-10 CD19 CAR TにおけるCD19 CARの細胞表面発現は、従来のCD19 CAR T細胞におけるものよりもわずかに高かった(図7b)。IL-10 CD19 CARによって産生されたIL-10レベルをELISAによって測定した(図7c)。従って、IL-10 CD19 CAR Tの腫瘍溶解能も増強され(図7d)、マウスCAR Tで観察された結果と一致した。さらには、確立されたPANC1-CD19ヒト膵臓腫瘍を有する免疫欠損NSGマウスにおいて、IL-10発現CD19 hCAR T細胞で処置したすべてのマウスは、再発なしで完全寛解を示し(図7e)、これは、IL-10発現ヒトCAR T細胞が、異種移植モデルにおいて固形腫瘍に対して優れた抗腫瘍能力を有することを示唆している。
【0117】
IL-10発現CAR-T細胞は、ミトコンドリア適合性を維持する
ミトコンドリア適合性の障害は、T細胞の疲弊を強化することが示されている。興味深いことに、本発明者らは、IL-10発現が、腫瘍浸潤CAR-T細胞におけるミトコンドリア適合性を維持し、HER2 CAR-T細胞単独(27.4%)又は外因性IL-10と組み合わせたHER2 CAR-T細胞(21.7%)と比較して、IL-10 HER2 CAR-T細胞における機能不全ミトコンドリアの頻度が実質的に低下する(4.8%)ことを見出した(図8a)。IL-10発現は、IL-10 HER2 CAR-T細胞におけるMDR対MGの比も増加させた(図8b)。ミトコンドリア超微細構造のEMイメージング分析は、従来のHER2 CAR-T細胞と比較して、腫瘍浸潤IL-10 HER2 CAR-T細胞における、管形状を有する濃縮ミトコンドリア、十分に構造化されたクリステ、増加したクリステ数、及びミトコンドリアあたりのクリステの拡大した長さのさらなる証拠を提供した(図8c~f)。
【0118】
CAR-T細胞におけるIL-10発現は、持続的な抗腫瘍免疫を誘導し、幹細胞性を促進する
IL-10を発現するCAR-T細胞が抗腫瘍免疫記憶を発達させるか否かを調べるために、本発明者らは、養子CAR-T細胞移植の3ヶ月後に生存マウスに再負荷した。印象的なことに、IL-10 HER2 CAR-T細胞又はIL-10 TRP-1 CAR-T細胞で処置した長期生存マウスの100%が、元の腫瘍細胞の第2の負荷を拒絶した(図9a~c)。この堅牢な免疫記憶応答が動機付けとなって、本発明者らは、リンパ組織及び循環におけるIL-10発現CAR-T細胞の記憶表現型を調べた。処置の12日後のCAR-T細胞(最初に移植したCAR-T細胞はすべてCD44hiであった)のフローサイトメトリ分析は、IL-10 HER2 CAR T細胞が脾臓及び末梢血においてTscm表現型を有する集団(CD62LhiCD44lo及び幹細胞抗原-1(Sca-1)CD122によって定義される)に富む(enriched)ことを示した(図10a及びb)。脾臓におけるIL-10 HER2 CAR-T細胞は、HER2 CAR-T細胞単独と比較して約3.2倍高い頻度のCD62LhiCD44lo T細胞を示し、IL-10 HER2 CAR-T細胞のCD62LhiCD44lo T細胞の大部分(約71.2%)はSca-1+CD122+Tscmであった(図10a及びb)。加えて、IL-10 HER2 CAR-T細胞は、HER2 CAR-T細胞単独又はHER2 CAR-T細胞+外因性IL-10と比較して、Sca-1の実質的に増加した発現を示した(図10c)。この知見は、IL-10 HER2 CAR T細胞が、脾臓及び血液においてそれぞれHER2 CAR-T細胞よりも約3.7倍及び2.6倍高い割合のIL-7Rα+KLRG1長寿命記憶前駆体T細胞から構成されるという観察結果によってさらに確認された(図10d及びe)。加えて、本発明者らは、CD19 hCAR-T細胞と比較して、IL-10 CD19 hCAR-T細胞の処置がTscmに関して富化されるようであることを観察した。要するに、これらの結果は、IL-10シグナル伝達が、長期抗腫瘍免疫に寄与するマウス及びヒトのTscm CAR-T細胞の形成を誘導しうることを示唆する。
【0119】
配列
【化1】
【化2】
図1(1)】
図1(2)】
図1(3)】
図1(4)】
図1(5)】
図1(6)】
図2
図3
図4(1)】
図4(2)】
図4(3)】
図5(1)】
図5(2)】
図5(3)】
図6
図7(1)】
図7(2)】
図8
図9
図10
【配列表】
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【国際調査報告】