(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】骨髄由来の間葉系幹細胞の投与を含む加齢フレイルの治療
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20240822BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240822BHJP
A61B 5/22 20060101ALI20240822BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P43/00
A61B5/22 220
A61B5/11
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024512203
(86)(22)【出願日】2022-09-09
(85)【翻訳文提出日】2024-02-22
(86)【国際出願番号】 US2022043067
(87)【国際公開番号】W WO2023039171
(87)【国際公開日】2023-03-16
(32)【優先日】2021-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518274272
【氏名又は名称】ロングエバーオン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ヘア, ジョシュア エム.
(72)【発明者】
【氏名】オリバ, アンソニー エー.
(72)【発明者】
【氏名】ヒッチンソン, ベン
【テーマコード(参考)】
4C038
4C087
【Fターム(参考)】
4C038VA11
4C038VA12
4C038VB01
4C038VC20
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087NA14
4C087ZC52
4C087ZC80
(57)【要約】
骨髄由来の間葉系幹細胞による加齢フレイルの治療のための組成物及び方法が本明細書で開示される。治療の方法は、骨髄由来の間葉系幹細胞の組成物を必要とする対象に投与するステップを含み、治療方法の効力は、特定のバイオマーカー及び改善された身体活動の測定を通じて判定され得る。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加齢フレイルの症状の軽減を必要とする対象における加齢フレイルの症状を軽減するための方法であって、治療有効量の骨髄由来の間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物を前記対象に投与するステップを含む方法。
【請求項2】
加齢フレイルを治療するか、又は加齢フレイル疾患進行を阻害するため方法であって、治療有効量の同種間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物を前記対象に投与するステップを含む方法。
【請求項3】
骨髄由来MSCを含む前記組成物の投与の前後に、加齢フレイルの症状を患っている前記対象におけるバイオマーカーの濃度に変化が生じるかどうかを判定するステップをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記対象の機能的可動性及び/又は運動耐性に改善が生じるかどうかを判定するステップをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
日常生活の活動を行う前記対象の能力に改善が生じるかどうかを判定するステップをさらに含む、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
日常生活の活動を行う前記対象の能力の改善を判定するステップが、前記骨髄由来MSCの投与の前後に前記対象のPROMIS身体機能スコアを検査することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記対象のPROMIS可動性スコアに改善が生じるかどうかを判定するステップをさらに含む、請求項3~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記対象の握力に改善が生じるかどうかを判定するステップをさらに含む、請求項3~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記対象の歩行又はバランスに改善が生じるかどうかを判定するステップをさらに含む、請求項3~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記バイオマーカーが炎症促進性サイトカインを含む、請求項3~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記炎症促進性サイトカインが、TNF-α、TGF-β、IL-1β、IL-2、Dダイマー、C反応性タンパク質(CRP)、又はそれらの組み合わせである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
炎症促進性サイトカインの濃度が、骨髄由来MSCを含む前記組成物の投与後に、0.5%~10%、5%~10%、10%~50%、又は50%を超えて減少する、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項13】
前記バイオマーカーが抗炎性サイトカインをさらに含む、請求項3~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記抗炎症性サイトカインが、IL-8、可溶性IL-2受容体α(sIL-2Rα)、IL-4、IL-10、IL-12、TNF-α刺激遺伝子6(TSG-6)、又はそれらの組み合わせである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
抗炎症性サイトカインの濃度が、骨髄由来MSCを含む前記組成物の投与後に、0.5%~10%、5%~10%、10%~50%、又は50%を超えて増加する、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記バイオマーカーが可溶性Tie2(sTie2)をさらに含む、請求項3~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
sTie2の濃度が、骨髄由来MSCを含む前記組成物の投与後に、0.5%~10%、5%~10%、10%~50%、又は50%を超えて減少する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記バイオマーカーがTie2をさらに含む、請求項3~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
Tie2の濃度が、骨髄由来MSCを含む前記組成物の投与後に、0.5%~10%、5%~10%、10%~50%、又は50%を超えて増加する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記バイオマーカーがVEGFをさらに含む、請求項3~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
VEGFの濃度が、骨髄由来MSCを含む前記組成物の投与後に、0.5%~10%、5%~10%、10%~50%、又は50%を超えて増加する、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2021年9月10日出願の米国特許仮出願第63/261,092号の利益を主張する。その出願は、本明細書に完全に書き直されているかのように、参照として組み込まれる。
【0002】
本開示は、加齢フレイルの治療を必要とする対象における加齢フレイルの治療のための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
加齢フレイルは、個体の全体的な健康及び幸福に非常に重大な問題を引き起こす。加齢フレイルは、衰弱、低い身体活動、ゆっくりとした運動パフォーマンス、極度の疲労、及び意図していない体重減少を特徴とする老年症候群である。Yao,X.他、Clinics in Geriatric Medicine 27(1):79~87(2011)を参照。さらに、加齢フレイルと炎症と間の直接的な相関関係を示す多くの研究が存在する。Hubbard,R.E.他、Biogerontology 11(5):635~641(2010)を参照。
【0004】
免疫老化は、インフラメージングとして知られている、低度の慢性の全身性炎症状態を特徴とする。Franceshi,C.他、Annals of the New York Academy of Sciences 908:244~254(2000)を参照。加齢及び加齢フレイルに見られるこの高い炎症状態又は慢性炎症は、免疫調節異常並びに自然免疫及び獲得免疫の両方の複雑なリモデリングにつながる。免疫老化では、T細胞及びB細胞のレパートリーは偏り、CD45raを再発現するCD8+エフェクターメモリーT細胞(TEMRA)及びCD19+後期/消耗メモリーB細胞の増加、並びにCD8+ナイーブT細胞及びスイッチしたメモリーB細胞(CD27+)の減少を引き起こす。Blomberg,B.B.他、Immunologic Research 57(1-3):354~360(2013);Colonna-Romano,G.他、Mechanisms of Ageing and Development 130(10):681~690(2009);及びKoch S.他、Immunity & Ageing:5:6(2008)を参照。
【0005】
T細胞及びB細胞のレパートリーのこの変化は、難治性又は効率が低い免疫状態を引き起こす。この免疫系の悪化は、感染症の罹患率の増大及びワクチン接種に対する応答の低下の原因となる。最適なB細胞機能は、ワクチンに対する効果的な抗体応答の生成及び感染性病原体からの防御のために不可欠である。全身性炎症(TNF-α、IL-6、IL-8、INFγ、及びCRP)の年齢に関係した増加は、B細胞機能障害を誘導し、不十分な抗体応答及びワクチン有効性の減少につながることはよく知られている。
【0006】
インフラメージングは、免疫変化と、高齢者に一般的ないくつかの疾患及び状態(加齢フレイルなど)との間の関連性を提示しているため、かなりの注目を集めてきた。サイトカイン及び急性期タンパク質などの循環する炎症性メディエータは、加齢に伴い増加することが観察される、低度の炎症のマーカーである。これらの炎症促進性サイトカイン(例えば、TNF-α、IL-6)は、B細胞が外因性抗原及びワクチンに対する防御抗体を産生する能力を損なう。損なわれたこのB細胞応答は、アイソタイプをIgMから二次アイソタイプ(IgG、IgA、又はIgE)に切り替える免疫グロブリンの能力であるクラススイッチ組換え(CSR)の低下によって測定される。免疫グロブリンのアイソタイプスイッチは、エフェクター機能がそれぞれのアイソタイプで異なるため、適切な免疫応答には不可欠である。CSR及び体細胞超突然変異(SHM)の中心的な担い手は、Aicda遺伝子によってコードされる酵素、活性化誘導性シチジンデアミナーゼ(AID)である。CSR及びSHMにおけるAIDの基本的な機能は、免疫グロブリンのスイッチ及び可変領域のシトシンをウラシルに変換することによってDNAの切断を開始することである。
【0007】
Tcfe2a(E2A)遺伝子によってコードされるE47は、Eタンパク質としても知られているクラスI塩基性ヘリックスループヘリックス(bHLH)タンパク質に属する転写因子である。E47が発現しないと、B細胞特異的転写因子EBF1(初期B細胞因子)及びPax-5(ペアードボックスタンパク質)が発現されない。E47及びPax-5は両方とも、B細胞系列の初期の発生及び成熟B細胞の機能における重要な転写因子である。Hagman J.他、Immunity 27(1):8~10(2007);Horcher M.他、Immunity 14(6):779~790(2001);Riley R.L.他、Seminars in Immunology 17(5):330~336(2005)を参照。Pax-5遺伝子は、B細胞分化の全段階で発現されるが、最終分化したB細胞では発現されないB細胞系列特異的活性化タンパク質(BSAP)をコードする。Pax-5は、B細胞系列の不適切な遺伝子を抑制し、B細胞特異的遺伝子を活性化して、B細胞のゲートキーパーであるPax-5を産生することによってB細胞の関与を制御し、関与されたプロB細胞から成熟B細胞の段階までのBリンパ球系列において専ら発現される。B細胞特異的転写因子Pax-5は、初期のB細胞発生及びB細胞系列の関与において非常に重要であるだけでなく、CSRにも関係している。
【0008】
ヒトにおいても、産生されるTNF-αの量は、(1)系の炎症の量に依存し、(2)同じB細胞がマイトジェン又は抗原によって刺激される能力を損なわせることが示された。Frasca,D.他、Journal of Immunology 188(1):279~286(2012)を参照。したがって、加齢フレイルを患っている対象における免疫応答は、いくつかの理由のために損なわれている。
【0009】
加齢フレイルは多くの方法で対象の生活の質に影響を及ぼし得る。例えば、加齢フレイルはワクチン接種後の免疫応答の減少を引き起こし、それによってワクチンの効力が減少する可能性がある。実際に、65歳を超える個体には、感染を防御するためにインフルエンザに対するワクチン接種が強く推奨されている。インフルエンザに対する市販のワクチンは、小児及び成人において防御をもたらし、免疫記憶を確実に持続させるが、高齢者及び虚弱な個体ではあまり効果がない。Frasca D.他、Current Opinion in Immunology 29:112~118(2014)及びYao X.他、Vaccine 29(31):5015~5021(2011)を参照。インフルエンザワクチンを定期的に受けているにも関わらず、高齢の個体はインフルエンザに感染するリスクがより高く、二次合併症、入院、身体的衰弱、最終的には死につながる。Gross,P.他、Annals of Internal Medicine 123(7):518~527(1995);Simonsen L.他、The Journal of Infectious Diseases 178(1):53~60(1998);及びVu T.他、Vaccine 20(13-14):1831~1836(2002)を参照。
【0010】
これらのリスクの増加は、この対象集団における加齢フレイルの発症に起因する可能性がある。インフルエンザワクチンはまた、ほとんどの高齢の個体においてインフルエンザ感染から生じる他の合併症(例えば、肺炎)を予防し、入院の割合をある程度まで低下させる。Nichol K.L.他、The New England Journal of Medicine 331(12):778~784(1994)。しかし、この集団内では、インフルエンザ関連疾患による入院の割合は依然として非常に高い。Thompson,W.W.他、JAMA 292(11):1333~1340(2004)を参照。
【0011】
以前に公開された結果は、インビトロにおけるインフルエンザワクチンに対するB細胞の特異的応答(AIDによって測定される)、及びインビボにおける血清反応(HAIアッセイ及びELISAによって測定される)が加齢に伴い減少し、有意に相関していることを報告している。Frasca,D.他、Vaccine 28(51):8077~8084(2010)を参照。いずれもワクチン接種前(t0)に測定されたスイッチしたメモリーB細胞及びCpG誘導AIDのパーセンテージは加齢に伴って減少し、インビボにおける応答と有意に相関していることも報告された。したがって、これらのマーカーはインビボにおける応答を予測すると思われる。
【0012】
したがって、上記の問題を考慮すると、高齢者における免疫応答及び免疫系の機能を改善できる治療方法及び組成物の開発は、老年医学の分野の進歩のために有益であろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本開示の目的は、加齢フレイルの治療又は軽減の方法を必要とする対象において提供することであり、これらの方法は、治療量の骨髄由来の間葉系幹細胞を必要とする対象に投与するステップを含む。
【0014】
本開示の別の目的は、加齢フレイルの進行を診断及び評価するための新規バイオマーカーを必要とする対象において提供することである。これらの新規バイオマーカーを測定して、本明細書で記載した治療方法の効力を判定することもできる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
いくつかの実施形態は、免疫応答の減少又は全身性炎症の増加などの加齢フレイルの症状を軽減するために使用される、治療有効量の骨髄由来の幹細胞、特に骨髄由来の間葉系幹細胞(bMSC)を含む組成物を対象とする。他の実施形態は、加齢フレイルの症状を患っている対象に、治療有効量のbMSCを含む組成物を投与する治療方法を対象とする。これらの治療の効力は、bMSCを含む組成物の投与後の対象におけるTie2、VEGF、及びTGF-βなどの特定のバイオマーカーの濃度及び発現を測定することによって評価され得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】加齢フレイルを患っている患者におけるロメセル-B(Lomecel-B)注入の安全性及び有効性を評価するための第2b相無作為化盲検プラセボ対照臨床試験を示す図である。
【
図2A】ロメセル-B細胞による治療後の時間に対する6MWTの変化を示す図である。4つのロメセル-B群は全て、歩行距離の増加傾向又は有意な増加を示し、200M用量はベースラインからの最大の変化を示した。対照的に、プラセボ群は治療後9ヵ月まで減少傾向を示した。*=p<0.05、ベースラインからの変化。**=p<0.01、ベースラインからの変化。#=p<0.05、ロメセル-B群のベースラインからの変化対プラセボにおけるベースラインからの変化。##=p<0.01、ロメセル-B群のベースラインからの変化対プラセボにおけるベースラインからの変化。
【
図2B】MCP-Mod法を使用して計算された、
図2Aの各治療群についての用量反応効果を示す図である。5つのモデルは全て統計的に有意であったが、直線モデルが最小のAIC値をもたらした。
【
図3】患者に投与されたロメセル-B細胞の量と患者の6MWTスコアの変化との間の、修正された治療企図用量反応曲線を示す図である。
【
図4A】6MWTの変化と有意に相関する、副次的評価項目として選択された、治療後6ヵ月の時点でのPROMIS身体機能スコアの変化を示す図である。
【
図4B】6MWTの変化と有意に相関する、副次的評価項目として選択された、治療後6ヵ月の時点でのPROMIS可動性の変化を示す図である。
【
図4C】6MWTの変化と有意に相関する、副次的評価項目として選択された、治療後6ヵ月の時点でのPROMIS上肢の変化を示す図である。
【
図5A】ロメセル-B細胞による治療後の可溶性Tie2(sTie2)の変化を示す図である。sTie2はロメセル-B200M群で減少し、注入後3ヵ月の時点で有意であった。注入後9ヵ月の時点で、ロメセル-B200M群とプラセボとの間の差は非常に有意であった。*=p<0.05、ベースラインからの変化。##=p<0.01、ロメセル-B群のベースラインからの変化対プラセボにおけるベースラインからの変化。
【
図5B】シグモイドEmaxでモデル化された、MCP-Mod法を使用して計算された
図5Aの各治療群についての用量反応効果を示す図である(p=0.0175)。
【
図5C】sTie2レベルにおける変化と6MWTにおける変化との間の逆相関を示す図である。
【
図6A】プラセボと比較した、2億個の骨髄由来ロメセル-B細胞の投与後のTGF-β濃度の変化を示す図である。
【
図6B】プラセボと比較した、2億個の骨髄由来ロメセル-B細胞の投与後のVEGF濃度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
間葉系幹細胞は、損傷部位に移動することができる複能性細胞であると同時に、主要組織適合抗原複合体クラスII(MHC-II)分子の発現を検出できないこと、及びMHC-I分子の発現が低レベルであることによって免疫特権も有する。Le Blanc,K.他、Lancet 371(9624):1579~1586(2008)及びKlyushnenkova E.他、J.Biomed.Sci.12(1):47~57(2005)を参照。したがって、同種間葉系幹細胞は、治療薬及び再生医療に対して大いに有望であり、多数の疾患過程についての臨床試験において高い安全性及び有効性プロファイルを有することが繰り返し示されてきた。Hare,J.M.他、Journal of the American College of Cardiology 54(24):2277~2286(2009);Hare,J.M.他、Tex.Heart Inst.J.36(2):145~147(2009);及びLalu,M.M.他、PloS One 7(10):e47559(2012)を参照。同種間葉系幹細胞は、患者への移植後に悪性形質転換を受けないことも示された。Togel F.他、American Journal of Physiology Renal Physiology 289(1):F31~F42(2005)を参照。
【0018】
間葉系幹細胞による治療は、重度の移植片対宿主疾患を回復させ、虚血性急性腎不全を防御し、糖尿病における膵島及び腎糸球体修復に寄与し、劇症肝不全を逆行させ、損傷した肺組織を再生させ、敗血症を緩和し、心筋梗塞後のリモデリングを逆行させ、心機能を改善させることが示された。Le Blanc K.他、Lancet 371(9624):1579~1586(2008);Hare,J.M.他、Journal of the American College of Cardiology 54(24):2277~2286(2009);Togel F.他、American Journal of Physiology Renal Physiology 289(1):F31~F42(2005);Lee R.H.他、PNAS 103(46):17438~17442(2006);Parekkadan,B.他、PloS One 2(9):e941(2007);Ishizawa K.他、FEES Letters 556(1-3):249~252(2004);Nemeth K.他、Nature Medicine 15(1):42~49(2009);Iso Y.他、Biochem.Biophys.Res.Comm.354(3):700~706(2007);Schuleri K.H.他、Eur.Hearth J.30(22):2722~2732(2009);及びHeldman A.W.他、JAMA 311(1):62~73(2014)を参照。さらに、間葉系幹細胞はまた、組織工学で使用するための多数の細胞型の潜在的な供給源である。(Gong Z.他、Methods in Mol.Bio.698:279~294(2011);Price,A.P.他、Tissue Engineering Part A 16(8):2581~2591(2010);及びTogel F.他、Organogenesis 7(2):96~100(2011)を参照)。
【0019】
間葉系幹細胞は免疫調節能を有する。間葉系幹細胞は、免疫抑制毒性の証拠がなく、炎症並びにリンパ球及び骨髄由来の免疫細胞のサイトカイン産生を制御し、低免疫原性である(Bernardo M.E.他、Cell Stem Cell 13(4):392~402(2013)を参照)。
【0020】
間葉系幹細胞はまた、中胚葉起源の細胞だけでなく、内胚葉及び外胚葉起源の細胞にも分化する能力を有する(Le Blanc K.他、Exp.Hematol.31(10):890~896(2003)を参照)。例えば、インビトロにおいて、気道増殖培地で培養された間葉系幹細胞は分化して、肺特異的上皮マーカー、例えば、サーファクタントタンパク質C、クララ細胞分泌タンパク質、及び甲状腺転写因子1)を発現する(Jiang Y.他、Nature 418(6893):41~49(2002)及びKotton D.N.他、Development 128(24):5181~5188(2001)を参照)。
【0021】
しかし、間葉系幹細胞は安全な治療薬であるにも関わらず、抗体産生、さらにB細胞の増殖及び成熟に抑制効果を発揮することが文献で報告されている(Uccelli,A.他、Trends in Immunology 28(5):219~226(2007)を参照)。間葉系幹細胞はまた、抗原提示細胞の生成及び機能を阻害することが報告されている(Hoogduijn M.J.他、Int.Immunopharmacology 10(12):1496~1500(2010)を参照)。最後に、間葉系幹細胞は、CD4+及びCD8+T細胞の増殖を抑制することが報告されている(Ghannam S.他、Stem Cell Res.& Ther.1:2(2010)を参照)。
【0022】
驚くべきことに、間葉系幹細胞が免疫系の局面において抑制効果を有するという報告にも関わらず、本発明者らは、治療量の骨髄由来の間葉系幹細胞の投与を通じて対象の免疫応答及び対象の免疫系のパフォーマンスを高めるための方法を発見した。
【0023】
これからは、本開示の目的は、加齢フレイルの治療又は軽減の方法を必要とする対象において提供することであり、これらの方法は、治療量の骨髄由来の間葉系幹細胞を必要とする対象に投与するステップを含む。
【0024】
本明細書に記載された治療方法はまた、化学療法、AIDS/免疫機能障害、毒素曝露、ライム病、及び臓器の機能障害/不全など、加齢に関連しない理由により虚弱な免疫系を有する対象を治療するために使用され得る。本明細書で記載した治療方法はまた、虚弱になる前又は免疫系が低下している対象を治療して、対象が虚弱な免疫系を生じないようにするために使用され得る。
【0025】
一部の実施形態では、それらを必要とする対象における加齢フレイルの症状を治療又は軽減する方法は、治療量のロメセル-B(LOMECEL-B)(商標)ブランドの単離された同種ヒト幹細胞を必要とする対象に投与するステップを含む。(ロメセル-B(商標)は、Longeveron,Inc.の単離された同種ヒト幹細胞のブランド名である)。
【0026】
本明細書での使用に適している可能性がある幹細胞の調製に関するさらなる使用及び情報は、以下の米国特許出願公開に見出すことができ、その全ては参照により本明細書に組み込まれる:米国特許出願公開第2019003874号;米国特許出願公開第20190290698号;米国特許出願公開第20200129558号。
【0027】
いかなる理論にも拘束されはしないが、骨髄由来の間葉系幹細胞は、内皮細胞の機能を改善するか、抗炎症性サイトカインの発現若しくは細胞経路を促進するか、隣接する体細胞若しくは幹細胞における固有の再生若しくは修復経路を刺激するか、免疫系の機能を改善するか、隣接する体細胞若しくは幹細胞のミトコンドリアの機能を改善するか、抗線維化経路を促進するか、又はそれらの組み合わせのいずれかによって、対象における加齢フレイルの症状を治療又は軽減することができる。
【0028】
一部の実施形態では、この方法は、治療有効量の骨髄由来MSCを含む組成物の投与の前後に、加齢フレイルの症状を患っている対象におけるバイオマーカー又はバイオマーカー類の濃度を測定するステップをさらに含む。
【0029】
骨髄由来MSCの治療量は2500万細胞から2億細胞の範囲であってもよい。一部の実施形態では、治療量は、2500万細胞、5000万細胞、1億細胞、又は2億細胞である。
【0030】
それを必要とする対象は、高齢患者又は55歳を超える患者など、加齢フレイルの症状を患っている任意の対象、又は加齢フレイルに起因しない虚弱な免疫系の症状を患っている任意の対象であってもよい。一部の実施形態では、患者は65歳を超えており、他の実施形態では、患者は75歳を超えている。
【0031】
一部の実施形態では、この方法は、幹細胞投与の後に対象の機能可動性及び/又は運動耐性に変化又は改善が生じるかどうかを判定するステップをさらに含む。対象の機能可動性及び/又は運動耐性の変化は、例えば、骨髄由来MSCの投与後の対象による6分間の歩行距離試験に改善があるかどうかを調べることによって判定され得る。これらの実施形態では、「改善」とは、MSCの投与前に達成された距離と比較した場合、治療量の骨髄由来MSCを投与された後に対象がより長い距離を歩いたり移動したりできることを意味する。
【0032】
他の実施形態では、この方法は、日常生活の活動を行う対象の能力に変化又は改善が生じるかどうかを判定するステップをさらに含む。PROMIS身体機能スコアは、日常生活の活動を行う対象の能力が改善したかどうかを判定するために使用され得る。これらの実施形態では、「改善」とは、MSCの投与前に達成されたスコアと比較した場合に、治療量の骨髄由来MSCを投与された後に対象がより高いPROMIS身体機能スコアを有することを意味する。
【0033】
一部の実施形態では、この方法は、対象のPROMIS可動性スコアに変化又は改善が生じるかどうかを判定するステップをさらに含む。これらの実施形態では、「改善」とは、MSCの投与前に達成されたスコアと比較した場合、治療量の骨髄由来MSCを投与された後に対象がより高いPROMIS可動性スコアを有することを意味する。
【0034】
他の実施形態では、この方法は、対象の握力に変化又は改善が生じるかどうかを判定するステップをさらに含む。これらの実施形態では、「改善」とは、MSCの投与前に達成された時間又は圧力/力と比較した場合、治療量の骨髄由来MSCを投与された後に対象がより長く、又はよりしっかりと物体を保持できることを意味する。
【0035】
一部の実施形態では、この方法は、対象の歩行運動又はバランスに変化又は改善が生じるかどうかを判定するステップをさらに含む。Tinetti Performance Oriented Mobility Assessment(POMA)テストは、対象の歩行運動又はバランスに改善が生じたかどうかを判定するために使用され得る。これらの実施形態では、「改善」とは、MSCの投与前に達成されたスコアと比較した場合、治療量の骨髄由来MSCを投与された後に対象がより高いTinetti POMAスコアを達成することを意味する。
【0036】
本開示の別の目的は、加齢フレイルの進行を診断及び評価するための新規バイオマーカーを必要とする対象において提供することである。これらの新規バイオマーカーはまた、本明細書で記載した治療方法の効力を判定するために測定され得る。
【0037】
一部の実施形態では、新規バイオマーカーは、それらを必要とする対象内での炎症促進性サイトカインの濃度レベルの変化を含む。これらの炎症促進性サイトカインは、TNF-α、TGF-β、IL-1β、IL-2、Dダイマー、C反応性タンパク質(CRP)、又はそれらの組み合わせから選択され得る。好ましい実施形態では、炎症促進性サイトカインの濃度は、前記対象に治療量の骨髄由来MSCを投与した後、加齢フレイル症状を患っている、それを必要とする対象の血清、血漿、又は血液において減少する。炎症促進性サイトカイン濃度の減少は、0%~10%、0.5%~10%、1.0%~10%、3%~10%、5%~10%、7%~10%、0%超~10%以下、10%~50%、20%~50%、30%~50%、又は50%超の範囲であってもよい。好ましい実施形態では、炎症促進性サイトカイン濃度は安定した濃度レベルまで減少し、それを必要とする対象への骨髄由来MSCの投与前の濃度レベルとは異なる濃度レベルに達して維持されると、その濃度は0%~10%、0%~5%、又は0%~1%を超えては増加しない。
【0038】
一部の実施形態では、新規バイオマーカーは、それを必要とする対象内の抗炎症サイトカインの濃度レベルの変化を含む。これらの抗炎症サイトカインは、IL-8、可溶性IL-2受容体α(sIL-2Rα)、IL-4、IL-10、IL-12、TNF-α刺激遺伝子6(TSG-6)、又はそれらの組み合わせから選択され得る。好ましい実施形態では、抗炎症サイトカインの濃度は、前記対象に治療量の骨髄由来MSCを投与した後、加齢フレイル症状を患っている、それを必要とする対象の血清、血漿、又は血液において増加する。抗炎症サイトカイン濃度の増加は、0%~10%、0.5%~10%、1.0%~10%、3%~10%、5%~10%、7%~10%、0%超~10%以下、10%~50%、20%~50%、30%~50%、又は50%超の範囲であってもよい。好ましい実施形態では、抗炎症サイトカイン濃度は安定した濃度レベルまで増加し、それを必要とする対象への骨髄由来MSCの投与前の濃度レベルとは異なる濃度レベルに達して維持されると、その濃度は0%~10%、0%~5%、又は0%~1%を超えては増加しない。
【0039】
他の実施形態では、新規バイオマーカーは、可溶性Tie2(sTie2)の濃度の変化を含む。Tie2はアンジオポエチンの受容体チロシンキナーゼであり、抗炎症、内皮統合性、及び血管新生の細胞経路に関与する。炎症環境又は細胞環境では、Tie2がタンパク質分解的に切断されてsTie2を形成し、これは通常血清中で検出される。sTie2は、全長膜結合型Tie2の血管促進シグナル伝達を阻害することができる。VEGFはまた、Tie2シグナル伝達を刺激することが示されている(Singh他、Cellular Signaling 2009を参照)。
【0040】
いかなる理論にも拘束されないが、治療量の骨髄由来MSCの投与は、加齢フレイルを患っている対象におけるsTie2の濃度を低下させ、Tie2シグナル伝達及びVEGF/VEGFRシグナル伝達を介して血管の安定化を増加させることができる。
【0041】
一部の実施形態では、sTie2の濃度は、前記対象に治療量の骨髄由来MSCを投与した後、加齢フレイル症状を患っている、それを必要とする対象の血清、血漿、又は血液において減少する。sTie2濃度の減少は、0%~10%、0.5%~10%、1.0%~10%、3%~10%、5%~10%、7%~10%、0%超~10%以下、10%~50%、20%~50%、30%~50%、又は50%超の範囲であってもよい。好ましい実施形態では、sTie2濃度は安定した濃度レベルまで減少し、それを必要とする対象への骨髄由来MSCの投与前の濃度レベルとは異なる濃度レベルに達して維持されると、その濃度は0%~10%、0%~5%、又は0%~1%を超えては増加しない。
【0042】
他の実施形態では、新規バイオマーカーは、VEGFの濃度レベルの変化を必要とする対象内のVEGFの濃度レベルの変化を含む。好ましい実施形態では、VEGFの濃度は、前記対象に治療量の骨髄由来MSCを投与した後、加齢フレイル症状を患っている、それを必要とする対象の血清、血漿、又は血液において増加する。VEGF濃度の増加は、0%~10%、0.5%~10%、1.0%~10%、3%~10%、5%~10%、7%~10%、0%超~10%以下、10%~50%、20%~50%、30%~50%、又は50%超の範囲であってもよい。好ましい実施形態では、VEGF濃度は安定した濃度レベルまで増加し、それを必要とする対象への骨髄由来MSCの投与前の濃度レベルとは異なる濃度レベルに達して維持されると、その濃度は0%~10%、0%~5%、又は0%~1%を超えては減少しない。
【実施例】
【0043】
実施例1:加齢フレイルの患者におけるロメセル-B注入の安全性及び有効性を評価する第2b相無作為化盲検プラセボ対照臨床試験
臨床試験
第2b相試験は、多施設無作為化二重盲検プラセボ対照並行群試験であった(
図1)。ロメセル-B細胞の注入後の各対象の合計期間は12ヵ月で、スクリーニング及びベースライン来院のためにはさらに最大2ヵ月かかる。この試験に参加した参加者のベースライン人口統計は以下の表1に認められる。
【表1】
【0044】
ロメセル-B及びプラセボ:
ロメセル-Bは、連邦規則1271条のコードに準拠した健康な若年成人ドナーから採取し、現行の適正製造基準(cGMP)を使用して、FDAが承認したINDの化学、製造、及び管理(CMC)セクションの下で、培養増殖した同種MSCの製剤である。プラセボは、ロメセル-B MSCが再懸濁される賦形剤(1%のヒト血清アルブミンを含むプラズマライト(PlasmaLyte)-A)で構成されていた。ロメセル-B及びプラセボは、同一の外観のラベルが貼られた同一の外観の注入バッグで調製され、外来診療の場で末梢静脈内注入によって送達された。
【0045】
臨床評価:
臨床評価は、ベースライン、治療90日目、治療180日目、及び治療270日目に実施された。
【0046】
目標及び評価項目:
主要目標:加齢フレイルの患者において、ロメセル-Bがプラセボと比較して機能可動性及び運動耐性に利益をもたらすかどうかを判定すること。
【0047】
評価項目:プラセボと比較した、治療後180日目の6分間の歩行距離の変化。
【0048】
副次的目標:(i)身体パフォーマンスの変化と機能特異的な患者報告アウトカム(PRO)との間の関係、及び機能可動性及び運動耐性の変化を評価すること、並びに(ii)TNF-αの変化と機能可動性及び運動耐性の変化との関係を評価すること。
【0049】
評価項目(i):PROMIS身体機能ショートフォーム20a
評価項目(ii):血清TNF-αレベル
探索的評価項目を以下の表2に挙げる。
【表2】
【0050】
統計学的方法:
主要評価項目:主要有効性評価項目は、180日目の6MWTのベースラインからの変化である。各ロメセル-B群は、反復測定混合効果モデル(MMRM)法を使用したペアワイズ比較でプラセボと比較された。4つのペアワイズ比較では、ベースラインからの注入後180日目の変化(主要評価項目)について適切な単純対比を使用した。
ロメセル-B2500万個製剤対プラセボ
ロメセル-B5000万個製剤対プラセボ
ロメセル-B1億個製剤対プラセボ
ロメセル-B2億個製剤対プラセボ
【0051】
主要有効性評価項目の二次解析として、多重比較及びモデリングアプローチを使用して用量反応効果が解析された。全体的な第1種過誤率を制御するために、各比較の統計的有意性がHochberg法によって決定された。
【0052】
副次的/探索的評価項目:重要な副次的評価項目であるPROMIS-身体機能-ショートフォーム20a及び多重検定を調整せずに実施された他の副次的/探索的評価項目全ての統計学的検定。探索的評価項目は、主要評価項目と同様の方法でMMRMを使用して解析した。
【0053】
バイオマーカー:
血管内皮増殖因子(VEGF)、TGF-β、TNF-α、及びsTIE2の濃度の変化を判定するために、アッセイが実施された。
【0054】
身体機能及びパフォーマンス評価:
身体機能及びパフォーマンス評価は、握力(握力計)、Short Physical Performance Batterry(SPPB)試験、努力肺活量-1秒(FEV-1)試験、Performance Oriented Mobility Assessment(POMA)試験、4メートル歩行速度試験(歩行速度)、及び6分間歩行距離試験において変化があるかどうかを調べることによって判定された。
【0055】
結果:
このプラセボ対照試験の主要な新たな所見は、厳密な検査及び評価の後、この治験が投与されたロメセル-B細胞の量と各コホートの6MWTの変化との間に用量反応(D-R)関係を示したことである(
図3を参照)。
【0056】
PROMIS身体機能PROスコアは、組み合わせたロメセル-B群と非常に有意に相関していた。各コホートのPROMIS身体機能スコア及びPROMIS可動性スコアの変化は以下の表3及び4に認められる。
【表3】
【表4】
【0057】
D-Rはまた、その他のバイオマーカーとともに見出された。具体的には、投与されたロメセル-B細胞の量が増加するにつれて、Tie2及びVEGFの濃度も増加した(
図6Bを参照)。さらに、投与されたロメセル-B細胞の量が増加するにつれて、TGF-βの濃度は減少した(
図6Aを参照)。
【0058】
握力は、ベースライン測定値及びプラセボコホートの両方と比較した場合、1億細胞コホートで利き手において増加していることが示された。握力はまた、プラセボコホートと比較した場合、1億細胞コホートで非利き手において増加していた。得られたバランス及び歩行スコアに加えて、合計バランス及び合計歩行は、270日目に1億細胞コホートにおいて大幅に増加した。
【0059】
この治験は安全で有効であり、グレード3以上の治療に関連した有害作用はないことが示された。この治験の安全性の結果は以下の表5に認められる。
【表5】
【0060】
全体として、この臨床試験は、骨髄由来ロメセル-B細胞の加齢フレイルの症状を患っている対象への投与は、それらの症状を軽減し、対象の生活の質を改善することができることを実証した。
【0061】
実施例2:加齢フレイルの患者におけるロメセル-B注入の安全性及び有効性を評価するための無作為化2重盲検プラセボ対照試験
患者の集団統計
対象は、70~85歳、認知障害がないこと(ミニメンタルスケール試験スコア≧24)、及びカナダ健康老化調査(CSHA)臨床虚弱スケール(CFS)で評価して軽度から中等度の虚弱であること(それぞれ5又は6のスコア)の包含基準を満たしていた(Juma S,Taabazuing MM,Montero-Odasso M.Clinical Frailty Scale in an Acute Medicine Unit:a Simple Tool That Predicts Length of Stay.Canadian geriatrics journal:CGJ 2016;19:34~9を参照;Ritt M,Ritt JI,Sieber CC,Gassmann KG.Comparing the predictive accuracy of frailty,comorbidity,and disability for mortality:a 1-year follow-up in patients hospitalized in geriatric wards.Clinical interventions in aging 2017,12:293~304を参照)。さらに、各対象は、200~400mの間の距離の6MWTのスクリーニングを受けており(Cesari M,Bernabei R,Vellas B,他、Challenges in the Development of Drugs for Sarcopenia and Frailty-Report from the International Conference on Frailty and Sarcopenia Research(ICFSR)Task Force.J Frailty Aging 2022;11:135~42を参照)、ベースライン血清TNF-α≧2.5pg/mlであった。監督は、単一の治験審査委員会(西部IRB:Puyallup,WA)、独立した医薬品安全性監視グループ(ProPharma Group:Washington,DC)、国立衛生研究所(NIH)の国立老化研究所(NIA)によって任命されたデータ及び安全性監視委員会(DSM21B)、並びに独立した臨床監視施設(Syneos/Joule Inc.:Edison,NJ)によって実施された。IQVIA(Durham,NC)が、この治験のCROであった。
【0062】
対象は、プラセボ、又はロメセル-Bを2.5×107細胞(「25M」)、5.0×107細胞(「50M」)、1.0×108細胞(「100M」)、又は2.0×108細胞(「200M」)の用量で投与された。対象は、ブロックサイズ4を使用してプラセボ、又は25M、50M、若しくは100Mロメセル-Bにそれぞれ1:1:1:1で最初に無作為に割り当てられた。ロメセル-B200M群の追加は、92人の患者が登録された後に導入された。したがって、この新たな群と各研究施設内の他の群のバランスをとるために、無作為化方法は施設無作為化から施設層別無作為化に変更された。盲検化を維持するために、「200M」群が無作為化される可能性が最も高いが、他の群全てにも無作為化される可能性があるように、治療の割り当ては設計された。
【0063】
ロメセル-B細胞及びプラセボ:
ロメセル-B及びプラセボは、新薬臨床試験開始申請(IND)の化学、製造、及び管理(CMC)セクションに従って製造された。ロメセル-Bの同種MSCは、連邦規則1271条のコードに準拠した健康な若年成人ドナーから採取し、現行の適正製造基準(cGMP)を使用して均一性が高くなるまで培養増殖された。出荷基準は以下を含んだ:細胞生存率≧70%;内毒素≦5EU/mL;マイコプラズマ陰性;米国薬局方<71>滅菌試験陰性/増殖無し;フローサイトメトリによるCD73、CD90、及びCD105陽性≧95%;CD45、CD11b、及びCD19陽性≦2%;CD34陽性≦5%。各用量は、注入のために必要になるまで凍結保存された。
【0064】
プラセボは、1%のヒト血清アルブミンを含むプラズマライト(PlasmaLyte)-Aで、これはロメセル-Bの最終製剤に使用される賦形剤であった。ロメセル-B及びプラセボは、外来診療の場で末梢静脈注入を介して約2mL/分(合計体積80mLを約40分間かけて投与)で送達された。盲検化を維持するために、ロメセル-B及びプラセボは、区別不能なラベルが貼られた同一の外観の注入バッグに調製された。
【0065】
患者報告アウトカム(PRO):
患者報告アウトカム(PRO)測定法情報システム(PROMIS)は、身体的、精神的、及び社会的健康を評価するためにNIHが開発した一連の検証済みPROである(Cella D、Yount S、Rothrock N他、The Patient-Reported Outcomes Measurement Information System(PROMIS):progress of an NIH Roadmap cooperative group during its first two years.Medical care 2007;45:S3~S11を参照)。成人のPROMIS身体機能-ショートフォーム20a(SF20)は、患者が報告した全体的な身体機能を評価するために使用され、再検査信頼性が高く、臨床的に意義のある最小変化量が2ポイントである(約0.20SD)ことが示されたため、副次的評価項目として使用された。PROMIS可動性及びPROMIS上肢は、事前に定められた探索的評価項目として、それぞれ可動性及び上半身の機能を評価するために使用された。
【0066】
バイオマーカー
概日リズムの変動を最小限に抑えるために、採血は午前9時~11時の間に実施された(Born J、Lange T、Hansen K、Molle M、Fehm HL.Effects of sleep and circadian rhythm on human circulating immune cells. Journal of Immunology 1997;158:4454~64を参照)。血清及び血漿試料は収集後すぐに現場で遠心分離され、小分けされ、瞬間凍結され、使用するまで冷凍保存された。バイオマーカー分析は2重盲検で実施された。可能な限り最良の範囲まで、各患者の試料を全時点で並行して処理し、実験間の変動を最小限に抑えた。中央検査室はQ2(IQVIA company;Durham NC)であり、血液及び尿の安全性分析、並びにMeso QuickPlexシステム及びV-Plex炎症促進性パネルK151A9H及びK15049D(Meso-Scale Discovery(MSD):Rockville,MD)を使用した血清試料の高感度電気化学発光マルチプレックス免疫測定法を実施した。Longeveronは、Meso QuickPlexシステムを使用してV-Plex Angiogenesis Panel(K15190D)を実行した。
【0067】
安全性評価
安全性評価には、製品を試験するために有害事象(AE)及び重篤なAE(SAE)の頻度、重症度、及び盲検化された関係の評価が含まれた。AEは、Medical Dictionary for Regulatory Activities(MedDRA)23.0に従って、プライマリー器官別大分類(SOC)及び基本語(PT)によってコードされた。治療下で発現した(TE-)AE及びTE-SAEは、各SOC及びPTの対象の数及びパーセンテージ(n及び%)によって要約された。多数のAEが同じ基本語で報告された場合、最も強い関係のAEが関係別の要約に含まれ、最も重度のグレードのAEが重症度別の要約の表に含まれる。
【0068】
統計学的解析:
非盲検統計学的解析は、独立した統計学者グループ(Pharma Data Associates,LLC: Piscataway,NJ)によって実施された。試料サイズは、6MWTにおけるベースラインからの変化という主要評価項目に基づいて計算された(Oliva AA他、Results and Insights from a Phase 1 Clinical Trial of Lomecel-B for Alzheimer’s Disease.Alzheimer’s & Dementia 2022:受理を参照)。片側検定α=0.025及び効果量0.75(介入群対プラセボの6MWTのベースラインからの変化の差を共通の標準偏差75mで除して計算した)を使用すると、群あたり30人の対象の検出力は約80%で投与群間差は56mであった。この距離は、以前の第1/2相試験で見られた変化(最大76.6m)よりも短い(Golpanian S,DiFede DL,Khan A他、Allogeneic Human Mesenchymal Stem Cell Infusions for Aging Frailty.J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2017;72:1505~12を参照;Tompkins BA,DiFede DL,Khan A他、Allogeneic Mesenchymal Stem Cells Ameliorate Aging Frailty:A Phase II Randomized,Double-Blind,Placebo-Controlled Clinical Trial.J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2017;72:1513~22を参照)。
【0069】
有効性評価項目解析は、注入を受け、主要な有効性評価項目について少なくとも1回のベースライン後評価を完遂した、全無作為化対象として定義される修正された治療企図解析対象(MITT)集団に対して実施された。反復測定混合効果モデル(MMRM)を使用して、ロメセル-B群のそれぞれをプラセボとペアワイズで比較し、ロメセル-B群の変化とプラセボの変化の比較について最小二乗平均(LSM)を計算した。非構造化分散共分散行列を使用して、反復測定間の相関関係をモデル化した。用量反応効果は、多重比較手順モデリング(MCP-Mod)法を使用して計算されるが、これは第2相用量範囲試験を分析して確証的第3相試験に適した用量(複数可)を見出すための、仮説検定とモデリングを組み合わせたハイブリッドアプローチである(Bretz F,Pinheiro JC,Branson M.Combining multiple comparisons and modeling techniques in dose-response studies.Biometrics 2005;61:738~48を参照;Menon SM,Zink RC.Modern Approaches to Clinical Trials Using SAS:Classical,Adaptive,and Bayesian Methods:SAS Institute;2105を参照)。候補モデルは、直線、二次、指数関数、Emax、及びシグモイドEmaxの用量反応モデルを含んでいた。調整されたp値に加えて、赤池の情報量基準(AIC)を使用して、最も節約的で予測的なモデルを評価した。AICが小さいほど、モデルが優れていることを意味する。用量反応曲線のモデル平均を95%信頼区間でプロットした。安全性を評価するための安全性母集団は、注入を受けた全対象として定義された。
【0070】
異なる用量群対プラセボの多重検定を説明するために、ステップアップHochberg法を主要評価項目の主要な解析のために使用した。主要評価項目の副次的解析はMCP-Mod法による用量反応効果であった。
【0071】
6MWTと患者報告アウトカムアンケートとの間の絶対値及びベースラインからの変化について、単純な線形回帰及び相関を計算した。
【0072】
結果:
2017年8月から2020年2月の間に、365人の患者がスクリーニングされ、155人が選択/除外基準を全て満たし、無作為化された。スクリーニング脱落の理由は、TNF-α<2.5pg/mL(n=57;26.9%)、B型肝炎ウイルス陽性(n=28;13.2%)、6MWT距離が範囲外(n=19;9.0%)、HbA1c>8.0%(n=19;9.0%)、及びその他の様々な理由(それぞれ<9%)であった。7人の対象は、注入前の離脱により分析から除外された。残りの148人の対象は試験製品(ロメセル-B又はプラセボ)を1回注入され、安全性集団分析に含まれた。このうち、137人が治験を完遂し(95.8%)、5人が自らの選択で中止し(3.4%)、4人が追跡不能となり(2.7%)、2人が試験中に死亡した(1.4%)。これらのうち、143人は少なくとも1回の追跡調査を受けており、有効性分析のためのmITT集団を構成した。表6は、5群間のバランスのとれた特性を示した。参加者の平均年齢は74.3~76.8歳で、20.6%~53.3%が女性で、平均CFSスコアは5.1で、全般的に軽度の虚弱であった。
【表6】
【0073】
ベースライン6MWT距離は全群で同等で、全群で約300メートルであった(表6を参照)。主要評価項目の第1の要素は、注入後6ヵ月目のプラセボと比較したロメセル-Bの個別用量の6MWTの変化であった(
図2A、表7を参照)。主要評価項目の事前に定められた第2の要素である正式な用量反応分析は、ロメセル-B用量の増加の6MWT距離の増加変化に対する統計的に有意な関係を示した(
図2B)。試験した5つの用量反応候補モデルは全て有意であり(それぞれp<0.05)、用量反応は、有意なp値(p=0.0321)及び試験した用量範囲内で最小のAICを有する直線曲線によって最もよくモデル化された。
【表7】
【0074】
最高用量のロメセル-B(2x10
8細胞)とプラセボとの間の6MWTの差は、6ヵ月時点で41.3m(95%CI:-2.4~84.9M p=0.0635)であった。9ヵ月時点での差を解析したところ、50M用量及び200M用量のロメセル-Bの変化は有意に達し、積極的治療群とプラセボとの間の継続的な時間依存的分離を反映していた(
図2Aを参照)。注入後9ヵ月目で、ロメセル-B200M群とプラセボとの間の変化の差は63.4m(95%CI[17.1,109.6]m;p=0.0077)であった。さらに、ベースラインからの6MWTの変化も示されている(
図2Aを参照)。6MWTのベースラインからの変化は、6及び9ヵ月目で有意であった。
【0075】
患者報告アウトカム(PRO)
PROMIS身体機能SF20は、患者が認識する全体的な身体機能の変化を評価するための副次的評価項目として使用された。同様に、PROMIS可動性及びPROMIS上肢は、前もって試験された事前に定められた探索的評価項目として、それぞれ可動性及び上半身の機能を評価するために使用された。6MWT及びPROMIS身体機能SF20の変化は相関していた。注入後6ヵ月目のピアソン相関係数は0.3124(p=0.0002、
図4A)であった。同様に、注入後6ヵ月目の6MWTとPROMIS可動性との相関係数は0.3046(p=0.0003、
図4B)で、6MWTとPROMIS上肢との相関係数は0.2318(p=0.0070、
図4C)であった。
【0076】
活性のバイオマーカーとしてのsTie2
この臨床試験の事前に決定された目標は、ロメセル-Bの機能的アウトカムを予測する可能性のあるバイオマーカーを特定することであった。この試験で調査された様々な潜在的なバイオマーカーの中で、可溶性Tie2(sTie2)が、これらの基準を満たす潜在的なバイオマーカーとして特定された。sTie2はロメセル-B200M群で減少しており(
図5Aを参照)、これは注入後3ヵ月目のベースラインとは有意に異なっていた(-484.1pg/mL;95%CI[-925.33,-42.90]pg/mL;p=0.0318)。注入後9ヵ月の時点で、ロメセル-B200M群はプラセボとは-936.9pg/mL(95%CI[-1640.3、-233.4]pg/mL;p=0.0095)異なり、ロメセル-B50M群(-601.2pg/mL;95%CI[-1137.2,-65.2]pg/mL;p=0.0283)、及びロメセル-B100M群(-755.4pg/mL;95%CI[-1294.1、-216.8]pg/mL;p=0.0064)も同様だった。用量反応分析では、シグモイドEmaxへの最適なモデリング(p=0.0175)が示され、ロメセル-B50M用量でプラトーになるようであった(
図5Bを参照)。さらに、sTie2の変化は6MWTの変化と相関した(r=-0.1850;p=0.0397)(
図5Cを参照)。
【0077】
安全性及び臨床事象
NIAが任命したDSMB又は医薬品安全性監視官のいずれによっても、この試験に関する安全性の懸念は提起されなかった。全体として、TE-SAEを有する対象の割合は、異なる試験群全体で同等であった(表8を参照)。試験中に死亡したのは2人だった。ロメセル-B100M群では注入後296日目に肺塞栓症が発生し、プラセボ群では注入後167日目に脳動脈硬化症/冠状動脈疾患/誤嚥性肺炎の合併症が発生した。試験製品に起因するSAEはなかった。2回の注入は一時的に中断されたが(両方ともロメセル-B25M群)、終了まで継続され、両対象はフォローアップ来院を完遂した。注入中に発生したAEは全て、研究者及びDSMBによって製品に関連していないと判断された。ロメセル-B群対プラセボのいずれにおいても、転倒、骨折、入院、及び医療施設への入所率に統計的に有意な差はなかった。
【表8】
【0078】
この試験の主要な新たな所見の1つは、ロメセル-Bの1回注入が、プラセボと比較した場合、軽度から中等度の虚弱の高齢者の歩行距離の用量依存的な増加につながったことである。最高用量群で見られた増加は、有意な臨床閾値をごくわずかに超え(Shoemaker MJ、Curtis AB、Vangsnes E、Dickinson MG.Clinically meaningful change estimates for the six-minute walk test and daily activity in individuals with chronic heart failure. Cardiopulmonary physical therapy journal 2013;24:21~9を参照;Kwok BC,Pua YH,Mamun K,Wong WP.The minimal clinically important difference of six-minute walk in Asian older adults.BMC geriatrics 2013;13:23を参照;Perera S,Mody SH,Woodman RC,Studenski SA.Meaningful change and responsiveness in common physical performance measures in older adults.Journal of the American Geriatrics Society 2006;54:743~9を参照)、患者の自己報告アウトカムの改善と相関していた。さらに、血管機能障害に関連する因子であるsTie2の血清レベルも、ロメセル-Bに対して用量依存的に改善(レベルが減少)した。これらの所見は、ロメセル-Bが患者の生活の質を改善し、可動性を改善し、他者への依存を低減させることによって、虚弱を治療することができる可能性と一致している。
【0079】
これらの所見はまた、同種MSCの単回注入が歩行距離の改善を示唆した、虚弱患者における以前の試験と一致している(Golpanian S他、2017を参照;Tompkins他、2017を参照)。この治験のさらなる事前に定められた目的は、ロメセル-Bが用量反応効果を示すかどうかを立証することであった。実際、6MWTの増加に対する明確で有意な用量反応関係は、治療後6ヵ月目で明らかであり、生物活性の証拠を裏付けた。さらに、単回注入後9ヵ月目で、改善は持続しており、ベースラインから低下し始めたプラセボに対して有意に達した。9ヵ月の時点で観察された治療群とプラセボ群との間のより大きな差は、継続中及び持続的な生物活性を示している可能性があり、今後の試験で治療に対する反応を6ヵ月以上モニターする必要があることを示唆している。
【0080】
発明者等の所見は、同種MSCの単回注入が歩行距離の改善を示唆した、虚弱患者における以前の試験と一致している(Golpanian S他、2017を参照;Tompkins他、2017を参照)。この治験のさらなる事前に定められた目的は、ロメセル-Bが用量反応効果を示すかどうかを立証することであった。実際、6MWTの増加に対する明確で有意な用量反応関係は、治療後6ヵ月目で明らかであり、生物活性の証拠を裏付けた。さらに、単回注入後9ヵ月目で、改善は持続しており、ベースラインから低下し始めたプラセボに対して有意に達した。9ヵ月の時点で観察された治療群とプラセボ群との間のより大きな差は、継続中及び持続的な生物活性を示している可能性があり、今後の試験で治療に対する反応を6ヵ月以上モニターする必要があることを示唆している。
【0081】
PROMIS測定は、機能及び可動性に対する虚弱の影響を理解する手がかりとなり、患者本位の臨床決定にとって不可欠である。この試験の一環として、身体機能の改善に対する患者の認識の程度を決定しようとした。実際に、全体的な身体機能の評価であるPROMIS身体機能SF20は、6MWT距離の増加と有意に相関した改善を示した(
図4Aを参照)。さらに、PROMIS可動性はさらに有意性の高い相関を示した(
図4Bを参照)。これらの結果は、ロメセル-Bの正の効果が客観的な身体的測定に限定されるだけではなく、機能改善に対する個々の高齢者の認識に一般化されたことを示している。
【0082】
この試験のもう1つの目標は、生物活性と相関する可能性のあるバイオマーカーを特定することであった。可能性のある一連のバイオマーカーの中で、sTIE2レベルが用量反応的にロメセル-B注入とより密接に関連していることを発見した。TIE-2は微小血管内皮及び内皮前駆細胞に存在する受容体チロシンキナーゼであり、アンジオポエチン、Ang1、及びAng2の結合を通じて活性化される(Sack KD、Kellum JA、Parikh SM.The Angiopoietin-Tie2 Pathway in Critical Illness.Crit Care Clin 2020;36:201~16を参照)。マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)14によって媒介されるTie2の細胞外ドメイン(sTie2)の切断(Idowu TO、Etzrodt V、Seeliger B,他、Identification of specific Tie2 cleavage sites and therapeutic modulation in experimental sepsis.eLife 2020;9を参照)は、血清中で検出され得、レベルの増加は内皮機能障害を示す。ロメセル-Bの作用機序との関連で、sTie2レベルの減少は、虚弱における血管促進活性を裏付けており、アルツハイマー病に対するロメセル-Bの示唆に富む血管促進活性と一致する25。MSCはMMPの組織阻害剤(TIMP)を高レベルで分泌することが知られているため、Tie2切断の防止はロメセル-Bの生物学的に妥当な作用である(Lozito TP,Jackson WM,Nesti LJ,Tuan RS.Human mesenchymal stem cells generate a distinct pericellular zone of MMP activities via binding of MMPs and secretion of high levels of TIMPs.Matrix Biol 2014;34:132~43を参照)。これらの発見を確認するためには、他の血管バイオマーカーの判定及び内皮機能の決定を含む今後の研究が必要である。
【0083】
要約すると、試験の結果は、加齢関連フレイルがロメセル-Bの注入に反応する可能性があり、ロメセル-Bが身体機能PROと相関関係を示す6MWTにおける臨床的に意味のある用量依存的改善を導くことを示し、機構的に関連するバイオマーカー、sTie2に対する潜在的な用量依存性もまた明らかにした。これらのデータは、虚弱の満たされていない医療的必要性に対する可能性のある治療法としてのロメセル-Bの進歩を裏付けている。さらに、この治験は細胞ベースの療法の用量依存的関係を明確に実証し、生物活性の証拠をもたらす。
【国際調査報告】