(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】高純度アクリル酸ブチルを生成するための改善された方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/08 20060101AFI20240822BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20240822BHJP
C07C 67/54 20060101ALI20240822BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240822BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/54 Z
C07C67/54
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024512160
(86)(22)【出願日】2022-07-25
(85)【翻訳文提出日】2024-03-27
(86)【国際出願番号】 FR2022051488
(87)【国際公開番号】W WO2023025999
(87)【国際公開日】2023-03-02
(32)【優先日】2021-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】セルジュ・トレチャク
(72)【発明者】
【氏名】アンドル・ルブレ
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC48
4H006AD11
4H006BA36
4H006BC51
4H006BC52
4H006BD20
4H006BD30
4H006BD40
4H006BD53
4H006BD60
4H006KA06
4H006KC14
4H039CA66
(57)【要約】
本発明は、アクリル酸をブタノールで直接エステル化することによるアクリル酸ブチルの生成であって、前記反応が硫酸によって触媒される、生成に関する。より詳細には、本発明の主題は、アクリル酸ブチルを生成するための改善された方法であって、最適化したエネルギー条件下で、前記生成中に生じた重質副生成物を回収して、純度及び酸性度の基準を満たす生成物の収率を高める工程を含む、方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒としての硫酸の存在下で、アクリル酸をブタノールで直接エステル化させることによってアクリル酸ブチルを生成する方法であって、結果として、アクリル酸ブチル、残留アクリル酸及び残留ブタノール、硫酸水素ブチル、微量の硫酸、並びに副反応から生じる不純物を含有する粗反応混合物が生成され、前記方法が、酸性不純物を含まない反応混合物の生成をもたらす、中和及び水による洗浄の工程を含み、酸性不純物を洗浄した前記反応混合物に、少なくとも以下の工程を施すことを特徴とする、方法:
i)蒸留塔でトッピングして、次のものを得る工程:
頂部では、本質的に未反応の試薬から構成されている流れ;
底部では、所望のエステル及び重質副生成物を含む流れ;
ii)前記トッピング塔からの前記底部流れを精留塔にかけて、次のものに分離する工程:
頂部では、精製済みのアクリル酸ブチル;
底部では、重質副生成物を含有する流れであり、前記精留塔供給物に存在する軽質化合物をリサイクルし、且つ重質副生成物の最終残留物を除去するために、フィルムエバポレーターで濃縮、又はテーリング塔で蒸留される、流れ;
iii)前記精留塔からの前記底部流れに、前記エバポレーターの出口に設置した分解装置内で、触媒の非存在下で行う熱処理を施して、次のものに分離する工程:
頂部では、前記トッピング塔供給物にリサイクルされる改良可能な生成物の流れ;
底部では、処理プラントに送られる残留物。
【請求項2】
前記酸性不純物が、硫酸、硫酸水素ブチル、アクリル酸二量体、及び残留アクリル酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分解が、220℃~300℃、好ましくは230℃~280℃の温度で実施される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記分解が、50000Pa~300000Paの間の圧力で実施される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記分解が、連続方式で実施される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記分解装置が、管型反応器、ジャケット付き撹拌型反応器、又は強制循環を備えた外部加熱ループを有する反応器である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
得られた前記アクリル酸ブチルが、99.5%超の純度、500ppm未満のジブチルエーテル含有量、及び400ppm未満の水含有量を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル酸をブタノールで直接エステル化することによるアクリル酸ブチルの生成であって、この反応が硫酸によって触媒される、生成に関する。より詳細には、本発明は、アクリル酸ブチルを生成するための改善された方法であって、最適化したエネルギー条件下で、この生成中に生じた重質副生成物を改良(upgrade)して、純度及び酸性度に関する基準を満たす生成物の生産性を高める工程を含む、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸のエステル化は、水の発生を伴う可逆反応であり、アクリル酸エステルの生成する方向に平衡を移動させるには、反応中、発生した水を除去しなければならない。
【0003】
一般に触媒としての硫酸の存在下で、アクリル酸を直接エステル化してアクリル酸ブチルを生成する際に生じる問題は、大抵の場合、高純度の生成物を得るために反応工程後に必要な精製工程の複雑さ、プロセスの生産性の損失に関連するものである。
【0004】
本出願人の欧州特許第609127号に記載されている工業プロセスは、硫酸の存在下でアクリル酸を過剰のブタノールでエステル化するものである。反応終了時の反応混合物は、アクリル酸ブチル、残留アクリル酸、硫酸水素ブチル、微量の硫酸、及び副反応から生じる様々な不純物を含む。次いで、この反応混合物を中和し、水で洗浄する工程を施すが、その目的は、いわゆる酸性不純物である残留硫酸、硫酸水素ブタノール、及びアクリル酸を除去することである。酸性不純物を含まないこの混合物に様々な精製工程を施すと、精製されたアクリル酸ブチルが回収される。トッピングと呼ばれる段階の1つは、特にブタノール及び軽質副生成物を蒸留することである。このようにして、ブタノールは、エステル化反応にリサイクルすることができる。
【0005】
アクリル酸ブチルの精製の最終段階は、軽質生成物が除去されたエステル含有混合物を最終蒸留塔に送り、アクリル酸ブチルを頂部から出し、その蒸留塔の底部に見られる重質副生成物を精製し、次いで、エバポレーターで濃縮する。
【0006】
副反応によって発生する副生成物としては、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、ジブチルエーテル、アクリル酸イソブチルなどの軽質生成物、又はマレイン酸ジブチルなどの重質生成物を挙げることができる。
【0007】
マイケル付加反応から生じる「重質」化合物は、アクリル酸ブチル生成装置内で自然に形成する。これらの寄生反応は、特にこれらの装置の蒸留塔の底部で遭遇する高温によって促進される。したがって、アクリル酸、依然として未反応のブタノール又は反応水が、アクリル酸ブチルの二重結合に付加されて、主に以下のものが形成される:
- アクリル酸(AA)とアクリル酸ブチル(ABU)の付加によるアクリルオキシプロピオン酸ブチル(AA/ABU);
- 水とアクリル酸ブチルの付加によるヒドロキシプロピオン酸ブチル(HPB);
- ブタノールとアクリル酸ブチルの付加によるブトキシプロピオン酸ブチル(BPB)。
【0008】
重付加、又は混合化合物の形成も可能である。
【0009】
重質副生成物の特徴の1つは、その沸点がアクリル酸、ブタノール、及びアクリル酸ブチルの沸点よりも高いことである。それらは揮発性が低いため、最終蒸留塔の底部、この残留物を濃縮するために使用されるエバポレーターの底部に蓄積する。
【0010】
エバポレーターの残留物は、マイケル誘導体及び数パーセントの遊離モノマーに加えて、精製工程中に蓄積した高濃度の重合防止剤、例えば、遊離型のフェノチアジン、又はAA若しくはABUの付加物など、また、媒体に多少溶解する重合性の重質化合物も含む。一般に、この残留物は灰化によって除去されるが、これは収率の著しい低下をまねく。
【0011】
これらの重質副産物を改良するために、様々な解決策が提案されている。
【0012】
中国特許第1063678号は、硫酸又はp-トルエンスルホン酸などのプロトン酸触媒を使用して、アクリル酸ブチルの合成中に形成されるオキシエステルを処理する方法を提案している。米国特許第4293347号に記載されているように、フタル酸エステル類などの化合物を添加することもできる。
【0013】
これらの分解方法の欠点は、残留生成物が、粘性を示し、固体を含有することである。米国特許第6617470号は、ドデシルスルホン酸などのアリールスルホン酸類を触媒として使用することを提案しており、これにより底部残留物中での固体の形成が抑制される。
【0014】
米国特許出願公開第2011/0230675号は、固体堆積物の形成を避けるために、酸触媒作用によって分解が行われるときに水を連続的に添加することを提案している。
【0015】
仏国特許第2901272号は、分解前に蒸留を行うことを提案しており、これにより設備内での固体物質の堆積が制限される。
【0016】
本出願企業は、仏国特許第2727964号又はその国際出願PCT/FR2021/050825号において、アクリル酸エステル生成工場でリサイクルすることを目的とした、アクリル酸(AA)副生成物とアクリル酸エステルとの混合物の熱分解を記載している。これは、3-エトキシプロピオン酸エチルなどのC-O-C結合を含有するアルコキシプロピオン酸誘導体が、アクリル酸から誘導される重質副生成物のC-C結合よりも壊れにくいという性質を利用している。
【0017】
本出願企業は、仏国特許出願公開第2101402号において、アクリル酸2-エチルヘキシルなどのアクリル酸エステルの合成のために、サイドドローカラム、熱分解装置又は熱及び接触分解装置、並びに分解装置から得られた生成物を処理するためのデカンター及び洗浄システムを組み合わせたプロセス図を記載している。この組合せが必要とされるのは、酸性樹脂によって触媒されるこれらのプロセスでは、いわゆる酸性不純物が、第一に精製セクションの前の中和操作中に除去されず、第二に分解中にも生成されるからである。サイドドローカラム-デカンターの組合せがなければ(実施例2を参照)、仕様を満たす精製済みアクリル酸2-エチルヘキシルを得ることが不可能である。
【0018】
しかし、アクリル酸ブチルの合成のために、仏国特許出願公開第2101402号で想定されるようなプロセス図を転用すると、分解から生じる改良可能な材料、例えば、アクリル酸及び特にブタノールなどが、分解装置の塔頂生成物をデカンターで洗浄するときに水に部分的に溶解してしまうので、これらの改良可能な材料の損失をまねくことになる。
【0019】
特開2015/140336号は、触媒としての酸の存在下で、アクリル酸とブタノールとの直接エステル化によってアクリル酸ブチルを生成する方法を記載しているが、結果として、アクリル酸ブチル、アクリル酸、残留ブタノール、及び不純物を含有する粗反応混合物が生成される。
【0020】
仏国特許第3032198号は、エステル交換反応とそれに続く蒸留による精製工程によるアルキル(メタ)アクリレートの調製方法を記載している。
【0021】
最後に、中国特許出願公開第102173990号は、最終分解残留物の後続処理を容易にするために、分解装置供給物に銅塩を添加することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】欧州特許第609127号
【特許文献2】中国特許第1063678号
【特許文献3】米国特許第4293347号
【特許文献4】米国特許第6617470号
【特許文献5】米国特許出願公開第2011/0230675号
【特許文献6】仏国特許第2901272号
【特許文献7】仏国特許第2727964号
【特許文献8】国際出願PCT/FR2021/050825号
【特許文献9】仏国特許出願公開第2101402号
【特許文献10】特開2015/140336号
【特許文献11】仏国特許第3032198号
【特許文献12】中国特許出願公開第102173990号
【特許文献13】仏国特許第290172号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
したがって、固体形成の問題を回避しながら、改良可能な生成物であるアクリル酸、ブタノール、及びアクリル酸ブチルをできるだけ多く得るために、アクリル酸ブチルを生成するための既知の方法を改善する必要が依然としてある。更に、精製済みアクリル酸ブチルの生成につながる精製工程で分離が困難になり得る副生成物の形成を抑えることが望ましい。これらの精製工程は蒸留によって行われる。表1は、反応で形成された軽質副生成物の大気圧における沸点を比較しており、これにより、この分解中に形成を絶対に制限する必要がある不純物を特定することが可能となる。
【0024】
【課題を解決するための手段】
【0025】
今回、高純度のアクリル酸ブチルを生成する方法において、触媒を用いない熱分解を実施することにより、特にジブチルエーテルの形成を抑制しながら、設備内で固体が堆積することなく、高い収率でマイケル付加物を変換することが可能となることが発見された。
【0026】
本発明は、反応部分に関して欧州特許第609127号に記載されているアクリル酸ブチルの生成方法においてマイケル付加物の改良を可能にする熱処理について記載している。
【0027】
本発明はまた、アクリル酸ブチル精製塔の底部に設置したエバポレーターの底部からのパージ生成物を熱分解するための反応器を関連付けることによって、この特許に記載している精製スキームを完成させ、プロセス内の分解から得られた塔頂生成物のリサイクルを示唆している。
【0028】
これは次の2つの前提に基づいている:
- この分解反応中のコークスの形成に大きく関与するのは、フェノチアジンと酸触媒との間の相互作用である
- 触媒の存在下で分解を行うと、ジブチルエーテルの量が増加し、それによって、ブタノールの脱水反応が促進される。
【0029】
本発明は、触媒としての硫酸の存在下で、アクリル酸を過剰のブタノールで直接エステル化させることによってアクリル酸ブチルを生成する方法であって、結果として、アクリル酸ブチル、残留アクリル酸及び残留ブタノール、硫酸水素ブチル、微量の硫酸、並びに副反応から生じる不純物を含有する粗反応混合物が生成され、前記方法が、いわゆる酸性不純物を含まない反応混合物の生成をもたらす、中和及び水による洗浄の工程を含む、方法において、酸性不純物を洗浄した前記反応混合物に、少なくとも以下の工程i)、ii)、及びiii)を施すことを特徴とする、方法に関する:
i)蒸留塔でトッピングして、次のものを得る工程:
- 頂部では、本質的に未反応の試薬から構成されている流れ;
- 底部では、所望のエステル及び重質副生成物を含む流れ;
ii)トッピング塔からの底部流れを精留塔にかけて、次のものに分離する工程:
- 頂部では、精製済みの所望のエステル;
- 底部では、重質副生成物を含有する流れであり、精留塔に存在する軽質化合物をリサイクルし、且つ重質副生成物の最終残留物を除去するために、フィルムエバポレーターで濃縮、又はテーリング塔で蒸留される、流れ;
iii)精留塔からの底部流れに、エバポレーターの出口に設置した分解装置内で、触媒の非存在下で行う熱処理を施して、次のものに分離する工程:
- 頂部では、トッピング塔供給物にリサイクルされる改良可能な生成物の流れ;
- 底部では、処理プラントに送られる残留物。
【0030】
本発明は、現況技術の欠点を克服することを可能にする。より詳細には、仕様としてエステル純度が99.5%超、ジブチルエーテル含有量が500ppm未満、最終的には水含有量が400ppm未満である高純度アクリル酸ブチルを得、マイケル付加物を反応物(アクリル酸及びアルコール)並びに最終生成物に分解するための熱処理を組み込み、このようにして、除去すべき残留物の量を制限することで方法の生産性を向上させるための方法を提供する。
【0031】
本発明の他の特徴及び利点は、添付の
図1を参照しながら以下の詳細な説明を読むことでより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、熱分解工程を組み込んだ、本発明によるアクリル酸ブチルの合成法の全体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、触媒としての硫酸の存在下で、アクリル酸を過剰のブタノールで直接エステル化させることによってアクリル酸ブチルを生成する方法であって、結果として、アクリル酸ブチル、残留アクリル酸及び残留ブタノール、硫酸水素ブチル、微量の硫酸、並びに副反応から生じる不純物を含有する粗反応混合物が生成される、方法に関する。
【0034】
様々な実装形態によれば、前記方法は、適切な場合、以下の特徴を組み合わせて含む。
【0035】
エステル化工程の後、本発明による方法は、いわゆる酸性不純物を含まない反応混合物の生成をもたらす、中和及び水による洗浄の工程を含む。
【0036】
酸性不純物としては、一般に、硫酸、硫酸水素ブチル、アクリル酸二量体、及び残留アクリル酸が挙げられる。
【0037】
一実施形態によれば、エステル化工程の後に、前記粗反応混合物に塩基を添加して、そこに存在するアクリル酸、硫酸水素ブチル、及び微量の硫酸を中和し、得られた塩を前記混合物の水相に通過させ、この中和から得られた有機相と水相とを分離し、所望のアクリル酸ブチルを前記有機相から回収する。
【0038】
アクリル酸ブチルの回収段階もまた、最初の中和に続く相分離から得られた有機相を抽出塔において水で洗浄することによる従来の方法で行われる。
【0039】
典型的には、前述の酸性不純物を洗浄した反応混合物に、少なくとも以下の工程i)、ii)、及びiii)を施す:
i)蒸留塔でトッピングして、次のものを得る工程:
- 頂部では、本質的に未反応の試薬から構成されている流れ;
- 底部では、所望のエステル及び重質副生成物を含む流れ;
ii)トッピング塔からの底部流れを精留塔にかけて、次のものに分離する工程:
- 頂部では、精製済みの所望のエステル;
- 底部では、重質副生成物を含有する流れであり、精留塔に存在する軽質化合物をリサイクルし、且つ重質副生成物の最終残留物を除去するために、フィルムエバポレーターで濃縮、又はテーリング塔で蒸留される、流れ;
iii)精留塔からの底部流れに、エバポレーターの出口に設置した分解装置内で、触媒の非存在下で行う熱処理を施して、次のものに分離する工程:
- 頂部では、トッピング塔供給物に個別にリサイクルされる改良可能な生成物の流れ;
- 底部では、処理プラントに送られる残留物。
【0040】
一実施形態によれば、熱分解装置が精製塔の底部に配置されており、この精製塔により、その頂部でアクリル酸ブチルを、底部で重質生成物を得ることが可能となり、この重質生成物はまずエバポレーターで濃縮される。この濃縮された流れは、熱分解装置に供給するのに使用される。場合によっては、これは分解装置の操作に支障をきたすことなく、仏国特許第2901272号に記載されている蒸留などの、供給流れの前処理を実施することができる。改良可能な生成物の流れは、セクションの供給物にリサイクルされて、アルコールを反応にリサイクルすることが可能になる。分解装置底部の残留物は、処理プラントに送られる。
【0041】
本発明において、マイケル付加物の分解は、連続、半連続、又はバッチ方式で実施することができる。連続方式は、このエステル化プロセスの好ましい操作に対応しているため、好ましい。管型反応器、ジャケット付き撹拌型反応器、又は強制循環を備えた外部加熱ループを有する反応器を使用することが可能である。分解反応によって生じた改良可能な化合物は、反応器の頂部又はこの反応器を取り囲む蒸留塔の頂部で蒸気を凝縮した後に回収される。
【0042】
反応器上部の反応温度及び圧力は、アクリル酸、ブタノール、又は最終生成物などの反応物が蒸発によって取り出される一方で、分解装置供給物中に存在する主要化合物(>70質量%)であるブトキシプロピオン酸ブチル(BPB)が反応媒体中に保持されるように関連付けられている。
【0043】
一実施形態によれば、分解反応は、220℃~300℃、より特には230℃~280℃の温度範囲で行われる。
【0044】
一実施形態によれば、反応器上部で維持される圧力は、50000Pa~300000Paである。
【0045】
一実施形態によれば、重合防止剤としてのフェノチアジンの存在下でアクリル酸ブチルを生成する場合の分解装置原料の質量組成は以下の通りである:
- ブタノール<0.1%
- アクリル酸ブチル(5~10%)
- ヒドロキシプロピオン酸ブチル(HPB):1~3%
- ブトキシプロピオン酸ブチル(BPB)70~80%
- アクリルオキシプロピオン酸ブチル(AA/ABU)4~6%
- マレイン酸ジブチル:2~5%
- フェノチアジン:1~3%。
【0046】
有利には、熱処理は、触媒の非存在下で行われる。
【0047】
反応器内の液相の体積に対する供給流速(kg/h)に基づく分解装置内の滞留時間は、好ましくは、0.5~20時間の間、特に7~15時間の間で選択される。
【0048】
本発明の好ましい方式を表す
図1を参照すると、トッピングセクションは、10~30段の理論トレイ、好ましくは10~15段の理論ステージに相当するものを有する蒸留塔を含む。塔に使用する挿入物は、バルブトレイ又は有孔堰トレイ(perforated weir tray)、デュアルフロートレイ、リップルトレイ、ターボグリッドシェルなどのクロスフロートレイ、又は規則充填物、例えば、Sulzer社のMellapack 250Xなどの構造化充填物でよい。
【0049】
トッピング塔は、この塔の上部3分の1、好ましくは塔の頂部から数えて3~10段の理論トレイの間に供給される。塔の頂部流れは、本質的に未反応の試薬を含む。この改良可能な流れは、反応にリサイクルされる。
【0050】
塔は、4/1~1/1の間、好ましくは3/1の還流比(塔に戻される凝縮液の流速/反応にリサイクルされる流速)で操作される。有利には、50~5000ppmの重合防止剤が、本発明の方法による精製システムに導入される。
【0051】
使用することができる重合防止剤として、例えば、フェノチアジン(PTZ)、ヒドロキノン(HQ)、ヒドロキノンモノメチルエーテル(HQME)、ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(BHT)、p-フェニレンジアミン、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ)、ジ-tert-ブチルカテコール、又はOH-TEMPOなどのTEMPOの誘導体を挙げることができ、これらを単独又は任意の割合の混合物として、反応媒体中の含有量が50ppm~5000ppmの間、任意選択で枯渇空気(depleted air)の存在下で、但し、一般には含有量が150ppm~1000ppmの間で使用することができる。重合防止剤は、試薬の導入と一緒に、又は蒸留塔の頂部といった様々な場所で添加することができる。
【0052】
重合防止剤をより効果的にするには、塔の底部に酸素、空気、又はO2が7%のいわゆる枯渇空気を注入することが適切である。好ましくは、注入する酸素の量は、塔内の有機蒸気量に対して0.2%~0.5%の含有量に相当する。
【0053】
塔は、塔内の熱に弱い化合物の熱暴露を最小限に抑えるために、真空下で操作することができる。有利には、トッピング塔は、1000Pa~30000Paの範囲の真空下で操作する。
【0054】
好ましくは、底部流れが塔に供給され、それによって、理論トレイ6~9段の間の塔の底部で精製エステルを得ることが可能となる。
【0055】
純粋な生成物用の蒸留塔は、2及び15段の理論トレイ、好ましくは6~12段の理論ステージに相当するものを含む。カラムに使用する挿入物は、バルブトレイ又は有孔堰トレイ、デュアルフロートレイ、リップルトレイ、ターボグリッドシェルなどのクロスフロートレイ、又は規則充填物、例えば、Sulzer社のMellapack 250Xなどの構造化充填物でよい。
【0056】
塔の頂部流れは、仕様としてエステル純度が99.5%超、ジブチルエーテル含有量が500ppm未満、最終的には水含有量が400ppm未満である高純度アクリル酸ブチルからなる。
【0057】
塔は、1/8~1/1の間、好ましくは1/4の還流比(塔に戻される凝縮液の流速/純粋な生成物の流速)で操作される。トッピング塔と同様に、この塔を安定化し、空気又は枯渇空気(7%O2)をカラム底部に注入する。塔は、塔内の熱に弱い化合物の熱暴露を最小限に抑えるために、真空下で操作することができる。有利には、純粋な生成物用の塔は、1000Pa~20000Paの範囲の真空下で操作する。
【0058】
有利には、操作温度は、50℃~160℃の間である。
【0059】
この精留塔の底部にあるアクリル酸ブチルを回収して精留塔に戻し、その精留塔の底部物を本発明の対象である分解装置に供給するために、底部流れを、掻取り式(scraped)フィルムを備えたエバポレーター(図示せず)で濃縮する。この残留物は、外部交換器を備えた強制再循環反応器に供給される。媒体の反応温度は、220℃~300℃、好ましくは230℃~280℃である。この反応器内の圧力は、50kPa~300kPaの間に維持される。底部生成物は、最終残留物を構成し、適切な経路に送られる。20℃~30℃の温度で凝縮した塔頂生成物は、トッピング塔の入口に送られる。エバポレーターからの底部生成物にはプロセスで使用するすべての安定剤が含まれているため、この反応器に空気又は枯渇空気を注入する必要はない。
【0060】
以下の実施例は本発明を説明するものであるが、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0061】
実施例では、別段の指示がない限り、パーセンテージは質量基準で示しており、以下の略語を使用した。
AA:アクリル酸
ABU:アクリル酸ブチル
BuOH:ブタノール
BPB:ブトキシプロピオン酸ブチル
DBE:ジブチルエーテル
【0062】
(実施例1)
仏国特許第290172号による接触分解法
有効容量が92cm3のガラス製熱サイホンボイラーを使用する。
【0063】
ボイラーに、背圧弁を備えたダイヤフラムポンプによって事前に蒸留したABU重質生成物の容器から連続的に供給を行う。供給流を室温でボイラーに送り、圧力を大気圧に維持する。供給流速は、初期混合物の質量を連続測定することによって調節する。ボイラーは、3つの加熱カラーによって加熱する。直径10mmのサーモウェルが、反応媒体の温度を測定する。ボイラー内が所望の温度になるように、加熱出力を調整する。分解装置を出た蒸気を水冷凝縮器に送り、留出物を大気圧回収タンクに送る。
【0064】
70.5%のBPB、4.3%の硫酸により触媒された10.7%のABUを含む組成物、分解装置における滞留時間30分、温度171℃の場合、分解装置からの塔頂生成物中のジブチルエーテル含有量は8%である。反応器はきれいである。
【0065】
(実施例2)
接触分解法
容積40リットルの強制再循環ボイラーを使用し、天秤に載せたABU重質生成物をダイヤフラムポンプによって連続的に供給する。供給流速は、供給ラインに配置した質量流量計によって、また、天秤が示す時間の経過に伴う質量の変化によって測定する。操作は、大気圧で行う。反応媒体の温度並びに交換器の入口及び出口の温度を連続的に測定する。熱エネルギーを交換器に運ぶ熱伝達流体は、石油ボイラーからもたらされる。蒸発流率が65%となるように加熱出力を固定する。
【0066】
以下の操作条件:供給物中のp-トルエンスルホン酸の質量含有量:1.5%;大気圧;オイルボイラー温度:200℃、反応ループ/供給流速の比として表す滞留時間10時間の下では、留出物含有量は65%であり、それは1.4%のジブチルエーテルを含む。更に、底部生成物試料は、固体粒子を含む。
【0067】
(実施例3)
本発明による熱分解法
容積40リットルの強制再循環ボイラーを使用し、天秤に載せたABU重質生成物をダイヤフラムポンプによって連続的に供給する。供給流速は、供給ラインに配置した質量流量計によって、また、天秤が示す時間の経過に伴う質量の変化によって測定する。操作は、ブトキシプロピオン酸ブチルを気化させないように調整した圧力で行う。反応媒体の温度並びに交換器の入口及び出口の温度を連続的に測定する。熱エネルギーを交換器に運ぶ熱伝達流体は、石油ボイラーからもたらされる。試験温度を一定に保つために加熱出力を固定する。
【0068】
ABU重質生成物は、事前に真空下で蒸留されており、約2000ppmのフェノチアジンを含有する。
【0069】
以下の表2に得られた結果を示す。
【0070】
【0071】
これらの操作条件下では、ジブチルエーテルの含有量は、実施例1及び実施例2に記載したものよりもはるかに低い。底部生成物は、透明である。
【国際調査報告】